【解決手段】電動車両の駆動源である第1モータMa及び第2モータMbを備え、電動車両の走行開始時に第1モータMaを駆動する1モータ駆動を行い、第1モータMaの回転数が所定の回転数に達した際に、第1モータMaと共に第2モータMbを駆動させる2モータ駆動を行うように第1モータMa及び第2モータMbの各々の回転を制御する。遊星歯車機構12を含む歯車機構は、1モータ駆動の際の総減速比が最大となるように、構成されている。
最高車速時の前記第1モータの回転数を上限回転数とし、前記1モータ駆動の際の前記総減速比が最大となるように、前記歯車機構の複数の減速比が設定されている請求項1に記載の電動車両の駆動装置。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施形態の一例を詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る電動車両の駆動装置10の構成を示す概略図である。
図1に示すように、本実施形態に係る電動車両の駆動装置10は、第1モータMa及び第2モータMbを備え、第1モータMa及び第2モータMbの各々の動力は、遊星歯車機構12に各々伝達される。遊星歯車機構12に伝達された動力は、差動装置を含む最終減速機14を介して左右の駆動輪16に供給される。
【0019】
遊星歯車機構12は、いわゆるラビニヨ式遊星歯車であり、第1モータMaが接続される第1サンギヤ18と、第2モータMbが接続される第2サンギヤ20とを有する。第2サンギヤ20は、プラネタリキャリア22( 以下、「キャリア22」と略記) に回転可能に支持された複数の外側プラネタリピニオン24( 以下、「外側ピニオン24」と略記)と噛み合っている。第1サンギヤ18は、キャリア22に回転可能に支持された複数の内側プラネタリピニオン26( 以下、「内側ピニオン26」と略記)と噛み合っている。各内側ピニオン26は、各々1個の外側ピニオン24とも噛み合っている。第1サンギヤ18、第2サンギヤ20及びキャリア22の各々は共通の軸線周りに回動可能である。
【0020】
また、キャリア22は、出力要素として出力ギヤ28を有する。出力ギヤ28は、最終減速機14の差動装置と一体に回転する被駆動ギヤ30と共に最終減速歯車対32を構成する。
【0021】
遊星歯車機構12は、第1サンギヤ18と外側ピニオン24と内側ピニオン26とからなる第1遊星歯車列34 と、第2サンギヤ20と外側ピニオン24とからなる第2遊星歯車列36とを含む複合型の遊星歯車機構である。第1遊星歯車列34 はダブルピニオン型の遊星歯車列であり、第2遊星歯車列36はシングルピニオン型の遊星歯車列である。
【0022】
第1サンギヤ18は第1入力軸38に固定され、第1入力軸38は第1入力歯車対40を介して第1モータMaの出力軸である第1電動機軸42に接続されている。また、第1電動機軸42自体を第1入力軸38としてもよい。第2サンギヤ20は第2入力軸44に固定され、さらに第2入力軸44は第2入力歯車対46を介して第2モータMbの出力軸である第2電動機軸48に接続されている。また、第2電動機軸48自体を第2入力軸44としてもよい。第1入力歯車対40及び第2入力歯車対46は、第1電動機軸42及び第2電動機軸48と第1入力軸38及び第2入力軸44との各々の間の動力伝達に係る構成である。
【0023】
遊星歯車機構12は、3要素2自由度機構であり、3つの要素のうち2つの要素の回転数が定まると、残り1つの要素の回転数が一意に決定される。例えば、第1サンギヤ18と第2サンギヤ20との各々の回転数が定まると、第1サンギヤ18と第2サンギヤ20との各々の回転数に応じてキャリア22の回転数が決定される。
【0024】
第1モータMaから第1サンギヤ18に至る伝達系に、車両が前進するときの第1サンギヤ18の回転方向の回転を許容し、後進方向の回転を阻止するワンウェイクラッチ50が第1入力軸38上に設けられている。
【0025】
駆動装置10は、第1モータMaの出力のみで車両を駆動する1モータ駆動と、第1モータMa及び第2モータMbの各々の出力により車両を駆動する2モータ駆動との2つの駆動方式で車両を駆動することができる。1モータ駆動は、低速、低負荷の条件で使用され、2モータ駆動は、高速、高負荷の条件で使用される。
【0026】
図2は、1モータ駆動の場合の動力の流れを示す説明図である。第1モータMaの出力は、第1入力歯車対40を介して第1入力軸38及び第1サンギヤ18に伝達されて第1遊星歯車列34を動作させる。第1サンギヤ18及び第2サンギヤ20の各々の回転数に応じてキャリア22の回転数が定まり、キャリア22の回転は、最終減速機14を介して駆動輪16に伝わる。
【0027】
図3は、2モータ駆動の場合の動力の流れを示す説明図である。第1モータMaの出力は、第1入力歯車対40を介して第1入力軸38及び第1サンギヤ18に伝達される。また、第2モータMbの出力は、第2入力歯車対46を介して第2入力軸44及びび第2サンギヤ20に伝達される。第1サンギヤ18及び第2サンギヤ20の各々の回転数に応じてキャリア22の回転数が定まり、キャリア22の回転は、最終減速機14を介して駆動輪16に伝わる。
【0028】
図4は、車両の動力源である第1モータMaを駆動するための電力を生成するモータ駆動装置100の構成の一例を示すブロック図である。
図4に示したように第1モータMaは三相同期モータであり、モータ駆動装置100は、後述するインバータ140により、直流電源から供給された直流電圧から三相交流様の電圧を生成して第1モータMaの巻線に印加する。本実施形態に係る車両は、第1モータMaと共に第2モータMbを動力源として備えるので、第2モータMb用のモータ駆動装置を第1モータMa用のモータ駆動装置100とは別に備える。しかしながら、第2モータMb用のモータ駆動装置の構成は、第1モータMa用のモータ駆動装置100と略同一なので、詳細な説明は省略する。
【0029】
モータ駆動装置100は、直流電源であるバッテリ112を含む直流電源部110と、直流電源部110から供給された直流電圧から、インバータ140によるPWM(Pulse Width Modulation)で第1モータMaの巻線であるコイル162に印加する三相交流様の電圧を生成するインバータ部130と、インバータ140を構成するスイッチング素子であるトランジスタ142U、142V、142W、144U、144V、144Wのスイッチングの制御に係るPWM信号を出力するモータ制御装置180と、モータ制御装置180が出力したPWM信号を、トランジスタ142U、142V、142W、144U、144V、144Wをオンが可能な程度に増幅してインバータ140に出力するモータドライブ回路190と、を備えている。
【0030】
第1モータMaは、一例として三相交流様の電圧で駆動される三相同期モータであるが、直流で駆動されるブラシ付きのモータでもよく、かかる場合は、インバータ140に代えて、4つのスイッチング素子で構成されたHブリッジ回路を有する駆動回路を備える。
【0031】
直流電源部110のバッテリ112は、リチウムイオン電池又はニッケル水素電池等の充放電が可能な二次電池であり、複数のセルを直列に配設することにより、電動輸送機器の走行が可能な数百V程度の電圧が出力可能に構成されている。
【0032】
バッテリ112は、等価的にバッテリ内部抵抗114とバッテリ内部インダクタ116とが直列に接続された回路モデルで表現される。
図4に示したように、バッテリ内部抵抗114は、一端がバッテリ112の正極に接続され、他端がバッテリ内部インダクタ116の一端に接続されているモデルで表現される。バッテリ内部インダクタ116は、前述のように一端がバッテリ内部抵抗114の他端に接続されると共に、当該他端がインバータ部130に接続されるモデルで表される。またバッテリ112の端子部には、正極と負極とを短絡するバッテリ部インダクタ118とバッテリ部コンデンサ120とが接続されている。バッテリ部インダクタ118及びバッテリ部コンデンサ120は、バッテリ112の端子部よりもバッテリ112の本体側に配置されていてもよい。
【0033】
インバータ部130は、三相(U相、V相、W相)インバータ140により構成されている。
図4に示すように、インバータ140は、スイッチング素子であるトランジスタ142U、142V、142W、144U、144V、144Wを備えている。トランジスタ142U、142V、142W、144U、144V、144Wは、一例として、高電圧に対応でき、かつオン抵抗が比較的小さいIGBTであるが、NチャンネルFETでもよい。
【0034】
インバータ140において、トランジスタ142U、142V、142Wの各々は、上段スイッチング素子として機能し、トランジスタ144U、144V、144Wの各々は、下段スイッチング素子として機能する。なお、トランジスタ142U、142V、142W及びトランジスタ144U、144V、144Wは、各々、個々を区別する必要がない場合は「トランジスタ142」、「トランジスタ144」と総称し、個々を区別する必要がある場合は、「U」、「V」、「W」の符号を付して称する。
【0035】
トランジスタ142U、142V、142W、144U、144V、144WがIGBTの場合、トランジスタ142Uのエミッタ及びトランジスタ144Uのコレクタは、コイル162Uの端子に接続されており、トランジスタ142Vのエミッタ及びトランジスタ144Vのコレクタは、コイル162Vの端子に接続されており、トランジスタ142Wのエミッタ及びトランジスタ144Wのコレクタは、コイル162Wの端子に接続されている。
【0036】
トランジスタ142U、142V、142W、144U、144V、144WがFETの場合は、トランジスタ142Uのソース及びトランジスタ144Uのドレインは、コイル162Uの端子に接続されており、トランジスタ142Vのソース及びトランジスタ144Vのドレインは、コイル162Vの端子に接続されており、トランジスタ142Wのソース及びトランジスタ144Wのドレインは、コイル162Wの端子に接続されている。
【0037】
また、インバータ140の正極側端子と負極側端子とは、平滑コンデンサ132によって短絡されている。
【0038】
トランジスタ142U、142V、142W、144U、144V、144Wは、(IGBTであれ、FETであれ)ゲートに正電荷の駆動信号が印加されるとオン状態になる。例えば、トランジスタ142Uがオンかつトランジスタ144Uがオフの場合は、コイル162Uにバッテリ112の電力が通電され、トランジスタ142Uがオフかつトランジスタ144Uがオンの場合は、コイル162Uが接地される。以下同様に、トランジスタ142Vがオンかつトランジスタ144Vがオフの場合は、コイル162Vにバッテリ112の電力が通電され、トランジスタ142Vがオフかつトランジスタ144Vがオンの場合は、コイル162Vが接地され、トランジスタ142Wがオンかつトランジスタ144Wがオフの場合は、コイル162Wにバッテリ112の電力が通電され、トランジスタ142Wがオフかつトランジスタ144Wがオンの場合は、コイル162Wが接地される。
【0039】
インバータ140は、上述のように、トランジスタ142U、142V、142W、144U、144V、144Wをオンオフさせることにより、コイル162U、162V、162Wに通電する。また、インバータ140は、トランジスタ142U、142V、142W、144U、144V、144Wを小刻みにオンオフさせるPWMにより、コイル162U、162V、162Wに印加する電圧を変化させることができる。
【0040】
第1モータMaは、通電されたコイル162U、162V、162Wに生じた磁界に追従して、永久磁石で構成された回転子164が回転する三相同期モータである。コイル162U、162V、162Wの各々の端子(一端)は、前述のようにインバータ140のトランジスタ142U、142V、142W、144U、144V、144Wに接続され、コイル162U、162V、162Wの各々の他端は、1の中性点62Nに接続される星形結線(Y字結線)を呈する。コイル162U、162V、162Wは、星形結線以外に、例えばデルタ結線でもよい。
【0041】
なお、コイル162U、162V、162Wは、各々、個々を区別する必要がない場合は「コイル162」と総称し、個々を区別する必要がある場合は、「U」、「V」、「W」の符号を付して称する。
【0042】
本実施の形態に係るモータ駆動装置100は、コイル162U、162V、162Wへの通電を、インバータ140によって時系列で切り替えることにより、コイル162U、162V、162Wにいわゆる回転磁界を生じさせる。回転子164は、コイル162U、162V、162Wに生じた回転磁界への吸引または当該回転磁界との反発によって回転する。
【0043】
三相同期モータにおいて、コイル162U、162V、162Wへの通電は、回転子164の磁極の位置に応じて行う必要があるので、本実施の形態では、モータ磁極位置検出器170により、回転子164の磁極の位置を検出している。
【0044】
モータ制御装置180は、上位の制御装置である車両ECU(Electronic Control Unit)200から入力された指令信号、モータ磁極位置検出器170によって検出した回転子164の磁極の位置及びインバータ電流センサ150で検出した、インバータ140が出力した電流の値に基づいて、コイル162U、162V、162Wに印加する電圧の波形の位相及び振幅(電圧変化の範囲)を算出し、当該位相及び振幅に応じたパルス信号であるPWM制御信号をモータドライブ回路190に出力する。電圧の波形の位相は、主に回転子164の磁極の位置の変化に対応して決定され、振幅は、インバータ140が出力した電流の値に基づいて上限が定められる。例えば、当該電流値が所定値を超えた場合は、第1モータMaが過負荷のおそれがあるので、電圧波形の振幅を抑制する。
【0045】
モータドライブ回路190は、モータ制御装置180が出力したPWM制御信号を、トランジスタ142、144をオン状態にできる程度に増幅して生成した駆動信号をトランジスタ142、144の各々のゲートに印加する。駆動信号は、PWM制御信号と同様に、回転子164の磁極の位置に応じた位相及び振幅に従ったパルスで構成されているので、インバータ140は、コイル162に回転子164の磁極の位置に応じた回転磁界を生じさせる電圧を生成することができる。
【0046】
後述するように、本実施形態では、第1モータMaのみを駆動する場合と、第1モータMaと共に第2モータMbを駆動する場合とがある。車両を、第1モータMaのみで駆動するか、第1モータMaと第2モータMbとで駆動するか否かは、車両ECU200からモータ制御装置180に入力される指令信号による。
【0047】
以下、本実施形態に係る電動車両の駆動装置10の動作特性に基づく構成について説明する。
図5(A)は、モータの回転数に対するトルク特性の一例を示した概略図である。
図5(A)に示したように、モータの回転数に対するトルク特性には、一般的なモータの駆動制御で達成される常用域と、モータの巻線に供給される電力に比してモータの回転数とトルクとの積で示される当該モータの出力が良好な高効率の領域とが存在する。高効率の領域は、常用域に比して高回転かつ低トルクの傾向を有する。
【0048】
一般にモータは、低回転かつ高トルクで回転させると効率が低下するので、効率を向上させるには、常用域で用いるモータ回転数をできるだけ高くすると共にトルクを小さくする。モータを高回転かつ低トルクで回転させるには、矢印Lowで示したように、ギヤ比をローギヤにすれば全体効率が向上する。
【0049】
図5(B)は、インバータの回転数に対するトルク特性の一例を示した概略図であり、
図5(C)は、ギヤにおける回転数に対するトルク特性の一例を示した概略図である。
図5(B)、(C)に示したように、インバータもギヤもトルクが大きくなると損失が大きくなるため、動作域が高回転かつ低トルク側になる方が、効率が向上する。
【0050】
また、
図5(A)、(B)、(C)に示したように、2モータ駆動では、同一トルクを出力する際に、1モータ駆動に比べモータの回転数を低くできる。後述するように、本実施形態では、低速時は1モータ、高速時は2モータで駆動し、2つのモータの各々の回転数領域をできるだけ高く、かつ各々のトルクは低くなるように設定することにより、効率の低い動作領域での動作頻度を抑制し、電動車両の駆動装置10の効率を向上させる。
【0051】
図6は、第1モータMa及び第2モータMbの各々の回転数とトルクとで示された動作点の変化の一例を示した概略図であり、以下、
図6を参照して各々のモータの回転数及びトルクの変化について説明する。
【0052】
第1モータMa及び第2モータMbの各々の出力軸の回転数を同一のN
oとし、第1モータMa及び第2モータMbの各々の出力軸のトルクTも同一とする。かかる前提の下に、第1モータMaを駆動する1モータ駆動をした場合の第1モータMaの回転数をN
a1、第2モータMbを駆動する1モータ駆動をした場合の第2モータMbの回転数をN
b1とする。また、第1モータMa及び第2モータMbの各々を駆動する2モータ駆動をした場合の第1モータMaの回転数をN
a2、第2モータMbの回転数をN
b2とする。
【0053】
図6に示したように、トルクT
a、T
bは1モータ駆動と2モータ駆動とによらず変わらないとする。また、第1モータMaが回転数N
a1、トルクT
aで回転している場合の出力と、第2モータMbが回転数N
b1、トルクT
bで回転している場合の出力とが等しい場合、下記の式が導かれる。
N
b1T
b=N
a1T
a
【0054】
第1入力歯車対40のギヤ比、すなわち第1モータMaのギヤ比をG
a、第2入力歯車対46のギヤ比、すなわち第2モータMbのギヤ比をG
b、第1サンギヤ18の歯数をZ
DP、第2サンギヤ20の歯車をZ
SP、最終減速機14のギヤ比をG
dとすると、第1モータMaの回転数N
a1及び第2モータMbの回転数N
b1は、下記のようになる。
N
a1=N
oG
aZ
DPG
d
N
b1=N
oG
bZ
SPG
d
【0055】
そして、ラビニヨ式遊星歯車のギヤ比をρ=Z
DP/Z
SPとすると、トルク比α は下記の式(1)で定義される。
【0056】
1モータ駆動時の第2モータMbの回転数をN
b1とし、1モータ駆動から2モータ駆動に切り替えた場合の第1モータMaの回転数N
a2及び第2モータMbの回転数N
b2とする。1モータ駆動から2モータ駆動への切り替え時は、1モータ駆動時における第2モータMbの出力N
b1T
bと、2モータ駆動に移行直後の第1モータMa及び第2モータMbの合計出力であるN
a2T
a+N
b2T
bとが下記の式のように等しくなる。
N
a2T
a+N
b2T
b=N
b1T
b
【0057】
上記の式と式(1)とから、下記の式(2)、(3)が導かれる。
【0058】
図6では、1モータ駆動で第2モータMbが回転数N
b1で回転する場合、及び2モータ駆動で第2モータMbが回転数N
b2で回転する場合のいずれであっても、第2モータMbのトルクT
bは同じである。従って、第1モータMaのトルクT
aが、第2モータMbのトルクT
bよりも大きくなるほど上記の式(1)で示したトルク比αは小さくなり、動作点は、
図6の左上に移動していく。
【0059】
続いて、車両の最高車速条件における各々のモータの回転数及びトルクについて説明する。
図7は、車両が最大車速に加速する場合の第1モータMa及び第2モータMbの各々の動作点の変化の一例を示した概略図である。
【0060】
図7において、第1モータMa及び第2モータMbの各々の出力軸の回転数を同一のN
oとすると、上記の式(2)から下記の式(4)が定義される。
【0061】
複数のギヤ比G
b、G
dを用いて表される、1モータ駆動時の総減速比G
totalを大きくすれば、第2モータMbの動作点が高回転低トルク側になることにより効率の低い領域を使う頻度が下がり、電動車両の駆動装置10の効率が全体として向上する。ただしモータの回転数には上限があるため、G
totalには限度がある。本実施形態では、高速時の2モータ駆動の条件からG
totalが最大となる条件を導く。
【0062】
G
totalを大きくするためには第2モータMbの回転数は上限回転数N
bNmaxとし、かつ第2モータMbのトルクT
bを抑制する。また、第1モータMaの動作点は、出力が最大となるP
a=N
aT
a 線上、第2モータMbの動作点は、N
b2=N
bNmax線上とすると、電動車両の最大車速時の出力P
Vmaxが、2モータ駆動時において、第1モータMaの回転数N
a2、トルクT
a、第2モータMbの回転数N
b2、トルクT
bで達成されるとすると、下記の関係式が導かれる。
【0063】
そして、式(4)に基づいて、高速時の2モータ駆動の条件から導かれる総減速比G
totalは、下記の式(5)で表される。
【0064】
1モータ駆動から2モータ駆動に円滑に移行するには、式(4)が示す1モータ駆動時の総減速比G
totalと、式(5)が示す、高速時の2モータ駆動の条件から導かれる総減速比G
totalとの偏差が小さいことが望ましい。本実施形態では、下記の式(6)に示したように、当該偏差差が所定値、例えば0.05未満になるようにして、各々のモータの回転数、ギヤ比及びトルクの設定条件を決定する。
【0065】
また、N
a2<N
aNmaxである必要があることを前提として、式(2)の関係を用いると、トルク比αについて下記の式が得られる。
【0066】
式(4)及びP
Vmax=N
VmaxT
Vmaxであることにより、下記の式(7)が得られる。
【0067】
上記の式(6)、(7)より、総減速比G
totalを最大化し効率を向上させるギヤ比等の設定条件である式(8)、(9)が得られる。式(8)の左辺は、式(4)が示す総減速比G
totalと、式(5)が示す総減速比G
totalとの差分である。また、式(9)の右辺は、2モータ駆動時における最大車速時の電動車両の駆動輪の出力と第1モータMaの最大出力との差分に第1モータMaの上限回転数を乗算して得た値を、第2モータMaの上限回転数と第1モータMaの最大出力との積で除算して得られる値である。
【0068】
続いて、最大加速条件における第1モータMa及び第2モータMbの各々の動作点について説明する。
図8は、第1モータMa及び第2モータMbの各々で最大加速をした場合の動作点の変化を示した概略図である。
【0069】
図8では、2モータ駆動時に、最大トルクT
Tmaxを出力可能する際の第1モータMa及び第2モータMbの各々の回転数N
Tmaxを示した動作点(N
Tmax、T
Tmax)に至るまでの第1モータMa及び第2モータMbの各々の動作点の変化を示している。前述のように、総減速比G
totalを大きくすることにより、最大加速性能を向上させることができる。また、低回転領域ではモータの回転数を高くした方が効率がよいので、同じ出力を得る場合に2モータ駆動として各々のモータの回転数を下げるよりも1モータ駆動とした方が効率がよいことが分かる。
【0070】
従って、最大加速条件下では、
図8の最大トルクT
bTmaxに従って第2モータMbを1モータ駆動させ、第2モータMbの出力が定格出力を超えるような場合、すなわち、第2モータMbの回転数が上昇し第2モータMbの出力が定格出力P
bに達した場合に、第1モータMaも回転させる2モータ駆動に切り替えることが合理的であると推測できる。
【0071】
第1モータMaの最大トルクが第2モータMbの最大トルクを上回るような場合、まず、第1モータMaを回転させ、第1モータMaの回転数が上昇し第1モータMaの出力が定格出力P
aに達した場合に、第2モータMbも回転させる2モータ駆動に切り替えるようにしてもよい。
【0072】
実際の電動車両の走行では、第2モータMb(又は第1モータMa)が過負荷になることを回避するために、第2モータMb(第1モータMa)の回転数が最大値以下の所定の回転数に達する所定の回転数となった場合に、第1モータMa(又は第2モータMb)も回転させる2モータ駆動に切り替えることがより合理的である。
【0073】
図9は、総減速比Gtotalとモード走行時の損失の計算例を示した概略図である。
図9に示したように、総減速比G
totalを大きくすると損失が減少し、効率が向上することがわかる。
【0074】
以上説明したように、本実施形態では、1モータ駆動において第1モータの回転数を高めに制御して第1モータの回転数が所定の回転数に達した場合に、第2モータも第1モータと共に駆動する2モータ駆動を行うことにより、電動車両を駆動開始から効率よく加速することが可能となる。
【0075】
かかる加速を可能にするために、本実施形態では、式(8)に示したように、式(4)に示す総減速比G
totalと、式(5)に示す総減速比G
totalとの差分を所定値未満に抑制する。また、式(9)に示したように、第2モータと第1モータとのトルク比が、右辺は、2モータ駆動時における最大車速時の駆動輪への出力と第1モータMaの最大出力との差分に第1モータMaの上限回転数を乗算して得た値を、第2モータMaの上限回転数と第1モータMaの最大出力との積で除算して得られる値未満であるように構成する。
【0076】
以上のように、本実施形態では、電動車両を駆動開始から効率よく加速することが可能となる総減速比G
total及びトルク比等の仕様を定量化でき、駆動効率が良好な電動車両の設計に資する。