(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-29621(P2021-29621A)
(43)【公開日】2021年3月1日
(54)【発明の名称】鉄道模型車両の走行判定システムおよびその走行判定プログラム
(51)【国際特許分類】
A63H 19/10 20060101AFI20210201BHJP
A63H 5/00 20060101ALI20210201BHJP
A63H 18/12 20060101ALI20210201BHJP
A63H 19/14 20060101ALI20210201BHJP
【FI】
A63H19/10
A63H5/00 C
A63H18/12
A63H19/14 A
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-153315(P2019-153315)
(22)【出願日】2019年8月25日
(11)【特許番号】特許第6638112号(P6638112)
(45)【特許公報発行日】2020年1月29日
(71)【出願人】
【識別番号】306009927
【氏名又は名称】株式会社トミーテック
(74)【代理人】
【識別番号】100101982
【弁理士】
【氏名又は名称】久米川 正光
(72)【発明者】
【氏名】島貫 英紀
(72)【発明者】
【氏名】金澤 好展
【テーマコード(参考)】
2C150
【Fターム(参考)】
2C150AA05
2C150CA08
2C150DA06
2C150DA16
2C150DF12
2C150DF33
2C150EB01
2C150ED02
2C150EF16
2C150EF27
(57)【要約】
【課題】鉄道模型車両の走行判定を精度良く行う。
【解決手段】加速度センサ5aは、鉄道模型車両3に搭載されている。電圧特定部5bは、鉄道模型車両3の走行用モータを駆動する駆動電圧V(電圧値)を特定する。走行判定部5cは、加速度センサによって検知された加速度αに基づいて、鉄道模型車両3の停止状態と走行状態との間の移行を判定する。それとともに、走行判定部5cは、駆動電圧Vに基づいて、鉄道模型車両3の走行中の加減速を判定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道模型車両の走行判定システムにおいて、
前記鉄道模型車両に搭載された加速度センサと、
前記加速度センサの検知信号に基づいて、前記鉄道模型車両が停止している停止状態と、前記鉄道模型車両が走行している走行状態との間の移行を判定すると共に、前記鉄道模型車両の走行用モータを駆動する駆動電圧の電圧値に基づいて、前記鉄道模型車両の走行中の加減速を判定する走行判定部と
を有することを特徴とする鉄道模型車両の走行判定システム。
【請求項2】
前記走行判定部は、前記加速度センサの検知信号が定常範囲内から所定のしきい値を超えた値に変化した場合、前記停止状態から前記走行状態に移行したと判定することを特徴とする請求項1に記載された鉄道模型車両の走行判定システム。
【請求項3】
前記走行判定部は、前記停止状態から前記走行状態に移行したタイミングで、前記鉄道模型車両の挙動に応じて再生される挙動音を、停止音から加速音に切り替える指示信号を出力することを特徴とする請求項2に記載された鉄道模型車両の走行判定システム。
【請求項4】
前記走行判定部は、前記加速度センサの検知信号が所定のしきい値を超えた値から定常範囲内に変化した場合、前記走行状態から前記停止状態に移行したと判定することを特徴とする請求項1に記載された鉄道模型車両の走行判定システム。
【請求項5】
前記走行判定部は、前記走行状態から前記停止状態に移行したタイミングで、前記鉄道模型車両の挙動に応じて再生される挙動音を、減速音から停止音に切り替える指示信号を出力することを特徴とする請求項4に記載された鉄道模型車両の走行判定システム。
【請求項6】
前記走行判定部は、前記駆動電圧の電圧値を少なくとも一つの所定のしきい値と比較することによって、前記鉄道模型車両3の走行状態を予め設定された複数の速度領域のいずれかに分類し、前記分類された速度領域に応じて、前記挙動音を選択的に再生する指示信号を出力することを特徴とする請求項3または5に記載された鉄道模型車両の走行判定システム。
【請求項7】
鉄道模型車両の走行判定プログラムにおいて、
前記鉄道模型車両に搭載された加速度センサの検知信号を取得する第1のステップと、
前記鉄道模型車両の走行用モータを駆動する駆動電圧の電圧値を取得する第2のステップと、
前記加速度センサの検知信号に基づいて、前記鉄道模型車両が停止している停止状態と、前記鉄道模型車両が走行している走行状態との間の移行を判定すると共に、前記駆動電圧の電圧値に基づいて、前記鉄道模型車両の走行中の加減速を判定する第3のステップと
を有する処理をコンピュータに実行させることを特徴とする鉄道模型車両の走行判定プログラム。
【請求項8】
前記第3のステップは、前記加速度センサの検知信号が定常範囲内からしきい値を越えた値に変化した場合、前記停止状態から前記走行状態に移行したと判定することを特徴とする請求項7に記載された鉄道模型車両の走行判定プログラム。
【請求項9】
前記停止状態から前記走行状態に移行したタイミングで、前記鉄道模型車両の挙動に応じて再生される挙動音を、停止音から加速音に切り替える指示信号を出力する第4のステップをさらに有することを特徴とする請求項8に記載された鉄道模型車両の走行判定プログラム。
【請求項10】
前記第3のステップは、前記加速度センサの検知信号が所定のしきい値を超えた値から定常範囲内に変化した場合、前記走行状態から前記停止状態に移行したと判定することを特徴とする請求項7に記載された鉄道模型車両の走行判定プログラム。
【請求項11】
前記走行状態から前記停止状態に移行したタイミングで、前記鉄道模型車両の挙動に応じて再生される挙動音を、減速音から停止音に切り替える指示信号を出力する第5のステップをさらに有することを特徴とする請求項10に記載された鉄道模型車両の走行判定プログラム。
【請求項12】
前記駆動電圧の電圧値を少なくとも一つの所定のしきい値と比較することによって、前記鉄道模型車両の走行状態を予め設定された複数の速度領域のいずれかに分類し、前記分類された速度領域に応じて、前記挙動音を選択的に再生する指示信号を出力する第6のステップをさらに有することを特徴とする請求項9または11に記載された鉄道模型車両の走行判定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道模型車両の走行判定システム、および、その走行判定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、鉄道模型のレールに供給される電圧を検出回路で検出し、この検出結果に応じて、各種の効果音を選択的に発生する効果音発生装置が記載されている。また、このような速度制御用の電圧をモニタリングする手法に代えて、鉄道模型車両に加速度センサを搭載して、車両の実際の挙動をモニタリングする手法も知られている。例えば、特許文献2には、鉄道模型車両が備える3軸加速度センサを用いて、そのヨー、ピッチ、ロールといった各加速度を算出し、これらの加速度に基づいて、予め記録された音声クリップの中から適切な音声を選択的に再生する音声制御装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−181155号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2014/0162528号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、速度制御用の電圧をモニタリングする手法では、極低速域における電圧対速度の特性のバラツキを無視できず、鉄道模型車両の実際の挙動を正確に把握できないといった問題がある。一般に、動力車の走行特性には、モータの電気的特性やギアの回転抵抗などに関する個体差に由来して、走行特性に製品毎のバラツキが存在する。そのため、停止している車両を走行させる場合、比較的低い電圧で走り出す個体もあれば、これよりも高い電圧にならないと走り出さない個体もある。また、走行している車両を停止させる場合、比較的高い電圧で停止する個体もあれば、これよりも低い電圧にならないと停止しない個体もある。同様のことは、動力車が牽引する車両数の寡少についても該当し、牽引数が増えるほど走り出しタイミングは遅くなり、停止タイミングは早くなる。その結果、車両の挙動に応じた挙動音の再生において、例えば、停止している車両が走り出すことに遅れて、停止音から加速音への切り替わりが生じるといった如く、車両の挙動に対して再生される挙動音が整合しない事態が起こり得る。
【0005】
一方、加速度センサを用いたモニタリング手法は、理論上、車両の挙動を適切に検知できるはずではあるが、実際には、加速度を適切かつ安定的に検知することは困難である。その原因は、車両の走行中において、走行に由来した高周波なノイズ成分が本来の加速度成分に常時重畳され、検知信号の振幅が大きく変動してしまうからである。その結果、車両の挙動に応じた挙動音の再生において、例えば、車両が一定速で惰行しているにも関わらず加速音と減速音とが頻繁に切り替わるといった如く、車両の挙動に対して再生される挙動音が整合しない事態が起こり得る。ノイズ成分となる外乱要因としては、走行中に生じる車両の不要な振動、例えば、極低速時における動力車の不要な振動(カーノック)、レールの繋ぎ目(ジョイント)を通過する際に生じる車両の揺動、連結器(カプラー)のスプリングに由来した車両間における振動の増幅、加減速に伴う車両同士の突き上げや引き戻しなどが挙げられる。それ以外に、レールの汚れなどに起因した電気的な接触不良によって、モータの回転数が急激に変動することも外乱要因となる。このようなノイズ成分は、本発明者らが実験やシミュレーションを行って検討した結果、ローパスフィルタ処理などを施しても有効に除去できないことが判明した。
【0006】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、鉄道模型車両の走行判定を精度良く行うことである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決すべく、第1の発明は、加速度センサと、走行判定部とを有する、鉄道模型車両の走行判定システムを提供する。加速度センサは、鉄道模型車両に搭載されている。走行判定部は、加速度センサの検知信号に基づいて、鉄道模型車両が停止している停止状態と、鉄道模型車両が走行している走行状態との間の移行を判定すると共に、鉄道模型車両の走行用モータを駆動する駆動電圧の電圧値に基づいて、鉄道模型車両の走行中の加減速を判定する。
【0008】
ここで、第1の発明において、上記走行判定部は、加速度センサの検知信号が定常範囲内から所定のしきい値を超えた値に変化した場合、停止状態から走行状態に移行したと判定することが好ましい。この場合、上記走行判定部は、停止状態から走行状態に移行したタイミングで、鉄道模型車両の挙動に応じて再生される挙動音を、停止音から加速音に切り替える指示信号を出力してもよい。
【0009】
第1の発明において、上記走行判定部は、加速度センサの検知信号が所定のしきい値を超えた値から定常範囲内に変化した場合、走行状態から停止状態に移行したと判定することが好ましい。この場合、上記走行判定部は、走行状態から停止状態に移行したタイミングで、鉄道模型車両の挙動に応じて再生される挙動音を、減速音から停止音に切り替える指示信号を出力してもよい。
【0010】
第1の発明において、上記走行判定部は、駆動電圧の電圧値を少なくとも一つの所定のしきい値と比較することによって、鉄道模型車両の走行状態を予め設定された複数の速度領域のいずれかに分類し、分類された速度領域に応じて、挙動音を選択的に再生する指示信号を出力してもよい。
【0011】
第2の発明は、以下のステップを有する処理をコンピュータに実行させる、鉄道模型車両の走行判定プログラムを提供する。第1のステップでは、鉄道模型車両に搭載された加速度センサの検知信号を取得する。第2のステップでは、鉄道模型車両の走行用モータを駆動する駆動電圧の電圧値を取得する。第3のステップでは、加速度センサの検知信号に基づいて、鉄道模型車両が停止している停止状態と、鉄道模型車両が走行している走行状態との間の移行を判定すると共に、駆動電圧の電圧値に基づいて、鉄道模型車両の走行中の加減速を判定する。
【0012】
ここで、第2の発明において、上記第3のステップは、加速度センサの検知信号が定常範囲内から所定のしきい値を越えた値に変化した場合、停止状態から走行状態に移行したと判定することが好ましい。この場合、停止状態から走行状態に移行したタイミングで、鉄道模型車両の挙動に応じて再生される挙動音を、停止音から加速音に切り替える指示信号を出力する第4のステップを設けてもよい。
【0013】
第2の発明において、上記第3のステップは、加速度センサの検知信号が所定のしきい値を超えた値から定常範囲内に変化した場合、走行状態から停止状態に移行したと判定することが好ましい。この場合、走行状態から停止状態に移行したタイミングで、鉄道模型車両の挙動に応じて再生される挙動音を、減速音から停止音に切り替える指示信号を出力する第5のステップを設けてもよい。
【0014】
第2の発明において、駆動電圧の電圧値を少なくとも一つの所定のしきい値と比較することによって、鉄道模型車両の走行状態を予め設定された複数の速度領域のいずれかに分類し、分類された速度領域に応じて、挙動音を選択的に再生する指示信号を出力する第6のステップを設けてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、停止状態と走行状態との間の移行については、極低速域における電圧対速度の特性のバラツキが顕著な駆動電圧ではなく、実際の車両挙動を検知する加速度センサによって判定される。また、走行中の加減速については、加速度センサの検知信号に含まれる走行由来のノイズ成分が大きいがゆえに、加速度センサでは適正な加速度を安定的に検知することが困難であることから、モータの入力となる駆動電圧に基づいて判定される。このように、加速度センサおよび駆動電圧を併用したモニタリングを行うことで、両者の欠点を補完できるので、鉄道模型車両の走行判定を精度良く行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図5】停止状態から走行状態への移行時における加速度センサの信号波形図
【
図6】走行状態から停止状態への移行時における加速度センサの信号波形図
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本実施形態に係る鉄道模型走行システムのブロック図である。この走行システム1は、レール2と、鉄道模型車両3と、パワーユニット4とを有し、鉄道模型車両3は、パワーユニット4の制御の下、レール2上を走行する。鉄道模型車両3は、複数の車輪と、走行用モータM(動力車の場合)とを備えている。金属製の車輪は、車両3の下部に設けられており、金属製のレール2の踏面と接触している。モータMは、車体3の内部に設けられており、その駆動力によって車輪を回転させる。
【0018】
走行用モータMへの給電は、レール2と接触した車輪3を介して、レール2の電力を取り込むことによって行われる。鉄道模型車両3の制御方式には、DC制御(直流制御)、PWM制御(パルス幅変調制御)、DCC(Digital Command Control)などが存在するが、いずれの制御方式を採用してもよい。ここで、DC制御とは、モータMを駆動させる駆動電圧として、直流電圧の値そのものを0〜12Vの範囲で可変に設定して、レール2に供給する制御をいう。また、PWM制御とは、電圧パルスのデューティ比を可変に設定して、レール2に供給する制御をいう。この場合、駆動電圧は、レール2に供給される電圧パルスの実効電圧に相当する。例えば、12Vの電圧パルスを50%のオンデューティで供給したとすると、実効電圧は6Vとなる。さらに、DCCとは、鉄道模型車両3(より正確には車載デコーダ)を指定するアドレス付のデジタルコマンドを12V程度の交流電圧に重畳して、レール2に供給する制御をいう。この場合、駆動電圧は、速度制御用のデジタルコマンドの指示に基づき、鉄道模型車両3側(車載デコーダ側)にて生成される内部電圧(モータMの印加電圧)に相当する。
【0019】
また、走行システム1は、鉄道模型車両3の走行判定を行う走行判定システム5と、鉄道模型車両3の挙動音を再生するサウンド再生部6とを備えている。走行判定システム5は、加速度センサ5aと、電圧特定部5bと、走行判定部5cとを有する。加速度センサ5aは、鉄道模型車両3に搭載されており、車長方向における車両3の挙動を加速度(現在値)として直接かつリアルタイムで検知する。加速度センサ5aとしては、ピエゾ抵抗型、静電容量型、熱検知型といったタイプが知られているが、いずれのタイプを用いてもよい。特に、スマートフォンなどで広く採用されているMEMS加速度センサは、小型、安価かつ高感度であるため、本実施形態としての用途に適している。加速度センサ5aの検知信号は、加速度αとして、走行判定部5cに入力される。
【0020】
なお、走行判定部5cに入力される加速度αは、加速度センサ5の出力に対してオフセット除去やローパスフィルタによる平滑化といった処理を施したものであってもよい。これらの処理は、マイコン側でソフトウェア的に処理することも可能なので、物理的な構成として、走行判定部5cとしてのマイコンがローパスフィルタなどの機能も担っていてもよい。
【0021】
電圧特定部5bは、鉄道模型車両3の走行用モータMを駆動する駆動電圧の電圧値をリアルタイムで特定する。電圧特定部5bは、加速度センサ5aとは異なり、必ずしも車両3に搭載されている必要はなく、制御方式に応じて適宜の箇所に配置すればよい。具体的には、DC制御およびPWM制御の場合、駆動電圧そのものが車両3の外部から直接供給されるので、車両3の内部、レール2、パワーユニット4、および、パワーユニット4の接続機器のいずれに電圧特定部5bを配置してもよい。また、DCCの場合、駆動電圧は車両内部で生成されるので、駆動電圧を直接検知するのであれば、基本的に、車両3の内部に電圧特定部5bが配置される。ただし、速度制御用のデジタルコマンドの内容は駆動電圧の電圧値と一義的に対応するため、このデジタルコマンドの内容を特定・解析する機構を電圧特定部5bとして用いてもよく、この場合、電圧特定部5bは車両3の外部に配置されていてもよい。また、駆動電圧の特定は、車両3内またはレールなどに設けられた電圧検知用のセンサを用いて直接的に行ってもよいし、パワーユニット4に設けられた速度制御用のツマミやノブの操作量を検知することによって間接的に行ってもよい。電圧特定部5bから出力された駆動電圧の電圧値は、駆動電圧Vとして、走行判定部5cに入力される。
【0022】
走行判定部5cは、加速度センサ5aによって検知された加速度αと、電圧特定部5bによって特定された駆動電圧Vとに基づいて、鉄道模型車両3の走行判定をリアルタイムで行う。具体的には、加速度αに基づいて、車両3が停止している状態(停止状態)と、車両3が走行している状態(走行状態)との間における状態の移行が判定される。停止/走行の状態移行の判定には、以下に挙げる2つのタイプが存在し、本実施形態ではどちらの判定も行っているが、どちらか一方のみの判定であってもよい。1つは、停止している車両3が走り出す際の移行であり(停止→走行)、もう一つは、走行している車両3が停止する際の移行である(走行→停止)。また、走行判定部5cは、加速度αに関わりなく、電圧特定部5bによって特定された駆動電圧Vに基づいて、鉄道模型車両3の走行中における加減速を判定する。
【0023】
図2は、走行判定部5cによる判定結果の一覧表である。判定結果としては、上述した「停止状態」および「走行状態」の2つに大別され、「走行状態」は、さらに、「惰行」、「加速」および「減速」の3つに細分化されている。まず、加速度α(絶対値)が所定のしきい値αthよりも小さい場合、すなわち、加速度αが定常範囲内の場合には、駆動電圧Vに関わりなく、「停止状態」と判定される。また、加速度α(絶対値)がしきい値αthを超えた値である場合、すなわち、加速度αが定常範囲外である場合には、「走行状態」と判定される。この場合、駆動電圧Vに変化がなければ、「惰行」、すなわち、速度がほぼ一定であると判定される。また、駆動電圧Vが上昇していれば「加速」と判定され、駆動電圧Vが下降していれば「減速」と判定される。
【0024】
しきい値αthは、加速度αが定常範囲内/定常範囲外のいずれであるか、換言すれば、鉄道模型車両3が停止状態/走行状態のいずれであるかを判定するために用いられる。
図3は、鉄道模型車両3の停止状態における加速度センサ5aの信号波形図である。同図において、元波形は、速度センサ5aの設置水平度に起因したオフセット誤差が存在するため、全体的にマイナス側にシフトしている。そこで、元波形に対して、オフセット除去、実効値計算、および、ローパスフィルタによる平滑化といった各種処理が施され、これによって、処理済波形が生成される。停止状態における処理済波形は、本来の加速度成分のみならず走行由来のノイズ成分も含まない0近傍の値、すなわち、定常範囲内として安定している。これに対して、
図4に示すように、走行状態における処理済波形は、停止状態のそれとは異なり、加速度成分に由来して全体的に定常範囲内からシフトしており、かつ、高周波なノイズ成分の重畳によって振幅が大きく変動している。ノイズ成分となる外乱要因としては、車両3の走行に由来した振動、例えば、極低速時における動力車の不要な振動(カーノック)、レールの繋ぎ目(ジョイント)を通過する際に生じる車両の揺動、連結器(カプラー)のスプリングに由来した車両間における振動の増幅、加減速に伴う車両同士の突き上げや引き戻しなどが挙げられる。それ以外に、レールの汚れに起因した電気的な接触不良によって、モータMの回転数が急激に変動することも外乱要因となる。
【0025】
以上のような停止状態/走行状態における波形の差異に着目して、停止状態の加速度αはそれ以内に必ず収まり、かつ、走行状態の加速度αはそれを必ず超えるようなしきい値αthを、実験やシミュレーションを通じて適切に設定すれば、停止状態(定常範囲内)および走行状態(しきい値αthを超えた定常範囲外)の切り分けが可能になる。具体的には、
図5に示すように、加速度αが定常範囲内からしきい値αthを超える値に変化した場合、停止状態から走行状態に移行したものと判定される(スタート判定)。そして、この変化タイミングが、停止状態から走行状態に移行したタイミング、すなわち、スタートタイミングと判定される。一方、
図6に示すように、加速度αがしきい値αthを超えた値から定常範囲内に変化した場合、走行状態から停止状態に移行したものと判定される(ストップ判定)。そして、この変化タイミングが、走行状態から停止状態に移行したタイミング、すなわち、ストップタイミングと判定される。
【0026】
また、走行判定部5cは、走行判定システム5が搭載されたユニット内またはその外部に設けられたサウンド再生部6に対して、挙動音の再生またはその切り替えを指示する指示信号を出力する。
【0027】
なお、走行判定部5cは、鉄道模型車両3に搭載されたマイコンとして実現することができるが、鉄道模型車両3の外部、例えば、パワーユニット4の一機能、または、パワーユニット4に接続されるマイコン搭載の周辺機器として実現してもよい。
【0028】
サウンド再生部6は、走行判定部5cからの指示信号に基づいて、鉄道模型車両3の挙動に応じた挙動音をリアルタイムで再生する。再生される挙動音は、鉄道模型車両3における車載スピーカ、パワーユニット4の近傍に配置された外部スピーカ、無線通信可能なスマートフォンの内蔵スピーカなどから出力される。
【0029】
図7は、挙動音の車種別一覧表である。鉄道模型車両3の挙動音は、走行判定部5cの判定結果に対応して、「停止音、「加速音」、「惰行音」および「減速音」の4つが設定されている。ただし、それぞれの挙動音は車種によって大きく相違する(さらに言えば、同一車種でも、車両形式によって相違する。)。具体的には、電車(新型)の場合、挙動音は、主電動機の回転音(モータ音)と、送風機の定常的な音とを主体としており、走行時の速度に応じて、モータ音の音質(低周波音〜高周波音)が変化する。電車(旧型)の場合、挙動音は、釣り掛けモータの回転音(モータ音)と、風機の定常的な音とを主体としており、走行時の速度に応じて、モータ音の音質(低周波音〜高周波音)が変化する。ただし、電車(新型)とは異なり、惰行状態や減速状態ではモータ音は生じない。気動車の場合、挙動音は、ディーゼル機関の駆動音を主体としており、惰行状態や減速状態ではアイドル音となる。気動車固有の特徴としては、加速時の挙動音(加速音)として、低速時に再生される「変速段音」と、高速時に再生される「直結段音」との切り替えが挙げられる。蒸気機関車の場合、挙動音は、ドラフト音(車速に応じた音間隔の変化を含む。)を主体としており、惰行状態や減速状態では絶気音となる。なお、新型電気機関車は電車(新型)、旧型電気機関車は電車(旧型)、ディーゼル機関車は気動車にそれぞれ準じるものとする。
【0030】
鉄道模型車両3の速度に応じて挙動音を変える場合、走行判定部5cは、駆動電圧Vに基づいて、車両3の速度状態を予め定められた複数の速度領域のいずれかに分類する。具体的には、
図8に示すように、現在の駆動電圧Vを少なくとも一つのしきい値Vth1,Vth2と比較することによって、車両3の走行状態が低速領域、中速領域、および高速領域のうちのいずれかに分類される。そして、分類された速度領域に応じて、挙動音を選択的に再生する指示信号がサウンド再生部6に出力される。
【0031】
図9は、走行判定システム5による走行判定のタイミングチャートである。同図は、「速度」の推移から理解できるように、停止している鉄道模型車両3が、加速、惰行、再加速、減速、惰行、再減速といった時系列的な順序を経て、再び停止するケースを例示している。
【0032】
まず、タイミングt0において、駆動電圧Vが0Vから上昇し始める。しかしながら、車両3が即座に走り出すことはなく、駆動電圧Vがある程度上昇しない限り、車両3は停止したままであり、加速度αは定常範囲内となる。その結果、判定結果は「停止」となり、サウンド再生部6に対して停止音の再生が指示される。
【0033】
つぎに、駆動電圧Vがある程度上昇したタイミングt1において、停止していた車両3が走り始める。これにより、加速度αは定常範囲内からしきい値αthを超えた値(定常範囲外)に変化し、それ以降、タイミングt7で車両3が停止するまで、しきい値αthを超えた状態が維持される。加速度αがしきい値αthを超えた場合、駆動電圧Vに基づいて、車両3の加減速、より具体的には、「加速」、「惰行」および「減速」のいずれかの走行状態が判定される。タイミングt1では、駆動電圧Vが上昇中であるから、判定結果は「加速」となり、サウンド再生部6に加速音の再生が指示される。すなわち、停止状態から走行状態(加速)に移行するタイミングt1は、上述したスタートタイミングに相当し、このスタートタイミングで、走行判定部5cからの指示信号に基づき、再生される挙動音が停止音から加速音に切り替わる。
【0034】
つぎに、タイミングt2において、上昇していた駆動電圧Vが一定となると、駆動電圧Vに基づく判定結果は「惰行」となり、サウンド再生部6に対して惰行音の再生が指示される。それ以降、駆動電圧Vに基づく判定結果は、判定期間t2〜t3で「惰行」、期間t3〜t4で「加速」、期間t4〜t5で「減速」、期間t5〜t6で「惰行」、期間t6〜t7で「減速」と推移し、それぞれの判定結果に応じた挙動音の再生が、惰行音、加速音、減速音、惰行音、減速音の順で指示される。その際、鉄道模型車両3の走行状態を予め設定された複数の速度領域のいずれかに分類し、分類された速度領域に応じて、挙動音を選択的に再生してもよいことは、上述したとおりである。
【0035】
そして、駆動電圧Vが十分に下降したタイミングt7において、走行していた車両3が停止する。これにより、加速度αはしきい値αthを超えた値(定常範囲外)から定常範囲内に変化する。その結果、判定結果は「停止」となり、サウンド再生部6に対して停止音の再生が指示される。すなわち、走行状態(減速)から停止状態に移行するタイミングt7は、上述したストップタイミングに相当し、このストップタイミングで、走行判定部5cからの指示信号に基づき、再生される挙動音が減速音から停止音に切り替わる。
【0036】
このように、本実施形態によれば、加速度αおよび駆動電圧Vを併用して、鉄道模型車両3の走行判定が行われる。すなわち、鉄道模型車両3における停止状態と走行状態との間の移行については、駆動電圧Vではなく、加速度αに基づいて判定される。駆動電圧Vは、モータMの入力に相当するから、走行由来の外乱要因とは無関係ではあるものの、極低速域における電圧対速度の特性のバラツキが顕著であるがゆえに、移行判定の指標には適さない。そこで、この移行判定については、定常範囲内であるか否かの切り分けが明確な加速度αが用いられる。一方、走行中の加減速については、加速度αではなく、駆動電圧Vに基づいて判定される。加速度αは、走行中において外乱要因の影響を大きく受けるため、走行中の加減速判定の指標には適さない。そこで、このような外乱要因とは無関係な駆動電圧Vが用いられる。このように、加速度αおよび駆動電圧Vの相互の欠点を補完することで、鉄道模型車両3の走行判定を精度良く行うことが可能になる。
【0037】
また、本実施形態によれば、停止状態と走行状態との間の移行タイミング、具体的には、スタートタイミングやストップタイミングで、再生すべき挙動音の切り替えが行われる。これにより、移行タイミングと同期した挙動音の再生が可能になるため、鉄道模型としてのリアリティの向上を図ることができる。
【0038】
さらに、本実施形態によれば、駆動電圧Vをしきい値Vth1,Vth2と比較することによって、鉄道模型車両3の走行状態が複数の速度領域のいずれかに分類される。これにより、鉄道模型車両3の走行状態に応じたきめ細かな制御、例えば、速度に応じて挙動音を選択的に制御することが可能になる。
【0039】
なお、上述した実施形態では、走行判定部5cの判定結果に基づいて、挙動音の再生を制御する例について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、アクチュータ搭載の連結器(カプラー)を自動解放するために、極低速域における走行判定を行ってもよい。また、それ以外にも、走行判定部5cの判定結果に応じて、鉄道模型車両3の客用ドアをアクチュータで自動開閉する制御などに適用してもよい。
【0040】
さらに、本発明は、上述した実施形態に係る走行判定システム5をマイコンで等価的に実現するコンピュータ・プログラム(走行判定プログラム)として捉えることもできる。具体的には、この走行判定プログラムは、加速度センサ5aの検知信号を取得するステップと、駆動電圧Vを取得するステップと、加速度αに基づいて、停止状態および走行状態の間の移行を判定すると共に、駆動電圧Vに基づいて、走行中の加減速を判定するステップとを有する処理をコンピュータに実行させる。それぞれのステップの詳細は、上述した実施形態で述べたとおりである。
【符号の説明】
【0041】
1 鉄道模型走行システム
2 レール
3 鉄道模型車両
4 パワーユニット
5 走行判定システム
5a 加速度センサ
5b 電圧特定部
5c 走行判定部
6 サウンド再生部
【手続補正書】
【提出日】2019年10月31日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道模型車両の走行判定システムにおいて、
前記鉄道模型車両に搭載された加速度センサと、
前記加速度センサの検知信号に基づいて、前記鉄道模型車両が停止している停止状態と、前記鉄道模型車両が走行している走行状態との間の移行を判定すると共に、前記鉄道模型車両の走行用モータを駆動する駆動電圧の電圧値に基づいて、前記鉄道模型車両の走行中の加減速を判定する走行判定部と
を有することを特徴とする鉄道模型車両の走行判定システム。
【請求項2】
前記走行判定部は、前記加速度センサの検知信号が定常範囲内から所定のしきい値を超えた値に変化した場合、前記停止状態から前記走行状態に移行したと判定することを特徴とする請求項1に記載された鉄道模型車両の走行判定システム。
【請求項3】
前記走行判定部は、前記停止状態から前記走行状態に移行したタイミングで、前記鉄道模型車両の挙動に応じて再生される挙動音を、停止音から加速音に切り替える指示信号を出力することを特徴とする請求項2に記載された鉄道模型車両の走行判定システム。
【請求項4】
前記走行判定部は、前記加速度センサの検知信号が所定のしきい値を超えた値から定常範囲内に変化した場合、前記走行状態から前記停止状態に移行したと判定することを特徴とする請求項1に記載された鉄道模型車両の走行判定システム。
【請求項5】
前記走行判定部は、前記走行状態から前記停止状態に移行したタイミングで、前記鉄道模型車両の挙動に応じて再生される挙動音を、減速音から停止音に切り替える指示信号を出力することを特徴とする請求項4に記載された鉄道模型車両の走行判定システム。
【請求項6】
前記走行判定部は、前記駆動電圧の電圧値を少なくとも一つの所定のしきい値と比較することによって、前記鉄道模型車両の走行状態を予め設定された複数の速度領域のいずれかに分類し、前記分類された速度領域に応じて、前記挙動音を選択的に再生する指示信号を出力することを特徴とする請求項3または5に記載された鉄道模型車両の走行判定システム。
【請求項7】
鉄道模型車両の走行判定プログラムにおいて、
前記鉄道模型車両に搭載された加速度センサの検知信号を取得する第1のステップと、
前記鉄道模型車両の走行用モータを駆動する駆動電圧の電圧値を取得する第2のステップと、
前記加速度センサの検知信号に基づいて、前記鉄道模型車両が停止している停止状態と、前記鉄道模型車両が走行している走行状態との間の移行を判定すると共に、前記駆動電圧の電圧値に基づいて、前記鉄道模型車両の走行中の加減速を判定する第3のステップと
を有する処理をコンピュータに実行させることを特徴とする鉄道模型車両の走行判定プログラム。
【請求項8】
前記第3のステップは、前記加速度センサの検知信号が定常範囲内からしきい値を超えた値に変化した場合、前記停止状態から前記走行状態に移行したと判定することを特徴とする請求項7に記載された鉄道模型車両の走行判定プログラム。
【請求項9】
前記停止状態から前記走行状態に移行したタイミングで、前記鉄道模型車両の挙動に応じて再生される挙動音を、停止音から加速音に切り替える指示信号を出力する第4のステップをさらに有することを特徴とする請求項8に記載された鉄道模型車両の走行判定プログラム。
【請求項10】
前記第3のステップは、前記加速度センサの検知信号が所定のしきい値を超えた値から定常範囲内に変化した場合、前記走行状態から前記停止状態に移行したと判定することを特徴とする請求項7に記載された鉄道模型車両の走行判定プログラム。
【請求項11】
前記走行状態から前記停止状態に移行したタイミングで、前記鉄道模型車両の挙動に応じて再生される挙動音を、減速音から停止音に切り替える指示信号を出力する第5のステップをさらに有することを特徴とする請求項10に記載された鉄道模型車両の走行判定プログラム。
【請求項12】
前記駆動電圧の電圧値を少なくとも一つの所定のしきい値と比較することによって、前記鉄道模型車両の走行状態を予め設定された複数の速度領域のいずれかに分類し、前記分類された速度領域に応じて、前記挙動音を選択的に再生する指示信号を出力する第6のステップをさらに有することを特徴とする請求項9または11に記載された鉄道模型車両の走行判定プログラム。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0012
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0012】
ここで、第2の発明において、上記第3のステップは、加速度センサの検知信号が定常範囲内から所定のしきい値を
超えた値に変化した場合、停止状態から走行状態に移行したと判定することが好ましい。この場合、停止状態から走行状態に移行したタイミングで、鉄道模型車両の挙動に応じて再生される挙動音を、停止音から加速音に切り替える指示信号を出力する第4のステップを設けてもよい。