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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-4221(P2021-4221A)
(43)【公開日】2021年1月14日
(54)【発明の名称】核酸アプタマー
(51)【国際特許分類】
   C07H 21/02 20060101AFI20201211BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20201211BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20201211BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20201211BHJP
   A61P 17/14 20060101ALI20201211BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20201211BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20201211BHJP
   A61K 9/12 20060101ALI20201211BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20201211BHJP
   C12N 15/115 20100101ALI20201211BHJP
【FI】
   C07H21/02ZNA
   A61K31/7088
   A61P43/00 111
   A61K31/7105
   A61P17/14
   A61K9/06
   A61K9/08
   A61K9/12
   A61K9/70 401
   C12N15/115 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】23
【出願形態】OL
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2019-119978(P2019-119978)
(22)【出願日】2019年6月27日
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 マッチングプランナー プログラム「企業ニーズ解決試験」における研究題目「人工核酸の応用による科学的に裏付けされた革新的育毛剤の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】503167042
【氏名又は名称】株式会社アドバンジェン
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】坂本 泰一
(72)【発明者】
【氏名】天野 亮
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】笹生 みなみ
(72)【発明者】
【氏名】堀内 正隆
(72)【発明者】
【氏名】田中 陽一郎
(72)【発明者】
【氏名】山本 昌邦
(72)【発明者】
【氏名】行方 昌人
(72)【発明者】
【氏名】ガニ ファロハナ イスラット
【テーマコード(参考)】
4C057
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C057BB05
4C057CC03
4C057DD03
4C057MM02
4C076AA06
4C076AA11
4C076AA24
4C076AA72
4C076BB15
4C076BB16
4C076BB31
4C076CC18
4C076CC29
4C076FF11
4C076FF68
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA13
4C086MA16
4C086MA17
4C086MA28
4C086MA32
4C086MA63
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZA92
4C086ZC42
(57)【要約】
【課題】本発明は、FGF−5(Fibroblast growth factor 5:線維芽細胞増殖因子5)に対して高い阻害効果を有する核酸アプタマー、育毛活性剤および育毛剤組成物を提供する。
【解決手段】FGF−5に特異的に結合する核酸分子である核酸アプタマー、該核酸アプタマーの薬学的に許容できる塩、またはこれらの溶媒和物が、FGF−5のシグナル伝達によるヘアサイクルの進行や毛乳頭に対する脱毛シグナルを抑制することで、発毛および育毛に優れた効果を奏する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
FGF−5(Fibroblast growth factor 5:線維芽細胞増殖因子5)に特異的に結合する核酸分子である核酸アプタマー、該核酸アプタマーの薬学的に許容できる塩、またはこれらの溶媒和物。
【請求項2】
前記核酸アプタマーが、前記FGF−5と前記FGF−5の受容体との結合を阻害する、請求項1に記載の核酸アプタマー、該核酸アプタマーの薬学的に許容できる塩、またはこれらの溶媒和物。
【請求項3】
前記FGF−5に対する解離定数が10pM〜100nMである、請求項1または2に記載の核酸アプタマー、該核酸アプタマーの薬学的に許容できる塩、またはこれらの溶媒和物。
【請求項4】
塩基数が10以上100以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の核酸アプタマー、該核酸アプタマーの薬学的に許容できる塩、またはこれらの溶媒和物。
【請求項5】
塩基数が50以上60以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の核酸アプタマー、該核酸アプタマーの薬学的に許容できる塩、またはこれらの溶媒和物。
【請求項6】
前記核酸分子が、配列A、B、およびCからなる群から選択される少なくとも一つの配列を有し、
前記配列Aが配列:5’−A−C−C−U−3’であり、
前記配列Bが、配列:5’−X−G−A−C−A−3’(Xは任意の塩基を表す)であり、
前記配列Cが、配列:5’−U−C−C−A−G−A−3’である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の核酸アプタマー、該核酸アプタマーの薬学的に許容できる塩、またはこれらの溶媒和物。
【請求項7】
前記配列Bである、配列:5’−X−G−A−C−A−3’における、前記Xがピリミジン塩基である請求項6に記載の核酸アプタマー、該核酸アプタマーの薬学的に許容できる塩、またはこれらの溶媒和物。
【請求項8】
前記XがCまたはUである請求項6または7に記載の核酸アプタマー、該核酸アプタマーの薬学的に許容できる塩、またはこれらの溶媒和物。
【請求項9】
前記核酸分子が、配列番号1〜11、13、16、および17からなる群より選択される配列を有する核酸分子、ならびに前記配列番号1〜11、13、16、および17からなる群より選択される配列において、該配列が有する前記配列A、B、およびC以外の場所において、1〜5個の塩基の置換、欠失、または挿入された配列を有する核酸分子の変異体から選択される核酸分子である、請求項6〜8のいずれか1項に記載の核酸アプタマー、該核酸アプタマーの薬学的に許容できる塩、またはこれらの溶媒和物。
【請求項10】
前記核酸分子が、配列番号1〜11、13、16、および17からなる群より選択される配列を有する核酸分子である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の核酸アプタマー、該核酸アプタマーの薬学的に許容できる塩、またはこれらの溶媒和物。
【請求項11】
前記核酸分子が、配列番号1、4、6、7、10、13、16、および17からなる群より選択される配列を有する核酸分子である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の核酸アプタマー、該核酸アプタマーの薬学的に許容できる塩、またはこれらの溶媒和物。
【請求項12】
前記核酸分子が、配列番号1、6、16、および17からなる群より選択される配列を有する核酸分子である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の核酸アプタマー、該核酸アプタマーの薬学的に許容できる塩、またはこれらの溶媒和物。
【請求項13】
前記核酸分子が、配列番号1または6で表される配列を有する核酸分子である、請求項11に記載の核酸アプタマー、該核酸アプタマーの薬学的に許容できる塩、またはこれらの溶媒和物。
【請求項14】
前記核酸分子が、RNAである、請求項1〜12のいずれか1項に記載の核酸アプタマー、該核酸アプタマーの薬学的に許容できる塩、またはこれらの溶媒和物。
【請求項15】
前記FGF−5がヒトFGF−5である、請求項1〜13のいずれか1項に記載の核酸アプタマー、該核酸アプタマーの薬学的に許容できる塩、またはこれらの溶媒和物。
【請求項16】
前記核酸アプタマーに含まれるヌクレオチドに含まれる、シトシン(C)およびウラシル(U)の一以上において、リボースの2'位がフッ素原子で置換されている、
請求項1〜15のいずれか1項に記載の核酸アプタマー、該核酸アプタマーの薬学的に許容できる塩、またはこれらの溶媒和物。
【請求項17】
前記核酸アプタマーに含まれるヌクレオチドに含まれる、シトシン(C)およびウラシル(U)においてリボースの2'位がフッ素原子で置換されている、
請求項1〜16のいずれか1項に記載の核酸アプタマー、該核酸アプタマーの薬学的に許容できる塩、またはこれらの溶媒和物。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれか1項に記載の核酸アプタマー、該核酸アプタマーの薬学的に許容できる塩、およびこれらの溶媒和物から選択される少なくとも一つを含む、育毛活性剤。
【請求項19】
前記FGF−5の作用を阻害する活性を有することを特徴とする、請求項18に記載の育毛活性剤。
【請求項20】
請求項18または19に記載の育毛活性剤を含有する、育毛剤組成物。
【請求項21】
請求項1〜17のいずれか1項に記載の核酸アプタマー、該核酸アプタマーの薬学的に許容できる塩、およびこれらの溶媒和物を、0.00001〜10質量%有する、請求項19に記載の育毛剤組成物。
【請求項22】
請求項1〜17のいずれか1項に記載の核酸アプタマー、該核酸アプタマーの薬学的に許容できる塩、およびこれらの溶媒和物を、0.00005〜5質量%含有する、請求項19に記載の育毛剤組成物。
【請求項23】
医薬品である、請求項20〜22のいずれか1項に記載の育毛剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸アプタマー、育毛活性剤および育毛剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
加齢や遺伝的要素による脱毛、あるいは過度なストレスによる円形脱毛症等、頭髪の脱毛についての悩みを抱える者は多い。男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版(日本皮膚科学会ガイドライン)によると、男性型脱毛症(male pattern hair loss, androgenetic alopecia(AGA))の発症頻度は全年齢平均で約30%である。
また、平成26年の政府統計における患者調査(傷病分類変)によると、脱毛症により病院を受診した総患者数だけでも10万人を超えており、潜在的な脱毛症患者はさらに多いと考えられる。
このような背景から、発毛や育毛、脱毛の抑制を目的とする様々な、頭髪用化粧品、医薬部外品、または医薬品が開発されており、既に市場に出廻っている。
【0003】
しかしながら、AGAに限ってもその脱毛原因は、男性ホルモンの影響、頭部真皮層の毛細血管網における血行不良、または頭皮表面の状態(乾燥、皮脂過剰等)等多岐にわたっている。現在市場に存在している多数の育毛剤等の多くは、これらの脱毛原因に有効とされる天然物由来の成分や化学物質等を配合した育毛剤等を頭部に塗布して、頭皮表面からこれらの成分を浸透させることで、脱毛の抑制または発毛の促進を行うことを目的としている。しかしながら現在のところ、普遍的に効果を示す育毛剤等は現在のところ存在せず、期待できる効果としても、細くなった毛髪を多少太くしたり、脱毛のサイクルを幾分緩やかにしたりする程度のものであり、またそれらの効果についても個人差も大きいという問題点がある。
したがって、普遍的に効果を発揮し、さらに従来品よりも強力な育毛剤等のニーズは、依然として高く、その開発が望まれていた。
【0004】
また、人間の頭髪のみならず、愛玩動物または畜産動物の体毛においても、同様に、皮膚病、加齢、及び飼育環境等からくるストレス等から生ずる脱毛症状に対して、育毛効果を奏する外用組成物の需要がある。
【0005】
頭髪や体毛は通常、成長期、退行期、休止期を繰返しながら成長し、成長期には、毛根を包む皮膚組織である毛包の根元にある毛乳頭細胞が活性化することで毛母細胞が分裂を開始して発毛し、毛母細胞が毛幹として伸長していくことで毛が成長する。その後、退行期に入ると毛の成長は衰え、不可逆的に休止期に入り毛成長は停止し、やがて、脱毛する。成長期から休止期までの毛の成長と脱毛のサイクル(毛周期:ヘアサイクル)は毛1本ごとに異なる繊細な生体機構であり、さまざまな遺伝子およびその産物によって制御されている。
【0006】
近年、毛髪の成長についての研究が進み、毛周期に影響を与える物質の一つとして線維芽細胞増殖因子(FGF)に注目が集まってきた。FGFはその名の示すとおり線維芽細胞の増殖に関わる因子であり、線維芽細胞が新たな毛包の形成を支持することが知られている。
FGFには、ファミリータンパク質として、23種類が存在しており、生体の恒常性を維持するための代謝調節因子等として重要な役割を果たしている多機能性分泌因子であることが知られており、FGF−1、FGF−2、FGF−5、FGF−7、FGF−10、FGF−13、FGF−18およびFGF−22が皮膚および毛包の上皮で発現していることが知られている。これら8種のFGFが、標的となる細胞表面のFGFR1〜FGFR4のいずれかに結合することで、細胞内にシグナルが伝達して毛周期が制御されるものと考えられる。例えば、骨と軟骨の形成や成長を制御することが広く知られているFGF−18は毛包幹細胞領域で発現し、休止期を維持する(非特許文献1)。
【0007】
また、FGFファミリータンパク質の一つであるFGF−5は、毛成長に対して抑制的に働くことが知られている。すなわち、FGF−5は、毛包の毛周期における成長期を退行期に誘導する。換言すると、FGF−5は、毛包の成長期後期に限定的に発現することにより毛包の成長期を終了させ、毛成長を停止へと導く。例えば、本発明者らは特定のササエキス調製品がFGF−5作用の阻害活性を有すること、さらにそのようなササエキス調製品を用いたFGF−5による毛周期制御機構に基づく育毛剤組成物について開示している(特許文献1)。
さらに、成長期の毛包に大量に発現するFGF−5の短鎖形分子であるFGF−5Sは、FGF−5に対しアンタゴニスト活性を示すことにより、成長期から退行期への移行を遅らせ、毛成長を促進することも明らかとなった(非特許文献2〜非特許文献5)。しかしながら、FGF−5とその受容体の相互作用メカニズムは明らかになっていない。
【0008】
さらに、本発明者らの研究により、FGF−5は、毛の成長を阻害し、ヘアサイクルを成長期から退行期へ移行させる作用を有していることが明らかとなり、この知見から本発明者らはFGF−5を阻害するフィチン酸を含有する育毛剤組成物についても発明を行っている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−238503号公報
【特許文献2】特開2017−43594号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Kawano M et.al., J Invest Dermatol.124:877-885(2005)
【非特許文献2】Ozawa K et.al., J.Biol.Chem.273:29262-29271(1998)
【非特許文献3】Suzuki et.al., J.Invest.Dermatol.111:963-972(1998)
【非特許文献4】Suzukiet.al., J.Invest.Dermatol.114:456-463(2000)
【非特許文献5】Ota et.al., Biochem.Biophys.Res.Commun.290:169-176(2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らは、FGF−5作用の研究過程で、この作用を阻害する活性を持つ物質が優れた効果を発揮する育毛剤として利用できるとの着想を得た。そしてFGF−5作用に対し、阻害作用を有する物質を見出すために、さらに鋭意研究を進めた結果、本発明者らは、FGF−5の作用を阻害する物質として核酸アプタマーに着目した。核酸アプタマーとは、特有の三次元立体構造をとることで標的分子に特異的に結合する一本鎖の核酸分子であり、標的分子に対する高い結合能と特異性を有し、さらに短時間にまた容易に化学合成が可能で化学修飾も可能であること、免疫原性の小ささ(免疫反応により排除されにくい)や、安定性の高さなどの特性により、医薬品や診断薬などさまざまな分野で実用化されている。
【0012】
本発明者らは、FGF−5に対して高い阻害効果を有する核酸アプタマーの開発に成功し、該核酸アプタマーが育毛の活性において高いポテンシャルを有することを見出した。
上記を踏まえ、本発明は、FGF−5を阻害する核酸アプタマーおよび育毛活性剤等を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明はFGF−5(Fibroblast growth factor 5:線維芽細胞増殖因子5)タンパク質に対して特異的に結合する核酸アプタマー等である。
【0014】
すなわち、本発明は例えば以下の[1]〜[23]を提供する。
[1]
FGF−5(Fibroblast growth factor 5:線維芽細胞増殖因子5)に特異的に結合する核酸分子である核酸アプタマー、該核酸アプタマーの薬学的に許容できる塩、またはこれらの溶媒和物。
[2]
前記核酸アプタマーが、前記FGF−5とFGF−5の受容体との結合を阻害する、[1]に記載の核酸アプタマー、該核酸アプタマーの薬学的に許容できる塩、またはこれらの溶媒和物。
[3]
前記FGF−5に対する解離定数が10pM〜100nMである、[1]または[2]に記載の核酸アプタマー、該核酸アプタマーの薬学的に許容できる塩、またはこれらの溶媒和物。
[4]
塩基数が10以上100以下である[1]〜[3]のいずれか1項に記載の核酸アプタマー、該核酸アプタマーの薬学的に許容できる塩、またはこれらの溶媒和物。
[5]
塩基数が50以上60以下である、[1]〜[4]のいずれか1項に記載の核酸アプタマー、該核酸アプタマーの薬学的に許容できる塩、またはこれらの溶媒和物。
[6]
前記核酸分子が、配列A、B、およびCからなる群から選択される少なくとも一つの配列を有し、
前記配列Aが配列:5’−A−C−C−U−3’であり、
前記配列Bが、配列:5’−X−G−A−C−A−3’(Xは任意の塩基を表す)であり、
前記配列Cが、配列:5’−U−C−C−A−G−A−3’である、[1]〜[5]のいずれか1項に記載の核酸アプタマー、該核酸アプタマーの薬学的に許容できる塩、またはこれらの溶媒和物。
[7]
前記配列Bである、配列:5’−X−G−A−C−A−3’における、前記Xがピリミジン塩基である[6]に記載の核酸アプタマー、該核酸アプタマーの薬学的に許容できる塩、またはこれらの溶媒和物。
[8]
前記XがCまたはUである[6]または[7]に記載の核酸アプタマー、該核酸アプタマーの薬学的に許容できる塩、またはこれらの溶媒和物。
[9]
前記核酸分子が、配列番号1〜11、13、16、および17からなる群より選択される配列を有する核酸分子、ならびに前記配列番号1〜11、13、16、および17からなる群より選択される配列において、該配列が有する前記配列A、B、およびC以外の場所において、1〜5個の塩基の置換、欠失、または挿入された配列を有する核酸分子の変異体から選択される核酸分子である、[6]〜[8]のいずれか1項に記載の核酸アプタマー、該核酸アプタマーの薬学的に許容できる塩、またはこれらの溶媒和物。
[10]
前記核酸分子が、配列番号1〜11、13、16、および17からなる群より選択される配列を有する核酸分子である、[1]〜[9]のいずれか1項に記載の核酸アプタマー、該核酸アプタマーの薬学的に許容できる塩、またはこれらの溶媒和物。
[11]
前記核酸分子が、配列番号1、4、6、7、10、13、16、および17からなる群より選択される配列を有する核酸分子である、[1]〜[10]のいずれか1項に記載の核酸アプタマー、該核酸アプタマーの薬学的に許容できる塩、またはこれらの溶媒和物。
[12]
前記核酸分子が、配列番号1、6、16、および17からなる群より選択される配列を有する核酸分子である、請求項[1]〜[11]のいずれか1項に記載の核酸アプタマー、該核酸アプタマーの薬学的に許容できる塩、またはこれらの溶媒和物。
[13]
前記核酸分子が、配列番号1または6で表される配列を有する核酸分子である、[11]に記載の核酸アプタマー、該核酸アプタマーの薬学的に許容できる塩、またはこれらの溶媒和物。
[14]
前記核酸分子が、RNAである、[1]〜[12]のいずれか1項に記載の核酸アプタマー、該核酸アプタマーの薬学的に許容できる塩、またはこれらの溶媒和物。
[15]
前記FGF−5がヒトFGF−5である、[1]〜[13]のいずれか1項に記載の核酸アプタマー、該核酸アプタマーの薬学的に許容できる塩、またはこれらの溶媒和物。
[16]
前記核酸アプタマーに含まれるヌクレオチドに含まれる、シトシン(C)およびウラシル(U)の一以上において、リボースの2'位がフッ素原子で置換されている、
[1]〜[15]のいずれか1項に記載の核酸アプタマー、該核酸アプタマーの薬学的に許容できる塩、またはこれらの溶媒和物。
[17]
前記核酸アプタマーに含まれるヌクレオチドに含まれる、シトシン(C)およびウラシル(U)においてリボースの2'位がフッ素原子で置換されている、
[1]〜[16]のいずれか1項に記載の核酸アプタマー、該核酸アプタマーの薬学的に許容できる塩、またはこれらの溶媒和物。
[18]
[1]〜[17]のいずれか1項に記載の核酸アプタマー、該核酸アプタマーの薬学的に許容できる塩、およびこれらの溶媒和物から選択される少なくとも一つを含む、育毛活性剤。
[19]
前記FGF−5の作用を阻害する活性を有することを特徴とする、[18]に記載の育毛活性剤。
[20]
[18]または[19]に記載の育毛活性剤を含有する、育毛剤組成物。
[21]
[1]〜[17]のいずれか1項に記載の核酸アプタマー、該核酸アプタマーの薬学的に許容できる塩、およびこれらの溶媒和物を、0.00001〜10質量%有する、[20]に記載の育毛剤組成物。
[22]
[1]〜[17]のいずれか1項に記載の核酸アプタマー、該核酸アプタマーの薬学的に許容できる塩、およびこれらの溶媒和物を、0.00005〜5質量%含有する、[20]に記載の育毛剤組成物。
[23]
医薬品である、[20]〜[22]のいずれか1項に記載の育毛剤組成物。
【発明の効果】
【0015】
本発明の核酸アプタマーによれば、従来品と比べて育毛効果をより確実に期待でき、かつ物理的に安定な育毛活性剤、育毛剤組成物を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は作製例1で作製したFGF−5の活性を示したグラフである。
図2図2はアプタマーF−02、F−58、F−33、F−05、F−06、F−18、F−14、F−19、F−46、F−52、F−39の配列である。四角で囲まれた塩基が共通配列A〜Cである。
図3図3はアプタマーF−02、F−58、F−33、F−05、F−06、F−18、F−14、F−19、F−46、F−52、F−39においてシトシンおよびウラシルがフッ素化されていることを明示した配列である。ただしC(F)はフッ素化したシトシンを、U(F)はフッ素化したウラシルを示す。
図4図4(A)はアプタマーF−02を短鎖化(安定化)したF02−52、F02−42、F02−40、F02−56およびアプタマーF−18を短鎖化(安定化)したF18−56の配列である。図4(B)はF02−52、F02−42、F02−40、F02−56およびF18−56においてシトシンおよびウラシルがフッ素化されていることを明示した配列である。ただしC(F)はフッ素化したシトシンを、U(F)はフッ素化したウラシルを示す。
図5図5は、アプタマーF−02、F−05、F−14、F−18、F−19、F−39、F−52、およびF−02−52についての、フリーツール「mfold」を用いた二次構造予測である。
図6図6はアプタマーF−02および該配列を短鎖化(安定化)したF02−52についての、千葉工業大学による二次構造予測である。
図7図7はアプタマーF−02、F−05、F−14、F−18、F−19、F−39、F−51、およびF−52とFGF−5との結合能を確認するために行ったEMSAの結果である。
図8図8はアプタマーF−02と水溶性FGF−5タンパク質との結合能を確認するために測定した分子間相互作用量のグラフである。
図9図9はアプタマーF−02と、FGF−1、FGF−2、FGF−4、FGF−6、およびFGF−5との結合能をそれぞれ確認するために測定した分子間相互作用量のグラフである。
図10図10はアプタマーF−02と水溶性FGF−5タンパク質との分子間相互作用を解析したグラフである。
図11図11は各アプタマーによるFGF−5依存的細胞増殖度への影響を測定したグラフである。
図12図12はランダムプライマー存在下でのFGF−2またはFGF−5依存的細胞増殖度への影響を測定したグラフである。
図13図13は各アプタマーによるFGF−2依存的細胞増殖阻害への影響を測定したグラフである。
図14図14はアプタマーF−02によるFGF−1またはFGF−5依存的細胞増殖度への影響を測定したグラフである。
図15図15は各短鎖化アプタマーによるFGF−5依存的細胞増殖阻害への影響を測定したグラフである。
図16図16はFGF−5により抑制される毛包誘導マーカーであるアルカリホスファターゼ(ALP)の転写量におけるアプタマーF−02の影響について測定したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の「核酸アプタマー」は、ターゲット分子に特異的に結合する核酸分子である核酸アプタマーであり、当該アプタマーは薬学的に許容できる、塩または溶媒和物の形態をとっていてもよい。本発明の核酸アプタマーのターゲット分子は、FGF−5(Fibroblast growth factor 5:線維芽細胞増殖因子5)タンパク質である。
本発明の核酸アプタマーは、FGF−5に対して特異的に結合する核酸分子である、FGF−5とFGF−5受容体との結合を直接阻害することにより、FGF−5のシグナル伝達によるヘアサイクルの進行や毛乳頭に対する脱毛シグナルを抑制することで、発毛および育毛に優れた効果がある。
【0018】
<核酸アプタマー>
本発明に係る核酸アプタマーは、ターゲット分子であるFGF−5に特異的に結合する核酸分子である。前記核酸アプタマーは該核酸アプタマーの薬学的に許容される塩または溶媒和物であってもよい。前記FGF−5は、例えば、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、スナネズミ、ハムスター、フェレット、イヌ、ミニブタ、サル、ウシ、ウマ、ヒツジなどのいずれの動物種のFGF−5であってもよいが、ヒトFGF−5であることがより好ましい。前記核酸分子としては、DNAまたはRNAのいずれであってもよいが、一本鎖RNAであることが好ましい。また、前記核酸分子としては、人工核酸分子または天然核酸分子のいずれであってもよいが、人工核酸分子であることが好ましい。
【0019】
前記核酸アプタマーはFGF−5に特異的に結合することでFGF−5とその受容体との結合を阻害し、FGF−5のシグナル伝達を直接的に抑制する。
FGF−5が関連する、毛乳頭に対する脱毛シグナルの抑制という観点から、前記核酸アプタマーとFGF−5との結合は強い方が好ましく、つまり両者の解離定数は小さいほうが好ましい。FGF−5とFGF−5受容体との解離定数は10pM〜100nMであることが好ましく、10pM〜10nMであることがより好ましい。
【0020】
前記核酸アプタマーである核酸分子に含まれる塩基数は10以上100以下であることが好ましく、50以上60以下であることがより好ましい。なお、一塩基の平均分子量は約330であることから、本発明の核酸アプタマーの分子量は約3300〜33000であることが好ましく、約16500〜19800であることがより好ましいといえる。
前記核酸分子に含まれるヌクレオチドとしてはアデニン(略称:A)、グアニン(略称:G)、シトシン(略称:C)、チミン(略称:T)、ウラシル(略称:U)が一般的に用いられる。上記天然のヌクレオチドをそのまま用いることもできるが、典型的には安定性の観点から、フッ素化(F化)、メチル化等の修飾された上記ヌクレオチドを用いることが好ましい。また上記以外の天然のヌクレオチドや非天然型のヌクレオチドを用いることもできる。
【0021】
また修飾されたヌクレオチドを用いる場合、各ヌクレオチド内の修飾部位は特に限定されないが、ヌクレオチドにおけるリボースの2’位に修飾を行うことが好ましい。特に、後述するようにSELEX法でアプタマーを取得する際、RNA分解酵素に対する耐性という観点から、CとUはリボースの2’位がF化したものを用いることが通常の技術手段である。したがって、前記核酸アプタマーに含まれるヌクレオチドに含まれる、シトシン(C)およびウラシル(U)の一以上において、リボースの2'位がフッ素原子で置換されていることが好ましく、さらに前記核酸アプタマーに含まれるヌクレオチドに含まれる、シトシン(C)およびウラシル(U)においてリボースの2'位がフッ素原子で置換されていることが好ましい。なお、ここでシトシン(C)およびウラシル(U)は実質的に全てのシトシン(C)およびウラシル(U)を指し、具体的には95〜100%のシトシン(C)およびウラシル(U)がF化したものであることが好ましく、98〜100%のシトシン(C)およびウラシル(U)がF化したものであることがより好ましく、99〜100%のシトシン(C)およびウラシル(U)がF化したものであることが特に好ましい。また、他の修飾や保護、脱保護等により、人工的に所望の性質を付与したヌクレオチドを用いてもよい。また、前記核酸分子は、安定性や体内動態の向上の観点から、適宜長さや大きさを調製してもよいし、前記核酸分子の末端にPEG修飾等の化学修飾等をおこなってもよい。また、一般にPEGは体内動態の向上に重要であることがわかっている。なお、特段の事情がない限り、本明細書(請求項、図を含む)において上記5つのヌクレオチドについては各略称を用いて表記する。
【0022】
(核酸アプタマーの配列-1)
以下、前記ターゲット分子がFGF−5である、核酸アプタマーについて説明する。
【0023】
上述したように、前記核酸分子に含まれる塩基数は10以上100以下であることが好ましく、50以上60以下であることがより好ましい。
前記核酸アプタマーである核酸分子はその分子中に、配列A:5’−A−C−C−U−3’、配列B:5’−X−G−A−C−A−3’(Xは任意の塩基を表す)、配列C:5’−U−C−C−A−G−A−3’の少なくとも一つの配列を有することが好ましく、配列A〜Cのすべてを有することが特に好ましい。前記核酸分子が配列A〜Cのすべてを有する場合においては各配列の数は特に限定されるものではないが、各配列を一つずつ有することが好ましい。当該核酸分子が配列A〜Cのすべてを一つずつ有する場合において、その順番は特に限定されないが、5’−配列A−配列B−配列C−3’(「−」は各配列を連結するリンカー配列を示し、その配列は特に限定されるものではない)の順であることが好ましい。
【0024】
前記配列B:5’−X−G−A−C−A−3’において、上述したとおりXは任意の塩基であるが、ピリミジン塩基であることが好ましく、CまたはUであることがより好ましい。
【0025】
前記核酸分子は、配列番号1〜11、13、16、および17からなる群より選択される配列を有する核酸分子、ならびに前記配列番号1〜11、13、16、および17からなる群より選択される配列において、該配列が有する前記配列A、B、およびC以外の場所において、1〜5個の塩基の置換、欠失、または挿入された配列を有する核酸分子の変異体から選択される核酸分子であることが好ましい。核酸分子は、1〜11、13、16、および17からなる群より選択される配列を有する核酸分子であることがより好ましく、配列番号1、4、6、7、10、13、16、および17からなる群より選択される配列を有する核酸分子であることがさらに好ましく、配列番号1、6、16、および17からなる群より選択される配列を有する核酸分子であることがよりさらに好ましく、配列番号1または6で表される配列を有する核酸分子であることが特に好ましい。配列番号2および3で表される配列は、配列番号1で表される配列の類似配列であることから、好ましい。配列番号13および16で表される配列は配列番号1で表される配列を短鎖化したものであることから、好ましい。また配列番号17で表される配列は配列番号6で表される配列を短鎖化したものであることから、好ましい。
また、結合阻害力の強さという観点からは配列番号6、7および10、ならびに配列番号4およびその類似配列である配列番号5で表される配列を有する核酸分子もまた好ましい。
【表1】
【0026】
なお、本明細書においては配列番号1を有するアプタマーをF−02、配列番号2を有するアプタマーをF−58、配列番号3を有するアプタマーをF−33、配列番号4を有するアプタマーをF−05、配列番号5を有するアプタマーをF−06、配列番号6を有するアプタマーをF−18、配列番号7を有するアプタマーをF−14、配列番号8を有するアプタマーをF−19、配列番号9を有するアプタマーをF−46、配列番号10を有するアプタマーをF−52、配列番号11を有するアプタマーをF−39、配列番号12を有するアプタマーをF−51、配列番号15を有するアプタマーをF−02−40、配列番号14を有するアプタマーをF02−42、および配列番号13を有するアプタマーをF02−52と称する。また、配列番号16を有するアプタマーをF−02−56、および配列番号17を有するアプタマーをF−18−56と称する。
【0027】
前記核酸分子は、該配列中に含まれうる配列A、B、およびC以外の場所において、1〜5個の塩基、好ましくは1〜2個の塩基が、置換、欠失、または挿入されていてもよい。塩基の置換、欠失、または挿入がおきた核酸分子の例示としては、配列番号1〜11、13、16、および17からなる群より選択される配列において、該配列が有する前記配列A、B、およびC以外の場所において、1〜5個の塩基の置換、欠失、または挿入された配列を有する核酸分子の変異体が挙げられ、1〜2個の塩基の置換、欠失、または挿入された配列を有する核酸分子の変異体が好ましい。
【0028】
(核酸アプタマーの選択)
本発明の核酸アプタマーを取得する方法は、特に限定されないが、一般的にSELEX(Systematic Evolution of Ligands by EXponential enrichment)法など、核酸ライブラリから取得する方法が一般的である。
特にある目的のタンパク質に特異的に結合する核酸アプタマーを取得する場合、SELEX法は広く用いられている。この方法は、1014程度のランダム配列の核酸ライブラリとターゲット分子とを混合した後、ターゲット分子に結合している核酸をRNAの場合はRT−PCR法などの手法を用いて増幅させるものであり、シークエンス解析で配列を決定して目的となる核酸アプタマーを特定する方法である。このようにSELEX法でアプタマーを取得する際には前述したA、G、C、T、Uが用いられるが、RNA分解酵素に対する耐性という観点から、CとUは2’位がF化したものを用いることが通常の技術手段である。
また、近年では増幅時に核酸に変異導入を行いながら選別を行うことにより、天然には存在しない、目的の機能に最も適したRNA配列を選別することが可能である手法も行われている。
【0029】
(核酸アプタマーの構造決定)
核酸アプタマーはターゲット分子に特異的に結合することでターゲット分子の機能を阻害するものであるため、配列のみならず、その立体構造が重要となる。
核酸の二次構造については、核酸分子中の塩基が塩基対を形成する際の自由エネルギー変化に基づいて二次構造を予測するツールである、mfoldやCentroidFoldなどのフリーツールが公開されており、それらを適宜用いて予測することができる。
また核酸アプタマーの三次元以上の立体構造または、核酸アプタマーとターゲット分子との結合した際における立体構造の決定においては、核磁気共鳴法、X線結晶構造解析等の手法を用いることができる。
【0030】
<育毛活性剤>
本発明の育毛活性剤は、前記核酸アプタマー、該核酸アプタマーの薬学的に許容できる塩、およびこれらの溶媒和物から選択される少なくとも一つを含む。
本発明の育毛活性剤は、前記核酸アプタマーそのもの、前記塩そのもの、前記溶媒和物そのもの、のいずれであってもよく、これらの混合物であってもよい。本発明の育毛活性剤は、前記核酸アプタマー、該核酸アプタマーの薬学的に許容できる塩、およびこれらの溶媒和物から選択される1種または2種以上の成分のみからなることが好ましい。
本発明の育毛活性剤は、FGF−5の作用を阻害する活性を有しており、育毛効果に優れている。
【0031】
<育毛剤組成物>
本発明の育毛剤組成物は、前記育毛活性剤を含有する。
本発明の育毛剤組成物に含有されるアプタマーの量は、育毛剤組成物の提供される形態によって大きく異なり、特に限定されることはないが、例えば前記育毛活性剤がエマルションの形態で提供されるとき、前記アプタマーは0.00001〜10質量%含有することが好ましく、0.00005〜5質量%含有することがさらに好ましく、0.001〜1質量%含有することがさらに好ましい。
【0032】
本発明の育毛剤組成物は、保存時および使用時のpHが4.5〜6.2であることが好ましい。pHが低すぎる(強酸性)と、育毛剤組成物におけるアプタマーが不溶化することにより分離しやすくなる。一方、pHが高すぎる(アルカリ性)と、核酸アプタマーが分解しやすくなる。
したがって、上記観点から、皮膚のpH(約5.3:弱酸性)に近いpH(例えばpH5.0〜5.6)に調整することが最も好ましい。
【0033】
本発明の育毛剤組成物は、液剤状、乳剤状、ゲル状、クリーム状、軟膏状、フォーム状、ミスト状、ジェル状など、種々の剤型をとり得る。例えば、本発明の育毛剤組成物は水性溶液またはシリコン相中の水性相(W/Si)における脂肪相の分散によって得られる水中油型(O/W型)エマルションとして製造してもよいし、また脂肪相中の水性相の分散によって得られる油中水型(O/W型)エマルションとして製造してもよい。
【0034】
さらに当該エマルションを液体、半液体稠度を有するローション、セラム型製剤、もしくはミルク状の製剤として調製してもよいし、また、クリーム状もしくはゲル状の柔らかい稠度を有する水性もしくは無水懸濁液としてもよい。また前記エマルションをマイクロカプセル、微小粒子、又はイオン性及び/若しくは非イオン性型小胞に含有させることで、液中にさらに分散させた分散液に調製してもよいし、または当該エマルションをフォーム状に調製してもよい。これらの調整方法は従来用いられている任意の手法で行うことができる。なお、本発明による組成物の様々な成分の量は、当該分野において典型的に使用されている量である。
具体的には本発明の育毛剤組成物は、スカルプ、頭髪、まつ毛、眉毛あるいはその他の増毛したい部位のためのローション、トニック、ジェル、クリーム、トリーメント、フォーム、ミスト、シャンプー、コンディショナーなどの形態で提供され得る。
【0035】
(補助成分)
本発明の育毛剤組成物においては、一般の育毛剤組成物に使用される種々の物質、例えば、血管拡張剤、抗炎症剤、角質溶解剤、殺菌剤、保湿剤、各種動植物の抽出物、抗酸化剤、溶解補助剤、代謝賦活剤、増粘剤、粘着剤、香料、清涼化剤などを本発明の効果を損なわない範囲で補助成分として添加してもよい。また、後述の医薬品の項目で記載した添加剤を、育毛剤組成物の補助成分として添加してもよい。当該補助成分は植物等の天然物由来(センブリ抽出液等)であってもよいし、人工的に合成した化合物であってもよい。
【0036】
<医薬品>
本発明の育毛剤組成物は、医薬品であってもよい。上述したような核酸アプタマー(育毛活性剤)を有効成分として含有することが好ましい。使用の様態または症状により、含有量は適宜変更してもよいし、また必要に応じて薬学的に許容される各種の添加剤をさらに含有させて製剤化してもよい。また、適宜基材に内包させてナノカプセル状にしてもよい。
【0037】
(症状)
前記症状にはヘアサイクルが短くなることを原因とする毛髪の成長の遅さ、毛髪の細さ、脱毛等が含まれる。「治療」には前記症状を治癒することと共に、それを緩和(軽快)すること、予防することも含まれる。なお、「予防」には、前記症状を未然に防ぐことと共に、治癒後にその再発を防ぐことも含まれる。
【0038】
医薬品の投与部位は、発毛、または前記症状を抑制することが望まれる箇所であれば特に限定されない。投与対象がヒトであれば、通常は頭皮に投与されるが、投与対象が、動物の場合には全身または局所的に脱毛等が起きている場所に投与されることができる。
【0039】
例えば頭髪などの発毛において重要であり、FGF−5が脱毛について関与している毛乳頭は、通常、皮膚の真皮質から皮下脂肪を含む皮下組織に存在するため、医薬品は、その付近の表皮を介して投与されることが好ましい。特に方法は限定されないが、軟膏、液剤、スプレー剤当の剤型をとるものについては表皮に直接塗布したり、また医薬品を塗布したシート剤、パッチ剤を貼付することにより投与したりすることが好ましい。また、皮下注射、皮内注射、筋肉内注射等の注射投与によっても投与することができる。
【0040】
医薬品(ないしそこに含まれる有効成分)の1回あたりの投与量および投与回数は、患者の年齢、性別、症状、必要とされる治療効果の程度、投与方法、有効成分(核酸アプタマー等)の含有量などにより異なり、適宜調整されることができる。
【0041】
(添加剤)
本発明に係る医薬品は、必要に応じて、薬学的に許容され得る添加剤を含んでいてもよい。
【0042】
薬学的に許容され得る添加剤とは、医薬品の目的に反しないものである限り特に限定されず、例えば、増粘剤、粘稠剤、乳化剤、希釈剤、抗酸化剤、亜硫酸塩等の安定剤(防腐剤)、着色剤などの添加剤等が挙げられ、また症状等によっては保湿剤、抗脂漏剤、血行促進剤等を含んでいてもよい。
【0043】
例えば、本発明の医薬品の剤形が塗布剤である場合、医薬品に含まれる有効成分の表皮から真皮あるいは皮下組織(毛乳頭)までの到達性を上昇させる観点から、粘稠剤や増粘剤を配合することにより、所望の粘度や有効成分含有濃度になるように、調製することが好ましい。
【0044】
また、動物に対して本発明の医薬品を投与する場合にはその動物種等によって皮膚の厚さや性質が異なることから、前記有効成分の濃度や添加剤の含有量を適宜調整することが好ましい。
【0045】
<医療用培地添加剤>
本発明のアプタマーは、植毛用に頭皮から分離された毛包の維持用培地に添加することができる。また、再生医療の分野でiPS細胞、ES細胞、幹細胞等から分化した細胞、あるいは生体から分離した毛乳頭等の通常細胞を使用して再構成した毛包用の培地としても使用できる。添加量としては特に限定されず、用いる培地または細胞によって適宜選択することができる。前記培地も動物細胞培養用培地であれば特に限定されることはなく、また、血清や抗生物質、成長・増殖に関わる因子等をさらに適宜含んだものであってもよい。
【実施例】
【0046】
次に本発明について実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明はこのような実施例にのみによって限定されるものではない。
なお特にことわらない限り、「%」は、「質量%」を意味する。
【0047】
[作製例1]
<水溶性FGF−5タンパク質(gphm−hFGF−5(21−242)−His)の調製>
GRP−tagおよびHis−tagが結合したFGF−5タンパク質(GRP−3C−hFGF−5(21−242)−His)を作製し、さらにGRP−tagを外すことで水溶性の高いFGF−5タンパク質である、gphm−hFGF−5(21−242)−Hisを調製した。
具体的にはGRP−3C−hFGF−5(21−242)−Hisの発現プラスミドを構築し、大腸菌BL21(DE3)pLysSにおいて発現させ、Niキレートアフィニティクロマトグラフィーおよびヘパリンアフィニティカラムクロマトグラフィーにより、His−tagを有する水溶性FGF−5タンパク質を調製し、その後GRP−tagを外すことにより調製を行った。詳細を以下に示す。
【0048】
Inoue et al.,Gene, 96, p23-128, 1990の手法により、大腸菌BL21(DE3)pLysS(株式会社バイオダイナミクス研究所、品番:DS260)をプラスミドpET-GRP-3C-hFGF−5 (21-242)-His(Merck社、品番: 69742−3CN)により形質転換した大腸菌コロニーを、2×YT培地(50μg/mL カルベニシリン二ナトリウム塩(ナカライテスク社、品番:07129−01)および34μg/mL クロラムフェニコール(ナカライテスク社、品番:08027−14)、ならびに16mg/ml トリプシン(ナカライテスク社、品番:35640−95)、10mg/1ml Extract Yeast Dried (ナカライテスク社、品番:15838−45)、5mg/1ml 塩化ナトリウム(和光純薬工業社、品番191−01665)を含有したもの)10mL中に直接加え、37℃、170rpmの条件下で13時間振とう培養を行った。この培養液850μLにグリセロール150μLを加えて混和後、グリセロールストックとして−85℃で保存した。
【0049】
前記グリセロールストック0.01mLを、2×YT培地10mL(50μg/mL カルベニシリン二ナトリウム塩および34μg/mL クロラムフェニコールを含有したもの)に加え、37℃、170rpmの条件下で13時間振とう培養を行なうことで前培養液を作製した。この前培養液を1,680g、25℃、10分間遠心し、得られた菌体を当該組成の2×YT培地1Lに植菌した。これをさらに37℃、120rpm、2時間振とう培養を行った後、1時間で培養温度を16℃まで低下させた。
ここに、0.1M イソプロピル−β−チオガラクトピラノシド(IPTG、ナカライ社、品番19742−94)1mLを添加し(終濃度0.1mM)、16℃、120rpm、24時間振とう培養を行うことで、組換えタンパク質(GRP−3C−hFGF−5(21−242)−His)の発現誘導をおこなった。培養後の培養液を、8000rpm、4℃、5分間遠心することで菌体を回収し、−80℃で凍結保存した。
【0050】
上記凍結した菌体1gあたり、Ni−NTA洗浄バッファー(3.6mL、25units/mL、Benzonase (登録商標)nuclease (SIGMA-ALDRICH社、品番: E−1014)、50mM pH8.0 リン酸ナトリウムバッファー、300mM 塩化ナトリウム、および20mM イミダゾールを含有) に懸濁し、30分間氷冷した後、21G ニードルを2回通過させた。
この懸濁液に、さらに10% Triton X−100を含有させたNi−NTA 洗浄バッファーを菌体1gあたり0.4mL加え、30分間氷冷した後、21G ニードルを4回通過させた。この菌体破砕液を18000rpm、4℃、30分間遠心し,
得られた上清をMinisart(登録商標) NML Plusメンブレンフィルター (Sartorius社,
品番:17829K)でろ過した。
【0051】
前記濾液を金属キレートアフィニティゲル担体カラム Ni-NTA superflow (QIAGEN社、品番:30410) (直径10mm×長さ100mm、自作カラム) に流速2mL/minで添加し、Ni−NTA Lysis バッファー(50mM リン酸ナトリウムバッファー、pH8.0 300mM 塩化ナトリウム 80mL)で洗浄した。その後、20カラム容量の0−500mM イミダゾール含有Ni−NTA Lysis バッファーによるリニアグラジエント法を用いて、タンパク質(GRP−3C−hFGF−5 (21−242)−His)を溶出した。
【0052】
GRP−3C−hFGF−5(21−242)−Hisタンパク質を含む画分を、ヘパリン担体カラムHiTrap Heparin HP(ベッド容量5mL)に流速2mL/minで添加し、その後、カラムを20mM Hepes−NaOH バッファーpH7.5 50mLで洗浄した。引き続き、20カラム容量の0〜3M 塩化ナトリウム含有20mM Hepes-NaOH バッファー pH 7.5によるリニアグラジエント法を用いて、カラムに吸着していたGRP−3C−hFGF−5(21−242)−Hisを溶出した。溶出画分を、限外ろ過フィルター Amicon ultra 4 (分画分子量3000)(Merck Millipore Ltd.社、品番: UFC800324) により3000g、4℃遠心し,1.2mLまで濃縮した。そのうち0.6mLを、20mM Hepes−NaOHバッファーおよびpH 7.5 1M 塩化ナトリウムで平衡化したゲルろ過カラムSuperdex 75 10/300GL (GE Healthcare社、品番: 17-5174-01)に添加して精製した。
分取された単一ピーク画分を、精製されたGRP−3C−hFGF−5(21−242)−Hisタンパク質を含む画分として取得した。
【0053】
前記溶出画分に、Ni-NTA Lysis バッファーに懸濁した50%(v/v)カードランビーズ(ビーズ直径:75〜150μm、自作)8mLを添加後、4℃、1時間転倒混和することで、GRP−3C−hFGF−5(21−242)−Hisをカードランビーズに吸着させた。吸着後のカードランビーズは1、000g、4℃、2分間の遠心により回収した。回収したビーズをNi−NTA洗浄バッファー80mLで洗浄後、さらにNi−NTA洗浄バッファー20mLおよびGST−HRV3Cプロテアーゼ0.2mLを添加し、4℃、35時間転倒混和することでGRP−tagを切断し、gphm−hFGF−5(21−242)−Hisを取得した。1000g、4℃、2分間の遠心によって得られた上清を回収し、残ったビーズにさらにNi−NTA 洗浄バッファー 20mLを加えて転倒混和後、再び1000g、4℃、2分間の遠心によって得られた上清を、先の上清と合わせ、Minisart NML Plusメンブレンフィルターで濾過した。
前記濾液をGRP−3C−hFGF−5(21−242)−His画分を取得した際と同様の操作で、HiTrap Heparin HPカラムによるヘパリンアフィニティークロマトグラフィーおよびSuperdex 75 10/300GLカラムによるゲルろ過を行い、分取された単一ピーク画分を、精製されたgphm−hFGF−5(21−242)−Hisとして取得し、これを本実験例における水溶性FGF−5タンパク質とした。
【0054】
[実験例1]
<水溶性FGF−5の活性確認>
FGF−5に対して増殖応答性のあるFR−Ba/F3細胞(細胞表面にhFGFR1を有する)を用いて、FGF−5の添加効果を用量依存性(dose-dependence)の見地から検討した。
10%ウシ胎児血清および抗生物質(G418)を含むRPMI1640培地中に懸濁したFR−Ba/F3細胞を、96穴培養用プレートに10000細胞/ウェルで播き換え、5μg/mlのヘパリン(シグマ・アルドリッチ社製)ならびに所定の濃度に希釈したFGF−5を含むRPMI1640(富士フィルム和光純薬株式社製)培地で各ウェルの容量を100μlとし、37℃、5%CO2雰囲気下で3日間培養した。その後、各ウェルにWST−8セルカウントキット(同仁化学社製)を添加し、37℃、5%CO2雰囲気下で2時間培養して発色後、マイクロプレートリーダー(450nm)を用いて吸光度を測定し細胞増殖の様子を調べた。その結果を図1に示す。上述した手法により作成した水溶性FGF−5(グラフ内1:gphm−hFGF−5)は本研究分野で標準的なFGF−5試薬として用いられているR&D社で市販されているFGF−5(グラフ内3)に比較して有意に活性が高く、オリエンタル酵母工業株式会社にて委託製造されたFGF−5試薬(グラフ内4)と同程度の活性があった。
【0055】
[作製例2]
<核酸アプタマーのスクリーニング>
作製例1で調製したHisタグを有する水溶性FGF−5タンパク質であるgphm−hFGF−5(21−242)−His、およびランダムなDNA配列のライブラリを用いて、以下の手法によるSELEX法により核酸アプタマーのスクリーニングを行った。
鋳型DNA (株式会社ジーンデザインに合成依頼)として、5’−GGGTGTTAGCTGTTAGTATCNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNGGTACGATCAGCTAGCCCTATAGTGAGTCGTATTA−3’(Nは任意の塩基)を用い、フォワードプライマー:5’−TAATACGACTCACTATAGGGCTAGCTGATCGTACC−3’およびリバースプライマー:5’−GGGTGTTAGCTGTTAGTATC−3’(北海道システムサイエンス社)ならびに2’−F修飾したUTPとCTPおよび天然型ATPとGTPを用いて、変異型T7 RNAポリメラーゼにより37℃で5時間転写することでRNAプールを作成した。
【0056】
前記RNAプールと作製例1で調製したHisタグを有する水溶性FGF−5タンパク質であるgphm−hFGF−5(21−242)−Hisが固定化された樹脂ビーズとをSELEXバッファー(20mM Tris HCl(pH7.4)、200mM NaCl、5mM MgCl2、5mM CaCl2、0.05% TWEEN20、10% グリセロール)中で25℃、30分反応させることで、RNAプールとFGF−5の結合を行った。この際、非特異的結合を抑える競合剤として,HeparinとBSAを使用した。反応後、洗浄用バッファー(20mM Tris HCl(pH7.4)、500mM NaCl、5mM MgCl2、5mM CaCl2、0.05% TWEEN20、10% グリセロール)で非特異的に結合したRNAを洗い流した。その後,溶出バッファー(20mM Tris HCl(pH7.4)、6M 塩化グアニジニウム)でFGF−5と結合したRNAをフェノールクロロホルム処理,エタノール沈殿により回収し、プライマー(北海道システムサイエンス社に合成依頼)としてフォワードプライマー:5’−TAATACGACTCACTATAGGGCTAGCTGATCGTACC−3’、リバースプライマー:5’−GGGTGTTAGCTGTTAGTATC−3’を用いて,逆転写PCRを行い、DNAライブラリを再構築した。同様の操作を7回行い(前記樹脂ビーズとして2回目、4回目、および6回目の操作においてはTALON Magnetic Beads(クロンテック社)、1回目および5回目の操作においてはNi-NTA Agarose(株式会社キアゲン社)、3回目および7回目の操作においてはHis60 Ni Superflow Resin(クロンテック社)を用い、また、後半の洗浄バッファーには上記組成にさらに3M 尿素を加えたものを使用した)、61個のクローンを得た。
【0057】
61個のクローンの配列についてそれぞれシークエンス解析を行った。そのうち15クローンがF−02(配列番号1)の配列であることがわかった。さらに得られた61個のクローンからF−02と類似性のあるモチーフを有すること、配列の保存性および二次構造の予測に基づいたFGF−5との結合活性等の観点から、重要と思われる37クローン(F−02を含め11配列)を抽出した。抽出した各アプタマー(F−02(配列番号1)およびこれに類似するF−58(配列番号2)、F−33(配列番号3)、F−05(配列番号4)およびこれに類似するF−06(配列番号5)、F−18(配列番号6)、F−14(配列番号7)、F−19(配列番号8)およびこれに類似するF−46(配列番号9)、F−52(配列番号10)、ならびにF−39(配列番号11))の配列と出現頻度(Frequency)を図2に示す。四角で囲まれた塩基が共通配列(上述した配列A〜C)である。F−58とF−33の二重下線はF−02と異なる塩基、F−06の二重下線はF−05と異なる塩基、F−46の二重下線はF−19と異なる塩基を示す。また、それぞれの配列においてシトシンおよびウラシルがフッ素化されていることを明示した配列を図3に示す。該図においてC(F)はフッ素化したシトシンを、U(F)はフッ素化したウラシルを示す。
【0058】
F−02(配列番号1)の鋳型DNAを北海道システムサイエンス社において短鎖化し、該短鎖化した鋳型DNAならびに2’−F修飾したUTPとCTPおよび天然型ATPとGTPを用いて転写反応を行うことでF−02を短鎖化したF−02−52(配列番号13)、F−02−42(配列番号14)、F−02−40(配列番号15)、F−02−56(配列番号16)を作成し、また同様の方法でF−18を短鎖化したF−18−56(配列番号17)を作成した。それぞれの配列を図4(A)に示す。なお、実験例7において示されるように、F−02−40(配列番号15)、F−02−42(配列番号14)は本発明の効果は奏さないことから比較例として用いられる。また、それぞれの配列においてシトシンおよびウラシルがフッ素化されていることを明示した配列を図4(B)に示す。該図においてC(F)はフッ素化したシトシンを、U(F)はフッ素化したウラシルを示す。
【0059】
主なアプタマー、およびF−02を短鎖化したF−02−52について、フリーツール「mfold」を用いた二次構造予測を図5に示す((A)F−02(配列番号1)、(B)F−05(配列番号4)、(C)F−14(配列番号7)、(D)F−18(配列番号6)、(E)F−19(配列番号8)、(F)F−39(配列番11)、(G)F−52(配列番号10)、(H)F−02−52(配列番号13))。
また、前記配列F−02および該配列を短鎖化したF−02−52(配列番号13)について、千葉工業大学により行われた同配列の二次構造予測を図6に示す。
[実験例2]
【0060】
<アプタマーと水溶性FGF−5タンパク質との結合能>
Electrophoresis Mobility Shift Assay (EMSA)により核酸アプタマーのヒトFGF−5結合能の解析を試みた。作製例2で作製した0.3μMの各アプタマーと作製例1で作製した水溶性FGF−5をモル比1:1で混和し、SELEXバッファー中で25℃で30分置いた後、10%非変性PAGE(native PAGE)を行った。100Vで40分電気泳動を行った後、CYBR Goldで染色した。染色図を図7に示す。
前記共通配列(配列A〜C)を持つアプタマーは(F−02、F−05、F−14、F−18、F−19、F−39、F−52)、FGF−5タンパク質を加えるとFGF−5タンパク質と結合することが確認されたが、共通配列を持たないアプタマー(F−51)ではFGF−5タンパク質との結合は見られなかった。
また、得られたアプタマーのうち、特にF−02、F−05、F−14およびF−18がFGF−5と高い特異性で相互作用することがわかる。
【0061】
[実験例3]
<アプタマーF−02と水溶性FGF−5タンパク質との結合能-1>
SPRシグナルを利用したBiacore(商標)システムである、BiacoreX(GE Healthcare社)を用いて、作製例1で作製したアプタマーであるF−02とFGF−5との結合の評価を行った。
ストレプトアビジンが固定化されているセンサーチップにビオチンを付加したpolydT(16塩基)を固定化し、PCRにより作製したpolyA(16塩基)を付加したアプタマーを、前記センサーチップ上のpolydTに結合させることで、アプタマーをセンサーチップに固定した。
チップへの非特異的な結合を抑えるために4μg/mlのヘパリンをSELEXバッファーと同様の組成のバッファーに加え、当該バッファーで100nMに調製したFGF−5をシステム内にインジェクションした。FGF−5と、同量のF−02またはランダムな配列を有するRNA(RNAプール)とを反応させて分子間相互作用量(Response unit価:RU)を計測した。その結果、F−02とFGF−5とを反応させた結果においては、FGF−5とRNAプールとを反応させた場合に比べて、Response unit価は優位に高く、したがってFGF−5はF−02と特異的に結合するということが判った。結果を図8に示す。
【0062】
[実験例4]
<アプタマーF−02とFGFファミリータンパク質との結合能-2>
実験例3と同様の手法でアプタマーF−02をセンサーチップに固定化し、100nMに調製したFGF−5、FGF−1、FGF−2、FGF−4、およびFGF−6(発明者作製またはR&Dシステムズ社製)をそれぞれシステム内にインジェクションして、FGF−5とF−02、FGF−1とF−02、FGF−2とF−02、FGF−4とF−02、および、FGF−6とF−02との間の分子間相互作用量(Response unit価:RU)を計測した。その結果、FGF−1、FGF−2、FGF−4、および、FGF−6を反応させた場合に比べて、FGF−5を反応させたときのResponse unit価は有意に高く、したがってFGF−5はF−02と特異的に結合する一方、FGF−1、FGF−2、FGF−4、および、FGF−6はF−02とは結合しないということが判った。結果を図9に示す。このうち、FGF−4とFGF−6は、FGF−5は同じサブファミリーに属しており、立体構造的に特に近いとされるこれらFGFファミリータンパク質と比較しても、F−02のFGF−5に対する特異性は高いことが判った。
【0063】
[実験例5]
<アプタマーF−02と水溶性FGF−5タンパク質との結合能-3>
アプタマーF−02について、水溶性FGF−5との解離定数を求めた。実験例3と同様の手法でアプタマーF−02をセンサーチップに固定化し、2.5〜20nMに調製したFGF−5をシステム内にインジェクションして、FGF−5とF−02の間の分子間相互作用量(Response unit価:RU)を計測した(図10)。BiacoreXに付属のソフトウエアBIA evaluation を用いて,Langmuir (1:1)結合モードで解離定数を算出し、0.28±0.04nMという値を得た。
【0064】
[実験例6]
<FGF−5依存的細胞増殖への影響>
FGF−5はFGFR1と結合して相互作用することで、FGFR1を発現している細胞を増殖させることが知られている。FGFR1を発現するNIH3T3細胞(マウス胎児線維芽細胞)を用いて、それぞれの核酸アプタマーによるFGF−5依存的細胞増殖阻害能を確認した。アプタマーの用量は希釈倍率を変えて少なくとも数点設定し、添加効果を用量依存性(dose-dependence)の観点から検討した。
【0065】
96穴培養用プレートに、NIH3T3細胞を5000細胞/ウェルで播き換え、10%血清および抗生物質を含むD−MEM培地中で37℃、5%CO2雰囲気下、1日培養した後、ウェル内の上清を除去し、100μl/ウェルのPBSで洗浄および除去した。
50ng/mlのインスリン(富士フィルム和光純薬株式会社製)、5μg/mlのヘパリン(シグマ・アルドリッチ社製、事前に25mg/mlのPBS溶液を調製)を含む無血清DMEM(富士フィルム和光純薬株式会社製)培地に、終濃度3nMとなるようにFGF−5(R&Dシステムズ社製、事前に100μg/mlのPBS溶液を調製)を添加し、さらに各濃度になるように各アプタマーを添加して、各ウェルの容量を100μlとした(コントロールとしては、FGF−5およびヘパリンを含まないPBSを添加した培地を用いた)。37℃、5%CO2雰囲気下で2日間培養した後、各ウェルにWST−8セルカウントキット(同仁化学社製)を添加し、37℃、5%CO2雰囲気下で2時間培養して発色後、マイクロプレートリーダー(450nm)を用いて吸光度を測定し細胞増殖について確認した。その結果を図11に示す。FGF−5を培地に添加していないコントロール(PBS)ではいずれも細胞の増殖は見られない。一方、FGF−5を培地に添加したもの(FGF−5 3nM)においては、F−02、F−05、F−14、F−18、F−19、F−39、およびF−52のアプタマーによって、用量依存的に細胞が減少していることが確認されたが、共通配列を持たないアプタマー(F−51)についてはFGF−5依存的細胞増殖におけるアプタマーの影響は観察できなかった。
したがって、これらの共通配列を有するアプタマーはFGF−5に結合することでNIH3T3細胞の増殖を阻害していることが推測される。
【0066】
表1は上記実験による各アプタマーの性能をまとめたものあり、ここでIC50(50%阻害濃度)とは、アプタマー無添加時の50%まで細胞増殖を阻害するときのアプタマー濃度を示す。上記共通配列(配列A〜C)を持つアプタマー(F−02、F−05、F−14、F−18、F−19、F−39、F−52)はいずれもIC50値は10nM以下という、低い濃度で細胞増殖阻害効果があることが明らかとなった(表1中欄)。また、表1右欄はIC50(モル濃度)をFGF−5モル濃度で割った値を示している。比較的FGF−5との結合能が弱いF−19およびF−39(実験例2および図7参照)を除いたアプタマーについてはいずれも当該数値は2〜3という小さな値を示しており、FGF−5と各アプタマーとの良好な結合状態を示唆している。
ここまでの結果から、細胞増殖阻害効果を示すアプタマーはFGF−5と結合することで、FGF−5とその受容体であるFGFR1との結合を阻害することで細胞増殖阻害効果を示すということが示唆される。
【表2】
【0067】
[比較例1]
<ランダムアプタマーによるFGF−5依存的細胞増殖への影響>
ランダムな核酸配列を有するRNAアプタマー(ランダムアプタマー)による、FGF−2またはFGF−5依存的細胞増殖阻害能を確認した。FGF−5試験区に加えて、FGF−5と同様にFGFR1と結合して相互作用することでFGFR1を発現している細胞を増殖させることが知られているFGFファミリータンパク質の一つであるFGF−2(終濃度0.1nM:R&Dシステムズ社製、事前に100μg/mlのPBS溶液を調製)試験区、および、FGF−5およびFGF−2を含まないPBSをコントロール試験区とし、実験例6で用いたアプタマーをランダムアプタマーに変えたこと以外は実験例6と同じ手法で細胞を培養し、FGF−2またはFGF−5依存的細胞増殖度を測定した。結果を図12に示す。
その結果、ランダムアプタマーの量に関わらず、FGF−2またはFGF−5依存的細胞増殖度に影響はなく、したがって、ランダムアプタマーではFGF−2またはFGF−5依存的細胞増殖の阻害は引き起こされないことが示唆された。
【0068】
[比較例2]
<FGF−2依存的細胞増殖阻害への影響>
上述したようにFGFファミリータンパク質の一つであるFGF−2もFGFR1と結合して相互作用することで、FGFR1を発現している細胞を増殖させることが知られている。
FGF−5の代わりにFGF−2(終濃度0.1nM:R&Dシステムズ社製)を用いる他は実験例6と同じ手法で細胞を培養し、FGF−2依存的細胞増殖度を測定した。
その結果、アプタマーの有無に関わらず、NIH3T3細胞の増殖度に影響はなく、したがって、各核酸アプタマーによるFGF−2依存的細胞増殖の阻害は観察されなかった(図13)。
【0069】
[比較例3]
<FGF−1依存的細胞増殖阻害への影響>
FGFファミリータンパク質の一つであるFGF−1も、FGF−5やFGF−2と同様にFGFR1と結合して相互作用することで、FGFR1を発現している細胞を増殖させることが知られている。アプタマーF−02による、FGF−1依存的細胞増殖能を確認した。
FGF−5(終濃度3nM:R&Dシステムズ社製)またはFGF−1(終濃度0.1nM:R&Dシステムズ社製)を用いて、実験例6と同様と同じ手法で細胞を培養し、細胞増殖度を測定した。その結果、実験例6と同様に、F−02はFGF−5依存的細胞増殖を阻害していることが確認できたが、FGF−1依存的細胞増殖は阻害しなかった(図14)。
以上、実験例6および比較例2および3の結果から、F−02はFGF−5依存的細胞増殖能を阻害する一方で、FGF−5と共通の受容体と相互作用するFGF−2およびFGF−1依存的細胞増殖は阻害しないということが判り、ここから、アプタマーF−02はFGF−5と特異的に結合することが示唆される。
【0070】
[実験例7]
<短鎖化アプタマーによるFGF−5依存的細胞増殖阻害への影響>
さらに、核酸アプタマーを短鎖化したものを用いて同様の実験を行い、FGF−5依存的細胞増殖阻害能が維持されるかどうかを確認した。
F−02(配列番号1)およびF−18(配列番号6)の鋳型DNAを北海道システムサイエンス社において短鎖化し、該短鎖化した鋳型DNAを用いて転写反応を行うことで、短鎖化したアプタマーF−02−40(配列番号15)、F−02−42(配列番号14)、F−02−52(配列番号13)、F−02−56(配列番号16)、F−18−56(配列番号17))を調製した。なお、いずれの短鎖化アプタマーも共通配列A〜Cを有していることが確認された。これらを用いてFGF−5(R&Dシステムズ社製)との結合能について調べたところ、F−02−40(配列番号15)、F−02−42(配列番号14)のみFGF−5との結合が確認できなかった。さらに各アプタマーについてFGF−5依存的細胞増殖阻害能を調べた結果、F−02−40(配列番号15)、F−02−42(配列番号14)に関しては、FGF−5依存的細胞増殖阻害はなかったが、F−02−52(配列番号13)、F−02−56(配列番号16)、F18−56(配列番号17)にはFGF−5依存的細胞増殖阻害能があった(図15)。したがってFGF−5との結合がFGF−5依存的細胞増殖阻害能にとって必要だといえる。また、F−02−40(配列番号15)、F−02−42(配列番号14)が共通配列を有しているにも関わらずFGF−5との結合およびFGF−5依存的細胞増殖阻害能が確認できなかった理由としては、当該配列が他のアプタマーよりも短いため、FGF−5との結合に必要な構造をとれず、その結果FGF−5依存的細胞増殖阻害能を奏し得なかったのではないかと推測できる。
【0071】
[実験例8]
<毛乳頭細胞のアルカリホスファターゼ(ALP)発現解析>
アルカリホスファターゼ(ALP)は毛包で発現する毛包誘導マーカーであり、発毛誘導能を含む毛乳頭細胞の活性の指標となることが知られている。
12穴培養用プレートに、ヒト毛乳頭細胞(Human Follicle Dermal Papilla Cells(HFDPC細胞):PromoCell社製)を50000細胞/ウェルで播き、10%ウシ胎児血清、20ng/mlのWnt−3a、および抗生物質(100units/mlペニシリンおよび100μg/mlストレプトマイシン)を含むD−MEM培地中で37℃、5%CO2雰囲気下、培養した。3日後、ウェル内の培養上清を除去し、1ml/ウェルのPBSを用いて洗浄しPBSを除去した。
これに2% B−27サプリメント(Gibco社製)、5μg/mlのヘパリン(シグマ・アルドリッチ社製)を含むD−MEM(富士フィルム和光純薬株式会社製)培地で終濃度3nMになるように希釈したFGF−5タンパク質(R&Dシステムズ社製)、または、2%B−27サプリメントを含むD−MEM培地で希釈したPBS(FGF−5タンパク質のベヒクル)を添加した。
【0072】
各ウェルに2% B−27サプリメントを含むD−MEM培地で終濃度10nMになるように希釈したアプタマーF−02(実施例)、2%B−27サプリメントを含むD−MEM培地で希釈したPBS(無添加区)、および2%B−27サプリメントを含むD−MEM培地で終濃度10nMに希釈したRandom Aptamer(参考例)をそれぞれ添加して各ウェルの容量を1mlとし、37℃、5%CO2雰囲気下で3日間培養した。その後、各ウェル内の培養上清を除去し、1mL/ウェルのPBSで洗浄しPBSを除去した。
【0073】
各ウェル内に接着したヒト毛乳頭細胞からRneasy Mini Kit(Qiagen社製)を用いてRNAを抽出した。さらに抽出したRNAをRiverTraAce‐α‐(東洋紡社製)を用いて逆転写しcDNAを得た。得られた各cDNAについて定量PCRを行い、ALP遺伝子に対するCyclic Threshold(Ct)値をもとめた。このとき併せてハウスキーピング遺伝子であるβ−アクチンのCt値をもとめ、両者のCt値を用いてΔΔCt法によりALP遺伝子転写量の相対定量値を算出した。その結果を図16に示す。
【0074】
無添加区および参考例においてはFGF−5を添加することによってALPの転写量は有意に減少したが、アプタマーF−02を加えた細胞についてはALPの転写量に変化は見られなかった。このことはアプタマーF−02がFGF−5の活性を抑制することで、FGF−5によるALPの転写抑制が抑えられることを示しており、FGF−5の存在下においても毛乳頭細胞が活性し得ることを示唆している。
【0075】
(考察)
上述したように、FGF−5タンパク質はその受容体であるFGFR1を介して、毛の成長を阻害し、ヘアサイクルを成長期から退行期へ移行させる作用を有していることが知られていた。
本発明のアプタマーはFGF−5に対して特異的に結合することで、FGF−5とFGFR1との結合を阻害することが明らかになった。その結果、本発明のアプタマーはFGF−5とFGFR1との間のシグナル伝達を抑制することができ、その結果毛周期の成長期を継続させることで、脱毛抑制効果を奏することが期待できる。実際にアプタマーF−02を加えた毛乳頭細胞を用いた実験においては毛包で発現する毛包誘導マーカーであるALPのFGF−5による発現抑制を抑える効果が示唆されていることから、当該アプタマーについての脱毛抑制効果はさらに強く示唆される。また、各アプタマーについて、短鎖化を行うことで、より脱毛抑制について好適化されたアプタマーを取得することができることから、該アプタマーを含有する育毛活性剤、育毛剤組成物、および医薬品などの開発に応用することが期待できる。
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]