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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-195716(P2021-195716A)
(43)【公開日】2021年12月27日
(54)【発明の名称】塗工紙
(51)【国際特許分類】
   D21H 19/28 20060101AFI20211129BHJP
【FI】
   D21H19/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2021-98168(P2021-98168)
(22)【出願日】2021年6月11日
(31)【優先権主張番号】特願2020-104032(P2020-104032)
(32)【優先日】2020年6月16日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】角田 浩佑
(72)【発明者】
【氏名】吉田 義雄
(72)【発明者】
【氏名】久津輪 幸二
(72)【発明者】
【氏名】大倉 徹雄
(72)【発明者】
【氏名】岡田 康則
(72)【発明者】
【氏名】福留 明日香
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055AG46
4L055AG47
4L055AG59
4L055AG63
4L055AG64
4L055AG71
4L055AG75
4L055AG82
4L055AG89
4L055AG97
4L055AH37
4L055AJ01
4L055BE08
4L055EA12
4L055EA14
4L055EA32
4L055FA11
4L055FA19
4L055FA23
4L055FA30
4L055GA05
4L055GA48
(57)【要約】
【課題】ポリ(3−ヒドロキシブチレート−co−3−ヒドロキシヘキサノエート)を含有し、塗工欠陥の少ない塗工層を有する塗工紙を提供すること。
【解決手段】紙基材の少なくとも一方の面上に、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−co−3−ヒドロキシヘキサノエート)及び接着剤を含有する塗工層を有する塗工紙であって、前記塗工層中の前記ポリ(3−ヒドロキシブチレート−co−3−ヒドロキシヘキサノエート)と前記接着剤の固形分重量比が、99.9/0.1〜60.0/40.0であり、前記紙基材のJIS P 8124に準じて測定した坪量が、150g/m以上600g/m以下である塗工紙。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙基材の少なくとも一方の面上に、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−co−3−ヒドロキシヘキサノエート)及び接着剤を含有する塗工層を有する塗工紙であって、
前記塗工層中の前記ポリ(3−ヒドロキシブチレート−co−3−ヒドロキシヘキサノエート)と前記接着剤の固形分重量比が、99.9/0.1〜60.0/40.0であり、
前記紙基材のJIS P 8124に準じて測定した坪量が、150g/m以上600g/m以下であることを特徴とする塗工紙。
【請求項2】
前記塗工層の塗工量(乾燥重量)が、片面あたり1.0g/m以上50.0g/m以下であることを特徴とする請求項1に記載の塗工紙。
【請求項3】
前記塗工層の塗工量(乾燥重量)が、片面あたり9.0g/m以上50.0g/m以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の塗工紙。
【請求項4】
前記塗工層中の前記ポリ(3−ヒドロキシブチレート−co−3−ヒドロキシヘキサノエート)と前記接着剤の固形分重量比が、90.0/10.0〜75.0/25.0であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の塗工紙。
【請求項5】
前記紙基材が、両面にポリ(3−ヒドロキシブチレート−co−3−ヒドロキシヘキサノエート)及び接着剤を含有する塗工層を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の塗工紙。
【請求項6】
前記紙基材と前記塗工層の間に、更に目止め層を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の塗工紙。
【請求項7】
前記目止め層の塗工量(乾燥重量)が、片面あたり3.0g/m以上15.0g/m以下であることを特徴とする請求項6に記載の塗工紙。
【請求項8】
前記紙基材が、塗工前の状態で王研式平滑度が55秒以下であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の塗工紙。
【請求項9】
前記接着剤が、ポリビニルアルコール類、澱粉類、セルロース誘導体、部分ケン化エチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体の共役ジエン系重合体ラテックス、アクリル系重合体ラテックスからなる群より選ばれる少なくとも1種類を含むことを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の塗工紙。
【請求項10】
前記接着剤が、完全ケン化ポリビニルアルコール、部分ケン化ポリビニルアルコールより選ばれる少なくとも1種類を含むことを特徴とする請求項9に記載の塗工紙。
【請求項11】
前記接着剤が、部分ケン化エチレン−酢酸ビニル共重合体を含むことを特徴とする請求項9に記載の塗工紙。
【請求項12】
前記塗工層が、ヒートシール層であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載の塗工紙。
【請求項13】
前記塗工層が、耐水層であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載の塗工紙。
【請求項14】
前記塗工層が、耐油層であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載の塗工紙。
【請求項15】
紙コップ用であることを特徴とする請求項1〜14のいずれか一項に記載の塗工紙。
【請求項16】
紙容器用であることを特徴とする請求項1〜14のいずれか一項に記載の塗工紙。
【請求項17】
紙箱用であることを特徴とする請求項1〜14のいずれか一項に記載の塗工紙。
【請求項18】
紙皿用であることを特徴とする請求項1〜14のいずれか一項に記載の塗工紙。
【請求項19】
紙トレー用であることを特徴とする請求項1〜14のいずれか一項に記載の塗工紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗工紙に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、紙に耐水性、耐油性、ガスバリア性、水蒸気バリア性、ヒートシール性等の機能を付与するために、紙基材(原紙)上に樹脂の水性分散液を塗工した塗工紙が知られている。例えば、特許文献1(特開平09−003795号公報)には、アクリル系エマルジョンとワックス系エマルジョンを配合した水性エマルジョンを塗布した耐水耐油紙、特許文献2(特開2003−119697号公報)には、合成樹脂エマルジョンとワックス系エマルジョンとの混合物を塗工した防湿紙、特許文献3(特開2004−15978号公報)には、水分散型防黴剤を塗工した耐水性防黴紙が記載されている。
【0003】
近年、プラスチックごみによる環境破壊を防ぐための動きが始まっており、プラスチック製使い捨て製品を、環境への負荷の小さな材料で代替することが求められている。プラスチックの代替材料としては、生分解性プラスチック、木材、紙等が挙げられる。上記したように、塗工紙は、塗工された樹脂に由来して様々な機能を発揮することができる。しかし、塗工される樹脂が、化石資源由来や非生分解性であると、紙を用いたことによる環境負荷低減効果を損ねてしまう。そのため、紙基材に、生分解性プラスチックの水性分散液を塗工した塗工紙が求められている。
【0004】
生分解性プラスチックとして、ポリ乳酸やポリカプロラクトン等の脂肪族ポリエステルが知られている。しかし、脂肪族ポリエステルは、温度が低いと生分解に時間がかかり、海洋などの自然環境での分解速度が遅いという問題がある。
一方、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)系樹脂は、好気性、嫌気性下での分解性に優れた、植物原料を使用した微生物産生の熱可塑性プラスチックであり、海洋中などの水中でも微生物により短期間で分解されるという特筆すべき性能を有している。ポリ(3−ヒドロキシブチレート)系樹脂は、熱可塑性であり、押出成形や射出成形などの加工法が可能である。また3−ヒドロキシブチレートと3−ヒドロキシヘキサノエートとの共重合体であるポリ(3−ヒドロキシブチレート−co−3−ヒドロキシヘキサノエート)(以下、「P3HB3HH」または「PHBH」ともいう。)を含む生分解性ポリエステル水性分散液が知られている。例えば、特許文献4(国際公開第2004/041936号)には、成膜性に優れ、かつ、塗料、接着剤、繊維加工、シート・フィルム加工、紙加工等に適用する際、柔軟で伸びがよく、折り曲げに対して強い樹脂塗膜を与える生分解性ポリエステル水性分散液、が記載されている。しかし、PHBHの水分散液を塗工した塗工層は、クラック、ピンホール等の塗工欠陥が生じやすいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平09−003795号公報
【特許文献2】特開2003−119697号公報
【特許文献3】特開2004−115978号公報
【特許文献4】国際公開第2004/041936号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−co−3−ヒドロキシヘキサノエート)を含有し、塗工欠陥の少ない塗工層を有する塗工紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の課題を解決するための手段は、以下のとおりである。
1.紙基材の少なくとも一方の面上に、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−co−3−ヒドロキシヘキサノエート)及び接着剤を含有する塗工層を有する塗工紙であって、
前記塗工層中の前記ポリ(3−ヒドロキシブチレート−co−3−ヒドロキシヘキサノエート)と前記接着剤の固形分重量比が、99.9/0.1〜60.0/40.0であり、
前記紙基材のJIS P 8124に準じて測定した坪量が、150g/m以上600g/m以下であることを特徴とする塗工紙。
2.前記塗工層の塗工量(乾燥重量)が、片面あたり1.0g/m以上50.0g/m以下であることを特徴とする1.に記載の塗工紙。
3.前記塗工層の塗工量(乾燥重量)が、片面あたり9.0g/m以上50.0g/m以下であることを特徴とする1.または2.に記載の塗工紙。
4.前記塗工層中の前記ポリ(3−ヒドロキシブチレート−co−3−ヒドロキシヘキサノエート)と前記接着剤の固形分重量比が、90.0/10.0〜75.0/25.0であることを特徴とする1.〜3.のいずれか一項に記載の塗工紙。
5.前記紙基材が、両面にポリ(3−ヒドロキシブチレート−co−3−ヒドロキシヘキサノエート)及び接着剤を含有する塗工層を有することを特徴とする1.〜4.のいずれか一項に記載の塗工紙。
6.前記紙基材と前記塗工層の間に、更に目止め層を有することを特徴とする1.〜5.のいずれか一項に記載の塗工紙。
7.前記目止め層の塗工量(乾燥重量)が、片面あたり3.0g/m以上15.0g/m以下であることを特徴とする.6に記載の塗工紙。
8.前記紙基材が、塗工前の状態で王研式平滑度が55秒以下であることを特徴とする1.〜7.のいずれか一項に記載の塗工紙。
9.前記接着剤が、ポリビニルアルコール類、澱粉類、セルロース誘導体、部分ケン化エチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体の共役ジエン系重合体ラテックス、アクリル系重合体ラテックスからなる群より選ばれる少なくとも1種類を含むことを特徴とする1.〜8.のいずれか一項に記載の塗工紙。
10.前記接着剤が、完全ケン化ポリビニルアルコール、部分ケン化ポリビニルアルコールより選ばれる少なくとも1種類を含むことを特徴とする9.に記載の塗工紙。
11.前記接着剤が、部分ケン化エチレン−酢酸ビニル共重合体を含むことを特徴とする9.に記載の塗工紙。
12.前記塗工層が、ヒートシール層であることを特徴とする1.〜11.のいずれか一項に記載の塗工紙。
13.前記塗工層が、耐水層であることを特徴とする1.〜11.のいずれか一項に記載の塗工紙。
14.前記塗工層が、耐油層であることを特徴とする1.〜11.のいずれか一項に記載の塗工紙。
15.紙コップ用であることを特徴とする1.〜14.のいずれか一項に記載の塗工紙。
16.紙容器用であることを特徴とする1.〜14.のいずれか一項に記載の塗工紙。
17.紙箱用であることを特徴とする1.〜14.のいずれか一項に記載の塗工紙。
18.紙皿用であることを特徴とする1.〜14.のいずれか一項に記載の塗工紙。
19.紙トレー用であることを特徴とする1.〜14.のいずれか一項に記載の塗工紙。
【発明の効果】
【0008】
本発明の塗工紙は、塗工層の塗工欠陥が少なく、塗工欠陥に由来する品質の低下を防ぐことができる。また、本発明の塗工紙は、塗工紙全体として生分解性とすることができるため、仮に環境中に流出しても、迅速に分解される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、紙基材の少なくとも一方の面上に、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−co−3−ヒドロキシヘキサノエート)及び接着剤を含有する塗工層を有する塗工紙であって、
この塗工層中におけるポリ(3−ヒドロキシブチレート−co−3−ヒドロキシヘキサノエート)と接着剤の固形分重量比(PHBH/接着剤)が99.9/0.1〜60.0/40.0であり、
この紙基材のJIS P 8124に準じて測定した坪量が、150g/m以上600g/m以下である塗工紙に関する。
なお、本明細書において「A〜B」(A、Bは数値)との記載は、A、Bを含む数値範囲、すなわち「A以上B以下」を意味する。
【0010】
(紙基材)
紙基材は、主としてパルプからなるシートであり、更に填料、各種助剤等を含む紙料を抄紙して得られる。
パルプとしては、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、針葉樹未漂白パルプ(NUKP)、サルファイトパルプなどの化学パルプ、ストーングラインドパルプ、サーモメカニカルパルプなどの機械パルプ、脱墨パルプ、古紙パルプなどの木材繊維、ケナフ、竹、麻などから得られた非木材繊維などを用いることができ、適宜配合して用いることが可能である。これらの中でも、紙基材中への異物混入が発生し難いこと、古紙原料としてリサイクル使用する際に経時変色が発生し難いこと、高い白色度を有するため印刷時の面感が良好となり、特に包装材料として使用した場合の使用価値が高くなることなどの理由から、木材繊維の化学パルプ、機械パルプを用いることが好ましく、化学パルプを用いることがより好ましい。具体的には、全パルプに対するLBKP、NBKP等の化学パルプの配合量が80%以上であることが好ましく、化学パルプの配合量が100%であることが特に好ましい。
【0011】
填料としては、タルク、カオリン、焼成カオリン、クレー、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、ホワイトカーボン、ゼオライト、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化珪素、非晶質シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、硫酸バリウム、硫酸カルシウムなどの無機填料、尿素−ホルマリン樹脂、ポリスチレン樹脂、フェノール系樹脂、微小中空粒子等の有機填料等の公知の填料を使用することができる。なお、填料は、必須材料ではなく、使用しなくてもよい。
【0012】
各種助剤としては、ロジン、アルキルケテンダイマー(AKD)、アルケニルコハク酸無水物(ASA)などのサイズ剤、ポリアクリルアミド系高分子、ポリビニルアルコール系高分子、カチオン化澱粉、各種変性澱粉、尿素・ホルマリン樹脂、メラミン・ホルマリン樹脂などの乾燥紙力増強剤、湿潤紙力増強剤、歩留剤、濾水性向上剤、凝結剤、硫酸バンド、嵩高剤、染料、蛍光増白剤、pH調整剤、消泡剤、紫外線防止剤、退色防止剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤等が例示可能であり、必要に応じて適宜選択して使用可能である。
【0013】
紙基材は、その表面が各種薬剤で処理されていてもよい。薬剤としては、酸化澱粉、ヒドロキシエチルエーテル化澱粉、酵素変性澱粉、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、表面サイズ剤、耐水化剤、保水剤、増粘剤、滑剤などを例示することができ、これらを単独あるいは2種類以上を混合して用いることができる。さらに、これらの各種薬剤と顔料を併用してもよい。顔料としてはカオリン、クレー、エンジニアードカオリン、デラミネーテッドクレー、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、マイカ、タルク、二酸化チタン、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、酸化亜鉛、珪酸、珪酸塩、コロイダルシリカ、サチンホワイトなどの無機顔料および密実型、中空型、またはコアーシェル型などの有機顔料などを単独または2種類以上を混合して使用することができる。
【0014】
紙基材の坪量は、150g/m以上600g/m以下である。この坪量の紙基材は、紙コップ、紙容器、紙箱、紙皿、紙トレー等に好適に使用することができる。紙基材の坪量は、150g/m以上300g/m以下のものが好ましい。
また、紙基材の密度は、所望される各種品質や取り扱い性等により適宜選択可能であるが、通常は0.5g/cm以上1.0g/cm以下のものが好ましい。
【0015】
紙基材は、JIS P8155:2010に準拠して測定される王研式平滑度が、100秒以下であることが好ましく、70秒以下であることがより好ましく、55秒以下であることがさらに好ましい。平滑度が小さい(面が粗い)紙基材を用いることにより、塗工層と紙基材との密着性を高くすることができる。
【0016】
紙基材の製造(抄紙)方法は特に限定されるものではなく、長網抄紙機、円網抄紙機、短網抄紙機、ギャップフォーマー型、ハイブリッドフォーマー型(オントップフォーマー型)等のツインワイヤー抄紙機等、公知の製造(抄紙)方法、抄紙機が選択可能である。また、抄紙時のpHは酸性領域(酸性抄紙)、疑似中性領域(疑似中性抄紙)、中性領域(中性抄紙)、アルカリ性領域(アルカリ性抄紙)のいずれでもよく、酸性領域で抄紙した後、紙層の表面にアルカリ性薬剤を塗工してもよい。また、紙基材は1層であってもよく、2層以上の多層で構成されていてもよい。
また、紙基材の表面を薬剤で処理する場合、表面処理の方法は特に限定されるものでなく、ロッドメタリングサイズプレス、ポンド式サイズプレス、ゲートロールコーター、スプレーコーター、ブレードコーター、カーテンコーターなど公知の塗工装置を用いることができる。
【0017】
(目止め層)
本発明の塗工紙は、紙基材と塗工層の間に目止め層を有することができる。
目止め層は、塗工層用塗工液の紙基材への沈み込みを抑えることにより、塗工層の性能低下を防ぐものである。目止め層は、塗工層用塗工液の紙基材への沈み込みを抑えることができるものであれば特に制限されないが、例えば、顔料とバインダーとを含むことが好ましい。また、目止め層には、必要に応じてサイズ剤、耐水化剤、撥水剤、染料、界面活性剤等を含有させることができる。
【0018】
顔料としては、例えば軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、カオリン、焼成カオリン、エンジニアードカオリン、クレー、デラミネーテッドクレー、タルク、シリカ、コロイダルシリカ、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、アルミナ、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、カオリナイト、アンチゴライト、スメクタイト、バーミキュライト、マイカなどの無機顔料、アクリル系或いはメタクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、スチレン−アクリル系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、スチレン−イソプレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、シリコーン系樹脂、尿素樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、ジアリルフタレート系樹脂等の樹脂からなる有機顔料などが挙げられる。顔料としては、これらの1種または2種以上を混合して用いることができる。
【0019】
バインダーとしては、塗工紙分野等で一般的に使用されている種類のものを適宜使用できる。例えば、完全ケン化ポリビニルアルコール、部分ケン化ポリビニルアルコール、アセトアセチル化ポリビニルアルコール、カルボキシ変性ポリビニルアルコール、アマイド変性ポリビニルアルコール、スルホン酸変性ポリビニルアルコール、ブチラール変性ポリビニルアルコール、オレフィン変性ポリビニルアルコール、ニトリル変性ポリビニルアルコール、ピロリドン変性ポリビニルアルコール、シリコーン変性ポリビニルアルコール、その他の変性ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合体などのポリビニルアルコール類、(メタ)アクリル酸及び、(メタ)アクリル酸と共重合可能な単量体成分(オレフィンを除く)からなるアクリル系樹脂、エチレン−アクリル系樹脂、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アセチルセルロースなどのセルロース誘導体、酸化澱粉、エーテル化澱粉、エステル化澱粉などの澱粉類、スチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、カゼイン、アラビヤゴム、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸エステル、ポリビニルブチラール、ポリスチロース及びそれらの共重合体、ポリアミド樹脂、シリコーン系樹脂、石油樹脂、テルペン樹脂、ケトン樹脂、クマロン樹脂等を挙げることができる。バインダーとしては、これらの1種または2種以上を混合して用いることができる。
本発明では、目止め層にポリビニルアルコール類、セルロース誘導体、澱粉類等の生分解性を有するバインダーを使用することにより、塗工紙全体としての生分解性をより向上させることができるため好ましい。
【0020】
水蒸気バリア性が高いバインダーを用いることにより、目止め層に水蒸気バリア性を付与することができる。目止め層に水蒸気バリア性を付与する場合、バインダーとしては、エチレンビニルアルコール共重合体、エチレン−アクリル系樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体から選択される1種または2種以上を混合して使用することが好ましい。
目止め層における顔料の配合量は、乾燥重量でバインダー100重量部に対して、1重量部以上1000重量部以下の範囲で使用されることが好ましく、より好ましくは10重量部以上500重量部以下である。
【0021】
(塗工層)
塗工層は、PHBHと接着剤とを固形分重量比(PHBH/接着剤)が99.9/0.1〜60.0/40.0の範囲内で含む。
<PHBH>
PHBHは、3−ヒドロキシブチレート(以下、3HBともいう。)と3−ヒドロキシヘキサノエート(以下、3HHともいう。)との共重合体であり、微生物が産生することが知られている生分解性樹脂である。本発明において、PHBHは、微生物由来のものを用いてもよく、石油資源由来のものを用いてもよいが、微生物由来のものを用いることが環境負荷低減の点から好ましい。
【0022】
PHBHを産生する微生物としては、細胞内にPHBHを蓄積する微生物であればとくに限定されないが、A.lipolytica、A.eutrophus、A.latusなどのアルカリゲネス属(Alcaligenes)、シュウドモナス属(Pseudomonas)、バチルス属(Bacillus)、アゾトバクター属(Azotobacter)、ノカルディア属(Nocardia)、アエロモナス属(Aeromonas)などの菌があげられる。なかでも、PHBHの生産性の点で、とくにアエロモナス・キャビエなどの菌株、さらにはPHA合成酵素群の遺伝子を導入したアルカリゲネス・ユウトロファス AC32(受託番号FERM BP−6038、寄託日平成9年8月7日、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター、あて名;日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6))(J.Bacteriol.,179,4821−4830頁(1997))などが好ましい。また、アエロモナス属の微生物であるアエロモナス・キャビエ(Aeromonas.caviae)からPHBHを得る方法は、たとえば、特開平05−093049号公報に開示されている。なお、これらの微生物は、適切な条件下で培養して、菌体内にPHBHを蓄積させて用いられる。
培養に用いる炭素源、培養条件は、特開平05−093049号公報、特開2001−340078号公報等に記載の方法に従い得ることができるが、これらには限定されない。
【0023】
PHBHの組成比(モル%)は、3HB:3HH=97:3〜75:25が好ましく、95:5〜85:15がより好ましい。3HHの組成が3モル%未満ではPHBHの特性が3HBホモポリマーの特性に近くなり柔軟性が失われるとともに成膜加工温度が高くなりすぎて好ましくない傾向がある。3HHの組成が25モル%を越えると結晶化速度が遅くなりすぎ成膜加工に適さず、また、結晶化度が下がることで、樹脂が柔軟になり曲げ弾性率が低下する傾向がある。PHBHの組成比は、水性分散液を遠心分離したのち、乾燥させて得られたパウダーをNMR分析により測定することができる。
微生物産生PHBHはランダム共重合体である。共重合体のモル比を調整するために、菌体の選択、原料となる炭素源の選択、異なるモル比のPHBHとのブレンド、3HBホモポリマーとのブレンドなどの方法がある。
【0024】
本発明の一実施形態において、水性分散液中のPHBHの重量平均分子量は、5万〜55万であり、好ましくは、10万〜50万であり、より好ましくは、15万〜45万である。水性分散液中のPHBHの重量平均分子量が上記範囲内であることにより、当該PHBHを含む水性分散液が、低温での成膜が可能であり、かつ、得られる塗工紙が良好なヒートシール適性を有するとの効果を奏する。なお、水性分散液中のPHBHの重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC、昭和電工社製「Shodex GPC−101」等)によって、カラムにポリスチレンゲル(昭和電工社製「Shodex K−804」等)を用い、クロロホルムを移動相とし、ポリスチレン換算した場合の分子量として求めることができる。なお、測定用試料としては、PHBHを含む水性分散液を遠心分離した後、乾燥させて得られたパウダーを用いる。
【0025】
本発明の水性分散液中のPHBHの平均粒径は、0.1〜50μmであることが好ましく、0.5〜10μmであることがより好ましい。平均粒径が0.1μm未満のPHBHは微生物産生では達成困難であり、また、化学合成法で得る場合にも、微粒子化するという操作が必要となる。平均粒径が50μmを越えるとPHBHを含有する水性分散液を塗布した場合に表面に塗布むらが起こる場合がある。なお、PHBHの平均粒径は、マイクロトラック粒度計(日機装製、FRA)など汎用の粒度計を用い、PHBHの水懸濁液を所定濃度に調整し、正規分布の全粒子の50%蓄積量に対応する粒径をいう。
前記水性分散液中のPHBHの固形分濃度は、5〜70重量%が好ましく、10〜50重量%がより好ましい。固形分濃度が5重量%未満では塗膜の形成がうまくいかない傾向がある。70重量%を超えると水性分散液の粘度が高くなりすぎ、塗工が困難になる傾向がある。
【0026】
<接着剤>
接着剤は、塗工層中のPHBHと紙基材、および/または塗工層中のPHBH同士を接着するものである。本発明の塗工紙は、塗工層が接着剤を含むことにより、PHBHを紙基材の上に密着させることができ、また、クラック、ピンホール等の塗工欠陥が抑制された均一な塗工層を得ることができる。
接着剤は、水に溶解または分散して、これらを接着できるものであれば、特に限定することなく使用することができる。例えば、完全ケン化ポリビニルアルコール、部分ケン化ポリビニルアルコール、アセトアセチル化ポリビニルアルコール、カルボキシ変性ポリビニルアルコール、アマイド変性ポリビニルアルコール、スルホン酸変性ポリビニルアルコール、ブチラール変性ポリビニルアルコール、オレフィン変性ポリビニルアルコール、ニトリル変性ポリビニルアルコール、ピロリドン変性ポリビニルアルコール、シリコーン変性ポリビニルアルコール、その他の変性ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合体などのポリビニルアルコール類、酸化澱粉、エーテル化澱粉、エステル化澱粉などの澱粉類、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アセチルセルロース、ナノセルロースなどのセルロース誘導体、部分ケン化エチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体の共役ジエン系重合体ラテックス、アクリル系重合体ラテックス、スチレン−無水マレイン酸共重合体ラテックス、ポリ塩化ビニルラテックス、ポリ酢酸ビニルラテックス等が挙げられ、これらの1種類以上を適宜選択して使用することができる。
これらの中で、ポリビニルアルコール類、澱粉類、セルロース誘導体、部分ケン化エチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体の共役ジエン系重合体ラテックス、アクリル系重合体ラテックスからなる群より選ばれる少なくとも1種類を含むことが好ましく、この群より選ばれる少なくとも1種類からなることがより好ましい。また、生分解性であるため、ポリビニルアルコール類、澱粉類、セルロース誘導体、部分ケン化エチレン−酢酸ビニル共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種類を含むことがより好ましく、完全ケン化ポリビニルアルコール、部分ケン化ポリビニルアルコール、部分ケン化エチレン−酢酸ビニル共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種類を含むことがさらに好ましい。
【0027】
接着剤として完全ケン化ポリビニルアルコール、部分ケン化ポリビニルアルコールの少なくとも1種を含むと、塗工層中のPHBHと紙基材、および/または塗工層中のPHBH同士の接着がさらに良好となるため好ましく、完全ケン化ポリビニルアルコール、部分ケン化ポリビニルアルコールの少なくとも1種からなることがより好ましい。
また、接着剤として部分ケン化エチレン−酢酸ビニル共重合体を含むと、塗工層中のPHBHと紙基材、および/または塗工層中のPHBH同士の接着がさらに良好となると共に、塗工紙の耐水性が良好となるため好ましく、部分ケン化エチレン−酢酸ビニル共重合体からなることがより好ましい。
【0028】
塗工層は、PHBHと接着剤とを、固形分重量比(PHBH/接着剤)が99.9/0.1〜60.0/40.0の範囲内で含む。接着剤がこの範囲よりも少ないと、塗工層にクラック、ピンホール等の塗工欠陥が発生しやすくなり、また、塗工層の表面強度や塗工層と紙基材との密着が低下する場合がある。接着剤がこの範囲よりも多いと、PHBHの有する機能性が十分に発揮できなくなる場合がある。PHBHと接着剤との固形分重量比は、94.0/6.0〜75.0/25.0であることが好ましく、92.0/8.0〜78.0/22.0であることがより好ましく、90.0/10.0〜80.0/20.0であることがさらに好ましい。
なお、塗工層は、PHBHと接着剤の他に、必要に応じて、分散剤、粘性改良剤、保水剤、消泡剤、耐水化剤、蛍光染料、着色染料、着色顔料、界面活性剤、pH調整剤、カチオン性樹脂、アニオン性樹脂、紫外線吸収剤、金属塩など、製紙分野において塗工液に配合される各種助剤を含むことができる。
【0029】
塗工層は、PHBHを含むため、PHBHの有する機能性を発揮させることができ、例えば、ヒートシール層、耐水層、耐油層等として用いることができる。なお、塗工層は、紙基材の片面のみ、または両面に設けることができる。
ヒートシール層とは、ヒートシール適性を有する層であり、具体的には、加熱圧着することで接着対象に接着することができる層である。
耐水層とは、JIS P 8140:1998に規定される「紙及び板紙−吸水度試験方法−コッブ法」に準拠して、接触時間120秒で測定した吸水度(コッブ値)が20g/m以下の層である。この吸水度は、10g/m以下であることが好ましく、5g/m以下であることがより好ましい。
耐油層とは、J.TAPPI No.41:2000に規定される「紙及び板紙−はつ油度試験方法−キット法」に準拠して、層表面の任意の5点で測定したキットナンバーの最低値が10以上の層である。このキットナンバーの最低値は、11以上であることが好ましく、12であることがより好ましい。
【0030】
<塗工紙の製造方法>
本発明の塗工紙は、紙基材に、塗工層用塗工液を、塗工、乾燥することにより、製造することができる。目止め層を設ける場合は、紙基材と塗工層の間に目止め層を有するように、紙基材に塗工層用塗工液を塗工する前、または塗工層用塗工液の塗工と同時に、目止め層用塗工液を塗工する。
【0031】
目止め層及び塗工層の塗工方法は特に限定されるものではなく、公知の塗工装置および塗工系で塗工することができる。例えば、塗工装置としてはブレードコーター、バーコーター、エアナイフコーター、カーテンコーター、スプレーコーター、ロールコーター、リバースロールコーター、サイズプレスコーター、ゲートロールコーター等が挙げられる。また、塗工系としては、水等の溶媒を使用した水系塗工、有機溶剤等の溶媒を使用した溶剤系塗工などが挙げられる。本発明の塗工紙は、PHBHがバイオマス由来かつ生分解性という特性を有し、環境への負荷が小さいため、製造工程においても環境への負荷が小さい水系塗工であることが好ましい。
目止め層用塗工液、塗工層用塗工液の粘度、固形分濃度等は、用いる塗工装置、塗工系等に応じて、適宜調整することができる。
【0032】
目止め層、塗工層を乾燥させる手法としては、例えば、蒸気加熱ヒーター、ガスヒーター、赤外線ヒーター、電気ヒーター、熱風加熱ヒーター、マイクロウェーブ、シリンダードライヤー等の通常の方法が用いられる。
乾燥温度を高くするとPHBHの成膜が促進され、ヒートシール性、耐水性、耐油性が発現しやすくなる傾向が見られるため好ましい。
【0033】
目止め層の塗工量(乾燥重量)は、3.0g/m以上15.0g/m以下とすることが好ましい。塗工量が3.0g/m未満であると目止め効果が不十分である場合がある。一方、15.0g/mより多いと、塗工時の乾燥負荷が大きくなり、操業面、コスト面の両方の観点より好ましくない。
目止め層は1層であっても2層以上であってもよい。目止め層が2層以上である場合は、全ての目止め層の塗工量を合計した塗工量が、乾燥重量で上記した範囲であることが好ましい。
【0034】
塗工層の塗工量(乾燥重量)は、その性能を発揮できるのであれば特に制限されないが、例えば、片面あたり1.0g/m以上50.0g/m以下であることが好ましい。塗工量が片面あたり1.0g/m未満では、PHBHに由来する性能が十分に発揮できない場合がある。また、塗工量が片面あたり50.0g/mを超えても、それ以上の特性向上はほとんど望めず、コストが増加する。塗工層の塗工量(乾燥重量)は、片面あたり5.0g/m以上40.0g/m以下がより好ましく、9.0g/m以上30.0g/m以下がさらに好ましい。
塗工層は1層であっても2層以上であってもよい。塗工層が2層以上である場合は、全ての塗工層の塗工量を合計した塗工量が、乾燥重量で上記した範囲であることが好ましい。
【0035】
本発明の塗工紙は、塗工層が備える機能に応じて、様々な用途に用いることができる。また、塗工層は、ヒートシール層、耐水層、耐油層等から選択される2以上の層の機能を同時に備えることができる。
塗工層がヒートシール層である塗工紙は、成形、形状の維持、密封性の確保が容易であるため、紙袋、紙容器、紙箱、紙コップ、包装材、蓋材等として好適に用いることができる。
塗工層が耐水層である塗工紙は、包装紙、紙袋、紙容器、紙箱、紙コップ、包装材、紙皿、紙トレー、屋外で使用されるポスター等として好適に用いるができる。
塗工層が耐油層である塗工紙は、ハンバーガー、ホットドッグ、フライドポテト、唐揚げ、ポテトチップス等の油分を多く含む食品用の包装材や包装紙、天ぷら等の揚げ物用の敷き紙、紙皿、紙トレー、紙コップ等として好適に用いることができる。
【0036】
本発明の塗工紙は、上記したとおり紙基材と塗工層の間に目止め層を有する場合に塗工層の性能低下が抑制される。特に、紙コップ、紙容器、紙箱、紙皿、紙トレー等の用途においては、目止め層を有することにより、塗工層の性能低下が特に有効に抑制されるため好ましい。
【実施例】
【0037】
以下に実施例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明は、もちろんこれらの例に限定されるものではない。なお、特に断らない限り、例中の部および%は、それぞれ重量部、重量%を示す。なお、得られた塗工紙について以下に示す様な評価法に基づいて試験を行った。
【0038】
[実施例1]
(塗工層用塗工液1の調製)
特許文献4に記載の方法で、PHBHの固形分濃度が50重量%のPHBH水性分散液を得た。次いで、このPHBH水性分散液を60℃で加水分解して分子量を調整することにより、PHBHの重量平均分子量が23万のPHBH水性分散液を得た。
次いで、前記PHBH水性分散液及び接着剤(完全ケン化ポリビニルアルコール、クラレ社製:28−98)を固形分重量比で99.9/0.1となるように混合し、更に水を加えて撹拌し、PHBHと接着剤を合わせた固形分濃度が40重量%の塗工層用塗工液1を調製した。
【0039】
(塗工紙の作製)
紙基材(坪量200g/mのカップ原紙、王研式平滑度55秒)の片面に、塗工層用塗工液1を乾燥重量で塗工量20.0g/mとなるようにバーブレード法で塗工し、160℃で乾燥して、塗工紙を得た。
なお、本明細書において、紙基材の王研式平滑度は、JIS P8155に準拠して、デジタル型王研式透気度平滑度試験機(旭精工株式会社製)を用いて測定した。
【0040】
[実施例2]
塗工層用塗工液1のPHBH水性分散液及び接着剤を固形分重量比で99.0/1.0に変更した以外は、実施例1と同様にして、塗工紙を得た。
[実施例3]
塗工層用塗工液1のPHBH水性分散液及び接着剤を固形分重量比で98.0/2.0に変更した以外は、実施例1と同様にして、塗工紙を得た。
[実施例4]
塗工層用塗工液1のPHBH水性分散液及び接着剤を固形分重量比で90.0/10.0に変更した以外は、実施例1と同様にして、塗工紙を得た。
[実施例5]
塗工層用塗工液1のPHBH水性分散液及び接着剤を固形分重量比で80.0/20.0に変更した以外は、実施例1と同様にして、塗工紙を得た。
[実施例6]
塗工層用塗工液1のPHBH水性分散液及び接着剤を固形分重量比で75.0/25.0に変更した以外は、実施例1と同様にして、塗工紙を得た。
[実施例7]
塗工層用塗工液1のPHBH水性分散液及び接着剤を固形分重量比で70.0/30.0に変更した以外は、実施例1と同様にして、塗工紙を得た。
[実施例8]
塗工層用塗工液1のPHBH水性分散液及び接着剤を固形分重量比で60.0/40.0に変更した以外は、実施例1と同様にして、塗工紙を得た。
【0041】
[実施例9]
(塗工層用塗工液2の調製)
PHBH水性分散液及び接着剤(部分ケン化エチレン−酢酸ビニル共重合体、クラレ社製:RS−1713)を固形分重量比で98.0/2.0となるように混合し、更に水を加えて撹拌し、PHBHと接着剤を合わせた固形分濃度が固形分濃度40重量%の塗工層用塗工液2を調製した。
(塗工紙の作製)
塗工層用塗工液1を塗工層用塗工液2に変更した以外は、実施例1と同様にして、塗工紙を得た。
【0042】
[実施例10]
(目止め層用塗工液の調製)
カオリン(イメリス社製:KCS)及びバインダー(完全ケン化ポリビニルアルコール、クラレ社製:28−98)を固形分重量比で90.0/10.0となるように混合し、更に水を加えて撹拌し、固形分濃度35重量%の目止め層用塗工液を調製した。
(塗工紙の作製)
紙基材(坪量200g/mのカップ原紙)の片面に、目止め層用塗工液を乾燥重量で塗工量10.0g/mとなるようにバーブレード法で塗工、乾燥し、目止め層塗工紙を得た。
この目止め層塗工紙の目止め層上に、塗工層用塗工液2を乾燥重量で塗工量20.0g/mとなるようにバーブレード法で塗工し、160℃で乾燥して、塗工紙を得た。
【0043】
[実施例11]
塗工層用塗工液2のPHBH水性分散液及び接着剤を固形分重量比で90.0/10.0に変更した以外は、実施例9と同様にして、塗工紙を得た。
【0044】
[実施例12]
(塗工層用塗工液3の調製)
PHBH水性分散液及び接着剤(酸化澱粉、三和澱粉工業社製:PLV−500)を固形分重量比で90.0/10.0となるように混合し、更に水を加えて撹拌し、固形分濃度が40重量%の塗工層用塗工液3を調製した。
(塗工紙の作製)
塗工層用塗工液1を塗工層用塗工液3に変更した以外は、実施例1と同様にして、塗工紙を得た。
【0045】
[実施例13]
塗工層を乾燥重量で塗工量1.0g/mとなるように変更した以外は、実施例9と同様にして、塗工紙を得た。
[実施例14]
塗工層を乾燥重量で塗工量5.0g/mとなるように変更した以外は、実施例9と同様にして、塗工紙を得た。
[実施例15]
塗工層を乾燥重量で塗工量10.0g/mとなるように変更した以外は、実施例9と同様にして、塗工紙を得た。
[実施例16]
塗工層を乾燥重量で塗工量30.0g/mとなるように変更した以外は、実施例9と同様にして、塗工紙を得た。
[実施例17]
塗工層を乾燥重量で塗工量40.0g/mとなるように変更した以外は、実施例9と同様にして、塗工紙を得た。
[実施例18]
塗工層を乾燥重量で塗工量50.0g/mとなるように変更した以外は、実施例9と同様にして、塗工紙を得た。
【0046】
[実施例19]
紙基材(坪量200g/mのカップ原紙)の片面に、目止め層用塗工液を乾燥重量で塗工量10.0g/mとなるようにバーブレード法で塗工、乾燥し、目止め層塗工紙を得た。
この目止め層塗工紙の目止め層上に、塗工層用塗工液2を乾燥重量で塗工量10.0g/mとなるようにバーブレード法で塗工し、160℃で乾燥して、塗工紙を得た。
【0047】
[比較例1]
塗工層用塗工液1のPHBH水性分散液及び接着剤(完全ケン化ポリビニルアルコール)を固形分重量比で100/0に変更した以外は、実施例1と同様にして、塗工紙を得た。
[比較例2]
塗工層用塗工液1のPHBH水性分散液及び接着剤(完全ケン化ポリビニルアルコール)を固形分重量比で50.0/50.0に変更した以外は、実施例1と同様にして、塗工紙を得た。
[比較例3]
塗工層用塗工液3のPHBH水性分散液及び接着剤(酸化澱粉)を固形分重量比で50.0/50.0に変更した以外は、実施例12と同様にして、塗工紙を得た。
【0048】
[実施例20]
王研式平滑度10秒の紙基材に変更した以外は、実施例9と同様にして、塗工紙を得た。
[実施例21]
王研式平滑度40秒の紙基材に変更した以外は、実施例9と同様にして、塗工紙を得た。
[実施例22]
王研式平滑度50秒の紙基材に変更した以外は、実施例9と同様にして、塗工紙を得た。
【0049】
[実施例23]
王研式平滑度60秒の紙基材に変更した以外は、実施例9と同様にして、塗工紙を得た。
[実施例24]
王研式平滑度80秒の紙基材に変更した以外は、実施例9と同様にして、塗工紙を得た。
[実施例25]
王研式平滑度90秒の紙基材に変更した以外は、実施例9と同様にして、塗工紙を得た。
【0050】
[実施例26]
塗工層用塗工液2のPHBH水性分散液及び接着剤を固形分重量比で95.0/5.0に変更した以外は、実施例25と同様にして、塗工紙を得た。
[実施例27]
塗工層用塗工液2のPHBH水性分散液及び接着剤を固形分重量比で93.0/7.0に変更した以外は、実施例25と同様にして、塗工紙を得た。
[実施例28]
塗工層用塗工液2のPHBH水性分散液及び接着剤を固形分重量比で90.0/10.0に変更した以外は、実施例25と同様にして、塗工紙を得た。
【0051】
[実施例29]
塗工層用塗工液2のPHBH水性分散液及び接着剤を固形分重量比で80.0/20.0に変更した以外は、実施例25と同様にして、塗工紙を得た。
[実施例30]
塗工層用塗工液2のPHBH水性分散液及び接着剤を固形分重量比で70.0/30.0に変更した以外は、実施例25と同様にして、塗工紙を得た。
[実施例31]
塗工層用塗工液2のPHBH水性分散液及び接着剤を固形分重量比で60.0/40.0に変更した以外は、実施例25と同様にして、塗工紙を得た。
【0052】
[実施例32]
坪量200g/m、王研式平滑度90秒の紙基材に変更した以外は、実施例19と同様にして、塗工紙を得た。
[実施例33]
塗工層を乾燥重量で塗工量5.0g/mとなるように変更した以外は、実施例20と同様にして、塗工紙を得た。
【0053】
(評価方法)
得られた塗工紙について、以下に示す評価を行った。結果を表1、2に示す。
(1)塗工欠陥
走査型電子顕微鏡を用いて塗工層表面の観察を行い、1mm四方中(面積1mm)でのクラック、ピンホール等の塗工欠陥の有無を確認した。以下の基準で塗工欠陥を評価した。
[評価基準]
〇:塗工欠陥が無い。
×:塗工欠陥が有る。
【0054】
(2)紙基材との接着性
塗工層表面にセロハンテープ(幅25mm)を貼合し、セロハンテープの上で幅130mm、重量1.8kgのゴムローラーを自重で5往復させて、セロハンテープを塗工層表面に密着させた。
直後にセロハンテープを勢いよく剥離し、セロハンテープを貼合した面積に対するセロハンテープに付着して塗工層が紙基材表面から剥離した面積(界面破壊の面積)の割合、または、塗工層とともに紙基材の一部がセロハンテープに付着して紙基材が破壊された面積(紙基材内部破壊の面積)の割合を算出した。以下の基準で紙基材との接着性を評価した。評価が◎〇△であれば実用上問題がない。なお、塗工層が剥離した面積の割合と紙基材が破壊された面積の割合とで評価が異なる場合は、より厳しい評価となる方を採用した。
[評価基準]
◎:塗工層が剥離した面積の割合が5%未満、
または、紙基材が破壊された面積の割合が95%以上。
〇:塗工層が剥離した面積の割合が5%以上10%未満、
または、紙基材が破壊された面積の割合が90%以上95%未満。
△:塗工層が剥離した面積の割合が10%以上30%未満、
または、紙基材が破壊された面積の割合が70%以上90%未満。
×:塗工層が剥離した面積の割合が30%以上、
または、紙基材が破壊された面積の割合が70%未満。
【0055】
(3)ヒートシール適性
得られた塗工紙から1辺100mmの正方形の試験片を2枚切り出し、塗工層同士を接触させて、加圧温度160℃、加圧圧力2kgf/cm、加圧時間1秒でヒートシールした。
ヒートシールした試験片を手で剥離させた際の、剥離部分を目視で観察し、以下の基準でヒートシール適性を評価した。評価が〇△であれば実用上問題がない
[評価基準]
〇:紙基材内で剥離する(紙基材が破壊される)。
△:大部分が紙基材内で剥離する(紙基材が破壊される)。
×:塗工層間で剥離する。
【0056】
(4)耐水性
JIS P 8140:1998に規定される「紙及び板紙−吸水度試験方法−コッブ法」に準拠して、塗工層表面の任意の2点で接触時間120秒の吸水度(コッブ値)を測定した。
測定した2点の吸水度(コッブ値)の平均値を耐水性の値として採用し、以下の基準で耐水性を評価した。評価が◎〇△であれば実用上問題がない。
[評価基準]
◎:吸水度(コッブ値)の平均値が5g/m以下。
〇:吸水度(コッブ値)の平均値が5g/mを超え10g/m以下。
△:吸水度(コッブ値)の平均値が10g/mを超え20g/m以下。
×:吸水度(コッブ値)の平均値が20g/mを超える。
【0057】
(5)耐油性
JAPAN TAPPI No.41:2000に規定される「紙及び板紙−はつ油度試験方法−キット法」に準拠して、塗工層表面の任意の5点でキットナンバーを測定した。
測定した5点のキットナンバーの平均値を耐油性の値として採用し、以下の基準で耐水性を評価した。評価が〇△であれば実用上問題がない。
[評価基準]
〇:キットナンバーの平均値が12。
△:キットナンバーの平均値が10以上12未満。
×:キットナンバーの平均値が10未満。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
本発明である実施例1〜33の塗工紙は、塗工層の塗工欠陥がなく、塗工層が含むPHBHに由来する性能を発揮することができた。実施例9、20〜25より、紙基材が平滑(王研式平滑度の値が大きくなる)になると、紙基材と塗工層との接着性が低下する傾向が見られたが、塗工層中の接着剤の比率を大きくすることにより、紙基材との接着性を改善することができた。
塗工層が接着剤を含まない比較例1で得られた塗工紙は、塗工層に塗工欠陥が見られ、塗工層と紙基材との接着性に劣っていた。
塗工層が接着剤を多く含む比較例2、3で得られた塗工紙は、塗工欠陥のない塗工層が得られたが、PHBHに由来する性能を十分に発揮できなかった。