特開2021-4625(P2021-4625A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ シンフォニアテクノロジー株式会社の特許一覧

<>
  • 特開2021004625-回転機 図000003
  • 特開2021004625-回転機 図000004
  • 特開2021004625-回転機 図000005
  • 特開2021004625-回転機 図000006
  • 特開2021004625-回転機 図000007
  • 特開2021004625-回転機 図000008
  • 特開2021004625-回転機 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-4625(P2021-4625A)
(43)【公開日】2021年1月14日
(54)【発明の名称】回転機
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/44 20060101AFI20201211BHJP
   H02K 5/173 20060101ALI20201211BHJP
   F16N 31/00 20060101ALI20201211BHJP
   F16N 7/18 20060101ALI20201211BHJP
   F16C 33/66 20060101ALI20201211BHJP
   F16C 33/80 20060101ALI20201211BHJP
   F16J 15/447 20060101ALN20201211BHJP
【FI】
   F16J15/44 C
   H02K5/173 A
   F16N31/00 B
   F16N7/18
   F16C33/66 Z
   F16C33/80
   F16J15/447
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-117634(P2019-117634)
(22)【出願日】2019年6月25日
(71)【出願人】
【識別番号】000002059
【氏名又は名称】シンフォニアテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137486
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 雅直
(72)【発明者】
【氏名】渡部 翔平
(72)【発明者】
【氏名】羽田野 量久
【テーマコード(参考)】
3J042
3J216
3J701
5H605
【Fターム(参考)】
3J042AA09
3J042BA05
3J042CA07
3J042CA10
3J042CA22
3J042DA13
3J216AA02
3J216AA03
3J216AB29
3J216AB30
3J216BA30
3J216CA02
3J216CA05
3J216CB04
3J216CB07
3J216CB11
3J216CC41
3J216CC45
3J216CC68
3J216EA07
3J701AA02
3J701AA12
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701AA83
3J701CA08
3J701CA17
3J701FA13
3J701FA32
3J701GA24
5H605AA03
5H605CC04
5H605EB10
5H605EB23
5H605EB25
5H605EB33
(57)【要約】      (修正有)
【課題】軸受に対する適正なグリース保持機能を確保しつつ、使用済グリースの軸受からの排出機能を適切に両立させた、新たな軸受潤滑構造を備えた回転機を実現する。
【解決手段】グリースをグリース補給路を通じて軸受空間S3、S4に充填し、軸受空間S4の出口から出てくる使用済のグリースを排油空間S1を経て排出する構成を備えた回転機において、軸受空間S4の出口から排油空間S1の入口までの空隙部ΔSに、軸受空間S4に近い側にあって軸2とは一体に回転せずにグリースの流出を抑制するグリース保持部12と、排油空間S1に近い側にあって軸2と一体に回転するグリースバルブ8とを配置し、グリースバルブ8に、グリースバルブ8の回転を利用して排油空間S1側へのグリース引き出し力を更に高めるグリース排出装置80を設けた。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリースをグリース補給路を通じて軸受空間に充填し、前記軸受空間の出口から出てくる使用済のグリースを排油空間を経て排出する構成を備えた回転機において、
前記軸受空間の出口から前記排油空間の入口までの空隙部に、軸受空間に近い側にあって軸とは一体に回転せずにグリースの流出を抑制するグリース保持部と、排油空間に近い側にあって軸と一体に回転するグリースバルブとを配置し、前記グリースバルブに、当該グリースバルブの回転を利用して排油空間側へのグリース引き出し力を更に高めるグリース排出装置を設けたことを特徴とする回転機。
【請求項2】
前記グリース保持部が、固定側から軸側に延びる円板状のグリース貯留壁であり、前記グリースバルブが、軸側から固定側に延びる円板状のグリース撹拌壁であり、前記グリース排出装置が、前記グリースバルブの外周において場所によって遠心力に差を生じさせる遠心力差生成部である、請求項1に記載の回転機。
【請求項3】
前記遠心力差生成部が、前記グリースバルブの外周に形成した、軸受側に向かって縮径するテーパ部を利用して構成されている、請求項2に記載の回転機。
【請求項4】
前記遠心力差生成部が、前記グリースバルブの外周に形成した、軸受側に向かって縮径する段部を利用して構成されている、請求項2に記載の回転機。
【請求項5】
前記グリース保持部が、固定側から軸側に延びる円板状のグリース貯留壁であり、前記グリースバルブが、軸側から固定側に延びる円板状のグリース撹拌壁であり、前記グリース排出装置が、前記グリースバルブの外周において粘性によってグリースを掻き出す凹凸部である、請求項1〜4の何れかに記載の回転機。
【請求項6】
前記軸受よりも反軸端側にカバーを隔てて回転機本体が構成されるとともに、前記グリース補給路が前記カバー内を軸に沿って流れて軸受に到達するように構成され、軸とカバーの間が非接触シールで封止されている、請求項1〜5の何れかに記載の回転機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機や発電機などの回転機に関し、特に軸受潤滑構造を改良した回転機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の回転機として、グリースをグリース補給路を通じて軸受空間に充填し、供給後のグリースを軸受空間の出口から排出するように構成されたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図6及び図7に例示するものは、本発明の比較対象として上記特許文献1に類した軸受潤滑構造を有する回転機Pである。この回転機Pは、グリースをグリース補給路Kに沿って上部から注入し、軸受P1、P2を潤滑した後に下部に流れる構造を有しており、その経路は、軸受P1、P2よりも反軸端側にある回転機本体P3側から流入し、軸P8に沿って軸受P1、P2を潤滑した後、軸端側に流れ出てグリース排油口P6から排出される構造となっている。
【0004】
その流れに沿った軸受P1、P2の上流側と下流側とでは圧力に差が生じるため、軸受空間の出口からグリースの排油空間P10までの空隙部ΔDに円板状のグリースバルブP4が設けてある。グリースバルブP4が軸P8とともに回転することで周辺が負圧になり、使用済のグリースを軸受P1、P2から吸い出すようになっている。
【0005】
グリースバルブP4の直径は大きく、軸方向に離間した位置にある回転しない外エンドカバーP5を利用したグリース保持部P50も含めて、軸受空間の出口からグリースの排油空間P6までの空隙部ΔDは、潤滑剤であるグリースの保持およびゴミが入らないような狭小な隙間にしてある。
【0006】
このため、グリースの行き渡り状況は目視できない構造となっており、新たにグリースを補給する際は、運転しながらグリースを注入した後、グリースの行き渡り状況を確認するためにグリース排油口P6から新たに充填したグリースが排出されてきたか否かを確認することも行われている。
【0007】
軸受P1の反軸端側を閉止する位置には内エンドカバーP7が配されて、当該内エンドカバーP6と軸P8との間にラビリンスP9が形成してあり、グリース補給路KのグリースがラビリンスP9から回転機本体P3側に内部漏れすることが防止されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3360355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の構成では、軸受P2の出口からグリース保持部P50、グリースバルブP4を経て排油空間P10に至る空隙部ΔDは小部屋のような構造であるため、使用済のグリースを排出する機能は備えるものの、ゴミの進入防止も兼ねているため、グリースが溜まり易い構造となっている。
【0010】
それに加え、図示の回転機Pでは、グリースの必要以上の排出を防止する観点から、グリースバルブP4の外周をテーパ状にして遠心力によって軸受側に向かう流れを形成するグリース押込装置P11を設けていた。このため、グリースが完全に行き渡ったかどうかを確認するために排油空間P10からグリースが強制排出されるように上からグリースを圧給すると、軸受P1、P2の入口側と出口側の圧力差が大きくなって、グリースがグリース排出空間P10に出るよりも先に、グリース補給路Kの途中に位置するラビリンスシールP9を通って回転機本体1側へ内部漏れを起こす問題が発生することが判明した。
【0011】
上記特許文献1においても、グリース保持部とグリースバルブ(オイルスローワ)の間はラビリンスのような狭小迷路構造になっていて、グリースの保持状態が確保され、逆に使用済グリースの排出が抑制されている。同文献では、グリース排出管に孔を開けることで空気抜きをしてグリースが排出され易くし、同文献のものはグリースがポンプ外への漏防止が図られているが、グリース排出管に孔が開けられない場合にはこのような効果を得ることはできないし、同文献からは内部漏れとの関係は定かではない。
【0012】
また、同文献ではグリースバルブから排出された際のグリースの向きがグリース排出空間には向いておらず、この点でもグリースバルブやグリース排出空間の位置関係に再考の余地が残るものである。
【0013】
本発明は、このような課題に着目してなされたものであって、回転機本体側へのグリースの内部漏れの問題に見るように、軸受に対する適正なグリース保持機能を確保しつつ、使用済グリースの軸受からの排出機能を適切に両立させた、新たな軸受潤滑構造を備えた回転機を実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、かかる目的を達成するために、次のような手段を講じたものである。
【0015】
すなわち、本発明の回転機は、グリースをグリース補給路を通じて軸受空間に充填し、前記軸受空間の出口から出てくる使用済のグリースを排油空間を経て排出する構成を備えた回転機において、前記軸受空間の出口から前記排油空間の入口までの空隙部に、軸受空間に近い側にあって軸とは一体に回転せずにグリースの流出を抑制するグリース保持部と、排油空間に近い側にあって軸と一体に回転するグリースバルブとを配置し、前記グリースバルブに、当該グリースバルブの回転を利用して排油空間側へのグリース引き出し力を更に高めるグリース排出装置を設けたことを特徴とする。
【0016】
このようにすれば、新しいグリースを充填すると、グリースはグリース補給路および軸受空間に至り、一部はグリース保持部によって軸受空間に保持されるとともに、他のグリースはグリースバルブ自体の遠心力による負圧発生機能に加え、グリース排出装置の排出機能によって空隙部の出口に位置する排油空間に無理なく排出される。このため、グリースの適切な保持機能と使用済グリースの排出機能を両立させることができ、グリース補給を強制的に行わずとも、排油空間に至ったグリースを点検すれば新しいグリースが全体に行き渡ったか否かを有効に確認することができる。
【0017】
前記グリース保持部が、固定側から軸側に延びる円板状のグリース貯留壁であり、前記グリースバルブが、軸側から固定側に延びる円板状のグリース撹拌壁であり、前記グリース排出装置が、前記グリースバルブの外周において場所によって遠心力に差を生じさせる遠心力差生成部であるように構成すれば、グリース保持部とグリースバルブが円板状の壁であることで適切な空隙部を形成し、グリース排出装置が遠心力差生成部であることで、中高速回転時に空隙部から排油空間に向かうグリースの流れを適切に生成することができる。
【0018】
具体的な実施の態様として、前記遠心力差生成部が、前記グリースバルブの外周に形成した、軸受側に向かって縮径するテーパ部を利用して構成されているものであれば、安定した差圧変化を形成する性能の高い遠心力差生成部を構成することができる。
【0019】
また、前記遠心力差生成部が、前記グリースバルブの外周に形成した、軸受側に向かって縮径する段部を利用して構成されているものであれば、遠心力差生成部を比較的簡単に構成してコストダウンを図ることができる。
【0020】
一方、前記グリース保持部が、固定側から軸側に延びる円板状のグリース貯留壁であり、前記グリースバルブが、軸側から固定側に延びる円板状のグリース撹拌壁であり、前記グリース排出装置が、前記グリースバルブの外周で粘性によってグリースを掻き出す凹凸部であるように構成すれば、グリース保持部とグリースバルブが円板状の壁であることで適切な空隙部を形成し、グリース排出装置が凹凸部であることで、低中速回転時に空隙部から排油空間に向かうグリースの流れを適切に生成することができる。
【0021】
以上の回転機において、前記軸受よりも反軸端側にカバーを隔てて回転機本体が構成されるとともに、前記グリース補給路が前記カバー内を軸に沿って流れて軸受に到達するように構成され、軸とカバーの間が非接触シールで封止されている構造であれば、軸受よりも軸端側へのグリース排出状態が悪いと、軸受の入口と出口の差圧が大きくなってグリースが非接触シールを通り回転機本体側への内部漏れを生じる可能性があるが、本発明のように構成しておくことで、軸受の入口と出口の差圧が小さくなり、グリースが非接触シールを通って内部漏れを起こすことなく、空隙部を通って円滑に排油空間に到達するようになる。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、以上説明した構成であるから、軸受に対する適正なグリース保持機能を確保しつつ、使用済グリースの軸受からの排出機能を適切に両立させた、新規有用な軸受潤滑構造を備えた回転機を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施形態に係る回転機の要部断面図。
図2図1の部分拡大図。
図3】同実施形態の軸受潤滑構造を比較例と対比して示す図。
図4】本発明の変形例を示す図。
図5】本発明の他の変形例を示す図。
図6】本発明の比較例を示す図1に対応した図。
図7図6の部分拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0025】
この回転機Aは、回転機本体1から延びる軸2の端部を第1の軸受3、第2の軸受4を介してケーシング5に支持させている。
【0026】
回転機本体1は、図示しないロータ、ステータ、コイル等から構成されるもので、ロータは軸2に一体回転可能に設けられている。
【0027】
軸2には、その段部を利用して第1の軸受3、第1のカラー6、第2の軸受4、第2のカラー7、グリースバルブ8が、止め輪9によって位置決め固定されている。
【0028】
第1の軸受3はボールベアリングであり、第2の軸受4はローラベアリングである。
【0029】
ケーシング5は、第1の軸受3の反軸端側に配置される内エンドカバー51と、第2の軸受4の軸端側に配置される外エンドカバー52と、第1、第2の軸受3、4の外輪31、41を支持する支持リング53、54とを備えている。
【0030】
ケーシング5の端部は軸端カバー10で封止されており、軸2は軸端カバー10を非接触で貫通して外部に延出されている。
【0031】
外エンドカバー52にはグリースニップル11が設けてあり、このグリースニップル11から導入されたグリースは、外エンドカバー52、第2支持リング54、第1支持リング53、内エンドカバー51を通る位置に形成したグリース補給路Lによって第1の軸受3の内側に導入される。さらにこの位置からグリースは、第1の軸受3の内輪30と外輪31の間、第1のカラー6と第1の支持リング53の間、第2の軸受4の内輪40と外輪41の間を通って、第2の軸受4の出口に到達するように構成されている。
【0032】
内エンドカバー51は回転機本体1との間を非接触シール51aでシールされ、グリース補給路Lは内エンドカバー51の内側を通り軸2に沿って流れて軸受3、4に到達するように構成されている。その後、第1、第2の軸受3、4の軸受空間S3、S4に充填され、軸受空間S4の出口から出てくる使用済のグリースは、外エンドカバー52内に構成した排油空間S1を経て排出される構造となっている。
【0033】
このような構成において、本実施形態はさらに、前記軸受空間S4の出口から排油空間S1の入口までの空隙部ΔSに、軸受空間S4に近い側にあって軸2とは一体に回転せずにグリースの流出を抑制するグリース保持部12と、排油空間S1に近い側にあって軸2と一体に回転するグリースバルブ8とを配置している。
【0034】
グリース保持部12は、固定側である外エンドカバー52から第2の軸受4を構成する外輪41の側面41aとの間にグリース溜まりS2を形成しつつ径方向内側に向かって延びるグリース貯留壁12xによって構成されている。グリース貯留壁12xは、最寄の軸受である第2の軸受4を構成する外輪41の内周41bよりも内径側でありかつ内輪40の外周40bよりも外径側の位置にまで延びる円板状のものである。
【0035】
グリースバルブ8は、排油空間S1に近い側にあって軸2と一体に回転する。具体的には、グリース貯留壁12xから軸端側に離間した位置において、軸2側から径方向外側に向かって延びるグリース撹拌壁8xである。グリース撹拌壁8xは、第2の軸受4を構成する内輪40の外周40bよりも外径側でありかつ外輪41の内周41bよりも内径側の位置にまで延びる円板状のものである。
【0036】
グリース貯留壁12xは外エンドカバー52の一部に構成されている。外エンドカバー52のうちグリース貯留壁12xの隣接位置には、空隙部ΔSを外向きに拡開する内周面52aが形成され、その空隙部52aの隣接位置に排油空間S1が形成されている。すなわち、排油空間S1は外エンドカバー52の外周壁52cの内側に形成されたもので、その下方にはグリースの排油口52dが設けられている。
【0037】
そして、グリースバルブ8を構成する撹拌壁8xにさらに、グリースバルブ8の回転を利用して排油空間S1側へのグリース引き出し力を更に高めるグリース排出装置80を設けている。
【0038】
この実施形態のグリース排出装置80は、図3(b)に示すように、グリースバルブ8を構成する撹拌壁8xの外周において場所によって遠心力に差を生じさせる遠心力差生成部80xである。具体的には、遠心力差生成部80xは、撹拌壁8xの外周部の端面に形成した、軸受4側に向かって内向きに傾きながら縮径するテーパ部80aを利用したものであり、矢視Aから見たときに、グリース貯留壁12xの内方端m1とグリース撹拌壁80xのテーパ部80aの外方端m2との間には若干の隙間が存し、少なくともオーバーラップしない構造になっている。外輪40の内周40bの一部は外側に開く斜面40aとなっていて、グリースが空隙部ΔSに流出し易い構造となっている。グリースの一部は、遠心力によってグリース溜まりS2に貯留、保持される。
【0039】
図3(a)には、本実施形態に係る図3(b)の構成と対比される図6の比較例が併記してある。図3(b)のグリース保持部12とグリースバルブ8からなる隙間は、図3(a)のグリース保持部P50とグリースバルブP4からなるラビリンスほどには、狭小隙間とならないようにしてある。具体的には、図3(a)のグリース保持部P50のうち破線部分d1から先を切除したものが図3(b)のグリース保持部12に相当し、これにより排出方向へのグリースのある程度の流動性が確保されている。また、図3(a)のグリースバルブP4の破線部分d2から先を切除して先端の傾斜を逆向きにしたものが図3(b)のグリースバルブ8に相当し、その先端のテーパ部80aをグリース排出装置80を構成する遠心力差生成部80xとして、当該グリースバルブ8の回転時の遠心力による排油空間S1側へのグリース引き出し力を更に高め、空隙ΔSがあってもゴミが逆流し難い構造となっている。
【0040】
すなわち、遠心力は直径に比例しているので、グリースバルブ8の外周において軸端側の方がより大きな遠心力が働いて、グリースバルブ8の内側空間よりも外側空間の方が負圧になり、空隙部ΔS内に内から外に向かうグリースの流れが出来やすい構造となっている。
【0041】
その一方で、図3(a)の破線部分d1を削っても、図3(b)においてグリース貯留壁12xがある程度残っているので、グリース溜まりS2、ひいては軸受空間S4にグリースが溜まった状態が確保される。このように、軸受4の出口にグリース溜まりS2があることで、第2の軸受4、ひいては第1の軸受3においてもグリースが残留し易く、潤滑が十分に行われるものとなっている。
【0042】
しかして、この構造において図1に示すグリースニップル11からグリースを補給し、それが全体に行き渡ったかを見るために排油空間S1に出てくるグリースを確認する。本実施形態の構成の場合、軸受3の入口と軸受4の出口の間に大きな差圧が生じず、グリースは軸受3、4を経て排油空間S1に出易くなる。そこで、ある程度運転を行ったら回転機を止めて排油口52dを開ければ、グリースが補給されれば比較的速やかに排油口52dに到達するので、図示しないトレーに落ちたグリースの色などから、新たに補給したグリースが行き渡ったか否かを確実に確認することができる。しかも、グリースニップル11から必要以上に圧を掛けてグリースを供給する必要がないため、非接触シール51aを通じて回転機本体1側へのグリースの内部漏れも生じることもない。
【0043】
以上の軸受潤滑構造は、図示されない反対側の軸端部についても同様である。
【0044】
以上のように、本実施形態の回転機Aは、グリースをグリース補給路Lを通じて軸受空間S3、S4に充填し、軸受空間S4の出口から出てくる使用済のグリースを排油空間S1を経て排出する構成を備えたものである。そして、軸受空間S4の出口から排油空間S1の入口までの空隙部ΔSに、軸受空間S4に近い側にあって軸2とは一体に回転せずにグリースの流出を抑制するグリース保持部12と、排油空間S1に近い側にあって軸2と一体に回転するグリースバルブ8とを配置し、グリースバルブ8に、グリースバルブ8の回転を利用して排油空間S1側へのグリース引き出し力を更に高めるグリース排出装置80を設けたものである。
【0045】
このように、本実施形態によれば、新しく充填されたグリースはグリース補給路Lおよび軸受空間S3、S4に至り、一部はグリース保持部12によってグリース溜まりS2に適切に保持されるとともに、他のグリースはグリースバルブ8自体の遠心力による負圧発生機能に加え、グリース排出装置80の排出機能によって空隙部ΔSの出口に位置する排油空間S1に無理なく排出される。このため、グリースの適切な保持機能と使用済グリースの排出機能を両立させることができ、グリース補給を強制的に行わずとも、排油空間S1に至ったグリースを点検すれば新しいグリースが全体に行き渡ったか否かを有効に確認することができる。
【0046】
この場合、グリース保持部12が、固定側である外エンドカバー52から軸2側に延びる円板状のグリース貯留壁12xであり、グリースバルブ8が、軸2側から固定側である外エンドカバー52側に延びる円板状のグリース撹拌壁8xであり、グリース排出装置80が、グリースバルブ8の外周において場所によって遠心力に差を生じさせる遠心力差生成部80xによって構成されている。
【0047】
このようにすれば、グリース保持部12とグリースバルブ8が円板状の壁であることで適切な空隙部ΔSを形成し、グリース排出装置が遠心力差生成部であることで、中高速回転時に空隙部ΔSから排油空間に向かうグリースの流れを適切に生成することができる。
【0048】
具体的に遠心力差生成部80xは、グリースバルブ8の外周に形成した、軸受4側に向かって縮径するテーパ部80aを利用して構成されているので、安定した差圧変化を形成する性能の高い遠心力差生成部80xを構成することができる。
【0049】
そしてこの回転機Aは、軸受3、4よりも反軸端側に内エンドカバー51を隔てて回転機本体1が構成されるとともに、グリース補給路Lが内エンドカバー51内を軸2に沿って流れて軸受3、4に到達するように構成され、軸2と内エンドカバー51の間が非接触シール51aで封止されている。
【0050】
すなわち、軸受4から軸端側へのグリース排出状態が悪いと、軸受3の入口と軸受4の出口の差圧が大きくなってグリースが非接触シール51aを通り回転機本体1側への内部漏れを生じる可能性があるが、本実施形態のように構成しておくことで、軸受3、4の入口と出口の差圧が小さくなり、グリースが非接触シール51aを通って内部漏れを起こすことなく、空隙部ΔSを通って円滑に排油空間S1に到達できるようになる。
【0051】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、各部の具体的な構成は上述した実施形態のみに限定されるものではない。
【0052】
例えば、図4に示すような遠心力差生成部180xを構成してもよい。この遠心力差生成部180xは、グリースバルブ108を構成するグリース撹拌壁108xの外周部の端面に形成した、軸受4側に向かって縮径する段部180aによって実現されている。
このようにすれば、遠心力差生成部180xを比較的簡単に構成してコストダウンを図ることができる。
【0053】
或いは、図5に示すような構成を採用することもできる。図5(a)は図4に対応した図であり、図5(b)は図5(a)のX矢視図である。同図のものは、グリース保持部212が、固定側から軸202側に延びる円板状のグリース貯留壁212xであり、グリースバルブ208が、軸202側から固定側に延びる円板状のグリース撹拌壁208xであり、グリース排出装置280が、グリースバルブ208の外周で粘性によってグリースを掻き出す凹凸部280xによって構成されている。
【0054】
このようにすれば、グリース保持部212とグリースバルブ208が円板状の壁であることで適切な空隙部ΔSを形成し、グリース排出装置280が凹凸部280xであることで、低中速回転時に羽根車的な作用によって空隙部ΔSから排油空間S1に向かうグリースの流れを適切に生成することができる。
【0055】
さらに、図5ではグリースバルブ208の外周側の端面は傾斜していないが、図5の構成においてグリースバルブ208の外周側の端面に更に、軸受側に向かって縮径するテーパ部や段部を形成して、場所によって遠心力に差を生じさせる遠心力差生成部としてもよい。このようにすれば、低回転域から高回転域に亘ってグリースの引き出し力を高めることが可能となる。
【0056】
さらにまた、本請求項のグリースバルブは厚い板を加工することによって構成したが、薄板をプレス等で加工してグリースバルブを制作しても同様の効果が期待できる。
【0057】
前記実施形態では、回転機Aは、回転機本体1から延びる軸2の端部を2つの軸受(第1の軸受3、第2の軸受4)を介してケーシング5に支持される構成であるが、これに限らず、1つまたは、3つ以上の複数の軸受を介する構成にしても同様の効果が期待できる。
【0058】
その他の構成も、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0059】
1…回転機本体
2…軸
8…グリースバルブ
8x…グリース撹拌壁
12…グリース保持部
12x…グリース貯留壁
51…内エンドカバー
51a…非接触シール
80…グリース排出装置
80a…テーパ部
80x…遠心力差生成部
108…グリースバルブ
108a…グリース撹拌部
180a…段部
180x…遠心力差生成部
280x…凹凸部
A…回転機
L…グリース補給路
S1…排油空間
S3、S4…軸受空間
ΔS…空隙部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7