【解決手段】クローラユニット2は、無端帯状の履帯と、履帯に囲まれた領域の一端側および他端側に配置された駆動輪22および従動輪23と、駆動輪22を回転駆動する駆動機構26とを備える。駆動輪22は、車軸51と、車軸51と一体に回転可能でかつ履帯に係合したスプロケット52とを有する。駆動機構26は、駆動輪22と従動輪23との間に設けられたモータ71と、モータ71と車軸51との間に設けられた動力伝達部72とを有する。モータ71は、その出力軸81が車軸51と直交する姿勢で配置される。動力伝達部72は、モータ71の出力軸81の回転を回転軸方向を変換しつつ車軸51に伝達するギヤ機構73,74を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1のクローラユニットでは、駆動輪の左右にモータおよび減速機が配置されるので、駆動輪と従動輪との間にスペースが形成され易くなる。これにより、当該スペースにバッテリ等の部品を収納することが可能になるので、クローラユニットの前後方向(軸方向)長さを短縮できる等の利点があるとされている。
【0006】
しかしながら、上記特許文献1では、クローラユニットの軸方向の一端部に位置する駆動輪に比較的重量の嵩むモータおよび減速機が取り付けられるので、クローラユニットの前後方向の中心に対しその重心が大きく駆動輪側にずれることとなり、クローラユニットの重量バランスが悪化するという問題がある。
【0007】
また、クローラユニットの使用条件によってはより高出力なモータを搭載する必要が生じるが、上記特許文献1ではこのような要求に応えることが難しいという問題がある。すなわち、駆動輪の一側面にモータを取り付ける上記特許文献1の方法では、駆動輪の外径以内に収まる小型のモータを選定せねばならず、しかも履帯の幅方向の内側に収まる範囲にモータの軸方向長さを制限する必要があるので、モータの高出力化によりそのサイズが大型化した場合には、モータを取り付けることがそもそも困難になる。
【0008】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、モータの高出力化に柔軟に対応することが可能でしかも重量バランスに優れたクローラユニットおよびこれを備えた走行車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するためのものとして、本発明の一局面にかかるクローラユニットは、無端帯状の履帯と、前記履帯に囲まれた領域の一端側において前記履帯を送り駆動する回転可能な駆動輪と、前記履帯に囲まれた領域の他端側において前記履帯と連れ回るように軸支された従動輪と、前記駆動輪を回転駆動する駆動機構とを備え、前記駆動輪は、前記履帯の幅方向に沿って延びる車軸と、前記車軸と一体に回転可能でかつ前記履帯に係合したスプロケットとを有し、前記駆動機構は、前記駆動輪と従動輪との間に設けられたモータと、当該モータと前記車軸との間に設けられた動力伝達部とを有し、前記モータは、その出力軸が前記車軸と直交する姿勢で配置され、前記動力伝達部は、前記モータの出力軸の回転を回転軸方向を変換しつつ前記車軸に伝達するギヤ機構を有する、ことを特徴とするものである(請求項1)。
【0010】
本発明によれば、比較的重量の嵩むモータおよび動力伝達部が駆動輪と従動輪との間に配置されるので、クローラユニットの重心が前後のいずれかに大きく偏ることが回避され、クローラユニットの重量バランスを良好に維持することができる。
【0011】
また、駆動輪と従動輪との間に配置されるモータは、そのサイズに課される制約が少ないので、求められる出力等に応じてモータを柔軟に大型化することができる。例えば、駆動輪と同軸にモータを取り付けることも考えられるが、このようにした場合、モータは、その外径および軸方向長さについても大きな制約を受けることになる。これに対し、本発明のように、比較的長い距離が確保され易い駆動輪と従動輪との間にモータを配置するようにした場合には、モータのサイズ上の制約が軽減されるので、必要に応じてモータを大型化することが可能になり、モータの高出力化に柔軟に対応することが可能になる。
【0012】
特に、本発明では、駆動輪の車軸に対し出力軸が直交する縦置きの姿勢でモータが配置されるとともに、このモータと車軸との間に回転軸方向を変換可能な動力伝達部が配置されるので、モータの軸方向長さが比較的長かったとしても、これを駆動輪と従動輪との間に支障なく収めることができるとともに、当該モータの回転を動力伝達部を介して的確に車軸に伝達することができる。
【0013】
好ましくは、前記ギヤ機構は、前記モータの出力軸の回転を減速しつつ同軸方向に伝達する第1ギヤ機構と、当該第1ギヤ機構の出力回転を回転軸方向を変換しつつ前記車軸に伝達する第2ギヤ機構とを有する(請求項2)。
【0014】
このように、モータの出力軸の回転を減速した上で車軸に伝達するようにした場合には、モータの容量(出力)と第1ギヤ機構の減速比との組合せ次第でクローラユニットの出力特性を種々変更することが可能になるので、走行速度を重視するかトルクを重視するかといった要求性能の違いがある場合でも、それらの要求性能に適合する出力特性を適宜クローラユニットに付与することができる。
【0015】
前記第1・第2ギヤ機構の具体的な構造は特に問わないが、好適な例として、前記第1ギヤ機構は遊星歯車機構であり、前記第2ギヤ機構はベベルギヤ機構である(請求項3)。
【0016】
この構成によれば、第1ギヤ機構を可及的にコンパクト化できるとともに、当該第1ギヤ機構の出力回転をベベルギヤを用いた比較的簡単な構造の第2ギヤ機構を介して車軸に的確に伝達することができる。
【0017】
好ましくは、クローラユニットは、前記履帯に囲まれた領域において前記履帯の幅方向に間隔をあけて配置された左右一対のサイドフレームをさらに備え、前記駆動輪の車軸は、前記一対のサイドフレームに回転可能に支持されており、前記モータおよび動力伝達部は、前記一対のサイドフレームの間に配置されている(請求項4)。
【0018】
この構成によれば、駆動輪の支持剛性を良好に確保しつつ、モータおよび動力伝達部を配置するためのスペースとして両サイドフレームの間のスペースを有効利用することができる。
【0019】
好ましくは、前記駆動輪は、前記一対のサイドフレームの外側において前記車軸に取り付けられた一対の前記スプロケットを有する(請求項5)。
【0020】
この構成によれば、履帯の幅方向外側寄りの2箇所に適正にスプロケットを係合させることができ、当該スプロケットの回転トルクを効率よく履帯の送り駆動力に変換することができる。
【0021】
好ましくは、クローラユニットは、前記一対のサイドフレームの周縁部どうしの隙間を覆う保護カバーをさらに備える(請求項6)。
【0022】
この構成によれば、一対のサイドフレームの間に配置されるモータおよび動力伝達部に泥や砂等の異物がかかるのを保護カバーによって防止することができ、モータおよび動力伝達部が故障するリスクを可及的に低減することができる。
【0023】
好ましくは、前記従動輪は、前記一対のサイドフレームに対し前後方向にスライド可能に支持された従動車軸と、当該従動車軸を中心に回転可能なホイールとを有し、前記一対のサイドフレームの間に、前記従動車軸を前記駆動輪から遠ざける方向に付勢する付勢部材を含むテンション調整機構が配設される(請求項7)。
【0024】
この構成によれば、付勢部材の弾発力を利用して従動輪を駆動輪から遠ざける方向に付勢することにより、履帯に適切なテンションが付与されるように駆動輪と従動輪との離間距離を調整することができる。
【0025】
ここで、例えば履帯が走行路上の何らかの異物に引っ掛かったような場合には、そのことが原因で履帯の送り動作がロックされることがある。このようなロック状態が生じると、履帯の上面部(履帯のうち駆動輪および従動輪の各上端の間に架け渡される部分)にかかるテンションが増大するので、弾性部材の弾発力に抗して従動輪が駆動輪に接近する方向に移動する結果、両者の離間距離が短縮される。そして、当該短縮代が所定値を超えると、履帯における上面部以外の部分に大きな弛みが生じて、ついには駆動輪のスプロケットと履帯との係合が解除されるようになる。この係合解除は、スプロケットの間欠的な空回りを許容し、履帯のテンションや駆動輪の負荷を軽減させる。言い換えると、付勢部材を用いて従動輪を付勢する上述したテンション調整機構は、履帯のテンションや駆動輪の負荷に制限をかけるいわばトルクリミッターの機能を有している。この機能によって、ロック状態のときに履帯および駆動輪に過大な負担がかかることが回避される結果、これらの部品が損傷するリスクを低減することができる。
【0026】
好ましくは、クローラユニットは、前記駆動輪と前記従動輪との間に配置された複数のプーリをさらに備え、前記複数のプーリは、それぞれ、前記サイドフレームに固定されたプーリ軸と、当該プーリ軸を中心に回転可能でかつ前記履帯の接地面に沿って配置されるローラとを有し、前記プーリ軸は、前記駆動輪の車軸よりも下方にオフセットした位置に配置され、前記ローラの半径をr1、前記駆動輪のスプロケットの半径をr2、前記駆動輪の車軸に対する前記プーリ軸の下方へのオフセット量をZ、前記履帯の全高さをHとしたとき、下式(1)(2)が成立する(請求項8)。
r2>r1 ‥‥(1)
Z≧(r2−r1)+H/8 ‥‥(2)
【0027】
この構成によれば、スプロケットの下端が地面に対し十分に(H/8以上)高い位置に配置されることになる。したがって、例えば何らかの障害物がクローラユニットに対し前方から衝突したような場合でも、この障害物がよほど大きいものでない限り、衝突による衝撃荷重はスプロケットに直接的に作用しない。このことは、クローラユニットが障害物に衝突した際の部品損傷のリスクを低減することにつながる。
【0028】
すなわち、仮に衝突による衝撃荷重が直接的にスプロケットに作用した場合、駆動輪の車軸には、駆動機構(モータ)から入力される回転トルクに加えて、前記衝撃荷重に基づく大きな力が重畳的に作用することになる。このことは、車軸もしくはこれを支持するベアリング等の部品に過剰な応力を発生させ、これらの部品が損傷するリスクを高める。これに対し、前記構成では、スプロケットの位置が地面よりも十分に高く設定されるので、回転トルクと衝撃荷重とが重畳的に作用する前記のような事態を回避でき、クローラユニットが障害物に衝突した際に損傷を受け易い部品(つまり車軸やベアリング等)の保護を図ることができる。
【0029】
前記構成において、より好ましくは、前記プーリ軸は、前記サイドフレームを貫通するバネ鋼製の軸部材であり、前記サイドフレームは、前記プーリ軸が貫通される貫通部に、前記プーリ軸を受け入れ保持する筒状の弾性部材からなるブッシュ部材を有する(請求項9)。
【0030】
この構成によれば、クローラユニットが障害物と衝突した際の衝撃を効果的に緩和することができる。
【0031】
すなわち、障害物がクローラユニットに衝突した場合、当該衝突による衝撃荷重は、履帯の接地面に沿って配置されるプーリのローラに直接入力される可能性が高い。衝撃荷重がローラに入力されると、バネ鋼製のプーリ軸が弾性的に曲げ変形するとともに、弾性部材からなるブッシュ部材が弾性的に圧縮変形する。このことは、障害物からローラに加えられた衝突エネルギーが、プーリ軸およびブッシュ部材の弾性変形によるひずみエネルギーに変換されたことを意味する。これにより、障害物との衝突による衝撃が緩和されるので、プーリ軸等の部品が損傷するリスクを低減することができる。
【0032】
本発明の他の局面にかかる走行車両は、前記クローラユニットと、前記クローラユニットに支持されたボード部と、前記ボード部に乗った運転者により操作される操作ハンドルとを備えた、ことを特徴とするものである(請求項10)。
【0033】
クローラユニットを用いた本発明の走行車両は、雪道や非舗装路などの不整地を走行するのに好適に使用することができる。
【発明の効果】
【0034】
以上説明したように、本発明によれば、モータの高出力化に柔軟に対応することが可能でしかも重量バランスに優れたクローラユニットおよびこれを備えた走行車両を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0036】
(1)走行車両の全体構成
図1および
図2は、本発明の一実施形態にかかる走行車両1の全体構成を示す斜視図および側面図である。本実施形態の走行車両1は、雪道や非舗装路などの不整地を走行するのに好適に用いられる車両であり、ユーザが立位で乗車するいわゆるボードスクータである。走行車両1は、前後一対のクローラユニット2A,2Bと、両クローラユニット2A,2Bにより支持されたボード部3と、ボード部3に乗った運転者により操作される操作ハンドル4とを備えている。また、図示を省略しているが、走行車両1は、クローラユニット2A,2Bの出力を制御するための制御装置と、クローラユニット2A,2Bを駆動するための電力を蓄えるバッテリとをさらに備えている。制御装置およびバッテリは、例えば操作ハンドル4に内蔵もしくは外付けされる。
【0037】
一対のクローラユニット2A,2Bは、上記バッテリからの供給電力により駆動される電動式のクローラユニットである。当実施形態において、両クローラユニット2A,2Bの仕様、構造は互いに同一である。このため、以下では両者を特に区別せずに指すときがあり、その場合は単にクローラユニット2と称する。詳細は次の(2)で説明するが、クローラユニット2は、複数の回転部品(後述する駆動輪22、従動輪23、プーリ24)の間に巻き掛けられた無端帯状の履帯21と、履帯21を送り駆動するためにその内部に配設された電動式の動力源(後述するモータ71等)とを有している。
【0038】
操作ハンドル4は、上下方向に延びるハンドルポスト11と、ハンドルポスト11の上端に取り付けられたハンドル部12とを有している。ハンドル部12は、略水平方向に延びる本体部13と、本体部13の両端部に取り付けられた左右一対のグリップ部14,15とを有している。一対のグリップ部14,15は、運転者の右手および左手によりそれぞれ把持されるものである。特に、右側のグリップ部15は、運転者によるひねり操作が可能なように、ハンドル部12(本体部13)の軸回りに所定角度範囲で回転可能に取り付けられている。上記制御装置は、グリップ部15の回転角を検出する図外のセンサからの検出信号を受け付けるとともに、受け付けた信号(検出された回転角)に応じてクローラユニット2の出力を制御する。言い換えると、グリップ部15は、走行車両1の速度を調節するためのアクセルグリップとして機能するものである。
【0039】
ハンドルポスト11の下端部は、前側のクローラユニット2Aにブラケット5を介して結合されている。ブラケット5は、クローラユニット2Aのやや上方において幅方向に延びる支持バー16と、支持バー16の両端部とクローラユニット2Aとを連結する左右一対のマウント17とを有している。ハンドルポスト11は、その下端部が支持バー16に固定されることにより、ブラケット5を介してクローラユニット2Aに結合されている。
【0040】
ボード部3は、前後方向に長尺な平板状の部材である。ボード部3の後端部は、後側のクローラユニット2Bにブラケット6を介して結合されている。ブラケット6は、上述したブラケット5と同一構造のものであり、支持バー16と左右一対のマウント17とを有している。ボード部3は、その後端部が支持バー16に固定されることにより、ブラケット6を介してクローラユニット2Bに結合されている。
【0041】
ボード部3の前端部には支持フレーム7が設けられている。支持フレーム7は、ボード部3の前端部から上方かつ前方に延設されており、その前端部にボス部7aを有している。ボス部7aは、上下方向に延びる筒状の部材であり、当該ボス部7aにハンドルポスト11の下部が挿通されている。言い換えると、ハンドルポスト11はボス部7aによって軸回りに回転可能に支持されている。
【0042】
ボード部3に乗った運転者がハンドル部12を前後方向に揺動操作すると、ハンドルポスト11が回転して前側のクローラユニット2Aの向きが変更され、これに応じて走行車両1の進行方向が変更される。すなわち、ハンドルポスト11の下端部はクローラユニット2A(詳しくは同ユニット2Aに結合されたブラケット5)に結合されているので、ハンドル部12が揺動操作されてハンドルポスト11が回転すると、これに応じてクローラユニット2Aの向きが変更される。運転者は、クローラユニット2Aが所望の進行方向を向くようにハンドル部12を操作することにより、進行方向を調整しつつ走行車両1を走行させることが可能である。
【0043】
(2)クローラユニットの構造
図3および
図4は、クローラユニット2の外観を示す斜視図および側面図である。本図に示すように、クローラユニット2は、先の
図1等にも示した無端帯状の履帯21と、履帯21に囲まれた領域の一端側において履帯21を送り駆動する回転可能な駆動輪22と、履帯21に囲まれた領域の他端側において履帯21と連れ回るように軸支された従動輪23と、駆動輪22と従動輪23との間に配設された複数の(ここでは5つの)プーリ24とを備えている。以下では、駆動輪22および従動輪23等の並び方向のうち駆動輪22が設けられている側を「前」、従動輪23が設けられている側を「後」とする。
【0044】
図5および
図6は、履帯21を単体で示す斜視図および側面図である。本図に示すように、履帯21は、履帯本体31と、履帯本体31の外面を覆う履帯カバー32とを有している。履帯本体31は、ポリプロピレン等の合成樹脂により形成されており、履帯カバー32は、履帯本体31よりも軟質な合成ゴムにより形成されている。
【0045】
履帯本体31は、履帯21の送り方向に並ぶ複数の履板部31aと、隣接する履板部31aの間に設けられた複数のヒンジ部31bとを有している。履板部31aは、所定の厚みを有して履帯21の幅方向(前後方向と直交する方向;以下では履帯幅方向という)に延びる平板状に形成されている。ヒンジ部31bは、履板部31aよりも薄肉に形成され、隣接する履板部31aどうしを一体にかつ屈曲自在に結合している。履帯本体31は、組み付け前の状態において有限の長さにカットされており、その両端部が別体のヒンジ部品(図示省略)により互いに結合されることにより、無端帯状(環状)に形成されている。
【0046】
履帯カバー32は、複数の履板部31aの外面をそれぞれ覆う複数の板状のゴム部品であり、各履板部31aの外面にそれぞれ接着等により固定されている。
【0047】
履帯本体31には、駆動輪22(後述するスプロケット52の歯部52a)が係合する複数の係合孔33(
図5)が設けられている。係合孔33は、履帯本体31の各ヒンジ部31bに2つずつ設けられている。言い換えると、複数の係合孔33は、履帯幅方向の位置が異なる2つの列に沿って、ヒンジ部31bと同ピッチで履帯21の送り方向に並ぶように設けられている。各係合孔33は、履帯21の送り方向に長尺な長孔状に形成され、履帯本体31を厚み方向に貫通している。
【0048】
履帯本体31の各履板部31aの内面には複数の突起34が設けられている。複数の突起34は、上述した係合孔33と同様に、履帯幅方向の位置が異なる2つの列に沿って履帯21の送り方向に並ぶように設けられている。各突起34は、係合孔33の列よりも履帯幅方向の外側にわずかにオフセットした位置に設けられるとともに、履帯21の送り方向に隣接する2つの係合孔33の中間にそれぞれ位置するように設けられている。突起34は、駆動輪22および従動輪23が履帯21に対し履帯幅方向にずれるのを規制する役割を果たす。
【0049】
図7〜
図10は、クローラユニット2から履帯21を取り外した状態(クローラユニット2の内部構造)を示しており、
図7は斜視図、
図8は平面図(上面図)、
図9は側面図、
図10は正面図である。本図に示すように、クローラユニット2は、左右一対のサイドフレーム25と、駆動機構26と、テンション調整機構27とをさらに備えている。一対のサイドフレーム25は、クローラユニット2の骨格を構成する部材として履帯21の内部に配設されており、駆動輪22、従動輪23、およびプーリ24をそれぞれ支持している。駆動機構26は、駆動輪22を回転駆動するための機構であり、一対のサイドフレーム25の間に支持されている。テンション調整機構27は、駆動輪22と従動輪23との前後方向の距離(ひいては履帯21のテンション)を調整するための機構であり、駆動機構26よりも後側において一対のサイドフレーム25の間に支持されている。以下、各要素の構造等についてより詳細に説明する。
【0050】
一対のサイドフレーム25は、前後方向に長尺な板状の部材であり、履帯幅方向に所定間隔をあけて相対向するように配置されている。両サイドフレーム25は、前後方向の複数箇所において互いに連結されている。両サイドフレーム25を連結する手段として、当実施形態では、第1クロスプレート41、第2クロスプレート42、第3クロスプレート43、および第4クロスプレート44が設けられている。第1〜第4クロスプレート41〜44は、前側からこの順に並んでいる。
【0051】
一対のサイドフレーム25の各外側面には、それぞれマウント17が取り付けられている。マウント17は、既に説明したとおり、走行車両1のボード部3または操作ハンドル4をクローラユニット2に結合するための部材である(
図1、
図2参照)。マウント17は、サイドフレーム25の前後方向中央部の外側面に固定された本体部18と、本体部18における履帯幅方向の端部から上方に突出する突出部19とを有している。突出部19には、上述した支持バー16の端部が固定される。
【0052】
履帯幅方向の一方側(図例では左側)のサイドフレーム25の外側面には、コネクタ46が取り付けられている。コネクタ46は、走行車両1に備わる上述したバッテリから供給される電力を中継するためのものである。すなわち、コネクタ46は、上記バッテリとケーブル等の配線を介して接続されるとともに、後述するモータ71とケーブル47(
図8)を介して接続されている。
【0053】
一対のサイドフレーム25の周縁部には、両者の間の隙間であるフレーム間ギャップを覆うための保護カバー49(
図7、
図10参照)が取り付けられている。保護カバー49は、フレーム間ギャップの下面を主に覆う下カバーと、フレーム間ギャップの上面を主に覆う上カバーとを有しており、フレーム間ギャップを全面的に覆うように取り付けられる。ただし、
図7および
図10では、保護カバー49における下カバーのみを図示し、上カバーは省略している。
【0054】
図11は、
図9のXI−XI線に沿った断面図である。この
図11および先の
図7〜
図10等に示すように、駆動輪22は、履帯幅方向に延びる回転可能な車軸51と、車軸51の両端部に固定された左右一対のスプロケット52とを有している。
【0055】
車軸51は、一対のサイドフレーム25の前端部に回転可能に支持されている。すなわち、車軸51は、一対のサイドフレーム25の前端部をそれぞれ貫通するとともに、この貫通部において各サイドフレーム25に取り付けられた一対のベアリング53により回転可能に支持されている。
【0056】
一対のスプロケット52は、車軸51の両端部(車軸51のうち一対のサイドフレーム25よりも外側の部分)に外挿された状態で当該車軸51にネジ等の締結部材を介して固定されている。各スプロケット52の外周には、径方向外側に突出する複数の歯部52aが形成されている。各スプロケット52は、その歯部52aが履帯21と係合するように、履帯21に形成された係合孔33の列(
図5)に対応する位置に設けられている。そして、歯部52aと係合孔33とが係合した状態で駆動輪22(スプロケット52)が回転駆動されることにより、履帯21が送り駆動されるようになっている。
【0057】
従動輪23は、履帯幅方向に延びる車軸55(請求項にいう「従動車軸」に相当)と、車軸55の両端部に回転可能に取り付けられた左右一対のホイール56とを有している。
【0058】
車軸55は、一対のサイドフレーム25の後端部に前後方向にスライド可能に支持されている。具体的には、
図12に示すように、各サイドフレーム25の後端部に長孔状の保持孔59が形成されており、この保持孔59に沿ってスライド自在に車軸55が支持されている。
【0059】
一対のホイール56は、一対のサイドフレーム25の外側(上述したスプロケット52と同一の幅方向位置)において、車軸55の両端部にベアリング57を介して回転可能に支持されている。ホイール56の外周面には、上述したスプロケット52の歯部52aに相当するものが設けられておらず、ホイール56は履帯21の係合孔33に係合しない。しかしながら、ホイール56はテンション調整機構27により後側に付勢されており(つまり履帯21の内周面に押し付けられており)、かつ係合孔33のやや外側の履帯21の内面(ホイール56の外側面に対応する位置)には多数の突起34が設けられているので(
図5、
図6参照)、ホイール56の幅方向の位置はこの突起34によって規制される。これにより、ホイール56が履帯21に係合していなくても、履帯21の内面における幅方向の定位置にホイール56が安定して接触するようになっている。
【0060】
複数のプーリ24は、駆動輪22と従動輪23との間でかつ両輪22,23から一段下がった位置において前後方向に並ぶように配置されている。各プーリ24は、履帯幅方向に延びるプーリ軸61と、プーリ軸61の両端部に回転可能に取り付けられた複数の(4つまたは2つの)ローラ62とを有している。
【0061】
図13は、
図9のXIII−XIII線に沿った断面図である。この
図13および先の
図7〜
図11等に示すように、プーリ軸61は、駆動輪22および従動輪23の各車軸51,55に比して履帯幅方向に長い軸長を有する部材であり、一対のサイドフレーム25をそれぞれ貫通した状態で各サイドフレーム25に回転不能に支持されている。具体的に、プーリ軸61がサイドフレーム25を貫通する貫通部には、合成ゴム製の筒状部材からなるゴムブッシュ63(
図13)が取り付けられており、プーリ軸61はこのゴムブッシュ63に嵌挿された状態でサイドフレーム25に支持されている。なお、ゴムブッシュ63は請求項にいう「ブッシュ部材」に相当する。
【0062】
プーリ軸61は、SUP材等のバネ鋼により構成されている。バネ鋼により構成されたプーリ軸61は、非バネ鋼からなる駆動輪22および従動輪23の各車軸51,55に比べて、少なくとも曲げ方向の弾性域が広くなっている。言い換えると、プーリ軸61は、曲げ方向の弾性限界(弾性変形可能な限界の応力)が高く、車軸51,55よりも大きい曲げ角度まで弾性変形することが可能である。
【0063】
複数のローラ62は、一対のサイドフレーム25の外側に位置するプーリ軸61の両端部に外挿された状態で当該プーリ軸61に回転可能に支持されている。当実施形態のクローラユニット2には、前後方向に並ぶ合計5つのプーリ24が備わるが、各プーリ24におけるローラ62の数は統一されていない。具体的に、中央のプーリ24を除く4つのプーリ24(前側の2つのプーリ24と後側の2つのプーリ24)は、プーリ軸61の左右の各端部にローラ62を2つずつ(合計4つ)有している。一方、中央のプーリ24は、プーリ軸61の左右の各端部にローラ62を1つずつ(合計2つ)有している。これは、ローラ62がマウント17と干渉するのを避けるためである。
【0064】
図3および
図4に示すように、履帯21は、複数のプーリ24における各ローラ62の下側を通り、当該ローラ62の範囲(最も前側のローラ62と最も後側のローラ62との間)において地面に接地する。一方、この履帯21の接地面に対し、駆動輪22および従動輪23の高さは一段高くなっている。すなわち、駆動輪22のスプロケット52が地面から離間するように、スプロケット52の中心(車軸51)よりも下方にオフセットした位置に複数のローラ62の各中心(プーリ軸61)が配置されている。同様に、従動輪23のホイール56が地面から離間するように、ホイール56の中心(車軸55)よりも下方にオフセットした位置に複数のローラ62の各中心(プーリ軸61)が配置されている。
【0065】
ここで、
図4に示すように、ローラ62の半径をr1、スプロケット52の半径(歯先円の半径)をr2とする。当実施形態では、ローラ62の半径r1がスプロケット52の半径r2よりも小さく設定されている。また、駆動輪22の車軸51に対するプーリ軸61の下方へのオフセット量をZとし、履帯21の全高さをHとする。スプロケット52を地面から十分に離間させるために、プーリ軸61のオフセット量Zは、上記半径r1,r2の差よりもH/8以上大きい値に設定されている。
【0066】
言い換えると、当実施形態のクローラユニット2は、下式(1)(2)が成立するように設計されている。
r2>r1 ‥‥(1)
Z≧(r2−r1)+H/8 ‥‥(2)
【0067】
上記式(1)(2)を満たすことは、スプロケット52の下端から地面までの高さがH/8以上確保されることを意味する。すなわち、当実施形態では、スプロケット52の下端が地面に対しH/8以上高い位置に配置されるように、駆動輪22の車軸51とプーリ軸61との上下方向の位置関係が設定されている。
【0068】
このことは、従動輪23についても同様である。すなわち、当実施形態において、従動輪23の車軸55の高さは、駆動輪22の車軸51の高さと同一であり、従動輪23のホイール56の半径は、駆動輪22のスプロケット52の半径と略同一(厳密にはスプロケット52の歯底円の半径と同一)である。このため、従動輪23のホイール56についても、その下端が地面に対しH/8以上高くなるように配置されている。
【0069】
図7、
図8、および
図11に示すように、駆動機構26は、動力源としての電動式のモータ71と、モータ71の出力回転を駆動輪22に伝達する動力伝達部72とを有している。モータ71および動力伝達部72は、後側からこの順に直列に連結された状態で一対のサイドフレーム25の間に配置されている。駆動機構26は、動力伝達部72が第1クロスプレート41に固定されかつモータ71が第2クロスプレート42に挿通されることにより、第1クロスプレート41と第2クロスプレート42との間に跨るように配置されている。
【0070】
モータ71は、主に
図11に示すように、前後方向に延びるモータ出力軸81と、モータ出力軸81に固定されたコイル等を含む電気子82と、電気子82の周囲に設けられた永久磁石83とを有している。上述した走行車両1のアクセルグリップ(
図1の右側のグリップ部15)が操作されると、バッテリからコネクタ46を介してモータ71の電気子82に電気が供給(通電)され、その通電に伴い生じる磁界の作用によってモータ出力軸81が回転する。
【0071】
モータ71は、モータ出力軸81が前後方向を向く縦置きの姿勢で一対のサイドフレーム25の間に配置されている。より具体的に、モータ71は、駆動輪22と従動輪23との間において、モータ出力軸81の先端側を駆動輪22(前方)に向けた姿勢で配置されている。言い換えると、モータ71は、モータ出力軸81と駆動輪22の車軸51とが直交する姿勢で配置されている。
【0072】
動力伝達部72は、モータ71と駆動輪22の車軸51との間に配置されている。動力伝達部72は、モータ出力軸81の回転を減速する第1ギヤ機構73と、第1ギヤ機構73の出力回転を駆動輪22の車軸51に伝達する第2ギヤ機構74とを有している。
【0073】
第1ギヤ機構73は、いわゆる遊星歯車機構であり、互いに噛み合ったサンギヤ、ピニオン、およびリングギヤ等からなるギヤセット91と、モータ出力軸81と同軸方向に延びる出力軸92とを有している。ギヤセット91の入力要素はモータ出力軸81に結合されており、ギヤセット91の出力要素は出力軸92に結合されている。ギヤセット91は、モータ出力軸81の回転を所定の減速比で減速した上で出力軸92に伝達する。言い換えると、第1ギヤ機構73は、モータ出力軸81の回転を減速しつつ同軸方向に伝達するように構成されている。
【0074】
第2ギヤ機構74は、いわゆるベベルギヤ機構であり、第1ギヤ機構73の出力軸92に外嵌(固定)された入力側ギヤ94と、駆動輪22の車軸51に外嵌(固定)された出力側ギヤ95とを有している。入力側ギヤ94および出力側ギヤ95は、ともにベベルギヤ(傘歯車)からなり、軸心が互いに直交する姿勢で噛み合っている。第1ギヤ機構73の出力回転(出力軸92の回転)は、噛み合った当該ギヤ94,95を介して車軸51に伝達される。言い換えると、第2ギヤ機構74は、第1ギヤ機構73の出力回転を回転軸方向を変換しつつ車軸51に伝達するように構成されている。
【0075】
第1・第2ギヤ機構73,74(動力伝達部72)を介してモータ71の出力回転が伝達された車軸51は、側面視においてスプロケット52を時計回りに回転させる。当該方向に回転するスプロケット52は、履帯21を
図4の矢印Xで示す方向に送り駆動し、走行車両1を前進させる。
【0076】
図7、
図8、および
図11に示すように、テンション調整機構27は、従動輪23の車軸55に固定されたボス部101と、ボス部101に同軸に結合されたボルト102と、ボルト102に螺着されたナット103と、ボルト102に外挿されたコイルスプリング104(請求項にいう「付勢部材」に相当)とを有している。
【0077】
ボス部101は、前後方向に延びる筒状の部材であり、その後端部が車軸55の中央部に固定されている。ボス部101には、その中心軸に沿って、ボルト102の軸部と螺合可能なネジ孔が形成されている。
【0078】
ボルト102は、前後方向に長尺な六角ボルトからなり、第4クロスプレート44を貫通した状態でボス部101に固定されている。第4クロスプレート44にはボルト102よりもやや大径な孔が形成されており、当該孔にボルト102が前方から挿通されている。挿通後のボルト102は、その前端部がボス部101のネジ孔に螺合されることにより、ボス部101と同軸に結合される。
【0079】
ナット103は、ボス部101の前側の近傍においてボルト102の軸部に螺着されている。このナット103の螺着位置は、ナット103の回転に応じて前後方向に調整することが可能である。このようにナット103の螺着位置を調整することで、後述するコイルスプリング104の弾発力ひいては履帯21のテンションを増減させることができる。
【0080】
コイルスプリング104は、ナット103と第4クロスプレート44との間においてボルト102の軸部に外挿されている。この外挿状態において、コイルスプリング104は前後方向に圧縮変形されている。コイルスプリング104は、この圧縮変形に伴う弾発力により、ボス部101および車軸55を後方(つまり駆動輪22から遠ざける方向)に付勢する。この付勢力は、サイドフレーム25の保持孔59(
図12)に沿ってスライド可能な従動輪23の車軸55を履帯21の内面に押し付け、これにより履帯21に一定のテンション(張力)が発生する。すなわち、コイルスプリング104(もしくはこれを含むテンション調整機構27)は、履帯21のテンションが一定になるように駆動輪22と従動輪23との離間距離を調整する機能を有している。
【0081】
(3)作用効果
以上説明したとおり、当実施形態の走行車両1に用いられるクローラユニット2は、無端帯状の履帯21と、履帯21に囲まれた領域の前端および後端に配置された駆動輪22および従動輪23と、駆動輪22を回転駆動するモータ71および動力伝達部72を含む駆動機構26とを備える。モータ71は、駆動輪22と従動輪23との間において、モータ出力軸81が駆動輪22の車軸51と直交する姿勢で配置される。動力伝達部72は、モータ71と車軸51との間に配置されかつモータ出力軸81の回転を回転軸方向を変換しつつ車軸51に伝達するギヤ機構73,74を有する。このような構成によれば、モータ71の高出力化に柔軟に対応することが可能でしかも重量バランスに優れたクローラユニット2を実現できるという利点がある。
【0082】
すなわち、上記実施形態では、比較的重量の嵩むモータ71および動力伝達部72が駆動輪22と従動輪23との間に配置されるので、クローラユニット2の重心が前後のいずれかに大きく偏ることが回避され、クローラユニット2の重量バランスを良好に維持することができる。
【0083】
また、駆動輪22と従動輪23との間に配置されるモータ71は、そのサイズに課される制約が少ないので、求められる出力等に応じてモータ71を柔軟に大型化することができる。例えば、駆動輪22における左右一対のスプロケット52の間にモータを同軸に取り付けることも考えられるが、このようにした場合、モータは、一対のスプロケット52の間に収まる軸方向長さを有しかつスプロケット52よりも小さい外径を有することが要求される。これに対し、上記実施形態のように、比較的長い距離が確保され易い駆動輪22と従動輪23との間にモータ71を配置するようにした場合には、モータ71のサイズ上の制約が軽減されるので、必要に応じてモータ71を大型化することが可能になり、モータ71の高出力化に柔軟に対応することが可能になる。
【0084】
特に、上記実施形態では、駆動輪22の車軸51に対しモータ出力軸81が直交する縦置きの姿勢でモータ71が配置されるとともに、このモータ71と車軸51との間に回転軸方向を変換可能な動力伝達部72が配置されるので、モータ71の軸方向長さが比較的長かったとしても、これを駆動輪22と従動輪23との間に支障なく収めることができるとともに、当該モータ71の回転を動力伝達部72を介して的確に車軸51に伝達することができる。
【0085】
また、上記実施形態において、動力伝達部72は、モータ出力軸81の回転を減速しつつ同軸方向に伝達する第1ギヤ機構73と、第1ギヤ機構73の出力回転を回転軸方向を変換しつつ車軸51に伝達する第2ギヤ機構74とを有する。このように、モータ出力軸81の回転を減速した上で車軸51に伝達するようにした場合には、モータ71の容量(出力)と第1ギヤ機構73の減速比との組合せ次第でクローラユニット2の出力特性を種々変更することが可能になるので、走行速度を重視するかトルクを重視するかといった要求性能の違いがある場合でも、それらの要求性能に適合する出力特性を適宜クローラユニット2に付与することができる。
【0086】
特に、上記実施形態では、第1ギヤ機構73として遊星歯車機構が、第2ギヤ機構74としてベベルギヤ機構がそれぞれ用いられるので、第1ギヤ機構73を可及的にコンパクト化できるとともに、当該第1ギヤ機構73の出力回転をベベルギヤを用いた比較的簡単な構造の第2ギヤ機構74を介して車軸51に的確に伝達することができる。
【0087】
また、上記実施形態では、幅方向に間隔をあけて配置された左右一対のサイドフレーム25によって駆動輪22および従動輪23の各車軸51,55が支持されるとともに、両サイドフレーム25の間にモータ71および動力伝達部72が配置されるので、駆動輪22および従動輪23の支持剛性を良好に確保しつつ、モータ71および動力伝達部72を配置するためのスペースとして両サイドフレーム25の間のスペースを有効利用することができる。
【0088】
また、上記実施形態では、駆動輪22の一対のスプロケット52が一対のサイドフレーム25の外側にそれぞれ配置されるので、履帯21の幅方向外側寄りの2箇所に適正にスプロケット52を係合させることができ、当該スプロケット52の回転トルクを効率よく履帯21の送り駆動力に変換することができる。
【0089】
また、上記実施形態では、一対のサイドフレーム25の周縁部どうしの隙間(フレーム間ギャップ)を覆うように保護カバー49が取り付けられるので、両サイドフレーム25の間に配置されるモータ71および動力伝達部72に泥や砂等の異物がかかるのを保護カバー49によって防止することができ、モータ71および動力伝達部72が故障するリスクを可及的に低減することができる。
【0090】
また、上記実施形態では、従動輪23の車軸55が一対のサイドフレーム25により(長孔状の保持孔59に沿って)スライド自在に支持されるとともに、両サイドフレーム25を連結する第4クロスプレート44と車軸55との間にコイルスプリング104を含むテンション調整機構27が配設されるので、コイルスプリング104の弾発力を利用して従動輪23を駆動輪22から遠ざける方向(後方)に付勢することにより、履帯21に適切なテンションが付与されるように駆動輪22と従動輪23との離間距離を調整することができる。
【0091】
ここで、例えば履帯21が走行路上の何らかの異物に引っ掛かったような場合には、そのことが原因で履帯21の送り動作がロックされることがある。このようなロック状態が生じると、履帯21の上面部(履帯21のうちスプロケット52の上端とホイール56の上端との間に架け渡される部分)にかかるテンションが増大するので、コイルスプリング104の弾発力に抗して従動輪23が駆動輪22に接近する方向(前方)に移動する結果、両者の離間距離が短縮される。そして、当該短縮代が所定値を超えると、履帯21における上面部以外の部分に大きな弛みが生じて、ついには駆動輪22のスプロケット52と履帯21との係合が解除されるようになる。この係合解除は、スプロケット52の間欠的な空回りを許容し、履帯21のテンションや駆動輪22の負荷を軽減させる。言い換えると、コイルスプリング104を用いて従動輪23を後方に付勢する上述したテンション調整機構27は、履帯21のテンションや駆動輪22の負荷に制限をかけるいわばトルクリミッターの機能を有している。このようなテンション調整機構27を用いた上記実施形態によれば、履帯21の送り動作がロックされた場合であっても、履帯21および駆動輪22(もしくはこれを支持するベアリング53)に過大な負担がかかることがなく、これらの部品が損傷するリスクを低減することができる。
【0092】
また、上記実施形態では、駆動輪22と従動輪23との間における一段低い位置に、ローラ62およびプーリ軸61を含む複数のプーリ24が配置されるとともに、駆動輪22の車軸51に対するプーリ軸61の下方へのオフセット量Z(
図4)が、駆動輪22のスプロケット52の半径r2とローラ62の半径r1(<r2)との差と、履帯21の全高さHとの関係において、「Z≧(r2−r1)+H/8」の関係(上述した式(2))を満たすように設定されている。これにより、スプロケット52の下端が地面に対し十分に(H/8以上)高い位置に配置されるので、例えば
図4に示される障害物Bがクローラユニット2に対し前方から衝突したような場合でも、この障害物Bがよほど大きいものでない限り、衝突による衝撃荷重はスプロケット52に直接的に作用しない。このことは、クローラユニット2が障害物に衝突した際の部品損傷のリスクを低減することにつながる。
【0093】
すなわち、仮に衝突による衝撃荷重が直接的にスプロケット52に作用した場合、駆動輪22の車軸51には、駆動機構26(モータ71)から入力される回転トルクに加えて、上記衝撃荷重に基づく大きな力が重畳的に作用することになる。このことは、車軸51もしくはこれを支持するベアリング53に過剰な応力を発生させ、これらの部品が損傷するリスクを高める。これに対し、上記実施形態では、スプロケット52の位置が地面よりも十分に高く設定されるので、回転トルクと衝撃荷重とが重畳的に作用する上記のような事態を回避でき、クローラユニット2が障害物に衝突した際に損傷を受け易い部品(つまり車軸51やベアリング53)の保護を図ることができる。
【0094】
また、上記実施形態では、プーリ軸61としてバネ鋼製のものが用いられるとともに、プーリ軸61がサイドフレーム25を貫通する貫通部に当該プーリ軸61を受け入れ保持する筒状のゴムブッシュ63が設けられているので、クローラユニット2が障害物Bと衝突した際の衝撃を効果的に緩和することができる。
【0095】
すなわち、障害物Bがクローラユニット2に衝突した場合、当該衝突による衝撃荷重は、履帯21の接地面に沿って配置されるプーリ24のローラ62に直接入力される可能性が高い。衝撃荷重がローラ62に入力されると、バネ鋼製のプーリ軸61が弾性的に曲げ変形するとともに、ゴムブッシュ63が弾性的に圧縮変形する。このことは、障害物Bからローラ62に加えられた衝突エネルギーが、プーリ軸61およびゴムブッシュ63の弾性変形によるひずみエネルギーに変換されたことを意味する。これにより、障害物Bとの衝突による衝撃が緩和されるので、プーリ軸61等の部品が損傷するリスクを低減できるとともに、走行車両1に乗った運転者にクローラユニット2から伝達される衝撃を緩和することができる。
【0096】
(4)変形例
上記実施形態では、従動輪23のホイール56として、履帯21と係合する歯部を備えないもの(周面が平滑な円板状のホイール)を用いたが、複数の歯部を備えたもの(駆動輪22のスプロケット52と同様のもの)を従動輪のホイールとして用いてもよい。
【0097】
上記実施形態では、モータ71と駆動輪22の車軸51とを連動連結する動力伝達部72として、遊星歯車機構からなる第1ギヤ機構73とベベルギヤ機構からなる第2ギヤ機構74とを含むものを用いたが、動力伝達部の構造はこれに限られない。例えば、第1ギヤ機構は、モータの出力回転を減速しつつ同軸方向に伝達できるものであればよく、遊星歯車機構に限られない。また、第2ギヤ機構は、第1ギヤ機構の出力回転を回転軸方向を変換しつつ車軸に伝達できるものであればよく、ベベルギヤ機構に限られない。さらに、第1ギヤ機構は必須ではなく、省略してもよい。
【0098】
上記実施形態では、ユーザが立位で乗車するいわゆるボードスクータに本発明のクローラユニットを適用した例について説明したが、本発明のクローラユニットは、ボードスクータに限らず種々の走行車両に適用することが可能である。