【実施例】
【0030】
<実施例1>
弱酸性の次亜塩素酸ナトリウム水溶液((株)ハセッパー技研製、商品名:カンファ水(登録商標)、有効塩素濃度:200ppm、400ppm、pH:6.0〜6.8)を用いた。
当該水溶液を抗がん剤分解剤として用いた。
【0031】
<実施例2>
弱酸性の次亜塩素酸ナトリウム水溶液((株)ハセッパー技研製、商品名:カンファ水(登録商標)、有効塩素濃度:50ppm、pH:6.0〜6.8)を用いた。
当該水溶液を抗がん剤分解剤として用いた。
【0032】
<実施例3、4>
弱酸性の次亜塩素酸ナトリウム水溶液((株)ハセッパー技研製、商品名:カンファ水(登録商標)、有効塩素濃度:200ppm、pH:5.0、6.8にそれぞれ調製したもの)を実施例3、実施例4として用いた。
当該水溶液を抗がん剤分解剤として用いた。
【0033】
<試験1:抗がん剤に対する分解効果その1>
実施例1の抗がん剤分解剤を用いて、「アルキル化薬」の(1)シクロホスファミド、「代謝拮抗薬」の(2)5−フルオロウラシルに対する抗がん剤分解効果を確認する試験を以下の手順で行った。
まず、分解対象の2種類の抗がん剤をそれぞれ以下のように調整した。
(1)抗がん剤「シクロホスファミド(塩野義製薬製、商品名:注射用エンドキサン100mg)」に対し生理的食塩水5.0mLを加えて溶解させたものをシクロホスファミド原液(20mg/mL)とし、さらに精製水を混合させて希釈し、シクロホスファミド溶液(10μg/mL)とした。
(2)抗がん剤「5−フルオロウラシル(協和発酵キリン製、商品名:5−FU注250mg/5mL」をそのまま5−フルオロウラシル原液(50mg/mL)とし、さらに精製水を混合させて希釈し、5−フルオロウラシル溶液(100μg/mL)とした。
そして、上記の抗がん剤1.0mlそれぞれに対し、実施例1の分解剤9.0mlを加えて振り混ぜたものを測定試料溶液とし、高速液体クロマトグラフ(HPLC)を用いて定量分析を行った。
なお、比較対照として、上記の抗がん剤1.0mlそれぞれに対し精製水9.0mlを加えて振り混ぜたものも用意して定量分析を行った。
【0034】
HPLC定量分析の試験条件は以下の通りである。
高速液体クロマトグラフ(Waters Corpоratiоn社製、Alliance e2695)を用い、検出器は紫外可視光検出器(同社製、2489UV/VIS)を用いた。
(1)シクロホスファミドについては、移動相に超純水とアセトニトリルの溶媒を用いたイソクラティック条件で送液し、移動相中に測定試料溶液を注入し、ODSカラムで分離した後、測定波長200nmで測定を行った。
(2)5−フルオロウラシルについては、移動相にリン酸水素二ナトリウム水溶液とメタノールの混合溶媒を用いたイソクラティック条件で送液し、移動相中に測定試料溶液を注入し、ODSカラムで分離した後、測定波長265nmで測定を行った。
【0035】
試験1の試験結果を
図1に示す(n=3)。
それぞれの抗がん剤に対し、抗がん剤分解剤(有効塩素濃度:200ppm、400ppm)を加えてから10分後の抗がん剤分解率を求めた。
詳しく述べると、紫外可視吸収スペクトル測定や質量分析法、クロマトグラムにおける保持時間から、シクロホスファミド、5−フルオロウラシルの存在を推定し、また、シクロホスファミド、5−フルオロウラシルに対応する各ピーク面積の割合(%)から絶対検量線法によって測定濃度(μg/ml)を求めて、当該測定濃度から抗がん剤の「検出量(μg)」、「抗がん剤の分解率(%)」を求めた。
【0036】
試験結果から、有効塩素濃度200ppmの抗がん剤分解剤は、(1)シクロホスファミド及び(2)5−フルオロウラシルを分解処理するにあたって、処理開始から10分後で100%分解することが分かった。
また、有効塩素濃度400ppmの抗がん剤分解剤は、(1)シクロホスファミド及び(2)5−フルオロウラシルを分解処理するにあたって、処理開始から10分後で100%分解することが分かった。
【0037】
<試験2:抗がん剤に対する分解効果その2>
実施例1の抗がん剤分解剤を用いて、「代謝拮抗薬」の(1)ゲムシタビン、(2)シタラビン、(3)6−メルカプトプリン、「白金化合物」の(4)シスプラチン、(5)カルボプラチン、「トポイソメラーゼ阻害薬」の(6)エトポシド、「抗生物質」の(7)ドキソルビシンに対する抗がん剤分解効果を確認する試験を以下の手順で行った。
まず、分解対象の7種類の抗がん剤をそれぞれ以下のように調整した。
(1)抗がん剤「ゲムシタビン(サンド製、商品名:ゲムシタビン点滴静注液200mg「サンド」5mL)」をそのままゲムシタビン原液(40mg/mL)とし、さらに精製水を混合させて希釈し、ゲムシタビン溶液(100μg/mL)とした。
(2)抗がん剤「シタラビン(武田薬品製、商品名:シタラビン点滴静注液400mg「テバ」20mL)」をそのままシタラビン原液(20mg/mL)とし、さらに精製水を混合させて希釈し、シタラビン溶液(100μg/mL)とした。
(3)抗がん剤「6−メルカプトプリン(大原薬品製、商品名:ロイケリン散10%)」を精製水で溶解して6−メルカプトプリン原液(1mg/mL)とし、さらに精製水を混合させて希釈し、6−メルカプトプリン溶液(100μg/mL)とした。
(4)抗がん剤「シスプラチン(日医工製、商品名:シスプラチン注10mg「日医工」20mL)」をそのままシスプラチン原液(0.5mg/mL)とし、さらに精製水を混合させて希釈し、シスプラチン溶液(100μg/mL)とした。
(5)抗がん剤「カルボプラチン(沢井製薬製、商品名:カルボプラチン点滴静注液50mg「サワイ」5mL)」をそのままカルボプラチン原液(10mg/mL)とし、さらに精製水を混合させて希釈し、カルボプラチン溶液(100μg/mL)とした。
(6)抗がん剤「エトポシド(武田テバファーマ製、商品名:エトポシド点滴静注100mg「タイヨー」5mL)」をそのままエトポシド原液(20mg/mL)とし、さらに精製水を混合させて希釈し、カルボプラチン溶液(100μg/mL)とした。
(7)抗がん剤「ドキソルビシン(日本化薬製、商品名:ドキソルビシン塩酸塩注射用10mg「NK」5mL)」をそのままドキソルビシン原液(2mg/mL)とし、さらに精製水を混合させて希釈し、ドキソルビシン溶液(100μg/mL)とした。
そして、上記の抗がん剤1.0mlそれぞれに対し、実施例1の分解剤9.0mlを加えて振り混ぜたものを測定試料溶液とし、高速液体クロマトグラフ(HPLC)を用いて定量分析を行った。
【0038】
(1)ゲムシタビン、(4)シスプラチン、(5)カルボプラチン、(6)エトポシドのHPLC定量分析の試験条件は以下の通りである。
高速液体クロマトグラフ タンデム四重極型質量分析計(Waters Corpоratiоn社製、ACQUITY UPLC)、検出器(同社製、Xevо TQ)を用いた。
(1)ゲムシタビンについては、移動相にギ酸アンモニウム水溶液とアセトニトリルの混合溶媒を用いたグラジエント条件で送液し、移動相中に測定試料溶液を注入し、UPLC用アミド基結合型カラムで分離した後、ESI法のポジティブモードで264⇒112(m/Z)のマスクロマトグラムの測定を行った。
(4)シスプラチンについては、移動相に超純水を用いたイソクラティック条件で送液し、移動相中に測定試料溶液を注入し、UPLC用ODSカラムで分離した後、ESI法のネガティブモードで301⇒268(m/Z)のマスクロマトグラムの測定を行った。
(5)カルボプラチンについては、移動相に超純水を用いたイソクラティック条件で送液し、移動相中に測定試料溶液を注入し、UPLC用ODSカラムで分離した後、ESI法のポジティブモードで373⇒248(m/Z)のマスクロマトグラムの測定を行った。
(6)エトポシドについては、移動相にギ酸水溶液とアセトニトリルの混合溶媒を用いたイソクラティック条件で送液し、移動相中に測定試料溶液を注入し、UPLC用極性基内包型カラムで分離した後、ESI法のポジティブモードで590⇒229(m/Z)のマスクロマトグラムの測定を行った。
【0039】
また、(2)シタラビン、(3)6−メルカプトプリン、(7)ドキソルビシンのHPLC定量分析の試験条件は以下の通りである。
高速液体クロマトグラフ(Waters Corpоratiоn社製、Alliance e2695)を用い、検出器は紫外可視光検出器(同社製、2489UV/VIS)を用いた。
(2)シタラビンについては、移動相に超純水とアセトニトリルの溶媒を用いたイソクラティック条件で送液し、移動相中に測定試料溶液を注入し、ODSカラムで分離した後、測定波長210nmで測定を行った。
(3)6−メルカプトプリンについては、移動相にアセトニトリルと2−プロパノールと酢酸アンモニウム水溶液の混合溶媒を用いたイソクラティック条件で送液し、移動相中に測定試料溶液を注入し、UPLC用アミド基結合型カラムで分離した後、測定波長325nmで測定を行った。
(7)ドキソルビシンについては、移動相にドデシル硫酸ナトリウムとリン酸水溶液とアセトニトリルの混合溶媒を用いたイソクラティック条件で送液し、移動相中に測定試料溶液を注入し、ODSカラムで分離した後、測定波長254nmで測定を行った。
【0040】
試験2の試験結果を
図2−
図5に示す(n=3)
それぞれの抗がん剤に対し、抗がん剤分解剤(有効塩素濃度:200ppm)を加えてから3分後、10分後の抗がん剤分解率(%)を求めた。
詳しく述べると、これら7種類の抗がん剤に対応する各ピーク面積の割合(%)から絶対検量線法によって測定濃度(μg/ml)を求めて、当該測定濃度から抗がん剤の「検出量(μg)」、「抗がん剤の分解率(%)」を求めた。
【0041】
試験結果から、有効塩素濃度200ppmの抗がん剤分解剤は、(1)ゲムシタビン、(2)シタラビン、(3)6−メルカプトプリン、(4)シスプラチン、(6)エトポシド、及び(7)ドキソルビシンを分解処理するにあたって、処理開始から3分後で100%分解することが分かった。また、(5)カルボプラチンを分解処理するにあたって、処理開始から3分後で99%以上分解することが分かった。
【0042】
試験1、試験2で用いられた各抗がん剤の濃度は、一般的に病院内で抗がん剤曝露が起こっているとされる濃度範囲の上限よりも高い濃度を想定して設定した。
そのため、実際の現場において、対象となる抗がん剤のこぼれ(スピル)によって汚染された汚染対象(曝露された曝露対象)に対し、本実施例の抗がん剤分解剤を適用させることで、当該抗がん剤を有効かつ即効的に分解させることができることが示唆された。
【0043】
<試験3:抗がん剤に対する分解効果その3>
実施例2の抗がん剤分解剤を用いて、(1)シスプラチン、(2)エトポシド、(3)ドキソルビシンに対する抗がん剤分解効果を確認する試験を以下の手順で行った。
まず、分解対象の3種類の抗がん剤を上記試験2と同様にして調整した。
上記の抗がん剤1.0mlそれぞれに対し、実施例2の分解剤9.0mlを加えて振り混ぜたものを測定試料溶液とし、高速液体クロマトグラフ(HPLC)を用いて上記試験2と同様の試験条件で定量分析を行った。
【0044】
試験3の試験結果を
図6に示す(n=3)
それぞれの抗がん剤に対し、抗がん剤分解剤(有効塩素濃度:50ppm)を加えてから3分後の抗がん剤分解率(%)を求めた。
試験結果から、有効塩素濃度50ppmの抗がん剤分解剤は、(1)シスプラチンを分解処理するにあたって、処理開始から3分後で99%以上分解することが分かった。また、(2)エトポシド、(3)ドキソルビシンを分解処理するにあたって、処理開始から3分後でそれぞれ50%以上、70%以上分解することが分かった。
また、試験2、3の結果から、有効塩素濃度50ppmの抗がん剤分解剤を用いる場合には、抗がん剤を分解処理するにあたって、処理開始から10分経過させることで(より長い時間を経過させることで)、抗がん剤をより分解できることが示唆された。
【0045】
<試験4:抗がん剤に対する分解効果その4>
実施例4の抗がん剤分解剤を用いて、(1)シクロホスファミド、(2)フルオロウラシル、(3)シスプラチン、(4)エトポシド、(5)ドキソルビシンに対する抗がん剤分解効果を確認する試験を以下の手順で行った。
まず、分解対象の5種類の抗がん剤を上記試験1、2と同様にして調整した。
上記の抗がん剤1.0mlそれぞれに対し、実施例4の分解剤9.0mlを加えて振り混ぜたものを測定試料溶液とし、高速液体クロマトグラフ(HPLC)を用いて上記試験1、2と同様の試験条件で定量分析を行った。
【0046】
試験4の試験結果を
図7−8に示す(n=3)
それぞれの抗がん剤に対し、抗がん剤分解剤(有効塩素濃度:200ppm、pH:5.0、6.8に調製したもの)を加えてから3分後の抗がん剤分解率(%)を求めた。
試験結果から、pH:5.0、pH6.8の抗がん剤分解剤は、(4)エトポシドを分解処理するにあたって、処理開始から3分後で100%分解することが分かった。また、(1)シクロホスファミド及び(3)シスプラチンを分解処理するにあたって、処理開始から3分後で99%以上分解することが分かった。
【0047】
また、試験結果から、(2)フルオロウラシル及び(5)ドキソルビシンを分解処理するにあたっては、pH:5.0の抗がん剤分解剤よりもpH6.8の抗がん剤分解剤を用いた場合のほうが、高い分解効果を奏することが分かった。
このことから、上述した弱酸性の次亜塩素酸ナトリウム水溶液による「殺菌メカニズム」とは異なるメカニズムによって、抗がん剤に対する分解効果を奏することが示唆された。
すなわち、本発明の抗がん剤分解剤では、pH5.0〜6.8の範囲内においてpH5.0の場合に最も高い分解効果を奏するものではなく、pH6.8の場合に最も高い分解効果を奏するか、あるいはpH5.0〜6.8の所定値においてピークが存在し、当該ピーク値において最も高い分解効果を奏することが示唆された。