特開2021-29453(P2021-29453A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特開2021-29453顕微授精用装置および顕微授精用術具の位置制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-29453(P2021-29453A)
(43)【公開日】2021年3月1日
(54)【発明の名称】顕微授精用装置および顕微授精用術具の位置制御方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/43 20060101AFI20210201BHJP
   G02B 21/32 20060101ALI20210201BHJP
   A61B 34/35 20160101ALI20210201BHJP
【FI】
   A61B17/43
   G02B21/32
   A61B34/35
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2019-150901(P2019-150901)
(22)【出願日】2019年8月21日
(11)【特許番号】特許第6725735号(P6725735)
(45)【特許公報発行日】2020年7月22日
(71)【出願人】
【識別番号】515264012
【氏名又は名称】福永 憲隆
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】特許業務法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福永 憲隆
【テーマコード(参考)】
2H052
4C160
【Fターム(参考)】
2H052AF19
4C160HH01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】顕微鏡視野で卵細胞質内精子注入法(ICSI)に用いられる術具であって、手動操作される術具を所望の位置に移動する。
【解決手段】術具の先端の位置を手動操作に応じて3次元的に移動する手動移動部を備え、手動操作で移動される術具の先端の位置を、所定の操作に応じて記憶する。こうして記憶された複数の位置の1つを選択して、位置への術具の先端の移動が指示部により指示されたとき、手動移動部による術具の移動を無効にすると共に、術具の先端を、選択された位置まで移動制御部200により移動する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
顕微鏡視野で用いられ、手動で操作される術具の位置制御装置であって、
前記術具の先端の位置を手動操作に応じて3次元的に移動する手動移動部と、
前記移動される術具の先端の位置を、所定の操作に応じて記憶する位置記憶部と、
前記記憶された複数の位置の1つを選択して、当該位置への前記術具の先端の移動を指示する指示部と、
前記指示を受けたとき、前記手動移動部による前記術具の移動を無効にすると共に、前記術具の先端を、前記選択された位置まで移動する移動制御部と
を備えた術具の位置制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の術具の位置制御装置であって、
前記記憶部は、前記検出部が検出した前記術具の現在の位置を、前記複数の位置の1つとして記憶する、位置制御装置。
【請求項3】
前記対象は、卵子であり、
前記術具は、前記卵子に精子を送り込むインジェクションピペットである請求項1または請求項2に記載の術具の位置制御装置。
【請求項4】
前記対象は卵子であり、
前記術具は、前記卵子を保持するホールディングピペットである請求項1または請求項2に記載の術具の位置制御装置。
【請求項5】
前記位置制御部が、背前記術具の先端を前記複数の位置の1つに移動したとき、前記移動の完了を報知する、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の術具の位置制御装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載された術具の位置制御装置を組み込んだ顕微授精装置。
【請求項7】
顕微鏡視野で用いられ、手動で操作される術具の位置制御方法であって、
前記術具の先端の位置を手動操作に応じて3次元的に移動し、
前記移動される術具の先端の位置を、所定の操作に応じて記憶し、
前記記憶された複数の位置の1つを選択して、当該位置への前記術具の先端の移動を指示し、
前記指示を受けたとき、前記手動での前記術具の移動を無効にすると共に、前記術具の先端を、前記選択された位置まで移動する
術具の位置制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、顕微鏡視野でのピペットなどの術具の位置を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
不妊治療の一つとして、1個の精子細胞を直接卵子細胞質内に注入して受精させる卵細胞質内精子注入法(ICSI)が開発され、実用化されている。ICSIでは、顕微鏡視野を観察しながら、インジェクションピペットなどを精密に駆動する作業が存在する。以下、こうした処理を、顕微授精と呼ぶ。顕微授精の作業では、ピペットの先端を所定の位置に精度良く位置決めする必要がある。このため、ピペットなどの術具は、マニピュレータを用いて、精度良く位置決めされる。こうした目的のために、極めて微少な動きを精度良く実現するマイクロマニピュレータが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−330781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、こうした位置決めの作業は、全て胚培養士などの作業者の手動操作によって行なわれ、顕微授精などの作業を補助するような機構は備えていない。顕微授精などの作業では、顕微鏡視野において、繰り返し同じ場所にピペットの先端を持っていくといった作業が存在するが、全て胚培養士などの術者が手作業で行なっている。この作業を分析すると、倍率を上げて行なう受精処理の後で、ピペットをPVP洗浄の位置まで持っていく際には、倍率を下げ、ピペットを大きく移動する。PVP洗浄の後には、ピペット先端を次の受精処理位置までに移動し、倍率を上げて、受精処理を行なう。このように、ピペットの移動には、顕微鏡視野の倍率の変更などが伴う上、ピペットの移動量も、受精作業中に精緻な移動と、作業位置の大きな変更のための移動とでは大きく異なり、術者は、顕微鏡視野で、煩瑣な作業を強いられていた。作業に失敗すれば、貴重な受精用の卵子(胚)が失われるため、作業者は強い緊張を強いられており、顕微鏡視野での作業の軽減が強く求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0006】
本開示の一態様として、術具の位置制御装置が提供される。この位置制御装置は、顕微鏡視野で用いられ、手動で操作される術具の位置を制御する装置である。この位置制御装置は、前記術具の先端の位置を手動操作に応じて3次元的に移動する手動移動部と、前記移動される術具の先端の位置を、所定の操作に応じて記憶する位置記憶部と、前記記憶された複数の位置の1つを選択して、当該位置への前記術具の先端の移動を指示する指示部と、前記指示を受けたとき、前記手動移動部による前記術具の移動を無効にすると共に、前記術具の先端を、前記選択された位置まで移動する移動制御部とを備える。この術具の位置制御装置によれば、手動で操作される術具を、必要に応じて所望の位置に容易に移動することができる。
【0007】
こうした術具の位置制御装置において、前記記憶部は、前記検出部が検出した前記術具の現在の位置を、前記複数の位置の1つとして記憶するものとしてよい。こうすれば、移動先の位置を容易に記憶することができる。
【0008】
こうした術具の移動制御装置において、前記対象は、卵子であり、前記術具は、前記卵子に精子を送り込むインジェクションピペットであるものとしてよい。顕微授精において、インジェクションピペットの位置の移動は短時間に行なう必要があり、こうした術具の位置制御装置を用いることで、顕微授精を短時間に完了することが可能となる。
【0009】
同様に、前記対象は卵子であり、前記術具は、前記卵子を保持するホールディングピペットであるものとしてもよい。
【0010】
こうした術具の位置制御装置において、前記位置制御部が、前記術具の先端を前記複数の位置の1つに移動したとき、前記移動の完了を報知するものとしてもよい。この移動制御装置では、一時的に手動での術具の移動を無効にするため、こうした報知を行なうことで、移動の完了を知ることが容易となり、術具の扱いを容易にすることができる。
【0011】
本開示は、上述した術具の位置制御装置を組み込んだ顕微授精装置として実施することも可能である。位置制御装置は、顕微授精装置にオプションとして接続してもよいし、最初から組み込んで実施してもよい。
【0012】
本開示は、この他、術具の移動制御方法や、術具の移動位置の登録方法などの形態で実施することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】顕微授精に用いられる装置と顕微授精の様子を示す説明図である。
図2A】顕微授精の要部を示す説明図である。
図2B】顕微受精を行なう際のディッシュ内の溶液の配置例を示す説明図である。
図3】実施形態としての顕微授精装置の概要を示す説明図である。
図4】操作部の構成を示す正面図である。
図5】マニピュレータの構成例を示す説明図である。
図6】操作部の操作によりピペットが動作する様子を示す説明図である。
図7】第1実施形態における制御部の概略構成図である。
図8】実施形態における位置学習処理ルーチンを示すフローチャートである。
図9】実施形態におけるピペット移動処理ルーチンを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
A.顕微授精装置の概要:
ピペットの位置を自動的に所定の位置に制御する位置制御機構が組み込まれた顕微授精装置100について以下説明するが、実施形態の顕微授精装置100の説明に先立って、まず位置制御機構が組み込まれていない従来の顕微授精装置について説明する。図1は、従来の顕微授精の操作に用いられる装置および顕微授精の処理について示す説明図である。図2は、顕微授精の要部を示す説明図である。図2は、模式図であり、後述する卵子10の大きさと膜厚等は、実際の卵子の各サイズとの相関関係はない。顕微授精では、作業者E(例えば胚培養士)は、顕微授精装置20を用いて、卵子に、インジェクションピペットを用いて、精子を注入する作業を行なう。
【0015】
図1図2Aに示すように、顕微授精装置20は、倒立顕微鏡25と、1対の細胞操作用のマニピュレータ31,32と、1対のインジェクター79(作業者Eの右手側のインジェクターは不図示)と、インジェクションピペット34と、ホールド用マイクロピペット36と、を備える。倒立顕微鏡25は、接眼レンズ21と、ステージ22と、対物レンズと、を備える。ステージ22の上方の左右両側には、左右一対のマニピュレータ31,32が配置されている。マニピュレータ31には、ホルダー33(図2A)を介してインジェクションピペット34が支持されている。マニピュレータ32には、ホルダー35を介してホールド用マイクロピペット36が支持されている。マニピュレータ31,32(図1)は、作業者Eの操作に応じて、それぞれ、インジェクションピペット34,ホールド用マイクロピペット36を、前後、左右および上下に、精密に動かすことができる。作業者Eは、顕微授精装置20の右左に配置された操作部37,38を操作することにより、マニピュレータ31,32を自由に操作することができる。また、作業者Eは、図示しない操作部を操作することで、ステージ22を前後左右に自由に移動することができる。
【0016】
ホルダー33の他端には、可撓性のチューブ41を介してインジェクター69(不図示)が接続されており、ホルダー35の他端には、可撓性のチューブ42を介してインジェクター79が接続されている。1対のインジェクターは、作業者Eの操作に応じて、チューブ41,42およびホルダー33,35内の圧力を調整する。
【0017】
顕微授精を行なう際、作業者Eは、倒立顕微鏡25のステージ22上にディッシュ50を載置する(図2A)。このとき、ディッシュ50は、マニピュレータ31とマニピュレータ32との間に配置される。図2Aに示すように、ディッシュ50内に形成された培養液52のドロップはミネラルオイル54に被覆されている。培養液52のドロップ内には、顕微授精を行なう際には、卵子10が配置される。図2Aでは、卵子10が培養液52内に配置されているように描いているが、準備段階では、単に培養液52のドロップが形成され、ミネラルオイル54により覆われているだけである。培養液52としては、本実施形態では、生理食塩水(塩化ナトリウムを0.9w/v%含有する食塩水)を用いているが、これに限定されない。なお、ディッシュ50内には、顕微授精の際に卵子10が配置されるドロップ以外のドロップも存在するが、その詳細は、後述する。
【0018】
顕微授精を行なう場合、作業者Eは、倒立顕微鏡25(図1)の接眼レンズ21を覗き、対物レンズを介してディッシュ50内を観察しながら、倒立顕微鏡25の倍率を作業に応じた適正な値に調整しつつ、マニピュレータ31,32を操作すると共に、インジェクター79および図示せざる他方のインジェクターを操作して、作業を行なう。この作業は、大まかには、
(1)各ピペットの位置を調整するなどの準備処理:
(2)精子の添加処理および卵子の配置処理:
(3)顕微授精処理:
(4)後処理:
の4つに分けられる。
【0019】
実際の顕微授精で用いられるディッシュ50内の溶液の配置の一例を、図2Bに示した。図2Bは、作業者Eが倒立顕微鏡25を用いて見ている視野に対応させて描いている。実際には、倒立顕微鏡25の倍率は、受精作業をする際には、少なくとも400倍程度とされるので、作業者Eは、一視野内に、図2Bの形でディッシュ50内を視認することはできない。
【0020】
ディッシュ50内は、上述したように複数のドロップがミネラルオイル54に被覆された状態で配置される。図2Bにおいて、ディッシュ50内における作業者Eの視野上方には、ホールド用ピペット洗浄用溶液のドロップ(以下、第1洗浄用溶液ドロップという)81が配置される。また、ディッシュ50の左側から中央にかけての領域には、精子添加用ドロップ82、PVPドロップ84、インジェクションピペット洗浄用溶液のドロップ(以下、第2洗浄用溶液ドロップという)85が配置される。ディッシュ50の右側には、上述した卵子10が入った培養液52の卵子用ドロップ86ないし89が配置される。
【0021】
これらのドロップのうち、精子添加用ドロップ82には、後で精子が添加される。また、卵子用ドロップ86ないし89の各々には、患者から採取された卵子10が一つずつ入れられている。第1,第2洗浄用溶液ドロップ81,85は、洗浄用溶液自体のドロップである。洗浄用溶液としては、m-HTF(modified-Human Tubal Fluid)を用いることができる。m-HTFは、空気環境下での使用に適した培養液である。もとより、他の周知の洗浄用溶液を用いてもよい。PVPドロップ84は、PVP溶液のドロップである。PVP溶液は、粘性が高く、精子をここに入れて、精子の運動を抑制し、精子の尾を挫滅させるのに利用される。
【0022】
B.顕微授精処理の概要:
次に、通常の顕微授精処理の概要について説明する。もとより顕微授精処理は、胚培養器の機能や容量、胚培養士の技量などにより、様々なやり方があり得るため、以下に説明する処理以外にも様々なバリエーションが存在する。以下は、後述する実施形態での処理を分かりやすくするために、作業者Eが行なう顕微授精処理の準備処理の一つについて、その概要を示すものである。以下の処理は、全て作業者Eにより行なわれる。一連の処理は、最終的に顕微授精を行なう者と同じ作業者Eにより行なってもよいし、別の者が行なってもよい。
【0023】
(1)準備処理:
[1]ディッシュ50を倒立顕微鏡25のステージ22の中央に載せ、倒立顕微鏡25のステージ22を移動し、第1洗浄用溶液ドロップ81を視野の中央に位置させる。
[2]作業者Eは、右手でホールド用マイクロピペット36を、左手でホルダー35をそれぞれ持ち、ホールド用マイクロピペット36をホルダー35に付ける。
【0024】
[3]ホルダー35を左側のマニピュレータ32に取り付け、倒立顕微鏡25の視野を見ながら、ホールド用マイクロピペット36の先端が、第1洗浄用溶液ドロップ81の真上に来るように、調整する。この調整は、主に手動で行なわれる。
[4]作業者Eは、左手で、マニピュレータ32の左手用の操作部38を操作し、ホールド用マイクロピペット36の先端を下降させ、先端を第1洗浄用溶液ドロップ81内に位置させる。この位置を、以下、第1洗浄位置と呼ぶ。
【0025】
[5]作業者Eは左手で、インジェクター79を操作し、ホールド用マイクロピペット36内部の培養液を吐出させる。その上で、ホールド用マイクロピペット36の先端を視野の中心に移動する。
[6]倒立顕微鏡25の対物レンズを切り替えて顕微鏡視野の倍率を上げ、ホールド用マイクロピペット36の先端の向きを調整する。
【0026】
[7]作業者Eは、倒立顕微鏡25の対物レンズを切換えて顕微鏡視野の倍率を下げ、左手で、マニピュレータ32の操作部38を操作して、ホールド用マイクロピペット36を上昇させる。
[8]左手で、倒立顕微鏡25のステージ22を移動し、PVPドロップ84を視野の中心に位置させる。
【0027】
[9]もう一つのインジェクター79を操作して、インジェクションピペット34内の圧力を調整した上で、インジェクションピペット34をホルダー33に取り付ける。
[10]ホルダー33を右側のマニピュレータ31に取り付け、倒立顕微鏡25の視野を見ながら、インジェクションピペット34の先端が、PVPドロップ84の真上に来るように、調整する。この調整は、主に手動で行なわれる。
[11]作業者Eは、右手で、マニピュレータ31の右手用の操作部37を操作し、インジェクションピペット34の先端を下降させ、先端をPVPドロップ84内に位置させる。この位置を、以下、PVP位置と呼ぶ。
【0028】
[12]インジェクションピペット34を視野の中心に移動し、インジェクションピペット34の角度を調整する。
[13]もう一つのインジェクター79を調整して、インジェクションピペット34の内部をPVPで一旦満たし、その状態で、インジェクター79を操作して、PVPを吸い込んだり吐出したりする。
[14]マニピュレータ31を操作してインジェクションピペット34を上昇させる。
【0029】
[15]ステージ22を移動し、視野の中心に卵子用ドロップ86〜89のうちのいずれかのドロップが来るように調整する。一般に顕微授精の処理は、複数の卵子用ドロップ86〜89の端から行なうので、卵子用ドロップ86または89が選択される。
[16]作業者E、左手でマニピュレータ32を操作し、ホールド用マイクロピペット36を卵子用ドロップ86へ下降させる。
[17]倒立顕微鏡25の倍率を上げ、ホールド用マイクロピペット36の位置を基準として、インジェクションピペット34の位置を調整する。
こうして調整されたホールド用マイクロピペット36およびインジェクションピペット34の位置を、以下、卵子位置と呼ぶ。
[18]倒立顕微鏡25の倍率を下げ、準備処理を終了する。次の処理までに時間が空く場合は、ライトなどを消灯してもよい。
【0030】
(2)精子の添加処理および卵子の配置処理:
顕微授精処理に先立って、精子添加用ドロップ82に精子を添加する。精子の添加は、顕微授精装置20とは別のピペットなどを利用して、ディッシュ50の精子添加用ドロップ82に、予め用意した精子を添加することにより行なわれる。
【0031】
他方、患者から採取した卵子10を、用意した卵子用ドロップ86〜89に、一つずつ配置する。この処理は、顕微授精装置20とは別のピペットを用いて行なわれる。卵子用ドロップ86〜89に卵子10が配置された状態で、顕微授精の前処理が全て完了する。
【0032】
(3)顕微授精処理:
次に、顕微授精処理が行なわれる。顕微授精処理では、作業者Eは、顕微授精装置20を用い、ステージ22を移動して、精子添加用ドロップ82を倒立顕微鏡25の視野に入れ、マニピュレータ31を操作して、インジェクションピペット34を精子添加用ドロップ82の上方の位置に移動する。この状態で、倒立顕微鏡25の倍率を上げ、インジェクションピペット34の先端を移動および降下させ、精子添加用ドロップ82の界面に位置させる。この位置を、精子添加用ドロップ位置と呼ぶ。この状態から、顕微鏡視野内で、精子を探し、インジェクター79を操作して、インジェクションピペット34内に精子を吸引する。
【0033】
続いて、倍率を下げて視野を広くし、マニピュレータ31を操作して、インジェクションピペット34を上昇し、更にPVPドロップ84に移動する。この状態で、倒立顕微鏡25の倍率を上げて、インジェクションピペット34をPVPドロップ84に降下させ、インジェクター79を操作して、インジェクションピペット34内の精子をPVPドロップ84内に吐出する。PVPドロップ84内では、その粘性により精子の動きは緩慢になるので、マニピュレータ31を操作して、インジェクションピペット34の先端で、精子の尾を挫滅する。その後、マニピュレータ31およびインジェクター79を操作して、挫滅しておいた精子の一つを、インジェクションピペット34内に吸引する。
【0034】
この状態で、倒立顕微鏡25の視野を広げ、マニピュレータ31を操作して、インジェクションピペット34の先端を卵子用ドロップ86に移動する。インジェクションピペット34を降下し、倒立顕微鏡25の倍率を上げ、卵子10を見ながら、マニピュレータ32を操作して、ホールド用マイクロピペット36により卵子10をホールドする。この状態で、マニピュレータ31を操作して、インジェクションピペット34の先端を卵子10に近付け、卵子10を穿刺して、インジェクター79によりインジェクションピペット34の内圧を高めて、インジェクションピペット34内の精子を卵子10内に吐出する。ホールド用マイクロピペット36による卵子10のホールドを維持したまま、マニピュレータ31を操作してインジェクションピペット34を卵子10から抜き取り、続いて、ホールド用マイクロピペット36による卵子10のホールドを解除し、マニピュレータ31,32を順次操作して、インジェクションピペット34とホールド用マイクロピペット36とを卵子用ドロップ86から上昇させる。
【0035】
以上の処理を顕微受精する卵子10の数だけ繰り返す。もとより、一人の患者の卵子一つのみ顕微授精して完了としてもよいが、複数個、例えば3個や4個の卵子に対して、一度に顕微授精処理をしても差し支えない。精子を送り込んだ卵子10全てで、受精、卵割が進行するとは限らないため、通常は3個程度の卵子に対して、顕微授精処理が行なわれる。従って、卵子用ドロップの数は、顕微授精処理を行なう卵子10の数に合わせて用意される。従って、既述した卵子位置は、卵子用ドロップの数だけ存在することになる。以下これを、第1卵子位置、第2卵子位置のように呼ぶものとする。
【0036】
(4)後処理:
上述した顕微授精処理を卵子10の数だけ繰り返した後、受精処理された卵子を取り出し、胚培養装置(インキュベータ)に収容する。その後、ディッシュ50やインジェクションピペット34,ホールド用マイクロピペット36を顕微授精装置20から取り外し、マニピュレータ31,32、インジェクター79等を清浄し、初期化して、後処理を完了する。
【0037】
以上、顕微授精の一般的な手順について、説明した。上述した一般的な手順を実施する顕微授精装置20では、インジェクションピペット34やホールド用マイクロピペット36の移動は、全て、作業者Eが、マニピュレータ31,32を用いて行なっている。これに対して、以下で説明する実施形態の顕微授精装置100では、作業者Eによるマニピュレータ31,32の操作に加えて、インジェクションピペット34やホールド用マイクロピペット36の移動の一部を、顕微授精装置100が行なう機構が組み込まれている。以下、この点を中心に、装置の概要と動作について説明する。
【0038】
C.第1実施形態:
図3は、第1実施形態としての顕微授精装置100の概要を示す概略構成図である。この顕微授精装置100は、装置の外観は、図1を用いて説明した顕微授精装置20とほぼ同じである。この顕微授精装置100には、顕微授精装置20と同様に倒立顕微鏡25が組み込まれているが、図3では、倒立顕微鏡25のうちの接眼レンズ121のみを示した。顕微授精装置100では、この他、ピペット駆動部としてのマニピュレータ131,132、ホルダー133,135、操作部137,138、インジェクションピペット134、ホールド用マイクロピペット136、チューブ141,142、圧力操作部169,179、等が備えられている。また、顕微授精装置20と同様に、ディッシュ50を載置でき、前後左右に移動可能なステージ22も備えられている。
【0039】
ステージ22には、これを前後方向(Y方向)に移動するY方向移動機構22Yと左右方向(X方向)に移動するX方向移動機構22Xとが設けられている。Y方向,X方向移動機構22Y,22Xは、ステージ22に設けられたピニオンとギヤとの歯合により、実現される。ステージ22には、前後方向に敷設された第1ピニオン111と左右方向に敷設された第2ピニオン112とがあり、移動は、これらの第1,第2ピニオン111,112と歯合する第1ギヤ113,第2ギヤ114を回転することにより実現される。第1,第2ギヤ113,114は、図示しないハンドルを用いて作業者Eが直接回転することもできるが、同軸に設けられた第1アクチュエータ115および第2アクチュエータ116によっても可能である。各ピニオンとギヤとはバックラッシュを限りなく0に近付けるために、シザースギヤが用いられている。また、第1,第2ギヤ113,114の回転量、つまりステージ22の前後方向および左右方向の移動量を検出する第1,第2エンコーダ117,118が、第1,第2ギヤ113,114には設けられている。
【0040】
更に、ステージ22の下部には、撮像用のビデオカメラ110が設けられている。ビデオカメラ110には、比較的焦点深度の浅いレンズ系を採用しており、オートアイリス(自動絞り)とオートフォーカス(自動焦点)の機能が設けられている。このため、ビデオカメラ110は、常時、適正な明るさで対象に焦点を合わせて撮像する。ディッシュ50は透明なので、ビデオカメラ110は、ディッシュ50が配置されている各ドロップ(図2B)の領域を撮像することができる。
【0041】
次に、操作部137,138について説明する。図4は、訓練者の右手側に設けられた操作部137の概要を示す説明図である。左手側の操作部138は、各部が左右対称に設けられている点を除いて、そのハードウェア構成は同一である。以下、操作部137を用いて説明するが、操作部から得られる信号等は、操作部138でも同様である。
【0042】
操作部137は、本体150の上端手前側から第1アーム151が突き出ており、更に第1アーム151の先端下方に、第2アーム152が垂下している。第1アーム151の側方には、X軸用ハンドル161が設けられている。また、第1アーム151の先端手前側には、Y軸用ハンドル163が設けられている。第2アーム152の先端には、Z軸用ハンドル165が設けられている。更に本体150の右側方には、T軸移動用ハンドル167が設けられている。圧力操作部169は、操作部137の外側に設けられている。圧力操作部169は、インジェクションピペット134の内部に充填された液体に加える圧力を設定するための操作量を出力する。圧力操作部169の操作量に応じて、図5に示したように、インジェクションピペット134とチューブにより接続された圧力調整部168が、インジェクションピペット134内の圧力を調整する。同様の機構が、圧力操作部179およびホールド用マイクロピペット136にも設けられている。ホールド用マイクロピペット136用の圧力操作部179も含めて、圧力操作部169,179では、圧力は正圧のみならず、負圧も設定可能である。
【0043】
各軸用のハンドル161,163,165,167は、図示しないエンコーダに結合されている。従って、各ハンドルを回転させると、回転量に応じた信号が出力される。実際の操作部137,138には、両ピペット134,136を大きく移動する粗動用ハンドルが別に設けられているが、両ピペット134,136を移動させるという意味では本質的な差はないので、粗動用ハンドルについては図示および説明を省略する。また、上記の様に、実際の信号を出力するのは、各ハンドル毎に設けられたエンコーダであるが、説明が煩雑になるのを避けるために、以下の説明では、右手用の操作部137の各ハンドル161,163,165,167および左手用の操作部138の各ハンドル171,173,175,177の操作により、各操作量に応じた信号が出力されるものとする。詳しくは後述するが、右手用の操作部137の各ハンドル161,163,165,167から出力される信号を、それぞれX1操作量、Y1操作量、Z1操作量、T1操作量と呼び、左手用の操作部138の各ハンドル171,173,175,177から出力される信号を、それぞれX2操作量、Y2操作量、Z2操作量、T2操作量と呼ぶ。サフィクスの「1」は、右手側、つまりインジェクションピペット134を操作するための信号であることを示し、サフィクスの「2」は、左手側、つまりホールド用マイクロピペット136を操作するための信号であることを示す。
【0044】
次に、図5を用いて、マニピュレータ131,132におけるインジェクションピペット134およびホールド用マイクロピペット136の移動機構について説明する。図5は、インジェクションピペット134用の移動機構を示す、ホールド用マイクロピペット136の移動機構も同様である。
【0045】
図示するように、マニピュレータ131のホルダー133には、インジェクションピペット134が取り付けられており、このホルダー133は、ホルダー133を、X方向,Y方向,Z方向に移動するためのX軸アクチュエータ181、Y軸アクチュエータ183、Z軸アクチュエータ185が設けられている。また、インジェクションピペット134には、インジェクションピペット134をその軸線方向であるT方向に移動するT軸アクチュエータ187が設けられている。
【0046】
ここで、X軸,Y軸,Z軸,T軸について説明する。図1に示した作業者(ここでは訓練者)Eと卵子が収容されたディッシュ50との関係を想定して、図3および図5に示したように、作業者Eから見て左右方向、つまりインジェクションピペット134からホールド用マイクロピペット136に向かう方向がX方向であり、この方向の軸をX軸と呼ぶことがある。X軸アクチュエータ181が動作すると、ホルダー133は、図示左右方向、つまりX方向に移動する。他方、X方向に直交し、インジェクションピペット134から訓練者に向かう方向をY方向と呼ぶ。この方向の軸をY軸と呼ぶことがある。Y軸アクチュエータ183が動作すると、ホルダー133は、図5の紙面前後方向、つまりY方向に移動する。また、X方向,Y方向に直交する方向であって、図示上向きの方向をZ方向と呼ぶ。この方向の軸をZ軸と呼ぶことがある。Z軸アクチュエータ185が動作すると、ホルダー133は、図5の上下方向、つまりZ方向に移動する。Z方向は、重力方向と平行な方向である。
【0047】
以上説明したX,Y,Z軸アクチュエータ181,183,185はいずれもホルダー133を移動するものであるのに対して、T軸アクチュエータ187は、インジェクションピペット134をホルダー133上において、その軸線方向に移動するアクチュエータである。ピペットの軸線方向をT方向と呼ぶ。なお、インジェクションピペット134における軸線方向と、ホールド用マイクロピペット136の軸線方向とは、交差またはねじれの位置にあるが、両ピペット軸線方向はいずれもT方向と呼ぶ。
【0048】
図5では、各軸アクチュエータ181,183,185,187は、回転するモータを模擬して描いたが、通常、モータにより回転するギヤとピニオンとのかみ合わせにはバックラッシュと呼ばれる遊びが存在する。このため、ギヤの回転方向を反転すると、僅かではあるが、ピニオンが停止したままとなる領域が存在し、これが作動上の誤差となる。インジェクションピペット134は、ミクロンオーダーの卵子に対する操作を行なうものであるため、こうしたバックラッシュは通常許容できない。従って、実際の各軸アクチュエータは、油圧を用いた油圧アクチュエータとして実現されている。もとより、シザースギヤ等を用いて、バックラッシュを完全に取り除いた機構を用いれば、モータ等の電動系により各アクチュエータを実現することも可能である。
【0049】
以上説明した操作部137,138の各軸ハンドルやマニピュレータ131,132の各軸アクチュエータは、駆動装置144に接続され、操作部137,138の各軸ハンドルを操作することにより、各軸アクチュエータが作動し、インジェクションピペット134やホールド用マイクロピペット136を移動する。駆動装置144を中心とした接続を図6に示した。図示するように、駆動装置144には、ステージ操作部143,右操作部入力部145,左操作部入力部146,インジェクションピペット駆動信号出力部148,ホールドピペット駆動信号出力部149および駆動信号演算生成部147が備えられている。
【0050】
駆動装置144の右操作部入力部145には、操作部137の各ハンドル161〜167の各エンコーダが接続されている。各エンコーダから入力される信号を、それぞれ、X1操作量、Y1操作量、Z1操作量、T1操作量として示した。駆動装置144の左操作部入力部146には、操作部138の各ハンドル171〜177の各エンコーダが接続されている。各エンコーダから入力される信号を、それぞれ、X2操作量、Y2操作量、Z2操作量、T2操作量として示した。
【0051】
ステージ操作部143は、ステージ22を前後方向に移動するY方向移動機構22Yおよび左右方向に移動するX方向移動機構22Xに接続されている。ステージ操作部143は、これらの移動機構の第1,第2アクチュエータ115,116と第1,第2エンコーダ117,118とに接続されている。ステージ22は、上述したように、作業者Eが図示しないハンドルを用いて直接移動するが、その移動量は、第1,第2エンコーダ117,118により検出され、ステージ操作部143を介して入力される。他方、後述する自動モードでは、ステージ操作部143を介して、第1,第2アクチュエータ115,116に駆動信号を出力することにより、ステージ22を、前後方向および左右方向に移動することができる。
【0052】
こうしたステージ22の移動も含めて、各部の操作量の指示に基づくアクチュエータの駆動を、駆動信号演算生成部147が行なう。駆動信号演算生成部147は、内部にCPUを備え、受け取った信号に応じたアクチュエータの精密な駆動を行なう。駆動信号演算生成部147、右操作部入力部145および左操作部入力部146を介して入力された各操作量に基づき、マニピュレータ131の各軸アクチュエータ181〜187の駆動量およびマニピュレータ132の各アクチュエータ191〜197の駆動量を演算する。駆動信号演算生成部147が演算して出力する信号は、インジェクションピペット駆動信号出力部148およびホールドピペット駆動信号出力部149により、各アクチュエータ用の信号に変換されて、各アクチュエータに出力される。この結果、操作部137,138の各ハンドルを操作すると、その操作量に応じて、インジェクションピペット134およびホールド用マイクロピペット136が移動する。
【0053】
駆動信号演算生成部147は、通信機能を有する入出力ポートにより、上位の移動制御部200と接続されている。本実施形態の顕微授精装置100は、それ自体で顕微授精の全処理を作業者Eは実施可能であるが、上位の移動制御部200と信号をやり取りすることで、自動モードでのステージ22や各ピペットの移動が可能となっている。
【0054】
図7に依拠して、移動制御部200の構成について説明する。図7は、移動制御部200の概略構成図である。図示するように、移動制御部200は、周知のCPU201、ROM202、RAM203、記憶装置としてのハードディスク(HD)205の他、学習指示スイッチ65からの信号を入力して学習動作を行なわせる学習入力部210、第1,第2フットスイッチ61,62が接続された指示入力部220、駆動装置144との通信を行なう入出力部230、ビデオカメラ110からの動画像を入力する映像入力部240、ビデオカメラ110からの映像を解析するデジタルシグナルプロセッサ(DSP)250、等を備える。
【0055】
指示入力部220は、第1,第2フットスイッチ61,62が接続されており、第1,第2フットスイッチ61,62の操作を検出する。第1,第2フットスイッチ61,62は、必要に応じてFSW1,FSW2と略記することがある。第1,第2フットスイッチ61,62は、作業者Eにより使用され、後述するように、インジェクションピペット134やホールド用マイクロピペット136を自動モードで移動させる場合の指示に用いられる。
【0056】
入出力部230は、既に説明した駆動装置144の駆動信号演算生成部147との間で、情報の授受を行なう。移動制御部200が駆動信号演算生成部147との間でやり取りする情報には、
(A)ステージ22やインジェクションピペット134およびホールド用マイクロピペット136の初期位置、
(B)ステージ22やインジェクションピペット134およびホールド用マイクロピペット136の移動量、
(C)ステージ22やインジェクションピペット134およびホールド用マイクロピペット136の目標位置、
(D)駆動装置144の動作モード(手動モードはまたは自動モード))
などがある。駆動装置144の動作モードには、駆動装置144が、作業者Eの操作によってステージや各インジェクションピペット134,ホールド用マイクロピペット136などを動作させる手動モードと、移動制御部200からの指示により作業者Eの操作を無効とし、駆動装置144が自動でステージ22や各インジェクションピペット134,ホールド用マイクロピペット136を移動する自動モードとがある。なお、以下の説明では、各インジェクションピペット134とホールド用マイクロピペット136とを特に区別せずに扱う場合には、単に「ピペット134,136」のように略記することがある。
【0057】
DSP250は、映像入力部240が入力したビデオカメラ110の映像に基づき、ディッシュ50における各ドロップの領域を認識する処理を行なう。ビデオカメラ110の映像から抽出される情報としては、ステージ22上のディッシュ50の位置、および図2Bに示した各ドロップの領域(二次元座標)等がある。
【0058】
顕微授精の作業時に、顕微授精装置100が実行する処理について、図8を用いて説明する。図8は、顕微授精の実施前に行なわれる位置学習処理の概要を示すフローチャートである。この処理は、既述した(1)準備処理の際に行なわれる。本実施形態では、従来の顕微授精装置20において行なわれる準備処理に加えて、次の二つの工程が追加されている。
(あ)精子添加用ドロップ位置の学習
(い)第2洗浄位置の学習
これらの処理は、次のようにして行なわれる。
【0059】
(あ)精子添加用ドロップ位置の学習:
[19]低倍率でステージ22を移動し、視野の中心に精子添加用ドロップ82のPVPドロップ84側の界面が来るように調整する。
[20]作業者Eは、右手でマニピュレータ131を操作し、インジェクションピペット134を精子添加用ドロップ82へ下降させ、その先端を精子添加用ドロップ82内に位置される。この位置を、以下、精子ドロップ位置と呼ぶ。
[21]作業者Eは、インジェクションピペット134を上昇させ、精子添加用ドロップ82から離脱させる。
【0060】
(い)第2洗浄位置の学習:
[22]低倍率でステージ22を移動し、視野の中心に第2洗浄用溶液ドロップ85が来るように調整する。
[23]作業者Eは、右手でマニピュレータ131を操作し、インジェクションピペット134を第2洗浄用溶液ドロップ85へ下降させ、その先端を第2洗浄用ドロップ内に位置される。この位置を、以下、第2洗浄位置と呼ぶ。
[24]作業者Eは、インジェクションピペット134を上昇させ、第2洗浄用溶液ドロップ85から離脱させる。
【0061】
これらの処理を追加した結果、学習の対象となる位置としては、上記(あ)(い)に加えて、
(う)第1洗浄位置:これは準備処理の[4]で説明したホールド用マイクロピペット136の先端位置である。
(え)PVP位置:これは、準備処理の[11]で説明したインジェクションピペット134の先端位置である。
(お)卵子位置:これは準備処理の[17]で説明した両ピペット134,136の先端の位置であり、卵子用ドロップ86に対応した位置である。
【0062】
図8に示した位置学習処理では、上記位置のうち、(あ)精子添加用ドロップ位置と(え)PVP位置の学習を行なう。位置学習処理を開始すると、まず移動制御部200は、初期処理(ステップS300)を実行する。初期処理では、移動制御部200は、ビデオカメラ110を用いて、ディッシュ50を撮像し、また、インジェクションピペット134やホールド用マイクロピペット136の先端の初期位置の設定を行なう。各ピペットの先端の初期位置とは、準備処理の[2]でホールド用マイクロピペットをホルダーに取り付けた際のピペットの先端位置のX,Y,Z座標と、準備処理の[9]でインジェクションピペットをホルダーに取り付けた際のピペットの先端位置のX,Y,Z座標である。これらの座標は、現在のステージ22の機械的な原点からの絶対位置、各ピペットを保持し駆動するマニピュレータ131,132の機械的な原点からの絶対位置、各ピペットの取付位置(ホルダーから先端までの距離)から、求めることができる。ステージ22の機械的な原点からの絶対位置等は、ステージ22を原点まで一旦移動してその位置の座標(X,Y,Z)を(0,0,0)とした後、駆動用のアクチュエータ115,116の動作量をエンコーダ117,118で検出することにより、求めることができる。但し、ステージ22の場合は、上下方向には移動しないので、Z座標は常に値0である。
【0063】
同様に、各ピペット134,136がマニピュレータ131または132に取り付けられた際の先端の絶対座標も、マニピュレータ131,132の機械的原点において各座標を(0,0,0)とした後、マニピュレータ131,132の動きを同様にエンコーダからの信号を用いてトレースし、各ピペット134,136が取り付けられた際のホルダーからピペット先端までの距離を計測することにより、求めることができる。更に、ステージ22とマニピュレータ131,132との機械的な位置関係は一意に定まっているので、これらを総合し、各ピペットの初期位置を、顕微授精装置100に対して定められた原点から見た絶対座標(X,Y,Z)として取得する。
【0064】
続いて、初期処理で撮像したディッシュ50の画像から、ディッシュ50内の各ドロップの位置(図2B)を認識する処理を行なう(ステップS310)。この処理は、DSP250により行なわれる。この処理により、図2Bに示した各ドロップ81,82,84から89の位置と領域が認識される。
【0065】
その後、移動制御部200は、各ピペット134,136の先端の位置の認識を繰り返す(ステップS320)。マニピュレータ131,132やステージ22が、作業者Eにより操作される度に、その結果、位置が変更される各ピペット134,136の先端のX,Y,Z座標を更新する。こうした各ピペットの先端位置の認識を繰り返しつつ、学習指示スイッチ65および第1,第2フットスイッチ61,62が操作されたか否かの判断を行なう(ステップS330)。操作されていなければ、ステップS320に戻って、各ピペット134,136の先端の位置の認識を繰り返す。作業者Eは、準備作業の[20]において、インジェクションピペット134の先端を精子添加用ドロップ82の界面に位置させた状態で、第1フットスイッチ61を押すと同時に学習指示スイッチ65を操作する。
【0066】
移動制御部200は、このとき、第1フットスイッチ61とインジェクションピペット134の先端位置とを、(あ)精子添加用ドロップ位置として、テーブルに記憶する。その後、全ての位置の学習が済んだかを判断し、完了していなければ、ステップS320に戻って、上述した処理を繰り返す。
【0067】
位置学習処理ルーチンでは、上述した(あ)精子添加用ドロップ位置の他に、(い)第2洗浄位置を学習する。準備作業[23]で第2洗浄位置にインジェクションピペット134の先端を位置させた状態で、第2フットスイッチ62と学習指示スイッチとを操作することにより、このときのインジェクションピペット134の先端の位置と第2フットスイッチ62とを対応付けて学習する。なお、フットスイッチを多数設けて、他の位置、例えば(う)第1洗浄位置や、(え)PVP位置、(お)卵子位置なども、テーブルに記憶するようにしてもよい。もとより、音声認識を利用して、音声コマンドと各位置とを対応付けて記憶するようにしてもよい。予定した全ての位置の学習が完了すれば、「END」に抜けて、位置学習処理ルーチンを終了する。
【0068】
以上説明した位置学習処理ルーチンは、顕微授精装置100における準備処理において、移動制御部200において実行される。この準備処理およびこれに続く精子の添加処理・卵子の配置処理により、精子添加用ドロップ82に精子が添加され、卵子ドロップ86ないし89に卵子が配置され、顕微授精処理が開始されると、移動用制御部200は、図9に示したピペット移動処理ルーチンを実行する。このとき、顕微授精装置100では、作業者Eの指示に応じて駆動装置144が、ステージ22やマニピュレータ131,132を動作させている。この状態を、手動モードと呼ぶ。
【0069】
図9に示したピペット移動処理ルーチンを開始すると、移動制御部200は、まずステージ22や各ピペット134,136の初期位置を確認する(ステップS400)。初期位置とは、顕微授精を開始する際の、これらの絶対座標(X,Y,Z)である。続いて、現在のピペット134,136の先端位置を演算する(ステップS405)。先端位置の演算は、駆動装置144の駆動信号演算生成部147との間で、ステージ22やピペット134,136の移動量をやり取りすることにより、演算可能である。
【0070】
次に、第1,第2フットスイッチ61,62の状態を読込み(ステップS410)、フットスイッチの状態を判別する(ステップS420)。第1,第2フットスイッチ61,62のいずれもオンになっていなければ、ステップS405に戻って、現在位置の演算から処理を繰り返す。顕微授精の処理において、作業者Eが、精子をインジェクションピペット134に吸引するために、インジェクションピペット134を精子添加用ドロップ82に移動したいという場面が生じる。こうした場面は、複数の卵子に対する受精処理を行なう場合には複数回生じる。こうした場面では、作業者Eは、第1フットスイッチ61を踏んで、これをオンにする。第1フットスイッチ61がオンになると、移動制御部200は、駆動信号演算生成部147に対して、モードの切換を指示し、自動モードに設定する(ステップS430)。自動モードとは、ピペット134あるいは136の移動を自動で行なうモードである。自動モードに切換えると、マニピュレータ131,132等の操作部137,138の操作は全て無効になる。図9には示していないが、このとき、音声により「自動モードでピペット先端を移動しています」といったアナウンスを行なってもよい。あるいは、倒立顕微鏡25の顕微鏡視野内に、同様の表示を行なうものとしてもよい。
【0071】
続いて、精子添加用ドロップ位置、つまり精子添加用ドロップ82の界面に、インジェクションピペット134の先端を移動させるよう、駆動信号演算生成部147に指示する(ステップS440)。指示は、図8ステップS340でテーブルに記憶したインジェクションピペット134の先端位置を、駆動信号演算生成部147に目標位置として受け渡すことにより行なわれる。目標位置への移動の指示を受けた駆動信号演算生成部147は、X方向移動機構22XやY方向移動機構22Yを駆動してステージ22を移動すると共に、マニピュレータ131,132の各軸アクチュエータ181〜187、191〜197等を駆動して、インジェクションピペット134の先端を、目標位置に移動する。
【0072】
移動が完了すると、移動制御部200は、駆動信号演算生成部147に対して手動モードへの切り替えを指示する(ステップS470)。このとき、「移動が完了しました」といった報知を作業者Eに対して行なうことが好ましい。上記の処理により、インジェクションピペット134の先端は、精子添加用ドロップ82の界面に位置するので、作業者Eは、直ぐに精子の吸引作業を開始することができる。
【0073】
その後、移動制御部200は、顕微授精の処理が全て完了したかを判断する。顕微授精の処理が完了していなければ、ステップS405に戻って、各ピペット134,136の現在位置の演算から、上述した処理を繰り返す。
【0074】
フットスイッチの状態を読込んだとき(ステップS410)、第2フットスイッチ62がオンとなっていれば、移動制御部200は、駆動信号演算生成部147に対して、自動モードへの切り替えを指示し(ステップS450)、マニピュレータ131,132等の操作部137,138の操作は全て無効にする。このとき、音声により「自動モードでピペット先端を移動しています」といったアナウンス等を行なってもよいことは、ステップS430と同様である。
【0075】
続いて、第2洗浄位置、つまり第2洗浄用溶液ドロップ85に、インジェクションピペット134の先端を移動させるよう、駆動信号演算生成部147に指示する(ステップS460)。指示は、図8ステップS340でテーブルに記憶したインジェクションピペット134の先端位置を、駆動信号演算生成部147に目標位置として受け渡すことにより行なわれる。目標位置への移動の指示を受けた駆動信号演算生成部147は、X方向移動機構22XやY方向移動機構22Yを駆動してステージ22を移動すると共に、マニピュレータ131,132の各軸アクチュエータ181〜187、191〜197等を駆動して、インジェクションピペット134の先端を、目標位置である第2洗浄位置に移動する。
【0076】
移動が完了すると、移動制御部200は、駆動信号演算生成部147に対して手動モードへの切り替えを指示する(ステップS470)。上記の処理により、インジェクションピペット134の先端は、第2洗浄位置、つまり第2洗浄用溶液ドロップ85に位置するので、作業者Eは、直ぐにインジェクター79を操作して、インジェクションピペット134内部に洗浄溶液を吸引し、また吐出するといった処理を行なって、インジェクションピペット134の内部を洗浄することができる。
【0077】
移動制御部200は、その後、全ての顕微授精処理が完了したかを判断し、完了していなければ、ステップS405に戻って、各ピペット134,136の現在位置の演算から、上述した処理を繰り返す。顕微授精の処理が全て完了した場合には、「END」に抜けて、本処理ルーチンを終了する。
【0078】
以上説明した第1実施形態の顕微授精装置100によれば、ディッシュ50上の複数のドロップのうちのいくつかに対して、各ピペット134あいるは136を移動させたい場所を予め登録しておくことができ、顕微授精の最中に、第1,第2フットスイッチ61,62を操作することにより、いつでも対応するピペットの先端を所望の登録位置に移動することができる。このため、上記の例で言えば、精子の吸引作業や、インジェクションピペット134の洗浄などの作業を素早く行なうことができる。このため、顕微授精の作業を短時間のうちに完了することが可能となり、卵子10を短時間のうちにインキュベータに収めることが可能となる。卵子10は患者から採取してから受精処理までの時間、および受精処理からインキュベータに収納するまでの時間を共に可能な限り短くすることが、受精および受精卵の成長にとって望ましいとされているので、こうした定型的な作業の自動化は、有用である。特に、経験の少ない胚培養士においては、作業時間の短縮に大きく寄与する。
【0079】
D.他の実施形態:
(1)他の実施形態として、例えば、ホールド用マイクロピペット136の位置を自動モードで移動するといった構成も可能である。ホールド用マイクロピペット136は、第1洗浄位置、つまり第1洗浄用溶液ドロップ81や、卵子位置、つまり卵子ドロップ86から89のいずれかに位置させたいという場面がある。こうした場面に、他のフットスイッチや音声認識などを用いて、自動モードで、ホールド用マイクロピペット136を移動するようにしてもよい。
【0080】
また、フットスイッチの数を減らし、現在の顕微授精処理のステージを認識して、同じフットスイッチの操作がなされても、必要とされているピペットの移動を判定して、いずれのピペットをいずれの場所に移動するかを判断するようにしてもよい。上述したように、各位置への移動は、顕微受精処理のどのステージで生じるかは、通常決まっているので、例えば、顕微授精が始まった直後や卵子ドロップ86での受精処理が終った直後であれば、フットスイッチの操作により、インジェクションピペット134を精子添加用ドロップ位置に移動する指示であると判断するなどの対応を取ることも可能である。
【0081】
あるいは、図8ステップ340で学習した位置の一覧表を顕微鏡視野などに表示し、そこから移動したい位置を選択するようにしてもよい。
【0082】
(2)上記実施形態では、インジェクションピペット134やホールド用マイクロピペット136の先端位置を自動モードで移動するようにしたが、他の術具を移動するようにしてもよい。
【0083】
(3)上記実施形態では、移動対象の現在の位置は、原点からの移動量の累積演算により求めるものとしたが、インジェクションピペット134などの先端位置を3次元的に把握可能なステレオカメラなどを設け、画像解析により現在の先端位置を求めるようにしてもよい。
【0084】
(4)上記各実施形態において、ハードウェアによって実現されていた構成の一部をソフトウェアに置き換えるようにしてもよい。ソフトウェアによって実現されていた構成の少なくとも一部は、ディスクリートな回路構成により実現することも可能である。また、本開示の機能の一部または全部がソフトウェアで実現される場合には、そのソフトウェア(コンピュータプログラム)は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納された形で提供することができる。「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスクやCD−ROMのような携帯型の記録媒体に限らず、各種のRAMやROM等のコンピュータ内の内部記憶装置や、ハードディスク等のコンピュータに固定されている外部記憶装置も含んでいる。すなわち、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、データパケットを一時的ではなく固定可能な任意の記録媒体を含む広い意味を有している。
【0085】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0086】
10…卵子、20…顕微授精装置、21…接眼レンズ、22…ステージ、22X…X方向移動機構、22Y…Y方向移動機構、25…倒立顕微鏡、31,32…マニピュレータ、33,35…ホルダー、34…インジェクションピペット、36…ホールド用マイクロピペット、37,38…操作部、41,42…チューブ、50…ディッシュ、52…培養液、54…ミネラルオイル、61…第1フットスイッチ、62…第2フットスイッチ、65…学習指示スイッチ、79…インジェクター、81…第1洗浄用溶液ドロップ、82…精子添加用ドロップ、84…PVPドロップ、85…第2洗浄用溶液ドロップ、86〜69…卵子用ドロップ、100…顕微授精装置、110…ビデオカメラ、111…第1ピニオン、112…第2ピニオン、113…第1ギヤ、114…第2ギヤ、115…第1アクチュエータ、116…第2アクチュエータ、117…第2エンコーダ、121…接眼レンズ、131,132…マニピュレータ、133,135…ホルダー、134…インジェクションピペット、136…ホールド用マイクロピペット、137,138…操作部、141…チューブ、143…ステージ操作部、144…駆動装置、145…右操作部入力部、146…左操作部入力部、147…駆動信号演算生成部、148…インジェクションピペット駆動信号出力部、149…ホールドピペット駆動信号出力部、150…本体、151…第1アーム、152…第2アーム、161…X軸用ハンドル、163…Y軸用ハンドル、165…Z軸用ハンドル、167…T軸移動用ハンドル、168…圧力調整部、169,179…圧力操作部、171…ハンドル、181…X軸アクチュエータ、183…Y軸アクチュエータ、185…Z軸アクチュエータ、187…T軸アクチュエータ、191…アクチュエータ、200…移動制御部、201…CPU、202…ROM、203…RAM、210…学習入力部、220…指示入力部、230…入出力部、240…映像入力部
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【手続補正書】
【提出日】2020年3月27日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
顕微授精用装置であって、
倍率が変更可能な顕微鏡と、
前記顕微鏡の視野に設けられたステージであって、顕微授精操作の対象となる卵子と精子が配置されるディッシュが載置されるステージを、手動操作に応じて2次元的に移動させる移動機構と、
顕微授精用の術具の先端の位置を手動操作に応じて3次元的に移動する手動移動部と、
前記移動される顕微授精用の術具の先端の位置および前記ディッシュを載置した前記ステージの位置を、使用者の操作に応じて記憶する位置記憶部と、
前記記憶された複数の位置の1つを選択して、当該位置への前記顕微授精用の術具の先端および前記ディッシュを載置した前記ステージの移動を指示する指示部と、
前記指示を受けたとき、前記手動移動部および前記移動機構による前記顕微授精用の術具および前記ディッシュを載置した前記ステージ前記手動操作での移動を無効にすると共に、前記顕微授精用の術具の先端および前記ディッシュを載置した前記ステージを、前記選択された位置まで移動する移動制御部と、
を備え
前記記憶された複数の位置の一つは、前記ディッシュ内に配置された液体のドロップの内側の位置である、顕微授精用装置。
【請求項2】
請求項1に記載の顕微授精用装置であって、
前記ステージの現在の位置および前記顕微授精用の術具の現在の位置を検出する検出部を備え、
前記位置記憶部は前記検出部が検出した顕微授精用の術具の現在の位置および前記ディッシュを載置した前記ステージの位置を、前記複数の位置の1つとして記憶する、顕微授精用装置
【請求項3】
前記対象は、卵子であり、
前記顕微授精用の術具は、前記卵子に精子を送り込むインジェクションピペットである請求項1または請求項2に記載の顕微授精用装置
【請求項4】
前記対象は卵子であり、
前記顕微授精用の術具は、前記卵子を保持するホールディングピペットである請求項1または請求項2に記載の顕微授精用装置
【請求項5】
前記移動制御部が、前顕微授精用の術具の先端および前記ディッシュを載置した前記ステージを前記複数の位置の1つに移動したとき、前記移動の完了を報知する、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の顕微授精用装置
【請求項6】
顕微授精の際に顕微鏡視野で用いられ、手動で操作される顕微授精用術具の位置制御方法であって、
顕微受精操作の対象となる卵子と精子が配置されるディッシュが載置されるステージを、手動操作に応じて2次元的に移動し、
前記顕微受精用の術具の先端の位置を手動操作に応じて3次元的に移動し、
前記移動される顕微授精用の術具の先端の位置および前記ディッシュを載置した前記ステージの位置、使用者の操作に応じて記憶し、
前記記憶された複数の位置の1つを選択して、当該位置への前記顕微授精用の術具の先端および前記ディッシュを載置した前記ステージの移動を指示し、
前記指示を受けたとき、前記手動操作での前記顕微授精用の術具の移動および前記手動での前記ディッシュを載置した前記ステージの移動を無効にすると共に、前記顕微授精用の術具の先端および前記ディッシュを載置した前記ステージを、前記選択された位置まで移動し、
前記記憶された複数の位置の一つは、前記ディッシュ内に配置された液体のドロップの内側の位置である、顕微授精用術具の位置制御方法。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0005
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0005】
本開示は、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。例えば、本開示の第1の態様として、顕微授精用装置が提供される。この顕微授精用装置は、倍率が変更可能な顕微鏡と、前記顕微鏡の視野に設けられたステージであって、顕微授精操作の対象となる卵子と精子が配置されるディッシュが載置されるステージを、手動操作に応じて2次元的に移動させる移動機構と、前記顕微授精用の術具の先端の位置を手動操作に応じて3次元的に移動する手動移動部と、前記移動される顕微授精用の術具の先端の位置および前記ディッシュを載置した前記ステージの位置を、所定の操作に応じて記憶する位置記憶部と、前記記憶された複数の位置の1つを選択して、当該位置への前記顕微授精用の術具の先端および前記ディッシュを載置した前記ステージの移動を指示する指示部と、前記指示を受けたとき、前記手動移動部による前記顕微授精用の術具および前記手動操作での前記ディッシュを載置した前記ステージの移動を無効にすると共に、前記顕微授精用の術具の先端および前記ディッシュを載置した前記ステージを、前記選択された位置まで移動する移動制御部と、を備える。この顕微授精用装置において、前記記憶された複数の位置の一つは、前記ディッシュ内に配置された液体のドロップの内側の位置である。本開示の他の態様として、上述した顕微授精用装置に対応する顕微授精用術具の位置制御方法も実施可能である。