特開2021-34031(P2021-34031A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 青▲島▼理工大学の特許一覧

特開2021-34031コンクリート構造全寿命性能スマートセンシング及び劣化早期警報システム並びにその方法
<>
  • 特開2021034031-コンクリート構造全寿命性能スマートセンシング及び劣化早期警報システム並びにその方法 図000003
  • 特開2021034031-コンクリート構造全寿命性能スマートセンシング及び劣化早期警報システム並びにその方法 図000004
  • 特開2021034031-コンクリート構造全寿命性能スマートセンシング及び劣化早期警報システム並びにその方法 図000005
  • 特開2021034031-コンクリート構造全寿命性能スマートセンシング及び劣化早期警報システム並びにその方法 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-34031(P2021-34031A)
(43)【公開日】2021年3月1日
(54)【発明の名称】コンクリート構造全寿命性能スマートセンシング及び劣化早期警報システム並びにその方法
(51)【国際特許分類】
   G08B 31/00 20060101AFI20210201BHJP
   G01N 17/00 20060101ALI20210201BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20210201BHJP
【FI】
   G08B31/00 B
   G01N17/00
   G01M99/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【外国語出願】
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2020-121061(P2020-121061)
(22)【出願日】2020年7月15日
(11)【特許番号】特許第6785515号(P6785515)
(45)【特許公報発行日】2020年11月18日
(31)【優先権主張番号】201910778440.2
(32)【優先日】2019年8月22日
(33)【優先権主張国】CN
(71)【出願人】
【識別番号】518229179
【氏名又は名称】青▲島▼理工大学
【氏名又は名称原語表記】QINGDAO UNIVERSITY OF TECHNOLOGY
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】特許業務法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】王▲鵬▼▲剛▼
(72)【発明者】
【氏名】金祖▲権▼
(72)【発明者】
【氏名】▲趙▼▲鉄▼▲軍▼
(72)【発明者】
【氏名】侯▲東▼▲帥▼
(72)【発明者】
【氏名】田▲礫▼
(72)【発明者】
【氏名】万小梅
(72)【発明者】
【氏名】郭思瑶
(72)【発明者】
【氏名】牟犇
(72)【発明者】
【氏名】田玉▲鵬▼
(72)【発明者】
【氏名】李哲
【テーマコード(参考)】
2G024
2G050
5C087
【Fターム(参考)】
2G024AD34
2G024BA12
2G024BA27
2G024CA17
2G024CA18
2G050AA02
2G050BA02
2G050BA03
2G050BA05
2G050BA10
2G050BA12
2G050EB10
5C087AA02
5C087AA37
5C087DD03
5C087DD20
5C087DD49
5C087EE14
5C087FF01
5C087FF02
5C087FF04
5C087GG08
5C087GG66
5C087GG70
5C087GG84
(57)【要約】      (修正有)
【課題】コンクリート構造全寿命性能スマートセンシング及び劣化早期警報システム並びにその方法を提供する。
【解決手段】早期警報システムは、メイン制御モジュール、多機能センサモジュール、盗難防止モジュール及び限界早期警報モジュールを含み、多機能センサモジュールによりコンクリート内部の環境パラメータに対するモニタリングを実現し、且つ、様々な深度部分の温度、湿度、塩化物イオン濃度、pH値、及び動的獲得した腐食発生限界塩化物イオン濃度、構造の応力状態と寿命予測モデルの組み合わせに基づき、構造の残存耐用年数を精確に予測する。また、早期警報解析を行う際に、収集したデータに対する狙いを定めた修正方法を設計しており、塩化物イオンセンサのリアルタイムモニタリングデータに対して温度及びpH値の修正を行うことでモニタリングデータの精度がより一層保証され、構造の耐久性評価、保守及び修復のために科学的根拠を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メイン制御モジュール、多機能センサモジュール、盗難防止モジュール及び限界早期警報モジュールを含み、前記多機能センサモジュール、前記盗難防止モジュール及び前記限界早期警報モジュールは、いずれも前記メイン制御モジュールと接続され、前記メイン制御モジュールは、前記多機能センサモジュールが収集したデータに対して解析処理を行い、且つ前記限界早期警報モジュールを介して即時の安全早期警報を実現し、
前記多機能センサモジュールは、予めコンクリート構造内部に埋め込まれ、温湿度センサ、塩化物イオン−pH勾配センサ、ホール電圧式鉄筋腐食センサ、鉄筋応力センサ及びコンクリートひずみセンサを含み、前記温湿度センサ、前記鉄筋応力センサ、前記コンクリートひずみセンサは、コンクリート構造の温度、湿度、鉄筋応力及びひずみパラメータをモニタリングするのに用いられ、前記塩化物イオン−pH勾配センサは、コンクリート構造内の様々な深度部分における塩化物イオン含有量、pH値の検出を行うのに用いられ、前記ホール電圧式鉄筋腐食センサは、鉄筋腐食状況及び腐食量の測定を実現するのに用いられ、
前記盗難防止モジュールは、ネットワークビデオカメラ及び盗難防止警報装置を含み、前記ネットワークビデオカメラは、モニタリングエリアのビデオ監視を実現するのに用いられ、前記盗難防止警報装置は、システム装置付近の人員に対する感知及び音声警告を実現し、装置の盗難及び損壊を防止するのに用いられ、前記限界早期警報モジュールは、コンクリート構造の劣化がハイリスク状態に入ったことの早期警報を実現するのに用いられ、前記ハイリスク状態は前記メイン制御モジュールがモデリング解析により得た結果に基づいており、腐食発生限界塩化物イオン濃度は腐食部分のコンクリート内部の塩化物イオン含有量に従って動的に設定され、
前記メイン制御モジュールは、データ前処理モジュール、動的閾値設定モジュール及び早期警報解析モジュールを含み、前記データ前処理モジュールは、前記多機能センサモジュールが収集したデータに対して前処理を行うのに用いられ、前記動的閾値設定モジュールは、前記データ前処理モジュールが修正した後の塩化物イオン濃度に基づき、使用環境条件下におけるコンクリート構造に対応する腐食発生限界塩化物イオン濃度を動的に修正し、且つ鉄筋応力、コンクリートのひずみ限界値を設定し、前記早期警報解析モジュールは、前処理後のデータと前記動的閾値設定モジュールが設定したデータを比較し、且つ得られた早期警報結果を前記限界早期警報モジュールへ送って警報を行うのに用いられ、
前記データ前処理モジュールは塩化物イオン−pH勾配センサが収集したデータに対するデータ修正モジュールも含むことで温度とpHの両方の影響を考慮しており、前記データ修正モジュールはpH影響ベースの修正モジュール及び温度影響ベースの修正モジュールを含み、
前記温度影響ベースの修正モジュールは、Ir/IrOx-pH電極の測定データに対する温度修正及びAg/AgCl電極の測定データに対する温度修正を実現し、
(1)Ir/IrOx-pH電極の測定データの温度修正では、
[1] Ir/IrOx-pH電極を通じて2つの異なる温度条件下におけるコンクリート内部のIr/IrOx-pH電極の電位値を測定する、
[2] 前記工程[1]のIr/IrOx-pH電極電位と対応する温度実測値との線形フィッティングを行い、フィッティング方程式を得る、
[3] 前記フィッティング方程式に基づき、20℃の条件下におけるIr/IrOx-pH電極の電位を得る、
[4] 20℃の条件下におけるIr/IrOx-pH電極電位とpH値はネルンストの式を満たし、Ir/IrOx-pH電極電位y1とpH値x1は線形相関であり、方程式はy1=−51.84x1+369.52であり、
前記工程[3]で得られた20℃の条件下におけるIr/IrOx-pH電極の電位及び方程式y1=−51.84x1+369.52に基づき、このときのコンクリート内部のIr/IrOx-pH電極位置部分のpH値を取得し、
(2)Ag/AgCl電極の測定データの温度修正では、
[1] Ag/AgCl電極を通じて2つの異なる温度条件下におけるコンクリート内部のAg/AgCl電極の電位値を測定する、
[2] 前記工程[1]のAg/AgCl電極電位と対応する温度実測値との線形フィッティングを行い、フィッティング方程式を得る、
[3] 前記フィッティング方程式に基づき、20℃の条件下におけるAg/AgCl電極の電位を得る、
[4] 20℃の条件下におけるAg/AgCl電極電位と塩化物イオン濃度の対数はネルンストの式を満たし、Ag/AgCl電極電位y2塩化物イオン濃度の対数x2は線形相関で、方程式はy2=−683.14x2−531.29であり、
前記工程[3]で得られた20℃の条件下におけるAg/AgCl電極の電位及び方程式y2=−683.14x2−531.29に基づき、このときのコンクリート内部のAg/AgCl電極位置部分の塩化物イオン濃度含有量を得ることを特徴とする、コンクリート構造全寿命性能スマートセンシング及び劣化早期警報システム。
【請求項2】
前記塩化物イオン−pH勾配センサは筒状主体を含み、前記筒状主体にはAg/AgCl電極及びIr/IrOx-pH電極、並びにAg/AgCl電極及びIr/IrOx-pH電極と対応する参照電極が設けられており、筒状主体の外表面には周方向に沿って多層環状溝が設けられており、前記環状溝には前記筒状主体の厚さ方向に連通する導線予備孔が予め設けられており、前記筒状主体内部には前記環状溝と対応する導線溝がさらに設けられており、Ag/AgCl電極及びIr/IrOx-pH電極はそれぞれ半円状に作られており、前記環状溝内に固定されることを特徴とする、請求項1に記載のコンクリート構造全寿命性能スマートセンシング及び劣化早期警報システム。
【請求項3】
前記pH影響ベースの修正モジュールは、Ag/AgCl電極の測定データに対するpH修正を実現し、Ir/IrOx-pH電極に基づき、コンクリート内部のpH値を測定し、pH値が10.5より大きく13より小さい場合、このときの同じ深度部分のAg/AgCl電極電位を修正する必要はなく、pH値が1より大きく10.5より小さい場合には、このときの同じ深度部分のAg/AgCl電極電位y3に対し、公式y3=14.26x3+23.58に従ってpH値x3の修正を行う必要があることを特徴とする、請求項1に記載のコンクリート構造全寿命性能スマートセンシング及び劣化早期警報システム。
【請求項4】
前記早期警報システムは、クラウドサーバも含み、前記メイン制御モジュールと前記クラウドサーバはデータインタラクションを行い、コンクリート構造に対するシステム管理を実現するとともに、データの修正、記憶及び更新を即時に行うことを特徴とする、請求項1に記載のコンクリート構造全寿命性能スマートセンシング及び劣化早期警報システム。
【請求項5】
多機能センサモジュールによりコンクリート構造の状態データを収集し、前記状態データは、温度、湿度、塩化物イオン濃度、pH値、鉄筋腐食パラメータ、鉄筋応力及びコンクリートひずみデータを含み、且つ収集したコンクリートの状態データに対して前処理を行う工程1と、
温度に基づき収集したコンクリート構造内部のpH値に対して修正を行い、Ir/IrOx-pH電極の測定データに対する温度修正によって、正確なコンクリート内部pH値のモニタリング結果を取得し、
[1] Ir/IrOx-pH電極を通じて2つの異なる温度条件下におけるコンクリート内部のIr/IrOx-pH電極の電位値を測定する、
[2] 前記工程[1]のIr/IrOx-pH電極電位と対応する温度実測値との線形フィッティングを行い、フィッティング方程式を得る、
[3] 前記フィッティング方程式に基づき、20℃の条件下におけるIr/IrOx-pH電極の電位を換算して得る、
[4] 20℃の条件下におけるIr/IrOx-pH電極電位とpH値はネルンストの式を満たし、Ir/IrOx-pH電極電位y1とpH値x1は線形相関であり、方程式はy1=−51.84x1+369.52であり、
前記工程[3]で得られた20℃の条件下におけるIr/IrOx-pH電極の電位及び方程式はy1=−51.84x1+369.52に基づき、このときのコンクリート内部のIr/IrOx-pH電極位置部分のpH値を得る工程2と、
温度及びpH値に基づき収集したコンクリート内部の塩化物イオン濃度情報に対して修正を行い、正確なコンクリート内部塩化物イオン含有量のモニタリング結果を得る工程3と、
ある深度部分のホール電圧式鉄筋腐食センサが鉄筋に腐食が発生していることを検出した場合、早期警報システムが自動でこのときの深度部分の塩化物イオン−pH勾配センサが測定した塩化物イオン濃度を腐食発生限界塩化物イオン濃度として、限界早期警報モジュールに入力する工程4と、
コンクリート状態のモニタリング結果と前記工程4で設定した腐食発生限界塩化物イオン濃度、並びに測定した鉄筋応力、コンクリートひずみ、コンクリート内部温度及び湿度パラメータにより、寿命予測モデルに基づき構造の故障率を計算し、且つ残存耐用年数を予測して、即時に安全早期警報を発する工程5と、を含むことを特徴とする、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のコンクリート構造全寿命性能スマートセンシング及び劣化早期警報システムに基づく早期警報方法。
【請求項6】
前記工程3において、温度及びpH値に基づき収集したコンクリート内部の塩化物イオン濃度情報に対して修正を行うとき、Ag/AgCl電極の測定データに対する温度、pH値の修正には、
[1] Ag/AgCl電極を通じて2つの異なる温度条件下におけるコンクリート内部のAg/AgCl電極の電位値を測定する、
[2] 前記工程[1]のAg/AgCl電極電位と対応する温度実測値との線形フィッティングを行い、フィッティング方程式を得る、
[3] 前記フィッティング方程式に基づき、20℃の条件下におけるAg/AgCl電極の電位を換算して得る、
[4] 20℃の条件下におけるAg/AgCl電極電位と塩化物イオン濃度の対数はネルンストの式を満たし、Ag/AgCl電極電位y2塩化物イオン濃度の対数x2は線形相関であり、方程式はy2=−683.14x2−531.29である、
前記工程[3]で得られた20℃の条件下におけるAg/AgCl電極の電位及び方程式y2=−683.14x2−531.29に基づき、このときのコンクリート内部のAg/AgCl電極位置部分の塩化物イオン濃度含有量を得る、
[5] Ir/IrOx-pH電極に基づき、コンクリート内部のpH値を測定する、
pH値が10.5より大きく13より小さい場合、このときの同じ深度部分のAg/AgCl電極電位を修正する必要はなく、pH値が1より大きく10.5より小さい場合には、このときの同じ深度部分のAg/AgCl電極電位y3に対してpH値x3の修正を行う必要があり、修正の公式はy3=14.26x3+23.58である、という方式を主に採用することを特徴とする、請求項5に記載のコンクリート構造全寿命性能スマートセンシング及び劣化早期警報システムの早期警報方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土木工学における材料性能試験装置の技術分野に属し、具体的にはコンクリート構造全寿命性能スマートセンシング及び劣化早期警報システム並びにその方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート構造においては、内部構造の微視的環境状態が鉄筋の腐食状況を左右し、ひいては使用されている鉄筋コンクリート構造の耐用年数にも影響を及ぼす。上述の内部構造の微視的環境状態には主に温度、湿度、pH値、塩化物イオン濃度及び応力ひずみなどのパラメータが含まれる。特に海洋環境下では、鉄筋コンクリート構造が常に塩化物イオンの侵食を受けて、構造の劣化損傷の発生が早まってしまう。
【0003】
国内外の鉄筋コンクリート構造はいずれも非常に重大な耐久性問題に直面しており、統計によれば、中国で90年代以前に建設された港湾工事では、使用してから通常10〜20年で鉄筋に重大な腐食が発生している。コンクリート構造の耐久性モニタリングは、鉄筋コンクリート内部の微視的環境因子を動的獲得する上で最も直接的且つ最も有効な方法であり、耐用年数の正確な検知や性能劣化の早期警報、さらには後期の保守や修復のために根拠を提出するものである。現在市場にあるコンクリート内部の微視的環境因子をモニタリングする装置の大半は、作業を相対的に独立して完了するものであるため、信号を同期収集するには不向きである。
【0004】
これまでの研究で、海洋環境下におけるコンクリート中の鉄筋に腐食が発生するか否かは、内部の微視的環境における様々な因子(温度、湿度、pH値、塩化物イオン濃度、応力ひずみなど)の結合作用によって左右されることが明らかとなっている。そのため、海洋環境下におけるコンクリート構造の微視的環境及び内部の鉄筋腐食状況をリアルタイムで把握し、上述の性能パラメータの経時変化パターンを得ることができれば、工事の安全性や修復方策における重要な根拠を提供し得る。特許文献1の特許では、コンクリート耐久性多元複合無線検出システムが開示されており、コンクリート内部の湿度、温度、pH及び鉄筋腐食状況に対するモニタリングを実現している。しかし、当該技術案では、具体的なパラメータ修正方法及びパラメータをどのように使用するかについて提示されていない。
【0005】
周知のように、コンクリート構造内部の温度は環境温度の変化と共に変化し、コンクリート内部に埋め込まれた塩化物イオンセンサ、pH線は温度の影響を受けるため、修正が行われなかった場合には、その測定結果が不正確になる。また、通常の状況下において、硬化コンクリートの内部は強アルカリ性を呈し、pH値は12.5より大きい。大気中の二酸化炭素はコンクリート内部の水酸化カルシウムと反応しやすく、中性の炭酸カルシウムを生成して、コンクリートのpH値を低減させる。さらに、工業環境中には酸性気体又は酸性液体が存在し、これらはいずれもコンクリートの中性化を生じさせ、コンクリート内部に埋め込まれた塩化物イオンセンサはpH値の影響を受けるため、修正が行われなかった場合には、その測定結果が不正確になり、鉄筋コンクリート構造の臨界状態の誤判断を招いてしまう。
【0006】
現在、国内外では腐食発生限界塩化物イオン濃度について多くの研究活動が行われているが、腐食発生限界塩化物イオン濃度は往々にしてセメント中のC3A含有量、アルカリ含有量、硫酸塩含有量、コンクリート中のフライアッシュ混合料、粉鉱混合料、珪灰混合料、石灰石粉混合料、鉄筋の種類、施工品質、使用環境条件などの影響を受け、異なる環境にある鉄筋コンクリート構造の腐食発生限界塩化物イオン濃度の差は大きい。従来技術の腐食発生限界塩化物イオン濃度を表す方法には、総塩化物イオン濃度法、自由塩化物イオン濃度法、[Cl−]/[OH−]法の3種類がある。関連文献の報告によれば、総塩化物イオン濃度法による腐食発生限界塩化物イオン濃度は総塩化物イオン濃度がゲル材料重量の0.17%〜2.45%を占め、自由塩化物イオン濃度法による腐食発生限界塩化物イオン濃度は自由塩化物イオン濃度がゲル材料重量の0.11〜0.48%を占め、[Cl−]/[OH−]法による腐食発生限界塩化物イオン濃度は[Cl−]/[OH−]の比で0.12〜40%である。これらから、鉄筋の腐食発生限界塩化物イオン濃度は様々な因子の影響を受け、固定値ではないことが分かる。こうした状況において、使用環境条件における様々な鉄筋コンクリート構造工事に対し、如何に腐食発生限界塩化物イオン濃度を設定し、劣化の早期警報を即時に発し、構造の残存耐用年数を精確に予測するかが現在の科学界及び工学界において早急な解決を要する課題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】中国特許第104075756B号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来の早期警報システムに存在する欠点に鑑み、鉄筋コンクリート構造内部の微視的環境及び鉄筋腐食状況の同期、リアルタイムモニタリング、記憶及び伝送を行い、構造の腐食発生限界塩化物イオン濃度を動的獲得することにより構造の健康状態を迅速に把握し、劣化の早期警報を即時に発し、構造の残存耐用年数を精確に予測して、構造の耐久性評価、保守及び修復のために科学的根拠を提供することが可能な、コンクリート構造全寿命性能スマートセンシング及び劣化早期警報システム並びにその方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の技術案によって実現する。コンクリート構造全寿命性能スマートセンシング及び劣化早期警報システムは、メイン制御モジュール、多機能センサモジュール、盗難防止モジュール及び限界早期警報モジュールを含み、多機能センサモジュール、盗難防止モジュール及び限界早期警報モジュールはいずれもメイン制御モジュールと接続され、メイン制御モジュールは、多機能センサモジュールが収集したデータに対して解析処理を行い、且つ限界早期警報モジュールを介して即時の安全早期警報を実現する。
【0010】
多機能センサモジュールは、予めコンクリート構造内部に埋め込まれ、温湿度センサ、塩化物イオン−pH勾配センサ、ホール電圧式鉄筋腐食センサ、鉄筋応力センサ及びコンクリートひずみセンサを含む。温湿度センサ、鉄筋応力センサ、コンクリートひずみセンサは、コンクリート構造の温度、湿度、鉄筋応力及びひずみパラメータは、モニタリングするのに用いられ、塩化物イオン−pH勾配センサは、コンクリート構造内の様々な深度部分における塩化物イオン含有量、pH値の検出を行うのに用いられ、ホール電圧式鉄筋腐食センサは、鉄筋腐食状況及び腐食量の測定を実現するのに用いられる。
【0011】
盗難防止モジュールは、ネットワークビデオカメラ及び盗難防止警報装置を含み、ネットワークビデオカメラは、モニタリングエリアのビデオ監視を実現するのに用いられ、盗難防止警報装置は、システム装置付近の人員に対する感知及び音声警告を実現し、装置の盗難及び損壊を防止するのに用いられる。限界早期警報モジュールは、コンクリート構造の劣化がハイリスク状態に入ったことの早期警報に用いられ、上述のハイリスク状態はメイン制御モジュールがモデリング解析により得た結果に基づいており、腐食発生限界塩化物イオン濃度は腐食部分のコンクリート内部の塩化物イオン含有量に従って動的設定する。
【0012】
さらに、メイン制御モジュールは、データ前処理モジュール、動的閾値設定モジュール及び早期警報解析モジュールを含み、データ前処理モジュールは、多機能センサモジュールが収集したデータに対して前処理を行うのに用いられる。動的閾値設定モジュールは、データ前処理モジュールが修正した後の塩化物イオン濃度に基づき、使用環境条件下におけるコンクリート構造に対応する腐食発生限界塩化物イオン濃度を動的に修正し、且つ鉄筋応力、コンクリートのひずみ限界値を設定する。早期警報解析モジュールは、前処理後のデータと動的閾値設定モジュールが設定したデータを比較し、且つ得られた早期警報結果を限界早期警報モジュールへ送って警報を行うのに用いられる。
【0013】
さらに、塩化物イオン−pH勾配センサは筒状主体を含み、筒状主体にはAg/AgCl電極及びIr/IrOx-pH電極、並びにAg/AgCl電極及びIr/IrOx-pH電極と対応する参照電極(基準電極)が設けられており、筒状主体の外表面には周方向に沿って多層環状溝が設けられており、環状溝には筒状主体の厚さ方向に連通する導線予備孔が予め設けられており、筒状主体内部には環状溝と対応する導線溝がさらに設けられており、Ag/AgCl電極及びIr/IrOx-pH電極はそれぞれ半円状に作られており、環状溝内に固定される。
【0014】
さらに、データ前処理モジュールは塩化物イオン−pH勾配センサが収集したデータに対するデータ修正モジュールも含むことで温度とpHの両方の影響を考慮しており、データ修正モジュールはpH影響ベースの修正モジュール及び温度影響ベースの修正モジュールを含む。
【0015】
さらに、温度影響ベースの修正モジュールは、Ir/IrOx-pH電極の測定データに対する温度修正及びAg/AgCl電極の測定データに対する温度修正を実現する。
【0016】
(1)Ir/IrOx-pH電極の測定データの温度修正:
【0017】
[1] Ir/IrOx-pH電極を通じて2つの異なる温度条件下におけるコンクリート内部のIr/IrOx-pH電極の電位値を測定する。
【0018】
[2] 工程[1]のIr/IrOx-pH電極電位と対応する温度実測値との線形フィッティングを行い、フィッティング方程式を得る。
【0019】
[3] フィッティング方程式に基づき、20℃の条件下におけるIr/IrOx-pH電極の電位を得る。
【0020】
[4] 20℃の条件下におけるIr/IrOx-pH電極電位とpH値はネルンストの式を満たし、Ir/IrOx-pH電極電位y1とpH値x1は線形相関であり、方程式はy1=−51.84x1+369.52である。
【0021】
工程[3]で得られた20℃の条件下におけるIr/IrOx-pH電極の電位及び方程式はy1=−51.84x1+369.52に基づき、このときのコンクリート内部のIr/IrOx-pH電極位置部分のpH値を得る。
【0022】
(2)Ag/AgCl電極の測定データの温度修正:
【0023】
[1] Ag/AgCl電極を通じて2つの異なる温度条件下におけるコンクリート内部のAg/AgCl電極の電位値を測定する。
【0024】
[2] 工程[1]のAg/AgCl電極電位と対応する温度実測値との線形フィッティングを行い、フィッティング方程式を得る。
【0025】
[3] フィッティング方程式に基づき、20℃の条件下におけるAg/AgCl電極の電位を得る。
【0026】
[4] 20℃の条件下におけるAg/AgCl電極電位と塩化物イオン濃度の対数はネルンストの式を満たし、Ag/AgCl電極電位y2塩化物イオン濃度の対数x2は線形相関であり、方程式はy2=−683.14x2−531.29である。
【0027】
工程[3]で得られた20℃の条件下におけるAg/AgCl電極の電位及び方程式y2=−683.14x2−531.29に基づき、このときのコンクリート内部のAg/AgCl電極位置部分の塩化物イオン濃度含有量を得る。
【0028】
さらに、pH影響ベースの修正モジュールは、Ag/AgCl電極の測定データに対するpH修正を実現する。Ir/IrOx-pH電極に基づき、コンクリート内部のpH値を測定する。pH値が10.5より大きく13より小さい場合、このときの同じ深度部分のAg/AgCl電極電位を修正する必要はない。pH値が1より大きく10.5より小さい場合には、このときの同じ深度部分のAg/AgCl電極電位y3に対し、公式y3=14.26x3+23.58に従ってpH値x3の修正を行う必要がある。
【0029】
さらに、早期警報システムは、クラウドサーバも含み、メイン制御モジュールとクラウドサーバはデータインタラクションを行い、コンクリート構造に対するシステム管理を実現するとともに、データの修正、記憶及び更新を即時に行う。
【0030】
本発明はさらに、コンクリート構造全寿命性能スマートセンシング及び劣化早期警報方法を提供するが、それには以下の工程を含む。
【0031】
工程1、多機能センサモジュールによりコンクリート構造の状態データを収集する。状態データは、温度、湿度、塩化物イオン濃度、pH値、鉄筋腐食パラメータ、鉄筋応力及びコンクリートひずみデータを含み、且つ収集したコンクリートの状態データに対して前処理を行う。
【0032】
工程2、温度に基づき収集したコンクリート構造内部のpH値に対して修正を行い、正確なコンクリート内部pH値のモニタリング結果を得る。
【0033】
工程3、温度及びpH値に基づき収集したコンクリート内部の塩化物イオン濃度情報に対して修正を行い、正確なコンクリート内部塩化物イオン含有量のモニタリング結果を得る。
【0034】
工程4、ある深度部分のホール電圧式鉄筋腐食センサが鉄筋に腐食が発生していることを検出した場合、早期警報システムが自動でこのときの深度部分の塩化物イオン−pH勾配センサが測定した塩化物イオン濃度を腐食発生限界塩化物イオン濃度として、限界早期警報モジュールに入力する。
【0035】
工程5、コンクリート状態のモニタリング結果と工程4で設定した腐食発生限界塩化物イオン濃度、並びに測定した鉄筋応力、コンクリートひずみ、コンクリート内部温度及び湿度パラメータにより、寿命予測モデルに基づき構造の故障率を計算し、且つ残存耐用年数を予測して、即時に安全早期警報を発する。
【0036】
さらに、工程2において、温度に基づき収集したコンクリート構造内部のpH値に対して修正を行うとき、Ir/IrOx-pH電極の測定データに対する温度修正は、主に以下の方式を採用する。
【0037】
[1] Ir/IrOx-pH電極を通じて、2つの異なる温度条件下におけるコンクリート内部のIr/IrOx-pH電極の電位値を測定する。
【0038】
[2] 工程[1]のIr/IrOx-pH電極電位と対応する温度実測値との線形フィッティングを行い、フィッティング方程式を得る。
【0039】
[3] フィッティング方程式に基づき、20℃の条件下におけるIr/IrOx-pH電極の電位を得る。
【0040】
[4] 20℃の条件下におけるIr/IrOx-pH電極電位とpH値はネルンストの式を満たし、Ir/IrOx-pH電極電位y1とpH値x1は線形相関であり、方程式はy1=−51.84x1+369.52である。
【0041】
工程[3]で得られた20℃の条件下におけるIr/IrOx-pH電極の電位及び方程式y1=−51.84x1+369.52に基づき、このときのコンクリート内部のIr/IrOx-pH電極位置部分のpH値を得る。
【0042】
さらに、工程3において、温度及びpH値に基づき収集したコンクリート内部の塩化物イオン濃度情報に対して修正を行うとき、Ag/AgCl電極の測定データに対する温度、pH値の修正は、主に以下の方式を採用する。
【0043】
[1] Ag/AgCl電極を通じて2つの異なる温度条件下におけるコンクリート内部のAg/AgCl電極の電位値を測定する。
【0044】
[2] 工程[1]のAg/AgCl電極電位と対応する温度実測値との線形フィッティングを行い、フィッティング方程式を得る。
【0045】
[3] フィッティング方程式に基づき、20℃の条件下におけるAg/AgCl電極の電位を換算して得る。
【0046】
[4] 20℃の条件下におけるAg/AgCl電極電位と塩化物イオン濃度の対数はネルンストの式を満たし、Ag/AgCl電極電位y2塩化物イオン濃度の対数x2は線形相関であり、方程式はy2=−683.14x2−531.29である。
【0047】
工程[3]で得られた20℃の条件下におけるAg/AgCl電極の電位及び方程式y2=−683.14x2−531.29に基づき、このときのコンクリート内部のAg/AgCl電極位置部分の塩化物イオン濃度含有量を得る。
【0048】
[5] Ir/IrOx-pH電極に基づき、コンクリート内部のpH値を測定する。
【0049】
pH値が10.5より大きく13より小さい場合、このときの同じ深度部分のAg/AgCl電極電位を修正する必要はない。pH値が1より大きく10.5より小さい場合には、このときの同じ深度部分のAg/AgCl電極電位y3に対してpH値x3の修正を行う必要があり、修正の公式はy3=14.26x3+23.58である。
【発明の効果】
【0050】
従来技術と比べて、本発明は次の利点及び好ましい効果を有する。
【0051】
本発明の案は、多機能センサモジュールによりコンクリート内部の環境パラメータに対するモニタリングを実現し、且つ塩化物イオン−pH勾配センサの設計と当該位置部分に温湿度センサを組み合わせて設置することにより、コンクリートにおける様々な勾配の塩化物イオン含有量及びpH値に対する正確な測定を実現し、梯子状に配置したホール電圧式鉄筋腐食センサにより、コンクリート構造内部の様々な深度部分における鉄筋の腐食状態及び腐食量を原位置で精確に得ることができる。
【0052】
さらに、ある深度部分におけるコンクリート構造内部の鉄筋の腐食状況、並びに当該深度部分の塩化物イオン濃度及びpH値に基づき、当該使用環境条件下における構造の腐食発生限界塩化物イオン濃度を得て、構造の劣化早期警報のために精確な限界値を提供することができる。様々な深度部分の温度、湿度、塩化物イオン濃度、pH値、及び動的獲得した腐食発生限界塩化物イオン濃度、構造の応力状態と寿命予測モデル(モデルでは温度、湿度、応力状態などのパラメータの影響が考慮される)の組み合わせに基づき、構造の残存耐用年数を精確に予測して、構造の耐久性評価、保守及び修復のために科学的根拠を提供することができる。
【0053】
また、データに対して解析処理を行う際に、狙いを定めた修正方法を設計しており、塩化物イオンセンサのリアルタイムモニタリングデータに対して温度及びpH値の修正を行うことにより、モニタリングデータの精度がより一層保証される。本発明が提出する腐食発生限界塩化物イオン濃度の動的測定方法は、腐食発生限界塩化物イオン濃度を予め設定することの弊害が回避され、劣化早期警報の精度が大幅に向上する。本案ではクラウドサーバが設計されており、システムデータとクラウドをリアルタイムで接続することができ、クラウドによる一元管理を実現するとともに、遠隔ビデオ監視による盗難防止を実現可能であり、高い実用性と経済的価値を備えている。
【図面の簡単な説明】
【0054】
図1】本発明の実施例におけるスマートセンシング及び劣化早期警報システムの原理ブロック図である。
図2】本発明の実施例における塩化物イオン−pH勾配センサの立体構造概略図である。
図3】塩化物イオン−pH勾配センサの断面構造概略図である。
図4】梯子状に配置したホール電圧式鉄筋腐食センサである。
【発明を実施するための形態】
【0055】
本発明の上記目的及び利点をより明解にするため、以下で図面に基づき本発明の具体的な実施例について詳細に説明する。
【実施例1】
【0056】
本実施例が開示するコンクリート構造全寿命性能スマートセンシング及び劣化早期警報システムは、図1に示す通り、メイン制御モジュール、多機能センサモジュール、盗難防止モジュール及び限界早期警報モジュールを含み、多機能センサモジュール、盗難防止モジュール及び限界早期警報モジュールはいずれもメイン制御モジュールと接続され、多機能センサモジュールは、予めコンクリート構造内部に埋め込まれ、温湿度センサ、塩化物イオン−pH勾配センサ、ホール電圧式鉄筋腐食センサ、鉄筋応力センサ及びコンクリートひずみセンサを含む。そのうち、温湿度センサ、鉄筋応力センサ、コンクリートひずみセンサは、コンクリートの温度、湿度、鉄筋応力、コンクリートひずみなどのパラメータをモニタリングするのに用いられ、塩化物イオン−pH勾配センサは、コンクリート内の様々な深度部分における塩化物イオン含有量、pH値の検出を行うのに用いられ、ホール電圧式鉄筋腐食センサは、電磁気学理論に基づき、且つシャノンのエントロピー原理に基づき、鉄筋腐食状況及び腐食量の精確な測定を実現する。
【0057】
塩化物イオン−pH勾配センサの構造概略図である図2及び図3に示す通り、これには筒状主体を含み、筒状主体にはAg/AgCl電極及びIr/IrOx-pH電極、並びにAg/AgCl電極及びIr/IrOx-pH電極と対応する参照電極が設けられており、筒状主体の外表面には周方向に沿って多層環状溝1が設けられており、環状溝1には筒状主体の厚さ方向に連通する導線予備孔2が予め設けられており、筒状主体内部には環状溝1と対応する導線溝3がさらに設けられており、Ag/AgCl電極及びIr/IrOx-pH電極はそれぞれ半円状に作られており、環状溝1内に固定される。Ag/AgCl電極及びIr/IrOx-pH電極の一端は導線と接続され、導線は予備孔2に挿入され、且つ導線溝3を経て頂端の丸型プラグまで引き出され、丸型プラグはデータ収集ボックス上の対応する丸型ソケットに挿入され、データはデータ収集ボックス内の塩化物イオン−pH勾配センサモジュールへ送られ、収集された信号はフィルタリング、修正などを経て塩化物イオン濃度及びpH値に換算され、導線溝3は導線の敷設後にエポキシ樹脂を用いてシールされる。
【0058】
筒状主体の中間にはAg/AgCl電極及びIr/IrOx-pH電極の参照電極(基準電極)が配置されるが、参照電極は直径30mm、高さ50mmのMn/MnOソリッドステート参照電極であり、Mn/MnOソリッドステート参照電極を筒状主体の中間に置いてから、筒状主体の内部にエポキシ樹脂を注入する。本案では単一参照電極の設置を採用しており、参照電極が多すぎることで誤差が生じるのを回避することができる。また、筒状主体の表面にねじ穴4がさらに設けられ、実際に使用する場合には、プラスチックねじを用いて筒体を周辺の鉄筋上に固定して、コンクリート内部における塩化物イオン−pH勾配センサの位置を決めることにより、コンクリート内部の様々な深度部分における塩化物イオン含有量及びpH値の精確な測定を実現することができる。
【0059】
本案では、Ag/AgCl電極はアノード分極法を採用して調製し、分極パラメータは通電電流密度0.5mA/cm、分極時間2.5時間とし、電極調製後、飽和水酸化カルシウム水溶液中で30日以上活性化させてから使用するものとし、これにより測定データの精度を保証する。Ir/IrOx-pH電極は高温炭酸酸化法を採用して調製し、Ir線を炭酸リチウム中に埋めてから高温炉に入れて、850℃の高温条件下で5時間酸化させて電極を調製した後に、飽和水酸化カルシウム水溶液中で20日以上活性化させてから使用するものとし、これにより測定データの精度を保証する。
【0060】
本案では、塩化物イオン−pH勾配センサの具体的なサイズ設計は以下の通りである。筒状主体は直径80mmとし、合計7層の環状溝が設計されており、各層の作用極同士の距離は10mm(実際の工事における必要に応じて調整可能)、ねじ穴は深さ6mm、直径6mmとし、導線溝は直径5mmとする。
【0061】
梯子状に配置したホール電圧式鉄筋腐食センサの取り付け構造概略図である図4に示す通り、それには固定フレーム5及びホール電圧式鉄筋腐食センサ6を含む。固定フレーム5は、実際の測定ニーズに応じてホール電圧式鉄筋腐食センサ6の位置を任意に調整可能であり、ホール電圧式鉄筋腐食センサ6の埋め込み深さと塩化物イオン−pH勾配センサ中の各層のセンサの埋め込み深さは同じである。ホール電圧式鉄筋腐食センサ6の内部には一対のホールセンサが設置されており、前端が挟持する鉄筋の腐食量を精確に測定することができる。ホール電圧式鉄筋腐食センサ6の両側には鉄筋測定用固定装置が設置されており、当該装置は二対の固定用滑り止め弾性装置で構成され、任意のサイズの鉄筋をホール電圧式鉄筋腐食センサ6前端のホールセンサ位置に固定することができる。
【0062】
塩化物イオン−pH勾配センサ及び梯子状に配置したホール電圧式鉄筋腐食センサの測定結果に基づき、実際のコンクリート構造内部の腐食発生限界塩化物イオン濃度を動的獲得することができる。具体的には以下の通りである。
【0063】
梯子状に配置したホール電圧式鉄筋腐食センサに基づいてコンクリート内部の鉄筋の腐食情況及び腐食量を精確に得ることができ、梯子状に配置したホール電圧式鉄筋腐食センサがコンクリート内部のある深度部分の鉄筋に腐食が発生しているのを検出した場合、同一時間、同じ深度部分の塩化物イオン−pH勾配センサが測定した塩化物イオン濃度を参照し、それを対応する使用環境条件下における当該構造の腐食発生限界塩化物イオン濃度とする。
【0064】
引き続き図1を参照して、盗難防止モジュールはネットワークビデオカメラ及び盗難防止警報装置を含み、ネットワークビデオカメラは、モニタリングエリアのビデオ監視を実現するのに用いられ、盗難防止警報装置は、システム装置付近の人員に対する感知及び音声警告を実現し、装置の盗難及び損壊を防止するのに用いられる。限界早期警報モジュールは、コンクリート構造の劣化がハイリスク状態に入ったことの早期警報を実現するのに用いられる。ハイリスク状態は、モデリング解析で得た結果に基づいており、腐食発生限界塩化物イオン濃度は腐食位置部分のコンクリート内部の塩化物イオン含有量に従って動的設定され、メイン制御モジュールは、多機能センサモジュールが収集したデータに対して解析処理を行うのに用いられ、且つ限界早期警報モジュールにより即時の安全早期警報が実現される。
【0065】
具体的には、メイン制御モジュールは、データ前処理モジュール、動的閾値設定モジュール及び早期警報解析モジュールを含む。データ前処理モジュールは、多機能センサモジュールが収集したデータに対して前処理を行うのに用いられるが、実施方式は以下の通りである。温湿度プローブが温湿度データを収集した後、データをそのままデジタル量に変換し、次にIICバスを介してデータ変換結果をメイン制御基板にまとめる。温度センサはPT1000の測温抵抗体を使用して収集を行い、センサの抵抗値は温度変化と共に変化し、このセンサをメイン制御基板中に直列接続し、ADC変換で得た電圧値によりセンサの現在の抵抗値を計算して取得し、現在の温度値を検針して取得するが、この温度値はメイン制御基板チップが直接収集して得る。コンクリートひずみ及び鉄筋応力信号は、正弦信号収集モジュールを使用し、センサが出力した周波数値を収集し、周波数値は485バスを介してメイン制御基板にまとめる。塩化物イオンセンサ信号、pHセンサ信号及びホール電圧式鉄筋腐食センサは、演算増幅器を用いて電圧追随及び増幅を行った後、主制御ワンチップマイコンのADC収集モジュールが直接電圧変換を行い、変換された電圧値については、5回の電圧変換値に平均値フィルタリングを行って結果を得る。主制御基板ワンチップマイコンは、上述の全ての信号収集データ結果を1ブロックにまとめた後、パックデータをGPRSデータ遠隔伝送モジュールへ送り、GPRSモジュールがクラウドサーバへ転送し、クラウドサーバはデータを受信した後、データのプロトコル解析及び出力処理を行ってからデータベースに記憶する。
【0066】
また、本実施例の早期警報システムは、クラウドサーバも含み、メイン制御モジュールとクラウドサーバのデータインタラクションを実現することにより、鉄筋コンクリート構造に対するシステム管理を実現するとともに、データの修正、記憶及び更新を実現することができる。ローカルpcのソフトウェアを通じて、上述のモニタリングパラメータの早期警報閾値に基づき、収集データをプラットフォームへアップロードした後、データ処理が行われ、相関パラメータが閾値を超えている場合、早期警報情報がシステム管理者へ自動でプッシュされ、次にシステム管理者がさらに判断及び処理を行う。
【0067】
ローカルpc側のソフトウェアは、ネットワークを通じてデータをクラウドサーバから取得した後に、試験で得られたデータ変換関係に従って、得られたセンサが収集した生データを実際の物理的信号量に変換し、且つソフトウェアでデータ提示する。動的閾値設定モジュールは、腐食発生限界塩化物イオン濃度の確定方法に基づき、使用環境条件下における構造に対応する腐食発生限界塩化物イオン濃度を動的に修正し、鉄筋応力、コンクリートのひずみ限界値を設定する。早期警報解析モジュールは、前処理後のデータと動的閾値設定モジュールが設定したデータを比較し、且つ得られた早期警報結果を限界早期警報モジュールへ送って警報を行うのに用いられる。本案において採用する塩化物イオン−pH勾配センサの特殊性である、温度及びpH値がAg/AgCl電極の測定データに及ぼす影響を考慮すると、収集されたデータに対する修正処理を行う必要があるため、データ前処理モジュールは塩化物イオン−pH勾配センサが収集したデータに対するデータ修正モジュールも含み、これは主に温度とpHの両方の影響を考慮しており、データ修正モジュールはpH影響ベースの修正モジュール及び温度影響ベースの修正モジュールを含む。修正原理は以下の通りである。
【0068】
(1)以下はIr/IrOx-pH電極の測定データの温度修正工程である。
【0069】
実験、モデリング、解析を通して、本案が提出するIr/IrOx-pH電極の測定電位と温度は線形相関であり、且つ異なるpH条件下における線形相関係数が異なることが分かった。そのため、当該電極をコンクリート中のpH値の測定に用いる場合には、温度修正を行わなければならない。具体的には以下の通りである。
【0070】
[1] Ir/IrOx-pH電極を通じて2つの異なる温度条件下におけるコンクリート内部のIr/IrOx-pH電極の電位値を測定する。
【0071】
[2] 工程[1]のIr/IrOx-pH電極電位と対応する温度実測値との線形フィッティングを行い、フィッティング方程式を得る。
【0072】
[3] フィッティング方程式に基づき、20℃の条件下におけるIr/IrOx-pH電極の電位を得る。
【0073】
[4] 20℃の条件下におけるIr/IrOx-pH電極電位とpH値はネルンストの式を満たし、Ir/IrOx-pH電極電位(y1)とpH値(x1)は線形相関であり、方程式はy1=−51.84x1+369.52である。
【0074】
工程[3]で得られた20℃の条件下におけるIr/IrOx-pH電極の電位及び方程式y1=−51.84x1+369.52に基づき、このときのコンクリート内部のIr/IrOx-pH電極位置部分のpH値を換算して得ることができる。
【0075】
(2)以下はAg/AgCl電極の測定データの温度修正工程である。
【0076】
本案が提出するAg/AgCl電極の測定電位と温度は線形相関であり、且つ異なる温度条件下における線形相関係数が異なるため、当該電極をコンクリート中の塩化物イオン濃度の測定に用いる場合には、温度の修正を行わなければならない。具体的には以下の通りである。
【0077】
[1] Ag/AgCl電極を通じて2つの異なる温度条件下におけるコンクリート内部のAg/AgCl電極の電位値を測定する。
【0078】
[2] 工程[1]のAg/AgCl電極電位と対応する温度実測値との線形フィッティングを行い、フィッティング方程式を得る。
【0079】
[3] フィッティング方程式に基づき、20℃の条件下におけるAg/AgCl電極の電位を換算して得る。
【0080】
[4] 20℃の条件下におけるAg/AgCl電極電位と塩化物イオン濃度の対数はネルンストの式を満たし、Ag/AgCl電極電位(y2)と塩化物イオン濃度の対数(x2)は線形相関であり、方程式はy2=−683.14x2−531.29である。
【0081】
工程[3]で得られた20℃の条件下におけるAg/AgCl電極の電位及び方程式y2=−683.14x2−531.29に基づき、このときのコンクリート内部のAg/AgCl電極位置部分の塩化物イオン濃度含有量を換算して得ることができる。
【0082】
(3)以下はAg/AgCl電極の測定データのpH修正工程である。
【0083】
研究から、本案が提出するAg/AgCl電極の測定電位はpHの影響を受けることが分かった。pH値が1より大きく10.5より小さい場合、電極の電位はpH値の上昇に伴って線形増加し、pH値が10.5より大きく13より小さい場合、電極の電位はpH値の影響を受けない。そのため、当該電極をコンクリート中の塩化物イオン濃度の測定に用いる場合には、pH値の修正を行わなければならない。
【0084】
[1] Ir/IrOx-pH電極に基づき、コンクリート内部のpH値を測定する。
【0085】
[2] pH値が10.5より大きく13より小さい場合、このときの同じ深度部分のAg/AgCl電極電位を修正する必要はない。
【0086】
[3] pH値が1より大きく10.5より小さい場合には、このときの同じ深度部分のAg/AgCl電極電位(y3)に対してpH値(x3)の修正を行う必要があり、修正の公式はy3=14.26x3+23.58である。
【0087】
上述のデータ修正を通して、より正確なモニタリングデータを得ることができ、これによって正確な早期警報のための精確なデータ保障を提供する。
【実施例2】
【0088】
実施例2は、実施例1で提出したコンクリート構造全寿命性能スマートセンシング及び劣化早期警報システムに基づいており、本実施例では対応する早期警報方法を開示する。具体的には以下の工程を含む。
【0089】
工程1、多機能センサモジュールによりコンクリートの状態データを収集する。状態データは、温度、湿度、塩化物イオン濃度、pH値、鉄筋腐食パラメータ、鉄筋応力及びコンクリートひずみデータを含み、且つ収集したコンクリートの状態データに対して前処理を行う。
【0090】
工程2、温度に基づき収集したコンクリート内部のpH値に対して修正を行い、正確なコンクリート内部pH値のモニタリング結果を得る。
【0091】
工程3、温度及びpH値に基づき収集したコンクリート内部の塩化物イオン濃度情報に対して修正を行い、正確なコンクリート内部塩化物イオン含有量のモニタリング結果を得る。
【0092】
工程4、ある深度部分のホール電圧式鉄筋腐食センサが鉄筋に腐食が発生していることを検出した場合、システムが自動でこのときの深度部分の塩化物イオン−pH勾配センサが測定した塩化物イオン濃度を腐食発生限界塩化物イオン濃度として、限界早期警報モジュールに入力する。
【0093】
工程5、コンクリート状態のモニタリング結果と工程4で動的に設定した腐食発生限界塩化物イオン濃度、及び測定した鉄筋応力、コンクリートひずみ、コンクリート内部温度、湿度などのパラメータにより残存耐用年数を予測して、即時に安全早期警報を発する。
【0094】
そのうち、工程1において、多機能センサモジュールは、予めコンクリート中に埋め込まれ、温湿度センサ、塩化物イオン−pH勾配センサ、ホール電圧式鉄筋腐食センサ、鉄筋応力センサ及びコンクリートひずみセンサを含む。温湿度センサ、鉄筋応力センサ、コンクリートひずみセンサは、コンクリート内部の様々な深度部分の温度、湿度、鉄筋応力及びひずみパラメータなどの状態情報をモニタリングするのに用いられ、ホール電圧式鉄筋腐食センサは、電磁気学理論に基づき、且つシャノンのエントロピー原理に基づき、コンクリート内部の様々な深度部分における鉄筋腐食状況及び腐食量の精確な測定を実現し、塩化物イオン−pH勾配センサは、コンクリート内部の様々な深度部分における塩化物イオン、pHに対する精確な測定を行うのに用いられる。
【0095】
工程2において、Ir/IrOx-pH電極の測定データの温度修正は主に以下の方式を採用する。
【0096】
[1] Ir/IrOx-pH電極を通じて2つの異なる温度条件下におけるコンクリート内部のIr/IrOx-pH電極の電位値を測定する。
【0097】
[2] 工程[1]のIr/IrOx-pH電極電位と対応する温度実測値との線形フィッティングを行い、フィッティング方程式を得る。
【0098】
[3] フィッティング方程式に基づき、20℃の条件下におけるIr/IrOx-pH電極の電位を換算して得る。
【0099】
[4] 20℃の条件下におけるIr/IrOx-pH電極電位とpH値はネルンストの式を満たし、Ir/IrOx-pH電極電位(y1)とpH値(x1)は線形相関であり、方程式はy1=−51.84x1+369.52である。工程[3]で得られた20℃の条件下におけるIr/IrOx-pH電極の電位及び方程式y1=−51.84x1+369.52に基づき、このときのコンクリート内部のIr/IrOx-pH電極位置部分のpH値を換算して得ることができる。
【0100】
工程3において、Ag/AgCl電極の測定データの温度、pH値修正は主に以下の方式を採用する。
【0101】
[1] Ag/AgCl電極を通じて2つの異なる温度条件下におけるコンクリート内部のAg/AgCl電極の電位値を測定する。
【0102】
[2] 工程[1]のAg/AgCl電極電位と対応する温度実測値との線形フィッティングを行い、フィッティング方程式を得る。
【0103】
[3] フィッティング方程式に基づき、20℃の条件下におけるAg/AgCl電極の電位を換算して得る。
【0104】
[4] 20℃の条件下におけるAg/AgCl電極電位と塩化物イオン濃度の対数はネルンストの式を満たし、Ag/AgCl電極電位(y2)と塩化物イオン濃度の対数(x2)は線形相関であり、方程式はy2=−683.14x2−531.29である。工程[3]で得られた20℃の条件下におけるAg/AgCl電極の電位及び方程式y2=−683.14x2−531.29に基づき、このときのコンクリート内部のAg/AgCl電極位置部分の塩化物イオン濃度含有量を換算して得ることができる。
【0105】
[5] Ir/IrOx-pH電極に基づき、コンクリート内部のpH値を測定する。
【0106】
[6] pH値が10.5より大きく13より小さい場合、このときの同じ深度部分のAg/AgCl電極電位を修正する必要はない。
【0107】
[7] pH値が1より大きく10.5より小さい場合には、このときの同じ深度部分のAg/AgCl電極電位(y3)に対してpH値(x3)の修正を行う必要があり、修正の公式はy3=14.26x3+23.58である。
【0108】
また、工程4において、腐食した鉄筋位置部分の塩化物イオン濃度に基づき、腐食発生限界塩化物イオン濃度を限界早期警報モジュールに動的に設定する。次に、工程5において、コンクリート状態のモニタリング結果と工程4で動的に設定した腐食発生限界塩化物イオン濃度、及び測定した鉄筋応力、コンクリートひずみ、コンクリート内部温度、湿度などのパラメータにより、寿命予測モデルに基づき構造の故障率を取得し、且つ残存耐用年数を予測して、即時に安全早期警報を発する。
【0109】
上述は本発明の好ましい実施例に過ぎず、本発明が他の形態を取るのを限定するものではなく、当業者であれば上述で開示した技術内容を利用し、変更又は改造を加えて等価変更した同等の実施例を他の分野に応用することができるが、そのいずれも本発明の技術案の内容を逸脱せず、本発明の技術的本質に基づき上述の実施例に対して行う何らかの簡単な修正、等価変更及び改造はいずれも本発明の技術案の保護範囲に属する。
図1
図2
図3
図4
【外国語明細書】
2021034031000001.pdf