【氏名又は名称】メルツ ファーマ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディト ゲゼルシャフト アウフ アクティーン
【解決手段】プラスチック製プレフィルドシリンジは、(a)近位端及び遠位端、並びにこれらの間に延在してバレル内腔を画定する円筒形の壁を含み、前記シリンジバレルが、前記シリンジバレル内を通って延在し、かつ前記バレル内腔と連通する流路を備える、遠位に突出している先端を有し、前記円筒形の壁がバリア層でコーティングされた内表面を有する、プラスチック製シリンジバレルと、(b)前記シリンジの遠位開口出口端部を密封係合して閉鎖する出口係合部分を有するキャッピング装置と、(c)前記シリンジバレルの近位端に延出し、前記バレル内腔の円筒形の壁と摺動式に流体密封係合しているプランジャーストッパーを含むプランジャーロッドアセンブリと、(d)水性のボツリヌス毒素製剤と、を含む。
水性ボツリヌス毒素製剤を含む充填済みプラスチック製容器であって、前記充填済み容器を5℃で12箇月間又は25℃で3箇月間保存するとき、毒素活性が、初期毒素活性に対して25%を超えて低下しない、充填済みプラスチック製容器。
10μm以上の拡大しないと見えない粒子の数が、2℃〜25℃で6〜24箇月間の保存中1000個/mL未満である、請求項1に記載の充填済みプラスチック製容器。
前記充填済み容器の2℃〜25℃で6〜24箇月間保存中、pH値が、初期pH値に対して10%を超えて上昇しない、若しくは、低下しない、又は、保存中の前記水性ボツリヌス毒素製剤のpHが、6.1〜7.3の範囲で維持される、又は、これらの両方である、請求項1又は2に記載の充填済みプラスチック製容器。
前記容器が、(i)シリンジ、(ii)バイアル、(iii)カープル又は(iv)アンプルである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の充填済みプラスチック製容器。
(a)近位端及び遠位端、並びにこれらの間に延在してバレル内腔を画定するほぼ円筒形の壁を含むプラスチック製シリンジバレルであって、前記シリンジバレルが、前記シリンジバレル内を通って延在し、かつ前記バレル内腔と連通する流路を備える、遠位に突出している先端を有し、前記ほぼ円筒形の壁が、任意選択的にバリア層でコーティングされた内表面を有するプラスチック製シリンジバレルと、
(b)前記シリンジの前記遠位開口出口端部を密封係合して閉鎖する出口係合部分を有するキャッピング装置であって、前記出口係合部分が、任意選択的にその表面上にコーティングを有するエラストマー材料製であるキャッピング装置と、
(c)前記シリンジバレルの前記近位端に延出し、前記バレル内腔の前記円筒形の壁と摺動液密係合しているプランジャーストッパーを含むプランジャーロッドアセンブリであって、前記プランジャーストッパーが、エラストマー材料製であり、前記エラストマー材料が、保存及び/又は注射中に前記水性ボツリヌス毒素製剤と接触する前記プランジャーストッパーの少なくとも一部上に任意選択的にコーティングを有するプランジャーロッドアセンブリと、を含む、請求項6に記載の充填済みプラスチック製シリンジの形態の、充填済みプラスチック製容器。
前記シリンジバレルの前記バリア層が、シリコーン非含有層又はシリコーン層である、請求項6又は7に記載の充填済みプラスチック製シリンジの形態の充填済みプラスチック製容器。
前記出口係合部分及び/若しくは前記プランジャーストッパーの前記エラストマー材料が、イソプレンゴム(IS)、ブタジエンゴム(BR)、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、及びスチレン−ブタジエンゴム、並びにこれらの混合物から選択される、又は、前記出口係合部分及び/若しくは前記プランジャーストッパー上の前記任意選択的なコーティングが、架橋シリコーンコーティング若しくはフルオロポリマーコーティングである、又は、前記出口係合部分及び/若しくは前記プランジャーストッパーの前記エラストマー材料が、イソプレンゴム(IS)、ブタジエンゴム(BR)、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム及びスチレン−ブタジエンゴム、並びにこれらの混合物から選択され、かつ前記出口係合部分及び/若しくは前記プランジャーストッパー上の前記任意選択的なコーティングが、架橋シリコーンコーティング若しくはフルオロポリマーコーティングである、請求項6〜8のいずれか一項に記載の充填済みプラスチック製シリンジの形態の充填済みプラスチック製容器。
ジストニア、痙縮、パラトニア、ジスキネジア、巣状痙攣、斜視、疼痛、創傷治癒、振戦、チック、偏頭痛、流涎症及び多汗症を含む、患者における筋肉又は外分泌腺の機能亢進コリン作動性神経支配によって引き起こされる、又は、関連する疾患又は容態の治療において使用するための、請求項1〜9のいずれか一項に記載の充填済みプラスチック製容器。
患者における筋肉又は外分泌腺の機能亢進コリン作動性神経支配によって引き起こされる、又は、関連する疾患又は容態を治療する方法であって、請求項1〜9のいずれか一項に記載の充填済みプラスチック製容器を使用する注射によって、前記患者の筋肉又は外分泌腺に有効量のボツリヌス毒素を局所投与することを含む方法。
皮膚のしわ及び顔面非対称の治療などの皮膚の美容的治療方法であって、請求項1〜9のいずれか一項に記載の充填済みプラスチック製容器を使用する、皮内、真皮下又は皮下注射によって、患者に有効量のボツリヌス毒素を局所投与することを含む方法。
【背景技術】
【0002】
ボツリヌス毒素(BoNT)は、公知の最も強力な毒素のうちの1つであり、末梢コリン作動性ニューロンにおいてアセチルコリンの放出を抑制することによって作用する。BoNTは、150kDaの前駆体神経毒性ポリペプチドとして合成され、選択的なタンパク質分解切断によって活性化されて、ジスルフィド結合及び非共有結合性相互作用によって結合した、100kDaの重鎖(HC;移行ドメイン及び受容体結合ドメインを含む)及び50kDaの軽鎖(LC;触媒ドメインを含む)からなる二本鎖の活性型BoNTが得られる。ボツリヌス毒素には8つのホモ血清型(A、B、C
1、C
2、D、E、F及びG)があり、これらは、ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)によって、神経毒性ポリペプチド及び他の(非毒性)クロストリジウムタンパク質(すなわち、様々な赤血球凝集素及び非毒性の非赤血球凝集性タンパク質)からなる複合体の形態で産生される。
【0003】
非常に低用量の毒素を慎重に投与すると、その作用を局所的に限定して、過活動の筋肉及び外分泌腺を低減することができる。したがって、ボツリヌス毒素は、現在、広い範囲の消耗性神経筋疾患(例えば、頸部ジストニア、眼瞼痙攣及び痙縮)、過活動外分泌腺(例えば、多汗症及び唾液分泌過多)及び他の疾患の治療に加えて、麻酔目的(例えば、顔のしわの治療)のためにも用いられている。
【0004】
ボツリヌス毒素は、本質的に不安定であり、特に、アルカリ性のpHにおいて非常に不安定であり、易熱性であることが知られている。更に、単離した毒素複合体を、ミリグラム単位から注射用の溶液で使用されるはるかに低い毒素濃度(1ミリリットル当たりナノグラムの単位)まで希釈するのは、このような大幅な希釈の際に特殊毒性が急速に喪失するため、非常に困難であることが知られている。これは、タンパク質含有医薬組成物の製造、再構成及び/又は保存中の生物活性の喪失につながる。タンパク質でみられるこれらの問題は、結合の形成若しくは切断(例えば、加水分解、酸化、ラセミ化、β−脱離及びジスルフィド交換)をもたらす化学的不安定性に起因するもの、及び/又は、共有結合の破壊による修飾のないタンパク質の二次以上の高次構造の物理的不安定性(例えば、変性、表面への吸収及び非共有結合性自己凝集)に起因するものであり得る。
【0005】
しかし、医薬製品の安定性は、十分に長い期間にわたって安全かつ有効な使用を保証するために最も重要である。水性ボツリヌス毒素製剤は、特に分解しやすいので、ボツリヌス毒素の市販製剤は、真空乾燥品又は凍結乾燥品として提供されることが多い。例としては、例えば、Botox(登録商標)(オナボツリヌストキシンA;Allergan,Inc.)及びDysport(登録商標)(アボボツリヌストキシンA;Ipsen Ltd.)が挙げられ、これらはいずれもA型のボツリヌス毒素複合体を含有する。別の例としては、Xeomin(登録商標)(インコボツリヌストキシン;Merz Pharma GmbH&Co.KGaA)があり、これは、血清型Aの純粋な神経毒成分(すなわち、150kDaの神経毒性ポリペプチド)を含有し、ボツリヌス毒素複合体の任意の他のタンパク質(すなわち、様々な赤血球凝集素及び非毒性の非赤血球凝集性タンパク質)を含有しない。
【0006】
しかし、凍結乾燥品は高い安定性を有するが、一般的に、使用前に薬学的に許容可能な液体(例えば、生理食塩液)で再構成しなければならない。したがって、凍結乾燥された医薬製品は、他の剤形よりも利便性が低いと考えられている。また、再構成プロセスは、誤った管理のリスクを伴い、その結果、不正確な投薬又は無菌性の問題が生じる。更に、凍結乾燥プロセスは、時間がかかり、追加のコストが生じる。
【0007】
再構成されたボツリヌス毒素の溶液の別の問題点は、全ての患者及び適応症が同じ投薬量を必要とするわけではないため、全量を使い切らないことが多い点である。残念なことに、その不安定性のため、再構成された毒素溶液は、比較的短期間しか保存及び再使用することができない。例えば、使用前に生理食塩液で希釈した後、Botox(登録商標)及びDysport(登録商標)は、それぞれ6時間及び4時間以内に使用することが推奨されている。同様に、Xeomin(登録商標)の添付文書には、24時間を超えて保存した後、再構成したXeomin(登録商標)溶液は、それ以上使用すべきではないと明記されている。
【0008】
これらの問題点の大部分を克服する医療用剤形の1つが、充填済みシリンジの形態であり、これは、薬物送達デバイスとして、近年益々一般化している。しかし、タンパク質を有効成分として使用する場合、タンパク質の安定性が制限されることによって、製剤研究者にとって充填済みシリンジの形態の使用が特に困難な課題となる。特に、これは、非常に希薄なボツリヌス毒素水溶液に当てはまる。
【0009】
固体又は液体のボツリヌス毒素医薬組成物の安定性を高めるために、ヒト血清アルブミン(human serum albumin、HSA)などの安定化タンパク質が添加されることが多い。また、例えば、界面活性剤、ポリビニルピロリドン(polyvinylpyrrolidone、PVP)、二糖類、ポリオールなどの非タンパク性安定化剤を添加することも知られている。しかし、液体ボツリヌス毒素製剤の安定性は、未だ満足のいくものではない、かつ/又は、注射によってヒトが使用するには望ましくない物質を用いて達成されている(例えば、国際公開第01/58472号、同第2006/005910号及び同第2007/041664号を参照)。
【0010】
更に、ガラス製バイアル中に5℃で30箇月まで保存したときに安定である、高度に濃縮されたB型ボツリヌス毒素の液体製剤(約2500U/mL)が、国際公開第00/15245号に開示されている。しかし、この安定性は、ガラス製バイアルを用い、溶液のpHを緩衝して酸性pH5〜6まで低下させることによってしか達成できず、これは注射の際に痛みの原因となる。
【0011】
当技術分野における進歩にもかかわらず、長期間にわたって安定で、十分に長い有効期間をもたらすだけでなく、使いやすくかつ使用が容易であり、投薬の誤りを減少させ、汚染のリスクを最小化する、注射可能なボツリヌス毒素の形態は未だに存在しない。
[技術分野]
【0012】
上記に鑑みて、本発明の目的は、使いやすく、安全かつ簡便にボツリヌス毒素を投与するための安定な医療用剤形を提供することである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、プラスチック容器(例えば、シリンジ、バイアル、カープル又はアンプルの形態)中の液体ボツリヌス毒素製剤が、低温(例えば、2〜8℃)で優れた長期安定性を示すという予想外の知見に基づいている。周囲温度(例えば、25℃)で保存するときでさえも、ボツリヌス毒素充填済み容器は、驚くほど高い安定性を呈する。
【0024】
したがって、本発明の液体ボツリヌス毒素製剤充填済み容器、特に、本発明のボツリヌス毒素充填済みシリンジは、十分に長い有効期間(少なくとも約12〜24箇月間)を有するだけでなく、他の投与形態と比較して、使用の容易性及び利便性、投薬の誤りのリスクの減少、高い投薬精度、低い汚染のリスク、無菌性保証の改善、及び投与における高い安全性などのいくつかの追加の利点を提供する。
【0025】
更に、容器(例えば、シリンジ)にプラスチック材料を使用することは、破壊耐性、重量の低下、一次容器の新規形状についての柔軟性の増大、寸法公差の改善、及び望ましくない物質(例えば、接着剤)の非存在に関し、ガラス製容器(例えば、ガラス製シリンジ)を上回る利点を付与する。
【0026】
プラスチック材料は、特に、タンパク質が脆弱性である、かつ/又は、神経毒(例えば、ボツリヌス毒素)としてこのような低い濃度で用いられる場合、容易にタンパク質を不安定化することが知られている浸出物/溶出物と一般的に称される、様々な物質及び添加剤(例えば、可塑剤)を含有する。したがって、液体神経毒医薬製剤は、伝統的な方法で、ガラス製シリンジを用いて注射される。しかし、驚くべきことに、本発明に係る充填済みプラスチック製容器(例えば、シリンジ)は、2〜8℃で長い保存期間(少なくとも約12〜24箇月間)にわたって水性ボツリヌス毒素製剤に安定性をもたらすことが見出された。
【0027】
本明細書で使用するとき、「充填済み容器」は、密封することができる、又は、密封され、液体製剤を入れる、保存する、かつ/又は、輸送するために使用することができる、部分的又は完全に囲まれた空間を有する任意の装置を指す。本発明の意味の範囲内において、「充填済み容器」は、好ましくは、プラスチック(例えば、有機ポリマー)製の、又は、部分的若しくは主としてプラスチック製の閉鎖(又は密封)された容器であり、例えば、(i)シリンジ、(ii)バイアル、(iii)カープル、又は(iv)アンプルの形態の容器が挙げられる。
【0028】
充填済みシリンジ及びカープルは、内容物(例えば水性製剤)の漏出を防ぐために密封された2つの開口部を有する。充填済みシリンジの場合、以下で詳しく説明するとおり、近位端はプランジャーストッパーによって密封され、遠位端はキャッピング装置によって密封される。一般的には薬物製剤が無菌充填されたプラスチック製シリンダーであるプラスチック製カープルの場合、近位端は、典型的には、ゴム栓で密封される。このゴム栓は、カープルシリンジのパンチの圧力によって、シリンダー中にピストンとして押し出すことができる。遠位端は、典型的には、穿刺膜によって密封される。穿刺膜は、注射のために穿孔されている。
【0029】
本発明の意味の範囲内において、「バイアル」は容器であり、これは、通常、首部を有する管状の形態又は瓶のような形状で、製剤を入れる、保存する、かつ/又は、輸送するのに好適である。様々なバイアルの施栓系によって、単一の開口部を密封可能である。例えば、バイアルは、スクリューキャップ(スクリューバイアル)、コルク、プラスチック又はゴムの栓(リップバイアル及びクリンプバイアル)、及びフリップトップ又はスナップキャップなどの他の施栓系で閉じることができる。本発明において、「バイアル」は、好ましくは、バイアルの施栓系で密封された開口部を有するプラスチック製容器を意味する。
【0030】
以下に、本発明についてより詳細に記載する。用語「充填済みシリンジ」、「充填済みプラスチック製シリンジ」、「シリンジ」又は「プラスチック製シリンジ」が、本発明の「発明を実施するための形態」において使用されるが、これによって(プラスチック製)容器の特定の実施形態として(プラスチック製)シリンジに限定されることを意味するものではないことを指摘しておく。実際に、本明細書における「充填済みシリンジ」、「充填済みプラスチック製シリンジ」、「シリンジ」、「プラスチック製シリンジ」などへの何らかの言及は、特に指定しない限り、「容器」又は「プラスチック製容器」への言及及び開示として理解されるべきであり、また、「バイアル」若しくは「プラスチック製バイアル」、「カープル」若しくは「プラスチック製カープル」、又は「アンプル」若しくは「プラスチック製アンプル」も含む、又は、開示する。
【0031】
第1の態様では、本発明は、水性製剤中にボツリヌス毒素を含む充填済みプラスチック製シリンジであって、充填済みシリンジを(a)標準的な冷蔵庫温度(すなわち、2〜8℃、例えば、5℃)で12箇月間又は(b)25℃で3箇月間保存するとき、毒素活性が、初期毒素活性に対して25%を超えて低下しない充填済みプラスチック製シリンジに関する。好ましくは、毒素活性は、充填済みシリンジを2〜8℃(例えば、5℃)で12箇月間保存するとき、初期毒素活性に対して20%、15%、10%、若しくは5%を超えて低下しない、又は、充填済みシリンジを25℃で3箇月間保存するとき、初期毒素活性に対して20%を超えて低下しない。更に好ましくは、毒素活性は、充填済みシリンジを2〜8℃(例えば、5℃)で6箇月間保存するとき、初期毒素活性に対して15%、10%又は5%を超えて低下しない。
【0032】
驚くべきことに、充填済みシリンジ中の水性ボツリヌス毒素製剤は、最長24箇月間の更に長い保存期間でさえも安定である。例えば、2〜8℃(例えば、5℃)で最長24箇月間(例えば、15、18又は24箇月間)保存するとき、毒素活性は、初期毒素活性に対して、好ましくは、30%又は25%を超えて低下せず、より好ましくは、低下は20%以下、特に15%以下、特に好ましくは10%以下、最も好ましくは5%以下である。
【0033】
本発明において、用語「毒素力価」は、広くは、所与の強度の効果を生じさせるのに必要な量に関して表される薬物(例えば、ボツリヌス毒素)活性の尺度を指す。用語「活性」又は「毒素活性」は、本明細書で使用するとき、ボツリヌス毒素の生物活性を指し、「生物活性」は、(a)受容体結合、(b)内部移行、(c)エンドソーム膜を横断するサイトゾルへの移行、及び/又は(d)シナプス小胞膜の融合に関与するタンパク質の細胞内タンパク質分解切断を指す場合がある。例えば、SNAP−25アッセイにおいて対応する野生型LCドメインの10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%超及び最高100%のタンパク質分解活性を示す任意の軽鎖(LC)ドメインは、本発明の範囲内において、「生物学的に活性である」又は「タンパク質分解活性を呈する」とみなされ得る。更に、細胞HCドメイン受容体、特にそのネイティブなHCドメイン受容体と結合することが可能であり、それに結合したLCドメインを移行することが可能である任意の重鎖(HC)ドメインは、「生物学的に活性である」とみなされる。
【0034】
生物活性は、本明細書では通常マウス単位(Mouse Units、MU)で表される。本明細書で使用するとき、1MUは、Schantz及びKauterの方法(Schantz and Kauter,J.Assoc.Off.Anal.Chem.1978,61:96−99)に従って測定したとき、腹腔内注射後に指定のマウス集団の50%を死亡させる神経毒成分の量、すなわち、マウスi.p.LD
50である。用語「MU」及び「単位」又は「U」は、本明細書では互換的に使用される。
【0035】
力価又は生物活性を測定するのに好適なアッセイとしては、Pearceら(Toxicol.Appl.Pharmacol.128:69−77,1994)及びGoschelら(Exp.Neurol.147:96−10,1997)によって記載されているマウス片側横隔膜アッセイ(mouse hemidiaphragm assay、MHA)、Dresslerら(Mov.Disord.20:1617−1619,2005)によるマウス横隔膜アッセイ(mouse diaphragm assay、MDA)、SNAP−25プロテアーゼアッセイ(例えば、国際公開第2006/020748号に記載されている「GFP−SNAP25蛍光放出アッセイ」又はJones et al.,J.Immunol.Methods 329:92−101,2008に記載されている「改良SNAP25エンドペプチダーゼイムノアッセイ」)、国際公開第2009/114748号に記載されている電界化学発光(electrochemoluminescence、ECL)サンドイッチELISA、並びに国際公開第2009/114748号、同第2004/029576号、同第2013/049508号、及び同第2014/207109号に記載されているものなどの細胞アッセイが挙げられる。
【0036】
本明細書で使用するとき、用語「初期毒素活性」又は「初期毒素力価」は、概して、保存期間の開始時、すなわち、最終的なボツリヌス毒素充填済みシリンジの製造後、例えば、製造後1週間以内におけるボツリヌス毒素の活性を指す。更に、用語「保存するとき」は、本明細書で使用するとき、所与の期間にわたる保存後又は保存の終わりを意味することを意図する。更に、用語「保存中」は、概して、保存期間の全過程を意味する。
【0037】
毒素力価に関する高い安定性とは別に、水性ボツリヌス毒素製剤は、また、拡大しないと見えない粒子個数に関しても高度に安定である。本発明の意味の範囲内において、「拡大しないと見えない粒子」は、典型的には、直径が100μm未満の粒子である。本発明によれば、拡大しないと見えない粒子個数、より具体的には、水性ボツリヌス毒素製剤中の10μm以上の粒子の個数(又は数)は、2〜25℃(例えば、5℃又は25℃)で6〜24箇月間(例えば、6、9、12、15、18又は24箇月間)の保存中、典型的には1000個/mL未満、好ましくは600個/mL未満、より好ましくは200個/mL未満である。
【0038】
粒子数の測定は、マイクロフローイメージング(Micro-Flow Imaging、MFI)、共振式質量測定(Resonant Mass Measurement、RMM)、及びナノ粒子トラッキング解析(Nanoparticle Tracking Analysis、NTA)などの様々な方法によって実施してよい。粒子の測定は、通常はUSP<788>に従う。本発明の文脈内では、好ましくは、マイクロフローイメージング法が使用される。この測定法は、例えば、シランコーティングされた高解像度100μmフローセルを備えるDPA−5200粒子分析システム(ProteinSimple,Santa Clara,CA,USA)を使用して実施してもよい。一般的には、試料は、未希釈で分析される。
【0039】
あるいは、共振式質量測定(RMM)は、例えば、1μmのポリスチレン標準物質で較正したマイクロセンサ(寸法範囲:0.3〜4μm)を備えるARCHIMEDES Particle Metrology System(Affinity Biosensors,Santa Barbara,CA,USA)を使用して、粒子数を測定してもよい。典型的には、全ての試料は希釈せずに分析される。結果は、10nmのサイズビン工程によって、ParticleLabソフトウェア(v1.8.570)を使用して解析してもよい。粒子数を測定する別の選択肢として、例えば、NanoSight LM20 system(NanoSight,Amesbury,UK)を使用するナノ粒子トラッキング解析(NTA)を使用してもよい。典型的には、試料は、未希釈で測定される。試料中の粒子の動きを、周囲温度で60秒間ビデオとして記録し、好適なソフトウェア(例えば、NTA 2.3 Software)を使用して解析してもよい。
【0040】
更に、水性ボツリヌス毒素製剤は、充填済みシリンジの保存中、pH値が本質的に安定であるという点で、高いpH安定性を示す。好ましくは、pH値は、2〜25℃(例えば、5℃又は25℃)で6〜24箇月間(例えば、6、9、12、15、18又は24箇月間)、例えば、25℃で18箇月間又は25℃で24箇月間、充填済みシリンジを保存するとき、初期pH値に対して、10%、8%又は6%を超えて上昇しない、又は、低下しない。pHは、多くの医薬製品のpH測定について概説する米国薬局方標準試験法USP<791>に従って測定してもよい。例えば、Lab 870 pH計(Schott Instruments)などの任意好適なpH計を使用してもよい。
【0041】
本明細書で使用するとき、用語「充填済みシリンジ」は、患者に薬物を投与するエンドユーザーに配布される前に、薬物組成物(すなわち、水性ボツリヌス毒素製剤)が充填されているシリンジを指す。用語「水性製剤」は、本明細書で使用するとき、水溶液、水懸濁液、水分散液、又は水性エマルションを指すことを意図し、好ましくは、水溶液を指す。一般的に、充填済みシリンジは、シリンジ本体の薬物格納容器形成部分(すなわち、シリンジバレル)と、シリンジの近位開口部を密封し、薬物を放出するプランジャーと、遠位出口開口部を密封するためのシリンジの出口端(例えば、シリンジ先端部又は予め取り付けられた注射針(カニューレ)の開口端)における密封装置(例えば、先端キャップ又は注射針シールド)とを含む。用語「充填済みプラスチック製シリンジ」は、本発明の意味の範囲内において、少なくともバレルがプラスチック製の充填済みシリンジを指す。
【0042】
本発明の範囲内において、充填済みシリンジは、好ましくは、先端キャップ(注射針が予め取り付けられていない場合)又は注射針シールド(注射針が予め取り付けられている場合)を備えるルアースリップシリンジ又はルアーロックシリンジである。本発明の意味の範囲内において、「ルアースリップシリンジ」は、注射針が先端の端まで押し込まれるシリンジであり、一方、「ルアーロックシリンジ」は、注射針が先端までねじ込まれ、所定位置で固定されるシリンジである。これによって、連結が強固となり、流体の注射において注射針が偶発的に外れるのが防止される。
【0043】
本発明に係る充填済みプラスチック製シリンジは、概して、(例えば、ガンマ線、エチレンオキシド(ETO)処理及び湿熱(例えば、オートクレーブ))によって滅菌される。滅菌は、水性ボツリヌス毒素製剤を無菌充填する前、又は、水性ボツリヌス毒素製剤を充填した後に実施してもよい。最終的な充填済みプラスチック製シリンジは、即時使用可能である。更に、本明細書に記載の充填済みシリンジは、通常、単回使用を意図しており、使い捨てであることを意図している。滅菌前に、プランジャーストッパーの滑動を容易にし、シリンジの内容物を押し出すために、プラスチック製シリンジバレルの内面は、典型的には潤滑剤でコーティングされる。
【0044】
本発明によれば、充填済みプラスチック製シリンジ中の水性ボツリヌス毒素製剤は、ボツリヌス毒素を、例えば、1U/mL〜3000U/mL又は10U/mL〜1000U/mLの濃度で含有する。好ましくは、ボツリヌス毒素は、約10U/mL〜400U/mL、より好ましくは約25U/mL〜200U/mL、最も好ましくは約40U/mL〜150U/mL(例えば、50U/mL、75U/mL又は100U/mL)の濃度で存在する。
【0045】
用語「ボツリヌス毒素」は、本明細書で使用するとき、広くは、任意の形態/又は種類のボツリヌス毒素を指す。より具体的には、ボツリヌス毒素は、A型、B型、C1型、C2型、D型、E型、F型、G型のボツリヌス毒素、又はこれらの混合物から選択され得る。好ましくは、ボツリヌス毒素は、血清型A、B、又はC1、特に血清型Aである。
【0046】
更に、用語「ボツリヌス毒素」は、ボツリヌス毒素複合体(「毒素複合体」)及びボツリヌス毒素(複合体)の「神経毒成分」の両方を含むことを意図する。本明細書で使用するとき、用語「ボツリヌス毒素複合体」又は「毒素複合体」は、約150kDaの神経毒成分に加えて、赤血球凝集素及び非赤血球凝集素タンパク質を含むボツリヌス菌の非毒性タンパク質を含む高分子量複合体を指す。ボツリヌス毒素血清型A複合体は、例えば、Botox(登録商標)(Allergan,Inc.)又はDysport(登録商標)(Ipsen,Ltd.)として市販されている。
【0047】
用語「神経毒成分」とは、本明細書で使用するとき、いかなる非毒性タンパク質も会合していない、毒素複合体の神経毒ポリペプチド(「150kDa」ポリペプチド、通常二本鎖形態)に関する。純粋な神経毒成分は、例えば、Xeomin(登録商標)及びBocouture(登録商標)(Merz Pharmaceuticals GmbH)の商標名で市販されている。好ましくは、用語「ボツリヌス毒素」は、所与の血清型(例えば、血清型A、B、又はC1、特に、血清型A)のボツリヌス毒素複合体の神経毒成分を意味する。言い換えれば、充填済みプラスチック製シリンジに含まれる水性ボツリヌス毒素製剤は、好ましくは、上記の神経毒成分(のみ)を含有し、ボツリヌス菌の毒素複合体の他のタンパク質を全く含有しない。
【0048】
本発明は、受託番号AAA23262でGenBankデータベースに寄託されている、野生型A型ボツリヌス毒素又は血清型A1のボツリヌス毒素の神経毒成分等の、野生型ボツリヌス毒素のアミノ酸配列と少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、かつ最大60%、最大70%、最大80%、最大90%又は最大99%の配列同一性を示すボツリヌス毒素の機能的(すなわち、生物学的に活性である)アイソフォーム、ホモログ、オルソログ、パラログ及び断片を包含することも企図される。配列同一性は、例えば、FASTAアルゴリズム(W.R.Pearson&D.J.Lipman PNAS 85:2444−2448,1988)を使用することにより、信頼のおける結果を得るのに好適な任意のアルゴリズムによって算出され得る。配列同一性は、2つのポリペプチド又は2つのドメイン、例えば、2つのLCドメイン又はこれらの断片を比較することによって算出され得る。
【0049】
改変型及び組換え型のボツリヌス毒素も本発明の範囲内である。好適な突然変異体に関しては、国際公開第2006/027207号、同第2009/015840号、同第2006/114308号、同第2007/104567号、同第2010/022979号、同第2011/000929号及び同第2013/068476号を参照し、これらは全て参照により本明細書に組み込まれる。更に、本発明は、また、例えば、特に、1つ以上の表面又は溶媒曝露アミノ酸のペグ化、グリコシル化、硫酸化、リン酸化又は任意の他の修飾などによって化学的に修飾されるボツリヌス毒素も指す。本発明において使用するのに好適な修飾型、組換え型、アイソフォーム、ホモログ、オルソログ、パラログ、断片及び突然変異体は、生物学的に活性である、すなわち、シナプス前コリン作動性ニューロンのサイトゾルに移行し、SNARE複合体(例えば、VAMP/シンタキシン、シナプトブレビン及びSNAP−25)のタンパク質を切断して、そのアセチルコリン阻害効果を発揮させることができる。
【0050】
本発明の文脈内において、水性ボツリヌス毒素製剤は、塩類(例えば、塩化ナトリウム)、安定化タンパク質(例えば、アルブミン、ゼラチン)、糖類(例えば、グルコース、フルクトース、ガラクトース、トレハロース、スクロース及びマルトース)、炭水化物ポリマー(例えば、ヒアルロン酸及びポリビニルピロリドン(PVP))、ポリオール類(例えば、グリセロール、及びマンニトール、イノシトール、ラクチトール、イソマルト、キシリトール、エリスリトール、ソルビトールなどの糖アルコール)、アミノ酸、ビタミン類(例えば、ビタミンC)、亜鉛、マグネシウム、麻酔剤(例えば、リドカインなどの局所麻酔剤)、界面活性剤、浸透圧調節剤などの様々な他の薬学的に許容可能な物質を含み得る。用語「薬学的に許容可能な」は、本明細書で使用するとき、哺乳動物、特にヒトの組織と接触するのに好適である化合物又は物質を指す。
【0051】
更に、用語「含む(comprise)」は、本明細書で使用するとき、オープンエンドな用語である「含む(include)」及びクローズドな用語である「からなる(consist (of))」の両方を包含することを意図する。用語「製である」は、本明細書で使用するとき、広くは「で/から製造される」、特に、主にから製造されることに関することを意図し、概して、「含む」(他の物質又は材料が若干量含まれていてもよいことを示す)を意味する。また、「からなる」ことも意味し得る。
【0052】
本発明によれば、保存中の充填済みシリンジ中の水性ボツリヌス毒素製剤のpHは、好ましくは、6.0〜7.5、6.5〜7.5、6.1〜7.3又は6.2〜7.2の範囲、より好ましくは、6.3〜7.1の範囲、最も好ましくは、6.5〜7.0の範囲である。表示範囲6.1〜7.3内のpHは、このような本質的に中性又は極わずかに酸性の溶液の注射が、注射の際、pH6未満の酸性溶液よりもはるかに痛みが少ないため、有利である。
【0053】
用語「水性製剤」又は「水性ボツリヌス毒素製剤」は、本明細書で使用するとき、特に限定されず、水懸濁液、水分散液、水性エマルションを指し得、好ましくは水溶液である。
【0054】
好ましくは、水性ボツリヌス毒素製剤は、好ましくは、リン酸緩衝液、リン酸−クエン酸緩衝液、乳酸緩衝液、酢酸緩衝液などの緩衝液を含有しない。用語「緩衝液」は、本明細書で使用するとき、医薬調製品のpHを安定化する薬学的に許容可能な添加剤を意味する。更に、水性ボツリヌス毒素製剤は、アミノ酸(例えば、メチオニン)及び/又は界面活性剤(例えば、ポリソルベート80などのポリソルベート)及び/又は動物由来タンパク質(例えば、ヒト血清アルブミン(HSA)又はウシ血清アルブミン(BSA))を含まなくてもよい。
【0055】
本明細書で使用するのに好ましい水性ボツリヌス毒素製剤は、水、例えば10〜150U/mLの濃度のボツリヌス毒素(例えば、ボツリヌス毒素、好ましくは血清型Aの神経毒成分)、例えば0.5%〜1.5%w/vの濃度の塩(例えば、塩化ナトリウム)、例えば0.1%〜2%w/vの濃度の糖(例えば、グルコース、フルクトース、ガラクトース、トレハロース、スクロース及びマルトースなどの単糖又は二糖)、及び4%、3%、2%又は1%w/v未満、例えば0.01%〜1%w/vの濃度の安定化タンパク質(例えば、アルブミン)を含む。
【0056】
本明細書で使用するのに特に好ましい水性ボツリヌス製剤は、水、ボツリヌス毒素(例えば、A型ボツリヌス毒素の神経毒成分)、塩化ナトリウム、スクロース、及びアルブミン(例えば、ヒト血清アルブミン;HSA)から本質的になる。上述の構成成分の濃度は、以下の範囲:10〜200U/mL、好ましくは、30〜125U/mL(ボツリヌス毒素)、0.5%〜1.5%w/v、好ましくは、0.7%〜1.1%w/v(塩化ナトリウム)、0.1%〜2%w/v、好ましくは、0.2%〜1%w/v(スクロース)、0.01%〜1%w/v、好ましくは、0.05%〜0.5%w/v(HSA)であり得る。本明細書で使用するための別の特に好ましいボツリヌス毒素製剤は、Xeomin(登録商標)溶液、例えば、生理食塩液(0.9%塩化ナトリウム)で再構成された、20〜150U/mLのA型ボツリヌス毒素の神経毒成分を含有するXeomin(登録商標)溶液である。
【0057】
用語「から本質的になる」は、本明細書で使用するとき、表示のもの以外の物質、例えば、水性ボツリヌス毒素製剤を製剤化するのに使用される構成成分中に含有されている不可避の不純物、又は精製手順の結果、単離されたボツリヌス毒素(例えば、A型ボツリヌス毒素の神経毒成分)中に非常に少量含まれる不純物(例えば、非常に少ない残留量の緩衝液、キレート剤など)が微量に含有されていることを意味することを意図する。
【0058】
本発明によれば、充填済みプラスチック製シリンジの構造は、特に限定されず、概して、シリンジの遠位端を密封するキャッピング装置により(例えば、使用前に取り外されて注射針に置き換えられる「先端キャップ」、又は着脱可能な注射針若しくは永久注射針を備える充填済みシリンジの場合は、注射針シールドのような密封手段により)、充填後に着脱可能にキャッピングされ、かつプランジャー又はバレルの内壁と液密係合している任意の他の手段によって近位端で閉鎖される液体受容バレルを備える。充填済みシリンジを使用するためには、先端キャップ、注射針シールド又は他の種類のキャッピング装置を取り外し、適宜注射針を取り付け(注射針が予め存在しない場合)、プランジャー先端又はピストンをバレル中で前進させ、患者にバレルの内容物(すなわち、水性ボツリヌス毒素製剤)を注射する。
【0059】
本発明に係る充填済みプラスチック製シリンジは、好ましくは以下を含む:
(a)近位端及び遠位端、並びにこれらの間に延在してバレル内腔を画定するほぼ円筒形の壁を含むプラスチック製シリンジバレルであって、シリンジバレルが、シリンジバレル内を通って延在し、かつバレル内腔と連通する流路を備える、遠位に突出している先端を有し、ほぼ円筒形の壁が、任意選択的にバリア層でコーティングされた内表面を有する、プラスチック製シリンジバレルと、
(b)シリンジの遠位開口出口端部を密封係合して閉鎖する出口係合部分を有するキャッピング装置であって、出口係合部分が、任意選択的にその表面上にコーティングを有するエラストマー材料製である、キャッピング装置と、
(c)シリンジバレルの近位端に延出し、バレル内腔の円筒形の壁と摺動液密係合しているプランジャーストッパーを含むプランジャーロッドアセンブリであって、プランジャーストッパーがエラストマー材料製であり、このエラストマー材料が、任意選択的に、保存及び/注射中に水性ボツリヌス毒素製剤と接触するプランジャーストッパーの少なくとも一部上にコーティングを有する、プランジャーロッドアセンブリ。
【0060】
充填済みシリンジ内で水性ボツリヌス毒素製剤と相互作用する可能性を有する充填済みシリンジの材料は、一般的に、溶出物及び浸出物の量を最小化するか又は制限するように選択されるが、その理由は、溶出物/浸出物が、水性ボツリヌス毒素製剤に混入する、また、例えば、ボツリヌス毒素の生物活性又は力価に関し、安定性を損ねる可能性を有するためである。
【0061】
本明細書で使用するとき、「溶出物」及び「浸出物」は、使用又は保存の標準的な条件下において、充填済みプラスチック製シリンジの容器若しくは材料の成分から放出され得る、及び/又は、シリンジ材料から水性ボツリヌス毒素製剤中に移動した化学種を指す。溶出物/浸出物を同定する方法は、当該技術分野において既知であり、推奨されている業界の慣行及び医薬品規制調和国際会議(ICH)のガイドラインに基づく(例えば、FDA guidance,Container Closure Systems for Packaging Human Drugs and Biologicsを参照)。代表的な方法としては、例えば、液体クロマトグラフィー/質量分光光度法(LC/MS)、ガスクロマトグラフィー分光法/質量分光光度法(GC/MS)、誘導結合プラズマ(ICP)及び赤外線(IR)が挙げられる。
【0062】
本発明の文脈において、プラスチック製バレルの内表面は、コーティングされていてもよい、又は、コーティングされていなくてもよい。しかし、通常、潤滑目的のためにバリア層(以後、「潤滑層」とも称される)でコーティングされる。潤滑層は、高い潤滑性をもたらしてプランジャーがバレル内を容易に摺動することを可能にするだけでなく、水性ボツリヌス毒素製剤と適合性があり、有効期間の保護も可能でなくてはならない。本発明の文脈において、潤滑層は、シリコーン非含有潤滑層であっても、又は、シリコーン潤滑層であってもよい。
【0063】
同様に、バイアルのプラスチック製容器部分の内表面、カープルのプラスチック製シリンダーの内表面、及びプラスチック製アンプルの内表面を、任意選択的に、バリア層、特にシリコーン非含有層又はシリコーン層でコーティングしてもよい。したがって、プラスチック製シリンジのシリコーン非含有潤滑層及びシリコーン潤滑層に関して以下に提供する全てのコメントは、プラスチック製バイアル、プラスチック製カープル及びプラスチック製アンプルのそれぞれのシリコーン非含有層及びシリコーン層に等しく適用される。
【0064】
好適なシリコーン非含有フルオロポリマー潤滑層は、キャッピング装置(又はより具体的には、出口係合部分)及びプランジャーストッパーの任意選択的に存在するコーティングについて以下に記載する材料で作製してもよい。好ましいシリコーン非含有潤滑層としては、フルオロポリマー(フルオロカーボン)層、特に、エチレン−テトラフルオロエチレン(ETFE)層及びペルフルオロポリエーテル(PFPE)系層(例えば、TriboGlide(登録商標))、並びに酸化ケイ素系ガラスプラズマ促進化学蒸着(plasma-enhanced chemical vapor deposition、PECVD)コーティングが挙げられる。
【0065】
このようなフルオロポリマー層は、当該技術分野において既知のとおり、例えば、ペルフルオロポリエーテル油をプラスチック製シリンジバレルに噴霧して、シリンジの内表面上に潤滑剤の薄層を形成し、続いて、内部空洞を下流の不活性ガス(例えば、アルゴン又はヘリウム)プラズマに曝露することによって調製することができる。プラズマ処理によって、ペルフルオロポリエーテルの架橋が起こり、それによってコーティングが固定化され、標的表面から移動する傾向が減少し、その結果、ボツリヌス毒素薬物の安定性/有効性を損なう危険性のある粒子が減少する。代表的な製造方法は、国際公開第2014/014641(A1)号に記載されており、その内容は参照によって本明細書に組み込まれる。更に、本明細書で使用するのに特に好適なシリコーン非含有バリアコーティングは、当該技術分野でTriboGlide(登録商標)コーティングとして既知である、プラズマ処理によって架橋されるペルフルオロポリエーテルコーティングである。
【0066】
本明細書で使用するのに好適なシリコーン潤滑層は、これらに限定されるものではないが、シリコーン油系法(例えば、噴霧式シリコーン処理又は焼付け式シリコーン処理)及び蒸着法(例えば、プラズマ促進化学蒸着(PECVD))から選択されるシリコーン処理法によって調製され得る。好ましくは、シリコーン潤滑層は、噴霧式シリコーン処理によって形成される、又は、より好ましくは、焼付け式シリコーン処理によって形成される。
【0067】
噴霧式シリコーン処理法では、例えば、ダイビングノズル又はスタティックノズルを使用して、シリコーン油(例えば、1000cStの粘度を有するDOW CORNING(登録商標)360)をシリンジ(すなわち、バレル)中に噴霧して、薄いシリコーン油層を生成する。シリコーン油は優れた潤滑剤であるが、過剰なシリコーン油は、望ましくない、肉眼で見えるシリコーン油粒子及び拡大しないと見えないシリコーン油粒子形成を引き起こす場合がある。特に、タンパク質系薬物においては、これらのシリコーン油粒子は、タンパク質薬物と望ましくない相互作用を引き起こす場合がある。例えば、拡大しないと見えないシリコーン油粒子は、タンパク質凝集を促進するものと考えられる。したがって、拡大しないと見えないシリコーン油粒子及び肉眼で見えるシリコーン油粒子の形成が少ないため、本明細書における使用には、焼付け式シリコーン処理方法が特に好ましい。これは、エマルション(例えば、DOW CORNING(登録商標)365シリコーン処理エマルション)としてシリコーン油を塗布し、次いで、特定の温度で特定の時間、プラスチック表面上に焼付けることを伴う。
【0068】
シリンジプラスチック製バレルの設計は、特に限定されず、典型的には、例えば、0.5cm
3、1.0cm
3、1.5cm
3又は2.0cm
3などの所望の充填容量を入れられるように調整された内径を有する。通常、シリンジバレルは、シリンジ内の液体の容量を示す目盛り付きの印を有する。更に、シリンジバレルは、フランジ形の境界面を含む場合がある。フランジの設計は、例えば、ISO11040に適合し得る。フランジ形の境界面は、更に、任意選択的に存在するハンドルに適合し得る。
【0069】
シリンジの先端は、通常、シリンジプラスチック製バレルと一体的に形成(例えば、成形)される。好ましくは、シリンジバレルは、一体的に形成されるルアーロックチップ又は一体的に形成されるルアースリップチップを含む。先端部は、先端部を通って軸方向に延在し、シリンジバレルの内容物を分注するためのチャンバと連通している、一体型の通路とともに形成される。先端部は、シリンジバレルの遠位出口端から先端部の出口端に向かって収束する、実質的に円錐台形の形状を有してもよい。あるいは、先端部は、発散型(すなわち、より小さな直径からより大きな直径へと広がる)であることを特徴としてもよい。更に、先端部は、通常、シリンジの本体に対して中心に配置される(同心性シリンジチップ)が、本体の縁部に向かって偏って配置されてもよい(偏心性シリンジチップ)。
【0070】
シリンジプラスチック製バレルの材料に関して、プラスチック材料は、好ましくは、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)又はこれらの混合物である。COCは、ノルボルネンなどの環式モノマーとエタンとの重合によって生成され、一方、COPは、環式モノマーの開環メタセシス、続いて、水素添加によって生成される。COC、COC及びCOP/COC材料は、高い透明性、低密度、優れた防湿能、並びに水性及び極性の有機媒体に対する耐性を含む多数の望ましい特徴を呈する。具体例としては、Topas(登録商標)COC及びDaikyo Crystal Zenith(登録商標)が挙げられる。
【0071】
プラスチック製の、バイアル、カープル及びアンプルは、プラスチック製シリンジバレルに関連して上に記載したプラスチック材料、ポリエチレン(PP、例えば、HDPE、LDPE)、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート(polyethylene terephthalate、PET)、ポリアミド及びこれらの混合物製であってもよい。また、プラスチック製の、バイアル、カープル及びアンプルは、上記の材料のうちの1種で作製される層上に、1種(以上)の他の材料で作製される他の層を有する多層構造を有することも企図される。
【0072】
本発明によれば、「キャッピング装置」は、広くは、シリンジの遠位開口出口端部を閉鎖及び密封するための任意の手段を指す。本発明の範囲内において、用語「開口出口端部」又は「遠位開口出口端部」は、バレル内腔と流体連通しているシリンジの任意の遠位開口端部を指す。キャッピング装置は、概して、漏れを防ぐために、シリンジの開口出口端部を受容し、かつ効率的に密封する寸法を有する、閉鎖端及び開口端を備えるチャネルを有する。
【0073】
注射針が予め取り付けられていない充填済みプラスチック製シリンジの場合、キャッピング装置は、「先端キャップ」として一般的に知られているキャッピング手段である。先端キャップは、シリンジの先端部と液密の密封を形成し、効率的にシリンジバレルを閉鎖し、シリンジバレルの内容物の漏出を防ぐ。先端キャップは、通常、着脱可能にシリンジの先端部又はルアーカラーに連結する。ルアーカラーは、シリンジバレル(例えば、シリンジの先端部)の上部を囲んでいる。好ましくは、ルアーカラーは、雌ねじを有し、先端キャップは、先端キャップをシリンジバレルに連結するための上記のルアーカラーの雌ねじを補完する雄ねじを有する。本発明の充填済みプラスチック製シリンジの場合、ルアーカラーは、概して、一体的に形成された(例えば、単一に成形された)シリンジバレルである。使用前に、先端部を取り外すことができ、次いで、注射針カニューレ(注射針アセンブリ)をシリンジの先端部にしっかりと連結することができる。
【0074】
充填済みプラスチック製シリンジが、上記のシリンジから水性ボツリヌス毒素製剤を送達するためにシリンジの先端部から延在する着脱可能又は着脱不可能な(すなわち、永久)カニューレ又は注射針カニューレ(「注射針」又は「注射針アセンブリ」とも称される)を含む場合、キャッピング装置は、「注射針シールド」と称されることもある。上記の注射針シールドは、概して、シリンジの先端部に取り付けられるカニューレ(注射針)を受容し、連結するための寸法を有する閉鎖端及び開口端を備えるチャネルを有する。典型的には、カニューレの(鋭い)端部は、注射針シールド内のチャネルの閉鎖端を貫通してカニューレの開口端を密封する。
【0075】
キャッピング装置(例えば、先端キャップ又は注射針シールド)は、単一部材であり、通常、可撓性かつ弾性のポリマー材料(例えば、エラストマー)製であってもよく、あるいは、例えば、エラストマーを含むか若しくはエラストマー製の可撓性かつ弾性の内側キャップ又は材料に連結する硬質プラスチック材料製の外側キャップを有することができ、その少なくとも一部は、シリンジの遠位開口部と接触しかつ密封する。概して、少なくとも、液密の密封を形成するために遠位先端開口部と接触する出口係合部分は、可撓性及び/又は弾性の材料(例えば、エラストマー)製であり、係合部分は保存及び/又は使用中に水性ボツリヌス毒素製剤と接触するので、好ましくは、不要な溶出物/浸出物の可能性が最小化された材料製である。溶出物及び/又は浸出物の量を更に減少させ、水性ボツリヌス毒素製剤との適合性を高めるために、出口係合部分は、出口係合部分上にコーティングを有してもよい。
【0076】
キャッピング装置、特に出口係合部分に好適な可撓性及び/又は弾性の材料としては、水性ボツリヌス毒素製剤に干渉せず、長期間にわたる保存を可能にするエラストマーが挙げられる。特に、水性ボツリヌス毒素製剤と接触する、又は、接触するように設計されている密封装置の部分(すなわち、出口係合部分)は、水性ボツリヌス毒素製剤の長期保存中に低い溶出物/浸出物レベルを示さなければならない。本明細書で使用するとき、用語「エラストマー」又は「エラストマー材料」は、主に、プラスチックよりも容易に変形可能であるが、医薬品等級の液体との使用が承認されており、かつ容易には浸出又はガス移動しにくい、架橋した熱硬化性ゴムポリマーを指す。
【0077】
好ましくは、本明細書で使用するのに好適なエラストマー材料は、イソプレンゴム(IS)、ブタジエンゴム(ポリブタジエン、BR)、ブチルゴム(イソブチレンとイソプレンとのコポリマー、IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(例えば、クロロブチルゴム、CIIR、及びブロモブチルゴム、BIIR)、スチレン−ブタジエンゴム(スチレンとブタジエンとのコポリマー、SBR)及びこれらの混合物から選択される。好ましくは、エラストマー材料は、ブチルゴム若しくはハロゲン化ブチルゴム、特に、ブロモブチルゴム若しくはクロロブチルゴム、又はこれらの混合物である。また、エラストマー材料は、不活性鉱物で強化してもよい。更に、エラストマー材料は、(例えば、有機過酸化物、フェノール樹脂などで)硬化してもよい。
【0078】
例えば、上述のエラストマー材料製の出口係合部分上に任意選択的に存在し得る好適なコーティングは、概して、水性ボツリヌス毒素製剤に望ましくない影響を与えず、低レベルの溶出物/浸出物を呈する材料製である。本明細書で使用するためのコーティングとしては、ポリプロピレンコーティング、ポリエチレンコーティング、パリレン(例えば、パリレンN、パリレンC及びパリレンHT)コーティング、架橋シリコーンコーティング、及び、好ましくは、フルオロポリマーコーティングが挙げられるが、これらに限定されない。好適な架橋シリコーンコーティングの例としては、B2−コーティング(株式会社大協精工)又はXSi(商標)(Becton Dickinson)が挙げられる。
【0079】
フルオロポリマーコーティングとしては、フッ素化エチレン−プロピレンコポリマー(例えば、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(FEP))、フッ素化エチレン−エチレンコポリマー(例えば、FluroTec(登録商標)などのエチレンテトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE))、PVA(テトラフルオロエチレン(TFE)とペルフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE)とのコポリマー)、テトラフルオロエチレン−ペルフルオロエチレンコポリマー、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)及びこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、コーティングはETFE製であり、特に、FluroTec(登録商標)コーティングである。
【0080】
本発明のカープルに関して、遠位端部は、穿刺膜によって密封される。穿刺膜は、薄いゴム又はシリコーン、薄いプラスチック/ポリマー、Mylarなどのフィルム、ポリエチレン又はポリプロピレンなどのポリオレフィン、アルミニウム箔などの金属箔などから形成され得る。膜は、約0.001〜2.0mm、通常、0.002mm〜0.65mmの厚みであってもよい。また、膜は、エラストマー材料製であってもよく、充填済みプラスチック製シリンジのキャッピング装置に関連して上に記載したコーティングを任意選択的に有する。
【0081】
本発明のバイアルに関して、バイアルの施栓系(例えば、キャップ)、特に、バイアル(例えば、隔壁)と接触する、又は、接触及び/又は密封する可能性を有するバイアルの施栓系の部分は、エラストマー材料、特に、熱可塑性エラストマー材料、より詳細には、スチレン性ブロックコポリマー熱可塑性エラストマー、又は本発明の充填済みプラスチック製シリンジのキャッピング装置に関して上に記載したエラストマー材料製であってもよい。別の好適な材料は、シリコーン材料である。更に、上記の材料は、充填済みプラスチック製シリンジのキャッピング装置に関して上に規定したとおり、任意選択的なコーティング、特にフルオロポリマーコーティングを有してもよい。
【0082】
本発明によれば、充填済みシリンジは、概して、シリンジバレルの近位端に延出するプランジャーロッドアセンブリを含む。プランジャーロッドアセンブリは、先端部(「プランジャー」としても知られている)において、バレル内腔の円筒形の壁と摺動液密係合しているプランジャーストッパーを備えるロッド(プッシュロッドとしても知られている)を含んでもよい。プランジャーは、液体ボツリヌス毒素製剤を押し出すことを可能とする、近位密封及び動的密封を形成する。プランジャーストッパーは、保存及び/又は投与中、水性ボツリヌス毒素製剤と接触する。したがって、プランジャーストッパーは、水性ボツリヌス毒素製剤と適合性があり、かつその長期安定性を損なってはならない。特に、プランジャーストッパーは、好ましくは、長期間の保存に際し、溶出物/浸出物の量を最小にするように設計すべきである。
【0083】
本発明の範囲内において、プランジャーストッパーは、好ましくは、エラストマー材料製であり、このエラストマー材料は、保存及び/又は使用中、水性ボツリヌス毒素製剤と接触する、又は、接触することができるプランジャーストッパーの少なくとも一部上に任意選択的にコーティングを有する。本明細書で使用するのに好適なプランジャーストッパーのエラストマー材料としては、イソプレンゴム(IS)、ブタジエンゴム(ポリブタジエン、BR)、ブチルゴム(イソブチレンとイソプレンとのコポリマー、IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(例えば、クロロブチルゴム、CIIR、及びブロモブチルゴム、BIIR)、スチレン−ブタジエンゴム(スチレンとブタジエンとのコポリマー、SBR)及びこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、プランジャーストッパー材料は、ブチルゴム若しくはハロゲン化ブチルゴム又はこれらの混合物であり、特に、ブロモブチルゴム又はクロロブチルゴムである。また、エラストマー材料は、不活性鉱物で強化してもよい。更に、エラストマー材料は、(例えば、有機過酸化物、フェノール樹脂などで)硬化してもよい。
【0084】
好ましくは、プランジャーストッパーは、バリアフィルムとして作用するコーティングを含む。コーティングは、通常、少なくとも、バレル内腔と対向するプランジャーストッパーの表面部分を含み、及び/又は使用中に水性ボツリヌス毒素製剤と接触する保存、密封表面に塗布される。コーティングは、プランジャーストッパーと液体ボツリヌス毒素製剤との間の相互作用を最小化しながら、良好な潤滑性を提供する目的を果たす。
【0085】
プランジャーストッパーの好適なコーティングは、概して、水性ボツリヌス毒素製剤に望ましくない影響を与えず、低レベルの溶出物/浸出物を呈する材料製である。このようなコーティングとしては、ポリプロピレンコーティング、ポリエチレンコーティング、パリレン(例えば、パリレンN、パリレンC及びパリレンHT)コーティング、架橋シリコーンコーティング、及び、好ましくは、フルオロポリマーコーティングが挙げられるが、これらに限定されない。好適な架橋シリコーンコーティングの例としては、B2−コーティング(株式会社大協精工)又はXSi(商標)(Becton Dickinson)が挙げられる。
【0086】
フルオロポリマーコーティングとしては、フッ素化エチレン−プロピレンコポリマー(例えば、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(FEP))、フッ素化エチレン−エチレンコポリマー(例えば、FluroTec(登録商標)などのエチレンテトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE))、PVA(テトラフルオロエチレン(TFE)とペルフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE)とのコポリマー)、テトラフルオロエチレン−ペルフルオロエチレンコポリマー、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)及びこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、コーティングはETFE製であり、特に、FluroTec(登録商標)コーティングである。
【0087】
プランジャーストッパーの設計は、特に限定されず、入れ子又は袋詰めストッパーであってもよい。更に、滅菌後にロッドを取り付けられるように、ロッドとの境界面をネジ切りしていてもよい。あるいは、ロッドとの境界面は、スナップ方式の設計で設計してもよい。プランジャーストッパーのようなロッドは、概して、滅菌に耐えるように設計されるが、その他の点では、いかなる特定の方法にも限定されない。典型的には、ロッドは、エチレン酢酸ビニル(EVA)コポリマー又はポリプロピレンなどのプラスチック材料製である。
【0088】
本発明のカープルのゴム栓は、プラスチック製シリンジのプランジャーストッパーに関連して上に記載したのと同じエラストマー材料を含んでいてもよい、又は当該エラストマー製であってもよい。また、カープルのゴム栓は、プランジャーストッパー上のコーティングに関して上に規定したのと同じ任意選択的なコーティングを有していてもよい。更に、保存及び/又は使用中に水性ボツリヌス毒素製剤と接触するゴム栓の少なくとも一部上にコーティングが存在してよい。
【0089】
本発明の枠組み内では、(例えば、ガンマ線、エチレンオキシド又はオートクレーブによる)滅菌前後の、キャッピング装置、シリンジバレル、及びプランジャーアセンブリを含む充填済みプラスチック製シリンジは、第十四改正日本薬局方、プラスチック製医薬品容器試験法(No. 61, Test Methods for Plastic Containers)(2001)によって測定される溶出物についての基準、及び第十四改正日本薬局方、輸液用ゴム栓試験法(No. 59, Test for Rubber Closure for Aqueous Infusions)の基準を満たす、又は、これらより優れている。更に、滅菌後のキャッピング装置及びプランジャーストッパーのポリマー組成は、日本薬局方、プラスチック製医薬品容器試験法(2001)の灰化試験、並びに日本薬局方、プラスチック製医薬品容器試験法(2001)に従う泡立ち試験、pH試験、過マンガン酸カリウム還元性物質試験、紫外吸収スペクトル試験及び蒸発残留物試験によって規定された溶出物の許容限度を満たす。
【0090】
別の態様では、本発明は、本発明に係る充填済みプラスチック製容器(例えば、シリンジ、バイアル、カープル又はアンプル)と、任意選択的に、上記の充填済みプラスチック製容器の使用説明書とを含むキットに関する。
【0091】
更なる態様では、本発明は、治療において使用するための、本発明に係る充填済みプラスチック製容器(例えば、シリンジ、バイアル、カープル又はアンプル)に関する。特に、本発明に係る充填済みプラスチック製容器は、患者における筋肉又は外分泌腺の機能亢進コリン作動性神経支配によって引き起こされる、又は、関連する疾患又は容態の治療において使用され得る。
【0092】
本発明の文脈内において、容器がシリンジではない場合(例えば、バイアル、カープル又はアンプル)、これらの「非シリンジ型」容器の内容物(すなわち、水性ボツリヌス毒素製剤)は、概して、好適な注射装置(例えば、シリンジ)を使用して、充填済みプラスチック製シリンジに関して本明細書に記載したのと同様に、所望の標的部位に注射される。カープルは、当業者に既知のカープル注射装置に挿入される。バイアル及びアンプルの内容物は、通常、シリンジに無菌充填され、次いで、好適な注射装置(例えば、シリンジ)を使用して、充填済みプラスチック製シリンジに関して本明細書に記載したのと同様に標的部位に注射される。
【0093】
用語「機能亢進コリン作動性神経支配」は、本明細書で使用するとき、シナプスに関し、シナプス間隙に放出される異常に大量のアセチルコリンを特徴とする。「異常に大量」は、例えば、その放出を同じ種類であるが機能亢進状態ではないシナプスにおける放出と比較することによって得られ得る参照活性に対して、例えば、最大25%、最大50%、又はこれを上回る増加に関し、ここで、筋ジストニアは機能亢進状態の指標となり得る。「最大25%」とは、例えば、約1%〜約25%という意味である。必要な測定を実施する方法は、当該技術分野において既知である。
【0094】
本発明の範囲内において、筋肉の機能亢進コリン作動性神経支配によって引き起こされる、又は、関連する疾患若しくは容態としては、ジストニア(例えば、眼瞼痙攣、痙性斜頸、肢ジストニア、及び書痙などの動作特異性ジストニア)、痙縮(例えば、脳卒中後の痙縮、脳性麻痺によって引き起こされる痙縮)、パラトニア、ジスキネジア(例えば、遅発性ジスキネジア)、巣状痙攣(例えば、片側顔面痙攣)、(小児)脳性麻痺(例えば、痙性、運動障害性又は失調性脳性麻痺)、斜視、疼痛(例えば、神経障害性疼痛)、創傷治癒、振戦、チック及び偏頭痛が挙げられるが、これらに限定されない。
【0095】
本発明の充填済みボツリヌス毒素容器(例えば、シリンジ、バイアル、カープル又はアンプル)は、筋肉のジストニアの治療において特に有用である。代表的なジストニアとしては、(1)眼瞼痙攣及び顎開口型又は顎閉鎖型の口下顎ジストニアを含む頭蓋ジストニア、(2)前屈斜頸、後屈斜頸、側屈斜頸及び斜頸を含む頸部ジストニア、(3)咽頭ジストニア、(4)痙攣性発声障害を含む喉頭ジストニア、(5)動作特異性ジストニアのような腕部ジストニア(例えば、書痙)、脚部ジストニア、体幹ジストニア、分節性ジストニアを含む肢ジストニア、及び(6)他のジストニアからなる群から選択されるジストニアが挙げられるが、これらに限定されない。
【0096】
用語「過活動外分泌腺」とは、本明細書で使用するとき、特に限定されず、過活動の任意の外分泌腺を網羅する。したがって、本発明は、参照として本明細書に組み込まれるSobotta,Johannes,Atlas der Anatomie des Menschen,22.Auflage,Band 1 und 2,Urban&Fischer,2005に記載の分泌腺のうちのいずれかを含む治療に適用され得ることが想定される。好ましくは、機能亢進分泌腺は、自律性外分泌腺である。ボツリヌス毒素組成物は、好ましくは、機能亢進外分泌腺中又はその近傍に注射される。
【0097】
本発明の範囲内において、機能亢進外分泌腺としては、汗腺、涙腺、唾液腺及び粘膜腺が挙げられるが、これらに限定されない。更に、機能亢進分泌腺は、フライ症候群、ワニの涙症候群、腋窩多汗症、手掌多汗症、足底多汗症、頭頸部多汗症、身体多汗症、鼻漏、又は脳卒中、パーキンソン病若しくは筋萎縮性側索硬化症の患者における相対的唾液分泌過多からなる群から選択される疾患又は容態にも関連し得る。特に、外分泌腺の機能亢進コリン作動性神経支配によって引き起こされる、又は、関連する疾患若しくは容態は、流涎(唾液分泌過多、流涎症)及び多汗(多汗症)を含み得る。
【0098】
投与は、いかなる特定の投与のレジメン、方式、形態、用量及び間隔にも限定されない。当業者に既知であるとおり、ボツリヌス毒素の投与量又は用量は、適用の方式、疾患の種類、患者の体重、年齢、性別及び健康状態、並びに注射のために選択される標的組織によって決まる。ボツリヌス毒素製剤は、通常、例えば、標的組織(例えば、筋肉、皮膚、外分泌腺)中又はその近傍への皮下注射又は筋肉注射によって、局所投与される。
【0099】
サイズに応じて、異なる筋肉には概して異なる用量が必要となる。好適な用量は、10〜2000U、好ましくは50〜500U、より好ましくは100〜350Uの範囲のボツリヌス毒素であり得る。外分泌腺の治療の場合、用量は、通常、10〜500U、好ましくは20〜200U、より好ましくは30〜100Uの範囲である。このような合計量は、治療と同日に、又は、後日投与してもよい。例えば、1回目の治療期間中、用量の最初の分割分量を投与してもよい。1回以上の治療期間中に、合計用量の残りの分割分量を投与してもよい。更に、適用の頻度は特に限定されず、好適な投与間隔は、3箇月間以下(例えば、4又は8週間)であってもよい、又は、3箇月を超えてもよい。
【0100】
更に別の態様では、本発明は、顔面上部のしわ、広頸筋のしわ、眉間しわ線、額の横じわ、鼻唇溝、顎しわ、梅干し顎、精神的な中止(mental ceases)、ほうれい線、口角線、口元のしわ、目じりのしわ、及び下顎のしわを含む顔面非対称及び皮膚のしわ/線(例えば、顔の線及び顔のしわ)の治療などの美容用途における、本発明に係る充填済みプラスチック製容器(例えば、シリンジ、バイアル、カープル又はアンプル)の使用に関する。好ましくは、本発明の充填済みボツリヌス毒素容器(例えば、シリンジ、バイアル、カープル又はアンプル)は、眉間しわ線、目じりのしわ、口元のしわ、及び/又は広頸筋のしわに注射するために使用される。
【0101】
美容用途のために投与されるボツリヌス毒素の量は、通常、1〜5U、5〜10U、10〜20U又は20〜50Uの範囲である。このような合計量は、治療と同日に、又は、後日投与してもよい。例えば、1回目の治療期間中、用量の最初の分割分量を投与してよい。この最初の分割分量は、好ましくは、最適以下の分割分量、すなわち、しわ又は皮膚の線を完全には除去しない分割分量である。1回以上の治療期間中に、合計用量の残りの分割分量を投与してもよい。投与の更なる詳細に関しては、治療的使用に関連して上に提供した開示を指す。
【0102】
更なる態様では、本発明は、患者における筋肉又は外分泌腺の機能亢進コリン作動性神経支配によって引き起こされる、又は、関連する疾患又は容態を治療する方法であって、本発明に係る充填済みプラスチック製容器(例えば、シリンジ、バイアル、カープル又はアンプル)を使用して、患者の筋肉又は外分泌腺に有効量のボツリヌス毒素を局所投与することを含む方法に関する。
【0103】
本明細書で使用するとき、用語「有効量」は、有益又は所望の治療的、美容的又は麻酔的な結果をもたらすのに十分なボツリヌス毒素の量を指す。本明細書で使用するとき、用語「患者」は、概して、筋肉若しくは外分泌腺の機能亢進コリン作動性神経支配によって引き起こされ、若しくは、関連する疾患若しくは容態に罹患しているヒト、又は美容的若しくは麻酔的治療を必要としているヒトを指す。本明細書で使用するとき、「患者」は、「被験体」又は「個体」と互換可能に使用され得る。
【0104】
本発明の意味の範囲内における用語「局所投与」は、好ましくは、標的組織(例えば、筋肉、皮膚、外分泌腺)中又はその近傍への皮下注射又は筋肉注射を指す。投与(例えば、レジメン、方式、形態、用量及び間隔)及び治療される疾患又は容態に関して、美容及び治療用途のためのガラス製容器(例えば、充填済みボツリヌス毒素シリンジ)の使用に関連して上に記載したものと同じコメントが適用される。
【0105】
更なる態様では、本発明は、皮膚のしわ及び顔面非対称の治療などの皮膚の美容的治療方法であって、本発明に係る充填済みプラスチック製容器(例えば、シリンジ、バイアル、カープル又はアンプル)を使用し、皮内、真皮下又は皮下注射によって、患者に有効量のボツリヌス毒素を局所投与することを含む方法に関する。
【0106】
代表的な美容用途としては、上述のものが挙げられる。用語「有効量」、「患者」、投与(例えば、レジメン、方式、形態、用量及び間隔)及び治療される疾患又は容態の意味又は定義に関して、特に指定しない限り、本発明の他の態様に関連して上に提供したコメントが同様に適用される。
【0107】
次に、以下の非限定的な実施例によって本発明を更に例証する。
【実施例】
【0108】
以下の実施例は、当該技術分野における予測及び一般認識に反して、充填済みシリンジ系中に保存された水性ボツリヌス毒素製剤が、標準的な冷蔵庫温度(2〜8℃)において長期間にわたって(例えば、9〜12箇月間)、優れた安定性を呈することを示す。更に、測定された安定性データの外挿により、充填済みボツリヌス毒素シリンジは、2〜8℃で少なくとも12〜24箇月間高度に安定であることを示す。
【0109】
したがって、ボツリヌス毒素の形態は、凍結乾燥バイアルから充填済みプラスチック製シリンジの形態に変更することができ、これは、より簡便で、より安全かつより正確な投与方式を求めている医師及び患者の要求を満たすものである。
材料及び方法
【0110】
0.9%生理食塩液にヒト血清アルブミン(HSA)1.0mg、スクロース4.7mg、及びインコボツリヌストキシンAを50U/mLの濃度になるように溶解させることによって、水性ボツリヌス液体毒素製剤を調製した。次いで、シリンジバレルを密封するために、取り付けたときにシリンジの遠位先端部の開口部と接触するルアーロック及び先端キャップを含むルアーロック型クロージャを備えるシリンジプラスチック製バレルに上記の製剤を充填した。その後、近位開口部を閉鎖するために、バレルの近位端部分にプランジャーストッパーを挿入した。次いで、得られた充填済みプラスチック製シリンジを5℃又は25℃の温度で保存した。次いで、残存する毒素力価、pH値、及び拡大しないと見えない粒子個数を測定することによって、t=0、1、3、6、9及び12箇月間における水性ボツリヌス毒素製剤の安定性を評価した。
【0111】
毒素力価は、Goschelら(Exp.Neurol.147:96−102,1997)によるマウス片側横隔膜アッセイ(HDA)を用いて測定した。簡潔に述べると、このアッセイは、媒体4mLを含有する器官浴中でマウス神経筋調製品を維持することによって実施した。筋肉を力変換器に取り付け、横隔神経を介して電気的に刺激した結果、毒素を添加しなかった場合は、180分を超えて一定に保たれる等尺性収縮力が生じた。毒素を器官浴に導入すると、神経刺激された筋肉の収縮幅は徐々に減少する。横隔膜の収縮幅を、経時的にモニタリングした。読み出し値として、初期収縮力の半分に到達した時間を測定し、「麻痺時間」とした。初期値と比較して増加した時間値は、それぞれ、活性毒素の量の減少及び毒素力価の喪失を反映する。
【0112】
pH測定は、pH計(Lab 870,Schott Instruments)を使用して、多くの医薬製品のpH測定を概説している米国薬局方標準試験法USP<791>に従って実施した。
【0113】
粒子測定は、シランコーティングされた高解像度100μmフローセルを備えるDPA−5200粒子解析システム(ProteinSimple,Santa Clara,CA,USA)を使用して、マイクロフローイメージング(MFI)を用いて実施した。試料は、未希釈で分析した。MFI View System Software(MVSS)バージョン2−R2−6.1.20.1915を使用して測定を実施し、MFI View Analysis Suite(MVAS)ソフトウェアバージョン1.3.0.1007を使用して試料を分析した。
【0114】
プランジャーストッパーが互いに異なる、2つの異なる充填済みプラスチック製シリンジシステム(以下「構造A及びB」)について試験した。試験したシリンジ構造の詳細を表1に要約する。
【表1】
結果
【0115】
構造A及びBについての残存毒素力価に関する安定性測定の結果を、以下の表2に示す。
【表2】
【0116】
表2から明らかであるとおり、毒素は、経時的に2〜8℃でその初期力価を本質的に維持する。すなわち、18箇月間以上保存した後に本質的に力価が喪失しない(18箇月間保存した後の力価の喪失<10%)。室温(すなわち、25℃)でさえも、3箇月間後の力価の喪失が約20%以下であることによって示されるとおり、安定性は、依然として許容可能である。
【0117】
2〜8℃で保存期間24箇月までの構造A及びBの安定性データの外挿を
図1にグラフで示す。
図1から分かるとおり、24箇月後の生物活性の推定最大喪失は、約10%であると予測され、したがって、12箇月後に測定された生物活性の喪失と本質的に同じである。
【0118】
更に、pH測定によって、pH値が、最長18箇月間にわたって並外れて安定したままであることが明らかになった。値が上昇する、又は、低下する傾向がないことが認められ、測定されたpH値は全て、初期pHの±0.4以内のままであった(表3参照)。
【表3】
【0119】
更に、マイクロフローイメージングによる粒径測定は、粒子の総数が少なく、粒子数が大幅には増加しないことを示した(表4参照)。
【表4】
【0120】
表4から分かるとおり、粒子個数は、1000個/mLよりはるかに低いままであり、ほとんどの場合、250/mL未満であった。同様に、共振式質量測定(RMM)法(ARCHIMEDES particle methodology system;Affinity Biosensors,Santa Barbara,CA,USAを使用)及びナノ粒子トラッキング解析(NanoSight LM20 system;NanoSight,Amesbury,UKを使用)による粒子測定からも同様の結果が得られ、顕著な粒子個数は存在しないことが明らかになった。
【0121】
結論として、上に提示した結果は、充填済みプラスチック製シリンジ中の液体ボツリヌス毒素製剤が2〜8℃の温度で長期の保存期間(例えば、12〜24箇月)にわたって安定であることを示す。この知見は、高度に易熱性でありかつアルカリ性pHにおいて不安定であることが知られているボツリヌス毒素の不安定な性質に鑑みて非常に驚くべきことであった。充填済みシリンジ中のボツリヌス毒素濃度は並外れて低く、したがって、活性毒素の量における絶対的な喪失が最小であっても大きな百分率の変化につながるので、これは、更に驚くべきことであった。
【0122】
したがって、上記結果は、ボツリヌス毒素を充填済みプラスチック製シリンジ形態で製剤化することができ、これは、破壊耐性、重量の低下、一次容器の新規形状についての柔軟性の増大、寸法公差の改善、及び望ましくない物質(例えば、接着剤)の非存在に関し、ガラス製シリンジを上回る利点を付与する。更に、他のボツリヌス毒素の形態に比べて、充填済みシリンジ形態は、利便性及び取り扱いの容易さを強化し、投薬の誤りを低減し、投薬精度を改善し、汚染のリスクを最小化し、無菌性の保証を改善し、投与における安全性を高める。
前記水性のボツリヌス毒素製剤が、2℃〜25℃で6〜24箇月間の保存中、1000個/mL未満の10μm以上かつ100μm未満の粒子の数を有する、請求項1に記載のプラスチック製プレフィルドシリンジ。
前記水性のボツリヌス毒素製剤が、前記プラスチック製プレフィルドシリンジの2℃〜25℃で6〜24箇月間保存中、初期pH値の10%を超えて上昇しない、若しくは、低下しないpH値を有するか、又は、前記水性のボツリヌス毒素製剤が、保存中、6.1〜7.3の範囲で維持されるpH値を有するか、又は、これらの両方である、請求項1又は2に記載のプラスチック製プレフィルドシリンジ。
前記水性のボツリヌス毒素製剤が、10U/mL〜1000U/mLの濃度でボツリヌス毒素を含有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載のプラスチック製プレフィルドシリンジ。
前記プラスチック製プレフィルドシリンジ中の前記水性のボツリヌス毒素製剤が、緩衝液を含有しない、請求項1〜4のいずれか一項に記載のプラスチック製プレフィルドシリンジ。
前記出口係合部分上の前記コーティングが、架橋シリコーンコーティング若しくはフルオロポリマーコーティングである、請求項6に記載のプラスチック製プレフィルドシリンジ。
前記プラスチック製シリンジバレルが、一体的に形成されるルアーロックチップ又は一体的に形成されるルアースリップチップを含む、請求項1〜9のいずれか一項に記載のプラスチック製プレフィルドシリンジ。
請求項1〜10のいずれか一項に記載のプラスチック製プレフィルドシリンジと、前記プラスチック製プレフィルドシリンジを使用するための使用説明書と、を含むキット。
筋肉又は外分泌腺の機能亢進コリン作動性神経支配に起因又は関連する疾患又は容態を治療するための、請求項1〜10のいずれか一項に記載のプラスチック製プレフィルドシリンジであって、筋肉又は外分泌腺に前記プラスチック製プレフィルドシリンジ内の有効量のボツリヌス毒素が局所投与される、プラスチック製プレフィルドシリンジ。
筋肉又は外分泌腺の機能亢進コリン作動性神経支配に起因又は関連する疾患又は容態が、ジストニア、痙縮、パラトニア、ジスキネジア、巣状痙攣、斜視、振戦、チック、偏頭痛、流涎症又は多汗症である、請求項14に記載のプラスチック製プレフィルドシリンジ。
皮内、真皮下又は皮下注射によって、前記プラスチック製プレフィルドシリンジ内の有効量のボツリヌス毒素が局所投与される、請求項12又は13に記載のプラスチック製プレフィルドシリンジ。