特開2021-197505(P2021-197505A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-197505(P2021-197505A)
(43)【公開日】2021年12月27日
(54)【発明の名称】電気化学デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01G 11/26 20130101AFI20211129BHJP
   H01G 11/46 20130101ALI20211129BHJP
   H01G 11/32 20130101ALI20211129BHJP
   H01G 11/50 20130101ALI20211129BHJP
   H01G 11/06 20130101ALI20211129BHJP
   H01M 10/0525 20100101ALI20211129BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20211129BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20211129BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20211129BHJP
【FI】
   H01G11/26
   H01G11/46
   H01G11/32
   H01G11/50
   H01G11/06
   H01M10/0525
   H01M10/0566
   H01M10/0585
   H01M4/13
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2020-104503(P2020-104503)
(22)【出願日】2020年6月17日
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100197619
【弁理士】
【氏名又は名称】白鹿 智久
(72)【発明者】
【氏名】横島 克典
(72)【発明者】
【氏名】森 広斗
【テーマコード(参考)】
5E078
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5E078AA06
5E078AB06
5E078BA06
5E078BA13
5E078BA27
5E078BA31
5E078BA73
5H029AJ12
5H029AK08
5H029AL06
5H029AL07
5H029AM01
5H029BJ04
5H029BJ12
5H029BJ13
5H029HJ12
5H029HJ20
5H050AA15
5H050BA17
5H050CA16
5H050CB07
5H050CB08
5H050FA02
5H050FA04
5H050HA12
5H050HA17
(57)【要約】
【課題】内部短絡に対する安全性を確保することが可能な電気化学デバイスを提供すること。
【解決手段】本技術に係る電気化学デバイスは、正極と、負極と、セパレータと、電解液とを具備する。上記正極は、正極集電体と、上記正極集電体上に形成され、正極活物質を含む正極活物質層と、上記正極活物質層上に形成され、上記正極活物質層より抵抗率が高い抵抗層とを備える。上記負極は、負極集電体と、上記負極集電体上に形成され、負極極活物質を含む負極活物質層とを備える。上記セパレータは、上記抵抗層と上記負極活物質層の間に配置され、上記正極と上記負極を絶縁する。上記電解液は、上記正極、上記負極及び上記セパレータが浸漬されている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体と、前記正極集電体上に形成され、正極活物質を含む正極活物質層と、前記正極活物質層上に形成され、前記正極活物質層より抵抗率が高い抵抗層とを備える正極と、
負極集電体と、前記負極集電体上に形成され、負極極活物質を含む負極活物質層とを備える負極と、
前記抵抗層と前記負極活物質層の間に配置され、前記正極と前記負極を絶縁するセパレータと、
前記正極、前記負極及び前記セパレータが浸漬された電解液と
を具備する電気化学デバイス。
【請求項2】
請求項1に記載の電気化学デバイスであって、
前記抵抗層の抵抗率は、前記正極活物質層の抵抗率の3倍以上50倍以下である
電気化学デバイス。
【請求項3】
請求項2に記載の電気化学デバイスであって、
前記抵抗層の抵抗率は、前記正極活物質層の抵抗率の5倍以上50倍以下である
電気化学デバイス。
【請求項4】
請求項1から3のうちいずれか1項に記載の電気化学デバイスであって、
前記正極活物質は活性炭であり、
前記抵抗層は遷移金属酸化物及び炭素系材料を含む
電気化学デバイス。
【請求項5】
請求項1から4のうちいずれか1項に記載の電気化学デバイスであって、
リチウムイオンキャパシタである
電気化学デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集電体に活物質層を積層した電極を有する電気化学デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
大容量キャパシタは、エネルギー回生、ロードレベリングなど、大電力の繰り返し充放電を要求される分野にて利用されてきている。近年、このような分野において、従来の電気二重層キャパシタよりもエネルギー密度の高い、リチウムイオンキャパシタの検討が始まっている。リチウムイオンキャパシタは電気二重層キャパシタに匹敵する高い出力密度を持ちながら、高いエネルギー密度を実現したデバイスであり、安全性に対して十分に留意する必要がある。
【0003】
例えば、リチウムイオンキャパシタでは、正極と負極がセパレータによって隔てられた構造を有するが、セパレータの厚みに余裕を設けることで、内部短絡の発生を抑制してきた。しかしながら、エネルギー密度を向上させていくためにはセパレータの薄手化が求められ、薄手化したセパレータでは導電性異物に起因する内部短絡が生じた場合、キャパシタセルの発火に至ることがある。
【0004】
内部短絡を防止するための構成として、例えば特許文献1では、正極または負極の表面に、アルミナなどの無機酸化物と結着剤を含む膜を保護膜として接着することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−220759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の保護膜は、製造時の微小な内部ショートからの保護を目的としており、様々な大きさの導電性異物に起因する内部短絡の発生を防止できるものではない。
【0007】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、内部短絡に対する安全性を確保することが可能な電気化学デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る電気化学デバイスは、正極と、負極と、セパレータと、電解液とを具備する。
上記正極は、正極集電体と、上記正極集電体上に形成され、正極活物質を含む正極活物質層と、上記正極活物質層上に形成され、上記正極活物質層より抵抗率が高い抵抗層とを備える。
上記負極は、負極集電体と、上記負極集電体上に形成され、負極極活物質を含む負極活物質層とを備える。
上記セパレータは、上記抵抗層と上記負極活物質層の間に配置され、上記正極と上記負極を絶縁する。
上記電解液は、上記正極、上記負極及び上記セパレータが浸漬されている。
【0009】
この構成によれば、導電性異物がセパレータを貫通して正極と負極に接触すると、負極活物質層と抵抗層の間で内部短絡が発生する。抵抗層は正極活物質層より高い抵抗率を有するため、導電性異物による短絡点において、抵抗層が放電抵抗として作用し、短絡点の通電電流を低減すると同時に、電気化学デバイスの内部エネルギーを減少させることで電気化学デバイスの発煙・発火に至らせることなく、安全に故障させることが可能である。
【0010】
上記抵抗層の抵抗率は、上記正極活物質層の抵抗率の3倍以上50倍以下であってもよい。
【0011】
上記抵抗層の抵抗率は、上記正極活物質層の抵抗率の5倍以上50倍以下であってもよい。
【0012】
上記正極活物質は活性炭であり、
上記抵抗層は遷移金属酸化物及び炭素系材料を含んでもよい。
【0013】
上記電気化学デバイスは、リチウムイオンキャパシタであってもよい。
【発明の効果】
【0014】
以上のように本発明によれば、内部短絡に対する安全性を確保することが可能な電気化学デバイスを提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係る電気化学デバイスの斜視図である。
図2】上記電気化学デバイスの断面図である。
図3】上記電気化学デバイスが備える蓄電素子の模式的断面図である。
図4】上記電気化学デバイスが備える蓄電素子の、導電性異物が混入した状態を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態に係る電気化学デバイスについて説明する。本発明の実施形態に係る電気化学デバイスは、リチウムイオンキャパシタとすることができる。
【0017】
[電気化学デバイスの構成]
図1は本実施形態に係る電気化学デバイス100の斜視図である。図2は電気化学デバイス100の断面図であり、図1のA−A線での断面図である。
【0018】
これらの図に示すように、電気化学デバイス100は、蓄電素子101、外装フィルム102、正極タブ103及び負極タブ104を備える。
【0019】
蓄電素子101は、図2に示すように、正極111、負極112及びセパレータ113が積層されて構成され、外装フィルム102により形成された収容空間Rに電解液と共に収容されている。
【0020】
外装フィルム102は、蓄電素子101及び電解液を封止する。外装フィルム102は、アルミニウム等の金属箔の表裏両面を合成樹脂によって被覆したラミネートフィルムとすることができる。外装フィルム102は、蓄電素子101の周縁において熱融着され、収容空間Rを封止する。
【0021】
正極タブ103は、正極111に電気的に接続され、外装フィルム102の外部に引き出されている。正極タブ103はアルミニウム等からなる金属箔又は金属板とすることができる。負極タブ104は、負極112に電気的に接続され、外装フィルム102の外部に引き出されている。負極タブ104は銅等からなる金属箔又は金属板とすることができる。
【0022】
[蓄電素子の構成]
図3は、蓄電素子101の模式的な断面図である。同図に示すように、蓄電素子101では正極111と負極112は交互に積層され、正極111と負極112の間にはセパレータ113が配置されている。正極111と負極112の数は特に限定されず、それぞれ少なくとも1つ以上であればよい。
【0023】
正極111は、正極集電体121、正極活物質層122及び抵抗層123を備える。正極集電体121は、導電性材料からなる箔状部材であり、例えば多孔性のアルミニウム箔とすることができる。
【0024】
正極活物質層122は、正極集電体121の表裏両面上に形成され、正極活物質を含む。正極活物質は例えば活性炭である。正極活物質層122は正極活物質とバインダ樹脂及び導電助剤を混合したものとすることができる。
【0025】
抵抗層123は、正極活物質層122上に形成され、正極活物質層122より抵抗率が高い層である。抵抗層123は遷移金属酸化物及び炭素系材料を主体とした材料からなる。遷移金属酸化物はTi、Fe、Co、Ni、Mn、Cu、Cr、V又はAlの少なくとも一つを含み、具体的にはTiO又はAl等が挙げられる。また、炭素系材料としては、活性炭、カーボンブラック、カーボンナノチューブ等が挙げられる。
【0026】
抵抗層123では、遷移金属酸化物と炭素系材料の混合割合によって抵抗率を調整することが可能であり、抵抗率が正極活物質層122の抵抗率より高くなるように調整されている。具体的には、抵抗層123は、正極活物質層122の抵抗率の3倍以上50倍以下の抵抗率を有するものが好適であり、正極活物質層122の抵抗率の5倍以上50倍以下の抵抗率を有するものがより好適である(実施例参照)。抵抗層123の厚みは例えば20μmとすることができる。
【0027】
負極112は、負極集電体131及び負極活物質層132を備える。負極集電体131は、導電性材料からなる箔状部材であり、例えば多孔性の銅箔とすることができる。
【0028】
負極活物質層132は、負極集電体131の表裏両面上に形成され、負極活物質を含む。負極活物質は例えばグラファイト等の炭素系材料である。負極活物質層132は負極活物質とバインダ樹脂及び導電助剤を混合したものとすることができる。
【0029】
セパレータ113は、抵抗層123と負極活物質層132の間に配置され、正極111と負極112を絶縁する。セパレータ113は例えばセルロース系セパレータとすることができる。
【0030】
電気化学デバイス100は以上のような構成を有する。なお、蓄電素子101はここに示すような積層型構造を有するものに限られず、正極111及び負極112がセパレータ113を介して積層され、巻回された巻回型構造を有するものであってもよい。また、電気化学デバイス100はリチウムイオンキャパシタに限られず、正極と負極がセパレータを介して積層された構造を有するキャパシタあるいは電池であってもよい。
【0031】
[電気化学デバイスの効果]
図4は電気化学デバイス100の効果を示す模式図である。同図に示すように、電気化学デバイス100では、収容空間R内に導電性異物Eが混入すると、導電性異物Eがセパレータ113を突き破り、正極111と負極112が短絡するおそれがある。このような短絡は内部短絡と呼ばれる。ここで、電気化学デバイス100では、正極111において正極活物質層122の上層に抵抗層123が設けられている。
【0032】
このため、内部短絡はまず、負極112の負極活物質層132と正極111の抵抗層123の間で発生する。抵抗層123は正極活物質層122より高い抵抗率を有するため、導電性異物Eによる短絡点において、抵抗層123が放電抵抗として作用する。抵抗層123が放電抵抗として作用することで、短絡点の通電電流を低減すると同時に、電気化学デバイス100の内部エネルギーを減少させることで電気化学デバイス100の発煙・発火に至らせることなく、安全に故障させることが可能である。
【実施例】
【0033】
本技術の実施例及び比較例に係るリチウムイオンキャパシタを作製し、内部短絡試験を実施した。
【0034】
多孔性アルミニウム箔である正極集電体上に活性炭を含む正極活物質層を形成した。さらに、正極活物質層上に抵抗層を形成して正極を作製した。抵抗層は、正極活物質層上にTiO及びカーボンブラックを主体とする混合物を重ね塗りすることにより形成し、抵抗層の厚みは20μmとした。
【0035】
さらに、多孔性銅箔である負極集電体上にカーボンを含む負極活物質層を形成して負極を作製した。上記正極と上記負極を、セルロース系セパレータを介して交互に積層し、1000F級のリチウムイオンキャパシタを作製した。セパレータは、内部短絡耐性の低い薄手のセパレータとした。
【0036】
下記の[表1]はこの実施例及び比較例に係るリチウムイオンキャパシタの性状と測定結果を示す表である。なお、[表1]の「内部短絡」欄において「〇」は内部短絡が発生したことを示し、「×」は内部短絡が発生しなかったことを示す。また、「発煙・発火」欄において「〇」は発煙及び発火の一方又は両方が発生したことを示し、「×」は発煙及び発火が発生しなかったことを示す。
【0037】
【表1】
【0038】
[表1]に示すように、正極活物質層の体積抵抗率は0.31Ωcmであった。また、正極において抵抗層を形成する際、遷移金属酸化物と炭素系材料の混合割合によって抵抗層の体積抵抗率を変化させた。
【0039】
[表1]に示すように、抵抗層の体積抵抗率が正極活物質層の体積抵抗率より低い正極を有するリチウムイオンキャパシタを比較例1とし、抵抗層の体積抵抗率が正極活物質層の体積抵抗率より高い正極を有するリチウムイオンキャパシタを実施例1〜9とした。また、抵抗層を有しない正極を有するリチウムイオンキャパシタを作製し、比較例とした。
【0040】
実施例及び比較例に係るリチウムイオンキャパシタに対して、JIS−C8715に規定の強制内部短絡試験を実施し、発煙・発火の有無について確認を行った。[表1]に示すように、比較例1に係るリチウムイオンキャパシタ及び正極に抵抗層を有しないリチウムイオンキャパシタでは、強制内部短絡試験において、発火に至る事象が確認された。
【0041】
一方、実施例1〜8においては、強制内部短絡試験において内部短絡現象には至るものの、温和に放電されるため、発煙・発火には至らないことが確認された。また、実施例9においては、強制内部短絡試験において内部短絡現象が生じなかった。
【0042】
以上のように、抵抗層の体積抵抗率が正極活物質層の体積抵抗率より高い正極を有するリチウムイオンキャパシタでは、内部短絡発生時に温和に放電させることができ、発煙及び発火を防止することが可能である。特に抵抗層の抵抗率が正極活物質層の抵抗率の3倍以上50倍以下の抵抗率を有する場合(実施例3〜8)、内部短絡によりリチウムイオンキャパシタの内部エネルギーを減少させつつ、発煙及び発火を防止することができるため好適である。
【0043】
さらに抵抗層の抵抗率が正極活物質層の抵抗率の5倍以上50倍以下の抵抗率を有する場合(実施例4〜8)、内部短絡によりリチウムイオンキャパシタの内部エネルギーを減少させつつ、より確実に発煙及び発火を防止することができるため好適である。
【符号の説明】
【0044】
100…電気化学デバイス
101…蓄電素子
102…外装フィルム
103…正極タブ
104…負極タブ
111…正極
112…負極
113…セパレータ
121…正極集電体
122…正極活物質層
123…抵抗層
131…負極集電体
132…負極活物質層
図1
図2
図3
図4