【解決手段】複層摺動部材1は、鋼板からなる裏金2と、裏金2の一方の表面3に形成された銅メッキ又はニッケルメッキの皮膜4と、皮膜4を介して裏金2の表面3に一体的に接合された多孔質金属焼結層5と、多孔質金属焼結層5の孔隙6を充填しかつ多孔質金属焼結層5の表面7を被覆した被覆層8とを含んでおり、被覆層8は、主成分としての100質量部のPA11又はPA12と、添加剤としての1〜15質量部のTLCPと1〜15質量部のリン酸塩と0.1〜10質量部のワックスとを含んでおり、斯かる被覆層8は、PA11又はPA12をマトリックスとし、このマトリックスにTLCP、リン酸塩及びワックスが分散した構造を有している。
裏金と、この裏金の一方の表面に一体的に接合された多孔質金属焼結層と、この多孔質金属焼結層の孔隙に充填されかつ当該多孔質金属焼結層の表面を被覆した被覆層とを有しており、被覆層は、主成分の100質量部のポリアミド11又はポリアミド12に加えて、添加剤として1〜15質量部のサーモトロピック型の液晶高分子と1〜15質量部のリン酸塩と0.1〜10質量部のワックスとを分散含有する複層摺動部材。
サーモトロピック型の液晶高分子は、全芳香族ポリエステル樹脂、脂肪鎖含有芳香族ポリエステル樹脂及び芳香族ポリエステルアミド樹脂のうちのいずれか一つから選択される請求項1に記載の複層摺動部材。
リン酸塩は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のオルトリン酸塩、ピロリン酸塩及びメタリン酸塩の群のうちのいずれか一つから選択される請求項1又は2に記載の複層摺動部材。
リン酸塩は、リン酸三リチウム、リン酸三カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸水素マグネシウム、ピロリン酸リチウム、ピロリン酸カルシウム、ピロリン酸マグネシウム、メタリン酸リチウム、メタリン酸カルシウム及びメタリン酸マグネシウムのうちのいずれか一つから選択される請求項3に記載の複層摺動部材。
脂肪酸アマイドは、飽和又は不飽和脂肪酸モノアマイド化合物、N−置換脂肪酸アマイド化合物、飽和又は不飽和脂肪酸ビスアマイド化合物及びN−メチロール脂肪酸アマイド化合物のうちのいずれか一つから選択される請求項5に記載の複層摺動部材。
円筒状の内周面を有したギアボックスと、このギアボックスに回転自在に支持されたピニオンと、このピニオンに噛み合うラック歯を有するラック軸と、このラック軸を摺動自在に支持するラックガイドと、このラックガイドをラック軸に向かって押圧する弾性手段とを具備しており、ラックガイドは、ギアボックスの円筒状の内周面に摺動自在に接する円筒状の外周面を有したラックガイド基体と、請求項1から6のいずれか一項に記載の複層摺動部材からなる摺動片とを具備しており、摺動片は、ラックガイド基体に裏金側で固着されており、被覆層は、ラック軸の外周面に摺動自在に接触してラック軸を摺動自在に支持する凹面からなる摺動面を有しているラックピニオン式舵取装置。
ラックガイド基体は、摺動片を支持する円弧状凹面からなる支持面と、この支持面の底部中央に配された嵌合孔とを具備している請求項7に記載のラックピニオン式舵取装置。
摺動片は、ラック軸を支持する円弧状凹面からなる摺動面と、裏金に設けられていると共にラックガイド基体の支持面の円弧状凹面に相補的な形状の円弧状凸面からなる固定面と、この固定面の中央に配された有底円筒状の中空突出部とを具備している請求項8に記載のラックピニオン式舵取装置。
ラックガイド基体は、互いに対面する一対の平坦面、この一対の平坦面の夫々から一体的に伸びる一対の傾斜面及び一対の平坦面を橋絡した底平坦面を有した凹面からなると共に摺動片を支持する支持面と、底平坦面の中央に配された嵌合孔とを具備している請求項7に記載のラックピニオン式舵取装置。
摺動片の凹面からなる摺動面は、互いに対面する一対の平坦面部、この一対の平坦面部の夫々から一体的に伸びる一対の傾斜面部及び一対の平坦面部を橋絡した底平坦面部からなり、摺動片は、底平坦面部の中央に配された有底円筒状の中空突出部を具備している請求項10に記載のラックピニオン式舵取装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これら複層摺動部材をラックガイド(特許文献4及び特許文献5所載)に適用した場合、四ふっ化エチレン樹脂を被覆層とした複層摺動部材では、面圧が100kgf/cm
2を超える荷重条件下での使用において耐摩耗性が著しく低下し、またポリアセタール樹脂を被覆層とした複層摺動部材では、面圧が150kgf/cm
2を超える荷重条件下での使用において耐摩耗性が著しく低下するという欠点がある。
【0006】
上記欠点を無くすべく、高荷重条件下での使用においても優れた耐摩耗性を発揮する複層摺動部材が提案されている(特許文献6所載)。この特許文献6所載の複層摺動部材における被覆層は、少なくともナイロン11又はナイロン12を含んでおり、荷重(面圧)が150kgf/cm
2を超える高荷重条件下での使用においても優れた耐摩耗性を発揮し、被覆層に四ふっ化エチレン樹脂又はポリアセタール樹脂を使用した複層摺動部材の欠点を無くすものであった。
【0007】
しかしながら、この複層摺動部材を往復摺動用途、例えば自動車のラックピニオン式舵取装置におけるラックガイド(特許文献4及び特許文献5所載)に適用した場合、ステアリングの切り出しによりラックガイドに支持されたラック軸が摺動を開始しようとしたときの静摩擦による摺動抵抗がラック軸に作用し、その分ピニオンの回転トルクが増大される一方、ラック軸が移動し出して静摩擦状態から動摩擦状態に移行した際には摺動トルクの低下、即ち、トルク抜けが発生するという現象が現れる。このステアリングの切り始めに発生するピニオンの回転トルクの増大及びトルク抜けによる摺動トルクの低下、換言すれば、ラック軸とラック軸を支持するラックガイドとの間に生じる静摩擦力と動摩擦力との差の大小は、運転者の舵取操作に反映され、円滑な操舵感が確保されるか否かに影響を与える。
【0008】
本発明は、前記諸点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、静摩擦力と動摩擦力との差が極めて小さい被覆層を備えた複層摺動部材及び円滑な操舵感を確保できるラックピニオン式舵取装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の複層摺動部材は、裏金と、この裏金の一方の表面に一体的に接合された多孔質金属焼結層と、この多孔質金属焼結層の孔隙に充填されかつ当該多孔質金属焼結層の表面を被覆した被覆層とを有しており、被覆層は、主成分のポリアミド11(以下、PA11と略称する)又はポリアミド12(以下、PA12と略称する)100質量部に、添加剤としてサーモトロピック型の液晶高分子(以下、TLCPと略称する)1〜15質量部とリン酸塩1〜15質量部とワックス0.1〜10質量部とを分散含有している。
【0010】
本発明によれば、被覆層は、主成分のPA11又はPA12をマトリックスとし、このマトリックスに添加剤としてTLCPとリン酸塩とワックスとを分散含有しているので、静摩擦力と動摩擦力との差が極めて小さく、低摩擦性及び耐摩耗性が優れた複層摺動部材を提供できる。
【0011】
本発明の複層摺動部材において、好ましい例では、TLCPは、芳香族ポリエステル系樹脂(液晶ポリエステル)であり、リン酸塩は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のオルトリン酸塩、ピロリン酸塩及びメタリン酸塩の群のうちのいずれか一つから選択されてもよく、斯かるリン酸塩は、リン酸三リチウム、リン酸三カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸水素マグネシウム、ピロリン酸リチウム、ピロリン酸カルシウム、ピロリン酸マグネシウム、メタリン酸リチウム、メタリン酸カルシウム及びメタリン酸マグネシウムのうちのいずれか一つから選択されてもよく、ワックスは、脂肪酸アマイドであってもよく、斯かる脂肪酸アマイドは、飽和又は不飽和脂肪酸モノアマイド化合物、N−置換脂肪酸アマイド化合物、飽和又は不飽和脂肪酸ビスアマイド化合物及びN−メチロール脂肪酸アマイド化合物のうちのいずれか一つから選択される。
【0012】
本発明のラックピニオン式舵取装置は、円筒状の内周面を有したギアボックスと、このギアボックスに回転自在に支持されたピニオンと、このピニオンに噛み合うラック歯を備えたラック軸と、このラック軸を摺動自在に支持するラックガイドと、このラックガイドをラック軸に向かって押圧する弾性手段とを具備しており、ラックガイドは、ギアボックスの円筒状の内周面に摺動自在に接する円筒状の外周面を有したラックガイド基体と、前記複層摺動部材からなる摺動片とを具備しており、摺動片は、ラックガイド基体に裏金側で固着されており、被覆層は、ラック軸の外周面に摺動自在に接触してラック軸を摺動自在に支持する凹面からなる摺動面を有している。
【0013】
本発明において、ラックガイド基体は、摺動片を支持する円弧状凹面からなる支持面と、この支持面の底部中央に配された嵌合孔とを具備していてもよく、この場合、摺動片は、ラック軸を支持する円弧状凹面からなる摺動面と、裏金に設けられていると共にラックガイド基体の支持面の円弧状凹面に相補的な形状の円弧状凸面からなる固定面と、この固定面の中央に配された有底円筒状の中空突出部とを具備していてもよい。
【0014】
斯かるラックガイド基体と摺動片とを具備した本発明の好ましい例のラックピニオン式舵取装置では、ラックガイド基体の円弧状凹面からなる支持面に、円弧状凹面からなる摺動面を備えた複層摺動部材からなる摺動片が、当該支持面に相補的な形状をもった固定面に配された有底円筒状の中空突出部をラックガイド基体の嵌合孔に嵌合させて着座せしめられて、当該摺動片がラックガイド基体に固着されている。
【0015】
本発明において、ラックガイド基体は、互いに対面する一対の平坦面、一対の平坦面の夫々から一体的に伸びる一対の傾斜面及び一対の平坦面を橋絡した底平坦面を有した凹面からなると共に摺動片を支持する支持面と、底部中央に配された嵌合孔とを具備していてもよく、この場合、摺動片の摺動面の凹面は、互いに対面する一対の平坦面部、この一対の平坦面部の夫々から一体的に伸びる一対の傾斜面部及び一対の平坦面部を橋絡した底平坦面部からなり、摺動片は、底平坦面部の中央に配された有底円筒状の中空突出部を具備していてもよい。
【0016】
斯かるラックガイド基体と摺動片とを具備した本発明の好ましい例のラックピニオン式舵取装置では、ラックガイド基体の凹面には、摺動片が、有底円筒状の中空突出部を嵌合孔に嵌合させて着座せしめられて、当該摺動片がラックガイド基体に固着されている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、静摩擦力と動摩擦力との差が極めて小さく低摩擦性に優れていると共に耐摩耗性を有する被覆層を備えた複層摺動部材及び円滑な操舵感を確保できるラックピニオン式舵取装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明及びその実施の形態を詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施の形態に何等限定されないのである。
【0020】
本発明の好ましい一例の複層摺動部材1は、
図1に示すように、鋼板からなる裏金2と、裏金2の一方の表面3に形成された銅メッキ又はニッケルメッキの皮膜4と、皮膜4を介して裏金2の表面3に一体的に接合された多孔質金属焼結層5と、多孔質金属焼結層5の孔隙6を充填しかつ多孔質金属焼結層5の表面7を被覆した被覆層8とを含んでおり、被覆層8は、主成分としての100質量部のPA11又はPA12と、添加剤としての1〜15質量部のTLCPと1〜15質量部のリン酸塩と0.1〜10質量部のワックスとを含んでおり、斯かる被覆層8は、PA11又はPA12をマトリックスとし、このマトリックスにTLCP、リン酸塩及びワックスが分散した構造を有している。
【0021】
本発明の複層摺動部材1の被覆層8において、主成分をなすPA11又はPA12は
、耐摩耗性、耐熱性、耐衝撃性及び耐薬品性に優れていると共に吸水率が低く、吸水による寸法や機械的強度の変化が少ないという利点を有している。PA11の具体例としては、アルケマ社製の「リルサン(Rilsan)」(商品名)が挙げられ、PA12の具体例としては、ダイセル・エボニック社製の「ダイアミド」(商品名)が挙げられる。
【0022】
PA11又はPA12に配合されるTLCPは、加熱溶融することによって、液晶(結晶と液体の中間状態のうち、分子方向に何らかの秩序は保っているものの、3次元的な位置の秩序を失った状態の物質)になる高分子であり、p−ヒドロキシ安息香酸などを基本構造とし、それのみによる単独重合体及び各種成分と直鎖状にエステル結合させて合成した共重合体である芳香族ポリエステル系樹脂(液晶ポリエステル)のことである。この芳香族ポリエステル系樹脂には、全芳香族ポリエステル樹脂、脂肪鎖含有芳香族ポリエステル樹脂及び芳香族ポリエステルアミド樹脂などが含まれ、TLCPとしては、p−ヒドロキシ安息香酸の単量体並びにp−ヒドロキシ安息香酸とジオール(ジヒドロキシビフェニルなどの芳香族ジオール、エチレングリコールなどのC
2−
6アルカンジオールなど)、芳香族ジカルボン酸(テレフタル酸など)及び芳香族ヒドロキシカルボン酸(オキシナフトエ酸など)から選択された少なくとも一種の単量体との共重合体などを例示できる。これらのうち、TLCPとしては、全芳香族ポリエステル樹脂が好ましい。
【0023】
TLCPとして、具体的には、下記(I)式で表される反復単位を持ったp−ヒドロキシ安息香酸の単独重合体である全芳香族ポリエステル樹脂(オキシベンゾイルポリエステル)〔例えば、住友化学工業社製の「スミカスーパーE101(商品名)」など〕、下記(II)式で表されるp−ヒドロキシ安息香酸と6−ヒドロキシ2−ナフタレンカルボン酸とを構成単位とする全芳香族ポリエステル樹脂(例えば、ポリプラスチックス社製の「ベクトラ(商品名)」など)、下記(III)式で表されるp−ヒドロキシ安息香酸と4、4′−ジヒドロキシビフェニルとテレフタル酸とを構成単位とする全芳香族ポリエステル樹脂(例えば、住友化学工業社製の「スミカスーパー(商品名)」及びJXTGエネルギー社製の「ザイダー:Xydar(商品名)」など)、下記(IV)式で表されるp−ヒドロキシ安息香酸とポリエチレンテレフタレートとを構成単位とする脂肪鎖含有芳香族ポリエステル樹脂(半芳香族ポリエステル樹脂:例えば、ユニチカ社製の「ロッドラン(商品名)」など)などを例示できる。
【0028】
TLCPは、主成分としてのPA11又はPA12に配合されて、特に被覆層の低摩擦性を助長する。TLCPの配合量は、100質量部のPA11又はPA12に対して1〜15質量部、好ましくは5〜10質量部である。100質量部のPA11又はPA12に対して、TLCPの配合量が、1質量部未満では、被覆層の低摩擦性を十分助長させることができず、また15質量部を超えて配合すると、被覆層内に占めるTLCPの割合が高くなり、却って被覆層の低摩擦性を損なう虞がある。
【0029】
本発明の複層摺動部材1において、被覆層8の構成成分の一つであるリン酸塩としては、オルトリン酸、ピロリン酸及びメタリン酸等の金属塩並びにこれらの混合物を挙げることができ、中でも、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のオルトリン酸塩(特に第二リン酸塩、第三リン酸塩)、ピロリン酸塩及びメタリン酸塩が好ましい。アルカリ金属及びアルカリ土類金属としては、特に、リチウム、カルシウム及びマグネシウムが好ましい。具体的には、リン酸三リチウム、リン酸三カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸水素マグネシウム、ピロリン酸リチウム、ピロリン酸カルシウム、ピロリン酸マグネシウム、メタリン酸リチウム、メタリン酸カルシウム、メタリン酸マグネシウムなどを例示し得る。
【0030】
これらリン酸塩は、それ自体、黒鉛や二硫化モリブデンなどの固体潤滑剤のような潤滑性を示す物質ではないが、被覆層8に配合されることにより、被覆層と相手材との摺動において、相手材表面(摺動摩擦面)への被覆層8の構成成分による潤滑被膜の造膜性を助長する効果を発揮する。これらリン酸塩は、少量の配合で相手材表面への被覆層8の構成成分による潤滑被膜の造膜性を助長する効果が現れ始め、15質量部まで当該効果は維持されるが、15質量部を超えて配合すると、相手材表面への潤滑被膜の造膜量が多くなりすぎ、却って耐摩耗性を低下させる虞がある。リン酸塩の配合量は、100質量部のPA11又はPA12に対して1〜15質量部、好ましくは3〜10質量部である。
【0031】
本発明の複層摺動部材1において、被覆層8に配合されるワックスとしては、脂肪酸アマイドが挙げられる。脂肪酸アマイドは、分子内に、脂肪酸基(水素原子を含んでいてもよい炭素数4以上の脂肪族アシル基)を有し、かつアミド基を有する化合物である。脂肪酸アマイドとしては、例えば、一般式R
1−CONH
2(式中、R
1は酸素原子を含んでいてもよい炭素数3以上の脂肪族炭化水素基を表す)で表される飽和又は不飽和脂肪酸モノアマイド化合物、一般式R
1−CONH−R
2(式中、R
1は酸素原子を含んでいてもよい炭素数3以上の脂肪族炭化水素基を表し、R
2はヘテロ原子を含んでいてもよい炭化水素基を表す)で表されるN−置換脂肪酸アマイド化合物、一般式R
1−CONH−R
3−NHCO−R
4(式中、R
1及びR
4はそれぞれ独立して、酸素原子を含んでいてもよい炭素数3以上の脂肪族炭化水素基を表し、R
3はヘテロ原子を含んでいてもよい炭化水素2価基を表す)又は一般式 R
5−NHCO−R
6−CONH−R
7(式中、R
5及びR
7はそれぞれ独立して、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数3以上の炭化水素基を表し、R
6は酸素原子を含んでいてもよい炭素数2以上の脂肪族炭化水素2価基を表す)で表される飽和又は不飽和脂肪酸ビスアマイド化合物、一般式 R
1−CONHCH
2OH(式中、R
1は酸素原子を含んでいてもよい炭素数3以上の脂肪族炭化水素基を表す)で表されるN−メチロール脂肪酸アマイド化合物などが挙げられる。
【0032】
飽和脂肪酸モノアマイド化合物としては、ラウリン酸アマイド、パルチミン酸アマイド、ステアリン酸アマイド、ヒドロキシステアリン酸アマイド及びベヘン酸アマイドなどが挙げられ、不飽和脂肪酸モノアマイド化合物としては、オレイン酸アマイド及びエルカ酸アマイドなどが挙げられる。
【0033】
これら飽和又は不飽和脂肪酸モノアマイド化合物の具体例としては、ラウリン酸アマイド(融点87℃:三菱ケミカル社製の「ダイヤミッドY」)、パルチミン酸アマイド(融点100℃:三菱ケミカル社製の「ダイヤミッドKP」)、ステアリン酸アマイド(融点101℃:三菱ケミカル社製の「アマイドAP−1」、「ダイヤミッド200」、融点99〜105℃:日本精化製の「ニュートロン−2」、融点100〜105℃:日油社製の「アルフローS−10」、融点100〜105℃:花王社製の「脂肪酸アマイドS」、融点97〜102℃:花王社製の「脂肪酸アマイドT」)、ヒドロキシステアリン酸アマイド(融点107℃:三菱ケミカル社製の「ダイヤミッドKH」)、ベヘン酸アマイド(融点108〜113℃:東京化成工業社製)、オレイン酸アマイド(融点72〜76℃:日油社製の「アルフローE−10」、融点75℃:三菱ケミカル社製の「ダイヤミッドO−200」、融点70〜75℃:花王社製の「脂肪酸アマイドO−N」)、エルカ酸アマイド(融点81℃:三菱ケミカル社製の「ダイヤミッドL−200」、融点79〜85℃:花王社製の「脂肪酸アマイドE」)などが挙げられる。
【0034】
N−置換脂肪酸アマイド化合物としては、N−ステアリルステアリン酸アマイド、N−ステアリルオレイン酸アマイド、N−オレイルステアリン酸アマイド及びN−ステアリルエルカ酸アマイド等が挙げられる。これらN−置換脂肪酸アマイド化合物の具体例としては、N−ステアリルステアリン酸アマイド(融点95℃:三菱ケミカル社製の「ニッカアマイドS」)、N−ステアリルオレイン酸アマイド(融点67℃:三菱ケミカル社製の「ニッカアマイドSO」)、N−オレイルステアリン酸アマイド(融点74℃:三菱ケミカル社製の「ニッカアマイドOS」)及びN−ステアリルエルカ酸アマイド(融点69℃:三菱ケミカル社製の「ニッカアマイドSE」)などが挙げられる。
【0035】
飽和脂肪酸ビスアマイド化合物としては、メチレンビスステアリン酸アマイド、エチレンビスカプリン酸アマイド、エチレンビスラウリン酸アマイド、エチレンビスステアリン酸アマイド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アマイド、エチレンビスベヘン酸アマイド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アマイド、ヘキサメチレンビスベヘン酸アマイド、ヘキサメチレンビスヒドロキシステアリン酸アマイド、N、N′−ジステアリルアジピン酸アマイドなどが挙げられ、不飽和脂肪酸ビスアマイド化合物としては、エチレンビスオレイン酸アマイド、エチレンビスエルカ酸アマイド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アマイド、N、N′−ジオレイルアジピン酸アマイド及びN、N′−ジオレイルセバシン酸アマイドなどが挙げられる。
【0036】
これら飽和又は不飽和脂肪酸ビスアマイド化合物の具体例としては、メチレンビスステアリン酸アマイド(融点142℃:三菱ケミカル社製の「ビスアマイドLA」、融点142℃:三菱ケミカル社製の「ダイヤミッド200ビスLA」)、エチレンビスカプリン酸アマイド(融点161℃:三菱ケミカル社製の「スリパックスC」)、エチレンビスラウリン酸アマイド(融点157℃:三菱ケミカル社製の「スリパックスL」)、エチレンビスステアリン酸アマイド(融点145℃:三菱ケミカル社製の「スリパックスE」、融点141.5〜146.5℃:花王社製の「カオーワックスEB−G」、「カオーワックスEB−P」、「カオーワックスEB−FF」)、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アマイド(融点145℃:三菱ケミカル社製の「スリパックスH」)、エチレンビスベヘン酸アマイド(融点142℃:三菱ケミカル社製の「スリパックスB」)、ヘキサメチレンビスステアリン酸アマイド(融点140℃:三菱ケミカル社製の「スリパックスZHS」)、ヘキサメチレンビスベヘン酸アマイド(融点142℃:三菱ケミカル社製の「スリパックスZHB」)、ヘキサメチレンビスヒドロキシステアリン酸アマイド(融点135℃:三菱ケミカル社製の「スリパックスZHH」)、N、N′−ジステアリルアジピン酸アマイド(融点141℃:三菱ケミカル社製の「スリパックスZSA」)、エチレンビスオレイン酸アマイド(融点119℃:三菱ケミカル社製の「スリパックスO」)、エチレンビスエルカ酸アマイド(融点120℃:三菱ケミカル社製の「スリパックスR」)、ヘキサメチレンビスオレイン酸アマイド(融点110℃:三菱ケミカル社製の「スリパックスZHO」)、N、N′−ジオレイルアジピン酸アマイド(融点118℃:三菱ケミカル社製の「スリパックスZOA」)及びN、N′−ジオレイルセバシン酸アマイド(融点113℃:三菱ケミカル社製の「スリパックスZOS」)などが挙げられる。
【0037】
N−メチロール脂肪酸アマイド化合物としては、メチロールステアリン酸アマイドなどが挙げられ、具体例としては、融点110℃を示す三菱ケミカル社製の「メチロールアマイド」などが挙げられる。
【0038】
ワックスとしての脂肪酸アマイドとしては、100〜150℃の融点をもつ化合物が好ましい。中でも、ステアリン酸アマイド、ヒドロキシステアリン酸アマイド、エチレンビスステアリン酸アマイド及びメチロールステアリン酸アマイドがマトリックスのPA11又はPA12への良好な分散性を示すことから好ましい。
【0039】
ワックスは、被覆層8に配合されることにより、被覆層8の低摩擦性を向上させる役割を果たす。ワックスの配合量は、100質量部のPA11又はPA12に対して0.1〜10質量部、好ましくは3〜8質量部である。ワックスの配合量が0.1質量部未満では、被覆層8の低摩擦性の向上の効果は十分発揮されず、また配合量が10質量部を超えると被覆層8の成形性を悪化させる虞がある。
【0040】
次に、本発明の複層摺動部材1の製造方法について説明する。
【0041】
裏金2としての鋼板は、JISG3101に規定されている一般構造用圧延鋼板(SS400等)又はJISG3141に規定されている冷間圧延鋼板(SPCC等)が使用される。鋼板は、コイル状に巻いてフープ材として提供される連続条片を使用することが好ましいが、必ずしも連続条片に限らず、適当な長さに切断した条片を使用することもできる。これらの条片には、必要に応じて銅メッキ(カッパータイト)又はニッケルメッキ(ニッケルトップ)などの皮膜4を施してもよい。皮膜4の厚さは、概ね2〜10μmであることが好ましい。裏金2の表面3に施される銅メッキ又はニッケルメッキなどの皮膜4によって、多孔質金属焼結層5の裏金2の表面3への接合強度を高めることができると共に裏金2の耐食性を向上させることができる。裏金2の厚さは、概ね0.5〜1.5mmである。
【0042】
裏金2の一方の表面3に一体的に接合される多孔質金属焼結層5を形成する金属粉末には、その金属自体、摩擦摩耗特性に優れた青銅、鉛青銅又はリン青銅などの、概ね100メッシュを通過する銅合金粉末が用いられるが、目的に応じて銅合金粉末以外の、例えばアルミニウム合金又は鉄などの金属粉末も使用し得る。金属粉末の粒子形態は、塊状、球状又は不規則形状のものを使用し得る。多孔質金属焼結層5は、合金粉末同士及び裏金2と強固に結合されていて、一定の厚さと必要とする多孔度を備えていなければならない。多孔質金属焼結層5の厚さは、概ね0.15〜0.40mm、多孔度は、概ね10容積%以上であることが推奨される。
【0043】
本発明の複層摺動部材1は、製造工程(a)〜(d)を経て製造される。
【0044】
(a)工程 主成分のPA11又はPA12に加えて、添加剤としてのTLCP、リン酸塩及びワックスをそれぞれ所定量計量し、これらを混合機で混合して混合物を作製する。
【0045】
(b)工程 コイル状に巻いたフープ材として供給される多孔質金属焼結層5を一体的に接合した裏金2を案内ローラによって前方に送り、裏金2の多孔質金属焼結層5の表面上に前記混合物を散布供給し、レベラーにて多孔質金属焼結層5の表面に一様な厚さの混合物を形成する。
【0046】
(c)工程 多孔質金属焼結層5の表面に一様な厚さの混合物を備えた裏金2をPA11の融点(187℃)又はPA12の融点(179℃)以上の温度に加熱された加熱炉に導入してこの加熱炉内に数分間保持し、ついで一対のヒートローラ間に通して混合物を多孔質金属焼結層5の孔隙に充填すると共に該多孔質金属焼結層5の表面に混合物の被覆層8を形成する。
【0047】
(d)ついで、混合物の被覆層8が形成された裏金2を自然冷却又は冷水噴霧などによる冷却装置を通過させることにより、裏金2を室温にまで冷却した後、必要に応じて矯正ローラ処理を施して寸法調整し、複層摺動部材1とする。
【0048】
(a)〜(d)の工程を経て得られた複層摺動部材1において、多孔質金属焼結層5の厚さは0.10〜0.40mm、多孔質金属焼結層5の表面に形成された被覆層8の厚さは0.05〜0.20mmとされる。このようにして得られた複層摺動部材1は、適宜の寸法に切断して平板状の摺動板の形態として又は丸曲げして円筒状の巻きブッシュの形態として使用される。
【0049】
上記製造工程を経て得られた複層摺動部材1において、被覆層8は、主成分のPA11又はPA12をマトリックスとし、このマトリックスに添加剤としてのTLCP、リン酸塩及びワックスが分散した構造を有しており、被覆層8は、添加剤のリン酸塩の作用により相手材の表面に潤滑被膜を形成すると共にTLCP及びワックスの作用により静摩擦力と動摩擦力の差が極めて小さい低摩擦性を発揮して円滑な摺動を行うことができる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の例において、複層摺動部材の摺動特性は、次の往復動摺動試験により評価した。
【0051】
<往復動摺動試験>
試験方法:表1に記載の条件で、半径10.0mm、長さ20.0mm、厚さ1.05mmの円弧状の板状成形物(複層摺動部材)を固定し、相手材になる機械構造用炭素鋼製の円柱状の軸を当該板状成形物の表面に所定の荷重で押し付けながら、当該軸を板状成形物の表面に沿って往復動させ、板状成形物と円柱状の軸の間の静摩擦力、動摩擦力及び摩耗量を測定した。摩耗量については、耐久回数2万回終了後の板状成形物の被覆層の寸法変化量(μm)で示した。
【0052】
[表1]
すべり速度 3m/min
荷重 500kgf
ストローク 150mm
潤滑 試験前に摺動面に鉱油系グリース〔協同油脂社製の「ワンルーバーMO(商品名)」を塗布
相手材 機械構造用炭素鋼(S45C:JISG4051)
【0053】
以下の諸例において、PA11、PA12、TLCP、リン酸塩、ワックス及び四ふっ化エチレン樹脂は、以下に示す材料を使用した。
<PA>
(1)PA11 アルケマ社製の「リルサン(商品名)」
(2)PA12 ダイセル・エボニック社製の「ダイアミド(商品名)」
<TLCP>
(1)全芳香族ポリエステル樹脂(TLCP−1) 住友化学工業社製の「スミカスーパーE101(商品名)」
(2)全芳香族ポリエステル樹脂(TLCP−2) ポリプラスチックス社製の「ベクトラ(商品名)」
(3)全芳香族ポリエステル樹脂(TLCP−3) JXTGエネルギー社製の「ザイダー:Xydar(商品名)」
(4)脂肪鎖含有芳香族ポリエステル樹脂(TLCP−4) ユニチカ社製の「ロッドラン(商品名)」
<リン酸塩>
(1)ピロリン酸カルシウム
(2)メタリン酸マグネシウム
(3)メタリン酸カルシウム
<ワックス>
(1)ステアリン酸アマイド(三菱ケミカル社製の「アマイドAP−1(商品名)」)
(2)ヒドロキシステアリン酸アマイド(三菱ケミカル社製のダイヤミッドKH(商品名)」)
(3)エチレンビスステアリン酸アマイド(花王社製の「カオーワックスEB−FF(商品名)」)
(4)メチロールステアリン酸アマイド(三菱ケミカル社製の「メチロールアマイド(商品名)」)
<四ふっ化エチレン樹脂>
PTFE (ダイキン工業社製の「ポリフロンM−12(商品名)」)
<裏金>
表面に銅メッキによる皮膜を備えた厚さ0.70mmの鋼板からなる裏金と、当該裏金の一方の表面に一体的に接合された厚さ0.25mmの青銅合金からなる多孔質金属焼結層とを含む裏金
【0054】
実施例1〜16
表2から表5に示される主成分のPA11又はPA12に加えて、添加剤としてのTLCP、リン酸塩及びワックスをそれぞれ所定量計量し、これらを混合機で混合して混合物を得た。
【0055】
混合物を裏金の多孔質金属焼結層の表面に散布供給し、レベラーにて多孔質金属焼結層の表面に一様な厚さの混合物を形成した。
【0056】
多孔質金属焼結層の表面に一様な厚さの混合物を備えた裏金をPA11の融点(187℃)又はPA12の融点(179℃)以上の温度に加熱された加熱炉に導入して該加熱炉内に数分間保持し、ついで一対のヒートローラ間に通して混合物の成分を多孔質金属焼結層の孔隙に充填すると共に当該多孔質金属焼結層の表面に被覆層を形成した複層板を得た。ついで、複層板を自然冷却したのち、矯正ローラ処理を施して寸法調整し、被覆層の厚さが0.15mmの複層摺動部材を得た。
【0057】
矯正の終了した複層摺動部材を短冊状に切断し、被覆層を内側にして曲げ加工を施して、半径10.0mm、長さ20.0mm、厚さ1.05mmの円弧状の複層摺動部材試験片を作製した。
【0058】
比較例1〜4
表6に示される主成分のPA11又はPA12に加えて、添加剤としてのリン酸塩及び固体潤滑剤をそれぞれ所定量計量し、これらを混合機で混合して混合物を得た。当該混合物を裏金の多孔質金属焼結層の表面に散布供給し、レベラーにて多孔質金属焼結層の表面に一様な厚さの混合物を形成した。多孔質金属焼結層の表面に一様な厚さの混合物を備えた裏金をPA11の融点(187℃)又はPA12の融点(179℃)以上の温度に加熱された加熱炉に導入して該加熱炉内に数分間保持し、ついで一対のヒートローラ間に通して混合物の成分を多孔質金属焼結層の孔隙に充填すると共に当該多孔質金属焼結層の表面に混合物の被覆層を形成した複層板を得た。ついで、複層板を自然冷却したのち、矯正ローラ処理を施して寸法調整し、被覆層の厚さが0.15mmの複層摺動部材を得た。矯正の終了した複層摺動部材を短冊状に切断し、被覆層を内側にして曲げ加工を施して、半径10.0mm、長さ20.0mm、厚さ1.05mmの円弧状の複層摺動部材試験片を作製した。
【0059】
【表2】
【0060】
【表3】
【0061】
【表4】
【0062】
【表5】
【0063】
【表6】
【0064】
以上の試験結果から、実施例1から実施例16の複層摺動部材と比較例1から比較例4の複層摺動部材とを比較すると、実施例1から実施例16の複層摺動部材は、静摩擦力と動摩擦力との差が極めて小さく、また摩耗量も少なく、安定した摺動性能を有しているのに対し、比較例の複層摺動部材は、静摩擦力と動摩擦力の差が大きく、摩耗量も多く摺動性能に劣っていることが分かる。
【0065】
次に、上記した複層摺動部材を用いたラックガイドを含むラックピニオン式舵取装置について説明する。
【0066】
図2から
図5において、ラックピニオン式舵取装置10は、R方向に回転自在なピニオン11と、ピニオン11と噛み合うラック歯12を有すると共に方向Aに直動自在なラック軸13と、ピニオン11をR方向に回転自在に支持するギアボックス14と、ラック軸13を摺動自在に支持するラックガイド15と、ラックガイド15をラック軸13に向かって押圧する弾性手段16を具備している。
【0067】
ピニオン11が一体的に設けられたピニオン軸17は、ころがり軸受18及び18を介してギアボックス14にR方向に回転自在に支持されていると共に舵取操作によりR方向に回転されるようになっている。
【0068】
ピニオン11のR方向の回転によりピニオン11とラック歯12との噛み合いを介して摺動方向Aに直動されるラック軸13は、ラック歯12が設けられた面と反対の側に円弧状凸面からなる摺動面19を有している。
【0069】
ラック軸13が摺動方向Aに貫通しているギアボックス14は、ころがり軸受18及び18が取付けられたギアボックス本体20と、ギアボックス本体20に一体的に形成されていると共に円筒状の内周面21を有した円筒部22と、円筒部22の一端部にねじ部23を介して螺着された閉塞部材24とを具備しており、閉塞部材24は、当該閉塞部材24に螺着されたロックナット25により円筒部22に固定されている。
【0070】
ラックガイド15は、ラック軸13の摺動面19に摺動自在に接触すると共に円弧状凹面からなる摺動面26を有する円弧状の摺動片27と、摺動片27を摺動方向Aに対して直交する軸方向Bの一方の端面28で支持すると共に円筒状の外周面29を有したラックガイド基体30とを具備している。
【0071】
複層摺動部材1からなると共に被覆層8側を内側に丸曲げされた円弧状の摺動片27は、一方の面に円弧状凹面からなる摺動面26を有すると共に他方の面に円弧状凸面からなる固定面31を有する摺動片本体32と、摺動片本体32の固定面31に一体的に形成された円筒部33及び円筒部33の一方の端部に一体的に形成された底部34を有した有底円筒状の中空突出部35とを備えている。
【0072】
ギアボックス14の円筒部22に配されていると共にアルミニウム、アルミニウム合金又は焼結金属等から形成されてなると共に円筒状の外周面29を有したラックガイド基体30は、摺動片本体32を支持する円弧状凹面からなる支持面36及び支持面36に連なっている一対の平面視三日月状の平坦面37を有した軸方向Bの一方の端面28と、支持面36の中央部で開口すると共に摺動片27の有底円筒状の中空突出部35の円筒部33が締め代をもって嵌合される嵌合孔38及び一端で嵌合孔38に連通すると共に嵌合孔38よりも小さい径を有した小径孔39を具備した嵌合孔部40と、小径孔39に連通すると共にラックガイド基体30の軸方向Bの他方の端面41で開口した中空円柱部42と、支持面36の摺動方向Aの両縁部に支持面36に沿って一体的に設けられていると共に一様な高さをもった四個の突条部43とを具備している。
【0073】
摺動片27は、有底円筒状の中空突出部35の円筒部33を嵌合孔38に圧入嵌合せしめ、固定面31を支持面36に接触させると共に摺動片本体32の外周縁を突条部43に係合させて支持面36に保持固定されており、一方では、支持面36で開口し、他方では、中空円柱部42に連通していると共に摺動片27の有底円筒状の中空突出部35が嵌合されている嵌合孔部40を具備したラックガイド基体30とラックガイド基体30に嵌合保持された円弧状の摺動片27とを具備したラックガイド15において、摺動片本体32の摺動面26は、四個の突条部43の上面44よりもラック軸13の摺動面19側に位置している。
【0074】
ラックガイド基体30の支持面36に嵌合保持された摺動片27では、底部34が円筒部33の形状を保持する補強部の役割を果たしているので、中空突出部35は、ラックガイド基体30の嵌合孔38に長期にわたってしっかりと保持され、摺動片本体32は、ラックガイド基体30の四個の突条部43に係合しているので、ラックガイド基体30の支持面36に位置ずれなしにラックガイド基体30に保持されている。
【0075】
弾性手段16は、一方の端部では中空円柱部42を規定するラックガイド基体30の環状面45に接触する一方、他方の端部では閉塞部材24に接触し圧縮されてラックガイド基体30と閉塞部材24との間に配されたコイルばね71を具備しており、コイルばね71は、ラックガイド基体30を介して摺動片27の摺動面26をラック軸13の摺動面19に弾性的に押圧させている。
【0076】
ラックピニオン式舵取装置10に組み込まれるラックガイド15の他の例である
図6及び
図7に示すラックガイド15は、アルミニウム、アルミニウム合金又は焼結金属等から形成されてなると共に円筒状の外周面46を有したラックガイド基体47と、ラックガイド基体47に嵌合保持された摺動片48とを具備している。
【0077】
ラックガイド基体47は、軸方向Bの一方の端部側に、互いに対向する一対の平坦面49、一対の平坦面49の夫々から一体的に伸びる一対の傾斜面50及び一対の平坦面49を橋絡した底平坦面51を有した凹面52からなると共に摺動片48を支持する支持面53と、軸方向Bの他方の端部側の端面54で開口した円柱状凹所55と、底平坦面51の中央に配されていると共に円柱状凹所55に開口する円柱状の嵌合孔56とを具備している。
【0078】
複層摺動部材1からなる摺動片48は、互いに対面する一対の平坦面部57、一対の平坦面部57の夫々から一体的に伸びる一対の傾斜面部58及び平坦面部57を橋絡した底平坦面部59を有した凹面60からなる摺動面61と、摺動面61に相補的な形状からなる固定面62とを有する摺動片本体63と、摺動片本体63の底平坦面部59の中央に配されていると共に円筒部64及び円筒部64の一方の端部に一体的に形成された底部65を有した有底円筒状の中空突出部66とを一体的に具備している。
【0079】
ラックガイド15は、摺動片48の中空突出部66をラックガイド基体47の嵌合孔56に嵌合させてラックガイド基体47の凹面52に摺動片48を着座させて形成され、摺動片48は、ラック軸13の外周面、本例では凹面60に相補的な形状の外周面(図示せず)に摺動自在に接触してラック軸13を摺動自在に支持する。
【0080】
本発明の複層摺動部材1からなる摺動片27又は48を具備したラックガイド15は、ラック軸13とラック軸13を支持するラックガイド15との間に生じる静摩擦力と動摩擦力の差が極めて小さく円滑な操舵感を確保できるラックピニオン式舵取装置を得ることができる。
【0081】
以上説明したように、本発明の複層摺動部材は、静摩擦力と動摩擦力の差が極めて小さく、摩擦摩耗特性に優れており、この複層摺動部材をラックガイドの摺動片に適用した場合においては、円滑な操舵感を確保できるラックピニオン式舵取装置を提供することができる。