【解決手段】減揺装置3は、ART(アンチローリングタンク)31内に海水を供給する注水手段32と、ART31内の海水を排出する排水手段33と、注水手段32及び排水手段33の切り替えを制御する制御装置4と、を備えている。制御装置4は、積付計算機により計算された船舶1のGM(メタセンター高さ)から、その積荷状態での横揺れ固有周期を算出した後、各波周期における減揺装置3の減揺率を計算し、ART31に注水するか、ART31を排水するかを判断する。
前記制御装置は、前記アンチローリングタンク内に水を溜めた注水状態の波周期に対する前記船舶の第一横揺れ角及び前記アンチローリングタンク内の水を空にした排水状態の波周期に対する前記船舶の第二横揺れ角を算出し、前記第一横揺れ角の方が前記第二横揺れ角よりも小さい範囲を有効範囲として算出し、前記有効範囲の広さに基づいて、前記アンチローリングタンクの注排水を判断するように構成されている、請求項1に記載の船舶の減揺装置。
前記制御装置は、前記アンチローリングタンク内に水を溜めた注水状態の波周期に対する前記船舶の第一横揺れ角及び前記アンチローリングタンク内の水を空にした排水状態の波周期に対する前記船舶の第二横揺れ角を算出し、前記第一横揺れ角の最大値に対する前記第二横揺れ角の最大値の比率に基づいて、前記アンチローリングタンクの注排水を判断するように構成されている、請求項1に記載の船舶の減揺装置。
前記注水手段は、船底に配置された海水吸入口と、該海水吸入口と前記アンチローリングタンクとを連結する注水配管と、該注水配管に配置された吸入ポンプと、前記注水配管に配置された開閉弁と、を備える、請求項1に記載の船舶の減揺装置。
前記排水手段は、ヒーリングタンク又はバラストタンクと前記アンチローリングタンクとを連結する排水配管と、該排水配管に配置された開閉弁と、を備える、請求項1に記載の船舶の減揺装置。
前記アンチローリングタンク内に水を溜めた注水状態の波周期に対する前記船舶の第一横揺れ角及び前記アンチローリングタンク内の水を空にした排水状態の波周期に対する前記船舶の第二横揺れ角を算出し、前記第一横揺れ角の方が前記第二横揺れ角よりも小さい範囲を有効範囲として算出し、前記有効範囲の広さに基づいて、前記アンチローリングタンクの注排水を判断するようにした、請求項10に記載の船舶の減揺方法。
前記アンチローリングタンク内に水を溜めた注水状態の波周期に対する前記船舶の第一横揺れ角及び前記アンチローリングタンク内の水を空にした排水状態の波周期に対する前記船舶の第二横揺れ角を算出し、前記第一横揺れ角の最大値に対する前記第二横揺れ角の最大値の比率に基づいて、前記アンチローリングタンクの注排水を判断するようにした、請求項10に記載の船舶の減揺方法。
【背景技術】
【0002】
船舶は、一般に、船舶の船長方向をX軸、船舶の船幅方向をY軸、鉛直方向をZ軸と定義すれば、X軸回りの回転によって生じる横揺れ(Roll)、Y軸回りの回転によって生じる縦揺れ(Pitch)、Z軸回りの回転によって生じる船首揺れ(Yaw)、X軸方向の往復移動によって生じる前後揺れ(Surge)、Y軸方向の往復移動によって生じる左右揺れ(Sway)、Z軸方向の往復移動によって生じる上下揺れ(Heave)、の6自由度を有している。
【0003】
これらの揺れのうち横揺れを低減する方法として、アンチローリングタンク(Anti−Rolling Tank:ART)が既に使用されている。かかるARTは、例えば、特許文献1に記載されたように、船体の上部の最大幅位置の左右舷に互いに船幅方向に離間して設けられた一対のウイングタンクと、ウイングタンク間を連結するダクトとを備えている。ウイングタンク及びダクト内には清水、海水、油等の液体が収容されており、この液体がダクトを介して一対のウイングタンク間で船幅方向に移動することで、船体の横揺れを低減するように構成されている。
【0004】
特許文献1に記載されたように、船体の横揺れは船体の固有周期で動揺する際に最大となるため、通常ARTは、液体の移動周期が船体の固有周期に合致するように設計される。これによって同調横揺れを抑制する減揺モーメントを発現させることができる。
【0005】
特許文献1に記載された発明は、船舶の種類や船舶が航行する海洋の状態によっては、船体がその固有周期で動揺することが想定されにくい場合があり、船体の固有周期に基づいて設計されたARTでは適切な減揺効果を得ることができないことに鑑み創案されたものである。
【0006】
具体的には、ダクトの流路内にウイングタンク内の液体を船幅方向に強制的に圧送させるポンプを配置することにより、ダクト内の流速を任意に調整し、減揺装置の固有周期の調整幅を拡張したものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載された発明では、ART内にポンプを配置しなければならず、固有周期を細かく制御しようとすれば、ダクト内を複数の流路に区切り、各流路にポンプを配置しなければならない。したがって、ARTが高価になってしまうという問題がある。
【0009】
また、減揺装置の固有周期を船舶の航行状況等に応じて調整したとしても、瞬時に固有周期を変動させることはできず、船舶の航行状況等の変化に追従させることは困難であり、減揺効果はそれほど得られないものと考えられる。
【0010】
また、一般貨物船やばら積み貨物船は、種々の貨物を積載することから、積載する貨物の種類や積載量等を含む積荷状態に応じて船体の重心が変化することとなる。このとき、特許文献1に記載された発明のように、船体の固有周期を能動的に変化させることも考えられるが、上述したように、大きな費用対効果は期待することができない。さらに、船体の固有周期を誤った数値に設定した場合には、横揺れを増長してしまうこともあり得る。
【0011】
本発明はかかる問題点に鑑み創案されたものであり、積荷状態に応じて船体の重心が変化する場合であっても簡便な構造で効率よく減揺効果を付与することができる、船舶の減揺装置、船舶及び船舶の減揺方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、アンチローリングタンクを搭載した船舶の減揺装置であって、前記アンチローリングタンク内に水を供給する注水手段と、前記アンチローリングタンク内の水を排出する排水手段と、前記注水手段及び前記排水手段の切り替えを制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記アンチローリングタンクに注水した方がよいか又は前記アンチローリングタンクを排水した方がよいかを、前記船舶の積荷状態から判断するように構成されている、ことを特徴とする船舶の減揺装置が提供される。
【0013】
前記制御装置は、前記アンチローリングタンク内に水を溜めた注水状態の波周期に対する前記船舶の第一横揺れ角及び前記アンチローリングタンク内の水を空にした排水状態の波周期に対する前記船舶の第二横揺れ角を算出し、前記第一横揺れ角の方が前記第二横揺れ角よりも小さい範囲を有効範囲として算出し、前記有効範囲の広さに基づいて、前記アンチローリングタンクの注排水を判断するように構成されていてもよい。
【0014】
また、前記制御装置は、前記アンチローリングタンク内に水を溜めた注水状態の波周期に対する前記船舶の第一横揺れ角及び前記アンチローリングタンク内の水を空にした排水状態の波周期に対する前記船舶の第二横揺れ角を算出し、前記第一横揺れ角の最大値に対する前記第二横揺れ角の最大値の比率に基づいて、前記アンチローリングタンクの注排水を判断するように構成されていてもよい。
【0015】
前記注水手段は、船底に配置された海水吸入口と、該海水吸入口と前記アンチローリングタンクとを連結する注水配管と、該注水配管に配置された吸入ポンプと、前記注水配管に配置された開閉弁と、を備えていてもよい。また、前記注水配管は、バラスト水処理装置に接続されていてもよい。
【0016】
前記排水手段は、ヒーリングタンク又はバラストタンクと前記アンチローリングタンクとを連結する排水配管と、該排水配管に配置された開閉弁と、を備えていてもよい。
【0017】
前記注水手段又は前記排水手段は、前記船舶に搭載された貯水タンクに接続されていてもよい。
【0018】
また、前記注水手段は、陸上施設に配置された水源に接続可能に構成されていてもよい。
【0019】
また、本発明によれば、上述した船舶の減揺装置を備えた、ことを特徴とする船舶が提供される。
【0020】
また、本発明によれば、アンチローリングタンクを搭載した船舶の減揺方法であって、前記アンチローリングタンク内に注水した方がよいか又は前記アンチローリングタンク内を排水した方がよいかを、前記船舶の積荷状態から判断するようにした、ことを特徴とする船舶の減揺方法が提供される。
【0021】
前記減揺方法は、前記アンチローリングタンク内に水を溜めた注水状態の波周期に対する前記船舶の第一横揺れ角及び前記アンチローリングタンク内の水を空にした排水状態の波周期に対する前記船舶の第二横揺れ角を算出し、前記第一横揺れ角の方が前記第二横揺れ角よりも小さい範囲を有効範囲として算出し、前記有効範囲の広さに基づいて、前記アンチローリングタンクの注排水を判断するようにしてもよい。
【0022】
また、前記減揺方法は、前記アンチローリングタンク内に水を溜めた注水状態の波周期に対する前記船舶の第一横揺れ角及び前記アンチローリングタンク内の水を空にした排水状態の波周期に対する前記船舶の第二横揺れ角を算出し、前記第一横揺れ角の最大値に対する前記第二横揺れ角の最大値の比率に基づいて、前記アンチローリングタンクの注排水を判断するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0023】
上述した本発明に係る船舶の減揺装置、船舶及び船舶の減揺方法によれば、アンチローリングタンクに注水した方がよいか、アンチローリングタンクを排水した方がよいかを船舶の積荷状態から判断するようにしたことから、アンチローリングタンクの注水状態又は排水状態を航行区間ごとに切り替えることができる。
【0024】
すなわち、本発明によれば、減揺装置の減揺効果が有意義である場合には、アンチローリングタンクに注水し、減揺装置の減揺効果が無意義である場合には、アンチローリングタンクを排水するようにしたことから、船舶の積荷状態に応じて船体の重心が変化する場合であっても簡便な構造で効率よく減揺効果を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について
図1〜
図6(B)を用いて説明する。ここで、
図1は、本発明の一実施形態に係る船舶及び減揺装置を示す全体構成図である。
図2は、アンチローリングタンクの排水状態を示す図である。
図3は、本実施形態に係る船舶の航行スケジュールの一例を示す概念図である。
【0027】
本発明の一実施形態に係る船舶1は、
図1に示したように、水上を航行する船体2と、アンチローリングタンク(以下、「ART31」と称する。)を船体2上に搭載した減揺装置3と、を備えている。船舶1は、例えば、従来、ART31を搭載していない一般貨物船又はばら積み貨物船である。ただし、本実施形態に係る減揺装置3は、従来からART31を搭載している、RORO船、フェリー、巡視船、漁業取締船、調査船、漁業実習船等であってもよい。
【0028】
船体2の内部には、例えば、バラストタンク21、ヒーリングタンク22等が配置されている。バラストタンク21は、船舶の喫水や傾斜等を調節するために船内に設けられた水槽である。また、ヒーリングタンク22は、貨物の積込みにより生じた船体2の傾斜を修正するために、船体中央部の舷側に設けられた水槽である。なお、バラストタンク21及びヒーリングタンク22の構成は、図示した構成に限定されるものではない。
【0029】
バラストタンク21には、船外から海水を注排水する注排水機構が接続されている。注排水機構は、例えば、船外に接続されたバラスト配管23と、バラスト配管23に接続されたバラストポンプ24と、バラスト配管23に配置された船外弁25と、を備えている。この船外弁25及びバラストポンプ24を操作することにより、バラスト配管23を介して海水をバラストタンク21に注排水することができる。
【0030】
ヒーリングタンク22は、例えば、バラストタンク21の上方に配置されており、連結配管26を介してバラストタンク21と連通するように構成されている。また、ヒーリングタンク22への海水の注排水は、バラストタンク21の注排水機構を用いて行うことができる。
【0031】
ART31は、船体2の甲板上又は甲板に設置された構造物上に配置されている。例えば、ART31は、船幅方向の両端部に配置された一対のウイングタンク31aと、ウイングタンク31a同士を連通するように接続されたダクト31bと、ウイングタンク31a内の空気を抜くための通風筒31cと、通風筒31cに配置されたエアバルブ31dと、を備えている。ダクト31bは、ウイングタンク31aの下部に接続されており、全体としてU字形状を有している。
【0032】
図1に示したように、例えば、ART31内には海水が収容されている。なお、
図1において、説明の便宜上、海水が満たされている部分を灰色に塗り潰して表示してある。この海水がダクト31bを介して一対のウイングタンク31a間で船幅方向に移動することで、船体2の横揺れを低減することができる。
【0033】
エアバルブ31dが開いているときは、通風筒31cを介してART31内に空気を出し入れすることができ、ART31内の海水を左右に移動させることができる。また、エアバルブ31dが閉じているときは、通風筒31cを介してART31内に空気を出し入れすることができず、ART31内の海水を左右に移動させることができない。したがって、エアバルブ31dを開くことにより減揺装置3を作動させることができ、エアバルブ31dを閉じることにより減揺装置3を作動させないようにすることができる。
【0034】
図1に示した減揺装置3は、ART31内に海水を供給する注水手段32と、ART31内の海水を排出する排水手段33と、注水手段32及び排水手段33の切り替えを制御する制御装置4と、を備えている。
【0035】
注水手段32は、例えば、船底に配置された海水吸入口32aと、海水吸入口32aとART31とを連結する注水配管32bと、注水配管32bに配置された吸入ポンプ32cと、注水配管32bに配置された開閉弁32dと、を備えている。ART31内に海水を注水する際には、海水吸入口32aから海水を取水し、吸入ポンプ32cにより昇圧した後、開閉弁32dを開放する。開閉弁32dは、手動で操作可能な手動開閉弁であってもよいし、遠隔操作により操作可能な自動開閉弁であってもよい。
【0036】
また、海洋生物環境保護を図るために、注水配管32bにバラスト水処理装置32eを接続するようにしてもよい。バラスト水処理装置32eは、例えば、注水配管32bに対して並列に配置される。バラスト水処理装置32eを介してART31内に海水を注水する際には、海水吸入口32aから海水を取水し、吸入ポンプ32cにより昇圧した後、バラスト水処理装置32eで海水を処理し、その後、開閉弁32dを開放する。
【0037】
排水手段33は、例えば、ヒーリングタンク22とART31とを連結する排水配管33aと、排水配管33aに配置された開閉弁33bと、を備えている。排水配管33aは、例えば、ヒーリングタンク22の連結配管26と連通するように接続されている。開閉弁33bは、遠隔操作により操作可能な自動開閉弁であってもよいし、手動で操作可能な手動開閉弁であってもよい。
【0038】
ART31内の海水を排水する際には、バラストタンク21に配置された注排水機構を利用する。具体的には、開閉弁33bを開放し、ART31内の海水をヒーリングタンク22又はバラストタンク21に自由落下させた後、船外弁25を開放してバラストポンプ24を作動させることにより、バラスト配管23を介して海水を船外に排水する。
【0039】
なお、本実施形態では、船体2の既存の設備(バラストタンク21、ヒーリングタンク22等)を利用してART31内の海水を排水するようにしているが、既存の設備とは別に排水機構(船外弁、排水ポンプ等)を配置するようにしてもよい。
【0040】
ART31内に漲水される海水の注水量は、船舶1の船種、船型、予定航路等の条件によって設定される。
図1に示した減揺装置3は、ART31の設定値に対して100%の海水を溜めた状態(注水状態)である。それに対して、
図2に示した減揺装置3は、ART31内の海水を空にした状態(排水状態)である。
【0041】
本実施形態に係る減揺装置3は、ART31の注水状態/排水状態を船舶1の積荷状態に応じて切り替えるようにしたことを特徴としている。「積荷状態」とは、積載する貨物の種類、積載量、積載方法等を含む趣旨である。本実施形態では、例えば、船舶1の航行区間ごとに注水状態/排水状態を切り替えるようにしている。どの航行区間で注水状態にするか、排水状態にするかは、航行スケジュールに応じて事前に算出しておいてもよいし、寄港中に算出するようにしてもよい。
【0042】
例えば、
図3に示したように、積荷状態S1の船舶1がA港から出港し、B港に寄港して積荷状態S2となり、C港に寄港して積荷状態S3となり、A港に帰港する場合を想定する。ここで、A港→B港の区間を航行区間R1、B港→C港の区間を航行区間R2、C港→A港の区間を航行区間R3、と定義する。
【0043】
本実施形態は、かかる航路における積荷計画が決定した後、航行区間R1〜R3ごとにART31内に海水を注水した方がよいか又はART31内から海水を排水した方がよいかを判断する。ART31内に注水した航行区間(例えば、航行区間R2)では、減揺装置3を作動させることができ、ART31から排水した航行区間(例えば、航行区間R1,R3)では、減揺装置3を作動させないようにすることができる。なお、ART31に注水した航行区間R2では、海気象条件等に応じて減揺装置3の作動/非作動を切り替えることもできる。
【0044】
本実施形態において、「ART31内に海水を注水した方がよい」とは、
図1に示したように、ART31の設定値に対して100%の海水を溜めた状態(注水状態)にすることを意味している。また、「ART31内から海水を排水した方がよい」とは、
図2に示したように、ART31内の海水を排水して空にした状態(排水状態)にすることを意味している。
【0045】
図3では、航行区間R1においてART31を排水状態に設定し、航行区間R2においてART31を注水状態に設定し、航行区間R3においてART31を排水状態に設定している。具体的には、A港において、ART31内に海水が漲水されていれば、その海水を排水すればよいし、ART31内が空の状態であれば、その状態を保持するようにすればよい。次に、B港において、ART31内に海水を注水する。次に、C港において、ART31内から海水を排水する。
【0046】
海水の注水/排水は制御装置4によって制御される。制御装置4は、例えば、減揺装置3や船体2に配置された制御盤に組み込まれていてもよいし、専用のコンピュータであってもよいし、複数のコンピュータにより構成されていてもよい。制御装置4は、海水の注水/排水のスケジュールを設定する設定機能と、そのスケジュールに合わせて減揺装置3を操作する操作機能と、を備えている。なお、設定機能については、陸上施設に配置されたコンピュータにより処理してもよい。
【0047】
制御装置4は、積付計算機により計算された船舶1のGM(メタセンター高さ)から、その積荷状態での横揺れ固有周期を算出した後、各波周期における減揺装置3の減揺率を計算し、ART31に注水するか、ART31を排水するかを判断する。注水/排水の判断基準については後述する。
【0048】
注水時には、開閉弁32dを開いた後、吸入ポンプ32cを作動させ、海水をART31内に汲み上げる。注水完了後、開閉弁32dを閉じた後、吸入ポンプ32cを停止させる。また、排水時には、開閉弁33bを開いてART31内の海水をバラストタンク21及びヒーリングタンク22に落下させる。排水完了後、開閉弁33bを閉じる。制御装置4は、例えば、吸入ポンプ32c、開閉弁33b等の操作を制御する。残りの操作は、手動又は船舶1の制御手段により処理される。
【0049】
ここで、減揺装置3の作動/非作動の判断方法について、
図4を参照しつつ説明する。
図4は、アンチローリングタンクの波周期と横揺れ角の関係を示す図である。
図4において、横軸は波周期Tw(s)、縦軸は船体2の横揺れ角(°)、を示している。
【0050】
図4において、ART31内に海水を溜めた注水状態の波周期Twに対する船舶1の第一横揺れ角αを実線で図示し、ART31内の海水を空にした排水状態の波周期Twに対する船舶1の第二横揺れ角βを一点鎖線で図示してある。これらのグラフは、過去のデータに基づいて算出してもよいし、シミュレーションモデルによる計算により算出してもよい。
【0051】
図4に示したように、第二横揺れ角βは、波周期Twに対して一つの高いピークを有していることがわかる。また、第一横揺れ角αは、第二横揺れ角βのピークを挟むように二つの低いピークを有していることがわかる。いま、第一横揺れ角αのグラフと第二横揺れ角βのグラフの交点P,Qにおける波周期をそれぞれTp,Tqと定義する。
【0052】
波周期TwがTp以下(Tw≦Tp)の場合は、第一横揺れ角αの方が第二横揺れ角βよりも大きい数値を示す。また、波周期TwがTq以上(Tw≧Tq)の場合も、第一横揺れ角αの方が第二横揺れ角βよりも大きい数値を示す。それに対して、波周期TwがTp〜Tqの範囲(Tp<Tw<Tq)では、第一横揺れ角αの方が第二横揺れ角βよりも小さい数値を示す。
【0053】
したがって、波周期TwがTp〜Tqの範囲(Tp<Tw<Tq)では、エアバルブ31dを開いて減揺装置3を作動状態(ART31内の海水が左右に移動可能な状態)に設定し、波周期TwがTp以下(Tw≦Tp)又はTq以上(Tw≧Tq)の範囲では、エアバルブ31dを閉じて減揺装置3を非作動状態(ART31内の海水が左右に移動不可能な状態)に設定する。かかる操作は、減揺装置3に付設された制御盤によって処理されるが、かかる制御盤と制御装置4とを共有化してもよい。
【0054】
ここで、波周期TwがTα〜Tβの範囲(Tp<Tw<Tqの範囲)を「有効範囲」と称し、波周期TwがTp以下(Tw≦Tp)又はTq以上(Tw≧Tq)の範囲を「無効範囲」と称することとする。
【0055】
このとき、減揺装置3の作動/非作動は、船舶1の積荷状態に基づいて算出された横揺れ固有周期が有効範囲に含まれるか否かで判断される。具体的には、横揺れ固有周期が有効範囲に含まれる場合にエアバルブ31dを開いて減揺装置3を作動させ、横揺れ固有周期が無効範囲に含まれる場合にエアバルブ31dを閉じて減揺装置3を作動させないようにする。
【0056】
そして、制御装置4の注水/排水の判断基準は、例えば、上述した有効範囲を用いて設定することができる。例えば、制御装置4は、有効範囲が広い場合に「注水」と判断し、有効範囲が狭い場合に「排水」と判断する。ここで、有効範囲が広いか否かは、波周期Tp,Tqの間隔によって判断する。例えば、波周期Tp,Tqの間隔が2秒以上の場合に広いと判断し、2秒未満の場合に狭いと判断することができる。
【0057】
すなわち、制御装置4は、第一横揺れ角α及び第二横揺れ角βを算出し、第一横揺れ角αの方が第二横揺れ角βよりも小さい範囲を有効範囲として算出し、この有効範囲の広さに基づいて、ART31の注排水を判断するように構成されている。なお、上述した「2秒」の数値は単なる例示であり、かかる数値に限定されるものではない。
【0058】
また、制御装置4は、第一横揺れ角α及び第二横揺れ角βの大きさに基づいて注水/排水を判断することもできる。例えば、第一横揺れ角αの最大値に対する第二横揺れ角βの最大値の比率が1.3以上の場合に「注水」と判断し、1.3未満の場合に「排水」と判断することができる。
【0059】
すなわち、制御装置4は、第一横揺れ角α及び第二横揺れ角βを算出し、第一横揺れ角αの最大値に対する第二横揺れ角βの最大値の比率に基づいて、ART31の注排水を判断するように構成されていてもよい。なお、上述した「1.3」の数値は単なる例示であり、かかる数値に限定されるものではない。
【0060】
なお、制御装置4は、有効範囲の広さと第一横揺れ角αの最大値に対する第二横揺れ角βの最大値の比率との両方の条件に基づいて注水/排水を判断するようにしてもよいし、何れか一方の条件に基づいて注水/排水を判断するようにしてもよい。
【0061】
上述した本実施形態に係る船舶1の減揺装置3によれば、ART31に注水した方がよいか、ART31を排水した方がよいかを船舶1の積荷状態から判断するようにしたことから、ART31の注水状態又は排水状態を航行区間ごとに切り替えることができる。
【0062】
従来の減揺装置のように、ARTの固有周期を航行中に制御しようとした場合には、減揺装置が高価になってしまう、船舶の航行状況等の変化に追従させることは困難である等の問題を生じる可能性がある。
【0063】
それに対して、本実施形態に係る減揺装置3は、減揺装置3の減揺効果が有意義である場合にはART31を注水状態に設定し、減揺装置3の減揺効果が無意義である場合にはART31を排水状態に設定するようにしたことから、ART31の設計条件に適合する積荷状態である航行区間では減揺装置3を最大限有効に機能させることができる。また、積荷状態によっては減揺装置3が船体2の横揺れを増長してしまう可能性のある航行区間では、減揺装置3を強制的に作動させないようにすることにより、ART31の悪影響を低減することができる。
【0064】
したがって、本実施形態に係る減揺装置3を用いることにより、一般貨物船やばら積み貨物船等のように、積荷状態に応じて船体2の重心が変化する場合であっても、ART31を注排水するだけで、簡便な構造で効率よく減揺効果を付与することができる。
【0065】
また、本実施形態に係る減揺装置3を採用することにより、ART31内の海水を排水した場合には、船舶1の重量の軽減を図ることができ、積載量の増加、消費燃料の低減及び復原性能の向上を図ることもできる。
【0066】
本実施形態に係る船舶1の減揺方法は、上述したように、ART31を搭載した船舶1の減揺方法であって、ART31に注水した方がよいか又はART31を排水した方がよいかを、船舶1の積荷状態から判断するようにしたものである。具体的には、本実施形態に係る船舶1の減揺方法は、上述した制御装置4によって処理される。
【0067】
次に、本実施形態に係る船舶1及び減揺装置3の変形例について、
図5〜
図6(B)を参照しつつ説明する。ここで、
図5は、本実施形態に係る船舶及び減揺装置の第一変形例を示す全体構成図である。
図6は、本実施形態に係る船舶及び減揺装置の他の変形例を示す全体構成図であり、(A)は第二変形例、(B)は第三変形例、である。なお、
図1に示した実施形態と同じ構成部品については、同じ符号を付して重複した説明を省略する。
【0068】
図5に示した第一変形例は、ART31の構造を変更したものである。具体的には、
図5に示したART31は、海水の揺動時にART31内の空気量を調整する通風筒に替えて、一対のウイングタンク31aの上部を連通可能に接続するエアダクト31eを配置したものである。エアダクト31eの中間部には、エアバルブ31fが配置されている。
【0069】
かかる構成によっても、エアバルブ31fを開閉することにより、ART31内の水を左右に移動可能な状態と移動不可能な状態とに切り替えることができる。このように、減揺装置3の作動/非作動を切り替えるようにした場合であっても、上述した本実施形態のようにART31を注排水することができる。
【0070】
なお、ART31の構成は、上述した実施形態及び第一変形例に示した構成に限定されるものではなく、注水手段32及び排水手段33を備えていれば、他の構成であってもよい。
【0071】
上述した実施形態では、ART31内に海水を注水する場合について説明しているが、海水以外の水(例えば、清水等)を注水するようにしてもよい。
図6(A)及び
図6(B)に示した変形例は、ART31内に清水を注水するようにしたものである。
【0072】
図6(A)に示した第二変形例は、注水手段32及び排水手段33を船舶1に搭載された貯水タンク34に接続したものである。注水手段32は、例えば、注水配管32b、吸入ポンプ32c及び開閉弁32dによって構成される。排水手段33は、例えば、排水配管33a及び開閉弁33bによって構成される。注水配管32b及び排水配管33aは、貯水タンク34に接続される。なお、貯水タンク34は、船体2の甲板上に配置されていてもよいし、船体2の甲板下に配置されていてもよい。
【0073】
図6(B)に示した第三変形例は、注水手段32を陸上施設に配置された水源35に接続可能に構成したものである。注水手段32は、例えば、注水配管32b、吸入ポンプ32c及び開閉弁32dによって構成される。注水配管32bの先端は、水源35に接続するホースを連結可能に構成されている。
【0074】
なお、第三変形例では、排水手段33をバラストタンク21及びヒーリングタンク22に接続しているが、ART31内に清水を注水した場合には、陸上施設に配置されたタンクに排水するようにしてもよいし、バラストタンク21及びヒーリングタンク22を介さずに海中に排水するようにしてもよい。
【0075】
本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能であることは勿論である。