【解決手段】染色されたセルロース繊維と、改変フィブロインを含む人工フィブロイン繊維と、を含有する混紡糸からなる原料生地を、人工フィブロイン繊維を染色可能な染料により染色する工程を備える、染色された生地の製造方法。
染色されたセルロース繊維と、改変フィブロインを含む人工フィブロイン繊維と、を含有する混紡糸からなる原料生地を、前記人工フィブロイン繊維を染色可能な染料により染色する工程を備える、染色された生地の製造方法。
セルロース繊維を染色して前記染色されたセルロース繊維を得る工程、前記染色されたセルロース繊維及び前記人工フィブロイン繊維を混紡して前記混紡糸を得る工程、並びに、前記混紡糸を用いて前記原料生地を得る工程を更に備える、請求項1〜5のいずれか一項に記載の染色された生地の製造方法。
染色されたセルロース繊維と、改変フィブロインを含む人工フィブロイン繊維と、を含有する混紡糸からなる原料生地を、前記人工フィブロイン繊維を染色可能な染料により染色する工程を含む、生地の染色方法。
染色されたセルロース繊維と、改変フィブロインを含む人工フィブロイン繊維と、を含有する原料混合繊維を、前記人工フィブロイン繊維を染色可能な染料により染色する工程、及び、
染色された前記原料混合繊維を紡績する工程を備える、染色された混紡糸の製造方法。
染色されたセルロース繊維と、改変フィブロインを含む人工フィブロイン繊維と、を含有する原料混紡糸を、前記人工フィブロイン繊維を染色可能な染料により染色する工程を備える、染色された混紡糸の製造方法。
染色されたセルロース繊維と、改変フィブロインを含む人工フィブロイン繊維と、を含有する原料混合繊維を、前記人工フィブロイン繊維を染色可能な染料により染色する工程を含む、原料混合繊維の染色方法。
染色されたセルロース繊維と、改変フィブロインを含む人工フィブロイン繊維と、を含有する原料混紡糸を、前記人工フィブロイン繊維を染色可能な染料により染色する工程を含む、混紡糸の染色方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0018】
〔染色された生地の製造方法〕
本実施形態に係る染色された生地の製造方法は、染色されたセルロース繊維と、改変フィブロインを含む人工フィブロイン繊維と、を含有する混紡糸からなる原料生地を、人工フィブロイン繊維を染色可能な染料により染色する工程(生地染色工程)を備える。
【0019】
生地染色工程で用いられる原料生地は、例えば、セルロース繊維を染色して染色されたセルロース繊維を得る工程(セルロース繊維染色工程)、染色されたセルロース繊維及び人工フィブロイン繊維を混紡して混紡糸を得る工程(混紡工程)、並びに、混紡糸を用いて原料生地を得る工程(準備工程)を備える方法により製造することができる。すなわち、本実施形態に係る染色された生地の製造方法は、セルロース繊維染色工程、混紡工程、準備工程及び生地染色工程を備えるものであってよい。
【0020】
以下、本実施形態に係る染色された生地の製造方法の一例として、セルロース繊維染色工程、混紡工程、準備工程及び生地染色工程を備える方法について説明する。
【0021】
<セルロース繊維染色工程>
セルロース繊維染色工程では、セルロース繊維を染色する。本明細書におけるセルロース繊維は、綿、麻、亜麻、マニラ麻、やし、いぐさ等の天然セルロース繊維が挙げられる。すなわち、本発明におけるセルロース繊維は、レーヨン、キュプラ、リヨセル、アセテート等の再生セルロース繊維とは区別される。セルロース繊維は、例えば、短繊維、中繊維、長繊維であってよい。
【0022】
セルロース繊維の染色は、セルロース繊維を染色可能な染料を用いればよい。セルロース繊維を染色可能な染料として、反応染料を用いることが好ましい。つまり、染色されたセルロース繊維は、反応染料で染色されたセルロース繊維であることが好ましい。本明細書における反応性染料は、セルロース繊維が有するヒドロキシ基と共有結合を形成可能な基(反応基)を有する染料である。反応性基としては、例えば、モノクロロトリアジン基、モノフルオロトリアジン基、カルボキシピリジニオトリアジン基、ジクロロトリアジン基、ビニルスルホン基、スルファトエチルスルホン基、フルオロクロロピリミジン基、トリクロロピリミジン基、ブロモアクリルアミド基等が挙げられる。反応染料は、分子内に少なくとも一つの反応基を有していればよく、分子内に複数の反応基を有していてもよい。分子内に複数の反応基を有する反応染料は、分子内に同種の反応基のみを有する染料であってもよく、分子内に2種以上の反応基を有する染料であってもよい。
【0023】
反応染料としては、例えば、レマゾール(登録商標)染料等が挙げられる。
【0024】
セルロース繊維は、1種の染料を用いて染色してもよく、2種以上の染料を組み合わせて染色してもよい。
【0025】
セルロース繊維を染色する方法としては、例えば、染料を含む染色液にセルロース繊維を浸漬させる浸漬法(バッチ染色)等の公知の方法が何れも採用される。
【0026】
セルロース繊維染色工程は、ワタの状態のセルロース繊維を染色することにより行われることが好ましい。つまり、染色されたセルロース繊維は、ワタの状態で染色されたものであることが好ましい。この場合、染色されたセルロース繊維のワタと人工フィブロイン繊維とをミキシングした後に紡績を行うことで、均染性がより一層優れたものとなる。
【0027】
セルロース繊維を染色可能な染料を含む染色液(第1の染色液)は、例えば、染料及び水を含む水溶液であってよい。第1の染色液は、染料及び水以外の成分(他の成分)を更に含んでいてよい。他の成分としては、例えば、ボウ硝(硫酸ナトリウム)、ソーダ灰(炭酸ナトリウム)が挙げられる。第1の染色液中の染料の含有量は、第1の染色液の全質量を基準として、例えば、4〜10%o.w.fであってもよく、5〜9%o.w.fであってもよく、5〜7%o.w.fであってもよく、7〜9%o.w.fであってもよい。
【0028】
セルロース繊維を染色する際の染色液の温度(染色温度)は、例えば、50〜100℃であってもよく、55〜95℃であってもよく、75〜85℃であってもよく、55〜60℃であってもよく、75〜85℃であってもよく、90〜95℃であってもよい。セルロース繊維を染色液に浸漬させる時間(染色時間)は、例えば、20〜80分間であってもよく、30〜70分間であってもよく、40〜60分間であってもよい。
【0029】
セルロース繊維染色工程は、セルロース繊維を染色することに加えて、染色されたセルロース繊維を洗浄することを更に含んでいてよい。染色されたセルロース繊維の洗浄は例えば水を用いて行うことができる。
【0030】
セルロース繊維染色工程は、染色されたセルロース繊維に対して、フィックス処理(詳細は後述する。)を行うことを含んでいてもよいが、人工フィブロイン繊維の染色性の観点から、人工フィブロイン繊維の染色前に行うことを含まないことが好ましい。
【0031】
<混紡工程>
混紡工程では、染色されたセルロース繊維及び人工フィブロイン繊維を混紡して混紡糸を得る。人工フィブロイン繊維は、改変フィブロインを含む原料を紡糸して得られる繊維である。改変フィブロインの好ましい態様は後述する。
【0032】
染色されたセルロース繊維及び人工フィブロイン繊維を混紡する方法(紡績する方法)は、人工フィブロイン繊維及びセルロース繊維を使用する他は、常法に従って製造することができる。混紡工程では、人工フィブロイン繊維及びセルロース繊維以外の他の繊維を更に用いてもよい。すなわち、混紡糸は、人工フィブロイン繊維及びセルロース繊維以外の他の繊維を更に含有していてもよい。他の繊維としては、例えば、ナイロン、ポリエステル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアミド繊維等の合成繊維、キュプラ、レーヨン、リヨセル等の再生繊維、綿、麻、シルク、ウール、カシミア等の天然繊維が挙げられる。これら他の繊維は、本発明による効果を損なわない範囲で使用するのが好ましい。
【0033】
混紡糸は、短繊維を撚り合わせたスパン糸であってもよく、長繊維を撚り合わせたフィラメント糸であってもよい。
【0034】
混紡糸における人工フィブロイン繊維とセルロース繊維の含有比率は、人工フィブロイン繊維とセルロース繊維の合計量を基準として、人工フィブロイン繊維の含有量が10質量%以上であってよく、20質量%以上であってよく、30質量%以上であってよく、40質量%以上であってよく、50質量%以上であってよく、60質量%以上であってよく、70質量%以上であってよく、80質量%以上であってよい。人工フィブロイン繊維の含有量の上限は、人工フィブロイン繊維とセルロース繊維の合計量を基準として、90質量%以下であってよく、80質量%以下であってよく、70質量%以下であってよく、60質量%以下であってよく、50質量%以下であってよく、40質量%以下であってよく、30質量%以下であってよく、20質量%以下であってよい。
【0035】
混紡糸における人工フィブロイン繊維とセルロース繊維の含有量は、混紡糸全量を基準として、人工フィブロイン繊維とセルロース繊維との合計含有量が、50質量%以上であってよく、60質量%以上であってよく、70質量%以上であってよく、80質量%以上であってよく、90質量%以上であってよい。人工フィブロイン繊維とセルロース繊維との合計含有量の上限に特に制限はなく、混紡糸全量を基準として、100質量%であってよく、95質量%以下であってよい。
【0036】
人工フィブロイン繊維は、下記式で定義される湿潤収縮率が2%以上であってよい。
湿潤収縮率={1−(水に接触させて湿潤状態にした人工フィブロイン繊維の長さ/紡糸後、水と接触する前の人工フィブロイン原繊維の長さ)}×100(%)
【0037】
人工フィブロイン繊維は、湿潤収縮率が、2.5%以上、3%以上、3.5%以上、4%以上、4.5%以上、5%以上、5.5%以上、又は6%以上であってよい。湿潤収縮率の上限は特に限定されないが、80%以下、60%以下、40%以下、20%以下、10%以下、7%以下、6%以下、5%以下、4%以下、又は3%以下であってよい。
【0038】
人工フィブロイン繊維は、下記式で定義される乾燥収縮率が7%超であってよい。
乾燥収縮率={1−(乾燥状態にした人工フィブロイン繊維の長さ/紡糸後、水と接触する前の人工フィブロイン原繊維の長さ)}×100(%)
【0039】
人工フィブロイン繊維は、乾燥収縮率が、8%以上、10%以上、15%以上、20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、37%以上、38%以上、又は39%以上であってよい。乾燥収縮率の上限は特に限定されないが、80%以下、70%以下、60%以下、50%以下、又は40%以下であってよい。
【0040】
人工フィブロイン繊維は、限界酸素指数(LOI)値が、18.0以上であってよく、20.0以上であってもよく、22.0以上であってもよく、24.0以上であってもよく、26.0以上であってもよく、28.0以上であってもよく、29.0以上であってもよく、30.0以上であってもよい。本明細書において、LOI値は、消防庁危険物規制課長 消防危50号平成7年5月31日の粉粒状又は融点の低い合成樹脂の試験方法に準拠して測定される値である。
【0041】
人工フィブロイン繊維は、下記式Aに従って求められる最高吸湿発熱度が0.025℃/g超であってよい。
式A:最高吸湿発熱度={(試料を、試料温度が平衡に達するまで低湿度環境下に置いた後、高湿度環境下に移したときの試料温度の最高値)−(試料を、試料温度が平衡に達するまで低湿度環境下に置いた後、高湿度環境下に移すときの試料温度)}(℃)/試料重量(g)
なお、式A中、低湿度環境は、温度20℃及び相対湿度40%の環境を意味し、高湿度環境は、温度20℃及び相対湿度90%の環境を意味する。
【0042】
人工フィブロイン繊維は、最高吸湿発熱度が0.026℃/g以上であってもよく、0.027℃/g以上であってもよく、0.028℃/g以上であってもよく、0.029℃/g以上であってもよく、0.030℃/g以上であってもよく、0.035℃/g以上であってもよく、0.040℃/g以上であってもよい。最高吸湿発熱度の上限に特に制限はないが、通常、0.060℃/g以下である。
【0043】
人工フィブロイン繊維は、下記式Aに従って求められる保温性指数が0.20以上であってよい。
式A:保温性指数=保温率(%)/試料の目付け(g/m
2)
ここで、本明細書において、保温率は、サーモラボII型試験機(30cm/秒の有風下)を用いたドライコンタクト法で測定した保温率を意味し、後述する実施例に記載の方法により測定される値である。
【0044】
人工フィブロイン繊維の保温性指数は、0.22以上であってよく、0.24以上であってよく、0.26以上であってよく、0.28以上であってよく、0.30以上であってよく、0.32以上であってよい。保温性指数の上限に特に制限はないが、例えば、0.60以下、又は0.40以下であってよい。
【0045】
<準備工程>
準備工程では、混紡糸を用いて原料生地を得る。原料生地は、例えば、編織体又は不織布である。
【0046】
編織体とは、編地及び織地の総称である。編地は、横編、丸編等の緯編組織を有する編地(単に「緯編地」ともいう。)、トリコット、ラッセル等の経編組織を有する編地(単に「経編地」ともいう。)のいずれであってもよい。織地は、平織、綾織、又は繻子織のうちのいずれの組織を有する織地であってもよい。
【0047】
編織体は、混紡糸を編成又は織成して得ることができる。編成方法及び織成方法としては公知の方法を利用することができる。使用される編機としては、例えば、丸編機、経編機、横編機などが使用でき、生産性の観点からは、丸編機の使用が好ましい。横編機としては、成型編み機、無縫製編機などがあるが、特に最終製品の形態で編地を製造可能であることから、無縫製編機の使用がより好ましい。使用される織機としては、例えば、有杼織機、及び、グリッパー織機、レピア織機、ウォータージェット織機、エアジェット織機等の無杼織機が挙げられる。
【0048】
不織布は、例えば、人工フィブロイン繊維及びセルロース繊維を含む混紡糸を用いて、公知の製造方法により製造することができる。具体的には、例えば、人工フィブロイン繊維及びセルロース繊維を原料とし、まず、乾式法、湿式法及びエアレイド法等でウェブ(単層ウェブ、及び積層ウェブを含む。)を形成させた後、ケミカルボンド法(浸漬法、スプレー法等)及びニードルパンチ法等によりウェブの繊維間を結合させて、不織布を得ることができる。
【0049】
不織布の繊維密度(目付)、空隙率、かさ密度等の調整は、例えば、ウェブを構成する繊維量を増減すること、積層ウェブの場合は、積層数を増減することにより行うことができる。
【0050】
原料生地における人工フィブロイン繊維とセルロース繊維の含有比率は、人工フィブロイン繊維とセルロース繊維の合計量を基準として、人工フィブロイン繊維の含有量が10質量%以上であってよく、20質量%以上であってよく、30質量%以上であってよく、40質量%以上であってよく、50質量%以上であってよく、60質量%以上であってよく、70質量%以上であってよく、80質量%以上であってよい。人工フィブロイン繊維の含有量の上限は、人工フィブロイン繊維とセルロース繊維の合計量を基準として、90質量%以下であってよく、80質量%以下であってよく、70質量%以下であってよく、60質量%以下であってよく、50質量%以下であってよく、40質量%以下であってよく、30質量%以下であってよく、20質量%以下であってよい。
【0051】
原料生地における人工フィブロイン繊維とセルロース繊維の含有量は、原料生地全量を基準として、人工フィブロイン繊維とセルロース繊維との合計含有量が、50質量%以上であってよく、60質量%以上であってよく、70質量%以上であってよく、80質量%以上であってよく、90質量%以上であってよい。人工フィブロイン繊維とセルロース繊維との合計含有量の上限に特に制限はなく、原料生地全量を基準として、100質量%であってよく、95質量%以下であってよい。
【0052】
準備工程は、原料生地を精錬することを含んでいてもよい。精錬は、例えば、通常の方法を用いて実施することができる。原料生地の精錬は、例えば、界面活性剤を用いて実施してよい。界面活性剤としては、例えば、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤等が挙げられる。
【0053】
<生地染色工程>
生地染色工程では、染色されたセルロース繊維と、改変フィブロインを含む人工フィブロイン繊維と、を含有する混紡糸からなる原料生地を、人工フィブロイン繊維を染色可能な染料により染色する。予め染色されたセルロース繊維が用いられているため、染色による生地へのダメージが抑制されることとなる。更に、改変フィブロインを含む人工フィブロイン繊維が用いられているため、耐燃焼性に優れる染色された生地を製造することができる。
【0054】
人工フィブロイン繊維を染色可能な染料としては、好ましくは酸性染料が用いられる。酸性染料の具体例としては、例えば、ナイロサン(登録商標)、及びラナシン(登録商標)が挙げられる。
【0055】
原料生地を染色する方法としては、例えば、染料を含む染色液に原料生地を浸漬させる浸漬法(バッチ染色)等の公知の方法が採用され得る。
【0056】
人工フィブロイン繊維を染色可能な染料を含む染色液(第2の染色液)は、例えば、染料及び水を含む水溶液であってよい。第2の染色液は、染料及び水以外の成分(他の成分)を更に含んでいてよい。他の成分としては、例えば、均染剤、PHスライド剤等が挙げられる。第2の染色液中の染料の含有量は、第2の染色液の全質量を基準として、例えば、0.1〜0.6%o.w.fであってもよく、0.15〜0.5%o.w.fであってもよく、0.15〜0.2%o.w.fであってもよく、0.2〜0.5%o.w.fであってもよい。
【0057】
原料生地を染色する際の染色液の温度(染色温度)は、例えば、70〜100℃であってもよく、80〜95℃であってもよく、90〜95℃であってもよい。原料生地を染色液に浸漬させる時間(染色時間)は、例えば、20〜70分間であってもよく、30〜60分間であってもよい。
【0058】
生地染色工程は、例えば、染色された生地に対して、洗浄、フィックス処理、及び乾燥等を行うことを含んでいてよい。洗浄は、例えば水を用いて実施することができる。乾燥温度が、例えば、90〜150℃であってもよく、100〜130℃であってもよく、100〜120℃であってもよく、120〜130℃であってもよく、乾燥時間が、0.5〜2分間であってもよく、1〜1.5分間であってもよい。
【0059】
フィックス処理は、フィックス剤を用いて実施される。フィックス剤の種類は、例えば、使用される染料に応じて、適宜選択することができる。例えば、フィックス剤は、市販品を使用することができる。フィックス剤は、カチオン系フィックス剤であってもよく、アニオン系フィックス剤であってもよい。フィックス剤としては、例えば、タンニン、吐酒石酸、ポリアミン系カチオン樹脂、アリールスルフォン酸縮合物、ジシアンジアミド系樹脂が挙げられる。フィックス剤は、セルロース繊維の染色堅牢度を高めるためのフィックス剤であることが好ましい。例えば、セルロース繊維を染色する際の染料として反応染料を用いる場合、フィックス剤は、反応染料染色物用のフィックス剤であることが好ましい。
【0060】
市販のフィックス剤の製品名としては、例えば、CIBAFIX ECO、ERIOFAST FIX、CIBATEX RN、ネオフィックス KM−11、センカフィックス 401、センカフィックスSZ−2、センカフィックスE−300、ナイロンフィックスTH、ネオフィックスR−250、ネオフィックスR−800、ネオフィックスRD−5、ネオフィックスCF−20、ネオフィックスKM−11、ネオフィックスRP−70、ネオフィックスRP−70C、サンライフFW、サンライフTN、サンライフTN−8、サンライフE−37、サンライフE−48、サンライフEPS−3、サンライフTA200、SZ−9904、タンニンSSが挙げられる。
【0061】
フィックス剤は、単独又は上記2種以上を組み合わせて使用することもできる。フィックス処理は、複数回実施してもよい。また、フィックス処理は、フィックス剤と、樹脂剤、柔軟剤、風合い調整剤、耐光剤等のフィックス剤以外の薬剤と、を併用して実施してもよい。
【0062】
ここで、セルロース繊維及び人工フィブロイン繊維を含む原料混合繊維若しくは混紡糸(原料混紡糸)、又は、該混紡糸からなる生地は、染色堅牢度向上等を目的としてフィックス処理が行われる場合がある。この場合、例えば、反応染料等により染色されたセルロース繊維と酸性染料等により染色された人工フィブロイン繊維とを含む原料混合繊維若しくは混紡糸(原料混紡糸)、又は、該混紡糸からなる生地に対して、人工フィブロイン繊維の染色堅牢度を高めるためのアニオン系フィックス処理剤用いたフィックス処理を実施した後、セルロース繊維の染色堅牢度を高めるためのカチオン系フィックス処理剤を用いたフィックス処理を行ってもよい。しかしながら、そうした場合、人工フィブロイン繊維の染色堅牢度の向上が望めず、かえって悪化する場合があることが、本発明者の試験によって明確となった。そこで、ここでは、染色されたセルロース繊維と染色された人工フィブロイン繊維とを含む原料混合繊維若しくは混紡糸(原料混紡糸)、又は、該混紡糸からなる生地に対して、カチオン系フィックス処理剤を用いたフィックス処理のみを行うことが望ましい。例えば、原料混合繊維若しくは混紡糸(原料混紡糸)、又は、該混紡糸からなる生地に対して、人工フィブロイン繊維を染色可能な染料により染色した後に行われるフィックス処理は、カチオン系フィックス処理剤を用いたフィックス処理のみであってよい。
【0063】
フィックス処理する際のフィックス剤の固形分濃度は、繊維質量に対して、例えば、1.0〜10質量%であってよく、1.6〜5質量%であってよい。1.0%以上の場合、染料の繊維への固着効果がより高くなり、堅牢度がより優れたものとなる。10質量%以下である場合、風合いの劣化がより抑制され、また、着色して色相に及ぼす影響がより低減される。
【0064】
本実施形態に係る染色された生地は、例えば、衣料、医療品、衛生用品、インテリア用品、寝具、装飾品、バッグ、小物、雑貨、車両用部品、樹脂等との複合品等の材料として使用することができる。
【0065】
〔生地の染色方法〕
本発明の一実施形態として、染色されたセルロース繊維と、改変フィブロインを含む人工フィブロイン繊維と、を含有する混紡糸からなる原料生地を、人工フィブロイン繊維を染色可能な染料により染色する工程(生地染色工程)を含む、生地の染色方法が提供される。当該生地染色工程については、上述したとおりであってよい。
【0066】
〔染色された混紡糸の製造方法〕
一実施形態に係る染色された混紡糸の製造方法は、染色されたセルロース繊維と、改変フィブロインを含む人工フィブロイン繊維と、を含有する原料混合繊維を、人工フィブロイン繊維を染色可能な染料により染色する工程、及び、染色された原料混合繊維を紡績する工程を備える。当該染色する工程は、例えば、原料生地に代えて、原料混合繊維を用いること以外は、上述したとおりであってよい。染色された原料混合繊維を紡績する工程は、例えば、上記混紡工程で例示した方法で行うことができる。
【0067】
原料混合繊維は、紡績前の繊維(未紡績の繊維)であり、染色されたセルロース繊維と、人工フィブロイン繊維とを混合して得ることができる。具体的には、原料混合繊維は、例えば、染色されたセルロース繊維と、人工フィブロイン繊維とを混打綿機を用いて混合(ミキシング)することによって得ることができる。本発明の一実施形態として、染色されたセルロース繊維と、改変フィブロインを含む人工フィブロイン繊維と、を含有する原料混合繊維を、人工フィブロイン繊維を染色可能な染料により染色する工程を備える、染色された原料混合繊維の製造方法が提供される。
【0068】
他の実施形態に係る染色された混紡糸の製造方法は、染色されたセルロース繊維と、改変フィブロインを含む人工フィブロイン繊維と、を含有する原料混紡糸を、人工フィブロイン繊維を染色可能な染料により染色する工程を備える。当該染色する工程は、原料生地に代えて、原料混紡糸を用いること以外は、上述したとおりであってよい。
【0069】
原料混紡糸は、染色されたセルロース繊維と、改変フィブロインを含む人工フィブロイン繊維と、を含有する混紡糸であり、例えば、上述した混紡工程で例示した方法により得ることができる。
【0070】
〔原料混合繊維の製造方法〕
本発明の一実施形態として、染色されたセルロース繊維と、改変フィブロインを含む人工フィブロイン繊維と、を含有する原料混合繊維を、人工フィブロイン繊維を染色可能な染料により染色する工程を含む、原料混合繊維の染色方法が提供される。上記染色する工程の具体的な態様は例えば、上述したとおりであってよい。
【0071】
〔混紡糸の染色方法〕
本発明の一実施形態として、染色されたセルロース繊維と、改変フィブロインを含む人工フィブロイン繊維と、を含有する原料混合繊維を、人工フィブロイン繊維を染色可能な染料により染色する工程、及び、染色された原料混合繊維を紡績する工程を含む、混紡糸の染色方法が提供される。上記染色する工程、及び上記紡績する工程の具体的な態様は例えば、上述したとおりであってよい。
【0072】
本発明の他の実施形態として、染色されたセルロース繊維と、改変フィブロインを含む人工フィブロイン繊維と、を含有する原料混紡糸を、人工フィブロイン繊維を染色可能な染料により染色する工程を含む、混紡糸の染色方法が提供される。上記染色する工程の具体的な態様は、例えば、上述したとおりであってよい。
【0073】
(改変フィブロイン)
本実施形態に係る改変フィブロインは、式1:[(A)
nモチーフ−REP]
m、又は式2:[(A)
nモチーフ−REP]
m−(A)
nモチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。改変フィブロインは、ドメイン配列のN末端側及びC末端側のいずれか一方又は両方に更にアミノ酸配列(N末端配列及びC末端配列)が付加されていてもよい。N末端配列及びC末端配列は、これに限定されるものではないが、典型的には、フィブロインに特徴的なアミノ酸モチーフの反復を有さない領域であり、100残基程度のアミノ酸からなる。
【0074】
本明細書において「改変フィブロイン」とは、人為的に製造されたフィブロイン(人工フィブロイン)を意味する。改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列とは異なるフィブロインであってもよく、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列と同一であるフィブロインであってもよい。本明細書でいう「天然由来のフィブロイン」もまた、式1:[(A)
nモチーフ−REP]
m、又は式2:[(A)
nモチーフ−REP]
m−(A)
nモチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。
【0075】
「改変フィブロイン」は、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列をそのまま利用したものであってもよく、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列に依拠してそのアミノ酸配列を改変したもの(例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列を改変することによりアミノ酸配列を改変したもの)であってもよく、また天然由来のフィブロインに依らず人工的に設計及び合成したもの(例えば、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより所望のアミノ酸配列を有するもの)であってもよい。
【0076】
本明細書において「ドメイン配列」とは、フィブロイン特有の結晶領域(典型的には、アミノ酸配列の(A)
nモチーフに相当する。)と非晶領域(典型的には、アミノ酸配列のREPに相当する。)を生じるアミノ酸配列であり、式1:[(A)
nモチーフ−REP]
m、又は式2:[(A)
nモチーフ−REP]
m−(A)
nモチーフで表されるアミノ酸配列を意味する。ここで、(A)
nモチーフは、アラニン残基を主とするアミノ酸配列を示し、アミノ酸残基数は2〜27である。(A)
nモチーフのアミノ酸残基数は、2〜20、4〜27、4〜20、8〜20、10〜20、4〜16、8〜16、又は10〜16の整数であってよい。また、(A)
nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数の割合は40%以上であればよく、60%以上、70%以上、80%以上、83%以上、85%以上、86%以上、90%以上、95%以上、又は100%(アラニン残基のみで構成されることを意味する。)であってもよい。ドメイン配列中に複数存在する(A)
nモチーフは、少なくとも7つがアラニン残基のみで構成されてもよい。REPは2〜200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。REPは、10〜200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列であってもよい。mは2〜300の整数を示し、10〜300の整数であってもよい。複数存在する(A)
nモチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。
【0077】
本実施形態に係る改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列に対し、例えば、1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行うことで得ることができる。アミノ酸残基の置換、欠失、挿入及び/又は付加は、部分特異的突然変異誘発法等の当業者に周知の方法により行うことができる。具体的には、Nucleic Acid Res.10,6487(1982)、Methods in Enzymology,100,448(1983)等の文献に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0078】
天然由来のフィブロインは、式1:[(A)
nモチーフ−REP]
m、又は式2:[(A)
nモチーフ−REP]
m−(A)
nモチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質であり、具体的には、例えば、昆虫又はクモ類が産生するフィブロインが挙げられる。
【0079】
昆虫が産生するフィブロインとしては、例えば、ボンビックス・モリ(Bombyx mori)、クワコ(Bombyx mandarina)、天蚕(Antheraea yamamai)、柞蚕(Anteraea pernyi)、楓蚕(Eriogyna pyretorum)、蓖蚕(Pilosamia Cynthia ricini)、樗蚕(Samia cynthia)、栗虫(Caligura japonica)、チュッサー蚕(Antheraea mylitta)、ムガ蚕(Antheraea assama)等のカイコが産生する絹タンパク質、及びスズメバチ(Vespa simillima xanthoptera)の幼虫が吐出するホーネットシルクタンパク質が挙げられる。
【0080】
昆虫が産生するフィブロインのより具体的な例としては、例えば、カイコ・フィブロインL鎖(GenBankアクセッション番号M76430(塩基配列)、及びAAA27840.1(アミノ酸配列))が挙げられる。
【0081】
クモ類が産生するフィブロインとしては、例えば、オニグモ、ニワオニグモ、アカオニグモ、アオオニグモ及びマメオニグモ等のオニグモ属(Araneus属)に属するクモ、ヤマシロオニグモ、イエオニグモ、ドヨウオニグモ及びサツマノミダマシ等のヒメオニグモ属(Neoscona属)に属するクモ、コオニグモモドキ等のコオニグモモドキ属(Pronus属)に属するクモ、トリノフンダマシ及びオオトリノフンダマシ等のトリノフンダマシ属(Cyrtarachne属)に属するクモ、トゲグモ及びチブサトゲグモ等のトゲグモ属(Gasteracantha属)に属するクモ、マメイタイセキグモ及びムツトゲイセキグモ等のイセキグモ属(Ordgarius属)に属するクモ、コガネグモ、コガタコガネグモ及びナガコガネグモ等のコガネグモ属(Argiope属)に属するクモ、キジロオヒキグモ等のオヒキグモ属(Arachnura属)に属するクモ、ハツリグモ等のハツリグモ属(Acusilas属)に属するクモ、スズミグモ、キヌアミグモ及びハラビロスズミグモ等のスズミグモ属(Cytophora属)に属するクモ、ゲホウグモ等のゲホウグモ属(Poltys属)に属するクモ、ゴミグモ、ヨツデゴミグモ、マルゴミグモ及びカラスゴミグモ等のゴミグモ属(Cyclosa属)に属するクモ、及びヤマトカナエグモ等のカナエグモ属(Chorizopes属)に属するクモが産生するスパイダーシルクタンパク質、並びにアシナガグモ、ヤサガタアシナガグモ、ハラビロアシダカグモ及びウロコアシナガグモ等のアシナガグモ属(Tetragnatha属)に属するクモ、オオシロカネグモ、チュウガタシロカネグモ及びコシロカネグモ等のシロカネグモ属(Leucauge属)に属するクモ、ジョロウグモ及びオオジョロウグモ等のジョロウグモ属(Nephila属)に属するクモ、キンヨウグモ等のアズミグモ属(Menosira属)に属するクモ、ヒメアシナガグモ等のヒメアシナガグモ属(Dyschiriognatha属)に属するクモ、クロゴケグモ、セアカゴケグモ、ハイイロゴケグモ及びジュウサンボシゴケグモ等のゴケグモ属(Latrodectus属)に属するクモ、及びユープロステノプス属(Euprosthenops属)に属するクモ等のアシナガグモ科(Tetragnathidae科)に属するクモが産生するスパイダーシルクタンパク質が挙げられる。スパイダーシルクタンパク質としては、例えば、MaSp(MaSp1及びMaSp2)、ADF(ADF3及びADF4)等の牽引糸タンパク質、MiSp(MiSp1及びMiSp2)等が挙げられる。
【0082】
クモ類が産生するスパイダーシルクタンパク質のより具体的な例としては、例えば、fibroin−3(adf−3)[Araneus diadematus由来](GenBankアクセッション番号AAC47010(アミノ酸配列)、U47855(塩基配列))、fibroin−4(adf−4)[Araneus diadematus由来](GenBankアクセッション番号AAC47011(アミノ酸配列)、U47856(塩基配列))、dragline silk protein spidroin 1[Nephila clavipes由来](GenBankアクセッション番号AAC04504(アミノ酸配列)、U37520(塩基配列))、major ampullate spidroin 1[Latrodectus hesperus由来](GenBankアクセッション番号ABR68856(アミノ酸配列)、EF595246(塩基配列))、dragline silk protein spidroin 2[Nephila clavata由来](GenBankアクセッション番号AAL32472(アミノ酸配列)、AF441245(塩基配列))、major ampullate spidroin 1[Euprosthenops australis由来](GenBankアクセッション番号CAJ00428(アミノ酸配列)、AJ973155(塩基配列))、及びmajor ampullate spidroin 2[Euprosthenops australis](GenBankアクセッション番号CAM32249.1(アミノ酸配列)、AM490169(塩基配列))、minor ampullate silk protein 1[Nephila clavipes](GenBankアクセッション番号AAC14589.1(アミノ酸配列))、minor ampullate silk protein 2[Nephila clavipes](GenBankアクセッション番号AAC14591.1(アミノ酸配列))、minor ampullate spidroin−like protein[Nephilengys cruentata](GenBankアクセッション番号ABR37278.1(アミノ酸配列)等が挙げられる。
【0083】
天然由来のフィブロインのより具体的な例としては、更に、NCBI GenBankに配列情報が登録されているフィブロインを挙げることができる。例えば、NCBI GenBankに登録されている配列情報のうちDIVISIONとしてINVを含む配列の中から、DEFINITIONにspidroin、ampullate、fibroin、「silk及びpolypeptide」、又は「silk及びprotein」がキーワードとして記載されている配列、CDSから特定のproductの文字列、SOURCEからTISSUE TYPEに特定の文字列の記載された配列を抽出することにより確認することができる。
【0084】
本実施形態に係る改変フィブロインは、改変絹(シルク)フィブロイン(カイコが産生する絹タンパク質のアミノ酸配列を改変したもの)であってもよく、改変クモ糸フィブロイン(クモ類が産生するスパイダーシルクタンパク質のアミノ酸配列を改変したもの)であってもよい。改変フィブロインとしては、改変クモ糸フィブロインが好ましい。
【0085】
改変フィブロインの具体的な例として、クモの大瓶状腺で産生される大吐糸管しおり糸タンパク質に由来する改変フィブロイン(第1の改変フィブロイン)、グリシン残基の含有量が低減されたドメイン配列を有する改変フィブロイン(第2の改変フィブロイン)、(A)
nモチーフの含有量が低減されたドメイン配列を有する改変フィブロイン(第3の改変フィブロイン)、グリシン残基の含有量、及び(A)
nモチーフの含有量が低減された改変フィブロイン(第4の改変フィブロイン)、局所的に疎水性指標の大きい領域を含むドメイン配列を有する改変フィブロイン(第5の改変フィブロイン)、並びにグルタミン残基の含有量が低減されたドメイン配列を有する改変フィブロイン(第6の改変フィブロイン)が挙げられる。
【0086】
第1の改変フィブロインとしては、式1:[(A)
nモチーフ−REP]
mで表されるドメイン配列を含むタンパク質が挙げられる。第1の改変フィブロインにおいて、(A)
nモチーフのアミノ酸残基数は、3〜20の整数が好ましく、4〜20の整数がより好ましく、8〜20の整数が更に好ましく、10〜20の整数が更により好ましく、4〜16の整数が更によりまた好ましく、8〜16の整数が特に好ましく、10〜16の整数が最も好ましい。第1の改変フィブロインは、式1中、REPを構成するアミノ酸残基の数は、10〜200残基であることが好ましく、10〜150残基であることがより好ましく、20〜100残基であることが更に好ましく、20〜75残基であることが更により好ましい。第1の改変フィブロインは、式1:[(A)
nモチーフ−REP]
mで表されるアミノ酸配列中に含まれるグリシン残基、セリン残基及びアラニン残基の合計残基数がアミノ酸残基数全体に対して、40%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、70%以上であることが更に好ましい。
【0087】
第1の改変フィブロインは、式1:[(A)
nモチーフ−REP]
mで表されるアミノ酸配列の単位を含み、かつC末端配列が配列番号1〜3のいずれかに示されるアミノ酸配列又は配列番号1〜3のいずれかに示されるアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列であるポリペプチドであってもよい。
【0088】
配列番号1に示されるアミノ酸配列は、ADF3(GI:1263287、NCBI)のアミノ酸配列のC末端の50残基のアミノ酸からなるアミノ酸配列と同一であり、配列番号2に示されるアミノ酸配列は、配列番号1に示されるアミノ酸配列のC末端から20残基取り除いたアミノ酸配列と同一であり、配列番号3に示されるアミノ酸配列は、配列番号1に示されるアミノ酸配列のC末端から29残基取り除いたアミノ酸配列と同一である。
【0089】
第1の改変フィブロインのより具体的な例として、(1−i)配列番号4(recombinant spider silk protein ADF3KaiLargeNRSH1)で示されるアミノ酸配列、又は(1−ii)配列番号4で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0090】
配列番号4で示されるアミノ酸配列は、N末端に開始コドン、His10タグ及びHRV3Cプロテアーゼ(Human rhinovirus 3Cプロテアーゼ)認識サイトからなるアミノ酸配列(配列番号5)を付加したADF3のアミノ酸配列において、第1〜13番目の反復領域をおよそ2倍になるように増やすとともに、翻訳が第1154番目アミノ酸残基で終止するように変異させたものである。配列番号4で示されるアミノ酸配列のC末端のアミノ酸配列は、配列番号3で示されるアミノ酸配列と同一である。
【0091】
(1−i)の改変フィブロインは、配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0092】
第2の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、グリシン残基の含有量が低減されたアミノ酸配列を有する。第2の改変フィブロインは、天然由来のフィブロインと比較して、少なくともREP中の1又は複数のグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたことに相当するアミノ酸配列を有するものということができる。
【0093】
第2の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中のGGX及びGPGXX(但し、Gはグリシン残基、Pはプロリン残基、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)から選ばれる少なくとも一つのモチーフ配列において、少なくとも1又は複数の当該モチーフ配列中の1つのグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0094】
第2の改変フィブロインは、上述のグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたモチーフ配列の割合が、全モチーフ配列に対して、10%以上であってもよい。
【0095】
第2の改変フィブロインは、式1:[(A)
nモチーフ−REP]
mで表されるドメイン配列を含み、上記ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)
nモチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列中の全REPに含まれるXGX(但し、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)からなるアミノ酸配列の総アミノ酸残基数をzとし、上記ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)
nモチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列中の総アミノ酸残基数をwとしたときに、z/wが30%以上、40%以上、50%以上又は50.9%以上であるアミノ酸配列を有するものであってもよい。(A)
nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数は83%以上であってよいが、86%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましく、100%であること(アラニン残基のみで構成されることを意味する)が更により好ましい。
【0096】
第2の改変フィブロインは、GGXモチーフの1つのグリシン残基を別のアミノ酸残基に置換することにより、XGXからなるアミノ酸配列の含有割合を高めたものであることが好ましい。第2の改変フィブロインは、ドメイン配列中のGGXからなるアミノ酸配列の含有割合が30%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、10%以下であることが更に好ましく、6%以下であることが更により好ましく、4%以下であることが更によりまた好ましく、2%以下であることが特に好ましい。ドメイン配列中のGGXからなるアミノ酸配列の含有割合は、下記XGXからなるアミノ酸配列の含有割合(z/w)の算出方法と同様の方法で算出することができる。
【0097】
z/wの算出方法を更に詳細に説明する。まず、式1:[(A)
nモチーフ−REP]
mで表されるドメイン配列を含むフィブロイン(改変フィブロイン又は天然由来のフィブロイン)において、ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列に含まれる全てのREPから、XGXからなるアミノ酸配列を抽出する。XGXを構成するアミノ酸残基の総数がzである。例えば、XGXからなるアミノ酸配列が50個抽出された場合(重複はなし)、zは50×3=150である。また、例えば、XGXGXからなるアミノ酸配列の場合のように2つのXGXに含まれるX(中央のX)が存在する場合は、重複分を控除して計算する(XGXGXの場合は5アミノ酸残基である)。wは、ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列に含まれる総アミノ酸残基数である。例えば、
図1に示したドメイン配列の場合、wは4+50+4+100+4+10+4+20+4+30=230である(最もC末端側に位置する(A)
nモチーフは除いている。)。次に、zをwで除すことによって、z/w(%)を算出することができる。
【0098】
ここで、天然由来のフィブロインにおけるz/wについて説明する。まず、上述のように、NCBI GenBankにアミノ酸配列情報が登録されているフィブロインを例示した方法により確認したところ、663種類のフィブロイン(このうち、クモ類由来のフィブロインは415種類)が抽出された。抽出された全てのフィブロインのうち、式1:[(A)
nモチーフ−REP]
mで表されるドメイン配列を含み、フィブロイン中のGGXからなるアミノ酸配列の含有割合が6%以下である天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から、上述の算出方法により、z/wを算出した。その結果を
図2に示す。
図2の横軸はz/w(%)を示し、縦軸は頻度を示す。
図2から明らかなとおり、天然由来のフィブロインにおけるz/wは、いずれも50.9%未満である(最も高いもので、50.86%)。
【0099】
第2の改変フィブロインにおいて、z/wは、50.9%以上であることが好ましく、56.1%以上であることがより好ましく、58.7%以上であることが更に好ましく、70%以上であることが更により好ましく、80%以上であることが更によりまた好ましい。z/wの上限に特に制限はないが、例えば、95%以下であってもよい。
【0100】
第2の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列から、グリシン残基をコードする塩基配列の少なくとも一部を置換して別のアミノ酸残基をコードするように改変することにより得ることができる。このとき、改変するグリシン残基として、GGXモチーフ及びGPGXXモチーフにおける1つのグリシン残基を選択してもよいし、またz/wが50.9%以上になるように置換してもよい。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から上記態様を満たすアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列からREP中のグリシン残基を別のアミノ酸残基に置換したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行ってもよい。
【0101】
上記の別のアミノ酸残基としては、グリシン残基以外のアミノ酸残基であれば特に制限はないが、バリン(V)残基、ロイシン(L)残基、イソロイシン(I)残基、メチオニン(M)残基、プロリン(P)残基、フェニルアラニン(F)残基及びトリプトファン(W)残基等の疎水性アミノ酸残基、グルタミン(Q)残基、アスパラギン(N)残基、セリン(S)残基、リシン(K)残基及びグルタミン酸(E)残基等の親水性アミノ酸残基が好ましく、バリン(V)残基、ロイシン(L)残基、イソロイシン(I)残基、フェニルアラニン(F)残基及びグルタミン(Q)残基がより好ましく、グルタミン(Q)残基が更に好ましい。
【0102】
第2の改変フィブロインのより具体的な例として、(2−i)配列番号6(Met−PRT380)、配列番号7(Met−PRT410)、配列番号8(Met−PRT525)若しくは配列番号9(Met−PRT799)で示されるアミノ酸配列、又は(2−ii)配列番号6、配列番号7、配列番号8若しくは配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0103】
(2−i)の改変フィブロインについて説明する。配列番号6で示されるアミノ酸配列は、天然由来のフィブロインに相当する配列番号10(Met−PRT313)で示されるアミノ酸配列のREP中の全てのGGXをGQXに置換したものである。配列番号7で示されるアミノ酸配列は、配列番号6で示されるアミノ酸配列から、N末端側からC末端側に向かって2つおきに(A)
nモチーフを欠失させ、更にC末端配列の手前に[(A)
nモチーフ−REP]を1つ挿入したものである。配列番号8で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列の各(A)
nモチーフのC末端側に2つのアラニン残基を挿入し、更に一部のグルタミン(Q)残基をセリン(S)残基に置換し、配列番号7の分子量とほぼ同じとなるようにC末端側の一部のアミノ酸を欠失させたものである。配列番号9で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列中に存在する20個のドメイン配列の領域(但し、当該領域のC末端側の数アミノ酸残基が置換されている。)を4回繰り返した配列のC末端に所定のヒンジ配列とHisタグ配列が付加されたものである。
【0104】
配列番号10で示されるアミノ酸配列(天然由来のフィブロインに相当)におけるz/wの値は、46.8%である。配列番号6で示されるアミノ酸配列、配列番号7で示されるアミノ酸配列、配列番号8で示されるアミノ酸配列、及び配列番号9で示されるアミノ酸配列におけるz/wの値は、それぞれ58.7%、70.1%、66.1%及び70.0%である。また、配列番号10、配列番号6、配列番号7、配列番号8及び配列番号9で示されるアミノ酸配列のギザ比率(後述する)1:1.8〜11.3におけるx/yの値は、それぞれ15.0%、15.0%、93.4%、92.7%及び89.8%である。
【0105】
(2−i)の改変フィブロインは、配列番号6、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0106】
(2−ii)の改変フィブロインは、配列番号6、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(2−ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)
nモチーフ−REP]
mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0107】
(2−ii)の改変フィブロインは、配列番号6、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつREP中に含まれるXGX(但し、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)からなるアミノ酸配列の総アミノ酸残基数をzとし、上記ドメイン配列中のREPの総アミノ酸残基数をwとしたときに、z/wが50.9%以上であることが好ましい。
【0108】
第2の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含んでいてもよい。これにより、改変フィブロインの単離、固定化、検出及び可視化等が可能となる。
【0109】
タグ配列として、例えば、他の分子との特異的親和性(結合性、アフィニティ)を利用したアフィニティタグを挙げることができる。アフィニティタグの具体例として、ヒスチジンタグ(Hisタグ)を挙げることができる。Hisタグは、ヒスチジン残基が4から10個程度並んだ短いペプチドで、ニッケル等の金属イオンと特異的に結合する性質があるため、金属キレートクロマトグラフィー(chelating metal chromatography)による改変フィブロインの単離に利用することができる。タグ配列の具体例として、例えば、配列番号11で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含むアミノ酸配列)が挙げられる。
【0110】
また、グルタチオンに特異的に結合するグルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)、マルトースに特異的に結合するマルトース結合タンパク質(MBP)等のタグ配列を利用することもできる。
【0111】
さらに、抗原抗体反応を利用した「エピトープタグ」を利用することもできる。抗原性を示すペプチド(エピトープ)をタグ配列として付加することにより、当該エピトープに対する抗体を結合させることができる。エピトープタグとして、HA(インフルエンザウイルスのヘマグルチニンのペプチド配列)タグ、mycタグ、FLAGタグ等を挙げることができる。エピトープタグを利用することにより、高い特異性で容易に改変フィブロインを精製することができる。
【0112】
さらにタグ配列を特定のプロテアーゼで切り離せるようにしたものも使用することができる。当該タグ配列を介して吸着したタンパク質をプロテアーゼ処理することにより、タグ配列を切り離した改変フィブロインを回収することもできる。
【0113】
タグ配列を含む改変フィブロインのより具体的な例として、(2−iii)配列番号12(PRT380)、配列番号13(PRT410)、配列番号14(PRT525)若しくは配列番号15(PRT799)で示されるアミノ酸配列、又は(2−iv)配列番号12、配列番号13、配列番号14若しくは配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0114】
配列番号16(PRT313)、配列番号12、配列番号13、配列番号14及び配列番号15で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号10、配列番号6、配列番号7、配列番号8及び配列番号9で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号11で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。
【0115】
(2−iii)の改変フィブロインは、配列番号12、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0116】
(2−iv)の改変フィブロインは、配列番号12、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(2−iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)
nモチーフ−REP]
mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0117】
(2−iv)の改変フィブロインは、配列番号12、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつREP中に含まれるXGX(但し、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)からなるアミノ酸配列の総アミノ酸残基数をzとし、上記ドメイン配列中のREPの総アミノ酸残基数をwとしたときに、z/wが50.9%以上であることが好ましい。
【0118】
第2の改変フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
【0119】
第3の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、(A)
nモチーフの含有量が低減されたアミノ酸配列を有する。第3の改変フィブロインのドメイン配列は、天然由来のフィブロインと比較して、少なくとも1又は複数の(A)
nモチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を有するものということができる。
【0120】
第3の改変フィブロインは、天然由来のフィブロインから(A)
nモチーフを10〜40%欠失させたことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0121】
第3の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、少なくともN末端側からC末端側に向かって1〜3つの(A)
nモチーフ毎に1つの(A)
nモチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0122】
第3の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、少なくともN末端側からC末端側に向かって2つ連続した(A)
nモチーフの欠失、及び1つの(A)
nモチーフの欠失がこの順に繰り返されたことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0123】
第3の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、少なくともN末端側からC末端側に向かって2つおきに(A)
nモチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0124】
第3の改変フィブロインは、式1:[(A)
nモチーフ−REP]
mで表されるドメイン配列を含み、N末端側からC末端側に向かって、隣合う2つの[(A)
nモチーフ−REP]ユニットのREPのアミノ酸残基数を順次比較して、アミノ酸残基数が少ないREPのアミノ酸残基数を1としたとき、他方のREPのアミノ酸残基数の比が1.8〜11.3となる隣合う2つの[(A)
nモチーフ−REP]ユニットのアミノ酸残基数を足し合わせた合計値の最大値をxとし、ドメイン配列の総アミノ酸残基数をyとしたときに、x/yが20%以上、30%以上、40%以上又は50%以上であるアミノ酸配列を有するものであってもよい。(A)
nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数は83%以上であってよいが、86%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましく、100%であること(アラニン残基のみで構成されることを意味する)が更により好ましい。
【0125】
x/yの算出方法を
図1を参照しながら更に詳細に説明する。
図1には、改変フィブロインからN末端配列及びC末端配列を除いたドメイン配列を示す。当該ドメイン配列は、N末端側(左側)から(A)
nモチーフ−第1のREP(50アミノ酸残基)−(A)
nモチーフ−第2のREP(100アミノ酸残基)−(A)
nモチーフ−第3のREP(10アミノ酸残基)−(A)
nモチーフ−第4のREP(20アミノ酸残基)−(A)
nモチーフ−第5のREP(30アミノ酸残基)−(A)
nモチーフという配列を有する。
【0126】
隣合う2つの[(A)
nモチーフ−REP]ユニットは、重複がないように、N末端側からC末端側に向かって、順次選択する。このとき、選択されない[(A)
nモチーフ−REP]ユニットが存在してもよい。
図1には、パターン1(第1のREPと第2のREPの比較、及び第3のREPと第4のREPの比較)、パターン2(第1のREPと第2のREPの比較、及び第4のREPと第5のREPの比較)、パターン3(第2のREPと第3のREPの比較、及び第4のREPと第5のREPの比較)、パターン4(第1のREPと第2のREPの比較)を示した。なお、これ以外にも選択方法は存在する。
【0127】
次に各パターンについて、選択した隣合う2つの[(A)
nモチーフ−REP]ユニット中の各REPのアミノ酸残基数を比較する。比較は、よりアミノ酸残基数の少ない方を1としたときの、他方のアミノ酸残基数の比を求めることによって行う。例えば、第1のREP(50アミノ酸残基)と第2のREP(100アミノ酸残基)の比較の場合、よりアミノ酸残基数の少ない第1のREPを1としたとき、第2のREPのアミノ酸残基数の比は、100/50=2である。同様に、第4のREP(20アミノ酸残基)と第5のREP(30アミノ酸残基)の比較の場合、よりアミノ酸残基数の少ない第4のREPを1としたとき、第5のREPのアミノ酸残基数の比は、30/20=1.5である。
【0128】
図1中、よりアミノ酸残基数の少ない方を1としたときに、他方のアミノ酸残基数の比が1.8〜11.3となる[(A)
nモチーフ−REP]ユニットの組を実線で示した。本明細書中、この比をギザ比率と呼ぶ。よりアミノ酸残基数の少ない方を1としたときに、他方のアミノ酸残基数の比が1.8未満又は11.3超となる[(A)
nモチーフ−REP]ユニットの組は破線で示した。
【0129】
各パターンにおいて、実線で示した隣合う2つの[(A)
nモチーフ−REP]ユニットの全てのアミノ酸残基数を足し合わせる(REPのみではなく、(A)
nモチーフのアミノ酸残基数もである。)。そして、足し合わせた合計値を比較して、当該合計値が最大となるパターンの合計値(合計値の最大値)をxとする。
図1に示した例では、パターン1の合計値が最大である。
【0130】
次に、xをドメイン配列の総アミノ酸残基数yで除すことによって、x/y(%)を算出することができる。
【0131】
第3の改変フィブロインにおいて、x/yは、50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、65%以上であることが更に好ましく、70%以上であることが更により好ましく、75%以上であることが更によりまた好ましく、80%以上であることが特に好ましい。x/yの上限に特に制限はなく、例えば、100%以下であってよい。ギザ比率が1:1.9〜11.3の場合には、x/yは89.6%以上であることが好ましく、ギザ比率が1:1.8〜3.4の場合には、x/yは77.1%以上であることが好ましく、ギザ比率が1:1.9〜8.4の場合には、x/yは75.9%以上であることが好ましく、ギザ比率が1:1.9〜4.1の場合には、x/yは64.2%以上であることが好ましい。
【0132】
第3の改変フィブロインが、ドメイン配列中に複数存在する(A)
nモチーフの少なくとも7つがアラニン残基のみで構成される改変フィブロインである場合、x/yは、46.4%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、55%以上であることが更に好ましく、60%以上であることが更により好ましく、70%以上であることが更によりまた好ましく、80%以上であることが特に好ましい。x/yの上限に特に制限はなく、100%以下であればよい。
【0133】
ここで、天然由来のフィブロインにおけるx/yについて説明する。まず、上述のように、NCBI GenBankにアミノ酸配列情報が登録されているフィブロインを例示した方法により確認したところ、663種類のフィブロイン(このうち、クモ類由来のフィブロインは415種類)が抽出された。抽出された全てのフィブロインのうち、式1:[(A)
nモチーフ−REP]
mで表されるドメイン配列で構成される天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から、上述の算出方法により、x/yを算出した。ギザ比率が1:1.9〜4.1の場合の結果を
図3に示す。
【0134】
図3の横軸はx/y(%)を示し、縦軸は頻度を示す。
図3から明らかなとおり、天然由来のフィブロインにおけるx/yは、いずれも64.2%未満である(最も高いもので、64.14%)。
【0135】
第3の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列から、x/yが64.2%以上になるように(A)
nモチーフをコードする配列の1又は複数を欠失させることにより得ることができる。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から、x/yが64.2%以上になるように1又は複数の(A)
nモチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から(A)
nモチーフが欠失したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行ってもよい。
【0136】
第3の改変フィブロインのより具体的な例として、(3−i)配列番号17(Met−PRT399)、配列番号7(Met−PRT410)、配列番号8(Met−PRT525)若しくは配列番号9(Met−PRT799)で示されるアミノ酸配列、又は(3−ii)配列番号17、配列番号7、配列番号8若しくは配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0137】
(3−i)の改変フィブロインについて説明する。配列番号17で示されるアミノ酸配列は、天然由来のフィブロインに相当する配列番号10(Met−PRT313)で示されるアミノ酸配列から、N末端側からC末端側に向かって2つおきに(A)
nモチーフを欠失させ、更にC末端配列の手前に[(A)
nモチーフ−REP]を1つ挿入したものである。配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列は、第2の改変フィブロインで説明したとおりである。
【0138】
配列番号10で示されるアミノ酸配列(天然由来のフィブロインに相当)のギザ比率1:1.8〜11.3におけるx/yの値は15.0%である。配列番号17で示されるアミノ酸配列、及び配列番号7で示されるアミノ酸配列におけるx/yの値は、いずれも93.4%である。配列番号8で示されるアミノ酸配列におけるx/yの値は、92.7%である。配列番号9で示されるアミノ酸配列におけるx/yの値は、89.8%である。配列番号10、配列番号17、配列番号7、配列番号8及び配列番号9で示されるアミノ酸配列におけるz/wの値は、それぞれ46.8%、56.2%、70.1%、66.1%及び70.0%である。
【0139】
(3−i)の改変フィブロインは、配列番号17、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0140】
(3−ii)の改変フィブロインは、配列番号17、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(3−ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)
nモチーフ−REP]
mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0141】
(3−ii)の改変フィブロインは、配列番号17、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつN末端側からC末端側に向かって、隣合う2つの[(A)
nモチーフ−REP]ユニットのREPのアミノ酸残基数を順次比較して、アミノ酸残基数が少ないREPのアミノ酸残基数を1としたとき、他方のREPのアミノ酸残基数の比が1.8〜11.3(ギザ比率が1:1.8〜11.3)となる隣合う2つの[(A)
nモチーフ−REP]ユニットのアミノ酸残基数を足し合わせた合計値の最大値をxとし、ドメイン配列の総アミノ酸残基数をyとしたときに、x/yが64.2%以上であることが好ましい。
【0142】
第3の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方に上述したタグ配列を含んでいてもよい。
【0143】
タグ配列を含む改変フィブロインのより具体的な例として、(3−iii)配列番号18(PRT399)、配列番号13(PRT410)、配列番号14(PRT525)若しくは配列番号15(PRT799)で示されるアミノ酸配列、又は(3−iv)配列番号18、配列番号13、配列番号14若しくは配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0144】
配列番号18、配列番号13、配列番号14及び配列番号15で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号17、配列番号7、配列番号8及び配列番号9で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号11で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。
【0145】
(3−iii)の改変フィブロインは、配列番号18、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0146】
(3−iv)の改変フィブロインは、配列番号18、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(3−iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)
nモチーフ−REP]
mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0147】
(3−iv)の改変フィブロインは、配列番号18、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつN末端側からC末端側に向かって、隣合う2つの[(A)
nモチーフ−REP]ユニットのREPのアミノ酸残基数を順次比較して、アミノ酸残基数が少ないREPのアミノ酸残基数を1としたとき、他方のREPのアミノ酸残基数の比が1.8〜11.3となる隣合う2つの[(A)
nモチーフ−REP]ユニットのアミノ酸残基数を足し合わせた合計値の最大値をxとし、ドメイン配列の総アミノ酸残基数をyとしたときに、x/yが64.2%以上であることが好ましい。
【0148】
第3の改変フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
【0149】
第4の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、(A)
nモチーフの含有量が低減されたことに加え、グリシン残基の含有量が低減されたアミノ酸配列を有するものである。第4の改変フィブロインのドメイン配列は、天然由来のフィブロインと比較して、少なくとも1又は複数の(A)
nモチーフが欠失したことに加え、更に少なくともREP中の1又は複数のグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたことに相当するアミノ酸配列を有するものということができる。すなわち、第4の改変フィブロインは、上述した第2の改変フィブロインと、第3の改変フィブロインの特徴を併せ持つ改変フィブロインである。具体的な態様等は、第2の改変フィブロイン、及び第3の改変フィブロインで説明したとおりである。
【0150】
第4の改変フィブロインのより具体的な例として、(4−i)配列番号7(Met−PRT410)、配列番号8(Met−PRT525)、配列番号9(Met−PRT799)、配列番号13(PRT410)、配列番号14(PRT525)若しくは配列番号15(PRT799)で示されるアミノ酸配列、又は(4−ii)配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号13、配列番号14若しくは配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列を含む改変フィブロインの具体的な態様は上述のとおりである。
【0151】
第5の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のアミノ酸残基が疎水性指標の大きいアミノ酸残基に置換されたこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性指標の大きいアミノ酸残基が挿入されたことに相当する、局所的に疎水性指標の大きい領域を含むアミノ酸配列を有するものであってよい。
【0152】
局所的に疎水性指標の大きい領域は、連続する2〜4アミノ酸残基で構成されていることが好ましい。
【0153】
上述の疎水性指標の大きいアミノ酸残基は、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)及びアラニン(A)から選ばれるアミノ酸残基であることがより好ましい。
【0154】
第5の改変フィブロインは、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のアミノ酸残基が疎水性指標の大きいアミノ酸残基に置換されたこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性指標の大きいアミノ酸残基が挿入されたことに相当する改変に加え、更に、天然由来のフィブロインと比較して、1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変があってもよい。
【0155】
第5の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列からREP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がマイナスであるアミノ酸残基)を疎水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がプラスであるアミノ酸残基)に置換すること、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入することにより得ることができる。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列からREP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基を疎水性アミノ酸残基に置換したこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入したことに相当するアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列からREP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基を疎水性アミノ酸残基に置換したこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行ってもよい。
【0156】
第5の改変フィブロインは、式1:[(A)
nモチーフ−REP]
mで表されるドメイン配列を含み、最もC末端側に位置する(A)
nモチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を上記ドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域に含まれるアミノ酸残基の総数をpとし、最もC末端側に位置する(A)
nモチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を上記ドメイン配列から除いた配列に含まれるアミノ酸残基の総数をqとしたときに、p/qが6.2%以上であるアミノ酸配列を有してもよい。
【0157】
アミノ酸残基の疎水性指標については、公知の指標(Hydropathy index:Kyte J,&Doolittle R(1982)“A simple method for displaying the hydropathic character of a protein”,J.Mol.Biol.,157,pp.105−132)を使用する。具体的には、各アミノ酸の疎水性指標(ハイドロパシー・インデックス、以下「HI」とも記す。)は、下記表1に示すとおりである。
【0159】
p/qの算出方法を更に詳細に説明する。算出には、式1:[(A)
nモチーフ−REP]
mで表されるドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列(以下、「配列A」とする)を用いる。まず、配列Aに含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値を算出する。疎水性指標の平均値は、連続する4アミノ酸残基に含まれる各アミノ酸残基のHIの総和を4(アミノ酸残基数)で除して求める。疎水性指標の平均値は、全ての連続する4アミノ酸残基について求める(各アミノ酸残基は、1〜4回平均値の算出に用いられる。)。次いで、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域を特定する。あるアミノ酸残基が、複数の「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」に該当する場合であっても、領域中には1アミノ酸残基として含まれることになる。そして、当該領域に含まれるアミノ酸残基の総数がpである。また、配列Aに含まれるアミノ酸残基の総数がqである。
【0160】
例えば、「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」が20カ所抽出された場合(重複はなし)、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域には、連続する4アミノ酸残基(重複はなし)が20含まれることになり、pは20×4=80である。また、例えば、2つの「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」が1アミノ酸残基だけ重複して存在する場合、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域には、7アミノ酸残基含まれることになる(p=2×4−1=7。「−1」は重複分の控除である。)。例えば、
図4に示したドメイン配列の場合、「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」が重複せずに7つ存在するため、pは7×4=28となる。また、例えば、
図4に示したドメイン配列の場合、qは4+50+4+40+4+10+4+20+4+30=170である(C末端側の最後に存在する(A)
nモチーフは含めない)。次に、pをqで除すことによって、p/q(%)を算出することができる。
図4の場合28/170=16.47%となる。
【0161】
第5の改変フィブロインにおいて、p/qは、6.2%以上であることが好ましく、7%以上であることがより好ましく、10%以上であることが更に好ましく、20%以上であることが更により好ましく、30%以上であることが更によりまた好ましい。p/qの上限は、特に制限されないが、例えば、45%以下であってもよい。
【0162】
第5の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインのアミノ酸配列を、上記のp/qの条件を満たすように、REP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がマイナスであるアミノ酸残基)を疎水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がプラスであるアミノ酸残基)に置換すること、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入することにより、局所的に疎水性指標の大きい領域を含むアミノ酸配列に改変することにより得ることができる。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から上記のp/qの条件を満たすアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のアミノ酸残基が疎水性指標の大きいアミノ酸残基に置換されたこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性指標の大きいアミノ酸残基が挿入されたことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当する改変を行ってもよい。
【0163】
疎水性指標の大きいアミノ酸残基としては、特に制限はないが、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)及びアラニン(A)が好ましく、バリン(V)、ロイシン(L)及びイソロイシン(I)がより好ましい。
【0164】
第5の改変フィブロインのより具体的な例として、(5−i)配列番号19(Met−PRT720)、配列番号20(Met−PRT665)若しくは配列番号21(Met−PRT666)で示されるアミノ酸配列、又は(5−ii)配列番号19、配列番号20若しくは配列番号21で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0165】
(5−i)の改変フィブロインについて説明する。配列番号19で示されるアミノ酸配列は、配列番号7(Met−PRT410)で示されるアミノ酸配列に対し、C末端側の端末のドメイン配列を除いて、REP一つ置きにそれぞれ3アミノ酸残基からなるアミノ酸配列(VLI)を2カ所挿入し、更に一部のグルタミン(Q)残基をセリン(S)残基に置換し、かつC末端側の一部のアミノ酸を欠失させたものである。配列番号20で示されるアミノ酸配列は、配列番号8(Met−PRT525)で示されるアミノ酸配列に対し、REP一つ置きにそれぞれ3アミノ酸残基からなるアミノ酸配列(VLI)を1カ所挿入したものである。配列番号21で示されるアミノ酸配列は、配列番号8で示されるアミノ酸配列に対し、REP一つ置きにそれぞれ3アミノ酸残基からなるアミノ酸配列(VLI)を2カ所挿入したものである。
【0166】
(5−i)の改変フィブロインは、配列番号19、配列番号20又は配列番号21で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0167】
(5−ii)の改変フィブロインは、配列番号19、配列番号20又は配列番号21で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(5−ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)
nモチーフ−REP]
mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0168】
(5−ii)の改変フィブロインは、配列番号19、配列番号20又は配列番号21で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域に含まれるアミノ酸残基の総数をpとし、最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれるアミノ酸残基の総数をqとしたときに、p/qが6.2%以上であることが好ましい。
【0169】
第5の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含んでいてもよい。
【0170】
タグ配列を含む改変フィブロインのより具体的な例として、(5−iii)配列番号22(PRT720)、配列番号23(PRT665)若しくは配列番号24(PRT666)で示されるアミノ酸配列、又は(5−iv)配列番号22、配列番号23若しくは配列番号24で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0171】
配列番号22、配列番号23及び配列番号24で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号19、配列番号20及び配列番号21で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号11で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。
【0172】
(5−iii)の改変フィブロインは、配列番号22、配列番号23又は配列番号24で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0173】
(5−iv)の改変フィブロインは、配列番号22、配列番号23又は配列番号24で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(5−iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)
nモチーフ−REP]
mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0174】
(5−iv)の改変フィブロインは、配列番号22、配列番号23又は配列番号24で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域に含まれるアミノ酸残基の総数をpとし、最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれるアミノ酸残基の総数をqとしたときに、p/qが6.2%以上であることが好ましい。
【0175】
第5の改変フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
【0176】
第6の改変フィブロインは、天然由来のフィブロインと比較して、グルタミン残基の含有量が低減されたアミノ酸配列を有する。
【0177】
第6の改変フィブロインは、REPのアミノ酸配列中に、GGXモチーフ及びGPGXXモチーフから選ばれる少なくとも一つのモチーフが含まれていることが好ましい。
【0178】
第6の改変フィブロインが、REP中にGPGXXモチーフを含む場合、GPGXXモチーフ含有率は、通常1%以上であり、5%以上であってもよく、10%以上であるのが好ましい。GPGXXモチーフ含有率の上限に特に制限はなく、50%以下であってよく、30%以下であってもよい。
【0179】
本明細書において、「GPGXXモチーフ含有率」は、以下の方法により算出される値である。
式1:[(A)
nモチーフ−REP]
m、又は式2:[(A)
nモチーフ−REP]
m−(A)
nモチーフで表されるドメイン配列を含むフィブロイン(改変フィブロイン又は天然由来のフィブロイン)において、最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、その領域に含まれるGPGXXモチーフの個数の総数を3倍した数(即ち、GPGXXモチーフ中のG及びPの総数に相当)をsとし、最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)
nモチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をtとしたときに、GPGXXモチーフ含有率はs/tとして算出される。
【0180】
GPGXXモチーフ含有率の算出において、「最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」を対象としているのは、「最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列」(REPに相当する配列)には、フィブロインに特徴的な配列と相関性の低い配列が含まれることがあり、mが小さい場合(つまり、ドメイン配列が短い場合)、GPGXXモチーフ含有率の算出結果に影響するので、この影響を排除するためである。なお、REPのC末端に「GPGXXモチーフ」が位置する場合、「XX」が例えば「AA」の場合であっても、「GPGXXモチーフ」として扱う。
【0181】
図5は、改変フィブロインのドメイン配列を示す模式図である。
図5を参照しながらGPGXXモチーフ含有率の算出方法を具体的に説明する。まず、
図5に示した改変フィブロインのドメイン配列(「[(A)
nモチーフ−REP]
m−(A)
nモチーフ」タイプである。)では、全てのREPが「最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」(
図5中、「領域A」で示した配列。)に含まれているため、sを算出するためのGPGXXモチーフの個数は7であり、sは7×3=21となる。同様に、全てのREPが「最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」(
図5中、「領域A」で示した配列。)に含まれているため、当該配列から更に(A)
nモチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数tは50+40+10+20+30=150である。次に、sをtで除すことによって、s/t(%)を算出することができ、
図5の改変フィブロインの場合21/150=14.0%となる。
【0182】
第6の改変フィブロインは、グルタミン残基含有率が9%以下であることが好ましく、7%以下であることがより好ましく、4%以下であることが更に好ましく、0%であることが特に好ましい。
【0183】
本明細書において、「グルタミン残基含有率」は、以下の方法により算出される値である。
式1:[(A)
nモチーフ−REP]
m、又は式2:[(A)
nモチーフ−REP]
m−(A)
nモチーフで表されるドメイン配列を含むフィブロイン(改変フィブロイン又は天然由来のフィブロイン)において、最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列(
図5の「領域A」に相当する配列。)に含まれる全てのREPにおいて、その領域に含まれるグルタミン残基の総数をuとし、最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)
nモチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をtとしたときに、グルタミン残基含有率はu/tとして算出される。グルタミン残基含有率の算出において、「最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」を対象としている理由は、上述した理由と同様である。
【0184】
第6の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失したこと、又は他のアミノ酸残基に置換したことに相当するアミノ酸配列を有するものであってよい。
【0185】
「他のアミノ酸残基」は、グルタミン残基以外のアミノ酸残基であればよいが、グルタミン残基よりも疎水性指標の大きいアミノ酸残基であることが好ましい。アミノ酸残基の疎水性指標は表1に示すとおりである。
【0186】
表1に示すとおり、グルタミン残基よりも疎水性指標の大きいアミノ酸残基としては、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)アラニン(A)、グリシン(G)、スレオニン(T)、セリン(S)、トリプトファン(W)、チロシン(Y)、プロリン(P)及びヒスチジン(H)から選ばれるアミノ酸残基を挙げることができる。これらの中でも、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)及びアラニン(A)から選ばれるアミノ酸残基であることがより好ましく、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)及びフェニルアラニン(F)から選ばれるアミノ酸残基であることが更に好ましい。
【0187】
第6の改変フィブロインは、REPの疎水性度が、−0.8以上であることが好ましく、−0.7以上であることがより好ましく、0以上であることが更に好ましく、0.3以上であることが更により好ましく、0.4以上であることが特に好ましい。REPの疎水性度の上限に特に制限はなく、1.0以下であってよく、0.7以下であってもよい。
【0188】
本明細書において、「REPの疎水性度」は、以下の方法により算出される値である。
式1:[(A)
nモチーフ−REP]
m、又は式2:[(A)
nモチーフ−REP]
m−(A)
nモチーフで表されるドメイン配列を含むフィブロイン(改変フィブロイン又は天然由来のフィブロイン)において、最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列(
図5の「領域A」に相当する配列。)に含まれる全てのREPにおいて、その領域の各アミノ酸残基の疎水性指標の総和をvとし、最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)
nモチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をtとしたときに、REPの疎水性度はv/tとして算出される。REPの疎水性度の算出において、「最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」を対象としている理由は、上述した理由と同様である。
【0189】
第6の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失したこと、及び/又はREP中の1又は複数のグルタミン残基を他のアミノ酸残基に置換したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変があってもよい。
【0190】
第6の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列からREP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失させること、及び/又はREP中の1又は複数のグルタミン残基を他のアミノ酸残基に置換することにより得ることができる。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列からREP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失したこと、及び/又はREP中の1又は複数のグルタミン残基を他のアミノ酸残基に置換したことに相当するアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。
【0191】
第6の改変フィブロインのより具体的な例として、(6−i)配列番号25(Met−PRT888)、配列番号26(Met−PRT965)、配列番号27(Met−PRT889)、配列番号28(Met−PRT916)、配列番号29(Met−PRT918)、配列番号30(Met−PRT699)、配列番号31(Met−PRT698)、配列番号32(Met−PRT966)、配列番号41(Met−PRT917)若しくは配列番号42(Met−PRT1028)で示されるアミノ酸配列を含む改変フィブロイン、又は(6−ii)配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号41若しくは配列番号42で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む改変フィブロインを挙げることができる。
【0192】
(6−i)の改変フィブロインについて説明する。配列番号25で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列(Met−PRT410)中のQQを全てVLに置換したものである。配列番号26で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列中のQQを全てTSに置換し、かつ残りのQをAに置換したものである。配列番号27で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列中のQQを全てVLに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。配列番号28で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列中のQQを全てVIに置換し、かつ残りのQをLに置換したものである。配列番号29で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列中のQQを全てVFに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。
【0193】
配列番号30で示されるアミノ酸配列は、配列番号8で示されるアミノ酸配列(Met−PRT525)中のQQを全てVLに置換したものである。配列番号31で示されるアミノ酸配列は、配列番号8で示されるアミノ酸配列中のQQを全てVLに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。
【0194】
配列番号32で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列(Met−PRT410)中に存在する20個のドメイン配列の領域を2回繰り返した配列中のQQを全てVFに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。
【0195】
配列番号41で示されるアミノ酸配列(Met−PRT917)は、配列番号7で示されるアミノ酸配列中のQQを全てLIに置換し、かつ残りのQをVに置換したものである。配列番号42で示されるアミノ酸配列(Met−PRT1028)は、配列番号7で示されるアミノ酸配列中のQQを全てIFに置換し、かつ残りのQをTに置換したものである。
【0196】
配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号41及び配列番号42で示されるアミノ酸配列は、いずれもグルタミン残基含有率は9%以下である(表2)。
【0198】
(6−i)の改変フィブロインは、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号41又は配列番号42で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0199】
(6−ii)の改変フィブロインは、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号41又は配列番号42で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(6−ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)
nモチーフ−REP]
m、又は式2:[(A)
nモチーフ−REP]
m−(A)
nモチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0200】
(6−ii)の改変フィブロインは、グルタミン残基含有率が9%以下であることが好ましい。また、(6−ii)の改変フィブロインは、GPGXXモチーフ含有率が10%以上であることが好ましい。
【0201】
第6の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含んでいてもよい。これにより、改変フィブロインの単離、固定化、検出及び可視化等が可能となる。
【0202】
タグ配列を含む改変フィブロインのより具体的な例として、(6−iii)配列番号33(PRT888)、配列番号34(PRT965)、配列番号35(PRT889)、配列番号36(PRT916)、配列番号37(PRT918)、配列番号38(PRT699)、配列番号39(PRT698)、配列番号40(PRT966)、配列番号43(PRT917)若しくは配列番号44(PRT1028)で示されるアミノ酸配列を含む改変フィブロイン、又は(6−iv)配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号43若しくは配列番号44で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む改変フィブロインを挙げることができる。
【0203】
配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号43及び配列番号44で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号41及び配列番号42で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号11で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。N末端にタグ配列を付加しただけであるため、グルタミン残基含有率に変化はなく、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号43及び配列番号44で示されるアミノ酸配列は、いずれもグルタミン残基含有率が9%以下である(表3)。
【0205】
(6−iii)の改変フィブロインは、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号43又は配列番号44で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0206】
(6−iv)の改変フィブロインは、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号43又は配列番号44で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(6−iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)
nモチーフ−REP]
m、又は式2:[(A)
nモチーフ−REP]
m−(A)
nモチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0207】
(6−iv)の改変フィブロインは、グルタミン残基含有率が9%以下であることが好ましい。また、(6−iv)の改変フィブロインは、GPGXXモチーフ含有率が10%以上であることが好ましい。
【0208】
第6の改変フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
【0209】
改変フィブロインは、第1の改変フィブロイン、第2の改変フィブロイン、第3の改変フィブロイン、第4の改変フィブロイン、第5の改変フィブロイン、及び第6の改変フィブロインが有する特徴のうち、少なくとも2つ以上の特徴を併せ持つ改変フィブロインであってもよい。
【0210】
改変フィブロインは、親水性改変フィブロインであってもよく、疎水性改変フィブロインであってもよい。本明細書において、「疎水性改変フィブロイン」とは、改変フィブロインを構成する全てのアミノ酸残基の疎水性指標(HI)の総和を求め、次にその総和を全アミノ酸残基数で除した値(平均HI)が0超である改変フィブロインである。疎水性指標は表1に示したとおりである。また、「親水性改変フィブロイン」とは、平均HIが0以下である改変フィブロインである。改変フィブロインとしては、耐燃焼性に更に優れる観点から、親水性改変フィブロインが好ましく、吸湿発熱性に更に優れる観点及び/又は保温性に更に優れる観点から、疎水性改変フィブロインが好ましい。
【0211】
親水性改変フィブロインは、疎水性改変フィブロインと比較して、染色によるダメージ(例えばアルカリ条件によるダメージ)を受けやすい傾向がある。これに対し、本実施形態に係る染色された生地の製造方法によれば、親水性改変フィブロインを用いた場合でも、生地に与えるダメージが抑制される。したがって、本実施形態に係る染色された生地の製造方法は、改変フィブロインが親水性改変フィブロインである場合に特に好適に用いることができる。
【0212】
疎水性改変フィブロインとしては、例えば、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33又は配列番号43で示されるアミノ酸配列、配列番号35、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41又は配列番号44で示されるアミノ酸配列を含む改変フィブロインが挙げられる。
【0213】
親水性改変フィブロインとしては、例えば、配列番号4で示されるアミノ酸配列、配列番号6、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列、配列番号13、配列番号11、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列、配列番号18、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列、配列番号17、配列番号11、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列、配列番号19、配列番号20又は配列番号21で示されるアミノ酸配列を含む改変フィブロインが挙げられる。
【0214】
本実施形態に係る人工フィブロイン繊維は、改変フィブロインを1種単独で含有するものであってもよく、改変フィブロイン2種以上を組み合わせて含有するものであってもよい。
【0215】
(改変フィブロインの製造方法)
上記いずれの実施形態に係る改変フィブロインも、例えば、当該改変フィブロインをコードする核酸配列と、当該核酸配列に作動可能に連結された1又は複数の調節配列とを有する発現ベクターで形質転換された宿主により、当該核酸を発現させることにより生産することができる。
【0216】
改変フィブロインをコードする核酸の製造方法は、特に制限されない。例えば、天然のフィブロインをコードする遺伝子を利用して、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などで増幅しクローニングし、遺伝子工学的手法により改変する方法、又は、化学的に合成する方法によって、当該核酸を製造することができる。核酸の化学的な合成方法も特に制限されず、例えば、NCBIのウェブデータベースなどより入手したフィブロインのアミノ酸配列情報をもとに、AKTA oligopilot plus 10/100(GEヘルスケア・ジャパン株式会社)などで自動合成したオリゴヌクレオチドをPCRなどで連結する方法によって遺伝子を化学的に合成することができる。この際に、改変フィブロインの精製及び/又は確認を容易にするため、上記のアミノ酸配列のN末端に開始コドン及びHis10タグからなるアミノ酸配列を付加したアミノ酸配列からなる改変フィブロインをコードする核酸を合成してもよい。
【0217】
調節配列は、宿主における改変フィブロインの発現を制御する配列(例えば、プロモーター、エンハンサー、リボソーム結合配列、転写終結配列等)であり、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。プロモーターとして、宿主細胞中で機能し、改変フィブロインを発現誘導可能な誘導性プロモーターを用いてもよい。誘導性プロモーターは、誘導物質(発現誘導剤)の存在、リプレッサー分子の非存在、又は温度、浸透圧若しくはpH値の上昇若しくは低下等の物理的要因により、転写を制御できるプロモーターである。
【0218】
発現ベクターの種類は、プラスミドベクター、ウイルスベクター、コスミドベクター、フォスミドベクター、人工染色体ベクター等、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。発現ベクターとしては、宿主細胞において自立複製が可能、又は宿主の染色体中への組込みが可能で、改変フィブロインをコードする核酸を転写できる位置にプロモーターを含有しているものが好適に用いられる。
【0219】
宿主として、原核生物、並びに酵母、糸状真菌、昆虫細胞、動物細胞及び植物細胞等の真核生物のいずれも好適に用いることができる。
【0220】
原核生物の宿主の好ましい例として、エシェリヒア属、ブレビバチルス属、セラチア属、バチルス属、ミクロバクテリウム属、ブレビバクテリウム属、コリネバクテリウム属及びシュードモナス属等に属する細菌を挙げることができる。エシェリヒア属に属する微生物として、例えば、エシェリヒア・コリ等を挙げることができる。ブレビバチルス属に属する微生物として、例えば、ブレビバチルス・アグリ等を挙げることができる。セラチア属に属する微生物として、例えば、セラチア・リクエファシエンス等を挙げることができる。バチルス属に属する微生物として、例えば、バチルス・サチラス等を挙げることができる。ミクロバクテリウム属に属する微生物として、例えば、ミクロバクテリウム・アンモニアフィラム等を挙げることができる。ブレビバクテリウム属に属する微生物として、例えば、ブレビバクテリウム・ディバリカタム等を挙げることができる。コリネバクテリウム属に属する微生物として、例えば、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス等を挙げることができる。シュードモナス(Pseudomonas)属に属する微生物として、例えば、シュードモナス・プチダ等を挙げることができる。
【0221】
原核生物を宿主とする場合、改変フィブロインをコードする核酸を導入するベクターとしては、例えば、pBTrp2(ベーリンガーマンハイム社製)、pGEX(Pharmacia社製)、pUC18、pBluescriptII、pSupex、pET22b、pCold、pUB110、pNCO2(特開2002−238569号公報)等を挙げることができる。
【0222】
真核生物の宿主としては、例えば、酵母及び糸状真菌(カビ等)を挙げることができる。酵母としては、例えば、サッカロマイセス属、ピキア属、シゾサッカロマイセス属等に属する酵母を挙げることができる。糸状真菌としては、例えば、アスペルギルス属、ペニシリウム属、トリコデルマ(Trichoderma)属等に属する糸状真菌を挙げることができる。
【0223】
真核生物を宿主とする場合、改変フィブロインをコードする核酸を導入するベクターとしては、例えば、YEP13(ATCC37115)、YEp24(ATCC37051)等を挙げることができる。上記宿主細胞への発現ベクターの導入方法としては、上記宿主細胞へDNAを導入する方法であればいずれも用いることができる。例えば、カルシウムイオンを用いる方法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA,69,2110(1972)〕、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、プロトプラスト法、酢酸リチウム法、コンピテント法等を挙げることができる。
【0224】
発現ベクターで形質転換された宿主による核酸の発現方法としては、直接発現のほか、モレキュラー・クローニング第2版に記載されている方法等に準じて、分泌生産、融合タンパク質発現等を行うことができる。
【0225】
改変フィブロインは、例えば、発現ベクターで形質転換された宿主を培養培地中で培養し、培養培地中に当該改変フィブロインを生成及び蓄積させ、該培養培地から採取することにより製造することができる。宿主を培養培地中で培養する方法は、宿主の培養に通常用いられる方法に従って行うことができる。
【0226】
宿主が、大腸菌等の原核生物又は酵母等の真核生物である場合、培養培地として、宿主が資化し得る炭素源、窒素源及び無機塩類等を含有し、宿主の培養を効率的に行える培地であれば天然培地及び合成培地のいずれを用いてもよい。
【0227】
炭素源としては、上記形質転換微生物が資化し得るものであればよく、例えば、グルコース、フラクトース、スクロース、及びこれらを含有する糖蜜、デンプン及びデンプン加水分解物等の炭水化物、酢酸及びプロピオン酸等の有機酸、並びにエタノール及びプロパノール等のアルコール類を用いることができる。窒素源としては、例えば、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム及びリン酸アンモニウム等の無機酸又は有機酸のアンモニウム塩、その他の含窒素化合物、並びにペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスチープリカー、カゼイン加水分解物、大豆粕及び大豆粕加水分解物、各種発酵菌体及びその消化物を用いることができる。無機塩類としては、例えば、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅及び炭酸カルシウムを用いることができる。
【0228】
大腸菌等の原核生物又は酵母等の真核生物の培養は、例えば、振盪培養又は深部通気攪拌培養等の好気的条件下で行うことができる。培養温度は、例えば、15〜40℃である。培養時間は、通常16時間〜7日間である。培養中の培養培地のpHは3.0〜9.0に保持することが好ましい。培養培地のpHの調整は、無機酸、有機酸、アルカリ溶液、尿素、炭酸カルシウム及びアンモニア等を用いて行うことができる。
【0229】
また、培養中、必要に応じて、アンピシリン及びテトラサイクリン等の抗生物質を培養培地に添加してもよい。プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときには、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド等を、trpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはインドールアクリル酸等を培地に添加してもよい。
【0230】
発現させた改変フィブロインの単離及び精製は通常用いられている方法で行うことができる。例えば、当該改変フィブロインが、細胞内に溶解状態で発現した場合には、培養終了後、宿主細胞を遠心分離により回収し、水系緩衝液に懸濁した後、超音波破砕機、フレンチプレス、マントンガウリンホモゲナイザー及びダイノミル等により宿主細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。該無細胞抽出液を遠心分離することにより得られる上清から、タンパク質の単離精製に通常用いられている方法、すなわち、溶媒抽出法、硫安等による塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル(DEAE)−セファロース、DIAION HPA−75(三菱化成社製)等のレジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S−Sepharose FF(Pharmacia社製)等のレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等のレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の方法を単独又は組み合わせて使用し、精製標品を得ることができる。
【0231】
また、改変フィブロインが細胞内に不溶体を形成して発現した場合は、同様に宿主細胞を回収後、破砕し、遠心分離を行うことにより、沈殿画分として改変フィブロインの不溶体を回収する。回収した改変フィブロインの不溶体はタンパク質変性剤で可溶化することができる。該操作の後、上記と同様の単離精製法により改変フィブロインの精製標品を得ることができる。当該改変フィブロインが細胞外に分泌された場合には、培養上清から当該改変フィブロインを回収することができる。すなわち、培養物を遠心分離等の手法により処理することにより培養上清を取得し、その培養上清から、上記と同様の単離精製法を用いることにより、精製標品を得ることができる。
【0232】
(人工フィブロイン原繊維の製造方法)
本実施形態に係る人工フィブロイン原繊維は、上述した改変フィブロインを紡糸したものであり、上述した改変フィブロインを主成分として含む。本実施形態に係る人工フィブロイン原繊維は、紡糸後、水と接触する前の繊維である。
【0233】
本実施形態に係る人工フィブロイン原繊維は、公知の紡糸方法によって製造することができる。すなわち、例えば、まず、上述した方法に準じて製造した改変フィブロインをジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、又はヘキサフルオロイソプロノール(HFIP)等の溶媒に、溶解促進剤としての無機塩と共に添加し、溶解してドープ液を作製する。次いで、このドープ液を用いて、湿式紡糸、乾式紡糸、乾湿式紡糸又は溶融紡糸等の公知の紡糸方法により紡糸して、目的とする人工フィブロイン原繊維を得ることができる。好ましい紡糸方法としては、湿式紡糸又は乾湿式紡糸を挙げることができる。
【0234】
図6は、人工フィブロイン原繊維を製造するための紡糸装置の一例を概略的に示す説明図である。
図6に示す紡糸装置10は、乾湿式紡糸用の紡糸装置の一例であり、押出し装置1と、未延伸糸製造装置2と、湿熱延伸装置3と、乾燥装置4とを有している。
【0235】
紡糸装置10を使用した紡糸方法を説明する。まず、貯槽7に貯蔵されたドープ液6が、ギアポンプ8により口金9から押し出される。ラボスケールにおいては、ドープ液をシリンダーに充填し、シリンジポンプを用いてノズルから押し出してもよい。次いで、押し出されたドープ液6は、エアギャップ19を経て、凝固液槽20の凝固液11内に供給され、溶媒が除去されて、改変フィブロインが凝固し、繊維状凝固体が形成される。次いで、繊維状凝固体が、延伸浴槽21内の温水12中に供給されて、延伸される。延伸倍率は供給ニップローラ13と引き取りニップローラ14との速度比によって決まる。その後、延伸された繊維状凝固体が、乾燥装置4に供給され、糸道22内で乾燥されて、人工フィブロイン原繊維が、巻糸体5として得られる。18a〜18gは糸ガイドである。
【0236】
凝固液11としては、脱溶媒できる溶媒であればよく、例えば、メタノール、エタノール及び2−プロパノール等の炭素数1〜5の低級アルコール、並びにアセトン等を挙げることができる。凝固液11は、適宜水を含んでいてもよい。凝固液11の温度は、0〜30℃であることが好ましい。口金9として、直径0.1〜0.6mmのノズルを有するシリンジポンプを使用する場合、押出し速度は1ホール当たり、0.2〜6.0ml/時間が好ましく、1.4〜4.0ml/時間であることがより好ましい。凝固したタンパク質が凝固液11中を通過する距離(実質的には、糸ガイド18aから糸ガイド18bまでの距離)は、脱溶媒が効率的に行える長さがあればよく、例えば、200〜500mmである。未延伸糸の引き取り速度は、例えば、1〜20m/分であってよく、1〜3m/分であることが好ましい。凝固液11中での滞留時間は、例えば、0.01〜3分であってよく、0.05〜0.15分であることが好ましい。また、凝固液11中で延伸(前延伸)をしてもよい。凝固液槽20は多段設けてもよく、また延伸は必要に応じて、各段、又は特定の段で行ってもよい。
【0237】
なお、人工フィブロイン原繊維を得る際に実施される延伸は、例えば、上記した凝固液槽20内で行う前延伸、及び延伸浴槽21内で行う湿熱延伸の他、乾熱延伸も採用される。
【0238】
湿熱延伸は、温水中、温水に有機溶剤等を加えた溶液中、又はスチーム加熱中で行うことができる。温度としては、例えば、50〜90℃であってよく、75〜85℃が好ましい。湿熱延伸では、未延伸糸(又は前延伸糸)を、例えば、1〜10倍延伸することができ、2〜8倍延伸することが好ましい。
【0239】
乾熱延伸は、電気管状炉、乾熱板等を使用して行うことができる。温度としては、例えば、140℃〜270℃であってよく、160℃〜230℃が好ましい。乾熱延伸では、未延伸糸(又は前延伸糸)を、例えば、0.5〜8倍延伸することができ、1〜4倍延伸することが好ましい。
【0240】
湿熱延伸及び乾熱延伸はそれぞれ単独で行ってもよく、またこれらを多段で、又は組み合わせて行ってもよい。すなわち、一段目延伸を湿熱延伸で行い、二段目延伸を乾熱延伸で行う、又は一段目延伸を湿熱延伸行い、二段目延伸を湿熱延伸行い、更に三段目延伸を乾熱延伸で行う等、湿熱延伸及び乾熱延伸を適宜組み合わせて行うことができる。
【0241】
最終的な延伸倍率は、その下限値が、未延伸糸(又は前延伸糸)に対して、好ましくは、1倍超、2倍以上、3倍以上、4倍以上、5倍以上、6倍以上、7倍以上、8倍以上、9倍以上のうちのいずれかであり、上限値が、好ましくは40倍以下、30倍以下、20倍以下、15倍以下、14倍以下、13倍以下、12倍以下、11倍以下、10倍以下である。人工フィブロイン原繊維が2倍以上の延伸倍率で紡糸された繊維であると、人工フィブロイン原繊維を水に接触させて湿潤状態にした際の収縮率は、より高くなる。
【0242】
(人工フィブロイン繊維の製造方法)
本実施形態に係る人工フィブロイン繊維は、人工フィブロイン原繊維を水により収縮させる収縮工程を備える製造方法により得ることができる。収縮工程は、例えば、上述した人工フィブロイン原繊維(紡糸後、水と接触する前の繊維)を、水と接触させて不可逆的に収縮させるステップ(接触ステップ)を備えるものであってよい。収縮工程は、接触ステップの後、繊維を乾燥させて更に収縮させるステップ(乾燥ステップ)を備えるものであってもよい。
【0243】
図7は、水との接触による人工フィブロイン原繊維及び人工フィブロイン繊維の長さ変化の例を示す図である。本実施形態に係る人工フィブロイン原繊維は、水に接触(湿潤)させることにより不可逆的に収縮する(
図7中、「一次収縮」で示した長さ変化)特性を有する。一次収縮後、乾燥させると更に収縮する(
図7中、「二次収縮」で示した長さ変化)。一次収縮又は二次収縮を経て得られた人工フィブロイン繊維は、水に接触させて湿潤状態にすると二次収縮前と同一又はそれに近似した長さにまで伸長し、以後乾燥と湿潤を繰り返すと、二次収縮と同程度の幅(
図7中、「伸縮率」で示した幅)で、収縮と伸長を繰り返す。
【0244】
接触ステップでの人工フィブロイン原繊維の不可逆的な収縮(
図7中の「一次収縮」)は、例えば、以下の理由により生ずると考えられる。すなわち、一つの理由は、人工フィブロイン原繊維の二次構造又は三次構造に起因すると考えられ、また別の一つの理由は、例えば、製造工程での延伸等によって残留応力を有する人工フィブロイン原繊維において、水が繊維間又は繊維内へ浸入することにより、残留応力が緩和されることで生ずると考えられる。したがって、収縮工程での人工フィブロイン原繊維の収縮率は、例えば、上記した人工フィブロイン原繊維の製造過程での延伸倍率の大きさに応じて任意にコントロールすることもできると考えられる。
【0245】
接触ステップでは、紡糸後、水と接触する前の人工フィブロイン原繊維を水と接触させて、人工フィブロイン原繊維を湿潤状態にする。湿潤状態とは、人工フィブロイン原繊維の少なくとも一部が水で濡れた状態を意味する。これにより、外力によらずに人工フィブロイン原繊維を収縮させることができる。この収縮は不可逆的なものである(
図7の「一次収縮」に相当する)。
【0246】
接触ステップで人工フィブロイン原繊維に接触させる水の温度は、沸点未満であってよい。これにより、取扱い性及び収縮工程の作業性等が向上する。また、収縮時間を充分に短縮するという観点からは、水の温度の下限値が、10℃以上であることが好ましく、40℃以上であることがより好ましく、70℃以上であることが更に好ましい。水の温度の上限値は90℃以下であることが好ましい。
【0247】
接触ステップにおいて、水を人工フィブロイン原繊維に接触させる方法は、特に限定されない。当該方法として、例えば、人工フィブロイン原繊維を水中に浸漬する方法、人工フィブロイン原繊維に対して水を常温で又は加温したスチーム等の状態で噴霧する方法、及び人工フィブロイン原繊維を水蒸気が充満した高湿度環境下に暴露する方法等が挙げられる。これらの方法の中でも、接触ステップにおいては、収縮時間の短縮化が効果的に図れるとともに、加工設備の簡素化等が実現できることから、人工フィブロイン原繊維を水中に浸漬する方法が好ましい。
【0248】
接触ステップにおいて、人工フィブロイン原繊維を弛緩させた状態で水に接触させると、人工フィブロイン原繊維が、単に収縮するだけでなく、波打つように縮れてしまうことがある。このような縮れの発生を防止するために、例えば、人工フィブロイン原繊維を繊維軸方向に緊張させ(引っ張り)ながら水と接触させるなど、人工フィブロイン原繊維を弛緩させない状態で接触ステップを実施してもよい。
【0249】
本実施形態に係る人工フィブロイン繊維の製造方法は、乾燥ステップを更に備えるものであってもよい。乾燥ステップは、接触ステップを経た人工フィブロイン原繊維(又は接触ステップを経て得られた人工フィブロイン繊維)を乾燥させて更に収縮させる工程である(
図7の「二次収縮」に相当する)。乾燥は、例えば、自然乾燥でもよく、乾燥設備を使用して強制的に乾燥させてもよい。乾燥設備としては、接触型又は非接触型の公知の乾燥設備がいずれも使用可能である。また、乾燥温度も、例えば、人工フィブロイン原繊維に含まれるタンパク質が分解したり、人工フィブロイン原繊維が熱的損傷を受けたりする温度よりも低い温度であれば何ら限定されるものではないが、一般には、20〜150℃の範囲内の温度であり、50〜100℃の範囲内の温度であることが好ましい。温度がこの範囲にあることにより、繊維の熱的損傷、又は繊維に含まれるタンパク質の分解が生ずることなく、繊維が、より迅速且つ効率的に乾燥される。乾燥時間は、乾燥温度等に応じて適宜に設定され、例えば、過乾燥による人工フィブロイン繊維の品質及び物性等への影響が可及的に排除され得る時間等が採用される。
【0250】
図8は、人工フィブロイン繊維を製造するための製造装置の一例を概略的に示す説明図である。
図8に示す製造装置40は、人工フィブロイン原繊維を送り出すフィードローラ42と、人工フィブロイン繊維38を巻き取るワインダー44と、接触ステップを実施するウォーターバス46と、乾燥ステップを実施する乾燥機48と、を有して構成されている。
【0251】
より詳細には、フィードローラ42は、人工フィブロイン原繊維36の巻回物が装着可能とされており、図示しない電動モータ等の回転によって、人工フィブロイン原繊維36の巻回物から人工フィブロイン原繊維36を連続的且つ自動的に送り出し得るようになっている。ワインダー44は、フィードローラ42から送り出された後、接触ステップと乾燥ステップを経て製造された人工フィブロイン繊維38を、図示しない電動モータの回転によって連続的且つ自動的に巻き取り得るようになっている。なお、ここでは、フィードローラ42による人工フィブロイン原繊維36の送出し速度と、ワインダー44による人工フィブロイン繊維38の巻取り速度とが、互いに独立して制御可能とされている。
【0252】
ウォーターバス46と乾燥機48は、フィードローラ42とワインダー44との間に、人工フィブロイン原繊維36の送り方向の上流側と下流側にそれぞれ並んで配置されている。なお、
図8に示す製造装置40は、フィードローラ42からワインダー44に向かって走行する接触ステップ前及び後の人工フィブロイン原繊維36を中継するリレーローラ50及び52を有している。
【0253】
ウォーターバス46はヒータ54を有し、このヒータ54にて加温された水47が、ウォーターバス46内に収容されている。また、ウォーターバス46内には、テンションローラ56が、水47中に浸漬された状態で設置されている。これにより、フィードローラ42から送り出された人工フィブロイン原繊維36が、ウォーターバス46内を、テンションローラ56に巻き掛けられた状態で水47中に浸漬されつつ、ワインダー44側に向かって走行するようになっている。なお、人工フィブロイン原繊維36の水47中への浸漬時間は、人工フィブロイン原繊維36の走行速度に応じて適宜にコントロールされる。
【0254】
乾燥機48は、一対のホットローラ58を有している。一対のホットローラ58は、ウォーターバス46内から離脱してワインダー44側に向かって走行する人工フィブロイン原繊維36が巻き掛け可能とされている。これにより、ウォーターバス46内で水47に浸漬された人工フィブロイン原繊維36が、乾燥機48内で一対のホットローラ58にて加熱され、乾燥させられた後、ワインダー44に向かって更に送り出されるようになっている。
【0255】
このような構造を有する製造装置40を用いて、人工フィブロイン繊維38を製造する際には、先ず、例えば、
図6に示された紡糸装置10を用いて紡糸された人工フィブロイン原繊維36の巻回物をフィードローラ42に装着する。次に、フィードローラ42から人工フィブロイン原繊維36を連続的に送り出して、ウォーターバス46内で水47に浸漬させる。このとき、例えば、ワインダー44の巻き取り速度をフィードローラ42の送り出し速度よりも遅くしておく。これにより、人工フィブロイン原繊維36が、フィードローラ42とワインダー44との間で弛緩しないように緊張された状態で、水47との接触により収縮するため、縮れの発生を防止することができる。水47との接触により人工フィブロイン原繊維36は不可逆的に収縮する(
図7の「一次収縮」に相当する)。
【0256】
次に、水47と接触した後の人工フィブロイン原繊維36(又は水47との接触を経て製造された人工フィブロイン繊維38)を、乾燥機48の一対のホットローラ58により加熱する。これにより、水47と接触した後の人工フィブロイン原繊維36(又は水47との接触を経て製造された人工フィブロイン繊維38)を乾燥させ、更に収縮させることができる(
図7の「二次収縮」に相当する)。このとき、フィードローラ42の送出し速度とワインダー44の巻取り速度との比率をコントロールすることで、人工フィブロイン繊維38を更に収縮させることもできるし、長さを変化させないこともできる。そして、得られた人工フィブロイン繊維38をワインダー44にて巻き取って、人工フィブロイン繊維38の巻回物を得る。
【0257】
なお、一対のホットローラ58に代えて、
図9(b)に示されるような乾熱板64等、単なる熱源のみからなる乾燥設備を用いて水47と接触した後の人工フィブロイン原繊維36を乾燥させてもよい。この場合にも、フィードローラ42の送出し速度とワインダー44の巻取り速度との互いの相対速度を、乾燥設備として一対のホットローラ58を使用する場合と同様に調節することにより、人工フィブロイン繊維38を更に収縮させることもできるし、長さを変化させないこともできる。ここでは、乾燥手段が乾熱板64にて構成されることとなる。また、乾燥機48は必須ではない。
【0258】
上述のように、製造装置40を用いることによって、目的とする人工フィブロイン繊維38を自動的且つ連続的に、しかも極めて容易に製造することができる。
【0259】
図9は、人工フィブロイン繊維を製造するための製造装置の別の例を概略的に示す説明図である。
図9(a)は、当該製造装置に備わる、接触ステップを実施する加工装置を示し、
図9(b)は、当該製造装置に備わる、乾燥ステップを実施する乾燥装置を示す。
図9に示される製造装置は、人工フィブロイン原繊維36に対する接触ステップを実施する加工装置60と、接触ステップ後の人工フィブロイン原繊維36(又は接触ステップを経て製造された人工フィブロイン繊維38)を乾燥させる乾燥装置62とを有し、それらが互いに独立した構造とされている。
【0260】
より具体的には、
図9(a)に示す加工装置60は、
図8に示された製造装置40から乾燥機48を省略して、フィードローラ42とウォーターバス46とワインダー44とを、人工フィブロイン原繊維36の走行方向の上流から下流側に向かって順に並べて配置してなる構造を有している。このような加工装置60は、フィードローラ42から送り出された人工フィブロイン原繊維36を、ウォーターバス46内の水47中に浸漬させて、収縮させるようになっている。そして、得られた人工フィブロイン繊維38をワインダー44にて巻き取るように構成されている。
【0261】
図9(b)に示す乾燥装置62は、フィードローラ42及びワインダー44と、乾熱板64とを有している。乾熱板64は、フィードローラ42とワインダー44との間に、乾熱面66が、人工フィブロイン繊維38に接触し、且つその走行方向に沿って伸びるように配置されている。この乾燥装置62では、前述したように、例えば、フィードローラ42の送出し速度とワインダー44の巻取り速度との比率をコントロールすることで、人工フィブロイン繊維38を更に収縮させることもできるし、長さを変化させないこともできる。
【0262】
このような構造を有する製造装置を用いることによって、人工フィブロイン原繊維36を加工装置60により収縮させて人工フィブロイン繊維38を得た後、乾燥装置62にて人工フィブロイン繊維38を乾燥させることができる。
【0263】
なお、
図9(a)に示された加工装置60からフィードローラ42とワインダー44とを省略して、ウォーターバス46のみで加工装置を構成してもよい。このような加工装置を有する製造装置を用いる場合には、例えば、人工フィブロイン繊維が、いわゆるバッチ式で製造されることとなる。また、
図9(b)に示す乾燥装置62は必須ではない。
【0264】
(捲縮)
本実施形態に係る人工フィブロイン繊維は、水との接触により捲縮されたものであってもよい。捲縮の度合いは制限されず、捲縮数は、例えば、10〜100個/40mmであってよく、20〜40個/40mmであってもよい。水との接触により捲縮された人工フィブロイン繊維は、例えば、人工フィブロイン原繊維を水性媒体と接触させることにより行うことができる。水性媒体とは、水(水蒸気を含む。)を含む液体又は気体(スチーム)の媒体である。水性媒体は水であってもよいし、水と親水性溶媒との混合液であってもよい。また、親水性溶媒としては、例えば、エタノール及びメタノール等の揮発性溶媒又はその蒸気を用いることも可能である。水性媒体は、水とエタノールとの混合溶液であることが好ましい。揮発性溶媒又はその蒸気を含む水性媒体を使用することで、人工フィブロイン繊維が早く乾燥し、よりソフト感のある仕上がりになる。水と揮発性溶媒又はその蒸気との比率は、特に限定されず、例えば、水:揮発性溶媒又はその蒸気は、質量比で10:90〜90:10であってもよい。
【0265】
水性媒体が液体である場合、水性媒体には、例えば、工程通過用(例えば、帯電防止用等)又は仕上げ用の油剤等、公知の油剤を分散させてもよい。すなわち、水性媒体の代わりに、水性媒体と、水性媒体に分散された油剤とを含む油剤分散液を使用することもできる。このような油剤分散液を用いることによって、人工フィブロイン原繊維を捲縮させるとともに、人工フィブロイン原繊維の捲縮により得られた人工フィブロイン繊維に油剤を付着させることができる。人工フィブロイン繊維に油剤を付着させることで、人工フィブロイン繊維に種々の特性を付与することができる。なお、油剤の量は、特に限定されず、例えば、水性媒体と油剤の全量に対して1〜10質量%であってもよく、2〜5質量%であってよい。
【0266】
水性媒体の温度は、10℃以上、25℃以上、40℃以上、60℃以上、又は100℃以上であってよく、230℃以下、120℃以下、又は100℃以下であってよい。より具体的には、水性媒体が気体(スチーム)である場合、水性媒体の温度は100〜230℃が好ましく、100〜120℃がより好ましい。水性媒体のスチームが230℃以下であると、人工フィブロイン繊維の熱変性を防ぐことができる。水性媒体が液体である場合、水性媒体の温度は、効率良く捲縮を付与する観点から、10℃以上、25℃以上、又は40℃以上が好ましく、人工フィブロイン繊維の繊維強度を高く保つ観点から、60℃以下が好ましい。水性媒体に人工フィブロイン原繊維を接触させる時間は、特に制限されないが、30秒以上、1分以上、又は2分以上であってよく、生産性の観点から10分以下であることが好ましい。人工フィブロイン原繊維への水性媒体の接触は、常圧下で行ってもよく、減圧下(例えば、真空)で行ってもよい。
【0267】
人工フィブロイン原繊維を水性媒体に接触させる方法としては、人工フィブロイン原繊維を水中に浸漬する方法、人工フィブロイン原繊維に対して水性媒体のスチームを噴霧する方法、水性媒体のスチームが充満した環境に人工フィブロイン原繊維を暴露する方法等が挙げられる。水性媒体がスチームである場合、人工フィブロイン原繊維への水性媒体の接触は、一般的なスチームセット装置を使用して行うことができる。スチームセット装置の具体例としては、製品名:FMSA型スチームセッター(福伸工業株式会社製)、製品名:EPS−400(辻井染機工業株式会社製)等の装置を挙げることができる。水性媒体のスチームにより人工フィブロイン原繊維を捲縮させる方法の具体例としては、所定の収容室内に人工フィブロイン原繊維を収容する一方、収容室内に水性媒体のスチームを導入して、収容室内の温度を上記所定温度(例えば、100℃〜230℃)に調整しつつ、人工フィブロイン原繊維にスチームを接触させることが挙げられる。
【0268】
なお、水性媒体との接触による人工フィブロイン原繊維の捲縮工程は、好ましくは人工フィブロイン原繊維に対して引張力が何ら加えられない(繊維軸方向に何ら緊張されない)状態、又は所定の大きさだけ加えられた(繊維軸方向に所定量だけ緊張させられた)状態で実施される。その際に、人工フィブロイン原繊維に加えられる引張力を調整することで、捲縮の程度をコントロールすることが可能となる。人工フィブロイン原繊維に加えられる引張力の調整方法としては、例えば、人工フィブロイン原繊維に様々な重さの重りを吊す等して、人工フィブロイン原繊維に対して負荷される荷重を調整する方法、人工フィブロイン原繊維を弛ませた状態で両末端を固定するとともに、その弛み量を種々変更する方法、人工フィブロイン原繊維を紙管又はボビン等の被巻回体に巻き付けるとともに、その際の巻き付け力(紙管又はボビンへの締付力)を適宜に変更する方法等が挙げられる。
【0269】
人工フィブロイン原繊維を水性媒体に接触させた後、人工フィブロイン原繊維を乾燥してもよい。乾燥方法は、特に限定されず、自然乾燥でもよく、乾燥設備を使用して強制的に人工フィブロイン原繊維を乾燥させてもよい。水性媒体による捲縮とその後の乾燥は、連続的に行うことができる。具体的には、例えば、ボビンから人工フィブロイン原繊維を送り出しながら、水性媒体中に浸漬した後、熱風を吹き付けるか、又はホットローラー上に送り出すことで乾燥することができる。乾燥温度としては、特に限定されず、例えば、20〜150℃であってよく、40〜120℃であることが好ましく、60〜100℃であることがより好ましい。
【0270】
上記からも明らかなように、人工フィブロイン繊維を得るために実施される、人工フィブロイン原繊維の水による収縮工程には、人工フィブロイン原繊維の長さを短縮するだけの(縮れさせない)工程以外に、人工フィブロイン原繊維を捲縮させる(縮れさせて長さを短縮させる)工程も含まれる。なお、条件の設定次第では、人工フィブロイン原繊維を水により収縮(長さを短縮)させる収縮工程(接触ステップ、乾燥ステップ)と捲縮させる工程を同時に又は段階的に実施することもできる。
【実施例】
【0271】
以下、実施例等に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0272】
〔試験例1:人工フィブロイン繊維の製造及び収縮性評価〕
(1)改変フィブロインの製造
(改変フィブロインをコードする核酸の合成、及び発現ベクターの構築)
配列番号18で示されるアミノ酸配列を有する改変フィブロイン(PRT399)、配列番号12で示されるアミノ酸配列を有する改変フィブロイン(PRT380)、配列番号13で示されるアミノ酸配列を有する改変フィブロイン(PRT410)、配列番号15で示されるアミノ酸配列を有する改変フィブロイン(PRT799)、配列番号37で示されるアミノ酸配列を有する改変フィブロイン(PRT918)及び配列番号40で示されるアミノ酸配列を有する改変フィブロイン(PRT966)を設計した。
【0273】
設計した5種類の改変フィブロインをコードする核酸をそれぞれ合成した。当該核酸には、5’末端にNdeIサイト、終止コドン下流にEcoRIサイトを付加した。これら5種類の核酸をクローニングベクター(pUC118)にそれぞれクローニングした。その後、同核酸をNdeI及びEcoRIで制限酵素処理して切り出した後、タンパク質発現ベクターpET−22b(+)に組換えてそれぞれ発現ベクターを得た。
【0274】
(改変フィブロインの発現)
得られた発現ベクターで、大腸菌BLR(DE3)を形質転換した。当該形質転換大腸菌を、アンピシリンを含む2mLのLB培地で15時間培養した。当該培養液を、アンピシリンを含む100mLのシード培養用培地(表4)にOD
600が0.005となるように添加した。培養液温度を30℃に保ち、OD
600が5になるまでフラスコ培養を行い(約15時間)、シード培養液を得た。
【0275】
【表4】
【0276】
当該シード培養液を500mlの生産培地(下記表5)を添加したジャーファーメンターにOD
600が0.05となるように添加した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。また培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持した。
【0277】
【表5】
【0278】
生産培地中のグルコースが完全に消費された直後に、フィード液(グルコース455g/1L、Yeast Extract 120g/1L)を1mL/分の速度で添加した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持しながら、20時間培養を行った。その後、1Mのイソプロピル−β−チオガラクトピラノシド(IPTG)を培養液に対して終濃度1mMになるよう添加し、目的とする改変フィブロインを発現誘導させた。IPTG添加後20時間経過した時点で、培養液を遠心分離し、菌体を回収した。IPTG添加前とIPTG添加後の培養液から調製した菌体を用いてSDS−PAGEを行い、IPTG添加に依存した目的とする改変フィブロインに相当するサイズのバンドの出現により、目的とする改変フィブロインの発現を確認した。
【0279】
(改変フィブロインの精製)
IPTGを添加してから2時間後に回収した菌体を20mM Tris−HCl buffer(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の菌体を約1mMのPMSFを含む20mM Tris−HCl緩衝液(pH7.4)に懸濁させ、高圧ホモジナイザー(GEA Niro Soavi社)で細胞を破砕した。破砕した細胞を遠心分離し、沈殿物を得た。得られた沈殿物を、高純度になるまで20mM Tris−HCl緩衝液(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の沈殿物を100mg/mLの濃度になるように8M グアニジン緩衝液(8M グアニジン塩酸塩、10mM リン酸二水素ナトリウム、20mM NaCl、1mM Tris−HCl、pH7.0)で懸濁し、60℃で30分間、スターラーで撹拌し、溶解させた。溶解後、透析チューブ(三光純薬株式会社製のセルロースチューブ36/32)を用いて水で透析を行った。透析後に得られた白色の凝集タンパク質を遠心分離により回収した。回収した凝集タンパク質から凍結乾燥機で水分を除き、改変フィブロインの凍結乾燥粉末を得た。
【0280】
(2)人工フィブロイン原繊維の製造
(ドープ液の調製)
4.0質量%になるようにLiClを溶解させたジメチルスルホキシド(DMSO)を溶媒として用意し、そこに改変フィブロインの凍結乾燥粉末を、濃度18質量%又は24質量%となるよう添加し(表6参照)、シェーカーを使用して3時間溶解させた。その後、不溶物と泡を取り除き、改変フィブロイン溶液を得た。
【0281】
(紡糸)
得られた改変フィブロイン溶液をドープ液(紡糸原液)とし、
図6に示す紡糸装置10に準じた紡糸装置を用いた乾湿式紡糸によって、紡糸及び延伸された人工フィブロイン原繊維を製造した。用いた紡糸装置は、
図6に示す紡糸装置10において、未延伸糸製造装置2(第1浴)及び湿熱延伸装置3(第3浴)の間に、更に第2の未延伸糸製造装置(第2浴)を備えるものである。乾湿式紡糸の条件は以下のとおりである。
押出しノズル直径:0.2mm
第1浴〜第3浴中の液体及び温度:表6参照
総延伸倍率:表6参照
乾燥温度:60℃
【0282】
【表6】
【0283】
(3)人工フィブロイン繊維の製造及び評価
製造例1〜19で得た各人工フィブロイン原繊維に対して、水に接触させる接触ステップを施すこと(以下、「一次収縮」ということがある。)、又は当該接触ステップを施した後、室温で乾燥させる乾燥ステップを施すこと(以下、「二次収縮」ということがある。)により、人工フィブロイン繊維を製造した。
【0284】
<一次収縮>
製造例1〜19で得た人工フィブロイン原繊維の巻回物から、それぞれ、長さ30cmの複数本の人工フィブロイン原繊維を切り出した。それら複数本の人工フィブロイン原繊維を束ねて、繊度150デニールの人工フィブロイン原繊維束を得た。各人工フィブロイン原繊維束に0.8gの鉛錘を取り付け、その状態で各人工フィブロイン原繊維束を表7〜10に示す温度の水に10分間浸漬した(接触ステップ)。その後、水中で各人工フィブロイン繊維束の長さを測定した。水中での人工フィブロイン繊維束の長さ測定は、人工フィブロイン繊維束の縮れを無くすために、人工フィブロイン繊維束に0.8gの鉛錘を取り付けたまま実施した。次いで、各人工フィブロイン繊維の一次収縮率(%)を、下記式Iに従って算出した。式I中、L0は紡糸後、水と接触する前の人工フィブロイン原繊維束の長さ(ここでは30cm)を示し、Lwは一次収縮を経た人工フィブロイン繊維束の長さを示す。なお、一次収縮率は、湿潤収縮率と同義である。
式I:一次収縮率={1−(Lw/L0)}×100(%)
【0285】
<二次収縮>
一次収縮での水への浸漬(接触ステップ)の後、人工フィブロイン繊維束を水中から取り出した。取り出した人工フィブロイン繊維束を、0.8gの鉛錘を取り付けたまま、室温で2時間おいて乾燥させた(乾燥ステップ)。乾燥後、各人工フィブロイン繊維束の長さを測定した。次いで、各人工フィブロイン繊維の二次収縮率(%)を、下記式IIに従って算出した。式II中、L0は紡糸後、水と接触する前の人工フィブロイン原繊維束の長さ(ここでは30cm)を示し、Lwdは二次収縮を経た人工フィブロイン繊維束の長さを示す。なお、二次収縮率は、乾燥収縮率と同義である。
式II:二次収縮率={1−(Lwd/L0)}×100(%)
【0286】
結果を表7〜10に示す。
【表7】
【0287】
【表8】
【0288】
【表9】
【0289】
【表10】
【0290】
〔試験例2:人工フィブロイン繊維の難燃性評価〕
(人工フィブロイン繊維の製造)
4.0質量%になるようにLiClを溶解させたジメチルスルホキシド(DMSO)を溶媒として用意し、そこに試験例1の「(1)改変フィブロインの製造」で製造した改変フィブロイン(PRT799)の凍結乾燥粉末を、濃度24質量%となるよう添加し、シェーカーを使用して3時間溶解させた。その後、不溶物と泡を取り除き、改変フィブロイン溶液(紡糸原液)を得た。
【0291】
調製した紡糸原液を60℃にて目開き5μmの金属フィルターで濾過し、次いで30mLのステンレスシリンジ内で静置し、脱泡させた後に、ニードル径0.2mmのソリッドノズルから100質量%メタノール凝固浴槽中へ吐出させた。吐出温度は60℃であった。凝固後、得られた原糸を巻き取り、自然乾燥させて人工フィブロイン原繊維を得た。
【0292】
得られた人工フィブロイン原繊維に対して、水に接触させる接触ステップを施した後、室温で乾燥させる乾燥ステップを施すことにより、人工フィブロイン繊維(原料繊維)を製造した。
【0293】
(編地の製造)
得られた原料繊維を使用して、丸編機を使用した丸編みで編地を製造した。編地は、太さ180デニール、ゲージ数18とした。得られた編地から20g切り出して試験片とした。
【0294】
(燃焼性試験)
燃焼性試験は、消防庁危険物規制課長 消防危50号平成7年5月31日の粉粒状又は融点の低い合成樹脂の試験方法に準拠した。試験は、温度22℃、相対湿度45%、気圧1021hPaの条件下で実施した。測定結果(酸素濃度(%)、燃焼率(%)、換算燃焼率(%))を表11に示す。
【表11】
【0295】
難燃性試験の結果、改変フィブロイン(PRT799)を含む人工フィブロイン繊維で編んだ編地の限界酸素指数(LOI)値は27.2であった。一般にLOI値が26以上あれば難燃性があるとされる。この結果から、人工フィブロイン繊維は、難燃性に優れていることが分かる。したがって、人工フィブロイン繊維とセルロース繊維を混用した生地とすることにより、難燃性に優れた生地を得ることができる。
【0296】
〔試験例3:人工フィブロイン繊維の吸湿発熱性評価〕
(人工フィブロイン繊維の製造)
4.0質量%になるようにLiClを溶解させたジメチルスルホキシド(DMSO)を溶媒として用意し、そこに試験例1の「(1)改変フィブロインの製造」で製造した改変フィブロイン(PRT918又はPRT799)の凍結乾燥粉末を、濃度24質量%質量%となるよう添加し、シェーカーを使用して3時間溶解させた。その後、不溶物と泡を取り除き、改変フィブロイン溶液(紡糸原液)を得た。
【0297】
調製した紡糸原液を60℃にて目開き5μmの金属フィルターで濾過し、次いで30mLのステンレスシリンジ内で静置し、脱泡させた後に、ニードル径0.2mmのソリッドノズルから窒素ガスを用い100質量%メタノール凝固浴槽中へ吐出させた。吐出温度は60℃であり、吐出圧は0.3MPaであった。凝固後、得られた原糸を巻き取り速度3.00m/分で巻き取り、自然乾燥させて人工フィブロイン原繊維を得た。
【0298】
得られた人工フィブロイン原繊維に対して、水に接触させる接触ステップを施した後、室温で乾燥させる乾燥ステップを施すことにより、人工フィブロイン繊維(原料繊維)を製造した。
【0299】
比較のため、原料繊維として、市販されているウール繊維、コットン繊維、テンセル繊維、レーヨン繊維及びポリエステル繊維を用意した。
【0300】
(編地の製造)
各原料繊維を使用して、横編機を使用した横編みで編地を製造した。原料繊維としてPRT918繊維を使用した編地は、太さ:1/30N(毛番手単糸)、ゲージ数:18とした。原料繊維としてPRT799繊維を使用した編地は、太さ:1/30N(毛番手単糸)、ゲージ数:16とした。その他の原料繊維を使用した編地は、PRT918繊維及びPRT799繊維を使用した編地とほぼ同一のカバーファクターとなるように太さ及びゲージ数を調整した。具体的には、以下のとおりである。
ウール 太さ:2/30N(双糸)、ゲージ数:14
コットン 太さ:2/34N(双糸)、ゲージ数:14
テンセル 太さ:2/30N(双糸)、ゲージ数:15
レーヨン 太さ:1/38N(単糸)、ゲージ数:14
ポリエステル 太さ:1/60N(単糸)、ゲージ数:14
【0301】
(吸湿発熱性試験)
10cm×10cmに裁断した編地を2枚合わせにし、四辺を縫い合わせて試験片(試料)とした。試験片を低湿度環境(温度20±2℃、相対湿度40±5%)で4時間以上放置した後、高湿度環境(温度20±2℃、相対湿度90±5%)に移し、試験片内部中央に取り付けた温度センサーにより30分間、1分間隔で温度の測定を行った。
【0302】
測定結果から、下記式Aに従って、最高吸湿発熱度を求めた。
式A:最高吸湿発熱度={(試料を、試料温度が平衡に達するまで低湿度環境下に置いた後、高湿度環境下に移したときの試料温度の最高値)−(試料を、試料温度が平衡に達するまで低湿度環境下に置いた後、高湿度環境下に移すときの試料温度)}(℃)/試料重量(g)
【0303】
図10は、吸湿発熱性試験の結果の一例を示すグラフである。グラフの横軸は、試料を低湿度環境から高湿度環境に移した時点を0とし、高湿度環境での放置時間(分)を示す。グラフの縦軸は、温度センサーで測定した温度(試料温度)を示す。
図10に示したグラフ中、Mで示した点が、試料温度の最高値に対応している。
【0304】
最高吸湿発熱度の算出結果を表12に示す。
【表12】
【0305】
改変フィブロイン(PRT918又はPRT799)を含む人工フィブロイン繊維は、既存の材料と比べて、最高吸湿発熱度が高く、吸湿発熱性に優れていることが分かる。したがって、人工フィブロイン繊維とセルロース繊維を混用して生地とすることにより、吸湿発熱性に優れた生地を得ることができる。
【0306】
〔試験例4:人工フィブロイン繊維の保温性評価〕
(人工フィブロイン繊維の製造)
4.0質量%になるようにLiClを溶解させたジメチルスルホキシド(DMSO)を溶媒として用意し、そこに改変フィブロイン(PRT966又はPRT799)の凍結乾燥粉末を、濃度24質量%となるよう添加し、シェーカーを使用して3時間溶解させた。その後、不溶物と泡を取り除き、改変フィブロイン溶液(紡糸原液)を得た。
【0307】
調製した紡糸原液を60℃にて目開き5μmの金属フィルターで濾過し、次いで30mLのステンレスシリンジ内で静置し、脱泡させた後に、ニードル径0.2mmのソリッドノズルから100質量%メタノール凝固浴槽中へ吐出させた。吐出温度は60℃であった。凝固後、得られた原糸を巻き取り、自然乾燥させて人工フィブロイン繊維(原料繊維)を得た。
【0308】
比較のため、原料繊維として、市販されているウール繊維、シルク繊維、綿繊維、レーヨン繊維及びポリエステル繊維を用意した。
【0309】
(編地の製造)
各原料繊維を使用して、横編機を使用した横編みで編地を製造した。原料繊維としてPRT966繊維を使用した編地は、番手:30Nm、撚り本数:1、ゲージ数:18GG、目付け:90.1g/m
2とした。原料繊維としてPRT799繊維を使用した編地は、番手:30Nm、撚り本数:1、ゲージ数GG:16、目付け:111.0g/m
2とした。その他の原料繊維を使用した編地は、PRT966繊維及びPRT799繊維を使用した編地とほぼ同一のカバーファクターとなるように太さ及びゲージ数を調整した。具体的には、以下のとおりである。
ウール 番手:30Nm、撚り本数:2、ゲージ数:14GG、目付け:242.6g/m
2
シルク 番手:60Nm、撚り本数:2、ゲージ数:14GG、目付け:225.2g/m
2
綿 番手:34Nm、撚り本数:2、ゲージ数:14GG、目付け:194.1g/m
2
レーヨン 番手:38Nm、撚り本数:1、ゲージ数:14GG、目付け:181.8g/m
2
ポリエステル 番手:60Nm、撚り本数:1、ゲージ数:14GG、目付け:184.7g/m
2
【0310】
(保温性試験)
保温性は、カトーテック株式会社製のKES−F7サーモラボII試験機を使用し、ドライコンタクト法(皮膚と衣服が乾燥状態で直接触れた時を想定した方法)を用いて評価した。20cm×20cmに裁断した編地1枚を試験片(試料)とした。試験片を、一定温度(30℃)に設定した熱板にセットし、風洞内風速30cm/秒の条件で、試験片を介して放散された熱量(a)を求めた。試験片をセットしない状態で、上記同様の条件で放散された熱量(b)を求め、下記の式に従い保温率(%)を算出した。
保温率(%)=(1−a/b)×100
【0311】
測定結果から、下記式Aに従って、保温性指数を求めた。
式A:保温性指数=保温率(%)/試料の目付け(g/m
2)
【0312】
保温性指数の算出結果を表13に示す。保温性指数が高いほど、保温性に優れる材料と評価することができる。
【表13】
【0313】
改変フィブロイン(PRT918又はPRT799)を含む人工フィブロイン繊維は、既存の材料と比べて、保温性指数が高く、保温性に優れていることが分かる。したがって、人工フィブロイン繊維とセルロース繊維を混用して生地とすることにより保温性に優れた生地を得ることができる。
【0314】
[試験例4:生地の染色]
試験例3と同様にして、捲縮された人工フィブロイン繊維(原料繊維)を製造した。人工フィブロイン繊維のステープルを生地の原料として用いた。
【0315】
まず、公知の方法で開繊した綿のワタの精練を行った。精練は、市販のキレート洗浄剤と浸透剤を含む溶液中に綿のワタを10分間浸漬して行い、その後、常温で10分間水洗浄した。次いで、精練した綿をワタの状態で、反応染料(製品名:KP ZOL.BLACK、紀和化学工業株式会社製)を含む染色液に60℃、50分間浸漬して染色した。反応染料の濃度は、染色液の全質量を基準として、20%o.w.f.とし、浴比は1:10とした。染色後の綿を常温の水や湯を用いて複数回洗浄した。染色及び洗浄後の綿のワタに、人工フィブロイン繊維のステープルを混打綿機を用いてミキシングして、綿と人工フィブロイン繊維のステープルとが混合したミキシングワタ(原料混合繊維)を作製した。ミキシングワタを用いて公知の綿紡績の工程により紡績糸(混紡糸)を作製した。紡績糸(混紡糸)を編成して編生地を作製した。界面活性剤(製品名:サンモールBH−230、日華化学株式会社製)を用いて、編生地に対して、公知の方法にて70℃の条件下、20分間精練工程を行った。編生地を95℃の酸性染料(製品:ラナシン・ブラックMDL170、アークロマ・ジャパン株式会社製)の濃度0.2%水溶液に40分間浸漬して、主に人工フィブロイン繊維を染色した。染色後の編生地を常温の水で5回洗浄した。洗浄後、綿の染色堅牢度を高めるためにカチオン系のフィックス剤(製品名:Fix−N10、里田化学株式会社製)を用いたフィックス処理を行った。その後、フィックス処理後の編生地を常温の水で2回洗浄した。洗浄後の編生地を120℃で1分間乾燥させた。
【0316】
以上の方法により、クモ糸タンパク質繊維にダメージを与えることなく染色された生地が製造された。上述の方法によれば、生地をムラなく染色可能であった。
【0317】
なお、本来は、生地に対して、人工フィブロイン繊維の染色堅牢度を高めるためのフィックス処理(アニオン系)を行った後、綿の染色堅牢度を高めるためのフィックス処理(カチオン系)を実施するのが一般的であるが、そうした場合、人工フィブロイン繊維の染色堅牢度が逆に低下する傾向が認められた。そのため、本試験例では、生地に対して、綿の染色堅牢度を高めるためのフィックス剤(カチオン系)を用いたフィックス処理のみを実施した。そうすることで染色堅牢度がより一層向上することがわかった。