特開2021-195089(P2021-195089A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ジェイテクトの特許一覧

<>
  • 特開2021195089-操舵制御装置 図000003
  • 特開2021195089-操舵制御装置 図000004
  • 特開2021195089-操舵制御装置 図000005
  • 特開2021195089-操舵制御装置 図000006
  • 特開2021195089-操舵制御装置 図000007
  • 特開2021195089-操舵制御装置 図000008
  • 特開2021195089-操舵制御装置 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-195089(P2021-195089A)
(43)【公開日】2021年12月27日
(54)【発明の名称】操舵制御装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20211129BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20211129BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20211129BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20211129BHJP
【FI】
   B62D6/00
   B62D5/04
   B62D101:00
   B62D113:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2020-105199(P2020-105199)
(22)【出願日】2020年6月18日
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】寺島 誠
(72)【発明者】
【氏名】井川 勝之
(72)【発明者】
【氏名】竹下 敦史
【テーマコード(参考)】
3D232
3D333
【Fターム(参考)】
3D232CC08
3D232CC12
3D232DA03
3D232DA15
3D232DA16
3D232DA23
3D232DA63
3D232DA64
3D232DC03
3D232DC08
3D232DC17
3D232DC22
3D232DD01
3D232DD06
3D232DD17
3D232DE05
3D232EB04
3D232EB11
3D232EC23
3D232GG01
3D333CB02
3D333CB19
3D333CC06
3D333CE16
3D333CE52
3D333CE53
(57)【要約】
【課題】比ストロークの領域全体を考慮してステアリングの動作を適正化できる操舵制御装置を提供する。
【解決手段】操舵制御装置は、メカバリアブルを用いた操舵装置のうち、転舵輪を転舵させるべくステアリングホイールの動作を補助するための動力となるモータトルクを発生するモータ31を有するアクチュエータを制御対象とする。操舵制御装置は、アクチュエータを動作させるべく、モータ31への電流の供給を制御する制御部51を備えている。制御部51は、モータ31への電流の供給を制御するための制御量であるモータ制御量を演算するモータ制御量演算部55を備えている。モータ制御量演算部55は、ステアリングホイールの動作に関わって演算される基本制御量を演算する基本制御量演算部62と、基本制御量を補償するための補償量を演算する補償量演算部63とを含んでいる。補償量演算部63は、ストローク量に応じて補償量を変更するようにしている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のステアリングホイールの回転量に対する車両の転舵輪を転舵させるべく動作する転舵シャフトの軸方向の移動量の比である比ストロークが当該ステアリングホイールの回転角度に応じて変化するように構成されている操舵装置を制御対象とするものであり、
前記操舵装置は、前記転舵輪を転舵させるための動力となるモータトルクを発生するモータを有するアクチュエータを含むものであり、
前記アクチュエータを動作させるべく、前記モータへの電流の供給を制御する制御部を備え、
前記制御部は、前記モータへの電流の供給を制御するための制御量であるモータ制御量を演算するモータ制御量演算部を備え、
前記モータ制御量演算部は、
前記ステアリングホイールの動作に関わって演算される基本制御量を演算する基本制御量演算部と、
前記基本制御量に基づき実現される前記ステアリングホイールの動作が所望の特性を示すように補償するための補償量を演算する補償量演算部と、を含み、
前記モータ制御量は、前記基本制御量に対して前記補償量を反映させることで得られるものであり、
前記補償量演算部は、前記転舵輪の転舵時の前記比ストロークの大きさを特定することができるとして前記操舵装置から得られる状態変数に応じて前記補償量を変更するように構成されている操舵制御装置。
【請求項2】
前記基本制御量演算部は、トーションバーを用いたトルク検出装置に基づき得られる前記ステアリングホイールに付加される操舵トルクを用いて前記基本制御量を演算するものであり、
前記補償量演算部は、
前記操舵トルクについて前記トーションバーの上下間の位相差の周波数特性を調整するべく、前記操舵トルクに位相補償を施して得られる補償後操舵トルクを前記基本制御量演算部が前記基本制御量の演算で使用できるようにするための前記補償量として前記補償後操舵トルクを演算する第1の位相補償量演算部と、
前記操舵トルクの変化に対する前記ステアリングホイールの動作の応答遅れを調整するべく、前記モータトルクの位相を進ませるための前記補償量としてトルク微分補償量を演算する第2の位相補償量演算部と、を含み、
前記第1の位相補償量演算部及び前記第2の位相補償量演算部は、前記状態変数に応じて前記補償後操舵トルク及び前記トルク微分補償量を変更するように構成されている請求項1に記載の操舵制御装置。
【請求項3】
前記比ストロークは、前記比ストロークの大きさを一定に維持する維持領域を複数含むことを前提とし、
前記補償量演算部は、前記転舵輪の転舵時の前記比ストロークが各維持領域の間で前記補償量を変更する請求項1又は請求項2に記載の操舵制御装置。
【請求項4】
前記比ストロークは、前記各維持領域の間を線形状に繋ぐ変化領域を含むことを前提とし、
前記補償量演算部は、前記転舵輪の転舵時の前記比ストロークが各維持領域の間で前記補償量を変更するべく、前記変化領域の間で前記補償量を変更する請求項3に記載の操舵制御装置。
【請求項5】
前記操舵装置は、前記転舵シャフトを含んだラックアンドピニオン機構を構成するものであり、前記転舵シャフトが有するラック歯の諸元が前記転舵シャフトにおける軸方向位置に応じて異なるように設定されていることを前提とする請求項1〜請求項4のうちいずれか一項に記載の操舵制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に用いられる操舵装置として、ステアリング操作に伴う回転をラックアンドピニオン機構によりラックシャフトの往復直線運動に変換して転舵輪の転舵角を変更するものが知られている。こうした操舵装置には、例えば、特許文献1に記載されるように、ラックシャフトに形成されるラック歯の諸元をその軸方向位置によって異ならせることにより、ステアリング軸の回転角度に対するラックシャフトの移動量の比である比ストロークを操舵角に応じて変化させる、所謂、バリアブルギヤレシオ型のラックアンドピニオン機構を採用したものがある。
【0003】
特許文献1の操舵装置は、ラックシャフトに対して減速機構を介して接続されたモータを備え、当該モータを駆動源としてアシスト力を付与するアシスト機構を備えた電動パワーステアリング装置(以下、「EPS」という。)として構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019−111981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載の操舵装置では、運転者のステアリング操作に基づきモータの制御量を補償することでステアリングの動作が所望の特性を示すように適正化を図るようにしている。ただし、比ストロークの異なる領域間では、減速機構の減速比が一定のなかでラックシャフトの移動量が大小異なることに起因して、モータと、上記バリアブルギヤレシオ型のラックアンドピニオン機構により接続される部材との間での総合的な減速比が異なる。これに関わり比ストロークの異なる領域間では、モータの制御特性が異なることになる。このため、比ストロークのどこかの領域でのモータの制御特性に合わせてステアリングの動作が所望の特性を示すように適正化してしまうと、比ストロークの他の領域でのステアリングの動作の適正化の効果が小さくなる。つまり、比ストロークの領域全体を考慮すると、ステアリングの動作の適正化は困難である。
【0006】
本発明の目的は、比ストロークの領域全体を考慮してステアリングの動作を適正化できる操舵制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する操舵制御装置は、車両のステアリングホイールの回転量に対する車両の転舵輪を転舵させるべく動作する転舵シャフトの軸方向の移動量の比である比ストロークが当該ステアリングホイールの回転角度に応じて変化するように構成されている操舵装置を制御対象とするものであり、前記操舵装置は、前記転舵輪を転舵させるための動力となるモータトルクを発生するモータを有するアクチュエータを含むものであり、前記アクチュエータを動作させるべく、前記モータへの電流の供給を制御する制御部を備え、前記制御部は、前記モータへの電流の供給を制御するための制御量であるモータ制御量を演算するモータ制御量演算部を備え、前記モータ制御量演算部は、前記ステアリングホイールの動作に関わって演算される基本制御量を演算する基本制御量演算部と、前記基本制御量に基づき実現される前記ステアリングホイールの動作が所望の特性を示すように補償するための補償量を演算する補償量演算部と、を含み、前記モータ制御量は、前記基本制御量に対して前記補償量を反映させることで得られるものであり、前記補償量演算部は、前記転舵輪の転舵時の前記比ストロークの大きさを特定することができるとして前記操舵装置から得られる状態変数に応じて前記補償量を変更するように構成されている。
【0008】
上記構成によれば、補償量については、転舵輪の転舵時の比ストロークの大きさに応じた補償量となるように変更されることになる。この場合、転舵輪の転舵時の比ストロークの異なる領域間で、モータと、上記転舵シャフトの軸方向の移動量の比である比ストロークが当該ステアリングホイールの回転角度に応じて変化するように機能する部位により接続される部材との間での総合的な減速比が異なることに起因してモータの制御特性が異なることを考慮してステアリングホイールの動作が所望の特性を示すように、状況に応じて補償量を変更するすことができる。これにより、比ストロークの領域毎にその時のモータの制御特性を考慮してステアリングの動作が所望の特性を示すように適正化することができるようになる。したがって、比ストロークの領域全体を考慮してステアリングの動作を適正化することができる。
【0009】
上記操舵制御装置において、前記基本制御量演算部は、トーションバーを用いたトルク検出装置に基づき得られる前記ステアリングホイールに付加される操舵トルクを用いて前記基本制御量を演算するものであり、前記補償量演算部は、前記操舵トルクについて前記トーションバーの上下間の位相差の周波数特性を調整するべく、前記操舵トルクに位相補償を施して得られる補償後操舵トルクを前記基本制御量演算部が前記基本制御量の演算で使用できるようにするための前記補償量として前記補償後操舵トルクを演算する第1の位相補償量演算部と、前記操舵トルクの変化に対する前記ステアリングホイールの動作の応答遅れを調整するべく、前記モータトルクの位相を進ませるための前記補償量としてトルク微分補償量を演算する第2の位相補償量演算部と、を含み、前記第1の位相補償量演算部及び前記第2の位相補償量演算部は、前記状態変数に応じて前記補償後操舵トルク及び前記トルク微分補償量を変更するように構成されていることが好ましい。
【0010】
上記構成によれば、第1の位相補償量演算部は、操舵装置で発生する振動を抑制して操舵装置の動作を安定化させる機能を有する。また、第2の位相補償量演算部は、操舵装置の動作の応答遅れを改善させる機能を有する。操舵装置の動作の安定化と応答遅れの改善とは、互いにトレードオフの関係にある。つまり、操舵装置の動作の安定化と応答遅れの改善とを纏めて変更できる構成とすることで、ステアリングホイールの動作が所望の特性を示すように適正化を図る場合には特に効果的である。
【0011】
また、上記操舵制御装置において、前記比ストロークは、前記比ストロークの大きさを一定に維持する維持領域を複数含むことを前提とし、前記補償量演算部は、前記転舵輪の転舵時の前記比ストロークが各維持領域の間で前記補償量を変更することが好ましい。
【0012】
上記構成によれば、補償量を変更する状況を最適化することができる。
さらに、上記比ストロークは、前記各維持領域の間を線形状に繋ぐ変化領域を含むことを前提とする場合、前記補償量演算部は、前記転舵輪の転舵時の前記比ストロークが各維持領域の間で前記補償量を変更するべく、前記変化領域の間で前記補償量を変更することが好ましい。
【0013】
上記構成の場合、比ストロークが変化領域では、所望の特性に応じて各維持領域の特性の反映具合を調整することができる。例えば、変化領域の中央の状況を補償量の変更の境界にすれば、各維持領域のどちらの特性も適度に反映させることができる。また、変化領域の中央からずれた状況を補償量の変更の境界にずれば、各維持領域のどちらかの特性を大きく反映させることができる。つまり、ステアリングホイールの動作の所望の特性について、調整の幅を広げることができる。
【0014】
また、上記操舵制御装置において、前記操舵装置は、前記転舵シャフトを含んだラックアンドピニオン機構を構成するものであり、前記転舵シャフトが有するラック歯の諸元が前記転舵シャフトにおける軸方向位置に応じて異なるように設定されていることを前提とすることが好ましい。
【0015】
上記構成によれば、所謂、メカバリアブルを用いた操舵装置において、比ストロークの領域全体を考慮してステアリングの動作を適正化することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の操舵制御装置によれば、比ストロークの領域全体を考慮してステアリングの動作を適正化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】操舵装置の概略構成図。
図2】操舵角と比ストロークとの関係を説明する模式図。
図3】第1実施形態の操舵制御装置の機能を示すブロック図。
図4】位相遅れ補償量演算部の機能を示すブロック図。
図5】位相進み補償量演算部の機能を示すブロック図。
図6】比ストロークの領域と、マップとの関係を説明する模式図。
図7】第2実施形態の操舵制御装置の機能を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第1実施形態)
以下、操舵制御装置を電動パワーステアリング装置の操舵装置に適用した第1実施形態を図面に従って説明する。
【0019】
図1に示すように、車両の操舵装置10は、当該操舵装置10の作動を制御する操舵制御装置50を備えている。操舵装置10は、運転者によるステアリングホイール11の操作であるステアリング操作に基づいて転舵輪18を転舵させる操舵機構20を備えている。また、操舵装置10は、操舵機構20にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与することで、転舵輪18を転舵させるための動力となるモータトルクを発生するアクチュエータ30を備えている。つまり、本実施形態において、操舵装置10は、運転者によるステアリング操作を補助する電動パワーステアリング装置である。
【0020】
操舵機構20は、ステアリングホイール11が固定されるステアリングシャフト12と、ステアリングシャフト12に連結された転舵シャフトであるラックシャフト16とを備えている。また、操舵機構20は、ステアリングシャフト12の回転をラックシャフト16の軸線方向の往復動に変換する第1のラックアンドピニオン機構21を備えている。なお、ステアリングシャフト12は、ステアリングホイール11が位置する側から順にコラムシャフト13、インタミシャフト14、及びピニオンシャフト15を連結することにより構成されている。
【0021】
ピニオンシャフト15とラックシャフト16とは、所定の交差角をもって配置されている。第1のラックアンドピニオン機構21は、ピニオンシャフト15に設けられたピニオン15aとラックシャフト16に設けられたラック歯16aとが噛合されることで構成されている。また、ラックシャフト16の両端には、その軸端部に設けられたボールジョイントからなる図示しないラックエンドを介してタイロッド17がそれぞれ駆動可能に連結されている。タイロッド17の先端は、転舵輪18が組付けられた図示しないナックルに連結されている。したがって、操舵装置10では、ステアリング操作に伴うステアリングシャフト12の回転が第1のラックアンドピニオン機構21によりラックシャフト16の軸方向移動に変換され、この軸方向移動がタイロッド17を介してナックルに伝達されることにより、転舵輪18の転舵角、すなわち車両の進行方向が変更される。
【0022】
第1のラックアンドピニオン機構21としては可変ギヤ比、所謂、バリアブルギヤレシオ型のものが採用されている。すなわち、ラックシャフト16におけるラック歯16aが設けられた部分において、車両が直進しているときのステアリングホイール11の位置である操舵中立位置に対応する中央付近から左右の操舵限界位置であるストロークエンド付近へ向けて比ストロークCfが増大するように、ラック歯16aのピッチ及び圧力角を含む歯の諸元が設定されている。これは、ラックシャフト16の軸方向位置に置き換えても同様のことが言える。ここで、比ストロークCfとは、ステアリングホイール11、すなわちピニオンシャフト15の回転位置である操舵角θsに対するラックシャフト16の軸方向位置であるストローク量RSをいう。
【0023】
操舵角θsは、車両が直進しているときのステアリングホイール11の位置である操舵中立位置からの回転角度を示す値である。ストローク量RSは、ラックシャフト16の転舵中立位置からの移動量を示す値である。操舵角θsと、ストローク量RSとは、比ストロークCfを用いて互いに換算することができる。例えば、比ストロークCfが「mm/rev」、操舵角θsが「deg」の単位として得られる場合、操舵角θsを「360°」で除算して得られる値を比ストロークCfに対して乗算する結果、ストローク量RSが「mm」の単位で得られる。操舵角θsは、後述のステアリングセンサ43を通じて検出される。
【0024】
図2に示すように、操舵角θsと比ストロークとの関係は、操舵角θsの絶対値が第1の操舵角θs1以下である操舵中立位置近傍の領域Aにおいて、比ストロークCfは第1の比ストロークCf1の一定に設定されている。また、操舵角θsの絶対値が第1の操舵角θs1よりも大きい、且つ、第2の操舵角θs2以下の領域Bにおいて、比ストロークCfは操舵角θsの絶対値が増大するにつれて徐々に大きくなるように設定されている。また、操舵角θsの絶対値が第2の操舵角θs2よりも大きい、且つ、第3の操舵角θs3以下であるストロークエンド近傍の領域Cにおいて、比ストロークCfは、第2の比ストロークCf2の一定に設定されている。第2の比ストロークCf2は、第1の比ストロークCf1よりも大きな値である。なお、図2では、操舵角θsがゼロ値である操舵中立位置を基準として右操舵したときの操舵角θsを正の値、同じく左操舵したときの操舵角θsを負の値で示している。
【0025】
このように操舵角θsに対する比ストロークCfを設定することにより、操舵角θsの絶対値が大きくなるほど、当該操舵角θsの変化量に対する転舵輪18の転舵角の変化量がより大きくなる。このため、直進走行時あるいは高速走行時における操縦性を確保しつつ、据え切り時あるいは低速走行時におけるステアリングホイール11の操作性を向上させることができる。
【0026】
図1の説明に戻り、アクチュエータ30は、その駆動源となるモータ31と、モータ31にウォームアンドホイールなどの減速機構32を介して連結されるピニオンシャフト33とを備えている。モータ31としては、例えば、三相のブラシレスモータが採用される。なお、モータ31は、モータ31には、回転角センサ34が設けられている。回転角センサ34は、モータ31の回転角θmを360°の範囲の相対角で検出する。
【0027】
また、ラックシャフト16とピニオンシャフト33とは互いに交差して設けられている。ピニオンシャフト33に設けられたピニオン歯33aがラックシャフト16に設けられたラック歯16bに噛合されることにより、動力変換機構としての第2のラックアンドピニオン機構22が構成されている。モータ31の回転は減速機構32により減速されて、この減速されるモータ31の回転力がピニオンシャフト33に伝達される。このピニオンシャフト33の回転が第2のラックアンドピニオン機構22によってラックシャフト16の軸方向における往復動に変換されることにより、ステアリングホイール11の操作が補助される。なお、ラック歯16bのピッチ及び圧力角を含む歯の諸元は、ラックシャフト16におけるラック歯16bが設けられた全領域に亘って同一に設定されている。
【0028】
モータ31には、その駆動を制御する操舵制御装置50が接続されている。操舵制御装置50は、各種のセンサの検出結果に基づき、モータ31の制御量である電流の供給を制御することによって、モータ31の駆動を制御する。各種のセンサとしては、回転角センサ34の他、例えば、トルクセンサ41、車速センサ42、及びステアリングセンサ43がある。トルクセンサ41は、コラムシャフト13に設けられたトーションバー41aを有している。トルクセンサ41は、トーションバー41aの捻れ角に基づきステアリングシャフト12に付与される操舵トルクThを検出する。車速センサ42は、車両の走行速度である車速値Vを検出する。ステアリングセンサ43は、コラムシャフト13におけるトルクセンサ41とステアリングホイール11との間の部分に設けられている。ステアリングセンサ43は絶対角センサであって、ステアリングホイール11(ステアリングシャフト12)の回転角である操舵角θsを、360°を超える範囲で積算して得られる絶対角で検出する。
【0029】
操舵制御装置50は、操舵トルクTh及び車速値Vに基づきアシスト力の目標となる制御量である目標アシスト力を演算し、当該目標アシスト力をアクチュエータ30に発生させるべく、回転角センサ34を通じて検出される回転角θmを使用して、モータ31への給電を制御する。また、操舵制御装置50は、ステアリングセンサ43を通じて検出される操舵角θsを使用して、より優れた操舵感を実現するための補償制御を実行する。
【0030】
次に、操舵制御装置50の構成について説明する。
操舵制御装置50は、図示しない中央処理装置(CPU)やメモリを備えており、所定の演算周期ごとにメモリに記憶されたプログラムをCPUが実行する。これにより、各種の処理が実行される。
【0031】
図3に、操舵制御装置50が実行する処理の一部を示す。図3に示す処理は、メモリに記憶されたプログラムをCPUが実行することで実現される処理の一部を、実現される処理の種類毎に記載したものである。
【0032】
操舵制御装置50は、モータ制御信号Msを出力する制御部51と、モータ制御信号Msに基づいてモータ31に駆動電力を供給する駆動回路52とを備えている。制御部51には、駆動回路52とモータ31の各相のモータコイルとの間の接続線53を流れるモータ31の各相の電流値から得られる実電流値Iを検出する電流センサ54が接続されている。電流センサ54は、モータ31に対応して設けられる図示しないインバータにおいて、スイッチング素子のそれぞれのソース側に接続されたシャント抵抗の電圧降下を電流として取得する。なお、図3では、説明の便宜上、各相の接続線53及び各相の電流センサ54をそれぞれ1つにまとめて図示している。
【0033】
次に、制御部51の機能について説明する。
制御部51には、操舵トルクTh、車速値V、回転角θm、操舵角θs、及び実電流値Iが入力される。制御部51は、操舵トルクTh、車速値V、操舵角θs、回転角θm、及び実電流値Iに基づいて、モータ31に対する給電を制御する。
【0034】
制御部51は、モータ制御量演算部55と、電流指令値演算部56と、モータ制御信号生成部57とを有している。
モータ制御量演算部55には、操舵トルクTh、車速値V、及び操舵角θsが入力される。モータ制御量演算部55は、操舵トルクTh、車速値V、及び操舵角θsに基づいて、目標アシスト力としてのトルク指令値Ta*を演算する。トルク指令値Ta*については、後で詳しく説明する。こうして得られたトルク指令値Ta*は、電流指令値演算部56に出力される。
【0035】
電流指令値演算部56には、トルク指令値Ta*が入力される。電流指令値演算部56は、トルク指令値Ta*に基づいて、dq座標系における電流指令値I*を生成するように演算する。こうして得られた電流指令値I*は、モータ制御信号生成部57に出力される。
【0036】
モータ制御信号生成部57には、電流指令値I*、回転角θm、及び実電流値Iが入力される。モータ制御信号生成部57は、回転角θmに基づいて、実電流値Iをdq座標上に写像することにより、dq座標系における実電流値を演算する。モータ制御信号生成部57は、dq座標系における実電流値を、dq座標系における電流指令値I*に追従させるべく、各座標上の各電流偏差に基づいて電流フィードバック制御を実行することによりモータ制御信号Msを生成する。こうして生成されたモータ制御信号Msは、駆動回路52に出力される。これにより、モータ31には、駆動回路52からモータ制御信号Msに応じた駆動電力が供給される。これにより、モータ31はトルク指令値Ta*に応じたトルクを発生する。運転者に対してステアリング操作に応じたアシスト力を与えることが可能である。
【0037】
以下、モータ制御量演算部55の機能についてさらに詳しく説明する。
図3に示すように、モータ制御量演算部55は、ストローク量演算部61と、基本制御量演算部62と、補償量演算部63とを有している。
【0038】
ストローク量演算部61には、操舵角θsが入力される。ストローク量演算部61は、操舵角θsに基づいて、ストローク量RSを演算する。具体的には、ストローク量演算部61は、図2中に示されるその時の操舵角θsに応じた比ストロークCfの関係を用いて、当該操舵角θsをストローク量RSに換算する。なお、図2中に示される操舵角θsと比ストロークCfとの関係は、制御部51の図示しないメモリの所定の記憶領域に記憶されている。ストローク量演算部61は、換算して得られたストローク量RSの絶対値が閾値RSth以下であるか否かを判断する。閾値RSthは、比ストロークCfが、比ストロークCf1の一定に維持する維持領域と比ストロークCf2の一定に維持する維持領域との間を線形状に繋ぐ変化領域の中央値、すなわち図2中、比ストロークCf0で示す値であると判断することができる範囲の値として実験等により設定される。つまり、閾値RSthは、比ストロークCf0に対応する領域Bに含まれる絶対値が第4の操舵角θs4の値であって、当該値が比ストロークCf0を用いて換算して得られるストローク量RSの値として設定される。なお、第4の操舵角θs4は、第1の操舵角θs1と、第2の操舵角θs2との間の中央値である。本実施形態において、操舵角θsは、転舵輪18の転舵時の比ストロークCfの大きさを特定することができるとして操舵装置10から得られる状態変数である。
【0039】
そして、ストローク量演算部61は、ストローク量RSの絶対値が閾値RSth以下である場合に、比ストロークCfの状況が比ストロークCf1の特性又は比ストロークCf1に準じた特性であることを判断し、その旨を示す情報として状態FLG1を演算する。また、ストローク量演算部61は、ストローク量RSの絶対値が閾値RSthよりも大きい場合に、比ストロークCfの状況が比ストロークCf2の特性又は比ストロークCf2に準じた特性であることを判断し、その旨を示す情報として状態FLG2を演算する。こうして得られた状態FLG1,FLG2は、補償量演算部63に出力される。
【0040】
基本制御量演算部62には、後述の補償後操舵トルクTh´及び車速値Vが入力される。基本制御量演算部62は、後述の補償後操舵トルクTh´及び車速値Vに基づいて、基本制御量Tas*を演算する。なお、補償後操舵トルクTh´は、操舵トルクThの補償量演算部63の補償を通じて得られる。基本制御量Tas*は、ステアリングホイール11の操舵に関わって演算される制御量である。そして、基本制御量Tas*は、トルク指令値Ta*の基礎成分であり、ステアリングホイール11の操舵が所望の特性を示すように設定されている。この場合、基本制御量演算部62は、補償後操舵トルクTh´の変化に対する基本制御量Tas*の変化率である接線の傾きで表されるアシスト勾配Ragを考慮して、補償後操舵トルクTh´の絶対値が大きいほど、車速値Vが小さいほど、より大きな絶対値となる基本制御量Tas*を演算する。こうして得られた基本制御量Tas*は、加算器64に出力される。また、基本制御量Tas*を演算するなかで得られたアシスト勾配Ragは、補償量演算部63に出力される。
【0041】
補償量演算部63には、操舵トルクTh、車速値V、状態FLG、及びアシスト勾配Ragが入力される。補償量演算部63は、操舵トルクTh、車速値V、状態FLG、及びアシスト勾配Ragに基づいて、以下の補償後操舵トルクTh´と、トルク微分補償量Tdt*とを含む各種補償量を演算する。なお、各種補償量には、補償後操舵トルクTh´及びトルク微分補償量Tdt*の他、図示しないが戻り補償量や、ヒステリシス補償量や、ダンピング補償量や、慣性補償量を含んでいる。戻り補償量は、操舵中立位置に戻すステアリングホイール11の戻り動作を補償するためのものである。ヒステリシス補償量は、ステアリングホイール11の動作時の摩擦によるヒステリシス特性を最適化するように補償するためのものである。ダンピング補償量は、ステアリングホイール11に生じる微振動を低減するように補償するためのものである。慣性補償量は、ステアリングホイール11の操舵し始め時の引っ掛かり感や操舵終わり時の流れ感を抑制するように補償するためのものである。各種補償量は、基本制御量Tas*に基づき実現されるステアリングホイール11の動作が所望の特性を示すように補償するための補償量である。
【0042】
具体的には、補償量演算部63は、位相遅れ補償量演算部65と、位相進み補償量演算部66とを有している。
位相遅れ補償量演算部65には、操舵トルクTh、車速値V、状態FLG、及びアシスト勾配Ragが入力される。位相遅れ補償量演算部65は、操舵トルクTh、車速値V、状態FLG、及びアシスト勾配Ragに基づいて、補償後操舵トルクTh´を演算する。補償後操舵トルクTh´は、操舵トルクThについてトーションバー41aの上下間の位相差の周波数特性を調整するべく、操舵トルクThに位相補償を施すものである。トーションバー41aの上下間では、当該トーションバー41aの捩じれに応じて生じる位相差が大きくなると操舵装置10に振動が発生する場合があるところ、当該振動が抑制されるように補償後操舵トルクTh´によって補償される。補償後操舵トルクTh´は、操舵トルクThの位相を遅らせるように位相補償するためのものである。本実施形態において、位相遅れ補償量演算部65は、第1の位相補償量演算部に相当する。
【0043】
具体的には、図4に示すように、位相遅れ補償量演算部65は、アシスト勾配感応ゲイン演算部71と、位相遅れ補償成分演算部72とを有している。
アシスト勾配感応ゲイン演算部71には、車速値V、状態FLG、及びアシスト勾配Ragが入力される。アシスト勾配感応ゲイン演算部71は、車速値V、状態FLG、及びアシスト勾配Ragに基づいて、補償後操舵トルクTh´を演算する際の位相遅れ補償の特性に関わるアシスト勾配感応ゲインKagを演算する。アシスト勾配感応ゲイン演算部71は、位相遅れ補償の特性を車速値Vに応じて複数の制御領域に分類し、それぞれの制御領域毎に、例えば、アシスト勾配Ragの上昇に応じて、操舵トルクThに対する位相補償時の操舵トルクTh´のゲイン(dB)を低減させるように、位相遅れ補償の特性を変更する。
【0044】
具体的には、アシスト勾配感応ゲイン演算部71は、車速値V及びアシスト勾配Ragと、アシスト勾配感応ゲインKagとの関係を定めた位相遅れ補償マップMA1,MA2を備えており、車速値V及びアシスト勾配Ragを入力とし、アシスト勾配感応ゲインKagをマップ演算する。アシスト勾配感応ゲイン演算部71は、状態FLGに基づいて、位相遅れ補償の特性が変化するように位相遅れ補償マップMA1,MA2を切り替えて用いるように構成されている。
【0045】
各位相遅れ補償マップMA1,MA2には、例えば、操舵トルクThに対する補償後操舵トルクTh´のゲイン(dB)を低減させる傾向の過程がそれぞれに異なる位相遅れ補償の特性となるように、車速値V及びアシスト勾配Ragと、アシスト勾配感応ゲインKagとの関係が示されている。位相遅れ補償マップMA1は、比ストロークCfの状況が比ストロークCf1の特性又は比ストロークCf1に準じた特性の場合におけるモータ31の制御特性を考慮して、ステアリングホイール11の動作を所望の特性となるように適合させた、図中、「低比スト用」と示した低い比ストローク用のマップである。位相遅れ補償マップMA2は、比ストロークCfの状況が比ストロークCf2の特性又は比ストロークCf2に準じた特性の場合におけるモータ31の制御特性を考慮して、ステアリングホイール11の動作を所望の特性となるように適合させた、図中、「高比スト用」と示した高比スト用のマップである。
【0046】
そして、アシスト勾配感応ゲイン演算部71は、状態FLG1が入力される場合に、比ストロークCfの状況が比ストロークCf1の特性又は比ストロークCf1に準じた特性であることを判断し、低い比ストローク用の位相遅れ補償マップMA1を用いてアシスト勾配感応ゲインKagを演算する。また、アシスト勾配感応ゲイン演算部71は、状態FLG2が入力される場合に、比ストロークCfの状況が比ストロークCf2の特性又は比ストロークCf2に準じた特性であることを判断し、高い比ストローク用の位相遅れ補償マップMA2を用いてアシスト勾配感応ゲインKagを演算する。本実施形態では、状態FLGに応じたアシスト勾配感応ゲインKagの特性の変更を通じて、状態FLGに応じて補償後操舵トルクTh´を変更する。こうして得られたアシスト勾配感応ゲインKagは、位相遅れ補償成分演算部72に出力される。
【0047】
位相遅れ補償成分演算部72には、操舵トルクTh及びアシスト勾配感応ゲインKagが入力される。位相遅れ補償成分演算部72は、操舵トルクTh及びアシスト勾配感応ゲインKagに基づいて、補償後操舵トルクTh´を演算する。この場合、位相遅れ補償成分演算部72は、操舵トルクThに対してアシスト勾配感応ゲインKagを乗算する等の所定の演算を通じて補償後操舵トルクTh´を演算する。こうして得られた補償後操舵トルクTh´は、基本制御量演算部62に出力される。
【0048】
位相進み補償量演算部66には、操舵トルクTh、車速値V、状態FLG、及びアシスト勾配Ragが入力される。位相進み補償量演算部66は、操舵トルクTh、車速値V、状態FLG、及びアシスト勾配Ragに基づいて、トルク微分補償量Tdt*を演算する。トルク微分補償量Tdt*は、操舵トルクThの変化に対するステアリングホイール11の動作の応答遅れを調整するべく、モータトルクに関わるトルク指令値Ta*に位相補償を施すものである。特に車速値Vが停車を含む低車速では、操舵トルクThに対する操舵装置10の応答性が遅れるところ、当該応答遅れを改善させるようにトルク微分補償量Tdt*によって補償される。トルク微分補償量Tdt*は、モータトルクに関わるトルク指令値Ta*の位相を進ませるように位相補償するためのものである。本実施形態において、位相進み補償量演算部66は、第2の位相補償量演算部に相当する。
【0049】
具体的には、図5に示すように、位相進み補償量演算部66は、トルク微分値演算部81と、トルク微分基礎補償量演算部82と、システム安定化ゲイン演算部83と、位相進み補償成分演算部84とを有している。
【0050】
トルク微分値演算部81には、操舵トルクThが入力される。トルク微分値演算部81は、操舵トルクThの微分値であるトルク微分値dThを演算する。こうして得られたトルク微分値dThは、トルク微分基礎補償量演算部82に出力される。
【0051】
トルク微分基礎補償量演算部82には、トルク微分値dThが入力される。トルク微分基礎補償量演算部82は、トルク微分値dThに基づいて、トルク微分補償量Tdt*の基礎成分であるトルク微分基礎補償量εdtを演算する。トルク微分基礎補償量演算部82は、トルク微分値dThの絶対値が大きいほど、より大きな絶対値となるトルク微分基礎補償量εdtを演算する。
【0052】
システム安定化ゲイン演算部83には、車速値V、状態FLG、及びアシスト勾配Ragが入力される。システム安定化ゲイン演算部83は、車速値V、状態FLG、及びアシスト勾配Ragに基づいて、トルク微分補償量Tdt*を演算する際の位相進み補償の特性に関わるシステム安定化ゲインKsgを演算する。システム安定化ゲイン演算部83は、位相進み補償の特性を車速値Vに応じて複数の制御領域に分類し、それぞれの制御領域毎に、例えば、アシスト勾配Ragの上昇に応じて、トルク微分補償量Tdt*を低減させるように、位相進み補償の特性を変更する。
【0053】
具体的には、システム安定化ゲイン演算部83は、車速値V及びアシスト勾配Ragと、システム安定化ゲインKsgとの関係を定めた位相進み補償マップMB1,MB2を備えており、車速値V及びアシスト勾配Ragを入力とし、システム安定化ゲインKsgをマップ演算する。システム安定化ゲイン演算部83は、状態FLGに基づいて、位相進み補償の特性が変化するように位相進み補償マップMB1,MB2を切り替えて用いるように構成されている。
【0054】
各位相進み補償マップMB1,MB2には、例えば、トルク微分補償量Tdt*を低減させる傾向の過程がそれぞれに異なる位相進み補償の特性となるように、車速値V及びアシスト勾配Ragと、システム安定化ゲインKsgとの関係が示されている。位相進み補償マップMB1は、比ストロークCfの状況が比ストロークCf1の特性又は比ストロークCf1に準じた特性の場合におけるモータ31の制御特性を考慮して、ステアリングホイール11の動作を所望の特性となるように適合させた、図中、「低比スト用」と示した低い比ストローク用のマップである。位相進み補償マップMB2は、比ストロークCfの状況が比ストロークCf2の特性又は比ストロークCf2に準じた特性の場合におけるモータ31の制御特性を考慮して、ステアリングホイール11の動作を所望の特性となるように適合させた、図中、「高比スト用」と示した高い比ストローク用のマップである。
【0055】
そして、システム安定化ゲイン演算部83は、状態FLG1が入力される場合に、比ストロークCfの状況が比ストロークCf1の特性又は比ストロークCf1に準じた特性であることを判断し、低い比ストローク用の位相進み補償マップMB1を用いてシステム安定化ゲインKsgを演算する。また、システム安定化ゲイン演算部83は、状態FLG2が入力される場合に、比ストロークCfの状況が比ストロークCf2の特性又は比ストロークCf2に準じた特性であることを判断し、高い比ストローク用の位相進み補償マップMB2を用いてシステム安定化ゲインKsgを演算する。本実施形態では、状態FLGに応じたシステム安定化ゲインKsgの特性の変更を通じて、状態FLGに応じてトルク微分補償量Tdt*を変更する。こうして得られたシステム安定化ゲインKsgは、位相進み補償成分演算部84に出力される。
【0056】
位相進み補償成分演算部84には、トルク微分基礎補償量εdt及びシステム安定化ゲインKsgが入力される。位相進み補償成分演算部84は、トルク微分基礎補償量εdt及びシステム安定化ゲインKsgに基づいて、トルク微分補償量Tdt*を演算する。この場合、位相進み補償成分演算部84は、トルク微分基礎補償量εdtに対してシステム安定化ゲインKsgを乗算する等の所定の演算を通じてトルク微分補償量Tdt*を演算する。こうして得られたトルク微分補償量Tdt*は、基本制御量Tas*に加算されて加算器64を通じて得られるトルク指令値Ta*として電流指令値演算部56に出力される。これにより、本実施形態では、基本制御量Tas*に対して、補償後操舵トルクTh´及びトルク微分補償量Tdt*を反映させることでトルク指令値Ta*を得る。なお、基本制御量Tas*には、補償後操舵トルクTh´及びトルク微分補償量Tdt*の他、戻り補償量や、ヒステリシス補償量や、ダンピング補償量や、慣性補償量も合わせて加算等されて反映される。
【0057】
以下、本実施形態の作用を説明する。
本実施形態において、比ストロークCfの異なる領域間では、第2のラックアンドピニオン機構22を構成する減速機構32の減速比が一定のなかでラックシャフト16のストローク量RSの変化量が大小異なることに起因して、モータ31と、上記バリアブルギヤレシオ型の第1のラックアンドピニオン機構21により接続される部材との間での総合的な減速比が異なる。
【0058】
これに対して、本実施形態によれば、補償後操舵トルクTh´及びトルク微分補償量Tdt*については、転舵輪18の転舵時の比ストロークCfの大きさに応じた補償量となるように変更されることになる。
【0059】
具体的には、図6に示すように、ストローク量RSの絶対値が閾値RSth以下の間において、各補償量演算部65,66は低い比ストローク用の各補償マップMA1,MB1を用いるように設定されている。ストローク量RSの絶対値が閾値RSth以下の間は、ストローク量RSの絶対値が第1の操舵角θs1に対応する第1のストローク量RS1以下である転舵中立位置近傍の領域A´を含む。また、ストローク量RSの絶対値が閾値RSth以下の間は、領域A´に加えて、ストローク量RSの絶対値がストローク量RS1よりも大きい、且つ、第2の操舵角θs2に対応する第2のストローク量RS2以下の領域B´のうち領域A´側の略半分の領域を含む。そして、領域A´は、比ストロークCfの状況が比ストロークCf1の特性を示す領域である。領域B´のうち領域A´側の略半分の領域は、比ストロークCf1に準じた特性を示す領域である。これは、操舵角θsの絶対値が第1の操舵角θs1以下である領域Aと、第1の操舵角θs1よりも大きい、且つ、第2の操舵角θs2以下の領域Bのうち領域A側の略半分の領域とに対応する。
【0060】
また、ストローク量RSの絶対値が閾値RSthよりも大きい間において、各補償量演算部65,66は高い比ストローク用の各補償マップMA2,MB2を用いるように設定されている。ストローク量RSの絶対値が閾値RSthよりも大きい間は、ストローク量RSの絶対値が第2の操舵角θs2に対応する第2のストローク量RS2よりも大きい領域C´を含む。また、ストローク量RSの絶対値が閾値RSthよりも大きい間は、領域C´に加えて、ストローク量RSの絶対値がストローク量RS1よりも大きい、且つ、第2のストローク量RS2以下の領域B´のうち領域C´側の略半分の領域を含む。そして、領域C´は、比ストロークCfの状況が比ストロークCf2の特性を示す領域である。領域B´のうち領域C´側の略半分の領域は、比ストロークCf2に準じた特性を示す領域である。これは、操舵角θsの絶対値が第2の操舵角θs2よりも大きい領域Aと、第1の操舵角θs1よりも大きい、且つ、第2の操舵角θs2以下の領域Bのうち領域C側の略半分の領域とに対応する。なお、ストローク量RSの絶対値が第3のストローク量RS3は、第3の操舵角θs3に対応する。
【0061】
この場合、比ストロークCfの異なる領域間で、モータ31と、上記バリアブルギヤレシオ型の第1のラックアンドピニオン機構21により接続される部材との間での総合的な減速比が異なることに起因してモータ31の制御特性が異なることを考慮してステアリングホイール11の動作が所望の特性を示すように、状況に応じて補償後操舵トルクTh´及びトルク微分補償量Tdt*を変更することができる。
【0062】
以下、本実施形態の効果を説明する。
(1)本実施形態では、補償後操舵トルクTh´及びトルク微分補償量Tdt*によりステアリングホイール11の動作を補償するなかで、比ストロークの領域毎にその時のモータ31の制御特性を考慮してステアリングの動作が所望の特性を示すように適正化することができるようになる。したがって、比ストロークの領域全体を考慮してステアリングの動作を適正化することができる。
【0063】
(2)本実施形態において、位相遅れ補償量演算部65は、操舵装置10で発生する振動を抑制して操舵装置10の動作を安定化させる機能を有する。また、位相進み補償量演算部66は、操舵装置10の動作の応答遅れを改善させる機能を有する。操舵装置10の動作の安定化と応答遅れの改善とは、互いにトレードオフの関係にある。つまり、操舵装置10の動作の安定化と応答遅れの改善とを纏めて変更できる構成とすることで、ステアリングホイール11の動作が所望の特性を示すように適正化を図る場合には特に効果的である。
【0064】
(3)本実施形態では、比ストロークCf1と比ストロークCf2との間を線形状に繋ぐ変化領域に対応するストローク量RSの領域B´で補償後操舵トルクTh´及びトルク微分補償量Tdt*を変更するようにしている。この場合、比ストロークCfが変化領域では、所望の特性に応じて各比ストロークCf1,Cf2の特性の反映具合を調整することができる。つまり、ステアリングホイール11の動作の所望の特性について、調整の幅を広げることができる。
【0065】
(4)本実施形態では、比ストロークCf1と比ストロークCf2との間を線形状に繋ぐ変化領域に対応するストローク量RSの領域B´、すなわち操舵角θsの領域Bの中央値で補償後操舵トルクTh´及びトルク微分補償量Tdt*を変更するようにしている。この場合、各比ストロークCf1,Cf2のどちらの特性も適度に反映させることができる。
【0066】
(5)本実施形態によれば、所謂、メカバリアブルを用いた操舵装置10において、比ストロークCfの領域全体を考慮してステアリングの動作を適正化することができる。
(第2実施形態)
次に、操舵制御装置の第2実施形態について説明する。なお、既に説明した実施形態と同一構成等は、同一の符号を付す等して、その重複する説明を省略する。
【0067】
本実施形態では、補償量演算部63の機能として、状態FLGに基づいて、補償後操舵トルクTh´及びトルク微分補償量Tdt*の他、戻り補償量、ヒステリシス補償量、ダンピング補償量、慣性補償量についても変更する機能を付加するようにしている。
【0068】
図7に示すように、本実施形態の補償量演算部63は、各種補償量演算部67を有している。各種補償量演算部67には、操舵トルクTh、車速値V、操舵角θs、及び状態FLGが入力される。各種補償量演算部67は、操舵トルクTh、車速値V、及び操舵角θsと、当該操舵角θsを微分して得られる操舵速度ωsとに基づいて、戻り補償量を演算する。また、各種補償量演算部67は、車速値Vと、操舵角θsとに基づいて、ヒステリシス補償量を演算する。また、各種補償量演算部67は、車速値Vと、操舵速度ωsとに基づいて、ダンピング補償量を演算する。また、各種補償量演算部67は、車速値Vと、操舵速度ωsを微分して得られる操舵加速度αsとに基づいて、慣性補償量を演算する。こうして得られた戻り補償量、ヒステリシス補償量、ダンピング補償量、慣性補償量を加算して得られる各種補償量Tc*は、基本制御量Tas*とトルク微分補償量Tdt*とが加算されたものに加算されて加算器68を通じて得られるトルク指令値Ta*として電流指令値演算部56に出力される。
【0069】
そして、各種補償量演算部67は、状態FLG1が入力される場合に、比ストロークCfの状況が比ストロークCf1の特性又は比ストロークCf1に準じた特性であることを判断し、低い比ストローク用のマップを用いたりゲインを乗算したりする等の演算手法で戻り補償量、ヒステリシス補償量、ダンピング補償量、慣性補償量を演算する。また、各種補償量演算部67は、状態FLG2が入力される場合に、比ストロークCfの状況が比ストロークCf2の特性又は比ストロークCf2に準じた特性であることを判断し、高い比ストローク用のマップを用いたりゲインを乗算したりする等の演算手法で戻り補償量、ヒステリシス補償量、ダンピング補償量、慣性補償量を演算する。
【0070】
これにより、本実施形態では、戻り補償量、ヒステリシス補償量、ダンピング補償量、慣性補償量によりステアリングホイール11の動作を補償するなかで、比ストロークの領域毎にその時のモータ31の制御特性を考慮してステアリングの動作が所望の特性を示すように適正化することができるようになる。つまり、本実施形態では、上記第1実施形態と同様の作用及び効果を奏する。
【0071】
上記各実施形態は次のように変更してもよい。また、以下の他の実施形態は、技術的に矛盾しない範囲において、互いに組み合わせることができる。
・上記第1実施形態において、位相遅れ補償量演算部65は、補償後操舵トルクTh´を演算する際、操舵トルクTh、アシスト勾配Rag、及び状態FLGを少なくとも用いていればよく、車速値Vを用いなくてもよいし、他の要素を組み合わせて用いるようにしてもよい。これは、位相進み補償量演算部66がトルク微分補償量Tdt*を演算する際についても同様である。
【0072】
・上記第1実施形態では、トルク微分基礎補償量演算部82の機能として、状態FLGに基づいて、トルク微分基礎補償量εdtを変更する機能を付加することもできる。
・上記第1実施形態では、補償量演算部63の機能として、位相遅れ補償量演算部65及び位相進み補償量演算部66の少なくとも何れかの機能を有していればよい。
【0073】
・上記第2実施形態において、各種補償量演算部67は、戻り補償量を演算する際、操舵角θs、操舵速度ωs、及び状態FLGを少なくとも用いていればよく、車速値Vや操舵トルクThを用いなくてもよいし、他の要素を組み合わせて用いるようにしてもよい。また、各種補償量演算部67は、ヒステリシス補償量を演算する際、操舵角θs及び状態FLGを少なくとも用いていればよく、車速値Vを用いなくてもよいし、操舵トルクTh等の他の要素を組み合わせて用いるようにしてもよい。また、各種補償量演算部67は、ダンピング補償量を演算する際、操舵速度ωs及び状態FLGを少なくとも用いていればよく、車速値Vを用いなくてもよいし、操舵トルクTh等の他の要素を組み合わせて用いるようにしてもよい。各種補償量演算部67は、慣性補償量を演算する際、操舵加速度αs及び状態FLGを少なくとも用いていればよく、車速値Vを用いなくてもよいし、操舵トルクTh等の他の要素を組み合わせて用いるようにしてもよい。
【0074】
・上記第2実施形態では、各種補償量演算部67の機能として、戻り補償量、ヒステリシス補償量、ダンピング補償量、慣性補償量の少なくとも何れかを演算する機能を有していればよい。
【0075】
・上記第2実施形態では、補償量演算部63の機能として、位相遅れ補償量演算部65及び位相進み補償量演算部66の機能を削除してもよい。
・上記各実施形態において、操舵角θsは、モータ31の回転角θmを積算して得られる角度を用いるようにしてもよい。この場合、操舵角θsは、回転角θmを積算して得られる角度に減速機構32の回転速度比と比ストロークCfとに基づく換算係数を乗算することで得られる。本変更例では、ステアリングセンサ43を削除することができる。
【0076】
・上記各実施形態において、モータ制御量演算部55は、ストローク量演算部61の機能の代わりに、操舵角θsに基づき状態FLGを生成する機能を有していてもよい。この場合、状態FLGを生成する際には、閾値RSthの代わりに、当該閾値RSthで定義したのと同様に定義される操舵角θsの値として閾値θsthを用いるようにすればよい。これは、図6に示した内容が、領域A´に対応した操舵角θsでの領域A、領域B´に対応した操舵角θsでの領域B、領域C´に対応した操舵角θsでの領域Cに置き換えられることを意味する。その他、状態FLGを生成する機能は、ラックシャフト16の移動量をストロークセンサ等から得られる値に基づき生成する機能であってもよい。本変形例において、回転角θmやストロークセンサ等から得られる値は、転舵輪18の転舵時の比ストロークCfの大きさを特定することができるとして操舵装置10から得られる状態変数である。
【0077】
・上記各実施形態において、閾値RSthは、比ストロークCfの変化領域である領域B´の間であれば、領域A´又は領域C´のいずれか側の値として設定することもできる。例えば、ステアリングホイール11の動作の所望の特性として、比ストロークCf1に準じた特性の反映具合を大きくしたい場合、閾値RSthは、領域B´のうち領域C´側の値として設定すればよい。一方、ステアリングホイール11の動作の所望の特性として、比ストロークCf2に準じた特性の反映具合を大きくしたい場合、閾値RSthは、領域B´のうち領域A´側の値として設定すればよい。これは、閾値RSthを閾値θsthやストロークセンサ等から得られる値に関するものに置き換えた場合も同様である。
【0078】
・上記各実施形態において、閾値RSthは、比ストロークCfを一定に維持する領域A´,C´の間の値として設定することもできる。この場合、例えば、比ストロークCfは、領域B´、すなわち領域Bを有さない構成とすることもできる。
【0079】
・上記各実施形態において、領域Aでの比ストロークCfは、領域Cでの比ストロークCfよりも大きい構成であってもよい。
・上記各実施形態において、比ストロークCfは、一定の値を維持する領域を3つ以上有する構成であってもよい。この場合、比ストロークCfは、一定の値を維持する領域を線形状に繋ぐ変化領域を2つ以上有することになる。状態FLGを生成する際に用いる閾値RSthは、変化領域毎の中央値として転舵中立位置に近い側から複数の閾値が設定される。そして、補償量演算部63は、ストローク量RSと複数の閾値との比較を通じて比ストロークの領域毎にその時のモータ31の制御特性を考慮してステアリングの動作が所望の特性を示すように補償量を変更する。したがって、本変形例では、比ストロークCfが一定の値を維持する領域を3つ以上有する構成であっても上記各実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0080】
・上記各実施形態において、操舵装置10は、ラックシャフト16のラック歯16aの諸元を一定に設定し、モータを駆動源として比ストロークCfを可変させる比ストローク可変機構を備える操舵装置として実現してもよい。
【0081】
・上記各実施形態において、基本制御量演算部62では、基本制御量Tas*を演算する際、ステアリングホイール11の動作に関わる状態変数を少なくとも用いていればよく、車速値Vを用いなくてもよいし、他の要素を組み合わせて用いるようにしてもよい。ステアリングホイール11の動作に関わる状態変数としては、上記各実施形態で例示した操舵トルクThの代わりに、操舵角θsを用いたり他の要素を用いたり、様々な運転支援機能や自動運転機能を実現する自動運転システムの指令値を用いたりしてもよい。
【0082】
・上記各実施形態において、モータ31は、ブラシ付きモータであってもよい。
・上記各実施形態において、モータ31は、例えば、ラックシャフト16の同軸上にモータ31を配置するものや、ボールねじ機構を用いたベルト式減速機を介してラックシャフト16に連結するものを採用してもよい。
【0083】
・上記各実施形態において、操舵制御装置50を構成するCPUは、コンピュータプログラムを実行する1つ以上のプロセッサ、あるいは各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する特定用途向け集積回路等の1つ以上の専用ハードウェア回路、あるいは上記プロセッサ及び上記専用ハードウェア回路の組み合わせを含む回路として実現してもよい。また、メモリには、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体によって構成してもよい。
【符号の説明】
【0084】
10…操舵装置
11…ステアリングホイール
16…ラックシャフト
18…転舵輪
21…第1のラックアンドピニオン機構
30…アクチュエータ
31…モータ
41…トルクセンサ
41a…トーションバー
50…操舵制御装置
51…制御部
55…モータ制御量演算部
61…ストローク量演算部
62…基本制御量演算部
63…補償量演算部
65…位相遅れ補償量演算部(第1の位相補償量演算部)
66…位相進み補償量演算部(第2の位相補償量演算部)
67…各種補償量演算部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7