(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-45102(P2021-45102A)
(43)【公開日】2021年3月25日
(54)【発明の名称】尾数計数装置及び尾数計数方法
(51)【国際特許分類】
A01K 61/95 20170101AFI20210226BHJP
G01S 5/22 20060101ALI20210226BHJP
G01S 7/526 20060101ALI20210226BHJP
G01S 7/527 20060101ALI20210226BHJP
G01S 15/87 20060101ALI20210226BHJP
G01S 15/88 20060101ALI20210226BHJP
G06M 7/00 20060101ALI20210226BHJP
G06M 11/00 20060101ALI20210226BHJP
【FI】
A01K61/95
G01S5/22
G01S7/526 M
G01S7/527
G01S15/87
G01S15/88
G06M7/00 301P
G06M11/00 F
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2019-171501(P2019-171501)
(22)【出願日】2019年9月20日
(71)【出願人】
【識別番号】519341957
【氏名又は名称】濱野 明
(74)【代理人】
【識別番号】100123973
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 拓真
(74)【代理人】
【識別番号】100082762
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 正知
(72)【発明者】
【氏名】濱野 明
(72)【発明者】
【氏名】松尾 行雄
(72)【発明者】
【氏名】笹倉 豊喜
【テーマコード(参考)】
2B104
5J083
【Fターム(参考)】
2B104AA01
2B104CC34
2B104GA01
5J083AA02
5J083AB02
5J083AC29
5J083AD04
5J083AD08
5J083AD13
5J083AE04
5J083AF01
5J083BA01
5J083BE12
5J083BE19
5J083CA05
5J083CA12
(57)【要約】 (修正有)
【課題】生簀内の魚の総尾数を自動的且つ高精度に計数することを可能とする尾数計数装置及び尾数計数方法を提供する。
【解決手段】複数の超音波の送受波器を配列して超音波の送受信チャンネルを複数個有するようになされたマルチ送受波ソナーと、マルチ送受波ソナーの複数の超音波の送受波器により形成される音響カーテンを単位時間当たり通過する魚の尾数を求める尾数計算部7aと、魚の遊泳速度を求める遊泳速度計算部7bと、尾数計算部によって求められた尾数と遊泳速度計算部によって求められた遊泳速度から総尾数を算出する尾数算出部7cとを備え、マルチ送受波ソナーの受信信号中のゴーストを除去するゴースト除去処理を行うことを特徴とする尾数計測装置である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の超音波の送受波器を配列して超音波の送受信チャンネルを複数個有するようになされたマルチ送受波ソナーと、
前記マルチ送受波ソナーの複数の超音波の送受波器をにより形成される音響カーテンを単位時間当たり通過する魚の尾数を求める尾数計算部と、
前記魚の遊泳速度を求める遊泳速度計算部と、
前記尾数計算部によって求められた尾数と前記遊泳速度計算部によって求められた遊泳速度から総尾数を算出する尾数算出部とを備え、
前記マルチ送受波ソナーの受信信号中のゴーストを除去するゴースト除去処理を行うことを特徴とする尾数計測装置。
【請求項2】
前記ゴースト除去処理は、隣り合うチャンネルでほぼ同じ距離のエコーの中で最大のエコーを残す処理である請求項1に記載の尾数計測装置。
【請求項3】
一つ前の送信信号に対するほぼ同じ距離のエコーのピークを連結し、連結数が閾値より大なる場合に、魚と判定することによってノイズを除去するようにした請求項1又は2に記載の尾数計測装置。
【請求項4】
前記遊泳速度計算部は、発振器を取り付けた魚からの信号を複数の受信機によって受信して前記魚の位置を検出し、検出された魚の位置から前記魚の遊泳速度を算出するようにした請求項1から3のいずれかに記載の尾数計測装置。
【請求項5】
前記遊泳速度計算部は、前記マルチ送受波ソナーに対して水平方向で所定の距離離れた位置に他の送受波器を設け、前記マルチ送受波ソナー及び前記他の送受波器により検出され魚のエコーから前記魚の遊泳速度を算出するようにした請求項1から3のいずれかに記載の尾数計測装置。
【請求項6】
前記マルチ送受波ソナーの魚のエコーが有する二つのピークの距離から魚の体幅を測定するようにした請求項1から5の何れかに記載の尾数計測装置。
【請求項7】
前記マルチ送受波ソナーのエコーが存在する時刻を計算し、周回速度を考慮することで、前記魚の体長を推定するようにした請求項1から6の何れかに記載の尾数計測装置。
【請求項8】
複数の超音波の送受波器を配列して超音波の送受信チャンネルを複数個有するようになされたマルチ送受波ソナーによって音響カーテンを形成し、前記音響カーテンを単位時間当たり通過する魚の尾数を求める尾数計算ステップと、
前記魚の遊泳速度を求める遊泳速度計算ステップと、
前記尾数計算ステップによって求められた尾数と前記遊泳速度計算ステップによって求められた遊泳速度から総尾数を算出する尾数算出ステップとを有し、
前記マルチ送受波ソナーの受信信号中のゴーストを除去するゴースト除去処理を行うことを特徴とする尾数計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば生簀内のクロマグロの尾数の計測に適用される尾数計数装置及び尾数計数方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生簀養殖の主要魚種の一つであるクロマグロは、その表皮が弱いという生物学的な特性もあって、一度生簀に活け込むと、出荷までその魚体に触れることができないため、養殖業者の多くは稚魚の活け込みから出荷までを、経験的な方法で尾数管理を行っている。
【0003】
養殖尾数をリアルタイムで把握できる従来の計測手法として密度推定法、水中カメラを用いた方法などの持つ欠点を解決するものとして、非特許文献1に記載の計数装置及び計数方法が提案されている。
【0004】
非特許文献1に記載の方法は、クロマグロが生簀内を一定方向に周回する遊泳行動に着目したものであり、周回するクロマグロが生簀の一断面を通過する単位時間当たりの通過尾数と1周当りの周回時間を掛け合わせることにより、生簀内の総尾数を求める方法である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】日本水産工学会誌「水産工学」Vol.54 No.3. pp215-221 2017・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1に記載の方法は、以前の方法に比較して高い精度で尾数を計測することができる利点がある。この方法においては、マルチ送受波ソナーからの通常の魚群探知機のような複数チャンネルの映像がPC(パーソナルコンピュータ)の画面上に表示される。しかしながら、他チャンネルからの反射信号のために生じる偽像(ゴーストと適宜称する)を取り除くために、画面に表示されている各チャネルの映像で計測時間と距離が一致する個体反応画像を比較して、個体反応が強い画像を取り込み、そうでない反応をゴーストとして取り除く処理をマニュアルで行っている。その結果,処理時間が長くなったり、作業者の間で処理がばらついて精度が低下したりする問題があった。
【0007】
したがって、本発明の目的は、かかる問題点が解決された尾数計数装置及び尾数計数方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、複数の超音波の送受波器を配列して超音波の送受信チャンネルを複数個有するようになされたマルチ送受波ソナーと、
マルチ送受波ソナーの複数の超音波の送受波器により形成される音響カーテンを単位時間当たり通過する魚の尾数を求める尾数計算部と、
魚の遊泳速度を求める遊泳速度計算部と、
尾数計算部によって求められた尾数と遊泳速度計算部によって求められた遊泳速度から総尾数を算出する尾数算出部とを備え、
マルチ送受波ソナーの受信信号中のゴーストを除去するゴースト除去処理を行うことを特徴とする尾数計測装置である。
また、本発明は、このような処理を行なう尾数計測方法である。
【発明の効果】
【0009】
少なくとも一つの実施形態によれば、マルチ送受波ソナーの受信信号中のゴーストを除去することによって尾数計測を自動的且つ高精度に行なうことができる。なお、ここに記載された効果は必ずしも限定されるものではなく、本明細書に記載されたいずれかの効果又はそれらと異質な効果であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態のシステム全体の概略を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、魚尾数計測の処理の一例の流れを示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、魚尾数計測の処理の他の例の流れを示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、マルチ送受波ソナーの説明のための略線図である。
【
図5】
図5は、マルチ送受波ソナーの受信信号の処理を説明するためのフローチャートである。
【
図6】
図6は、各チャンネルでのピーク検出の処理を説明するための波形図である。
【
図7】
図7は、マルチ送受波ソナーによる音響カーテンを魚が通過する状態を示す略線図である。
【
図8】
図8は、隣接するチャンネルのエコーの画像を示す略線図である。
【
図9】
図9は、ゴースト除去の信号処理を説明するための波形図である。
【
図10】
図10は、連続性の評価を説明するための波形図である。
【
図11】
図11は、検出された魚の画像の一例を示す略線図である。
【
図12】
図12は、各レーンの通過尾数の一例を示すグラフである。
【
図13】
図13は、生簀の垂直方向断面及び水平方向断面においてマグロが遊泳する状態を説明するための略線図である。
【
図14】
図14は、送受波器のエコーグラムとマルチ送受波ソナーの一つのチャンネルのエコーグラムを示す略線図である。
【
図15】
図15は、ch16のエコーグラム、ch6のエコーグラム及び相関解析の結果を示す略線図である。
【
図17】
図17は、距離差の度数(頻度)分布の一例を示すグラフである。
【
図19】
図19は、体長測定方法により求められた魚体長の頻度分布の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態等について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態等は本発明の好適な具体例であり、本発明の内容がこれらの実施形態等に限定されるものではない。
【0012】
図1は、システム全体の概略を示す。尾数計数システム1は、超音波の送波器2及び受波器3を備えている。送波器2及び受波器3は、それぞれ異なる指向特性を持つようにされた複数チャンネル分(例えば15チャンネル分)設けられており、送波器2及び受波器3によってマルチ送受波ソナーが構成されている。送波器2に対して送信回路4から送信信号が供給され、超音波の送信信号が水中に放射される。受波器3によって送信信号に対応する反射信号(エコーと適宜称する)が受信され、受信信号が受信回路5に供給される。
【0013】
マルチ送受波ソナーは、所定の判定の生簀8の中を遊泳するクロマグロ(以下、単にマグロ又は魚と適宜称する)を見落しなく計測するための性能を備えている。すなわち、遊泳するマグロの個体識別が可能な周波数,距離分解能(パルス幅)及びビーム幅とされ、また、高速で遊泳する個体を捕捉可能なパルス発射回数とされ、さらに、生簀の鉛直断面をカバーできる音響カーテンを形成するような配列の送受波器を備えている。
【0014】
送信回路4及び受信回路5に対して、マイクロコンピュータなどで構成されている演算部6が接続される。演算部6は、ソフトウェア(プログラム)によって動作し、通過魚尾数計算部7a、遊泳速度計算部7b、魚尾数算出部7cのブロックで表される機能を有する。演算部6の処理によって計測結果が出力される。図示しないが、計測結果が出力される記憶(記録)装置、表示装置などが設けられている。
【0015】
魚尾数計測の処理の流れの一例を
図2のフローチャートに示す。
ステップST1:マルチ送受波ソナーの受信信号を用いて音響カーテンを通過する魚の尾数をカウントする。
ステップST2:ピンガーを用いて、魚の周回速度を計算する。
ステップST3:魚の周回速度とステップST1で求められた音響カーテンを通過する魚の尾数から総尾数を計算する。
【0016】
マグロが生簀を1周するのにかかる時間、すなわち周回時間を求めるためにピンガー (超音波発振器)が利用される。一例として、マグロの餌であるサバの体内に小型ピンガーを挿入し、それをマグロに食べさせることによりマグロの体内に非接触でピンガーを取り込ませている。
【0017】
ピンガー信号をもとに遊泳軌跡を求める方法は、遊泳する魚から発信されるピンガー信号を生簀内の4か所に設置した受信機で受信して、それぞれの信号の受信時間差から得られる位置の線の交点から魚の位置をリアルタイムで求めるものである。ピンガーの周波数は例えば62.5kHzで、発信間隔は1回/sである。数匹の魚にピンガーを装着される。生簀内で遊泳するマグロの遊泳行動を1秒ごとにリアルタイムで受信計測することができ、遊泳軌跡が求められる。この結果から、マグロは生簀内をほぼ規則正しく反時計回りに周回していることが判明した。そこで、これらピンガーから得られた周回軌跡から、周回半径毎に魚の遊泳軌跡を取り出し、周回半径と周回時間の関係を調べた結果から生簀内で遊泳するマグロの周回時間は、周回半径の関数として高い相関係数の下記の一次回帰式で表わされることが分かった。
【0018】
y(i)=ax(i)+b
y(i):i番目のレーンの周回時間(s)
i:生簀の中心から外周までの1m毎のレーン番号
x:生簀中心から外周までの距離(周回半径)(m)
【0019】
生簀の一断面を通過した尾数を単位時間当たりの通過尾数として求め、先に求めた各レーンにおける周回時間と単位時間当たりの通過尾数を掛け合わせ、これを各レーンにおける通過尾数として求め、これらを総計することにより生簀内のマグロ総尾数Qが求められる。この式を下記に示す。
【0021】
上式で(m(i))は、i番目のレーンにおけるt時間の通過尾数を表し、tは計測時間 (s)である。また、Σは、レーン番号を(1,2,...,n)とすると、(i=1)から(i=n)までの総和を求めることを表している。
【0022】
図3は、魚尾数計測の処理の流れの他の例を示すフローチャートである。他の例では、ピンガーを使用しないでマルチ送受波ソナーの受信信号から周回時間を求めるようにしている。
ステップST11:マルチ送受波ソナーを用いて音響カーテンを通過する魚の尾数をカウントする。
ステップST12:マルチ送受波ソナーを用いて、魚の周回速度を計算する。
ステップST13:魚の周回速度と音響カーテンを通過する魚の尾数から総尾数を計算する。
【0023】
さらに、本発明の一実施形態について説明する。マルチ送受波ソナー9は、
図4に示すように、所定の判定の生簀8の中を遊泳するマグロを計測するような仕様とされている。一例として、非特許文献1に記載のような仕様とされている。すなわち、周波数は高分解能が可能な高周波数帯の460kHz、マグロの個体識別が可能な距離分解能を持つパルス幅として0.064ms(距離分解能4.8cm)、一断面を見落としなく探査できるためのビーム幅として5度,遊泳速度が約1m/sのマグロからの反射エコーを十分受波できるためのパルス発射回数を20回/sとしている。
【0024】
これら機能要素を持つ送受波器を扇形状に15個配置したマルチ送受波ソナー9が生簀8の内側に設置され、マルチ送受波ソナー9から発信する超音波で生簀の一断面をいわゆる音響断面(音響カーテンと称する)10で仕切り,周回するマグロがこの音響カーテン10を通過する尾数を見落としなく計測できるようにされる。
【0025】
マルチ送受波ソナー9においては、魚からのエコーを確実にとらえるために、送受波器の指向特性を設定している。そのため複数の受波器に同じ魚からのエコーが計測される。一番エコー強度が大きいのが魚の方向となる。魚の方向以外のエコーがゴーストである。コンピュータなどによって、自動カウントするためには、ゴーストを除去し、一匹の魚として検知する必要がある。
【0026】
さらに、計測されたデータにはノイズ(魚以外からのエコー、電気的ノイズなど)も含まれてきる。ノイズを除去し、魚からのエコーのみを検知する必要がある。一実施形態の今回のシステムでは、1秒間に20回、送信信号を送信している。魚からのエコーの場合、連続してエコーが計測されるが、ノイズの場合は一度のみエコーが存在している可能性が高い。
【0027】
本発明の一実施形態では、上述した点を考慮して、
図5のフローチャートに示されるような処理でもってマルチ送受波ソナーの受信信号を処理している。
ステップST21:各チャネル(受波器)で計測された受信信号のエコーからピークを検出する。
【0028】
ステップST22:隣り合うチャネルでほぼ同じ往復距離でピークがある場合、一つの魚からのエコーとして、一番大きなチャネルのエコーのみを残す(ゴースト除去)。
ステップST23:一つ前の送信信号でも同じ往復距離にピークが存在する場合、一つの魚からのエコーとする(エコーの連続性評価)。すなわち、1つ前の送信信号に対するほぼ同じ距離のピークを連結する。
【0029】
ステップST24:ステップST23の処理でピークとして連結された送信回数が閾値以上かどうかが判定される。閾値より少ない場合は、エコーがノイズと判定され、処理が最初のステップST21に戻る。
ステップST25:ステップST24において、閾値以上と判定された場合、検出された魚のチャネルと距離から、魚の位置を計算する。
【0030】
ステップST26:生簀中心(ピンガーから得られたマグロの周回軌跡における中心)からの距離毎に(すなわち、周回レーン毎に)単位時間当たりの音響カーテンを通過する尾数を計算する。
ステップST27:生簀中心から距離ごとの周回速度と通過尾数から生簀全体の尾数を計算する。
【0031】
図6は、ステップST21のピーク検出の処理を説明するためのもので、横軸が距離であり、縦軸がエコーの大きさである。
図6は、ある一つのチャンネルの受信信号の波形を示している。破線で示すような閾値が設定される。閾値としては、絶対値又は全体の平均値の定数倍の値が使用される。
図6の例では、閾値以上の値を持つピークが2個検出されている。なお、
図6、
図9及び
図10では、エコーをアナログ波形で示しているが、演算部6では、受信信号をデジタル信号に変換してデジタル信号処理でもって処理がなされる。
【0032】
図7は、マルチ送受波ソナー9による音響カーテン10の一例を示す。マルチ送受波ソナー9は、例えば15個の送受波器が扇状に配列されたものであり、水平方向の指向特性を持つ送受波器の送受信経路をch(チャンネル)1とし、例えば5°の間隔で鉛直方向に指向特性を持つ送受信経路をch2とし、以下、ch3,ch4,...,ch15が設定されている。したがって、全体で水平位置から70°の角範囲に拡がった音響カーテン10が構成される。これらの数値は一例であるが、魚からのエコーを確実に捉えることができるような指向特性、チャンネル数などが設定される。また、生簀の半径に応じて音響カーテン10の検知範囲の距離が設定される。例えば生簀の半径が20mの場合では、マルチ送受波ソナー9は、20m又は20mよりやや大きい範囲でのエコーに基づいて検知を行なえばよい。
【0033】
図7に示すように、マグロが音響カーテン10を通過する時に、複数の隣接するチャンネルで同じマグロからのエコーが存在する。ゴースト除去のために、相対的に反射が弱いエコー(ゴースト)を削除するようになされる(ステップST22の処理)。
図8は、隣接するチャンネル例えばch3,ch4,ch5,ch6,ch7のエコーの画像を示している。魚群探知機と同様に、縦方向が距離を示し、横方向が時間を示す。また、濃淡がエコーの大きさを表している。濃い部分は、薄い部分よりエコーが大きい(反射が強い)ことを示している。この例では、ほぼ同じ距離に生じるエコーの内で、ch5のエコーが最も大きいので、ch5以外のエコーは、ゴーストと判定される。
【0034】
図9は、ゴースト除去の信号処理を示している。ch3〜ch7のそれぞれのエコーが示されている。ほぼ同じ距離で発生するエコーの中で、相対的にレベルの大きなエコー (この例ではch5のエコー)が真のエコーと判定され、他のエコーがゴーストと判定される。
【0035】
次に、ステップST23でなされる連続性の評価について、
図10を参照して説明する。
図10は、チャンネルch5のエコーの波形を示し、縦軸が時間(s)を示し、横軸が往復距離(m)を示す。1秒間に20回の送信を行なうので、時間間隔が0.05秒となる。一つ前の同じ往復距離でピークが存在する場合、一尾の魚としてつなげる。すなわち、連続してピークをとらえることができた連続送信回数がある閾値(例:5〜20回の範囲内で設定される)の場合、一尾の魚として検出する。このような処理でノイズの除去を行なうことができる。すなわち、魚からのエコーの場合、連続してエコーが計測されるが、ノイズの場合には一度のみエコーが存在している可能性が高い。そして、
図11に示す画像のように、ch5のエコーを一尾の魚として検出する。
【0036】
検出された魚のチャンネルと距離からその魚の位置が計算される(ステップST25)。生簀の中心(例えばマグロの周回における中心)からの距離ごと(例えば1m単位で設定された各レーン)の単位時間当たりの通過尾数が計算される(ステップST26)。
【0037】
各レーンの周回時間(s)とマルチ送受波ソナーで得られた音響カーテンを通過した単位時間当たりの通過尾数を掛け合わせることにより、各レーンにおけるマグロの1周分の通過尾数を求めることができる。この結果を各レーンの通過尾数として示したのが
図12である。さらに、各レーンにおける通過尾数を足し合わせることにより生簀に現存するマグロの尾数が求められる。以上の処理は、
図1の通過尾数計算部7aによって行なわれる。
【0038】
そして、遊泳速度計算部7bによってピンガーのデータから得られた生簀の中心からの距離(レーン)ごとの周回速度を使用して、魚尾数算出部7cが上述した式でもって生簀全体の総尾数を計算する(ステップST27)。
【0039】
上述した本発明の一実施形態によれば、マルチ送受波ソナーにより得られたエコーの表示画像を目視してゴーストを除去する作業と比較して、コンピュータ及びソフトウェアによる処理でゴーストの除去を行なうことができるので、ダブルカウントを防止して高精度の尾数計測が可能となる。また、作業時間の短縮化も可能である。
【0040】
本発明においては、ピンガーを使用しないで、マルチ送受波ソナーを用いて速度計測を行なうことができる。生簀の垂直方向断面及び水平方向断面においてマグロが遊泳する状態を
図13に示すように表す。垂直方向の俯角25°の位置を遊泳している。
【0041】
水平方向の距離1mの間隔で二つのマルチ送受波ソナー9a及び送受波器9bを配置する。一方のマルチ送受波ソナー9aは、一実施形態のマルチ送受波ソナー9と同様に15個の送受波器(ch1〜ch15)が扇状に配列されたものである。送受波器9bは,マルチ送受波ソナー9aのch6と同じ角度(指向特性)に設定されたものである。この送受波器9bのチャンネルをch16と表す。ch6とch16のエコーから遊泳速度を計算することができる。
【0042】
すなわち、ch16とch6を通過する時間差がtで、距離の差がdrとする。遊泳速度Vfは、(Vf=移動距離/t)(m/sec)であり、移動距離は、√(1+dr
2 )で計算される。√は、(1+dr
2 )の平方根を意味する。
【0043】
図14は、ch16(送受波器9b)とch6(マルチ送受波ソナー9a)のエコーの一例を示す。横軸が時間であり、縦軸がレンジ(m)である。これらの画像をエコーグラムと称すると、ある1尾のch6のエコーグラムをE6(r,t)と表し、ch16のエコーグラムをE16(r,t) と表す。
【0044】
ch6のエコーグラムE6(r,t)を基準として、同じ画像がどれくらいの時間差(τ)及び距離(dr)であるかを相関解析によって評価する。次の式のRの最大値のdrとτの値から、それぞれ魚の距離差と魚の移動時間が計算される。
【0046】
なお、2次元の相関解析を用いて距離差と時間差を計測しているが、音エコー開始の時間差やピークの時間差などに変更可能である。
【0047】
図15は、ch16のエコーグラム、ch6のエコーグラム及び相関解析の結果を表している。
図15の一番下の図が相関解析の結果で最大値から、移動時間が0.95秒で距離の変化が0.096mと求められる。この結果から速度は1.06m/sと計算される。
【0048】
次に、本発明の応用例について説明する。第1の応用例は、魚例えばマグロの体幅測定である。
図16Aは、マグロを上から見た図であり、マグロは、体の中心部分に鰾(うきぶくろ)21を備えている。マグロの横から上述したのと同様のマルチ送受波ソナーの超音波が入射すると、
図16Bに示すように、体表とうきぶくろの反射によってエコーが2回発生する。
図16Bの縦軸は、ある一つのチャンネルにおける送信時間の間隔であり、横軸がレンジ(m)である。このことを利用して複数反射が生じているエコーの複数反射の間の距離差を2倍することによって体幅を求めることができる。うきぶくろがない魚については、エコーの複数反射の距離差によって体幅を求めることができる。
【0049】
図17は、このように求められた距離差の度数(頻度)分布の一例を示している。距離差の平均を求めることによって、平均体幅を求めることができる。例えば平均体幅として35.6cmが求められる。
【0050】
本発明の第2の応用例について説明する。第2の応用例は、マグロの体長推定方法である。
図18に示すように、超音波の送受波器によって魚の反射が計測される時間は魚の周回速度と体長に依存している。したがって、魚の反射が計測される時間から周回速度に依存した成分を取り除くことで体長推定を行なうことができる。式で表すと次のようになる。
【0051】
魚体長 L(m)=v×l/20−d(m)×tan(θ/2)×2
【0052】
l:1尾の魚のピング数
v:魚の遊泳速度 (m/s)
d:送受波器から魚までの距離 (m)
θ:送受波器の指向角
【0053】
図19は、このような体長測定方法により求められた魚体長の頻度分布の一例を示すグラフである。横軸が体長(m)を示し、縦軸が頻度を示す。このデータから体長を推定すると、平均魚体長として1.04mが求められた。
【0054】
以上、本発明の一実施形態について具体的に説明したが、本発明は、上述の一実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。例えば魚種としてはブリ、カンパチ、サケなどマグロ以外の魚に対しても適用できる。また、上述の実施形態において挙げた構成、方法、工程、形状、材料及び数値などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる構成、方法、工程、形状、材料及び数値などを用いてもよい。
【符号の説明】
【0055】
1・・・尾数計数システム、2・・・送受波器、3・・・受波器、4・・・送信回路、
5・・・受信回路、7a・・・通過尾数計算部、7b・・・遊泳速度計算部、
7c・・・魚尾数算出部、8・・・生簀、9・・・マルチ送受波ソナー、
10・・・音響カーテン
【手続補正書】
【提出日】2021年1月25日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の超音波の送受波器を配列して超音波の送受信チャンネルを複数個有するようになされたマルチ送受波ソナーと、
前記マルチ送受波ソナーの複数の超音波の送受波器をにより形成される音響カーテンを単位時間当たり通過する魚の尾数を求める尾数計算部と、
前記魚の遊泳速度を求める遊泳速度計算部と、
前記尾数計算部によって求められた尾数と前記遊泳速度計算部によって求められた遊泳速度から総尾数を算出する尾数算出部とを備え、
前記マルチ送受波ソナーの受信信号中の隣り合うチャンネルでほぼ同じ距離のエコーの中で最大のエコーを残すゴースト除去処理を行うことを特徴とする尾数計測装置。
【請求項2】
一つ前の送信信号に対するほぼ同じ距離のエコーのピークを連結し、連結数が閾値より大なる場合に、魚と判定することによってノイズを除去するようにした請求項1に記載の尾数計測装置。
【請求項3】
前記遊泳速度計算部は、発振器を取り付けた魚からの信号を複数の受信機によって受信して前記魚の位置を検出し、検出された魚の位置から前記魚の遊泳速度を算出するようにした請求項1又は2に記載の尾数計測装置。
【請求項4】
前記遊泳速度計算部は、前記マルチ送受波ソナーに対して水平方向で所定の距離離れた位置に他の送受波器を設け、前記マルチ送受波ソナー及び前記他の送受波器により検出され魚のエコーから前記魚の遊泳速度を算出するようにした請求項1又は2に記載の尾数計測装置。
【請求項5】
前記マルチ送受波ソナーの魚のエコーが有する二つのピークの距離から魚の体幅を測定するようにした請求項1から4の何れかに記載の尾数計測装置。
【請求項6】
前記マルチ送受波ソナーのエコーが存在する時刻を計算し、周回速度を考慮することで、前記魚の体長を推定するようにした請求項1から5の何れかに記載の尾数計測装置。
【請求項7】
複数の超音波の送受波器を配列して超音波の送受信チャンネルを複数個有するようになされたマルチ送受波ソナーによって音響カーテンを形成し、前記音響カーテンを単位時間当たり通過する魚の尾数を求める尾数計算ステップと、
前記魚の遊泳速度を求める遊泳速度計算ステップと、
前記尾数計算ステップによって求められた尾数と前記遊泳速度計算ステップによって求められた遊泳速度から総尾数を算出する尾数算出ステップとを有し、
前記マルチ送受波ソナーの受信信号中の隣り合うチャンネルでほぼ同じ距離のエコーの中で最大のエコーを残すゴースト除去処理を行うことを特徴とする尾数計測方法。
【請求項8】
一つ前の送信信号に対するほぼ同じ距離のエコーのピークを連結し、連結数が閾値より大なる場合に、魚と判定することによってノイズを除去するようにした請求項7に記載の尾数計測方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0008】
本発明は、複数の超音波の送受波器を配列して超音波の送受信チャンネルを複数個有するようになされたマルチ送受波ソナーと、
マルチ送受波ソナーの複数の超音波の送受波器により形成される音響カーテンを単位時間当たり通過する魚の尾数を求める尾数計算部と、
魚の遊泳速度を求める遊泳速度計算部と、
尾数計算部によって求められた尾数と遊泳速度計算部によって求められた遊泳速度から総尾数を算出する尾数算出部とを備え、
マルチ送受波ソナーの受信信号中の
隣り合うチャンネルでほぼ同じ距離のエコーの中で最大のエコーを残すゴースト除去処理を行うことを特徴とする尾数計測装置である。
また、本発明は、このような処理を行なう尾数計測方法である。