(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-25226(P2021-25226A)
(43)【公開日】2021年2月22日
(54)【発明の名称】ピンニング工法およびこれに用いられるピンニング工法用アンカーピン
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20210125BHJP
【FI】
E04G23/02 A
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2019-141491(P2019-141491)
(22)【出願日】2019年7月31日
(71)【出願人】
【識別番号】517253872
【氏名又は名称】株式会社Cygnus
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(72)【発明者】
【氏名】入江 展親
【テーマコード(参考)】
2E176
【Fターム(参考)】
2E176AA02
2E176BB21
(57)【要約】
【課題】穿孔穴に対してアンカーピンが斜めに入った場合であってもアンカーピンの頭部と穿孔穴の開口縁部との接触面積を広く維持して、アンカーピンによる仕上げ材の支持強度を向上させることが可能なピンニング工法およびこれに用いられるピンニング工法用アンカーピンの提供。
【解決手段】仕上げ材4を貫通して躯体2に穿孔穴5を形成し、穿孔穴5の開口縁部に球帯状の面取り部5Bを形成し、穿孔穴5に接着剤6を注入し、球帯状の面取り部5Bに面接触する球帯状面11Bを頭部11に有するアンカーピン1を接着剤6が注入された穿孔穴5に挿入し、アンカーピン1の頭部11の球帯状面11Bと穿孔穴5の球帯状の面取り部5Bとを面接触させる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
躯体および仕上げ材からなる壁体を補修するピンニング工法であって、
前記仕上げ材を貫通して前記躯体に穿孔穴を形成すること、
前記穿孔穴の開口縁部に球帯状の面取り部を形成すること、
前記穿孔穴に接着剤を注入すること、
前記球帯状の面取り部に面接触する球帯状面を頭部に有するアンカーピンを前記接着剤が注入された穿孔穴に挿入し、前記アンカーピンの頭部の球帯状面と前記穿孔穴の球帯状の面取り部とを面接触させること
を含むピンニング工法。
【請求項2】
前記穿孔穴に挿入された前記アンカーピンの頭部をパテ埋めして前記仕上げ材の表面と面一とすることを含む請求項1記載のピンニング工法。
【請求項3】
前記アンカーピンは、アンカーピン本体と、前記アンカーピン本体の端部に嵌合され、前記球帯状の面取り部に面接触する球帯状面を有する頭部を形成するキャップとから構成される請求項1または2に記載のピンニング工法。
【請求項4】
前記キャップは、前記アンカーピン本体の端部に嵌合される凹部であり、内面が球帯状面である凹部を有し、
前記アンカーピン本体の端部は、前記キャップの凹部に嵌合して前記凹部の内面の球帯状面に面接触する球帯状面を有する
請求項3記載のピンニング工法。
【請求項5】
躯体および仕上げ材からなる壁体を補修するピンニング工法に用いられるピンニング工法用アンカーピンであって、
前記仕上げ材を貫通して前記躯体に形成された穿孔穴の開口縁部に形成された球帯状の面取り部に面接触する球帯状面を頭部に有するピンニング工法用アンカーピン。
【請求項6】
アンカーピン本体と、前記アンカーピン本体の端部に嵌合され、前記球帯状の面取り部に面接触する球帯状面を有する頭部を形成するキャップとから構成される請求項5記載のピンニング工法用アンカーピン。
【請求項7】
前記キャップは、前記アンカーピン本体の端部に嵌合される凹部であり、内面が球帯状面である凹部を有し、
前記アンカーピン本体の端部は、前記キャップの凹部に嵌合して前記凹部の内面の球帯状面に面接触する球帯状面を有する
請求項6記載のピンニング工法用アンカーピン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、躯体および仕上げ材からなる壁体を補修するピンニング工法およびこれに用いられるピンニング工法用アンカーピンに関する。
【背景技術】
【0002】
ピンニング工法とは、外壁などの壁体の仕上げモルタル、貼付けモルタルやタイルなどの仕上げ材に浮きが生じた部分の剥落を防止するための工法である。ピンニング工法では、エポキシ樹脂系注入材などの接着剤とアンカーピンとを併用して、躯体と仕上げ材とを一体化する。
【0003】
従来、このようなピンニング工法に用いられているアンカーピンは、ピン胴体部から頭部にかけてテーパー状になっているものが多い(例えば、特許文献1参照。)。
図12は従来のピンニング工法に用いられているアンカーピンの側面図である。
図12に示すように、従来のアンカーピン100は、胴体部101と頭部102とから形成されている。頭部102は、胴体部101から頭端部103にかけてテーパー状になっている。このアンカーピン100は、
図13に示すように、貼付けモルタル4Aやタイル4Bなどの仕上げ材を貫通して躯体3に形成された穿孔穴5内に挿入され、接着剤6により一体化される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−2441号公報(
図6)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図14に示すように、従来のピンニング工法は、貼付けモルタル4Aやタイル4Bなどの仕上げ材をアンカーピン100の頭端部103で押さえ込んだ構造である。すなわち、この従来のピンニング工法では、穿孔穴5とアンカーピン100は、頭部102の一部分(頭端部103)しか接触していない。このアンカーピン100の頭端部103は、前述のようにテーパー状になっており、非常に薄いため、支持強度が見込めず、この部分に力がかかると簡単に変形してしまう。例えば、
図15に示すように、アンカーピン100により支持しているタイル4Bに不意な力が加わった場合、薄い頭端部103が変形してしまい、タイル4Bが外れてしまうおそれがある。
【0006】
また、従来のピンニング工法では、
図16に示すように穿孔穴5に対してアンカーピン100が斜めに入ってしまった場合に、アンカーピン100の頭端部103がタイル4Bの表面と面一にならず、タイル4Bの表面に凹凸ができてしまう。この場合、タイル4Bの表面を修正しなければならないため、施工時間がかかってしまうという問題がある。また、この凹凸修正は、作業者のスキルによって外観美を悪くしてしまうという問題がある。
【0007】
そこで、本発明においては、穿孔穴に対してアンカーピンが斜めに入った場合であってもアンカーピンの頭部と穿孔穴の開口縁部との接触面積を広く維持して、アンカーピンによる仕上げ材の支持強度を向上させることが可能なピンニング工法およびこれに用いられるピンニング工法用アンカーピンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のピンニング工法は、躯体および仕上げ材からなる壁体を補修するピンニング工法であって、仕上げ材を貫通して躯体に穿孔穴を形成すること、穿孔穴の開口縁部に球帯状の面取り部を形成すること、穿孔穴に接着剤を注入すること、球帯状の面取り部に面接触する球帯状面を頭部に有するアンカーピンを接着剤が注入された穿孔穴に挿入し、アンカーピンの頭部の球帯状面と穿孔穴の球帯状の面取り部とを面接触させることを含む。
【0009】
本発明のピンニング工法によれば、アンカーピンの頭部の球帯状面と穿孔穴の球帯状の面取り部とが面接触するため、穿孔穴に対してアンカーピンが斜めに入った場合であってもアンカーピンの頭部と穿孔穴の開口縁部との接触面積を広く維持することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アンカーピンの頭部の球帯状面と穿孔穴の球帯状の面取り部とが面接触するため、穿孔穴に対してアンカーピンが斜めに入った場合であってもアンカーピンの頭部と穿孔穴の開口縁部との接触面積を広く維持することができ、アンカーピンによる仕上げ材の支持強度を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施の形態におけるピンニング工法用アンカーピンの側面図である。
【
図2】本発明の実施の形態におけるピンニング工法の穿孔工程を示す説明図である。
【
図3】本発明の実施の形態におけるピンニング工法のアンカーピン挿入工程を示す説明図である。
【
図4】本発明の実施の形態におけるピンニング工法のピンニング完了後の状態を示す説明図である。
【
図5】本発明の実施の形態におけるアンカーピンが穿孔穴に対して斜めに挿入された状態を示す説明図である。
【
図6】本発明の別の実施形態におけるアンカーピンの側面図である。
【
図7】
図6のアンカーピンを分解した状態を示す部分斜視図である。
【
図8】
図6のアンカーピンのキャップを首振りした状態を示す部分側面図である。
【
図10】
図6のアンカーピンの挿入工程を示す説明図である。
【
図11】アンカーピン挿入後の状態を示す部分拡大図である。
【
図13】従来のアンカーピンの挿入工程を示す説明図である。
【
図14】従来のアンカーピンの頭端部の接触状態を示す説明図である。
【
図15】従来のアンカーピンの頭端部が変形する様子を示す説明図である。
【
図16】従来のアンカーピンが穿孔穴に対して斜めに挿入された状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は本発明の実施の形態におけるピンニング工法用アンカーピンの側面図、
図2は本発明の実施の形態におけるピンニング工法の穿孔工程を示す説明図、
図3はアンカーピン挿入工程を示す説明図、
図4はピンニング完了後の状態を示す説明図である。
【0013】
本発明の実施の形態におけるピンニング工法は、
図4に示すように、建物の外壁や内壁などの壁体2において、躯体3から仕上げモルタル(図示せず。)、貼付けモルタル4Aやタイル4Bなどの仕上げ材4に浮きが生じた部分などの要補修箇所に穿孔穴5を形成し、その穿孔穴5内にエポキシ樹脂系注入材などの接着剤6を注入し、アンカーピン1を挿入して、躯体3と仕上げ材4とを一体化することにより補修を行うものである。
【0014】
図1に示すように、本発明の実施の形態におけるピンニング工法用のアンカーピン1は、棒状(円柱状)の胴体部10と、球帯状の頭部11とから形成されている。胴体部10と頭部11とは、例えばステンレス鋼等により一体に形成されている。胴体部10の直径R10は、後述する穿孔穴5の内径R5(
図2(A)参照。)よりも小径に形成されている。なお、図示していないが、胴体部10の外周面には、引き抜き強度を高めるためにローレット加工により凹凸が形成される。
【0015】
頭部11は、円形状の端面11Aと、胴体部10との接続面10Aから端面11Aに至る球帯状面11Bとを有する。胴体部10との接続面10Aおよび端面11Aは、胴体部10の軸線10Bに対して直交する平面である。なお、本実施形態においては、頭部11は、直径R11の球体を2つの平行な接続面10Aおよび端面11Aで切った球台である。球帯状面11Bは、この球台の側面部分である。
【0016】
上記アンカーピン1を用いたピンニング工法では、
図2(A)に示すように、まず、躯体3の表面に貼付けモルタル4Aやタイル4Bなどの仕上げ材4が設けられた壁体2の要補修箇所に対し、仕上げ材4を貫通して躯体3に深さD5の穿孔穴5を形成する。その後、同図(B)に示すように穿孔穴5の開口縁部5Aから球状面取りビット7を用いて深さD7まで面取りを行い、同図(C)に示すように開口縁部5Aに球帯状の面取り部5Bを形成する。
【0017】
球状面取りビット7の先端部の球状の直径R7は、使用するアンカーピン1の頭部11の球帯状面11Bの直径R1と同一径とすることで、球帯状の面取り部5Bの内径R3は、球帯状面11Bの直径R1と同一径とする。これにより、アンカーピン1を穿孔穴5に挿入した際、アンカーピン1の頭部11の球帯状面11Bと穿孔穴5の球帯状の面取り部5Bとが面接触するようになる。
【0018】
次に、
図3(A)に示すように、穿孔穴5に接着剤6を注入して、穿孔穴5内および仕上げ材4の浮きの部分に接着剤6を行き渡らせる。そして、同図(B)に示すように、アンカーピン1を穿孔穴5の奥まで挿入する。これにより、同図(C)に示すように、アンカーピン1の頭部11の球帯状面11Bと穿孔穴5の球帯状の面取り部5Bとが面接触し、仕上げ材4はアンカーピン1により広い面で支持される。
【0019】
最後に、アンカーピン1の頭部11の端面11Aと仕上げ材4の表面4Cとの隙間をパテ8で埋め、仕上げ材4の表面4Cと同色のタッチアップ塗料で塗って仕上げる。なお、パテ8はマヨネーズ状のものを用いて隙間にすり込むようにして施工することが望ましい。また、パテ8は紫外線硬化型や光硬化型のものを用いることが望ましい。
【0020】
なお、前述の穿孔穴5の深さD5は、アンカーピン1を穿孔穴5に挿入して、アンカーピン1の頭部11の球帯状面11Bと穿孔穴5の球帯状の面取り部5Bとを面接触させた際に、胴体部10の全体が穿孔穴5内に収容される深さとする。また、面取りの深さD7は、頭部11の端面11Aが仕上げ材4の表面4Cとの間に隙間が形成され、パテ8により頭部11を埋込み可能な深さとする。
【0021】
以上のように、本実施形態におけるアンカーピン1を用いたピンニング工法によれば、アンカーピン1の頭部11の球帯状面11Bと穿孔穴5の球帯状の面取り部5Bとが面接触し、仕上げ材4はアンカーピン1により広い面で支持されるので支持強度が向上する。また、このピンニング工法では、
図5に示すように穿孔穴5の軸線5Cに対してアンカーピン1が斜めに挿入されたとしても、アンカーピン1の頭部11の球帯状面11Bと穿孔穴5の球帯状の面取り部5Bとの面接触の状態が維持される。したがって、アンカーピン1の頭部11と穿孔穴5の開口縁部との接触面積を広く維持することができ、アンカーピン1による仕上げ材4の支持強度を維持することができる。
【0022】
次に、本発明のアンカーピンの別の実施形態について説明する。
図6は本発明の別の実施形態におけるアンカーピンの側面図、
図7は
図6のアンカーピンを分解した状態を示す部分斜視図、
図8は
図6のアンカーピンのキャップを首振りした状態を示す部分側面図、
図9は
図8の縦断面図、
図10は
図6のアンカーピンの挿入工程を示す説明図、
図11はアンカーピン挿入後の状態を示す部分拡大図である。
【0023】
図6に示すアンカーピン9は、アンカーピン本体としての前述のアンカーピン1と、アンカーピン1の端部の球帯状の頭部11に嵌合されるキャップ12とから構成される。キャップ12は、アンカーピン1の頭部11に嵌合された状態において、アンカーピン9の頭部を形成し、前述の穿孔穴5の球帯状の面取り部5Bに面接触する球帯状面12Aを有する。
【0024】
キャップ12は、アンカーピン1の頭部11に嵌合される凹部12Bを有する。凹部12Bは内面がアンカーピン1の頭部11に面接触する球帯状面となっている。また、キャップ12には、凹部12Bの開口を拡げてアンカーピン1の頭部11に嵌合させるための割り12Cが2箇所に形成されている。
【0025】
このアンカーピン9では、
図8および
図9に示すように、アンカーピン1の頭部11に首振り可能なキャップ12が嵌合した状態となるため、アンカーピン1の軸線10Bとキャップ12の端面12Dとが直交しない場合、すなわち、アンカーピン1が挿入される穿孔穴5がタイル4Bなどの仕上げ材4と直交しない場合にも対応することができる。
【0026】
このアンカーピン9は、
図10に示すように接着剤6を注入した穿孔穴5に挿入すると、キャップ12の球帯状面12Aが穿孔穴5の球帯状の面取り部5Bに面接触する。このアンカーピン9では、アンカーピン1(アンカーピン本体)が穿孔穴5に対して斜めに挿入されてもキャップ12が首振り可能であるため、キャップ12の端面12Dは仕上げ材4の表面4Cと平行を維持できる。
【0027】
そのため、キャップ12の端面12Dが仕上げ材4の表面4Cと面一となるように、前述の面取りの深さD7を調整することで、パテ8を使用することが不要となる。この場合、キャップ12の端面12Dを仕上げ材4の表面4Cと同色のタッチアップ塗料で塗って仕上げるようにすれば良い。
【0028】
なお、前述のアンカーピン1を用いたピンニング工法においても、アンカーピン1の頭部11の端面11Aが仕上げ材4の表面4Cと面一となるように、穿孔穴5の深さD5を調整することで、パテ8を使用することが不要となる。この場合、アンカーピン1の頭部11の端面11Aを仕上げ材4の表面4Cと同色のタッチアップ塗料で塗って仕上げるようにすれば良い。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明のピンニング工法およびこれに用いられるピンニング工法用アンカーピンは、建物の外壁や内壁などの壁体において、躯体から仕上げモルタル、貼付けモルタルやタイルなどの仕上げ材に浮きが生じた部分などを補修して剥落を防止する工法およびアンカーピンとして有用である。
【符号の説明】
【0030】
1,9 アンカーピン
2 壁体
3 躯体
4 仕上げ材
4A 貼付けモルタル
4B タイル
4C 表面
5 穿孔穴
5A 開口縁部
5B 面取り部
5C 軸線
6 接着剤
7 球状面取りビット
8 パテ
10 胴体部
10A 接続面
10B 軸線
11 頭部
11A 端面
11B 球帯状面
12 キャップ
12A 球帯状面
12B 凹部
12C 割り
12D 端面