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特開2021-197561超指向性スピーカおよび超指向性スピーカシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-197561(P2021-197561A)
(43)【公開日】2021年12月27日
(54)【発明の名称】超指向性スピーカおよび超指向性スピーカシステム
(51)【国際特許分類】
   H04R 1/32 20060101AFI20211129BHJP
   H04R 1/40 20060101ALI20211129BHJP
   H04R 1/00 20060101ALI20211129BHJP
   G10K 11/16 20060101ALI20211129BHJP
【FI】
   H04R1/32 330
   H04R1/40 330
   H04R1/00 330A
   G10K11/16 150
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2020-100112(P2020-100112)
(22)【出願日】2020年6月9日
(11)【特許番号】特許第6826301号(P6826301)
(45)【特許公報発行日】2021年2月3日
(71)【出願人】
【識別番号】518133201
【氏名又は名称】富士通クライアントコンピューティング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下川 創
(72)【発明者】
【氏名】岡本 善博
(72)【発明者】
【氏名】渡部 雄貴
【テーマコード(参考)】
5D019
5D061
【Fターム(参考)】
5D019AA02
5D019GG05
5D061CC11
(57)【要約】      (修正有)
【課題】コスト増加や歩留率の低下を抑制しつつ、サイドローブの抑制が可能な超指向性スピーカを提供する。
【解決手段】超指向性スピーカ10は、超音波発生部22と、側壁部28と、を備える。超音波発生部は、超音波を搬送波として可聴音を出力する超音波スピーカセル20を複数個配列して超音波放射面を形成する。側壁部は、超音波発生部の外縁を包囲し、超音波放射面の鉛直方向で超音波放射面よりも所定高さだけ高く形成される。超音波発生部の外縁を包囲するハウジングHの側壁部28の高さを、超音波放射面24よりも高く設定することによりサイドローブを抑制している。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を搬送波として可聴音を出力する超音波スピーカセルを複数個配列して超音波放射面を形成する超音波発生部と、
前記超音波発生部の外縁を包囲し、前記超音波放射面の鉛直方向で前記超音波放射面よりも所定高さだけ高く形成された側壁部と、
を備える超指向性スピーカ。
【請求項2】
前記側壁部は、前記超音波放射面から前記超音波を放射する際に発生するサイドローブのピーク発生方向を遮る高さに前記所定高さが設定されている、請求項1に記載の超指向性スピーカ。
【請求項3】
前記側壁部は、前記超音波放射面の中心位置を基準にした場合の前記サイドローブのピーク発生方向を示す仰角と、前記中心位置から前記側壁部までの水平方向距離とに基づき前記所定高さが設定される、請求項2に記載の超指向性スピーカ。
【請求項4】
前記超音波発生部の外縁と前記側壁部の内壁との間に吸音材を介在させた、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の超指向性スピーカ。
【請求項5】
超音波を搬送波として可聴音を出力する超音波スピーカセルを複数個配列して超音波放射面を形成する超音波発生部と、前記超音波発生部の外縁を包囲し、前記超音波放射面の鉛直方向で前記超音波放射面よりも所定高さだけ高く形成された側壁部と、を備える超指向性スピーカと、
前記超指向性スピーカを支持し、前記超音波放射面の向きを水平方向と垂直方向の少なくとも一方に変化させる駆動部と、
前記超指向性スピーカの可聴音の出力制御および前記駆動部の姿勢制御を行う制御部と、
を含む、超指向性スピーカシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、超指向性スピーカおよび超指向性スピーカシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、超音波を搬送波として可聴音を出力する超指向性スピーカ(超音波スピーカ)が実用化されている。超指向性スピーカは、複数の超音波スピーカセルを配列することにより超音波の放射面を形成している。そして、超音波を搬送波として用いることで、鋭い指向性を持たせることができる。その結果、特定の狭い領域に存在する人に選択的に可聴音を流す(認識させる)ことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6661186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、超指向性スピーカから送出される超音波(超音波ビーム)には、送信方向の中心軸上に出る音圧の高いメインローブと、中心軸から外れた方向に出る音圧の低いサイドローブが存在する。その結果、特定の領域以外の方向にも可聴音が漏れてしまう場合がある。例えば、店舗等で特定の客に対して「声かけ」を行おうとする場合に、周囲にいる他の客に声かけ内容が聞き取られてしまう場合がある。サイドローブは、超指向性スピーカを構成する個々の超音波スピーカセルの特性を揃えるようにセル選定を行うことで低減することできるが、選別コストが必要になるとともに、歩留率が低下してしまうという問題があった。
【0005】
従って、本発明が解決する課題の一例は、コスト増加や歩留率の低下を抑制しつつ、サイドローブの抑制が可能な超指向性スピーカを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1態様に係る超指向性スピーカは、超音波を搬送波として可聴音を出力する超音波スピーカセルを複数個配列して超音波放射面を形成する超音波発生部と、前記超音波発生部の外縁を包囲し、前記超音波放射面の鉛直方向で前記超音波放射面よりも所定高さだけ高く形成された側壁部と、を備える。
【0007】
本発明の第2態様に係る超指向性スピーカシステムは、超音波を搬送波として可聴音を出力する超音波スピーカセルを複数個配列して超音波放射面を形成する超音波発生部と、前記超音波発生部の外縁を包囲し、前記超音波放射面の鉛直方向で前記超音波放射面よりも所定高さだけ高く形成された側壁部と、を備える超指向性スピーカと、前記超指向性スピーカを支持し、前記超音波放射面の向きを水平方向と垂直方向の少なくとも一方に変化させる駆動部と、前記超指向性スピーカの可聴音の出力制御および前記駆動部の姿勢制御を行う制御部と、を含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明の上記態様によれば、超音波発生部の外縁を包囲し、超音波放射面の鉛直方向で超音波放射面よりも所定高さだけ高く形成された側壁部を備えるので、側壁部によりサイドローブを遮ることができる。その結果、超音波スピーカセルの特性を揃える等の選別を厳密に行う必要性が低下する。従って、コスト増加や歩留率の低下を抑制しつつ、サイドローブによる可聴音の漏れが抑制できる超指向性スピーカおよび超指向性スピーカシステムを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施形態にかかる超指向性スピーカを含む超指向性スピーカシステムの構成を示す例示的かつ模式的な説明図である。
図2図2は、実施形態にかかる超指向性スピーカの構造を示す例示的かつ模式的な断面図である。
図3図3は、実施形態にかかる超指向性スピーカの超音波スピーカセルの配列を示す例示的かつ模式的な上面図である。
図4図4は、実施形態にかかる超指向性スピーカのグリル(カバー)の態様を示す例示的かつ模式的な平面図である。
図5図5は、実施形態にかかる超指向性スピーカの構造において、側壁部によるサイドローブの遮蔽が行われない場合のメインローブとサイドローブの発生状態を示す例示的かつ模式的な図である。
図6図6は、実施形態にかかる超指向性スピーカの構造において、側壁部によるサイドローブの遮蔽が行われる場合のメインローブとサイドローブの発生状態を示す例示的かつ模式的な図である。
図7図7は、実施形態にかかる超指向性スピーカにおいて、グリルと超音波放射面との間の距離(深さ)を変化させた場合の指向性特性の変化を示す例示的な説明図である。
図8図8は、実施形態にかかる超指向性スピーカの側壁部の高さの決定方法を示す例示的かつ模式的な説明図である。
図9図9は、実施形態にかかる超指向性スピーカに用いる吸音材の配置位置を示す例示的かつ模式的な断面図である。
図10図10は、実施形態にかかる超指向性スピーカにおいて、グリルと超音波放射面との間の距離(深さ)および吸音材の種類を変化させた場合の指向性特性の変化を示す例示的な説明図である。
図11図11は、実施形態にかかる超指向性スピーカにおいて、グリルなしの場合、グリルと超音波放射面との間の距離を一定として吸音材なしの場合および吸音材有りの場合における指向性特性の変化を示す例示的な説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の例示的な実施形態が開示される。以下に示される実施形態の構成、ならびに当該構成によってもたらされる作用、結果、および効果は、一例である。本発明は、以下の実施形態に開示される構成以外によっても実現可能であるとともに、基本的な構成に基づく種々の効果や、派生的な効果のうち、少なくとも一つを得ることが可能である。
【0011】
図1は、実施形態にかかる超指向性スピーカ10を含む超指向性スピーカシステム100の構成を示す例示的かつ模式的な説明図である。
【0012】
本実施形態では、超指向性スピーカシステム100を、例えば、店舗等における防犯等に利用する例を示す。超指向性スピーカシステム100は、例えば、店舗内STにおいて、不審な挙動を示す人物(以下、対象者PTという)を監視カメラ等で発見した場合、超指向性スピーカ10を用いて、対象者PTが存在する領域Rのみに向けて可聴音を流す。すなわち、他の来店者(以下、非対象者NPT)に気づかれることなく、いわゆる、「声かけ」等を行い、事前に万引き等の不正行為を防止するシステムである。なお、防犯等を目的とした「声かけ」としては、対象者PTに直接的に警告するような音声メッセージでもよいし、対象者PTに人目を気にさせるようなメッセージ、例えば、「いらっしゃいませ、何かお探しですか」等でもよい。
【0013】
超指向性スピーカ10は、例えば、駆動部12によって支持されて、店舗内STの例えば天井面に設置されている。駆動部12は、例えば、モータ、減速機等で構成され、超指向性スピーカ10の超音波放射面(図1の場合、超指向性スピーカ10の下面)の向きを水平方向(パン)と垂直方向(チルト)の少なくとも一方に変化させる。パンとチルトを複合させることにより、超指向性スピーカ10の超音波放射面を、ほぼ360°(全方位)に向けることができる。例えば、店舗内STに、商品陳列棚で仕切られた複数の通路が存在す場合、通路ごとに超指向性スピーカ10と駆動部12とで構成されるスピーカモジュール14配置する。そして、駆動部12の駆動により、通路の一方の端から他方の端まで、および通路を構成する左側棚の方向から右側棚の方向まで、超指向性スピーカ10の超音波放射面を向けることができる。なお、図1の例では、スピーカモジュール14を4セット示しているが、スピーカモジュール14の数は、適宜選択可能である。
【0014】
超指向性スピーカ10および駆動部12からなるスピーカモジュール14は、店舗のバックヤードBYに設置されたコントロールボックス16およびホスト装置18によって制御される。
【0015】
例えば、コントロールボックス16は、駆動部12に対して電力を供給してモータを駆動させ、超指向性スピーカ10(超音波放射面)の向き(姿勢)を調整して、超音波の放射方向を対象者PTに向ける。また、コントロールボックス16は、変調部、搬送波生成部、増幅部等を備える。増幅部は、超指向性スピーカ10の超音波発生部を構成する複数の超音波スピーカセルごとに設けられている。増幅部は、例えば超音波帯域の増幅特性が良好なオペアンプ等を用いて構成されている。搬送波生成部は、所定の周波数の超音波から成る搬送波を生成し、変調部に出力する。搬送波生成部は、例えば水晶振動子等を用いた高周波発振器を含んで構成されている。変調部は、ホスト装置18から入力された可聴音の信号波によって、搬送波生成部から入力された搬送波を拡幅変調し、変調波を生成する。そして、この変調波は、増幅部によって増幅された状態で、超音波スピーカセルから放射される。超音波スピーカセル20から放射された変調波は、空気中を伝播する過程で空気の非線形性により歪を生じるため、この歪によって可聴音である信号波が自己復調し、指向性の高い音場が形成されるようになっている。
【0016】
ホスト装置18は、例えば、中央演算処理装置(CPU)、リードオンリーメモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、マザーボード(M/B)及びドーターボードのような種々の回路基板、ハードディスクドライブ(HDD)またはソリッドステートドライブ(SSD)のような記録装置、電源ユニット等を備える。ホスト装置18は、一般的なPC(Personal Computer)であってもよい。ホスト装置18は、超指向性スピーカシステム100の全体制御を司る。ホスト装置18は、超指向性スピーカ10から出力する可聴音の音声データをコントロールボックス16に提供する。音声データは、予め録音されたものでもよいし、合成音声データでもよい。また、マイク等を用いて入力した、超指向性スピーカシステム100の利用者(監視員等)の入力音声データでもよい。また、ホスト装置18は、駆動部12の駆動状態、すなわち超指向性スピーカ10の姿勢を制御するための姿勢制御信号を生成しコントロールボックス16に供給する。例えば、ホスト装置18に接続されたマウスやジョイスティック等の入力デバイスを用いて利用者(監視員等)が姿勢制御信号を生成してもよい。また、別の実施形態では、ホスト装置18は、監視カメラの監視結果に基づき、所定の条件を満たす不審な行動を伴う対象者PTを検知した場合に、自動的に、その対象者PTに超指向性スピーカ10を向けるような姿勢制御信号を生成してもよい。なお、コントロールボックス16とホスト装置18は一体的に構成されてもよい。この場合、制御部と称してもよい。また、コントロールボックス16やホスト装置18は、機能別にさらに複数の装置に分割されてもよい。
【0017】
図2は、超指向性スピーカ10の構造を示す例示的かつ模式的な断面図である。また、図3は、超指向性スピーカ10に含まれる超音波スピーカセル20の配列を示す例示的かつ模式的な上面図である。
【0018】
図2図3に示されるように、超指向性スピーカ10は、超音波を発生する複数の超音波スピーカセル20が、基板B上で振動面20aを図中y方向に向けた状態で、x−z方向に、例えば千鳥状に配列された超音波発生部22を備える。各超音波スピーカセル20は、例えば振動面20aが略円形の圧電素子で密着配置されて、超指向性スピーカ10で要求されるスピーカ面積を満たす超音波放射面24を形成する。図3の場合、超音波発生部22において、超音波スピーカセル20は、x方向に10個の列と9個の列が交互に配列され、z方向に9列設けられている。すなわち、図3の超音波発生部22の場合、86個の超音波スピーカセル20で構成される例が示されている。なお、要求される超指向性スピーカ10のスピーカ面積や形状に応じて、超音波スピーカセル20の配列数や配列パターンは適宜変更可能である。
【0019】
超音波発生部22は、基板Bの縁部に等の形成された固定孔Baにネジ等の締結部材を挿入して、金属材料や樹脂材料で形成されるハウジングHの底壁部26に固定される。ハウジングHは、例えば、円筒形状の部品で、超音波発生部22の全体を収納する。ハウジングHは、底壁部26と底壁部26の外縁部から鉛直方向(y方向)に立ち上がる側壁部28、および側壁部28の上端部に固定されて、ハウジングHの上端開口部を塞ぐグリル30で構成されている。グリル30は、図4に示されるように、例えば、孔30aが規則的に形成されたパンチメタルで構成することができる。グリル30は、超音波発生部22の超音波放射面24の保護を行うとともに、意匠の向上にも寄与している。
【0020】
ところで、超指向性スピーカ10の超音波発生部22の超音波放射面24から放射させる超音波(超音波ビーム)には、図5に示されるように、送信方向の中心軸上に出る音圧の高いメインローブMRと中心軸から外れた方向に出る音圧の低いサイドローブSRが存在する。その結果、特定の領域以外の方向にも可聴音が漏れてしまうという現象が生じてしまう場合がある。例えば、図1に示されるように、店舗等で特定の客(対象者PT)に対して「声かけ」を行おうとする場合に、サイドローブSRにより周囲にいる他の客(非対象者NPT)が声かけ内容を聞き取れてしまう場合がある。
【0021】
そこで、本実施形態の超指向性スピーカ10は、図6に示されるように、超音波発生部22の外縁を包囲するハウジングHの側壁部28の高さを、超音波放射面24の鉛直方向で超音波放射面24よりも高く設定することによりサイドローブSRを抑制している。
【0022】
図7は、超音波放射面24からグリル30までの距離(深さD:図2参照)を図5に示されるように、実質的0mmの状態から図6に示されるように増加させた場合の超音波の指向特性(音圧特性)の変化を示す例示的な説明図である。なお、図7において、周方向の数値は、超音波発生部22の正面方向(超音波スピーカセル20の配列の中心位置Cを通る中心軸)を「0°」(または360°)とした場合の角度で、時計回り方向に0°から90°、反時計回り方向に360°から270°が示されている。また、図7において、半径方向の数値は、測定点(例えば、超指向性スピーカ10の前方7m高さ1m)における音圧(dB:デシベル)である。
【0023】
図7において、実線aは、超音波発生部22の超音波放射面24からグリル30の裏面までの距離(深さD)が0mmの場合の指向特性の結果である。超音波スピーカセル20の配列の中心位置Cを通る中心軸に沿う方向に現れている波形がメインローブMRである。また、中心軸から外れた方向に出る音圧の低い波形がサイドローブSRである。図7では、約70°〜75°方向に、音圧が約77dBのサイドローブSRが現れている。
【0024】
また、図7において、破線bは、超音波放射面24からグリル30の裏面までの距離(深さD)が5mmの場合の指向特性の結果である。この場合、約70°〜75°方向に、音圧が約73dB(デシベル)のサイドローブSRが現れている。一点鎖線cは、超音波放射面24からグリル30の裏面までの距離(深さD)が10mmの場合の指向特性の結果である。この場合、約65°〜70°方向に、音圧が約70dB(デシベル)のサイドローブSRが現れている。さらに、二点鎖線dは、超音波放射面24からグリル30の裏面までの距離(深さD)が15mmの場合の指向特性の結果である。この場合、約65°〜70°方向に、音圧が約68dB(デシベル)のサイドローブSRが現れている。なお、図7において、図の簡略化のため、中心線の左側(360°〜270°側)は、破線b、一点鎖線c、二点鎖線dの図示を省略している。
【0025】
図7に示されるように、超音波放射面24からグリル30の裏面までの距離(深さD)が大きくなるほど、サイドローブSRが低減する。つまり、図6に示されるように、側壁部28の超音波放射面24からの高さが高いほど、サイドローブSRの抑制効果がある。つまり、図1に示されるように、超指向性スピーカ10によって対象者PTに「声かけ」を行う場合に、声かけ内容は、対象者PTのみに認識させ、領域R以外に存在する非対象者NPTに声かけ内容を認識させ難くすることができる。また、超音波スピーカセル20の特性を揃える等の選別を厳密に行う必要性が低下し、コスト増加や歩留率の低下を抑制にも寄与することができる。
【0026】
上述のように、側壁部28を高くすることによってサイドローブSRの抑制効果は増加する。その一方で、側壁部28の高さを高くすることは、ハウジングHの高さを増加させる結果につながる。つまり、超指向性スピーカ10の厚みが増加してしまう。図1に示されるように、駆動部12によって、超音波の放射方向が制御できる超指向性スピーカ10は、より広い超音波の放射範囲を確保するために、天上面等に設置される場合が多い。この場合、超指向性スピーカ10の厚みは意匠上、薄くすることが望ましい。つまり、側壁部28の高さを、サイドローブSRの抑制効果を十分に確保しつつ、超指向性スピーカ10の厚みを薄くすることが望ましい。
【0027】
そこで、本実施形態の超指向性スピーカ10の側壁部28の高さは、超音波放射面24から超音波を放射する際に発生するサイドローブSRのピーク発生方向に基づき決定する。前述したように、超指向性スピーカ10で発生するサイドローブSRは、超音波発生部22を構成する複数の超音波スピーカセル20の特性によって変化する。また、超音波発生部22のサイズや超音波スピーカセル20の配列等によっても変化する。そこで、例えば、図5に示されるように、超音波放射面24からグリル30の裏面までの距離(深さ)を0mmとして、サイドローブSRを確認しやすい状態でサイドローブSRのピーク発生方向を予め試験等で取得する。例えば、図7に示されるように、サイドローブSRは、側壁部28の高さに概ね対応して音圧が低下する。また、図7に示される、試験で用いた超指向性スピーカ10(超音波発生部22)のサイドローブSRのピーク発生方向は、概ね同じで、例えば、65°〜75°の範囲である。
【0028】
従って、図8に示されるように、超音波放射面24の中心位置Cを基準にした場合に、以下に示す式1に基づき、側壁部28の超音波放射面24からの高さを決定する。
y=xtanα・・・式1
なお、yは、超音波放射面24を基準とする側壁部28の高さ(超音波放射面24からグリル30の裏面までの高さ(図2の深さDに対応))、xは、中心位置Cから側壁部28の内壁28aまでの水平方向距離、αは、抑制したいサイドローブSRのピーク発生方向を示す仰角である。このように、側壁部28の超音波放射面24からの高さを決定することにより、図6に示されるように、サイドローブSRを側壁部28により遮り、ハウジングHの外部に漏れることを抑制することができる。つまり、サイドローブSRによる音漏れ抑制(非対象者NPTに声かけ内容が認識されることの抑制)を行うことができる。
【0029】
なお、サイドローブSRのピーク発生方向は、上述したように事前の試験等により概ね把握することができるが、超音波発生部22の個体ごとにばらつくことがある。そこで、側壁部28に高さ調整機構を設け、超指向性スピーカ10の設置現場で微調整を行えるようにしてもよい。例えば、側壁部28を二重構造の筒構造として、例えば内筒部に対して外筒部を鉛直方向に伸長調整できるようにしてもよい。その結果、超指向性スピーカ10の個別の特性や使用状況に応じた微調整を容易に実現することができる。
【0030】
図9は、超指向性スピーカ10の他の実施形態を示す例示的かつ模式的な断面図である。図9の超指向性スピーカ10は、側壁部28の内壁28aに吸音材32が配置されている。吸音材32は、内壁28aの全周に配置することができる。なお、図9の場合、超音波発生部22の端部と吸音材32との間に隙間が存在するが、吸音材32の厚みは適宜選択可能で隙間がない状態としてもよい。
【0031】
図10は、超音波放射面24からグリル30の裏面までの距離(深さD)を、5mm、10mm、15mmで変化させるとともに、それぞれの深さで材質の異なる第1吸音材と第2吸音材を配置して、指向性特性(音圧)を測定した結果を示す図である。
【0032】
図10において、実線a1は、超音波放射面24からグリル30の裏面までの距離(深さD)、すなわち超音波放射面24を基準とする側壁部28の高さを10mmとし、吸音材を配置しない場合の指向性特性である。また、破線b1は、超音波放射面24を基準とする側壁部28の高さを5mmとし、第1吸音材を配置した場合の指向性特性である。破線b2は、超音波放射面24を基準とする側壁部28の高さを5mmとし、第2吸音材を配置した場合の指向性特性である。一点鎖線c1は、超音波放射面24を基準とする側壁部28の高さを10mmとし、第1吸音材を配置した場合の指向性特性である。一点鎖線c2は、超音波放射面24を基準とする側壁部28の高さを10mmとし、第2吸音材を配置した場合の指向性特性である。また、二点鎖線d1は、超音波放射面24を基準とする側壁部28の高さを15mmとし、第1吸音材を配置した場合の指向性特性である。二点鎖線d2は、超音波放射面24を基準とする側壁部28の高さを15mmとし、第2吸音材を配置した場合の指向性特性である。なお、図10においても、図の簡略化のため、中心線の左側(360°〜270°側)は、実線a1以外の線の図示を省略している。
【0033】
図10によれば、サイドローブSRの抑制効果は、図7でも示されるように、超音波放射面24を基準とする側壁部28の高さに大きく影響を受けること、さらに、吸音材による吸音によりサイドローブSRの抑制がさらに効果的に行われることが分かる。なお、吸音材の材質によるサイドローブSRの抑制効果の違いは僅かであり、誤差範囲であると見なすことができる。従って、超指向性スピーカ10のコストを考慮すると、例えば、一点鎖線c2で示される、超音波放射面24を基準とする側壁部28の高さが10mm、第2吸音材を配置した場合が、現実的である考えられる。なお、この場合の吸音材32(第2吸音材)は、例えば、密度が30〜45ppi(pores per inch)のポリウレタンである。
【0034】
このように、サイドローブSRを遮る側壁部28の内壁28aに吸音材32を設けることで、内壁28aによる超音波の反射を低減し、メインローブMR以外の超音波がハウジングHから漏れることをより低減することができる。つまり、図1に示されるように、対象者PTのみに「声かけ」を行うことを、より確実に実現することができる。
【0035】
図11は、指向性特性の測定結果をまとめた例示的な図である。図11において、実線aは、超音波放射面24を基準とする側壁部28の高さが10mm(グリル30あり)で吸音材32を側壁部28の内壁28aに配置した場合の指向性特性である。一点鎖線bは、超音波放射面24を基準とする側壁部28の高さが10mm(グリル30あり)で吸音材32を設けない場合の指向性特性である。また、破線cは、グリル30がなし(超音波放射面24より高い側壁部28なし)、吸音材32なしの場合の指向性特性である。なお、図11においても、図の簡略化のため、中心線の左側(360°〜270°側)は、一点鎖線b以外の線の図示を省略している。
【0036】
図11に示されるように、超音波発生部22の外縁を包囲し、超音波放射面24の鉛直方向で超音波放射面24よりも所定高さだけ高く形成された側壁部28を形成することにより、サイドローブSRの抑制を効果的に行うことができる。また、側壁部28に吸音材32を設けることによりサイドローブSRの抑制効果をさらに向上することができる。なお、超指向性スピーカ10の設置場所におけるサイドローブSRの影響状況に応じて、吸音材32を省略してもよい。この場合、超指向性スピーカ10のコストの低減に寄与することができる。
【0037】
このように、本実施形態の超指向性スピーカ10は、超音波を搬送波として可聴音を出力する超音波スピーカセル20を複数個配列して超音波放射面24を形成する超音波発生部22と、超音波発生部22の外縁を包囲し、超音波放射面24の鉛直方向で超音波放射面24よりも所定高さだけ高く形成された側壁部28と、を備える。この構成によれば、例えば、超音波の送信方向から外れた方向に出るサイドローブSRを遮り、超音波スピーカセル20の特性を揃える等の選別を厳密に行うことなく、サイドローブによる可聴音の漏れが抑制できる。
【0038】
また、本実施形態の側壁部28は、超音波放射面24から超音波を放射する際に発生するサイドローブSRのピーク発生方向を遮る高さに所定高さが設定されている。この構成によれば、例えば、側壁部28の高さを必要最小限に留めることが可能となる。つまり、サイドローブSRの抑制を効率的に行いつつ、超指向性スピーカ10のハウジングHの厚みが必要以上に厚くなることが抑制できて、サイドローブSRの発生およびハウジングHの大型化を抑制した超指向性スピーカ10を得ることができる。
【0039】
また、本実施形態の側壁部28は、超音波放射面24の中心位置Cを基準にした場合のサイドローブSRのピーク発生方向を示す仰角αと、中心位置Cから側壁部28(内壁28a)までの水平方向距離xとに基づき、側壁部28の高さ(超音波放射面24を基準とする高さ)が設定される。この構成によれば、例えば、サイドローブSRの抑制と、側壁部28の高さが必要以上に高くなることを抑制する設計を効率的かつ容易に行うことができる。
【0040】
また、本実施形態の超指向性スピーカ10は、超音波発生部22の外縁と側壁部28の内壁28aとの間に吸音材32を介在させてもよい。この構成によれば、例えば、側壁部28で遮った超音波の反射による影響を軽減し、超音波がメインローブMR以外の方向に放射させることを軽減することが可能であり、指向性特性の改善に、さらに寄与することができる。
【0041】
また、本実施形態の超指向性スピーカシステム100は、超指向性スピーカ10と、駆動部12と、制御部(コントロールボックス16、ホスト装置18)と、を含む。超指向性スピーカ10は、超音波を搬送波として可聴音を出力する超音波スピーカセル20を複数個配列して超音波放射面を形成する超音波発生部22と、超音波発生部22の外縁を包囲し、超音波放射面24の鉛直方向で超音波放射面24よりも所定高さだけ高く形成された側壁部28と、を備える。駆動部12は、超指向性スピーカ10を支持し、超音波放射面24の向きを水平方向と垂直方向の少なくとも一方に変化させる。制御部(コントロールボックス16、ホスト装置18)は、超指向性スピーカ10の可聴音の出力制御および駆動部12の姿勢制御を行う。この構成によれば、例えば、超音波スピーカセル20の特性を揃える等の選別を厳密に行うことなく、サイドローブSRによる可聴音の漏れが抑制できる超指向性スピーカシステム100を得ることができる。
【0042】
なお、上述した実施形態では、超指向性スピーカ10(超指向性スピーカシステム100)を店舗に設けて、来店者のうち特定の対象者PTに「声かけ」を行う例を示したが、使用用途はこれに限定されない。例えば、公共交通機関(電車やバス)等において、特定の乗客に「声かけ」を行うようにしてもよく、同様の効果を得ることができる。また、博物館等の展示スペース等、静かな空間で、展示品に接近した特定の鑑賞者に説明音声を提供してもよく、同様の効果を得ることができる。
【0043】
以上、本発明の実施形態が例示されたが、上記実施形態は一例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、組み合わせ、変更を行うことができる。また、各構成や、形状、等のスペック(構造や、種類、方向、形式、大きさ、長さ、幅、厚さ、高さ、数、配置、位置、材質等)は、適宜に変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0044】
10…超指向性スピーカ、12…駆動部、14…スピーカモジュール、16…コントロールボックス、18…ホスト装置、20…超音波スピーカセル、20a…振動面、22…超音波発生部、24…超音波放射面、26…底壁部、28…側壁部、28a…内壁、30…グリル、32…吸音材、100…超指向性スピーカシステム、MR…メインローブ、SR…サイドローブ、NPT…非対象者、PT…対象者、R…領域。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【手続補正書】
【提出日】2020年10月14日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を搬送波として可聴音を出力する超音波スピーカセルを複数個配列して超音波放射面を形成する超音波発生部と、
前記超音波発生部の外縁を包囲し、前記超音波放射面の鉛直方向で前記超音波放射面よりも所定高さだけ高く形成された側壁部と、
を備え、
前記側壁部は、前記超音波放射面から前記超音波を放射する際に発生するサイドローブのピーク発生方向に応じて、前記サイドローブを遮る高さに前記側壁部の高さを調整する高さ調整機構を含む、超指向性スピーカ。
【請求項2】
前記高さ調整機構は、内筒部と外筒部とを含む二重構造で形成され、前記側壁部の高さを調整する、請求項1に記載の超指向性スピーカ。
【請求項3】
前記側壁部は、前記超音波放射面の中心位置を基準にした場合の前記サイドローブのピーク発生方向を示す仰角と、前記中心位置から前記側壁部までの水平方向距離とに基づき前記所定高さが設定される、請求項2に記載の超指向性スピーカ。
【請求項4】
前記超音波発生部の外縁と前記側壁部の内壁との間に吸音材を介在させた、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の超指向性スピーカ。
【請求項5】
超音波を搬送波として可聴音を出力する超音波スピーカセルを複数個配列して超音波放射面を形成する超音波発生部と、前記超音波発生部の外縁を包囲し、前記超音波放射面の鉛直方向で前記超音波放射面よりも所定高さだけ高く形成された側壁部と、を備える超指向性スピーカと、
前記超指向性スピーカを支持し、前記超音波放射面の向きを水平方向と垂直方向の少なくとも一方に変化させる駆動部と、
前記超指向性スピーカの可聴音の出力制御および前記駆動部の姿勢制御を行う制御部と、
を備え、
前記側壁部は、前記超音波放射面から前記超音波を放射する際に発生するサイドローブのピーク発生方向に応じて、前記サイドローブを遮る高さに前記側壁部の高さを調整する高さ調整機構を含む、超指向性スピーカシステム。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0006
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0006】
本発明の第1態様に係る超指向性スピーカは、超音波を搬送波として可聴音を出力する超音波スピーカセルを複数個配列して超音波放射面を形成する超音波発生部と、前記超音波発生部の外縁を包囲し、前記超音波放射面の鉛直方向で前記超音波放射面よりも所定高さだけ高く形成された側壁部と、を備え、前記側壁部は、前記超音波放射面から前記超音波を放射する際に発生するサイドローブのピーク発生方向に応じて、前記サイドローブを遮る高さに前記側壁部の高さを調整する高さ調整機構を含む。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
本発明の第2態様に係る超指向性スピーカシステムは、超音波を搬送波として可聴音を出力する超音波スピーカセルを複数個配列して超音波放射面を形成する超音波発生部と、前記超音波発生部の外縁を包囲し、前記超音波放射面の鉛直方向で前記超音波放射面よりも所定高さだけ高く形成された側壁部と、を備える超指向性スピーカと、前記超指向性スピーカを支持し、前記超音波放射面の向きを水平方向と垂直方向の少なくとも一方に変化させる駆動部と、前記超指向性スピーカの可聴音の出力制御および前記駆動部の姿勢制御を行う制御部と、を備え、前記側壁部は、前記超音波放射面から前記超音波を放射する際に発生するサイドローブのピーク発生方向に応じて、前記サイドローブを遮る高さに前記側壁部の高さを調整する高さ調整機構を含む。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0008】
本発明の上記態様によれば、超音波発生部の外縁を包囲し、超音波放射面の鉛直方向で超音波放射面よりも所定高さだけ高く形成された側壁部を備え、その側壁部が超音波を放射する際に発生するサイドローブのピーク発生方向に応じて高を調整する高さ調整機構を含むので、高さ調整された側壁部によりサイドローブをより適切に遮ることができる。その結果、超音波スピーカセルの特性を揃える等の選別を厳密に行う必要性が低下する。従って、コスト増加や歩留率の低下を抑制しつつ、サイドローブによる可聴音の漏れが抑制できる超指向性スピーカおよび超指向性スピーカシステムを得ることができる。