【実施例】
【0044】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0045】
<材料と方法>
(細胞培養)
ヒト白血病由来細胞株(CCRF−CEM、Raji、TF−1、THP−1、HL−60、MKPL−1、K562)の培養は、10% fetal bovine serum(FBS;Invitrogen)、Penicillin-Streptomycin(PS;Sigma)、50μMの2−メルカプトエタノールを含むRPMI-1640 Medium(Sigma)を用いて、37℃−5% CO
2の条件下で行った。なお、TF−1細胞の培養には、上記の培地にGM−CSF(5 ng/ml, Peprotech)を添加した。
また、ヒト皮膚線維芽細胞(HDF)、接着性ヒト癌細胞株(HSC−3、Hela)、ヒト腎上皮細胞株(293T)の培養には、10% FBSとPSを含むDulbecco’s Modified Eagle’s Medium(Sigma)を用いた。
【0046】
(in vitro増殖抑制アッセイ)
増殖抑制アッセイでは、まず、細胞を96 well plateに3,000 cells/wellになるように入れ、それぞれの化合物を段階希釈して添加した。3日間培養した後、Cell Counting Kit-8を添加し4時間培養し、生存細胞数を450nmの吸光度測定によって比較定量した。
【0047】
(T−ALL細胞のin vivoゼノグラフトモデル)
12−16週齢の雌NOD-SCID-γ
c-KO(NSG)マウスに、ルシフェラーゼ遺伝子を導入したCCRF−CEM細胞を10
5個/100μlずつ皮下注入した。4週間後にルシフェラーゼ発光基質を腹腔投与し、腫瘍部の発光強度をIVIS Spectrum-FM(Caliper)を用いて測定した(0日)。マウスを2群に分け、250μMの構造式(II)の化合物、又は溶媒2.5% DMSO−PBSを20μlずつ1日1回4日間腫瘍内投与した(0日〜4日)。5日目に再びルシフェラーゼ発光基質を腹腔投与し、IVIS Spectrum-FMを用いて発光強度を測定した。その後、上記のマウス群を3週間飼育し、生存日数を記録した。
また、構造式(VI)の化合物のin vivo投与実験では、CCRF−CEM細胞(10
5個)を皮下移植して3週間飼育したNSGマウスの腫瘍内に、500μMの構造式(VI)の化合物、又は溶媒20% 2−ヒドロキシプロピル−γ−シクロデキストリン−5% DMSOを20μlずつ朝夕合計9回投与した(0日〜4日)。5日目に再びルシフェラーゼ発光基質を腹腔投与し、IVIS Spectrum-FMを用いて発光強度を測定した。
【0048】
<Auxarconjugatin B類縁化合物の有機合成>
(エステル体8及びエステル体9の合成)
エステル体8及びエステル体9の合成経路は、以下の通りである。
【化8】
【0049】
まず、市販のピロール−2−カルボキシアルデヒド(1)をWittig反応によりニトリル化しニトリル体2を合成した。次に、ニトリル体2をDIBAL還元することによりホルミル体3を得た。また、ホルミル体3にWittig試薬を用いることでニトリル体4を得た。次に、ニトリル体4をDIBAL還元によりホルミル体5を合成し、Wittig反応によりニトリル体6へと誘導した。次に、ニトリル体6をDIBAL還元によりホルミル体7へと誘導し、最後に、2種類のWittig試薬を用いることにより、目的化合物であるエステル体8、エステル体9を合成した。
【0050】
(構造式(II)の化合物、構造式(IV)の化合物、構造式(V)の化合物、及び構造式(VI)の化合物の合成)
構造式(II)の化合物、構造式(IV)の化合物、構造式(V)の化合物、及び構造式(VI)の化合物の合成経路は、以下の通りである。
【化9】
【0051】
まず、市販の4−クロロピリジン N−オキサイド(10)と硫酸銅五水和物を用いて混合水溶液を作製し、高圧水銀ランプによる光照射で光反応を行い、ホルミル体11を得た。また、ホルミル体11をWittig反応によりニトリル化し、ニトリル体12を合成した。次に、ニトリル体12をDIBAL還元することにより、ホルミル体13を得た。また、ホルミル体13にWittig試薬を用いることで、ニトリル体14を得た。次に、ニトリル体14にDIBAL還元を行うことで、ホルミル体15を合成し、Wittig反応により構造式(V)の化合物を合成した。また、ホルミル体15にWittig試薬を用いることで、ニトリル体16へと誘導した。次に、ニトリル体16をDIBAL還元によりホルミル体17へと誘導した。また、ホルミル体17に3種類のWittig試薬をそれぞれ用いることで、構造式(II)の化合物と構造式(IV)の化合物と構造式(VI)の化合物をそれぞれ合成した。
【0052】
(構造式(III)の化合物の合成)
構造式(III)の化合物の合成経路は、以下の通りである。
【化10】
【0053】
まず、市販のピロール−2−カルボキシアルデヒド(1)をWittig反応によりニトリル化し、ニトリル体2を合成した。次に、ニトリル体2をDIBAL還元することによりホルミル体3を得た。また、ホルミル体3にWittig試薬を用いることで、ニトリル体4を得た。次に、ニトリル体4をDIBAL還元によりホルミル体5を合成し、Wittig反応によりニトリル体6へと誘導した。次に、ニトリル体6をDIBAL還元により、ホルミル体7へと誘導した。
また、ホルミル体7にWittig試薬を用いることで、ニトリル体18に誘導し、ニトリル体18をDIBAL還元することにより、ホルミル体19を得た。そして、最後に、Wittig反応を行うことで、構造式(III)の化合物を合成した。
【0054】
<T−ALL細胞株の増殖を選択的に抑制する天然化合物の同定>
約15万種類の天然化合物ライブラリーを用いて、ヒトT−ALL細胞株CCRF−CEMの増殖を阻害し、ヒトBリンフォーマ細胞株Rajiの増殖に影響を与えない物質をハイスループットスクリーニングによって探索した。その結果、以下の3種類の天然化合物が、CCRF−CEM細胞の増殖を選択的に抑制することを見出した(
図1参照)。
【化11】
【0055】
これらの中でも、RumbrinとAuxarconjugatin Bは、共通の化学構造を有している。
【0056】
次に、ヒト皮膚線維芽細胞(HDF)の増殖に対するRumbrinとAuxarconjugatin Bの影響を調べた。
その結果、Rumbrinは1μMの濃度でさえHDFに毒性を示したが、Auxarconjugatin Bは1〜5μMの濃度でHDFに毒性を示さなかった。
【0057】
そこで、Auxarconjugatin Bをシード化合物に選定して、詳細な解析を実施した。
Auxarconjugatin BのCCRF−CEM細胞に対するIC
50は0.51μMであり、Raji細胞に対するIC
50はその約11倍の5.7μMであった(
図1(c)参照)。
また、Auxarconjugatin Bは、ヒト赤芽球系(M6クラス)急性骨髄性白血病(Acute myeloid leukemia:AML)細胞株TF−1や、ヒト単球系(M5クラス)AML細胞株THP−1の増殖を、それぞれ0.72μMと1.3μMのIC
50値にて抑制した(
図2(a)、
図2(b)参照)。
【0058】
<リード化合物類縁体の評価>
以上の結果から、Auxarconjugatin BがT−ALLやAMLに対して有効である(即ち、リード化合物として有望である)ことが示唆されたが、Auxarconjugatin Bはカビ由来の天然化合物であるため、大量に製造することができない。
そこで、Auxarconjugatin Bと類似の構造を持つ、エステル体8及びエステル体9に対して、ヒトT−ALL細胞株CCRF−CEM、ヒトBリンフォーマ細胞株Rajiの増殖阻害活性を評価した。結果を
図3に示す。
【0059】
更に、エステル体9に対して、ヒト赤芽球系(M6クラス)AML細胞株TF−1、ヒト単球系(M5クラス)AML細胞株THP−1、ヒト赤芽球系慢性骨髄性白血病(Chronic myeloid leukemia:CML)細胞株K562の増殖阻害活性を評価した。結果を
図4に示す。
【0060】
その結果、エステル体9は、ヒト赤芽球系(M6クラス)AML細胞株TF−1、ヒト単球系(M5クラス)AML細胞株THP−1の増殖を強力に抑制することが分かった。
但し、エステル体8は、CCRF−CEM細胞に対するIC
50が1.7μMで、Raji細胞に対するIC
50が8.8μMであり、また、エステル体9は、CCRF−CEM細胞に対するIC
50が1.3μMで、Raji細胞に対するIC
50が4.1μMであり、Auxarconjugatin Bよりも活性及び選択性に劣っていた。
【0061】
次に、Auxarconjugatin Bと類似の構造を持つ、構造式(II)の化合物、構造式(III)の化合物、構造式(IV)の化合物、構造式(V)の化合物、構造式(VI)の化合物に対して、ヒトT−ALL細胞株CCRF−CEM、ヒトBリンフォーマ細胞株Rajiの増殖阻害活性を評価した。結果を
図5に示す。
【0062】
更に、これらの化合物に対して、ヒト赤芽球系(M6クラス)AML細胞株TF−1、ヒト単球系(M5クラス)AML細胞株THP−1、ヒト骨髄球系(M2クラス)AML細胞株HL−60、ヒト巨核球系(M7クラス)AML細胞株MKPL−1、ヒト赤芽球系CML細胞株K562の増殖阻害活性を評価した。構造式(II)の化合物の結果を
図6に、構造式(III)の化合物の結果を
図7に、構造式(IV)の化合物の結果を
図8に、構造式(V)の化合物の結果を
図9に、構造式(VI)の化合物の結果を
図10に示す。
【0063】
構造式(II)の化合物のCCRF−CEM細胞に対するIC
50は0.27μMであるのに対し、Raji細胞に対する増殖抑制効果はほとんど検出されなかった(
図5(a)参照)。
また、ヒト赤芽球系CML細胞株K562細胞に対する構造式(II)の化合物の増殖抑制効果もほとんど検出でされなかった(
図6(e)参照)。
また、構造式(II)の化合物は、Auxarconjugatin Bと同様、ヒト赤芽球系(M6クラス)AML細胞株TF−1、ヒト単球系(M5クラス)AML細胞株THP−1、ヒト骨髄球系(M2クラス)AML細胞株HL−60、ヒト巨核球系(M7クラス)AML細胞株MKPL−1の増殖を、それぞれ0.23μM、1.2μM、0.27μM、0.42μMのIC
50値にて抑制した(
図6(a)、
図6(b)、
図6(c)、
図6(d)参照)。
【0064】
また、構造式(III)の化合物、構造式(IV)の化合物、構造式(V)の化合物、及び構造式(VI)の化合物にも、構造式(II)の化合物に類似したT−ALL及びAMLに選択的な細胞死滅活性が検出された(
図5(b)、
図5(c)、
図5(d)、
図5(e)、
図7、
図8、
図9、
図10参照)。
【0065】
次に、構造式(II)の化合物に対して、ヒト上皮性癌細胞株HelaとHSC−3の増殖阻害活性を評価し、更に、ヒト腎上皮細胞株293Tの増殖阻害活性を評価した。結果を
図11に示す。
【0066】
その結果、構造式(II)の化合物は、ヒト上皮性癌細胞株HelaとHSC−3の増殖にまったく影響を与えなかった(
図11(a)参照)。
また、構造式(II)の化合物は、ヒト腎上皮細胞株293Tに対するIC
50値が3.5μMと、CCRF−CEMより13倍高かった(
図11(b)参照)。
【0067】
以上の実験の結果から、本発明に係る上記一般式(I)で表される化合物は、Auxarconjugatin Bと共通の標的分子を認識していると推察され、T−ALL及びAMLに対するがん種選択的な治療薬として有効であることが分かった。また、本発明に係る上記一般式(I)で表される化合物は、Auxarconjugatin Bよりも、活性及び選択性に優れることが分かった。
【0068】
<in vivo抗白血病活性>
次に、活性とT−ALL選択性が最も優れていた構造式(II)の化合物及び構造式(VI)の化合物を用いて、in vivo抗腫瘍活性を検討した。NSGマウスの皮下で増殖したCCRF−CEM由来腫瘍の内部に構造式(II)の化合物又は構造式(VI)の化合物を連続投与してみたところ、構造式(II)の化合物又は構造式(VI)の化合物投与マウス群では溶媒コントロール群と比べて腫瘍増殖が抑えられ、マウスが延命する傾向が観察された(
図12、
図13)。この結果から、本発明に係る上記一般式(I)で表される化合物には、in vivo抗白血病活性もあることが分かった。