(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-195509(P2021-195509A)
(43)【公開日】2021年12月27日
(54)【発明の名称】樹脂成形品
(51)【国際特許分類】
C08J 3/22 20060101AFI20211129BHJP
B29B 7/42 20060101ALI20211129BHJP
B29B 7/46 20060101ALI20211129BHJP
D04H 13/00 20060101ALI20211129BHJP
C08L 101/12 20060101ALI20211129BHJP
C08K 3/08 20060101ALI20211129BHJP
【FI】
C08J3/22CES
C08J3/22CET
C08J3/22CEV
C08J3/22CFD
C08J3/22CFG
B29B7/42
B29B7/46
D04H13/00
C08L101/12
C08K3/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2020-105321(P2020-105321)
(22)【出願日】2020年6月18日
(71)【出願人】
【識別番号】519111866
【氏名又は名称】デゾン・ジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】720005220
【氏名又は名称】布施 卓哉
(72)【発明者】
【氏名】江夏 偉鵬
(72)【発明者】
【氏名】陳 宏棟
【テーマコード(参考)】
4F070
4F201
4J002
4L047
【Fターム(参考)】
4F070AA13
4F070AA15
4F070AA18
4F070AA22
4F070AA47
4F070AA54
4F070AB09
4F070AC06
4F070AD04
4F070AE10
4F070FA03
4F070FB04
4F070FB06
4F070FB07
4F070FC05
4F201AB16
4F201AC08
4F201AG14
4F201AR06
4F201BA01
4F201BD05
4F201BK02
4F201BK13
4F201BK15
4F201BK25
4F201BK26
4F201BK40
4J002AA011
4J002DA076
4J002FD186
4J002GB01
4J002GC00
4J002GG01
4J002GG02
4L047AA29
4L047BA09
4L047EA05
(57)【要約】
【課題】 樹脂成形品において、銅ナノ粒子が分散した樹脂成形品を提供する。
【解決手段】混合組成物MCとして、銅ナノ粒子NPを備えたマスターバッチMBと、マスターバッチMBを構成する樹脂と同組成の熱可塑性樹脂TRとが混合される。その混合組成物MCが溶融・混錬されて、銅ナノ粒子NPが分散された溶融物MMが生成される。この溶融物MMが、メルトブローン成形されて繊維FBから成る不織布NFが生成される。この結果、繊維FB(すなわち不織布NF)に、銅ナノ粒子NPが分散され得る。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1温度以上の温度において溶融する熱可塑性樹脂と、銅粒子とを備えたペレット状のマスターバッチと、
前記熱可塑性樹脂と同組成の樹脂と、
を少なくとも含む混合組成物を、
前記第1温度以上の温度にて混錬することで、溶融物を生成する第1ステップと、
前記第1ステップにより生成された前記溶融物を所定形状に成形することで、前記所定形状の樹脂成形品を生成する第2ステップと、
により製造されることを特徴とする樹脂成形品。
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂成形品において、
前記第2ステップは、前記所定形状の成形として、
ノズルを介して前記溶融物を風中に向けて押出し、
前記押出しされた前記溶融物を前記風中で繊維にすると同時に、前記繊維を絡ませて不織布形状に成形するステップであることを特徴とする樹脂成形品。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の樹脂成形品において、
前記マスターバッチは、
前記熱可塑性樹脂の質量と、前記銅粒子の総質量との和を100質量部としたときに、前記銅粒子の総質量の割合が、1.0質量部から20質量部となるよう調整されることを特徴とする樹脂成形品。
【請求項4】
請求項3に記載の樹脂成形品において、
前記混合組成物は、
前記同組成の樹脂の質量と、前記マスターバッチの質量との和を100質量部としたときに、前記マスターバッチの質量の割合が、1.0質量部から20質量部となるよう調整されることを特徴とする樹脂成形品。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載の樹脂成形品において、
前記マスターバッチは、
前記銅粒子の粒子径が、50nmから300nmとなるよう構成されることを特徴とする樹脂成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ポリエステル等を使用した繊維状の樹脂成形品が知られている。また、この繊維状の樹脂成形品に、金属部材を積層させる技術が知られている。特許文献1では、繊維状の樹脂成形品に、抗菌・殺菌作用を付する目的として、銀、銅等を用いた金属多孔体を積層する技術が、開示されている。具体的には、繊維状の樹脂成形品の層と、金属多孔体の層とを接着することで、積層体が形成されるようになっている。
【0003】
このようにして形成された積層体は、マスク等に使用されると考えられる。この場合、積層体においては、繊維状の樹脂成形品が、マスクのフィルタ作用を奏する。他方、積層体の金属多孔体が、抗菌・殺菌作用を奏する。このようにして、抗菌・殺菌作用を付与することができる。
【0004】
しかしながら、この金属多孔体は、繊維状の樹脂成形品の層表面を覆うことになる。このため、積層体を介して気体が通過する際、金属多孔体が通気抵抗の要因となる。したがって、マスク等の通気性が低下する可能性がある。更に、繊維状の樹脂成形品と、金属多孔体の層との接着に、接着剤等が用いられる場合には、各層の間に接着剤の層が形成される。この場合、マスク等の通気性がさらに低下する可能性がある。
【0005】
上述の問題に関して、たとえば、樹脂成形品に対して金属粒子を分散させる技術が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020−15216号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述を鑑み、本発明にかかる発明者は、抗菌・殺菌作用を奏する銅粒子に着目した。本発明の目的は、樹脂成形品において、銅粒子が分散した樹脂成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかる樹脂成形品は、第1温度以上の温度において溶融する熱可塑性樹脂と銅粒子とを備えたペレット状のマスターバッチと、前記熱可塑性樹脂と同組成の樹脂と、を少なくとも含む混合組成物を、前記第1温度以上の温度にて混錬することで、溶融物を生成する第1ステップと、前記第1ステップにより生成された前記溶融物を所定形状に成形することで、前記所定形状の樹脂成形品を生成する第2ステップと、により製造されることを特徴とする。
【0009】
ここにおいて、マスターバッチの熱可塑性樹脂は、第1温度以上で溶融する樹脂であれば何れのものでもよく、限定されない。マスターバッチの銅粒子は、形状・サイズともに限定されず、熱可塑性樹脂との混合比率は任意である。マスターバッチにおけるペレット状の形状としては、円柱状、球状、直方体状、平板状、不定形状等、何れであってもよく、サイズも限定されない。混合生成物は、マスターバッチと、(マスターバッチを構成する)熱可塑性樹脂と同組成の樹脂とを少なくとも含んでいればよく、それらの混合比率は任意である。この同組成の樹脂は、第1温度以上で溶融する樹脂である。
【0010】
ここにおいて、溶融物は、可塑性を有していればよく、可塑性の度合いは任意である。所定形状としては、板状、棒状、パイプ状、シート状(たとえば、フェイスシールドに適用可能)、ボトル状(たとえば、飲料用ボトルに適用可能)等、何れであってもよく、サイズも限定されない。所定形状への成形としては、射出成形、押出成形、圧縮成形、発泡成形等、何れの形態であってもよく限定されない。成形においては、上記の形態において、冷却を経て固形化(可塑性なし)することで樹脂成形品が生成される。
【0011】
本発明にかかる樹脂成形品において、前記第2ステップは、前記所定形状の成形として、
ノズルを介して前記溶融物を風中に向けて押出し、前記押出しされた前記溶融物を前記風中で繊維にすると同時に、前記繊維を絡ませて不織布形状に成形するステップであってもよい。
【0012】
ここにおいて、繊維の長さ・径、および、不織布形状の目付量・空隙率は、溶融物の成形時の調整により、任意に調整され得る。
【0013】
本発明にかかる樹脂成形品において、前記マスターバッチは、前記熱可塑性樹脂の質量と、前記銅粒子の総質量との和を100質量部としたときに、前記銅粒子の総質量の割合が、1.0質量部から20質量部となるよう調整されると好適である。好ましくは、前記銅粒子の総質量の割合が、10質量部から15質量部となるよう調整されてもよい。さらに好ましくは、前記銅粒子の総質量の割合が、12質量部となるよう調整されるとより好適である。
【0014】
本発明にかかる樹脂成形品において、前記混合組成物は、前記同組成の樹脂の質量と、前記マスターバッチの質量との和を100質量部としたときに、前記マスターバッチの質量の割合が、1.0質量部から20質量部となるよう調整されると好適である。好ましくは、前記マスターバッチの質量の割合が、5.0質量部から10質量部となるよう調整されてもよい。さらに好ましくは、前記マスターバッチの質量の割合が、6.0質量部から7.0質量部となるよう調整されるとより好適である。
【0015】
本発明にかかる樹脂成形品において、前記銅粒子は、粒子径が、50nmから300nmとなるよう構成されると好適である。好ましくは、前記銅粒子の粒子径が、100nmから250nmとなるよう構成されてもよい。さらに好ましくは、前記銅粒子の粒子径が、200nmとなるよう構成されるとより好適である。
【発明の効果】
【0016】
本発明にかかる樹脂成形品によれば、混合組成物として、銅粒子を備えたマスターバッチと、マスターバッチを構成する熱可塑性樹脂と銅組成の樹脂とが混合される。その混合組成物が溶融・混錬されて、溶融物が生成される。このため、もともとマスターバッチに含まれていた銅粒子は、溶融物中に良好に分散することができる。銅粒子が分散した溶融物が、成形されて樹脂成形品が生成される。この結果、樹脂成形品に、銅粒子が分散され得る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施形態における樹脂成形品としての不織布NFを製造するためのプロセスを説明するためのフローチャートである。
【
図2】
図1に記載の混合組成物MCを生成するプロセスを説明するための図である。
【
図3】
図2に記載のマスターバッチMBの一部を拡大した拡大図である。
【
図4】
図1に記載の溶融物MMを生成するプロセスを説明するための図である。
【
図5】
図1に記載の不織布NFを生成するプロセスを説明するための図である。
【
図6】
図5に記載の不織布NFにおける繊維FBの一部を拡大した拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明にかかる樹脂成形品の実施形態について説明する。
図1は、この実施形態における樹脂成形品としての不織布NFを製造するためのプロセスを説明するためのフローチャートである。このフローチャートは、ステップS0、ステップS1およびステップS2で構成され、各ステップは、1台の不織布製造装置10にて連続的に実行される。
【0019】
ステップS0において、混合組成生物MCを生成する。
図2は、混合組成物MCを生成するプロセスを説明するための図である。不織布製造装置10は、ミキサ12と、ヒータ14と、ダイス16と、紡糸部18とを備える。ペレット状の熱可塑性樹脂TRと、ペレット状のマスターバッチMBとをミキサ12にて混合し、混合組成物MCを生成する。
【0020】
熱可塑性樹脂TRは、融点T1(第1温度に対応)を有し、温度Tが融点T1以上となるとき、熱可塑性樹脂TRが溶融する(可塑性を有する)ようになっている。熱可塑性樹脂TRとしては、ビニル系ポリマや、縮合系ポリマ等が用いられる。ビニル系ポリマとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル等が用いられ、これらに限定されない。縮合系ポリマとしては、ポリエステル、ポリアミド等が用いられ、これらに限定されない。
【0021】
図3は、マスターバッチMBの一部を拡大した拡大図である。マスターバッチMBは、連続層と、分散層とを備える。連続層は、熱可塑性樹脂TRと同じ組成の熱可塑性樹脂TR’で構成される。分散層は、銅ナノ粒子NPで構成される。したがって、温度Tが融点T1以上となるとき、マスターバッチMBの熱可塑性樹脂TR’の部分のみ溶融する。他方で、銅ナノ粒子NPは、温度Tが融点T1よりも高い銅の融点に到達するまでは、溶融することはない。したがって、この場合、熱可塑性樹脂TR’が溶融する場合であっても、銅ナノ粒子NPにおいては、当初のサイズ・形状が維持されることになる。
【0022】
このマスターバッチMBは、連続層としての熱可塑性樹脂TR’の質量と、銅ナノ粒子NPの総質量との和を100質量部としたときに、銅ナノ粒子NPの総質量の割合が、1.0質量部から20質量部となるよう調整される。好ましくは、銅ナノ粒子NPの総質量の割合が、10質量部から15質量部となるよう調整されてもよい。さらに好ましくは、銅ナノ粒子NPの総質量の割合が、12質量部となるよう調整されるとより好適である。
【0023】
このマスターバッチMBにおいて、銅ナノ粒子NPは、粒子径が50nmから300nmとなるよう構成される。好ましくは、銅ナノ粒子NPの粒子径が100nmから250nmとなるよう構成されてもよい。さらに好ましくは、銅ナノ粒子NPの粒子径が、200nmとなるよう構成されるとより好適である。
【0024】
この混合組成物MCは、熱可塑性樹脂TRの質量と、マスターバッチMBの質量との和を100質量部としたときに、マスターバッチMBの質量の割合が、1.0質量部から20質量部となるよう調整される。好ましくは、マスターバッチMBの質量の割合が、5.0質量部から10質量部となるよう調整されてもよい。さらに好ましくは、マスターバッチMBの質量の割合が、6.0質量部から7.0質量部となるよう調整されるとより好適である。
【0025】
続くステップS1(第1ステップに対応)において、溶融物MMを生成する。
図4は、溶融物MMを生成するプロセスを説明するための図である。ステップS0にて生成された混合組成物MCを、ヒータ14にて加熱するとともにミキサ12にて混錬することで、溶融物MMを生成する。混合組成物MCに対しては、温度Tが融点T1よりも高い温度であって、銅の融点よりも低い温度となるよう、加熱が実行される。
【0026】
これにより、熱可塑性樹脂TRおよびマスターバッチMBの熱可塑性樹脂TR’は、混錬可能に溶融する。混錬が継続されるうちに、銅ナノ粒子NPは溶融物MM中に良好に分散されることになる。
【0027】
続くステップS2(第2ステップに対応)において、不織布NFを生成する。
図5は、不織布NFを生成するプロセスを説明するための図である。このステップS2では、ステップS1に続き、ステップS1時と同様のヒータ14による溶融物MMへの加熱が継続される。したがって、溶融物MMは、押出し成形するのに十分な可撓性を有する。
【0028】
ステップS1にて生成された溶融物MMは、ダイス16が備えるノズル部16aを介して、紡糸部18に向けて押し出される。紡糸部18は、ノズル部16aの周囲から高温エアが噴き出すよう構成され、熱風18aが一方向に流通するようになっている。熱風18aの流通経路における末端位置には、コンベヤ18bが配設されている。このように、不織布製造装置10は、いわゆるメルトブローン成形が可能なように構成されている。
【0029】
これにより、ノズル部16aから熱風18a中に向けて押出される溶融物MMは、熱風18aにより引き伸ばされて繊維FBとなる。これと同時に、この繊維FBは、熱風18aによりコンベヤ18bに向けて吹き付けられ、絡まりながら不織布状に成形される。次いで、繊維FBを冷却し固形化させる。不織布状に成形された繊維FBは、一般的なロールによる押し付けを経て、均一な厚みをもった不織布NFが生成される。
【0030】
ここにおいて、繊維FBの長さ・径は、溶融物MMのノズル部16aでの押出し速度と、熱風18aの流速とに基づいて、調整することができる。不織布NFの目付量・空隙率は、上記調整される繊維FBの長さ・径と、コンベヤ18bの搬送速度とに基づいて、調整することができる。
【0031】
なお、銅ナノ粒子NPは、ステップS1にて、溶融物MM中に良好に分散されている。したがって、銅ナノ粒子NPは、ステップS2においても、固形化後の繊維FBおよび不織布NF中に、良好に分散されることになる。
【0032】
図6は、上述のステップを経て生成される不織布NFにおける繊維FBの一部を拡大した拡大図である。繊維FBは、連続層と、分散層とを備える。連続層は、熱可塑性樹脂TRおよびTR’で構成される。分散層は、銅ナノ粒子NPで構成される。マスターバッチMBに比して、繊維FBの連続層は、熱可塑性樹脂TRが追加される分だけ増加する。また、繊維FBの分散層において、連続層の増加に応じて、銅ナノ粒子NPの含有率が希釈される。他方、銅ナノ粒子NPのサイズ・形状は、マスターバッチMBにおけるものと同じとなる。
【0033】
以上、本発明にかかる樹脂成形品の実施形態によれば、混合組成物MCとして、銅ナノ粒子NPを備えたマスターバッチMBと、マスターバッチMBを構成する熱可塑性樹脂TR’と同組成の熱可塑性樹脂TRとが混合される。その混合組成物MCが溶融・混錬されて、溶融物MMが生成される。このため、もともとマスターバッチMBに含まれていた銅ナノ粒子NPは、溶融物MM中に良好に分散することができる。銅ナノ粒子NPが分散した溶融物MMが、メルトブローン成形されて繊維FBから成る不織布NFが生成される。この結果、繊維FB(すなわち不織布NF)に、銅ナノ粒子NPが分散され得る。
【0034】
本発明にかかる樹脂成形品の実施形態としての不織布NFは、マスクや防護服等の素材として適用可能である。この不織布NFが適用されることで、通気性を悪化させることなく、マスクや防護服等に抗菌・殺菌作用を付与することができる。
【0035】
上記実施形態の不織布NFに対し、JIS1902(ISO20743に基づく)「繊維製品の抗菌性試験方法及び抗菌効果」のプロセスにて、その抗菌・殺菌効果を確認することができる。JIS1902において、抗菌活性値Aは、下記(1)式に基づいて算出される。一般に、抗菌活性値Aが「3」以上であるとき、抗菌効果が非常に大きいと判定される。抗菌活性値Aが「3」未満であって「2」以上であるとき、抗菌効果があると判定される。抗菌活性値Aが「2」未満であるとき、抗菌効果がないと判定される。
A=(lоg(Ct)−lоg(C0))−(lоg(Tt)−lоg(T0)) ・・・(1)式
【0036】
上記(1)式において、Ctは、所定時間培養後の対象試料3個の生菌数の算術平均値、C0は、接種直後の対象試料3個の生菌数の算術平均値をそれぞれ表している。Ttは、所定時間培養後の試験試料3個の生菌数の算術平均値、T0は、接種直後の試験試料3個の生菌数の算術平均値をそれぞれ表している。以下、上記実施形態の不織布NFの抗菌・殺菌作用の試験結果について説明する。
【0037】
上記JIS1902の「Tt・T0」における「試験試料」としては、上記実施形態の不織布NFのテストピースを用意した。「Ct・C0」における「対象試料」としては、同テストピースの繊維長・繊維径・目付量・空隙率・サイズが、「試験試料」のものと同一であって、銅ナノ粒子を含んでいない、熱可塑性樹脂TRのみから成る不織布状のテストピースを用意した。
【0038】
上記実施形態の不織布NFに対し、2種類の試験を実施した。第1の試験により、同種類の菌に対し、菌が対象試料および試験試料に接種した時点からの時間(すなわち培養時間)と、抗菌活性値Aとの関係を取得した。第2の試験により、上記時間を同一とした場合の、複数種類の菌と、抗菌活性値Aとの関係を取得した。
【0039】
上記第1の試験では、接種させる菌として、肺炎桿菌(ATCC 4352、接種菌濃度:2.69×10の5乗 CFU/mL)を用いた。培養時間は、2hrおよび4hrである。上記培養時間が「2hr」の場合、C0・Ct・T0・Ttの値は、それぞれ下記のとおりとなった。これらの値と、上記(1)式とに基づき、抗菌活性値Aは、「0.65」に決定される。
【0040】
培養時間:2hr
C0:5.33×10の4乗 CFU
Ct:5.49×10の4乗 CFU
T0:5.30×10の4乗 CFU
Tt:1.19×10の4乗 CFU
A :0.65
【0041】
他方、上記培養時間が「4hr」の場合、C0・Ct・T0・Ttの値は、それぞれ下記のとおりとなった。これらの値と、上記(1)式とに基づき、抗菌活性値Aは、「4.98」以上に決定される。
【0042】
培養時間:4hr
C0:5.30×10の4乗 CFU
Ct:1.91×10の4乗 CFU
T0:5.27×10の4乗 CFU
Tt:20 CFU 以下
A :4.98 以上
【0043】
このように、第1の試験によれば、上記培養時間が「2hr」および「4hr」において、それぞれ抗菌活性値Aが「0.65」および「4.98」以上となった。したがって、本実施形態の不織布NFでは、菌の接触直後から2hr経過後には、抗菌効果がないと判定される一方で、4hr経過後、抗菌効果が非常に大きくなると判定される。この経時変化の傾向は、一般的な金属銅そのものの抗菌効果に類似している。以上より、本発明にかかる樹脂成形品の実施形態としての不織布NFは、銅ナノ粒子NPにより、抗菌・殺菌作用を発現させることができる。
【0044】
上記第2の試験では、培養時間を18hr以上に設定した。接種させる菌類として、下記4種類の菌類を用いた。これら以外の条件は、上記第1の試験と同一である。
【0045】
1.肺炎桿菌(ATCC 4352、接種菌濃度:1.45×10の5乗 CFU/mL)
2.黄色ブドウ球菌(ATCC 6538、接種菌濃度:1.95×10の5乗 CFU/mL)
3.大腸菌(ATCC 8739、接種菌濃度:1.65×10の5乗 CFU/mL)
4.メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(ATCC 33591、接種菌濃度:2.35×10の5乗 CFU/mL)
【0046】
上記菌類が「1.肺炎桿菌」の場合、C0・Ct・T0・Ttの値は、それぞれ下記のとおりとなった。これらの値と、上記(1)式とに基づき、抗菌活性値Aは、「5.57」以上に決定される。
【0047】
菌類:肺炎桿菌
C0:2.60×10の4乗 CFU
Ct:7.50×10の6乗 CFU
T0:2.52×10の4乗 CFU
Tt:20 CFU 以下
A :5.57 以上
【0048】
上記菌類が「2.黄色ブドウ球菌」の場合、C0・Ct・T0・Ttの値は、それぞれ下記のとおりとなった。これらの値と、上記(1)式とに基づき、抗菌活性値Aは、「5.86」以上に決定される。
【0049】
菌類:黄色ブドウ球菌
C0:3.40×10の4乗 CFU
Ct:1.47×10の7乗 CFU
T0:3.30×10の4乗 CFU
Tt:20 CFU 以下
A :5.86 以上
【0050】
上記菌類が「3.大腸菌」の場合、C0・Ct・T0・Ttの値は、それぞれ下記のとおりとなった。これらの値と、上記(1)式とに基づき、抗菌活性値Aは、「5.21」以上に決定される。
【0051】
菌類:大腸菌
C0:2.90×10の4乗 CFU
Ct:3.30×10の6乗 CFU
T0:2.85×10の4乗 CFU
Tt:20 CFU 以下
A :5.21 以上
【0052】
上記菌類が「4.メチシリン耐性黄色ブドウ球菌」の場合、C0・Ct・T0・Ttの値は、それぞれ下記のとおりとなった。これらの値と、上記(1)式とに基づき、抗菌活性値Aは、「5.33」以上に決定される。
【0053】
菌類: メチシリン耐性黄色ブドウ球菌
C0:3.90×10の4乗 CFU
Ct:4.39×10の6乗 CFU
T0:3.79×10の4乗 CFU
Tt:20 CFU 以下
A :5.33 以上
【0054】
このように、第2の試験によれば、菌類が「肺炎桿菌」、「黄色ブドウ球菌」、「大腸菌」および「メチシリン耐性黄色ブドウ球菌」である場合において、それぞれ抗菌活性値Aが「5.57」以上、「5.86」以上、「5.21」以上および「5.33」以上となった。したがって、本実施形態の不織布NFでは、いずれの菌類に対しても、抗菌効果が非常に大きいと判定される。以上より、本発明にかかる樹脂成形品の実施形態としての不織布NFは、複数種類の菌類に対しても、抗菌・殺菌作用を発現させることができる。
【0055】
また、本発明にかかる樹脂成形品の実施形態においては、繊維FB状の不織布NFが生成されるよう構成されているが、これに代えて、たとえば、シート状の樹脂成形品が生成されてもよい。この場合、フェースシールド等に適用可能である。また、これに代えて、たとえば、ボトル状の樹脂成形品が生成されてもよい。この場合、飲料用ボトル等に適用可能である。このように、シート状やボトル状の樹脂成形品が適用されることで、フェースシールドや飲料用ボトル等に抗菌・殺菌作用を付与することができる。
【符号の説明】
【0056】
10 不織布製造装置
12 ミキサ
14 ヒータ
16 ダイス
16a ノズル部
18 紡糸部
18a 熱風
18b コンベヤ
TR 熱可塑性樹脂
TR’ 熱可塑性樹脂
MB マスターバッチ
NP 銅ナノ粒子
MC 混合組成物
MM 溶融物
FB 繊維
NF 不織布