特開2021-31464(P2021-31464A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-31464(P2021-31464A)
(43)【公開日】2021年3月1日
(54)【発明の名称】妊娠促進組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/198 20060101AFI20210201BHJP
   A61K 31/519 20060101ALI20210201BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20210201BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20210201BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20210201BHJP
【FI】
   A61K31/198
   A61K31/519
   A61K47/22
   A61K47/04
   A61P15/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2019-155208(P2019-155208)
(22)【出願日】2019年8月28日
(71)【出願人】
【識別番号】504300181
【氏名又は名称】国立大学法人浜松医科大学
(71)【出願人】
【識別番号】519312544
【氏名又は名称】医療法人社団俵IVFクリニック
(71)【出願人】
【識別番号】519312555
【氏名又は名称】株式会社A−LIFE
(74)【代理人】
【識別番号】100116850
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 隆行
(74)【代理人】
【識別番号】100165847
【弁理士】
【氏名又は名称】関 大祐
(72)【発明者】
【氏名】金山 尚裕
(72)【発明者】
【氏名】俵 史子
(72)【発明者】
【氏名】木苗 貴秀
(72)【発明者】
【氏名】武田 泉穂
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C076BB01
4C076CC17
4C076DD22T
4C076DD59S
4C076FF52
4C076FF63
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB09
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA81
4C086ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206FA53
4C206MA03
4C206MA05
4C206MA72
4C206NA14
4C206ZA81
4C206ZC75
(57)【要約】      (修正有)
【課題】妊娠確率を有意に高めることができる妊娠促進組成物を提供する。
【解決手段】アルギニン,アルギニン誘導体又はその薬学的に許容される塩,葉酸,葉酸誘導体又はその薬学的に許容される塩及びビタミン系酸化防止剤を有効成分として含む妊娠促進組成物。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルギニン,アルギニン誘導体又はその薬学的に許容される塩,葉酸,葉酸誘導体又はその薬学的に許容される塩及びビタミン系酸化防止剤を有効成分として含む妊娠促進組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の妊娠促進組成物であって,前記ビタミン系酸化防止剤がビタミンE,ビタミンE誘導体,又はその薬学的に許容される塩である,妊娠促進組成物。
【請求項3】
請求項2に記載の妊娠促進組成物であって,アルギニン,アルギニン誘導体又はその薬学的に許容される塩を1500mg以上3000mg以下,葉酸,葉酸誘導体又はその薬学的に許容される塩を300μg以上900μg以下,ビタミンE,ビタミンE誘導体,又はその薬学的に許容される塩を5mg以上200mg以下含む,妊娠促進組成物。
【請求項4】
請求項3に記載の妊娠促進組成物であって,アルギニン,又はその薬学的に許容される塩を1500mg以上3000mg以下,葉酸又はその薬学的に許容される塩を300μg以上900μg以下,ビタミンE,又はその薬学的に許容される塩を5mg以上200mg以下含む,妊娠促進組成物。
【請求項5】
請求項3に記載の妊娠促進組成物であって,グレープフルーツ果汁又はグレープフルーツ香料をさらに含む,妊娠促進組成物。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれかに記載の妊娠促進組成物であって,500mg以上3000mg以下のリン酸,又はその薬学的に許容される塩をさらに含む,妊娠促進組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,妊娠促進組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
特表2008−544994号公報には,妊娠結果を改善する方法および組成物が記載されている。そして,妊娠結果を改善する組成物の例として,約400I.U.のビタミンE,約100 mgのビタミンC; 約6mgのリコピン;約26μgのセレン; 約25 mgの亜鉛;約500μgの葉酸;および 約1,000 mgのニンニクを含む組成物が記載されている(請求項51)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2008−544994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
妊娠確率を有意に高めることができる妊娠促進組成物が望まれた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この明細書に記載されるある態様の発明は,(1)アルギニン源である,アルギニン,アルギニン誘導体又はその薬学的に許容される塩,(2)葉酸源である,葉酸,葉酸誘導体又はその薬学的に許容される塩,及び(3)ビタミン系酸化防止剤の組み合わせにより,相乗効果を発揮し,有意に妊娠効果を高めることができるという,実施例による知見に基づく。
【0006】
この明細書に記載される発明のある態様は,(1)アルギニン源である,アルギニン,アルギニン誘導体又はその薬学的に許容される塩,(2)葉酸源である,葉酸,葉酸誘導体,又はその薬学的に許容される塩,及び(3)ビタミン系酸化防止剤を有効成分として含む妊娠促進組成物に関する。
【0007】
ビタミン系酸化防止剤の例は,ビタミンE,ビタミンE誘導体又はその薬学的に許容される塩である。
【0008】
具体的な妊娠促進組成物中の組成例は,(1)アルギニン,アルギニン誘導体又はその薬学的に許容される塩を1500mg以上3000mg以下,(2)葉酸,葉酸誘導体又はその薬学的に許容される塩を300μg以上900μg以下,(3)ビタミンE,ビタミンE誘導体,又はその薬学的に許容される塩を5mg以上200mg以下含むものである。さらに具体的な組成の例は,(1)アルギニン,又はその薬学的に許容される塩を1500mg以上3000mg以下,(2)葉酸又はその薬学的に許容される塩を300μg以上900μg以下,(3)ビタミンE,又はその薬学的に許容される塩を5mg以上200mg以下含むものである。
【0009】
後述する実施例により示された通り,1日1回〜3回投与における1回当たりのアルギニン,アルギニン誘導体又はその薬学的に許容される塩の投与量が,0mgの対象に比べて,1000mgのものは優位に妊娠率を向上させた。さらに2000mgの投与量のものは,1000mgの投与量のものに比べて妊娠率を向上させた。このことから,アルギニン,アルギニン誘導体又はその薬学的に許容される塩を1500mg以上3000mg以下であれば,顕著に妊娠率を向上させることができると考えられる。
【0010】
後述する実施例により示された通り,グレープフルーツ果汁を含むものは,良好な味が得られた。これは,グレープフルーツ果汁に替えて,グレープフルーツ香料を用いた場合も同様であると考えられる。また,500mg以上3000mg以下のリン酸,又はその薬学的に許容される塩をさらに含むものも良好な味が得られた。
【発明の効果】
【0011】
この明細書によれば,妊娠確率を有意に高めることができる妊娠促進組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は,被験者のRCTへの参加フローチャートを示す図面に代わるフローチャートである。
図2図2は,hCG陽性率と妊娠率(自然妊娠含む)を示す図面に代わるグラフである。
図3図3は,AMH2.0未満におけるhCG陽性率と妊娠率を示す図面に代わるグラフである。
図4図4は,中等度胚におけるhCG陽性率と妊娠率を示す図面に代わるグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下,本発明を実施するための形態について説明する。本発明は,以下に説明する実施の形態に限定されるものではなく,以下の形態から当業者が自明な範囲で適宜修正したものも含む。
【0014】
この明細書に記載される発明のある態様は,アルギニン,アルギニン誘導体又はその薬学的に許容される塩,葉酸,葉酸誘導体又はその薬学的に許容される塩及びビタミン系酸化防止剤を有効成分として含む妊娠促進組成物に関する。実施例により示された通り,(1)アルギニン,アルギニン誘導体又はその薬学的に許容される塩,(2)葉酸,葉酸誘導体又はその薬学的に許容される塩及び(3)ビタミン系酸化防止剤の組み合わせにより,相乗効果を発揮し,有意に妊娠効果を高めることができる。
【0015】
アルギニンは,2−アミノ−5−グアニジノペンタン酸(又は2−アミノ−5−グアニジノ吉草酸)ともよばれるアミノ酸である。第1の成分であるアルギニンは,アルギニンの薬学的に許容される塩であってもよいし,アルギニンのプロドラック(生体内でアルギニンとなる化合物)やアルギニン誘導体(プロドラックを含む。)であってもよいし,アルギニン誘導体の薬学的に許容される塩であってもよい。これらの中では,アルギニン又はその薬学的に許容される塩が好ましい。アルギニン誘導体は,例えば特許6386849号公報,特許5625914 号公報,特許4010951 号公報,及び特許4352114号公報に記載される通り,公知である。アルギニン誘導体の例は,アルギニンとリン酸とのエステルや,アルギニンの配糖体である。アルギニン誘導体の塩の例は,アルキルオキシヒドロキシプロピルアルギニン塩、例えば、N−[3−アルキル(12,14)オキシ−2−ヒドロキシプロピル]−L−アルギニン塩酸塩である。以下,これらをまとめて単にアルギニンとも表記する。
【0016】
葉酸は,ビタミンM,ビタミンB9,及びプテロイルグルタミン酸ともよばれるビタミンである。葉酸は,葉酸の薬学的に許容される塩であってもよいし,葉酸誘導体や,葉酸のプロドラック(生体内で葉酸となる化合物,葉酸の誘導体に含まれる)であってもよいし,葉酸誘導体の薬学的に許容される塩であってもよい。葉酸誘導体の例は,葉酸とリン酸とのエステルや,葉酸の配糖体である。葉酸誘導体は,例えば特許5366940号公報,特許4590198号公報,及び特公平02−022909号公報に記載される通り,公知である。以下これらをまとめて単に葉酸とも表記する。
【0017】
薬学的に許容される塩の例は,ナトリウム塩,カリウム塩,マグネシウム塩,カルシウム塩,バリウム塩,アンモニウム塩,モノエタノールアミン塩,ジエタノールアミン塩,トリエタノールアミン塩,モノイソプロパノールアミン塩,トリイソプロパノールアミン塩,塩酸塩,及び硫酸塩である。
【0018】
妊娠促進組成物は,対象に投与することで,妊娠する確率を高めるための組成物である。妊娠促進組成物が投与される対象は,通常ヒト又は非ヒト哺乳動物であり,妊娠が期待される年齢の男性又は女性(非ヒト哺乳動物においては雄又は雌)である。非ヒト哺乳動物の例は,馬(例えば,サラブレッド),犬,猫,牛,熊,パンダ,ゴリラ及び象である。妊娠促進組成物の投与時期は,任意である。この組成物は,特に妊娠を希望する女性に投与することが好ましい。つまり,この組成物の好ましい態様は,女性により経口投与される妊娠促進組成物である。
【0019】
ビタミン系酸化防止剤の例は,ビタミンE,ビタミンE誘導体又はこれらの薬学的に許容される塩(例:ナトリウム塩,カリウム塩)(以下,単にビタミンEともいう。)である。ビタミンE誘導体の例は,酢酸トコフェロール,(リノール酸/オレイン酸)トコフェロール,コハク酸トコフェロール,ニコチン酸トコフェロール及びリノール酸トコフェロールである。
【0020】
具体的な妊娠促進組成物中の組成例は,アルギニンを1500mg以上3000mg以下,葉酸を300μg以上900μg以下,ビタミンEを5mg以上200mg以下含むものである。アルギニンの量は1500mg以上2500mg以下でもよい。葉酸の量は300μg以上700μg以下でもよいし,300μg以上600μg以下でもよいし,350μg以上500μg以下でもよい。葉酸の量は,アルギニンの量の1万分の1以上100分の1が好ましい。ビタミンEの量は,5mg以上100mg以下でもよいし,5mg以上30mg以下でもよいし,5mg以上15mg以下でもよいし,10mg以上100mg以下でもよい。ビタミンEの量は,アルギニンの量の1000分の1以上10分の1以下が好ましい。もっとも,ビタミンEは,過剰に含んでもよい。この場合,アルギニンを1500mg以上3000mg以下,葉酸を300μg以上900μg以下含み,ビタミンEが過剰に存在することとなる。後述する実施例により示された通り,グレープフルーツ果汁を含むものは,良好な味が得られた。これは,グレープフルーツ果汁に替えて,グレープフルーツ香料を用いた場合も同様であると考えられる。グレープフルーツ果汁やグレープフルーツ香料は,例えば1錠あたり,合計で0.1g以上3g以下含まれればよい。また,500mg以上3000mg以下のリン酸(特にオルトリン酸),又はその薬学的に許容される塩をさらに含むものも良好な味が得られた。上記の量は,1回あたりの投与量であり,例えば,上記の量を2剤にて達成しても構わない。対象者は,例えば,上記の量を1日1回又は1日2回〜3回摂取すればよい。これらの量は,基本的には,原材料の量であるから,組成物を製造する際に量を把握できる。また,製品から,これらの組成物の含有量を分析するためには,ガスクロマトグラフ,高速液体クロマトグラフ,キャピラリー電気泳動,ガスクロマトグラフ質量分析計といった公知の方法を適宜用いればよい。
【0021】
妊娠促進組成物の剤型は任意である。妊娠促進組成物の例は,顆粒剤,粉末剤,錠剤,ゼリー,飲料,及び注射剤である。これらは,公知の素材を用いて,公知の方法にて製造することができる。例えば,ゼリー状の妊娠促進組成物は,寒天やゼラチンに,上記の有効成分と,着色剤,甘味料,及び香料を適宜混合することで,製造できる。妊娠促進組成物は,医薬組成物であっても,サプリメントであっても構わないし,健康補助食品であっても構わない。
【0022】
この明細書は,妊娠を希望する対象に,妊娠促進組成物を投与する工程を含む,妊娠促進方法をも提供する。投与方法の例は,経口投与である。
【実施例1】
【0023】
Lアルギニンサプリメント
本研究では、2種類のアルギニンサプリメントを使用した。
AS2000(実施例)は、1錠あたり、L−アルギニン2000mg、葉酸400μg、ビタミンE10mgを含有するサプリメントである。
AS1000(参考例)は、1錠あたり、L−アルギニン1000mg、葉酸200μgを含むサプリメントである。AS1000は、ビタミンEを含まない。
1日1回、最長3ヶ月間服用した。
【0024】
サブジェクト
俵IVFクリニック倫理委員会の承認を受けて、2017年11月から書面ICにて本臨床試験の患者募集を開始した。選択基準は、1)試験参加の同意を得た時点で40歳未満の女性、2)研究参加時に生殖補助医療技術(Assisted Reproductive Technology:ART)の実施予定の女性、3)本試験の目的、内容について十分な説明を受け、同意能力があり、よく理解した上で自発的に参加を志願し、書面で本試験参加に同意できる者、4)試験責任医師が本試験への参加を適当と認めた者とした。
除外基準は、1)不妊治療以外の薬を服用している人、2)この研究に対してアレルギー反応を起こしそうな人、および3)検査担当医がこの検査に不適切であると判断した者である。被験者は、ファイルメーカー(FileMaker、Inc.、USA)により、AS2000群、AS1000群または対照群に無作為に割り当てられた。
計算式:Round ( ( Random * Int( $加算値 ) ) + Int( $最小値 ) ; 0 )、変数 : $加算値 = 4 $最小値 = 1)
対照群にはL−アルギニンを含むサプリメントを配布しなかった。試験開始後、我々はL−アルギニンを服用した被験者の3か月間の胚移植の結果を追跡した。試験開始後、連絡が取れなかった被験者、10日以上摂取を忘れた被験者、胚移植を行わなかった被験者はこの研究解析から除外した。
【0025】
不妊症の原因
不妊原因は以下のように分類した:排卵障害 [乏排卵(35日以上の月経周期)、無排卵、多嚢胞性卵巣(PCO)]、卵管因子[子宮頸管造影(HSG)検査により片側または両側卵管閉塞と診断]、子宮因子[子宮筋腫、子宮腺筋症、または子宮内膜ポリープ]、頸管因子[少なくとも2回のフーナー検査結果の不良]、子宮内膜症、精液所見不良[少なくとも2回の精液所見不良(精子濃度<1500万/mlまたは運動率<40%)]および性交障害。精液所見不良および性交障害は男性不妊症として分類した。
【0026】
胚移植
新鮮胚移植は、IVFまたはICSIの2日後または3日後のいずれかに実施した。凍結胚移植では、ホルモン補充周期(HRC)において、経皮エストラジオール(Estrana(登録商標)0.72mg、久光製薬、日本)を月経の2−4日目に開始し、妊娠判定日まで2日ごとに2.26mg/日で適用した。妊娠後、経皮エストラジオールは妊娠7週まで2日ごとに1.44mg/投与を続けた。経口および経腟黄体ホルモン補充は血中E2濃度が100pg/mlを超え、子宮内膜の厚さが7mm以上になった日から開始した(この日を排卵日として定義した)。自然排卵周期(NC)では、経膣超音波による卵胞サイズの定期的測定、血中または尿中LHおよび血中E2測定により、排卵日を同定した。HRCおよびNCでは、分割期胚および胚盤胞はそれぞれ排卵日から2日目(または3日目)および5日目に移植された。移植された胚盤胞は、内部細胞塊および栄養外胚葉の質に基づいて、良好胚(AA、AB、BA、BB)および中等度胚(BC、CB)に分類された。妊娠4週の血中hCG10IU/LをhCG陽性として定義した。胎嚢の確認を臨床妊娠として定義した。
【0027】
統計解析
試験群(AS2000群およびAS1000群)と対照群の比較は、t検定による統計解析を行った。また、比率の比較は観察数に応じてピアソンのカイ2乗またはフィッシャーの正確確率検定を用いて行った。P<0.05を統計学的に有意と見なした。統計分析は、RソフトウェアおよびJMP9ソフトウェア(SAS、USA)を用いて行った。
【0028】
結果
2017年11月から2018年3月までの期間中に、胚移植のための採卵を計画している患者を対象とした。120名の被験者を無作為に次の3群に分けた:対照群(n=40)、AS1000群(n=40)、AS2000群(n=40)(補足表1、図1)。被験者は3ヶ月間の試験期間中に胚移植後のhCG陽性または臨床妊娠の有無が追跡された。胚移植を実施しなかった被験者を除外した最終的な症例数は、対照群、AS1000、AS2000において、それぞれ36人、37人、37人であった。患者の背景を比較した結果、年齢、BMI、AMH、妊娠歴、ART治療歴、および不妊原因は対照群と試験群の間に違いを認めなかった(表1)。
【0029】
さらに、移植方法(新鮮胚移植、凍結融解胚移植[ホルモン補充周期および自然排卵周期]の比率)、移植胚の発生段階(分割期胚と胚盤胞の比率)、胚盤胞の質(良好胚と中等度胚の比率)、子宮内膜の厚さ、移植時の血中E2濃度にも違いを認めなかった(表2)。
【0030】
試験開始後の最初の胚移植における対照群、AS1000群、およびAS2000群のhCG陽性率は48.6%、48.7%、54.3%、妊娠率は42.9%、37.8%、48.6%であった(表2)。初回移植周期において妊娠に至らなかった患者のうち、試験期間中に2回目の移植を実施した対照群、AS1000群とAS2000群のhCG陽性率はそれぞれ28.6%、72.7%、44.4%、妊娠率はそれぞれ28.6%、54.6%、44.4%であった(表2)。また、期間中にAS2000群では、2例の自然妊娠が報告された(表2)。累積hCG陽性率と累積妊娠率は、対照群で45.2%と40.5%、AS1000群で54.2%と41.7%、そしてAS2000群で54.4%と50.0%であった(表2)。AS1000群とAS2000群をL−アルギニン摂取群として、対照群に対する摂取群のhCG陽性率および妊娠率のオッズ比を算出した(表3)。
【0031】
hCG陽性率と妊娠率のオッズ比はそれぞれ1.46 [95%CI 0.71−3.05]と1.27 [0.61−2.66]であった。続いて、各サブグループにおけるhCG陽性率および妊娠率を以下に示す:良好胚盤胞移植のみの症例では1.10 [0.42−2.84]および0.93 [0.36−2.38]、35歳未満の患者では1.59 [0.54−4.64]および1.47 [CI] 0.51−4.27]、35歳以上の患者では1.34 [0.48−3.89]および1.04 [0.36−3.18]、BMI20未満の患者では0.79 [0.26−2.30]および0.94 [0.32−2.77]、BMI20を超える患者では2.48 [0.91−7.18]および1.62 [0.59−4.67]、AMH2ng/ml未満の患者では3.24 [1.03−11.59]および2.19 [0.69−7.82]、AMH2ng/mlを超える患者では0.83 [0.31−2.18]および0.86 [0.33−2.27]、HRCによる胚移植者では1.40 [0.35−5.84]および1.25 [0.31−5.70]、NCによる胚移植では1.47 [0.62−3.51]および1.30 [0.55−3.13]、男性不妊が原因の患者では10.00 [1.52−199.8]および10.00 [1.52−199.8]、女性に不妊の原因がある(男性の不妊の原因はない)患者の場合では0.56 [0.15−1.90]と0.44 [0.12−1.52]、不妊原因が不明の患者では1.48 [0.46−4.72]および1.24 [0.40−3.95]であった。卵巣予備能が低い患者(AMH<2.0ng/ml)では、L−アルギニン摂取群は対照群と比較してhCG陽性率の増加を示し、特にAS2000群では増加したが、AS1000群では増加しなかった(補足表2および3)。さらに、不妊の原因としての男性不妊の場合、hCG陽性率と妊娠率の両方が、特にAS1000群ではなくAS2000群で、非摂取群と比較して有意な増加を示した。
【0032】
考察
本研究では、ARTに対するアルギニン摂取の効果を調べるために無作為化対照研究を実施した。その結果、AS1000(L−アルギニン1000mg、葉酸200μg)とAS2000(L−アルギニン2000mg、葉酸400μg、ビタミンE 10mg)との間でhCG陽性率と妊娠率の両方がL−アルギニン摂取群の方が量依存的に高くなる傾向があった(表1および図2)。さらに、L−アルギニンを摂取することの有益な効果が期待できる患者のグループを抽出することを目的として、サブグループ分析を行った(表3)。その結果、AMHが2ng/ml未満の場合、L−アルギニン摂取群ではhCG陽性率が増加することがわかった(表3、図3)。この結果はAMHが低い患者にL−アルギニンを服用することの有用性を示唆している。
さらに、L−アルギニン摂取群および非摂取群との間で中等度の胚盤胞(Fair BT)移植率に差が見られ、Fair BTのn数は、非摂取群:AS1000群:AS2000群におけるhCG陽性率は、それぞれ18.8%、41.7%、47.4%、妊娠率はそれぞれ12.5%、29.2%、42.1%であった。胚盤胞の質が良好でない場合でも、アルギニンの摂取は有効性を示す事が示唆された(表2、3、補足表2、3および図4)。
【0033】
この研究は、自然妊娠または一般不妊治療によって妊娠しなかった患者を対象としている。そのため、原因不明を含む難治性の不妊原因のために、L−アルギニンの有益な効果が得られにくい患者が多く含まれている可能性がある。この点を考慮する方法として、我々は男性不妊症のためにART適応となった女性に着目した。その理由は男性不妊症が不妊原因のためにART適応となった場合、パートナーの女性は生殖機能が正常もしくは軽度の不妊症である可能性が高く、L−アルギニンの補助的な効果が得られやすいのではないかと考えた。結果として、男性不妊症のパートナーを持つ女性についてのみ調べた場合、hCG陽性率と妊娠率の両方がL−アルギニン摂取群で有意な増加を示した(表3)。本検討では女性だけがL−アルギニンを服用している。したがって、この結果の一つの解釈は上記仮説を支持し、妊娠を希望する女性においてL−アルギニンの有効性があるものの、不妊原因が深刻である場合、その効果が現れにくいことを示唆している。本検討期間中、L−アルギニン摂取群において2例の自然妊娠が報告された。このこともまた、上記の仮説を支持し、非難治性女性不妊症において妊娠を希望する女性におけるL−アルギニンの有効性を示している。しかし、AS2000はAS1000よりも多くの葉酸を含み、そしてビタミンEも含まれている。したがって、AS1000と比較したAS2000のより優れた効果は、L−アルギニンの量と、これらのビタミンとの相乗効果が発揮されることが示唆された。
【0034】
したがって、不妊の原因がより深刻な場合には少なくとも本検討で用いた量のL−アルギニンでは十分な効果が得られない可能性がある。
この場合、アルギニン摂取量もまた将来研究されるべき重要なテーマである。Takasakiらによる子宮内膜増殖作用の向上を示した研究におけるL−アルギニンの投与量は6g/日である(Takasaki A, Tamura H, Miwa I, Taketani T, Shimamura K, Sugino N. Endometrial growth and uterine blood flow: a pilot study for improving endometrial thickness in the patients with a thin endometrium. Fertil Steril 2010; 93: 1851−8.)。
さらに、卵巣機能の改善を示したBattaglia et al による研究におけるL−アルギニンの用量は16g/日であった(Battaglia C, Salvatori M, Maxia N, Petraglia F, Facchinetti F, Volpe A. Adjuvant L−arginine treatment for in−vitro fertilization in poor responder patients. Hum Reprod 1999; 14: 1690−7.)。一方、我々の研究におけるL−アルギニンの投与量は1000mg/日または2000mg/日であり、これは上記の研究で摂取されたL−アルギニンの量より数倍少ない。しかし、妊娠を望む女性における1日当たりアルギニンの適切な投与量に関する研究はない。我々のいくつかのサブグループ解析では、AS2000と非摂取群の間で統計的有意差が生じていた(補足表2と3)。この結果は、ART患者において1日当たり少なくとも2000mgのL−アルギニンが1000mg/日よりも高い有効性を有し得ることを示唆している。しかし、AS2000はAS1000よりも多くの葉酸を含み、そしてビタミンEも含まれている。したがって、AS1000と比較したAS2000のより優れた効果は、これらのビタミンがプラスの影響を与えている可能性もある。
【0035】
これらのことから、アルギニン源、葉酸源、及びビタミン系酸化防止剤の組み合わせは、妊娠率向上に関して、相乗効果を発揮すると考えられる。そして、L−アルギニンの投与量は、1500mg以上3000mg以下が好ましいと考えられる。
【0036】
結論
まとめると、この研究は、L−アルギニンを服用している群において、ART治療後のhCG陽性率と妊娠率を改善する傾向を示した。サブグループ解析の結果、AMH<2ng/ml及び中等度胚群のアルギニン摂取群でhCG陽性率の増加が観察された。さらに、男性不妊症をパートナーとする女性を正常/軽度不妊症として分類したサブ解析では、L−アルギニン摂取群でhCG陽性率と妊娠率の増加が観察された。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
【表3】

【0040】
【表4】
【0041】
【表5】
【0042】
【表6】
【実施例2】
【0043】
以下の配合のサプリメントを製造した。
葉酸 0.70mg
L−アルギニン 2,100mg
ビタミンE 63.00mg
還元水飴 1,500mg
ゲル化剤(ゲル化剤FG−2543 新田ゼラチン株式会社) 180.00 mg
ゲル化剤(増粘多糖類:ビストップD−2029(グアーガム) 三栄源エフ・エフ・アイ株式会社) 15.00mg
甘味料(アセスルファムK) 5.00mg
甘味料(スクラロース) 20.00mg
甘味料(ステビア) 8.00mg
オルトリン酸(85%燐酸) 1,445mg
グレープフルーツ果汁 150mg
【0044】
グレープフルーツ果汁は,他の果汁を添加したものに比べ,L−アルギニン特有の苦みをごまかすことができた。このため,グレープフルーツフレーバーのサプリメントは,摂取しやすいサプリメントであった。さらに,L−アルギニンの酸性を中和するために様々な酸を検討した。その結果,酸そのものは,クエン酸やリンゴ酸の方がリン酸よりも風味に優れるものの,L−アルギニンを含むサプリメントにおいては,リン酸(特にオルトリン酸)を含むものの方が,官能検査の結果,味が良かった。特に,柑橘系フレーバー(例えば,グレープフルーツフレーバー)のサプリメントを製造した際には,リン酸を用いてL−アルギニンを中和したものが,風味に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0045】
この発明は,妊娠促進組成物に関するので,健康食品産業,サプリメント産業,又は製薬産業において利用され得る。
図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2019年8月30日
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0038
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0038】
【表2】
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0039
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0039】
【表3】
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0041
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0041】
【表5】
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0042
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0042】
【表6】