【実施例】
【0046】
次に本発明について実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明はこのような実施例にのみによって限定されるものではない。
なお特にことわらない限り、「%」は、「質量%」を意味する。
【0047】
[作製例1]
<水溶性FGF−5タンパク質(gphm−hFGF−5(21−242)−His)の調製>
GRP−tagおよびHis−tagが結合したFGF−5タンパク質(GRP−3C−hFGF−5(21−242)−His)を作製し、さらにGRP−tagを外すことで水溶性の高いFGF−5タンパク質である、gphm−hFGF−5(21−242)−Hisを調製した。
具体的にはGRP−3C−hFGF−5(21−242)−Hisの発現プラスミドを構築し、大腸菌BL21(DE3)pLysSにおいて発現させ、Niキレートアフィニティクロマトグラフィーおよびヘパリンアフィニティカラムクロマトグラフィーにより、His−tagを有する水溶性FGF−5タンパク質を調製し、その後GRP−tagを外すことにより調製を行った。詳細を以下に示す。
【0048】
Inoue et al.,Gene, 96, p23-128, 1990の手法により、大腸菌BL21(DE3)pLysS(株式会社バイオダイナミクス研究所、品番:DS260)をプラスミドpET-GRP-3C-hFGF−5 (21-242)-His(Merck社、品番: 69742−3CN)により形質転換した大腸菌コロニーを、2×YT培地(50μg/mL カルベニシリン二ナトリウム塩(ナカライテスク社、品番:07129−01)および34μg/mL クロラムフェニコール(ナカライテスク社、品番:08027−14)、ならびに16mg/ml トリプシン(ナカライテスク社、品番:35640−95)、10mg/1ml Extract Yeast Dried (ナカライテスク社、品番:15838−45)、5mg/1ml 塩化ナトリウム(和光純薬工業社、品番191−01665)を含有したもの)10mL中に直接加え、37℃、170rpmの条件下で13時間振とう培養を行った。この培養液850μLにグリセロール150μLを加えて混和後、グリセロールストックとして−85℃で保存した。
【0049】
前記グリセロールストック0.01mLを、2×YT培地10mL(50μg/mL カルベニシリン二ナトリウム塩および34μg/mL クロラムフェニコールを含有したもの)に加え、37℃、170rpmの条件下で13時間振とう培養を行なうことで前培養液を作製した。この前培養液を1,680g、25℃、10分間遠心し、得られた菌体を当該組成の2×YT培地1Lに植菌した。これをさらに37℃、120rpm、2時間振とう培養を行った後、1時間で培養温度を16℃まで低下させた。
ここに、0.1M イソプロピル−β−チオガラクトピラノシド(IPTG、ナカライ社、品番19742−94)1mLを添加し(終濃度0.1mM)、16℃、120rpm、24時間振とう培養を行うことで、組換えタンパク質(GRP−3C−hFGF−5(21−242)−His)の発現誘導をおこなった。培養後の培養液を、8000rpm、4℃、5分間遠心することで菌体を回収し、−80℃で凍結保存した。
【0050】
上記凍結した菌体1gあたり、Ni−NTA洗浄バッファー(3.6mL、25units/mL、Benzonase (登録商標)nuclease (SIGMA-ALDRICH社、品番: E−1014)、50mM pH8.0 リン酸ナトリウムバッファー、300mM 塩化ナトリウム、および20mM イミダゾールを含有) に懸濁し、30分間氷冷した後、21G ニードルを2回通過させた。
この懸濁液に、さらに10% Triton X−100を含有させたNi−NTA 洗浄バッファーを菌体1gあたり0.4mL加え、30分間氷冷した後、21G ニードルを4回通過させた。この菌体破砕液を18000rpm、4℃、30分間遠心し,
得られた上清をMinisart(登録商標) NML Plusメンブレンフィルター (Sartorius社,
品番:17829K)でろ過した。
【0051】
前記濾液を金属キレートアフィニティゲル担体カラム Ni-NTA superflow (QIAGEN社、品番:30410) (直径10mm×長さ100mm、自作カラム) に流速2mL/minで添加し、Ni−NTA Lysis バッファー(50mM リン酸ナトリウムバッファー、pH8.0 300mM 塩化ナトリウム 80mL)で洗浄した。その後、20カラム容量の0−500mM イミダゾール含有Ni−NTA Lysis バッファーによるリニアグラジエント法を用いて、タンパク質(GRP−3C−hFGF−5 (21−242)−His)を溶出した。
【0052】
GRP−3C−hFGF−5(21−242)−Hisタンパク質を含む画分を、ヘパリン担体カラムHiTrap Heparin HP(ベッド容量5mL)に流速2mL/minで添加し、その後、カラムを20mM Hepes−NaOH バッファーpH7.5 50mLで洗浄した。引き続き、20カラム容量の0〜3M 塩化ナトリウム含有20mM Hepes-NaOH バッファー pH 7.5によるリニアグラジエント法を用いて、カラムに吸着していたGRP−3C−hFGF−5(21−242)−Hisを溶出した。溶出画分を、限外ろ過フィルター Amicon ultra 4 (分画分子量3000)(Merck Millipore Ltd.社、品番: UFC800324) により3000g、4℃遠心し,1.2mLまで濃縮した。そのうち0.6mLを、20mM Hepes−NaOHバッファーおよびpH 7.5 1M 塩化ナトリウムで平衡化したゲルろ過カラムSuperdex 75 10/300GL (GE Healthcare社、品番: 17-5174-01)に添加して精製した。
分取された単一ピーク画分を、精製されたGRP−3C−hFGF−5(21−242)−Hisタンパク質を含む画分として取得した。
【0053】
前記溶出画分に、Ni-NTA Lysis バッファーに懸濁した50%(v/v)カードランビーズ(ビーズ直径:75〜150μm、自作)8mLを添加後、4℃、1時間転倒混和することで、GRP−3C−hFGF−5(21−242)−Hisをカードランビーズに吸着させた。吸着後のカードランビーズは1、000g、4℃、2分間の遠心により回収した。回収したビーズをNi−NTA洗浄バッファー80mLで洗浄後、さらにNi−NTA洗浄バッファー20mLおよびGST−HRV3Cプロテアーゼ0.2mLを添加し、4℃、35時間転倒混和することでGRP−tagを切断し、gphm−hFGF−5(21−242)−Hisを取得した。1000g、4℃、2分間の遠心によって得られた上清を回収し、残ったビーズにさらにNi−NTA 洗浄バッファー 20mLを加えて転倒混和後、再び1000g、4℃、2分間の遠心によって得られた上清を、先の上清と合わせ、Minisart NML Plusメンブレンフィルターで濾過した。
前記濾液をGRP−3C−hFGF−5(21−242)−His画分を取得した際と同様の操作で、HiTrap Heparin HPカラムによるヘパリンアフィニティークロマトグラフィーおよびSuperdex 75 10/300GLカラムによるゲルろ過を行い、分取された単一ピーク画分を、精製されたgphm−hFGF−5(21−242)−Hisとして取得し、これを本実験例における水溶性FGF−5タンパク質とした。
【0054】
[実験例1]
<水溶性FGF−5の活性確認>
FGF−5に対して増殖応答性のあるFR−Ba/F3細胞(細胞表面にhFGFR1を有する)を用いて、FGF−5の添加効果を用量依存性(dose-dependence)の見地から検討した。
10%ウシ胎児血清および抗生物質(G418)を含むRPMI1640培地中に懸濁したFR−Ba/F3細胞を、96穴培養用プレートに10000細胞/ウェルで播き換え、5μg/mlのヘパリン(シグマ・アルドリッチ社製)ならびに所定の濃度に希釈したFGF−5を含むRPMI1640(富士フィルム和光純薬株式社製)培地で各ウェルの容量を100μlとし、37℃、5%CO
2雰囲気下で3日間培養した。その後、各ウェルにWST−8セルカウントキット(同仁化学社製)を添加し、37℃、5%CO
2雰囲気下で2時間培養して発色後、マイクロプレートリーダー(450nm)を用いて吸光度を測定し細胞増殖の様子を調べた。その結果を
図1に示す。上述した手法により作成した水溶性FGF−5(グラフ内1:gphm−hFGF−5)は本研究分野で標準的なFGF−5試薬として用いられているR&D社で市販されているFGF−5(グラフ内3)に比較して有意に活性が高く、オリエンタル酵母工業株式会社にて委託製造されたFGF−5試薬(グラフ内4)と同程度の活性があった。
【0055】
[作製例2]
<核酸アプタマーのスクリーニング>
作製例1で調製したHisタグを有する水溶性FGF−5タンパク質であるgphm−hFGF−5(21−242)−His、およびランダムなDNA配列のライブラリを用いて、以下の手法によるSELEX法により核酸アプタマーのスクリーニングを行った。
鋳型DNA (株式会社ジーンデザインに合成依頼)として、5’−GGGTGTTAGCTGTTAGTATCNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNGGTACGATCAGCTAGCCCTATAGTGAGTCGTATTA−3’(Nは任意の塩基)を用い、フォワードプライマー:5’−TAATACGACTCACTATAGGGCTAGCTGATCGTACC−3’およびリバースプライマー:5’−GGGTGTTAGCTGTTAGTATC−3’(北海道システムサイエンス社)ならびに2’−F修飾したUTPとCTPおよび天然型ATPとGTPを用いて、変異型T7 RNAポリメラーゼにより37℃で5時間転写することでRNAプールを作成した。
【0056】
前記RNAプールと作製例1で調製したHisタグを有する水溶性FGF−5タンパク質であるgphm−hFGF−5(21−242)−Hisが固定化された樹脂ビーズとをSELEXバッファー(20mM Tris HCl(pH7.4)、200mM NaCl、5mM MgCl
2、5mM CaCl
2、0.05% TWEEN20、10% グリセロール)中で25℃、30分反応させることで、RNAプールとFGF−5の結合を行った。この際、非特異的結合を抑える競合剤として,HeparinとBSAを使用した。反応後、洗浄用バッファー(20mM Tris HCl(pH7.4)、500mM NaCl、5mM MgCl
2、5mM CaCl
2、0.05% TWEEN20、10% グリセロール)で非特異的に結合したRNAを洗い流した。その後,溶出バッファー(20mM Tris HCl(pH7.4)、6M 塩化グアニジニウム)でFGF−5と結合したRNAをフェノールクロロホルム処理,エタノール沈殿により回収し、プライマー(北海道システムサイエンス社に合成依頼)としてフォワードプライマー:5’−TAATACGACTCACTATAGGGCTAGCTGATCGTACC−3’、リバースプライマー:5’−GGGTGTTAGCTGTTAGTATC−3’を用いて,逆転写PCRを行い、DNAライブラリを再構築した。同様の操作を7回行い(前記樹脂ビーズとして2回目、4回目、および6回目の操作においてはTALON Magnetic Beads(クロンテック社)、1回目および5回目の操作においてはNi-NTA Agarose(株式会社キアゲン社)、3回目および7回目の操作においてはHis60 Ni Superflow Resin(クロンテック社)を用い、また、後半の洗浄バッファーには上記組成にさらに3M 尿素を加えたものを使用した)、61個のクローンを得た。
【0057】
61個のクローンの配列についてそれぞれシークエンス解析を行った。そのうち15クローンがF−02(配列番号1)の配列であることがわかった。さらに得られた61個のクローンからF−02と類似性のあるモチーフを有すること、配列の保存性および二次構造の予測に基づいたFGF−5との結合活性等の観点から、重要と思われる37クローン(F−02を含め11配列)を抽出した。抽出した各アプタマー(F−02(配列番号1)およびこれに類似するF−58(配列番号2)、F−33(配列番号3)、F−05(配列番号4)およびこれに類似するF−06(配列番号5)、F−18(配列番号6)、F−14(配列番号7)、F−19(配列番号8)およびこれに類似するF−46(配列番号9)、F−52(配列番号10)、ならびにF−39(配列番号11))の配列と出現頻度(Frequency)を
図2に示す。四角で囲まれた塩基が共通配列(上述した配列A〜C)である。F−58とF−33の二重下線はF−02と異なる塩基、F−06の二重下線はF−05と異なる塩基、F−46の二重下線はF−19と異なる塩基を示す。また、それぞれの配列においてシトシンおよびウラシルがフッ素化されていることを明示した配列を
図3に示す。該図においてC(F)はフッ素化したシトシンを、U(F)はフッ素化したウラシルを示す。
【0058】
F−02(配列番号1)の鋳型DNAを北海道システムサイエンス社において短鎖化し、該短鎖化した鋳型DNAならびに2’−F修飾したUTPとCTPおよび天然型ATPとGTPを用いて転写反応を行うことでF−02を短鎖化したF−02−52(配列番号13)、F−02−42(配列番号14)、F−02−40(配列番号15)、F−02−56(配列番号16)を作成し、また同様の方法でF−18を短鎖化したF−18−56(配列番号17)を作成した。それぞれの配列を
図4(A)に示す。なお、実験例7において示されるように、F−02−40(配列番号15)、F−02−42(配列番号14)は本発明の効果は奏さないことから比較例として用いられる。また、それぞれの配列においてシトシンおよびウラシルがフッ素化されていることを明示した配列を
図4(B)に示す。該図においてC(F)はフッ素化したシトシンを、U(F)はフッ素化したウラシルを示す。
【0059】
主なアプタマー、およびF−02を短鎖化したF−02−52について、フリーツール「mfold」を用いた二次構造予測を
図5に示す((A)F−02(配列番号1)、(B)F−05(配列番号4)、(C)F−14(配列番号7)、(D)F−18(配列番号6)、(E)F−19(配列番号8)、(F)F−39(配列番11)、(G)F−52(配列番号10)、(H)F−02−52(配列番号13))。
また、前記配列F−02および該配列を短鎖化したF−02−52(配列番号13)について、千葉工業大学により行われた同配列の二次構造予測を
図6に示す。
[実験例2]
【0060】
<アプタマーと水溶性FGF−5タンパク質との結合能>
Electrophoresis Mobility Shift Assay (EMSA)により核酸アプタマーのヒトFGF−5結合能の解析を試みた。作製例2で作製した0.3μMの各アプタマーと作製例1で作製した水溶性FGF−5をモル比1:1で混和し、SELEXバッファー中で25℃で30分置いた後、10%非変性PAGE(native PAGE)を行った。100Vで40分電気泳動を行った後、CYBR Goldで染色した。染色図を
図7に示す。
前記共通配列(配列A〜C)を持つアプタマーは(F−02、F−05、F−14、F−18、F−19、F−39、F−52)、FGF−5タンパク質を加えるとFGF−5タンパク質と結合することが確認されたが、共通配列を持たないアプタマー(F−51)ではFGF−5タンパク質との結合は見られなかった。
また、得られたアプタマーのうち、特にF−02、F−05、F−14およびF−18がFGF−5と高い特異性で相互作用することがわかる。
【0061】
[実験例3]
<アプタマーF−02と水溶性FGF−5タンパク質との結合能-1>
SPRシグナルを利用したBiacore(商標)システムである、BiacoreX(GE Healthcare社)を用いて、作製例1で作製したアプタマーであるF−02とFGF−5との結合の評価を行った。
ストレプトアビジンが固定化されているセンサーチップにビオチンを付加したpolydT(16塩基)を固定化し、PCRにより作製したpolyA(16塩基)を付加したアプタマーを、前記センサーチップ上のpolydTに結合させることで、アプタマーをセンサーチップに固定した。
チップへの非特異的な結合を抑えるために4μg/mlのヘパリンをSELEXバッファーと同様の組成のバッファーに加え、当該バッファーで100nMに調製したFGF−5をシステム内にインジェクションした。FGF−5と、同量のF−02またはランダムな配列を有するRNA(RNAプール)とを反応させて分子間相互作用量(Response unit価:RU)を計測した。その結果、F−02とFGF−5とを反応させた結果においては、FGF−5とRNAプールとを反応させた場合に比べて、Response unit価は優位に高く、したがってFGF−5はF−02と特異的に結合するということが判った。結果を
図8に示す。
【0062】
[実験例4]
<アプタマーF−02とFGFファミリータンパク質との結合能-2>
実験例3と同様の手法でアプタマーF−02をセンサーチップに固定化し、100nMに調製したFGF−5、FGF−1、FGF−2、FGF−4、およびFGF−6(発明者作製またはR&Dシステムズ社製)をそれぞれシステム内にインジェクションして、FGF−5とF−02、FGF−1とF−02、FGF−2とF−02、FGF−4とF−02、および、FGF−6とF−02との間の分子間相互作用量(Response unit価:RU)を計測した。その結果、FGF−1、FGF−2、FGF−4、および、FGF−6を反応させた場合に比べて、FGF−5を反応させたときのResponse unit価は有意に高く、したがってFGF−5はF−02と特異的に結合する一方、FGF−1、FGF−2、FGF−4、および、FGF−6はF−02とは結合しないということが判った。結果を
図9に示す。このうち、FGF−4とFGF−6は、FGF−5は同じサブファミリーに属しており、立体構造的に特に近いとされるこれらFGFファミリータンパク質と比較しても、F−02のFGF−5に対する特異性は高いことが判った。
【0063】
[実験例5]
<アプタマーF−02と水溶性FGF−5タンパク質との結合能-3>
アプタマーF−02について、水溶性FGF−5との解離定数を求めた。実験例3と同様の手法でアプタマーF−02をセンサーチップに固定化し、2.5〜20nMに調製したFGF−5をシステム内にインジェクションして、FGF−5とF−02の間の分子間相互作用量(Response unit価:RU)を計測した(
図10)。BiacoreXに付属のソフトウエアBIA evaluation を用いて,Langmuir (1:1)結合モードで解離定数を算出し、0.28±0.04nMという値を得た。
【0064】
[実験例6]
<FGF−5依存的細胞増殖への影響>
FGF−5はFGFR1と結合して相互作用することで、FGFR1を発現している細胞を増殖させることが知られている。FGFR1を発現するNIH3T3細胞(マウス胎児線維芽細胞)を用いて、それぞれの核酸アプタマーによるFGF−5依存的細胞増殖阻害能を確認した。アプタマーの用量は希釈倍率を変えて少なくとも数点設定し、添加効果を用量依存性(dose-dependence)の観点から検討した。
【0065】
96穴培養用プレートに、NIH3T3細胞を5000細胞/ウェルで播き換え、10%血清および抗生物質を含むD−MEM培地中で37℃、5%CO
2雰囲気下、1日培養した後、ウェル内の上清を除去し、100μl/ウェルのPBSで洗浄および除去した。
50ng/mlのインスリン(富士フィルム和光純薬株式会社製)、5μg/mlのヘパリン(シグマ・アルドリッチ社製、事前に25mg/mlのPBS溶液を調製)を含む無血清DMEM(富士フィルム和光純薬株式会社製)培地に、終濃度3nMとなるようにFGF−5(R&Dシステムズ社製、事前に100μg/mlのPBS溶液を調製)を添加し、さらに各濃度になるように各アプタマーを添加して、各ウェルの容量を100μlとした(コントロールとしては、FGF−5およびヘパリンを含まないPBSを添加した培地を用いた)。37℃、5%CO
2雰囲気下で2日間培養した後、各ウェルにWST−8セルカウントキット(同仁化学社製)を添加し、37℃、5%CO
2雰囲気下で2時間培養して発色後、マイクロプレートリーダー(450nm)を用いて吸光度を測定し細胞増殖について確認した。その結果を
図11に示す。FGF−5を培地に添加していないコントロール(PBS)ではいずれも細胞の増殖は見られない。一方、FGF−5を培地に添加したもの(FGF−5 3nM)においては、F−02、F−05、F−14、F−18、F−19、F−39、およびF−52のアプタマーによって、用量依存的に細胞が減少していることが確認されたが、共通配列を持たないアプタマー(F−51)についてはFGF−5依存的細胞増殖におけるアプタマーの影響は観察できなかった。
したがって、これらの共通配列を有するアプタマーはFGF−5に結合することでNIH3T3細胞の増殖を阻害していることが推測される。
【0066】
表1は上記実験による各アプタマーの性能をまとめたものあり、ここでIC
50(50%阻害濃度)とは、アプタマー無添加時の50%まで細胞増殖を阻害するときのアプタマー濃度を示す。上記共通配列(配列A〜C)を持つアプタマー(F−02、F−05、F−14、F−18、F−19、F−39、F−52)はいずれもIC
50値は10nM以下という、低い濃度で細胞増殖阻害効果があることが明らかとなった(表1中欄)。また、表1右欄はIC
50(モル濃度)をFGF−5モル濃度で割った値を示している。比較的FGF−5との結合能が弱いF−19およびF−39(実験例2および
図7参照)を除いたアプタマーについてはいずれも当該数値は2〜3という小さな値を示しており、FGF−5と各アプタマーとの良好な結合状態を示唆している。
ここまでの結果から、細胞増殖阻害効果を示すアプタマーはFGF−5と結合することで、FGF−5とその受容体であるFGFR1との結合を阻害することで細胞増殖阻害効果を示すということが示唆される。
【表2】
【0067】
[比較例1]
<ランダムアプタマーによるFGF−5依存的細胞増殖への影響>
ランダムな核酸配列を有するRNAアプタマー(ランダムアプタマー)による、FGF−2またはFGF−5依存的細胞増殖阻害能を確認した。FGF−5試験区に加えて、FGF−5と同様にFGFR1と結合して相互作用することでFGFR1を発現している細胞を増殖させることが知られているFGFファミリータンパク質の一つであるFGF−2(終濃度0.1nM:R&Dシステムズ社製、事前に100μg/mlのPBS溶液を調製)試験区、および、FGF−5およびFGF−2を含まないPBSをコントロール試験区とし、実験例6で用いたアプタマーをランダムアプタマーに変えたこと以外は実験例6と同じ手法で細胞を培養し、FGF−2またはFGF−5依存的細胞増殖度を測定した。結果を
図12に示す。
その結果、ランダムアプタマーの量に関わらず、FGF−2またはFGF−5依存的細胞増殖度に影響はなく、したがって、ランダムアプタマーではFGF−2またはFGF−5依存的細胞増殖の阻害は引き起こされないことが示唆された。
【0068】
[比較例2]
<FGF−2依存的細胞増殖阻害への影響>
上述したようにFGFファミリータンパク質の一つであるFGF−2もFGFR1と結合して相互作用することで、FGFR1を発現している細胞を増殖させることが知られている。
FGF−5の代わりにFGF−2(終濃度0.1nM:R&Dシステムズ社製)を用いる他は実験例6と同じ手法で細胞を培養し、FGF−2依存的細胞増殖度を測定した。
その結果、アプタマーの有無に関わらず、NIH3T3細胞の増殖度に影響はなく、したがって、各核酸アプタマーによるFGF−2依存的細胞増殖の阻害は観察されなかった(
図13)。
【0069】
[比較例3]
<FGF−1依存的細胞増殖阻害への影響>
FGFファミリータンパク質の一つであるFGF−1も、FGF−5やFGF−2と同様にFGFR1と結合して相互作用することで、FGFR1を発現している細胞を増殖させることが知られている。アプタマーF−02による、FGF−1依存的細胞増殖能を確認した。
FGF−5(終濃度3nM:R&Dシステムズ社製)またはFGF−1(終濃度0.1nM:R&Dシステムズ社製)を用いて、実験例6と同様と同じ手法で細胞を培養し、細胞増殖度を測定した。その結果、実験例6と同様に、F−02はFGF−5依存的細胞増殖を阻害していることが確認できたが、FGF−1依存的細胞増殖は阻害しなかった(
図14)。
以上、実験例6および比較例2および3の結果から、F−02はFGF−5依存的細胞増殖能を阻害する一方で、FGF−5と共通の受容体と相互作用するFGF−2およびFGF−1依存的細胞増殖は阻害しないということが判り、ここから、アプタマーF−02はFGF−5と特異的に結合することが示唆される。
【0070】
[実験例7]
<短鎖化アプタマーによるFGF−5依存的細胞増殖阻害への影響>
さらに、核酸アプタマーを短鎖化したものを用いて同様の実験を行い、FGF−5依存的細胞増殖阻害能が維持されるかどうかを確認した。
F−02(配列番号1)およびF−18(配列番号6)の鋳型DNAを北海道システムサイエンス社において短鎖化し、該短鎖化した鋳型DNAを用いて転写反応を行うことで、短鎖化したアプタマーF−02−40(配列番号15)、F−02−42(配列番号14)、F−02−52(配列番号13)、F−02−56(配列番号16)、F−18−56(配列番号17))を調製した。なお、いずれの短鎖化アプタマーも共通配列A〜Cを有していることが確認された。これらを用いてFGF−5(R&Dシステムズ社製)との結合能について調べたところ、F−02−40(配列番号15)、F−02−42(配列番号14)のみFGF−5との結合が確認できなかった。さらに各アプタマーについてFGF−5依存的細胞増殖阻害能を調べた結果、F−02−40(配列番号15)、F−02−42(配列番号14)に関しては、FGF−5依存的細胞増殖阻害はなかったが、F−02−52(配列番号13)、F−02−56(配列番号16)、F18−56(配列番号17)にはFGF−5依存的細胞増殖阻害能があった(
図15)。したがってFGF−5との結合がFGF−5依存的細胞増殖阻害能にとって必要だといえる。また、F−02−40(配列番号15)、F−02−42(配列番号14)が共通配列を有しているにも関わらずFGF−5との結合およびFGF−5依存的細胞増殖阻害能が確認できなかった理由としては、当該配列が他のアプタマーよりも短いため、FGF−5との結合に必要な構造をとれず、その結果FGF−5依存的細胞増殖阻害能を奏し得なかったのではないかと推測できる。
【0071】
[実験例8]
<毛乳頭細胞のアルカリホスファターゼ(ALP)発現解析>
アルカリホスファターゼ(ALP)は毛包で発現する毛包誘導マーカーであり、発毛誘導能を含む毛乳頭細胞の活性の指標となることが知られている。
12穴培養用プレートに、ヒト毛乳頭細胞(Human Follicle Dermal Papilla Cells(HFDPC細胞):PromoCell社製)を50000細胞/ウェルで播き、10%ウシ胎児血清、20ng/mlのWnt−3a、および抗生物質(100units/mlペニシリンおよび100μg/mlストレプトマイシン)を含むD−MEM培地中で37℃、5%CO2雰囲気下、培養した。3日後、ウェル内の培養上清を除去し、1ml/ウェルのPBSを用いて洗浄しPBSを除去した。
これに2% B−27サプリメント(Gibco社製)、5μg/mlのヘパリン(シグマ・アルドリッチ社製)を含むD−MEM(富士フィルム和光純薬株式会社製)培地で終濃度3nMになるように希釈したFGF−5タンパク質(R&Dシステムズ社製)、または、2%B−27サプリメントを含むD−MEM培地で希釈したPBS(FGF−5タンパク質のベヒクル)を添加した。
【0072】
各ウェルに2% B−27サプリメントを含むD−MEM培地で終濃度10nMになるように希釈したアプタマーF−02(実施例)、2%B−27サプリメントを含むD−MEM培地で希釈したPBS(無添加区)、および2%B−27サプリメントを含むD−MEM培地で終濃度10nMに希釈したRandom Aptamer(参考例)をそれぞれ添加して各ウェルの容量を1mlとし、37℃、5%CO2雰囲気下で3日間培養した。その後、各ウェル内の培養上清を除去し、1mL/ウェルのPBSで洗浄しPBSを除去した。
【0073】
各ウェル内に接着したヒト毛乳頭細胞からRneasy Mini Kit(Qiagen社製)を用いてRNAを抽出した。さらに抽出したRNAをRiverTraAce‐α‐(東洋紡社製)を用いて逆転写しcDNAを得た。得られた各cDNAについて定量PCRを行い、ALP遺伝子に対するCyclic Threshold(Ct)値をもとめた。このとき併せてハウスキーピング遺伝子であるβ−アクチンのCt値をもとめ、両者のCt値を用いてΔΔCt法によりALP遺伝子転写量の相対定量値を算出した。その結果を
図16に示す。
【0074】
無添加区および参考例においてはFGF−5を添加することによってALPの転写量は有意に減少したが、アプタマーF−02を加えた細胞についてはALPの転写量に変化は見られなかった。このことはアプタマーF−02がFGF−5の活性を抑制することで、FGF−5によるALPの転写抑制が抑えられることを示しており、FGF−5の存在下においても毛乳頭細胞が活性し得ることを示唆している。
【0075】
(考察)
上述したように、FGF−5タンパク質はその受容体であるFGFR1を介して、毛の成長を阻害し、ヘアサイクルを成長期から退行期へ移行させる作用を有していることが知られていた。
本発明のアプタマーはFGF−5に対して特異的に結合することで、FGF−5とFGFR1との結合を阻害することが明らかになった。その結果、本発明のアプタマーはFGF−5とFGFR1との間のシグナル伝達を抑制することができ、その結果毛周期の成長期を継続させることで、脱毛抑制効果を奏することが期待できる。実際にアプタマーF−02を加えた毛乳頭細胞を用いた実験においては毛包で発現する毛包誘導マーカーであるALPのFGF−5による発現抑制を抑える効果が示唆されていることから、当該アプタマーについての脱毛抑制効果はさらに強く示唆される。また、各アプタマーについて、短鎖化を行うことで、より脱毛抑制について好適化されたアプタマーを取得することができることから、該アプタマーを含有する育毛活性剤、育毛剤組成物、および医薬品などの開発に応用することが期待できる。