【解決手段】波動発生器20は、中心軸9を中心とし、入力部材10と同一回転する。可撓性外歯歯車30は胴部31、外歯、ダイヤフラム部33、固定部34を備える。胴部は、波動発生器の半径方向外方に配置され、波動発生器にて非真円状に撓められる。外歯は胴部の軸方向一方外周面に設けられる。ダイヤフラム部は、胴部の軸方向他方側の端部から半径方向外方に広がる。固定部は、ダイヤフラム部の半径方向外方側の端部から半径方向外方に広がる。内歯歯車は胴部の半径方向外方に配置され、外歯と部分的にかみ合う内歯を内周面に有する。ハウジングは軸方向他方側から固定部に固定される。内歯歯車40および可撓性外歯歯車の一方は固定され、他方は中心軸を中心に回転する。シール部材60はダイヤフラム部とハウジングとの間、又は、胴部の軸方向他方側の端部とハウジング間に配置される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本願の例示的な実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本願では、波動歯車装置の中心軸と平行な方向を「軸方向」、波動歯車装置の中心軸に直交する方向を「半径方向」、波動歯車装置の中心軸を中心とする円弧に沿う方向を「周方向」、とそれぞれ称する。ただし、上記の「平行な方向」は、略平行な方向も含む。また、上記の「直交する方向」は、略直交する方向も含む。
【0010】
<1.第1実施形態>
<1−1.波動歯車装置の全体構成>
図1は、第1実施形態に係る波動歯車装置1の縦断面図である。
図2は、
図1のA−A位置における波動歯車装置1の横断面図である。この波動歯車装置1は、モータから得られる第1回転数の回転運動を、第1回転数よりも低い第2回転数の回転運動に変速(減速)させつつ、後段へ伝達する装置である。波動歯車装置1は、例えば、小型ロボットの関節に、モータとともに組み込まれて使用される。ただし、本発明の波動歯車装置は、アシストスーツ、ターンテーブル、工作機械の割出盤、車椅子、無人運搬車等の他の機器に用いられるものであってもよい。
【0011】
図1および
図2に示すように、本実施形態の波動歯車装置1は、入力部材10、波動発生器20、可撓性外歯歯車30、内歯歯車40、第1フレーム45、第2フレーム92、ハウジング50、およびシール部材60を備えている。また、
図1には表れていないが、本実施形態の波動歯車装置1は、
図3に示すトルク検出センサ70を電装品として備えている。
図3は、トルク検出センサ70の平面図である。
【0012】
入力部材10は、減速前の第1回転数で回転する部位である。本実施形態の入力部材10は、中心軸9に沿って延びる略円筒状である。入力部材10は、モータシャフトであってもよく、あるいは図外のモータと直接またはギア等の動力伝達機構を介して接続される部材であってもよい。モータを駆動させると、入力部材10が、中心軸9を中心として、第1回転数で回転する。
【0013】
波動発生器20は、後述する可撓性外歯歯車30の胴部31に、周期的な撓み変形を発生させる機構である。上述したモータを駆動させると、入力部材10とともに波動発生器20も、中心軸9を中心として、第1回転数で回転する。本実施形態の波動発生器20は、楕円状のカム21と、可撓性軸受22とを有する。入力部材10とカム21とは、
図1のように単一の部材で形成されていてもよく、別部材であってもよい。可撓性軸受22は、カム21と可撓性外歯歯車30の間に配置される。可撓性軸受22は、可撓性外歯歯車30とカム21とを相対回転可能に支持する。可撓性軸受22は、カム21の回転に応じて半径方向に変位可能である。
【0014】
可撓性外歯歯車30は、撓み変形可能な薄型の略円環状の歯車である。可撓性外歯歯車30は、中心軸9を中心として回転可能に支持される。本実施形態の可撓性外歯歯車30は、胴部31と、複数の外歯32と、ダイヤフラム部33と、固定部34とを有する。胴部31は、中心軸9の周囲において、軸方向に筒状に延びる。胴部31の軸方向一方側の端部は、波動発生器20の半径方向外方、かつ、後述する内歯歯車40の半径方向内方に位置する。ダイヤフラム部33は、胴部31の軸方向他方側の端部から、半径方向外方に向けて広がる円環状の部分である。固定部34は、ダイヤフラム部33の半径方向外方側の端部から、さらに半径方向外方に向けて広がる円環状の部分である。固定部34の軸方向の厚みは、ダイヤフラム部33の軸方向の厚みよりも大きい。
【0015】
胴部31は、可撓性を有するため、半径方向に変形可能である。特に、内歯歯車40の半径方向内方に位置する胴部31の先端部は、自由端であるため、他の部分よりも大きく半径方向に変位可能である。一方、胴部31の軸方向他方側の端部は、固定部34に繋がる固定端であるため、軸方向一方側の端部に比べて半径方向に変形し難い。また、胴部31の変形に伴い、ダイヤフラム部33は軸方向に若干撓み変形するが、固定部34は殆ど変形しない。
【0016】
図2に示すように、可撓性外歯歯車30は、複数の外歯32を有する。複数の外歯32は、胴部31の上述した軸方向一方側の端部付近の外周面から、半径方向外方へ向けて突出する。また、複数の外歯32は、周方向に一定のピッチで配列されている。胴部31は、楕円状のカム21の長軸の位置に対応する周方向の2箇所において、波動発生器20の可撓性軸受22の外輪により、半径方向外方に押圧される。これにより、胴部31の軸方向一方側の端部が楕円状に撓み変形する。その結果、周方向のうち楕円の長軸に相当する2箇所において、胴部31の外歯32が、後述する内歯歯車40の内歯41と噛み合う。以下では、この外歯32と内歯41とが噛み合う周方向の位置を、「噛み合い位置」と称する。
【0017】
内歯歯車40は、中心軸9を中心とする円環状である。内歯歯車40は、減速後の第2回転数で回転する動力を取り出すための出力部材91に、例えばねじ止めで固定される。内歯歯車40の剛性は、可撓性外歯歯車30の胴部31の剛性よりも、はるかに高い。このため、内歯歯車40は、実質的に剛体とみなすことができる。内歯歯車40は、複数の内歯41を有する。複数の内歯41は、内歯歯車40の内周面から半径方向内方へ向けて突出する。また、複数の内歯41は、周方向に一定のピッチで配列されている。上述した可撓性外歯歯車30が有する外歯32の数と、内歯歯車40が有する内歯41の数とは、僅かに相違する。
【0018】
第1フレーム45は、中心軸9に沿う方向に延びる円環状の部位である。第1フレーム45は、胴部31の半径方向外方側、ダイヤフラム部33の軸方向一方側、かつ、内歯歯車40の軸方向他方側に位置する。第1フレーム45は、出力部材91と共に、内歯歯車40に対して固定される。
【0019】
第2フレーム92は、第1フレーム45の半径方向外方に位置する。第2フレーム92は、第1フレーム45に対して回転可能である。第2フレーム92の外周部には、ねじ等の締結部材を挿入可能なねじ孔が設けられる。ねじ孔は、軸方向に延びる。
【0020】
ハウジング50は、概ね円環状の部材である。ハウジング50は、軸方向他方側から可撓性外歯歯車30の固定部34に固定される。ここで、固定部34には、第2フレーム92の上記ねじ孔と重ね合わされる貫通孔が設けられている。この貫通孔は、軸方向に延びる。また、ハウジング50の外周部には、固定部34の上記貫通孔、および、第2フレーム92の上記ねじ孔と重ね合わされる貫通孔が設けられている。この貫通孔は、軸方向に延びる。ハウジング50の上記貫通孔、固定部34の上記貫通孔、および、第2フレーム92のねじ孔が重ね合わされた状態で、ねじ等の締結部材が挿入されて締結されることにより、ハウジング50が固定部34に固定される。ハウジング50は、波動歯車装置1が搭載される装置の枠体に、例えばねじ止めで固定される。
【0021】
ハウジング50は、半径方向内方側に、中心軸9に沿って延びる円筒部51を有する。円筒部51の半径方向内方に、入力部材10が配置される。入力部材10と円筒部51との間には、転がり玉軸受59が配置される。これにより、入力部材10がハウジング50に対して回転可能となっている。すなわち、ハウジング50と可撓性外歯歯車30と第2フレーム92とに対して、入力部材10が相対回転する。
【0022】
カム21が第1回転数で回転すると、可撓性外歯歯車30の上述した楕円の長軸も、第1回転数で回転する。そうすると、外歯32と内歯41との噛み合い位置も、周方向に第1回転数で変化する。また、上述の通り、可撓性外歯歯車30の外歯32の数と、内歯歯車40の内歯41の数は、僅かに相違する。この歯数の差によって、カム21の1回転ごとに、外歯32と内歯41との噛み合い位置が、周方向に僅かに変化する。その結果、可撓性外歯歯車30に対して内歯歯車40が、中心軸9を中心として、第1回転数よりも低い第2回転数で回転する。したがって、内歯歯車40と同一回転数で回転する出力部材91から、減速された第2回転数の回転運動を取り出すことができる。
【0023】
<1−2.トルク検出センサについて>
トルク検出センサ70は、可撓性外歯歯車30に掛かる周方向のトルクを検出するセンサである。
図1には表れていないが、本実施形態では、ダイヤフラム部33の軸方向他方側の表面に、
図3に示すトルク検出センサ70の後述する本体部711の裏面が固定されている。
【0024】
図3は、トルク検出センサ70を軸方向他方側から見た平面図である。
図3に示すように、トルク検出センサ70は、基板71を備える。本実施形態の基板71は、柔軟に変形可能なフレキシブル基板である。基板71は、中心軸9を中心とする円環状の本体部711と、本体部711から半径方向外方へ向けて突出したフラップ部712とを有する。基板71は、導体層L1を有する。本実施形態の導体層L1は、基板71の軸方向他方側の端面(表面)に位置する。
【0025】
図3に示すように、導体層L1は、第1抵抗線パターンR1および第2抵抗線パターンR2を含む。後述するように、第1抵抗線パターンR1および第2抵抗線パターンR2は、ホイートストンブリッジ回路72に組み込まれる。別の言い方をすれば、本体部711の表面にホイートストンブリッジ回路72が実装されている。また、信号処理回路73がフラップ部712に実装されている。
【0026】
第1抵抗線パターンR1は、1本の導体が曲折しながら周方向に延びる、全体として円弧状または円環状のパターンである。本実施形態では、中心軸9の周囲の約360°の範囲に、第1抵抗線パターンR1が設けられている。第1抵抗線パターンR1の材料には、例えば、銅または銅を含む合金が用いられる。第1抵抗線パターンR1には、複数の直線状の第1抵抗線r1と、複数の折り返し部位r11とが含まれる。複数の第1抵抗線r1は、互いに略平行な姿勢で、周方向に等間隔に配列される。第1抵抗線パターンR1においては、周方向に隣り合う第1抵抗線r1同士が、半径方向の一方側と他方側とで折り返し部位r11により交互に接続されて、全体として直列に接続されている。各第1抵抗線r1は、基板71の軸方向他方側から見たときに、可撓性外歯歯車30の半径方向に対して、周方向一方側に傾斜している。半径方向に対する第1抵抗線r1の傾斜角度は、例えば45°とされる。
【0027】
第2抵抗線パターンR2は、1本の導体が曲折しながら周方向に延びる、全体として円弧状または円環状のパターンである。本実施形態では、中心軸9の周囲の約360°の範囲に、第2抵抗線パターンR2が設けられている。第2抵抗線パターンR2の材料には、例えば、銅または銅を含む合金が用いられる。第2抵抗線パターンR2は、第1抵抗線パターンR1よりも、半径方向内方に位置する。すなわち、第1抵抗線パターンR1と第2抵抗線パターンR2とは、互いに重ならない位置に配置される。第2抵抗線パターンR2には、複数の直線状の第2抵抗線r2と、複数の折り返し部位r12とが含まれる。複数の第2抵抗線r2は、互いに略平行な姿勢で、周方向に等間隔に配列される。第2抵抗線パターンR2においては、周方向に隣り合う第2抵抗線r2同士が、半径方向の一方側と他方側とで折り返し部位r12により交互に接続されて、全体として直列に接続されている。各第2抵抗線r2は、基板71の軸方向他方側から見たときに、可撓性外歯歯車30の半径方向に対して、周方向他方側に傾斜している。半径方向に対する第2抵抗線r2の傾斜角度は、例えば−45°とされる。
【0028】
図4は、第1抵抗線パターンR1および第2抵抗線パターンR2を含むホイートストンブリッジ回路72の回路図である。
図4に示すように、本実施形態のホイートストンブリッジ回路72は、第1抵抗線パターンR1、第2抵抗線パターンR2、第1固定抵抗Ra、および第2固定抵抗Rbを含む。第1抵抗線パターンR1と第2抵抗線パターンR2とは、直列に接続される。第1固定抵抗Raと第2固定抵抗Rbとは、直列に接続される。そして、電源電圧の+極と−極との間において、2つの抵抗線パターンR1,R2の列と、2つの固定抵抗Ra,Rbの列とが、並列に接続される。また、第1抵抗線パターンR1および第2抵抗線パターンR2の中点M1と、第1固定抵抗Raおよび第2固定抵抗Rbの中点M2とが、電圧計Vに接続される。
【0029】
第1抵抗線パターンR1および第2抵抗線パターンR2の各抵抗値は、可撓性外歯歯車30に掛かるトルクに応じて変化する。例えば、可撓性外歯歯車30に、軸方向の一方側から見たときに、中心軸9を中心として周方向一方側へ向かうトルクが掛かると、第1抵抗線パターンR1の抵抗値が低下し、第2抵抗線パターンR2の抵抗値が増加する。一方、可撓性外歯歯車30に、軸方向一方側から見たときに、中心軸9を中心として周方向他方側へ向かうトルクが掛かると、第1抵抗線パターンR1の抵抗値が増加し、第2抵抗線パターンR2の抵抗値が低下する。このように、第1抵抗線パターンR1と第2抵抗線パターンR2とは、トルクに対して互いに逆向きの抵抗値変化を示す。
【0030】
そして、第1抵抗線パターンR1および第2抵抗線パターンR2の各抵抗値が変化すると、第1抵抗線パターンR1および第2抵抗線パターンR2の中点M1と、第1固定抵抗Raおよび第2固定抵抗Rbの中点M2との間の電位差が変化するので、電圧計Vの計測値が変化する。したがって、この電圧計Vの計測値に基づいて、可撓性外歯歯車30に掛かるトルクの向きおよび大きさを検出することができる。
【0031】
信号処理回路73は、電圧計Vにより計測される中点M1,M2の間の電位差信号に基づいて、可撓性外歯歯車30に掛かるトルクを検出するための回路である。すなわち、信号処理回路73は、ホイートストンブリッジ回路72の出力信号に基づいて、可撓性外歯歯車30に掛かるトルクを検出する。第1抵抗線パターンR1および第2抵抗線パターンR2を含むホイートストンブリッジ回路72は、信号処理回路73と電気的に接続されている。信号処理回路73には、例えば、中点M1,M2の間の電位差を増幅する増幅器や、増幅後の電気信号に基づいて、トルクの向きおよび大きさを算出するための回路が含まれる。検出されたトルクは、有線または無線により信号処理回路73に接続された外部の装置へ出力される。
【0032】
本実施形態の波動歯車装置1は、上述のような構成のトルク検出センサ70を備えることにより、可撓性外歯歯車30の全周に掛かるトルクを検出することが可能である。
【0033】
従来知られている波動歯車装置であって、特にハウジングとダイヤフラム部との間に電装品を備えていない波動歯車装置においては、固定部とハウジングとの間、および、固定部と第2フレームとの間に、中心軸を中心として周方向の全周に配置されるリング状のシール部材を設けるのが一般的であった。これは、可撓性外歯歯車と内歯歯車との噛み合い部等に充填されたグリスが、波動歯車装置の外部に漏れ出てしまうことを防ぐためである。
【0034】
しかしながら、本実施形態のように、ハウジング50とダイヤフラム部33との間に電線や導体層を有する電装品(基板71)を搭載した場合、電線や導体層にグリスが付着することを阻止するために、グリスの侵入を従来よりも半径方向内方側でせき止める必要がある。さらに言えば、本実施形態のように、電装品をハウジング50とダイヤフラム部33との間に搭載した場合、電装品から延びる配線を半径方向外方側(波動歯車装置1の外部)に引き出す必要がある。そのため、従来から設けられていた上記リング状のシール部材の少なくとも周方向の一部を、欠落させる必要が生じる。
【0035】
この点、本実施形態の波動歯車装置1は、本願に特有の構成を備えることにより、グリスの侵入を従来よりも半径方向内方側でせき止めることを可能としている。また、従来設けられていた上記リング状のシール部材の少なくとも周方向の一部を、無くすことを可能としている。
【0036】
以下では、本願に特有の構成について、実施形態毎に説明する。
【0037】
<1−3.シール部材について>
第1実施形態に係る波動歯車装置1は、本願に特有の構成として、シール部材60を備えている。
図5は、第1実施形態に係る波動歯車装置1においてシール部材60の構造を示す縦断面図である。シール部材60は、ゴム等の、弾性変形可能な素材でできている。シール部材60は、本体部61と、リップ部62とを備える。
【0038】
本体部61は、中心軸9を中心とする円環状であり、かつ、軸方向に厚みを有する部位である。また、本実施形態のリップ部62は、本体部61の軸方向他方側の外縁部から、軸方向他方側かつ半径方向内方側に向かって延びている。リップ部62の形状は、半径方向に対して傾斜した略円環状である。本体部61の軸方向一方側の面は、基板71の軸方向他方側の面に、接触している。リップ部62の軸方向他方側の端部(先端部)は、ハウジング50の軸方向一方側の面に接触している。
【0039】
シール部材60は、軸方向に圧縮された状態で、ハウジング50と基板71との間に位置する。より詳細には、シール部材60は、リップ部62の先端部を本体部61の軸方向他方側の面に近づける方向に加圧された状態で、基板71の軸方向他方側の面と、ハウジング50の軸方向一方側の面と、の間に配置される。
【0040】
本実施形態の波動歯車装置1は、上記のようなシール部材60により、グリスの拡散を防止する。したがって、外歯32と内歯41との噛み合い部等に充填されたグリスが、基板71の表面に到達してしまうことを阻止できる。
【0041】
とりわけ、本実施形態の波動歯車装置1においては、軸方向の撓みが少ないハウジング50の軸方向一方側の面に、リップ部62が押し付けられているため、シール部材60が、ダイヤフラム部33の軸方向への撓み変形に追従して変形し易い。そのため、本実施形態では、シール部材60のシール性能が、より十分に発揮される。
【0042】
以上に示したように、本実施形態に係る波動歯車装置1は、入力部材10と、波動発生器20と、可撓性外歯歯車30と、内歯歯車40と、ハウジング50と、シール部材60とを備える。シール部材60は、ダイヤフラム部33と、ハウジング50との間であって、可撓性外歯歯車30の半径方向内方側の位置に配置される。これにより、外歯32と内歯41との噛み合い部等に充填されたグリスが、軸方向においてハウジング50とダイヤフラム部33との間に形成される空間に到達し難くなる。したがって、軸方向においてハウジング50とダイヤフラム部33との間に形成される空間に、トルク検出センサ70等の電線や導体層を有する電装品を配置した場合に、電線や導体層にグリスが付着する虞を低減できる。
【0043】
また、本実施形態に係る波動歯車装置1においては、ダイヤフラム部33の軸方向他方側の面に、導体層L1を有する基板71が実装される。これにより、基板71の表面にグリスが付着する虞を低減できる。
【0044】
また、本実施形態に係る波動歯車装置1においては、シール部材60は、基板71の軸方向他方側の面と、ハウジング50の軸方向一方側の面と、の間に位置する。これにより、基板71の軸方向への撓み変形に追従して、シール部材60を弾性変形させることができる。
【0045】
また、本実施形態に係るシール部材60は、本体部61と、リップ部62とを備える。リップ部62の先端部は、ハウジング50の軸方向一方側の面に接触する。これにより、基板71の軸方向他方側の面よりも軸方向における変形量が少ない、ハウジング50の軸方向一方側の面に、リップ部62の先端部を接触させることができる。したがって、ダイヤフラム部33および基板71が撓み変形した場合に、シール部材60がそれに追従して変形し易くなり、シール性能が向上する。
【0046】
また、本実施形態に係る波動歯車装置1においては、第1抵抗線パターンR1と第2抵抗線パターンR2とを含むホイートストンブリッジ回路72からの出力信号により、可撓性外歯歯車30のダイヤフラム部33に掛かるトルクを検出できる。また、外歯32と内歯41との噛み合い部等に充填されたグリスが、第1抵抗線パターンR1および第2抵抗線パターンR2に到達し難い。
【0047】
特に、本実施形態に係る波動歯車装置1においては、ハウジング50と基板71(ダイヤフラム部33)との間には、相対的な周方向の移動が生じない。したがって、ハウジング50とシール部材60との間、および、基板71とシール部材60との間にも、周方向の滑りが生じない。そのため、シール部材60が摩耗等により劣化してしまうことが抑制される。
【0048】
特に、本実施形態に係る波動歯車装置1においては、ダイヤフラム部33の半径方向内方側にシール部材60が配置されている。このため、ダイヤフラム部33の半径方向外方側の例えばOリング等のシール部材の周方向の少なくとも一部を省略できる。その結果、電装品としての基板71から延びる配線を、波動歯車装置1外部へと引き出すことができる。
【0049】
<2.第2実施形態>
以下では、第2実施形態に係る波動歯車装置200における、本願に特有の構成について説明する。なお、以下の説明においては、上述した実施形態に示したのと同様の構成・機能の部材には、同一の符号を付すことにより、重複説明を省略する。以降の実施形態においても同様とする。
【0050】
第2実施形態に係る波動歯車装置200は、シール部材60に代えて、リップ部262のみを有するシール部材260を備える点で、第1実施形態に係る波動歯車装置1とは相違する。
図6は、第2実施形態に係る波動歯車装置200においてリップ部262の構造を示す縦断面図である。
【0051】
リップ部262は、ゴム等の弾性変形可能な素材でできている。リップ部262は、基板71に対して例えば接着等の方法により固着される。
【0052】
リップ部262は、基板71の半径方向内方側の縁部(内縁部)から、軸方向一方側かつ半径方向内方側に向かって延びている。リップ部262の形状は、半径方向に対して傾斜した略円環状である。別の言い方をすれば、リップ部262は、軸方向一方側に向かうにつれて外周面の半径が狭くなるテーパ状である。リップ部62の軸方向一方側の端部(先端部)は、ハウジング50の円筒部51の外周面に接触している。
【0053】
リップ部262は、半径方向および軸方向に圧縮された状態で、基板71の裏面と、円筒部51の外周面と、の間に位置する。第2実施形態に係る波動歯車装置200は、上記のようなリップ部262を備えることにより、外歯32と内歯41との噛み合い部等に充填されたグリスが、基板71の表面に到達してしまうことを阻止できる。
【0054】
<3.第3実施形態>
以下では、第3実施形態に係る波動歯車装置300における、本願に特有の構成について説明する。
【0055】
第3実施形態に係る波動歯車装置300は、シール部材60に代えてシール部材360を備える点、および、ハウジング50が段差部52を備える点において、第1実施形態に係る波動歯車装置1とは相違する。
図7は、第3実施形態に係る波動歯車装置300においてシール部材360および段差部52の構造を示す縦断面図である。
【0056】
段差部52は、ハウジング50の軸方向一方側の面に設けられる。段差部52は、ハウジング50の軸方向一方側の面のうち、半径方向内方側の面が、半径方向外方側の面よりも、軸方向一方側に突出して、段差状となっている。段差部52の段差面は、周方向の全周にわたって一続きに形成される。すなわち、段差部52の段差面は、中心軸9を中心とする円筒状である。
【0057】
シール部材360は、本体部361と、リップ部362とを備える。本体部361は、中心軸9を中心とする円環状であり、かつ、軸方向に厚みを有する部位である。本体部361の軸方向の厚みは、段差部52の段差の高さと略一致する。また、本体部361の内径は、段差部52の段差面の外径と略一致する。
【0058】
また、本実施形態のリップ部362は、本体部361の軸方向一方側の外縁部から、軸方向一方側かつ半径方向内方側に向かって延びている。リップ部362の形状は、半径方向に対して傾斜した略円環状である。本体部361は、段差部52に取り付けられる。すなわち、本体部361の軸方向他方側の内縁部は、段差部52に接触して位置決めされる。本体部361の軸方向他方側の面は、ハウジング50の軸方向一方側の面に、接触している。リップ部362の軸方向一方側の端部(先端部)は、基板71の軸方向他方側の面に、接触している。
【0059】
シール部材360は、軸方向に圧縮された状態で、ハウジング50と基板71との間に位置する。より詳細には、シール部材360は、リップ部362の先端部を本体部361の軸方向一方側の面に近づける方向に加圧された状態で、基板71の軸方向他方側の面と、ハウジング50の軸方向一方側の面との間であって、可撓性外歯歯車30の半径方向内方側の位置に配置される。
【0060】
以上に示したように、本実施形態に係るシール部材360は、本体部361と、リップ部362とを備える。リップ部362の先端部は、基板71の軸方向他方側の面に接触する。これにより、ダイヤフラム部33および基板71が軸方向に撓み変形した場合に、シール部材360がそれに追従して変形し易くなり、シール性能が向上する。
【0061】
また、本実施形態に係る波動歯車装置300においては、ハウジング50は、シール部材360を保持する段差部52を有する。これにより、シール部材360を軸方向および径方向に位置決めすることができる。その結果、シール性能が向上する。
【0062】
<4.第4実施形態>
以下では、第4実施形態に係る波動歯車装置400における、本願特有の構成について説明する。
【0063】
第4実施形態に係る波動歯車装置400は、シール部材60に代えてシール部材460を備える点、および、基板71の半径方向内方側の縁部(内縁部)がシール部材460が配置される位置まで到達していない点で、第1実施形態に係る波動歯車装置1とは相違する。
図8は、第4実施形態に係る波動歯車装置400においてシール部材460の構造を示す縦断面図である。
【0064】
シール部材460は、ゴム等の、弾性変形可能な素材でできている。シール部材460は、本体部461と、リップ部462とを備える。
【0065】
本体部461は、中心軸9を中心とする円環状であり、かつ、軸方向に厚みを有する部位である。また、本実施形態のリップ部462は、本体部461の軸方向他方側の外縁部から、軸方向他方側かつ半径方向内方側に向かって延びている。リップ部462の形状は、半径方向に対して傾斜した略円環状である。本体部461の軸方向一方側の面は、ダイヤフラム部33の軸方向他方側の面に、接触している。リップ部462の軸方向他方側の端部(先端部)は、ハウジング50の軸方向一方側の面に接触している。
【0066】
シール部材460は、軸方向に圧縮された状態で、ハウジング50とダイヤフラム部33との間に位置する。より詳細には、シール部材460は、リップ部462の先端部を本体部461の軸方向他方側の面に近づける方向に加圧された状態で、ハウジング50の軸方向一方側の面と、ダイヤフラム部33の軸方向他方側の面と、の間であって、可撓性外歯歯車30の半径方向内方側の位置に配置される。
【0067】
本実施形態の波動歯車装置400は、上記のようなシール部材460を備えることにより、外歯32と内歯41との噛み合い部等に充填されたグリスが、基板71の表面に到達してしまうことを阻止できる。
【0068】
特に、本実施形態の波動歯車装置400では、シール部材460の本体部461の軸方向一方側の端面が、基板71ではなくダイヤフラム部33に接触している。そのため、本実施形態では、基板71の径方向内方側の縁部が、ダイヤフラム部33よりも径方向内方側には突出していない。その結果、基板71の裏面にグリスが付着する虞が少なくなる。よって、基板71の裏面に付着したグリスが基板71の外表面を伝って導体層L1に付着してしまう虞も少ない。
【0069】
以上に示したように、本実施形態に係る波動歯車装置400においては、シール部材460は、ダイヤフラム部33の軸方向他方側の面と、ハウジング50の軸方向一方側の面と、の間に位置する。これにより、胴部31よりも変形量の少ないダイヤフラム部33と、ハウジング50と、の間に、シール部材460を配置できるので、シール部材460の伸縮を抑制できる。したがって、シール部材460の劣化を抑制できる。
【0070】
<5.第5実施形態>
以下では、第5実施形態に係る波動歯車装置500における、本願に特有の構成について説明する。
【0071】
第5実施形態に係る波動歯車装置500は、シール部材60に代えてシール部材560を備える点、ハウジング50が段差部52を備える点、および、基板71の半径方向内方側の縁部(内縁部)がシール部材560が配置される位置まで到達していない点で、第1実施形態に係る波動歯車装置1とは相違する。
図9は、第5実施形態に係る波動歯車装置500においてシール部材560および段差部52の構造を示す縦断面図である。
【0072】
シール部材560は、本体部561と、リップ部562とを備える。本体部561は、中心軸9を中心とする円環状であり、かつ、軸方向に厚みを有する部位である。本体部561の軸方向の厚みは、段差部52の段差の高さと略一致する。また、本体部561の内径は、段差部52の段差面の外径と略一致する。
【0073】
また、本実施形態のリップ部562は、本体部561の軸方向一方側の外縁部から、軸方向一方側かつ半径方向内方側に向かって延びている。リップ部562の形状は、半径方向に対して傾斜した略円環状である。本体部561は、段差部52に取り付けられる。すなわち、本体部561の軸方向他方側の内縁部は、段差部52に接触して位置決めされる。本体部561の軸方向他方側の面は、ハウジング50の軸方向一方側の面に、接触している。リップ部562の軸方向一方側の端部(先端部)は、ダイヤフラム部33の軸方向他方側の面に接触している。
【0074】
シール部材560は、軸方向に圧縮された状態で、ハウジング50とダイヤフラム部33との間に位置する。より詳細には、シール部材560は、リップ部562の先端部を本体部561の軸方向一方側の面に近づける方向に加圧された状態で、ハウジング50の軸方向一方側の面と、ダイヤフラム部33の軸方向他方側の面と、の間であって、可撓性外歯歯車30の半径方向内方側の位置に配置される。
【0075】
本実施形態の波動歯車装置500は、上記のようなシール部材560を備えることにより、外歯32と内歯41との噛み合い部等に充填されたグリスが、基板71の表面に到達してしまうことを阻止できる。
【0076】
特に、本実施形態の波動歯車装置500では、シール部材560のリップ部562の先端部が、基板71ではなくダイヤフラム部33に接触している。これにより、基板71の裏面にグリスが付着する虞が少なくなる。よって、基板71の裏面に付着したグリスが基板71の外表面を伝って導体層L1に付着してしまう虞も少ない。
【0077】
<6.第6実施形態>
以下では、第6実施形態に係る波動歯車装置600における、本願に特有の構成について説明する。
【0078】
第6実施形態に係る波動歯車装置600は、シール部材60に代えてシール部材660を備える点、および、ハウジング50が段差部53を備える点で、第1実施形態に係る波動歯車装置1とは相違する。
図10は、第6実施形態に係る波動歯車装置600においてシール部材660および段差部53の構造を示す縦断面図である。
【0079】
段差部53は、ハウジング50の円筒部51の外周面に設けられる。段差部53は、円筒部51の外周面のうち、軸方向一方側の外周面が、軸方向他方側の外周面よりも、中心軸9に近接して配置され、段差状となっている。段差部53の段差面は、円筒部51の周方向の全周にわたって一続きに形成される。すなわち、段差部53の段差面は、中心軸9を中心とする円環状である。
【0080】
シール部材660は、本体部661と、リップ部662とを備える。本体部661は、中心軸9を中心として軸方向に延びる円筒状の部位である。本体部661の径方向の厚みは、段差部53の段差の高さと略一致する。また、本体部661の内径は、円筒部51の段差部53の低い方の領域の外径と略一致する。
【0081】
また、本実施形態のリップ部662は、本体部661の軸方向他方側の外縁部から、軸方向一方側かつ半径方向外方側に向かって延びている。リップ部662の形状は、半径方向に対して傾斜した略円環状である。本体部661は、段差部53に取り付けられる。すなわち、本体部661の軸方向他方側の内縁部は、段差部53に接触して位置決めされる。本体部661の内周面は、段差部53の低い方の領域の外周面に接触している。リップ部662の半径方向外方側の端部(先端部)は、可撓性外歯歯車30の胴部31の外周面に接触している。
【0082】
シール部材660は、半径方向に圧縮された状態で、ハウジング50の円筒部51と、可撓性外歯歯車30の胴部31と、の間に位置する。より詳細には、シール部材660は、リップ部662の先端部を本体部661の外周面に近づける方向に加圧された状態で、円筒部51と、胴部31の軸方向他方側の端部と、の間に配置される。
【0083】
以上に示したように、本実施形態に係る波動歯車装置600においては、ハウジング50は円筒部51を有する。シール部材660は、胴部31の内周面と、円筒部51の外周面と、の間であって、可撓性外歯歯車30の軸方向他方側の位置に配置される。これにより、シール部材660の半径方向の寸法を小さくすることができる。
【0084】
特に、本実施形態のシール部材660は、可撓性外歯歯車30の自由端である軸方向一方側の端部からは、軸方向に離れた位置に、配置されている。このため、シール部材660の弾性変形が、胴部31の撓み変形に追従しなくなってしまいシール性が損なわれる、といった事態が生じ難い。
【0085】
<7.第7実施形態>
以下では、第7実施形態に係る波動歯車装置700における、本願に特有の構成について説明する。
【0086】
第7実施形態に係る波動歯車装置700は、シール部材60に代えてシール部材760を備える点で、第1実施形態に係る波動歯車装置1とは相違する。
図11は、第7実施形態に係る波動歯車装置700においてシール部材760の構造を示す縦断面図である。
【0087】
シール部材760は、本体部761と、リップ部762とを備える。本体部761は、中心軸9を中心として軸方向に延びる円筒状の部位である。本体部761の外径は、可撓性外歯歯車30の胴部31の軸方向他方側の端部における内径と、略一致する。
【0088】
また、本実施形態のリップ部762は、本体部761の軸方向他方側の内縁部から、軸方向一方側かつ半径方向内方側に向かって延びている。リップ部762の形状は、半径方向に対して傾斜した略円環状である。本体部761の外周面は、可撓性外歯歯車30の胴部31の内周面に接触している。リップ部762の半径方向内方側の端部(先端部)は、ハウジング50の円筒部51の外周面に接触している。
【0089】
シール部材760は、半径方向に圧縮された状態で、ハウジング50の円筒部51と、可撓性外歯歯車30の胴部31と、の間に位置する。より詳細には、シール部材760は、リップ部762の先端部を本体部761の内周面に近づける方向に加圧された状態で、円筒部51と、胴部31の軸方向他方側の端部と、の間であって、可撓性外歯歯車30の軸方向他方側の位置に配置される。
【0090】
本実施形態の波動歯車装置700は、上記のようなシール部材760を備えることにより、外歯32と内歯41との噛み合い部等に充填されたグリスが、基板71の表面に到達してしまうことを阻止できる。
【0091】
特に、本実施形態の波動歯車装置700では、シール部材760のリップ部762の先端部が、可撓性外歯歯車30の胴部31ではなく、ハウジング50の円筒部51に接触している。ここで、胴部31は半径方向に撓み変形するが、ハウジング50は殆ど変形しない。このように実質的には剛体であるハウジング50の円筒部51に、リップ部762の先端部を接触させているため、胴部31が半径方向に撓み変形した場合に、シール部材760がそれに追従して変形し易い。
【0092】
<8.第8実施形態>
以下では、第8実施形態に係る波動歯車装置800における、本願に特有の構成について説明する。
【0093】
第8実施形態に係る波動歯車装置800は、シール部材60を備えていない点、ハウジング50が段差部54を備える点、および、基板71に代えて基板871を備える点で、第1実施形態に係る波動歯車装置1とは相違する。
図12は、第8実施形態に係る波動歯車装置800において段差部54および基板871の構造を示す縦断面図である。
【0094】
段差部54は、ハウジング50の円筒部51の外周面に設けられる。段差部54は、円筒部51の外周面のうち、軸方向一方側の外周面が、軸方向他方側の外周面よりも、中心軸9に近接して配置され、段差状となっている。段差部54の段差面は、円筒部51の周方向の全周にわたって一続きに形成される。
【0095】
基板871は、基板71と比べて、半径方向内方側の縁部(内縁部)がより半径方向内方へ延びている。詳細には、基板871は、段差部54の段差面の半径方向内方側の端まで延びている。基板871は、段差部54の段差面に接触している。段差部54の段差面により、基板871が位置決めされる。基板871により、半径方向において胴部31と円筒部51との間に形成される空間と、軸方向においてハウジング50とダイヤフラム部33との間に形成される空間とが、仕切られている。これにより、基板871の半径方向内方側の端部は、外歯32と内歯41との噛み合い部等に充填されたグリスが基板871の表面(軸方向他方側の面)に到達してしまうことを阻止する、シール部材として機能する。
【0096】
以上に示したように、本実施形態の波動歯車装置800においては、軸方向に見たときに、基板871が、胴部31よりも半径方向内方側まで延びている。これにより、外歯32と内歯41との噛み合い部等に充填されたグリスが、基板871の半径方向内方側の端部に遮られることにより、ハウジング50とダイヤフラム部33との間に形成される空間に到達し難くなる。
【0097】
<9.第9実施形態>
以下では、第9実施形態に係る波動歯車装置900における、本願に特有の構成について説明する。
【0098】
第9実施形態に係る波動歯車装置900は、シール部材60を備えていない点、ハウジング50が段差部55を備える点、および、基板71に代えて基板971を備える点で、第1実施形態に係る波動歯車装置1とは相違する。
図13は、第9実施形態に係る波動歯車装置900において段差部55および基板971の構造を示す縦断面図である。
【0099】
段差部55は、ハウジング50の円筒部51の外周面に設けられる。段差部55は、円筒部51の外周面のうち、軸方向一方側の外周面が、軸方向他方側の外周面よりも、中心軸9から離間して配置され、段差状となっている。段差部55の段差面は、円筒部51の周方向の全周にわたって一続きに形成される。
【0100】
基板971は、基板71と比べて、半径方向内方側の縁部(内縁部)がより半径方向内方へ延びている。詳細には、基板971は、段差部55の段差面の半径方向内方側の端まで延びている。基板971は、段差部55の段差面に接触している。段差部55の段差面により、基板971が位置決めされる。基板971により、半径方向において胴部31と円筒部51との間に形成される空間と、軸方向においてハウジング50とダイヤフラム部33との間に形成される空間とが、仕切られている。これにより、基板971の半径方向内方側の端部は、外歯32と内歯41との噛み合い部等に充填されたグリスが基板971の表面(軸方向他方側の面)に到達してしまうことを阻止する、シール部材として機能する。
【0101】
以上に示したように、本実施形態の波動歯車装置900においては、軸方向に見たときに、基板971が、胴部31よりも半径方向内方側まで延びている。これにより、外歯32と内歯41との噛み合い部等に充填されたグリスが、基板971の半径方向内方側の端部に遮られることにより、ハウジング50とダイヤフラム部33との間に形成される空間に到達し難くなる。
【0102】
<10.第10実施形態>
以下では、第10実施形態に係る波動歯車装置100における、本願に特有の構成について説明する。
【0103】
第10実施形態に係る波動歯車装置100は、シール部材60を備えていない点、および、基板71に代えて基板171を備える点で、第1実施形態に係る波動歯車装置1とは相違する。
図14は、第10実施形態に係る波動歯車装置100において基板171の構造を示す縦断面図である。
【0104】
基板171は、基板71と比べて、半径方向内方側の縁部(内縁部)がより半径方向内方へ延びている。詳細には、基板171は、円筒部51の外周面まで延びている。すなわち、基板171の内縁部は、円筒部51の外周面と接触している。基板171により、半径方向において胴部31と円筒部51との間に形成される空間と、軸方向においてハウジング50とダイヤフラム部33との間に形成される空間とが、仕切られている。これにより、基板171の半径方向内方側の端部は、外歯32と内歯41との噛み合い部等に充填されたグリスが基板171の表面(軸方向他方側の面)に到達してしまうことを阻止する、シール部材として機能する。
【0105】
以上に示したように、本実施形態の波動歯車装置100においては、基板171の半径方向内方側の端部が、円筒部51の外周面に接触し、基板171がシール部材として機能する。これにより、別途シール部材を設けなくても、基板171を半径方向内方側に延長して、基板171の半径方向内方側の端部をシール部材として機能させることが可能となる。よって、部品点数を削減できる。
【0106】
<11.変形例>
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態には限定されない。
【0107】
リップ部が本体部から延びる方向は、上記の実施形態で示したのとは異なっていてもよい。例えば、第1実施形態において、リップ部62が本体部61の軸方向他方側の外縁部から軸方向他方側かつ半径方向内方側に延びていたのに代えて、リップ部が本体部の軸方向他方側の内縁部から軸方向他方側かつ半径方向外方側に延びることにしてもよい。あるいは、第4実施形態において、リップ部462が本体部461の軸方向他方側の外縁部から軸方向他方側かつ半径方向内方側に向かって延びていたのに代えて、リップ部が本体部の軸方向他方側の内縁部から軸方向他方側かつ半径方向外方側に延びることにしてもよい。
【0108】
第1実施形態および第3実施形態において、シール部材は、接触圧により基板に保持されていてもよいし、あるいは接着剤等により基板に固着されていてもよい。
【0109】
軸方向においてハウジング50とダイヤフラム部33との間に形成される空間に、トルク検出センサ70に加えてまたは代えて、温度センサ等の他の電装品が搭載されていてもよい。もっとも、電装品は省略してもよい。
【0110】
上記第8実施形態および第9実施形態のように段差部により基板を位置決めすることに代えて、基板の内縁部と、ハウジングの円筒部と、の間にラビリンス構造を設けてもよい。すなわち、ラビリンス構造により基板の内縁部を軸方向に挟み込むことにより、グリスの移動を阻止してもよい。
【0111】
各図に表れている、固定部34とハウジング50との間、および、固定部34と第2フレーム92との間の略環状のシール部材は、省略してもよい。
【0112】
上記第8実施形態から第10実施形態において、基板の半径方向内方側の端部に、例えば円環状の補強板を、軸方向一方側または軸方向他方側から取り付けてもよい。
【0113】
シール部材によるシール構造と、基板の半径方向内方側の端部によるシール構造とを、兼ね備えていてもよい。
【0114】
上記の実施形態では、可撓性外歯歯車30がハウジング50を介して波動歯車装置1が搭載される装置の枠体に固定され、内歯歯車40が中心軸9を中心に回転していた。しかしながら、これに代えて、内歯歯車が、波動歯車装置が搭載される装置の枠体に固定され、可撓性外歯歯車が中心軸を中心に回転する、としてもよい。
【0115】
その他、波動歯車装置の細部の構成についても、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜に変更してもよい。また、上記の各実施形態および各変型例に登場した要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。