【解決手段】車両のハンドルのコラム軸にトーションバーを備え、コラム軸に接続されたモータを電流指令値に基づいて駆動制御することにより、操舵系をアシスト制御する電動パワーステアリング装置において、少なくとも操舵角を含む車両運転情報に基づいて目標操舵トルクを生成する目標操舵トルク生成部と、目標操舵トルクを目標捩れ角に変換する変換部と、少なくとも目標捩れ角、操舵トルク及びトーションバーの捩れ角に基づいて電流指令値を算出する捩れ角制御部とを備え、捩れ角を操舵角に追従するように制御する。
車両のハンドルのコラム軸にトーションバーを備え、前記コラム軸に接続されたモータを電流指令値に基づいて駆動制御することにより、操舵系をアシスト制御する電動パワーステアリング装置において、
少なくとも操舵角を含む車両運転情報に基づいて目標操舵トルクを生成する目標操舵トルク生成部と、
前記目標操舵トルクを目標捩れ角に変換する変換部と、
少なくとも前記目標捩れ角と、前記トーションバーの捩れ角とに基づいて前記電流指令値を算出する捩れ角制御部と、
を備え、
前記捩れ角を前記操舵角に追従するように制御することを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、路面の状態に影響されず、操舵角に対して同等の操舵トルクを実現するための電動パワーステアリング装置であり、コラム軸に備えられているトーションバー(ステアバイワイヤ(SBW)の反力装置に具備される場合を含む)の捩れ角を、操舵角に応じた値に追従するように制御することにより所望の操舵トルクを実現している。
【0017】
以下に、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0018】
図3は本発明の基本構成を示すブロック図であり、運転者のハンドル操舵はEPSプラント(操舵系+車両系)100内のモータでアシスト制御される。操舵角θh、車速Vs、操舵トルクTs、操舵位置情報としてのモータ角度θm、電流指令値Iref、モータ角速度ωm等の車両運転情報は目標操舵トルク生成部120に入力され、目標操舵トルク生成部120で生成された目標操舵トルクTrefは、トーションバー2Aのバネ定数をKtとして、“1/Kt”の特性を有する変換部101で目標捩れ角Δθrefに変換され、目標捩れ角Δθrefは捩れ角制御部150に入力される。捩れ角制御部150には目標捩れ角Δθref(実施例に応じてモータ角速度ωm)が入力されると共に、検出されたトーションバーの捩れ角ΔθがEPSプラント100から入力されており、捩れ角制御部150で捩れ角Δθが目標捩れ角Δθrefとなるような電流指令値Irefが演算され、電流指令値IrefによりEPSのモータが駆動される。
【0019】
EPS操舵系と各種センサの設置例は
図4に示すようになっており、コラム軸2にはトーションバー2Aが備えられている。操向車輪8L,8Rには路面反力Fr及び路面情報μが作用し、トーションバー2Aを挟んでコラム軸2のハンドル側には上側角度センサ(角度θ1)が設けられ、トーションバー2Aを挟んでコラム軸2の操向車輪側には下側角度センサ(角度θ2)が設けられている。操舵角θhはコラム軸2の上部に設けられた舵角センサで検出され、上側角度センサの角度θ1及び下側角度センサの角度θ2の偏差から、下記数1及び数2によってトーションバー捩れ角Δθ及びトーションバートルクTtを求めることができる。なお、Ktはトーションバー2Aのバネ定数である。
(数1)
θ1−θ2=Δθ
(数2)
Kt・Δθ=Kt・(θ1−θ2)=Tt
なお、トーションバートルクTtは、例えば特開2008−216172号公報で示されるトルクセンサを用いて検出することができる。
【0020】
このような構成において、本発明の動作例を
図5のフローチャートを参照して説明する。
【0021】
先ず、操舵角θh、車速Vs、操舵トルクTs、モータ角度θm及び電流指令値Irefが目標操舵トルク生成部120に入力され(ステップS1)、目標操舵トルク生成部120は目標操舵トルクTrefを生成する(ステップS10)。目標操舵トルクTrefは変換部101に入力され、変換部101で
バネ定数Ktの逆数“1/Kt”を乗算されて目標捩れ角Δθrefに変換される(ステップS30)。変換部101からの目標捩れ角Δθref、EPSプラント100からの捩れ角Δθ(必要に応じてモータ角速度ωm)がそれぞれ捩れ角制御部150に入力され(ステップS31)、捩れ角制御部150は捩れ角制御により、捩れ角Δθが目標捩れ角Δθrefに追従するような電流指令値Irefを演算し(ステップS40)、電流指令値Irefに基づいてモータを駆動し、電流制御が実施される(ステップS60)。
【0022】
なお、
図5におけるデータの入力順番は適宜変更可能である。
【0023】
図6は目標操舵トルク生成部120の構成例を示しており、操舵角θhは基本マップ121及び微分部122に入力されると共に、後述するヒステリシス補正部131、切増し/切戻し判定部130及びSAT情報補正部140に入力される。基本マップ121は、
図7に示すような構成であり、操舵角θhは車速Vsをパラメータとするマップ121Aに入力されると共に、符号部121Bに入力される。マップ121Aからは車速Vsをパラメータとするトルク信号Trefaが出力され、符号部121Bからは判定された正又は負の符号SGNが出力される。トルク信号Trefaは乗算部121Cで符号SGNと乗算され、乗算結果であるトルク信号Tref_aが出力される。
図7では操舵角θhの絶対値|θh|でマップを構成しているが、正負の符号を判定し、符号を乗算した操舵角θhに応じてトルク信号Tref_aを出力するようにしても良い。トルク信号Tref_aは加算部123に入力される。
【0024】
また、微分部122からは、操舵角θhを微分して得られる舵角速度ωhが出力され、舵角速度ωhは乗算部125に入力される。乗算部125には車速感応ダンパゲインマップ124から車速感応ダンパゲインDGが入力されており、乗算結果(=DG・ωh)であるトルク信号Tref_bは加算部126に入力される。車速感応ダンパゲインDGは車速感応ダンパゲインマップ124から車速Vsに応じて出力され、例えば
図8に示すように、車速Vsが高くなるに従って徐々に大きくなり、高い高速域では変化が少なくなる特性である。
【0025】
切増し/切戻し判定部130は例えば
図9に示すように、操舵角θh及びモータ角速度ωの正負関係で切増し/切戻し操舵の判定を行い、判定結果である操舵状態STsをヒステリシス補正部131に入力する。また、特開2003−170856号公報で示されるように、操舵トルクTsの符号と操舵トルク変化率の符号とが同一で、かつ操舵トルク変化率の絶対値が所定値以上のときに切増しと判定し、操舵トルクTsの符号と操舵トルク変化率の符号とが異符号で、かつ操舵トルク変化率の絶対値が所定値以上のときに切戻しと判定するようにしても良い。更に、操舵トルクTsとモータ速度の符号が同一の場合に切増しと判定し、異符号の場合に切戻しと判定するようにしても良い。
【0026】
ヒステリシス補正部131には操舵状態STs及び操舵角θhが入力されており、ヒステリシス補正部131は操舵角θh及び操舵状態STsに基づき、下記数3に従ってトルク信号Tref_cを演算する。ただし、x=θh、y=Tref_cとしている。トルク信号Tref_cは加算部127に入力される。
【0027】
【数3】
切増し操舵から切戻し操舵、切戻し操舵から切増し操舵へ切り替える際に、最終座標(x1,y1)の値に基づき、切り替え後の数3の“b”に以下の数4を代入する。これにより、切り替え前後の連続性が保たれる。
【0028】
【数4】
数3及び数4においてAhys=1[Nm]、a=0.3と設定し、0[deg]から開始し、+50[deg]、−50[deg]の操舵をした場合の、ヒステリシス補正されたトルク信号Tref_cの線図例を
図10に示す。即ち、ヒステリシス補正部131からのトルク信号Tref_cは、0の原点→a(細線)→b(破線)→c(太線)のようなヒステリシス特性である。
【0029】
また、目標操舵トルク生成部120内のSAT情報補正部140には、操舵角θh、車速Vs、電流指令値Iref、操舵トルクTs及びモータ角度θmが入力され、その構成例(実施例1)は
図11に示すようになっている。即ち、SAT情報補正部140は大きく分けて、SAT基準値演算部141とSAT推定部146とで構成され、SAT基準値演算部141で演算されたSAT基準値 SAT_baseと、SAT推定部146で推定されたSAT推定値SATesの位相補償後の補償後SAT推定値SATescとの偏差である差分SAT値ΔSAT(=SAT_base - SATesc)を減算部142で求め、差分SAT値ΔSATを不感帯処理部143、車速感応ゲイン部144及びリミッタ145を経て出力処理し、SAT補正トルクTref_dを出力する。
【0030】
SAT基準値演算部141は、車速Vs及び操舵角θhに応じたSAT基準値SAT_baseを演算する。SAT基準値演算部141の構成例は
図12であり、操舵角θhは絶対値部141Aで絶対値化され、操舵角絶対値|θh|は車速感応のSAT基準マップ出力部141Bに入力され、SAT基準マップ出力部141Bから出力される車速Vsに応じたSAT基準マップ出力は乗算部141Dに入力される。また、操舵角θhは符号部141Cに入力され、判定された正負の符号SNが乗算部141Dに入力され、SAT基準マップ出力に符号SNを乗算されたSAT基準値SAT_baseが出力される。なお、車両が通常路面で駆動した場合の操舵角θhとSAT検出値を基に、SAT基準マップ出力部141Bを予め設定しても良い。
【0031】
SAT推定部146は、電流指令値Irefを基にコラム軸換算したモータ発生トルクTMを求める換算部146Aと、モータ角度θmを基にコラム軸換算した角速度ωMを演算する角速度演算部146Jと、モータ発生トルクTMと操舵トルクTsを加算する加算部146Bと、角速度ωMから角加速度αMを演算する角加速度演算部146Cと、角加速度αMにモータのイナーシャJを乗算する乗算部146Dと、加算部146Bの加算結果から、イナーシャJの乗算値(=J・αM)を減算する減算部146Eと、角速度ωMの符号sign(ωM)を判定する符号部146Fと、符号sign(ωM)に摩擦(静摩擦)Frを乗算する乗算部146Gと、角速度ωMにダンパ係数DMを乗算する乗算部146Kと、減算部146Hとで構成されている。モータ角度θmに代えてコラム軸角度を入力し、角速度ωMを求めても良い。モータ角度θm及びコラム軸角度を操舵位置情報とする。このような構成のSAT推定部146は、下記数5に従ってSAT推定値SATesを推定して出力する。即ち、運転者がハンドルを操舵することによって操舵トルクTsが発生し、その操舵トルクTsに従ってモータがモータ発生トルクTMを発生する。その結果、車輪が転舵され、反力としてSATが発生する。その際、モータのイナーシャJ及び摩擦Frによってハンドル操舵の抵抗となるトルクが生じるので、これらの力の釣り合いを考えると、下記数5が成立する。
【0032】
【数5】
上述のようにして、SAT推定部146で推定されたSAT推定値SATesに対して、下記数6に示す特性の、車速Vsに感応した位相補償フィルタ147の処理をする。Tveh及びTaは時定数である。
【0033】
【数6】
ただし、下記数7の関係がある。
【0034】
【数7】
即ち、分子の(時定数Tvehの逆数である)カットオフ周波数1/Tvehは車速Vsに比例した設定値に逐次更新し、分母の(時定数Taの逆数である)カットオフ周波数に関しては、固定値で良い。分子のカットオフ周波数を車速Vsに比例した設定値にする理由は、下記の通りである。操舵角を切ってからSATが定常的な状態になるまでには時間的な遅れがあり、このため、SAT補正トルクTref_dの出力でに遅れが発生し、結果的に操舵した際にもたつくようなフィーリングになり得る。傾向として、この遅れは車速Vsが低速になるほど発生し易い。それを補償するために、車速に応じた位相進み特性を設定し、もたつくようなフィーリングを改善する。設定値は、例えば10km/h毎に更新しても良い。また、極低速では、“0”ではない値に固定して良い。
【0035】
位相補償フィルタ147で位相補償処理を施された補償後SAT推定値SATescは減算部142に入力され、SAT基準値SAT_baseとの差分SAT値ΔSATが算出され、差分SAT値ΔSATは不感帯処理部143に入力される。SAT基準値SAT_baseと補償後SAT推定値SATescの値が近い場合には、差分SAT値ΔSATの値が“0”近傍で小さいため、SAT補正トルクTref_dとして反映させる必要はない。そのため、不感帯処理部143を設けることにより、差分SAT値ΔSATが“0”近傍の際には、“0”出力となるように処理する。不感帯処理部143の特性は、例えば
図13(A)に示すように“+ΔSAT1”〜“−ΔSAT1”の範囲で出力SATaを“0”とする。不感帯処理部143の他の例として、
図13(B)のように湾曲部を持たせた特性とすることで連続的なフィーリングにすることもできる。また、“0”近傍から徐々に立ち上がらせ、更に大きくなるに従って徐々に飽和するような特性でも良い。
【0036】
不感帯処理部143から出力されたトルク信号SATaは車速Vsに感応する車速感応ゲイン部144に入力され、例えば
図14に示すような、高速時の感度が高くなる特性のゲインGvを乗算される。即ち、
図14の例では、車速50km/hまではゲインGv=0.7で一定であり、車速50km/h〜70km/hで線形に増加し、車速70km/h以上ではゲインGv=1.0で一定となっている。なお、非線形で増加する特性でも良い。
【0037】
ゲインGvを乗算された車速感応ゲイン部144からのトルク信号SATbはリミッタ145に入力され、上下限値を制限されたSAT補正トルクTref_dが出力される。
【0038】
このような構成において、目標操舵トルク生成部120の動作例(
図5のステップS10)を、
図15のフローチャートを参照して説明する。
【0039】
先ず、操舵角θh、車速Vs、電流指令値Iref、操舵トルクTs、モータ角度θm、モータ角速度ωmが入力され(ステップS11)、基本マップ121は
図12の構成及び特性に従い、操舵角θh及び車速Vsに応じたトルク信号Tref_aを生成して出力し、トルク信号Tref_aを加算部123に加算する(ステップS12)。操舵角θhは微分部122及びヒステリシス補正部131にも入力され、微分部122は操舵角θhを微分して舵角速度ωhを出力し(ステップS13)、車速感応ダンパゲインマップ124は車速Vsに応じた車速感応ダンパゲインDGを出力し(ステップS14)、乗算部125は舵角速度ωh及び車速感応ダンパゲインDGを乗算してトルク信号Tref_bを演算し、トルク信号Tref_bを加算部126に入力する(ステップS15)。
【0040】
また、切増し/切戻し判定部130は操舵の切増し/切戻しを
図9の特性に従って判定し、判定結果である操舵状態STsをヒステリシス補正部131に入力する(ステップS16)。ヒステリシス補正部131は操舵角θh及び操舵状態STsに応じて数3及び数4の演算を行ってヒステリシス補正を実施し(ステップS17)、トルク信号Tref_cを生成する(ステップS18)。トルク信号Tref_cは加算部127に入力される。更に、SAT情報補正部140は操舵角θh、車速Vs、電流指令値Iref、操舵トルクTs及びモータ角度θmを入力し、後述する方法でSAT補正トルクTref_dを算出する(ステップS20)。
【0041】
上述のようにして得られたトルク信号Tref_a、トルク信号Tref_b、トルク信号Tref_c及びSAT補正トルクTref_dは、出力部を構成する加算部123、126及び127で加算され(ステップS18)、加算結果である目標操舵トルクTrefが出力される(ステップS19)。即ち、SAT補正トルクTref_dとトルク信号Tref_cが加算部127で加算され、その加算結果にトルク信号Tref_bが加算部126で加算され、その加算結果にトルク信号Tref_aが加算部123で加算され、その加算結果が目標操舵トルクTrefとして出力される。
【0042】
なお、
図15のデータ入力及び演算等の順番は適宜変更可能である。また、トルク信号Tref_b及びトルク信号トルク信号Tref_cによる目標操舵トルクの修正は必ずしも必要ではなく、適宜採用して良い。
【0043】
次に、SAT情報補正部140の動作例を(
図15のステップS20)、
図16のフローチャートを参照して説明する。
【0044】
先ず、操舵角θh、車速Vs、電流指令値Iref、操舵トルクTs、モータ角度θmが入力され(ステップS21)、SAT基準値演算部141は
図12に示す構成及び動作に従ってSAT基準値SAT_baseを演算し、減算部142に加算入力する(ステップS22)。SAT推定部146は電流指令値Iref、操舵トルクTs、モータ角度θmに基づいて前記数5に従ってSAT推定値SATesを推定し、位相補償フィルタ147に入力する(ステップS23)。位相補償フィルタ147で数6に従って位相補償された補償後SAT推定値SATescは、減算部142に減算入力される(ステップS24)。
【0045】
減算部142でSAT基準値SAT_baseと補償後SAT推定値SATescの差分SAT値ΔSA
Tが演算され(ステップS25)、差分SAT値ΔSATは不感帯処理部143に入力され、
図13(A)又は
図13(B)の特性に従って不感帯処理される(ステップS26)。不感帯処理されたトルク信号STAaは車速感応ゲイン部144でゲインGvを乗算され(ステップS27)、その後リミッタ145で上下限値を制限され(ステップS28)、上下限値を制限されたSAT補正トルクSAT_dが出力される(ステップS29)。
【0046】
次に、捩れ角制御部150について説明する。
【0047】
図17は捩れ角制御部150の構成例を示すブロック図であり、目標捩れ角Δθrefと捩れ角Δθの角度偏差Δθ0が減算部151で算出され、角度偏差Δθ0は補償値CFB(伝達関数)の捩れ角フィードバック(FB)補償部152に入力される。捩れ角FB補償部152は角度偏差Δθ0に対し補償値CFB(伝達関数)を乗算し、目標捩れ角Δθrefに捩れ角Δθが追従するような目標コラム角速度ωreftを出力する。目標コラム角速度ωrefは、I−P制御(比例先行型PI制御)の速度制御部150に入力される。
【0048】
また、捩れ角Δθは微分部153に入力されて微分され、微分により得られたコラム角速度ωcが速度制御部154に入力される。速度制御部154は、目標コラム角速度ωreftとコラム角速度ωcの速度偏差Δωtを求める減算部154Aと、速度偏差Δωtを積分処理(Kvi/s)する積分部154Bと、コラム角速度ωcを比例処理(Kvp)する比例部154Dと、積分部154Bの出力及び比例部154Dの出力の偏差である電流指令値Irefvを求める減算部154Cとで構成されている。P−I制御の速度制御部154は、目標コラム角速度ωreftにコラム角速度ωcが追従するような電流指令値Irefvを算出する。速度制御部154の後段にリミッタ155が設けられており、電流指令値Irevの上下限値を制限された電流指令値Irefが出力される。
【0049】
なお、コラム角速度ωcは
図18のように、モータ角速度ωmに減速機構である減速比部156の減速比“1/N”を乗算する構成で、求めるようにしても良い。
【0050】
このような構成において、
図17に示す捩れ角制御部150の動作例(
図5のステップS31及びS40)を、
図19のフローチャートを参照して説明する。
【0051】
先ず目標捩れ角Δθref及び捩れ角Δθが入力され(ステップS31)、減算部151で角度偏差Δθ0が算出される(ステップS42)。角度偏差Δθ0は捩れ角FB補償部152に入力されて補償され(ステップS43)、補償された目標コラム角速度ωreftが減算部154Aに入力される。また、捩れ角Δθは微分部153に入力されてコラム角速度ωcが演算され、コラム角速度ωcは減算部154A及び比例部154Dに入力される(ステップS44)。減算部154Aで速度偏差Δωtが算出され(ステップS45)、速度偏差Δωtが積分部154Bで積分処理されて減算部154Cに加算入力される(ステップS46)。コラム角速度ωcを比例処理した比例部154Dからの比例出力は、減算部154Cに減算入力され(ステップS47)、減算部154Cで電流指令値Irefvが演算される(ステップS48)。速度制御部154からの電流指令値Irefvはリミッタ155で上下限値を制限され、電流指令値Irefが出力される(ステップS49)。
【0052】
捩れ角制御部150の構成が
図18の場合の動作例は
図20のフローチャートであり、目標捩れ角Δθref及び捩れ角Δθに加えてモータ角速度ωmが入力される点(ステップS31A)、微分処理(ステップS44)に代えてコラム角速度ωcが演算される点(ステップS44A)が、
図19のフローチャートと相違し、他は同一である。
【0053】
捩れ角制御部150は捩れ角FB補償部152と速度制御部154があれば、基本的には目標捩れ角Δθrefに捩れ角Δθを追従させ、所望の操舵トルクを実現することが可能である。例えば、捩れ角FB補償値CFBは単純なゲインKppでも機能するし、PI制御などの一般的な補償器などでも良い。
【0054】
通常路面走行時の操舵角θhの小さい範囲においては、SAT推定値SATesは
図21に示すようにSAT基準値SAT_baseとほぼ同一の値である。従って、SAT補正トルクTref_dの値としては“0”に近い値となる。これに対して、低μ路面を走行し、操舵角θhが比較的大きくなった際には、SAT推定値SATesの値は、通常路面を走行している値に対して小さい値になることから、SAT補正トルクTref_dの値としては、正の値が発生する。このため、加算されるSAT補正トルクTref_dの影響により、目標操舵トルクTrefが大きい値になることで、実際に発生する操舵トルクの値は、
図22に示すように通常路面を走行している値よりも大きい値になる。これにより、路面を滑った際に、運転者へ操舵トルクとして伝えることができる。つまり、上述の実施例1の形態によれば、低μ路走行時やタイヤが滑った際に、重い操舵を実現できる。
【0055】
上述の実施例1の形態では、低μ路走行時やタイヤが滑った際に、重い操舵としているが、軽い操舵とする場合には、補償後SAT推定値SATescからSAT基準値SAT_baseを減算するか、若しくは差分SAT値ΔSAT(= SAT_base - SATesc)に負のゲインを乗算すれば良い。
【0056】
補償後SAT推定値SATescからSAT基準値SAT_baseを減算する実施例2の構成例を、
図11に対応させて
図23に示す。この実施例2では、減算部142Aで補償後SAT推定値SATescからSAT基準値SAT_baseを減算することで、目標操舵トルクTrefが小さい値になる。これにより、実際に発生する操舵トルクの値は、通常路面を走行している値よりも小さい値になる。これにより、路面を滑った際に、運転者へ操舵トルクとして伝えることができる。つまり、実施例2の形態では、低μ路走行時やタイヤが滑った際に、軽い操舵を実現できる。
【0057】
また、差分SAT値ΔSAT(= SAT_base - SATesc)に負のゲイン(例えば“-1.0”)を乗算するゲイン部149を設けた実施例3の構成例を、
図11に対応させて
図24に示す。ゲイン部149のゲインは負であれば良く、”-0.8”などでも良い。差分SAT値ΔSATを負の値にすることにより、目標操舵トルクTrefが小さい値になることで、実際に発生する操舵トルクの値は、通常路面を走行している値よりも小さい値になる。これにより、路面を滑った際に、運転者へ操舵トルクとして伝えることができる。つまり、実施例3の形態では、低μ路走行時やタイヤが滑った際に軽い操舵を実現でき、路面状態に応じた操舵感を得ることができる。
【0058】
上述のように実施例2及び3の形態では、低μ路走行時やタイヤが滑った際に軽い操舵を実現できるが、軽いままであると、運転者が過度に操作し、スピンなどの不安定な状態になる可能性がある。このため、オフセット又はゲインによって、操舵トルクの軽めと重めを調整することが考えられる。
【0059】
図25は、オフセット量で操舵トルクを調整するオフセット調整部148Aを設けた実施例4を
図11に対応させて示しており、オフセット調整部148Aの構成例は
図26である。即ち、SAT基準値SAT_baseと補償後SAT推定値SATescの差分SAT値ΔSATは減算部148A−1に入力され、操舵角θhは、オフセット量SFを設定するオフセット設定部148A−2、符号の正負SNhを判定する符号部148A−3と、出力(調整後差分SAT値SATa)の上下限値を設定する上下限設定部148A−5に入力される。オフセット設定部148A−2からのオフセット量SFは、符号部148A−3で判定された符号SNhと乗算部148A−4で乗算され、乗算結果SF・SNhが減算部148A−1に入力される。減算部148A−1で、差分SAT値ΔSATから乗算結果SF・SNhが減算され、その減算結果ΔSAT0がリミッタ148A−6に入力される。リミッタ148A−6から、上下限設定部148A−5で設定された上下限値に制限された調整後差分SAT値SATaが出力される。
【0060】
滑り角(操舵角θh)に対するオフセット量SFは、例えば
図27に示すように設定される。このような特性であると、操舵角θh小さいときに大きくオフセット量SFが与えられるため、操舵角θhが0付近で不連続となってしまう。これを防ぐために、操舵角θhが0のときに、上下限値が0で、操舵角θhが大きくなるにつれて絶対値が大きくなる上下限値を、上下限設定部148A−5で設定する。
【0061】
次に、ゲインによって操舵トルクの軽めと重めを調整する実施例5を、
図28に示して説明する。
図28は
図11に対応しており、差分SAT値ΔSATをゲイン倍するゲイン調整部148Bが設けられており、ゲイン調整部148Bの構成例は
図29である。即ち、SAT基準値SAT_baseと補償後SAT推定値SATescの差分SAT値ΔSATは乗算部148B−7に入力され、操舵角θhは、絶対値化部148B−2と出力(調整後差分SAT値SATa)の上下限値を設定する上下限設定部148B−5に入力される。絶対値化部148B−2からの操舵角絶対値|θh|は、ゲインSGを設定するゲイン設定部148B−3に入力される。ゲイン設定部148B−3からのゲインSGは乗算部148B−7に入力される。乗算部148B−7で、差分SAT値ΔSATとゲインSGが乗算され、その乗算結果ΔSATgがリミッタ148B−6に入力される。リミッタ148B−6から、上下限設定部148B−5で設定された上下限値に制限された調整後差分SAT値SATaが出力される。
【0062】
操舵角θhに対するゲインSGは、例えば
図27に示すように設定される。
【0063】
上述の実施例4及び5では、
図11で示す実施例1にオフセット調整又はゲイン調整する例を適用しているが、
図23及び
図24に示す実施例2及び実施例3に適用することも可能である。この場合には、オフセット及びゲインの極性を反転させることになる。また、上述ではオフセット調整とゲイン調整とを別々に実施する例で説明しているが、両者を組み合わせて調整するようにしても良い。
【0064】
オフセット調整又はゲイン調整することにより、
図30に示すような効果が得られた。
図30の特性Aは、摩擦係数が”0.8”のときのSAT基準値であり、特性Bは、SAT基準値と摩擦係数が”0.8”より小さいときのSAT値との差分を示している。また、特性Cはオフセット調整後の調整後差分SAT値であり、特性Dはゲイン調整後の調整後差分SAT値である。操舵を重くする実施例において、特性Bの差分から目標トルクを求めると重いままとなり、路面摩擦が低いにも拘わらず重くなり、運転者としては不都合である。しかし、オフセット調整(特性C)やゲイン調整(特性D)で差分Bよりも小さい値(最適には負側)に補正されると、操舵トルクを軽くすることできる。舵角が大きくなり、差分が大きくなったところでは操舵トルクが重くなり、過度の切増しが抑制され、車両の安定性を確保することができる。
【0065】
オフセット設定部148A−2のオフセット量SF又はゲイン設定部148B−3のゲインSGの特性は、
図27に示したように操舵角θhに応じて設定する。他の実施形態として、車速Vsをパラメータとして複数のオフセット量SF又は複数のゲインSGを予め用意し、車速Vsと操舵角θhに応じて求める構成としても良い。このようにすることで、車速Vsによって変化するSAT基準値及びSAT推定値に対して、適切なオフセット量SF又はゲインSGを求めることができ、運転者に適切な操舵トルクを与えることが可能となる。
【0066】
なお、操舵角θhは、トーションバー2Aの下側角度のコラム角θc(下側角度センサθ2)を入力し、算出するようにしても良い。即ち、捩れ角Δθ、操舵角θh及びコラム角θcの関係は、数8となる。
(数8)
Δθ=θc−θh
数8を操舵角θhについて変形すると、数9となる。
(数9)
θh=θc−Δθ
よって、捩れ角Δθ及びコラムθcを減算部に入力し、減算部で数9を演算することによって操舵角θhを得ることもできる。
【0067】
また、SAT補正トルクを目標操舵トルクに加算することによりSAT補償を行う実施例が実施例1〜5に開示されているが、本発明の実施形態はこれらに限定されるものではない。実施例6に示す要領で、過去のフィードバック電流指令値である過去電流指令値に基づき、SAT電流補正値を演算し、SAT電流補正値をフィードバック電流指令値に加算することにより、SAT補償を行うことができる。
図31は実施例6の基本構成を示すブロック図である。なお、実施例6の説明においては、実施例1〜5と同様の構成に関し、説明を省略する場合がある。運転者のハンドル操舵はEPSプラント(操舵系+車両系)100内のモータでアシスト制御される。
【0068】
目標操舵トルク生成部120Zには、操舵角θh、車速Vs、モータ角速度ωm等の車両運転情報が入力され、目標操舵トルクTrefを出力する。なお、
図32に示すとおり、目標操舵トルク生成部120Zは、
図6に示す実施例1〜5に記載の目標操舵トルク生成部120から、SAT情報補正部140を除いたものと同様な構成であるため、説明を省略する。
なお、目標操舵トルク生成部120Zで生成された目標操舵トルクTrefは、トーションバー2Aのバネ定数をKtとして、“1/Kt”の特性を有する変換部101で目標捩れ角Δθrefに変換され、目標捩れ角Δθrefは捩れ角制御部150Zに入力される。
【0069】
捩れ角制御部150Zには目標捩れ角Δθref、捩れ角Δθ、コラム角速度ωc、過去電流指令値Iref
’が入力され、捩れ角Δθが目標捩れ角Δθrefに追従するような電流指令値Irefが演算される。電流指令値IrefがEPSプラント100に入力され、電流指令値Irefに基づき、EPSのモータが駆動される。
また、電流指令値Irefは、過去値保持部160に入力される。過去値保持部160は、電流指令値Irefを、少なくとも1単位の計算周期以上保持し、保持した電流指令値Irefに基づき、過去電流指令値Iref
’を決定し、捩れ角制御部150Zに出力する。
例えば、過去値保持部
160は、時点tnにおける過去電流指令値として、前回の計算周期である時点tn−1における電流指令値Irefを保持し、過去電流指令値Iref’として出力することができる。
また例えば、過去値保持部
160は、過去の複数の計算周期である時点tn−αからtn−1における電流指令値Irefを保持し、保持した複数の電流指令値の平均値を、時点tnにおける過去電流指令値として、出力することができる。
【0070】
図33に実施例6の捩れ角制御部150Zの構成例を示す。捩れ角制御部150Zは、追従制御部150Z−1、SAT電流補償部150Z―2、加算部150Z−3、及び、上下限リミッタ150Z−4を備える。
【0071】
追従制御部150Z−1は、目標捩れ角Δθrefと、捩れ角Δθの差分に基づき、フィードバック電流指令値Ifcを出力する、いわゆる微分先行型PI−D制御器である。
上下限リミッタ150Z−11には、目標捩れ角Δθrefが入力される。上下限リミッタ150Z−11は、目標捩れ角Δθrefの上下限の制限を行い、上下限が制限された目標捩れ角Δθref
’を出力する。
レートリミッタ150Z−12には、上下限が制限された目標捩れ角Δθref’が入力される。レートリミッタ150Z−12は、上下限が制限された目標捩れ角Δθref’の単位時間あたりの変化量の制限を行い、補正後目標捩れ角Δθref“を出力する。
減算部150Z−13で、補正後目標捩れ角Δθref”から捩れ角Δθが減算され、捩れ角偏差Δθerrが出力される。
捩れ角偏差Δθerrは、比例制御器150Z−14と、積分制御器150Z−15に入力される。比例制御器150Z−14は、捩れ角偏差Δθerrに比例した比例制御値Ipを出力する。
また、捩れ角偏差Δθerrは、積分制御器150Z−15に入力される。積分制御器150Z−15は、捩れ角偏差Δθerrの時間積分に比例した積分制御値Iiを出力する。なお、時間積分の演算として、いわゆる矩形近似や台形近似を用いた近似積分を用いることができる。
加算部150Z−17は、比例制御値Ipと積分制御値Iiを加算し、PI制御値Ipiを出力する。
捩れ角Δθは、微分制御器150Z−16に入力される。微分制御器150Z−16は、捩れ角Δθの時間微分に比例した微分制御値Idを出力する。なお、時間微分の演算として、完全微分にローパスフィルタ特性を付与した、いわゆる擬似微分を用いることができる。
減算部150Z−18は、PI制御値Ipiとから微分制御値Idを減算し、フィードバック電流指令値Ifcを出力する。
【0072】
SAT電流補償部150Z―2は、少なくとも過去のモータ電流指令値である過去電流指令値Iref‘に基づき、SAT推定値Tsat’を出力するSAT推定部150Z−21と、SAT推定値Tsat’に基づいてSAT電流補正値Isatを出力するSAT電流補正値決定部150Z−22とを備える。
【0073】
SAT推定部150Z−21は、以下に示す原理に基づき、SAT推定値Tsat’を決定し、出力する。
コラム軸の回転運動に関する運動方程式は数10に示す通りである。
【数10】
ここで、Jcはコラム軸周りに換算した慣性モーメント、Dcはコラム軸周りの慣性の回転運動に関する粘性係数、ωcは
コラム角速度、Tcはコラム軸周りに換算したモータ駆動トルク、Ttは運転者が付与する操舵トルク、Tsatはコラム軸に発生するセルフアライニングトルクである。なお、Jc、Dcは操舵装置の機械的関係により決定される固有の値である。また、操舵トルクはトーションバーに生じるトルクであり、トルクセンサの出力値、または、捩れ角Δθとトーションバーのばね定数Ktに基づき決定される。
数10をラプラス変換し、Tsatについて整理したものが数11である。なお、Ωcはラプラス変換後のωcである。ただし、Tc、Tt、Tsatについては、説明の便宜上、変換後も同じ記号としている。
【数11】
【0074】
数11において、Jc、Dcは前述したとおり既知の値である。すなわち、ωc、Tt,Tcを求めることにより、Tsatを決定することができる。以下に、ωc、Tt、Tcを決定する方法について説明する。
コラム角速度ωcは、モータ角度θmに基づき、決定することができる。具体的には、モータ角度θmを時間微分することにより、モータ角速度ωmを決定し、モータ角速度ωmに減速機構3の減速比を乗算することにより、コラム角速度ωcを決定することができる。
操舵トルクTtは、捩れ角Δθと、トーションバー2Aのバネ定数Ktに基づき、決定することができる。具体的には、捩れ角Δθにトーションバー2Aのバネ定数を乗算することにより、操舵トルクTtを決定することができる。
モータ駆動トルクTcは、過去電流指令値Iref‘に基づき、決定することができる。具体的には、過去電流指令値Iref’に所定の係数を乗ずることにより、モータ駆動トルクTcを決定することができる。このTcの決定方法は、モータ20が過去電流指令値Irefに比例したモータ駆動トルクTcを出力するとの仮定に基づいている。
上述の要領により、ωc、Tt、Tcを決定することができ、したがって、セルフアライニングトルクTsatを決定することができる。
なお、過去電流指令値Iref‘を用いることに代えて、モータ20に実際に生じている電流であるモータ電流値Imを用いてもよい。モータ電流値Imは、モータ巻線に配置した電流センサにより検出することができる。電流センサとして、モータ巻線に配置したシャント抵抗の両端間電圧を計測する種類の電流センサや、モータ巻線に流れる電流が所持させる磁束密度を計測する種類の電流センサを用いることができる。
【0075】
数12に示す通り、Tsatに対し、ローパスフィルタ(LPF)を用いてノイズ低減処理した信号を、SAT推定値Tsat’と定義する。LPFとして1次遅れのLPFを用いることができるが、これに限定されない。なお、Tlpfは、ローパスフィルタの時定数である。
【数12】
【0076】
図34(A)と(B)に、SAT推定部150Z−21の変形例を示す。
図34(A)は、
図33のSAT推定部150Z−21から、コラム角速度ωcに基づき、SAT推定値Tsat’を算出するブロックを削除したものである。これは、数12から、コラム角速度Ωcの項を削除し、操舵トルクTt、モータ駆動トルクTcに基づき、SAT推定値Tsat‘を決定することに相当する。コラム角速度Ωcに関する演算を省略できるため、制御装置に与える計算負荷を軽減することができる。
また、
図34(B)は、
図34(A)から、さらに操舵トルクTtに基づき、SAT推定値Tsat’を算出するブロックを削除したものである。これは、数12から、コラム角速度Ωcと操舵トルクTtの項を削除し、モータ駆動トルクTcに基づき、SAT推定値Tsat‘を決定することができる。コラム角速度Ωcと操舵トルクTtに関する演算を省略できるため、制御装置に与える計算負荷を、さらに軽減することができる
【0077】
SAT電流補正値決定部150Z−22は、SAT推定値Tsat’に基づき、SAT電流補正値Isatを決定する。SAT推定値Tsat’とSAT電流補正値Isatとの関係は、
図33のSAT電流補正値決定部150Z−22に示ように、Tsat‘の絶対値が増加すると、Isatの絶対値が増加するような関係とすることができる。なお、以下の説明において、SAT推定値Tsat’とSAT電流補正値Isatとの関係を、SAT補正値特性と説明する場合がある。
また、SAT補正値特性を、車速により異なった特性とすることができる。例えば、同一のSAT推定値に対して、車速が第1の車速である場合のSAT電流補正値の絶対値に比べ、前記車速が第1の車速よりも大きい第2の車速である場合のSAT電流補正値の絶対値が、大きくなるようなSAT補正値特性とすることができる。
なお、SAT補正値特性を設定する方法は、
図33のSAT電流補正値決定部150Z−22に示すようなマップとして設定することに限られない。例えば、任意のSAT推定値Tsat’に対するSAT電流補正値Isatに関係を記憶する、いわゆるルックアップテーブルとして設定してもよい。また、例えば任意のSAT推定値Tsat’に対するSAT電流補正値Isatの関数として設定してもよい。要するに、SAT電流補正値決定部150Z−22は、任意のSAT推定値Tsat‘に対して、SAT電流補正値Isatが決定できるような構成であれば良い。
【0078】
加算器150Z−3は、減算部150Z−18から入力されるフィードバック電流指令値Ifcと、SAT電流補正値決定部150Z−22から入力されるSAT電流補正値Isatを加算し、上下限リミッタ150Z−4に出力する。上下限リミッタ150Z−14は、加算器150Z−3から出力される信号の上下限の制限を行い、電流指令値Irefを出力する。なお、上下限リミッタ150Z−4を省略してもよい。
【0079】
また、基本マップ121及びヒステリシス補正部131は車速Vsに感応したものでも良く、基本マップ121の後段若しくは前段に位相補償部を挿入してもよい。捩れ角制御部150の電流指令値Irefに従来のアシスト制御の電流指令値、或いはSAT推定値の電流指令値、或いはハンドル振動抑制のための電流指令値を加算しても良い。
【0080】
更に、上述の実施形態では速度制御部をI−P制御(比例先行型PI制御)で構成しているが、PI制御、P制御、PID制御、PI−D制御、モデルマッチング制御、モデル規範制御などの一般的に用いられるものでも良い。
【0081】
上述の実施形態では、舵角速度は、操舵角θhに対する微分演算により求めているが、高域のノイズの影響を低減するために適度にLPF処理を実施している。また、HPF(ハイパスフィルタ)とゲインにより、微分演算とLPFの処理を実施しても良い。
【0082】
更にまた、本発明をステアバイワイヤに適用する場合には、操舵角又は転舵角に基づいてSAT基準値を演算したり、転舵角モータに対する電流指定値を用いてSAT推定値を推定したりすることができる。この場合、操舵トルク(ステアバイワイヤの場合は反力トルク)を推定に用いない。