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特開2021-195591鉄基合金、その製造方法および鉄基部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-195591(P2021-195591A)
(43)【公開日】2021年12月27日
(54)【発明の名称】鉄基合金、その製造方法および鉄基部材
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20211129BHJP
   C22C 38/06 20060101ALI20211129BHJP
   C21D 8/06 20060101ALI20211129BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20211129BHJP
【FI】
   C22C38/00 302A
   C22C38/06
   C21D8/06 B
   H01F1/147
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2020-102526(P2020-102526)
(22)【出願日】2020年6月12日
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】110001324
【氏名又は名称】特許業務法人SANSUI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古田 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】宮嵜 伊弦
【テーマコード(参考)】
4K032
5E041
【Fターム(参考)】
4K032AA01
4K032AA06
4K032AA07
4K032AA18
4K032BA02
4K032CA02
4K032CB02
4K032CF03
4K032CG02
5E041AA11
5E041NN01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高比抵抗であると共に、加工性や強度に優れる新たな鉄基合金を提供する。
【解決手段】本発明は、全体を100質量%(単に「%」という。)として、Mn:24〜35%、Al:13.5〜20%、C:0.55〜1.5%、残部:Feおよび不純物を満たす鉄基合金である。この鉄基合金は、オーステナイト相(γ相)と化合物相との二相組織からなる。化合物相は、Fe、Mn、AlおよびCからなる。また化合物相は、全体に対して30〜70体積%含まれ、γ相からなるマトリックス中でネットワーク状に分散している。鉄基合金は、熱間加工、熱処理、冷間加工が施されることにより、高比抵抗と高強度を高次元で両立する。このような鉄基合金からなる部材を交番磁界中で使用すれば、渦電流損失の低減が可能となる。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
全体を100質量%(単に「%」という。)として下記の成分組成を満たし、
オーステナイト相(単に「γ相」という。)と化合物相との二相組織からなる鉄基合金。
Mn:24〜35%、
Al:13.5〜20%、
C :0.55〜1.5%、
残部:Feおよび不純物
【請求項2】
前記化合物相は、Fe、Mn、AlおよびCからなる請求項1に記載の鉄基合金。
【請求項3】
前記化合物相は、全体に対して30〜70体積%含まれる請求項1または2に記載の鉄基合金。
【請求項4】
冷間加工材からなる請求項1〜3のいずれかに記載の鉄基合金。
【請求項5】
前記成分組成は、下記の範囲を満たす請求項1〜4のいずれかに記載の鉄基合金。
Mn:25〜32%、
Al:14.5〜18%、
C :0.65〜0.95%、
残部:Feおよび不純物
【請求項6】
請求項1に記載した成分組成を有する鉄基材を冷間で塑性加工する冷間加工工程を備える鉄基合金の製造方法。
【請求項7】
さらに、前記冷間加工工程前の鉄基材に、均質化処理および/または焼入処理を施す熱処理工程を備える請求項6に記載の鉄基合金の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかに記載の鉄基合金からなり、交番磁界中で用いられる鉄基部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高比抵抗な鉄基合金等に関する。
【背景技術】
【0002】
交番磁界中で使用される部材(電磁部材)に発生する渦電流損を低減して省エネルギー化を図るため、電磁部材は電気抵抗率(「比抵抗」という。)の高い材質からなるとよい。また、電磁部材は、高比抵抗のみならず、加工性や機械的特性(強度、剛性等)にも優れる材質からなるとより好ましい。このような材質は、磁性材の場合もあれば、非磁性材の場合もある。用途は異なるが、高比抵抗で加工性に優れる鉄合金に関連する記載が下記の特許文献にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−219728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、5元系(Fe−Mn−Al−C−Cr)からなる高抵抗器用鉄合金が提案されている。その鉄合金は、時効熱処理により制御された三相組織(α相、γ相およびCr炭化物)からなる(特許文献1の[0023]等)。
【0005】
また特許文献1には、Crを含まない鉄合金(表1の比較例12)として、Fe−33.5Mn−15.6Al−0.5C(質量%)が示されている。しかし、その鉄合金は、α相とγ相の二相組織からなり、冷間圧延率が高々8%に留まり、加工性が非常に悪い(特許文献1の[0022]等)。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みて為されたものであり、従来とは異なる新たな成分組成からなり、高比抵抗な鉄基合金等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究した結果、Crを実質的に含まない所定組成からなる4元系(Fe−Mn−Al−C)からなる鉄基合金が、高比抵抗であることに加えて、強度や加工性にも優れることを新たに見出した。この成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0008】
《鉄基合金》
(1)本発明は、
全体を100質量%(単に「%」という。)として下記の成分組成を満たし、
オーステナイト相(単に「γ相」という。)と化合物相との二相組織からなる鉄基合金である。
Mn:24〜35%、Al:13.5〜20%、
C :0.55〜1.5%、残部:Feおよび不純物
【0009】
(2)本発明の鉄基合金は高比抵抗を発揮する。また、この鉄基合金は加工性にも優れ、高強度も発揮し得る。このような鉄基合金は、例えば、渦電流損失の低減等が求められる各種の電磁部材に利用され得る。
【0010】
《鉄基合金の製造方法》
本発明は、鉄基合金(または鉄基部材)の製造方法としても把握される。例えば、本発明は、上述した成分組成を有する鉄基材(原料)を冷間で塑性加工する冷間加工工程を備える鉄基合金の製造方法でもよい。また、その冷間加工工程前の鉄基材に、均質化処理および/または焼入処理を施す熱処理工程を備えてもよい。さらに、冷間加工工程前(さらには熱処理工程前)に、鉄基材を加熱状態で塑性加工する熱間加工工程を備えてもよい。熱処理工程または熱間加工工程は、例えば、鉄基材を950〜1250℃に加熱してなされるとよい。なお、冷間加工工程後に、熱処理工程がなされてもよい。このような工程を経て得られる鉄基合金は、高比抵抗である共に高強度を発揮する。
【0011】
《鉄基部材》
本発明は、上述した鉄基合金からなる部材(鉄基部材)としても把握される。例えば、交番磁界中で用いられる鉄基部材(電磁部材等)は、渦電流損失を低減させ得る。また本発明の鉄基部材は加工性や強度に優れるため、汎用性が高い。なお、鉄基合金は磁性材でも非磁性材でもよいため、鉄基部材も磁性体(コア、ヨーク等)でも、非磁性体でもよい。
【0012】
《その他》
(1)本明細書でいう鉄基合金は、所定の成分組成と二相組織を有する限り、加工や熱処理等がなされる前の原材(鉄基材)でも、中間製品でも、最終製品でもよい。
【0013】
(2) 特に断らない限り本明細書でいう「x〜y」は下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を新たな下限値または上限値として「a〜b」のような範囲を新設し得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1A】試料11に係る鉄基材の金属組織写真である。
図1B】試料C1に係る鉄基材の金属組織写真である。
図1C】試料C4に係る鉄基材の金属組織写真である。
図2A】試料12と試料13に係る鉄基合金の応力−ひずみ線図である。
図2B】試料C4に係る鉄基合金の応力−ひずみ線図である。
図3】試料1に係るXRDの回折パターンである。
図4】比抵抗の測定方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
上述した本発明の構成要素に、本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を付加し得る。本明細書で説明する内容は、本発明の鉄基合金(鉄基材を含む)のみならず、その製造方法や鉄基部材にも該当する。方法的な構成要素であっても物に関する構成要素ともなり得る。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
【0016】
《成分組成》
鉄基合金は、Fe以外に、Mn、AlおよびCを必須元素とする。各元素の好適な組成範囲は次の通りである。なお、特に断らない限り、本明細書では、合金全体に対する質量割合(単位「%」で示す)で各元素の組成範囲を示す。
【0017】
(1)Mn
Mnは、例えば、24〜35%、25〜32%、26〜30%さらには27〜29%含まれるとよい。Mnはオーステナイト(γ)形成元素であり、常温域においても、鉄基合金中にγ相を安定的に生成させる。Mnが過少になると、その効果が乏しくなり、比抵抗も低下し得る。Mnが過多になると、鉄基合金が冷間加工前に二相組織であっても、冷間加工性が低下し得る。
【0018】
(2)Al
Alは、例えば、13.5〜20%、14.5〜18%さらには15〜17%含まれるとよい。Alは、鉄基合金の比抵抗を増加させる。このためAlが過少になると、比抵抗が低下し得る。Alが過多になると、Mnと同様に、鉄基合金が冷間加工前に二相組織であっても、冷間加工性が低下し得る。
【0019】
(3)C
Cは、例えば、0.55〜1.5%、0.65〜0.95%さらには0.7〜0.85%含まれるとよい。Cは、γ相の形成に寄与する。Cが過少になると、冷間加工性に優れる二相組織の形成が困難となる。Cが過多になると、炭化物が増加して、二相組織が形成されても冷間加工性が低下し得る。
【0020】
なお、鉄基合金は、不純物(Fe、Mn、AlおよびC以外の元素)を含み得る。不純物の合計量は、例えば、1%未満、0.5%未満さらには0.3%未満であるとよい。不純物の混入要因は問わない。
【0021】
《二相組織》
(1)鉄基合金は、γ相と化合物相との二相組織からなるとよい。γ相も化合物相も比抵抗が高く、それらの相乗効果により鉄基合金も高い比抵抗を発揮し得る。また、鉄基合金は、γ相と化合物相が共存した二相組織からなることにより、割れを生じずに加工率を高めることができる。さらに鉄基合金は、二相組織により高い機械的特性(強度(耐力、破壊(引張)強さ等)、延性、剛性等)も発揮し得る。
【0022】
二相組織は、例えば、γ相からなるマトリックス相中に、化合物相が粒子状に分散してなる。化合物相は、例えば、ネットワーク状に分散していると好ましい。二相組織が加工前から形成されていると、加工性が高められる。二相組織中の化合物相は、塑性加工(単に「加工」という。)、加工時の加熱、別途なされる熱処理等により、形態(サイズ、形状、分散度等)、存在割合(体積率)等が変化してもよい。例えば、加工により二相組織は、層状組織となり得る。二相組織からなる鉄基合金は、そのような加工により高強度(比)化する。
【0023】
このような鉄基合金は、例えば、電動機(発電機を含む。)のロータ等に用いれるとよい。これにより、渦電流損失の低減、高速回転化、軽量化等により、ユニットまたはシステムの消費電力低減、性能や効率の向上等が図られる。
【0024】
(2)化合物相は、通常、金属間化合物からなり、その組成は種々あり得る。化合物相は、例えば、Fe、Mn、AlおよびCからなる。化合物相は、合計で、全体に対して30〜70体積%さらには40〜60体積%含まれるとよい。なお、化合物相の体積割合は、測定試料をSEMで観察して得られた観察像(500倍)の200μm×200μmの範囲(視野)について、ImageJ(フリーソフト)を用いて、image → adjust → thresholdで、測定部分に濃淡を加える処理をして求めた。
【0025】
《製造方法》
(1)鉄基材
原料となる鉄基材は、溶製材でも焼結材でもよい。鉄基材は、上述した成分組成を有すると共に、熱処理や加工の前段階から二相組織が形成されているとよい。
【0026】
(2)熱処理
加工前、加工中または加工後に、適宜、熱処理がなされてもよい。熱処理は、例えば、均質化処理、焼入れ等である。均質化処理は、例えば、1000〜1200°さらには1050〜1150℃で、0.5〜5時間さらには1〜3時間なされるとよい。加熱雰囲気は、不活性ガス雰囲気、窒素ガス雰囲気の他、大気雰囲気でなされてもよい。
【0027】
焼入れは、1000〜1200°さらには1050〜1150℃に加熱した後、急冷されるとよい。急冷は、水冷、湯冷、油冷等のいずれでもよいが、通常、水焼入れ(W.Q.)で足る。なお、鉄基材(鉄基合金)は、Mn量が多いため、焼入れされてもマルテンサイト相の出現は殆どなく、二相組織が維持される。
【0028】
(3)加工
鉄基材は、熱間加工や冷間加工が施されるとよい。熱間加工(工程)は、例えば、950〜1250℃さらには1100〜1200℃に加熱後または加熱した状態で、加工されるとよい(熱間加工工程)。これにより鉄基材を効率的に所望形態まで塑性変形させることができる。熱間加工は、例えば、熱間鍛造である。加熱と加工を繰り替えす多段階の熱間加工により、加工率が大幅に増加し得る。なお、熱間加工後の冷却は、例えば、大気中で空冷すればよい。
【0029】
冷間加工(工程)により、鉄基材を所望形態まで塑性変形させることができる。冷間加工工程は、例えば、スウェージング加工,冷間圧延加工等であり、種々の汎用加工が利用され得る。冷間は、室温域であればよく、敢えていうと、70℃以下である。冷間加工も、多段階でなされることにより、加工率が大幅に増加し得る。なお、冷間加工前に、前述した熱間加工や熱処理がなされていると、加工率がさらに向上し得る。
【0030】
《特性》
鉄基合金(鉄基部材)は、加工性に優れ、高比抵抗と高強度を発現し得る。比抵抗は、例えば、2.0μΩm以上、2.1μΩm以上、2.3μΩm以上さらには2.7μΩm以上となり得る。強度は、引張強度が900MPa以上、1200MPa以上、1500MPa以上、1700MPa以上さらには1950MPa以上となり得る。冷間加工率は、30%以上、50%以上さらには80%以上となり得る。本明細書でいう加工率は、加工前後の断面積比により定まる。
【0031】
なお、本発明の鉄基合金が高比抵抗を示す理由として、キャリア(正孔、電子)の濃度低下によるゼーベック係数の減少が考えられる。
【実施例】
【0032】
成分組成または加工率が異なる鉄基合金からなる複数の試料を製作した。各試料の電気的特性(比抵抗)と機械的特性(ヤング率、引張強度、伸び)を評価した。このような具体例を挙げつつ、以下に本発明をさらに詳しく説明する。
【0033】
《試料の製造》
(1)鉄基材
原材となる鉄基材を、次のように溶製した。先ず、原料(母材)として、市販されている純鉄、純アルミニウム、純マンガン(電解Mn)、純ケイ素、および炭素鋼(Fe−C合金)を用意した。
【0034】
表1に示す成分組成に配合した原料を、アルゴン雰囲気下で溶解し、それを金型に注湯して凝固させた(鋳造工程)。こうして鋳塊(溶製材)からなる鉄基材を得た。
【0035】
(2)熱間加工
各鉄基材に次のような熱間鍛造を大気中で行った。ガス炉で1150℃に加熱した鉄基材を鍛造(タップ)した。この加熱と鍛造を12段階に分けて行い、鉄基材をφ50mmからφ15mmまで細径化した(熱間加工工程)。この熱間鍛造後、大気中で室温まで放冷した。
【0036】
(3)熱処理
熱間鍛造した鉄基材を、電気炉で1100℃×2時間加熱して均質化処理した。その後、1100℃の鉄基材を水焼入れ(W.Q.)した。
【0037】
(4)冷間加工
熱処理後の鉄基材を切削加工し、酸化層を除去して丸棒(φ12mm×130mm)とした。この丸棒をダイスを用いて室温でスウェージング加工した。この冷間加工は、ダイス径をφ12mmからφ6mmまで10段階に分けて順に小さくして行った。こうして得られた各試料の供試材を引張試験等に供した。
【0038】
なお、試料C1〜C5については、冷間加工中に割れ等を生じた段階で冷間加工を中止した。そして、割れを生じない範囲の断面減少率(Aw/Ao)から加工率(1−Aw/Ao)を算出した。ここでAwは加工後の断面積、Aoは加工開始前の断面積である。
【0039】
試料11は冷間加工を施さなかった場合である。試料12は意図的に冷間加工を途中で止めた場合である。試料13は、上述した冷間加工(φ11mm→φ4mm)を行った場合である。以下、試料11〜試料13をまとめて「試料1」という。
【0040】
《観察》
(1)金属組織
各試料の鉄基材について、熱処理後で冷間加工前の金属組織をOM(Optical Microscope)で観察した。試料11、C1、C4に係る観察像(組織写真)をそれぞれ図1A、1B、1C(これらを併せて単に「図1」という。)に例示した。
【0041】
(2)金属組織中に分散している化合物相の体積割合を、上記の観察像をImageJで画像解析して求めた。こうして得られた各試料の化合物相の体積率を表1に示した。
【0042】
(3)X線回折(yの特定)
各試料に係る供試材をX線回折解析(XRD/Cu-Kα)した。これにより、マトリックス相はγ相であることを確認した。また、試料1に係る化合物相はFe−Mn−Al−Cからなることも確認した。一例として、試料13に係るXRDの回折パターンを図3に示した。
【0043】
《測定》
(1)電気的特性(比抵抗)
各試料の比抵抗を直流四端子法により、システムソースメーター((KEITHLEY製2601) を用いて測定した。具体的にいうと、次のような試験片を用意して、図4に示すように測定した。
【0044】
上述した冷間加工後の各鉄基合金から製作した角柱体(3.mm(t)×3mm(w)×20mm)の中央部分(電圧電極間(L):10mm)をマスキングテープでマスクする。マスクした両端部分と、その両外側部分との4箇所(図4参照)に、端子線(銀線:φ0.20mm)を巻き付ける。各端子線を巻き付けた部分と、角柱体の両端面とに銀ペースト(藤倉化成株式会社製 ドータイト D−550)をそれぞれ塗布する。塗布後の角柱体を、大気中で100℃×12時間加熱して乾燥させる。こうして、電流電極と電圧電極を備えた試験片を用意した。
【0045】
外側にある電流電極に1Aの電流(I)を30秒間流し、内側にある電圧電極の電圧(V)を測定した。図4の式(1)に示すように、それらの値(I、V)と試験片の形状(t、w、L)から比抵抗(r)を求めた。なお、浮遊起電力は、通電前に自然電位を測定し、計測器(システムソースメーター)のゼロ調整機能を用いて消去しておいた。こうして得られた各試料に係る比抵抗を表1に併せて示した。
【0046】
(2)機械的特性
上述した供試材を機械加工して製作した試験片(平行部:φ2.4mm×14mm、全長:40mm)を用いて引張試験(ゲージ長さ:10mm)を行った。引張試験は、オートグラフ(株式会社島津製作所製 AUTOGRAPH AG−1 50kN)を用いて、室温大気中で、ひずみ速度:5×10-4/sで行った。引張試験により得られたヤング率、引張強度、伸びを表1に併せて示した。なお、引張強度は、破断時の荷重と試験片の初期形状とに基づいて算出した。伸びは、破断時における試験片のひずみである。
【0047】
試料12、13、C4について、引張試験で得られた応力−ひずみ線図を図2A図2B(これらを併せて単に「図2」という。)に示した。図2に示した応力−ひずみ線図はビデオ伸び計により得た。
【0048】
《評価》
(1)電気的特性(比抵抗)
表1から明らかなように、Al量が過少な試料C4を除いて、いずれも高比抵抗であった。
【0049】
(2)加工性
表1に示したように、試料1は加工率75%まで冷間を行っても、割れ等を生じなかった。つまり、試料1は非常に加工性に優れていた。
【0050】
一方、試料C1等の加工率は高々9%であり、Al量が少ない試料C4でも加工率は55%に留まった。また試料C1、C2、C3、C5は、割れを生じたり、加工困難だったため、引張試験片の作製自体が困難であった。
【0051】
(3)機械的特性
表1および図2からわかるように、試料1は高強度であり、加工率の増加と共に引張強度も大幅に増加した。
【0052】
(4)金属組織
表1および図1からわかるように、冷間加工前の試料11は、多くの化合物相がネットワーク状に分散した二相組織からなることがわかった。
【0053】
一方、試料C1は、線状の化合物相が僅か分散している程度であった。試料11と試料C1を比較すると、金属組織の相違が加工性に大きく影響したと推察される。
【0054】
ちなみに、試料C4は、いわゆる変形双晶誘起鋼であり、ある程度まで冷間加工可能であるが、化合物相が析出しないため比抵抗が小さかった。
【0055】
以上から、本発明の鉄基合金は、高比抵抗であると共に、加工性に優れ、高強度を発揮することが確認された。
【0056】
【表1】
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図3
図4