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特開2021-343756次の軸上収差のない粒子光学補正器および補正器を備えた電子顕微鏡
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-34375(P2021-34375A)
(43)【公開日】2021年3月1日
(54)【発明の名称】6次の軸上収差のない粒子光学補正器および補正器を備えた電子顕微鏡
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/153 20060101AFI20210201BHJP
【FI】
   H01J37/153 A
   H01J37/153 B
【審査請求】有
【請求項の数】18
【出願形態】OL
【外国語出願】
【全頁数】45
(21)【出願番号】特願2020-136977(P2020-136977)
(22)【出願日】2020年8月14日
(31)【優先権主張番号】10 2019 122 013.0
(32)【優先日】2019年8月15日
(33)【優先権主張国】DE
(31)【優先権主張番号】20186011
(32)【優先日】2020年7月15日
(33)【優先権主張国】EP
(71)【出願人】
【識別番号】500155198
【氏名又は名称】ツェーエーオーエス コレクテッド エレクトロン オプチカル システムズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】CEOS Corrected Electron Optical Systems GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン ウーレマン
【テーマコード(参考)】
5C033
【Fターム(参考)】
5C033HH01
5C033HH03
5C033HH05
5C033HH08
5C033JJ01
5C033JJ07
(57)【要約】      (修正有)
【課題】6次の軸上収差のない補正器を備えた電子顕微鏡を提供する。
【解決手段】補正器5は、対称面6に6重極場ΨHP2を生成する長さLの中央多重極素子2と、同一の強さの6重極場ΨHP1、ΨHP3を生成する長さL’の同一の2つの外側多重極素子1、3と、円形レンズ7’、7’’、8’、8’’を備えた2つの円形レンズダブレット7、8とを有し、中央多極子2と外側多極子1、3のそれぞれの6重極場の強さや極子の長さ、および、補正器5全体は、3回軸上非点収差A、6回軸上非点収差A、4次の軸上スリーローブ収差(D)、および、6次の軸上スリーローブ収差(D)が消滅するように選択される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子顕微鏡の球面収差(C、C)を補正し、これによって3回軸上非点収差(A)、4次の軸上スリーローブ収差(D)および6回軸上非点収差(A)を阻止する粒子光学補正器(5)であって、
前記補正器(5)は、当該補正器の対称面(6)に6重極場(ΨHP2)を生成する長さLの中央多重極素子(2)と、同一の強さの6重極場(ΨHP1、ΨHP3)を生成する長さL’の同一の2つの外側多重極素子(1、3)と、円形レンズ(7’、7’’、8’、8’’)を備えた2つの円形レンズダブレット(7および8)とを有し、
前記対称面(6)により近い前記円形レンズ(7’および8’)は、前記対称面(6)に対して、前記円形レンズ(7’、8’)の焦点距離(f)の間隔で配置されており、
前記対称面(6)からより遠い前記円形レンズ(7’’、8’’)は、当該円形レンズ(7’’、8’’)の焦点距離(f’)と、前記対称面(6)のより近くに配置されている前記円形レンズ(7’、8’)の前記焦点距離(f)との和に対応する間隔で、前記円形レンズ(7’、8’)から離れて配置され、
同一の強さの2つの前記外側6重極場の前記強さ(ΨHP1,3)に対する前記中央6重極場の前記強さ(ΨHP2)は、前記3回軸上非点収差(A)が消滅するように選択されており、
前記補正器(5)全体が、6回軸上非点収差(A)を有しないように、同一の強さの2つ前記外側6重極場の前記強さ(ΨHP1,3)が選択されており、
前記多重極素子(1および3)と、前記対称面(6)からより遠くに配置されている前記円形レンズ(7’’、8’’)との間の間隔は、当該円形レンズ(7’’、8’’)の前記焦点距離(f’)と、付加的な間隔(Δz)との和に対応し、
前記付加的な間隔(Δz)は、設定された前記長さLおよびL’に対し、前記4次の軸上スリーローブ収差(D)が消滅するように選択されており、
前記対称面(6)により近い前記円形レンズ(7’、8’)の前記焦点距離(f)と、前記対称面からより遠い前記円形レンズ(7’’、8’’)の前記焦点距離(f’)との設定された比(M=f/f’)に対し、前記6次の軸上スリーローブ収差(D)が消滅するように、同一の2つの前記外側多重極素子(1および)の前記長さ(L’)に対する前記中央多重極素子(2)の前記長さ(L)が選択されている、
ことを特徴とする、補正器。
【請求項2】
前記付加的な間隔(Δz)と、前記外側多重極素子(1および3)の前記長さ(L’)との比(d)が、0.5〜0.95(d=Δz/L’=0.5〜0.95)である、ことを特徴とする、請求項1記載の補正器。
【請求項3】
前記外側6重極場(1、3)の前記強さ(ΨHP1,3)に対する前記中央多重極素子(2)の前記6重極場(ΨHP2)の強さは、0.33〜1.7(ΨHP2/ΨHP1,3=0.33〜1.7)である、ことを特徴とする、請求項1または2記載の補正器。
【請求項4】
前記対称面(6)のより近くに配置されている前記円形レンズ(7’、8’)の前記焦点距離(f)と、より遠くに配置されている前記円形レンズ(7’’、8’’)の前記焦点距離(f’)との前記比(M)、すなわちM=f/f’は、0.8〜1.2の範囲内にある、ことを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の補正器。
【請求項5】
M=1.15(±0.01)である、ことを特徴とする、請求項4記載の補正器。
【請求項6】
前記中央多重極素子(2)の前記長さ(L)と、前記外側多重極素子(1および3)の前記長さ(L’)との比(k)、すなわちk=L/L’は、2.0〜3.5の範囲内にある、ことを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項記載の補正器。
【請求項7】
k=3.05(±0.05)である、ことを特徴とする、請求項6記載の補正器。
【請求項8】
前記円形レンズダブレット(7、8)の前記円形レンズ(7’、7’’;8’、8’’)の間に付加的に配置される6重極ダブレット(9、9’;10、10’)の対称面(9’’および10’’)が、当該円形レンズ(7’、8’)の前記焦点距離(f)に等しい間隔で前記円形レンズ(7’、8’)から離れて配置されており、かつ、当該円形レンズ(7’’、8’’)の前記焦点距離(f’)に等しい間隔で前記円形レンズ(7’’および8’’)から離れて配置されており、
構造誤差によって生じる収差を補償するために、前記補正器(5)内で4次のスリーローブ収差(D)の小さな変化を生成できるように、前記6重極ダブレット(9、9’;10、10’)が構造化されかつ励磁される、
ことを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項記載の補正器。
【請求項9】
前記円形レンズダブレット(7、8)の前記円形レンズ(7’、7’’;8’、8’’)の間に付加的に配置される6重極ダブレット(9、9’;10、10’)の前記対称面(9’’および10’’)が、当該円形レンズ(7’、8’)の前記焦点距離(f)に等しい間隔で前記円形レンズ(7’、8’)から離れて配置されており、かつ前記円形レンズ(7’’、8’’)の焦点距離(f’)に等しい間隔で当該円形レンズ(7’’、8’’)から離れて配置されており、
前記6重極ダブレット(9、9’;10、10’)は、前記残余収差の、特にD、Aの小さな変化が可能になるように構造化および励磁され、前記小さな変化により、寄生収差の補償が可能になるか、または同じ多重度のより高次の収差、特にDおよびGの影響の最小化が可能になる、
ことを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項記載の補正器。
【請求項10】
請求項1から9までのいずれか1項記載の補正器(5)を有する、ことを特徴とする、電子顕微鏡。
【請求項11】
前記電子顕微鏡が、走査電子顕微鏡(SEM:scanning electron microscope)である、ことを特徴とする、請求項10記載の電子顕微鏡。
【請求項12】
前記電子顕微鏡が、走査透過電子顕微鏡(STEM:scanning transmission electron microscope)である、ことを特徴とする、請求項10または11記載の電子顕微鏡。
【請求項13】
前記電子顕微鏡が、ビーム路に関して前記対物レンズ(13)の下流に前記補正器(5)が配置されている透過電子顕微鏡(TEM:transmission electron microscope)である、ことを特徴とする、請求項10記載の電子顕微鏡。
【請求項14】
前記補正器(5)と前記対物レンズ(13)との間にトランスファレンズ系(11)が挿入されており、前記トランスファレンズ系(11)によって球面収差が補正可能である、ことを特徴とする、請求項10から13までのいずれか1項記載の電子顕微鏡。
【請求項15】
前記トランスファレンズ系(11)が、単一のトランスファレンズから構成されている、ことを特徴とする、請求項14記載の電子顕微鏡。
【請求項16】
前記トランスファレンズ系(11)が、2つのトランスファレンズ(11’、11’’)から構成されている、ことを特徴とする、請求項14記載の電子顕微鏡。
【請求項17】
前記トランスファレンズ(11’、11’’)が異なる焦点距離(f’’、f’’’)を有し、これにより、対物レンズ球面収差が除去可能である、ことを特徴とする、請求項16記載の電子顕微鏡。
【請求項18】
特定の対物レンズ球面収差を除去するために、前記トランスファレンズ(11’、11’’)の前記焦点距離(f’’、f’’’)が、前記トランスファレンズ(11’、11’’)のコイルの励磁によって調整可能である、ことを特徴とする、請求項17記載の電子顕微鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子顕微鏡の開口収差を補正し、これによって3回軸上非点収差(threefold axial astigmatism)、4次の軸上スリーローブ収差(axial three-lobed aberration of fourth order)および6回軸上非点収差(sixfold axial astigmatism)を阻止する粒子光学補正器(Particle-optical corrector)に関し、この補正器は、補正器の対称面(symmetry plane)に6重極場(hexapole field)を生成する長さLの中央多重極素子(multipole element)と、同一の強さの6重極場を生成する長さL’の同一の2つの外側多重極素子と、円形レンズを備えた2つの円形レンズダブレットを有し、対称面により近い円形レンズは、当該円形レンズの焦点距離に等しい間隔で対称面から離れて配置されており、対称面からより遠い円形レンズは、当該円形レンズの焦点距離と、対称面のより近くに配置されている円形レンズの焦点距離との和に等しい間隔で、対称面のより近くに配置されている円形レンズから離れて配置されている。
【0002】
電子式光学イメージングシステムは、電子顕微鏡法の場合のように拡大にも使用され、また電子投影リソグラフィでは縮小にも使用される。イメージング光放射の極めて短い波長から得られる極めて高い解像度は、光式光学イメージングシステムと比べて有利である。光と比べ、電子式光学イメージングシステムにより、加速電圧に応じて約10倍の解像度での改善が達成され、これにより、原子領域までに到達する画像が可能になる。
【0003】
イメージングを目的とした電子ビームの誘導は、電気および/または磁気レンズによって実現される。このタイプのレンズ系は、その構造および配置構成に応じて、光式光学システムよりもより広範囲にさまざまな画像収差を呈する。
【0004】
粒子光学補正器の目的は、開口収差を補償し、必要に応じて、顕微鏡の光学コンポーネントの色収差を補償することである。このような補正器を使用した補償により、結果的にこの補正器自体による収差も発生する。
【0005】
これらの誤差は、材料および寸法設計誤差によるものである寄生収差(parasitic aberration)であり、またアライメント収差である。物理的な理由による内在的な残余収差(residual aberration)、すなわち欠陥のない構成の粒子光学系内にも発生し得る内在的な残余収差も存在する。イメージングレンズを補正するという第1の目的を達成するために、後者は受け入れなければならない。これらの残余収差は、画像の最大限に達成可能な光学品質を達成するために、補正器を使用して最小化するかまたは大幅に阻止しなければならない。
【0006】
収差には、色収差および幾何収差が含まれる。幾何収差は、さまざまな次数で発生する画像収差像にしたがって分類される。これに関連して、ザイデル次数による分類が一般に使用される。このような収差の一覧は、Rolf Erniによる"Aberration-Corrected Imaging in Transmission Electron Microscopy - An Introduction"、2010、第222、224および225頁に見い出すことができ、第225頁には種々異なる収差の命名法の表が含まれている。
【0007】
粒子光学におけるすべての補正器の機能についての基礎は、O.シェルツァー(O. Scherzer:"Sphaerische and chromatische Korrektur von Elektronen-Linsen"(電子レンズの球面補正および色補正)OPTIK、DE、JENA、1947、第114〜132頁、XP002090897、ISSN:0863-0259)による実現であり、ここでは、粒子光学に対する色収差および開口収差の補正は、多重極を使用して非回転対称場を生成することによって可能であり、これにより、非回転対称ビームが形成され、このビームに収差補正が行われ、反対に作用する場が使用されて再び円形ビームが形成される。
【0008】
収差補正には、光学系の収差とは反対の収差を生成し、したがってこの収差を補償する補正器が必要である。しかしながらこのような補正器自体によって複数の収差が生成され、これらの収差も補正器内で可能な限りに補償しなければならない。
【0009】
幾何収差は、光の波面を、または粒子光学では粒子ビームの波面を非球面形状に変形し、ここでは補正器は、この形状を最大限に再現しなければならないか、また後続の複数の収差が発生した後、これが再び球面状になるようにこれを変形しなればならない。波面のこの補正の基礎については、Rolf Erni(引用箇所、"7.5 Wave Surface, Aberration Function and Image Aberrations"節、第214〜228頁)を参照されたい。
【0010】
上記のすべてが、試料内の薄いスライスの高解像度画像を得るために、したがって顕微鏡の最適設定を得るために使用される。この目標は、すべての収差が補償される収差の次数が高ければ高いほどより良好に達成される。しかしながら(計算可能な理論に反し)実践的には、それぞれの別の収差補正は、すでに補償された収差に遡及的な作用を有し、補償された収差が再び発生し、これを再度補償しなければならない。このような理由から、系統的な繰り返し手法によって最適な収差補正にアプローチしなければならない。したがって実践においては、特定の次数まですべての収差を完全に除去することはできないが、これらを減少させることは可能であり、これにより、これらの収差が、結果に関連するような仕方で、解像度および鮮明度についての所望の画質にもはや影響を及ぼすことがないようにする。したがって目標は、理論的な完全さではあるが、実践的には、電子顕微鏡を使用するそれぞれの目的に画質が利用できるか否かに関わる。これが、収差の除去または補正が意味するものである。
【0011】
5次までの残余軸上収差を阻止する複数の開口収差補正器が公知である。しかしながらこれらの補正器を用いて5次までの収差が補正されたとしても、6次のスリーローブ収差が優勢になり、レンズ口径がさらに拡げられる場合には、この6次のスリーローブ収差により、許容できないほど画質が乱される。これらの公知の補正器は、複数の円形レンズダブレットの中間に配置されている2つまたは3つの6重極を有する補正器である。
【0012】
2つの6重極を有する補正器は、欧州特許第0451370号明細書(Rose)の補正器であり、またこの補正器のさらなる発展形態は、例えば、Mueller H.、Uhlemann S.、Hartel P.およびHaider M.の(2006)"Advancing the Hexapole Cs-corrector for the scanning transmission electron microscope." Microsc. Microanal. 12:第442〜455頁に記載されている。3つの6重極を有する補正器は、例えば欧州特許出願公開第3255649号明細書または独国特許出願公開第102006017686号明細書に開示されている。デルタ補正器も公知である(Sawada等による"Correction of higher order geometrical aberration by triple threefold astigmatism field"、Journal of Electron Microscopy 58(6)、第341〜347頁(2009))。
【0013】
欧州特許出願公開第3255649号明細書(Morishita)には、6次の軸上スリーローブ収差を測定し、3回軸上非点収差(A)の収差および4次の軸上スリーローブ収差(D)を用いて、6次のスリーローブ収差(D)によって発生する位相変化を減少させることが提案されている。しかしながらこれにより、6次の軸上スリーローブ収差は除去されておらず、位相差だけが改善される。この理由により、これは、収差の補正ではなく単なる最適化である。
【0014】
Morishita等による論文"Evaluation of residual aberration in fifth-order geometrical aberration correctors"(Microscopy、2018、第156〜163頁)には、2つまたは3つの6重極を有する上記の補正器が、6次のスリーローブ収差を除去できるか否かという問題を論じている。この論文は、6次のスリーローブ収差(D−この論文ではRと称されている)は、2つの6重極を有する補正器によっても、デルタ補正器のような3つの6重極を有する補正器によっても阻止できないという結論に達している。
【0015】
欧州特許出願公開第2325862号明細書および欧州特許第2325863号明細書(共にHenstra)には、2つの6重極を有する上述のRose補正器をベースにして、2つの6重極の間の円形レンズダブレットに、弱い6重極場を有する付加的な6重極を追加することが提案されている。この弱い6重極場により、5次の6回非点収差(A)または6次のスリーローブ収差(D)のいずれかが補正される(それぞれ請求項1を参照されたい)。2つの文献(欧州特許出願公開第2325862号明細書の段落[0071]および欧州特許第2325863号明細書の段落[0074])には、対物レンズの方向に見て補正器の下流にかつトランスファレンズダブレットの手前に配置された12重極(図2の参照符号128)により、5次の6回非点収差(A)と、6次のスリーローブ収差(D)とを同時に補正するという着想が言及されている。この理論は確かに正しいが、実践的な実現は以下の2つの事実によって機能しない。すなわち、所望の効果を達成するために、12重極場は、実践的な技術的実装において実現できない強さを有しなればならないことになる。さらにこの装置では、残余チャプレット収差(G)が発生し、その作用は、除去された6次のスリーローブ収差(D)よりも大きいことさえもあり、したがって改善の目的は全く達成されない(図3eを参照されたい)。
【0016】
デルタ補正器(上記を参照されたい)は、上述のタイプの補正器であり、このデルタ補正器により、開口収差(C)を補正することができ、これにより、軸上非点収差(A)と、4次の軸上スリーローブ収差(D)と、6回の軸上非点収差(A)とを阻止することができるが、6次のスリーローブ収差(D)は阻止することができない。このことは、数学的にも、Morishita等(上記を参照されたい)によって実験的にも検証されており、その結果は、第162頁(左最上部)(同文献)に要約されている。
【0017】
上記の理由から、本発明の根底にある目的は、5次までのすべて非円形軸上収差と、6次のスリーローブ収差とを阻止しかつ達成した改善を無益にし得る収差を生じさせることのない開口収差補正器を提供することである。
【0018】
この目的は、上述のタイプの粒子光学補正器によって達成され、ここでは、同一の強さの2つの外側6重極場の強さに対する中央6重極場の強さは、3回軸上非点収差が消滅するように選択されており、かつ補正器全体が、6回軸上非点収差を有しないように、外側6重極場の強さが選択されており、多重極素子と、対称面からより遠い円形レンズとの間の間隔が、それらの焦点距離と、付加的な間隔との和に等しく、この付加的な間隔は、中央多重極素子の与えられた長さおよび同一の多重極素子の与えられた長さに対し、4次の軸上スリーローブ収差が消滅するように選択されており、対称面からより遠い円形レンズの焦点距離に対する、対称面により近い円形レンズの焦点距離のあらかじめ定められた比に対し、6次の軸上スリーローブ収差が消滅するように、同一の2つの外側多重極素子の長さに対する中央多重重極素子の長さが選択されている。
【0019】
本発明の出発点は、6重極場による3回軸上非点収差(A)および4次の軸上スリーローブ収差(D)の内部的なコンビネーション収差と、6重極場による6回軸上非点収差(A)の内部的なコンビネーション収差とが、互いに除去されるはずであるということである。これには、6重極場を通過したビームが、最初に変形され、つぎに後続の6重極場によって再び円形されることが含まれる。既に存在する不所望の収差は、非回転性の対称ビーム領域において除去され、他の収差は、後続の収差の後続の補償に対し、逆の符号で生成される。本発明による多重極素子により、このような変形および円形の戻しが次のように行われる。すなわち、第1多重極素子に進んだビームは、そこで変形され、上述のタイプの収差補償の後、中央多重極素子の(対称面の前の)前半で再び円形にされる。(対称面の後の)中央多重極素子の後半では、第1多重極素子と同一である第2多重極素子において再び円形にされるようにするためにビームは再度変形される。この場合も、非回転性の対称ビーム領域において収差が補償される。
【0020】
上述のコンビネーション収差は、結果的に、6重極場において2次元平面におけるベクトルによって表すことが可能な収差寄与分になり、すなわち6重極場による
【数1】
および6重極場による
【数2】
になる。本発明を用いなければ、これらのベクトルaおよびbは三角形を形成し、この三角形の第3の辺cが、結果的に6次の軸上スリーローブ収差(D)になる。従来の文献(例えばMorishita等、上記を参照されたい)では、上記のベクトルは、部分的に同じ方向に作用し、これにより、合成ベクトルcは、aおよびb単独よりも大きな大きさを有する。6次の軸上スリーローブ収差(D)を0に減少させるために、2つのベクトルaとbとを互いに逆平行に配向することが本発明の目的である。
【0021】
別の目的は、回折限界を低いレベルにするために、最大の開口角(α)を有する収差補正されたビームを試料に集束することである。回折限界についての尺度はλ/αである。光学顕微鏡では、角度αは、電子顕微鏡よりもはるかに大きい。電子顕微鏡は、電子ビームの波長λが、光波の波長よりも格段に短いという事実に起因して格段に小さな回折限界を有する。
【0022】
4つの比が、本発明にとって重要である。
【0023】
第1は、6重極の強さの比、すなわち同一の2つの外側多重極素子の強さ(ΨHP1,3)に対する、他の中央多重極の強さ(ΨHP2)である。(6重極場を生成するために、6重極素子またはより多くの極を有する多重極素子を使用可能である。)
【0024】
第2は、補正器全体が6回軸上非点収差を有しないように外側6重極場の強さを選択しなければならない。
【0025】
さらに、同一の外側多重極素子(1、3)の長さL’に対する、外側トランスファレンズ(7’’、8’’)の焦平面を基準にした同一の外側6重極の中心面の付加的な間隔の長さΔzの比dが関係する。
【0026】
同様に関係するのは、同一の2つの外側多重極素子1および3の長さL’に対する、中央多重極素子2の長さLの比である。
【0027】
6重極の強さΨHP2とΨHP1,3との間の比について:
【0028】
電流の強さIによって乗算した巻数Nと、穴の半径Rとから得られる6重極場の強さΨも以下の式、すなわち、
6重極の強さ:Ψ=μ・N・I・R−3
真空の透磁率:μ=4π・10−7As/Vm
にしたがって関係する。
【0029】
同一の2つの外側6重極場の強さΨHP1,3に対する、他方の中央6重極場の強さΨHP2の必要な比は、以下の数式によって表され、この式により、3回軸上非点収差(A)がなくなる。すなわち、
ΨHP2/ΨHP1,3= 2/(k・M
であり、ここでkは、同一の2つの外側多重極素子(1,3)の長さL’に対する、他方の中央多重極素子(2)の長さLの比であり、すなわち
k=L/L’
である。
【0030】
Mは、より遠くに配置されている円形レンズ(7’’、8’’)の焦点距離f’に対する、対称面のより近くに配置されている円形レンズ(7’、8’)の焦点距離fの比であり、すなわち
M= f/f’
である。
【0031】
外側6重極場の強さ(ΨHP1,3)について:
【0032】
これらの強さは、補正器全体が、6回軸上非点収差(A)を有しないように選択しなければならない。この問題は、Mueller等による上述の刊行物(2006)によってすでに取り扱われており、この補正器は、A収差のx成分(A5x)は除去されるが、収差Aの小さなy成分、すなわちA5yは残存する、2つの6重極補正器であった。この発明は、3つの6重極補正器を扱っているため、A5yは、対称性のために消滅する。
【0033】
付加的な間隔Δzの大きさについて:
【0034】
この付加的な間隔は、外側円形レンズ(7’’および8’’)の焦点距離f’による間隔に加えられる、同一の2つの外側多重極の中心面のシフトであり、すなわちこれらの円形レンズの焦点距離からの外側方向へのシフトである。
【0035】
同一の2つの多重極素子(1および3)の長さL’に対する率Δzの比dについては、以下が当てはまる。すなわち
【数3】
である。
【0036】
これにより、以下、すなわちΔz=d・L’が当てはまるはずである。
【0037】
このようにして4次のスリーロープ収差(D)が消滅する。kおよびMは、すでに上で定義した。この数式は、近似式である。なぜならばこの数式は、6重極場がボックス形状であるという仮定に基づいているからである(6重極場は、実際には長さLまたはL’をいくらか越えて延在している)。
【0038】
本発明によれば、4次のスリーローブ収差(D)がないというこの特徴も満たされるはずである。デルタ補正器の場合、この比は異なり、この場合にはd=0であり、したがってΔz=0である。デルタ補正器の2つの外側6重極場は、対称面に対し、外側円形レンズの焦点距離に位置している。したがって外側6重極素子は、4次の軸上スリーローブ収差(D)をなくすために、互いに対して回転される(Morishita等による上述の論文、第158頁、図1bを参照されたい)。
【0039】
同一の外側多重極素子1および3の長さL’に対する中央多重極素子2の長さLの比について:
【0040】
ここでの主たる問題は、2つのベクトルaとbとが相互に除去し合うための条件であり、すなわち、すべての6重極場において生成される収差AおよびDにより、その後、これらの6重極場においてコンビネーション収差Dが生成され、これが、中央の6重極場において、収差Aによって生じる逆向きのコンビネーション収差Dによって打ち消される。この打ち消しは、同一の多重極素子1および3の長さL’に対する中央多重極素子2の長さLを適切に選択することによって達成される。
【0041】
ベクトルa(本発明によればほぼ実である)については、このことは以下の数式、すなわち、
【数4】
によって表すことができ、またベクトルbについては、以下の数式、すなわち、
【数5】
により、表すことができる。
【0042】
ここでX(A2)、X(D4)およびX(A5)はそれぞれ、収差A、DおよびAの収差経路であり、uαは、点源から発しかつ対物レンズによって対物面に集束される軸方向基本経路である。これらのベクトルのy成分は、(デルタ補正器とは異なり)6重極の配向が同じであることによって無視することが可能である。
【0043】
最終的に上述の3つの比は、上記の数式からすでに明らかなように関連付けられており、ここでは上述の3つの条件を満たす値をそれぞれ探し出すことが重要である。この場合には当然のことながら、条件の理論的な実現は、個別の電子顕微鏡についての正確な比に適合させなければならず、正確な比は、使用の要件および目的に依存して互いに異なり、かつ構成上の不完全さに起因して、理論的な計算からずれを有する。
【0044】
請求されかつ図1の一実施形態によって説明されるビーム路は、理論上のものであり、またこのために理想的なものであり、コンポーネントの製造には、たとえ極めて小さいとしても不完全さがつねに伴うため、実践的には実現できない。しかしながら補正器は、精密なシステムであり、ごくわずかな機械加工誤差により、あらかじめ定められた機能からは必ず相違する。極めて小さい許容誤差が達成されるコンポーネントだけを使用したとしても、許容できない品質を有するコンポーネントが数多く製造されることになってしまい、このことは極めて不経済になり得る。
【0045】
しかしながら、例えば、レンズの励磁を変化させることによってビーム路を小さく変化させるというように特定のパラメータをわずかに変化させることにより、このような不完全さに対抗することができ、この場合にはこのビーム経路はさらに、別のレンズの励磁を変更することによって補正され、これにより、焦点が維持されることが保証される。一般に励磁における変化は、5%までの範囲で十分である。したがって、調整の多少の自由度が利用される。
【0046】
このような補正の変化の例は、それぞれの外側6重極に隣接するレンズ、すなわちコンデンサレンズ(16)または第1トランスファレンズ(11’)の励磁の変化を介して焦点距離を補正することにより、1つまたは両方の外側円形レンズ(図示した実施形態においてこれらは7’’および8’’である)の励磁を変化させることである。このタイプの別の選択肢も同様に実現可能である。
【0047】
このような補正が行われる場合、不所望の寄生収差により、補正を行う方向が決定される。補正の程度は、結果重視で行われる。
【0048】
このような限定された変更は、同様に限定された別の複数のパラメータの変更を生じさせる。機械的または電気的なパラメータによって決定される基本的に任意の発明の場合と同様に、許容範囲は、種々の結果の機能的に達成されたものの範囲内で、この発明についての保護範囲に含まれるはずである。
【0049】
これは、発明の基本原理からの逸脱ではなく、発明の基本原理を達成するための実際の実現における補正である。
【0050】
従属請求項2〜7には、有効範囲および正確な最適比が示されている。
【0051】
比d=Δz/L’、すなわち同一の外側多重極素子1および3の長さL’に対する付加的な間隔Δzの比は、適切には0.5〜0.95の範囲内にある。
【0052】
中央多重極素子2の6重極場の強さΨHP2と、強さΨHP1,3との比、すなわちΨHP2/ΨHP1,3は、好ましくは0.33〜1.7の範囲内にある。
【0053】
対称面6のより遠くに位置する円形レンズ7’’および8’’の焦点距離f’に対する、より近くに位置する円形レンズ7’および8’の焦点距離fの比M、すなわちM= f/f’は、適切には0.8〜1.2の範囲内にあるが、好ましくは±0.01の許容範囲を伴い、M=1.15である。
【0054】
外側多重極1および3の長さL’に対する中央多重極素子2の長さLの比k、すなわちk= L/L’は、2.0〜3.5の範囲内にあり、好ましくはk= 3.05(±0.05)である。
【0055】
本発明による補正器の別の一発展形態は、構造誤差(construction errors)によって生じる寄生収差の補正に使用され、ここでは構造誤差によって生じる収差を補正する収差が生成される。このために、円形レンズダブレットの円形レンズの間に付加的に配置される6重極ダブレットの対称面が、対称面のより近くに配置されている円形レンズの焦点距離に等しい間隔で、かつ対称面からより離れて配置されている円形レンズの焦点距離に等しい間隔で配置されており、ここでは、構造誤差によって生じる収差を補償するために、4次のスリーローブ収差(D)の小さな変化を補正器内に生成できるように6重極ダブレットが構造化され(structured)かつ励磁される(excited)。
【0056】
より次数の高い収差は、円形レンズダブレットの円形レンズの間に付加的に配置される6重極ダブレットの対称面が、対称面のより近くに配置されている円形レンズの焦点距離に等しい間隔で、かつ対称面からより遠くに配置されている円形レンズの焦点距離に等しい間隔で配置されることにより、部分的に相殺可能であり、残余収差の、特にD、Aにおける小さな変化が可能になるように6重極ダブレットが構造化および励磁され、この小さな変化により、寄生収差の補償が可能になるか、または同じ多重度(multiplicity)のより高次の収差、特にDおよびGの影響を最小化することできる。
【0057】
この最小化は、補正ではなく、上述のMorishitaによる欧州特許出願公開第3255649号明細書に類似した、本発明による補正を補足する最適化である。このことは、収差は補正されないが、画質に与えるこの収差の作用が最小化されることを意味する。この別の発展形態により、以下で説明するように、図3hと比較した図3iの画質改善に相当する画質改善が得られる。
【0058】
本発明はまた、上で説明した補正器を有する電子顕微鏡に関する。この電子顕微鏡は、好ましくは走査電子顕微鏡(SEM:scanning electron microscope)または走査透過顕微鏡(STEM:scanning transmission electron microscope)である。
【0059】
電子顕微鏡は、対物レンズのビーム路の下流に補正器が配置されている透過電子顕微鏡(TEM:transmission electron microscope)であってもよい。
【0060】
このタイプの透過電子顕微鏡では、上述の電子顕微鏡および図1に実施例として示した電子顕微鏡と比べてビーム路は逆になっている。このような逆転は、当該技術分野においては公知であり、この点についてはR. Ernieによる"Aberration-Corrected Imaging in Transmission Electron Microscopy"、2010、第48頁、脚注1を参照されたい。この文献には、PoganyおよびTurner、1968および相反定理を教示したCowley、1969に対する参照も含まれている。
【0061】
上述の複数の顕微鏡のうちの1つにおいて、トランスファレンズ系は、補正器と対物レンズとの間に適切に挿入されており、このトランスファレンズ系によって球面収差を補正することができる。このタイプのトランスファレンズ系は、1つのトランスファレンズから構成されていても、2つのトランスファレンズから構成されていてもよい。
【0062】
2つのトランスファレンズを備えたトランスファレンズ系は、これらのトランスファレンズが異なる焦点距離を有し、これにより、これらのトランスファレンズが、対物レンズ球面収差、すなわちCおよびCを除去するように適切に設計される。この関連において、対物レンズ球面収差を正確に除去するために、トランスファレンズの焦点距離が、トランスファレンズのコイルの励磁によって調整できるようにすることが可能である。
【0063】
以下では、図面を参照して本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0064】
図1】本発明による補正器およびトランスファレンズ系の一実施形態を示す図である。
図2】ベクトルを使用して従来技術と本発明との収差補正の比較を示す図である。
図3】従来技術の収差補正との比較において本発明による補正器の収差補正の補正効果をロンチグラムによって示す図である。
【0065】
さらに図3a〜3iでは、従来技術の収差補正との比較において本発明による補正器の収差補正の補正効果が、ロンチグラムによって示されている。
【0066】
図1には、本発明による粒子光学補正器5の一実施形態と、別の一発展形態にしたがって付加されるトランスファレンズ系11の一実施形態が示されている。電子顕微鏡への実装は、光軸4、コンデンサレンズ16、および焦点距離f’’’’を有する2つの対物レンズ13’、13’’を備えた対物レンズ13と、走査電子顕微鏡において画像を生成するために使用される検出器15とによって略示されている。中間レンズは省略されている。試料14は、対物レンズ場13と13’との間に配置されている。対物レンズ13はまた、後ろに試料が配置されるただ1つの対物レンズ場を有していてもよい。uαは、軸上ビーム路を示し、uγは軸外ビーム路を示している。
【0067】
補正器5は、3つの多重極素子1、2および3、すなわち補正器5の対称面6内に1つの中央多重極素子2と、同一の2つの外側多重極素子1および3とから構成されている。中央多重極素子2は、強さΨHP2および長さLの6重極場を有する。2つの外側多重極素子1および3は、強さΨHP1,3および長さL’の6重極場を有する。円形レンズ7’、7’’および8’、8’’をそれぞれ有する円形レンズダブレット7および8は、多重極素子1、2および3の間に配置されている。円形レンズ7’および8’は、対称面6からそれらの焦点距離fと等しい間隔で配置されており、焦点距離f’を有する円形レンズ7’’および8’’は、円形レンズ7’および8’から、2つの焦点距離fとf’との和に等しい間隔を有する。同一の外側多重極素子1および3は、円形レンズ7’’および8’’から、それらの焦点距離f’と量Δzとの和に等しい間隔を有し、これらの間隔はそれぞれ、6重極素子1、2および3の対称面1’、6および3’に対する間隔および円形レンズの対称面に対する相対的な間隔である。
【0068】
上述したように、中央多重極素子2の6重極場ΨHP2の強さと、外側多重極素子1、3の6重極場ΨHP1,3の強さとの比は、3回非点収差Aが消滅されるように設計されている。
【0069】
上記のより詳細な説明によれば、本発明による量Δzは、多重極素子1、2および3のあらかじめ定められた長さLおよびL’に対し、4次の軸上スリーローブ収差Dが消滅するように選択され、中央多重極2の長さは、外側多重極1および3に対して比kを有し、これにより、円形レンズ7’および8’の焦点距離fと、円形レンズ7’’および8’’の焦点距離f’とのあらかじめ定められた比M=f/f’に対し、軸方向スリーローブ収差Dが、本発明によって消滅されるようにする。
【0070】
コンデンサレンズによって束ねられかつビーム源から到来するビームは、軸上ビーム路uαおよび軸外ビーム路uγによって示されている円形で補正器5に進む。このビームは、はじめに第1の外側多重極素子1によって変形され、中央多重極素子2の前半において、再び円形にされ、多重極素子2の後半において再び3回変形され、第3の外側多重極素子3によって再び円形にされる。円形でないビーム領域は、O. Scherzer(上記を参照されたい)に基づいて説明した収差補正に使用される。これが、本発明による粒子光学補正器5の基礎である。
【0071】
さらに、付加的な6極ダブレット9、9’および10、10’が示されており、これらは、円形レンズダブレット7の円形レンズ7’と7’’との間、および円形レンズダブレット8の円形レンズ8’と8’’との間に配置されており、6重極ダブレット9、9’および10、10’の対称面9’’、10’’はそれぞれ、円形レンズ7’、7’’、8’、8’’から、それらの焦点距離f、f’に等しい間隔で配置されている。
【0072】
これらの6重極ダブレット9、9’および10、10’への電流の構成および印加は、電子顕微鏡または補正器5の構造誤差によって生じる収差が、補正器内の4次のスリーローブ収差Dにおける小さな変化によって除去されるように、したがって逆の符号の収差が生成されるように選択される。
【0073】
この図にはまた、補正器の下流に配置されておりかつ2つのトランスファレンズ11’および11’’を有するトランスファレンズ系11も示されている。これらのレンズは、対物レンズ13の球面収差を除去するように選択された異なる焦点距離f’’およびf’’’を有する。この除去を正確に調整するために、焦点距離f’’、f’’’は、トランスファレンズ11’および11’’のコイルの励磁を介して、所定の範囲内で変化させることが可能である。球面収差は、試料14にビームが当たる前に除去される必要がある。
【0074】
トランスファレンズ系11は、走査ビームを偏向するために、走査電子顕微鏡用の電磁石12、12’を収容していてよい。
【0075】
図2a、2bおよび2cには、ベクトルa、bおよびcにより、従来技術および本発明の収差補償が図示されている。
【0076】
ベクトルaは、6重極場におけるAおよびDのコンビネーション収差によって生成され、ベクトルbは、6重極場におけるAのコンビネーション収差によって生成される。ベクトルcは、ベクトルaとbとの合成ベクトルであり、このベクトルcによって収差Dが得られる。これらは、軸に垂直な平面内の2次元ベクトルである。
【0077】
図2aには、Rose補正器(上記を参照されたい)において、ベクトルaおよびbにより、合成ベクトルcがどのように得られるかが示されている。ここでこの合成ベクトルが生成されるという事実は、AおよびDから得られるベクトルaを形成するコンビネーション収差と、Aから得られるベクトルbの小さなコンビネーション収差とが互いに補償し得ないという事実に起因する。ベクトルcは、全体収差Dについてすでに生じているベクトルaとほぼ同じ大きさである。
【0078】
図2bには、デルタ補正器(上記を参照されたい)について同じことが示されており、このデルタ補正器では、ベクトルaおよびbが部分的に同じ方向を指し示しているために結果的に収差Dが生じている。
【0079】
図2cには最後に、収差AおよびDおよびAのコンビネーション収差ベクトルaおよびbが互いに平行ではあるが逆を向いている、すなわち符号が異なるが、長さが等しい様子が示されている。このため、AおよびDのコンビネーション収差は6重極場によって互いに打ち消し合い、Aのコンビネーション収差は、6重極場によって互いに打ち消されてD収差は残存しない。
【0080】
図3a〜3iには、イメージングに使用される円形ビーム束の、例えば対象体を走査する走査電子顕微鏡のビームの明視野像であるロンチグラムがそれぞれ示されている。拡大率が大きいために構造がない中央領域が見えている(ほとんど点状に集束される有限サイズの試料を有する画像)。このことは、この中央の開口領域の集束がほぼ理想的であることを意味する。この領域は、実質的に6角構造によって取り囲まれている。外側の開口領域は、集束された試料の3重または6重の端部に結像され、これにより、(非晶質であると思われる)対象体の比較的大きな領域が得られ、すなわち拡大率が減少し、結果的に構造が見えるようになっている。図3a、3c、3e、3fおよび3hには、補償が行われていないビーム束が示されており、図3b、3d、3gおよび3iには(欧州特許出願公開第3255649号明細書のMorishitaと同様に−上記を参照されたい)補償が行われたビーム束が示されている。これは、低加速電圧(30kV)および単色化した電子源(ΔE=0.1eV)を有する補正対象の一般的な対物レンズ(f=1.4mm、C=1.1mm)に基づいている。「収差のない開口」は、説明のためにπの最大位相シフトで示されている。表1には、これらの画像に関連する収差係数が示されている。
【表1】
【0081】
図面において、図3aには、Mueller等による補正器(2006−上記を参照されたい)のロンチグラムが示されている。これは、位相シフトの最適化が行われていない2つの6重極補正器である。ビーム束の収差のない開口は50mradである。
【0082】
図3bには、最適化が行われた同じ補正器のロンチグラムが示されており、ビーム束の収差のない開口は68mradである。
【0083】
図3cには、6重極の2重の通常の励磁と、参照部号126が付された追加の多重極とを有する、欧州特許出願公開第2325862号明細書および欧州特許第2325863号明細書(それぞれS.Henstraによる−上記を参照されたい)からそれぞれ公知の2つの6重極補正器のロンチグラムが示されている。ビーム束の収差のない開口は45mradである。
【0084】
図3dには、位相シフト最適化が行われたこの補正器のロンチグラムが示されており、ここでは、64mradの収差のない開口が達成されている。
【0085】
図3eには、参照符号128が付された追加の12重極を有する、それぞれ図3cおよび3dによるHenstra補正器が示されている。12重極によって生じるチャプレット収差(G)により、収差のない開口はわずか44mradである。
【0086】
図3fおよび3gには、最適化が行われた上記のデルタ補正器および最適化が行われていない上記のデルタ補正器がそれぞれ示されており、50mradの収差のない開口および70mradの収差のない開口がそれぞれ達成されている。
【0087】
図3hおよび3iには最後に本発明による補正器が示されており、この補正器により、76mradの収差のない開口と、位相シフトが最適化された場合の103mradの収差のない開口が達成されている。この最適化は、請求項9による手段によって達成される。
【符号の説明】
【0088】
1 第1の外側多重極素子
1’ 第1の外側多重極素子の対称面
2 中央多重極素子
3 第2の外側多重極素子
3’ 第2の外側多重極素子の対称面
ΨHP2 中央多重極素子の6重極場の強さ
ΨHP1,3 同一の外側多重極素子1および3の強さ
L 中央多重極素子2の長さ
L’ 同一の多重極素子1および3の長さ
4 光軸
5 補正器
6 補正器の対称面
7 円形レンズダブレット
7’ (対称面により近い)円形レンズ
7’’ (対称面からより遠く離れている)円形レンズ
8 円形レンズダブレット
8’ (対称面により近い)円形レンズ
8’’ (対称面からより遠く離れている)円形レンズ
f 7’および8’の焦点距離
f’ 7’’および8’’の焦点距離
Δz 付加的な間隔
9、9’ 6重極ダブレット
10、10’ 6重極ダブレット
9’’、10’’ 6重極ダブレット9、9’および10、10’の対称面
11 トランスファレンズ系
11’ 第1トランスファレンズ
11’’ 第2トランスファレンズ
f’’、f’’’ トランスファレンズ11’、11’’の異なる焦点距離
12、12’ 走査ビーム偏向用の電磁石
13 対物レンズ
13’、13’’ 対物レンズ場
f’’’’ 対物レンズの焦点距離
14 試料
15 検出器
16 コンデンサレンズ
α 軸上ビーム路
γ 軸外ビーム路
α 開口角
a 6重極場における収差AおよびDのベクトル
b 6重極場における収差Aのベクトル
c aおよびbの合成ベクトルである場Dのベクトル
数式
回折:λ/α
相対的なシフト:d= Δz/L’
中間の倍率:M= f/f’
長さの比:k= L/L’
6重極の強さの比:ΨHP2/ΨHP1,3= 2/(K・M
真空の透磁率:μ= 4π・10−7As/Vm
6重極の強さ:Ψ= μ・N・I・R−3
ルール:
【数6】
6x積分:
【数7】
図1
図2
図3-1】
図3-2】
図3-3】
図3-4】
図3-5】
【外国語明細書】