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特開2021-36860微生物のイオン耐性を向上させるための添加剤組成物および方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-36860(P2021-36860A)
(43)【公開日】2021年3月11日
(54)【発明の名称】微生物のイオン耐性を向上させるための添加剤組成物および方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/21 20060101AFI20210212BHJP
【FI】
   C12N1/21ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2020-126242(P2020-126242)
(22)【出願日】2020年7月27日
(31)【優先権主張番号】特願2019-155663(P2019-155663)
(32)【優先日】2019年8月28日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】501061319
【氏名又は名称】学校法人 東洋大学
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 政博
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA26X
4B065AB01
4B065AC20
4B065BA02
4B065BB03
4B065CA54
(57)【要約】
【課題】セシウムイオンおよび/またはリチウムイオンに対する微生物の耐性を向上させる。
【解決手段】セシウムイオンおよび/またはリチウムイオンに対する微生物の耐性を向上させるための添加剤組成物が提供され、その添加剤組成物は、マグネシウムイオンから構成されるイオン化合物を含む。微生物とセシウムイオンおよび/またはリチウムイオンとを含む培地に添加剤組成物を添加することにより培地にマグネシウムイオンを導入すること、または、マグネシウムイオントランスポーターを微生物に発現させることにより、セシウムイオンおよび/またはリチウムイオンに対する微生物の耐性を向上させる方法も提供される。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セシウムイオンおよび/またはリチウムイオンに対する微生物の耐性を向上させるための添加剤組成物であって、マグネシウムイオンから構成されるイオン化合物を含む、添加剤組成物。
【請求項2】
前記イオン化合物は、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、硫酸マグネシウム、または硝酸マグネシウムを含む、請求項1に記載の添加剤組成物。
【請求項3】
前記添加剤組成物は塩化マグネシウムまたは硫酸マグネシウムを含み、塩化マグネシウムまたは硫酸マグネシウムが10〜250 mMの濃度となるように前記微生物の培地に添加される、請求項2に記載の添加剤組成物。
【請求項4】
セシウムイオンおよび/またはリチウムイオンに対する微生物の耐性を向上させるための方法であって、培地と、前記微生物と、セシウムイオンおよび/またはリチウムイオンと、請求項1〜3のいずれかに記載の添加剤組成物との混合物を提供することを含む、方法。
【請求項5】
セシウムイオンおよび/またはリチウムイオンに対する微生物の耐性を向上させるための方法であって、配列番号1のアミノ酸配列を有するマグネシウムイオントランスポーターを前記微生物に発現させることを含む、方法。
【請求項6】
配列番号1のアミノ酸配列を有するマグネシウムイオントランスポーターを発現する大腸菌細胞。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、微生物のイオン耐性、特に、セシウムおよびリチウムのイオンに対する耐性に関する。具体的には、本開示は、これらのイオンに対する微生物の耐性を向上させるための組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セシウムは、通常の環境中には実質的に存在しない、すなわち問題になるほどの量では存在しない。しかしながら、原子力発電所の事故によって多量の放射性セシウムが外環境に放出され得ることが知られており、また、核兵器の使用(実験を含む)に際しても放射性セシウムによる深刻な環境汚染が起こり得る。セシウムはまた、必ずしも放射性ではないものも含め、石油採掘産業、化学産業、生物学・医学産業等で活用されており、それらの場から環境中に放出される潜在的可能性を有している。
【0003】
放射性セシウムの放射線とは別に、セシウム自体が微生物にとっての毒性を有しており(非特許文献1)、哺乳類など他の生物の細胞に対しても毒性が推測される。大腸菌において理解されているセシウムの毒性の機序は以下の通りである。すなわち、周期表上の位置からも理解されるように、セシウムは物理的・化学的にカリウムと類似しており、水中に溶けたセシウム化合物はセシウムイオン(Cs+)となって、カリウムチャンネルなどのカリウムイオン(K+)輸送系を通してK+と共に細胞内に流入する。しかしながら、細胞膜上のK+/H+アンチポーターはCs+を排出せずK+のみを細胞外に排出し、また高濃度の細胞内Cs+はK+の新たな取り込みも阻害するため、細胞内のK+が不足する状態が発生する。K+は核酸の合成やリボソームの安定化などにおいて役割を果たすイオンであるため、細胞内でそれが不足すると、細胞の正常な機能および生育が阻害されることとなる。
【0004】
Cs+耐性を示す細菌の存在も報告されている(非特許文献2、3)。しかしながら、Cs+耐性の具体的な分子機序は今日までほとんど解明されていない。
【0005】
セシウムとの関連は一切論じられていなかった別の背景研究において、ハエトリグモからMicrobacterium sp. TS-1株が単離された(非特許文献4)。このTS-1株は生育至適pH 9.0の好アルカリ性細菌であり、ハエトリグモの腸内に生息するものと考えられる。
【0006】
一方、リチウム(リチウムイオン)は、海水等に普遍的に存在する元素である。しかしながら、ある程度濃度が高くなるとリチウムも微生物に対する毒性を生じ得ることが知られている(非特許文献1)。現代社会においてリチウムは電池の材料をはじめとして産業的に大量に使用されており、高濃度のリチウムイオンが環境へ流出することも頻繁に起こっていると考えられる。
【0007】
エネルギーおよび資源の有効利用の重要性が高まっているなか、様々な物質の合成、変換、分解、浄化等に微生物の能力を利用する技術である「バイオプロセス」はますます注目を集めている。毒性イオンの存在下で微生物を活動させることができれば、バイオプロセスの利用範囲がさらに拡大され得るようになる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Wackett et al. (2004) Appl. Environ. Microbiol. Vol. 70, No. 2, 647-655
【非特許文献2】Kato et al. (2016) Scientific Reports 6:20041
【非特許文献3】Dekker et al. (2014) FEMS Microbiol. Lett. 359, 81-84
【非特許文献4】Fujinami et al. (2013) Genome Announc. 1(6). pii: e01043-13
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本開示の実施形態は、セシウムイオンおよび/またはリチウムイオンに対する微生物の耐性を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、Microbacterium sp. TS-1株が高濃度のセシウムの存在下で生育することができるCs+耐性菌であることを見出した。この菌のCs+耐性を手掛かりにして、様々な遺伝学的および微生物学的実験を精力的に行った結果、マグネシウムイオントランスポーターおよびマグネシウムイオンがCs+耐性に寄与できることを発見し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
本開示は少なくとも以下の実施形態を包含する。
[1]
セシウムイオンおよび/またはリチウムイオンに対する微生物の耐性を向上させるための添加剤組成物であって、マグネシウムイオンから構成されるイオン化合物を含む、添加剤組成物。
[2]
前記イオン化合物は、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、硫酸マグネシウム、または硝酸マグネシウムを含む、[1]に記載の添加剤組成物。
[3]
前記添加剤組成物は塩化マグネシウムまたは硫酸マグネシウムを含み、塩化マグネシウムまたは硫酸マグネシウムが10〜250 mMの濃度となるように前記微生物の培地に添加される、[2]に記載の添加剤組成物。
[4]
セシウムイオンおよび/またはリチウムイオンに対する微生物の耐性を向上させるための方法であって、培地と、前記微生物と、セシウムイオンおよび/またはリチウムイオンと、[1]〜[3]のいずれかに記載の添加剤組成物との混合物を提供することを含む、方法。
[5]
セシウムイオンおよび/またはリチウムイオンに対する微生物の耐性を向上させるための方法であって、配列番号1のアミノ酸配列を有するマグネシウムイオントランスポーターを前記微生物に発現させることを含む、方法。
[6]
配列番号1のアミノ酸配列を有するマグネシウムイオントランスポーターを発現する大腸菌細胞。
【発明の効果】
【0012】
本開示の実施形態により、天然に存在しうる稀有な耐性株に依存せずとも、様々な微生物にセシウムイオンおよび/またはリチウムイオンに対する耐性を簡便に付与することができ、それらの微生物によるバイオプロセスの利用可能性を拡大することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、MTS1_03028遺伝子がコードするマグネシウムイオントランスポーターのアミノ酸配列(配列番号1)を示す。下線は推定される膜貫通領域を示し、斜体太字はRM1株およびTM17株において変異していたアミノ酸を示す。
図2図2は、野生型のMicrobacterium sp. TS-1株、ならびにCs+感受性変異株RM1(A)およびTM17(B)、ならびにそれらの復帰変異株の、培地中セシウム濃度と生育能力(液体天然培地に植菌後30℃で18時間培養した後の、吸光度OD600で表される培地濁度)との関係を示すグラフである。
図3図3は、野生型TS-1株(Wild Type)、Cs+感受性変異株(RM1、TM17)、および復帰変異株(RM1R、TM17R)のMTS1_03028遺伝子産物のアミノ酸配列の一部を示す。RM1(上)とTM17(下)では、同じMTS1_03028遺伝子産物の異なる位置(アミノ酸番号および矢印参照)にアミノ酸置換が存在しており、それぞれの復帰変異株では野生型アミノ酸が回復している。
図4図4は、Mgtマグネシウムイオントランスポーターの分子系統樹を示す。
図5図5は、培地にマグネシウムイオン(100 mM MgCl2)を添加した場合の、RM1および復帰変異株RM1R(A)、ならびにTM17および復帰変異株TM17R(B)の生育能力を、野生型TS-1株(Wild type)と比較して示している。
図6図6のAは、培地へのマグネシウムイオン添加が様々な微生物にセシウム耐性を付与できることを実証する実験結果を示す。縦軸は培養培地の吸光度(OD600)を、横軸は培地中のCsClの濃度(mM)を示す。灰色線はマグネシウムイオン添加なし、黒色線はマグネシウムイオン添加ありを示す。図6のBは、対イオンを塩化物イオンから硫酸イオンに変えても同様の結果が得られることを示す。この実験において、LB培地はCsClを含んでおり、改LB培地はCs2SO4を含んでいる。
図7図7のA〜Dは、それぞれ大腸菌(E. coli)、枯草菌(B. subtilis)、緑膿菌(P. aeruginosa)、および黄色ブドウ球菌(S. aureus)において、異なる濃度のマグネシウムイオン化合物添加とセシウム耐性との関係を示す。
図8図8は、酵母(S. cerevisiae)において、異なる濃度のマグネシウムイオン化合物添加とセシウム耐性との関係を示す。
図9図9は、マグネシウムイオンの添加により微生物にリチウム耐性を付与できることを示す実験結果である。縦軸は培養培地の吸光度(OD600)を、横軸は培地中のLiClの濃度(mM)を示す。灰色線はマグネシウムイオン添加なし、黒色線はマグネシウムイオン添加ありを示す。
図10図10は、マグネシウムイオントランスポーターの異種発現によるセシウム耐性付与を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
一側面において本開示は、セシウムイオン(Cs+)および/またはリチウムイオン(Li+)に対する微生物の耐性を向上させるための添加剤組成物を提供する。この組成物は、マグネシウムイオンから構成されるイオン化合物を含むことを特徴とする。
【0015】
イオン化合物とは、「原子が結合する際に、原子の間で電子の授受を行ってイオンとなり、イオン結合によって安定となっているような化合物」である(東京化学同人 化学大辞典 第1版)。本開示における「マグネシウムイオンから構成されるイオン化合物」とは、水に溶解した際にマグネシウムイオン(Mg2+)を生じるイオン化合物(マグネシウム塩)であり、マグネシウムイオン供給源としてとらえることができる。本開示において、マグネシウムイオンから構成されるイオン化合物を単にマグネシウムイオン化合物ともいう。マグネシウムイオンから構成されるイオン化合物は、溶液、特に水溶液の形態で、すなわち電離した状態で組成物に含まれていてもよい。
【0016】
マグネシウムイオン化合物の具体例としては、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム等が挙げられるがこれらに限定されない。塩化マグネシウム、または硫酸マグネシウムが特に好ましい。マグネシウムイオン化合物を培地に添加するとマグネシウムイオン化合物は溶解する。25℃の水に対するマグネシウムイオン化合物の溶解度が1 g/100 mL以上であることが好ましく、5 g/100 mL以上であることがより好ましく、10 g/100 mL以上であることがさらに好ましく、20 g/100 mL以上であることが特に好ましい。
【0017】
一実施形態において、添加剤組成物は塩化マグネシウムまたは硫酸マグネシウムを含み、塩化マグネシウムまたは硫酸マグネシウムが10〜250 mMあるいは25〜200 mMの濃度となるように微生物の培地に添加される。この濃度はより好ましくは25〜150 mMであり、さらに好ましくは50〜125 mMである。90〜110 mMは特に好適な濃度である。添加剤組成物が硫酸マグネシウムを含む場合には、硫酸マグネシウムがこれらの半分の濃度で微生物の培地に添加されることがより好ましくなり得る。
【0018】
マグネシウムイオン化合物が塩化マグネシウムまたは硫酸マグネシウム以外のマグネシウムイオン供給源である場合にも、そのイオン化合物が、37℃における水あるいはLB培地(pH 7.0)に添加された上記濃度の塩化マグネシウムと同等のMg2+量を提供する量で微生物の培地に添加されることが好ましい。LB培地の組成は以下の通りである:1リットル当たり10 gのトリプトン(カゼインのトリプシン加水分解物)、5 gの酵母エキス、10 gの塩化ナトリウム、残部水。一実施形態において、添加剤組成物は、好ましくは10〜250 mMあるいは25〜200 mM、より好ましくは25〜150 mM、さらに好ましくは50〜125 mM、特に好ましくは90〜110 mMのMg2+量を提供する量で微生物の培地に添加され得る。
【0019】
本開示において、微生物の培地とは、微生物を生育させる環境である、水性液体に基づく組成物を意味する。これは実験室で調製される実験用培地に限定されず、自然環境、産業施設、居住施設、廃棄場等に見出される液体も含まれ得る。ここでいう「水性液体に基づく環境」とは、例えばマトリックス状の固体に含浸された水性液体、さらには寒天ゲルのような液体分散媒のコロイドをも包含しうる。培地は、少なくとも水を含み、その他に炭素源(特に、糖類)、窒素源(アミノ酸など)、ビタミン類、無機塩類などを含み得ることが当業者に理解される。
【0020】
本開示における微生物は、大きさ(最大径)0.1 mm以下の単細胞生物として定義することができる。細菌および酵母は典型的な微生物であり、細菌はグラム陽性菌およびグラム陰性菌のどちらであってもよい。微生物の具体例としては、Microbacterium属(TS-1およびその変異株を含む)、Escherichia属(例えば大腸菌E. coli)、Bacillus属(例えば枯草菌B. subtilis)、Pseudomonas属(例えば緑膿菌P. aeruginosa)、Staphylococcus属(例えば黄色ブドウ球菌S. aureus)、およびSaccharomyces属が挙げられるが、これらに限定されない。本開示における微生物は、後述するように、配列番号1のアミノ酸配列を有するマグネシウムイオントランスポーターの遺伝子が外部から導入されその遺伝子産物を発現するものであってもよい。
【0021】
添加剤組成物は、上記マグネシウムイオン化合物以外の成分を含んでいてもよい。そのような成分の例には水、グルコース、pH調整剤、着色剤等が含まれ得るがこれらに限定されない。
【0022】
セシウム化合物およびリチウム化合物は、水に溶けるとそれぞれセシウムイオン(Cs+)およびリチウムイオン(Li+)を生じる。本開示において、セシウムイオンに対する耐性、およびリチウムイオンに対する耐性を、それぞれ単にセシウム耐性およびリチウム耐性ともいう。
【0023】
上記添加剤組成物を培地に添加することによって、微生物のセシウム耐性および/またはリチウム耐性を向上させることができる。これは、セシウムイオンおよび/またはリチウムイオンを含む培地において、当該添加剤を添加しない場合と比べて、微生物の生育度が増加することを意味する。この場合のセシウムイオンの濃度は、CsCl換算で例えば10〜700 mM、あるいは50〜500 mM、あるいは100〜300 mMであり得る。CsCl換算とは、37℃における水あるいはLB培地(pH 7.0)に添加された当該濃度のCsClが供給するのと同等のCs-濃度であることを意味する。同様に、リチウムイオンの濃度は、LiCl換算で例えば100〜1500 mM、あるいは200〜1000 mM、あるいは400〜800 mMであり得る。LiCl換算とは、30℃における水あるいはLB培地(pH 7.0)に添加された当該濃度のLiClが供給するのと同等のLi-濃度であることを意味する。培地中のセシウムイオン濃度は10〜700 mM、あるいは50〜500 mM、あるいは100〜300 mMであり得る。培地中のリチウムイオン濃度は100〜1500 mM、あるいは200〜1000 mM、あるいは400〜800 mMであり得る。微生物の種や菌株によってセシウムイオンおよびリチウムイオンに対する感受性が変動し得ることが理解されるべきである。
【0024】
従って別の側面において、本開示は、セシウムイオンおよび/またはリチウムイオンに対する微生物の耐性を向上させるための方法が提供され、その方法は、培地と、微生物と、セシウムイオンおよび/またはリチウムイオンと、上述した添加剤組成物との混合物を提供することを含む。一実施態様では、その方法は、微生物とセシウムイオンおよび/またはリチウムイオンとを含む培地に、上述した添加剤組成物を添加することにより培地にマグネシウムイオンを導入することを含む。しかしながら、他の順序で培地と、微生物と、セシウムイオンおよび/またはリチウムイオンと、添加剤組成物とが混合されてもよい。例えば、培地と、セシウムイオンおよび/またはリチウムイオンと、添加剤組成物との混合物が先に存在してそこに微生物が導入されたり、培地と、微生物と、添加剤組成物との混合物が先に存在してそこにセシウムイオンおよび/またはリチウムイオンが導入されてもよい。
【0025】
別の側面において本開示は、微生物と、セシウムイオンおよび/またはリチウムイオンと、水と、上述した添加剤組成物とを含む培地組成物を提供する。
【0026】
本願は、マグネシウムイオンという共通の要素を通じて微生物のセシウム耐性および/またはリチウム耐性を向上させる様々な実施形態を開示するものである。そのような実施形態の一つとして、本開示は、配列番号1のアミノ酸配列を有するマグネシウムイオントランスポーターを微生物に発現させることによってセシウムイオンおよび/またはリチウムイオンに対する微生物の耐性を向上させる方法を提供する。
【0027】
配列番号1のアミノ酸配列を有するマグネシウムイオントランスポーターは、ハエトリグモから単離されたMicrobacterium sp. TS-1株(非特許文献4)のゲノムにコードされ、当該菌株で内因的に発現されるタンパク質である。
【0028】
発明者らは、TS-1株が高いCs+耐性を有することを見出した。これまで報告されてきたCs+耐性菌の生育可能なCs+上限濃度は、Flavobacterium sp. 200Cs-4株(非特許文献2)およびSerratia sp. Cs60-2株(非特許文献3)でそれぞれ200 mMおよび300 mMであり、最高でも、Yersinia sp. Cs67-2株(非特許文献2)が500 mMのCsClまで許容できるにとどまっていた。それに対し、Microbacterium sp. TS-1株の生育可能なCs+上限濃度は約1200 mMときわめて高いことが見出された。従って、TS-1株はCs+に対する特異的な耐性機構を持つ可能性が推測された。
【0029】
発明者らは、TS-1株のCs+耐性の分子機構を解明するべく、実施例1に例示される一連の実験および研究を行った結果、上記分子機構の少なくとも一端を担う、配列番号1のアミノ酸配列を有するタンパク質を同定することに成功した。
【0030】
配列番号1のアミノ酸配列を図1に示す。配列番号1のアミノ酸配列は、MTS1_03028という仮称を有する遺伝子の産物であり、アクセス番号GAD35185.1のもとGenBankデータベースで参照することもできる。
【0031】
図1に示すアミノ酸配列のうち、下線部分は、当業者が通常利用する手法によって推定される膜貫通領域である。既知アミノ酸配列に対する相同性から、このタンパク質は、多様な微生物種間で進化的に保存されているMg2+トランスポーター(Mgt)であることが当業者に理解される。上述したマグネシウムイオン化合物を含む添加剤の発明も、マグネシウムイオントランスポーターがCs+耐性を付与するというこの発見に基づくものである。
【0032】
微生物に外来の遺伝子産物を発現させる手法は当業者によく知られており、そのような公知の手法を利用して配列番号1のマグネシウムイオントランスポーターを微生物に人為的に導入して発現させることができる。例えば、配列番号1のアミノ酸配列をコードする遺伝子核酸を合成し、プラスミド等の発現ベクターにクローニングすることができる。そのような発現ベクターを対象の微生物に導入することにより、発現を行うことができる。
【0033】
本実施形態で使用されるマグネシウムイオントランスポーターは、配列番号1のアミノ酸配列のみからなるものであってもよいが、配列番号1の配列に加えて、N末端もしくはC末端またはその両方に、ペプチドタグが付加されていてもよい。ペプチドタグは当業者によく知られており、例としてはHisタグ(HHHHHH等)、HAタグ、FLAGタグ、Mycタグ等が挙げられるがこれらに限定されない。1つのペプチドタグの長さは25アミノ酸以下であることが好ましく、20アミノ酸以下であることがより好ましく、15アミノ酸以下であることがさらに好ましく、10アミノ酸以下であることが特に好ましい。当業者に知られているように、これらのペプチドタグは、通常はタンパク質の精製および検出などを促進させるために付加されるものであり(ただし、ペプチドタグにそのような特定の用途が意図されていない場合もあり得る)、タンパク質の機能は損ねさせないものである。
【0034】
外因的に導入される核酸上の遺伝子のコード領域は、その遺伝子の本来のプロモーターとは別のプロモーター、すなわち非相同的(heterologous)なプロモーターと人為的に連結されていることが好ましい。そのようなプロモーターは、宿主微生物に合わせて当業者が適宜選択することができ、その例としてはPBADプロモーター、tacプロモーター、T7プロモーター等が挙げられるがこれらに限定されない。プロモーターは、必ずしも恒常的発現(constitutive)プロモーターである必要はなく、発現誘導可能なプロモーターであってもよい。すなわち、本実施形態において「タンパク質を発現する」微生物とは、そのタンパク質を常時発現している微生物は必ずしも意味せず、そのタンパク質の発現能力を有する微生物を意味すると解するべきである。
【0035】
配列番号1のアミノ酸配列を有するマグネシウムイオントランスポーターを微生物に発現させることによって、マグネシウムイオンを培地に添加した場合と同様の効果が得られることが見出された。その効果はセシウム耐性付与だけでなくリチウム耐性付与も含み得る。このマグネシウムイオントランスポーターの発現とマグネシウムイオン添加が共通の、あるいは密接に関連した機序を通じて微生物に影響を与えることが強く示唆される。実際、マグネシウムイオントランスポーターの発現とマグネシウムイオン添加の両方を併用すると、相乗的にイオン耐性が著しく向上し得ることも見出された。
【0036】
大腸菌は、形質転換技術が特によく発達した微生物であるため、本実施形態において特に好適である。従って本開示は一側面において、配列番号1のアミノ酸配列を有するマグネシウムイオントランスポーターを発現する大腸菌細胞を提供する。しかしながら、当業者は他の微生物にも形質転換技術を適用できることを理解しており、大腸菌細胞は一例に過ぎない。
【0037】
本開示において、数値範囲を示す「〜」は、その前後に記載された数値をそれぞれ下限値および上限値として含むことを意味する。「A〜B」「C〜D」というように可能な複数の数値範囲が別々に記載されている場合、一方の下限または上限を他方の上限または下限と組み合わせた数値範囲(例えば「A〜D」「C〜B」)も本明細書に開示されているものとして解されるべきである。また、第1の要素と第2の要素の組合せが記載されており、第1の要素と第2の要素のそれぞれについて複数の可能な選択肢が記載されている場合、第1の要素の各選択肢と、第2の要素の各選択肢との、すべての可能な組合せが本明細書に開示されているものとして解されるべきである。
【実施例】
【0038】
以下、実施例を示して本発明の実施形態をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの具体的な実施例に限定されない。
【0039】
[実施例1:セシウム耐性Microbacterium sp. TS-1株に由来するセシウム感受性変異株および復帰変異株の単離と遺伝子解析]
元来セシウム耐性であるTS-1株からセシウム感受性変異株を取得するため、対数増殖期のTS-1株培養液に化学変異原であるエチルメタンスルホン酸を最終濃度3%で添加して、120分間処理を行った。変異株の同定は、レプリカプレート法によって行った。すなわち、上記化学変異原処理後の培養液を用いて寒天培地上でコロニーを形成させた後、コロニーをビロード布に移し取った。このビロード布に、通常の固形天然培地と、100 mMのCsClを含む固形天然培地とを接触させて、コロニーをこれらの培地にそれぞれ転写した。両プレートでの生育を比較すること、すなわち通常の培地では生育したがCsCl培地では生育しなかったコロニーの位置を見出すことによって、Cs+感受性変異株を2株特定し、取得した。これらの2株をそれぞれRM1、TM17と呼ぶ。
【0040】
取得した変異株の全ゲノム配列を次世代シークエンサーで解析した。一方、CsCl含有培地で再培養することにより、Cs+感受性変異株から自発的に(すなわちさらなる化学変異原処理なしで)Cs+耐性を再獲得した復帰変異株を取得することができた。RM1株からの復帰変異株をRM1Rと呼び、TM17株からの復帰変異株をTM17Rと呼ぶ。これら復帰変異株も、次世代シークエンサーによって全ゲノム配列を解析した。
【0041】
図2は、野生型TS-1株はセシウム耐性であり、RM1株(A)およびTM17株(B)はセシウム感受性であり、それらの復帰変異株はセシウム耐性を再取得したことを示すデータである。
【0042】
得られた全ゲノム配列から、野生株TS-1株と比較したセシウム感受性変異株および復帰変異株のそれぞれにおける核酸配列変異箇所を特定した。その結果、野生株TS-1株の全ゲノム配列を基準として、RM1株には177箇所、TM17株には165箇所の変異が見出された。RM1R株は、RM1株の全ゲノム配列を基準として10箇所の変異を有しており、TM17R株は、TM17株の全ゲノム配列を基準として2箇所の変異を有していた。
【0043】
図3に示すように、RM1、TM17両株のそれぞれが、配列番号1(図1)のポリペプチドをコードするMTS1_03028遺伝子のコード配列の中途に、異なるアミノ酸置換を生じさせる変異を有することが見出された。しかも、上記2つの復帰変異株において、それぞれの置換アミノ酸が、野生型アミノ酸に復帰していることが見出された。これらの結果より、MTS1_03028遺伝子がCs+耐性機構に関与することがわかった。また、正常なMTS1_03028遺伝子産物の発現がないとCs+感受性となるのに対し、この遺伝子産物が発現するとCs+耐性が付与されることが明らかになった。
【0044】
MTS1_03028遺伝子がコードするポリペプチドのアミノ酸配列(配列番号1)はGenBankアクセス番号GAD35185.1のもと参照することができる。MTS1_03028遺伝子の産物(図4中の「M. TS-1」)は、多様な微生物種間で進化的に保存されているMg2+トランスポーター(Mgt)のファミリーの一員である(図4)。
【0045】
[実施例2:Microbacterium sp. TS-1株のセシウム耐性に対するMg2+添加の影響]
RM1株およびTM17株の変異は、いずれも、Mgtの細胞質側に存在する長いN末端領域ではなく、膜貫通領域またはその近傍に存在しているため(図1および図3)、何らかのシグナル伝達というよりもむしろ細胞膜を隔てたマグネシウムイオン輸送事象そのものがセシウム耐性に影響していると考えられた。そこで、野生型TS-1株、ならびにRM1株、TM17株およびそれらの復帰変異株を、異なる濃度のセシウムおよび100 mMのマグネシウムイオン化合物(MgCl2)の存在下で培養する実験を行った。
【0046】
具体的には、30 mM Tris培地中で上記菌株を18時間前培養(200 rpm、28℃)した後、図5に示すようにCsClを異なる濃度で含み、かつ、100 mMのMgCl2を添加したまたは添加していない30 mM Tris培地に0.5体積%植菌し、18時間本培養(200 rpm、28℃)を行った。波長600 nmにおける培養培地の吸光度(OD600)として細胞の生育度を定量化した。30 mM Tris培地の組成は以下の通りである:1リットル当たり3.63 gのTris base、1.47 gのクエン酸一水和物、5 mLの10% Yeast Extract、10 mLのSTS、50 mLの1 Mグルコース、残部水、pH 8.0。天然成分であるYeast Extractには微量のマグネシウムが含まれていると考えられる。なお、上記培地組成中、STSとは、下記の微量成分の混合物である。
【表1】

【表2】
【0047】
驚くべきことに、100 mMのMgCl2を添加すると、野生型、変異株、復帰変異株の別に関わらず、著しいセシウム耐性が得られた(図5)。MgCl2非添加の状態では、MTS1_03028遺伝子にコードされた正常なMg2+トランスポーターの有無がMg2+の十分な取り込みおよびセシウム耐性を左右するものの、高濃度のMg2+が培地に添加されるとMTS1_03028遺伝子産物の有無と関係なくMg2+が細胞に流入してセシウム耐性が得られると見られた。
【0048】
[実施例3:Mg2+添加による様々な微生物へのセシウム耐性付与]
上記現象は、TS-1株に固有のものではなく、他の微生物にも普遍的に起こるものであるという可能性を検証するために、以下の実験を行った。すなわち、大腸菌(E. coli W3110、グラム陰性桿菌)、枯草菌(B. subtilis Marburg 168 MR151MA、グラム陽性桿菌)、緑膿菌(P. aeruginosa IFO13275、グラム陰性桿菌)、および黄色ブドウ球菌(S. aureus IAM12544、グラム陽性球菌)を、2X TY培地中37℃で7時間前培養した後、通常のLB培地(pH 7.5)に前培養を0.5体積%植菌して、37℃で16時間本培養を行った。LB培地の組成は以下の通りである:1リットル当たり10 gのTryptone、5 gのYeast Extract、10 gのNaCl、残部水、pH 7.5。本培養の際には上記と同様に異なる濃度のCsClおよび100 mMのMgCl2を培地に添加した。図6のAに示すように、いずれの微生物においても、培地へのMgCl2添加によるセシウム耐性の付与が確認された(黒色線)。さらに実施例5に例示されているように、Mg2+添加によるセシウム耐性付与は原核生物に限らず真核微生物でも見られることがわかった。
【0049】
[実施例4:対イオンについての検討]
次に、CsClの代わりにCs2SO4を用い、さらに100 mM MgCl2の代わりに50 mM Mg2SO4を添加して、大腸菌において上記実施例3と同様の実験を行った。この実験ではLB培地の組成中のNaClもNa2SO4に置き換えた。ここで用いられた改変LB培地の組成は以下の通りである:1リットル当たり10 gのTryptone、5 gのYeast Extract、12 gのNa2SO4、残部水、pH 7.5。結果を図6のBに示す。この図は、LB培地とセシウムの対イオンをCl-のままにした対照実験との比較を示しているが、ただしこの対象実験においてもマグネシウムは50 mM Mg2SO4の形態で添加した。結論として、対イオンを塩化物イオンから硫酸イオンに代えても実質的に実施例3と同じ結果が得られた。従って、対イオンの方ではなくCs+イオンおよびMg2+イオンこそが、それぞれ毒性および耐性に寄与していることが確認された。
【0050】
[実施例5:マグネシウムイオン化合物の添加濃度についての検討]
次に、MgCl2の添加濃度とセシウム耐性との関係を調べた。この実験では、pH 7.0〜7.5のLB培地を用いて、37℃で培養を行った。図7に示すように、10 mM以上のMgCl2添加濃度において明確なセシウム耐性付与が確認された。
【0051】
図8は、単細胞真核生物である酵母Saccharomyces cerevisiaeを用いた同様の実験の結果を示している。この実験では、Saccharomyces cerevisiae(JCM1499株)をYM培地中で24時間前培養(200 rpm、25℃)し、その前培養液を新鮮なYM培地に0.5体積%植菌してさらに24時間本培養(200 rpm、25℃)を行った後に、本培養培地のOD600として細胞の生育度を定量化した。本培養のYM培地には図8に示すようにCsClおよびMgCl2を異なる濃度で添加した。YM培地の組成は、1リットル当たり10 gのグルコース、5 gのPeptone、3 gのYeast Extract、3 gのMalt extract、残部水で、H2SO4によってpHを6.2に調整した。このように、進化系統学的に大きく離れた多様な微生物において同様の結果が得られ、マグネシウムイオン化合物によるセシウム耐性付与の一般性を認識することができる。
【0052】
[実施例6:Mg2+添加による様々な微生物へのリチウム耐性付与]
マグネシウムイオン添加は、セシウムイオン以外のイオンに対する耐性にも有効である可能性を検証するべく、微生物に対する毒性が知られるもう1つの第1族元素であるリチウムに着目した。そこで、CsClをLiClに置き換え、培養温度を30℃にした以外は実施例3と同様の条件にして実験を行った。図9に示されているように、100 mMのMgCl2を培地に添加すると(黒色線)、通常ならば各微生物の生育が顕著に抑制される濃度のLiClの存在下において生育を維持できることが明らかになった。
【0053】
[実施例7:MTS1_03028マグネシウムイオントランスポーターの発現による微生物へのセシウム耐性付与]
実施例1で同定されたMTS1_03028遺伝子を、プラスミドベクターpGEM7zf(+)にクローニングして、pGEM7-Mgtコンストラクトを得た。常法による形質転換によって、この遺伝子コンストラクトを大腸菌(E. coli DH5α株)に導入した。このようにして、大腸菌細胞内で、非相同的プロモーター(T7プロモーター)を介して、MTS1_03028遺伝子産物であるマグネシウムイオントランスポーターが発現された。
【0054】
上記の形質転換大腸菌をLB培地(pH 7.0)中で37℃で8時間前培養した後、異なる濃度のCsClを含み、かつ50 mMのMgCl2の添加を伴うまたは伴わない同培地に植菌して、37℃で16時間本培養を行い、600 nmにおける吸光度として生育度を定量化した。図10は、3つの独立したレプリカ実験の結果をまとめたものである。図中、pGEM7zf(+)は、空のプラスミドベクターによって形質転換された、すなわちMTS1_03028遺伝子産物を発現しない大腸菌を表す。
【0055】
図10に示す結果は、MTS1_03028遺伝子産物であるマグネシウムイオントランスポーターを異種微生物に発現させることにより、培地へのマグネシウムイオン添加と同様の効果、すなわちその微生物へのセシウム耐性付与が達成されることを明確に示している。実際、マグネシウムイオントランスポーター発現と培地へのマグネシウムイオン添加とを併用すると、相乗効果的にセシウム耐性が著しく向上すると見られた。
【0056】
[実施例のまとめ]
セシウム耐性Microbacterium sp. TS-1株およびそれに由来するセシウム感受性変異株とセシウム耐性復帰変異株の解析から、微生物のセシウム耐性のためにはマグネシウムイオンが重要であることが発見された。特に、配列番号1のマグネシウムイオントランスポーターの発現によりセシウム耐性が付与されること、および、比較的高濃度のマグネシウムイオンを生育環境に添加するだけでもセシウム耐性が付与されることが発見された。これらの効果は、Microbacterium sp. TS-1株に限らず他の微生物種でも確認された。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、毒性イオンに対して耐性を有する高機能微生物の創成を可能とするため、バイオプロセスを利用するあらゆる産業において潜在的な利用可能性を有する。一例として、元々セシウム蓄積能は有するがセシウム耐性(すなわちセシウム存在下での増殖能力)自体が低い微生物に、新たにセシウム耐性を付与することにより、バイオプロセスによるセシウム汚染液の浄化処理が実現され得る。つまり、セシウム汚染液中でその微生物を増殖させながらその菌体に水溶セシウムを蓄積させ、一定時間後に菌体を液から回収すれば、菌体という固形物としてセシウムを濃縮して分離できたことになり、セシウム汚染液の浄化ないし減量化が達成され得る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]