(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-196270(P2021-196270A)
(43)【公開日】2021年12月27日
(54)【発明の名称】疲労余寿命特定装置および疲労余寿命特定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 3/32 20060101AFI20211129BHJP
G01N 25/20 20060101ALI20211129BHJP
【FI】
G01N3/32 E
G01N25/20 Z
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2020-102955(P2020-102955)
(22)【出願日】2020年6月15日
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤井 淳嗣
(72)【発明者】
【氏名】小島 由梨
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 康元
【テーマコード(参考)】
2G040
2G061
【Fターム(参考)】
2G040AB12
2G040AB20
2G040BA08
2G040BA25
2G040CA02
2G040CB04
2G040DA02
2G040DA03
2G040GA00
2G040HA16
2G061AA07
2G061AA08
2G061AA11
2G061AB05
2G061BA04
2G061BA15
2G061BA17
2G061DA03
2G061EA01
2G061EA03
2G061EA04
2G061EA06
2G061EA07
2G061EA10
2G061EB04
2G061EC02
(57)【要約】
【課題】繰返し荷重の振幅が変更される場合の余寿命を特定する。
【解決手段】ある期間において、対象物の温度上昇量ΔT
st1、ΔT
st2を測定し、この期間における繰返し荷重が加えられた回数(負荷繰返し数)を計数する。測定された温度上昇量ΔT
st1、ΔT
st2を、あらかじめ求められている関係に適用して、この期間の破断負荷繰返し数を求める。負荷繰返し数を破断負荷繰返し数で除して、この期間における疲労損傷度を算出する。ある時点において、それまでの疲労損傷度を積算し、積算疲労損傷度を算出する。ある時点の温度上昇量から破断負荷繰返し数を求め、求めた破断負荷繰返し数と積算疲労損傷度とから疲労余寿命を算出する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定周波数の繰返し荷重が加わる対象物の温度を検出する対象物温度検出装置と、
対象物周辺の温度を検出する周辺温度検出装置と、
前記繰返し荷重が加えられた回数である負荷繰返し数を計数する負荷繰返し数計数装置と、
前記対象物周辺の温度に対する前記対象物の温度の差分が略一定となる定常状態における前記差分である温度上昇量と、前記負荷繰返し数とに基づき疲労余寿命を算出する情報処理装置と、
を備え、
前記情報処理装置は、
前記温度上昇量と、前記対象物の破断に至るまでの、繰返し荷重が加えられた回数である破断負荷繰返し数との関係をあらかじめ記憶し、
前記繰返し荷重の振幅が一定の、ある期間において、前記対象物温度検出装置により検出された対象物の温度と、周辺温度検出装置により検出された対象物の周辺温度とから、前記温度上昇量を算出し、
前記ある期間に関し、算出された前記温度上昇量に、前記温度上昇量と前記破断負荷繰返し数のあらかじめ記憶された前記関係を適用して、前記破断負荷繰返し数を算出し、
前記負荷繰返し計数装置により計数された、前記ある期間内の前記負荷繰返し数を前記破断負荷繰返し数で除して、前記ある期間の疲労損傷度を算出し、
複数の期間ごとの前記疲労損傷度を積算して、積算疲労損傷度を算出し、
現在の前記温度上昇量に基づき算出された前記破断負荷繰返し数と、前記積算疲労損傷度とから疲労余寿命を算出する、
ように構成されている、
疲労余寿命特定装置。
【請求項2】
ある期間において、所定周波数で振幅が一定の繰返し荷重が加えられている対象物の、周辺温度に対する差分が略一定となる定常状態における前記差分である温度上昇量を取得するステップと、
前記ある期間において、前記繰返し荷重が加えられた回数である負荷繰返し数を計数するステップと、
前記ある期間に関し、取得された前記温度上昇量に、前記温度上昇量と、前記対象物の破断に至るまでの繰返し荷重が加えられた回数である破断負荷繰返し数とのあらかじめ記憶された関係を適用して、前記破断負荷繰返し数を算出するステップと、
計数された前記負荷繰返し数を前記破断負荷繰返し数で除して、前記ある期間の疲労損傷度を算出するステップと、
複数の期間ごとの前記疲労損傷度を積算して、積算疲労損傷度を算出するステップと、
現在の前記温度上昇量に基づき算出された前記破断負荷繰返し数と、前記積算疲労損傷度とから疲労余寿命を算出するステップと、
を含む、疲労余寿命特定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疲労余寿命を特定する装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
対象物に繰返し荷重を加えると対象物の温度が上昇する。この温度上昇と、この対象物の疲労寿命に関係があることが知られている。下記特許文献1には、対象物の温度は、繰返し荷重を加え始めてから上昇し、その後一定となることが示されている。下記特許文献1では、繰返し荷重の付与開始から、温度が上昇から一定となる変化点までの繰返し数が、疲労寿命の約30%であるとして、疲労寿命および余寿命を推定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019−60901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1では、疲労余寿命の推定は、繰返し荷重の振幅が一定で連続して加えられる場合に限られている。本発明は、繰返し荷重の振幅が途中で変更される場合にも対応可能な疲労寿命の特定方法および装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る疲労余寿命特定装置は、所定周波数の繰返し荷重が加わる対象物の温度を検出する対象物温度検出装置と、対象物の周辺温度を検出する周辺温度検出装置と、繰返し荷重が加えられた回数である負荷繰返し数を計数する負荷繰返し数計数装置と、対象物周辺の温度に対する対象物の温度の差分が略一定となる定常状態における前記の差分である温度上昇量と負荷繰返し数とに基づき疲労余寿命を算出する情報処理装置と、を備える。情報処理装置は、前記温度上昇量と、対象物の破断に至るまでの、繰返し荷重が加えられた回数である破断負荷繰返し数との関係をあらかじめ記憶するよう構成されている。情報処理装置は、さらに、繰返し荷重の振幅が一定の、ある期間において、対象物温度検出装置により検出された対象物の温度と、周辺温度検出装置により検出された対象物の周辺温度とから、前記温度上昇量を算出し、当該ある期間に関し、算出された温度上昇量に、温度上昇量と破断負荷繰返し数のあらかじめ記憶された前記の関係を適用して、破断負荷繰返し数を算出し、負荷繰返し計数装置により計数された当該ある期間内の負荷繰返し数を前記破断負荷繰返し数で除して、当該ある期間の疲労損傷度を算出するよう構成されている。情報処理装置は、さらにまた、複数の期間ごとの疲労損傷度を積算して、積算疲労損傷度を算出し、ある時点の前記温度上昇量に基づき算出された破断負荷繰返し数と、積算疲労損傷度とから前記ある時点における疲労余寿命を算出するよう構成されている。
【0006】
本発明の他の態様に係る疲労余寿命特定方法は、ある期間において、所定周波数で振幅が一定の繰返し荷重が加えられている対象物の、周辺温度に対する差分が略一定となる定常状態における前記の差分である温度上昇量を取得するステップと、前記ある期間において、繰返し荷重が加えられた回数である負荷繰返し数を計数するステップと、前記ある期間に関し、取得された温度上昇量に、温度上昇量と対象物の破断に至るまでの繰返し荷重が加えられた回数である破断負荷繰返し数とのあらかじめ記憶された関係を適用して、破断負荷繰返し数を算出するステップと、計数された負荷繰返し数を破断負荷繰返し数で除して、前記ある期間の疲労損傷度を算出するステップと、複数の期間ごとの疲労損傷度を積算して、積算疲労損傷度を算出するステップと、ある時点の温度上昇量に基づき算出された破断負荷繰返し数と、積算疲労損傷度とから当該ある時点における疲労余寿命を算出するステップと、を含む。
【発明の効果】
【0007】
寿命までの間に、繰返し荷重の振幅が変更されても、余寿命を特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】機械部品に繰返し荷重を加えたときの負荷繰返し数に対する温度の変化を示す図である。
【
図2】負荷繰返し数に対する温度変化の実験結果を示す図である。
【
図3】温度上昇量と破断負荷繰返し数の関係を示す図である。
【
図4】異なる振幅の繰返し荷重による荷重パターンを示す図である。
【
図5】
図4に示す荷重パターンで繰返し荷重を加えたときの温度変化を示す図である。
【
図6】疲労余寿命を特定する装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0010】
疲労限度を超える繰返し荷重を加えると金属材料の温度は、
図1に示すように荷重を付与した直後に上昇した後、概ね温度一定の定常状態となり破断に至る。このとき、定常状態での温度上昇量ΔT
stは、C. Doudard, S. Calloch, F. Hild, P. Cugy, A. Galtier, “Identification of the scatter in high cycle fatigue from temperature measurements”, C. R. Mecanique, Vol. 332 (2004), pp. 795-801. によれば、次式(1)で表される。式(1)の温度上昇量は、材料の温度上昇量を代表するものである。
【数1】
ここで、S
0、mは材料依存の定数、fは繰返し荷重の周波数、τは時定数、hは硬化係数、ρは密度、cは比熱、σ
aは応力振幅である。
【0011】
応力振幅以外の条件が同じ場合、式(1)を次式(2)のように簡略化できる。
【数2】
ここで、k、aは定数である。
【0012】
一方、高サイクル疲労域で一般に成立するとされるバスキン則は次式(3)で示される。
【数3】
ここで、N
fは材料が破断するまでの荷重の繰返し回数である破断負荷繰返し数、b、Cは定数である。
【0013】
式(2)、(3)からσ
aを消去すると、次式(4)が得られる。
【数4】
ここで、C’は定数である。
【0014】
式(4)は、繰返し荷重を加えたときの定常状態の温度上昇量ΔT
stと破断負荷繰返し数N
fは所定の関係があることを示している。したがって、あらかじめ、ある機械部品について、温度上昇量ΔT
stと破断負荷繰返し数N
fの関係を求めておけば、温度上昇量ΔT
stから破断負荷繰返し数N
fを算出することができる。そして、繰返し荷重によって対象物に荷重が付与された回数である負荷繰返し数nを計数すれば、そのとき、疲労によってどの程度損傷を受けているか、つまり疲労損傷度Dを次式(5)から算出できる。
【数5】
【0015】
疲労損傷度Dのとき、疲労破壊に至るまでの荷重の付与回数、つまり疲労余寿命rは、次式(6)で表される。
【数6】
【0016】
図2は、疲労破壊を生じる金属材料の試験片、例えば機械構造用炭素鋼S45Cに焼入れ、焼戻しの熱処理を施した試験片に、シェンク式疲労試験機を用いて、完全両振りの繰返しねじり荷重を、荷重周波数50Hzのねじり角制御で付与したときの、試験片の温度変化を示す図である。試験片の温度を代表する温度として試験片の表面温度を、白金測温抵抗体と、K型熱電対の双方で測定した。また、試験片の周辺の温度を代表する温度として、疲労試験機の試験片を把持する治具部分の温度も同様に測定した。この疲労試験機の治具の温度と試験片の温度の差分を繰返し荷重による温度変化として、
図2の縦軸に表した。同一のせん断ひずみを2つの試験片に付与した。図中の同一の線種は、同一のせん断ひずみを与えたデータを示している。試験が開始されると、温度が上昇し、その後、温度の上昇は止まり、ほぼ一定値を示す定常状態となる。負荷繰返し数が、ある回数となると、温度が急上昇し、試験片が破断する。
図2から、傾向として温度上昇量ΔT
stが高いと、少ない負荷繰返し数で破断が生じることが分かる。
【0017】
図3は、温度がほぼ一定となる定常状態の温度上昇量ΔT
stと破断負荷繰返し数N
fとの関係を両対数グラフで示す図である。白丸(○)で表す測定点は熱電対を用いたデータを示し、黒丸(●)で示す測定点は測温抵抗体を用いたデータを示す。この関係を用いることで、温度上昇量ΔT
stから破断負荷繰返し数N
fを求めることができる。
【0018】
図4は、期間ごとに繰返し荷重の振幅が異なる荷重パターンを示す図である。
図5は、
図4に示す荷重パターンを付与した際の試験片の温度を示す図である。試験片、試験機等は、前述と同様である。第1の期間でせん断ひずみ振幅γ
1=3516μstで、荷重を50000回(負荷繰返し数n
1)試験片に付与し、その後第2の期間ではせん断ひずみ振幅γ
2=3647μstで試験片が破断するまで荷重を付与した。破断したときの、第2の期間における負荷繰返し数n
2は、67750回であった。また、第1の期間の試験片の温度上昇量ΔT
st1は59℃、第2の期間の温度上昇量ΔT
st2は83℃であった。
【0019】
これらの温度上昇量ΔT
st1(59℃)、ΔT
st2(83℃)を、
図3に示す温度上昇量ΔT
stと破断負荷繰返し数N
fの関係に適用すれば、第1の期間の荷重振幅では破断負荷繰返し数N
f1が149409回、第2の期間の荷重振幅では破断負荷繰返し数N
f2が92473回と求められる。第1の期間の終了時点での疲労損傷度D
1は、式(5)から約0.33となる。また、第2の期間の開始時点での疲労余寿命rは、式(6)から約62000回となり、これは、前述の破断したときの負荷繰返し数n
2(=67750回)に概ね一致している。
【0020】
第2の期間のある時点で、余寿命を特定することもできる。第2の期間での負荷繰返し数が、例えば20000回となったときの余寿命は第1の期間の疲労損傷度D
1と第2の期間の繰返し数n
Tまでの疲労損傷度D
2から特定することができる。
図4において、第1の期間の疲労損傷度D
1は、前述のように約0.33である。また、第2の期間の破断負荷繰返し数N
f2は前述のように92473回であるから、第2の期間の負荷繰返し数が20000回時点での疲労損傷度D
2は、約0.22となる。第1および第2の期間の積算した疲労損傷度D(=D
1+D
2)は、約0.55となり、余寿命rは、式(6)より41613回となる。
図4に示す試験結果からは、破断まで47750回であり、概ね一致している。
【0021】
図6は、第1の装置10から第2の装置12に回動動作を伝えるための伝達軸14の疲労余寿命を測定する装置の概略構成を示す図である。伝達軸14には、荷重源である第1および第2の装置10、12により繰返しねじり荷重が加えられる。伝達軸14には、伝達軸14の温度を検出するための伝達軸温度センサ16が取り付けられている。また、第1および第2の装置10、12の一方または両方には、伝達軸14の周辺の温度を検出するための周辺温度センサ18が取り付けられている。例えば、周辺温度センサ18は、第2の装置12の、伝達軸14が結合される部材に取り付けられている。伝達軸温度センサ16と周辺温度センサ18の出力は、情報処理装置20に送られる。情報処理装置20は、演算装置22、演算装置22に所定の動作を実行させるためのプログラムおよび所定の数値などを記憶するための記憶装置24を含む。情報処理装置20は、伝達軸温度センサ16の出力に基づき負荷繰返し数を算出する。つまり、荷重の変動に応じて変化する温度の変動に基づき、負荷繰返し数を算出する。また、伝達軸14にひずみゲージを取り付け、ひずみゲージの出力の変動に基づき負荷繰返し数を算出してもよい。
【0022】
記憶装置24には、温度上昇量ΔT
stと破断負荷繰返し数N
fの関係が記憶されている。したがって、温度上昇量ΔT
stが分かれば、この関係に基づき対応する破断負荷繰返し数N
fを求めることができる。情報処理装置20は、伝達軸温度センサ16と周辺温度センサ18の出力に基づき、これらの温度の差分が略一定となっているときの温度上昇量ΔT
stiを算出する。この温度上昇量ΔT
stiをあらかじめ記憶された温度上昇量ΔT
stと破断負荷繰返し数N
fの関係に適用して、この繰返し荷重が今後も続く場合の、つまり温度上昇量ΔT
stiが一定の場合の破断負荷繰返し数N
fiを取得する。また、情報処理装置20は、この繰返し荷重が加えられ始めてからの負荷繰返し数n
iを伝達軸温度センサ16の出力に基づき計数する。この、一定振幅の繰返し荷重が加えられている期間の疲労損傷度D
iを、負荷繰返し数n
iを破断負荷繰返し数N
fiで除して算出する(D
i=n
i/N
fi)。繰返し荷重の振幅が変化した場合、その変化した振幅が一定の期間において、疲労損傷度D
iを算出し、期間ごとの疲労損傷度D
iを積算し積算疲労損傷度を算出する(ΣD
i)。そして、このときの温度上昇量ΔT
stpに基づき破断負荷繰返し数N
fpを求める。式(6)の破断負荷繰返し数N
fをN
fpに、疲労損傷度Dを積算疲労損傷度ΣD
iに置き換えることにより、このときの振幅の繰返し荷重が継続する場合の疲労余寿命を算出する。
【符号の説明】
【0023】
10,12 装置、14 伝達軸、16 伝達軸温度センサ、18 周辺温度センサ、20 情報処理装置、22 演算装置、24 記憶装置、ΔT
st 温度上昇量、N
f 破断負荷繰返し数、n 負荷繰返し数、D 疲労損傷度。