(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-195508(P2021-195508A)
(43)【公開日】2021年12月27日
(54)【発明の名称】マスターバッチ
(51)【国際特許分類】
C08J 3/22 20060101AFI20211129BHJP
B29B 9/12 20060101ALI20211129BHJP
B29B 7/46 20060101ALI20211129BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20211129BHJP
C08K 3/08 20060101ALI20211129BHJP
【FI】
C08J3/22CES
C08J3/22CET
C08J3/22CEV
C08J3/22CFD
C08J3/22CFG
B29B9/12
B29B7/46
C08L101/00
C08K3/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2020-105320(P2020-105320)
(22)【出願日】2020年6月18日
(71)【出願人】
【識別番号】519111866
【氏名又は名称】デゾン・ジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】720005220
【氏名又は名称】布施 卓哉
(72)【発明者】
【氏名】江夏 偉鵬
(72)【発明者】
【氏名】陳 宏棟
【テーマコード(参考)】
4F070
4F201
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA13
4F070AA15
4F070AA18
4F070AA22
4F070AA47
4F070AA54
4F070AB09
4F070AC06
4F070AC36
4F070AC40
4F070AD04
4F070AE10
4F070FA03
4F070FB04
4F070FB06
4F070FB07
4F070FC05
4F201AB15
4F201AC08
4F201AR06
4F201BK02
4F201BK15
4F201BK26
4F201BL43
4J002AA011
4J002DA076
4J002FD186
(57)【要約】
【課題】熱可塑性樹脂と金属ナノ粒子を含むマスターバッチにおいて、金属として銅を用いるとともに、マスターバッチの樹脂に対して銅ナノ粒子の含有量を向上する。
【解決手段】熱可塑性樹脂TRと、銅原子を含む前駆体PRとを混合して混合組成物MCを生成し、加熱混錬することで溶融物MMを生成する。この加熱により、前駆体は銅ナノ粒子に転化する。続いて、溶融物MMをペレット状に成形することで、銅ナノ粒子NPを含むマスターバッチMBを生成する。前駆体PRの添加量が制限されないため、銅ナノ粒子NPの含有量を向上させることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1温度以上の温度において溶融する熱可塑性樹脂と、
少なくとも銅原子を含むとともに、第2温度以上の温度において銅粒子となる前駆体と、
を少なくとも含む混合組成物を、
前記第1温度以上、且つ、前記第2温度以上の温度にて混錬することで、溶融物を生成する第1ステップと、
前記第1ステップにより生成された前記溶融物をペレット状に成形することで、前記銅粒子を含む前記ペレット状のマスターバッチを生成する第2ステップと、
により製造されることを特徴とするマスターバッチ。
【請求項2】
請求項1に記載のマスターバッチにおいて、
前記混合組成物は、
前記熱可塑性樹脂の質量と、前記前駆体における前記銅原子の総質量との和を100質量部としたときに、前記銅原子の総質量の割合が、1.0質量部から20質量部となるよう調整されることを特徴とするマスターバッチ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のマスターバッチにおいて、
前記銅粒子は、
粒子径が、50nmから300nmとなるよう構成されることを特徴とするマスターバッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅粒子と熱可塑性樹脂とを含むペレット状のマスターバッチに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、金属粒子と熱可塑性樹脂とを含むペレット状のマスターバッチが知られている。このマスターバッチを用いて、樹脂成型品の製造が考えられる。この樹脂成型品に、抗菌・殺菌作用を付する目的で、金属粒子として、銀ナノ粒子が含まれるようにする技術が知られている。
【0003】
一般に、樹脂の重合の例として、カルボン酸とポリオールとのエステル化反応を用いることが知られている。特許文献1では、カルボン酸およびポリオールの混合開始から、エステル化反応が完了するまでの期間において、銀化合物溶液を添加する技術が開示されている。これにより、エステル化反応の際、ポリオールが還元剤として働き、銀化合物が銀に還元される。これにより、銀ナノ粒子と熱可塑性樹脂とを含むペレット状のマスターバッチを製造することができる。
【0004】
しかしながら、特許文献1にかかる銀化合物は、ポリオールに対して溶解し難い。そのため、銀化合物溶液を添加する量が制限される。したがって、マスターバッチの樹脂に対して、銀ナノ粒子の含有量が非常に少なくなる。このマスターバッチを用いて樹脂成型品を製造した場合、抗菌・殺菌作用が小くなる可能性がある。すなわち、マスターバッチの樹脂に対して、金属ナノ粒子の含有量の向上が望まれる。
【0005】
また、近年、米国NIOSH(国立労働安全衛生研究所)等において、「銀ナノ材料へ職業上の暴露の健康影響」の報告書が公表されている。そこで、銀ナノ粒子が肺および肝臓に悪影響を及ぼす可能性が、示唆されている。潜在的な健康リスクを低減するためにも、銀ナノ粒子の代替が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−16613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述を鑑み、本発明にかかる発明者は、抗菌・殺菌作用を奏する銅ナノ粒子に着目した。本発明の目的は、マスターバッチの樹脂に対して、銅ナノ粒子の含有量を向上することができるマスターバッチを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかるマスターバッチは、第1温度以上の温度において溶融する熱可塑性樹脂と、少なくとも銅原子を含むとともに、第2温度以上の温度において銅粒子となる前駆体と、を少なくとも含む混合組成物を、前記第1温度以上、且つ、前記第2温度以上の温度にて混錬することで、溶融物を生成する第1ステップと、前記第1ステップにより生成された前記溶融物をペレット状に成形することで、前記銅粒子を含む前記ペレット状のマスターバッチを生成する第2ステップと、により製造されることを特徴とする。
【0009】
ここにおいて、熱可塑性樹脂は、第1温度以上で溶融する樹脂であれば何れのものでもよく、限定されない。前駆体は、銅原子を含んでおり、かつ、第2温度以上で銅粒子に変換される物質であれば何れのものでもよく、限定されない。前駆体からの銅粒子への変換は、所定の化学変化に基づくものであり、熱分解や還元反応等、何れの反応であってもよい。第1温度は、第2温度よりも低くてもよいし高くてもよい。また、第1温度と第2温度が、同じ温度であってもよい。
【0010】
ここにおいて、混合生成物は、熱可塑性樹脂と、前駆体とを少なくとも含んでいればよく、それらの混合比率は任意である。溶融物は、可塑性を有していればよく、可塑性の度合いは任意である。溶融物のペレット状成形は、可塑性を有する溶融物を、所定のダイス等を介して押出し、所定のサイズにカットするとともに、冷却を経て固形化(可塑性なし)することを意味する。ペレット状の形状としては、円柱状、球状、直方体状、平板状、不定形状等、何れであってもよく、サイズも限定されない。
【0011】
本発明にかかるマスターバッチにおいて、前記混合組成物は、前記熱可塑性樹脂の質量と、前記前駆体における前記銅原子の総質量との和を100質量部としたときに、前記銅原子の総質量の割合が、1.0質量部から20質量部となるよう調整されると好適である。好ましくは、前記銅原子の総質量の割合が、10質量部から15質量部となるよう調整されてもよい。さらに好ましくは、前記銅原子の総質量の割合が、12質量部となるよう調整されるとより好適である。
【0012】
本発明にかかるマスターバッチにおいて、前記銅粒子は、粒子径が、50nmから300nmとなるよう構成されると好適である。好ましくは、前記銅粒子の粒子径が、100nmから250nmとなるよう構成されてもよい。さらに好ましくは、前記銅粒子の粒子径が、200nmとなるよう構成されるとより好適である。
【発明の効果】
【0013】
本発明にかかるマスターバッチによれば、銅ナノ粒子の前駆体が、熱可塑性樹脂と混合される。一方で、上述のエステル化反応の際に銀化合物溶液を添加する方法においては、銀化合物のポリオールへの難溶性のため、その添加量が制限されていた。これに対し、本発明においては、上記難溶性等に基づく制限が無いため、銅ナノ粒子の原料となる前駆体の添加量が制限されない。したがって、マスターバッチの樹脂に対して、銅ナノ粒子の含有量を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態におけるマスターバッチを製造するためのプロセスを説明するためのフローチャートである。
【
図2】
図1に記載の混合組成物MCを生成するプロセスを説明するための図である。
【
図3】
図1に記載の溶融物MMを生成するプロセスを説明するための図である。
【
図4】
図1に記載のマスターバッチMBを生成するプロセスを説明するための図である。
【
図5】
図4に記載のマスターバッチMBの一部を拡大した拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明にかかるマスターバッチの実施形態について説明する。
図1は、この実施形態におけるマスターバッチMBを製造するためのプロセスを説明するためのフローチャートである。このフローチャートは、ステップS0、ステップS1およびステップS2で構成され、各ステップは、1台のペレタイザ10にて連続的に実行される。
【0016】
ステップS0において、混合組成生物MCを生成する。
図2は、混合組成物MCを生成するプロセスを説明するための図である。ペレタイザ10は、ミキサ12と、ヒータ14と、ダイス16とを備える。ペレット状の熱可塑性樹脂TRと、粉末状または溶液状の前駆体PRとをミキサ12にて混合し、混合組成物MCを生成する。
【0017】
熱可塑性樹脂TRは、融点T1(第1温度に対応)を有し、温度Tが融点T1以上となるとき、熱可塑性樹脂TRが溶融する(可塑性を有する)ようになっている。熱可塑性樹脂TRとしては、ビニル系ポリマや、縮合系ポリマ等が用いられる。ビニル系ポリマとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル等が用いられ、これらに限定されない。縮合系ポリマとしては、ポリエステル、ポリアミド等が用いられ、これらに限定されない。
【0018】
前駆体PRは、銅原子を含む化合物であり、温度Tが反応温度T2(第2温度に対応)以上となるとき、銅粒子に変化するようになっている。有機銅化合物や、無機銅化合物等が用いられる。有機銅化合物としては、カルボン酸銅、ヒドロキシ酸銅、銅アルコキシド等が用いられ、これらに限定されない。無機銅化合物としては、炭酸銅、ハロゲン化銅等が用いられ、これらに限定されない。
【0019】
続くステップS1(第1ステップに対応)において、溶融物MMを生成する。
図3は、溶融物MMを生成するプロセスを説明するための図である。ステップS0にて生成された混合組成物MCを、ヒータ14にて加熱するとともにミキサ12にて混錬することで、溶融物MMを生成する。混合組成物MCに対しては、温度Tが融点T1・反応温度T2それぞれよりも高い温度となるよう、加熱が実行される。
【0020】
これにより、熱可塑性樹脂TRは混錬可能に溶融するとともに、前駆体PRは熱分解等の反応を経て銅ナノ粒子NPが残留する。混錬が継続されるうちに、銅ナノ粒子NPは溶融物MM中に良好に分散されることになる。
【0021】
続くステップS2(第2ステップに対応)において、マスターバッチMBを生成する。
図4は、マスターバッチMBを生成するプロセスを説明するための図である。ステップS1にて生成された溶融物MMを、ダイス16を介して押出し、ペレット状のマスターバッチMBを生成する。
【0022】
このステップS2では、ステップS1に続き、ステップS1時と同様のヒータ14による溶融物MMへの加熱が継続される。したがって、溶融物MMは、押出し成形するのに十分な可撓性を有する。可撓性を有する溶融物MMは、ダイス16の貫通孔から棒状となって露呈していく。その露呈部分を所定のサイズごとにカットするとともに、カット後の溶融物MMを冷却し、固形化させる。この冷却においては、温度Tが融点T1よりも低くなるよう、カット後の溶融物MMを冷却する。
【0023】
これにより、ペレット状のマスターバッチMBが生成される。なお、銅ナノ粒子NPは、ステップS1にて、溶融物MM中に良好に分散されている。したがって、銅ナノ粒子NPは、ステップS2においても、固形化後のマスターバッチMB中に良好に分散されることになる。
【0024】
図5は、上述のステップを経て生成されるマスターバッチMBの一部を拡大した拡大図である。マスターバッチMBは、連続層と、分散層とを備える。連続層は、熱可塑性樹脂TRと同じ組成の樹脂で構成される。分散層は、銅ナノ粒子NPで構成される。
【0025】
本実施形態のマスターバッチMBにおいて、混合組成物MCは、熱可塑性樹脂TRの質量と、前駆体PRにおける銅原子の総質量との和を100質量部としたときに、銅原子の総質量の割合が、1.0質量部から20質量部となるよう調整される。好ましくは、銅原子の総質量の割合が、10質量部から15質量部となるよう調整されてもよい。さらに好ましくは、銅原子の総質量の割合が、12質量部となるよう調整されるとより好適である。
【0026】
本実施形態のマスターバッチMBにおいて、銅ナノ粒子NPは、粒子径が50nmから300nmとなるよう構成される。好ましくは、銅ナノ粒子NPの粒子径が100nmから250nmとなるよう構成されてもよい。さらに好ましくは、銅ナノ粒子NPの粒子径が、200nmとなるよう構成されるとより好適である。
【0027】
以上、本発明にかかるマスターバッチの実施形態によれば、銅ナノ粒子NPの前駆体PRが、熱可塑性樹脂TRと混合される。一方で、たとえば、エステル化反応の際に銀化合物溶液を添加する方法においては、銀化合物のポリオールへの難溶性のため、その添加量が制限されていた。これに対し、本実施形態においては、上記難溶性等に基づく制限が無いため、銅ナノ粒子NPの原料となる前駆体PRの添加量が制限されない。したがって、マスターバッチMBの連続層である樹脂に対して、銅ナノ粒子NPの含有量を向上することができる。
【符号の説明】
【0028】
10 ペレタイザ
12 ミキサ
14 ヒータ
16 ダイス
TR 熱可塑性樹脂
PR 前駆体
MC 混合組成物
MM 溶融物
MB マスターバッチ
NP 銅ナノ粒子