【解決手段】アトモキセチンまたはその塩と、結晶セルロースと、D−マンニトールとを含む、アトモキセチン錠剤(ただし、浸透圧で薬剤の放出を制御する徐放性錠剤を除く。)。
造粒物中の結晶セルロースに対する造粒物中のD−マンニトールの質量比[D−マンニトール/結晶セルロース]が0.5〜12である、請求項2に記載のアトモキセチン錠剤。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
〔アトモキセチン錠剤〕
本発明のアトモキセチン錠剤(以下、単に「錠剤」ともいう。)は、アトモキセチンまたはその塩と、結晶セルロースと、D−マンニトールとを含む。
【0009】
アトモキセチンの塩としては、塩酸塩、硝酸塩、リン酸塩、硫酸塩、臭化水素酸塩、臭化ヨウ素酸塩、ピロ硫酸塩、亜硫酸塩、メタリン酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、カプリル酸塩、ギ酸塩、フタル酸塩、クエン酸塩および乳酸塩等が挙げられ、なかでもアトモキセチン塩酸塩が好ましい。
アトモキセチン錠剤100質量%中のアトモキセチンまたはその塩の含有量は、特に制限はないが、アトモキセチンとして、1〜30質量%が好ましく、3〜25質量%がより好ましく、5〜15質量%がさらに好ましい。
【0010】
本発明の錠剤は、結晶セルロースとD−マンニトールとを共に含有する。結晶セルロースとD−マンニトールを共に含有することにより、溶出性に優れるアトモキセチン錠剤とすることができる。このようなアトモキセチン錠剤であれば、アトモキセチンまたはその塩が溶解しやすいカプセル剤や、すでに溶解している内用液剤と同等の溶出が得られ好適である。
結晶セルロースの含有量は、アトモキセチン錠剤100質量%中、1〜34質量%が好ましく、5〜29質量%がより好ましく、12〜22質量%が好ましい。この範囲であれば、溶出性に優れるアトモキセチン錠剤が得られやすい。
D−マンニトールの含有量は、40〜85質量%が好ましく、55〜70質量%がより好ましい。この範囲であれば、溶出性に優れるアトモキセチン錠剤が得られやすい。
【0011】
本発明の錠剤は、アトモキセチンまたはその塩と、結晶セルロースと、D−マンニトールとを含有する造粒物を含むことが好ましい。これらがいずれも造粒物に含まれることにより、溶出性に優れるだけでなく、十分な錠剤硬度を備えたアトモキセチン錠剤とすることができる。
この場合、造粒物中の結晶セルロースに対する造粒物中のD−マンニトールの質量比[D−マンニトール/結晶セルロース]は、0.5〜12が好ましく、5.0〜8.0がより好ましく、5.8〜7.0がさらに好ましい。
また、この場合、造粒物中の結晶セルロースの含有量は、アトモキセチン錠剤100質量%中、1〜20質量%が好ましく、5〜15質量%がより好ましく、8〜12質量%が好ましい。
【0012】
アトモキセチンまたはその塩と、結晶セルロースと、D−マンニトールとが造粒物に含まれる場合、造粒物以外の部分(後述の「後添加部」に対応。)には、アトモキセチンまたはその塩と、結晶セルロースと、D−マンニトールのうちの1種以上が含まれていても、1種類も含まれていなくてもよい。なかでも、アトモキセチンまたはその塩と、結晶セルロースと、D−マンニトールのうち、造粒物以外の部分には結晶セルロースのみが含まれる態様が好ましい。この態様であれば、溶出性と錠剤硬度とがより優れるアトモキセチン錠剤とすることができる。
この場合、造粒物以外の部分に含まれる結晶セルロースの含有量は、アトモキセチン錠剤100質量%中、1〜15質量%が好ましく、5〜11質量%がより好ましく、6〜10質量%が好ましい。
【0013】
本発明の錠剤は、結晶セルロースおよびD−マンニトール以外の1種類以上の添加剤を含有してもよい。添加剤としては、たとえば崩壊剤、賦形剤、結合剤、滑沢剤、着色剤、流動化剤等が挙げられ、医薬品分野において使用可能な添加剤であれば、いずれも使用できる。
【0014】
崩壊剤としては、たとえば、セルロース系崩壊剤(クロスカルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、カルメロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等。)、クロスポビドン、デンプン系崩壊剤(トウモロコシデンプン、デンプングリコール酸ナトリウム、部分アルファー化デンプン、ヒドロキシプロピルスターチ等。)等が挙げられ、これらのうちの1種以上を使用できるが、崩壊性や溶出性および安定性の点から、デンプン系崩壊剤が好ましく、なかでもデンプングリコール酸ナトリウムが好ましい。
【0015】
賦形剤としては、上述した結晶セルロースおよびD−マンニトールの他に、乳糖水和物、無水乳糖,精製白糖、バレイショデンプン、アルファー化デンプン、リン酸水素カルシウム等が挙げられ、これらのうちの1種以上を使用できる。
【0016】
結合剤としては、たとえばポリビニルピロリドン(ポビドン)、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(ヒプロメロース)、ポリビニルアルコール、ステアリルアルコール、アンモニオメタクリレート・コポリマー、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、デキストリン、水アメ等が挙げられ、これらのうちの1種以上を使用できる。
【0017】
滑沢剤としては、公知のものを1種以上使用できるが、ステアリン酸金属塩(ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム等)、ステアリン酸、グリセリン脂肪酸エステル等が好ましく使用でき、なかでもステアリン酸金属塩とグリセリン脂肪酸エステルとを併用することが好ましい。これらを併用すると、錠剤成形時(圧縮工程)に、圧縮用の混合物が臼杵等に付着することが抑制される。
滑沢剤の含有量は、錠剤100質量%中、0.1〜5質量%が好ましく、0.5〜2.5質量%がより好ましい。また、ステアリン酸金属塩とグリセリン脂肪酸エステルとを併用する場合、ステアリン酸金属塩に対するグリセリン脂肪酸エステルの質量比[グリセリン脂肪酸エステル/ステアリン酸金属塩]は、0.5〜10が好ましく、0.5〜7がより好ましく、1〜4がさらに好ましい。
グリセリン脂肪酸エステルとしては、たとえば、理研ビタミン株式会社より販売されている「ポエム」シリーズ等が挙げられ、具体的には、主構成脂肪酸の炭素数が22であるポリグリセリン脂肪酸エステル(「ポエムHB(商品名)」:トリグリセリン脂肪酸エステル(理研ビタミン社製)等。)が好適に使用できる。グリセリン脂肪酸エステルは1種以上を使用できる。
【0018】
着色剤としては、たとえば黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄、食用黄色4号、食用黄色5号、食用赤色2号、食用赤色3号、食用赤色102号等が挙げられ、これらのうちの1種以上を使用できる。
流動化剤としては、たとえば含水二酸化ケイ素、軽質無水ケイ酸、重質無水ケイ酸、合成ケイ酸アルミニウム等が挙げられ、これらのうちの1種以上を使用できる。
その他の添加剤としては、酸化チタン、タルク、カルナウバロウ等が挙げられる。
【0019】
以上の添加剤は、錠剤が、素錠と該素錠を被覆するコーティング部とからなるフィルムコーティング錠(FC錠)である場合に、素錠に含まれていてもコーティング部に含まれていても両方に含まれていてもよい。
【0020】
本発明の錠剤としては、普通錠や、唾液または少量の水で崩壊する口腔内速崩壊錠等が挙げられる。普通錠としては、素錠のみからなるものでも、FC錠でもよいが、アトモキセチンまたはその塩の眼球刺激性および苦みを抑制する点からは、FC錠とすることが好ましい。
FC錠である場合には、コーティング部が、先に添加剤として例示したヒプロメロース、酸化チタン、タルク、カルナウバロウを含むことが好ましい。コーティング部は、着色剤を含んでもよい。
【0021】
〔錠剤の製造方法〕
本発明の錠剤の製造方法は、アトモキセチンまたはその塩と、結晶セルロースと、D−マンニトールとを含む造粒用粉末を造粒する造粒工程と、該造粒工程で得られた造粒物を含む混合物を圧縮する圧縮工程とを有する。本発明の錠剤がFC錠である場合には、圧縮工程で得られた素錠にコーティングを施す被覆工程をさらに有していてよい。
【0022】
製造する錠剤が、造粒物以外の部分に結晶セルロースを含む態様である場合には、造粒物の他に結晶セルロースを添加した混合物を圧縮すればよい。
なお、造粒用粉末および圧縮用の混合物には、適宜、上述した添加剤が含まれてよい。
造粒工程、圧縮工程および被覆工程は、それぞれ公知の方法により行える。
【実施例】
【0023】
[実施例1〜7、比較例1]
下記の表1および表2の処方に従い、錠剤(素錠)を製造した。
まず、各表の造粒物の欄に記載の各成分を混合して造粒用粉末を得て、造粒用粉末に水を加えて混合し、造粒、乾燥、整粒を行い造粒物を得た。得られた造粒物に対して、各表の後添加部の欄に記載の各成分を加えて混合して圧縮用の混合物とし、この混合物を単発打錠機で打錠成型し、素錠とした。このようにして1錠中のアトモキセチン塩酸塩の含量が45.71mgであり、造粒物と後添加部からなる素錠を得た。得られた素錠(錠剤)について、以下のとおり、溶出率と錠剤硬度を測定した。結果を表1および表2に示す。
【0024】
<溶出率>
得られた錠剤1個と、試験液(水)900mLとを用い、パドル法により、毎分50回転で溶出試験を行った。試験開始から所定時間後(本例では、以下のとおり5分後の結果を示す。)に、溶出液10mL以上を採取し、孔径0.45μm以下のメンブランフィルターでろ過した。各ろ液において、初めに採取されたろ液5mLを除き、次のろ液1mLを正確に量り、試験液(水)7mLを正確に加えた。この液1mLを正確に量り、移動相1mLを正確に加え、試料溶液とした。
一方、別途、定量用アトモキセチン塩酸塩(別途水分を測定しておく)約32mgを精密に量り、移動相を加えて溶かし、正確に100mLとした。この液2mLを正確に量り、移動相を加えて正確に100mLとした。さらに、この液1mLを正確に量り、試験液(水)1mLを正確に加え標準溶液とした。
試料溶液及び標準溶液について、HPLC法により試験を行い、波長215nmにおける紫外吸収を測定しクロマトグラムを得た。各試料溶液の溶出試験開始後5分後における溶出率(%)を標準溶液のピーク面積を基準として求めた。
なお、上記の移動相は次のように調製した。リン酸2.9gを水に加えて1000mLとし、5mol/Lの水酸化カリウム溶液を加えてpH2.5に調整した液1000mLに1−オクタンスルホン酸ナトリウム5.9gを溶かした。この液600mLにアセトニトリル400mLを加えたものを移動相に用いた。
【0025】
<錠剤硬度>
各例で得られた錠剤の硬度を錠剤硬度計PC−30(岡田精工社製)を用いて測定した。結果を表1および表2に示す。なお、表に示した錠剤硬度は、錠剤の平均値(サンプル数N=3)である。
【0026】
【表1】
【0027】
【表2】
【0028】
表1〜2に示すように、結晶セルロースとD−マンニトールを含有する実施例の錠剤は、溶出率が高く溶出性に優れていた。また、特に造粒物に、結晶セルロースとD−マンニトールとが含まれる実施例1、3〜7の各錠剤は、十分な硬度をも備えていた。
【0029】
[実施例8〜11]
下記の表3の処方に従い、FC錠を製造した。
まず、各表の造粒物の欄に記載の各成分を混合して造粒用粉末を得て、造粒用粉末に水を加えて混合し、造粒、乾燥、整粒を行い造粒物を得た。得られた造粒物に対して、各表の後添加部の欄に記載の各成分を加えて混合して圧縮用の混合物とし、この混合物をロータリー式打錠機(菊水製作所社製、VELA5)で打錠成型し、造粒物と後添加部からなる素錠とした。
ついで、得られた素錠に対し、コーティング用液(エタノール、水、ヒプロメロース、酸化チタン、タルク、所望に応じて着色剤(黄色三二酸化鉄または三二酸化鉄)を含む液。)をコーティング機(フロイント産業社製、ハイコーター)で噴霧、乾燥した後、カルナウバロウによりポリシングを行い、表3に示す処方のコーティング部を有するFC錠を得た。
このようにして1錠中のアトモキセチン塩酸塩の含量が実施例8では5.71mg、実施例9では11.43mg、実施例10では28.57mg、実施例11では45.71mgであるFC錠を得た。得られたFC錠について、先に記載した方法で、溶出率と、錠剤硬度を測定した。
結果を表3に示す。
ただし、上述のとおり実施例1等の試料溶液の調製においては、初めに採取されたろ液5mLを除いた後の次のろ液1mLに対して、試験液(水)7mLを加えて希釈していたが、実施例8では希釈せず、実施例9では試験液(水)1mLを加えて希釈し、実施例10では試験液(水)4mLを加えて希釈した。実施例11では、実施例1等と同様に、試験液(水)7mLを加えて希釈した。
また、表に示した錠剤硬度は、錠剤の平均値(サンプル数N=10)である。
【0030】
【表3】
【0031】
以上のとおり、結晶セルロースとD−マンニトールとを含むアトモキセチン錠剤は、溶出性に優れていた。また、特に、造粒物にアトモキセチン、結晶セルロース、D−マンニトールを含有させることにより、溶出性に加えて錠剤硬度にも優れるアトモキセチン錠剤が得られることがわかった。