【実施例1】
【0019】
[コンクリート構造物の剥落防止材]
<1>全体の構成(
図1)。
本発明のコンクリート構造物の剥落防止材は、コンクリート構造物のコンクリート面から剥離したコンクリート片の落下を防止するためのシート状の部材である。
剥落防止材1は、排水シート10と、排水シート10の前面に付設した格子材20と、の組み合わせからなる。
排水シート10と、格子材20とは、別部材を貼り合わせて構成してもよいし、接着剤等によって一体に構成してもよい。また、現場で両者を組み合わせて構成してもよい。
本例では剥落防止材1として、幅60cm×長さ2mの矩形のシート体を採用する。なお、
図1では長さ方向を省略して記載している。
なお、本発明において剥落防止材1の「背面」とは、供用時にコンクリート面に対向する面であり、「前面」とはその反対面である。また、剥落防止材1の「幅方向」とは、供用時に水平方向に対応する方向であり、「長手方向」とは幅方向と直行する方向である。
【0020】
<2>排水シート。
排水シート10は、コンクリート小片の捕捉機能と、導水機能を兼備する構成要素である。
排水シート10は、シート本体11と、シート本体11の導水部11aの背面側に一体に突設した複数の導水補強リブ12と、を備える。
排水シート10には、可撓性を有する素材を用いる。
本例では排水シート10として、難燃剤を添加したオレフィン系樹脂を素材としたシート材を採用する。ただしこれに限らず、塩化ビニル樹脂等を採用してもよい。特に本願の剥落防止材1をトンネル内で使用する場合には、本例のように難燃性の材料を採用することが望ましい。
また、排水シート10を透明又は半透明の樹脂により構成することで、コンクリート面のひび割れや剥離の状況、漏水箇所の確認等を、排水シート10越しに目視で点検することが可能となる。
【0021】
<2.1>導水部と封止部(
図2)。
本例ではシート本体11が、導水機能を有する導水部11aと、隣り合う剥落防止材1との連結機能及び止水機能を有する封止部11bと、からなる。
導水部11aには、背面に導水補強リブ12を形成する。
封止部11bには、導水補強リブ12を形成しない。
封止部11bは、シート本体11の幅方向の少なくとも一側に沿って帯状に設ける。本例では、幅10cm程度の封止部11bを、シート本体11の幅方向両側に設ける。
シート本体11の幅方向端部に導水補強リブ12のない封止部11bを設け、封止部11bをコンクリート面に直接押し付けることで、封止部11b付近の導水補強リブ12をコンクリート面に押圧してコンクリート面に密着変形させて、剥落防止材1の幅方向端部からの漏水を防ぐことができる。
また、封止部11bを隣り合う剥落防止材1の封止部11b又は導水部11aと重ね合わせることで、幅方向に隣り合う剥落防止材1同士を、止水加工を要さずに連結することが可能となる。
なおシート本体11に封止部11b設けず、シート本体11の全面に導水補強リブ12を設けてもよい(
図3)。
【0022】
<2.2>導水補強リブ。
導水補強リブ12は、導水機能、補強機能、及び復元機能を兼備する構成要素である。
導水補強リブ12は、シート本体11の導水部11aの背面に、シート本体11の長手方向に沿って複数形成する。
導水補強リブ12の上端をコンクリート面に接触させることで、隣り合う導水補強リブ12とコンクリート面によって包囲された導水路13を形成することができる。
また、シート本体11の長手方向に沿って導水補強リブ12を形成することで、排水シート10に、トンネル内壁のように内側にオーバーハングしたコンクリート面上でも平坦な形状を維持可能な保形性と、支圧変形から復元可能な形状弾性を持たせることができる。
導水補強リブ12の高さは2〜10mm程度が好ましく、特に4〜7mm程度が好適である。高さが2mmより低いと導水性能に劣り、排水シート10の幅方向に漏水するおそれがある。また、高さが10mmより高いと成形しづらく、現場での施工性も劣る。
【0023】
<3>格子材。
格子材20は、コンクリート片の捕捉機能と、排水シート10の分散支圧機能を兼備する構成要素である。
格子材20は、剥落防止材1の長手方向に延在する複数の縦桟21と、剥落防止材1の幅方向に延在する複数の横桟22と、を連続する格子状に組み合わせてなる。
本例では、縦桟21の延在方向を、導水補強リブ12の延在方向と平行にする。
本例では格子材20として、ビニルエステル樹脂に炭素繊維を複合させたFRP(繊維強化プラスチック)を採用する。
ただし樹脂と繊維の組み合わせはこれに限られず、例えば樹脂には、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等を採用することができる。また、繊維には、アラミド繊維、バサルト繊維、ガラス繊維等を採用することができる。
【0024】
<4>剥落防止機能。
本発明の剥落防止材1は、排水シート10と格子材20とを組み合わせた剥落防止機能に一つの特徴を有する。
格子材20は、コンクリート片を格子で捕捉することにより、その升目よりも大きなコンクリート片の落下を防止することができる。
排水シート10はシート状の部材であるが、導水補強リブ12によって補強されることで、格子材20の升目を通る小さなコンクリート片の落下を防止することができる。
このように、排水シート10と格子材20を組み合わせた簡易な構造によって、従来技術のように別途網状物を配置することなく、大小のコンクリート片の落下を効果的に防止することができる。
【0025】
[剥落防止構造]
<1>全体の構成(
図4)。
本発明の剥落防止構造Aは、トンネルや橋梁などのコンクリート構造物に設置して、コンクリート面から剥離したコンクリート片の落下を防止するための構造である。
本発明の剥落防止構造Aは、コンクリート面に敷設した複数の剥落防止材1を、複数の固定部材2と複数のアンカー材3とでコンクリート面に固定してなる。
複数の剥落防止材1は、封止部11b同士、又は封止部11bと導水部11aの端部を重ね合わせて、幅方向に連続配置する。
本例では、剥落防止構造Aを、トンネル内壁のコンクリート面上に設置した例について説明する。
【0026】
<2>固定部材。
固定部材2は、剥落防止材1をコンクリート面に支圧する板状の部材である。
本例では固定部材2として、矩形の金属製プレートを採用する。
固定部材2の縦横の長さは格子材20の升目より大きくする。すなわち、剥落防止構造Aを垂直のコンクリート面に設置した状態の正面視において、固定部材2が格子材20の升目を完全に覆う大きさに設計する。
固定部材2の中央には、アンカー材3のアンカー本体3aを挿通可能なボルト孔を穿設する。
【0027】
<3>アンカー材。
アンカー材3は、固定部材2を介して、剥落防止材1をコンクリート面に固定するための部材である。
本例ではアンカー材3として、先端にネジを切ったアンカー本体3aと、アンカー本体3aの先端に螺着可能なナット3bとの組み合わせからなる芯棒打ち込み式の拡張アンカーを採用する。
芯棒打ち込み式の拡張アンカーは、コンクリート構造物のアンカー孔内に差し込んだ後に、ハンマーなどで頭部の芯棒を打撃することで、先端部がアンカー孔内で押し広げられることによって、コンクリート面に強固に固定される構造である。
アンカー本体3aの先端は、コンクリート構造物内に固定する。
アンカー本体3aの頭部は、コンクリート面から突出し、剥落防止材1と固定部材2のボルト孔を連通した先端にナット3bを螺着する。ナット3bの螺着によって、固定部材2が剥落防止材1の格子材20を支圧することで、剥落防止材1をコンクリート面に押し付けて固定する。
なお、アンカー材3は、拡張アンカーに限られず、接着式やねじ込み式のアンカーを採用してもよい。又は打ち込み式のアンカーピンであってもよい。
【0028】
<4>剥落防止構造の機能。
本発明の剥落防止構造Aは、ナット3bの締結によって、固定部材2を介して剥落防止材1をコンクリート面に押し付けて固定する構造である。
本例では、固定部材2が格子材20の升目より大きいため、固定部材2が格子材20の縦桟21及び横桟22を格子状に支圧することで、支圧力を広い範囲に分散して剥落防止材1を効率的に固定することができる。
この際、コンクリート面に押し付けられた導水補強リブ12が弾性変形した復元力によって、固定部材2が押し戻されることで、ナット3bのゆるみを防ぐことができる。
また本例では、縦桟21と導水補強リブ12が平行であるため、固定部材2に支圧された縦桟21が導水補強リブ12を線状に押さえ込むことで、導水補強リブ12をコンクリート面に線状に密着させて、導水補強リブ12とコンクリート面の隙間から幅方向への漏水を防ぐことができる。
【0029】
<5>剥落防止構造の施工方法。
本発明の剥落防止構造Aは、例えば以下の手順で施工する。
(1)排水シート10に、所定の間隔で両面を連通する挿通孔を設けておく。挿通孔は格子材20の格子の中心付近にくるように設計する。
(2)コンクリート面に複数のアンカー孔を穿設する。アンカー孔は排水シート10の挿通孔の位置に対応させる。
(3)アンカー孔内にアンカー本体3aを挿入し、芯棒を打撃してアンカー本体3aを壁面に固定する。
(4)コンクリート面上に剥落防止材1を配置する。この際、剥落防止材1の背面、すなわち排水シート10側の面をコンクリート面に対向させ、導水補強リブ12をコンクリート面からの漏水を誘導したい方向に平行させる。アンカー本体3aの頭部を排水シート10の挿通孔に挿通させる。封止部11bには必ずアンカー本体3aを1本以上挿通させる。
(5)排水シート10の前面から突出したアンカー本体3aの頭部に、固定部材2のボルト孔を連通して、ナット3bを螺着する。この際、固定部材2が、格子材20の格子の前面を押えるように位置決めする。
(6)ナット3bを締結して、固定部材2を介して格子材20を支圧し、排水シート10をコンクリート面に押し付ける。同様の作業を、剥落防止材1上の全てのアンカー本体3aに対して行い、剥落防止材1をコンクリート面に固定する。
(7)固定した剥落防止材1の側方のコンクリート面上に、接続する剥落防止材1’を配置する。この際、固定した剥落防止材1の封止部10bの上に、接続する剥落防止材1’の封止部10bを重ね合わせ、上記の作業を繰り返して、剥落防止材1’をコンクリート面に固定する。このようにしてコンクリート面上に所定の数の剥落防止材1を固定して、剥落防止構造Aを構築する(
図5)。
なお、上記(1)〜(7)の工程は一例にすぎない。例えば、排水シート10への挿通孔はアンカー本体3aを設置したのちに設けてもよい。また、先にコンクリート面に剥落防止材1を位置決めした上で、剥落防止材1を挿通するようにコンクリート面にアンカー本体3aを打ち込み、最後にナット3bを締結するなどの方法によってもよい。