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特開2021-31758金属粉末積層造形方法および金属粉末積層造形装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-31758(P2021-31758A)
(43)【公開日】2021年3月1日
(54)【発明の名称】金属粉末積層造形方法および金属粉末積層造形装置
(51)【国際特許分類】
   B22F 3/16 20060101AFI20210201BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20210201BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20210201BHJP
   B22F 3/105 20060101ALN20210201BHJP
【FI】
   B22F3/16
   B33Y10/00
   B33Y30/00
   B22F3/105
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2019-156983(P2019-156983)
(22)【出願日】2019年8月29日
(71)【出願人】
【識別番号】000132725
【氏名又は名称】株式会社ソディック
(72)【発明者】
【氏名】石橋 賢治
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 秀二
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018BB04
4K018CA44
4K018EA51
4K018EA60
4K018FA06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】連続的に安定した造形をより確実に行ない、造形時間をより短縮する金属粉末積層造形方法の提供。
【解決手段】金属粉末積層装置は、制御装置9において、リコータヘッド6AをB軸に移動させながらブレードが受ける負荷を検出し、ブレードが所定以上の負荷を受けたときは、リコータヘッド6Aを停止して障害突起4Cの位置と高さを記憶装置9Rに記憶させるとともに、造形テーブル4を所定高H降下させることを繰返し、リコータヘッド6Aが終端まで移動したら、複数の障害突起4Cのうちの最大の障害突起4Cだけを平削りで除去するようにする。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リコータヘッドから金属材料粉体を供給しながら前記リコータヘッドに設けられているブレードによって前記金属材料粉体を平坦に均して造形テーブル上の所定の造形領域に所定高の金属粉末層を形成する金属粉末積層造形方法であって、前記造形テーブルを所定高下降させる第1工程と、前記造形領域の外側から前記リコータヘッドを水平1軸方向に相対移動させる第2工程と、前記ブレードが予め決められている負荷以上の過負荷を受けたことを検出したときは前記リコータヘッドの相対移動を停止してそのときの前記水平1軸方向の前記リコータヘッドの位置と鉛直1軸方向の前記造形テーブルの位置とを上書きで記憶装置に記憶させる第3工程と、第3工程後に前記造形テーブルを所定高下降させてから前記リコータヘッドを再び前記水平1軸方向に相対移動させる第4工程と、少なくとも前記ブレードが前記造形領域を通過するまで第3工程から第4工程を繰り返す第5工程と、第3工程で負荷を検出しているときは前記記憶装置に記憶されている位置を中心に予め定められている平面領域内で平面削りの固定切刃によって切削する第6工程と、前記造形テーブルの位置を第1工程における位置まで戻す第7工程と、を含んでなる金属粉末積層造形方法。
【請求項2】
前記ブレードが非磁性体の導電性を有する可撓性のブレードである請求項1に記載の金属粉末積層造形装置。
【請求項3】
ブレードを有し水平1軸方向に相対移動するリコータヘッドと、上面に所定の造形領域が設定され鉛直1軸方向に相対移動する造形テーブルと、平面削りの固定切刃によって切削する切削装置と、を含んでなり、金属粉末層1層毎に前記リコータヘッドを前記水平1軸方向に移動させて前記ブレードが予め決められている負荷以上の過負荷を受けたことを検出したときは前記リコータヘッドの相対移動を停止させてそのときの前記水平1軸方向の前記リコータヘッドの位置と前記鉛直1軸方向の前記造形テーブルの位置とを上書きで記憶装置に記憶させてから前記造形テーブルを所定高下降させて前記リコータヘッドを再び前記水平1軸方向に相対移動させ前記リコータヘッドが前記造形領域を通過して前記水平1軸方向の所定の位置に到達した後に前記リコータヘッドを1度以上停止させているときには前記切削装置を動作させて前記記憶装置に記憶されている位置を中心に予め定められている平面領域内で切削を行なわせる制御装置と、を含んでなる金属粉末積層造形装置。
【請求項4】
前記ブレードは、非磁性体の導電性を有する可撓性のブレードである請求項3に記載の金属粉末積層造形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属粉末積層造形方法および金属粉末積層造形装置に関する。特に、本発明は、リコートの障害になる障害突起を除去する金属粉末積層造形方法および金属粉末積層造形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属製の三次元造形物を生成する金属3Dプリンタとして、金属材料粉体を造形テーブル上の造形領域に散布し、ブレードによって材料粉体を平坦に均した後、造形領域内の所定の照射領域にレーザ光または電子ビームを照射して材料粉体を焼結または溶融固化することを繰り返して固化層を積み重ねていき、所望の三次元形状の造形物を生成する構成の金属粉末積層造形装置が知られている。以下、レーザ光または電子ビームを照射して固化層を形成するときの作用を焼結を含めて溶融固化と総称する。
【0003】
金属粉末積層造形方法において、50μmないし200μm程度の厚さの金属粉末層に高エネルギ密度のレーザ光または電子ビームを照射すると、例えば、材料の一部が蒸散し、蒸散した材料粉体が冷却固化して粉末層上に落下することによって、リコートの障害になる粉末層の所定高を超える高さの“障害突起”が意図せずに形成されていることがある。その他の原因で障害突起ができることもあるが、障害突起が生じると、ブレードが障害突起に衝突して進まなくなることによって造形を継続することができなくなる。
【0004】
特許文献1は、障害突起を検出して除去する積層造形方法を開示している。特許文献1の発明によると、積層造形装置の自動運転が中断することを回避して、障害突起が生成されても造形を継続して行なうことを可能にする。ただし、特許文献1の発明においては、障害突起を検出する毎に障害突起を除去する必要があり、造形時間が長くなる傾向にある。また、障害突起と類似する造形物に必要な形状部位を誤って損壊してしまうおそれがある。
【0005】
特許文献2は、障害突起を根元から除去する積層造形方法を開示している。特許文献2の発明によると、障害突起をほぼ完全に取り除いてしまうので、同じような場所で繰返しブレードが停止する可能性を低くする。結果的に、造形時間を短縮できる点で有利である。ただし、どのような障害突起であっても除去できるようにするために、エンドミルのような切削工具を高速で回転させながら同時3軸方向に相対移動させることができるスピンドルを備えた加工ヘッドを有する切削装置が要求されるので、積層造形装置が比較的大型になる。
【0006】
特許文献3は、非磁性体の導電性を有する可撓性のブレードを使用した積層造形方法を開示している。特許文献3の発明によると、ブレードが障害突起を乗り越えるので、造形作業が中断しにくい。また、特許文献3の発明によると、ブレードが破損したり、障害突起と類似する造形物の必要な形状部位を損壊したりしてしまうおそれがない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3599059号公報
【特許文献2】特許第5888826号公報
【特許文献3】特許第6076532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
障害突起の態様は多様であり、連続的な安定した造形作業を阻害したり、造形結果に悪影響を与えたりするおそれのある障害突起は、造形中に除去することが望ましい。しかしながら、ブレードが障害突起に接触した時点では、どのような障害突起であるかを判別することは困難であり、他に除去するべき障害突起があるかどうかも不明である。
【0009】
そのため、障害突起の大きさ、形状、場所、数に関係なく障害突起を確実に除去できるように、依然として高い切削能力を有する大型の切削装置を備えておくことが要求される。また、障害突起を検出する毎に障害突起を除去するという動作を行なわないようにするためには、障害突起を検出した時点で照射領域の全面を切削するようにする必要があり、造形時間の短縮を難しくしている。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みて、連続的に安定した造形をより確実に行ない、造形時間をより短縮する金属粉末積層造形方法を提供することを主たる目的とする。特に、本発明は、比較的小型で造形時間をより短縮することができる金属粉末積層造形装置を提供することを目的とする。本発明におけるその他のいくつかの利点は、具体的な実施の形態の説明において詳しく示される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するために、リコータヘッド(6A)から金属材料粉体を供給しながらリコータヘッド(6A)に設けられているブレード(60B)によって金属材料粉体を平坦に均して造形テーブル(4)上の所定の造形領域(α)に所定高の金属粉末層(4B)を形成する金属粉末積層造形方法であって、造形テーブル(4)を所定高下降させる第1工程と、造形領域(α)の外側からリコータヘッド(6A)を水平1軸方向に相対移動させる第2工程と、ブレード(6A)が予め決められている負荷以上の過負荷を受けたことを検出したときはリコータヘッド(6A)の相対移動を停止してそのときの水平1軸方向のリコータヘッド(6A)の位置と鉛直1軸方向の造形テーブル(4)の位置とを上書きで記憶装置(9R)に記憶させる第3工程と、第3工程後に造形テーブル(4)を所定高下降させてからリコータヘッド(6A)を再び水平1軸方向に相対移動させる第4工程と、少なくともブレード(60B)が造形領域(α)を通過するまで第3工程から第4工程を繰り返す第5工程と、第3工程で負荷を検出しているときは記憶装置(9R)に記憶されている位置を中心に予め定められている平面領域内で平面削りの固定切刃によって切削する第6工程と、造形テーブル(4)の位置を第1工程における位置まで戻す第7工程と、を含んでなる金属粉末積層造形方法とする。望ましくは、ブレード(6A)が非磁性体の導電性を有する可撓性のブレードである。
【0012】
また、本発明は、ブレード(60B)を有し水平1軸方向に相対移動するリコータヘッド(6A)と、上面に所定の造形領域(α)が設定され鉛直1軸方向に相対移動する造形テーブル(4)と、平面削りの固定切刃(10K)によって切削する切削装置(10)と、を含んでなり、金属粉末層(4B)1層毎にリコータヘッド(6A)を水平1軸方向に移動させてブレードが予め決められている負荷以上の過負荷を受けたことを検出したときはリコータヘッド(6A)の相対移動を停止させてそのときの水平1軸方向のリコータヘッド(6A)の位置と鉛直1軸方向の造形テーブル(4)の位置とを上書きで記憶装置(9R)に記憶させてから造形テーブル(4)を所定高下降させてリコータヘッド(6A)を再び水平1軸方向に相対移動させリコータヘッド(6A)が造形領域(α)を通過して水平1軸方向の所定の位置に到達した後にリコータヘッド(6A)を1度以上停止させているときには切削装置(10)を動作させて記憶装置(9R)に記憶されている位置を中心に予め定められている平面領域内で切削を行なわせる制御装置(9)と、を含んでなる金属粉末積層造形装置。とする。望ましくは、ブレード(60B)は、非磁性体の導電性を有する可撓性のブレードである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、ブレードが大きな過負荷を受けたときにだけリコータヘッドを停止することで造形結果に重大な影響を与えるような比較的大きい障害突起をその障害突起が存在する必要十分な範囲の平面領域内で切削加工を行なうので、造形結果に優れ、造形時間をより短縮するとともに、障害突起の除去作業に切削能力が相当高い切削装置は不要であり、積層造形装置が大型化しない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の金属粉末積層造形装置を示すブロック図である。
図2】本発明の金属粉末積層造形装置を示す斜視図である。
図3】本発明の金属粉末積層造形装置のリコータヘッドを示す斜視図である。
図4】本発明の金属粉末積層造形装置の制御装置を示すブロック図である。
図5】本発明の金属粉末積層造形方法のプロセスを示す模式図である。
図6】本発明の金属粉末積層造形方法のプロセスを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本発明の金属粉末積層造形装置の例をブロック図で示す。図2は、図1で示される積層造形装置を斜視図で示す。図1および図2に示される積層造形装置は、平削りが可能な固定切刃を含む平面切削装置を備える。図3は、図1および図2で示されるリコータヘッドを斜視図で示す。図4は、本発明の積層造形装置の制御装置を示すが、本発明に直接関係しない部位は、図示省略している。以下、図1ないし図4を用いて本発明の好適な金属粉末積層造形装置を説明する。
【0016】
図1および図2に示される金属粉末積層造形装置は、チャンバ1と、ベッド2と、ベーステーブル3と、造形テーブル4と、レーザ照射装置5と、リコータ6と、ヒューム防護装置7と、不活性ガスの給排機構8とを備える。制御装置9は、レーザ照射装置5を含めて積層造形装置の全ての動作を制御する。また、図1および図2に示される積層造形装置は、平面切削装置10を備える。図1に示される積層造形装置において、所定の造形領域αは、造形テーブル4の上面に設定される。そして、所望の三次元形状を有する造形物の所定水平面における輪郭形状に囲まれる所定の照射領域βは、造形領域αの中に設定される。
【0017】
チャンバ1は、造形室である。造形中、チャンバ1の中は、不活性ガスの給排機構8から供給される不活性ガスで満たされている。不活性ガスは、実質的に金属材料粉体と反応しない気体である。本発明の積層造形方法で使用される不活性ガスは、具体的に窒素ガスである。チャンバ1の上面の天板1Aにレーザ光Lが通過する開口1Bが設けられている。開口1Bは、所定の種類のレーザ光Lを殆ど吸収することなく透過させる素材でなるウィンドウ1Cによって塞がれている。
【0018】
ベッド2は、積層造形装置の基台である。ベーステーブル3は、作業台である。ベッド2の上にベーステーブル3が水平に設置される。チャンバ1は、ベーステーブル3の上面全域を覆うようにしてベッド2の上に固設される。ベーステーブル3の作業面の中央部位が貫通している。四角形の貫通孔の開口に当て嵌まるように造形テーブル4が設けられる。
【0019】
造形テーブル4は、ベーステーブル3の作業面の全域における一部分の領域を形成する昇降する作業台である。造形テーブル4は、不図示の駆動機構によって上下方向である鉛直1軸方向(U軸)に往復移動する。造形テーブル4の上面のおよそ全面が造形領域αに相当する。造形テーブル4の上面の所定の位置にベースプレート4Aが固定される。ベースプレート4Aの上に所定の照射領域βが設定される。
【0020】
レーザ照射装置5は、レーザ光Lを粉末層4Bに照射する手段である。図2に具体的に示されるように、レーザ照射装置5は、レーザ光源5Aと、フォーカスユニット5Bと、一対のガルバノユニット5Cを含んでなる。レーザ光源5Aから出力されるレーザ光は、材料粉体を焼結ないし溶融するために適する種類のレーザ光である。具体的に、図2に示されるレーザ照射装置5におけるレーザ光は、YAGレーザである。
【0021】
レーザ光源5Aが発振する特定周波数のレーザ光は、フォーカスユニット5Bで集光されてガルバノユニット5Cに供給される。ガルバノユニット5Cは、不図示の回転アクチュエータを操作することによって一対のガルバノミラーを回転させてレーザ光Lの照射方向を変えるように制御して、例えば、所定のラスタ走査線に沿ってスポットが移動するようにレーザ光を走査する。なお、レーザ光Lのスポット径は、例えば、ガルバノユニット5Cとウィンドウ1Cとの間に設けられる不図示の集光レンズで調整される。
【0022】
リコータ6は、材料粉体を散布しながら平坦に均して粉末層4Bを形成する手段である。リコータ6は、リコータヘッド6Aと、図4に示されるサーボモータ6Bおよび駆動伝達装置6Cとを含む駆動装置とでなる。図3に詳しく示されるように、リコータヘッド6Aには、少なくとも、材料ケース60Aと、ブレード60Bと、チャンバ1内の不活性ガスである窒素ガスをヒュームと共にチャンバ1の外に吸引して排出するための吸引口60Cとが設けられている。リコータヘッド6Aは、積層造形装置の左右方向である水平1軸方向(B軸)に往復移動する。
【0023】
ブレード60Bの下端とベーステーブル3との間には、殆ど間隙がないので、ベーステーブル3上には、実質的に材料粉体が散布されない。このとき、ベーステーブル3の上面の高さ位置よりも下の位置に造形テーブル4の上面があるように造形テーブル4を下降させたとき、造形テーブル4の上側に形成される空間に材料粉体が満遍なく供給され、所定高の粉末層4Bが形成される。
【0024】
ブレード60Bは、多数本の繊維が長手方向に均一に配置された帯状のブラシ態様の形状を有する。ブレード60Bは、障害突起との衝突に対して衝撃を吸収できる可撓性を有し、あるいは柔軟性を有すると言い換えることもできるが、障害突起がある程度の範囲で乗り越えることが可能であるなら、平板形状であっても構わない。
【0025】
図3に示されるブレード60Bは、脱磁されているとともに静電除去されている。より詳しくは、ブレード60Bは、磁化率の絶対値が0.1以下の非磁性体でなり、電気伝導率が106S/m以上の導電性を有するとともに耐熱性を有する。より具体的に、ブレード60Bは、炭素繊維プラスチック、オーステナイト系ステンレス、あるいは真鍮が選択される。特に、ブレード60Bは、曲げ応力が50MPa以上150MPa以下の範囲であることが望ましい。
【0026】
ヒューム防護装置7は、ウィンドウ1Cを覆うようにチャンバ1の上面の天板1Aに設けられる。ヒューム防護装置7は、不活性ガスの給排機構8から供給される清浄な窒素ガスによって満たされる円筒の筐体7Aの中において、窒素ガスの内圧によって所定の照射領域βから上昇してくるヒュームが筐体7Aの中の空間に入らないように押し返して、ウィンドウ1Cがヒュームに汚染されないようにする。
【0027】
不活性ガスの給排機構8は、不活性ガス供給源8Aと、ヒュームコレクタ8Bと、排気ファン8Cと、ダクトボックス8Dとを含んでなる。実施の形態の積層造形装置における不活性ガスの給排機構8において、不活性ガス供給源8Aは、少なくとも1つの液化窒素ガスボンベを含んでいる。ヒュームコレクタ8Bは、チャンバ1から回収される汚れた窒素ガスに含まれるヒュームが冷却することによって生じる微小な金属粒子を吸着して窒素ガス中から排除する。ダクトボックス8Dは、経路中でヒュームが冷却することによって生じる微小な金属粒子を含むものであって気体中に含まれる微細な不純物を回収する。
【0028】
不活性ガスを供給する経路は、窒素ガス供給源8Aからチャンバ1までの第1供給経路と、窒素ガス供給源8Aからヒューム防護装置7までの第2供給経路と、ヒュームコレクタ8Bからチャンバ1までの第3供給経路がある。また、不活性ガスをヒュームと共に排出する経路は、チャンバ1から排気ファン8Cを経由しまたは排気ファン8Cを経由しないでヒュームコレクタ8Bに回収される第1排出経路と、リコータ6のリコータヘッド6Aの吸引口60Cからヒュームコレクタ8Bに回収される第2排出経路がある。
【0029】
平面切削装置10は、図4に示される制御装置9によって移動制御されるビーム10Aと、スライダ10Bと、固定切刃10Kを取り付けたヘッド10Cとを含んでなる。固定切刃10Kは、具体的に、平面切削に適するバイトまたはシェーパである。
【0030】
ビーム10Aは、リコータヘッド6Aが往復移動する水平1軸方向(U軸)に平行な水平1軸方向(X軸)に往復移動する。スライダ10Bは、ビーム10Aの上を積層造形装置の前後方向であってX軸方向に直交する他の水平1軸方向(Y軸)に往復移動する。ヘッド10Cは、X軸方向とY軸方向に直交する鉛直1軸方向(Z軸)に往復移動する。平面切削装置10は、ビーム10Aと、スライダ10Bと、ヘッド10Cとを制御装置9によって相対移動させることによって任意の三次元方向に固定切刃10K、例えば、シェーパを移動させて切削(平削り)を行なうことができる。
【0031】
図4は、本発明の金属粉末積層造形方法を実施するための制御システムをブロック図で示す。図5は、本発明の積層造形方法のプロセスを模式的に示す。図6は、本発明の積層造形方法のプロセスをフローチャートで示す。以下に、本発明の金属粉末積層造形方法について説明する。
【0032】
図5Aに示されるように、図6の工程S1において、粉末層4Bを形成するためにリコータヘッド6Aを造形領域αの外側にあるベーステーブル3の所定の始端位置から水平1軸方向(U軸)方向に相対移動させる。実施の形態の積層造形方法においては、図6の工程S2において、モータドライバ9Mからサーボモータ6Bに出力される駆動電流の大きさによって間接的にブレード60Bが受ける負荷を計測するようにしている。
【0033】
例えば、制御装置9において、リコータヘッド6Aが移動中に電流センサ9Sが駆動電流を検出し、モータ制御装置9Cを通して数値制御装置9Nに駆動電流を入力する。そして、数値制御装置9Nにおいて、所定の基準値(基準データ)と駆動電流のフィードバック電流値(測定データ)とを比較する。所定の基準値(閾値)は、過去に実際にブレード60Bが破損したとき、あるいは障害突起が原因で造形不良が発生したときにおける負荷に関する複数の情報に基づいて予め決められている。
【0034】
造形中に粉末層1層分の所定高Hを超える障害突起4Cが発生しているとき、可撓性を有するブレード60Bが障害突起4Cを乗り越える場合は、ブレード60Bが受ける負荷が予め定められている所定の負荷を超えない。したがって、ブレード60Bが障害突起4Cと衝突しても、リコータ6は、リコートを継続する。そのため、実施の形態の積層造形方法においては、造形時間が不要に長くなることがない点で有利である。
【0035】
一方、ブレード60Bが障害突起4Cを乗り越えることができないか、障害突起4Cが将来造形不良を発生させるおそれがある大きさであるときは、ブレード60Bが受ける負荷が所定の負荷以上になる。このとき、モータ制御装置9Cにおいては、リコータヘッド6Aが進まないので、リコータヘッド6Aを前進させるために、ドライバ9Mの出力する駆動電流を増大させるように指令する。その結果、駆動電流のフィードバック電流が増大する。
【0036】
制御装置9は、リコータヘッド6Aが受ける負荷が大きくなることによって増大し、所定の基準値以上になった駆動電流の測定データは、実質的に“過負荷信号”に相当し、モータ制御装置9Cを通して数値制御装置9Nに転送されてくる。その結果、図6の工程S3において、数値制御装置9Nは、駆動電流が所定の基準値以上になって望ましくない障害突起4Cが存在するものと判断して直ちにサーボモータ6Bを停止させ、リコータヘッド6Aを障害突起4Cと衝突した場所から可能な限り近い位置に留めるようにする。
【0037】
制御装置9は、図6の工程S4において、造形中の焼結体の上面、言い換えると、未完成の造形物の最上層の固化層に形成されている障害突起4Cの平面上の位置と高さとを不図示の位置検出器(エンコーダ)から取得するリコータヘッド6Aの水平1軸方向(B軸)の位置座標値と造形テーブル4の鉛直1軸方向(U軸)の位置座標値として記憶装置9Rに記憶させる。
【0038】
ブレード60Bが障害突起4Cと衝突してリコータヘッド6Aを停止したときは、図6の工程S5において、造形作業を一時停止して、図5Bに示されるように、造形テーブル4を粉末層1層分の所定高Hだけ下降させる。そして、図6の工程S1に戻って、リコータヘッド6Aを障害突起4Cと衝突した位置から再度移動させる。
【0039】
図6の工程S2において、再びブレード60Bが障害突起4Cと接触してリコータヘッド6Aが過負荷を受けていると判断される場合は、制御装置9は、図6の工程S3において、リコータヘッド6Aを直ちに停止させる。そして、制御装置9は、図5Cに示されるように、図6の工程S4ないし工程S5において、リコータヘッド6Aが停止したときの位置と造形テーブル4の位置を以前に記録しているデータを上書きして記憶装置9Rに記憶させるとともに、造形テーブル4を粉末層1層分の所定高Hだけ下降させる。
【0040】
図5Dに示されるように、図6の工程S6において、少なくともリコータヘッド6Aのブレード60Bが造形領域αを通過して水平1軸方向(B軸)の所定の終端位置に到達するまでリコータヘッド6Aが移動して粉末層4Bを形成し終えると、リコータヘッド6Aを1度以上停止させているときには、図5Eに示されるように、図6の工程S7において、平面切削装置10を起動し、記憶装置9Rに記録されている、これまで接触した障害突起4Cの中で最も高い位置に突出する大きい障害突起4Cが存在する位置まで固定切刃10Kを移動させる。そして、現在の粉末層4B(n)の所定高Hよりも先端(頂点)が低くなるように障害突起4Cを平削りで除去する。
【0041】
最大の障害突起4Cを削除したら1つのプロセスを終了して、図6の工程S1に戻って、再び粉末層4B(n)のリコートを実施する。そして、粉末層4B(n)において固化層を形成したら、次の粉末層においても同様にリコートを行なう。なお、実施の形態の金属粉末積層造形方法においては、図6の工程S8で記憶装置9Rに記録されている位置のデータを消去するようにしている。記録装置9Rの記録を削除することによって、工程S7において、障害突起4Cを除去する動作が必要かどうかの判断が不要になるが、工程S8は、必ず行わなければならないという動作ではない。
【0042】
実施の形態の金属粉末積層造形方法によると、障害突起4Cの除去にスピンドルを備えた切削装置が不要であり、積層造形装置を小型にすることができる。そして、最大の障害突起だけを優先的に除去しながらリコートを繰り返すので、全体の造形時間がより短くなる利点がある。
【0043】
本発明は、上記実施の形態の積層造形装置に限定されず、本発明の技術思想を逸脱しない範囲で、すでにいくつかの例が具体的に示されているように、変形、置換、あるいは他の発明との組み合わせが可能である。例えば、実施の形態の金属粉末積層造形装置において、ブレードが受ける負荷をサーボモータの駆動電流によって間接的に検出しているが、圧力センサによってブレードの負荷を直接検出するようにすることができ、または、サーボモータのトルクによって検出するようにすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、金属製の三次元形状を有する造形物の製造に有益である。特に、本発明は、金属粉末積層造形法における造形時間の短縮に優れた効果を発揮する。そして、本発明は、三次元造形における技術の進歩に寄与する。
【符号の説明】
【0045】
1 チャンバ
2 ベッド
3 ベーステーブル
4 造形テーブル
4A ベースプレート
4B 粉末層
4C 障害突起
5 レーザ照射装置
6 リコータ
6A リコータヘッド
6B サーボモータ
6C 伝達装置
60A 材料ケース
60B ブレード
60C 吸引口
7 ヒューム防護装置
8 給排機構
9 制御装置
9C モータ制御装置
9M モータドライバ
9N 数値制御装置
9R 記憶装置
9S 電流センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6