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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-197373(P2021-197373A)
(43)【公開日】2021年12月27日
(54)【発明の名称】基板保持装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/683 20060101AFI20211129BHJP
   G03F 7/20 20060101ALI20211129BHJP
【FI】
   H01L21/68 P
   G03F7/20 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2020-99973(P2020-99973)
(22)【出願日】2020年6月9日
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【弁理士】
【氏名又は名称】白川 洋一
(74)【代理人】
【識別番号】100208605
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 龍一
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 教夫
【テーマコード(参考)】
2H197
5F131
【Fターム(参考)】
2H197CD02
2H197CD06
2H197CD07
2H197HA03
5F131AA02
5F131CA18
5F131EB02
5F131EB04
5F131EB54
5F131EB78
5F131EB79
(57)【要約】
【課題】基板をしわなく吸着でき、リブ近傍またはリフトピン孔近傍の基板の局所的なたわみを低減できる基板保持装置を提供する。
【解決手段】上面20に開口する複数の通気孔11および複数のリフトピン孔17を有する平板状の基体10と、基体10の上面20から上方に突出して形成され、基板を支持する複数の凸部21と、基体10の上面20から上方に突出して形成されるリブ23と、を備え、リブ23は、基体10の上面20の外周に沿って環状に形成される外周リブ25、リフトピン孔17の縁に沿って環状に形成されるリフトピンリブ27、および外周リブ25の内側かつリフトピンリブ27の外側の領域を複数の領域に分割する内側リブ29を含み、複数の領域は、それぞれ1以上の通気孔11を有し、リブ23の上端面は、複数の凸部21の上端により形成される平面よりも基体10の上面20に近い位置に形成される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を保持する基板保持装置であって、
上面に開口する複数の通気孔および複数のリフトピン孔を有する平板状の基体と、
前記基体の上面から上方に突出して形成され、前記基板を支持する複数の凸部と、
前記基体の上面から上方に突出して形成されるリブと、を備え、
前記リブは、前記基体の上面の外周に沿って環状に形成される外周リブ、前記リフトピン孔の縁に沿って環状に形成されるリフトピンリブ、および前記外周リブの内側かつ前記リフトピンリブの外側の領域を複数の領域に分割する内側リブを含み、
前記複数の領域は、それぞれ1以上の前記通気孔を有し、
前記リブの上端面は、前記複数の凸部の上端により形成される平面よりも前記基体の上面に近い位置に形成されることを特徴とする基板保持装置。
【請求項2】
前記リブの上端面と前記複数の凸部の上端により形成される平面との垂直方向の差は、500nmより大きく5000nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の基板保持装置。
【請求項3】
前記リブの上端面と前記複数の凸部の上端により形成される平面との垂直方向の差は、10nm以上500nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の基板保持装置。
【請求項4】
前記外周リブの上端面は、前記リフトピンリブの上端面および前記内側リブの上端面よりも前記基体の上面に近い位置に形成されることを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載の基板保持装置。
【請求項5】
前記リフトピンリブの上端面および前記内側リブの上端面は、前記外周リブの上端面よりも前記基体の上面に近い位置に形成されることを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載の基板保持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハなどの基板を基体に吸着保持する基板保持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体等の製造プロセス、特に露光工程、検査工程やダイシング工程などではシリコン基板等の基板を真空吸着し保持する基板保持装置が用いられてきた。
【0003】
特許文献1は、上面に開口している通気路が形成されている平板状の基体と、前記基体の上面から上方に突出して形成されて基板を支持する複数の突起と、前記複数の突起の上端よりも0.01〜0.03[mm]だけ低い位置に上端が位置するように前記基体の上面から上方に突出して、前記通気路の開口および前記複数の突起を囲うように形成され、その外径が前記基板の最大径と同じに形成されまたは当該基板の最大径よりも8[mm]以下の範囲で小さく形成されている第1環状凸部と、周方向について少なくとも一部が前記複数の突起の上端よりも0.001〜0.005[mm]だけ低い位置に上端が位置するように前記基体の上面から上方に突出して、前記第1環状凸部よりも3.0〜10[mm]だけ内側に離間した位置で前記通気路および前記複数の突起のうち少なくとも一部を囲うように形成されている第2環状凸部と、を備えていることを特徴とする基板保持装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017−135331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
昨今の半導体デバイス等の高集積化に伴いステージ上に吸着された基板の平面矯正が重要度を増し、特に基板の外縁部はステージ面に対して垂直方向に変位しやすいため基板の反りを矯正することが必要になってきた。また、基板を吸着する領域をマルチゾーン化し、基板の反りの形状に適した排気を行なうことにより真空吸着時の基板の平面度を高めることも検討されている。
【0006】
しかし、マルチゾーン化しても各領域で真空吸着時に基板にしわがよったまま吸着固定されてしまうことがあり、平面矯正が十分に行なえなかった。また、リブ近傍やリフトピン孔近傍では基板が局所的にたわむ虞が高く、特にリフトピン孔近傍の基板のたわみを低減することは難しかった。特許文献1は、基板の外周部の平面度の向上を目的としており、吸着面のマルチゾーン化やリブ近傍またはリフトピン孔近傍の局所的な基板のたわみの低減を考慮していない。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、基板をしわなく吸着でき、リブ近傍またはリフトピン孔近傍の基板の局所的なたわみを低減できる基板保持装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の基板保持装置は、基板を保持する基板保持装置であって、上面に開口する複数の通気孔および複数のリフトピン孔を有する平板状の基体と、前記基体の上面から上方に突出して形成され、前記基板を支持する複数の凸部と、前記基体の上面から上方に突出して形成されるリブと、を備え、前記リブは、前記基体の上面の外周に沿って環状に形成される外周リブ、前記リフトピン孔の縁に沿って環状に形成されるリフトピンリブ、および前記外周リブの内側かつ前記リフトピンリブの外側の領域を複数の領域に分割する内側リブを含み、前記複数の領域は、それぞれ1以上の前記通気孔を有し、前記リブの上端面は、前記複数の凸部の上端により形成される平面よりも前記基体の上面に近い位置に形成されることを特徴としている。
【0009】
このように、基板の吸着面がリブによって複数の領域に分割されたマルチゾーンの基板保持装置において、領域の境界のリブの上端面を複数の凸部の上端により形成される平面よりも基体の上面に近い位置にするために例えば基体の上面が一平面である場合に形成されたリブの高さを凸部より低くすることで、各領域間をまたいでガスのリーク(流れ)が生じ領域間の排気圧力が調整されるため、基板のしわが生じない状態で吸着することができる。また、リブ近傍およびリフトピン孔の近傍に生じる基板の局所的なたわみを抑制することができ、基板全体の平面度を高く維持することができる。
【0010】
(2)また、本発明の基板保持装置において、前記リブの上端面と前記複数の凸部の上端により形成される平面との垂直方向の差は、500nmより大きく5000nm以下であることを特徴としている。これにより、基板の静定時間が短くなり、また、ベルヌーイ効果を発揮させることができ、基板の平面度を十分に高くすることができる。
【0011】
(3)また、本発明の基板保持装置において、前記リブの上端面と前記複数の凸部の上端により形成される平面との垂直方向の差は、10nm以上500nm以下であることを特徴としている。これにより、基板の静定時間がさらに短くなり、基板の平面度をより高くすることができる。
【0012】
(4)また、本発明の基板保持装置において、前記外周リブの上端面は、前記リフトピンリブの上端面および前記内側リブの上端面よりも前記基体の上面に近い位置に形成されることを特徴としている。これにより、外周リブの近傍ではベルヌーイ効果を発揮させ基板の縁の沈み込みを抑制しつつ、内側リブ近傍およびリフトピン孔の近傍では基板の局所的なたわみを抑制することができるので、基板全体の平面度をさらに高くすることができる。
【0013】
(5)また、本発明の基板保持装置において、前記リフトピンリブの上端面および前記内側リブの上端面は、前記外周リブの上端面よりも前記基体の上面に近い位置に形成されることを特徴としている。これにより、リフトピンリブおよび内側リブによるパーティクルを抑制できる。また、基板を強く吸着することができ、反った基板を矯正することができるので、そのような基板であっても基板全体の平面度をより高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係る基板保持装置の上面の一例を示した模式図である。
図2図1のI−II線における断面を示した基板保持装置の部分断面図である。
図3】(a)〜(c)それぞれ、本発明の実施形態の変形例に係る基板保持装置のリブの一例を示した模式図である。
図4】基板の局所的なたわみの様子を示す模式図である。
図5】実施例および比較例の条件、試験結果を示した表である。
図6】異なる実施例の条件、試験結果を示した表である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。なお、構成図において、各構成要素の大きさは概念的に表したものであり、必ずしも実際の寸法比率を表すものではない。
【0016】
[実施形態]
本発明の実施形態に係る基板保持装置について図1および図2を参照して、説明する。図1は、本発明の実施形態に係る基板保持装置の上面の一例を示した模式図である。また、図2は、図1のI−II線における断面を示した基板保持装置の部分断面図である。基板保持装置100は、基板(ウエハ)Wを吸着保持するための略平板状の基体10を備えている。基体10は、セラミックス焼結体により略平板状に形成されている。基体10は略円板状のほか、多角形板状または楕円板状などのさまざまな形状であってもよい。
【0017】
基体10には、基板Wを支持する複数の凸部21がその上面20から上方に突出して形成される。複数の凸部21の上端は、略面一に形成される。すなわち、複数の凸部の上端により形成される平面(基準面)21aが決定される。これにより、凸部21の上端と基板Wとが当接し、基板Wが支持される。なお、複数の凸部21のうち、上端が基板Wと当接しないものがあってもよい。これは、そのような凸部があっても、周りの凸部の配置によっては、基板Wを支持することが可能だからである。また、凸部21の上端は、所定の大きさの平面になっていることが好ましい。その場合、凸部21の上端の平面の最大径は、100μm以上2mm以下であることが好ましい。凸部21の上端の平面の表面粗さは、Ra0.2μm以下であることが好ましい。凸部21の形状は、円柱形、角柱形、円錐台形、角錐台形などであってもよいし、下部よりも上部の断面積が小さくなるような段差付き形状となっていてもよい。凸部21は、例えば、ブラスト加工、レーザ加工またはこれらの組み合わせにより形成することができる。また、凸部21は、高アスペクト比の急峻な円錐台形状であってもよい。
【0018】
凸部21の配置は、三角格子上、正方格子状、同心円状など規則的な配置のほか、局部的に疎密が生じているような不規則的な配置であってもよい。凸部21の高さは、50μm以上500μm以下であることが好ましい。なお、凸部21の高さとは、基体10の上面20から凸部の上端までの距離をいう。また、隣接する凸部21の間隔は、中心間の距離が1.5mm以上15mm以下であることが好ましい。
【0019】
基体10には、リブ23が基体10の上面20から上方に突出して形成される。リブ23は、外周リブ25、リフトピンリブ27、および内側リブ29を含む。リブ23の幅は、0.07mm以上2mm以下であることが好ましい。外周リブ25、リフトピンリブ27、および内側リブ29は、それぞれ幅が異なっていてもよい。
【0020】
外周リブ25は、凸部21を取り囲み、基体10の上面20の外周に沿って環状に形成される。図1では、外周リブ25は、基体10の外側周面から少し中心側に寄って、上方から見たとき円環状に連続して形成される。
【0021】
リフトピンリブ27は、後述するリフトピン孔17の縁に沿って環状に形成される。図1では、リフトピンリブ27は、それぞれのリフトピン孔17の縁に沿って、上方から見たとき円環状に連続して形成される。リフトピンリブ27の形状は、リフトピン孔17の形状に応じた形状とすることができる。
【0022】
内側29リブは、外周リブ25の内側かつリフトピンリブ27の外側の領域を複数の領域に分割する。すなわち、内側リブ29は、基体10の基板Wを吸着する面(吸着面)を複数の領域に分割し、マルチゾーンの基板保持装置100としている。図3(a)〜(c)は、それぞれ、本発明の実施形態の変形例に係る基板保持装置のリブの一例を示した模式図である。内側リブ29は、このように様々な形状により吸着面を複数の領域に分割できる。なお、図3(a)〜(c)は、外周リブ25および内側リブ29のみの配置を示し、通気孔11、リフトピン孔17、凸部21、リフトピンリブ27は省略している。
【0023】
リブの上端面23aは、複数の凸部の上端により形成される平面21aよりも基体10の上面20に近い位置に形成される。リブの上端面23aは、外周リブの上端面25a、リフトピンリブの上端面27a、および内側リブの上端面29aを含む。すなわち、外周リブ25、リフトピンリブ27、および内側リブ29の高さは、凸部21の高さより低い。また、リブの上端面23aの表面粗さは、Ra0.2μm以下であることが好ましい。
【0024】
リブ23が複数の凸部21より低いことにより、基体10と基板Wとの接触面積が低減されるため、パーティクルの発生および噛み込みによる基板Wの面精度低下のリスクを低減することができる。また、基体10の吸着面がリブ23によって複数の領域に分割されたマルチゾーンの基板保持装置100において、領域の境界の内側リブ29の高さを凸部21より低くしているので、各領域間をまたいでガスのリーク(流れ)が生じ領域間の排気圧力が調整されるため、基板Wをしわが生じない状態で吸着することができる。また、リブ23の高さを調整することでリブの上端面23aやリフトピン孔17に流れる気流を調整することができるので、リブ23近傍やリフトピン孔17の近傍に生じる基板Wの局所的なたわみを抑制することができ、基板全体の平面度を高く維持することができる。
【0025】
図4は、基板の局所的なたわみの様子を示す模式図である。図4は、リフトピン孔17の近傍に生じる基板Wの局所的なたわみの様子を示しているが、この場合、リフトピンリブ27の高さを調整してリフトピンリブの上端面27aを流れる気流を調整することで、基板Wの局所的なたわみを低減できる。また、外周リブの近傍や内側リブの近傍の基板Wの局所的なたわみであっても、同様にリブの高さを調整することで低減できる。なお、リフトピン孔17の近傍に生じる基板Wの局所的なたわみは、リフトピンリブ27の高さが凸部21の高さより低く形成されている場合と比較して、リフトピンリブ27が形成されていない場合やリフトピンリブ27が複数の凸部の上端により形成される平面21aと略面一に形成されている場合には、より大きくなる。
【0026】
外周リブの上端面25a、リフトピンリブの上端面27a、および内側リブの上端面29aは、いずれか2つまたは3つの上端面が同一の平面を形成してもよいし、それぞれ異なる平面を形成してもよい。
【0027】
リブの上端面23aと複数の凸部の上端により形成される平面21aとの垂直方向の差は、500nmより大きく5000nm以下であることが好ましい。これにより、基板Wの静定時間が短くなる。また、外周リブ25がこのような範囲にあることでベルヌーイ効果を発揮させることができ、基板Wの平面度を十分に高くすることができる。
【0028】
リブの上端面23aと複数の凸部の上端により形成される平面21aとの垂直方向の差は、10nm以上500nm以下であることが好ましい。これにより、基板Wの静定時間がさらに短くなり、基板Wの平面度をより高くすることができる。
【0029】
外周リブの上端面25aは、リフトピンリブの上端面27aおよび内側リブの上端面29aよりも基体10の上面20に近い位置に形成されることが好ましい。これにより、外周リブ25の近傍ではベルヌーイ効果を発揮させ基板Wの縁の沈み込みを抑制しつつ、リフトピン孔17の近傍では基板Wの局所的なたわみを抑制することができるので、基板全体の平面度をさらに高くすることができる。また、外周リブに起因するパーティクルの基板への転写を抑制することができる。
【0030】
リフトピンリブの上端面27aおよび内側リブの上端面29aは、外周リブの上端面25aよりも基体10の上面20に近い位置に形成されることが好ましい。これにより、リフトピンリブ27および内側リブ29に起因するパーティクルの基板への転写を抑制することができる。また、基板Wを強く吸着することができ、反った基板Wを矯正することができるので、そのような基板Wであっても基板全体の平面度をより高くすることができる。
【0031】
リブ23には、基板Wを支持する1または複数の第2の凸部がリブの上端面23aから上方に突出して形成されることが好ましい。このとき、第2の凸部の上端は、複数の凸部21の上端と略面一に形成される。すなわち、複数の凸部21の上端と第2の凸部の上端とは、同一の平面(基準面21a)を形成し、第2の凸部の上端は、基板Wと当接する。これにより、凸部21および第2の凸部を合わせた全体の凸部の配置がリブ23によって制限されないので、凸部21および第2の凸部を基体10の上面20に均等に配置することができ、基板Wを均等に吸着できる。その結果、基板全体の平面度をより高くすることができる。
【0032】
基体10には、上面20に開口している複数の通気孔11が形成される。通気孔11は、外周リブ25の内側かつリフトピンリブ27の外側の領域を内側リブ29によって分割された複数のそれぞれの領域に、少なくとも1つずつ配置される。1の領域に2つ以上の通気孔11が配置されてもよい。また、通気孔11は基体10の内部を通る通気路を介して連通してもよい。通気孔11は、真空吸引装置(図示略)に接続される。このように、通気孔11が各領域に配置されることで、領域ごとに基板Wの吸引を行なうことができるので、基板Wの静定時間を短くでき、基板Wを強く吸引できる。通気孔11の位置、形状、および大きさは、外周リブ、リフトピンリブ、および内側リブの配置によって定まる吸着面の領域の個数や形状、基板Wの形状や種類、真空吸引した際の吸着力等、基板保持装置の設計に応じて異なる。
【0033】
基体10には、上面に開口している複数のリフトピン孔17が形成される。リフトピン孔17は、基板Wをリフトアップするリフトピンが貫通する。リフトピン孔17の位置は、リフトピン孔17が3つ形成される場合、正三角形の頂点の位置となることが好ましい。また、リフトピン孔17の大きさは、2mm以上6mm以下であることが好ましい。リフトピン孔17は、3つ形成されることが多いが、それ以上であってもよい。
【0034】
リフトピン孔17は、真空吸引装置に接続されないため、基板Wを吸引するため通気孔11から真空吸引をすると、リフトピン孔17から基板W方向に気流が生じる。そのため、リフトピンリブ27が形成されない場合も、リフトピンリブ27が複数の凸部により形成される平面21aと略面一で形成される場合も、リフトピン孔17近傍の基板Wに局所的なたわみが生じる場合がある。リフトピンリブ27の高さを複数の凸部21の高さより若干低くすることで、基板Wとリフトピンリブの上端面27aの間隙に流れる気体の流速が調節されて基板Wに気圧の差による力が作用し、リフトピン孔17近傍の基板Wの局所的なたわみが低減される。
【0035】
[基板保持装置の製造方法]
周知の方法により、原料粉末から円板形状の成形体が作成され、この成形体を焼成することによりセラミック焼結体が得られる。本発明の基板保持装置はセラミック焼結体により平板状の円板形状からなるが、多角形形状、楕円形状など、どんな形状でもよい。セラミック焼結体としては、炭化珪素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウムなどが用いられる。
【0036】
セラミック焼結体の上面となる面に通気孔、リフトピン孔、複数の凸部、外周リブ、リフトピンリブ、内側リブを形成する。形成方法としては、ブラスト加工、ミリング加工、レーザ加工等によって形成することが可能である。また、セラミックス焼結体の上面および下面となる面を、研削加工および研磨加工により表面粗さをRa0.2μm以下にすることが好ましい。
【0037】
外周リブの上端面、リフトピンリブの上端面、および内側リブの上端面は、複数の凸部の上端により形成される面よりも基板の上面に近い位置に形成される。
【0038】
複数の凸部の配置、形状、突出高さなどは特に限定されない。既知の形態またはそれに類似する形態であればよく、例えば、配置は、三角格子上、正方格子状、同心円状など規則的な配置のほか、局部的に疎密が生じているような不規則的な配置であってもよい。また、形状は、柱形状、錐形状であればよく、さらに下部よりも上部の断面積が小さくなるような段差付き形状となっていてもよい。また、高さ等は、例えば、突出量は50μm以上500μm以下、凸部径は100μm以上2mm以下、凸部間隔は1.5mm以上15mm以下の範囲で、吸着する基板等の条件に応じて設計することが好ましい。複数の凸部は、上端が略面一となるように形成する。
【0039】
また、外周リブの上端面、リフトピンリブの上端面、または内側リブの上端面に、複数の凸部と共に基板Wを支持する1または複数の第2の凸部を形成することが好ましい。これにより、基板Wをバランスよく支持できる。第2の凸部の配置、形状、突出高さなども特に限定されないが、複数の凸部と同様の条件で作製することができる。このとき、第2の凸部の突出高さは、基体の上面から測ったときに複数の凸部と同一となるようにする。これにより、第2の凸部の上面と複数の凸部の上面を略面一に形成できる。
【0040】
このようにして、本発明の基板保持装置を製造することができる。
【0041】
[実施例および比較例]
実施例1の基板保持装置として、炭化珪素の焼結体からなる、径φ310mm、厚さt1.2mmの略円板形状の基体の上面(基板保持面)に複数の通気孔、複数のリフトピン孔を設けた。さらに複数の凸部、複数の凸部を取り囲む略円環状の外周リブ、リフトピン孔を取り囲む略円環状のリフトピンリブ、および基板保持面を複数の領域に分割する内側リブを形成した。
【0042】
複数の凸部の高さは150μmで、直径は200μm、凸部の表面粗さはRa0.05μmとした。各凸部間の間隔は3.5mmの三角格子上に形成した。外周リブ、リフトピンリブ、および内側リブは、幅2mmとした。また、各リブの上端面は、複数の凸部の上端により形成される平面(基準面)よりもΔH=10nm低い高さで形成した。ΔHは、リブと基準面との高さの差である。
【0043】
また、実施例2から9および比較例1として、図5の表に示すΔHの値で基板保持装置を作製した。これらの実施例および比較例の基板保持装置について、基板を吸引したときの、基板の平面度の測定、圧力の測定、静定時間の測定、およびパーティクルの基板への転写確認を以下のようにして行なった。図5は、実施例および比較例の条件、試験結果を示した表である。
【0044】
(基板の平面度の測定)
作製した実施例および比較例の基板保持装置に基板を吸着させ、基板の平面度を測定した。基板の平面度の測定は、基板全面を□20mm(一辺20mmの正方形)の領域に分割して各々の領域のPV値をZYGO社製の非接触式レーザ干渉計(GPI Hs)を用いて測定し、このPV値を当該領域のローカルフラットネス(LF)とした。その中で、最大値を基板の平面度とした。この値が小さいほど、基板保持装置が基板を平坦に吸着しているといえる。
【0045】
(圧力の測定)
作製した実施例および比較例の基板保持装置に基板を吸着させ、大気圧と通気孔の近傍に設けられたゲージポートとの圧力差を圧力計(ゲージ圧:大気圧が0kPa)で測定した。この値が小さい(負の絶対値が大きい)ほど、基板を強く吸着できることを示している。ケージ圧が−60kPa以下であれば、基板を十分な力で吸着することができる。
【0046】
(静定時間の測定)
作製した実施例および比較例の基板保持装置に基板を吸着させ、真空吸引によって基板が静定するまでの時間を、基板平面度の時間変化の観察により評価測定した。静定時間が1秒未満(<1)であれば特に良好、1秒以上2秒未満(1)であれば良好、2秒以上(>2)であれば使用可能と判断した。
【0047】
(パーティクルの基板への転写確認)
作製した実施例および比較例の基板保持装置に基板を静定後30秒間吸着させ、基板の吸着の終了後、基板裏面をパーティクルカウンタ(トプコン社製ウエハ表面検査装置WM−10)で測定(0.1μm以上カウント)し、パーティクルの付着形態がリブの形態と一致しているか目視にて判断した。
【0048】
実施例1〜4は、ΔHを10〜500nmとした実施例である。実施例1〜4は基板をしわなく吸着させることができた。また、基板の平面度が非常に高く、平面度矯正能が高いことが分かった。静定時間も十分に短く、特に実施例1〜3は排気とほぼ同時であった。一方、基板にリブの形状のパーティクルが転写されていた。このパーティクルは非常に微小なものしか観察されなかったため、パーティクルがある場合も基板の平面度には影響を与えていないことが分かった。
【0049】
実施例5、6は、ΔHを1000、2000nmとした実施例である。実施例5、6は基板をしわなく吸着させることができた。また、基板の平面度は実施例1〜4と比較すると若干悪く、静定時間も長かったが、実用的には問題ないレベルであった。また、基板へのパーティクル転写は抑制されていた。
【0050】
実施例7、8は、ΔHを3000、5000nmとした実施例である。実施例7、8は基板をしわなく吸着させることができた。また、基板のエッジ部の反りが抑制されたため、基板の平面度は実施例1〜4と同程度に高かった。静定時間は長かったが、実用的には問題ないレベルであった。また、基板へのパーティクル転写は抑制されていた。
【0051】
実施例9は、ΔHを6000nmとした実施例である。実施例9は基板をしわなく吸着させることができた。また、基板の平面度は実施例1〜4と同程度に高かったが、静定時間は実施例7、8よりもさらに長かった。これはゲージ圧の絶対値が小さく、吸着力が小さくなったためと考えられる。生産性向上を考慮する場合は、問題となる場合があると考えられる。なお、基板へのパーティクル転写は抑制されていた。
【0052】
実施例1〜9のうち、実施例1〜4は、基板へのパーティクルの転写がさほど問題にならず、高い平面度が要求される用途や平面矯正が必要な基板に対して好適に使用される。一方、実施例5〜9は、基板の平面度はある程度以上であればよく、基板へのパーティクルの転写が問題になるような用途に好適に使用される。
【0053】
実施例1〜9は、リブと基準面の高さに差をつけて、吸着面の領域間にガスのリークを生じさせる構成としたが、比較例1は、リブと基準面の高さに差をつけない構成とした。このような構成の場合、基板の吸着当初に基板にしわが寄った状態で吸着されるとしわが矯正されない。比較例1でも、何回か吸着を行なったところ、基板のしわが矯正されない状態が生じた。
【0054】
また、比較例1は、しわが寄らない状態で吸着された場合も、リフトピンリブの近傍のローカルフラットネスは、他の部分のローカルフラットネスと比較して悪い値であった。これは、リフトピンリブの内外で圧力に差が生じているためと考えられる。したがって、各リブ、特にリフトピンリブは、基準面よりも低くすることが重要であることが分かった。
【0055】
なお、ΔHを5nmの試料を作製しようとしたが、リブの高さが調節できず製造できなかった。そのため、ΔHは10nm以上であることが好ましいことが分かった。
【0056】
[異なる実施例]
実施例1〜9は外周リブ、リフトピンリブ、および内側リブの高さを同一にした基板保持装置であったが、実施例10、11は、外周リブの高さと、リフトピンリブおよび内側リブの高さを異なる高さとした基板保持装置の実施例である。図6は、実施例10および11の条件、試験結果を示した表である。
【0057】
実施例10は、外周リブと基準面の高さの差ΔH2を3000nm、リフトピンリブおよび内側リブと基準面の高さの差ΔH3を40nmとした。実施例10は基板をしわなく吸着させることができた。また、基板のエッジ部の反りが抑制され、平面度が非常に高くなった。静定時間も排気とほぼ同時であった。一方、基板に内側リブの形状のパーティクルが転写されていた。このパーティクルも非常に微小なものしか観察されなかったため、パーティクルがある場合も基板の平面度には影響を与えていないことが分かった。
【0058】
実施例11は、外周リブと基準面の高さの差ΔH2を200nm、リフトピンリブおよび内側リブと基準面の高さの差ΔH3を3000nmとした。実施例11は基板をしわなく吸着させることができた。また、リブ近傍およびリフトピン孔近傍での基板のたわみが小さくなり、平面度が非常に高くなった。静定時間は長かったが、実用的には問題ないレベルであった。また、基板へのパーティクル転写は抑制されていた。
【0059】
以上の結果により、本発明の基板保持装置は、基板をしわなく吸着でき、基板の平面度をこれまでよりも高くできることが分かった。
【0060】
本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の思想と範囲に含まれる様々な変形および均等物に及ぶことはいうまでもない。また、各図面に示された構成要素の構造、形状、数、位置、大きさ等は説明の便宜上のものであり、適宜変更しうる。
【符号の説明】
【0061】
10 基体
11 通気孔
11a 開口
17 リフトピン孔
20 上面
21 凸部
21a 複数の凸部の上端により形成される平面(基準面)
23 リブ
23a リブの上端面
25 外周リブ
25a 外周リブの上端面
27 リフトピンリブ
27a リフトピンリブの上端面
29 内側リブ
29a 内側リブの上端面
100 基板保持装置
W 基板
図1
図2
図3
図4
図5
図6