【解決手段】樹脂成形品10は、樹脂基材層30と、カバー層32と、意匠層28を備える。意匠層28は樹脂基材層30の意匠側端面38に設けられ、一方、カバー層32は、意匠側端面38の裏面であるカバー側端面40に設けられる。また、カバー層32は、カバー側端面40に対向する第1端面50と、該第1端面50の裏面である第2端面52を有する。第1端面50は第1コーティング層54で被覆され、且つ第2端面52は第2コーティング層56で被覆される。
請求項1又は2記載の樹脂成形品において、前記第1コーティング層又は前記第2コーティング層のいずれか一方の厚みが2〜10μmの範囲内であり、且つ残余の一方の厚みが1〜5μmの範囲内である樹脂成形品。
請求項3記載の樹脂成形品において、前記第1コーティング層の厚みが前記第2コーティング層に比して小さく、且つ前記第1コーティング層の厚みが前記第2コーティング層の厚みの1/2以上である樹脂成形品。
請求項5又は6記載の製造方法において、前記第1コーティング層又は前記第2コーティング層のいずれか一方の厚みを2〜10μmの範囲内に設定し、且つ残余の一方の厚みを1〜5μmの範囲内に設定する樹脂成形品の製造方法。
請求項7記載の製造方法において、前記第1コーティング層の厚みを前記第2コーティング層に比して小さくし、且つ前記第1コーティング層の厚みを前記第2コーティング層の厚みの1/2以上に設定する樹脂成形品の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
樹脂成形品の厚みが大きいと、嵩張るために携帯することが不便となる。そこで、カバー層等の厚みを可及的に小さくすることが想起される。
【0007】
ところで、カバー層が設けられた樹脂基材層は、上記したように、カバー層が添着された液状硬化型樹脂を硬化させることで作製される。この硬化の際、すなわち、液状硬化型樹脂が硬化して樹脂基材層に変化する過程で、特に厚みを小さくしたカバー層に撓み(歪み)が生じ易くなるという不具合が顕在化している。
【0008】
本発明は上記した問題を解決するためになされたもので、カバー層の厚みが小さい場合であっても、該カバー層に撓みが生じることを抑制し得る樹脂成形品及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するために、本発明の一実施形態によれば、紫外線硬化樹脂からなり、且つカバー側端面と、前記カバー側端面の裏面である意匠側端面とを有する樹脂基材層と、
高分子膜からなり、前記樹脂基材層の前記カバー側端面に設けられたカバー層と、
前記樹脂基材層の前記意匠側端面に設けられて前記カバー層を介して視認可能な意匠層と、
を備える樹脂成形品において、
前記カバー層は、前記樹脂基材層の前記カバー側端面に対向する第1端面と、前記第1端面の裏面である第2端面とを有し、
前記第1端面を被覆する第1コーティング層と、前記第2端面を被覆する第2コーティング層とが設けられた樹脂成形品が提供される。
【0010】
また、本発明の別の一実施形態によれば、紫外線硬化樹脂からなり、且つカバー側端面と、前記カバー側端面の裏面である意匠側端面とを有する樹脂基材層と、
高分子膜からなり、前記樹脂基材層の前記カバー側端面に設けられたカバー層と、
前記樹脂基材層の前記意匠側端面に設けられて前記カバー層を介して視認可能な意匠層と、
を備える樹脂成形品の製造方法において、
上端が開口端である金型に紫外線硬化樹脂を導入して前記樹脂基材層の前駆体を得る導入工程と、
高分子膜からなるカバー層の第1端面を第1コーティング層で被覆する一方、前記第1端面の裏面である第2端面を第2コーティング層で被覆する被覆工程と、
前記金型に収容された前記前駆体の、前記開口端に臨む端面に、前記第1コーティング層が下方、前記第2コーティング層が上方となるようにして、前記カバー層を載置する載置工程と、
前記カバー層が載置された前記前駆体を、前記カバー層を介して押圧し、前記開口端に臨む端面を均す均し工程と、
前記前駆体に対して紫外線を照射して硬化させ、前記カバー層が前記カバー側端面に設けられた基材樹脂層を得る硬化工程と、
前記基材樹脂層の、前記カバー側端面の裏面である前記意匠側端面に意匠層を設ける意匠層作製工程と、
を有する樹脂成形品の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、カバー層の、樹脂基材層に臨む第1端面に第1コーティング層を設けるとともに、その裏面である第2端面に第2コーティング層を設けるようにしている。これら第1コーティング層及び第2コーティング層によってカバー層に剛性が付与されるので、カバー層が設けられた紫外線硬化樹脂(樹脂基材層の前駆体)が硬化して樹脂基材層に変化する際、カバー層に歪みが生じることが有効に抑制される。
【0012】
このため、見栄えが良好な樹脂成形品が得られる。また、平面度に優れたカバー層は樹脂基材層に良好に保持されるので、カバー層が樹脂基材層から脱落し難くなる。すなわち、カバー層が樹脂基材層から脱落することを回避することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る樹脂成形品につき、その製造方法との関係で好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0015】
図1〜
図3は、それぞれ、本実施の形態に係る樹脂成形品10の全体概略斜視図、分解斜視図、積層方向(厚み方向)断面図である。この樹脂成形品10は、被接合部材12と、該被接合部材12に接合される積層体14とを備える。
【0016】
被接合部材12の上面16において、幅方向端部は、縁部から幅方向中心に向かうに従って膨出するように緩やかに湾曲している。換言すれば、被接合部材12は若干の丸みを帯びている。
【0017】
この場合、被接合部材12は、その内部に回路基板等の電子部品(図示せず)を収容した筐体である。
図2及び
図3に示すように、被接合部材12の平坦な上面16からは、内部に収容される電子部品との干渉を回避するための複数個(
図2においては5個)の中空凸部18が突出する。このため、被接合部材12の上面16は、中空凸部18に対して相対的に陥没した凹部となる。
【0018】
被接合部材12は、
図3に示される接合テープ20を介して積層体14に接合される。また、被接合部材12と積層体14の間には、ガイドテープ22が介在する。接合テープ20は両面テープからなり、ガイドテープ22は片面テープからなる。また、接合テープ20は、ガイドテープ22よりも厚みが大である。
【0019】
接合テープ20は、被接合部材12の平坦な上面16に対応する位置に設けられる。一方、ガイドテープ22は、中空凸部18に対応する位置に設けられる。このため、接合テープ20とガイドテープ22は互いに離間する。なお、接合テープ20及びガイドテープ22のいずれも、後述する基地部34に配置されており、模様部36には設けられていない。また、ガイドテープ22の粘着面は、積層体14の下端面に臨んでいる。
【0020】
積層体14は、意匠層28と、樹脂基材層30と、カバー層32とを備えるとともに、基地部34と模様部36が形成される。この場合、模様部36は装飾文字「H」を含む。ユーザは、該装飾文字「H」を、基地部34に対して立体的に浮かび上がるように視認することが可能である。
【0021】
以下、樹脂基材層30の
図3における下方の端面を意匠側端面、上方の端面をカバー側端面と表記し、各々の参照符号を38、40とする。意匠側端面38には、
図3の紙面手前側から奥側に向かって延在する溝形状の2個の凹部42a、42bが形成される。これら凹部42a、42bは、装飾文字「H」の2本の縦脚部にそれぞれ相当する。意匠側端面38には、凹部42a、42bに対して相対的に突出する凸部43a〜43cが形成される。
【0022】
凹部42a、42bは、上端側(カバー層32側)に向かって陥没している。また、凹部42a、42bは、互いに近接するにつれて深くなっている。すなわち、凹部42a、42bは、互いに対向する位置で最深であり、最も離間する位置で最浅である。なお、装飾文字「H」の横棒部を構成するための凹部(図示せず)の深さは、凹部42a、42bの最深部と略同程度である。
【0023】
意匠層28は、金属層44と、該金属層44の一部を覆う遮蔽層としての印刷層46を含む。金属層44が印刷層46で覆われることで基地部34が形成される一方、金属層44が印刷層46から露呈することで模様部36が形成される。以下、この点につき詳述する。
【0024】
金属層44は、樹脂基材層30の、凹部42a、42b及び凸部43a〜43cをはじめとする意匠側端面38の全体に設けられている。ユーザがカバー層32側から樹脂成形品10ないし積層体14を平面視したとき、該ユーザは、金属層44のうち、印刷層46によって遮蔽されず露呈した露呈部位44aを視認することができる。すなわち、模様部36が形成される。金属層44は、光沢を示すことで意匠性を一層向上させる。なお、露呈部位44aは全体で「H」形状をなし、ユーザには装飾文字「H」として視認される。
【0025】
金属層44の、露呈部位44a以外の部位は、印刷層46に覆われた(遮蔽された)被遮蔽部位44bである。換言すれば、印刷層46は、金属層44の被遮蔽部位44bと樹脂基材層30の間に介挿されている。このため、樹脂成形品10を使用するユーザからは、被遮蔽部位44bは印刷層46の背後に隠れ、視認し得ない状況となっている。これにより、基地部34が形成される。
【0026】
印刷層46は、金属層44と別色を呈する。印刷層46は、黒色であることが好ましい。この場合、金属層44の光沢とのコントラスト差が大きくなるので、露呈部位44a、換言すれば、装飾文字「H」の見栄えが向上するからである。
【0027】
金属層44の好適な材質としては、インジウム、スズ、又はこれらの合金等が挙げられる。これらの金属は電波透過性を示すので、樹脂成形品10をスマートキーとして用いる場合、スマートキーから車体への通信が妨げられることが回避される。一方、印刷層46の好適な材質としては、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂等が挙げられる。
【0028】
樹脂基材層30は紫外線硬化樹脂からなる。紫外線硬化樹脂は比較的柔軟であり、このため、積層体14を湾曲させる外力が付与されたとき、該積層体14は容易に湾曲する。このように、樹脂基材層30は、積層体14に可撓性をもたらす。
【0029】
なお、印刷層46は樹脂基材層30よりも一層柔軟である。すなわち、印刷層46の伸び率は樹脂基材層30に比して大きく、且つショアD硬度は樹脂基材層30に比して小さい。このため、印刷層46及び金属層44が樹脂基材層30に追従して容易に撓む(湾曲する)。従って、柔軟度の相違に起因して印刷層46及び金属層44が樹脂基材層30から剥離することが回避される。
【0030】
ここで、伸び率はJIS K 7161(ASTM D 638に準拠)に規定される、いわゆるB法に則って測定される。樹脂基材層30、印刷層46のそれぞれの伸び率は、例えば、1〜100%、1〜200%程度である。また、樹脂基材層30、印刷層46のそれぞれのショアD硬度は、例えば、60°〜90°、70°〜90°程度である。
【0031】
金属層44の下面には、印刷層46及び金属層44が樹脂基材層30から脱落することを防止するための保持層48が設けられる。保持層48は、例えば、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂等から形成され、金属層44の形状に倣った形状をなす。
【0032】
模様部36は、装飾文字「H」の最外縁部同士を囲繞する仮想領域A1(
図1及び
図2参照)内の部位である。従って、模様部36には、装飾文字「H」として視認される露呈部位44a、仮想領域A1内の被遮蔽部位44b、仮想領域A1内で被遮蔽部位44bを覆う印刷層46、仮想領域A1内の樹脂基材層30及び保持層48が含まれる。これに対し、基地部34は、仮想領域A1外の部位である。すなわち、基地部34は、仮想領域A1外の被遮蔽部位44b、仮想領域A1外で被遮蔽部位44bを覆う印刷層46、仮想領域A1外の樹脂基材層30及び保持層48を含む。
【0033】
図3から諒解されるように、基地部34(仮想領域A1外)の、樹脂基材層30の厚みT1は、模様部36(仮想領域A1内)の、印刷層46が形成された部位における樹脂基材層30の厚みT2に比して小さく設定される。このため、基地部34の層厚は、模様部36における印刷層46が存在する部位の層厚よりも小さい。なお、模様部36中の凹部42a、42bにおける保持層48、金属層44(露呈部位44a)及び樹脂基材層30の各厚みの総和である層厚は、上記2つの層厚よりも小である。
【0034】
カバー層32は、意匠側端面38に上記の意匠層28が形成された樹脂基材層30の、湾曲平面であるカバー側端面40に設けられる。カバー層32は高分子膜からなり、その好適な例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)が挙げられる。樹脂成形品10の肉厚を可及的に小さくするべく、カバー層32の厚みも可及的に小さく設定される。カバー層32の好ましい厚みは、150〜200μmの範囲内である。
【0035】
カバー層32は、樹脂基材層30のカバー側端面40に対向する第1端面50と、該第1端面50の裏面である第2端面52とを有する。
図3に示すように、第1端面50は積層体14の内方に臨む内面であり、第2端面52は大気に露呈する外面である。
【0036】
第1端面50は、第1コーティング層54で被覆されている。すなわち、第1コーティング層54はカバー側端面40に対向し、且つ該カバー側端面40と第1端面50に接合される。その一方で、第2端面52は第2コーティング層56で被覆されている。この被覆により、第2端面52が第2コーティング層56で保護される。
【0037】
以上の構成において、樹脂基材層30、第1コーティング層54、カバー層32及び第2コーティング層56は、光を透過可能な程度に薄肉であり且つ透明である。このため、ユーザは、第2コーティング層56の外方から樹脂成形品10を平面視(俯瞰)したとき、第2コーティング層56、カバー層32、第1コーティング層54及び樹脂基材層30を介して、金属層44の露呈部位44a、ひいては装飾文字「H」を容易に視認することができる。
【0038】
第1コーティング層54の素材としては、樹脂基材層30及びカバー層32に対する接着力が優れるものが好適である。そのような素材の代表例には、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0039】
一方の第2コーティング層56の素材は、カバー層32に対する接着力が優れるとともに、耐擦過性に優れるものや、指紋等の汚れが付着することを防止し得るもの等が好ましい。そのような素材としては、第1コーティング層54の素材である各種樹脂にフッ素系樹脂を添加した混合樹脂等が例示される。
【0040】
第1コーティング層54及び第2コーティング層56は、後述するように、カバー層32に剛性を付与し、これにより、紫外線硬化樹脂から樹脂基材層30を得る際にカバー層32が撓むことを抑制する役割を果たす。この観点からは、第1コーティング層54及び第2コーティング層56の厚みを、カバー層32に剛性を付与し得る程度とすればよい。
【0041】
ただし、第2コーティング層56は、上記したように、十分な耐擦過性や汚れ防止機能を示す厚みに設定することが好ましい。この観点からは、第2コーティング層56の厚みは2〜10μmの範囲内に設定すると好適である。
【0042】
そして、第2コーティング層56の厚みをこの範囲内に設定する場合、樹脂成形品10の肉厚を可及的に小さくするべく、第1コーティング層54の厚みを可及的に小さく設定することが好ましい。すなわち、第1コーティング層54の厚みを第2コーティング層56に比して小さくすることが好適である。
【0043】
その一方で、第1コーティング層54の厚みを過度に小さくすると、第1コーティング層54と第2コーティング層56の厚みに不均衡が生じる結果、カバー層32に十分な剛性を付与することが容易でなくなる。これを回避するには、第1コーティング層54の厚みを、第2コーティング層56の厚みの1/2以上に設定するとよい。例えば、第1コーティング層54、第2コーティング層56の各厚みが2μm、5μmである場合よりも、3〜4μm、5μmである場合の方が、カバー層32の平面度が大きくなる。
【0044】
次に、第1コーティング層54及び第2コーティング層56を設けた樹脂成形品10の作用効果につき、本実施の形態に係る樹脂成形品10の製造方法との関係で説明する。
【0045】
樹脂成形品10を構成する積層体14を得るには、先ず、導入工程S1を行う。すなわち、
図4に示すように、装飾文字「H」を成形する形状のキャビティ60が設けられた金型62を用いる。該金型62の上端は、大気に向かって大きく開放された開口端である。この開口端から、ディスペンサ64によって紫外線硬化樹脂を注入(導入)する。紫外線硬化樹脂はキャビティ60を充填した後に該キャビティ60から溢れ、さらに、溢れた分が開口端側で合流して連なる。以上により、金型62内に樹脂基材層30の前駆体30aが得られる。該前駆体30aが、紫外線硬化樹脂の成形物からなることは勿論である。
【0046】
その一方で、被覆工程S2において、カバー層32(高分子膜)の第1端面50に対して第1コーティング層54を設ける。このためには、上記したような素材を用いるとともに、いわゆるロール・ツー・ロールや噴射塗布等の公知のコーティング手法を実施すればよい。その後、カバー層32の第2端面52に対し、上記した手法等で第2コーティング層56を設ける。
【0047】
第1コーティング層54、第2コーティング層56のそれぞれの厚みは、例えば、3〜4μm、5μmに設定することができる。なお、ロール・ツー・ロールの場合には、第1コーティング層54や第2コーティング層56の貼付を行う際にそれぞれの厚みを調整すればよい。また、噴射塗布の場合には、所定の厚みの第1コーティング層54及び第2コーティング層56が得られるまで塗布を継続すればよい。
【0048】
なお、第2コーティング層56を先に設け、その後に第1コーティング層54を設けるようにしてもよい。すなわち、第1コーティング層54と第2コーティング層56の形成順序は順不同である。また、導入工程S1と被覆工程S2のいずれを先に実施するようにしてもよいが、作業効率の観点から、両工程S1、S2を並行して実施することが最も好ましい。
【0049】
次に、載置工程S3を行う。すなわち、
図5に示すように、金型62に収容された状態の前駆体30aに対し、金型62の開口端に臨む上端面に、第1端面50が第1コーティング層54で被覆され且つ第2端面52が第2コーティング層56で被覆されたカバー層32を載置する。この際、第1コーティング層54が下方(前駆体30a側)、第2コーティング層56が上方(大気側)を臨むようにする。
【0050】
前駆体30a上にカバー層32が載置された状態で、次に、均し工程S4を行う。すなわち、
図5に示すローラ66(均し部材)により、カバー層32及び前駆体30aを加圧する。さらに、ローラ66を矢印方向に進行させることにより、軟質な前駆体30a(紫外線硬化樹脂)が均されてその厚みが調整される。なお、ローラ66の進行は片道1回で十分であるが、必要に応じて1回以上往復させるようにしてもよい。
【0051】
次に、厚みが調整された前駆体30aを、硬化工程S5において硬化する。前駆体30aが紫外線硬化樹脂からなる本実施の形態では、該前駆体30aに対して紫外線を照射する。これにより前駆体30aが硬化し、その結果、樹脂基材層30が得られる。この過程で、第1コーティング層54が樹脂基材層30のカバー側端面40に接着され、
図6に示す樹脂基材層30とカバー層32との複合体68が得られる。この時点で、樹脂基材層30は、キャビティ60に充填された部分が硬化した凸部43a〜43cと、凸部43a〜43c間に介在する凹部42a、42bとを有する。
【0052】
前駆体30aが硬化して樹脂基材層30に変化する際、体積収縮が起こる。この際、前駆体30aに載置されたカバー層32が、収縮する前駆体30aに引っ張られる。特に、カバー層32が、その厚みが150〜200μm程度の小さなものである場合、前駆体30aの収縮量の不均衡が大きいと、カバー層32に撓み(歪み)が生じる懸念がある。
【0053】
しかしながら、本実施の形態では、カバー層32の第1端面50を第1コーティング層54で被覆するとともに、第2端面52を第2コーティング層56で被覆している。これら第1コーティング層54及び第2コーティング層56により、カバー層32に剛性が付与される。このため、カバー層32に撓み(歪み)が生じることが有効に抑制される。
【0054】
撓みが抑制されたために平面度が大きなカバー層32は、樹脂基材層30から脱落し難い。従って、以降の意匠層作製工程S6において、カバー層32が樹脂基材層30に保持された状態が保たれる。
【0055】
次に、意匠層作製工程S6を行う。一層詳細には、金型62から取り出した複合体68をスクリーン印刷装置にセットする。スクリーン印刷装置は、
図7に示す台座部70及びスクリーン72を備える。複合体68は、凸部43a〜43cの頂面を上方とする姿勢として台座部70に保持される。また、スクリーン72には、凸部43a〜43cの頂面に対応する位置に通過開口74が形成されている。
【0056】
そして、スクリーン72に対してインク46aを吐出する。通過開口74を通過したインク46aは、凸部43a〜43cの頂面に付着する。換言すれば、
図8に示すように、凸部43a〜43cの頂面にインク46aが印刷される。インク46aが乾燥して印刷層46が形成されることにより、複合体80が得られる。
【0057】
次に、
図9に示すように金属層44を形成する。この際には、例えば、金属蒸着を行えばよい。なお、金属としては、上記したようにインジウムやスズ、これらの合金等を選定することが好ましい。この場合、電波透過性を示す金属層44を容易に得ることができるからである。
【0058】
必要に応じ、さらに、
図10に示すように金属層44上に保持層48を形成する。保持層48は、例えば、塗装機によってウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂等を吹き付けることで形成することができる。これにより金属層44の形状に倣った保持層48が得られ、積層体14が得られるに至る。保持層48を形成したくない部位に対しては、マスキングで予め覆うようにしてもよい。
【0059】
以上のようにして得られた積層体14を、次に、
図11に示すように湾曲させながら、接合テープ20を介して被接合部材12(例えば、スマートキーの筐体)に貼付する。湾曲した積層体14を被接合部材12に重ねるとき、ガイドテープ22が中空凸部18上に配置されて当接するように積層体14の姿勢及び位置等を設定すればよい。これにより積層体14と被接合部材12の相対位置が定まるので、積層体14を被接合部材12に貼付すること、換言すれば、接合することが容易となる。
【0060】
ガイドテープ22は片面テープであることから、中空凸部18に当接するのみであり、積層体14の意匠層28と被接合部材12の接合には関与しない。換言すれば、意匠層28(積層体14)と被接合部材12の接合に関与するのは、両面テープからなる接合テープ20のみである。このため、接合テープ20を被接合部材12に仮貼付した直後の十分な粘着力が発現しない最中に、積層体14を被接合部材12に押し付ける前に該積層体14の位置を修正することが容易である。
【0061】
接合テープ20の十分な粘着力を介して積層体14を被接合部材12に接合するためには、作業者が指で積層体14を被接合部材12に向かって押圧する。ここで、本実施の形態では、基地部34のみに接合テープ20、ガイドテープ22を貼付し、模様部36には貼付しないようにしている。従って、押圧に伴って接合テープ20やガイドテープ22が圧潰され、両テープ20、22が金属層44よりも広範囲に展延したような場合であっても、該両テープ20、22が模様部36に露呈することが回避される。
【0062】
このため、ユーザがカバー層32側から樹脂成形品10を視認したときに両テープ20、22の存在が認識されることが回避される。従って、美観を損ねる懸念が払拭される。
【0063】
さらに、厚みが小さなガイドテープ22を中空凸部18に対応する位置に設けるとともに、厚みが大きな接合テープ20を、中空凸部18に対して相対的に凹部である平坦な上面16に対応する位置に設けている。従って、意匠層28及びカバー層32の厚みが小さな積層体14を被接合部材12に接合しても、意匠層28及びカバー層32に、中空凸部18又は上面16に対応する凸部又は凹部が形成されることが回避される。すなわち、カバー層32が被接合部材12の被接合面の凹凸形状に関わらず、略平坦となる。
【0064】
さらにまた、接合テープ20とガイドテープ22が互いに離間している(特に
図3参照)。このため、接合テープ20とガイドテープ22の間に流通路82が形成される。積層体14を被接合部材12に接合する際、換言すれば、両者を密着させる際、両者の間に介在する空気は、この流通路82を介して外部に排出される。従って、両者間に空気が残存することや、これに起因して気泡が形成されることを回避することができる。
【0065】
積層体14が被接合部材12に接合されることにより、樹脂成形品10が得られる。ここで、ユーザがカバー層32側から樹脂成形品10を目視したとき、視認可能であるのは、金属層44の、印刷層46によって遮蔽されていない部位のみ、すなわち、凹部42a、42bに設けられた露呈部位44aのみである。凹部42a、42bがカバー層32側に向かって陥没した立体形状であるので、ユーザは、模様部36中の装飾文字「H」を立体的な装飾として認識する。このように、本実施の形態によれば、立体感に富む装飾文字「H」を含む模様部36を設けることが容易である。
【0066】
上記したように、カバー層32には第1コーティング層54及び第2コーティング層56が設けられている。このためにカバー層32に剛性が付与されるので、カバー層32に撓みが生じることが抑制されている。換言すれば、カバー層32は、その平面度が大きい。このため、樹脂成形品10としての見栄えが良好となる。また、カバー層32が樹脂基材層30に良好に保持されるので、カバー層32が樹脂基材層30から脱落することが長期間にわたって回避される。
【0067】
また、カバー層32が第2コーティング層56で保護されるので、カバー層32に傷が生じ難くなる。加えて、指紋等の汚れが付着することが防止される。
【0068】
本発明は、上記した実施の形態に特に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0069】
例えば、カバー層32の厚みを200μmよりも大きい値に設定するようにしてもよい。
【0070】
また、この実施の形態では、積層体14を被接合部材12の曲面に貼付する場合を例示しているが、積層体14を、湾曲していない平坦面に貼付し得ることは勿論である。
【0071】
さらに、保持層48は必要に応じて形成すればよく、金属層44と樹脂基材層30の接合強度によっては省くことも可能である。