【課題】地中部の鋼構造物と、その上に設置するプレキャストコンクリート部材の強固で工事効率に優れた接続構造とその接続方法、および当該接続構造を利用した構造壁を提供する。
【解決手段】鋼構造物20(30)とプレキャストコンクリート部材50とが接続された接続構造であって、鋼構造物20(30)は、一部が地上に突出した状態で地中に埋設され、プレキャストコンクリート部材50は下方に開口部51を備え、開口部51には、プレキャストコンクリート部材50から突出する鉄骨部材55が配置され、鋼構造物20(30)の地上に突出した部分である突出部21がプレキャストコンクリート部材50の開口部51に挿入されるように、プレキャストコンクリート部材50が設置された際に、鉄骨部材55と突出部21が対向して配置され、プレキャストコンクリート部材50の開口部51内の空隙がモルタル等aで充填されていることを特徴とする。
前記鉄骨部材の下端に、前記プレキャストコンクリート部材が上方に抜け出すのを防止するための定着部材が取り付けられていることを特徴とする、請求項1に記載の鋼構造物とプレキャストコンクリート部材の接続構造。
前記プレキャストコンクリート部材の幅方向端面の位置と前記鋼構造物の前記継手部の位置が重ならないように前記鋼構造物と前記プレキャストコンクリート部材が配置されていることを特徴とする、請求項6または7のいずれか一項に記載の構造壁。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、基礎部として地中部に設置される鋼構造物と、地上部に設置されるプレキャストコンクリート部材の接続構造および接続方法である。また、本発明は、その接続構造を有した、鋼構造物とプレキャストコンクリート部材からなる構造壁である。この構造壁の用途としては例えば土塁壁、防潮堤、防波堤または桟橋等がある。
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0016】
<第1の実施形態>
第1の実施形態では、構造壁の基礎部を構成する鋼構造物として鋼矢板が使用されている。
図1に示すように構造壁1は、構造壁1の延長方向L(法線方向)に沿って列状に連続して設置された複数の鋼矢板20と、それらの鋼矢板20の上部に連続して設置された複数のプレキャストコンクリート部材50で構成されている。本実施形態におけるプレキャストコンクリート部材50は鋼矢板20の2枚分の幅を有している。なお、プレキャストコンクリート部材50と鋼矢板20の幅方向は、構造壁1の延長方向Lと同じ方向である。
【0017】
図2および
図3に示すように鋼矢板20は地中に埋設されているが、その一部は地上に突出した状態となっている。プレキャストコンクリート部材50の下端部には、鋼矢板20の地上に突出している部分(以下、「突出部21」)を収容可能な開口部51が設けられている。開口部51はプレキャストコンクリート部材50を延長方向L(
図1)に貫通するように形成され、
図3に示すようにプレキャストコンクリート部材50の下端部は、開口部51を間に挟み、第1の端部52と第2の端部53とに分割された形状となっている。
【0018】
プレキャストコンクリート部材50は、第1の端部52と第2の端部53との間に鋼矢板20の突出部21が位置する状態で鋼矢板20の上部に設置されている。すなわち、構造壁1の側面視においては、鋼矢板20の突出部21がプレキャストコンクリート部材50の開口部51に挿入されるようにして、プレキャストコンクリート部材50の第1の端部52と第2の端部53が鋼矢板20の突出部21に跨るように設置されている。
【0019】
プレキャストコンクリート部材50の開口部51には、プレキャストコンクリート部材50の内部から開口部51に向かって下方に突出する鉄骨部材55が配置されている。図示の形態では、鉄骨部材55は所定の間隔を空けて互いに平行に配置された2枚の鋼板で構成される。鉄骨部材55の上半部は、プレキャストコンクリート部材50の内部に埋め込まれ、鉄骨部材55の下半部は、開口部51内において下方に突出している。但し、鉄骨部材55の下端は、プレキャストコンクリート部材50の下端(第1の端部52と第2の端部53の下端)と同じか、僅かに高い位置に設定されている。また、これら2枚の鋼板で構成される鉄骨部材55下端には、鋼板の下端同士を接続するようにして定着部材56が取り付けられていても良い。そして、鋼矢板20の突出部21がプレキャストコンクリート部材50の開口部51に挿入されるように、プレキャストコンクリート部材50が設置されたことにより、鉄骨部材55と突出部21が対向して配置された状態となっている。
【0020】
プレキャストコンクリート部材50の開口部51内の空間にはモルタルまたはコンクリートa(以下、「モルタル等a」)が充填されている。すなわち、鋼矢板20の突出部21がプレキャストコンクリート部材50の開口部51に挿入されるように、プレキャストコンクリート部材50が設置された状態において、2枚の鋼板で構成される鉄骨部材55における鋼板同士の隙間、鉄骨部材55と突出部21との間に形成された隙間、開口部51の内面と鉄骨部材55および突出部21との間に形成された隙間は、いずれもモルタル等aで埋められた状態になっている。
【0021】
また、
図4に示すように鋼矢板20は継手部23を介して互いに連結されているが、本実施形態の構造壁1においては、プレキャストコンクリート部材50の幅方向端面50aの位置が鋼矢板20の継手部23の位置と異なる位置となるようにプレキャストコンクリート部材50が設置されている。すなわち、構造壁1の延長方向Lにおける隣り合うプレキャストコンクリート部材50の目地部(幅方向端面50a)と、隣り合う鋼矢板20の目地部(継手部23)とが互いに異なる位置となるように構造壁1が構築されている。プレキャストコンクリート部材50をこのように配列することは必須ではないが、プレキャストコンクリート部材50の目地部と鋼矢板20の目地部が重ならないようにすることで、地震発生時等における目地部のずれ発生を、鋼矢板20とプレキャストコンクリート部材50で互いに抑制することができる。
【0022】
第1の実施形態の構造壁1は以上にように構成されている。次に、鋼矢板20とプレキャストコンクリート部材50の接続方法について説明する。
【0023】
(第1工程)
まず、構造壁1の基礎部として複数の鋼矢板20を地中に埋設していくが、この際に一部(突出部21)が地上に突出した状態となるように鋼矢板20を設置しておく。そして、工場で予め製造されたプレキャストコンクリート部材50を鋼矢板20の上部に設置する。ここではプレキャストコンクリート部材50の下端部に形成された開口部51と、鋼矢板20の突出部21との位置を合わせ、鋼矢板20の突出部21にプレキャストコンクリート部材50を被せるようにしてプレキャストコンクリート部材50を地表面に吊り下げていく。これにより、鋼矢板20の突出部21がプレキャストコンクリート部材50の開口部51に挿入されるような状態でプレキャストコンクリート部材50が設置される。また、開口部51の内部では、プレキャストコンクリート部材50から突出している鉄骨部材55が、鋼矢板20の突出部21に対して向かい合って配置された状態となる。
【0024】
本実施形態においては1つのプレキャストコンクリート部材50が3枚の鋼矢板20の上に載るようにプレキャストコンクリート部材50を設置される。なお、構造壁1を防潮堤や防波堤等に使用する場合、プレキャストコンクリート部材50を海底面に設置する際には鋼構造物の周囲の仮締切を行い、排水が終了した後に作業を行う。
【0025】
(第2工程)
次に、プレキャストコンクリート部材50に設けられたモルタル注入穴(不図示)を介してプレキャストコンクリート部材50の開口部51内の空隙にモルタル等aを充填する。そして、充填されたモルタル等aが凝固することにより鋼矢板20とプレキャストコンクリート部材50とが接続される。このとき、本実施形態においては、プレキャストコンクリート部材50の第1の端部52と第2の端部53との間に鋼矢板20の突出部21が位置し、鋼矢板20とプレキャストコンクリート部材50が重なった状態にあるため、両者が強固に接続される。特に、構造壁1を防潮堤等の海岸付近で使用する際には、津波などの発生時に海側から陸上側に向かって大きな回転モーメントを受けることになるため、鋼矢板20とプレキャストコンクリート部材50とを重ねて接続することが有用である。
【0026】
以上の方法で鋼矢板20とプレキャストコンクリート部材50を接続すれば、鋼矢板20の突出部21がプレキャストコンクリート部材50に覆われることになる。したがって、この接続構造を有する構造壁1においては鋼矢板20の突出部21が外観に現れないため、施工時における鋼矢板20の防食処理を省略することができる。これにより工期を短縮することが可能となる。
【0027】
また、開口部51の内部では、鉄骨部材55と突出部21が互いに平行に対向して配置され、2枚の鋼板で構成される鉄骨部材55における鋼材同士の隙間、鉄骨部材55と突出部21との間に形成された隙間、開口部51の内面と鉄骨部材55および突出部21との間に形成された隙間は、いずれも凝固したモルタル等aで埋められた状態になっている。このため、プレキャストコンクリート部材50が受ける回転モーメントが効果的に鋼矢板20に伝達され、津波などの発生時にプレキャストコンクリート部材50に作用する外力を強固に受け止めることが可能となる。また、鉄骨部材55下端には定着部材56が取り付けられている場合は、開口部51内で凝固したモルタル等aによってプレキャストコンクリート部材50はしっかりと定着され、プレキャストコンクリート部材50が上方に抜け出すことが防止される。
【0028】
本実施形態の接続構造によれば、構造壁1としての剛性を高めることが可能となる。また、本実施形態では、1つのプレキャストコンクリート部材50が複数枚の鋼矢板20に接続されるように各プレキャストコンクリート部材50が配列されているため、構造壁1の剛性をより向上させることができる。
【0029】
さらに本実施形態では、隣り合うプレキャストコンクリート部材50の目地部と隣り合う鋼矢板20の目地部とが重ならないように両者が接続されているため、地震発生時等における鋼矢板20の目地部のずれや、プレキャストコンクリート部材50の目地部のずれを抑えることができる。
【0030】
<第2の実施形態>
第2の実施形態でも、構造壁の基礎部を構成する鋼構造物として鋼矢板が使用されている。この第2の実施形態では、プレキャストコンクリート部材50の下端部(第1の端部52と第2の端部53)と鋼矢板20の上部(突出部21)を棒状部材2で連結した例を示している。
【0031】
第1の実施形態と同様に、
図5に示すように構造壁1は、構造壁1の延長方向L(法線方向)に沿って列状に連続して設置された複数の鋼矢板20と、それらの鋼矢板20の上部に連続して設置された複数のプレキャストコンクリート部材50で構成されている。なお、プレキャストコンクリート部材50と鋼矢板20の幅方向は、構造壁1の延長方向Lと同じ方向である。
【0032】
図6および
図7に示すように鋼矢板20は地中に埋設されているが、その一部は地上に突出した状態となっている。プレキャストコンクリート部材50の下端部には、鋼矢板20の地上に突出している部分(以下、「突出部21」)を収容可能な開口部51が設けられている。開口部51はプレキャストコンクリート部材50を延長方向L(
図5)に貫通するように形成され、
図7に示すようにプレキャストコンクリート部材50の下端部は、開口部51を間に挟み、第1の端部52と第2の端部53とに分割された形状となっている。
【0033】
プレキャストコンクリート部材50は、第1の端部52と第2の端部53との間に鋼矢板20の突出部21が位置する状態で鋼矢板20の上部に設置されている。すなわち、構造壁1の側面視においては、鋼矢板20の突出部21がプレキャストコンクリート部材50の開口部51に挿入されるようにして、プレキャストコンクリート部材50の第1の端部52と第2の端部53が鋼矢板20の突出部21に跨るように設置されている。
【0034】
プレキャストコンクリート部材50の開口部51には、プレキャストコンクリート部材50の内部から開口部51に向かって下方に突出する鉄骨部材55が配置されている。鉄骨部材55の上半部は、プレキャストコンクリート部材50の内部に埋め込まれ、鉄骨部材55の下半部は、開口部51内において下方に突出している。但し、鉄骨部材55の下端は、プレキャストコンクリート部材50の下端(第1の端部52と第2の端部53の下端)と同じか、僅かに高い位置に設定されている。また、これら2枚の鋼板で構成される鉄骨部材55下端には、鋼板の下端同士を接続するようにして定着部材56が取り付けられている。そして、鋼矢板20の突出部21がプレキャストコンクリート部材50の開口部51に挿入されるように、プレキャストコンクリート部材50が設置されたことにより、鉄骨部材55と突出部21が対向して配置された状態となっている。
【0035】
プレキャストコンクリート部材50の開口部51内の空間にはモルタル等aが充填されている。すなわち、鋼矢板20の突出部21がプレキャストコンクリート部材50の開口部51に挿入されるように、プレキャストコンクリート部材50が設置された状態において、2枚の鋼板で構成される鉄骨部材55における鋼板同士の隙間、鉄骨部材55と突出部21との間に形成された隙間、開口部51の内面と鉄骨部材55および突出部21との間に形成された隙間は、いずれもモルタル等aで埋められた状態になっている。
【0036】
図8は構造壁1の部分断面図であるが、プレキャストコンクリート部材50の下端部(第1の端部52と第2の端部53の下端)には構造壁1の厚さ方向tに貫通する貫通穴60が形成されている。貫通穴60はプレキャストコンクリート部材50の幅方向に沿って複数設けられ、貫通穴60は一つのプレキャストコンクリート部材50の下端部において異なる高さに4つずつ形成されている。また、鋼矢板20の上部(突出部21)においても構造壁1の厚さ方向tに貫通する貫通穴22が形成されている。プレキャストコンクリート部材50の下端部に形成された貫通穴60の位置と鋼矢板20の上部に形成された貫通穴22の位置はそれぞれ互いに一致するように配列されている。
【0037】
図7に示すように鋼矢板20とプレキャストコンクリート部材50の接続部においては、鋼矢板20の貫通穴22およびプレキャストコンクリート部材50の貫通穴60を通るように棒状部材2が挿入されている。なお、棒状部材2の素材は強度が大きいものであれば特に限定されず、樹脂でも金属であっても良いが、例えばPC鋼材、PC鋼棒、鉄筋、丸鋼、高強度鉄筋または鋼製ボルト等を用いることが好ましい。
【0038】
本実施形態では棒状部材2として鋼製ボルトを使用しているが、挿入された鋼製ボルトはナットで締め上げられており、棒状部材2の長手方向に張力が付与されている。棒状部材2に張力が付与されていなくても鋼矢板20とプレキャストコンクリート部材50を接続することは可能であるが、本実施形態のように棒状部材2に張力を付与することで、鋼矢板20とプレキャストコンクリート部材50の連結をより強固なものにすることができる。
【0039】
プレキャストコンクリート部材50の内部には補強用の鉄筋が埋め込まれており、その一例として、
図7に示すようにプレキャストコンクリート部材50の第1の端部52および第2の端部53の内部には、それぞれ主鉄筋62が上下方向に配置されている。なお、プレキャストコンクリート部材50の内部に埋め込まれる他の鉄筋としては、例えば配力鉄筋(図示せず)などもある。また、本実施形態の構造壁1においては、プレキャストコンクリート部材50の第1の端部52および第2の端部53の内部に帯状の部材(例えば鋼材)である拘束部材3がそれぞれ設けられている。拘束部材3はプレキャストコンクリート部材50の内部にある主鉄筋62よりも外方に設けられている。換言すると、プレキャストコンクリート部材50の主鉄筋62は拘束部材3と開口部51との間に位置している。また、主鉄筋62の先端部には、本実施形態のようにコンクリートと鉄筋の密着性を向上させるための定着板63が設けられていても良い。定着板63は例えばナット等の他の部材であっても良い。
【0040】
図9および
図10に示すように拘束部材3は、長手方向がプレキャストコンクリート部材50の幅方向に向くようにしてプレキャストコンクリート部材50の内部に埋め込まれている。本実施形態の拘束部材3はプレキャストコンクリート部材50の幅よりも、やや短い長さを有し、1つの拘束部材3でプレキャストコンクリート部材50の幅方向の4つの貫通穴60を覆うことができる長さとなっている。拘束部材3には、プレキャストコンクリート部材50の貫通穴60と同様、貫通穴が形成されており、棒状部材2はその拘束部材3の貫通穴も通るように挿入されている。本実施形態のように拘束部材3を設けることで、複数の棒状部材2が拘束部材3を介して連結されることになり、鋼矢板20とプレキャストコンクリート部材50の連結をより強固なものにすることができる。また、拘束部材3がプレキャストコンクリート部材50の主鉄筋62よりも外方に設けられていることにより、プレキャストコンクリート部材50に負荷がかかった際の主鉄筋62の変形を抑制することが可能となる。
【0041】
また、
図10に示すように鋼矢板20は継手部23を介して互いに連結されているが、プレキャストコンクリート部材50の幅方向端面50aの位置が鋼矢板20の継手部23の位置と異なる位置となるようにプレキャストコンクリート部材50が設置されている。すなわち、構造壁1の延長方向Lにおける隣り合うプレキャストコンクリート部材50の目地部(幅方向端面50a)と、隣り合う鋼矢板20の目地部(継手部23)とが互いに異なる位置となるように構造壁1が構築されている。プレキャストコンクリート部材50をこのように配列することは必須ではないが、プレキャストコンクリート部材50の目地部と鋼矢板20の目地部が重ならないようにすることで、地震発生時等における目地部のずれ発生を、鋼矢板20とプレキャストコンクリート部材50で互いに抑制することができる。
【0042】
図7に示すようにプレキャストコンクリート部材50の棒状部材2の挿入箇所には、プレキャストコンクリート部材50の外面から厚さ方向tにくり抜かれたような形状を有する凹部57が設けられている。この凹部57はプレキャストコンクリート部材50の製造時に予め形成されるものである。凹部57にはモルタルが充填されており、挿入された棒状部材2が外観に現れないようになっている。
【0043】
第2の実施形態の構造壁1は以上にように構成されている。次に、第2の実施形態についての鋼矢板20とプレキャストコンクリート部材50の接続方法について説明する。
【0044】
(第1工程)
まず、構造壁1の基礎部として複数の鋼矢板20を地中に埋設していくが、この際に一部(突出部21)が地上に突出した状態となるように鋼矢板20を設置しておく。そして、工場で予め製造されたプレキャストコンクリート部材50を鋼矢板20の上部に設置する。ここではプレキャストコンクリート部材50の下端部に形成された開口部51と、鋼矢板20の突出部21との位置を合わせ、鋼矢板20の突出部21にプレキャストコンクリート部材50を被せるようにしてプレキャストコンクリート部材50を地表面に吊り下げていく。これにより、鋼矢板20の突出部21がプレキャストコンクリート部材50の開口部51に挿入されるような状態でプレキャストコンクリート部材50が設置される。また、開口部51の内部では、プレキャストコンクリート部材50から突出している鉄骨部材55が、鋼矢板20の突出部21に対して向かい合って配置された状態となる。
【0045】
本実施形態においても、1つのプレキャストコンクリート部材50が3枚の鋼矢板20の上に載るようにプレキャストコンクリート部材50を設置される。なお、構造壁1を防潮堤や防波堤等に使用する場合、プレキャストコンクリート部材50を海底面に設置する際には鋼構造物の周囲の仮締切を行い、排水が終了した後に作業を行う。
【0046】
(第2工程)
続いて、プレキャストコンクリート部材50の貫通穴60(
図8)および鋼矢板20の貫通穴22(
図8)をそれぞれ通るように棒状部材2を挿入する。本実施形態においては棒状部材2として鋼製ボルトを挿入し、ナットを締めることにより棒状部材2の長手方向に張力を付与する。これにより鋼矢板20とプレキャストコンクリート部材50をより強固に接続することができる。なお、プレキャストコンクリート部材50の貫通穴60は、プレキャストコンクリート部材50の製造時に予め形成するようにしても良いし、プレキャストコンクリート部材50の製造後の加工によって形成するようにしても良い。
【0047】
(第3工程)
その後、プレキャストコンクリート部材50に設けられたモルタル注入穴(不図示)を介してプレキャストコンクリート部材50の開口部51内の空隙にモルタル等aを充填する。そして、充填されたモルタル等aが凝固することにより鋼矢板20とプレキャストコンクリート部材50とが接続される。このとき、本実施形態においては、プレキャストコンクリート部材50の第1の端部52と第2の端部53との間に鋼矢板20の突出部21が位置し、鋼矢板20とプレキャストコンクリート部材50が重なった状態にあるため、両者が強固に接続される。特に、構造壁1を防潮堤等の海岸付近で使用する際には、津波などの発生時に海側から陸上側に向かって大きな回転モーメントを受けることになるため、鋼矢板20とプレキャストコンクリート部材50とを重ねて接続することが有用である。
【0048】
以上の方法で鋼矢板20とプレキャストコンクリート部材50を接続すれば、鋼矢板20の突出部21がプレキャストコンクリート部材50に覆われることになる。したがって、この接続構造を有する構造壁1においても鋼矢板20の突出部21が外観に現れないため、施工時における鋼矢板20の防食処理を省略することができる。これにより工期を短縮することが可能となる。
【0049】
また、開口部51の内部では、鉄骨部材55と突出部21が互いに平行に対向して配置され、2枚の鋼板で構成される鉄骨部材55における鋼材同士の隙間、鉄骨部材55と突出部21との間に形成された隙間、開口部51の内面と鉄骨部材55および突出部21との間に形成された隙間は、いずれも凝固したモルタル等aで埋められた状態になっている。このため、プレキャストコンクリート部材50が受ける回転モーメントが効果的に鋼矢板20に伝達され、津波などの発生時にプレキャストコンクリート部材50に作用する外力を強固に受け止めることが可能となる。また、鉄骨部材55下端には定着部材56が取り付けられているので、開口部51内で凝固したモルタル等aによってプレキャストコンクリート部材50はしっかりと定着され、プレキャストコンクリート部材50が上方に抜け出すことが防止される。
【0050】
また、この実施形態の接続構造においては鋼矢板20とプレキャストコンクリート部材50との間に棒状部材2が挿入された状態となっているため、地震の発生時等において棒状部材2に引抜き抵抗力または押込み抵抗力を発生させることができる。すなわち、本実施形態の接続構造によれば、構造壁1としての剛性を高めることが可能となる。また、本実施形態でも、1つのプレキャストコンクリート部材50が複数枚の鋼矢板20に接続されるように各プレキャストコンクリート部材50が配列されているため、構造壁1の剛性をより向上させることができる。
【0051】
また、複数の棒状部材2が貫通する拘束部材3がプレキャストコンクリート部材50の主鉄筋62よりも外方に設けられていることにより、プレキャストコンクリート部材50に負荷がかかった際の主鉄筋62の変形も抑制することも可能となる。
【0052】
さらに本実施形態でも、隣り合うプレキャストコンクリート部材50の目地部と隣り合う鋼矢板20の目地部とが重ならないように両者が接続されているため、地震発生時等における鋼矢板20の目地部のずれや、プレキャストコンクリート部材50の目地部のずれを抑えることができる。
【0053】
<第3の実施形態>
第3の実施形態では、拘束部材3の形状が第1の実施形態と異なっている。
図11に示すように第3の実施形態の拘束部材3の上端部および下端部には、プレキャストコンクリート部材50の内方、すなわち開口部51側に突出するフランジ部3aがそれぞれ形成されている。
図12に示すように拘束部材3のフランジ部3aには、拘束部材3の長手方向に沿って間隔をおいて貫通穴3bが形成されている。各貫通穴3bにはプレキャストコンクリート部材50の主鉄筋62が通っている。
【0054】
本発明において拘束部材3および主鉄筋62は必須ではないが、このような第3の実施形態の構造壁1においては、拘束部材3のフランジ部3aに主鉄筋62が通っていることにより、拘束部材3を介してコンクリートと鉄筋の密着性を高めることができる。これに加え、複数の主鉄筋62の拘束力を高めることができ、プレキャストコンクリート部材50に負荷がかかった際の主鉄筋62の変形抑制効果を高めることができる。すなわち、第3の実施形態の構造壁1では棒状部材2、拘束部材3および主鉄筋62とが互いに連結されることになり、三者の組み合わせによる相乗効果で、鋼構造物とプレキャストコンクリート部材の接続をより一層強固なものにすることができる。なお、拘束部材3に設けられるフランジ部3aの数や位置は特に限定されない。例えば拘束部材3の上端部または下端部のいずれか一箇所にフランジ部3aが設けられていても良いし、棒状部材2に干渉しなければ拘束部材3の中央部にフランジ部3aが設けられていても良い。
【0055】
<第4の実施形態>
図13に示すように第4の実施形態の拘束部材3の上端部および下端部には、プレキャストコンクリート部材50の外方、すなわち開口部51と反対側に突出するフランジ部3aがそれぞれ形成されている。
図14に示すように拘束部材3のフランジ部3aには、拘束部材3の長手方向に沿って間隔をおいて貫通穴3bが形成されている。各貫通穴3bにはプレキャストコンクリート部材50の主鉄筋62が通っている。この第4の実施形態に示すように、拘束部材3から外側に突出させたフランジ部3aに主鉄筋62を通すことによって、第2、第3の実施形態と比べて、拘束部材の位置をより内側、即ち開口部51に近い位置に設定することができ、第一の端部および第二の端部の厚みを薄くすることができる。その結果、プレキャストコンクリート部材50全体の厚みも薄くできるので、軽量化による経済性及び施工面でのメリットが期待できる。主鉄筋62の拘束力についても主鉄筋62をフランジ部3aの貫通穴3bを通すことで第2、第3の実施形態に比べて、大幅に低下することはない。
【0056】
<第5の実施形態>
第5の実施形態では鋼構造物として鋼管矢板30が使用されている。
図15および
図16に示すように鋼管矢板30は構造壁1の延長方向Lに沿って複数配列されており、各鋼管矢板30は
図16に示すように継手部31を介して連結されている。第5の実施形態では1つのプレキャストコンクリート部材50に対して3本の鋼管矢板30が接続されている。また、プレキャストコンクリート部材50は、幅方向端面50aが鋼管矢板30の継手部31の位置と重ならないように配列されている。これにより隣り合うプレキャストコンクリート部材50の目地部のずれの発生を抑えることが可能となる。
【0057】
また、この第5の実施形態では、プレキャストコンクリート部材50の内部から開口部51に向かって下方に突出する鉄骨部材55を、鋼管矢板30の内部に挿入することにより、鋼管矢板30の上部(突出部に相当)に鉄骨部材55を対向させて配置した構造となっている。
【0058】
この第5の実施形態のように、鋼構造物として鋼管矢板30が使用される場合も、プレキャストコンクリート部材50を鋼管矢板30の地上に突出した部分に跨るように設置することで、第1の実施形態等と同様に構造壁1を構築する際に鋼構造物(鋼管矢板30)とプレキャストコンクリート部材50を強固に接続することができる。また、開口部51の内部では、鉄骨部材55と鋼管矢板30の上部が互いに平行に対向して配置され、2枚の鋼板で構成される鉄骨部材55における鋼材同士の隙間、鉄骨部材55と鋼管矢板30の上部との間に形成された隙間、開口部51の内面と鉄骨部材55および鋼管矢板30の上部との間に形成された隙間は、いずれも凝固したモルタル等aで埋められた状態になっている。このため、プレキャストコンクリート部材50が受ける回転モーメントが効果的に鋼管矢板30に伝達され、津波などの発生時にプレキャストコンクリート部材50に作用する外力を強固に受け止めることが可能となる。
【0059】
<第6の実施形態>
上記の第1〜第5の実施形態では鋼構造物とプレキャストコンクリート部材50の接続方法として、プレキャストコンクリート部材50を地表面に降下させることを前提に説明したが、第6の実施形態ではプレキャストコンクリート部材50を設置する際に、鋼構造物に設けられた受け面にプレキャストコンクリート部材50を降下させる例について説明する。
【0060】
例えば
図17に示すように鋼構造物としての鋼管矢板30の地表面近傍に平板状の基礎コンクリート部材5を設け、この基礎コンクリート部材5にプレキャストコンクリート部材50を降下させるようにしても良い。この際、基礎コンクリート部材5の上面に所定の高さを有するスペーサー6を設けることが好ましい。鋼構造物を設置する際には隣り合う鋼構造物で設置高さにずれが生じることがあるが、高さの異なるスペーサー6を適宜設けることにより、プレキャストコンクリート部材50を設置高さを揃えることができる。これにより構造壁1としての景観を良好なものにすることができる。なお、基礎コンクリート部材5とプレキャストコンクリート部材50との間にはパッキン7が設けられており、後に開口部51に充填されるモルタル等aが漏出しないようになっている。
【0061】
上記の
図17に示す例では、プレキャストコンクリート部材50と、そのプレキャストコンクリート部材50の底面に接する鋼構造物の受け面との間に設けられたギャップ調節機構として、高さの異なる複数のスペーサー6を用いることとしたが、ギャップ調節機構はスペーサー6を用いることに限定されない。例えば
図18に示すように、プレキャストコンクリート部材50の下端部に高さ調節用ボルト8を設けるようにしても良い。
図18に示す例では、プレキャストコンクリート部材50の下端面から突出するボルト8の高さを調節することで、プレキャストコンクリート部材50の設置高さを調節することができる。
【0062】
また、プレキャストコンクリート部材50を地表面から離れた位置に設置する際には、
図19に示すように鋼構造物にブラケット9を取り付けるようにしても良い。
図19に示す例では、ブラケット9の上面にプレキャストコンクリート部材50の幅方向に延びる底型枠10を設置し、
図17に示す例と同様にスペーサー6によってプレキャストコンクリート部材50の設置高さを調節する。なお、プレキャストコンクリート部材50の設置後のブラケット9については、構造壁1の設置個所の地表面を周囲の地表面と同じ高さになるように土で埋めても良いし、ガス切断により除去しても良い。また、
図20に示すように、ギャップ調節機構として
図18に示す例と同様に高さ調節用ボルト8を設けても良い。
【0063】
なお、
図17〜20では、鋼構造物として鋼管矢板30を用いた例を示したが、鋼構造物として鋼矢板20を用いた場合についても、同様の形態を採用できる。
【0064】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0065】
例えば鋼構造物の形状や設置位置等は前述の実施形態で説明したものに限定されない。同様に、プレキャストコンクリート部材50の形状は前述の実施形態で説明したものに限定されない。例えば
図21に示すように高さが低い形状であっても良い。すなわち、プレキャストコンクリート部材50の形状は構造壁1の用途によって適宜変更される。また、プレキャストコンクリート部材50の開口部51の形状は、使用する鋼構造物の形状、設置位置等において適宜変更される。
【0066】
また、
図22、23に示す実施形態のように、棒状部材2は省略しても構わない。、
図22、23に示す実施形態のように、棒状部材2が無くても、開口部51の内部において、鉄骨部材55と鋼矢板20の上部である突出部21が互いに平行に対向して配置されることにより、プレキャストコンクリート部材50が受ける回転モーメントが効果的に鋼矢板20に伝達され、津波などの発生時にプレキャストコンクリート部材50に作用する外力を強固に受け止めることが可能となる。なお、
図22、23に示すように、棒状部材2が無い場合であっても、プレキャストコンクリート部材50の内部には、補強用の鉄筋として、主鉄筋62が上下方向に配置されていることが好ましい。
【0067】
また同様に、
図24、25に示す実施形態のように、鋼構造物として鋼管矢板30を用いた場合も同様に、棒状部材2は省略しても構わない。これら
図24、25に示す実施形態においても、開口部51の内部において、鉄骨部材55と鋼管矢板30の上部(突出部に相当)が互いに平行に対向して配置されることにより、プレキャストコンクリート部材50が受ける回転モーメントが効果的に鋼管矢板30に伝達され、津波などの発生時にプレキャストコンクリート部材50に作用する外力を強固に受け止めることが可能となる。なお、第1の実施形態やこれら
図22〜25に示す実施形態のように、棒状部材2を省略する場合は、先に説明した棒状部材2を挿入して鋼矢板20とプレキャストコンクリート部材50を接続する工程(第2の実施形態に関連して説明した第2工程)を省略でき、作業効率が向上する。
【0068】
また、前述の実施形態では、
図26に示すように、鉄骨部材55を2枚の鋼板で構成した例を示したが、
図27に示すように、鉄骨部材55としてリブ70付の鋼板を用いても良い。この
図27に示すリブ70付の鉄骨部材55によれば、開口部51内で凝固したモルタル等aによってプレキャストコンクリート部材50はしっかりと定着され、プレキャストコンクリート部材50の上方への抜け出しをより確実に防止できる。
【0069】
また、
図28に示すように、鉄骨部材55として2枚の鋼板をコの字形状の鉄筋71で溶接して固定しても良い。この
図28に示す鉄骨部材55によれば、2枚の鋼板の間隔を確実に一定に保つことができ、鉄骨部材55の変形を防止できる。