(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-29872(P2021-29872A)
(43)【公開日】2021年3月1日
(54)【発明の名称】抽出飲料調製用濾過器
(51)【国際特許分類】
A47J 31/06 20060101AFI20210201BHJP
A47J 31/44 20060101ALI20210201BHJP
【FI】
A47J31/06 101
A47J31/44 180
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2019-156212(P2019-156212)
(22)【出願日】2019年8月28日
(71)【出願人】
【識別番号】397028968
【氏名又は名称】株式会社吉村
(74)【代理人】
【識別番号】100216286
【弁理士】
【氏名又は名称】篠崎 史典
(72)【発明者】
【氏名】橋本 久美子
(72)【発明者】
【氏名】石黒 猛
【テーマコード(参考)】
4B104
【Fターム(参考)】
4B104AA01
4B104BA87
4B104EA30
(57)【要約】 (修正有)
【課題】雑味が生じにくい抽出飲料を迅速に調製が可能で、経済性に優れる抽出飲料調製用濾過器を提供すること。
【解決手段】抽出飲料調製用濾過器は、被抽出物と湯又は水との供給口および抽出飲料の吐出口を有する筒状体(A)11と、扁平板部、扁平板部の扁平面に設けられた遊嵌凸部、および扁平板部の周囲に設けられた突起部を有する内蓋部12を備え、内蓋部の遊嵌凸部が、筒状体(A)の吐出口に遊嵌されて、内蓋部が筒状体の内部に保持され、かつ吐出口が、扁平板部および突起部に覆われている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被抽出物と湯又は水との供給口(a1)および抽出飲料の吐出口(a2)を有する筒状体(A)と、
扁平板部(b1)、当該扁平板部(b1)の扁平面に設けられた遊嵌凸部(b2)および当該扁平板部(b1)の周囲に設けられた突起部(b3)を有する内蓋部(B)を備えた抽出飲料調製用濾過器であって、
内蓋部(B)の遊嵌凸部(b2)が、筒状体(A)の吐出口(a2)に遊嵌されて、内蓋部(B)が筒状体(A)の内部に保持され、かつ
吐出口(a2)が、扁平板部(b1)および突起部(b3)に覆われていることを特徴とする抽出飲料調製用濾過器。
【請求項2】
請求項1に記載の抽出飲料調製用濾過器と、容器部(C)とを備え、
当該抽出飲料調製用濾過器が、容器部(C)の内部に掛止されていることを特徴とする抽出飲料調製器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抽出飲料調製用濾過器に関し、具体的には、雑味が生じにくい抽出飲料を迅速に調製可能で、経済性に優れ、手入れも容易な抽出飲料調製用濾過器に関する。
【背景技術】
【0002】
コーヒー、日本茶、中国茶、紅茶などの抽出飲料は、焙煎コーヒー豆、茶葉など被抽出物を湯や水などに一定時間浸漬して、被抽出物の成分を湯や水に抽出した後、茶漉し器など濾過器(金網)を用いて濾過されて調製される。
【0003】
このような濾過器としては、たとえば、特許文献1では、「急須や湯呑の口縁部に掛止させるフランジ部1a又は把手3を設けた合成樹脂製の筒状本体1と、該筒状本体1の解放下端を塞ぐ漉し網2とを備え、漉し網2の周縁部分が、射出成形された筒状本体1の下端部に包埋されていることを特徴とする茶漉し器」が開示されている(実用新案登録請求の範囲)。さらには、この茶漉し器によれば、従来の合成樹脂製の茶漉し器に比べて「筒状本体に漉し網を張設する甚だ面倒な作業が不要になる。」などの効果が奏される旨開示されている(明細書段落[0017]など)
【0004】
また、抽出飲料の風味などの良否は、茶葉など被抽出物の品質、水や湯の水質などの条件によることが大きいが、被抽出物から成分の抽出過程(抽出飲料の調製過程)の条件にも少なからず影響を受ける。
【0005】
たとえば、日本茶においては、茶葉が可能な限り拡散しない、静的な条件下で抽出されることが好ましいとされる。湯中における茶葉の拡散が大きくなると、調製された茶において濁りが目立ち、雑味が生じるためである。
【0006】
茶漉しを備える一般的な急須では、茶を注ぐ際に茶葉が振盪され、湯中における茶葉の拡散が大きくなる。そのため、上述のような濁りや雑味が生じやすい傾向にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】登録実用新案公報第3009983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、茶漉しなど濾過器の構造が抽出過程の条件に影響を与えるという点を考慮すると、濾過器の改善を通じて、抽出飲料の風味などの向上を図る余地があるといえる。
【0009】
そこで、本発明者らは、抽出飲料の調製に使用される濾過器の構造を鋭意検討した結果、筒状体の内部に特定形状を有する内蓋部が遊嵌されている等の構造を採用することで、下記3つの効果が発揮されることを見出した。
(1)被抽出物から成分の抽出過程(抽出飲料の調製過程)において雑味が生じにくくすることができること。
(2)濾過器中に被抽出物が滞留すること(濾過部分の目詰まりが発生すること)を低減し、抽出飲料の濾過器の通過速度の低下を防ぐことができるため、迅速に抽出飲料を調製できること。
(3)濾紙などの消耗品や金網など手入れが煩雑な部材を使用しなくとも、被抽出物が濾過器外に流出せず、ろ過機能を発揮できるとともに、消耗品や手入れが煩雑な部材を使用する必要がないため、経済性に優れ、手入れが容易であること。
【0010】
すなわち、本発明は、雑味が生じにくい抽出飲料を迅速に調製可能で、経済性に優れ、手入れも容易な抽出飲料調製用濾過器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る抽出飲料調製用濾過器は、具体的には以下の通りである。
[1] 被抽出物と湯又は水との供給口(a1)および抽出飲料の吐出口(a2)を有する筒状体(A)と、
扁平板部(b1)、当該扁平板部(b1)の扁平面に設けられた遊嵌凸部(b2)および当該扁平板部(b1)の周囲に設けられた突起部(b3)を有する内蓋部(B)を備えた抽出飲料調製用濾過器であって、
内蓋部(B)の遊嵌凸部(b2)が、筒状体(A)の吐出口(a2)に遊嵌されて、内蓋部(B)が筒状体(A)の内部に保持され、かつ吐出口(a2)が、扁平板部(b1)および突起部(b3)に覆われていることを特徴とする抽出飲料調製用濾過器。
[2] [1]の抽出飲料調製用濾過器と、容器部(C)とを備え、当該抽出飲料調製用濾過器が、容器部(C)の内部に掛止されていることを特徴とする抽出飲料調製器。
【発明の効果】
【0012】
本発明の抽出飲料調製用濾過器によれば、雑味が生じにくい抽出飲料を迅速に調製可能で、経済性に優れ、手入れも容易である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1(1)〜(2)は、本発明に係る抽出飲料調製用濾過器および抽出飲料調製器の一態様を説明するための図である。
【
図2】
図2は、本発明に係る抽出飲料調製器を用いた、抽出飲料の調製の一態様を説明するための図である。
【
図3】
図3(1)〜(2)は、抽出飲料調製用濾過器の構成部材である内蓋部(B)を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る抽出飲料調製用濾過器および抽出飲料調製器について、図面を適宜参照しながら詳細に説明する。
本明細書において「抽出飲料」とは、被抽出物の成分を湯又は水(冷水や常温水)に抽出して得られる飲料である。「抽出飲料」としては、たとえば、珈琲、日本茶(煎茶など)、麦茶、紅茶、中国茶などが例示される。
また、「被抽出物」とは、水や湯により成分を抽出される対象であり、たとえば、焙煎されたコーヒー豆や、日本茶、中国茶、紅茶などの各種茶葉などが挙げられる。
【0015】
本発明に係る抽出飲料調製用濾過器は、
図1(1)および(2)の付番10に示されるように、必須構成要件として、筒状体(A)11と、内蓋部(B)12を備えるが、適宜その他の部材や構成を有していてもよい。また、本発明において、各部材の材質は特に限定されるものではなく、プラスチック、ガラス、陶器などが挙げられる。
【0016】
上記筒状体(A)11は、被抽出物と湯又は水との供給口(a1)11aおよび抽出飲料の吐出口(a2)11bを有する。供給口(a1)は、抽出飲料を調製するにあたり、被抽出物および湯を容器内に投入するための、筒状体(A)の末端開口部分である。また、吐出口(a2)は、後述する内蓋部(B)が遊嵌される部分であり、
図2に示されるように、抽出飲料の調製の際には、吐出口(a2)に遊嵌している内蓋部(B)22の上部に被抽出物が残る一方、抽出成分を含む水又は湯(抽出飲料)が吐出口(a2)から下方向(鉛直方向)に吐出する(矢印Bを参照)。
【0017】
図3の付番32に示されるように、内蓋部(B)は、扁平板部(b1)32a、遊嵌凸部(b2)32bおよび突起部(b3)32cを有する。扁平板部(b1)は、扁平な形状であれば特に限定されないが、たとえば、円形、楕円形、方形(三角形、四角形、多角形)などが選択される。
【0018】
また、遊嵌凸部(b2)32bは、当該扁平板部(b1)の扁平面(すなわち、側面(高さ方向の面)ではない面)に設けられている。ここで、遊嵌凸部(b2)32bにおいては、扁平板部(b1)の扁平面側における遊嵌凸部(b2)結合面の面積は、当該扁平板部(b1)の扁平面の面積よりも小さい。そのため、遊嵌凸部(b2)は、当該扁平面からはみ出さないものとなっている。すなわち、
図3(2)の付番32bに示されるように、扁平板部(b1)32aの扁平面の内側に、遊嵌凸部(b2)が設置されている。
【0019】
図3(2)は、内蓋部(B)を遊嵌凸部(b2)側から見た図である。
図3(2)の付番32cに示されるように、突起部(b3)は、当該扁平板部(b1)32aの周囲に設けられている。突起部(b3)の形状は適宜選択されるが、形状としては、三角形、四角形などの多角形、扇形などが挙げられる。突起部(b3)の数も特に限定されないが、通常、扁平板部(b1)32aの周囲すべてに設けられている。
【0020】
また、
図1(1)に示されるように、内蓋部(B)12の遊嵌凸部(b2)は、筒状体(A)11の吐出口(a2)11bに遊嵌されて、内蓋部(B)12が筒状体(A)11の内部に保持されていることを特徴とする。
具体的には、付番Aで示される矢印の方向に、内蓋部(B)が、遊嵌凸部(b2)を先に(扁平板部a1)を後に)、吐出口(a2)に挿入されて遊嵌される。
【0021】
ここで、「遊嵌」とは、遊嵌凸部(b2)と吐出口(a2)とが遊び(隙間)を有しながら嵌め合う状態をいう。すなわち、遊嵌凸部(b2)が左右方向(筒状体(A)の側面方向)には動きが制限されるものの、上下方向(筒状体(A)の供給口(a1)方向および吐出口(a2)方向)には動きが制限されていない状態において、内蓋部(B)が筒状体(A)の内部に保持されている。
【0022】
また、
図1(1)および(2)に示されるように、吐出口(a2)が、扁平板部(b1)および突起部(b3)に覆われていることを特徴とする。すなわち、供給口(a1)から吐出口(a2)を見ると、吐出口(a2)が扁平板部(b1)および突起部(b3)によって被覆され、吐出口(a2)が見えない状態となっている。
【0023】
また、内蓋部(B)の比重は、好ましくは1.5〜3.8であり、より好ましくは、2.0〜3.0である。このような比重であれば、抽出飲料を調製するにあたり、内蓋部(B)が水又は湯に浮いてしまい、吐出口(a2)から被抽出物が流出してしまうこと(すなわち、濾過機能が発揮できないこと)を防ぐことができるとともに、水又は湯中における被抽出物の拡散を低減しつつ、抽出飲料を迅速に調製することができる。
【0024】
本発明に係る抽出飲料調製器は、
図1(1)および(2)の付番14に示されるように、筒状体(A)11および内蓋部(B)12を備えた抽出飲料調製用濾過器10と、容器部(C)13とを備える。ここで、抽出飲料調製用濾過器10は、容器部(C)の内部に掛止されている。
【0025】
ここで「掛止」とは、容器部(C)の内部に、抽出飲料調製用濾過器が、フランジ部などを引っ掛けて止まっていることをいう。なお、
図1では、抽出飲料調製用濾過器の供給口(a1)の周囲に設けられたフランジ部13aが、掛止手段として機能しているが、掛止手段としては特に限定されるものではない。
【0026】
図2は、本発明に係る抽出飲料調製器を用いた、抽出飲料の調製の一態様を説明するための図である。詳細なメカニズムは不明であるが、筒状部(A)の供給口(a1)から被抽出物と水又は湯が供されると、被抽出物由来の抽出成分を含む水又は湯は、鉛直方向への水圧を生じさせる。そして、内蓋部(B)には吐出部(a2)に押し下げる力が加わる。次いで、水又は湯は、内蓋部(B)22と吐出部(a2)との遊嵌部分に流入し、内蓋部(B)22を押し上げ、その結果、抽出飲料が矢印Bに示される方向に流出する。そして再度、水圧が鉛直方向へかかるため、内蓋部(B)には吐出部(a2)に押し下げる力が加わる。
このように、内蓋部(B)22を「押し上げる力」と「押し下げる力」とが交互に発生するため、内蓋部(B)22は規則的又は不規則に上下方向(鉛直方向およびその逆方向)に動き、矢印Bの方向への流出量の増大と減少を繰り返す。そのため、被抽出物が濾過器の吐出口(a2)又はその近傍へ滞留すること(遊嵌部分の目詰まりが発生すること)を低減し、抽出飲料の濾過器の通過速度の低下を防ぐことができる。その結果、迅速に抽出飲料を調製できる。
しかも、この過程においては、
図2の付番26に示されるように、被抽出物の拡散が低減された状態にすることができる。そのため、被抽出物から成分の抽出過程(抽出飲料の調製過程)において雑味が生じにくくすることができる。
【0027】
このように、本発明に係る抽出飲料調製器は、上述のような内蓋部(B)の働きによって、濾紙などの消耗品や金網などを用いなくても、十分に濾過機能を発揮することができる。そして、濾紙などの消耗品や金網など手入れが煩雑な部材を使用しなくてもよいので、経済性に優れ、手入れが容易であるといえる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例を用いて、本発明に係る抽出飲料調製用濾過器および抽出飲料調製器を具体的に説明するが、本発明の範囲は、これに限定されるものではない。
【0029】
[製造例1]
3Dプリンタを用いて、
図1で示されるような供給口周囲にフランジが設けられた円筒状体、
図3で示されるような内蓋部を作成した。なお、3Dプリンタより作成された各部材は、比重2.67のフェノール樹脂製である。
また、内蓋部の遊嵌凸部を円筒状体の吐出口に挿入して、内蓋部を吐出口に遊嵌させて、試験用濾過器1を作成した。遊嵌された内蓋部を、供給口から観察すると、吐出口は内蓋部の扁平板部と突起部とにより覆われていた。さらに、試験用濾過器1における円筒状体のフランジをガラス製容器に掛止して試験用抽出飲料調製器1を製造した。
【0030】
試験用抽出飲料調製器1の供給口から、茶葉(煎茶)と湯(80℃)を筒状体内部に供し、茶を調製した。なお、比較試験として、内部に茶漉し網が設置された急須を用いても茶を調製した。
【0031】
内蓋部上部(扁平板部および突起部上)に茶葉が沈降し、内蓋部と吐出部との遊嵌部分から茶が容器内に吐出していることが観察された。
【0032】
ここで、目視観察によると、容器内には茶葉の混入は確認できなかった。すなわち、試験用抽出飲料調製器1の濾過機能は十分に発揮されていることが理解できた。
【0033】
次いで、茶の調整過程において、筒状体内部を目視観察してみると、茶葉の拡散も少なく、静的な条件下で茶葉から成分の抽出が行われていることが確認できた。対して、通常の急須の場合、茶を淹れる際には茶葉の拡散が大きいことが確認できた。
【0034】
さらに、通常の急須で淹れた茶と比較しても、試験用抽出飲料調製器1を用いて調製された茶の濁りは少なく、試飲すると、雑味が少ないことが確認された。
【0035】
また、茶の調製速度の変化も少なく迅速に茶の調製ができることが確認された。対して、通常の急須では、茶漉し網部分に茶葉が大量に滞留してしまい、いわゆる目詰まりが生じていることが分かった。そのため、茶の調製速度の変化が大きく、迅速に茶の調製することはできなかった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明によれば、本発明は、雑味が生じにくい抽出飲料を迅速に調製が可能で、経済性に優れ、手入れも容易な抽出飲料調製用濾過器を提供することができる。
【符号の説明】
【0037】
10、20: 本発明に係る抽出飲料調製用濾過器
11、21: 筒状体(A)
11a、21a: 供給口(a1)
11b: 吐出口(a2)
12、22、32: 内蓋部(B)
32a: 扁平板部(b1)
32b: 遊嵌凸部(b2)
32c: 突起部(b3)
13、23: 容器部(C)
13a、23a: フランジ部
14、24: 本発明に係る抽出飲料調製器
25: 湯
26: 茶葉(被抽出物)
27: 抽出飲料
A: 内蓋部(B)を吐出口(a2)に遊嵌させる方向を示す矢印
B: 抽出飲料の流出方向を示す矢印