【実施例】
【0015】
以下に、本発明を実施例で説明する。
【0016】
実施例1
[味噌の製造]
以下、サンプルを製造した蔵の一つである蔵4での味噌の製造方法を記載する。なお、他の蔵でもほぼ同様に味噌を製造した。
1.米麹と蒸し大豆の準備
(1)原材料として大豆30 kg、米75 kg、麹菌3号B株(株式会社秋田今野商店 原菌番号:AOK38)を使用した。
(2)米麹の製造
図1の1の流れで米麹を製造した。米を水で浸漬し、蒸かした。蒸かした後、放熱し、種付を行い、しばらく麹室に引き込んで、米麹を製造した。できた米麹は82.5 kgであった。
(3)蒸した大豆の製造
図1の2の流れで蒸し大豆を製造した。大豆30 kgを、16時間以上、水に浸漬した後、圧力釜で蒸し、冷却、潰しを経て、蒸し大豆を製造した。蒸し大豆の重さは、蒸す前に比べおよそ2倍になり、できた蒸し大豆の重さは60 kg弱であった。
2.上で製造した米麹82.5 kg、蒸し大豆60 kg弱(蒸す前の大豆30 kgに相当)、食塩18 kg、水20 Lを混合した(「仕込む」ともいう)。混合後、室温で放置し、一定期間、発酵・熟成させた。
【0017】
実施例2
[多麹味噌をCaco-2細胞に供したときのヒトβディフェンシン2(以下、hBD2)誘導活性の測定]
1.実験例1 <多麹味噌のhBD2誘導活性の測定>
(1)原料は大豆:米麹=1:2.75、麹菌は、麹菌3号B株、発酵・熟成期間は1年とし、実施例1と同様の方法で多麹味噌を製造しサンプルとした。コントロールとしてPBSを用いた。
(2)hBD2 mRNAの発現強度は、以下の方法で測定した。
RNAの抽出はRNeasy Mini kit (Qiagen社)(I)、cDNAの合成はSuper Script III First-Strand kit (Invitrogen社)で行った(II)。また、cDNA合成後のPCRは各目的遺伝子に対応するプライマー(FASMAC社、配列表は表1)を使用し、増幅はKOD-Multi&Epi(東洋紡社)を使用して行った(III)。
【0018】
【表1】
(I)RNAの抽出
イ. 1×PBSに溶かした各サンプルをCaco-2細胞(1.6×106 cell/dishとなるよう前日にセルカウント済)に1 mg/mlずつ添加して37℃で3時間共インキュベートした。サンプル溶液は100℃で5分間滅菌したものを使用した。
ロ.細胞をBuffer RLT Lysis 600 μlで溶解し、続いて21Gシリンジで10回ストロークして細胞を破砕した。
ハ.あらかじめ調製しておいた70%エタノールを600 μl加えて青チップで10回パイペティングし、エタノール沈殿を作った。これをスピンカラムに600 μl取り、10,000 rpmで15秒遠心した。ろ液は除去し、残りの溶液も同じスピンカラムに再度600 μl加え、同様に遠心した。エタノールを加えてからの作業は素早く行った。
ニ.スピンカラムにBuffer RW1を700 μl加えて10,000 rpmで15秒遠心し、ろ液を排除した。
ホ.スピンカラムにBuffer RPEを500 μl加えて10,000 rpmで15秒遠心し、ろ液を除去した。その後、再度Buffer RPEを500 μl加えて10,000 rpmで2分遠心し、ろ液を排除した。
ヘ.新しいふた無しチューブを用意し、カラムをセットして何も加えずに15,000 rpmで1分遠心した。
ト.新しい1.5 mlチューブにカラムをセットし、RNase-free waterを30 μl加えて10,000 rpmで1分遠心した。得られたサンプルは直ちに氷上に保存した。
(II)cDNAの合成
(イ)(I)のRNAの抽出で得られたRNAサンプルの濃度をナノドロップおよびQ5000を用いて測定した。
(ロ)Super Script III First-Strand kitを用いて表2に示すとおりに調製した。
【0019】
【表2】
(ハ)調製した溶液を65℃ 5 min、4℃ 1 min、25℃ ∞でインキュベートした。
(ニ)インキュベートしている間に表3のcDNA Synthesis Mixを調製し、氷上に保存しておいた。
【0020】
【表3】
(ホ)調製したcDNA Synthesis Mixをインキュベート後のサンプルに加えてパイペティングした。その後、直ちに表4のPCR条件でPCRを行った。
【0021】
【表4】
(ヘ)PCR終了後サンプルは氷上に移し、RNase Hを1 μl加えて37℃で20分インキュベートした。
ト.作製したcDNAは−20℃で保存した。
(III)目的遺伝子の増幅
目的遺伝子の増幅にはSuper Script III First-Strand kit (Invitrogen) を用いた。
(イ)目的DNAの増幅ために表5のとおりに調製し、PCRを行った。PCR条件は表6、表7のとおりにした。なお、本実験では内部コントロールとしてβ-actinの遺伝子の増幅も行った。
【0022】
【表5】
【0023】
【表6】
【0024】
【表7】
(ロ)PCR終了後、各4 μlの6×SBを加えパイペティング後、アガロースゲル電気泳動を行った。アガロースゲルは1%の濃度で作製し、0.5 μlのエチジウムブロマイド( EtBr ) で先染めした。サンプルはそれぞれ15 μlずつロードし、100 Vで泳動した。
(IV)解析
電気泳動後のゲルは紫外線を当てて撮影し、得られた画像は画像解析ソフト「ImageJ」を用いて解析した。
(3)結果
多麹味噌を供したときのhBD2 mRNAの発現強度を
図2に示した。蔵5、4、3の味噌は、hBD2誘導活性を示した。蔵2と蔵6についても、誘導活性が高い傾向があった。
【0025】
実施例3
[発酵・熟成期間とhBD2誘導活性の関係についての検討]
hBD2誘導活性に対する発酵・熟成期間の影響を調べるため、発酵・熟成期間半年、1.5年のときの誘導活性について調べた
1.実験例2 <半年発酵・熟成多麹味噌のhBD2誘導活性の測定>
(1)原材料は大豆:米麹=1:2.75、麹菌は3号B株、発酵・熟成期間は半年として、実施例1と同様の方法で製造した多麹味噌をサンプルとした。
(2)hBD2 mRNA発現強度の測定は実験例1(2)と同様に行った。
(3)結果
半年発酵・熟成味噌を供したときのhBD2 mRNAの発現強度を
図3に示した。蔵1〜6の味噌のhBD2誘導活性は、蔵3、4、6でやや高い傾向はあるものの、PBSを供したときと比べて高いことは確認できなかった。なお、E12はIL−12誘導乳酸菌サプリメントで、結果と関係ないサンプルである。
2.実験例3 <1.5年発酵・熟成多麹味噌のhBD2発現活性の測定>
(1)原料は大豆:米麹=1:2.75、麹菌は3号B株、発酵・熟成期間は1.5年とし、実施例1と同様の方法で多麹味噌を製造しサンプルとした。なお、2つのサンプルがある蔵は、それぞれ異なる品種の大豆を使用している。
また、参考までに、一般的な味噌として、麹菌3号B株を使用せず、大豆:米麹=1:2未満、発酵・熟成期間不明の市販品の味噌もサンプルとした。
(2)hBD2 mRNA発現強度の測定は実験例1(2)と同様に行った。
(3)結果
1.5年発酵・熟成味噌を供したときのhBD2の発現強度を
図4に示した。蔵6の5、蔵2の7、の味噌は、やや弱いhBD2誘導活性を示したが、他の9つのサンプルからは誘導活性は確認できなかった。
また、市販品のサンプルからは、hBD2誘導活性を確認できなかったので、実験例1で本発明の多麹味噌に誘導活性が確認された結果と併せると、本発明の多麹味噌の優位性が示唆された。
3.結果まとめ
蔵によって結果に多少のばらつきがあるものの、発酵・熟成期間1年の味噌はhBD2誘導活性を持つあるいはその傾向がある(実験例1、
図2)一方、半年、1.5年の味噌は、一部を除いて、hBD2誘導活性を示さなかった。このことから、発酵・熟成期間は、1年程度であればより好ましいことが示唆された。
【0026】
比較例4
[麹菌の菌株の種類とhBD2誘導活性の関係についての検討]
比較実験例4
(1)麹菌の菌株の違いの影響を検討するため、麹菌3号B株でなく従来使用されてきた各種麹菌を使って味噌を製造し、サンプルとした。大豆:米麹=1:2.75、麹菌3号B株との違いを見やすいように、発酵・熟成期間1年とし、麹菌以外は、実施例1と同様の方法で多麹味噌を製造した。
(2)hBD2 mRNA発現強度の測定は実験例1(2)と同様に行った。
(3)結果
従来の麹菌を使用して製造した1年発酵・熟成多麹味噌のhBD2誘導活性を、
図5に示した。いずれの蔵の1年発酵・熟成多麹味噌も、hBD2誘導活性を示さなかった。麹菌3号B株を使った実験例1(
図2)では、いずれの1年発酵・熟成多麹味噌も、hBD2誘導活性を示すか、あるいはその傾向はあったので、麹菌3号B株を使用することが重要であることがわかった。
【0027】
参考例5
[米麹の割合とhBD2誘導活性の関係についての検討]
参考実験例5
(1)米麹の割合とhBD2誘導活性の関係を調べるため、大豆:米麹=1:1のサンプル(以下、1倍)と1:2.75(以下、3倍)の味噌をサンプルとし、誘導活性を比較した。コントロールとしてPBSを置き、同じ蔵の1倍と3倍サンプルをペアとして、1倍と3倍のhBD2誘導活性を比較した。
麹菌は3号B株、発酵・熟成期間は半年とし、大豆に対する米麹の割合以外は、実験例1(2)と同様に、サンプルを製造した。蔵4、蔵2でそれぞれ2セットのサンプルがあるが(
図6)、セットごとに大豆の種類が異っている。
(2)hBD2 mRNA発現強度の測定は実験例1(2)と同様に行った。
(3)結果及び考察
発酵・熟成期間が半年なので、3倍サンプルのhBD2誘導活性がはっきりしないので、あくまで参考にとどまるが、いずれのセットでも、1倍よりも3倍のサンプルが、hBD2誘導活性が大きい傾向があった(
図6)。なおマル2のサンプルは結果とは関係ないサンプルである。
【0028】
比較例6
[麹菌と米麹のhBD2誘導活性の測定]
比較実験例6
(1)麹菌自体、又は米麹自体にhBD2誘導活性があるか確認するために、麹菌又は米麹をサンプルとした。
(2)hBD2 mRNA発現強度の測定は実験例1(2)と同様に行った。
(3)結果
麹菌と米麹を供したときのhBD2誘導活性を
図7に示した。いずれもhBD2誘導活性を示さなかったので、麹菌や米麹自体にhBD2誘導活性があるのではなく、これらを使用した味噌にhBD2誘導活性があることがわかった。