【解決手段】 1〜6価のアルコール(a)にアルキレンオキサイド(炭素数2〜4)を付加した構造を有するポリエーテル(A)を含有してなり、前記ポリエーテル(A)が、下記の要件(1)〜(2)をいずれも満たす金属加工油用基油(X)。
1〜6価のアルコール(a)にアルキレンオキサイド(炭素数2〜4)を付加した構造を有するポリエーテル(A)を含有してなり、前記ポリエーテル(A)が、下記の要件(1)〜(2)をいずれも満たす金属加工油用基油(X)。
要件(1):数平均分子量(Mn)が6,000〜100,000
要件(2):炭素−炭素末端二重結合基含有不飽和成分量(TU値)が0.025meq/g以下[ただし、(a)が有するTU値を除く]
前記ポリエーテル(A)を構成するアルキレンオキサイド単位の合計重量に基づいて、エチレンオキサイド単位の合計重量が、10〜80重量%である請求項1記載の金属加工油用基油。
【発明を実施するための形態】
【0007】
<1〜6価アルコール(a)>
本発明における1〜6価アルコール(a)としては、1価アルコール(a1)、2価アルコール(a2)、3価アルコール(a3)、4価アルコール(a4)、5価アルコール(a5)、6価アルコール(a6)が挙げられる。
上記1〜6価アルコール(a)のうち、金属への吸着性および濡れ性の観点から、好ましいのは(a1)、(a2)、(a3)、さらに好ましいのは(a2)、(a3)、とくに好ましいのは(a3)である。
【0008】
1価アルコール(a1)としては、炭素数1〜22(好ましくは1〜18)の1価アルコールが挙げられ、具体的には、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、t−ブチルアルコール、n−ペンチルアルコール、イソペンチルアルコール、ネオペンチルアルコール、t−ペンチルアルコール、n−ヘキシルアルコール、イソヘキシルアルコール、n−ヘプチルアルコール、イソヘプチルアルコール、n−オクチルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、n−ノニルアルコール、イソノニルアルコール、n−デシルアルコール、イソデシルアルコール、n−ウンデシルアルコール、イソウンデシルアルコール、n−ドデシルアルコール、イソドデシルアルコール、n−トリデシルアルコール、イソトリデシルアルコール、n−テトラデシルアルコール、イソテトラデシルアルコール、n−ヘキサデシルアルコール、n−オクタデシルアルコール、n−イコシルアルコール及びn−ドコシルアルコール等が挙げられる。
【0009】
2価アルコール(a2)としては、炭素数2〜22(好ましくは2〜18)の2価アルコールが挙げられ、具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ピナコール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、3,3−ジメチル−1,2−ブタンジオール、2−エチル−2−メチル−1,2−プロパンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,5−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、3−メチルペンタンジオール、1,7−ヘプタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2,4−ジメチル−2,4−ペンタンジオール、1,4−ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(ヒドロキシエチル)ベンゼン、2,2−ビス(4,4’−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオール、1,8−オクタンジオール及び2,2,4−トリメチル−1,2−ペンタンジオール等が挙げられる。
【0010】
3価アルコール(a3)としては、炭素数3〜22(好ましくは3〜18)の3価アルコールが挙げられ、具体的には、グリセリン、1,2,4−トリヒドロキシブタン、2,3,4−トリヒドロキシペンタン、1,1,1−トリス(ヒドロキシメチル)エタン、1,2,6−トリヒドロキシヘキサン、1,5−ジヒドロキシ−3−ヒドロキシメチルペンタン及び1,2,3−トリヒドロキシヘプタン等が挙げられる。
【0011】
4価アルコール(a4)としては、炭素数4〜22(好ましくは4〜18)の4価アルコールが挙げられ、具体的には、ペンタエリスリトール及びジグリセリン等が挙げられる。
【0012】
5価アルコール(a5)としては、炭素数5〜22(好ましくは5〜18)の5価アルコールが挙げられ、具体的には、キシリトール及びアラビトール等が挙げられる。
【0013】
6価アルコール(a6)としては、炭素数6〜22(好ましくは6〜18)の6価アルコールが挙げられ、具体的には、ソルビトール、ジペンタエリスリトール及びマンニトール等が挙げられる。
【0014】
<ポリエーテル(A)>
本発明におけるポリエーテル(A)は、前記1〜6価のアルコール(a)にアルキレンオキサイド(炭素数2〜4)を付加した構造を有する。ポリエーテル(A)は、下記要件(1)〜(2)をいずれも満たす。
要件(1):数平均分子量(Mn)が6,000〜100,000
要件(2):炭素−炭素末端二重結合基含有不飽和成分量(TU値)が0.025meq/g以下[ただし、(a)が有するTU値を除く]
【0015】
上記アルキレンオキサイド(炭素数2〜4)としては、例えば、エチレンオキサイド(EO)、1,2−プロピレンオキサイド(PO)、1,2−ブチレンオキサイド(BO)が挙げられる。
これらのアルキレンオキサイド(炭素数2〜4)のうち、吸着性および濡れ性の観点から、好ましいのはEOを含むものであり、さらに好ましいのはEOとPOおよび/またはBOとの併用、とくに好ましいのはEOとPOとの併用である。
【0016】
また、ポリエーテル(A)を構成するアルキレンオキサイド単位の合計重量に基づいて、エチレンオキサイド単位の合計重量は、水への溶解性および吸着性の観点から、好ましくは10〜80重量%、さらに好ましくは20〜70重量%、とくに好ましくは30〜60重量%である。
上記アルキレンオキサイド単位の合計重量に基づく、エチレンオキサイド単位の合計重量は、
1H−NMRで測定できる。
【0017】
要件(1):数平均分子量(Mn)が6,000〜100,000であり、好ましくは
7,000〜60,000、さらに好ましくは9,000〜20,000である。
Mnが6,000未満では、吸着性に劣り、Mnが100,000を超えるものは工業的に生産しにくい。
【0018】
また、ポリエーテル(A)の分子量分布[重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)]は、吸着性および濡れ性の観点から、好ましくは1.0〜1.2である。
【0019】
本発明における(A)の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC法)により、以下の条件で測定する。
<(A)の分子量の測定条件>
装置 :「Alliance」[日本ウオーターズ(株)製]
カラム :「TSK gel Super H4000」1本
「TSK gel Super H3000」1本
「TSK gel Super H2000」1本
測定温度 :40℃
試料溶液 :0.5重量%のテトラヒドロフラン溶液
溶液注入量:200μl
検出装置 :屈折率検出器
標準 :POLYETHYLENE OXIDE
【0020】
要件(2):炭素−炭素末端二重結合基含有不飽和成分量(TU値)が0.025meq/g以下[ただし、(a)が有するTU値を除く]であり、好ましくは0.0005〜0.015meq/g、さらに好ましくは0.001〜0.01meq/gである。TU値が、0.025meq/gを超えると、濡れ性に劣る。
なお、炭素−炭素末端二重結合基含有不飽和成分量(TU値)はJIS K−1557−3に準拠して測定できる。
また、上記[ただし、(a)が有するTU値を除く]とは、(a)が不飽和アルコール(ビニルアルコール等)の場合、そのTU値を除いて、要件(2)のTU値を算出することを意味する。
【0021】
ポリエーテル(A)は、例えば、前記1〜6価のアルコール(a)に、前記アルキレンオキサイド(炭素数2〜4)を付加反応して得られる。
上記付加反応は、工業上、触媒存在下で行うことが好ましい。触媒としては、例えば、アルカリ金属の水酸化物(水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等)、DMC触媒(複合金属シアン化合物触媒)が挙げられる。
これらの触媒のうち、要件(1)、要件(2)を満たしやすいという観点から、好ましいのはDMC触媒である。
【0022】
また、工業上の観点から、触媒は、アルカリ金属の水酸化物とDMC触媒とを併用してもよい。例えば、以下の(反応I)〜(反応II)によりポリエーテル(A)を製造する方法が挙げられる。
(反応I):まず、アルカリ触媒の存在下、アルコール(a)にアルキレンオキサイドを付加反応して、ポリエーテル(A0)を得る。
(反応II):次に、DMC触媒の存在下、ポリエーテル(A0)にアルキレンオキサイドを付加反応して、ポリエーテル(A)を得る。
【0023】
<金属加工油用基油(X)>
本発明の金属加工油用基油(X)は、前記ポリエーテル(A)を含有してなる。金属加工油用基油(X)は、種々の金属加工用基油として使用できるが、好ましくは、塑性加工油用基油、熱処理油用基油、さらに好ましくは、熱処理油用基油として有用である。
なお、ポリエーテル(A)の製造において、触媒を使用した場合には、必要に応じて、触媒を除去することが好ましい。
また、上記ポリエーテル(A)は、1種を単独使用しても、2種又はそれ以上を併用してもよい。
【0024】
<金属加工油(Y)>
本発明の金属加工油(Y)は、前記金属加工油用基油(X)と、水とを含有してなる。
金属加工油(Y)の重量に基づく、金属加工油用基油(X)の重量は、金属加工の種類によって異なるが、例えば5〜50重量%である。
【0025】
本発明の金属加工油(Y)には、上記(X)以外に、本発明の効果を阻害しない範囲で、公知の添加剤を添加することもよい。
上記添加剤としては、例えば、摩耗防止剤(チオカルバミン酸金属塩等)、摩擦調整剤(アルキルジエタノールアミン等)、酸化防止剤(2,6−ジ−ターシャリーブチルフェノール等)、摩擦低減剤(硫化オキシモリブデンジチオカルバメート等)、防錆剤(亜硝酸ナトリウム等)、腐食防止剤(ベンゾイミダゾール等)が挙げられる。
【0026】
金属加工油用基油(X)、それを使用した金属加工油(Y)[好ましくは、塑性加工油、熱処理油、とくに好ましくは熱処理油]は、金属への吸着性、金属への濡れ性(接触角)に優れる。このため、潤滑性、徐冷性、焼き割れ防止性に優れる。とりわけ、熱処理金属加工において、徐冷性に優れることになり、その冷却速度の適切な制御により、焼き割れ防止性が向上するとともに、金属への均一な付着を可能とし、焼きムラ防止性も期待できる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下、特に定めない限り、部は重量部を示す。
【0028】
<実施例1>
撹拌、温度調節機能および装置下部からアルキレンオキサイドを導入できる管の付いたステンレス製オートクレーブに、多価アルコール(a−1)[三井化学株式会社製「ヘキシレングリコール」]11.8部(1モル)、DMC触媒[DMC CATALYST;Huaian Bud Polyurethane Science & Technology Co.Ltd製]0.14部を投入し、混合系内を窒素で置換した後、減圧下、120℃にて1時間脱水を行った。
次いで、エチレンオキサイド(EO)345.9部(78.5モル)、プロピレンオキサイド(PO)642.3部(110.6モル)を130℃にて、ゲージ圧が−0.08〜0.15MPaとなるように付加反応を行い、ポリエーテル(A−1)を含有してなる金属加工油用基油(X−1)を得た。
なお、(A−1)の数平均分子量(Mn)は9800、Mw/Mnは1.09、アルキレンオキサド単位の合計重量に基づくエチレンオキサイド(EO)単位の合計重量は35重量%、TU値は0.002(meq/g)であった。
【0029】
<実施例2〜9、比較例1〜2>
実施例1において、表1の反応組成(部)にしたがった以外は、実施例1と同様にして、各ポリエーテル(A)を含有してなる各金属加工油用基油(X)を得た。
なお、表1においては、便宜上、反応組成を(反応II)に記載した。
【0030】
<実施例10>
(反応I)
撹拌、温度調節機能の付いたステンレス製オートクレーブに、グリセリン(a−4)9.1部と水酸化カリウム(KOH)0.12部を仕込み、混合系内を窒素で置換した後、減圧下、120℃にて1時間脱水を行った。
次いでプロピレンオキサイド(PO)45.4部を130℃にて、ゲージ圧が−0.08〜0.15MPaとなるように付加反応を行った。
次いで、60℃まで冷却した後、濾紙を敷いた上に吸着剤のケイ酸マグネシウム(キョーワード600;協和化学工業株式会社製)を敷き詰めた漏斗を用いて濾過し、ポリエーテル(A0−10)を得た。
(反応II)
撹拌、温度調節機能および装置下部からアルキレンオキサイドを導入できる管の付いたステンレス製オートクレーブに、上記ポリエーテル(A0−10)50.0部、DMC触媒0.125部を投入し、混合系内を窒素で置換した後、減圧下、120℃にて1時間脱水を行った。
次いで、エチレンオキサイド(EO)248.8部、プロピレンオキサイド(PO)701.2部を130℃にて、ゲージ圧が−0.08〜0.15MPaとなるように付加反応を行い、ポリエーテル(A−10)を含有してなる金属加工用基油(X−11)を得た。
【0031】
<実施例11>
実施例10において、表1の反応組成(部)にしたがった以外は、実施例10と同様にして、ポリエーテル(A−11)を含有してなる金属加工油用基油(X−11)を得た。
【0032】
得られた各金属加工油用基油(X)について、後述の評価方法により、評価を行った。結果を表1に示す。
【0033】
<1>接触角(C.A.)
金属加工油用基油(X)を水で10倍に希釈して10倍希釈液を調製した。この10倍希釈液の鋳鉄(SUJ2)に対する接触角の測定を行い、以下の<評価基準>で評価した。接触角が小であるほど、対象金属への濡れ性に優れることを示す。
【0034】
<評価基準>
◎:接触角45°未満
○:接触角45°以上60°未満
×:接触角60°以上
【0035】
<2>吸着性
水晶振動子微量重量測定 (Quartz Crystal Microbalance:QCM)による吸着性の評価
(1)一定温度(23℃)でQCM−E4(装置:Q−Sense AB、Gothenburg、スウェーデン)を使用することにより、対象金属へのポリエーテルの吸着量を分析した。
(2)温浴中でブランクおよび5重量%に水希釈したサンプル液を一定温度(23℃)に加温した。そこにイオン交換水にて洗浄し、乾燥させ、ホルダーにセットした水晶振動子(白金電極)を加温した液中に入れ、周波数が安定になった時の周波数変化を測定した。
なお、水晶振動子とは、水晶の結晶を極薄い板状に切り出した切片の両側に金属薄膜を取り付けた構造をしたもので、それぞれの金属薄膜に交流電場を印加するとある一定の周波数(共振周波数)で振動する性質を示す。金属薄膜上に物質が吸着すると物質の質量に比例して共振周波数が減少するため、周波数変化が大きいほど対象金属への吸着性に優れることを示す。
△周波数変化量=(イオン交換水浸漬時の周波数)−(サンプル液浸漬時周波数)
【0036】
吸着性の評価は以下の判断基準に従って行った。
◎:周波数変化量が、>300
○:周波数変化量が、150〜300
×:周波数変化量が、<150
【0037】
【表1】
【0038】
表1の結果から、本発明の金属加工油用基油(X)は、比較のものと比べて、金属への吸着性に優れることが分かる。このため、潤滑性、徐冷性、焼き割れ防止性に優れる。
また、金属への濡れ性(接触角)に優れることが分かる。このため、潤滑性、徐冷性、焼き割れ防止性に優れる。