【課題】 防水層の構築と、PC鋼材の飛び出しを有効に防止する飛び出し防止手段の構築とを簡便に実現することを可能にする積層防水強化シートと、それを用いた防水強化工法並びに防水強化構造体を提供することを課題とする。
【解決手段】 不織布シートとアラミド繊維シートとが積層された積層シートであって、前記積層シートの外側を向いた両面がアスファルト系材料で覆われているとともに、前記両面を覆うアスファルト系材料が、前記不織布シート及び前記アラミド繊維シートの繊維間隙を通じて連続していることにより、前記不織布シートと前記アラミド繊維シートとが一体化されている積層防水強化シート、それを用いるコンクリート桁の防水強化工法、及びそれにより得られるコンクリート桁防水強化構造体を提供することによって上記の課題を解決する。
不織布シートとアラミド繊維シートとが積層された積層シートであって、前記積層シートの外側を向いた両面がアスファルト系材料で覆われているとともに、前記両面を覆うアスファルト系材料が、前記不織布シート及び前記アラミド繊維シートの繊維間隙を通じて連続していることにより、前記不織布シートと前記アラミド繊維シートとが一体化されている積層防水強化シート。
前記アスファルト系材料がアスファルト、熱可塑性樹脂、粘着付与剤、及び可塑剤を含み、それらの全量を100質量部としたとき、アスファルトが0〜50質量部、熱可塑性樹脂が5〜30質量部、粘着付与剤が10〜80質量部、及び可塑剤が10〜80質量部の範囲にある請求項1記載の積層防水強化シート。
コンクリート桁の上に直接又は他層を介してプライマー層を存在させる工程、前記プライマー層の上に貼付用アスファルト層を存在させる工程、前記貼付用アスファルト層の上面に請求項1〜6のいずれかに記載の積層防水強化シートを、前記アラミド繊維シート側又は前記不織布シート側を下にして貼り付ける工程を含む、積層防水強化シートを用いるコンクリート桁の防水強化工法。
さらに、前記プライマー層を存在させる工程の前に、前記コンクリート桁の上に直接又は他層を介してプライマー層を存在させる工程、及び第二アラミド繊維シートを貼り付ける工程を含む、請求項7記載のコンクリート桁の防水強化工法。
積層防水強化シートを貼り付ける前記工程に代えて、請求項1〜6のいずれかに記載の積層防水強化シートに用いられるアスファルト系材料を塗布する工程、塗布された前記アスファルト系材料の上に請求項1〜6のいずれかに記載の積層防水強化シートに用いられるアラミド繊維シートと不織布シートとを、この順で、または逆の順で、敷設する工程、敷設された前記不織布シート又は前記アラミド繊維シートの上面に前記アスファルト系材料を塗布する工程を含む積層防水強化シートの現場構築工程を備える、請求項7又は8記載のコンクリート桁の防水強化工法。
前記積層防水強化シートを貼り付ける位置又は構築する位置が、前記コンクリート桁中に配置されているPC鋼材の長手方向に沿った中心線が前記コンクリート桁の上面と交差する点を覆う位置に選ばれている請求項7〜9のいずれかに記載のコンクリート桁の防水強化工法。
さらに、貼り付けられた前記積層防水強化シート又は構築された前記積層防水強化シートの上に、アスファルト混合物を舗設する工程を含む請求項7〜10のいずれかに記載のコンクリート桁の防水強化工法。
コンクリート桁の上に構築された防水強化構造体であって、少なくとも、前記コンクリート桁中に配置されているPC鋼材の長手方向に沿った中心線が前記コンクリート桁の上面と交差する点を覆う位置に請求項1〜6のいずれかに記載の積層防水強化シートが貼り付けられているか構築されているコンクリート桁防水強化構造体。
【背景技術】
【0002】
橋梁における桁は、その上に配置される床版とともに、交通荷重を支え、それを橋台や橋脚に伝える重要な構造体であり、大きく分けて、橋軸方向に長い複数の板状部材を並べた鈑桁や、橋軸方向と直交する面での断面形状が中空箱型となっている箱桁、棒状部材で構成されるトラス構造を基本としてできているトラス桁などが汎用されている。
【0003】
中でも箱桁は、断面が中空で箱型に閉じているので、ねじれに強く、支間長さが中規模以上の橋に適しているといわれている。箱桁は、通常、コンクリートを用いて構築されるコンクリート桁であり、その軽量化と高強度化を両立させるべく、供用時に掛かる荷重の位置や大きさ等を勘案して、中空箱型の側壁に相当するウエブを構成するコンクリート成型体中に鋼棒や鋼線などのプレストレストコンクリート(PC)鋼材を鉛直又は斜めに埋設して、鉛直方向又は鉛直成分を持った斜め方向に圧縮荷重を付与したプレストレストコンクリート(PC)桁として用いられるのが普通である。
【0004】
しかし、箱桁のウエブ中に埋設されているPC鋼材には、圧縮荷重とは反対に常時引張荷重が掛かっているので、万が一、何らかの原因でPC鋼材が破断すると、破断したPC鋼材が箱桁を構成しているコンクリート成型体の上面、すなわち上フランジの上面から外部に飛び出してしまうことが起こり得る。
【0005】
一方、PC桁を対象としたものではないものの、上述したようなPC鋼材の飛び出しを防ぐ技術としては、例えば特許文献1には、PC鋼材を水平方向に複数本配設したプレストレストコンクリート(PC)床版において、PC鋼材の端部に相当するPC床版の表面にアラミド繊維などの強化繊維からなる補強シートを固着する技術が開示されている。また、特許文献2には、同じくPC床版に対し水平横断方向に配置された複数本のPC鋼材の端部を覆うようにサイドガードを設けるとともに、前記サイドガードの側面に、サイドガードの長手方向に延設された伸びにくい経糸と、サイドガードの横方向に延設された伸び易い緯糸と、前記経糸と緯糸とを結合する樹脂材料とを含む補強部材を配設する技術が開示されており、前記経糸としてアラミド繊維を用いることも記載されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1、2に開示された上記技術は、いずれも、PC床版中に水平方向に配設されたPC鋼材がPC床版の側面から飛び出すのを防止するものであり、コンクリート桁中に鉛直若しくは鉛直成分を持って斜めに配設されているPC鋼材がコンクリート桁の上フランジの上面から飛び出すのを防止する技術ではない。
【0007】
勿論、PC床版側面からのPC鋼材の飛び出しを防止する技術を、PC桁の上フランジ上面に適用することも考えられないわけではないが、PC桁の上フランジには、例えば、特許文献3、4に示されるとおり、舗装層を浸透してくる雨水等からPC桁を保護するために何らかの防水対策を施す必要がある。
【0008】
したがって、仮に、特許文献1、2に開示されたPC鋼材の飛び出し防止技術をPC桁の上面に適用しようとすると、PC桁の上フランジ上面に、PC鋼材の飛び出しを防止する補強シート若しくは補強部材を配設した上で、さらに防水層を構築する必要がある。そのような施工は不可能ではないものの、工程数が増し、多大の労力と時間を要することが予想される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、まず本発明に係る積層防水強化シートについて説明し、その後、本発明に係る防水強化工法並びに防水強化構造体について説明する。
【0020】
A:積層防水シート
本発明に係る積層防水強化シートは、上述したとおり、不織布シートとアラミド繊維シートとが積層された積層シートであって、前記積層シートの外側を向いた両面がアスファルト系材料で覆われているとともに、前記両面を覆うアスファルト系材料が、前記不織布シート及び前記アラミド繊維シートの繊維間隙を通じて連続していることにより、前記不織布シートと前記アラミド繊維シートとが一体化されている積層防水強化シートである。
【0021】
上記積層防水強化シートに用いる不織布シートとしては、材質は天然繊維や半合成繊維、合成繊維などのうちから選ばれる、もしくはその組合せによりなり、特に限定されることはないが、ポリエステル不織布、ポリプロピレン不織布などの長繊維不織布のシートや、ポリエステル不織布などの短繊維不織布のシートを挙げることができる。中でも、弾性、耐水性、耐熱性、さらには耐候性に優れたポリエステル長繊維不織布のシートが好ましく用いられる。
【0022】
不織布シートの目付量は、骨材の貫通を抑制でき、かつ、シートとしての適度なコシを維持して作業性を確保することができるとともに、アスファルト系材料を含浸させることができる量であれば良い。このような観点から、目付量は40〜300g/m
2の範囲にあるのが好ましく、180〜250g/m
2の範囲にあるのがより好ましい。目付量が40g/m
2未満になると、必ずしも使用できないというわけではないが、シートとしてのコシが維持できなくなるとともに、不織布シートの上にアスファルト混合物を舗設した場合に、アスファルト混合物に含まれる骨材(特にその角部など)が不織布シートの繊維間に入り込んで繊維の間隙を押し広げ、防水機能を低下させる恐れがあるので好ましくない。
【0023】
上記積層防水強化シートに用いるアラミド繊維シートとしては、繊維を経糸及び緯糸として2方向に配列した織物のシートが好ましく用いられ、中でも、経糸と緯糸を構成するアラミド繊維の種類、太さ、フィラメント数が同じである等方シートが特に好ましく用いられる。
【0024】
また、万が一、PC鋼材が破断して飛び出したとしてもそのPC鋼材の飛び出しを受け止め、上方へと突出させないためには、アラミド繊維シートを構成する繊維の引張強度は15〜40cN/dtexの範囲内にあるのが好ましく、17〜35cN/dtexの範囲内のあるのがより好ましく、20〜30cN/dtexの範囲内にあるのがさらに好ましい。引張強度が15cN/dtex未満になると、コンクリート桁中に配設されているPC鋼材の長さにもよるが、PC鋼材の破断時、その飛び出しを十分に防止できなくなる可能性があるので好ましくない。一方、引張強度が40cN/dtex超になると、そのように高い引張強度を実現するためにフィラメントの本数や太さが増し、アスファルト系材料の含浸が十分に進行しない恐れがあるとともに、アラミド繊維シートと不織布シートとを積層した積層防水強化シートの厚さが必要以上に厚くなってしまう恐れがあるので好ましくない。
【0025】
なお、アラミド繊維シートを構成する繊維の繊度としては特に限定されないが、総繊度として500dtex以上が好ましく、より好ましい範囲は1000〜10000dtex、更に好ましくは2000〜9000dtexである。総繊度が500dtex未満ではアラミド繊維シートの強度や剛性が小さくなり、構成本数によってはアスファルトの含浸性が悪くなり、防水性の面で好ましくない。
【0026】
また、繊維量でいえば、使用するアラミド繊維シートの繊維量は100g/m
2〜600g/m
2の範囲内にあるのが好ましい。繊維量が100g/m
2を下回ると、アスファルト系材料の含浸は良好であるものの、アラミド繊維シートの引張強度が不足し、PC鋼材の飛び出しを十分に抑制することができなくなる恐れがある。逆に、繊維量が600g/m
2を上回ると、アスファルト系材料の含浸が十分に進行せず、積層される不織布シートとの一体化が不十分となる恐れがある。
【0027】
上記積層防水強化シートに用いるアスファルト系材料としては、積層された不織布シートとアラミド繊維シートの両面を覆うとともに、両シートの繊維間隙内に良く含浸して両シートを一体化することができ、かつ、従来から流し貼り型の防水シートの施工に際し用いられている貼付用アスファルトやアスファルト混合物との接着性に優れるものが選ばれる。そのような物性を備えたアスファルト系材料であれば、基本的にどのような材料、組成からなるアスファルト系材料であっても本発明の積層防水強化シートに用いることができるが、好ましくは、アスファルト、熱可塑性樹脂、粘着付与剤、及び可塑剤を含み、それらの全量を100質量部としたとき、アスファルトが0〜50質量部、熱可塑性樹脂が5〜30質量部、粘着付与剤が10〜80質量部、及び可塑剤が10〜80質量部の範囲にあるアスファルト系材料を使用するのが良い。
【0028】
上記アスファルト系材料に用いるアスファルトとしては、ストレートアスファルトが好適に用いられる。アスファルトの針入度グレードに特段の制限はないが、望ましくは針入度が60/80のものを使用するのが良い。なお、本発明で使用するアスファルト系材料において、アスファルトは必須の成分ではなく、その他の配合成分である熱可塑性樹脂、粘着付与剤、及び可塑剤の種類や量を選択することによって、アスファルトを配合したときとほぼ変わらぬ物性が得られる場合には、アスファルトの配合量は0質量部であっても良い。
【0029】
上記熱可塑性樹脂としては、スチレン−イソプレンブロック共重合体(SIS)、スチレン−ブタジエンブロック共重合体(SBS)、及びそれらの水添品などのスチレン系樹脂、エチレン・エチレンアクリレート共重合体(EEA)、エチレン・アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)などのエチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ナイロン系樹脂などが挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、そのいずれか1種を単独で使用しても良いし、いずれか2種以上を併用しても良い。中でも、スチレン−エチレン・ブチレン−スチレン共重合体(SEBS)が耐熱性に優れており、好ましく用いられる。
【0030】
上記粘着付与剤としては、脂肪族石油樹脂、芳香族石油樹脂、脂環族石油樹脂、水添石油樹脂、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂、スチレン系樹脂、イソプレン系樹脂、クマロン・インデン樹脂などを用いることができる。これらの粘着付与剤は、上に列挙した各種樹脂のいずれか1種を単独で使用しても良いし、いずれか2種以上を併用しても良い。中でも、芳香族石油樹脂が、貼付用アスファルトやアスファルト混合物との接着性が良いので、好ましく用いられる。
【0031】
上記可塑剤としては、脂肪族油、芳香族油、脂環族油、シリンダ油などを用いることができ、これらはいずれか1種を単独で使用しても良いし、いずれか2種以上を併用しても良い。中でも、熱可塑性樹脂として上記スチレン−エチレン・ブチレン−スチレン共重合体(SEBS)を使用する場合には、これと相性が良い脂環族油、特にナフテン系の脂環族油を用いるのが望ましい。
【0032】
本発明に係る積層防水強化シートは、上述したアスファルトを0〜50質量部、熱可塑性樹脂を5〜30質量部、粘着付与剤を10〜80質量部、及び可塑剤を10〜80質量部の範囲内で適宜混合して全量を100質量部としたアスファルト系材料を加熱して溶融状態とし、これに、不織布シートとアラミド繊維シートとを積層した状態で浸漬することによって製造することができる。溶融状態にあるアスファルト系材料中に積層した不織布シートとアラミド繊維シートとを浸漬すると、溶融したアスファルト系材料が両シートの外側を向いた両面を覆うとともに、両シートの繊維間隙中に含浸し、アスファルト系材料が繊維間隙を通じて、両シートの両面で連続する。この状態で不織布シートとアラミド繊維シートの積層シートをアスファルト系材料から引き上げ、冷却すれば良い。
【0033】
なお、浸漬は長尺状の不織布シートとアラミド繊維シートの積層シートを、溶融したアスファルト系材料中にその端部から順次浸漬しては引き上げる連続式で行っても良いし、適宜の長さに切断した不織布シートとアラミド繊維シートの積層シートを、切断された積層シート単位で順次浸漬するバッチ式で行っても良い。また、溶融したアスファルト系材料中に浸漬する代わりに、不織布シートとアラミド繊維シートの積層シート上に溶融したアスファルト系材料を塗布するか、又は溶融したアスファルト系材料を流下させることによって、本発明に係る積層防水強化シートを製造しても良い。
【0034】
以上のようにして製造される本発明に係る積層防水強化シートの一例を
図1に示す。
図1において、1は本発明の積層防水強化シートであり、2は不織布シート、3はアラミド繊維シート、4aは不織布シート2の外側を向いた面を覆うアスファルト系材料、4bはアラミド繊維シート3の外側を向いた面を覆うアスファルト系材料である。
図1に示すとおり、不織布シート2とアラミド繊維シート3とは積層されており、それぞれのシートの外側を向いた面はアスファルト系材料4a、4bによって覆われている。なお、不織布シート2の外側を向いた面とは、
図1に示すとおり、積層されているアラミド繊維シート3と対向する面とは反対側の面であり、同様に、アラミド繊維シート3の外側を向いた面とは、積層されている不織布シート2と対向する面とは反対側の面である。
【0035】
図2は、
図1に示す積層防水強化シート1の部分断面拡大図である。
図2において、2fは不織布シート2を構成する不織布繊維であり、3fはアラミド繊維シート3を構成するアラミド繊維である。
図2に示すとおり、不織布シート2を構成する不織布繊維2f間には不規則な間隙があり、その間隙にはアスファルト系材料4c
2が含浸、浸透している。同様に、アラミド繊維シート3を構成するアラミド繊維3f間の間隙にもアスファルト系材料4c
3が含浸、浸透している。そして、これら繊維間隙に含浸、浸透したアスファルト系材料4c
2及び4c
3を通じて、不織布シート2の外側を向いた面を覆うアスファルト系材料4aと、アラミド繊維シート3の外側を向いた面を覆うアスファルト系材料4bとは連続しており、不織布シート2とアラミド繊維シート3とは一体化されている。因みに、アラミド繊維シート3を構成するアラミド繊維3fの繊維間隙は、0.1〜5mmの範囲であることがアスファルト系材料が十分に含浸するために必要で、好ましい範囲は0.5〜4mm、更に好ましい範囲は0.8〜3mmである。繊維間隙が0.1mm未満であると、アスファルト系材料の含浸が不十分で防水効果が十分ではない。
【0036】
B:防水強化工法及び防水強化構造体
次に、図面を用いて本発明に係るコンクリート桁防水強化工法、及びそれによって構築されるコンクリート桁防水強化構造体について説明する。
【0037】
図3は、本発明に係る防水強化工法によって構築されるコンクリート床版防水強化構造体の一例の層構成を示す斜視図であり、便宜上、各層の位置をずらして表してある。
図3において5はコンクリート桁である。
【0038】
本発明に係るコンクリート桁防水強化構造体を構築するには、まず、コンクリート桁5の上面に一次プライマーを塗布又は散布して一次プライマー層6を存在させる。次いで、1次プライマー層6の上面に、例えば5号硅砂などの細骨材を散布して細骨材層7を形成した後、さらにその上面に2次プライマーを塗布又は散布して2次プライマー層8を存在させる。なお、1次プライマー層6又は2次プライマー層8のいずれか一方だけでコンクリート床版5との十分な接着性が得られる場合には、2次プライマー層8又は1次プライマー層6、及び細骨材層7は省略しても良い。続いて、2次プライマー層8の上面に貼付用アスファルトを塗布又は散布して貼付用アスファルト層9を存在させ、その上面に本発明に係る積層防水強化シート1を敷設して貼り付ける。なお、必要に応じて、2次プライマー層8の上面に3次プライマーを塗布又は散布して3次プライマー層(図示せず)を存在させ、その上面に積層防水強化シート1を敷設して貼り付けるようにしても良い。貼り付けられた積層防水シート1の上面にはアスファルト混合物10が舗設され舗装層が構築される。
【0039】
なお、積層防水強化シート1は、アラミド繊維シート3の側を下にして貼付用アスファルト層9上に貼り付けても良いし、不織布シート2の側を下にして貼付用アスファルト層9の上に貼り付けても良い。ただし、不織布シート2の側を下にした場合には、アラミド繊維シート3の側が上に来て、アラミド繊維シート3が、その表面を覆うアスファルト系材料だけを隔てて、アスファルト混合物10と接することになる。そうすると、舗設後の転圧などによって、アスファルト混合物10中の骨材がアラミド繊維シート3の方向に押圧されたとき、押圧された骨材がアラミド繊維シート3の繊維間隙に食い込んで、アラミド繊維シート3の織り目の間隙を不必要に拡大し、PC鋼材の飛び出し防止効果を減弱させてしまう恐れがある。
【0040】
これに対し、アラミド繊維シート3の側を下にして貼付用アスファルト層9の上に貼り付けた場合には、不織布シート2が上に来ることになるが、不織布シート2の繊維間隙は不規則で、かつアラミド繊維シート3程には粗くないので、アスファルト混合物10中の骨材が当接しても、不織布シート2の繊維間に骨材が食い込むことは少なく、不織布の繊維間隙を不必要に拡大してしまう恐れもない。したがって、アラミド繊維シート3の繊維間隙が不必要に拡大され、PC鋼材の飛び出す防止効果が減弱される恐れを少なくするという観点からは、アラミド繊維シート3の側を下にして貼付用アスファルト層9の上に貼り付けるのが好ましい。
【0041】
本発明に係る積層防水強化シート1は、一枚で防水機能とPC鋼材の飛び出し防止機能の双方を備えているので、本発明に係る積層防水強化シートを用いて構築されるコンクリート桁防水強化構造体は、防水機能に優れ、雨水等の浸透を良く防止するとともに、万が一、コンクリート桁5中に配設されているPC鋼材(図示しない)が破断したとしても、破断したPC鋼材のコンクリート桁5の上面からの飛び出しを防止することができる。
【0042】
図8は、従来の流し貼り型の防水シートを用いる防水工法によって構築される防水層の層構成の一例を示す図である。
図8において、11はコンクリート桁、12は防水シートであり、その他、
図3におけると同じ層には同じ符号を付してある。
【0043】
図3と
図8とを比較すると明らかなように、
図3に示す本発明に係るコンクリート桁防水強化工法は、
図8に示す従来の防水工法に比べて、防水シート12の代わりに積層防水強化シート1が用いられているだけで、その他の層構成においては何ら異なるところがない。したがって、本発明のコンクリート桁防水強化工法によれば、流し貼り型の防水シートを用いる従来の防水工法とほぼ同じ労力及び時間で、コンクリート桁上に防水機能とPC鋼材の飛び出し防止機能の双方を備えた積層防水強化層を構築することができるものである。
【0044】
図9は、本発明に係る積層防水強化シート1を用いないで、コンクリート桁5上に防水層と、PC鋼材の飛び出し防止層の双方を構築した場合の層構成の一例を示す図であり、
図8におけると同じ層には同じ符号を付してある。
【0045】
図9において、13はプライマー層、14a、14bは貼付用樹脂層、15はアラミド繊維シートである。
図9に示すとおり、防水シート12とは別にアラミド繊維シート15を用いてPC鋼材の飛び出し防止層を構築しようとすると、コンクリート桁5上にプライマーを塗布又は散布してプライマー層13を存在させ、さらにその上面に貼付用樹脂を塗布又は散布して貼付用樹脂層14aを存在させた後、アラミド繊維シート15を敷設し、さらに敷設したアラミド繊維シート15上貼付用樹脂を塗布又は散布して貼付用樹脂層14bを存在させる工程が必要となり、工程数が大幅に増え、多大な労力と時間が必要となる。
【0046】
これに対して、
図3に示す本発明のコンクリート桁防水強化工法によれば、上述したとおり、流し貼り型の防水シートを用いる従来の防水工法とほぼ同じ工程数でコンクリート桁上に防水機能とPC鋼材の飛び出し防止機能の双方を備えた積層防水強化層を構築することができるので、極めて便利かつ効率的である。
【0047】
図4は、本発明に係るコンクリート桁防水強化工法の他の一例によって構築されるコンクリート床版防水強化構造体の層構成を示す斜視図である。
図4において、
図3におけると同じ層には同じ符号を付してある。
図4において、16は第二アラミド繊維シートであり、本発明に係る積層防水強化シート1に加えて、第二アラミド繊維シート16が用いられている点が、先に
図3に示した例とは異なっている。
【0048】
積層防水強化シート1に加えて、その下層に第二アラミド繊維シート16を配設するには、先に
図9において説明したのと同様に、コンクリート桁5上にプライマー層13を存在させ、その上に貼付用樹脂層14aを存在させた後、第二アラミド繊維シート16を敷設し、さらにその上に貼付用樹脂層14bを存在させれば良い。
【0049】
このように、
図4に示すコンクリート桁防水強化工法は、
図3に示したコンクリート桁防水強化工法に比べると工程数が多いものではあるが、構築されるコンクリート桁防水強化構造体は、防水機能とPC鋼材の飛び出し防止機能とを兼ね備えた積層防水強化シート1に加えて、第二アラミド繊維シート16を備えているので、PC鋼材の飛び出し防止機能が強化されており、例えば、コンクリート桁中に配設されているPC鋼材が比較的長く、破断したときの飛び出し速度が速いことが予想されるコンクリート桁に対しても十分に適用、対応することが可能な構造体である。
【0050】
なお、第二アラミド繊維シート16としては、積層防水強化シート1に使用するアラミド繊維シート3と同じものを用いても良いし、異なるものを用いても良い。第二アラミド繊維シート16には、アスファルト系材料を含浸、浸透させる必要がないので、積層防水強化シート1に使用するアラミド繊維シート3よりも、繊維量が多く、繊維の引張強度が大きいものを使用することができる。とはいえ、積層防水強化シート1と第二アラミド繊維シート16の二層によって、PC鋼材の飛び出しを防止することになるので、積層防水強化シート1に使用するアラミド繊維シート3よりも繊維量が同じか少なく、繊維の引張強度が同程度か小さいものであっても十分に使用することが可能である。
【0051】
以上の説明では、工場等で製造された既存の積層防水強化シート1を用いるコンクリート桁防水強化工法について説明したが、本発明に係るコンクリート桁防水強化工法においては、積層防水強化シート1を施工現場で製造するようにしても良い。すなわち、
図3における貼付用アスファルト層9上に積層防水強化シート1を貼り付けて敷設する工程に代えて、貼付用アスファルト層9上にアスファルト系材料を塗布又は散布する工程、塗布又は散布されたアスファルト系材料の上に、アラミド繊維シート3及び不織布シート2をこの順に、又は逆の順に敷設する工程、及び、敷設されたアラミド繊維シート3及び不織布シート2の上にさらにアスファルト系材料を塗布又は散布する工程を備えるようにしても良い。
【0052】
上記工程に使用されるアスファルト系材料は、高温の溶融状態で塗布又は散布され、アラミド繊維シート3と不織布シート2との積層シートを上下から挟み込むことになるので、積層されたアラミド繊維シート3の外側を向いた面と、不織布シート2の外側を向いた面がアスファルト系材料で覆われるとともに、両面を覆うアスファルト系材料が、両シートを構成する繊維の間隙に含浸、浸透して、両シートの繊維間隙を通じて連続し、一体化した積層防水強化シート1が、貼着用アスファルト層9の上に、施工現場において構築されることになる。
【0053】
なお、アラミド繊維シート3と不織布シート2の敷設は、先に塗布又は散布されたアスファルト系材料が未だ溶融状態にあるうちに行っても良いが、時間的にタイトである場合には、先に塗布又は散布されたアスファルト系材料が冷えて硬化した後に行っても良い。先に塗布又は散布されたアスファルト系材料が冷えて硬化した後に、アラミド繊維シート3及び不織布シート2を敷設する場合であっても、敷設されたアラミド繊維シート3及び不織布シート2の上面にさらに塗布又は散布されるアスファルト系材料は、高温で溶融状態にあるので、不織布シート2及びアラミド繊維シート3の繊維間隙に含浸、浸透し、それらシートの下に位置する硬化したアスファルト系材料と接触し、少なくともその一部を溶解して一体化することができる。
【0054】
このように、本発明に係るコンクリート桁防水強化工法においては、積層防水強化シート1を施工現場で構築することも可能である。なお、積層防水強化シート1を施工現場で構築する場合にも、その下層に第二アラミド繊維シート16を貼り付ける工程を付随する他の工程とともに、含めても良いことは勿論である。
【0055】
図5は、本発明が対象とするコンクリート桁の一例を示す側面図である。
図5において、5はコンクリート桁であり、17a、17bは橋台、18は橋脚である。図中、両方向矢印Aで示すのが橋軸方向である。コンクリート桁5は、
図5に(X)及び(Y)として併せて示すX−X’断面図及びY−Y’断面図に示すとおり、上フランジ19、下フランジ20、及び左右のウエブ21で囲まれた中空の箱状の空洞を内部に有する箱桁である。
【0056】
図6は、
図5に示すX−X’断面図における円Zの部分だけを取り出して示す部分拡大図である。
図6において、5sはコンクリート桁5の上面、22はコンクリート桁5のウエブ21に設けられたシース、23は同じくウエブ21に設けられた端部用シース、24はPC鋼材、25はPC鋼材の上部先端部に設けられたネジ部、26はナット、LvはPC鋼材24の長手方向に沿った中心線、Qは中心線Lvとコンクリート桁5の上面5sとが交差する点である。
【0057】
図6に示すとおり、コンクリート桁5のウエブ21の内部にはシース22が形成されており、シース22内にはPC鋼材24が鉛直に挿入されている。PC鋼材24の上部端は、ネジ部25と、それと螺合するナット26によって端部用シース23内に固定され、ウエブ21に鉛直方向に圧縮力を加えるとともに、自身には引張力が付与された状態で、コンクリート桁5のウエブ21内に配設されている。
【0058】
図7は、
図6に示すコンクリート桁5にコンクリート桁防水強化工法を施工して得られるコンクリート桁防水強化構造体の垂直断面図である。
図7に示すとおり、本発明に係る積層防水強化シート1は、PC鋼材24の長手方向に沿った中心線Lvが、コンクリート桁5の上面5sと交差する点Qを覆う位置に貼り付け又は構築されている。10はアスファルト混合物である。当該コンクリート桁防水強化構造体は、防水機能を備えていることは勿論、万が一のPC鋼材24の破断時にも、そのコンクリート桁5の上面5s、更にはその上に舗設されるアスファルト混合物10よりも上方への飛び出しを有効に防止し得る優れた構造体である。
【0059】
なお、以上述べたことは、PC鋼材が斜めに配設されているPC桁についても同様であり、PC鋼材がコンクリート桁中に斜めに配設されている場合においても、当該PC鋼材の長手方向に沿った中心線がコンクリート桁の上面と交差する点を覆う位置に本発明の積層防水強化シート1を貼り付けるか、構築すれば良い。