【課題】油溝の単体で潤滑油を保持することができ、潤滑油の供給が断続的である潤滑環境下、或いは、潤滑油が微量である潤滑環境下であったとしても焼付きを防止することができる円すいころ軸受を提供する。
【解決手段】円すいころ軸受10の保持器14は、小径側円環部16の軸方向内端面16aと円すいころ13の小径側端面13cとの間に第1隙間S1を有すると共に、大径側円環部15の軸方向内端面15aと円すいころ13の大径側端面13bとの間に第2隙間S2を有して、軸方向に沿って所定の範囲で移動可能に設けられ、大径側円環部15の軸方向内端面15aには、毛管力で潤滑油を保持する油溝20、及び潤滑油を蓄えるオイルポケット30が設けられ、保持器14が円すいころ13の小径側に軸方向に移動したときに、油溝20及びオイルポケット30が円すいころ13の大径側端面13bに接触し、保持器14が円すいころ13の大径側に軸方向に移動したときに、油溝20及びオイルポケット30が円すいころ13の大径側端面13bから離れる。
内周面に外輪軌道面を有する外輪と、外周面に内輪軌道面を有する内輪と、前記外輪軌道面と前記内輪軌道面との間に転動可能に設けられる複数の円すいころと、前記複数の円すいころを周方向に略等間隔に保持する保持器と、を備え、
前記保持器は、大径側円環部と、前記大径側円環部と同軸に配置される小径側円環部と、前記大径側円環部と前記小径側円環部とを軸方向に連結し、周方向に略等間隔に設けられる複数の柱部と、周方向に互いに隣り合う前記柱部間に形成され、前記円すいころを転動可能に保持するポケットと、を有する円すいころ軸受であって、
前記保持器は、前記小径側円環部の軸方向内端面と前記円すいころの小径側端面との間に第1隙間を有すると共に、前記大径側円環部の軸方向内端面と前記円すいころの大径側端面との間に第2隙間を有して、軸方向に沿って所定の範囲で移動可能に設けられ、
前記大径側円環部の軸方向内端面には、毛管力で潤滑油を保持する油溝、及び潤滑油を蓄えるオイルポケットが、少なくとも1つずつ設けられ、
前記保持器が前記円すいころの小径側に軸方向に移動したときに、前記油溝及び前記オイルポケットが前記円すいころの大径側端面に接触し、前記保持器が前記円すいころの大径側に軸方向に移動したときに、前記油溝及び前記オイルポケットが前記円すいころの大径側端面から離れることを特徴とする円すいころ軸受。
前記オイルポケットは、前記円環状の接触面と前記大径側円環部の軸方向内端面とが前記円すいころの長手方向において重なり合う領域に収まるように設けられることを特徴とする請求項3に記載の円すいころ軸受。
潤滑油が軸受内部に断続的に供給される、或いは、軸受内部の潤滑油が微量である潤滑環境下で使用されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の円すいころ軸受。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そして、上記特許文献1に記載の円すいころ軸受100では、保持器114の大径側円環部115の軸方向内端面115aに、円周方向に沿った1つの油溝120が形成され、油溝120の内部に蓄えられる潤滑油量を多くするために、この油溝120の径方向幅が大径側円環部115の径方向幅の1/3に設定されている。つまり、例えば、大径側円環部115の径方向幅が9mmの場合、油溝120の径方向幅は3mmとなる。この場合、油溝120の単体で毛細管現象を発生させて潤滑油を保持することができないため、上記特許文献1に記載されているように、円すいころ113で油溝120に蓋をする必要があった。
【0007】
しかしながら、円すいころ113で油溝120に蓋をしたとしても、油溝120の径方向幅が大きいため、油溝120内の潤滑油は、十分な毛細管現象を起こせず、円すいころ113と大径側円環部115との間で形成される油膜を経由して、直ぐに次々と油溝120から漏れ出てしまう。このため、微量な潤滑油の潤滑環境下において長期間経った頃には、円すいころ113と大径側円環部115の接触面の僅かな油膜しか残らないという問題があった。
【0008】
また、
図19に示すように、保持器114が円すいころ113の大径側に軸方向に移動した場合、円すいころ113の大径側端面113bと大径側円環部115の軸方向内端面115aとの間の隙間が大きくなって、毛細管現象が働かずに油溝120から潤滑油が漏れ出てしまう。このため、上記特許文献1では、円すいころ113と保持器114との間の軸方向の隙間を極めて小さくする必要があり、円すいころ113の軸方向長さの管理と円すいころ113の保持器114への組み込みが困難であった。
【0009】
さらに、上記特許文献1の図面では、円すいころの大径側端面が平面状に記載されているが、
図19〜
図21に示すように、円すいころ113の大径側端面113bが凸球面状に形成されると共に、大径側端面113bの中心部に凹部113dが形成されている場合がある。このような円すいころ113では、例え、円すいころ113と保持器114との間の軸方向の隙間を小さくしたとしても、円すいころ113の凹部113dと油溝120が重なり合う部分の隙間SP(
図22参照)から潤滑油が漏れ出てしまっていた。
【0010】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、油溝の単体で潤滑油を保持することができ、潤滑油の供給が断続的である潤滑環境下、或いは、潤滑油が微量である潤滑環境下であったとしても焼付きを防止することができる円すいころ軸受を提供することにある。
【0011】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1)内周面に外輪軌道面を有する外輪と、外周面に内輪軌道面を有する内輪と、前記外輪軌道面と前記内輪軌道面との間に転動可能に設けられる複数の円すいころと、前記複数の円すいころを周方向に略等間隔に保持する保持器と、を備え、前記保持器は、大径側円環部と、前記大径側円環部と同軸に配置される小径側円環部と、前記大径側円環部と前記小径側円環部とを軸方向に連結し、周方向に略等間隔に設けられる複数の柱部と、周方向に互いに隣り合う前記柱部間に形成され、前記円すいころを転動可能に保持するポケットと、を有する円すいころ軸受であって、前記保持器は、前記小径側円環部の軸方向内端面と前記円すいころの小径側端面との間に第1隙間を有すると共に、前記大径側円環部の軸方向内端面と前記円すいころの大径側端面との間に第2隙間を有して、軸方向に沿って所定の範囲で移動可能に設けられ、前記大径側円環部の軸方向内端面には、毛管力で潤滑油を保持する油溝、及び潤滑油を蓄えるオイルポケットが、少なくとも1つずつ設けられ、前記保持器が前記円すいころの小径側に軸方向に移動したときに、前記油溝及び前記オイルポケットが前記円すいころの大径側端面に接触し、前記保持器が前記円すいころの大径側に軸方向に移動したときに、前記油溝及び前記オイルポケットが前記円すいころの大径側端面から離れることを特徴とする円すいころ軸受。
(2)前記油溝及び前記オイルポケットは、前記保持器の周方向に沿って形成されることを特徴とする(1)に記載の円すいころ軸受。
(3)前記油溝は、前記円すいころの大径側端面と接触可能な溝端部を有し、前記円すいころの大径側端面は、前記大径側端面の中心部に形成される円形状の凹部と、前記凹部の周囲に設けられ、前記大径側円環部の軸方向内端面と接触可能な円環状の接触面と、を有し、前記油溝の前記溝端部は、前記円環状の接触面と前記大径側円環部の軸方向内端面とが前記円すいころの長手方向において重なり合う領域に収まるように設けられることを特徴とする(2)に記載の円すいころ軸受。
(4)前記オイルポケットは、前記円環状の接触面と前記大径側円環部の軸方向内端面とが前記円すいころの長手方向において重なり合う領域に収まるように設けられることを特徴とする(3)に記載の円すいころ軸受。
(5)前記大径側円環部の軸方向内端面が凹球面状に形成され、前記円すいころの大径側端面が凸球面状に形成され、前記大径側円環部の軸方向内端面の凹球面状の曲率半径SRyは、前記円すいころの大径側端面の凸球面状の曲率半径Raの±10%以内に設定されることを特徴とする(1)に記載の円すいころ軸受。
(6)潤滑油が軸受内部に断続的に供給される、或いは、軸受内部の潤滑油が微量である潤滑環境下で使用されることを特徴とする(1)〜(5)のいずれか1つに記載の円すいころ軸受。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、保持器の大径側円環部の軸方向内端面に、毛管力で潤滑油を保持する油溝が設けられるため、円すいころで油溝に蓋をしなくても、油溝の単体で潤滑油を保持することができる。また、保持器が円すいころの小径側に軸方向に移動したときに、油溝及びオイルポケットが円すいころの大径側端面に接触するため、潤滑油の供給が断続的である潤滑環境下、或いは、潤滑油が微量である潤滑環境下であったとしても軸受の焼付きを防止することができる。また、保持器が円すいころの大径側に軸方向に移動したときに、油溝及びオイルポケットが円すいころの大径側端面から離れて、大径側円環部が円すいころに常時接触しないため、軸受回転時の摩擦抵抗の増加を抑制することができ、さらに、大径側円環部の摩耗を抑制することができる。また、高度な部品寸法精度などの管理が不要であり、製造コストの増大を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る円すいころ軸受の一実施形態を説明する断面図である。
【
図2】保持器と円すいころを径方向外側から見た平面図である。
【
図3】
図1に示す保持器を径方向内側から見た模式図である。
【
図4】油溝及びオイルポケットと円すいころの大径側端面との位置関係を示す模式図である。
【
図5】
図1に示す保持器が円すいころの大径側に軸方向に移動したときを説明する断面図である。
【
図6】
図1に示す保持器が円すいころの小径側に軸方向に移動したときを説明する断面図である。
【
図7A】溝端部が円すいころと接する状態を示す説明図である。
【
図7B】溝端部が円すいころと接しない状態を示す説明図である。
【
図8A】油溝の角部がシャープエッジに形成される場合を示す説明図である。
【
図8B】油溝の角部が大きな円弧状に形成される場合を示す説明図である。
【
図9A】油溝の深さを油溝の溝中央部から溝端部に向かうに従って小さくした場合を示す説明図である。
【
図9B】油溝の深さを油溝の溝中央部から溝端部まで均一にした場合を示す説明図である。
【
図10】油溝の径方向断面の溝底すみの円弧形状の半径を、油溝の溝中央部から溝端部に向かうに従って小さくすることを説明する模式図である。
【
図11】油溝の径方向幅を長手方向両端部で小さくした第1例を説明する模式図である。
【
図12】油溝の径方向幅を長手方向両端部で小さくした第2例を説明する模式図である。
【
図13】油溝の径方向幅を長手方向両端部で小さくした第3例を説明する模式図である。
【
図14】油溝の径方向幅を長手方向両端部で小さくした第4例を説明する模式図である。
【
図15】油溝の径方向幅を溝中央部から溝端部に向かうに従って小さくした第1例を説明する模式図である。
【
図16】油溝の径方向幅を溝中央部から溝端部に向かうに従って小さくした第2例を説明する模式図である。
【
図17】潤滑油ポンプによる軸受への給油を説明する断面図である。
【
図18】歯車の跳ね掛けによる軸受への給油を説明する断面図である。
【
図19】従来の円すいころ軸受において、保持器が円すいころの大径側に軸方向に移動したときを説明する断面図である。
【
図20】
図19に示す保持器が円すいころの小径側に軸方向に移動したときを説明する断面図である。
【
図21】
図19に示す保持器と円すいころを径方向外側から見た平面図である。
【
図22】
図19に示す油溝と円すいころの大径側端面との接触位置関係を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る円すいころ軸受の一実施形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0015】
本実施形態の円すいころ軸受10は、
図1に示すように、内周面に外輪軌道面11aを有する外輪11と、外周面に内輪軌道面12aを有する内輪12と、外輪軌道面11aと内輪軌道面12aとの間に転動可能に設けられる複数の円すいころ13と、複数の円すいころ13を周方向に略等間隔に保持する保持器14と、を備える。なお、本実施形態では、ハウジングH(
図17参照)の内部を循環する潤滑油が、潤滑油ポンプP(
図17参照)などにより軸受内部に適宜供給される。
【0016】
内輪12は、内輪12の大径側端部に設けられる大鍔部12bと、内輪12の小径側端部に設けられる小鍔部12cと、を有する。内輪12の外周面は、略円すい状に形成されている。
【0017】
円すいころ13は、円すいころ13の周面に設けられる転動面13aと、円すいころ13の大径側端部に設けられる大径側端面13bと、円すいころ13の小径側端部に設けられる小径側端面13cと、を有する。また、大径側端面13bは、曲率半径Raの凸球面状に形成されており、その中心部に円形状の凹部13dが形成されている。上記凸球面の中心は、円すいころ13の自転軸上に位置している。
【0018】
保持器14は、合成樹脂製であり、アキシアルドローにより射出成形されており、大径側円環部15と、大径側円環部15と同軸配置される小径側円環部16と、大径側円環部15と小径側円環部16とを軸方向で連結し、周方向に略等間隔に設けられる複数の柱部17と、周方向に互いに隣り合う柱部17間で、大径側円環部15及び小径側円環部16により囲まれて形成され、円すいころ13を転動可能に保持するポケット18と、を有する。
【0019】
また、保持器14は、保持器14の小径側円環部16の軸方向内端面16aと円すいころ13の小径側端面13cとの間に第1隙間S1を有する。また、保持器14は、保持器14の大径側円環部15の軸方向内端面15aと円すいころ13の大径側端面13bとの間に第2隙間S2を有する。これにより、保持器14は、軸方向に沿って所定の範囲で移動可能に設けられる。
【0020】
そして、本実施形態の円すいころ軸受10では、
図1に示すように、第1隙間S1のころ軸方向寸法をD1、第2隙間S2のころ軸方向寸法をD2、円すいころ13の長さ寸法をLR、保持器14のポケット18のころ軸方向の長さ寸法をLP、隙間全体のころ軸方向の総和寸法をDtとしたとき、Dt=D1+D2=LP−LRの関係となる。なお、ころ軸方向寸法D1,D2、円すいころ13の長さ寸法LR、及びポケット18のころ軸方向の長さ寸法LPは、円すいころ13の中心軸(自転軸)方向に沿った寸法である。
【0021】
このように、円すいころ13と保持器14との間には軸方向の隙間が設けられるため、保持器14は、軸方向に沿って隙間の総和寸法Dtの範囲で自由に移動可能である。また、本実施形態では、第1隙間S1のころ軸方向寸法D1及び第2隙間S2のころ軸方向寸法D2は、厳密な寸法管理は不要で、保持器の一般的な加工精度を考慮して、一般的な隙間寸法である0.05mm以上に設定されている。
【0022】
また、保持器14の大径側円環部15の軸方向内端面(以下、単に「ポケット面」とも言う)15aの表面は、粗く形成されており、具体的なポケット面15aの表面粗さ(算術平均粗さ)は3μm〜20μmに設定される。
【0023】
そして、大径側円環部15のポケット面15aの粗さは、後述する油溝20及びオイルポケット30が蓄えた潤滑油を円すいころ13に導くように機能する。これにより、ポケット面15aの保油能力及び給油能力を高めることができる。また、後述する油溝20及びオイルポケット30の内面も保油能力を高めるために粗く形成されていた方が好ましい。また、ポケット面15aが保持器成形時の型抜き方向に対してほぼ垂直なため、ポケット面15aを粗く形成したとしても、成形後の離型の際に支障になることはない。なお、ポケット面15aの表面粗さは、全てのポケット18に対して設定してもよいし、一部のポケット18に対して設定してもよい。
【0024】
大径側円環部15のポケット面15aは、曲率半径SRyの凹球面状に形成されている。そして、ポケット面15aの凹球面状の曲率半径SRyは、円すいころ13の大径側端面13bの凸球面状の曲率半径Raの±10%以内に設定されている(0.9Ra≦SRy≦1.1Ra)。これにより、ポケット面15aと円すいころ13の大径側端面13bとの密着度合いが向上するため、高い保油及び給油効果を得ることができる。しかしながら、SRyをRaに一致(SRy=Ra)させて全面当りにしてしまうと、摩擦抵抗が増加してしまうため、僅かに曲率半径をずらして完全密着させない状態が最適である。
【0025】
また、
図1〜
図4に示すように、保持器14の大径側円環部15のポケット面15aには、複数(本実施形態では2つ)の微細な油溝20が形成されている。そして、2つの油溝20は、有底溝であり、それぞれのポケット18において、保持器14の周方向に沿って平行に形成されている。油溝20は、毛管力で潤滑油を保持可能な溝であり、保持器14の保油能力を高めると共に、円すいころ13への潤滑油の伝播を促進する。なお、油溝20は、全てのポケット18に対して設けられてもよいし、一部のポケット18に対して設けられてもよい。なお、油溝20は、1つ以上であればよく、設置数は任意である。
【0026】
さらに、保持器14の大径側円環部15のポケット面15aには、潤滑油を蓄える1つのオイルポケット30が形成されている。そして、オイルポケット30は、有底溝であり、それぞれのポケット18において、保持器14の周方向に沿って形成されている。なお、オイルポケット30は、全てのポケット18に対して設けられてもよいし、一部のポケット18に対して設けられてもよい。また、オイルポケット30は、1つに限定されず2つ以上であってもよい。
【0027】
図4は、油溝20及びオイルポケット30と円すいころ13の大径側端面13bとの位置関係を示す模式図である。円すいころ13の大径側端面13bは、大径側端面13bの中心部に形成される円形状の凹部13dと、凹部13dの周囲に設けられ、ポケット面15aと接触可能な円環状の接触面13eと、を有する。そして、2つの油溝20のそれぞれの溝端部20aは、円環状の接触面13eとポケット面15aとが円すいころ13の長手方向において重なり合う領域(円すいころ13の長手方向に見たときに重なり合う領域)に収まるように設けられる。これにより、
図7〜
図9を用いて後述するメカニズムにより溝端部20aに集まった潤滑油を余す事なく、円すいころ13との毛管力によって円すいころ13に給油することが可能となる。なお、
図4、
図7〜
図9中の符号Lは潤滑油(ドット模様を付与した部分)である。
【0028】
また、オイルポケット30は、円環状の接触面13eとポケット面15aとが円すいころ13の長手方向において重なり合う領域(円すいころ13の長手方向に見たときに重なり合う領域)に収まるように設けられる。これにより、オイルポケット30に円すいころ13の円環状の接触面13eにより蓋がされるため、オイルポケット30から潤滑油が漏れ出ることを抑制することが可能となる。そして、オイルポケット30を設けることにより、保持器14に蓄えられる潤滑油量を増やすことができる。
【0029】
また、
図4に示すように、本実施形態では、2つの油溝20は、環状扇形状にそれぞれ形成されており、油溝20の長手方向両端辺である一対の端部連結辺21は、大径側円環部15の径方向内側に向かうに従って互いの周方向間隔が大きくなるように傾斜して形成されている。また、1つのオイルポケット30は、環状扇形状に形成されており、オイルポケット30の長手方向両端辺である一対の端部連結辺31は、円すいころ13の円環状の接触面13eの外周縁に倣った円弧形状に形成されている。
【0030】
また、2つの油溝20の溝中央部20bは、円すいころ13の凹部13dとポケット面15aとが円すいころ13の長手方向において重なり合う領域、つまり、円すいころ13により蓋がされずに隙間となる部分(
図22の隙間SPと同様)に設けられている。しかしながら、油溝20は毛管力により単体で潤滑油を保持することができるため、蓋がなくても油溝20の溝中央部20bから潤滑油が漏れ出るのを防止することができる。なお、油溝20は、潤滑油を供給する溝端部20aが円すいころ13の大径側端面13bと接触している。
【0031】
ここで、本説明で述べる毛管力とは、固体が液体を引き寄せようとする力のことである。固体(保持器)の表面張力が液体(潤滑油)の表面張力よりも大きなときに毛管力が生じ、液体は固体表面に引き寄せられる。また、液体は表面張力により空気と触れる面を減らそうともする。つまり、潤滑油は空気と接する面積を減少させながら、保持器と接する面積を増そうとする。このため、保持器の油溝は、細い(油溝20の径方向幅寸法が小さい)ほど毛管力が高まる。この原理を利用し、本発明では、ポケット面15aに、細い形状の油溝20を形成している。そして、油溝20は、大径側円環部15のポケット面15aと接続する溝端部20aから円すいころ13の大径側端面13bに潤滑油を供給することを特徴とする。なお、溝端部20aは、油溝20の周方向(長手方向)の端部のことである。また、後述する溝中央部20bは、油溝20の周方向(長手方向)の中央部のことである。
【0032】
また、油溝20は、毛管力の作用で保油及び円すいころ13への給油が可能な微細な形状であることが必要であり、本実施形態では、油溝20の径方向幅及び深さ(軸方向幅)は一定又は溝端部20aが浅くなる(軸方向幅が小さくなる)ように設定されており、油溝20の潤滑油の保油性、保持器14の強度及び一般的な射出成形の精度などを考慮して、例えば、油溝20の径方向幅D3は、最大部で0.5mm以下に設定されており、0.2mm以下に設定された方がより望ましい。油溝20の深さD4は、最大部で0.05mmから円すいころ13の長さ寸法LRの1/5以下の範囲に設定される。なお、油溝20の径方向幅D3は、油溝20の延在方向と直交する方向の幅である。また、アキシアルドローにより成形される油溝20は、射出成形時に成形金型が移動(離型)する方向である、保持器14の中心軸と同じ方向(軸方向)に延在している。なお、オイルポケット30は、毛管力により潤滑油を保持する構成ではないので、その径方向幅を1mm以上、且つ大径側円環部15の径方向幅の1/2以下に設定しており、空間体積を大きくして、多くの潤滑油を蓄えることができる。
【0033】
保持器14は、合成樹脂製であり、例えば、アキシアルドローにより射出成形可能である。大径側円環部15のポケット面15aの表面粗さ、油溝20、及びオイルポケット30もこの射出成形により同時に形成可能である。この場合、加工工程の追加、二色成形(ダブルモールド)のような特殊な成形、及び別途製作した保油部材の接着などが不要である。従って、製造コストをほぼ増大させることなく、耐焼付き性を向上することができる。
【0034】
また、保持器14の材料としては、特に制限はないが、使用される潤滑油に対して表面張力が高く毛管力を生じる親油性を有する合成樹脂材であればよく、例えば、ナイロンなどの一般的な保持器樹脂材を挙げることができる。なお、保持器14の合成樹脂に強化剤として繊維を含有させてもよい。また、親油性が低い樹脂材を使用することも可能であるが、この場合、親油処理を施した方が好ましい。
【0035】
図7A及び
図7Bは、油溝20の長手方向(周方向)と円すいころ13との位置関係を示す説明図であり、保持器14の1つの油溝20の部分を周方向に沿って切断した断面図である。保持器14は、毛管力によって油溝20の内部に蓄えられた潤滑油を、同じくころ表面との毛管力の作用によって円すいころ13の大径側端面13bに供給することを特徴としている。この作用を効果的にさせるためには、油溝20は、円すいころ13とポケット面15aが接する部分に高い毛管力を発生させることが重要である。そして、その手法の1つとして、本実施形態では、
図7Aに示すように、油溝20の中間部分よりも毛管力が高い溝端部20aが円すいころ13と接するように構成している。これにより、油溝20の内部の潤滑油を、溝端部20aの角部20dから円すいころ13の大径側端面13bとの毛管力で吸い上げることができる。なお、
図7Bでは、溝端部20aが円すいころ13と接しないため、潤滑油を吸い上げる量が少なくなる。また、
図7A及び
図7Bでは、説明の理解を容易にするため、油溝20の深さを実際よりも拡大して表している。
【0036】
図8A及び
図8Bは、油溝20の径方向の断面形状を示す説明図であり、保持器14の1つの油溝20の部分を径方向に沿って切断した断面図である。毛管力は毛細管現象などからも明白なように、狭い空間ほど強く働くため、油溝20の径方向幅D3が細くても、
図8Bに示すように開口部が広がっていると弱くなる。そこで、本実施形態では、
図8Aに示すように、油溝20の壁面(油溝20の径方向の壁面と周方向の壁面の少なくとも一方)20cとポケット面15aとを接続する角部20dがシャープエッジ(半径0.1mm以下の円弧状の面取り、好ましくは半径0.05mm以下の円弧状の面取り、又は1辺0.1mmで45度の直線状の面取り)に形成されている。角部20dをシャープエッジに形成することにより、潤滑油をポケット面15aまで導きやすくすることが可能となる。なお、
図8Bでは、角部20dの円弧が大きいため、潤滑油の油面がポケット面15aに届かず、給油量が少なくなる。
【0037】
また、油溝20の径方向断面の溝底すみ20eは、円弧形状に形成されており、この溝底すみ20eの円弧形状の半径Rwが小さい場合、毛管力が高まり潤滑油が溝底すみ20eに留まるように作用する。このため、油溝20の径方向断面の溝底すみ20eの円弧形状の半径Rwは、最大となる油溝20の長手方向中央である溝中央部20bにおいて油溝20の径方向幅D3の1/4〜1/2に設定される方が望ましい。また、溝端部20aへの毛管力を高めるためには、
図10に示すように、油溝20の径方向断面の溝底すみ20eの円弧形状の半径Rwを、油溝20の溝中央部20bから溝端部20aに向かうに従って小さくする(Rw1>Rw2>Rw3)方が更に望ましい。これにより、溝中央部20bに溜まった潤滑油を、より毛管力の高い溝端部20aに吸い上げて、ポケット面15aに導くことが可能となる。
【0038】
図9A及び
図9Bは、油溝20の長手方向(周方向)の断面形状を示す説明図であり、保持器14の1つの油溝20の部分を周方向に沿って切断した断面図である。
図9Bに示すように、油溝20の周方向断面の溝底すみ20fが直角に近い場合、潤滑油が溝底すみ20fに留まってしまい、円すいころ13への給油が難しくなる。このため、溝端部20aの深さD4を、溝中央部20bの深さD4よりも小さく(浅く)設定した方が望ましい。具体的には、
図9Aに示すように、油溝20の周方向断面の溝底すみ20fを円弧形状に形成して、油溝20の深さD4を、油溝20の溝中央部20bから溝端部20aに向かうに従って小さくしている。これにより、溝端部20aのポケット面15aと接続する部分の毛管力を高めることができ、溝底に溜まった潤滑油を効率よく吸い上げて、円すいころ13に給油することが可能となる。なお、
図9A及び
図9Bでは、説明の理解を容易にするため、油溝20の深さを実際よりも拡大して表している。
【0039】
図11〜
図14は、油溝20の径方向幅D3を長手方向両端部で小さく(細く)した例を説明する模式図である。つまり、
図11〜
図14に示す油溝20では、溝端部20aの径方向幅D3を、溝中央部20bの径方向幅D3よりも小さく設定している。このように油溝20の先端を細くすることにより、溝端部20aの毛管力を高めることができ、溝底に溜まった潤滑油を効率よく吸い上げて、円すいころ13に給油することが可能となる。また、細くなっている部分が先端の一部に限られるため、溝全体の空間体積をあまり減らすことなく、多くの潤滑油を蓄えやすい形状でもある。
【0040】
そして、
図11に示す油溝20は、油溝20の長手方向端部の径方向一方側に直線状の面取りCxを施した形状(環状扇形状)である。
図12に示す油溝20は、油溝20の長手方向端部の径方向両側に直線状の面取りCxを施した形状(略六角形状)である。
図13に示す油溝20は、
図11に示す環状扇形状の油溝20において、その長手方向端部に円弧状の面取りRxを施した形状である。
図14に示す油溝20は、
図11に示す環状扇形状の油溝20において、その長手方向端部の径方向内側に直線状の小面取りCxxを施した形状である。また、
図10〜
図14に示す油溝20では、油溝20の深さD4を溝中央部20bから溝端部20aに向かうに従って浅く、且つ油溝20の径方向断面の溝底すみ20eの円弧形状の半径Rwを、油溝20の溝中央部20bから溝端部20aに向かうに従って小さく(Rw1>Rw2>Rw3)している。
【0041】
図15及び
図16は、油溝20の径方向幅D3を溝中央部20bから溝端部20aに向かうに従って小さく(細く)した例を説明する模式図である。
図16に示す油溝20は、溝端部20aが尖った略三日月形状である。また、
図15及び
図16に示す油溝20では、油溝20の深さD4を溝中央部20bから溝端部20aに向かうに従って浅く、且つ油溝20の径方向断面の溝底すみ20eの円弧形状の半径Rwを、油溝20の溝中央部20bから溝端部20aに向かうに従って小さく(Rw1>Rw2>Rw3)している。このような構造にすることにより、溝端部20aのポケット面15aと接続する部分の毛管力を高めることができ、溝底に溜まった潤滑油を効率よく吸い上げて、円すいころ13に給油することが可能となる。
【0042】
なお、油溝20の周方向長さ、油溝20の径方向幅D3の変化度合い、油溝20の深さD4の変化度合い、油溝20の径方向断面の溝底すみ20eの円弧形状の半径Rwの変化度合い、及びその変化の連続・不連続は自由に設定可能である。また、上記項目の一部のみを採用してもよい。また、
図10〜
図16に示した油溝20の形状は、オイルポケット30に適用してもよい。また、
図11に示した形状例の油溝20の場合、油溝20の径方向幅D3は、溝端部20aの近傍において、溝中央部20bから溝端部20aに向かうに従い徐々に小さくされている。具体的には、溝端部20aを軸方向から見た場合、溝端部20aを構成する部分の角部20dの成す角度θ20aは、30〜60度の範囲の鋭角(
図11の場合は45度)に設定されている。また、
図15に示した形状例の油溝20の場合、溝中央部20bに対する溝端部20aでの寸法の比率は、径方向幅D3を略50%とし、深さD4を略25%としている。また、
図16に示した三日月形状の油溝20の場合、溝中央部20bに対する溝端部20a近傍での深さD4の比率を略25%とすると共に、溝端部20aの成す角度θ20aを30〜60度の範囲の鋭角(
図16の場合は30度)に設定している。
【0043】
このように構成された円すいころ軸受10では、軸受に潤滑油が供給され軸受内が潤滑油で満たされている場合、軸受回転のポンプ作用により潤滑油が内輪12の小径側から大径側へ流れる現象が起きる。従って、本実施形態では、
図5に示すように、上記ポンプ作用による潤滑油の流れの力を受けて、保持器14が円すいころ13の大径側に軸方向に移動し、保持器14の大径側円環部15が円すいころ13から離れる側に移動する(Dt=D2、D1=0)。これにより、大径側円環部15が円すいころ13に常時接触しないため、軸受回転時の摩擦抵抗の増加が抑制される。また、この状態では、軸受内が潤滑油で満たされているため、油溝20及びオイルポケット30に潤滑油が供給され、油溝20及びオイルポケット30に潤滑油が蓄えられる。
【0044】
その一方、軸受に潤滑油が供給されず軸受内の潤滑油が微量である場合、ポンプ作用による潤滑油の流れは発生せず、
図6に示すように、保持器14は自重の分力により円すいころ13の小径側に軸方向に移動し、保持器14の大径側円環部15のポケット面15aに形成された油溝20及びオイルポケット30が円すいころ13の大径側端面13bに接触する(Dt=D1、D2=0)。これにより、油溝20及びオイルポケット30に蓄えられた潤滑油が円すいころ13の大径側端面13bに供給される。つまり、軸受内の潤滑油が微量である場合にのみ、油溝20及びオイルポケット30が円すいころ13の大径側端面13bに接触し、潤滑油が円すいころ13に供給される。また、この状態では、円すいころ13の円環状の接触面13eがオイルポケット30に蓋をするため、オイルポケット30内の潤滑油が円すいころ13に徐々に供給される。なお、本発明の円すいころ軸受10は、保持器14の自重の分力を利用して保持器14を移動させるものであるため、水平に設けられる軸(横軸)を支持する構造に用いるのが好適である。
【0045】
以上説明したように、本実施形態の円すいころ軸受10によれば、保持器14の大径側円環部15のポケット面15aに、毛管力で潤滑油を保持する微細な油溝20が設けられるため、円すいころ13で油溝20に蓋をしなくても、油溝20の単体で潤滑油を保持することができる。また、保持器14が円すいころ13の小径側に軸方向に移動したときに、油溝20及びオイルポケット30が円すいころ13の大径側端面13bに接触するため、潤滑油の供給が断続的である潤滑環境下、或いは、潤滑油が微量である潤滑環境下であったとしても軸受10の焼付きを防止することができる。また、保持器14が円すいころ13の大径側に軸方向に移動したときに、油溝20及びオイルポケット30が円すいころ13の大径側端面13bから離れて、大径側円環部15が円すいころ13に常時接触しないため、軸受回転時の摩擦抵抗の増加を抑制することができ、さらに、大径側円環部15の摩耗を抑制することができる。また、高度な部品寸法精度などの管理が不要であり、製造コストの増大を抑制することができる。
【0046】
更に詳細に説明すると、油溝20及びオイルポケット30が形成された大径側円環部15は、事前に接触力(押付け力)が設定されているわけではなく、保持器14の自重の分力により円すいころ13に接触するため、摩擦抵抗を殆ど発生させず、大径側円環部15の摩耗劣化を最小限に抑えることができる。
【0047】
また、本実施形態の円すいころ軸受10によれば、保持器14の大径側円環部15のポケット面15aに、油溝20に加えてオイルポケット30が併設されるため、短時間で潤滑油が遮断されたときに、大量の潤滑油を円すいころ13に供給することができる。これにより、短時間の潤滑油遮断環境から長期間の潤滑油遮断環境まで幅広く対応することができる。なお、短時間の潤滑油遮断環境とは、車両旋回時などの遠心力、加減速、路面傾斜による潤滑油の偏りなどにより一時的に潤滑油が不足する環境のことである。長期間の潤滑油遮断環境とは、一晩から数日間エンジンを始動させない環境、及びハイブリッド車の電動走行モードや自動車の被牽引時などオイルポンプが作動しない環境のことである。
【0048】
また、本実施形態の円すいころ軸受10によれば、保持器14が、合成樹脂製であり、保持器14の大径側円環部15のポケット面15aの表面粗さ、油溝20、及びオイルポケット30がアキシアルドローにより保持器14と同時に射出成形されるため、製造コストの増大を抑制することができる。
【0049】
また、本実施形態の円すいころ軸受10によれば、油溝20及びオイルポケット30が周方向に沿って形成され、軸受回転時の遠心力の作用方向と油溝20及びオイルポケット30の形成方向が直交するため、油溝20及びオイルポケット30に収容される潤滑油が遠心力により飛散するのを抑制することができる。
【0050】
また、本実施形態の円すいころ軸受10によれば、潤滑油量を大幅に減らすことができるので、潤滑油の攪拌抵抗を低減することができる。また、例えば、歯車による跳ね掛けなどによって潤滑油を微量でも供給できる構造(
図18参照)とすれば、潤滑油ポンプや給油路を廃止することもでき、これにより、潤滑システム全体の軽量コンパクト化、低コスト化を図ることができる。
【0051】
また、本実施形態の円すいころ軸受10によれば、潤滑油が軸受内に断続的に供給される、或いは、軸受内の潤滑油が微量である潤滑環境下でも、焼付きを防止して軸受性能や潤滑効果を長期間に亘って維持することができる。このため、本実施形態の円すいころ軸受10は、例えば、一部のハイブリッド車のトランスミッションのようにエンジン停止時に潤滑油ポンプが一時的に停止する機構に好適に用いることができ、また、自動車の被牽引時に潤滑油ポンプが作動せずに潤滑油の十分な供給が困難な状況などに対応することができる。
【0052】
ここで、本明細書における潤滑油が微量である潤滑環境下について説明する。例えば、自動車などのトランスミッションの場合、潤滑油の供給方法として、
図17に示す潤滑油ポンプPによる潤滑油の圧送と、
図18に示す歯車Gによる潤滑油の跳ね掛けとの2通りが一般的に知られている。
【0053】
潤滑油ポンプPにより潤滑油を圧送する構造としては、
図17に示すように、円すいころ軸受10の外輪11がハウジングHに内嵌され、内輪12が回転軸Aに外嵌されており、ハウジングHに軸受10に連通する給油路Rが設けられ、この給油路Rに潤滑油ポンプPが接続される構造が一般的に知られている。この構造の場合、潤滑油ポンプPから圧送された潤滑油が給油路Rを介して軸受10に供給される。
【0054】
また、歯車Gにより潤滑油を跳ね掛ける構造としては、
図18に示すように、円すいころ軸受10の外輪11がハウジングHに内嵌され、内輪12が回転軸Aに外嵌されており、回転軸Aに内輪12と隣接して歯車Gが設けられる構造が一般的に知られている。この構造の場合、歯車Gに付着している潤滑油が軸回転に伴う遠心力により飛散し、飛散した潤滑油が軸受10に付着して給油される。
【0055】
上記した2通りの構造では、軸受の焼付きを防止するため、50cc/minから1000cc/min程度の潤滑油量が供給されている。そして、この潤滑油量が10cc/minを下回ると潤滑油不足に伴う油膜不足により発熱や焼付きが起こりやすくなり、0cc/min(無潤滑油)では焼付きが生じる。本発明は、無潤滑状態ではなく希薄潤滑状態への対応であり、潤滑油が微量である潤滑環境下、具体的には、0.01cc/min〜10cc/min程度の希薄潤滑状態で大きな効果を発揮する。
【0056】
次に、本明細書における潤滑油が断続的に供給される環境について説明する。例えば、ハイブリッド車では、エンジンを停止したまま電動モータで走行するモードがある。このモード中は、エンジンと直結した潤滑油ポンプだけの構造では、軸受に潤滑油が給油されない状態で走行が行われる。このため、数分程度までの無給油走行状態が発生するが、軸受はこの間に焼付きを起こしてはならない。この電動走行時間はバッテリーの進化と共に延長させたいニーズがある。現状では焼付き防止のために一定間隔毎にエンジンを回し、潤滑油ポンプを作動させる制御を行っている車種もある。この課題を解決するには、電動潤滑油ポンプをシステムに追加するか、本発明のような無潤滑で焼付きにくい軸受の採用が必要となる。本発明では、焼付きまでの時間は油溝及びオイルポケットに蓄えられる潤滑油量と関連があることから、潤滑油量を増やすことで無潤滑適用時間を数十分から数時間と大幅に延長させることが可能である。潤滑油量の拡大には、例えば、油溝及びオイルポケットの数の増加や油溝及びオイルポケットの深さの拡大で対応できる。
【0057】
また、乗用車は、故障時やキャンピングカーなどの大型車両での移動先での補助用車両として牽引されることがある。このようなときは、車両の駆動輪を台車などに載せることで空転を防止することが可能であるが、現実には、駆動輪を空転させながら牽引される事例が起こっている。この場合、駆動伝達はなく無負荷空転のため軸受の負担も軽微であるが、円すいころ軸受の場合、一般的に予圧をかけて使用されるため、予圧分の負荷が常に作用している。そして、この空転状態では、エンジンや電動潤滑油ポンプが稼働せず、潤滑油ポンプは停止しているため、軸受は焼付きを起こしやすい。この対策のために、跳ね掛け給油が起こるように駆動装置に工夫を施している車種もある。本発明では、潤滑油ポンプが停止しても、油溝及びオイルポケットに蓄えられた潤滑油がなくなるまで軸受に給油を行えるため、跳ね掛けが不十分又は跳ね掛けがないような被牽引状態でも耐焼付き性を大幅に向上することができる。
【0058】
また、極寒環境での始動時には、潤滑油が凍結し、潤滑油ポンプによる給油も跳ね掛けによる給油も起こらない現象が一時的に発生する。この場合は、凍結した潤滑油が温まって溶けるまでの間、軸受自身に付着していた僅かな油分で潤滑を賄わなければならない。そして、本発明では、凍結した潤滑油が油溝及びオイルポケットに蓄えられているため、軸受の発熱に伴い徐々に溶けながら潤滑するため、耐焼付き性を飛躍的に向上することができる。
【0059】
なお、本発明は、上記実施形態に例示したものに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。