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特開2021-38298難燃性ポリカーボネート樹脂組成物および樹脂成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-38298(P2021-38298A)
(43)【公開日】2021年3月11日
(54)【発明の名称】難燃性ポリカーボネート樹脂組成物および樹脂成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20210212BHJP
   C08L 71/12 20060101ALI20210212BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20210212BHJP
   C08K 5/521 20060101ALI20210212BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20210212BHJP
【FI】
   C08L69/00
   C08L71/12
   C08L83/04
   C08K5/521
   C08K3/013
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-159640(P2019-159640)
(22)【出願日】2019年9月2日
(71)【出願人】
【識別番号】396001175
【氏名又は名称】住化ポリカーボネート株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】特許業務法人 小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】四之宮 忠司
(72)【発明者】
【氏名】太白 啓介
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CG01W
4J002CH07X
4J002CP03Y
4J002DJ007
4J002DL007
4J002EW046
4J002FD017
4J002FD136
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】従来の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物よりも更に難燃性を向上させた難燃性ポリカーボネート樹脂組成物、及びその樹脂組成物を成形してなる樹脂成形品を提供する。
【解決手段】本発明の一実施態様に係る難燃性ポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂(A)10〜91.5質量%、ポリアリレート樹脂(B)0〜40質量%、シリコーン化合物(C)3〜10質量%、リン酸エステル系難燃剤(D)0.5〜10質量%、及び、充填剤(E)5〜50質量%を含有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂(A)10〜91.5質量%、ポリアリレート樹脂(B)0〜40質量%、シリコーン化合物(C)3〜10質量%、リン酸エステル系難燃剤(D)0.5〜10質量%、及び充填剤(E)5〜50質量%を含有することを特徴とする、難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリカーボネート樹脂(A)の配合量が15〜91.5質量%であり、リン酸エステル系難燃剤(D)の配合量が0.5〜1.6質量%である、請求項1記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
前記シリコーン化合物(C)が、主鎖に分岐構造を有し、有機官能基として芳香族基を含有し、重量平均分子量が50000以上である、請求項1または2記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
前記充填剤(E)がガラス繊維である、請求項1〜3のいずれかに記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
前記充填剤(E)がワラストナイトである、請求項1〜3のいずれかに記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項6】
前記難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる厚さ3mmの試験片を用い、14 CFR 25.853(a) , 14 CFR 25.855, 14 CFR Appendix F to Part 25, Part I およびAircraft Materials Fire Test Handbook, Chapter 1 に準拠した、垂直試験(60秒接炎)において、14 CFR Appendix F to Part 25, Part I (a) (1) (i) の規定する判定基準を満足する、請求項1〜5のいずれかに記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項7】
前記難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる厚さ3mmの試験片を用いた、EN45545−2(R1/R7) ISO5660−1に準拠したコーンカロリーメーター試験において、MARHEが90KW/m以下(HL2)を満足する、請求項1〜5のいずれかに記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7記載のいずれかに記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を含む、樹脂成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性、機械的強度に優れた難燃性ポリカーボネート樹脂組成物およびその樹脂組成物を成形してなる樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は機械的強度、耐熱性、熱安定性等に優れた熱可塑性樹脂であることから、電気電子分野や自動車分野等広く工業的に利用されている。
【0003】
近年、航空機や鉄道車両に用いられる材料として、軽量化、又、易加工性を目的に様々な材料が検討されている。航空機や鉄道車両の内装材においても、軽量化や易加工性について検討され、種々の樹脂材料が適用されている。従来のポリカーボネート樹脂組成物は機械的強度、耐熱性、熱安定性等に優れ、電気電子分野に要求される難燃性を満足するものの、航空機や鉄道車両の内装材に要求される厳しい難燃性を満足する事が出来ないといった問題点があった。樹脂材料が、航空機や鉄道車両の内装材として採用されるためには航空機や鉄道車両用に定められた難燃性や耐火性規格を満足することが求められる。
【0004】
従来、ポリカーボネート樹脂組成物の難燃性を向上させるため、例えば、特許文献1では、リン系難燃剤や無機物質等を含有するポリカーボネート樹脂組成物が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、従来のポリカーボネート樹脂組成物では、より高い難燃性や耐火性を求められる規格には適合が困難であった。例えば、従来のポリカーボネート樹脂組成物が発現する難燃性は航空機向け材料に求められる14 CFR 25.853(a) , 14 CFR 25.855, 14 CFR Appendix F to Part 25, Part I およびAircraft Materials Fire Test Handbook, Chapter 1 に準拠した、垂直試験(60秒接炎)において14 CFR Appendix F to Part 25, Part I (a) (1) (i)の規定する規格に照らし十分なものではなかった。一方、欧州鉄道車両材料に求められる防火規格EN45545−2 (R1/R7)ISO5660−1に準拠したコーンカロリーメーター試験においてはハザードレベル2に求められる難燃性規格を十分満たすことが要求される場合があるが、そのような材料はなかった。近年、これらの技術要求を十分に満足する難燃性ポリカーボネート樹脂組成物が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2012−513504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物よりも更に難燃性を向上させた難燃性ポリカーボネート樹脂組成物、及びその樹脂組成物を成形してなる樹脂成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、ポリカーボネート樹脂にポリアリレート樹脂、シリコーン系難燃剤、リン系難燃剤、及び無機フィラーを配合することにより、驚くべきことに、難燃性を著しく改善出来、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、ポリカーボネート樹脂(A)10〜91.5質量%、ポリアリレート樹脂(B)0〜40質量%、シリコーン化合物(C)3〜10質量%、リン酸エステル系難燃剤(D)0.5〜10質量%、及び、充填剤(E)5〜50質量%を含有することを特徴とする難燃性ポリカーボネート樹脂組成物及びそれを成形してなる樹脂成形品、及びその樹脂組成物を成形してなる樹脂成形品に関するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物は、従来の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物と比べて難燃性を飛躍的に向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について実施形態及び例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は、以下に示す実施形態及び例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施することができる。
【0012】
本発明にて使用されるポリカーボネート樹脂(A)とは、種々のジヒドロキシジアリール化合物とホスゲンとを反応させるホスゲン法、またはジヒドロキシジアリール化合物とジフェニルカーボネートなどの炭酸エステルとを反応させるエステル交換法によって得られる重合体であり、代表的なものとしては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)から製造されたポリカーボネート樹脂が挙げられる。
【0013】
上記ジヒドロキシジアリール化合物としては、ビスフェノールAの他に、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−tert−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−ブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパンのようなビス(ヒドロキシアリール)アルカン類、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンのようなビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルエーテルのようなジヒドロキシジアリールエーテル類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルフィドのようなジヒドロキシジアリールスルフィド類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルスルホキシドのようなジヒドロキシジアリールスルホキシド類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルスルホンのようなジヒドロキシジアリールスルホン類が挙げられる。
【0014】
これらは単独または2種類以上混合して使用されるが、これらの他に、ピペラジン、ジピペリジルハイドロキノン、レゾルシン、4,4′−ジヒドロキシジフェニル等を混合して使用してもよい。
【0015】
さらに、上記のジヒドロキシアリール化合物と以下に示すような3価以上のフェノール化合物を混合使用してもよい。3価以上のフェノールとしてはフロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプテン、2,4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプタン、1,3,5−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ベンゾール、1,1,1−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−エタンおよび2,2−ビス−〔4,4−(4,4′−ジヒドロキシジフェニル)−シクロヘキシル〕−プロパンなどが挙げられる。
【0016】
ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量は、特に制限はないが、成形加工性、強度の面より通常10000〜100000、より好ましくは12000〜30000、さらに好ましくは14000〜28000の範囲である。また、かかるポリカーボネート樹脂を製造するに際し、分子量調整剤、触媒等を必要に応じて使用することができる。
【0017】
ポリカーボネート樹脂(A)の配合量は、ポリカーボネート樹脂組成物の全量の10〜91.5質量%である。ポリカーボネート樹脂(A)の配合量が91.5質量%を越えると難燃性に劣り、ポリカーボネート樹脂(A)の配合量は10質量%未満では流動性に劣る事があることから好ましくない。より好ましいポリカーボネート樹脂(A)の配合量は、15〜90質量%、最も好ましくは54.5〜90質量%である。ポリアリレート樹脂(B)を含む場合のポリカーボネート樹脂(A)の配合量は、ポリカーボネート樹脂(A)とポリアリレート樹脂との合計が54.5〜91.5質量%であるように調整されるのが好ましい。
【0018】
本発明にて使用されるポリアリレート樹脂(B)とは、芳香族ジカルボン酸またはその誘導体と、二価フェノール又はその誘導体とよりなるポリエステルであり、溶液重合、溶融重合などの方法により製造される。
【0019】
ポリアリレート樹脂(B)の重量平均分子量には特に制限はないが、成形加工性、強度の面より40000〜70000、より好ましくは43000〜60000、さらに好ましくは43000〜50000の範囲である。
【0020】
本発明に使用されるポリアリレート樹脂(B)の配合量は、ポリカーボネート樹脂組成物の全量の0〜40質量%である。ポリアリレート樹脂(B)の配合量が40質量%を超えると流動性に劣る事から好ましくない。ポリアリレート樹脂(B)の配合量は、より好ましくは10〜40質量%、さらに好ましくは20〜40質量%の範囲である。
【0021】
本発明にて使用されるシリコーン化合物(C)としては、下記一般式(1)に示されるような、主鎖が分岐構造でかつ有機官能基として芳香族基を含有するものである。
一般式(1)
【化1】
ここで、R、R及びRは主鎖の有機官能基を表し、Xは末端の有機官能基を表す。R、R及びRの少なくとも1つは、芳香族基を含む。また、一般式(1)において、l、m及びnは、0以上の整数であり、l及びmの少なくとも一方は1以上である。
【0022】
すなわち、一般式(1)に表されるシリコーン化合物(C)は、分岐単位として、T単位および/またはQ単位を持つことを特徴とする。これらは全体のシロキサン単位の20mol%以上含有することが好ましい。T単位および/またはQ単位が20mol%未満であると、シリコーン化合物(C)の耐熱性が低下してその難燃性の効果が下がり、またシリコーン化合物(C)自体の粘度が低すぎてポリカーボネート樹脂(A)との混練性や成形性に悪影響を及ぼす場合がある。さらに好ましくは、T単位および/またはQ単位は30mol%以上、95mol%以下である。T単位および/またはQ単位が30mol%以上であればシリコーン化合物(C)の耐熱性が一層上がり、これを含有したポリカーボネート樹脂の難燃性が大幅に向上する。しかし、T単位および/またはQ単位が95mol%を越えるとシリコーンの主鎖の自由度が減少して、燃焼時の芳香族基の縮合が生じにくくなる場合があり、顕著な難燃性を発現しにくくなる場合がある。
【0023】
また、シリコーン化合物(C)は、含有する有機官能基のうち芳香族基が20mol%以上であることが好ましい。芳香族基の割合がこの範囲以下であると、燃焼時に芳香族基同士の縮合が起こりにくくなり難燃効果が低下する場合がある。芳香族基の割合は、さらに好ましくは40mol%以上、95mol%以下である。芳香族基の割合が40mol%以上であれば燃焼時の芳香族基が一層効率的に縮合できると同時に、ポリカーボネート樹脂(A)中でのシリコーン化合物(C)の分散性が大幅に改良され、極めて良好な難燃効果を発現できる。しかし、芳香族基の割合が95mol%を超えると芳香族基同士の立体障害により、これらの縮合が生じにくくなる場合があり、顕著な難燃効果を発現できにくくなる場合がある。
【0024】
この含有される芳香族基としては、フェニル基、ビフェニル基、ナフタレン基、またはこれらの誘導体であるが、シリコーン化合物(B)の安全面からは、特にフェニル基が好ましい。シリコーン化合物(C)の主鎖または分岐した側鎖に付いた、芳香族基以外の有機官能基としてはメチル基が好ましい。また、さらに、末端の有機官能基はメチル基、フェニル基、水酸基、アルコキシ基(特にメトキシ基)の内から、選ばれた1種またはこれらの2種から4種までの混合物であることが好ましい。これらの末端基の場合、反応性が低いため、ポリカーボネート樹脂(A)とシリコーン化合物(C)の混練時に、シリコーン化合物(C)のゲル化(架橋化)が起こりにくいので、シリコーン化合物(C)がポリカーボネート樹脂(A)中に均一に分散でき、その結果、一層良好な難燃効果を持つことができ、さらに成形性も向上する。末端の有機官能基として特に好ましくはメチル基である。末端の有機官能基がメチル基である場合、極端に反応性が低いので、分散性が極めて良好になり、難燃性をさらに向上することができる。
【0025】
シリコーン化合物(C)の重量平均分子量は、好ましくは5000以上50万以下である。シリコーン化合物(C)の重量平均分子量が5000未満の場合、シリコーン化合物自体の耐熱性が低下して難燃性の効果が低下し、さらに溶融粘度が低すぎて成形時にポリカーボネート樹脂(A)の成形体表面にシリコーン化合物が浸み出して成形性を低下させる場合がある。また、シリコーン化合物(C)の重量平均分子量が50万を超えると溶融粘度が増加してポリカーボネート樹脂(A)中での均一な分散が損なわれ、難燃性の効果や成形性が低下する場合がある。さらに好ましくは、シリコーン化合物(C)の重量平均分子量は10000以上27万以下である。この範囲ではシリコーン化合物(C)の溶融粘度が最適となるため、ポリカーボネート樹脂(A)中でシリコーン化合物(C)が極めて均一に分散でき、表面への過度な浸みだしもないため、一層良好な難燃性と成形性を達成できる。
【0026】
シリコーン化合物(C)の配合量は、ポリカーボネート樹脂組成物の全量の3質量%以上10質量%以下が好ましい。シリコーン化合物(C)の配合量が3質量%未満では難燃効果が不十分な場合があり、シリコーン化合物(C)の配合量が10質量%を超えると成形品表面に表層剥離が発生し外観に劣る場合がある。シリコーン化合物(C)の配合量アー、より好ましくは、3〜9質量%、更に好ましくは3〜8質量%の範囲である。この範囲では難燃性と成形性のバランスが一層良好となる。
【0027】
本発明で使用されるリン酸エステル系難燃剤(D)としては、下記一般式(2)にて表される化合物である。
一般式(2)
【化2】
上記一般式において、Ar1、Ar2、Ar3及びAr4は、各々、同一もしくは相違なる1価の芳香族基であり、フェニル基、クレジル基、キシリル基、t−ブチルフェニル基等が挙げられる。また、Yは2価のフェノール類より誘導される芳香族基であり、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノール、4−t−ブチルカテコール、2−tert−ブチルヒドロキノン、ビスフェノールA、ビスフェノールSスルフィド、ビスフェノールF、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3、5ジメチル−4−ヒドロキシルフェニル、)スルホン等が挙げられる。これらの、2価のフェノールは、レゾルシノール、ヒドロキノール、ビスフェノールAが好ましく、特にはレゾルシノールやビスフェノールAが好適である。kは、1〜5の整数である。
【0028】
リン酸エステル系難燃剤(D)としては、たとえば、フェニル・レゾルシンポリホスフェート、クレジル・レゾルシンポリホスフェート、フェニル・クレジル・レゾルシンポリホスフェート、フェニル・ヒドロキノンポリホスフェート、クレジル・ヒドロキノンポリホスフェート、フェニル・クレジル・ヒドロキノンポリホスフェート、フェニル・2、2−ビス(4−オキシフェニル)プロパン(:ビスフェノールA型)ポリホスフェート、クレジル・2、2−ビス(4−オキシフェニル)プロパン(:ビスフェノールA型)ポリホスフェート、フェニル・クレジル・2、2−ビス(4−オキシフェニル)プロパン(:ビスフェノールA型)ポリホスフェート、キシリル・レゾルシンポリホスフェート、フェニル、p−t−ブチルフェニルレゾルシオン・ポリホスフェート等が挙げられる。これらは市販品、例えば大八化学工業製CR733S、CR741、PX−200等として容易に入手可能である。
【0029】
リン酸エステル系難燃剤(D)の配合量は、ポリカーボネート樹脂組成物の全量の0.5質量%以上10質量%以下が好ましい。リン酸エステル系難燃剤(D)の配合量が0.5質量%未満では難燃効果が不十分な場合があり、リン酸エステル系難燃剤(D)の配合量が10質量%を超えると成形加工時の発煙量が多い等、成形加工性に劣る場合がある。リン酸エステル系難燃剤(D)の配合量は、より好ましくは、0.5〜8質量%、更に好ましくは0.5〜1.6質量%の範囲である。また、リン酸エステル系難燃剤(D)の配合量は、ポリカーボネート樹脂(A)及びポリアリレート樹脂(B)の合計100質量部に対して、3.0質量部未満であることが好ましい。ポリカーボネート樹脂組成物の全量に占めるリン酸エステル系難燃剤(D)の割合は上述した範囲内であれば良いが、ポリカーボネート樹脂組成物(A)及びポリアリレート樹脂(B)の合計100質量部に対するリン酸エステル系難燃剤(D)の配合量が3.0質量部以上となると、リン酸エステル系難燃剤(D)の添加量の増分に対して難燃性の向上効果が小さくなる。したがって、リン酸エステル系難燃剤(D)の配合量をポリカーボネート樹脂(A)及びポリアリレート樹脂(B)の合計100質量部に対して3.0質量部未満とすることが、リン酸エステル系難燃剤(D)による難燃性を確保しつつ、他の成分の配合量の自由度を向上することができるので好ましい。
【0030】
本発明にて使用される充填剤(E)は通常熱可塑性樹脂に使用されているガラス繊維を使用出来る。ガラス繊維に用いられるガラスは無アルカリガラス(Eガラス)が好ましい。ガラス繊維の直径は6μm以上のものが好ましく、最適範囲は6〜20μmである。更にガラス繊維の数平均繊維長は1〜8mmが好ましい。これらは従来公知の任意の方法に従い製造される。
【0031】
ガラス繊維の直径が6〜20μmの範囲であれば、剛性に優れるため好ましい。また、数平均繊維長が1mm以下では機械的強度の改良が十分でなく、8mmを越えるポリカーボネート樹脂を製造する際、ポリカーボネート樹脂中へのガラス繊維の分散性に劣ることからガラス繊維が樹脂から脱落する等して生産性が低下しやすい。市販にて入手可能なガラス繊維としては、直径6μmのものや13μmのものがあり、これらの数平均長さは2〜6mmとなっている。
【0032】
ガラス繊維は、ポリカーボネート樹脂との密着性を向上させる目的でアミノシラン、エポキシシラン等のシランカップリング剤などにより表面処理を行う事が出来る。また、ガラス繊維を取り扱う際、取り扱い性を向上させる目的でウレタンやエポキシ等の集束材などにより集束させることが出来る。
【0033】
また、充填剤(E)として、ガラス繊維以外にはワラストナイトも使用出来る。ワラストナイトは白色繊維状、塊状の珪酸塩鉱物であり、樹脂やセラミックスの充填剤として用いられる。商業的に入手可能なワラストナイトとしては、関西テック株式会社製KAP−150、KTP−H02S等の市販のワラストナイトが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0034】
充填剤(E)の配合量は、ポリカーボネート樹脂組成物の全量の5〜50質量%である。充填剤(E)の配合量が50質量%を越えると衝撃強度に劣る成形品が発生する事があることから好ましくない。又、充填剤(E)の配合量が5質量%未満では難燃性に劣るため好ましくない。より好ましい充填剤(E)の配合量は、10〜40質量%、最も好ましくは25〜45質量%である。
【0035】
更に、本発明の効果を損なわない範囲で、本発明の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物に各種の樹脂、酸化防止剤、蛍光増白剤、顔料、染料、カーボンブラック、充填材、離型剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、ゴム、軟化材、展着剤(流動パラフィン、エポキシ化大豆油等)、難燃剤、有機金属塩等の添加剤、滴下防止用ポリテトラフルオロエチレン樹脂等を配合しても良い。
【0036】
各種の樹脂としては、例えば、ハイインパクトポリスチレン、ABS、AES、AAS、AS、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィド樹脂等が挙げられ、これらは一種もしくは二種以上で併用してもよい。
【0037】
酸化防止剤としては、リン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤などが挙げられる。なかでも、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が好適に使用され、例えば、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、チオジエチレン−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートなどが挙げられる。酸化防止剤として、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製Irganox1076なども利用できる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。ただし本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、任意に変更乃至改変して実施することができる。なお、特に断りのない限り、実施例中の「%」及び「部」は、それぞれ質量基準に基づく「質量%」及び「質量部」を示す。
【0039】
使用した原料の詳細は以下のとおりである。
【0040】
ポリカーボネート樹脂(A):
ビスフェノールAとホスゲンから合成されたポリカーボネート樹脂
住化ポリカーボネート社製 カリバー200−3、粘度平均分子量28000(以下「PC」と略記」
【0041】
ポリアリレート樹脂(B):
ユニチカ株式会社製U−ポリマー PowderRK(以下「PAR」と略記)
【0042】
シリコーン化合物(C):
一般的な製造方法に従って製造した、以下の構造特性を有するシリコーン化合物(以下「Si:と略記」
適量のジオルガノジクロロシラン、モノオルガノトリクロロシラン及びテトラクロロシラン、あるいはそれらの部分加水分解縮合物を有機溶剤中に溶解し、水を添加して加水分解して、部分的に縮合したシリコーン化合物を形成し、さらにトリオルガノクロロシランを添加して反応させることによって、重合を終了させ、その後、溶媒その後、溶媒を蒸留等で分離した。上記方法で合成したシリコーン化合物の構造特性は以下の通り:
・主鎖構造のM/D/T/Q単位の比率:14/16/70/0(モル比)
・全有機官能基中のフェニル基の比率(*):32モル(%)
・末端基:メチル基のみ
・重量平均分子量(**):66000
*:フェニル基はT単位を含むシリコーン中ではT単位にまず含まれ、残った場合がD単位に含まれる。D単位にフェニル基が付く場合、1個付く物が優先し、さらにフェニル基が残余する場合に2個付く。末端基を除き、有機官能基はフェニル基以外は全てメチル基である。
**:重量平均分子量は有効数字2桁。
【0043】
リン酸エステル系難燃剤(D)
大八化学工業株式会社製PX−200(以下「P」と略記)
【0044】
充填剤(E)
ガラス繊維
オーウェンスコーニングジャパン社製CS03 MA FT737
繊維径13μm、繊維長3mm(以下「GF」と略記)
ワラストナイト
関西マテック株式会社製KTP−H02S(以下「W」と略記)]
【0045】
(難燃性ポリカーボネート樹脂組成物ペレットの作成)
前述の各種配合成分を表1〜7に示す配合比率にて、二軸押出機(東芝機械(株)製TEM−37SS)を用いて、溶融温度300℃にて混練し、難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を得た。難燃性ポリカーボネート樹脂はポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、シリコーン系難燃剤、リン系難燃剤を第一フィーダー(原料供給口)から押出機バレル内に供給し、樹脂を十分に溶融した後にガラス繊維、ワラストナイトを第二フィーダー(充填剤供給口)から押出機バレル内に供給した後、混練を行い、難燃性ポリカーボネート樹脂組成物ペレットを得た。
【0046】
(成形品の難燃性の評価)
上記で得られた各種樹脂組成物のペレットをそれぞれ120℃で4時間乾燥した後に、プレス成形機((株)神藤金属工業所NF−50HH)を用いて設定温度320℃、加圧力30tonにて難燃性評価用試験片(305×75×3mm、100×100×3mm)を作成した。
【0047】
(航空機用内装材の燃焼試験(垂直試験):航空機用途向試験 A)
得られた試験片(305×75×3mm)を温度23℃湿度50%の恒温室の中で48時間放置し、航空機向け材料に求められる14 CFR 25.853(a) , 14 CFR 25.855, 14 CFR Appendix F to Part 25, Part I およびAircraft Materials Fire Test Handbook, Chapter 1 に準拠した難燃性の評価を行った。この燃焼試験は、所定のキャビネット内において、鉛直に保持した試験片にバーナーの炎を60秒間接炎した後の炎上時間や滴下物の炎上時間、燃焼長さから難燃性を評価する方法であり、以下の要求を全て満たした場合を合格とした。
・3試料の平均炎上時間が15秒を超えないこと。
・3試料の平均滴下物炎上時間が3秒を超えないこと。
・3試料の平均燃焼長さが6インチ(152mm)を超えないこと。
【0048】
(ISO5660−1 コーンカロリーメーター試験:鉄道用途向試験 T)
得られた試験片(100×100×3mm)を温度23℃湿度50%の恒温室の中で48時間放置し、欧州鉄道車両材料に求められる防火規格EN45545−2(R1/R7)ISO5660−1に準拠し、コーンカロリーメーター試験を行った。コーンカロリーメーター試験機((株)東洋精機コーンカロリーメータIIIC3)に試験片を水平に保持し加熱強度50KW/m、試験時間1200秒の条件で試験した結果から発熱速度データを基に、防火規格EN45545−2で定義されたARHE(KW/m)の最大値であるMARHE(KW/m)を求めた。MARHE(KW/m)の値により、以下のクラスに分けられる。MARHE(KW/m)上限値が90以下であるHL2以上が好ましい。
HL1 HL2 HL3
・2試料のMARCHE(KW/m2 )上限値 − 90 60
*上記HLはハザードレベルの略記である。
【0049】
(成形品のノッチ付きシャルピー衝撃強さの評価)
上記で得られた各種樹脂組成物のペレットをそれぞれ120℃で4時間乾燥した後に、射出成型機(日本製鋼所製J−100E−C5)を用いて設定温度300℃、射出圧力1600kg/cmにてISO試験法に準じた厚み4mmの試験片を作成し、得られた試験片を用いてISO 179−1、2に準じシャルピー衝撃強さを測定し、シャルピー衝撃強さが5KJ/m以上を良好とした。
【0050】
実施例及び比較例の評価結果を表1〜表7に示す。尚、表1〜表4に示す適用可能用途において、「A」は航空機用内装材として使用可能であることを表し、「T」は鉄道用内装材として使用可能であることを表し、「A/T」は航空機用及び鉄道用の内装材として使用可能であることを表す。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
【表3】
【0054】
【表4】
【0055】
【表5】
【0056】
【表6】
【0057】
【表7】
【0058】
実施例1〜16に示すように、本発明の構成要件を満足するものについては、要求性能を満たしていた。実施例の中には、航空用途試験の結果がHL1であるものも含まれているが、MARHEの数値自体は、HL1の比較例と比べて概ね低減されており、難燃性の向上が確認された。
【0059】
一方、比較例1〜15に示すように、本発明の構成要件を満足しないものについては、それぞれ欠点を有しており要求される難燃性やシャルピー衝撃強さが不良となった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂が本来備える優れた耐熱性や熱安定性を維持しつつ、難燃性を飛躍的に向上させることができるものであり、その産業上の利用価値は極めて高い。例えば、航空機内装に使用される客室荷物入れ等や欧州鉄道車両内装に使用される車内機器筐体等への使用が可能である。