【解決手段】コハク酸から1,4−ブタンジオールを製造するために用いられる触媒であって、担体と、担体上に担持された合金とを有し、担体が、ハイドロキシアパタイトおよび二酸化ケイ素からなる群から選択される無機化合物を含み、合金が、銅およびパラジウムからなり、銅およびパラジウムの合計質量に対する、銅の含有量が50質量%以上である、触媒。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の触媒、1,4−ブタンジオールの製造方法、酪酸の製造方法、および、テトラヒドロフランの製造方法の好適態様について説明する。
【0011】
<第1実施態様>
本発明の触媒の第1実施態様は、コハク酸から1,4−ブタンジオールを製造するために用いられる触媒であって、担体と、担体上に担持された合金とを有し、担体が、ハイドロキシアパタイトおよび二酸化ケイ素からなる群から選択される無機化合物を含み、合金が、銅およびパラジウムからなり、銅およびパラジウムの合計質量に対する、銅の含有量が50質量%以上である、触媒(以下、「第1触媒」ともいう。)である。
第1触媒を用いると、効率的にコハク酸の水素化(水素化反応)が進行し、コハク酸から1,4−ブタンジオールを製造できる。
以下では、まず、第1触媒について詳述し、その後、1,4−ブタンジオールの製造方法について詳述する。
【0012】
(第1触媒)
第1触媒は、担体と、担体上に担持された合金とを有する。
担体は、ハイドロキシアパタイトおよび二酸化ケイ素(SiO
2)からなる群から選択される無機化合物を含む。
担体は、上記無機化合物を含んでいればよく、主成分として含んでいることが好ましい。主成分とは、担体中の成分として最も多い成分を意味する。なかでも、担体は、上記無機化合物からなる担体であることが好ましい。
なお、ハイドロキシアパタイトとは、Ca
10(PO
4)
6(OH)
2の基本構造を有するものをいう。Ca欠損型のアパタイトCa
10−x(HPO
4)
y(PO
4)
6−y(OH)
2−z、炭酸含有アパタイトCa
10−x(HPO
4)
y(PO
4)
6−y(CO
3)
a(OH)
2−z(ここで、xは1〜2、好ましくは1であり、yは0〜6、好ましくは1であり、zは0〜2、好ましくは1であり、aは1〜5である。)、または、Caが他の金属に一部もしくは全部置換した、例えば、Ca
8Ba
2(PO
4)
6(OH)
2などもハイドロキシアパタイトに含まれる。
【0013】
合金は、銅およびパラジウムからなる。つまり、合金は、銅元素およびパラジウム元素から構成される。
合金中、銅およびパラジウムの合計質量に対する銅の含有量は50質量%以上である。なかでも、コハク酸から1,4−ブタンジオールがより効率的に得られる点で、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましい。銅およびパラジウムの合計質量に対する銅の含有量の上限は特に制限されないが、99質量%以下の場合が多く、90質量%以下の場合がより多い。
なお、上記銅の含有量は公知の方法(例えば、誘導結合プラズマ発光分析法や原子吸光分析法)によって測定できる。
【0014】
第1触媒中における合金の含有量は特に制限されないが、コハク酸から1,4−ブタンジオールがより効率的に得られる点で、第1触媒全質量に対する合金の含有量は1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、7.5質量%以上がさらに好ましく、10質量%以上が特に好ましい。第1触媒全質量に対する合金の含有量の上限は特に制限されないが、副反応の抑制およびコストの点から、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。
【0015】
第1触媒においては、粒子状の合金が担体上に担持されていることが好ましい。
粒子状の合金の平均直径は特に制限されないが、1〜20nmの場合が多く、コハク酸から1,4−ブタンジオールがより効率的に得られる点で、2〜5nmが好ましい。
上記平均直径は、第1触媒を透過型電子顕微鏡にて観察し、観察される任意の300個以上の粒子状の合金の直径を測定して、それらを算術平均して求めることができる。なお、粒子状の合金が真円状でない場合は、長径を直径として測定する。
【0016】
第1触媒の製造方法は特に制限されず、公知の方法が採用される。
例えば、まず、溶媒(例えば、水)中に、銅塩(例えば、硝酸銅)、パラジウム塩(硝酸パラジウム)および上記担体を加えて混合した後、溶媒を除去して得られた固形分を焼成する。次に、得られた焼成物に対して還元処理(例えば、水素ガスを用いた還元処理)を施して、第1触媒を得る方法が挙げられる。
上記混合の際の、銅塩、パラジウム塩および担体の混合比率は特に制限されず、上述した合金の含有量となるように調整されることが好ましい。例えば、銅塩由来の銅(金属銅)とパラジウム塩由来のパラジウム(金属パラジウム)の合計質量に対する、銅塩由来の銅の含有量が50質量%以上(好ましい範囲は上述した通り)となるように、銅塩およびパラジウム塩を用いる態様が挙げられる。
上記混合の条件は特に制限されず、混合時の温度は10〜50℃が好ましい。混合時間は、1〜48時間が好ましい。
【0017】
上記焼成条件は特に制限されず、焼成温度は300℃以上が好ましく、400℃以上がより好ましい。焼成温度の上限は特に制限されないが、700℃以下の場合が多い。焼成時間は1時間以上が好ましく、2時間以上がより好ましい。焼成時間の上限は特に制限されないが、24時間以下の場合が多い。
【0018】
上記還元処理の条件は特に制限されないが、水素ガスを用いた還元処理を実施する場合、用いる気体としては水素ガスを含むガスが用いられ、水素ガスと窒素ガスとの混合気体が好ましい。
還元処理の際には、加熱処理を同時に実施することが好ましい。加熱処理の条件は特に制限されないが、加熱温度は300℃以上が好ましく、400℃以上がより好ましい。加熱温度の上限は特に制限されないが、700℃以下の場合が多い。加熱時間は1時間以上が好ましく、2時間以上がより好ましい。加熱時間の上限は特に制限されないが、24時間以下の場合が多い。
【0019】
第1触媒は、後述するように、コハク酸から1,4−ブタンジオールを製造するために好適に用いられる。
【0020】
(1,4−ブタンジオールの製造方法)
1,4−ブタンジオールの製造方法(以下、「第1製造方法」ともいう。)は、上記第1触媒および水素の存在下、コハク酸を水素化して1,4−ブタンジオールを製造する方法である。第1製造方法においては、コハク酸の水素化(水素化反応)が進行して、コハク酸から中間体であるγ−ブチロラクトンを介して1,4−ブタンジオールが製造されている。つまり、第1触媒を用いれば、コハク酸から1,4−ブタンジオールを1段階で製造できる。
【0021】
第1触媒の使用量は特に制限されないが、コハク酸から1,4−ブタンジオールがより効率的に得られる点で、原料であるコハク酸の使用量に対する第1触媒の使用量の質量比(第1触媒の使用量/コハク酸の使用量)は0.1以上が好ましく、0.5以上がより好ましい。上記質量比(第1触媒の使用量/コハク酸の使用量)の上限は特に制限されないが、コストの点から、5以下の場合が多い。
【0022】
第1製造方法において、反応系内の水素の圧力は特に制限されないが、コハク酸から1,4−ブタンジオールがより効率的に得られる点で、1MPa以上が好ましく、3MPa以上がより好ましく、5MPa以上がさらに好ましい。水素の圧力の上限は特に制限されないが、反応容器の設計コストの点から、20MPa以下の場合が多い。
【0023】
第1製造方法は、加熱条件下にて実施することが好ましい。つまり、第1触媒および水素の存在下、コハク酸に対して加熱処理を実施することが好ましい。
加熱処理の上限は特に制限されないが、加熱温度は100℃以上が好ましく、150℃以上がより好ましい。加熱温度の上限は特に制限されないが、反応容器の設計コストの点から、300℃以下の場合が多い。
なお、上記加熱温度とは、加熱処理を実施する際の熱源の温度を意味する。
加熱時間は12時間以上が好ましく、24時間以上がより好ましく、48時間以上がさらに好ましい。加熱時間の上限は特に制限されないが、120時間以下の場合が多い。
【0024】
第1製造方法においては、第1触媒およびコハク酸以外にも他の成分を用いてもよい。
例えば、第1製造方法においては、溶媒を用いてもよい。溶媒としては、有機溶媒が好ましく、エーテル系溶媒がより好ましく、1,4−ジオキサンがさらに好ましい。
【0025】
第1製造方法においては、1,4−ブタンジオールの製造を実施した後に、第1触媒を反応系から分離する処理を実施してもよい。
第1触媒は、実質的に溶媒に不溶性の不均一系触媒である。それ故、容易に反応系から分離できる。第1触媒を反応系から分離する手段は特に制限されず、デカンテーション、遠心分離または濾過のような、当該技術分野で慣用される通常の分離手段を使用すればよい。
反応系から分離された使用済みの第1触媒は、再使用することが好ましい。
よって、第1製造方法は、分離された使用済の第1触媒を、さらなる1,4−ブタンジオールの製造に再使用する、再使用工程を含んでもよい。
【0026】
<第2実施態様>
本発明の触媒の第2実施態様は、コハク酸から酪酸を製造するために用いられる触媒であって、担体と、担体上に担持された合金とを有し、担体が、ハイドロキシアパタイト、二酸化ケイ素、酸化アルミニウムおよびベーマイトからなる群から選択される無機化合物を含み、合金が、銅およびパラジウムからなり、銅およびパラジウムの合計質量に対する、パラジウムの含有量が50質量%超である、触媒(以下、「第2触媒」ともいう。)である。
第2触媒を用いると、効率的にコハク酸の水素化(水素化反応)が進行し、コハク酸から酪酸を製造できる。
以下では、まず、第2触媒について詳述し、その後、酪酸の製造方法について詳述する。
【0027】
(第2触媒)
第2触媒は、担体と、担体上に担持された合金とを有する。
担体は、ハイドロキシアパタイト、二酸化ケイ素、酸化アルミニウムおよびベーマイトからなる群から選択される無機化合物を含む。
担体は、上記無機化合物を含んでいればよく、主成分として含んでいることが好ましい。主成分とは、担体中の成分として最も多い成分を意味する。なかでも、担体は、上記無機化合物からなる担体であることが好ましい。
ハイドロキシアパタイトの定義は、上述した通りである。
酸化アルミニウムとしては、いわゆるα−アルミナであっても、γ−アルミナであってもよいが、比表面積が高い点から、γ−アルミナが好ましい。
【0028】
合金は、銅およびパラジウムからなる。つまり、合金は、銅元素およびパラジウム元素から構成される。
合金中、銅およびパラジウムの合計質量に対するパラジウムの含有量は50質量%超である。なかでも、コハク酸から酪酸がより効率的に得られる点で、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましい。銅およびパラジウムの合計質量に対するパラジウムの含有量の上限は特に制限されないが、99質量%以下の場合が多く、90質量%以下の場合がより多い。
なお、上記パラジウムの含有量は公知の方法(例えば、誘導結合プラズマ発光分析法や原子吸光分析法)によって測定できる。
【0029】
第2触媒中における合金の含有量は特に制限されないが、コハク酸から酪酸がより効率的に得られる点で、第2触媒全質量に対する合金の含有量は1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、7.5質量%以上がさらに好ましく、10質量%以上が特に好ましい。第2触媒全質量に対する合金の含有量の上限は特に制限されないが、副反応の抑制およびコストの点から、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。
【0030】
第2触媒においては、粒子状の合金が担体上に担持されていることが好ましい。
粒子状の合金の平均直径は特に制限されないが、1〜20nmの場合が多く、コハク酸から酪酸がより効率的に得られる点で、2〜5nmが好ましい。
上記平均直径は、第2触媒を透過型電子顕微鏡にて観察し、観察される任意の300個以上の粒子状の合金の直径を測定して、それらを算術平均して求めることができる。なお、粒子状の合金が真円状でない場合は、長径を直径として測定する。
【0031】
第2触媒の製造方法は特に制限されず、公知の方法が採用される。
例えば、まず、溶媒(例えば、水)中に、銅塩(例えば、硝酸銅)、パラジウム塩(硝酸パラジウム)および上記担体を加えて混合した後、溶媒を除去して得られた固形分を焼成する。次に、得られた焼成物に対して還元処理(例えば、水素ガスを用いた還元処理)を施して、第2触媒を得る方法が挙げられる。
上記混合の際の、銅塩、パラジウム塩および担体の混合比率は特に制限されず、上述した合金の含有量となるように調整されることが好ましい。例えば、銅塩由来の銅(金属銅)とパラジウム塩由来のパラジウム(金属パラジウム)の合計質量に対する、パラジウム塩由来のパラジウムの含有量が50質量%超(好ましい範囲は上述した通り)となるように、銅塩およびパラジウム塩を用いる態様が挙げられる。
上記混合の条件は特に制限されず、混合時の温度は10〜50℃が好ましい。混合時間は、1〜48時間が好ましい。
【0032】
上記焼成条件は特に制限されず、焼成温度は300℃以上が好ましく、400℃以上がより好ましい。焼成温度の上限は特に制限されないが、700℃以下の場合が多い。焼成時間は1時間以上が好ましく、2時間以上がより好ましい。焼成時間の上限は特に制限されないが、24時間以下の場合が多い。
【0033】
上記還元処理の条件は特に制限されないが、水素ガスを用いた還元処理を実施する場合、用いる気体としては水素ガスを含むガスが用いられ、水素ガスと窒素ガスとの混合気体が好ましい。
還元処理の際には、加熱処理を同時に実施することが好ましい。加熱処理の条件は特に制限されないが、加熱温度は300℃以上が好ましく、400℃以上がより好ましい。加熱温度の上限は特に制限されないが、700℃以下の場合が多い。加熱時間は1時間以上が好ましく、2時間以上がより好ましい。加熱時間の上限は特に制限されないが、24時間以下の場合が多い。
【0034】
第2触媒は、後述するように、コハク酸から酪酸を製造するために好適に用いられる。
【0035】
(酪酸の製造方法)
酪酸の製造方法(以下、「第2製造方法」ともいう。)は、上記第2触媒および水素の存在下、コハク酸を水素化して酪酸を製造する方法である。第2製造方法においては、コハク酸の水素化(水素化反応)が進行して、コハク酸から中間体であるγ−ブチロラクトンを介して酪酸が製造されている。つまり、第2触媒を用いれば、コハク酸から酪酸を1段階で製造できる。
【0036】
第2触媒の使用量は特に制限されないが、コハク酸から酪酸がより効率的に得られる点で、原料であるコハク酸の使用量に対する第2触媒の使用量の質量比(第2触媒の使用量/コハク酸の使用量)は0.1以上が好ましく、0.5以上がより好ましい。上記質量比(第2触媒の使用量/コハク酸の使用量)の上限は特に制限されないが、コストの点から、5以下の場合が多い。
【0037】
第2製造方法において、反応系内の水素の圧力は特に制限されないが、コハク酸から酪酸がより効率的に得られる点で、1MPa以上が好ましく、3MPa以上がより好ましく、5MPa以上がさらに好ましい。水素の圧力の上限は特に制限されないが、反応容器の設計コストの点から、20MPa以下の場合が多い。
【0038】
第2製造方法は、加熱条件下にて実施することが好ましい。つまり、第2触媒および水素の存在下、コハク酸に対して加熱処理を実施することが好ましい。
加熱処理の上限は特に制限されないが、加熱温度は100℃以上が好ましく、150℃以上がより好ましい。加熱温度の上限は特に制限されないが、反応容器の設計コストの点から、300℃以下の場合が多い。
なお、上記加熱温度とは、加熱処理を実施する際の熱源の温度を意味する。
加熱時間は12時間以上が好ましく、24時間以上がより好ましく、48時間以上がさらに好ましい。加熱時間の上限は特に制限されないが、120時間以下の場合が多い。
【0039】
第2製造方法においては、第2触媒およびコハク酸以外にも他の成分を用いてもよい。
例えば、第2製造方法においては、溶媒を用いてもよい。溶媒としては、有機溶媒が好ましく、エーテル系溶媒がより好ましく、1,4−ジオキサンがさらに好ましい。
【0040】
第2製造方法においては、酪酸の製造を実施した後に、第2触媒を反応系から分離する処理を実施してもよい。
第2触媒は、実質的に溶媒に不溶性の不均一系触媒である。それ故、容易に反応系から分離できる。第2触媒を反応系から分離する手段は特に制限されず、デカンテーション、遠心分離または濾過のような、当該技術分野で慣用される通常の分離手段を使用すればよい。
反応系から分離された使用済みの第2触媒は、再使用することが好ましい。
よって、第2製造方法は、分離された使用済の第2触媒を、さらなる酪酸の製造に再使用する、再使用工程を含んでもよい。
【0041】
<第3実施態様>
本発明の触媒の第3実施態様は、コハク酸からテトラヒドロフランを製造するために用いられる触媒であって、担体と、担体上に担持された合金とを有し、担体が酸化アルミニウムおよびベーマイトからなる群から選択される無機化合物を含み、合金が、銅およびパラジウムからなり、銅およびパラジウムの合計質量に対する、銅の含有量が50質量%以上である、触媒(以下、「第3触媒」ともいう。)である。
第3触媒を用いると、効率的にコハク酸の水素化反応が進行し、コハク酸からテトラヒドロフランを製造できる。
以下では、まず、第3触媒について詳述し、その後、テトラヒドロフランの製造方法について詳述する。
【0042】
(第3触媒)
第3触媒は、担体と、担体上に担持された合金とを有する。
担体は、酸化アルミニウムおよびベーマイトからなる群から選択される無機化合物を含む。酸化アルミニウムとしては、いわゆるα−アルミナであっても、γ−アルミナであってもよいが、比表面積が高い点から、γ−アルミナが好ましい。
担体は、上記無機化合物を含んでいればよく、主成分として含んでいることが好ましい。主成分とは、担体中の成分として最も多い成分を意味する。なかでも、担体は、無機化合物からなる担体であることが好ましい。
【0043】
合金は、銅およびパラジウムからなる。つまり、合金は、銅元素およびパラジウム元素から構成される。
合金中、銅およびパラジウムの合計質量に対する銅の含有量は50質量%以上である。なかでも、コハク酸からテトラヒドロフランがより効率的に得られる点で、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましい。銅およびパラジウムの合計質量に対する銅の含有量の上限は特に制限されないが、99質量%以下の場合が多く、90質量%以下の場合がより多い。
なお、上記銅の含有量は公知の方法(例えば、誘導結合プラズマ発光分析法や原子吸光分析法)によって測定できる。
【0044】
第3触媒中における合金の含有量は特に制限されないが、コハク酸からテトラヒドロフランがより効率的に得られる点で、第3触媒全質量に対する合金の含有量は1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、7.5質量%以上がさらに好ましく、10質量%以上が特に好ましい。第3触媒全質量に対する合金の含有量の上限は特に制限されないが、副反応の抑制およびコストの点から、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。
【0045】
第3触媒においては、粒子状の合金が担体上に担持されていることが好ましい。
粒子状の合金の平均直径は特に制限されないが、1〜20nmの場合が多く、コハク酸からテトラヒドロフランがより効率的に得られる点で、2〜5nmが好ましい。
上記平均直径は、第3触媒を透過型電子顕微鏡にて観察し、観察される任意の300個以上の粒子状の合金の直径を測定して、それらを算術平均して求めることができる。なお、粒子状の合金が真円状でない場合は、長径を直径として測定する。
【0046】
第3触媒の製造方法は特に制限されず、公知の方法が採用される。
例えば、まず、溶媒(例えば、水)中に、銅塩(例えば、硝酸銅)、パラジウム塩(硝酸パラジウム)および上記担体を加えて混合した後、溶媒を除去して得られた固形分を焼成する。次に、得られた焼成物に対して還元処理(例えば、水素ガスを用いた還元処理)を施して、第3触媒を得る方法が挙げられる。
上記混合の際の、銅塩、パラジウム塩および担体の混合比率は特に制限されず、上述した合金の含有量となるように調整されることが好ましい。例えば、銅塩由来の銅(金属銅)とパラジウム塩由来のパラジウム(金属パラジウム)の合計質量に対する、銅塩由来の銅の含有量が50質量%以上(好ましい範囲は上述した通り)となるように、銅塩およびパラジウム塩を用いる態様が挙げられる。
上記混合の条件は特に制限されず、混合時の温度は10〜50℃が好ましい。混合時間は、1〜48時間が好ましい。
【0047】
上記焼成条件は特に制限されず、焼成温度は300℃以上が好ましく、400℃以上がより好ましい。焼成温度の上限は特に制限されないが、700℃以下の場合が多い。焼成時間は1時間以上が好ましく、2時間以上がより好ましい。焼成時間の上限は特に制限されないが、24時間以下の場合が多い。
【0048】
上記還元処理の条件は特に制限されないが、水素ガスを用いた還元処理を実施する場合、用いる気体としては水素ガスを含むガスが用いられ、水素ガスと窒素ガスとの混合気体が好ましい。
還元処理の際には、加熱処理を同時に実施することが好ましい。加熱処理の条件は特に制限されないが、加熱温度は300℃以上が好ましく、400℃以上がより好ましい。加熱温度の上限は特に制限されないが、700℃以下の場合が多い。加熱時間は1時間以上が好ましく、2時間以上がより好ましい。加熱時間の上限は特に制限されないが、24時間以下の場合が多い。
【0049】
第3触媒は、後述するように、コハク酸から酪酸を製造するために好適に用いられる。
【0050】
(テトラヒドロフランの製造方法)
テトラヒドロフランの製造方法(以下、「第3製造方法」ともいう。)は、上記第3触媒および水素の存在下、コハク酸を水素化してテトラヒドロフランを製造する方法である。第3製造方法においては、コハク酸の水素化(水素化反応)が進行して、コハク酸から中間体であるγ−ブチロラクトンを介してテトラヒドロフランが製造されている。つまり、第3触媒を用いれば、コハク酸からテトラヒドロフランを1段階で製造できる。
【0051】
第3触媒の使用量は特に制限されないが、コハク酸からテトラヒドロフランがより効率的に得られる点で、原料であるコハク酸の使用量に対する第3触媒の使用量の質量比(第3触媒の使用量/コハク酸の使用量)は0.1以上が好ましく、0.5以上がより好ましい。上記質量比(第3触媒の使用量/コハク酸の使用量)の上限は特に制限されないが、コストの点から、5以下の場合が多い。
【0052】
第3製造方法において、反応系内の水素の圧力は特に制限されないが、コハク酸からテトラヒドロフランがより効率的に得られる点で、1MPa以上が好ましく、3MPa以上がより好ましく、5MPa以上がさらに好ましい。水素の圧力の上限は特に制限されないが、反応容器の設計コストの点から、20MPa以下の場合が多い。
【0053】
第3製造方法は、加熱条件下にて実施することが好ましい。つまり、第3触媒および水素の存在下、コハク酸に対して加熱処理を実施することが好ましい。
加熱処理の上限は特に制限されないが、加熱温度は100℃以上が好ましく、150℃以上がより好ましい。加熱温度の上限は特に制限されないが、反応容器の設計コストの点から、300℃以下の場合が多い。
なお、上記加熱温度とは、加熱処理を実施する際の熱源の温度を意味する。
加熱時間は12時間以上が好ましく、24時間以上がより好ましく、48時間以上がさらに好ましい。加熱時間の上限は特に制限されないが、120時間以下の場合が多い。
【0054】
第3製造方法においては、第3触媒およびコハク酸以外にも他の成分を用いてもよい。
例えば、第3製造方法においては、溶媒を用いてもよい。溶媒としては、有機溶媒が好ましく、エーテル系溶媒がより好ましく、1,4−ジオキサンがさらに好ましい。
【0055】
第3製造方法においてはテトラヒドロフランの製造を実施した後に、第3触媒を反応系から分離する処理を実施してもよい。
第3触媒は、実質的に溶媒に不溶性の不均一系触媒である。それ故、容易に反応系から分離できる。第3触媒を反応系から分離する手段は特に制限されず、デカンテーション、遠心分離または濾過のような、当該技術分野で慣用される通常の分離手段を使用すればよい。
反応系から分離された使用済みの第3触媒は、再使用することが好ましい。
よって、第3製造方法は、分離された使用済の第3触媒を、さらなるテトラヒドロフランの製造に再使用する、再使用工程を含んでもよい。
【実施例】
【0056】
以下に実施例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0057】
<実施例A>
(実施例A1)
得られる触媒全質量に対する合金の含有量(総元素含有量)が10質量%で、合金中における銅およびパラジウムの合計質量に対する銅の含有量が80質量%となるように、Cu(NO
3)
2・3H
2O(0.17g)とPd(NO
3)
2(0.024g)とを水(150mL)に添加した。次に、得られた溶液にハイドロキシアパタイト(Ca
10(PO
4)
6(OH)
2)(0.5g)を徐々に加えて、室温にて12時間混合した。その後、得られた溶液からエバポレーターを用いて水を除去して、得られた固形分を110℃で12時間乾燥した。次に、得られた固形分を500℃で4時間焼成した。その後、水素および窒素の混合ガス(水素体積:5体積%)の連続フロー(60mL/分)中において、得られた焼成物を500℃で2時間加熱して、触媒A1を得た。
得られた触媒A1は、担体であるハイドロキシアパタイト上に、銅およびパラジウムの粒子状の合金が担持されていた。任意の1525個の粒子状の合金の平均直径は、3.7nmであった。
【0058】
なお、得られた触媒A1中の粒子状の合金を透過型電子顕微鏡(日立:H−7100、加速電圧:100kV)にて観察した図を
図1に示す。さらに、得られた触媒A1中の粒子状の合金を透過型電子顕微鏡(日本電子:JEM−ARM200F、加速電圧200kV)にてHAADF−STEM観察を行った図を
図2に、
図2の粒子に対してEDSライン分析を施した銅とパラジウムの分布を
図3に示す。銅およびパラジウムが同一の場所にあることが確認され、銅およびパラジウムの合金が得られていることが確認できた。なお、
図3中、実線は銅を、破線はパラジウムを表す。
また、得られた触媒A1のPd−K吸収端X線吸収スペクトル(佐賀LS,BL07、採択番号:1901136T)を測定した。参照試料としてPdブラック(金属パラジウム)についても同様にスペクトルを得た。
図4に得られたXAFSスペクトルの広域X線吸収微細構造(EXAFS)領域をフーリエ変換したスペクトルを示す。
図4に示すように、触媒A1(
図4中のPd20Cu80)では金属パラジウム(
図4中のPd−black)とは異なりフーリエ変換したスペクトル上の2.2Å付近に鋭いピークが認められ、銅およびパラジウムの合金が得られていることが確認できた。
【0059】
次に、1,4−ジオキサン(10mL)にコハク酸(0.1g)および触媒A1(0.1g)をオートクレーブ内に加えて、オートクレーブに水素(8MPa)を導入した。次に、熱源(温度200℃)を用いてオートクレーブを96時間加熱して反応を進行させた。得られた生成物をガスクロマトグラフィーにて分析し、1,4−ブタンジオールの生成を確認した。1,4−ブタンジオールの収率は82%であった。
【0060】
(実施例A2)
Cu(NO
3)
2・3H
2OおよびPd(NO
3)
2の使用量を調整して、合金中における銅およびパラジウムの合計質量に対する銅の含有量が60質量%となるように触媒A2を調製した。
触媒A1の代わりに触媒A2を用いた以外は、実施例A1と同様の手順に従って、1,4−ブタンジオールの製造を行った。1,4−ブタンジオールの収率は62%であった。
【0061】
(実施例A3)
実施例A1の反応終了後、触媒A1を回収した。回収した触媒A1を用いて実施例A1と同様の手順に従って1,4−ブタンジオールの製造を実施したところ、1,4−ブタンジオールの収率は77%であった。
さらに、上記2回目の実施例A1の反応終了後、再度、触媒A1を回収した。回収した触媒A1を用いて実施例A1と同様の手順に従って1,4−ブタンジオールの製造を実施したところ、1,4−ブタンジオールの収率は73%であった。
上記結果より、触媒A1は再使用可能であることが確認された。
【0062】
(実施例A4)
ハイドロキシアパタイトの代わりに二酸化ケイ素を用いた以外は、実施例A1と同様の手順に従って、1,4−ブタンジオールの製造を行った。1,4−ブタンジオールの収率は86%であった。
【0063】
<実施例B>
(実施例B1)
Cu(NO
3)
2・3H
2OおよびPd(NO
3)
2の使用量を調整して、合金中における銅およびパラジウムの合計質量に対するパラジウムの含有量が80質量%となるように触媒B1を調製して、触媒A1の代わりに触媒B1を用いた以外は、実施例A1と同様の手順に従って、コハク酸の水素化反応を実施した。本実施例においては、主に、酪酸の生成が確認された。酪酸の収率は74%であった。
【0064】
(実施例B2)
Cu(NO
3)
2・3H
2OおよびPd(NO
3)
2の使用量を調整して、合金中における銅およびパラジウムの合計質量に対するパラジウムの含有量は60質量%となるように触媒B2を調製して、触媒B1の代わりに触媒B2を用いた以外は、実施例B1と同様の手順に従って、酪酸の製造を行った。酪酸の収率は50%であった。
得られた触媒B2は、担体であるハイドロキシアパタイト上に、銅およびパラジウムの粒子状の合金が担持されていた。任意の1347個の粒子状の合金の平均直径は、3.2nmであった。
なお、得られた触媒B2中の粒子状の合金を透過型電子顕微鏡(日立:H−7100、加速電圧:100kV)にて観察した図を
図5に示す。
【0065】
(実施例B3)
ハイドロキシアパタイトの代わりにべーマイトを用いて、反応時間を96時間から48時間に変更した以外は、実施例B1と同様の手順に従って、酪酸の製造を行った。酪酸の収率は60%であった。
【0066】
(実施例B4)
ハイドロキシアパタイトの代わりにγ−アルミナを用いて、反応時間を96時間から48時間に変更した以外は、実施例B1と同様の手順に従って、酪酸の製造を行った。酪酸の収率は78%であった。
【0067】
<実施例C>
(実施例C1)
ハイドロキシアパタイトの代わりにγ−アルミナを用いた以外は、実施例A1と同様の手順に従って、コハク酸の水素化反応を実施した。本実施例においては、主に、テトラヒドロフランの生成が確認された。テトラヒドロフランの収率は97%であった。
【0068】
なお、実施例C1で使用された触媒C1中の粒子状の合金を透過型電子顕微鏡(日立:H−7100、加速電圧:100kV)にて観察した図を
図6に示す。粒子状の合金の平均直径は、3.0nmであった。
また、得られた触媒C1のPd−K吸収端X線吸収スペクトル(佐賀LS,BL07、採択番号:1910092R)を測定した(
図7(B)参照)。参照試料としてPd箔(Pd foil)についても同様にスペクトルを得た(
図7(A)参照)。
図7に示すように、触媒C1(
図7(B)中のPd20Cu80)では参照試料とは異なりフーリエ変換したスペクトル上の2.2Å付近に鋭いピークが認められ、銅およびパラジウムの合金が得られていることが確認できた。
【0069】
(実施例C2)
反応時間を96時間から48時間に変更した以外は、実施例C1と同様の手順に従って、テトラヒドロフランの製造を行った。テトラヒドロフランの収率は90%であった。
【0070】
(実施例C3)
Cu(NO
3)
2・3H
2OおよびPd(NO
3)
2の使用量を調整して、合金中における銅およびパラジウムの合計質量に対する銅の含有量は60質量%となるように触媒C3を調製した以外は、実施例C2と同様の手順に従って、テトラヒドロフランの製造を行った。テトラヒドロフランの収率は85%であった。
【0071】
(実施例C4)
使用する水素の圧力を8MPaから7MPaに変更した以外は、実施例C2と同様の手順に従って、テトラヒドロフランの製造を行った。テトラヒドロフランの収率は95%であった。
【0072】
(実施例C5)
使用する水素の圧力を8MPaから6MPaに変更した以外は、実施例C2と同様の手順に従って、テトラヒドロフランの製造を行った。テトラヒドロフランの収率は95%であった。
【0073】
(実施例C6)
実施例C2の反応終了後、使用した触媒を回収した。回収した触媒を用いて実施例C2と同様の手順に従ってテトラヒドロフランの製造を実施したところ、テトラヒドロフランの収率は88%であった。
さらに、上記2回目の実施例C2の反応終了後、再度、使用した触媒を回収した。回収した触媒を用いて実施例C2と同様の手順に従ってテトラヒドロフランの製造を実施したところ、テトラヒドロフランの収率は94%であった。
上記結果より、触媒は再使用可能であることが確認された。