特開2021-23234(P2021-23234A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特開2021-23234窒素源存在条件下オイル高蓄積藻類株の育種方法、窒素源存在条件下オイル高蓄積藻類株及びそれを用いた油脂製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-23234(P2021-23234A)
(43)【公開日】2021年2月22日
(54)【発明の名称】窒素源存在条件下オイル高蓄積藻類株の育種方法、窒素源存在条件下オイル高蓄積藻類株及びそれを用いた油脂製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/12 20060101AFI20210125BHJP
   C12P 7/64 20060101ALI20210125BHJP
【FI】
   C12N1/12
   C12P7/64
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2019-145222(P2019-145222)
(22)【出願日】2019年8月7日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)「動的代謝解析による海洋性緑藻の油脂生合成発動メカニズムの解明と油脂高生産技術開発への応用」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(71)【出願人】
【識別番号】301032942
【氏名又は名称】国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】蓮沼 誠久
(72)【発明者】
【氏名】加藤 悠一
(72)【発明者】
【氏名】小山 智己
(72)【発明者】
【氏名】近藤 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 勝也
(72)【発明者】
【氏名】大野 豊
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AD85
4B064BJ05
4B064CA08
4B064CC09
4B064CD12
4B064DA20
4B065AA83X
4B065AC14
4B065BA16
4B065BB12
4B065BC13
4B065CA13
(57)【要約】
【課題】本発明は、窒素源が存在する条件においても油脂を高蓄積することが可能な藻株を提供することを課題とする。
【解決手段】上記課題を解決するための本発明は、(A)クラミドモナス属に属する藻類にイオンビームを照射してランダムな突然変異を導入する工程、(B)上記(A)工程により得られた突然変異導入株を、窒素源存在条件で培養する工程、(C)変異細胞集団から油脂含有率が30重量%以上である変異株を分離する工程を含む、オイル高蓄積藻類株の育種方法である。また、栄養源として含まれる窒素濃度が1mg−N/L〜270mg−N/Lの培地を用いた窒素源存在条件における油脂含有率が10重量%以上である、窒素源存在条件下オイル高蓄積藻類株も本発明に含まれる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)クラミドモナス属に属する藻類にイオンビームを照射してランダムな突然変異を導入する工程、
(B)上記(A)工程により得られた突然変異導入株を、窒素源存在条件で培養する工程、
(C)変異細胞集団から、窒素源存在条件で培養した場合の油脂含有率が10重量%以上である変異株を分離する工程
を含む、オイル高蓄積藻類株の育種方法。
【請求項2】
上記(B)工程における窒素源存在条件が、培地中に栄養源として含まれる窒素濃度を1mg−N/L〜270mg−N/Lに維持する条件である、請求項1に記載のオイル高蓄積藻類株の育種方法。
【請求項3】
培地中に栄養源として含まれる窒素濃度が1mg−N/L〜270mg−N/Lに維持される窒素源存在条件で培養した場合の油脂含有率が10重量%以上である、窒素源存在条件下オイル高蓄積藻類株。
【請求項4】
培地中に栄養源として含まれる窒素濃度が1mg−N/L〜270mg−N/Lに維持される窒素源存在条件で培養した場合の油脂生産速度が、100(g/m/d)以上である、請求項3に記載の窒素源存在条件下オイル高蓄積藻類株。
【請求項5】
上記藻類が、クラミドモナス・スピーシーズである、請求項3又は4に記載の窒素源存在条件下オイル高蓄積藻類株。
【請求項6】
上記クラミドモナス・スピーシーズが、クラミドモナス・スピーシーズKAC1801株(Chlamydomonas sp.KAC1801/受領番号:FERM ABP−22376)である、請求項5に記載の窒素源存在条件下オイル高蓄積藻類株。
【請求項7】
窒素源存在条件下における油脂高蓄積能を有する、クラミドモナス・スピーシーズKAC1801株(Chlamydomonas sp.KAC1801/受領番号:FERM ABP−22376)。
【請求項8】
請求項3から7のいずれか1項に記載の窒素源存在条件下オイル高蓄積藻類株を用い、窒素源存在下で連続的に培養することを特徴とする、油脂生産培養方法。
【請求項9】
請求項3から7のいずれか1項に記載の窒素源存在条件下オイル高蓄積藻類株を窒素源含有培地中で培養し、培地中に栄養源として含まれる窒素濃度を1mg−N/L〜270mg−N/Lに維持することを特徴とする、請求項8に記載の油脂生産培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒素源存在条件下オイル高蓄積藻類株の育種方法、窒素源存在条件下オイル高蓄積藻類株及びそれを用いた油脂製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
藻類や水圏微生物を利用したバイオエネルギー生産のための基盤技術が注目されている。水圏には、脂質や糖類の蓄積能力が高く、多様性に富み、高い増殖能力をもった藻類が多い。藻類は優れた炭酸固定能を持ち、光合成能は陸上植物の数十倍とも言われている。このような藻類については、工業的培養が半世紀以上に渡って行われており、燃料、飼料、ファインケミカル、健康食品等の原料として高い需要がある。特に、今後化石燃料の枯渇化が懸念されることから、代替燃料の早期探索の必要性が高まり、バイオ燃料のソースとして藻類生産への関心がより高まっている。
【0003】
藻類を用いた油脂の生産方法としては、生産効率の高い特定の海洋性緑藻クラミドモナス・スピーシーズ(Chlamydomonas species)株を用いた方法が知られている(特許文献1参照)。特許文献1に開示されているクラミドモナス・スピーシーズ株(JSC4)は、光独立栄養・海水塩濃度条件において高い増殖性と油脂含有率を両立する優れた藻株であり、バイオ燃料の材料として有望視されている。しかし、バイオ燃料のソースとしての藻類への要求はさらに高くなっているのが現状であり、より生産効率の高いクラミドモナス・スピーシーズ(Chlamydomonas species)株が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2015/025553号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような状況の中、本発明者らは、上記JSC4をはじめとする従来の海洋性緑藻クラミドモナス・スピーシーズ(Chlamydomonas species)株において、油脂が生産されて蓄積されるためには培地中の窒素源の枯渇が必要となる点、そして、このような窒素源枯渇条件では細胞の生育速度が低下してしまう点に着目した。そして、窒素源が存在する条件においても油脂を高蓄積することが可能な藻株を創出することができれば、油脂生産の効率をより高くすることができると考え、研究を進めた。そこで、本発明は、窒素源が存在する条件においても油脂を高蓄積することが可能な藻株を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために、従来から知られているクラミドモナス・スピーシーズの特定の株(JSC4株)に由来する藻株に対して、イオンビーム照射によるランダムな突然変異誘発と、フローサイトメトリ―による高速スクリーニングを組合せた選抜育種を実施し、窒素源存在条件でも油脂蓄積速度が十分に速い株を創出し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明の要旨は以下のとおりである。
【0007】
[1](A)クラミドモナス属に属する藻類にイオンビームを照射してランダムな突然変異を導入する工程、
(B)上記(A)工程により得られた突然変異導入株を、窒素源存在条件で培養する工程、
(C)変異細胞集団から、窒素源存在条件で培養した場合の油脂含有率が10重量%以上である変異株を分離する工程
を含む、オイル高蓄積藻類株の育種方法。
[2]上記(B)工程における窒素源存在条件が、培地中に栄養源として含まれる窒素濃度を1mg−N/L〜270mg−N/Lに維持する条件である、[1]に記載のオイル高蓄積藻類株の育種方法。
[3]培地中に栄養源として含まれる窒素濃度が1mg−N/L〜270mg−N/Lに維持される窒素源存在条件で培養した場合の油脂含有率が10重量%以上である、窒素源存在条件下オイル高蓄積藻類株。
[4]培地中に栄養源として含まれる窒素濃度が1mg−N/L〜270mg−N/Lに維持される窒素源存在条件で培養した場合の油脂生産速度が、100(g/m/d)以上である、[3]に記載の窒素源存在条件下オイル高蓄積藻類株。
[5]上記藻類が、クラミドモナス・スピーシーズである、[3]又は[4]記載の窒素源存在条件下オイル高蓄積藻類株。
[6]上記クラミドモナス・スピーシーズが、クラミドモナス・スピーシーズKAC1801株(Chlamydomonas sp.KAC1801/受領番号:FERM ABP−22376)である、[5]に記載の窒素源存在条件下オイル高蓄積藻類株。
[7]窒素源存在条件下における油脂高蓄積能を有する、クラミドモナス・スピーシーズKAC1801株(Chlamydomonas sp.KAC1801/受領番号:FERM ABP−22376)。
[8][3]から[7]のいずれかに記載の窒素源存在条件下オイル高蓄積藻類株を用い、窒素源存在下で連続的に培養することを特徴とする、油脂生産培養方法。
[9][3]から[8]のいずれかに記載の窒素源存在条件下オイル高蓄積藻類株を窒素源含有培地中で培養し、培地中に栄養源として含まれる窒素濃度を1mg−N/L〜270mg−N/Lに維持することを特徴とする、[8]に記載の油脂生産培養方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の窒素源存在条件下オイル高蓄積藻類株は、窒素源が存在する条件においても油脂を高蓄積することが可能であるため、十分に栄養源が補充されることで生育速度を低下させることなく油脂生産を継続させることができる。そのため、本発明の窒素源存在条件下オイル高蓄積藻類株によると、油脂生産の効率をより高くすることが可能である。さらに、窒素源枯渇条件では、栄養源の枯渇により細胞の状態が悪化し、日和見感染リスクが増大するところ、窒素源が存在する条件においても油脂を高蓄積することが可能な本発明の藻株においては、栄養源を枯渇させる必要がないため、上記リスクを低減することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、従来の藻株である親株(KOR1株)と本発明のオイル高蓄積変異株(KAC1710株、KAC1801株)の窒素源存在条件で培養した際の電子顕微鏡写真である。
図2図2は、親株(KOR1株)及び本発明のオイル高蓄積変異株(KAC1710株、KAC1801株)の、培養液上清中に含まれる硝酸ナトリウム濃度を示した図である。
図3図3は、親株(KOR1株)及び本発明のオイル高蓄積変異株(KAC1710株、KAC1801株)の培養液当たりのバイオマス量を示した図である。
図4図4は、親株(KOR1株)及び本発明のオイル高蓄積変異株(KAC1710株、KAC1801株)の油脂含有量(%)を示した図である。
図5図5は、親株(KOR1株)及び本発明のオイル高蓄積変異株(KAC1710株、KAC1801株)の培養液当たりの油脂生産量(mg/L)を示した図である。
図6図6は、親株(KOR1株)及び本発明のオイル高蓄積変異株(KAC1710株、KAC1801株)の各培養期間における油脂生産速度(mg/L/day)を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の藻類のオイル高蓄積変異株について詳細に説明する。なお、本明細書における分子生物学的実験は、特に明記しない限り、当業者に公知の一般的実験書に記載の方法又はそれに準じた方法により行うことができる。また、本明細書中で使用される用語は、特に言及しない限り、当該技術分野で通常用いられる意味で解釈される。
【0011】
<窒素源存在条件下オイル高蓄積藻類株>
本発明の窒素源存在条件下オイル高蓄積藻類株は、窒素源存在条件で培養を行っても、十分な油脂蓄積速度を示し、高い油脂生産効率を示す株である。
【0012】
ここで、本発明において窒素源存在条件とは、藻株を培養する際の培地中に栄養源として含まれる窒素濃度が、0mg−N/L以下とならないように維持される条件をいい、培地中に栄養源として含まれる窒素濃度は1mg−N/L〜270mg−N/Lに維持されることが好ましく、1mg−N/L〜130mg−N/Lに維持されることがより好ましく、1mg−N/L〜60mg−N/Lに維持されることがさらに好ましい。培地中に栄養源として含まれる窒素濃度を上記数値範囲に維持するための方法は特に限定されないが、藻株の培養において適切なタイミングで新しい培地を補充することによる方法が考えられる。上記培地中の窒素源としては、アンモニウム塩、硝酸塩等の無機窒素源、尿素、アミノ酸、ペプトン等の有機窒素源が挙げられる。具体的には、硝酸ナトリウム、塩化アンモニウム等が好ましい窒素源として挙げられる。例えば、窒素源として硝酸ナトリウムを含む培地を用いる場合、窒素源存在条件とは、硝酸ナトリウム濃度が、0mg/L以下とならないように維持される条件をいい、1mg/L〜1600mg/Lであることが好ましく、1mg/L〜800mg/Lであることがより好ましく、1mg/L〜350mg/Lであることがさらに好ましい。
【0013】
[藻類]
藻類とは、水中生活をする同化色素を有する植物の総称であり、ミドリムシ植物、黄色植物(珪藻類を含む)、黄褐色植物、藍藻植物、褐藻植物、緑藻植物(車軸藻類を含む)及び紅藻植物が含まれる。油脂成分を高い効率で産生するという観点から、本発明においては、緑藻植物に属するクラミドモナス(Chlamydomonas)属の藻類が好ましい。
【0014】
クラミドモナスは、緑藻綱クラミドモナス目(若しくはオオヒゲマワリ目)に属する単細胞の鞭毛虫からなる属である。クラミドモナスの多くは淡水産であるが、海水中に生育するものもある。本発明において好ましいクラミドモナス属の藻類は、海産、汽水産及び海水塩を含む培地で生育可能なものであり、海生のものである。
【0015】
[窒素源存在条件下オイル高蓄積藻類株]
本発明における窒素源存在条件下オイル高蓄積藻類株は、従来の藻類に対してイオンビーム照射によるランダムな突然変異誘発と、フローサイトメトリ―による高速スクリーニングを組合せた選抜育種を実施して得られた株である。このような、親株として使用できる従来の藻類としては、上述したとおり、緑藻植物に属するクラミドモナス(Chlamydomonas)属の藻類が好ましく、クラミドモナスの中でも、特に油脂成分を高い効率で産生するクラミドモナス・スピーシーズJSC4株(Chlamydomonas sp. JSC4:本明細書中、単に「JSC4株」ともいう)やJSC4株に由来する株が好ましい。
【0016】
(クラミドモナス・スピーシーズJSC4株)
ここで、クラミドモナス・スピーシーズJSC4株は以下の手順により得られた株である。即ち、台湾中西部の海岸で採取した汽水試料から、常法により1細胞だけを単離し、無菌化した。これを、HSM寒天培地を用いて、20℃、8〜15μmol photons/m/s、12時間明期12時間暗期の光条件で培養し、2週間に1度植え継ぐことで藻株を確立し、形態観察その他よりクラミドモナス属の緑藻と同定して、JSC4株と名づけられた。このJSC4株は、2014年3月5日付で独立行政法人製品評価技術基盤機構特許生物寄託センター(千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)にプタベスト条約の規定下で受託番号FERM BP−22266として、国際寄託されている。クラミドモナス・スピーシーズJSC4株の藻類学的性質は以下の通りである。
【0017】
形態的性質
(1)栄養型細胞は、楕円形であり、大きさは、約10μmである。栄養型細胞において、細胞長の約等倍の鞭毛を2本有する。栄養型細胞は、運動性を有する。
(2)栄養型細胞は外囲を細胞壁に囲まれ、内部に核、葉緑体が一個存在し、その他、ミトコンドリア、ゴルジ体、液胞、デンプン粒、油滴等が認められる。葉緑体内の基底部にピレノイドを有する。
生殖様式
(1)内生胞子は栄養細胞内に二〜八個形成され、細胞内に均等に分布する。内生胞子はその細胞内に核、葉緑体を一個有する。
(2)二分裂による増殖も行う。
生理学・生化学性状
(1)培養液:海産や汽水産及び海水塩を含む培養液中で生育できる。
(2)光合成能:光合成による光独立栄養生育ができる。
(3)含有色素:クロロフィルa、クロロフィルb、及び他のカロテノイド類
(4)同化貯蔵物質:デンプン、油脂
(5)生育温度域:15℃〜35℃(至適温度25℃)
(6)生育pH域:pH6.0〜10.0(至適pHは7.0)
本発明のオイル高蓄積変異株は、屋外のような昼夜のある条件でも油脂蓄積速度が速く、昼夜条件における油脂生産速度が150g/m/日以上である。
【0018】
(本発明の窒素源存在条件下オイル高蓄積藻類株の取得)
(1)突然変異の導入
窒素源存在条件下におけるオイル高蓄積藻類株(KAC)の育種は、従来の藻株を親株として実施することができ、親株は特に限定されないが、より効率的にオイル高蓄積藻類変異株が得られるという観点から、上述のクラミドモナス・スピーシーズJSC4株(Chlamydomonas sp. JSC4)や、このJSC4株からさらに選別された株を親株とすることが好ましい。突然変異の導入は、細胞集団に対して、イオンビームを照射することで実施することができる。イオンビームは細胞核を通過するときに、DNA二本鎖をランダムに切断する。細胞は自らが持つ修復機能によりDNA鎖をつなぎ直すが、その際にDNA欠失など様々な突然変異が発生するとされる。照射するイオンビームとしては、突然変異を導入可能なものであれば特に限定されないが、例えば、炭素(C)、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)あるいはアルゴン(Ar)等が挙げられ、藻類への変異導入の効率の観点から、125+が好ましい。クラミドモナス属に属する藻類に125+イオンビームを照射する場合、線量の範囲は、10〜250Gyが好ましく、20〜75Gyがより好ましい。イオンビーム照射後は、数日間の回復培養後、得られた細胞集団を変異体ライブラリとし、後述するスクリーニングを行うことができる。なお、上記回復培養は、適切な光強度の昼白色蛍光灯等の条件下で3日間以上静置することにより行われる。
【0019】
(2)スクリーニング
窒素源存在条件下におけるオイル高蓄積藻類株の一次スクリーニングは蛍光活性セルソーター(fluorescence activated cell sorter,FACS)を用いて行うことができる。窒素源存在条件で培養した細胞の細胞内油滴を蛍光色素BODIPY、ナイルレッド等で染色し、蛍光強度の強い細胞をFACSにて分取する。個々の細胞のBODIPY蛍光、ナイルレッド蛍光等の細胞内油滴の染色に由来する蛍光及びクロロフィルの自家蛍光(細胞サイズの指標として利用)の強度をFACSで解析し、クロロフィル自家蛍光あたりのBODIPY蛍光、ナイルレッド蛍光等の細胞内油滴の染色に由来する蛍光が高い細胞(上位1.5〜0.5%)を分取することができる。また、上記のような窒素源存在条件での培養とFACSによる分取を複数回繰り返し実施することで、標的とする細胞を濃縮することも可能である。
【0020】
培養時の光条件は、蛍光灯により調整することができ、点灯時の光量子束密度としては、日光の光に近い条件として、通常50μmol photons/m・秒 〜 2,000μmol photons/m・秒の範囲であり、60μmol photons/m・秒 〜 1,000μmol photons/m・秒の範囲であることが好ましく、80μmol photons/m・秒 〜 500μmol photons/m・秒の範囲であることがより好ましい。
【0021】
分取後の細胞は寒天培地に播種し、光強度50μmol photons/m・秒程度の昼白色蛍光灯下でコロニーを形成するまで静置培養する。一次スクリーニングで得られた候補株については、マイクロウェルプレートで培養し、細胞から油脂を抽出してガスクロマトグラフィー質量分析(gas chromatography−mass spectrometry,GC−MS)で解析することで、窒素源存在条件におけるオイル高蓄積藻類株の二次スクリーニングを実施する。二次スクリーニングにおいては、後述する方法に従ってバイオマス量の測定、油脂の測定を行い、油脂含有率を算定し、最終的に窒素源存在条件での培養によってオイルを高蓄積する変異株を選定することができる。
【0022】
(本発明の窒素源存在条件下オイル高蓄積藻類株の特徴)
(1)培養
変異育種により獲得した各オイル高蓄積藻類株は、1%〜5%CO条件、好ましくは1.5%〜2.5%CO条件、より好ましくは2%CO条件で、15℃〜40℃、好ましくは20℃〜35℃、より好ましくは25℃〜30℃の条件で、フラスコ等の培養器中、後述する培地に懸濁し、光合成が可能な光条件下で、2〜7日間、好ましくは3〜5日間、より好ましくは4日間程度の前培養を行い、順調に生育し、細胞数が十分となったところで、拡大培養を行い、10〜20日間、好ましくは12〜16日間、より好ましくは14日間程度、上記の窒素源存在条件にて本培養を行う。窒素源存在条件とは、上述の通りであり、藻株を培養する際の培地中に栄養源として含まれる窒素濃度が、0mg−N/L以下とならないように維持される条件をいい、培地中の窒素濃度は1mg−N/L〜270mg−N/Lに維持されることが好ましく、1mg−N/L〜130mg−N/Lに維持されることがより好ましく、1mg−N/L〜60mg−N/Lに維持されることがさらに好ましい。培地中に栄養源として含まれる窒素濃度を上記数値範囲に維持するための方法は特に限定されないが、藻株の培養において適切なタイミングで新しい培地を補充することによる方法が考えられる。上記培地中の窒素源としては、アンモニウム塩、硝酸塩等の無機窒素源、尿素、アミノ酸、ペプトン等の有機窒素源が挙げられる。具体的には、硝酸ナトリウム、塩化アンモニウム等が好ましい窒素源として挙げられる。例えば、窒素源として硝酸ナトリウムを含む培地を用いる場合、窒素源存在条件とは、硝酸ナトリウム濃度が、0mg/L以下とならないように維持される条件をいい、1mg/L〜1600mg/Lであることが好ましく、1mg/L〜800mg/Lであることがより好ましく、1mg/L〜350mg/Lであることがさらに好ましい。
【0023】
光条件については、最終的に回収できる油脂量が多くなる条件が好ましく、光合成可能な条件で継続培養してもよいし、100〜250μmol photons/m・秒程度の昼白色蛍光灯による12h明期、及び12h暗期等の昼夜周期条件で培養してもよい。なお、本発明のオイル高蓄積藻類株としては、屋外での培養を想定した昼夜周期条件でも十分量の油脂蓄積が得られる株であることが好ましい。
【0024】
本発明に用いる培養方法としては、静置培養法を用いることも可能であるが、藻類の藻体生産性と油脂成分の生産性を考えると、振盪培養法又は深部通気撹拌培養法による培養が好ましい。振盪培養は、往復振盪であっても、回転振盪であってもよい。
【0025】
上記培養に用いられる培地としては、クラミドモナス属に属する藻類が生育する可能な培地であれば特に制限はないが、海水塩を含む培地が、海水、濃縮海水、又は人工海水を含むものが油脂産生能を向上させることから好ましい。例えば、基礎培地としては、Modified Bold 12N(MB12N)培地、TAP培地、HSM培地、BG−11培地、BBM培地等が挙げられ、高効率で油脂成分を産生できることから、MB12N培地がより好ましい。さらに、これらの基礎培地に0.5〜5重量%、好ましくは2〜5重量%、より好ましくは2〜3重量%のsea salt(海水塩)を添加したものを用いることができる。なお、藻類の大量培養を想定した場合には、利便性のある海水を培地のベースとして用いることもできる。
【0026】
本発明で使用が可能なsea salt(海水塩)は、公知慣用の海水塩を挙げることができる。本発明で用いられる海水塩は、海水を蒸発乾固させて得られたものであっても、海水や海水の濃縮液を用いてもよいが、培地中に含まれる濃度を調整するためには、海水の固形分である海水塩を用いる方がより好ましい。
【0027】
本発明において、培地中に含まれる窒素源濃度は、培地中に含まれる硝酸塩の濃度を波長220nmにおける光学密度(OD220)を指標として測定する方法、イオンセンサー、発色試薬による吸光度測定等の方法により測定することができる。
【0028】
(2)バイオマス量
本発明において、バイオマス量は、細胞の乾燥重量を指標として算出することができる。バイオマス量の測定は、当業者に公知の方法により行うことができ、その方法は限定されないが、例えば以下のように行うことができる。即ち、上記培養によって得られたオイル高蓄積藻類株の細胞を秤量済みマイクロチューブに必要量回収し、蒸留水で洗浄してから終夜凍結乾燥する。乾燥後、再度マイクロチューブの重量を測定し、空のマイクロチューブ重量を減算することで回収した乾燥藻体の乾燥重量(mg)を求める。さらにこれを測定に使用した培養液量で除算することで培養液中に含まれるバイオマス量(g/L)を算出することができる。秤量後、乾燥藻体は後述する油脂、色素類の測定に用いる。本発明のオイル高蓄積藻類株のバイオマス量は、窒素源存在条件での培養によっても、十分な量となる。
【0029】
(3)油脂
本発明のオイル高蓄積藻類株は、油脂含有率が高いことが特徴であり、窒素源存在条件における油脂含有率が通常10重量%以上であり、15重量%以上であることが好ましく、20重量%以上であることがより好ましく、25重量%以上であることがさらに好ましい。また、本発明のオイル高蓄積藻類株は、油脂生産速度が速いことも特徴であり、窒素源存在条件における油脂生産速度が100g/m/日以上であり、150g/m/日以上であることが好ましく、200g/m/日以上であることがより好ましく、250g/m/日以上であることがさらに好ましく、300g/m/日以上であることが特に好ましい。
【0030】
本発明において、油脂の測定は、当業者に公知の方法により行うことができ、その方法は限定されないが、例えば以下のように行うことができる。なお、油脂の測定には、上記バイオマスの測定実験で準備した乾燥藻体を用いる。この乾燥藻体を破砕専用マイクロチューブに秤量して測定に供する。0.5mm径ガラスビーズをマイクロチューブに加えてマルチビーズショッカー装置により細胞を破砕する。細胞中の油脂を、脂肪酸メチル化キット(ナカライ社製等)を用いてメチル化し、それによって生成した脂肪酸メチルエステルをガスクロマトグラフ質量分析(gas chromatography−mass spectrometry,GC−MS)により定量し、乾燥藻体当たりの油脂含有率(重量%)、培養液当たりの油脂(オイル)生産量(mg/L)を算出することができる。なお、培養液当たりの油脂(オイル)生産量(mg/L)は、油脂含有率とバイオマス量の乗算によって算出される。また、オイル高蓄積藻類株を経時的に採取し、乾燥藻体当たりの油脂含有率(重量%)、培養液当たりの油脂(オイル)生産量(mg/L)の経時的な増減を確認することができる。さらに、単位培養液(L)から1日に得られる油脂量を測定することで、油脂(オイル)生産速度(mg/L/day(日)を算出することができる。なお、油脂生産速度は、培養期間日数で油脂生産量(lipid production,mg/L)を除算することにより算出することができる。
【0031】
なお、本発明において、「窒素源存在条件における油脂生産速度」とは、窒素源として硝酸ナトリウムを含む培地を用いる場合、本培養の硝酸ナトリウム濃度が1mg/L〜1600mg/Lの範囲内である当該期間において達成した油脂生産速度をいう。また、「窒素源存在条件における油脂含有率」とは、窒素源として硝酸ナトリウムを含む培地を用いる場合、本培養の硝酸ナトリウム濃度が1mg/L〜1600mg/Lの範囲内である当該日において達成した乾燥藻体当たりの油脂含有率をいう。
【0032】
本発明のオイル高蓄積藻類株が蓄積する油脂としては、パルミチン酸、リノール酸、ステアリン酸、リノレン酸、オレイン酸等の脂肪酸によって構成されるトリグリセリドが挙げられ、燃焼効率が高く、バイオディーゼル燃料等として、有用である。
【0033】
本発明のオイル高蓄積藻類株としては、窒素源存在条件における油脂生産速度が、培養開始後3日目以降、200g/m/日以上、同条件における油脂含有率が10重量%以上であるクラミドモナス・スピーシーズKOR1株の変異株が好ましく、具体的には、KAC1710株、KAC1801株がより好ましく、このようなオイル高蓄積変異株としては、独立行政法人製品評価技術基盤機構にプタベスト条約の規定下で寄託申請を行い、受領番号FERM ABP−22376として受領されたKAC1801株がさらに好ましい。
【0034】
<オイル高蓄積藻類株を用いた油脂の製造方法>
本発明は、上述の本発明の窒素源存在条件下オイル高蓄積藻類株を用いた油脂の製造方法も含む。本発明の油脂の製造方法は、本発明の窒素源存在条件下オイル高蓄積藻類株を窒素源存在条件で連続的に培養する工程、及び生産された油脂を回収する工程を含むことを特徴とする。
【0035】
(本発明の窒素源存在条件下オイル高蓄積藻類株を窒素源存在条件で連続的に培養する工程)
本工程については、上述の本発明のオイル高蓄積藻類株の特徴の項の培養の説明も参照されたい。具体的には、例えば、寒天培地からKAC1710株、KAC1801株等を適量取り、上述の窒素源存在条件にて3日間の前々培養を実施する。OD750が0.04程度となるように継代し、さらに上述の窒素源存在条件にて3日間の前培養を実施する。OD750が0.04程度となるように継代し、上述の窒素源存在条件にてさらに14日間程度の本培養を実施する。上記本培養の際、例えば、培養開始から5日目、7日目、9日目等に藻体を部分的に収穫すると共に、窒素を含む新しい培地を補充することができる。このように窒素を含む新しい培地を補充し、適切なタイミングで継代を行うことで、本発明の窒素源存在条件下オイル高蓄積藻類株を、細胞の状態を良好に保ちながら、連続的に培養をすることができ、最終的に従来株と比較して、効率よく、より多くの油脂を生産することが可能である。
【0036】
(培養条件)
2段式フラスコを使用
培地:MB12N+2% sea salt
CO:2%CO
光:250μmol photons/m/s 昼白色蛍光灯
温度:30℃
撹拌:100rpm
【0037】
(生産された油脂を回収する工程)
上記培養工程で得られたオイル高蓄積藻類株から油脂成分を抽出する方法としては、通常の油脂の抽出方法を用いることができ、特に、Folch法やBligh−Dyer法に代表されるクロロホルム/メタノール系等の有機溶媒による一般的な抽出方法を用いることが可能であるが、これらに限らない。
【0038】
<窒素源存在条件下におけるオイル高蓄積藻類株の育種方法>
本発明は、オイル高蓄積藻類株の育種方法も含む。即ち、本発明のオイル高蓄積藻類株の育種方法は、(A)クラミドモナス属に属する藻類にイオンビームを照射してランダムな突然変異を導入する工程、(B)上記(A)工程により得られた突然変異導入株を、窒素源存在条件で培養する工程、(C)変異細胞集団から油脂含有率が30重量%以上である変異株を分離する工程を含むことを特徴とする。本発明においては、上記で得られた変異株に、さらに上記(A)、(B)及び(C)工程を繰り返し変異株を分離してもよい。本発明の方法によると、窒素源存在条件で培養しても油脂含有率が高く、油脂の生産効率の高い有用なクラミドモナス属に属する藻類株を得ることができる。
【0039】
((A)クラミドモナス属に属する藻類にイオンビームを照射してランダムな突然変異を導入する工程)
本工程においては、クラミドモナス属に属する藻類の細胞集団に対して、イオンビームを照射する。照射するイオンビームとしては、突然変異を導入可能なものであれば特に限定されないが、例えば、炭素(C)、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)あるいはアルゴン(Ar)等が挙げられ、藻類への変異導入の効率の観点から、125+が好ましい。クラミドモナス属に属する藻類に125+イオンビームを照射する場合、線量の範囲は、10〜250Gyが好ましく、20〜75Gyがより好ましい。イオンビーム照射後は、数日間の回復培養後、得られた細胞集団を変異体ライブラリとし、後述するスクリーニングを行うことができる。なお、上記回復培養は、例えば、適切な光強度の昼白色蛍光灯等の条件下で3日間以上静置することにより行われる。
【0040】
((B)上記(A)工程により得られた突然変異導入株を、窒素源存在条件で培養する工程)
本工程においては、上記(A)工程において得られた突然変異導入株を、上述した窒素源存在条件にて培養する。具体的な培養の方法については、上述の本発明のオイル高蓄積藻類株の特徴の項の培養の説明を参照されたい。
【0041】
((C)変異細胞集団から油脂含有率の高い変異株を分離する工程)
本工程においては、上記(A)工程で得られた変異細胞集団から、(B)工程の培養によっても油脂含有率を高く維持できる変異株を分離する。このとき、油脂含有率が、好ましくは20重量%以上、より好ましくは30重量%以上である変異株を分離する。具体的な分離方法としては、オイル高蓄積藻類株を蛍光活性セルソーター(fluorescence activated cell sorter,FACS)を用いて分離することができる。目的とする条件、例えば窒素源存在条件で培養した変異細胞集団の細胞内油滴を蛍光色素BODIPY、ナイルレッド等で染色し、蛍光強度の強い細胞をFACSにて分取する。個々の細胞のBODIPY蛍光、ナイルレッド蛍光等の細胞内油滴の染色に由来する蛍光及びクロロフィルの自家蛍光(細胞サイズの指標として利用)の強度をFACSで解析し、クロロフィル自家蛍光あたりのBODIPY蛍光、ナイルレッド蛍光等の細胞内油滴の染色に由来する蛍光が高い細胞(上位1〜0.5%)を分取することができる。また、上記のような条件での培養とFACSによる分取を複数回繰り返し実施することで、目的とする細胞を濃縮することも可能である。
【0042】
ここで、本発明において設定される培養条件のうち、窒素源存在条件とは、上述の通りであるが、具体的には、藻株を培養する際の培地中の硝酸ナトリウム濃度が、0mg/L以下とならない条件をいい、培地中の硝酸ナトリウム濃度は1mg/L〜1600mg/Lであることが好ましく、1mg/L〜800mg/Lであることがより好ましく、1mg/L〜350mg/Lであることがさらに好ましい。
【0043】
培養時の光条件は、蛍光灯により調整することができ、点灯時の光量子束密度としては、日光の光に近い条件として、通常50μmol photons/m・秒 〜 2,000μmol photons/m・秒の範囲であり、60μmol photons/m・秒 〜 1,000μmol photons/m・秒の範囲であることが好ましく、80μmol photons/m・秒 〜 500μmol photons/m・秒の範囲であることがより好ましい。
【0044】
なお、分離後の細胞は寒天培地に播種し、光強度50μmol photons/m・秒程度の昼白色蛍光灯下でコロニーを形成するまで静置培養する。一次スクリーニングで得られた候補株については、マイクロウェルプレートで培養し、細胞から油脂を抽出してガスクロマトグラフィー質量分析(gas chromatography−mass spectrometry,GC−MS)で解析することで、窒素源存在条件におけるオイル高蓄積藻類株の二次スクリーニングを実施する。この工程において、油脂含有率が30重量%以上である変異株を分離することができる。二次スクリーニングにおいては、後述する方法に従ってバイオマス量の測定、油脂の測定を行い、油脂含有率を算定し、最終的に窒素源存在条件での培養によってオイルを高蓄積する変異株を選定することができる。
【実施例】
【0045】
以下の実施例にて本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【0046】
1.オイル高蓄積藻類株の変異育種
(1)突然変異の導入
窒素源存在条件下におけるオイル高蓄積藻類株(KAC)の育種は、クラミドモナス・スピーシーズJSC4株に由来するKOR1株(Chlamydomonas sp. KOR1)を親株として二段階の変異育種により実施した。突然変異の導入は国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構高崎量子応用研究所のイオン照射研究施設(TIARA: Takasaki Ion accelerators for Advanced Radiation Application)にて親株にイオンビームを照射することで実施した。
【0047】
具体的には、寒天培地から藻体を適量取り、下記条件にて3日間の前培養を実施した。波長750nmにおける光学密度(OD750)が0.04となるように継代し、下記条件にてさらに2日間の本培養を実施した。培養後、OD750が0.5となるようにTAP培地で希釈し、希釈液100μLをTAP寒天培地に塗布した。AVFサイトクロンにて加速したイオンビーム(125+、220MeV)を線量50Gyで寒天培地上の藻細胞に照射した。重イオンビームの照射後、光強度50μmol photons/m/sの昼白色蛍光灯下で3日間以上静置することで回復培養を実施した。これをKOR1の変異体ライブラリとして以下の実験に使用した。
【0048】
(培養条件)
2段式フラスコを使用
培地:70mL TAP
CO:2%CO
光:100μmol photons/m/s蛍光灯
温度:30℃
撹拌:100rpm
【0049】
(2)一次スクリーニング
窒素源存在条件におけるオイル高蓄積藻類株の一次スクリーニングは蛍光活性セルソーター(fluorescence activated cell sorter,FACS)を用いて実施した。窒素源存在条件で培養した細胞の細胞内油滴を蛍光色素BODIPYで染色し、蛍光強度の強い細胞をFACSにて分取した。
【0050】
上記で準備した変異体ライブラリの寒天培地から藻体を適量取り、下記条件にて3日間の前培養を実施した。OD750が0.04となるように継代し、下記条件にてさらに7日間の本培養を実施した。培養後の細胞を回収し、5×10cells/mLとなるようにPBSに懸濁した。これに蛍光色素BODIPYを50μMとなるように添加して暗所に5分間置いて細胞内油滴を蛍光染色した。個々の細胞のBODIPY及びクロロフィルの自家蛍光(細胞サイズの指標として標準化に利用)の強度をFACS(SONY社製 SH800)で解析し、クロロフィル自家蛍光あたりのBODIPY蛍光が高い細胞(上位1.5〜0.5%)を分取した。蛍光の検出に使用したフィルターセットを下記に示す。分取後の細胞は下記培養条件にて、培地をTAP培地に変更して細胞が十分増殖するまで回復培養した。増殖した細胞を適量継代して前培養を実施し、上記の手順による分取操作を計5回繰り返した(寒天培地から播種→前培養→本培養→FACSで分取→回復培養→前培養→・・・)。5回目の分取操作の後、細胞をTAP寒天培地に播種し、光強度50μmol photons/m/sの昼白色蛍光灯下でコロニーを形成するまで静置培養した。
【0051】
(培養条件)
2段式フラスコを使用
培地:70mL MB12N+2%sea salt
CO:2%CO
光:100 μmol photons/m/s 蛍光灯
温度:30℃
撹拌:100rpm
【0052】
(FACS解析条件)
BODIPY蛍光:励起:488nmレーザー
蛍光:PEフィルター(570nm〜630nm)
クロロフィル蛍光:励起:488nmレーザー
蛍光:PerCP−Cy5.5フィルター(690nm〜750nm)
【0053】
(3)二次スクリーニング
マイクロウェルプレートで候補株を培養し、細胞から油脂を抽出してガスクロマトグラフィー質量分析(gas chromatography−mass spectrometry,GC−MS)で解析することで、窒素源存在条件におけるオイル高蓄積藻類株の二次スクリーニングを実施した。
【0054】
一次スクリーニングで獲得した候補変異株の藻体を寒天培地から適量取り、下記条件にて3日間の前培養を実施した。OD750が0.1となるように継代し、下記条件にてさらに3日間の本培養を実施した。培養後、各ウェルから2mLの培養液を回収し、後述する「バイオマスの測定」、及び「油脂の測定」の手順に従い油脂含有率を測定した。最終的に窒素源存在条件での培養によってオイルを高蓄積する変異株としてKAC1710を取得した。
【0055】
(培養条件)
12ウェルプレートを使用
培地:2.5mL MB12N+2%sea salt
CO:2%CO
光:100μmol photons/m/s 白色LED
温度:30℃
撹拌:100rpm
【0056】
上記(1)〜(3)の工程をKAC1710株を親株として実施し、最終的に窒素源存在条件での培養によってオイルを高蓄積する変異株としてKAC1801を取得した。
【0057】
2.オイル高蓄積藻類株の評価
(1)オイル高蓄積藻類株の評価に向けた培養
変異育種により獲得した各オイル高蓄積藻類株KACは、本項に示す共通の培養条件にて培養し、下記の方法により評価した。
【0058】
寒天培地から藻体を適量取り、下記条件にて3日間の前々培養を実施した。OD750が0.04となるように継代し、さらに下記条件にて3日間の前培養を実施した。OD750が0.04となるように継代し、下記条件にてさらに14日間の本培養を実施した。
【0059】
(培養条件)
2段式フラスコを使用
培地:MB12N+2% sea salt
CO:2%CO
光:250μmol photons/m/s 昼白色蛍光灯
温度:30℃
撹拌:100rpm
【0060】
(2)電子顕微鏡解析
細胞における油滴の観察には、化学固定法と樹脂包埋超薄切片法を組み合わせた電子顕微鏡解析を利用した。解析には上記手順(1)で準備した本培養4日目のKOR1、KAC1710、KAC1801細胞を用いた。培養後の細胞を固定液(2%パラホルムアルデヒド、2%グルタルアルデヒド、50mMカコジル酸バッファーpH=7.4)に懸濁し、4℃に終夜置くことで固定した。各細胞の電子顕微鏡写真を図1に示す。なお、本培養4日目の培地中には窒素が残存しており、窒素栄養環境は充足している状態である。
【0061】
図1に示すとおり、本培養4日目、培地中に窒素源が十分残存している条件においては、親株であるKOR1では油滴がほとんど見られないのに対して、KAC1710では油滴の出現が確認できた。また、KAC1801ではKAC1710よりも多くの油滴の蓄積が見られた。
【0062】
(3)窒素源の測定
上記オイル高蓄積藻類株の評価に向けた培養実験で使用したMB12N+2%sea salt培地に含まれる窒素源は硝酸ナトリウム(NaNO)のみであり、MB6N+2%sea salt培地の2倍の硝酸ナトリウムを含む。硝酸ナトリウムは波長220nmの光をよく吸収するため、培地中に含まれる硝酸ナトリウム量の測定では波長220nmにおける光学密度(OD220)を指標とした。遠心分離操作によって細胞を除去することで培養液上清を準備した。培養液上清を蒸留水で適度に希釈し、OD220を測定した。濃度既知の硝酸ナトリウムを含むMB12N培地を用いて検量線を作成し、これをもとに培養液上清中に含まれる硝酸ナトリウム濃度を算出した。
【0063】
図2に示すとおり、培養液上清中に含まれる硝酸ナトリウムは、KOR1では培養6日目までに完全に消費された。また、KAC1710では培養8日目までに完全に消費された。一方、KAC1801では、培養8日目ごろまでは培養液上清中の硝酸ナトリウム濃度が減少したものの、それ以降少なくとも13日目までは一定の濃度レベルの硝酸ナトリウムが維持されていた。
【0064】
(4)バイオマスの測定
バイオマス量は細胞の乾燥重量を指標とした。上記オイル高蓄積藻類株の評価に向けた培養実験にて培養した細胞を秤量済みマイクロチューブに必要量回収し、蒸留水で1回洗浄してから終夜凍結乾燥した。乾燥後、再度マイクロチューブの重量を測定し、空のマイクロチューブ重量を減算することで回収した細胞の乾燥重量(mg)を求めた。さらにこれを測定に使用した培養液量で除算することで培養液中に含まれるバイオマス量(g/L)を求めた。結果を図3に示す。なお、秤量後、乾燥藻体は後述する油脂の測定に用いた。
【0065】
図3に示すとおり、バイオマス量は、親株であるKOR1が他の2株よりもやや多い状態で推移した。硝酸ナトリウムが枯渇した培養6日目までは親株であるKOR1と同程度で推移した。KAC1710とKAC1801とでは有意な差は見られなかった。
【0066】
(5)油脂の測定
油脂の測定には上記バイオマスの測定実験で準備した乾燥藻体を用いた。約3mgの乾燥藻体を破砕専用マイクロチューブに秤量して測定に供した。0.5mm径ガラスビーズをマイクロチューブに加えてマルチビーズショッカー装置により細胞を破砕した。細胞中の油脂を脂肪酸メチル化キット(ナカライ社製)を用いてメチル化し、それによって生成した脂肪酸メチルエステルをガスクロマトグラフ質量分析(gas chromatography−mass spectrometry,GC−MS)により定量した。Day3〜day6までの、各株の乾燥藻体当たりの油脂含有率の結果を図4に示す。また、培養液当たりの油脂(オイル)生産量(mg/L)、及び各培養期間における油脂(オイル)生産速度(mg/L/day(日))をそれぞれ図5及び6に示す。
【0067】
図4に示すとおり、乾燥藻体における油脂含有率は、親株であるKOR1では、day4までは10%未満と非常に低い値であり、窒素源の枯渇が始まるday5、完全に窒素源が枯渇するday6になると10〜15%前後まで上昇した。それに対してKAC1710とKAC1801においては、day3ですでに10%を超えており、day4においては、すでにKOR1で最も高い含有率となるday6での値を超えていた。その後day5、day6と油脂含有率は顕著に増加した。特にKAC1801においては、day5、day6での油脂含有率の伸びは著しかった。また、図5に示すとおり、親株であるKOR1に比べて、KAC1710とKAC1801の培養液当たりの油脂生産量が顕著に高いことが示された。さらに、図6に示すとおり、day3〜day5の培養期間における油脂生産速度については、KAC1801が、他の2株と比較して顕著に高い値となった。即ち、KAC1801を使用して油脂を生産する場合には、本実験におけるday3〜day5の培養条件を維持することが好ましいことと解釈される。
【0068】
3.半連続培養による油脂生産培養方法
本発明の窒素充足条件下オイル高蓄積藻類株を用いて、効率的に油脂を生産する方法について検討する。即ち、寒天培地からKOR1株及びKAC1801株を適量取り、下記条件にて3日間の前々培養を実施する。OD750が0.04となるように継代し、さらに下記条件にて3日間の前培養を実施する。OD750が0.04となるように継代し、下記条件にてさらに14日間の本培養を実施する。14日間の本培養の際、5日目、7日目、9日目に藻体を部分的に収穫すると共に、窒素を含む新しい培地を補充する。上述の方法により、バイオマス及び硝酸ナトリウム濃度の経時変化を確認することができる。
【0069】
(培養条件)
2段式フラスコを使用した。
培地:MB12N+2% sea salt
CO:2%CO
光:250μmol photons/m/s 昼白色蛍光灯
温度:30℃
撹拌:100rpm
【0070】
本発明の窒素源存在条件下オイル高蓄積藻類株を用いると、窒素源含有培地を補充しながら培養を連続的に行うことで、細胞の状態を良好に保ちながら、より多くの油脂を効率的に生産することが期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明のオイル高蓄積藻類株は、窒素源が存在する条件においても油脂を高蓄積することが可能であるため、栄養源が補充されることで生育速度を低下させることなく油脂生産を実施することができる。そのため、本発明の窒素源存在条件下オイル高蓄積藻類株によると、油脂生産の効率をより高くすることが可能である。さらに、窒素源枯渇条件では、栄養源の枯渇により細胞の状態が悪化し、日和見感染リスクが増大するところ、窒素源が存在する条件においても油脂を高蓄積することが可能な本発明の藻株においては、栄養源を枯渇させる必要がないため、上記リスクを低減することも可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6