特開2021-38265(P2021-38265A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-38265(P2021-38265A)
(43)【公開日】2021年3月11日
(54)【発明の名称】PAHを治療するための抗増殖剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/519 20060101AFI20210212BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20210212BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20210212BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20210212BHJP
   A61K 31/506 20060101ALI20210212BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20210212BHJP
【FI】
   A61K31/519
   A61P9/12
   A61K45/00
   A61P43/00 121
   A61K31/506
   A61P43/00 111
   A61P11/00
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2020-199659(P2020-199659)
(22)【出願日】2020年12月1日
(62)【分割の表示】特願2017-201576(P2017-201576)の分割
【原出願日】2017年10月18日
(31)【優先権主張番号】62/410,566
(32)【優先日】2016年10月20日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】62/548,629
(32)【優先日】2017年8月22日
(33)【優先権主張国】US
(71)【出願人】
【識別番号】593141953
【氏名又は名称】ファイザー・インク
(74)【代理人】
【識別番号】100133927
【弁理士】
【氏名又は名称】四本 能尚
(74)【代理人】
【識別番号】100137040
【弁理士】
【氏名又は名称】宮澤 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100147186
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 眞紀
(74)【代理人】
【識別番号】100174447
【弁理士】
【氏名又は名称】龍田 美幸
(74)【代理人】
【識別番号】100185960
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 理愛
(72)【発明者】
【氏名】スティーブン マーティン エヴァンス
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA19
4C084NA14
4C084ZA42
4C084ZA59
4C084ZC20
4C084ZC75
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC42
4C086CB05
4C086CB06
4C086GA07
4C086GA08
4C086GA12
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA42
4C086ZA59
4C086ZC20
4C086ZC75
(57)【要約】
【課題】より良好なPAH治療方法を提供すること。
【解決手段】肺高血圧、および肺動脈性肺高血圧のような関連疾患は、有効用量のパルボシクリブ、6−アセチル−8−シクロペンチル−5−メチル−2−{[5−(ピペラジン−1−イル)ピリジン−2イル]アミノ}ピリド[2,3−d]ピリミジン−7(8H)−オンを含むCDK阻害剤、またはその薬学的に許容できる塩を投与することによって治療され得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PAHを治療するために用いられる、有効量の6−アセチル−8−シクロペンチル−5−メチル−2−{[5−(ピペラジン−1−イル)ピリジン−2イル]アミノ}ピリド[2,3−d]ピリミジン−7(8H)−オン、またはその薬学的に許容できる塩を含む医薬組成物。
【請求項2】
6−アセチル−8−シクロペンチル−5−メチル−2−{[5−(ピペラジン−1−イル)ピリジン−2イル]アミノ}ピリド[2,3−d]ピリミジン−7(8H)−オン、またはその薬学的に許容できる塩が、単回でまたは24時間内での複数回投与で、1日当たり約0.6から約500mgの投与量で投与される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
6−アセチル−8−シクロペンチル−5−メチル−2−{[5−(ピペラジン−1−イル)ピリジン−2イル]アミノ}ピリド[2,3−d]ピリミジン−7(8H)−オン、またはその薬学的に許容できる塩が、単回でまたは24時間内での複数回投与で、1日当たり約25mgから125mgの投与量で投与される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
1つまたは複数の他の活性物質と組み合わせて用いられる、請求項1から3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
6−アセチル−8−シクロペンチル−5−メチル−2−{[5−(ピペラジン−1−イル)ピリジン−2イル]アミノ}ピリド[2,3−d]ピリミジン−7(8H)−オンを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
他の活性物質がシルデナフィルである、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項7】
有効量のCDK阻害剤を含む、PAHを治療するために用いられる医薬組成物であって、前記CDK阻害剤が、リボシクリブ、アベマシクリブもしくはジナシクリブ、またはそれらの薬学的に許容できる塩である、医薬組成物。
【請求項8】
有効量のCDK阻害剤を含む、PAHを治療するために用いられる医薬組成物であって、前記CDK阻害剤が、CDK4およびCDK6の阻害剤である、医薬組成物。
【請求項9】
他の活性物質が、プロスタグランジン、エンドセリン受容体アンタゴニスト、グアニル酸シクラーゼ阻害剤、血管拡張物質、カルシウムチャネル遮断物質、抗凝固剤、および利尿剤である、請求項4に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
肺高血圧、および肺動脈性肺高血圧のような関連疾患は、有効用量の、パルボシクリブ、6−アセチル−8−シクロペンチル−5−メチル−2−{[5−(ピペラジン−1−イル)ピリジン−2イル]アミノ}ピリド[2,3−d]ピリミジン−7(8H)−オンを含むCDK阻害剤を投与することによって治療され得る。
【背景技術】
【0002】
肺高血圧(PH)は、原発性(特発性)または続発性とこれまでに分類されている。最近、世界保健機関(WHO)は、肺高血圧を5つの群、すなわち、第1群:肺動脈性肺高血圧(PAH)、第2群:左心疾患に伴うPH、第3群:肺疾患および/または低酸素血症に伴うPH、第4群:慢性的な血栓性および/または塞栓性疾患に起因するPH、ならびに第5群:種々雑多な症状(例えば、サルコイドーシス、組織球症X、リンパ管腫症、および肺血管の圧迫)に分類した。
【0003】
肺動脈性肺高血圧(PAH)は、深刻な血管収縮および肺動脈壁における平滑筋細胞の異常な増殖を特徴とする、重篤で、複雑な、進行性の、命に関わる肺血管系の疾患である。肺の血管が重度に狭窄すると、肺動脈圧が非常に高くなる。これらの高い圧力によって、心臓が、酸素供給されるべき血液を肺に送り込むことが困難になる。PAH患者は、心臓がこれらの高血圧に対抗して懸命に送り込もうとするため、極度の息切れをする。PAH患者は、典型的には、肺血管抵抗(PVR)の著しい増大および肺動脈圧(PAP)の持続的な上昇を発症し、これは最終的には右心不全および死亡をもたらす。PAHと診断された患者は、不良な予後およびそれと同時にクオリティー・オブ・ライフを損ない、治療しない場合は診断時から2から5年の平均余命である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第WO2003/062236号
【特許文献2】米国特許第6,936,612号
【特許文献3】米国特許第7,208,489号
【特許文献4】米国特許第7,456,168号
【特許文献5】国際公開第WO2005/005426号
【特許文献6】米国特許第7,345,171号
【特許文献7】米国特許第7,863,278号
【特許文献8】国際公開第WO2008/032157号
【特許文献9】米国特許第7,781,583号
【特許文献10】国際公開第WO2014/128588号
【特許文献11】国際出願第PCT/IB2016/053040号
【特許文献12】WO07140222
【特許文献13】WO10075074
【特許文献14】WO10020675
【特許文献15】WO16015598
【特許文献16】WO16015597
【特許文献17】WO16015605
【特許文献18】WO16015604
【特許文献19】WO2012/066508
【特許文献20】WO04004632
【特許文献21】WO11026911
【特許文献22】WO11026904
【特許文献23】WO2011/101409
【特許文献24】WO2006/074985
【特許文献25】WO2012/061156
【特許文献26】WO1000913
【特許文献27】WO10009155
【特許文献28】WO0183469
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】WHO Drug Information、Vol.27、No.2、第172頁(2013)
【非特許文献2】Galieら、ERJ(2009)12月、34(6)、1219〜63
【非特許文献3】Schermuly,R.T.ら、Mechanisms of disease:pulmonary arterial hypertension.Nature reviews.Cardiology 8、443〜455(2011)
【非特許文献4】Humbert,M.& Ghofrani,H.A.The molecular targets of approved treatments for pulmonary arterial hypertension.Thorax 71、73〜83(2016)
【非特許文献5】Guignabert,Cら、Pathogenesis of pulmonary arterial hypertension:lessons from cancer.European respiratory review:an official journal of the European Respiratory Society 22、543〜551(2013)
【非特許文献6】Pullamsetti,SSら、American journal of respiratory and critical care medicine(2016)(DOI:10.1164/rccm.201606−1226PP)
【非特許文献7】Heppe,C.M.ら、Vascular Pharmacology 83(2016)17〜25
【非特許文献8】Savai,R.ら、Pro−proliferative and inflammatory signaling converge on FoxO1 transcription factor in pulmonary hypertension.Nature medicine 20、1289〜1300(2014)
【非特許文献9】Ciuclan,L.ら、Imatinib attenuates hypoxia−induced pulmonary arterial hypertension pathology via reduction in 5−hydroxytryptamine through inhibition of tryptophan hydroxylase 1 expression.American journal of respiratory and critical care medicine 187、78〜89(2013)
【非特許文献10】Schermuly,R.T.ら、Reversal of experimental pulmonary hypertension by PDGF inhibition.The Journal of clinical investigation 115、2811〜2821(2005)
【非特許文献11】Johnson DG,Walker CL.Cyclins and Cell Cycle Checkpoints.Annu.Rev.Pharmacol.Toxicol.(1999)39:295 312
【非特許文献12】Morgan DO.Cyclin dependent kinases:engines,clocks,and microprocessors.Annu.Rev.Cell.Dev.Biol.(1997)13:261 291
【非特許文献13】Charron,T.ら、The cell cycle:a critical therapeutic target to prevent vascular proliferative disease.The Canadian journal of cardiology 22 Suppl B、41B〜55B(2006)
【非特許文献14】Stenmark,K.R.ら、Animal models of pulmonary arterial hypertension:the hope for etiological discovery and pharmacological cure.American journal of physiology.Lung cellular and molecular physiology 297、L1013〜1032(2009)
【非特許文献15】Lang,M.ら、The soluble guanylate cyclase stimulator riociguat ameliorates pulmonary hypertension induced by hypoxia and SU5416 in rats.PloS one 7、e43433(2012)
【非特許文献16】Stringerら、(1981)Catheterization of the pulmonary artery in the closed−chest rat.J.Appl.Physiol.51、1047〜1050
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
現在のPAH治療方法は、症候を低減させること、および患者の寿命を延ばすこと、およびクオリティー・オブ・ライフを高めることに焦点を当てている。このような治療方法には、プロスタサイクリン、エポプロステノール、およびシルデナフィルなどの血管拡張剤、ボセンタンなどのエンドセリン受容体アンタゴニスト、アムロジピン、ジルチアゼム、およびニフェジピンなどのカルシウムチャネルブロッカー、ワルファリンなどの抗凝固剤、酸素補充療法、ならびに利尿剤を投与することが含まれる。医療が失敗すると、最終治療オプションは肺および/または心臓−肺移植である。しかし、これらの方法の各々は、有効性の欠如、重篤な副作用、低い患者コンプライアンス、およびPAHの予防が不可能であることなどの1つまたは複数の欠点を有する。したがって、より良好なPAH治療方法が必要である。本発明は、これらの必要性に対処する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、治療上有効用量のパルボシクリブを含むCDK阻害剤を投与することによって、PAHならびに他の関連する疾患および症状を治療する方法を提供する。
【0008】
PAHへの進行に関与する2つの鍵となる細胞型は、肺動脈平滑筋細胞(PASMC)および肺動脈外膜線維芽細胞(PAAF)である。本発明は、一部では、パルボシクリブがヒトおよびラットのPASMCおよびヒトPAAFにおいて抗増殖効果に著しく作用したという発見に基づく。パルボシクリブはまた、PAHモデルの血行力学、肺血管細胞増殖、肺動脈形態学、および右心室肥大における変化に著しく作用した。
【0009】
パルボシクリブは、以下の構造を有する、CDK4およびCDK6の強力かつ選択的な阻害剤である。
【0010】
【化1】
【0011】
パルボシクリブは、WHO Drug Information、Vol.27、No.2、第172頁(2013)において記載されている。パルボシクリブならびにその薬学的に許容できる塩および製剤は、国際公開第WO2003/062236号ならびに米国特許第6,936,612号、米国特許第7,208,489号および米国特許第7,456,168号;国際公開第WO2005/005426号ならびに米国特許第7,345,171号および米国特許第7,863,278号;国際公開第WO2008/032157号および米国特許第7,781,583号;国際公開第WO2014/128588号;ならびに国際出願第PCT/IB2016/053040号において開示されている。前述の各参考文献の内容は、参照によってその全体が本明細書に組み込まれる。
【0012】
パルボシクリブは、閉経後の女性における最初の内分泌療法であるレトロゾールと組み合わせて、または内分泌療法で疾患が進行した後のフルベストラントと組み合わせて、ホルモン受容体(HR)陽性でヒト上皮成長因子2(HER2)陰性の進行したまたは転移性の乳癌の治療において、米国で認可されている。
【0013】
本発明の別の実施形態では、パルボシクリブは、限定されるものではないが、特発性PAH、遺伝性または家族性PAH、および続発性肺高血圧(例えば、肺塞栓症、気腫、肺線維症、および先天性心疾患の結果生じる高血圧)を含む肺高血圧またはPAHと診断されたかまたはそれを発症するリスクのある対象に投与される。一実施形態では、対象は特発性PAHまたは遺伝性PAHと診断されている。一部の実施形態では、PAHを発症するリスクのある対象は、骨形成タンパク質2型受容体をコードする遺伝子に突然変異を有する。
【0014】
本発明はまた、肺動脈性肺高血圧を治療または予防するためのキットを含む。一実施形態では、キットはパルボシクリブおよび投与装置を含む。投与装置は、吸入器、ネブライザー、注入器、点滴、およびエアロゾライザーなどのように、肺送達のために設計され得る。他の実施形態では、投与装置は、カテーテルなどのように、静脈内または動脈内送達のために設計され得る。パルボシクリブは、投与装置内で保存されるように製剤されてもよい。キットはさらに、PAHまたは本明細書において論じられる他の疾患を治療または予防するためにパルボシクリブを対象(例えばヒト)に投与するための使用説明書を含み得る。一実施形態では、使用説明書は、例えば、28日サイクルの間にパルボシクリブの投与日数を特定することによって、投与態様を詳述し、適切化する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】細胞増殖:BrdU組み込みアッセイを行って、連続希釈したパルボシクリブで細胞を処理した後の細胞のDNA合成速度および増殖を測定した。用量応答曲線は、パルボシクリブがヒトPASMC(図1aおよび1b)、ヒトPAAF(図1c)、ラットPASMC(図1d)の増殖を強力に抑制したことを示す。EdU組み込みアッセイを行って、連続希釈したパルボシクリブまたは別の既知のCDK阻害剤で細胞を処理した後の細胞のDNA合成速度および増殖を測定した。用量応答曲線は、ヒトPASMC(図1e)、ヒトPAAF(図1f)、およびラットPASMC(図1g)の増殖の抑制を示す。
図2】Rbリン酸化:網膜芽細胞腫遺伝子産物のリン酸化に対するパルボシクリブの効果。パルボシクリブは、ヒト原発性PASMCにおいて5%FBS(図2a)またはPDGF−BB(図2b)によって誘発されるセリン807および811でのRbのリン酸化(ホスホ−Rb)を強力に遮断したが、総Rbレベルに対してはほとんど影響しなかった。10%FBS(図2c)によって誘発される既知のCDK阻害剤についての、ヒト原発性PASMCにおけるホスホ−RBの阻害。
図3】ラットモノクロタリン(MCT)モデルにおける、PAH病理に関連する血行力学的および構造的変化。図3aは、研究対象薬剤の投与頻度を示す。実験結果は、平均肺動脈圧(MPAP、図3b)、収縮期肺動脈圧(SPAP、図3h)および拡張期肺動脈圧(DPAP、図3i)、フルトン・インデックス(RV/(LV+S)、図3c)、血管壁厚(図3d)、筋化腺房内血管密度(図3e)、病理組織学(図3f)、疾患重症度スコア(図3g)、ならびに心重量(図3j)として示される。
図4】ラットSuHx PAHモデルの肺血管系における血行力学的変化および著しい構造的改善。図4aは、研究対象薬剤の投与頻度を示す(図4a)。実験結果は、平均肺動脈圧(MPAP、図4b)、SPAP(図4h)、DPAP(図4i)、フルトン・インデックス(RV/(LV+S)、図4c)、血管壁厚(図4d)、筋化腺房内血管密度(図4e)、病理組織学(図4f)、疾患重症度スコア(図4g)、および心重量(図4j)として示される。
図5】肺血管系において評価された細胞増殖。ラット肺切片における二重染色したαSMA/Ki67(図5a)およびCD31/ホスホRb(図5b)のIHC。実験結果pRbは、Ki67(図5c)、および血管関連網膜芽細胞腫タンパク質のリン酸化(図5d)として示される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
全身性高血圧のような肺高血圧は、単一の疾患ではなく、平均肺動脈圧が≧25mmHgという決定要因を共有する疾患群である。PHは、5つの群に分類および分割されている(Galieら、ERJ(2009)12月、34(6)、1219〜63)。本発明は概して、限定されるものではないが、肺動脈圧の上昇および前毛細血管性肺微小血管症に起因する血流抵抗の上昇を特徴とする、世界保健機関(WHO)第1群の疾患またはPAH疾患群の治療に関する。
【0017】
PAH肺における主な特徴は異常な細胞増殖であり、これは肺血管系の管腔の進行性閉塞をもたらし、血管抵抗の病理学的増大を生じさせる。肺血管リモデリングは、細胞の成長、細胞死、細胞移動、細胞分化、および細胞外マトリクスの合成または分解における変更に本質的に関連する構造的変化の活性なプロセスである。Schermuly,R.T.ら、Mechanisms of disease:pulmonary arterial hypertension.Nature reviews.Cardiology 8、443〜455(2011)。多くの薬理学的クラスが臨床的PAHにおける認可された治療法として既に存在するが、これらは血管弛緩を主に誘発し、それによって肺血管抵抗を低減させる。さらに、単剤療法は、患者の個体差を考慮すると不十分であり得る。Humbert,M.& Ghofrani,H.A.The molecular targets of approved treatments for pulmonary arterial hypertension.Thorax 71、73〜83(2016)。したがって、これらの治療法は血管リモデリングの複雑性に対処しない。
【0018】
肺血管系の変化は、PASMC、PAAF、および肺動脈内皮細胞(PAEC)を伴う。Guignabert,Cら、Pathogenesis of pulmonary arterial hypertension:lessons from cancer.European respiratory review:an official journal of the European Respiratory Society 22、543〜551(2013)。PAH研究の最近の批評では、複数のシグナル伝達経路を標的化するための増殖シグナル伝達の「ハブ」を論じた。2016年9月14日にオンラインでDOI:10.1164/rccm.201606−1226PPとして最初に公開された、Pullamsetti,SSら、American journal of respiratory and critical care medicine(2016)。別の論評は、肺血流量の変化と肺血管壁の内皮細胞における癌様変化との間の関係について検討した。Heppe,C.M.ら、Vascular Pharmacology 83(2016)17〜25。
【0019】
新たなアプローチは、有効性の向上および生存促進を達成することを目的として、PAH患者における肺血管リモデリングを支える増殖性表現型を標的化することに焦点を置いてきた。腫瘍学的薬剤が前臨床研究においてPAH疾患の進行の減速に有効であることが示されたいくつかの例がある。Savai,R.ら、Pro−proliferative and inflammatory signaling converge on FoxO1 transcription factor in pulmonary hypertension.Nature medicine 20、1289〜1300(2014);Ciuclan,L.ら、Imatinib attenuates hypoxia−induced pulmonary arterial hypertension pathology via reduction in 5−hydroxytryptamine through inhibition of tryptophan hydroxylase 1 expression.American journal of respiratory and critical care medicine 187、78〜89(2013);およびSchermuly,R.T.ら、Reversal of experimental pulmonary hypertension by PDGF inhibition.The Journal of clinical investigation 115、2811〜2821(2005)を参照されたい。
【0020】
サイクリン依存性キナーゼおよび関連するセリン/スレオニンプロテインキナーゼは、細胞の分裂および増殖の調節において必須の機能を行う重要な細胞酵素である。サイクリン依存性キナーゼの触媒ユニットは、サイクリンとして知られている調節サブユニットによって活性化される。少なくとも16の哺乳動物サイクリンが同定されている(Johnson DG,Walker CL.Cyclins and Cell Cycle Checkpoints.Annu.Rev.Pharmacol.Toxicol.(1999)39:295 312)。サイクリンB/CDK1、サイクリンA/CDK2、サイクリンE/CDK2、サイクリンD/CDK4、サイクリンD/CDK6、ならびに、CDK3およびCDK7を含む適当な他のヘテロダインは、細胞サイクルの進行の重要な調節因子である。サイクリン/CDKヘテロダインのさらなる機能には、転写調節、DNA修復、分化、およびアポトーシスが含まれる(Morgan DO.Cyclin dependent kinases:engines,clocks,and microprocessors.Annu.Rev.Cell.Dev.Biol.(1997)13:261 291)。
【0021】
肺血管リモデリングの複雑性は、サイクリン依存性キナーゼ(CDK)として知られているタンパク質を伴う細胞増殖サイクルの標的化などの研究のための多くの経路を提供している。これらのCDKは、活性に必要なホロ酵素複合体を形成するための特異的なサイクリンと結び付く。増殖サイクルの各ステップで、異なるサイクリンが必要であり、各サイクリンタンパク質の相対的発現は増大および/または減少して、それらの特異的CDKを定期的に活性化する。Charron,T.ら、The cell cycle:a critical therapeutic target to prevent vascular proliferative disease.The Canadian journal of cardiology 22 Suppl B、41B〜55B(2006)。
【0022】
本発明は、一部では、CDK阻害剤(CDKi)が、ヒトおよびラットのPASMCおよびヒトPAAFにおいてマイトジェンの増殖効果を阻害し、PAHモデルにおいて血行力学の上昇、肺血管細胞増殖、肺動脈形態学、および右心室肥大を低減させるという発見に基づく。
【0023】
本発明はさらに、一部では、パルボシクリブが、ヒトおよびラットのPASMCならびにヒトPAAFにおいて抗増殖効果に著しく作用し、PAHモデルにおいて血行力学の変化、肺血管細胞増殖、肺動脈形態学、および右心室肥大に著しく作用したという発見にさらに基づく。
【0024】
本発明の別の実施形態は、それを必要とする対象に、有効量の6−アセチル−8−シクロペンチル−5−メチル−2−{[5−(ピペラジン−1−イル)ピリジン−2イル]アミノ}ピリド[2,3−d]ピリミジン−7(8H)−オン、またはその薬学的に許容できる塩を投与することを含む、PAH(肺動脈性肺高血圧)を治療する方法を含む。
【0025】
本発明の別の実施形態は、それを必要とする対象に、有効量の6−アセチル−8−シクロペンチル−5−メチル−2−{[5−(ピペラジン−1−イル)ピリジン−2イル]アミノ}ピリド[2,3−d]ピリミジン−7(8H)−オンを投与することを含む、PAH(肺動脈性肺高血圧)を治療する方法を含む。
【0026】
本発明の別の実施形態は、それを必要とする対象に、有効量のCDK阻害剤を投与することを含む、PAHを治療する方法を含む。
【0027】
本発明の別の実施形態は、それを必要とする対象に、有効量の、以下の化合物:トリラシクリブ(G1T28)、G1T38、アルボシジブ、SEL−24、ミルシクリブ、AGM−130、AT7519、BAY1143572/1112054、BCD−115、CYC065、FLX925、SHR6390、TG−02、A−1467729、ABC1183、AZD5576、BPI1178、セネキシン、ICEC0942、CCT−68127、CCT−251921、ON123300、ボルシクリブ、SEL120−34、SRX−3177、TP1287、SY1365、UD−017、もしくはVS2−370、またはその薬学的に許容できる塩のいずれかから選択されるCDK阻害剤を投与することを含む、PAHを治療する方法を含む。
【0028】
本発明の別の実施形態は、それを必要とする対象に、有効量の、
1.リボシクリブ(7−シクロペンチル−N,N−ジメチル−2−((5−(ピペラジン−1−イル)ピリジン−2−イル)アミノ)−7H−ピロロ[2,3−d]ピリミジン−6−カルボキサミド)、もしくはその薬学的に許容できる塩:潜在的抗腫瘍活性を有するCDKi標的化サイクリンD1/CDK4およびサイクリンD3/CDK6細胞サイクル経路、リボシクリブはCDK4および6を特異的に阻害、
2.アベマシクリブ(2−ピリミジンアミン,N−(5−((4−エチル−1−ピペラジニル)メチル)−2−ピリジニル)−5−フルオロ−4−(4−フルオロ−2−メチル−1−(1−メチルエチル)−1H−ベンズイミダゾール−6−イル))もしくはその薬学的に許容できる塩:CDK4およびCDK6細胞サイクル経路を標的化するCDKi、または
3.ジナシクリブ(2−[(2S)−1−[3−エチル−7−[(1−オキシドピリジン−1−イウム−3−イル)メチルアミノ]ピラゾロ[1,5−a]ピリミジン−5−イル]ピペリジン−2−イル]エタノール)もしくはその薬学的に許容できる塩:CDK1、CDK2、CDK5、およびCDK9を選択的に標的化するCDKi
から選択されるCDK阻害剤を投与することを含む、PAHを治療する方法を含む。
【0029】
本発明の別の実施形態は、それを必要とする対象に有効量の、WO03/062236、WO07140222、WO10075074、WO10020675、WO16015598、WO16015597、WO16015605、WO16015604、WO2012/066508、WO04004632、WO11026911、WO11026904、WO2011/101409、WO2006/074985、WO2012/061156、WO1000913、WO10009155、およびWO0183469を含む非排他的なリスト内のいずれか1つまたは組み合わせにおいて表示されているCDK阻害剤、またはその薬学的に許容できる塩を投与することを含む、PAHを治療する方法を含む。
【0030】
治療対象の関連疾患には、以下のいずれか1つまたは複数または組み合わせが含まれる:肺毛細血管腫症(PCH)(第1群)、左心疾患に起因する肺高血圧(第2群 PH)、肺疾患および/もしくは低酸素症に起因する肺高血圧(第3群)、慢性的血栓塞栓性肺高血圧(第4群)、病因が不明もしくは多因子性の肺高血圧(第5群)、突発型の肺血管疾患もしくは急性的および慢性的な肺の損傷および炎症のあらゆる形態(ARDS、ILD、肺炎、COPD、喘息)を含む肺障害、または原発性の肺血管障害(特発性の、膠原血管関連の、肝臓病関連の、薬剤関連の、HIV関連の、凝血塊誘発型の肺高血圧)。本発明の別の実施形態は、それを必要とする対象に、有効量の6−アセチル−8−シクロペンチル−5−メチル−2−{[5−(ピペラジン−1−イル)ピリジン−2イル]アミノ}ピリド[2,3−d]ピリミジン−7(8H)−オンまたはその薬学的に許容できる塩もしくはそうでない塩を投与することを含む、本明細書において論じられる関連疾患を治療する方法を含む。
【0031】
パルボシクリブを、ヒトおよびラットのPASMCのPDGF−BBまたは血清誘発型の増殖におけるその活性について調べた。実施例1を参照されたい。パルボシクリブは、ヒト原発性PASMCのPDGF−BB誘発型の増殖を7.4nMのIC50で強力に阻害し、3つの平均(図1a)をBrdUによって得、相対蛍光単位(rFU)として表した。5%ウシ胎児血清(FBS)によって誘発されたヒトおよびラットの原発性PASMCの両方の増殖も、パルボシクリブ治療によって同様に阻害された(IC50はそれぞれ7.4nMおよび27.4nMであり、それぞれ3つの平均である)(図1bおよび図1d)。パルボシクリブはまた、血管リモデリングに関与する別の細胞型である外膜線維芽細胞(PAAF)に対して非常に強力であった。ヒト原発性PAAFの血清誘発型の増殖は、3つの平均で、21.6nMのIC50で阻害された(図1c)。
【0032】
PASMCおよびPAAFに対するCDK阻害剤の抗増殖効果の実証は、CDK活性の薬理学的阻害を介して達成され、3つのさらなる化合物(アベマシクリブ、ジナシクリブ、およびリボシクリブ)を、パルボシクリブと同時にプロファイリングした。表1は、図1e、1f、および1gで表される増殖の効果%に基づくIC50値を示す。
【0033】
実験ロジスティクスに起因して、図1aおよび1bならびに図2aおよび2bに関連するヒトPASMCドナー細胞はある1人のドナーの細胞を用いて生成され、図1eおよび図2cに関連するデータは異なるドナーから生成されたことに留意されたい。同様に、図1cおよび1fをサポートするヒトPAAFは、異なるドナー細胞に由来するものであった。最後に、図1dおよび1gのラットPASMC調製物は、異なる動物に由来する細胞調製物から生成された。実施例1で論じられたアッセイの間にも差があった。
【0034】
【表1】
【0035】
パルボシクリブを次いで、in−cellウェスタン分析を用いて、ヒトPASMCにおけるRbのリン酸化に対するその効果について試験した。実施例1を参照されたい。パルボシクリブは、PDGF−BBまたは血清誘発型のRbリン酸化を、それぞれ5.2nM(図2b)および14.9nM(図2a)のIC50で強力に阻害した。したがって、パルボシクリブは、PAHにおける病理学的血管リモデリングに関与する主な細胞型の増殖の遮断において非常に効果的である。
【0036】
さらなる研究において、パルボシクリブをアベマシクリブ、ジナシクリブ、およびリボシクリブと同時に試験した場合、増殖は10%FBSの使用で誘発され、全てのCDK阻害剤は、誘発されたRbリン酸化の阻害を示した。図2cで表されるデータに基づく表2を参照されたく、ここで、効果のパーセントは、増殖についての効果のパーセントと同様に計算されている。
【0037】
【表2】
【0038】
MCTは、主に毒性代謝産物であるモノクロタリンピロールの肝臓生成後に肺血管損傷を誘発することが示されている。MCTモデルは、血管リモデリング、平滑筋細胞の増殖、内皮機能障害、炎症性サイトカインの増加、および右心室(RV)不全を含む、ヒトPAHのいくつかの鍵となる態様に有利である。Stenmark,K.R.ら、Animal models of pulmonary arterial hypertension:the hope for etiological discovery and pharmacological cure.American journal of physiology.Lung cellular and molecular physiology 297、L1013〜1032(2009)。図3および4では、Palboはパルボシクリブ、Sildはシルデナフィル、Rioはリオシグアト、およびVehは媒体である。実施例3で記載されるMCT PAHモデルにおいて、MCTに暴露されたラットは肺高血圧を常に発症し、平均(MPAP)、収縮期の(SPAP)、および拡張期の(DPAP)肺動脈圧が増大した。フルトン・インデックスもまた、MCT暴露後に増大した。フルトン・インデックスは、重量に基づく以下の比率である。
右心室[RV]/(左心室[LV]+中隔[S])
【0039】
これらの研究では、PAH症候をモデルにおいて発症させるために第2の作用物質、例えばMCTが投与された日と同日である0日目に、ある作用物質が最初に投与された場合、その作用物質は予防的に投与されたと考えられた。しかし、動物がPAHの症候を発症した後に作用物質が投与された場合、例えば、その作用物質が研究の14日目に最初に投与された場合、その作用物質は治療的に投与されたと考えられた。
【0040】
予想通り、シルデナフィル(50mg/kg/用量、PO BID)は、予防的に投与された場合(0〜28日目)、MPAP(図3b)、SPAP(図3h)、DPAP(図3i)、フルトン・インデックス(図3c)、および心重量(図3j)のPAH関連の増大を有意に低減させた。しかし、治療的に投与された場合は(14〜28日目)、PAHの承認された治療法であるシルデナフィルは、この研究においてMPAP、SPAP、DPAP、フルトン・インデックス、および心重量のわずかなおよび有意でない低減を示したに過ぎなかった。
【0041】
パルボシクリブ(100mg/kg/日、PO、QD)は、治療的に投与された場合(14〜28日目)、予想を大きく上回った。図3aは、研究対象薬剤の投与頻度を示す。パルボシクリブは、予防的に投与された場合、シルデナフィルの正の血行力学的および生理学的効果に匹敵するのみならず、それを上回った。
【0042】
組織形態計測的に、パルボシクリブは、肺血管系の構造的変化を劇的に改善し、一部のケースでは完全に正常化したが、シルデナフィルはそうではなかった(図3f)。パルボシクリブ投与群(14〜28日目)は、媒体/MCT投与群と比較して、腺房内(≦50μmの外径)および前腺房(51〜100μmの外径)肺動脈の両方で、平均血管壁厚(エラスチン染色)が有意に小さく(0.58×MCTに低下した)、シルデナフィル(0〜28日目)(0.76×MCT)の有利な効果を上回ったが、シルデナフィル群(14〜28日目)はこれらの測定値にほとんど影響を有さなかった(図3d)。パルボシクリブ(14〜28日目)はまた、完全に筋化した腺房内血管の密度を、0日目から28日目まで投与された間にのみ効果的であったシルデナフィルよりも大きく低減させた(αSMA染色、図3e)。さらに、パルボシクリブ投与群(14〜28日目)はまた、媒体/MCT投与群(1〜4の範囲、平均3)と比較して著しく低い疾患重症度スコア(0〜2の範囲、平均1)を有し、ここでも、シルデナフィル投与群よりも性能が優れていた(0〜28日目、1〜4の範囲、平均2.5)(図3g)。
【0043】
慢性的低酸素症に血管内皮増殖因子(VEGF)受容体遮断(セマキシニブ/Su5416)が合わさると、ラットにおいて重篤なPAHが生じる。先のStenmark,K.R.。Su5416/Hx PAHモデルにおいて、実施例4に記載するように、パルボシクリブ(100mg/kg/日、PO、QD)を、PAH患者を治療するために一般的に使用される2つの薬剤であるシルデナフィル(30mg/kg/用量、PO、BID)およびリオシグアト(10mg/kg/日、PO、QD)に対して評価した。Lang,M.ら、The soluble guanylate cyclase stimulator riociguat ameliorates pulmonary hypertension induced by hypoxia and SU5416 in rats.PloS one 7、e43433(2012)。全ての3つの薬剤を、7から28日目に投与した(図4a)。媒体/Su5416/Hx群と比較して、予想通り、シルデナフィルでの予防的処理はMPAP(図4b)、SPAP(図4h)、およびDPAP(図4i)を有意に低減させ、リオシグアトでの予防的処理はMPAPおよびDPAPを有意に低減させたが、いずれかの作用物質を使用しての治療処置は、この研究においてフルトン・インデックスをわずかに低減させたにすぎず、肺または心重量に変化はなかった。しかし、パルボシクリブは、血行力学的エンドポイントを非疾患対照群近くまで戻し、シルデナフィルおよびリオシグアトの両方に取って代わった(MPAPの結果を比較する図4b、およびフルトン・インデックス値を比較する図4c)。治療処置を見ると、パルボシクリブ群のみがフルトン・インデックス(図4c)および心重量(図4j)の有意な低減を示した。
【0044】
組織形態計測的に、パルボシクリブは、肺血管系の構造的変化を劇的に改善し、一部のケースでは完全に正常化したが、シルデナフィルまたはリオシグアトはそうではなかった(図4f)。組織形態計測的分析は、パルボシクリブが腺房内および前腺房血管の両方で平均血管壁厚を有意に低減させたが、リオシグアトまたはシルデナフィルはそうではなかったことを示した(図4d)。パルボシクリブ投与群はまた、媒体/Su5416/Hx群と比較して有意に低い(0.68×Su5416/Hx)筋化腺房内血管密度を有していた。シルデナフィル投与群およびリオシグアト投与群の平均は、媒体/SuHx群と統計上有意に異ならなかった(図4e)。さらに、パルボシクリブ投与群は、媒体/Su5416/Hx群(3〜4の範囲、平均3.65)と比較してほぼ完全に正常化した疾患重症度スコア(0〜1.5の範囲、平均0.25)を有しており、シルデナフィル投与群およびリオシグアト投与群より性能が優れていた(図4g)。驚くべきことに、パルボシクリブ治療は、ラットSu5416/Hx PAHモデルの肺血管系における血行力学的変化のほぼ完全な抑制および有意な構造的向上をもたらし、シルデナフィルおよびリオシグアトの両方よりも性能が優れていた。
【0045】
インビボ研究からの二重αSMA/Ki67染色された、および二重CD31/ホスホRb染色されたラット肺切片(図5aおよび図5b)のIHC分析は、MCTが血管関連Ki67増殖細胞(図5c)の有意な増大、および血管関連ホスホRb細胞(図5d)の数の増大の傾向を生じさせることを示した。実施例5を参照されたい。これらの標的特異的エンドポイントは、パルボシクリブ投与によって対照レベルまで劇的に減少した(図5c)。同様に、低酸素症と組み合わされたSu5416/治療は、肺血管系における血管関連Ki67およびpRb細胞の有意な増大を誘発した。パルボシクリブはこれらの増大を完全に逆転させ、一方、シルデナフィルまたはリオシグアトは、これらのバイオマーカーに対する有意の有益な効果を示さなかった。パルボシクリブは、PAH疾患モデルの肺血管系における細胞増殖を抑制した。
【0046】
本発明は、PAHまたは本明細書において開示されている障害を治療する方法を含み、本方法は、パルボシクリブを単剤療法として使用すること、または、治療を必要としている患者に、PAHの治療、PAHに関連する症状の治療、もしくは本明細書において開示されている障害の治療について認可された1つもしくは複数の薬剤(活性物質とも呼ばれる)と組み合わせてパルボシクリブを投与する、併用療法においても使用すること、またはその組み合わせとして使用することを含む。例えば、さらなる活性物質には、限定されるものではないが、プロスタグランジン(例えば、エポプロステノール、トレプロスチニル、イロプロスト、セレキシパグ)、エンドセリン受容体アンタゴニスト(例えば、ボセンタン、アンブリセンタン、マシテンタン)、グアニル酸シクラーゼ阻害剤(例えばリオシグアト)、血管拡張物質(例えば、プロスタサイクリンおよびシルデナフィル)、カルシウムチャネル遮断物質(例えば、アムロジピン、ジルチアゼム、およびニフェジピン)、抗凝固剤(例えばワルファリン)、および利尿剤が含まれ得る。薬剤に言及すると、例えばシルデナフィルには、シルデナフィルおよび全ての薬学的に許容できる塩、例えばクエン酸シルデナフィルが含まれる。
【0047】
別の態様において、パルボシクリブは、PAHの治療または予防のための医薬の製造において使用される。さらに別の態様において、パルボシクリブは、本明細書において論じられる関連疾患の治療または予防のための医薬の製造において使用される。様々な実施形態では、医薬は、即時放出および持続放出医薬品製剤の両方を含む、経口投与製剤である。他の実施形態では、医薬は、吸入による投与のために製剤される。これらの実施形態の全てにおいて、本発明は、医薬の単位用量形態を提供する。
【0048】
本発明はまた、パルボシクリブと同一であるが、実際は1つまたは複数の原子が自然界で通常見られる原子質量または質量数と異なる原子質量または質量数を有する原子に置き換えられている、同位体標識された化合物を含む。本発明の化合物に組み込まれ得る同位体の例には、水素、炭素、窒素、酸素、リン、硫黄、フッ素、および塩素の同位体、例えばそれぞれH、H、13C、11C、14C、15N、18O、17O、31P、32P、35S、18F、および36Clが含まれる。本発明の化合物、そのプロドラッグ、ならびに前述の同位体および/または他の原子の他の同位体を含有する前記化合物または前記プロドラッグの薬学的に許容できる塩は、本発明の範囲内である。ある特定の同位体標識された本発明の化合物、例えば、Hおよび14Cなどの放射性同位体が組み込まれた化合物は、薬剤および/または基質の組織分布アッセイにおいて有用である。トリチウム標識されたもの、すなわちH同位体、および炭素−14、すなわち14C同位体が、それらの調製容易性および検出性から特に好ましい。さらに、重水素、すなわちHなどのより重い同位体での置換は、より優れた代謝安定性の結果生じるある一定の治療的利点、例えばインビボでの半減期の増加または投与必要条件の低減をもたらし得、したがって、一部の状況では好ましい場合がある。同位体標識されたパルボシクリブおよびそのプロドラッグは、通常、同位体標識されていない試薬を容易に入手可能な同位体標識された試薬で置き換え、以下のスキームおよび/または実施例および調製の節において開示される手順を実施することによって調製され得る。
【0049】
本明細書におけるパルボシクリブに言及すると、これには、6−アセチル−8−シクロペンチル−5−メチル−2−{[5−(ピペラジン−1−イル)ピリジン−2イル]アミノ}ピリド[2,3−d]ピリミジン−7(8H)−オン、または、塩を含む薬学的に許容できる製剤を形成するその薬学的に許容できる塩が含まれ、前記塩には、限定されるものではないが、パルボシクリブの酸付加塩、溶媒和物、およびN−オキシドが含まれる。参照によって本明細書に組み込まれるWO03/062236を参照されたい。
【0050】
本明細書において用いられる用語「対象」は、ヒト、霊長類、コンパニオンアニマル(猫または犬を含む)を指す。用語「対象」には、患者が含まれる。
【0051】
本明細書において用いられる用語「治療(treating)」は、このような用語が適用される障害もしくは症状の進行を逆転、軽減、阻害すること、このような障害もしくは症状を予防すること、またはこのような症状もしくは障害の1つもしくは複数の症候を予防することを指す。本明細書において用いられる用語「治療(treatment)」は、「治療(treating)」をすぐ直前に定義したように、治療する行為を指す。
【0052】
パルボシクリブは、広範な経口、ならびに経皮および直腸投与を含む非経口投与形態で製剤および投与され得る。当業者には、以下の投与形態が、活性成分として、パルボシクリブ、またはパルボシクリブの対応する薬学的に許容できる塩もしくは溶媒和物を含み得ることが認識されよう。
【0053】
本発明はまた、治療上有効量のパルボシクリブとその薬学的に許容できる担体、希釈剤、または賦形剤とを共に含む医薬品製剤を含む。本発明の化合物を有する医薬組成物の調製では、薬学的に許容できる担体は、固体または液体のいずれかであり得る。固体形態の調製物には、粉末、錠剤、ピル、カプセル、カシェ剤、坐剤、および分配可能な顆粒が含まれる。固体担体は、希釈剤、着香料、結合剤、防腐剤、錠剤崩壊剤、またはカプセル化材料としても作用し得る1つまたは複数の物質であり得る。錠剤投与形態では、用量に応じて、パルボシクリブは、投与形態の1重量%から80重量%、典型的には5重量%から60重量%、さらに典型的には約10重量%から約35重量%、またはさらに典型的には投与形態の約15重量%から約25重量%を占め得る。具体的な実施形態では、パルボシクリブは、投与形態の約20重量%を占める。
【0054】
本発明の固体投与形態において、担体は、例えば、希釈剤、崩壊剤、結合剤、潤滑剤、流動促進剤、および界面活性剤を含む、様々な薬学的に許容できる賦形剤を含み得る。製剤にはまた、防腐剤、抗酸化剤、着香料、および着色剤などの賦形剤、ならびに当技術分野において知られている他の賦形剤が含まれ得る。
【0055】
錠剤などの固体投与形態は、典型的には、希釈剤、例えば、ラクトース(一水和物、スプレー乾燥された一水和物、無水物など)、マンニトール、キシリトール、デキストロース、ショ糖、ソルビトール、圧縮性の糖、微晶質セルロース、粉末化されたセルロース、デンプン、アルファデンプン、デキストレート、デキストラン、デキストリン、デキストロース、マルトデキストリン、炭酸カルシウム、第二リン酸カルシウム、第三リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、ポロクサマー、ポリエチレンオキシド、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、およびその混合物を含有する。異なるタイプの微晶質セルロースが、本明細書において記載される製剤における使用に適切であり得る。微晶質セルロースの例には、Avicel(登録商標)タイプ:PH101、PH102、PH103、PH105、PH112、PH113、PH200、PH301、および他のタイプの微晶質セルロース、例えばケイ化型微晶質セルロース(SMCC)が含まれる。一部の実施形態では、希釈剤は、微晶質セルロース、ラクトース一水和物、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、炭酸マグネシウム、第二リン酸カルシウム、第三リン酸カルシウム、またはその混合物からなる群から選択される。一部の実施形態では、希釈剤は微晶質セルロースを含む。いくつかの実施形態では、希釈剤は、1つまたは複数のタイプの微晶質セルロース、例えば、Avicel(登録商標)PH105、Avicel(登録商標)PH200、またはその混合物を含む。一部のこのような実施形態では、希釈剤は、ラクトース一水和物を含まない。他のこのような実施形態では、希釈剤は微晶質セルロースを含み、ラクトース一水和物をさらに含む。希釈剤は、固体投与形態の約25重量%から約75重量%、好ましくは投与形態の約50重量%から約75重量%を占めることが多い。
【0056】
固体投与形態は、崩壊剤を含有することが多い。崩壊剤の例には、デンプングリコール酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、微晶質セルロース、低アルキル置換型ヒドロキシプロピルセルロース、デンプン、アルファデンプン、およびアルギン酸ナトリウムが含まれる。一部の実施形態では、崩壊剤はクロスポビドンである。あらゆるグレードのクロスポビドンが使用され得、例えば、CL、CL−SF、およびXLグレードのクロスポビドンが、本明細書において記載される製剤における使用に適切である。具体的な例には、Kollidon、Kollidon CL(登録商標)、Kollidon CL−M(登録商標)、Polyplasdone XL(登録商標)、Polyplasdone XL−10(登録商標)、およびPolyplasdone INF−10(登録商標)が含まれる。一部の実施形態では、担体は、クロスポビドン、クロスカルメロースナトリウム、およびデンプングリコール酸ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1つの崩壊剤を含む。具体的な実施形態では、崩壊剤はクロスポビドンである。崩壊剤は、投与形態の約1重量%から約25重量%、好ましくは約5重量%から約20重量%、さらに好ましくは約5重量%から約10重量%を占めることが多い。
【0057】
結合剤は、錠剤製剤に接着性を付与するために使用され得る。適切な結合剤には、微晶質セルロース、ゼラチン、糖、ポリエチレングリコール、天然および合成ゴム、ポリビニルピロリドン、アルファデンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、ならびにヒドロキシプロピルメチルセルロースが含まれる。一部の実施形態では、結合剤は、微晶質セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、およびヒドロキシプロピルメチルセルロースからなる群から選択される。具体的な実施形態では、結合剤は、微晶質セルロース、例えばAvicel(登録商標)PH105である。存在する場合、結合剤は、投与形態の約0重量%から約15重量%、または約0.2重量%から約10重量%を占め得る。一部の実施形態では、結合剤は、投与形態の約5重量%から約10重量%を占める。特定の実施形態では、結合剤は、投与形態の約10重量%を占める。
【0058】
固体投与形態は、1つまたは複数の潤滑剤を含有することが多い。潤滑剤の例には、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、フマル酸ステアリルナトリウム、ステアリン酸マグネシウムとラウリル硫酸ナトリウムとの混合物、またはこれらの2つ以上の混合物が含まれる。一部の実施形態では、潤滑剤は、ステアリン酸マグネシウムおよび/またはフマル酸ステアリルナトリウムである。一部の実施形態では、潤滑剤はステアリン酸マグネシウムである。一部のこのような実施形態では、固体投与形態は、顆粒内および顆粒外のステアリン酸マグネシウムを含む錠剤である。他の実施形態では、固体投与形態は、顆粒内ステアリン酸マグネシウムおよび顆粒外フマル酸ステアリルナトリウムを含む錠剤である。存在する場合、潤滑剤は、投与形態の約0.25重量%から約10重量%、好ましくは約0.5重量%から約6重量%を占めることが多い。
【0059】
錠剤はまた、流動促進剤、例えば、二酸化ケイ素、コロイド状二酸化ケイ素、ケイ酸マグネシウム、三ケイ酸マグネシウム、タルク、および他の形態の二酸化ケイ素、例えば、凝集型のケイ酸塩およびケイ酸を含み得る。一部の実施形態では、流動促進剤は二酸化ケイ素である。存在する場合、流動促進剤は、錠剤の約0重量%から約10重量%、好ましくは約0.2重量%から約5重量%、または約0.5重量%から約2重量%を占め得る。
【0060】
錠剤は、ラウリル硫酸ナトリウムおよびポリソルベート80などの界面活性剤を含んでいてもよい。存在する場合、界面活性剤は、錠剤の0重量%から10重量%、または好ましくは0.2重量%から5重量%を占め得る。
【0061】
通常、本発明の固体投与形態は、薬化学において一般的な方法に従って調製される。選択される賦形剤は、活性医薬品成分と共に、顆粒外または顆粒内区画のいずれかまたは両方に組み込まれ得る。
【0062】
パルボシクリブの治療上有効用量は、1日当たり、体重1kg当たりおよそ0.01mgからおよそ100mgで変化する。典型的な成人用量は、1日当たりおよそ0.1mgからおよそ3000mgである。さらに典型的には、パルボシクリブの治療上効果的な成人用量は、1日当たり75mg、100mg、または125mgである。単位用量調製物内の活性成分の量は、特定の適用に従って、およそ0.1mgからおよそ500mg、好ましくは約25mgから約125mgで変化し得るかまたは調整され得る。組成物は、必要に応じて、他の適合性の治療物質も含有し得る。パルボシクリブでの治療が必要な対象は、単回投与でまたは24時間内での複数回投与で、1日当たり約0.6から約500mg、好ましくは1日当たり約25mgから125mgの投与量で投与される。このような治療は、必要な限り長く、連続的な間隔で反復され得る。
【実施例】
【0063】
(実施例1)
細胞増殖アッセイ。正常なヒト対象の原発性PASMCおよびPAAF(ScienCell Research Laboratories、San Diego、CA、USA)、ならびにラット原発性PASMC(Cell Applications、San Diego、CA、USA)を、5%ウシ胎児血清(FBS)を含有するダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)内でCellBIND(登録商標)96ウェルプレートに播種し、0.1%FBSを含有するDMEM内で24時間、血清飢餓させた。細胞をまず異なる濃度のパルボシクリブ(3セット)と30分プレインキュベートし、次いで、30ng/mlのPDGF−BBまたは5%FBSを添加して細胞増殖を刺激した。細胞を48時間維持し、その後、増殖率を、Cell Proliferation ELISA BrdU(ブロモデオキシウリジン)Luminescence Kit(Roche Diagnostics、Mannheim、Germany)を用いて評価した。BrdUを、BrdU組み込みの定量化の16時間前に培地に添加した。この手順を使用して、少なくとも図1a、1b、1c、および1dで表されるデータを得た。系に適用される応答の50%を阻害するために必要な化合物の濃度を判定することによって、IC50値をあらゆる所与の阻害剤について計算した。IC50値は、化合物濃度応答データにフィットする4つのパラメータロジスティック方程式から得た。
【0064】
あるいは、BrdUを使用するよりむしろ、EdU(5−エチニル−2’−デオキシウリジン)を使用することができる。細胞をまず異なる濃度のCDK阻害剤と30分プレインキュベートし、次いで、5%FBSを添加して細胞増殖を刺激した。細胞を24時間維持し、その後、増殖率を、EDU Click−iT EdU Alexa Fluor(登録商標)647 HCS Assay(Thermofisher Scientific、USA)用いて評価した。EdUを、EdU組み込みの定量化の16時間前に培地に添加した。Click−iTアッセイの一部として、DAPI(4',6−ジアミジノ−2−フェニルインドール)またはHoechst染色およびシアニン5色素のための適切な蛍光顕微鏡フィルターを備えた自動ハイコンテントイメージングプラットフォームを用いて96ウェルプレートをスキャンすることによって、増殖を定量化した。シアニン5で検出された増殖EdU陽性細胞を定量化し、ウェル当たりの総細胞数に対して正規化し、ここで、細胞当たりの総細胞数は、DAPIまたはHoechstシグナルによって同定した。効果%を次いで計算した。
(濃度当たりの増殖細胞の平均量−増殖の平均最小量)/(増殖の平均最大量−増殖の平均最小量)
【0065】
FBSが存在するCDK阻害剤濃度当たりの増殖細胞の平均量。使用したCDK阻害剤は、パルボシクリブ、アベマシクリブ、ジナシクリブ、およびリボシクリブであった。
【0066】
増殖の最小量は、FBSが添加されておらずCDK阻害剤が存在しないウェル内の細胞数に基づく。
【0067】
増殖の最大量は、FBSが添加されCDK阻害剤が存在しないウェル内の細胞数に基づく。
【0068】
この手順を用いて、少なくとも図1e、1f、および1gで表されるデータを得た。
【0069】
In−cellウェスタン分析。正常なヒト対象の原発性PASMCを上記のように培養し、血清飢餓させた。細胞をまず異なる濃度のパルボシクリブと60分プレインキュベートし、次いで、5%FBSまたは10%FBSまたは30ng/mlのPDGF−BBのいずれかを添加して細胞増殖およびRbリン酸化を刺激した。Rbリン酸化に対するパルボシクリブの効果を、in−cellウェスタンアッセイを製造者の使用説明書に従って用いて(Li−Cor Biosciences、Lincoln、NE、USA)、24時間後に評価した。リン酸化したRbを、ウサギモノクローナル抗体抗ホスホ−Rb(Ser807/811)(Cell Signaling Technology,Inc.、Danvers、MA、USA)を用いて測定し、その後、IRDye 800CW赤外蛍光色素標識されたヤギ抗ウサギ二次抗体で検出した。アクチンレベルを、マウス抗アクチンモノクローナル抗体(pan Ab−5)(Fisher Scientific Pittsburgh、PA、USA;Sigma Aldrich、St.Louis、MO、USA)を用いて測定し、その後、IRDye 680RD標識されたヤギ抗マウス二次抗体で検出した。5%FBSを使用した図2a、PDGF−BBを使用した図2b、および10%FBSを使用した図2cを参照されたい。
【0070】
(実施例2)
ラットMCT誘発型PAHモデル:オスのSprague−Dawleyラット(Charles River Laboratories)(260〜280g;媒体対照群、n=6;全ての他の群、n=15)に、媒体(33.3%の1N HCl、14.8%の1N NaOH、52.2%のdiHO)内に溶解したMCT(50mg/kg、SC;1ml/kg BW)、または媒体のみを0日目に投与した。シルデナフィル(50mg/kg/用量、BID)を、0〜28日目に予防的に、または14〜28日目に治療的に投与した(5ml/kg、PO)。パルボシクリブ(100mg/kg、QD)を治療的に投与した(14〜28日目)。シルデナフィルおよびパルボシクリブの両方を媒体(0.5%メチルセルロース)内に再懸濁し、経口投与した(5ml/kg)。28日目に、イソフルランを介して動物を麻酔し、血行力学的パラメータを評価し、安楽死後に組織を採取した。
【0071】
(実施例3)
ラットMCT誘発型PAHモデル:オスのSprague−Dawleyラット(Charles River Laboratories)(260〜280g;媒体対照群、n=6;全ての他の群、n=15)に、媒体(33.3%の1N HCl、14.8%の1N NaOH、52.2%のdiHO)内に溶解したMCT(50mg/kg、SC;1ml/kg BW)、または媒体のみを0日目に投与した。シルデナフィル(50mg/kg/用量、BID)を、0〜28日目に予防的にまたは14〜28日目に治療的に投与した(5ml/kg、PO)。パルボシクリブ(100mg/kg、QD)を治療的に投与した(14〜28日目)。シルデナフィルおよびパルボシクリブの両方を媒体(0.5%メチルセルロース)内に再懸濁し、経口投与した(5ml/kg)。28日目に、イソフルランを介して動物を麻酔し、血行力学的パラメータを評価し、安楽死後に組織を採取した。
【0072】
血行力学的測定−モノクロタリン(MCT)研究:28日目に、陽圧ベンチレーター内で2%イソフルランを介して動物を麻酔した。イソフルラン陽圧換気された動物において、肺の血行力学を、事前に較正された圧力変換器を用いて測定した。定常状態の肺および全身の動脈圧を、右頚動脈を介して大動脈弓のレベルで肺動脈幹に導入されたMillar Solid State Mikro−tipカテーテル(Millar Instruments、Houston、TX)を用いて測定した。血行力学的値を、生理学的データ収集システムADI Chart(ADI Instruments、Colorado Spring、CO)(Plato BioPharma)によって自動計算した。
【0073】
(実施例4)
SuHx誘発型の肺動脈性肺高血圧:Sprague−DawleyラットをCharles River Laboratoriesから入手した(200〜300g;媒体対照、n=5;全ての他の群、n=10)。ラットに、DMSOに溶解したセマキシニブを0日目に投与し、その後、低(13%)酸素下で28日目まで飼育した。媒体(0.5%メチルセルロース)内のシルデナフィル(30mg/kg/用量、BID)、リオシグアト(10mg/kg、QD)、またはパルボシクリブ(100mg/kg、QD)を、7〜28日目に投与した。末端血行力学的評価および剖検を、MCT研究と同様の様式で28日目に行った。
【0074】
血行力学的測定Su/Hx研究:28日目に、ケタミン/キシラジン(80/10mg/kg)の筋肉内注射を介して動物を麻酔した。Millarカテーテルを肺動脈に挿入し、肺圧および血行力学を、Stringerら、(1981)Catheterization of the pulmonary artery in the closed−chest rat.J.Appl.Physiol.51、1047〜1050に記載されているように測定した。血行力学的値を、NOTOCORD−Hemソフトウェア(NOTOCORD,Inc.、Croissy sur Sienne、France)(CorDynamics)を用いて計算した。
【0075】
RV肥大の測定。剖検で心臓を回収した後、心房および大血管を除去した。RVをLVおよびSから分離した。RVおよびLV+Sの湿重量を測定してフルトン・インデックスを計算した。
【0076】
(実施例5)
組織の調製。麻酔下で動物を瀉血し、肺循環に、酸素供給された(実施例3[MCT]の動物)またはヘパリン化された(実施例4[Su5416/Hx]の動物)生理食塩水を流し込んだ。気管、肺、および心臓を胸腔から無傷の状態で取り出し、氷冷した生理食塩水内に置いた。右肺葉を取り出し、秤量し、即座に液体窒素内で急速冷凍した。先端の丸い針(20g)が付いた、定着剤(10%NBF)を満たした10mLのシリンジを使用して左肺葉を膨らませ、気道を結紮して気道が一定に広がったままとなるようにした。左肺を次いで、10%NBF内に最大48時間浸して固定し、次いで、70%EtOHに移して最大5日置いた。
【0077】
組織形態計測的分析。3つの3〜5μm厚の左肺葉の横断切片を組織形態計測的分析に使用した。全体的な疾患重症度スコアを、有資格の獣医学病理学者による、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)染色した肺切片の光学顕微鏡評価によって判定した。スコアは、0(不存在)、1(最小)、2(穏やか)、3(中度)、4(顕著)から5(重症)の範囲であり、PAHモデルの組織変化(炎症性、退行性、血管性、および/または増殖性)特徴の影響を受けた組織のおよそのパーセンテージに従って割り当てられた。平均血管壁厚を、修正型のヴァーヘフ−ヴァンギーソンエラスチン染色で調製された肺切片を使用して評価した。画像分析を、組織区域の10%のランダム領域サンプリング(Visiopharm newCAST)と、腺房内および前腺房血管の観察者による同定と、血管壁厚の測定のための核形成因子プローブの適用とを使用して行った。完全に筋化した腺房内血管密度を、二重αSMA/Ki67 IHC染色した切片を使用して同様の様式で評価し、70%以上筋化した(すなわちSMA)、横断切片化された、≦50μmの外径の、同定可能な内腔を有する腺房内血管を観察者によって計数した。血管に関連するKi67およびpRb細胞を、組織区域の10%のランダム領域サンプリングを用いて、αSMA/Ki67 IHC染色された肺切片およびCD31/pRb IHC染色された肺切片においてそれぞれ計数し、≦100μmの外径の血管の壁(すなわち、内膜または中膜内)に関連するKi67またはpRb細胞を観察者によって同定した。
【0078】
免疫組織化学。二重α−SMA/Ki67核抗原:全てのIHCステップを、Leica Bond Rx自動免疫組織化学染色機で、3μm厚のホルマリン固定されパラフィン包埋された(FFPE)切片で行った。機器を、スライドをベイクし、脱ワックスするようにプログラムした。一次抗体である抗ヒトαSMA(ウサギポリクローナルab5694、Abcam、Cambridge、MA)を、Bond(商標)Primary Antibody Diluent(PV6123)内で1:200に希釈し、スライドにアプライし、30分インキュベートし、Bond(商標)Polymer Refine AP−Red検出キット(DS9390、Leica Biosystems、Buffalo Grove、IL)を使用して検出した。このステップの後、Bond(商標)Epitope Retrieval 1(ER1)溶液(AR9961、Leica Biosystems)を用いて、20分の熱誘発型のエピトープ回復を行った。二次抗体である抗Ki67(マウスモノクローナルKi−67[MM1]核抗原RTU、PA0118[Leica])を15分アプライし、その後、Bond(商標)Polymer Refine HRP DAB検出系(DS9800)で検出した。スライドを対比染色し、脱水し、カバーガラスをかけた。
【0079】
二重CD31/ホスホRb:最初のステップは上記と同じであった。熱誘発型のエピトープ回復を、Bond(商標)Epitope Retrieval 2(ER2)溶液(AR9640)で20分行った。Bond(商標)Primary Antibody Diluent内で1:600に希釈した一次抗体である抗ホスホRb(ウサギポリクローナルホスホ−Rb[ser807/811]、9308、Cell Signaling Technology、Danvers、MA)をスライドにアプライし、30分インキュベートした。Bond(商標)Polymer HRP−DAB Refine検出キットを一次抗体の次に使用した。このステップの後に、Bond(商標)Epitope Retrieval 1(ER1)溶液(AR9961、Leica Biosystems)を用いて、10分の熱誘発型のエピトープ回復を行った。二次抗体である抗CD31(ウサギモノクローナル[EPR3094]、ab76533、Abcam、Cambridge、MA)を45分アプライし、その後、Bond(商標)Polymer Refine AP−Red検出キット(DS9390、Leica Biosystems)で検出した。スライドを対比染色し、脱水し、カバーガラスをかけた。
【0080】
統計分析
データは平均±S.E.M.で表される。群間の統計分析を、一方向分散分析(ANOVA)を用いて行い、その後、テューキーの多重比較検定(GraphPad Prism 6、GraphPad Software、San Diego、CA、USA)を行った。統計的有意性のレベルは、0.05(†またはと標識される)または0.01(††または**と標識される)の多重性調整されたP値と設定した。
図1-1】
図1-2】
図1-3】
図1-4】
図2-1】
図2-2】
図2-3】
図3-1】
図3-2】
図3-3】
図3-4】
図4-1】
図4-2】
図4-3】
図4-4】
図5-1】
図5-2】
【手続補正書】
【提出日】2020年12月14日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PAHを治療するために用いられる、有効量の6−アセチル−8−シクロペンチル−5−メチル−2−{[5−(ピペラジン−1−イル)ピリジン−2イル]アミノ}ピリド[2,3−d]ピリミジン−7(8H)−オン、またはその薬学的に許容できる塩を含む医薬組成物。
【請求項2】
6−アセチル−8−シクロペンチル−5−メチル−2−{[5−(ピペラジン−1−イル)ピリジン−2イル]アミノ}ピリド[2,3−d]ピリミジン−7(8H)−オン、またはその薬学的に許容できる塩が、単回でまたは24時間内での複数回投与で、1日当たり約0.6から約500mgの投与量で投与される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
6−アセチル−8−シクロペンチル−5−メチル−2−{[5−(ピペラジン−1−イル)ピリジン−2イル]アミノ}ピリド[2,3−d]ピリミジン−7(8H)−オン、またはその薬学的に許容できる塩が、単回でまたは24時間内での複数回投与で、1日当たり約25mgから125mgの投与量で投与される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
1つまたは複数の他の活性物質と組み合わせて用いられる、請求項1から3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
6−アセチル−8−シクロペンチル−5−メチル−2−{[5−(ピペラジン−1−イル)ピリジン−2イル]アミノ}ピリド[2,3−d]ピリミジン−7(8H)−オンを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
他の活性物質がシルデナフィルである、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項7】
有効量のCDK阻害剤を含む、PAHを治療するために用いられる医薬組成物であって、前記CDK阻害剤が、リボシクリブ、アベマシクリブもしくはジナシクリブ、またはそれらの薬学的に許容できる塩である、医薬組成物。
【請求項8】
他の活性物質が、プロスタグランジン、エンドセリン受容体アンタゴニスト、グアニル酸シクラーゼ阻害剤、血管拡張物質、カルシウムチャネル遮断物質、抗凝固剤、および利尿剤である、請求項4に記載の医薬組成物。