(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-29217(P2021-29217A)
(43)【公開日】2021年3月1日
(54)【発明の名称】培養微生物、醗酵品、土壌改良剤及び飼料
(51)【国際特許分類】
C12N 1/00 20060101AFI20210201BHJP
C12N 1/16 20060101ALI20210201BHJP
A21D 13/00 20170101ALI20210201BHJP
A23K 10/18 20160101ALI20210201BHJP
A21D 8/04 20060101ALN20210201BHJP
A23B 7/10 20060101ALN20210201BHJP
A21D 13/02 20060101ALN20210201BHJP
【FI】
C12N1/00 L
C12N1/00 F
C12N1/16 G
C12N1/16 D
A21D13/00
A23K10/18
A21D8/04
A23B7/10 B
A21D13/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2019-156576(P2019-156576)
(22)【出願日】2019年8月29日
(71)【出願人】
【識別番号】719004980
【氏名又は名称】井上 俊三
(71)【出願人】
【識別番号】719005688
【氏名又は名称】高橋 慶太郎
(72)【発明者】
【氏名】井上 俊三
(72)【発明者】
【氏名】高橋 慶太郎
【テーマコード(参考)】
2B150
4B032
4B065
4B169
【Fターム(参考)】
2B150AA05
2B150AB12
2B150AC06
2B150AC26
2B150AD04
2B150AD14
2B150AD15
2B150AD16
2B150AD17
2B150BD06
2B150BE04
4B032DB02
4B032DK12
4B032DK29
4B032DK55
4B032DP16
4B065AA80X
4B065BB26
4B065CA42
4B065CA43
4B065CA53
4B169DA05
4B169DB02
4B169DB04
4B169DB16
4B169HA01
(57)【要約】
【課題】本発明は米糠や米粉を基質として微生物を固体培養し、醗酵品製造用、土壌改良剤及び飼料として活用することを目的とする。
【解決手段】微生物の増殖に及ぼす白糠及び赤糠の配合割合の影響を確認した後、米糠や米粉に水溶液を添加し自己消化させた培地に微生物を接種する固体培養を行い、必要な場合それを温風乾燥して粉体微生物を調製する簡便法を確立した。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
米糠や米粉に水溶液を添加し雑菌が繁殖できないストレスを掛けた状態で自己消化させたものを基質として固体培養した微生物、あるいはそれを温風乾燥して得られる粉体微生物
【請求項2】
米糠や米粉に添加する水溶液のpHが2〜4である請求項1記載の微生物
【請求項3】
米糠や米粉に添加する水溶液のエタノール濃度が1〜17%である請求項1記載の微生物
【請求項4】
米糠や米粉に添加する水溶液の塩分濃度が10〜20%である請求項1記載の微生物
【請求項5】
米糠や米粉に添加する水溶液の割合が30〜300%である請求項1記載の微生物
【請求項6】
米糠が白糠あるいは赤糠単独ないしは両者を混合したものである請求項1、請求項2、請求項3あるいは請求項4記載の微生物
【請求項7】
請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5あるいは請求項6記載の方法で調製した微生物を使った醗酵品
【請求項8】
米糠や米粉を請求項1記載の方法で自己消化させた後蛋白分解酵素を失活処理したものを基質として固体培養した微生物あるいはそれを温風乾燥して得られる粉体微生物を使った醗酵品
【請求項9】
請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5あるいは請求項6記載の方法で調製した微生物の土壌改良剤あるいはそれを他の資材に配合した土壌改良剤
【請求項10】
請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5あるいは請求項6記載の方法で調製した微生物の飼料あるいはそれを他の資材に配合した飼料
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米糠や米粉を基質にして培養した微生物、それを使った醗酵品、土壌改良剤及び飼料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来微生物、例えば酵母を培養するには、炭素源、例えば糖蜜、窒素源、例えば蛋白質分解物及び各種ミネラルを含むエキスからなる培地による液体培養あるいは固体培養を行い、その後集菌し、必要あれば温風乾燥し粉体化しているが、無菌操作、固液分離操作及び温風による乾燥操作等特殊な設備と技術を要した。
【0003】
一方、米糠は玄米の精白時に大量に生ずるが、有効な利用例は少なく米油の製造やぬか床への利用の他では、微生物が関係する事例として米糠に乳酸、水及麹菌を混合し酵素力価の高い麹を製造する手法が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
また、精米を粉砕した米粉は食品用として利用されているが、微生物培養基材としての利用例は見当たらない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−275103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の液体培養あるいは固体培養による微生物の培養と粉体化には無菌培養、集菌及び乾燥等の工程が必要であり、特殊な設備、技術、多大な労力及びエネルギーを要した。
【0007】
また、米糠を微生物の培養に利用する例として米糠麹の製造法が提案されているが、同法は酵素力価の高い麹を製造する目的のものであり、微生物菌体を製造する最適な手法とは言えなかった。
【0008】
そこで、本発明は米糠や米粉を基質として簡易に微生物を培養し、かつ同微生物を醗酵品製造用、土壌改良剤及び飼料として活用することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
従来提案されている米糠麹製造法では、米糠はすでにアルファ化しており、蒸さずに麹を製造出来るとされているが、米糠の成分が酵母や乳酸菌等の微生物が利用可能な状態であるのか不明であったので、米糠の水可溶化物の酵母による醗酵性を確認した結果、利用可能な物質であることを確認した。
【0010】
そして、微生物の増殖に及ぼす白糠及び赤糠の配合割合の影響を確認した後、米糠や米粉に水を添加し自己消化させた培地に微生物を接種する固体培養を行い、必要な場合それを温風乾燥し粉体微生物を調製する簡便法を確立した。
【0011】
なお、米糠や米粉を基質とした微生物の培養に際しては、培養中の雑菌の混入及び繁殖を防ぐためストレスを掛けた状態、例えば酸性雰囲気下、アルコール雰囲気下あるいは高浸透圧雰囲気下での培養を採用した。
【発明の効果】
【0012】
本発明の請求項1、請求項2、請求項3あるいは請求項4によれば、米糠や米粉を基質にして雑菌による汚染を抑えながら微生物を培養することが可能であり、培養物あるいはそれを乾燥した粉体は製パンやぬか漬け等の醗酵品製造に利用可能であり、かつ土壌改良剤あるいは飼料として活用できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は本発明に係わる米糠培地による微生物の固体培養と粉体化工程の概念図である。
【
図2】
図2は米糠中の赤糠の配合率と酵母増殖の関係を表した図である。
【
図3】
図3は
図1に示した工程で酵母を固体培養した場合の生菌数の推移を示す図である。
【
図4】
図4は粉体酵母添加量と醗酵ガス量の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明実施の形態を説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【実施例1】
【0015】
米糠が微生物培養の基質になり得るかを確認するため、白糠に3倍量のpH3乳酸水溶液を添加し室温で3日間静置した後、遠心分離した上清中の可溶化物量を測定した結果、Brixが10.4であった。
【0016】
そこで、酵母サッカロマイセス・セレビシエを接種し、室温で一昼夜静置後のアルコール濃度を測定したところ3.9%(V/V)であった。
【0017】
なお、比較のために白糠にpH3乳酸水溶液を添加した後、直ちに遠心分離した上清に酵母サッカロマイセス・セレビシエを接種した場合は、室温で一昼夜静置後のアルコール濃度は0.8%(V/V)であった。
【0018】
以上のことから、米糠を微生物培養の基質として利用するには、水溶液添加後米糠が自己消化する時間が必要であり、その結果可溶化したものは微生物が利用出来る物質であることを確認出来た。
【実施例2】
【0019】
米糠には実施例1で用いた白糠の他に赤糠があり、アミノ酸類、ビタミン類及び各種ミネラルに富むと推測されるが、米油製造以外にはほとんど利用されていない。
【0020】
そこで、同糠の微生物培養への利用の可能性を確認すべく、白糠及び赤糠のpH3乳酸水溶液抽出物を調製し、それぞれ単独あるいは両者の混合液で酵母サッカロマイセス・セレビシエを振盪培養した結果、
図2に示すように赤糠の方が白糠より微生物培養の基質として優れ、しかも赤糠単独よりも赤糠の配合率が60〜70%(W/W)の場合が好ましいこしが分かった。
【0021】
そこで、
図1に示す工程で赤糠の配合率が60%(W/W)の米糠に3倍量のpH3乳酸水溶液を添加し、室温で一昼夜静置した培地による酵母サッカロマイセス・セレビシエの固体培養[5日間、間欠撹拌(1時間毎に15分間)]を室温で行い、培養中の生菌数の推移を確認した結果、
図3に示す結果が得られた。
【0022】
そして、培養終了後培養物を40℃以下で温風乾燥することにより粉体酵母が容易に調整出来た。
【実施例3】
【0023】
実施例2では培養中の雑菌の混入を防ぐためpH3乳酸水溶液を米糠に添加したが、pH3酢酸水溶液を添加した場合について評価した結果、実施例2とほぼ同等の結果であった。
【実施例4】
【0024】
実施例2では培養中の雑菌の混入を防ぐためpH3乳酸水溶液を米糠に添加したが、pH3塩酸水溶液を添加した場合について評価した結果、実施例2とほぼ同等の結果であった。
【実施例5】
【0025】
実施例2では培養中の雑菌の混入を防ぐためpH3乳酸水溶液を米糠に添加したが、乳酸でpHを4に調整した17%エタノール水溶液を添加した場合について評価した結果、実施例2とほぼ同等の結果であった。
【実施例6】
【0026】
実施例2では培養中の雑菌の混入を防ぐためpH3乳酸水溶液を米糠に添加したが、食塩濃度10%の水溶液を添加した場合について評価した結果、実施例2とほぼ同等の結果であった。
【実施例7】
【0027】
実施例2では白糠と赤糠の配合率の効果を確認したが、精米を粉砕した米粉も白糠とほぼ同等の品質であることから、米粉と赤糠の配合品についても評価した結果、実施例2とほぼ同等の結果であった。
【実施例8】
【0028】
赤糠の配合率が60%の米糠にpH3乳酸水溶液を添加し室温で一昼夜静置した培地に製パン用酵母サッカロマイセス・セレビシエを接種し、室温で固体培養[3日間、間欠撹拌(1時間毎に15分間)]した後、40℃以下で温風乾燥し粉体酵母を調製した。
【0029】
その発酵力は
図4に示すファーモグラフの様であったので、醗酵速度はやや遅いが最終トータルガス量がほぼ同じ位になると思われる5%添加の中種法による製パン試験を行った。
【0030】
中種は、例えば小麦粉100gに砂糖14g、塩1.7g、粉体酵母14g及び水91.2gを添加し良く捏ねた後、室温で一晩静置した。
【0031】
次いで、小麦粉180g、砂糖5.6g、塩3.66g及び水114.6gを添加し、ホームベーカリーで製パンした。
【0032】
その結果、液体培養で調製した酵母を使って製パンしたものと比較し遜色ないものが出来た。
【実施例9】
【0033】
赤糠の配合率が60%の米糠に3倍量の10%食塩水溶液を添加し室温で一昼夜静置した培地で培養した耐塩性酵母サッカロマイセス・セレビシエと乳酸菌ラクトバチルス・ラクティスの混合粉体を生糠、食塩及び野菜類から成るぬか床に添加し糠漬けを製造した結果、ぬか床の熟成が促進され、かつ漬物の食感及び食味が著しく改良された。
【実施例10】
【0034】
実施例8の様にして調製した粉体酵母サッカロマイセス・セレビシエを蓮根の栽培圃場に散布し、土壌中の微生物叢の推移を観察した結果、蓮根の生育に悪影響を及ぼす線虫類の減少が見られ、収穫量も増大した。
【実施例11】
【0035】
実施例8の様にして調製した酵母サッカロマイセス・セレビシエと乳酸菌ラクトバチルス・ラクティスの混合粉体を飼料に配合し鶏舎で与えたところ、糞尿による臭いがほとんど無くなり、鶏舎内の環境が著しく改善された。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は製パンや糠漬け等の発酵食品の製造での利用が可能であり、また土壌改良剤や飼料として農畜産業での利用が可能である。