【実施例】
【0032】
成分組成または加工率が異なる鉄基合金からなる複数の試料を製作した。各試料の電気的特性(比抵抗)と機械的特性(ヤング率、引張強度、伸び)を評価した。このような具体例を挙げつつ、以下に本発明をさらに詳しく説明する。
【0033】
《試料の製造》
(1)鉄基材
原材となる鉄基材を、次のように溶製した。先ず、原料(母材)として、市販されている純鉄、純アルミニウム、純マンガン(電解Mn)、純ケイ素、および炭素鋼(Fe−C合金)を用意した。
【0034】
表1に示す成分組成に配合した原料を、アルゴン雰囲気下で溶解し、それを金型に注湯して凝固させた(鋳造工程)。こうして鋳塊(溶製材)からなる鉄基材を得た。
【0035】
(2)熱間加工
各鉄基材に次のような熱間鍛造を大気中で行った。ガス炉で1150℃に加熱した鉄基材を鍛造(タップ)した。この加熱と鍛造を12段階に分けて行い、鉄基材をφ50mmからφ15mmまで細径化した(熱間加工工程)。この熱間鍛造後、大気中で室温まで放冷した。
【0036】
(3)熱処理
熱間鍛造した鉄基材を、電気炉で1100℃×2時間加熱して均質化処理した。その後、1100℃の鉄基材を水焼入れ(W.Q.)した。
【0037】
(4)冷間加工
熱処理後の鉄基材を切削加工し、酸化層を除去して丸棒(φ12mm×130mm)とした。この丸棒をダイスを用いて室温でスウェージング加工した。この冷間加工は、ダイス径をφ12mmからφ6mmまで10段階に分けて順に小さくして行った。こうして得られた各試料の供試材を引張試験等に供した。
【0038】
なお、試料C1〜C5については、冷間加工中に割れ等を生じた段階で冷間加工を中止した。そして、割れを生じない範囲の断面減少率(Aw/Ao)から加工率(1−Aw/Ao)を算出した。ここでAwは加工後の断面積、Aoは加工開始前の断面積である。
【0039】
試料11は冷間加工を施さなかった場合である。試料12は意図的に冷間加工を途中で止めた場合である。試料13は、上述した冷間加工(φ11mm→φ4mm)を行った場合である。以下、試料11〜試料13をまとめて「試料1」という。
【0040】
《観察》
(1)金属組織
各試料の鉄基材について、熱処理後で冷間加工前の金属組織をOM(Optical Microscope)で観察した。試料11、C1、C4に係る観察像(組織写真)をそれぞれ
図1A、1B、1C(これらを併せて単に「
図1」という。)に例示した。
【0041】
(2)金属組織中に分散している化合物相の体積割合を、上記の観察像をImageJで画像解析して求めた。こうして得られた各試料の化合物相の体積率を表1に示した。
【0042】
(3)X線回折(yの特定)
各試料に係る供試材をX線回折解析(XRD/Cu-Kα)した。これにより、マトリックス相はγ相であることを確認した。また、試料1に係る化合物相はFe−Mn−Al−Cからなることも確認した。一例として、試料13に係るXRDの回折パターンを
図3に示した。
【0043】
《測定》
(1)電気的特性(比抵抗)
各試料の比抵抗を直流四端子法により、システムソースメーター((KEITHLEY製2601) を用いて測定した。具体的にいうと、次のような試験片を用意して、
図4に示すように測定した。
【0044】
上述した冷間加工後の各鉄基合金から製作した角柱体(3.mm(t)×3mm(w)×20mm)の中央部分(電圧電極間(L):10mm)をマスキングテープでマスクする。マスクした両端部分と、その両外側部分との4箇所(
図4参照)に、端子線(銀線:φ0.20mm)を巻き付ける。各端子線を巻き付けた部分と、角柱体の両端面とに銀ペースト(藤倉化成株式会社製 ドータイト D−550)をそれぞれ塗布する。塗布後の角柱体を、大気中で100℃×12時間加熱して乾燥させる。こうして、電流電極と電圧電極を備えた試験片を用意した。
【0045】
外側にある電流電極に1Aの電流(I)を30秒間流し、内側にある電圧電極の電圧(V)を測定した。
図4の式(1)に示すように、それらの値(I、V)と試験片の形状(t、w、L)から比抵抗(r)を求めた。なお、浮遊起電力は、通電前に自然電位を測定し、計測器(システムソースメーター)のゼロ調整機能を用いて消去しておいた。こうして得られた各試料に係る比抵抗を表1に併せて示した。
【0046】
(2)機械的特性
上述した供試材を機械加工して製作した試験片(平行部:φ2.4mm×14mm、全長:40mm)を用いて引張試験(ゲージ長さ:10mm)を行った。引張試験は、オートグラフ(株式会社島津製作所製 AUTOGRAPH AG−1 50kN)を用いて、室温大気中で、ひずみ速度:5×10
-4/sで行った。引張試験により得られたヤング率、引張強度、伸びを表1に併せて示した。なお、引張強度は、破断時の荷重と試験片の初期形状とに基づいて算出した。伸びは、破断時における試験片のひずみである。
【0047】
試料12、13、C4について、引張試験で得られた応力−ひずみ線図を
図2Aと
図2B(これらを併せて単に「
図2」という。)に示した。
図2に示した応力−ひずみ線図はビデオ伸び計により得た。
【0048】
《評価》
(1)電気的特性(比抵抗)
表1から明らかなように、Al量が過少な試料C4を除いて、いずれも高比抵抗であった。
【0049】
(2)加工性
表1に示したように、試料1は加工率75%まで冷間を行っても、割れ等を生じなかった。つまり、試料1は非常に加工性に優れていた。
【0050】
一方、試料C1等の加工率は高々9%であり、Al量が少ない試料C4でも加工率は55%に留まった。また試料C1、C2、C3、C5は、割れを生じたり、加工困難だったため、引張試験片の作製自体が困難であった。
【0051】
(3)機械的特性
表1および
図2からわかるように、試料1は高強度であり、加工率の増加と共に引張強度も大幅に増加した。
【0052】
(4)金属組織
表1および
図1からわかるように、冷間加工前の試料11は、多くの化合物相がネットワーク状に分散した二相組織からなることがわかった。
【0053】
一方、試料C1は、線状の化合物相が僅か分散している程度であった。試料11と試料C1を比較すると、金属組織の相違が加工性に大きく影響したと推察される。
【0054】
ちなみに、試料C4は、いわゆる変形双晶誘起鋼であり、ある程度まで冷間加工可能であるが、化合物相が析出しないため比抵抗が小さかった。
【0055】
以上から、本発明の鉄基合金は、高比抵抗であると共に、加工性に優れ、高強度を発揮することが確認された。
【0056】
【表1】