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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-40020(P2021-40020A)
(43)【公開日】2021年3月11日
(54)【発明の名称】鉄粒子、成形体及び鉄粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/24 20060101AFI20210212BHJP
   C01G 49/08 20060101ALI20210212BHJP
   H05K 9/00 20060101ALI20210212BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20210212BHJP
   B22F 1/02 20060101ALI20210212BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20210212BHJP
   B22F 8/00 20060101ALI20210212BHJP
   B22F 9/04 20060101ALI20210212BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20210212BHJP
【FI】
   H01F1/24
   C01G49/08 Z
   H05K9/00 W
   H01F1/147
   B22F1/02 E
   B22F1/00 W
   B22F8/00
   B22F9/04 A
   B22F9/04 E
   B22F3/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2019-160173(P2019-160173)
(22)【出願日】2019年9月3日
(71)【出願人】
【識別番号】598046572
【氏名又は名称】株式会社明菱
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100162259
【弁理士】
【氏名又は名称】末富 孝典
(74)【代理人】
【識別番号】100133592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100168114
【弁理士】
【氏名又は名称】山中 生太
(72)【発明者】
【氏名】西口 秀和
(72)【発明者】
【氏名】河本 貴彦
(72)【発明者】
【氏名】川津 謙太
(72)【発明者】
【氏名】安藤 義人
【テーマコード(参考)】
4G002
4K017
4K018
5E041
5E321
【Fターム(参考)】
4G002AA04
4G002AB01
4G002AD04
4G002AE05
4K017AA02
4K017AA06
4K017BA06
4K017CA07
4K017DA02
4K018BA14
4K018BB04
4K018BC28
4K018BD01
4K018KA43
5E041AA01
5E041BB03
5E041BC01
5E041CA13
5E041HB14
5E041HB17
5E041NN05
5E041NN06
5E321BB32
5E321BB60
5E321GG05
(57)【要約】
【課題】反射波を生じさせないようにしつつ、電磁波を効率的に遮蔽することができる鉄粒子、成形体及び鉄粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】鉄粒子1は、鉄2と、鉄2を覆う四酸化三鉄で構成される酸化皮膜3と、を備える。鉄粒子1は、合成樹脂の成形体内に充填される。鉄粒子1の製造方法は、鉄加工で生成される鉄粒子1を回収する回収ステップと、回収ステップで回収された鉄粒子1を皮膜する三酸化二鉄を四酸化三鉄に変換する変換ステップと、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄と、
前記鉄を覆う四酸化三鉄で構成される酸化皮膜と、
を備える鉄粒子。
【請求項2】
直径が3μm以下である、
請求項1に記載の鉄粒子。
【請求項3】
前記酸化皮膜の厚みは、1μm以下である、
請求項2に記載の鉄粒子。
【請求項4】
合成樹脂と、
前記合成樹脂に充填された請求項1から3のいずれか一項に記載の鉄粒子と、
を備える成形体。
【請求項5】
鉄加工で生成される鉄粒子を回収する回収ステップと、
前記回収ステップで回収された鉄粒子を皮膜する三酸化二鉄を四酸化三鉄に変換する変換ステップと、
を含む鉄粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄粒子、成形体及び鉄粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
第5世代移動通信システムという新しい無線通信方式が導入され、モノのインターネット化、すなわちIoT(Internet of Things)技術の導入が進んでいる。IoT技術により、家庭内の家電及び自動車などの移動体に搭載された電子機器の多くは、無線通信によってつながれるようになってきている。
【0003】
このような背景から、電子機器が使用される環境では、ミリ波帯の電磁波など、様々な電磁波が飛び交うようになってきている。このような電磁波は電子機器にとってノイズとなり、このノイズにより誤動作が引き起こされる可能性もある。したがって、このようなノイズから電子機器を守る必要がある。そこで、特許文献1に開示された電磁波遮蔽フィルムなど、電磁波を遮蔽する部材が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019−110282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に開示された電磁波遮蔽フィルムを電子機器の筐体に貼り付けることにより、金属層によって電磁波を遮蔽することが可能である。しかしながら、この金属層では、入射する電磁波によりうず電流が生じ、そのうず電流により反射波が発生してしまうおそれがある。
【0006】
本発明は、上記実情の下になされたものであり、反射波を生じさせないようにしつつ、電磁波を効率的に遮蔽することができる鉄粒子、成形体及び鉄粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の第1の観点に係る鉄粒子は、
鉄と、
前記鉄を覆う四酸化三鉄で構成される酸化皮膜と、
を備える。
【0008】
この場合、直径が3μm以下である、
こととしてもよい。
【0009】
前記酸化皮膜の厚みは、1μm以下である、
こととしてもよい。
【0010】
本発明の第2の観点に係る成形体は、
合成樹脂と、
前記合成樹脂に充填された本発明の第1の観点に係る鉄粒子と、
を備える。
【0011】
本発明の第3の観点に係る鉄粒子の製造方法は、
鉄加工で生成される鉄粒子を回収する回収ステップと、
前記回収ステップで回収された鉄粒子を皮膜する三酸化二鉄を四酸化三鉄に変換する変換ステップと、
を含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る鉄粒子では、鉄が、四酸化三鉄で構成される酸化皮膜で覆われている。四酸化三鉄で構成される酸化皮膜は、電気抵抗が鉄に比べて高いので、入射した電磁波に対するうず電流の発生を防止し、鉄粒子表面での電磁波の反射を抑制することができる。反射されなかった電磁波はそのまま内部に進むが、四酸化三鉄及び鉄は、入射した電磁波によって磁化され共鳴する。この共鳴の結果、電磁波エネルギーは熱エネルギーに変換される。このように、本発明の鉄粒子によれば、電磁波の反射波を生じさせないようにしつつ減衰させることができるので、電磁波を効率的に遮蔽することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】(A)は、本発明の実施の形態に係る鉄粒子の構造を示す図である。(B)は、酸化皮膜を有しない鉄粒子の構造を示す図である。
図2図1(A)の鉄粒子の複素透磁率の電磁波に対する周波数特性を示すグラフである。
図3図1(A)の鉄粒子を含有する成形体の断面図である。
図4】本発明の実施の形態に係る鉄粒子の製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。各図面においては、同一又は同等の部分に同一の符号を付す。
【0015】
図1(A)に示すように、本実施の形態に係る鉄粒子1は、鉄2と、酸化皮膜3と、を備える。図1(A)では、鉄2は、球状として示しているが、針状又は鱗片状のようなものであってもよい。酸化皮膜3は、鉄2を覆う四酸化三鉄(マグネタイト)で構成される。四酸化三鉄は、フェリ磁性体である。
【0016】
このように、鉄粒子1は、四酸化三鉄(Fe)で皮膜されている。実際には、鉄の酸化物には、四酸化三鉄(Fe、黒さびともいう)と、三酸化二鉄(Fe、赤さびともいう)とがある。本実施の形態では、鉄粒子1においては、酸化皮膜3は、三酸化二鉄ではなく、四酸化三鉄である必要がある。三酸化二鉄は、磁界を通さないので、本実施の形態の酸化皮膜3として用いることができない。
【0017】
鉄粒子1は、好ましくは、直径3μm以下であるが、それ以上であってもよい。また、酸化皮膜3の厚みは、好ましくは、1μm以下であるが、それ以上であってもよい。
【0018】
図1(A)に示すように、電磁波は、酸化皮膜3に入射する。酸化皮膜3は、絶縁体であり、鉄2に比べて高い電気抵抗を有する。この高い電気抵抗により、酸化皮膜3でうず電流は発生せず、反射波は発生しない。
【0019】
これに対して、図1(B)に示すように、酸化皮膜3が形成されていない鉄2のみの鉄粒子1’に電磁波が入射すると、鉄2の表面には、うず電流が形成される。そのうず電流により、反射波が生じ、鉄2の外部に放射される。
【0020】
さらに、図1(A)に示す鉄粒子1では、入射した電磁波が反射することなく内部に入り込む。電磁波が内部に入り込むと、酸化皮膜3を構成する四酸化三鉄及び鉄2が磁化する。電磁波の磁界は一定の周波数で正弦波状に変化しているため、四酸化三鉄及び鉄2がその磁界に磁気共鳴して、それらの磁化方向がその磁界の変化に追従するように変化する。
【0021】
ここで、鉄粒子1の複素透磁率μを考える。鉄粒子1の複素透磁率μは、次式で表される。
μ=μ’+iμ”
ここで、μ’は、複素透磁率μの実数部であり、iは虚数であり、μ”は、複素透磁率の虚数部である。
【0022】
図2に示すように、複素透磁率μの実数部μ’は、電磁波の周波数が上がるにつれて減少する一方、複素透磁率μの虚数部μ”は、電磁波の周波数が上がるにつれて増加する。このような特性により、入射する電磁波の周波数が上がるにつれ、電磁波における磁界の変化に対して鉄粒子1の磁化が遅れ始める。入射する電磁波の周波数が、複素透磁率μの実数部μ'と虚数部μ”とがクロスする共鳴周波数G1近傍である場合、鉄粒子1では、磁気共鳴が誘起される。これにより、入射する電磁波のエネルギーは、鉄粒子1内部において、熱エネルギーに変換され、電磁波が鉄粒子1内部で減衰する。共鳴周波数G1は、例えば20GHzである。
【0023】
このように、本実施の形態に係る鉄粒子1は、1つ1つでも、電磁波を減衰させる機能を有している。鉄粒子1は、例えば、図3に示すように、合成樹脂の成形体10に含まれるフィラーとして用いられる。
【0024】
上述のように、鉄粒子1では、電磁波の入射により磁気共鳴が誘起され、その誘起により電磁波のエネルギーが熱エネルギーに変換される。これにより、電磁波エネルギーは、成形体10内で減衰し、消滅する。
【0025】
合成樹脂4は絶縁体であり、鉄粒子1は、導電体である。鉄粒子1の間には、合成樹脂4が存在しているので、成形体10は、全体として絶縁材料となっている。また、巨視的に見ても、鉄粒子1を含有する成形体10全体が、合成樹脂4で構成されているため、うず電流が発生することはなく、反射波が発生することもない。
【0026】
なお、電磁波遮蔽性を高めようとすれば、成形体10中における鉄粒子1の含有率を高める必要がある。鉄粒子1の含有率を高めれば、鉄粒子1同士が接触するような状態となる。しかしながら、鉄粒子1は、酸化皮膜3で被膜されているため、導電性はなく、やはりうず電流の発生が防止される。
【0027】
また、成形体10では、鉄粒子1の含有率を小さくすれば、熱を伝えにくくすることができる一方、鉄粒子1の含有率を大きくすれば、熱を伝え易くすることができる。したがって、成形体10を、断熱材又は熱伝導材として用いることができる。すなわち、成形体10では、鉄粒子1の含有量によって熱伝導を制御することが可能となる。
【0028】
次に、本実施の形態に係る鉄粒子1及び成形体10の製造方法について説明する。
【0029】
図4に示すように、まず、鉄加工で生成される鉄粒子1を回収する(ステップS1;回収ステップ)。例えば、複数の工場での鉄部品の切削加工等により排出された鉄粒子1が回収される。この時点で、回収された鉄粒子1のほとんどは、その表面が、三酸化二鉄又は四酸化三鉄で酸化しており、酸化皮膜3が形成されている。
【0030】
次に、回収ステップで回収された鉄粒子1において、鉄粒子1を皮膜する酸化皮膜3の一部に残る三酸化二鉄を四酸化三鉄に変換する(ステップS2;変換ステップ)。具体的には、以下の[1]、[2]に示す還元反応を行って、鉄粒子1を皮膜する三酸化二鉄が四酸化三鉄に変換される。
【0031】
[1]水素による還元
3Fe+H→2Fe+H
[2]COによる還元
3Fe+CO→2Fe+CO
なお、水素とCOとを組み合わせて還元に用いるようにしてもよいし、これ以外の還元方法を用いるようにしてもよい。
【0032】
次に、変換ステップを経た鉄粒子1をフィラーとして合成樹脂4に含有し、鉄粒子1を含有する合成樹脂4で成形体10の成形を行う(ステップS3;成形ステップ)。これにより、図3に示す鉄粒子1を含有する成形体10が成形される。
【0033】
以上詳細に説明したように、本実施の形態に係る鉄粒子1では、鉄2が、四酸化三鉄で構成される酸化皮膜3で覆われている。四酸化三鉄で構成される酸化皮膜3は、電気抵抗が鉄に比べて高いので、入射した電磁波に対するうず電流の発生を防止し、鉄粒子1の表面での電磁波の反射を抑制することができる。反射されなかった電磁波はそのまま内部に進むが、四酸化三鉄の酸化皮膜3及び鉄2は、入射した電磁波によって磁化され共鳴する。この共鳴の結果、電磁波エネルギーは熱エネルギーに変換される。このように、本実施の形態に係る鉄粒子1によれば、電磁波の反射波を生じさせないようにしつつ、減衰させることができるので、電磁波を効率的に遮蔽することができる。
【0034】
なお、上記実施の形態では、鉄粒子1を成形体10を成形する合成樹脂4に混入するフィラーとして用いる場合について説明した。しかしながら、本発明はこれには限られない。鉄粒子1を粉体とする焼結体を形成し、この焼結体を電磁波を送受信するアンテナ等に用いるようにしてもよい。
【0035】
なお、合成樹脂4としては、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂のプレポリマーを用いることができる。熱可塑性樹脂は、研削屑との複合化が可能なものであれば何ら制限なく用いることができる。好適に用いられる熱可塑性樹脂を例示すると、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン類、ポリスチレンやアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル−スチレン(AS)樹脂、メタクリル酸メチル−ブタジエン−スチレン(MBS)樹脂などのスチレン系樹脂類、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)などの芳香族ポリエステル類、ポリ乳酸や、ポリカプロラクトン、ポリ(3−ヒロドキシ酪酸)、ポリテトラメチルグリコリド、ポリグリコール酸などの脂肪族ポリエステル類等を挙げることができる。これらの熱可塑性樹脂の中でも、成形の容易さの観点から、ポリオレフィン類が特に好適である。これらの熱可塑性樹脂は、単独で用いても良く、あるいは2種以上を用いてもよい。
【0036】
熱可塑性樹脂以外にも、熱硬化性樹脂のプレポリマーを用いることができる。代表的な熱硬化性樹脂のプレポリマーとしては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シラン架橋ポリエチレン、アルキッド樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン、架橋ゴムなどのプレポリマーである。これらの熱硬化性樹脂のプレポリマーの中でも、本実施の形態に係る研削屑との複合化(混合)の容易さなどから、エポキシ樹脂、ポリウレタン、不飽和ポリエステル樹脂などのプレポリマーが好適である。
【0037】
この発明は、この発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、この発明を説明するためのものであり、この発明の範囲を限定するものではない。すなわち、この発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、この発明の範囲内とみなされる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、電磁波を遮蔽する電磁波遮蔽材又は電磁波として適用することができる。
【符号の説明】
【0039】
1,1’ 鉄粒子、2 鉄、3 酸化皮膜、4 合成樹脂、10 成形体
図1
図2
図3
図4