【解決手段】銅を含む抗微生物剤が少なくとも表面に付与された部材の表面に銅検知物質を含む溶液を接触させる工程と、前記銅検知物質の物性の変化から、前記部材の表面の銅付着量を計測する工程と、を含むことを特徴とする、部材表面の銅付着量の計測方法。
前記銅検知物質の物性の変化は、前記銅検知物質が銅と接触することにより生じる前記銅検知物質の色の変化であり、前記銅検知物質の色の変化を観察することにより前記部材の表面の銅付着量を計測する、請求項1に記載の銅付着量の計測方法。
銅検知物質の色と銅付着量の関係を表す色見本と、部材の表面に銅検知物質を含む溶液を接触させた際の銅検知物質の色の変化を対比して観察する請求項2に記載の銅付着量の計測方法。
前記銅検知物質の物性の変化は、前記銅検知物質が銅と接触することにより生じる前記銅検知物質の光の吸収波長の変化であり、前記銅検知物質の光の吸収波長の変化を測定することにより前記部材の表面の銅付着量を計測する、請求項1に記載の銅付着量の計測方法。
前記銅検知物質の物性の変化は、前記銅検知物質が銅と接触することにより生じる蛍光の強度変化であり、前記銅検知物質の蛍光の強度変化を測定することにより前記部材の表面の銅付着量を計測する、請求項1に記載の銅付着量の計測方法。
前記部材と一定面積の樹脂フィルムの間に一定量の銅検知物質を含む溶液を注入することにより、前記部材の表面の一定面積に一定量の銅検知物質を含む溶液を接触させる請求項6に記載の銅付着量の計測方法。
その内側に一定面積を有する枠を前記部材の表面に配置し、前記枠内に一定量の銅検知物質を含む溶液を注入することにより、前記部材の表面の一定面積に一定量の銅検知物質を含む溶液を接触させる請求項6に記載の銅付着量の計測方法。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、抗微生物部材の一例としてのトイレブースの一部を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図2(a)は、
図1に示す領域Aで銅検知物質を含む溶液を抗微生物部材に接触させた様子を模式的に示す斜視図であり、
図2(b)は、
図2(a)において銅検知物質を含む溶液を抗微生物部材に接触させた後の抗微生物部材を模式的に示す斜視図である。
【
図3】
図3(a)は、
図1に示す領域Bで銅検知物質を含む溶液を抗微生物部材に接触させた様子を模式的に示す斜視図であり、
図3(b)は、
図3(a)において銅検知物質を含む溶液を抗微生物部材に接触させた後の抗微生物部材を模式的に示す斜視図である。
【
図4】
図4は、抗微生物部材のモニタリングビジネスの方法の手順を示すフローチャートである。
【
図5】
図5、OD500/OD420の値と抗ウィルス活性値の関係を示す検量線である。
【
図6】
図6は、OD500/OD420の値と銅付着量の関係を示す検量線である。
【
図7】
図7は、銅付着量と抗ウィルス活性値の関係を示す検量線である。
【0026】
(発明の詳細な説明)
以下、この発明に係る抗微生物性能判断方法の各実施形態について説明する。
まず、この発明で抗微生物性能を判断する対象である抗微生物部材について説明する。
抗微生物部材としては、トイレ関係の部材として、トイレの壁、扉、床、天井、便器、手洗い場等が挙げられる。また、扉や壁にノブ、取っ手、鍵、手摺等が設けられている場合はそれらの部分も抗微生物部材といえる。
トイレとしては住宅、商業施設、オフィス、工場、作業場、食堂、ホテル、駅等の各種建築物に付帯するトイレが挙げられる。また、災害時の避難所、工事現場、イベント会場、キャンプ場、公園等に設置される仮設トイレであってもよい。仮設トイレである場合はテント装置を備えていてもよい。
【0027】
また、他の抗微生物部材としては、タッチパネルの保護用フィルムやディスプレイ用のフィルムであってもよく、建築物内部の内装材、壁材、窓ガラス、手すり、ドアノブ等であってもよい。さらに事務機器や家具等であってもよく、上記内装材のほか、種々の用途に用いられる化粧板等であってもよい。
【0028】
本明細書における抗微生物とは、抗ウィルス、抗菌、抗カビ、防カビを含む概念である。従って、抗微生物剤とは、抗ウィルス剤、抗菌剤、抗カビ剤、防カビ剤を含む概念である。
抗微生物剤は、電磁波硬化型樹脂に含まれて電磁波硬化型樹脂の硬化物の形で抗微生物部材に固着されていることが好ましい。この場合電磁波硬化型樹脂がバインダとして機能する。
【0029】
抗微生物剤は銅を含む。銅は金属としての銅又は銅化合物の形で含まれていてよい。
また、銅又は銅化合物が担持された金属酸化物触媒であってもよく、銅イオンでイオン交換されたゼオライト、及び、銅の錯体から選ばれる少なくとも1種を含む粒子を用いることもできる。また、これらの化合物の水和物であってもよい。
銅を含む抗微生物剤としては、例えば、酸化銅(I)(亜酸化銅)、酸化銅(II)、炭酸銅(II)、水酸化銅(II)、塩化銅(II)、銅のカルボン酸塩(酢酸銅、安息香酸銅、フタル酸銅等)、銅の水溶性無機塩(硝酸銅、硫酸銅等)が挙げられる。
また、銅が担持されたアルミナ、銅が担持されたシリカ、銅が担持された酸化亜鉛、銅が担持された酸化チタン、銅が担持された酸化タングステン、銅が担持されたリン酸カルシウム等の無機粒子が挙げられる。
銅が担持された無機粒子については、さらにナノ銀等の他の金属粒子が担持されていてもよい。
銅イオンでイオン交換されたゼオライトは、さらに銀イオンや亜鉛イオン等の他の金属イオンで交換されていてもよい。
また、銅の錯体であることも好ましい。上記銅の錯体としては、例えば、アセチルアセトンと銅との錯体、5−メチル−2,4−ヘキサンジオン等のβジケトンと銅との錯体、銅(I)(1−ブタンチオレート)、銅(I)(へキサフルオロペンタンジオネートシクロオクタジエン)等が挙げられる。
また、銅のアルコキシドであることも好ましい。銅のアルコキシドとしては、例えば、銅(メトキシド)、銅エトキシド、銅プロポキシド、銅ブトキシドなどが挙げられる。
【0030】
また、上記電磁波硬化型樹脂について説明する。
未硬化の電磁波硬化型樹脂であるモノマー又はオリゴマーと重合開始剤と各種添加剤と抗微生物剤とを含んだ抗微生物組成物を用いて基材表面に島状の液滴を形成した後、電磁波を照射することにより、重合開始剤は、開裂反応、水素引き抜き反応、電子移動等の反応を起こし、これにより生成した光ラジカル分子、光カチオン分子、光アニオン分子等が上記モノマーや上記オリゴマーを攻撃してモノマーやオリゴマーの重合反応や架橋反応が進行し、抗微生物剤を含む島状の電磁波硬化型樹脂の硬化物が形成される。このような反応により生成する電磁波硬化型樹脂の硬化物を構成する樹脂を電磁波硬化型樹脂という。
【0031】
このような電磁波硬化型樹脂は、例えば、アクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、及び、アルキッド樹脂からなる群から選択される少なくとも1種が望ましい。
【0032】
上記アクリル樹脂としては、エポキシ変性アクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂(ウレタン変性アクリレート樹脂)、シリコン変性アクリレート樹脂等が挙げられる。
上記ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等が挙げられる。
【0033】
上記エポキシ樹脂としては、脂環式エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂やグリシジルエーテル型のエポキシ樹脂とオキセタン樹脂を組み合わせたもの等が挙げられる。
アルキッド樹脂としては、ポリエステルアルキッド樹脂等が挙げられる。
【0034】
本発明の抗微生物性能判断方法では、上記のような抗微生物部材の抗微生物性能を判断する。抗微生物性能の判断には銅検知物質を使用する。
銅検知物質としては、PAR(4−[2−ピリジルアゾ]レゾルシン:以下PARと表記する)が挙げられる。この物質は単独では黄色を示すが、銅と反応してPAR−銅化合物となることで橙色を示す。そのため、銅検知物質の色の変化を観察することで抗微生物部材の表面に存在する銅を検出することができる。
また、銅検知物質の色の変化は銅検知物質の光の吸収波長の変化を伴うので、可視分光光度計等を用いて光の吸収波長の変化を測定することによって抗微生物部材の表面に存在する銅を検出することができる。
【0035】
銅検知物質としてPARを使用する場合、銅と反応するキレート剤を合わせて使用することが好ましい。キレート剤を使用することによってPARの色の変化が鮮明となり、色の変化を認識しやすくなる。
キレート剤としてはEDTA又はその塩、NTA又はその塩、HEDTA又はその塩、MGDA又はその塩等が挙げられる。
【0036】
銅検知物質としてPARを使用する場合、銅検知物質を含む溶液は水溶液の形で使用することが好ましい。また、アルカリや酸等を加えてもよく、銅検知溶液を含む溶液のpHは6.0〜8.0であることが好ましい。
【0037】
また、銅検知物質として、銅検知物質が銅と接触することにより蛍光の強度変化を生じるものを使用することができる。例えば、Bathocuproine(2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン)、Cu
2+によって蛍光が消光するウシ血清アルブミンと会合した金ナノクラスター等を挙げることができる。
【0038】
抗微生物部材の抗微生物性能を厳密に測定するためには、抗微生物部材に微生物を接種して微生物の活性値を測定する必要がある。
しかしながら、上記のような銅検知物質の物性の変化と、あらかじめ厳密な方法で測定しておいた抗微生物部材の抗微生物性能との関係が分かっていれば、銅検知物質の物性の変化を確認することで、簡便な方法により、抗微生物部材が使用された現場で抗微生物部材の抗微生物性能を知ることができる。
【0039】
本発明の抗微生物性能判断方法では、銅を含む抗微生物剤が少なくとも表面に付与された抗微生物部材について、抗微生物性能を判断する。
工程としては、抗微生物部材の表面に銅検知物質を含む溶液を接触させる工程と、銅検知物質の物性の変化から、抗微生物部材の抗微生物性能を判断する工程と、を含む。
以下に、当該方法の具体的な実施形態について説明する。
【0040】
まず、銅検知物質の物性の変化が、銅検知物質が銅と接触することにより生じる銅検知物質の色の変化であり、銅検知物質の色の変化を観察することにより抗微生物部材の抗微生物性能を判断する実施形態について説明する。
【0041】
この場合に使用する銅検知物質としては、PARが挙げられる。PARを含む溶液を抗微生物部材に接触させることでPARが銅と反応して色が変化する。具体的には反応前の黄色から反応後の橙色に変化する。銅とPARが反応した量(割合)により色の変化の度合いが異なるので、PARが銅と全く反応していない状態(黄色)からPARが全て銅と反応した状態(橙色)まで、段階的にPARの色が変化する。
PARの色が変化することにより抗微生物部材に含まれる銅とPARが反応していること、すなわち抗微生物部材の表面に銅を含む抗微生物部材が存在していることを確認することができる。
この方法は、現場で作業者の目視によって簡便に行うことができる。抗微生物性能の判断のために機器を用意する必要がなく、作業性に優れている。
【0042】
また、銅検知物質の色の変化の度合いにより、抗微生物部材の表面の銅付着量を計測することができる。すなわち、銅検知物質の物性の変化から抗微生物部材の表面の銅付着量を計測することができる。
そして、抗微生物部材の表面の銅付着量と抗微生物部材の抗微生物性能との関係に基づき、抗微生物部材の抗微生物性能を計測して、予め設定した基準値と比較し、抗微生物性能の良否を判断することが好ましい。
【0043】
抗微生物部材の抗微生物性能は、抗微生物部材の表面の銅付着量と相関がある。そのため、銅検知物質の物性と抗微生物部材の表面の銅付着量との関係を事前に求めておき、その関係と現場で得られた銅検知物質の物性を照らし合わせることにより抗微生物部材の表面の銅付着量を計測することができる。そして、銅付着量と抗微生物部材の抗微生物性能との関係と照らし合わせることで抗微生物部材の抗微生物性能を定量的に計測、判断することができる。
【0044】
より正確に銅の付着量を計測したい場合は、銅検知物質の色と銅付着量の関係を表す色見本と、抗微生物部材の表面に銅検知物質を含む溶液を接触させた際の銅検知物質の色の変化を対比して観察することが好ましい。
当該色見本としては、PARが銅と全く反応していない状態(黄色)からPARが全て銅と反応した状態(橙色)までを、銅付着量と対応させて段階的に示したものが挙げられる。
色見本との対比を行うことにより、作業者の主観による判断のばらつきが小さくなり、また、半定量的な抗微生物性能の測定を行うことができる。
【0045】
続いて、銅検知物質を含む溶液を抗微生物部材に接触させる方法について図面を用いて説明する。
図1は、抗微生物部材の一例としてのトイレブースの一部を模式的に示す斜視図である。
図1には、トイレブース1の一部である扉10と床20を示している。
そして、扉10において銅検知物質を含む溶液を接触させる部位を破線で囲まれた領域Aで示し、床20において銅検知物質を含む溶液を接触させる部位を破線で囲まれた領域Bで示している。
トイレブースの扉10は抗微生物部材の表面が垂直面である場合の例であり、トイレブースの床20は抗微生物部材の表面が水平面である場合の例である。
トイレブースの扉及び床において銅検知物質を接触させる部位は、領域A及び領域Bに示す位置に特に限定されるものではなく、任意の部位を採用することができる。また、トイレブースの扉及び床の複数箇所において銅検知物質を接触させて抗微生物性能を判断してもよい。
【0046】
図2(a)は、
図1に示す領域Aで銅検知物質を含む溶液を抗微生物部材に接触させた様子を模式的に示す斜視図であり、
図2(b)は、
図2(a)において銅検知物質を含む溶液を抗微生物部材に接触させた後の抗微生物部材を模式的に示す斜視図である。
銅検知物質を含む溶液を抗微生物部材に接触させる際には、抗微生物部材の表面の一定面積に一定量の銅検知物質を含む溶液を接触させることが好ましい。
また、抗微生物部材と一定面積の樹脂フィルムの間に一定量の銅検知物質を含む溶液を注入することにより、抗微生物部材の表面の一定面積に一定量の銅検知物質を含む溶液を接触させることが好ましい。
図2(a)では、一定面積の樹脂フィルム30を使用し、抗微生物部材である扉10と樹脂フィルム30の間に一定量の銅検知物質を含む溶液40が注入された様子を示している。
【0047】
一定面積の樹脂フィルムを使用し、一定量の銅検知物質を含む溶液を使用することで、抗微生物部材と銅検知物質が接触する条件(面積あたりの銅検知物質の接触量)を揃えることができるので、抗微生物部材の抗微生物性能を正確に判断することができる。
また、抗微生物部材と樹脂フィルムの間に銅検知物質を含む溶液を注入すると、表面張力によって抗微生物部材と樹脂フィルムの間に銅検知物質を含む溶液が保持される。
抗微生物部材の表面が垂直面であっても抗微生物部材と樹脂フィルムの間に保持された溶液は垂れることがないので、垂直面である抗微生物部材の表面に対しても銅検知物質を含む溶液を所定の時間接触させることができる。
【0048】
樹脂フィルムとしては、OPPフィルム(2軸延伸ポリプロピレンフィルム)、LDPEフィルム(低密度ポリエチレンフィルム)、HDPE(高密度ポリエチレンフィルム)、PETフィルム(ポリエチレンテレフタラートフィルム)等の樹脂フィルムを使用することができる。
また、銅検知物質を含む溶液を抗微生物部材に接触させる面積は、特に限定されるものではないが、1〜25cm
2であることが好ましい。例えば、4cm×4cmの領域(16cm
2)とすることができる。
また、銅検知物質を含む溶液の使用量は1〜30μLであることが好ましい。例えば、20μLとすることができる。
また、抗微生物部材の面積当たりの、銅検知物質を含む溶液の使用量が1〜1.5μL/cm
2であることが好ましい。例えば、1.25μL/cm
2とすることができる。
また、銅検知物質を含む溶液と抗微生物部材を接触させる時間は、銅検知物質と銅の反応が充分に行われる時間であれば特に限定されるものではないが、2〜5分であることが好ましい。例えば3分とすることができる。
【0049】
銅検知物質を含む溶液を抗微生物部材に所定時間接触させた後は、銅検知物質を回収する。銅検知物質の回収は、銅検知物質を含む溶液をマイクロピペッターを用いて回収する方法等により行うことができる。
そして、樹脂フィルムを抗微生物部材の表面から剥離する。
図2(b)には、銅検知物質を含む溶液を抗微生物部材に接触させ、銅検知物質を含む溶液を回収し、樹脂フィルムを剥離した後の抗微生物部材を示しており、抗微生物部材の表面に存在する銅と銅検知物質との反応後に抗微生物部材の表面50の色が変化している状態を示している。
【0050】
図3(a)は、
図1に示す領域Bで銅検知物質を含む溶液を抗微生物部材に接触させた様子を模式的に示す斜視図であり、
図3(b)は、
図3(a)において銅検知物質を含む溶液を抗微生物部材に接触させた後の抗微生物部材を模式的に示す斜視図である。
図3(a)に示す領域Bは、抗微生物部材の表面が水平面である場合に相当する。
図3(a)には、抗微生物部材の表面が水平面である場合に使用できる好ましい実施形態として、その内側に一定面積を有する枠を抗微生物部材の表面に配置し、枠内に一定量の銅検知物質を含む溶液を注入することにより、抗微生物部材の表面の一定面積に一定量の銅検知物質を含む溶液を接触させる方法を示している。
図3(a)には、その内側に一定面積を有する枠60を抗微生物部材である床20の表面に配置し、枠60内に一定量の銅検知物質を含む溶液40が注入された様子を示している。
【0051】
その内側に一定面積を有する枠を使用し、一定量の銅検知物質を含む溶液を使用することで、抗微生物部材と銅検知物質が接触する条件(面積あたりの銅検知物質の接触量)を揃えることができるので、抗微生物部材の抗微生物性能を正確に判断することができる。
【0052】
枠としては、銅検知物質との反応に影響を与えない材料であればよく、樹脂製、セラミック製、金属製等の材質の枠を使用することができる。
また、銅検知物質を含む溶液を抗微生物部材に接触させる面積は、特に限定されるものではないが、1〜25cm
2であることが好ましい。例えば、4cm×4cmの領域(16cm
2)とすることができる。
また、銅検知物質を含む溶液の使用量は1〜30μLであることが好ましい。例えば、20μLとすることができる。
また、抗微生物部材の面積当たりの、銅検知物質を含む溶液の使用量が1〜1.5μL/cm
2であることが好ましい。例えば、1.25μL/cm
2とすることができる。
また、銅検知物質を含む溶液と抗微生物部材を接触させる時間は、銅検知物質と銅の反応が充分に行われる時間であれば特に限定されるものではないが、2〜5分であることが好ましい。例えば3分とすることができる。
【0053】
銅検知物質を含む溶液を抗微生物部材に所定時間接触させた後には、銅検知物質を回収する。
銅検知物質の回収は、銅検知物質を含む溶液をマイクロピペッターを用いて回収する方法等により行うことができる。
そして、枠を抗微生物部材の表面から取り外す。
図3(b)には、銅検知物質を含む溶液を抗微生物部材に接触させ、銅検知物質を含む溶液を回収し、枠を取り外した後の抗微生物部材を示しており、抗微生物部材の表面に存在する銅と銅検知物質との反応後に抗微生物部材の表面50の色が変化している状態を示している。
【0054】
図2(a)に示す形態、
図3(a)に示す形態のいずれにおいても、また、その他の方法により銅検知物質を含む溶液を抗微生物部材に接触させた場合においても、以下のことがいえる。
銅検知物質の色の変化を観察することにより抗微生物部材の抗微生物性能を判断する場合、銅検知物質を含む溶液を抗微生物部材に所定時間接触させた後、当該溶液が抗微生物部材に接触した状態での色を観察してもよい。また、銅検知物質を含む溶液を回収した後に、回収した溶液の色を観察してもよい。また、銅検知物質を含む溶液を回収した後の抗微生物部材の表面の色を観察してもよい。
【0055】
銅検知物質を含む溶液を抗微生物部材に所定時間接触させ、銅検知物質を回収した後には、銅検知物質を含む溶液を接触させた抗微生物部材の表面に対して拭き取りや洗浄を行うことで、抗微生物部材の表面の色調を銅検知物質を含む溶液を接触させる前の色調に戻すことができる。
【0056】
続いて、銅検知物質の物性の変化が、銅検知物質が銅と接触することにより生じる銅検知物質の光の吸収波長の変化であり、銅検知物質の光の吸収波長の変化を測定することにより抗微生物部材の抗微生物性能を判断する実施形態について説明する。
この実施形態の方法は、銅検知物質の色の変化の目視観察による判断が難しい場合においても適用することができる。
【0057】
この場合に使用する銅検知物質としては、PARが挙げられる。上述したように、PARを含む溶液を抗微生物部材に接触させることでPARが銅と反応して色が変化する。色が変化することに伴い、可視光の吸収波長が変化することになる。
そのため、銅検知物質を含む溶液を回収した後に、当該溶液に対して、可視分光光度計等を用いて波長ごとの吸光度を測定し、吸光度を数値化して判断することにより、銅検知物質の物性の変化を定量的に計測、判断することができる。
このような方法であると、作業者ごとの判断のばらつきを小さくすることができる。
【0058】
また、特定の波長の吸光度に着目して、その吸光度の変化を測定することにより、抗微生物部材の表面の銅付着量を計測することができる。すなわち、銅検知物質の物性の変化から抗微生物部材の表面の銅付着量を計測することができる。
そして、抗微生物部材の表面の銅付着量と抗微生物部材の抗微生物性能との関係に基づき、抗微生物部材の抗微生物性能を判断することが好ましい。
着目する波長としては、420nm及び500nmが挙げられる。
PARが銅と反応していない状態では420nmにピークが見られるが、銅との反応が進むにつれて420nmの吸収ピーク強度が小さくなり、新たに500nmのピークが生じる。そのため、420nmの吸収ピーク強度が大きいほど抗微生物部材の表面の銅付着量が少ないといえ、500nmの吸収ピーク強度が大きいほど抗微生物部材の表面の銅付着量が多いといえる。
【0059】
従って、銅付着量が既知の試料を複数準備し、当該試料と銅検知物質を含む溶液を接触させ、銅検知物質の色の変化が生じた部位において可視分光光度計により420nm及び500nmの吸収ピーク強度を測定し、銅付着量と420nm及び500nmの吸収ピーク強度との関係から検量線を作成することができる。
当該検量線を用いることによって、銅付着量が未知の試料について銅付着量の定量を行うことができる。
また、検量線は、420nmの吸収ピーク強度(OD420)と500nmの吸収ピーク強度(OD500)を測定してその比率OD500/OD420の値を求め、OD500/OD420の値と銅付着量の関係を示す線として作成してもよい。
このような検量線を使用する方法によると、より正確に銅付着量の定量を行うことができる。
【0060】
また、銅付着量と抗微生物部材の抗微生物性能との関係をあらかじめ調べておくことによって、抗微生物性能と420nm及び500nmの吸収ピーク強度との関係から検量線を作成してもよい。また、抗微生物性能とOD500/OD420の値との関係から検量線を作成してもよい。このような検量線を使用すると、吸光度の変化から抗微生物部材の抗微生物性能を定量的に計測、判断することができる。
【0061】
銅検知物質を含む溶液を抗微生物部材に接触させる方法としては、上述した
図2(a)及び
図3(a)に示すような方法を使用することができるのでその詳細な説明は省略する。
銅検知物質を含む溶液を抗微生物部材に接触させたのち、銅検知物質を含む溶液を回収して、この溶液について可視分光光度計等の機器による吸光度の測定をすることが好ましい。
【0062】
続いて、銅検知物質の物性の変化が、銅検知物質が銅と接触することにより生じる蛍光の強度変化であり、銅検知物質の蛍光の強度変化を測定することにより抗微生物部材の抗微生物性能を判断する実施形態について説明する。
【0063】
この場合に使用する銅検知物質としては、上述したような、Bathocuproine(2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン)、Cu
2+によって蛍光が消光するウシ血清アルブミンと会合した金ナノクラスター等が挙げられる。
このような銅検知物質を含む溶液を抗微生物部材に接触させることで銅検知物質が銅と反応して蛍光の強度が変化する。
そのため、銅検知物質を含む溶液を回収した後に、当該溶液に対して、蛍光強度計等を用いて蛍光強度を測定し、蛍光強度を数値化して判断することにより、銅検知物質の物性の変化を定量的に計測、判断することができる。
【0064】
従って、銅付着量が既知の試料を複数準備し、当該試料と銅検知物質を含む溶液を接触させ、銅検知物質の蛍光強度が変化した部位において蛍光強度計により蛍光強度を測定し、銅付着量と蛍光強度との関係から検量線を作成することができる。
当該検量線を用いることによって、銅付着量が未知の試料について銅付着量の定量を行うことができる。
【0065】
また、銅付着量と抗微生物部材の抗微生物性能との関係をあらかじめ調べておくことによって、抗微生物性能と蛍光強度との関係から検量線を作成してもよい。このような検量線を使用すると、蛍光強度の変化から抗微生物部材の抗微生物性能を定量的に計測、判断することができる。
【0066】
銅検知物質を含む溶液を抗微生物部材に接触させる方法としては、上述した
図2(a)及び
図3(a)に示すような方法を使用することができるのでその詳細な説明は省略する。
銅検知物質を含む溶液を抗微生物部材に接触させたのち、銅検知物質を含む溶液を回収して、この溶液について蛍光強度計等の機器による蛍光強度の測定をすることが好ましい。
【0067】
ここまで説明した本発明の抗微生物性能判断方法により、抗微生物部材の抗微生物性能に関する情報を得ることができる。
本発明の抗微生物性能判断方法は、銅を含む抗微生物剤が少なくとも表面に付与された抗微生物部材が所定期間使用されたのち、抗微生物性能が維持されているかの判断に使用することが好ましい。
本発明の抗微生物性能判断方法を使用すると、銅検知物質の物性の変化から抗微生物部材が使用された現場で抗微生物部材の抗微生物性能を知ることができる。
この過程では、抗微生物部材に微生物を接種して所定期間の試験を行う必要はなく、抗微生物性能の確認を簡便に行うことができる。
そして、本発明の抗微生物性能判断方法による判断を踏まえ、抗微生物性能が維持されていれば抗微生物部材を良品と判定し、維持されていなければ不良品と判定することができる。また、不良品と判定した抗微生物部材については抗微生物部材の表面に抗微生物処理を施すことにより抗微生物部材を再生するようにしてもよい。
【0068】
以下に、本発明の抗微生物性能判断方法を使用した、本発明の抗微生物部材の良品判定方法、抗微生物部材の再生方法、及び、抗微生物部材のモニタリングビジネスの方法について説明する。
【0069】
本発明の抗微生物部材の良品判定方法は、本発明の抗微生物性能判断方法における、抗微生物部材の表面に接触した後の銅検知物質の物性と抗微生物部材の抗微生物性能との関係に基づき、測定対象である抗微生物部材の良品/不良品の判定を行うことを特徴とする。
【0070】
本発明の抗微生物性能判断方法を使用することにより、抗微生物部材の抗微生物性能に関する情報を得ることができる。
その結果、抗微生物性能が充分と判断されれば良品と判定し、不充分であると判断されれば不良品と判定する。
良品/不良品の判定の基準として、銅検知物質の物性の変化の種類に応じて以下のようにすることができる。
【0071】
銅検知物質の色の変化を作業者が目視観察する場合は、作業者が有する判断基準により判断する。また、銅検知物質の色と銅付着量の関係を表す色見本に基づき、特定の色見本の色よりも銅付着量が多い側の色である場合を良品とするような判断基準により判断してもよい。
【0072】
銅検知物質の光の吸収波長の変化を測定する場合は、特定波長の吸光度に着目して判断する。例えば銅検知物質としてPARを用いて、420nmの吸収ピーク強度が特定の強度以下の場合、又は、500nmの吸収ピーク強度が特定の強度以上の場合に、良品とするような判断基準を定めてもよい。また、OD500/OD420の値を求め、OD500/OD420の値が所定の値以上の場合に、良品とするような判断基準を定めてもよい。
これらの判断基準を使用する場合に、銅付着量と420nm及び500nmの吸収ピーク強度との関係を示す検量線、又は、銅付着量とOD500/OD420の値との関係を示す検量線を使用して、銅付着量が所定値以上の場合を良品と判断してもよい。
また、抗微生物性能と420nm及び500nmの吸収ピーク強度との関係を示す検量線、又は、抗微生物性能とOD500/OD420の値との関係を示す検量線を使用してもよい。この場合は抗微生物性能が所定値以上の場合に良品とするような判断基準により判断すればよい。
【0073】
銅検知物質の蛍光の強度変化を測定する場合は、銅検知物質の種類に応じて、蛍光強度が特定の強度以上の場合、又は、特定の強度以下の場合に、良品とするような判断基準を定めてもよい。銅濃度が高い場合に蛍光強度が大きくなる銅検知物質を使用する場合は、蛍光強度が特定の強度以上の場合に良品とするような判定基準を定めればよく、銅濃度が高い場合に蛍光強度が小さくなる銅検知物質を使用する場合は、蛍光強度が特定の強度以下の場合に良品とするような判定基準を定めればよい。
これらの判断基準を使用する場合に、銅付着量と蛍光強度との関係を示す検量線を使用して、銅付着量が所定値以上の場合を良品と判断してもよい。
また、抗微生物性能と蛍光強度との関係から検量線を使用してもよい。この場合は抗微生物性能が所定値以上の場合に良品とするような判断基準により判断すればよい。
【0074】
本発明の抗微生物部材の再生方法は、本発明の抗微生物部材の良品判定方法に基づき、抗微生物部材が不良品と判定された場合、当該抗微生物部材の表面に抗微生物処理を施すことを特徴とする。
抗微生物部材が不良品と判定された場合は、銅を含む抗微生物剤を除去した後、あらためて抗微生物処理を施してもよく、銅を含む抗微生物剤を除去することなく、重ねて抗微生物処理を施してもよい。
抗微生物処理を施す前に抗微生物剤を除去する場合、除去しない場合のいずれの場合も、本発明における「抗微生物処理を施す」ことに含まれる。
【0075】
抗微生物部材が良品であるか、不良品であるかの判断は、上述した本発明の抗微生物部材の良品判定方法に基づいて行う。その結果、抗微生物部材が不良品と判定された場合に、当該抗微生物部材の表面に抗微生物処理を施すことにより、抗微生物部材を再生することができ、再度抗微生物性能を発揮させることができる。
【0076】
抗微生物部材の表面に対する抗微生物処理の方法は、特に限定されるものではないが、例えば以下の方法により行うことができる。
まず、銅を含む抗微生物剤と未硬化の電磁波硬化型樹脂と分散媒と重合開始剤と各種添加剤とを含む抗微生物組成物を抗微生物部材の表面に散布する被覆工程を行う。
続いて必要に応じて、上記被覆工程により散布された上記抗微生物組成物を乾燥させて上記分散媒を除去する乾燥工程を行う。
最後に上記乾燥工程で分散媒を除去した上記抗微生物組成物中の上記未硬化の電磁波硬化型樹脂を硬化させる硬化工程を行う。
これらの工程により、抗微生物部材の表面に抗微生物剤を含む電磁波硬化型樹脂の硬化物を形成させることができ、抗微生物部材を再生することができる。
なお、電磁波硬化型樹脂に照射する電磁波としては、特に限定されず、例えば、紫外線(UV)、赤外線、可視光線、マイクロ波、電子線(Electron Beam:EB)等が挙げられるが、これらのなかでは、紫外線(UV)が望ましい。
【0077】
本発明の抗微生物部材のモニタリングビジネスの方法は、抗微生物性能が付与された抗微生物部材について、本発明の抗微生物部材の良品判定方法に基づき、抗微生物部材の良品/不良品の判定を行い、抗微生物部材が良品であると判定した場合、これを抗微生物部材の所有者に告知するか、もしくは測定対象である抗微生物部材に良品である旨を表記し、抗微生物部材が不良品であると判定した場合、当該抗微生物部材の表面に抗微生物処理を施すことを抗微生物部材の所有者に提案することを特徴とする。
【0078】
図4は、抗微生物部材のモニタリングビジネスの方法の手順を示すフローチャートである。
まず、抗微生物性能が付与された抗微生物部材が、その用途に従って使用され、また適宜拭き取り等の清掃が行われる(ステップS1)。なお、
図4のステップS1では、拭き取り等の清掃についての記述は省略している。
【0079】
抗微生物部材を使用した後、抗微生物部材の良品/不良品の判定を行う(ステップS2)。当該判定は本発明の抗微生物部材の良品判定方法に基づいて行う。
抗微生物部材の良品/不良品を判定する頻度は特に限定されるものではなく、現場の状況等によって適宜定めることができるが、1〜3年ごとに行うことが好ましい。
【0080】
ステップS2における判定の結果、抗微生物部材が良品であると判定した場合には、これを抗微生物部材の所有者に告知するか、もしくは測定対象である抗微生物部材に良品である旨を表記する(ステップS3)。
良品と判定した日時を記録しておき、次回の良品/不良品の判定を行う期日を定めておくことも好ましい。抗微生物部材が良品と判断された場合であっても、不良品と判断される判断基準に近いレベルでの良品判定であれば、近い期日で次回の良品/不良品の判定を行うようにすることが好ましい。
そして、そのまま抗微生物部材を使用する(ステップS1に戻る)。
【0081】
ステップS2における判定の結果、抗微生物部材が不良品であると判定した場合には、抗微生物部材の表面に抗微生物処理を施すことを抗微生物部材の所有者に提案する(ステップS4)。
【0082】
抗微生物処理の提案を受けた所有者は、抗微生物処理を施して抗微生物部材を再生する(ステップS5)。なお、抗微生物処理を行う作業主体は抗微生物処理の提案を受けた所有者である必要はなく、抗微生物処理を行うことのできる事業者であればよい。また、所有者に対して抗微生物処理を提案した事業者であってもよい。これらの事業者は抗微生物処理の提案を受けた所有者からの依頼により抗微生物処理を行うことができる。
再生のための抗微生物処理を施す際には、抗微生物剤を除去した後、あらためて抗微生物処理を行ってもよく、抗微生物剤を除去することなく、重ねて抗微生物処理を行ってもよい。
そして、抗微生物処理を施した抗微生物部材を再度使用する(ステップS1に戻る)。
【0083】
なお、抗微生物処理の提案を受けた所有者が、すぐに抗微生物部材の再生を行わないと判断した場合は、抗微生物部材の再生(ステップS5)を行うことなく、抗微生物部材を使用することもあり得る(ステップS1に戻る)。
すなわち、本発明の抗微生物部材のモニタリングビジネスの方法は、抗微生物部材の再生(ステップS5)を必須とするものではない。
しかしながら、抗微生物部材が不良品と判定された状態で抗微生物部材の使用を続けると、抗微生物部材の抗微生物性能が充分に発揮されない状態が続くこととなるので、抗微生物部材の再生を行うほうが好ましい。
【0084】
上記の手順でなされる手順が本発明のモニタリングビジネスの方法の一例である。本明細書における「モニタリング」とは、抗微生物部材の抗微生物性能を継続的に監視するステップを有することを意味している。抗微生物部材の抗微生物性能を継続的に監視することで、抗微生物部材を現場に配置しただけでビジネスを完結するのではなく、継続的に抗微生物部材の抗微生物性能が維持されるようにするので、抗微生物部材の抗微生物性能に関する品質保証の観点から有用な方法である。
【0085】
また、本発明の抗微生物性能判断方法において、銅検知物質の物性の変化に関する情報を得る手法は、部材表面の銅付着量の計測方法に応用することができる。
すなわち、本発明の部材表面の銅付着量の計測方法は、銅を含む抗微生物剤が少なくとも表面に付与された部材の表面に銅検知物質を含む溶液を接触させる工程と、上記銅検知物質の物性の変化から、上記部材の表面の銅付着量を計測する工程と、を含むことを特徴とする。
【0086】
部材の表面の銅付着量の計測方法で銅付着量を計測する対象となる部材は、抗微生物部材には限定されない。抗微生物部材の他には、真鍮製の部材、緑青製の部材等が挙げられ、これらの材料からなるインテリア、屋根瓦等が挙げられる。
部材の表面に銅検知物質を含む溶液を接触させる工程における具体的な方法、及び、銅検知物質の物性の変化から部材の表面の銅付着量を計測する具体的な方法としては、本発明の抗微生物性能判断方法において説明した方法を用いることができる。
部材の表面の銅付着量を計測するために、銅検知物質の物性の変化と銅付着量の関係を示す色見本や検量線を用いてもよい。
【実施例】
【0087】
(製造例1:抗微生物性能付与直後を想定)
(1)酢酸銅の濃度が1.75wt%になるように、酢酸銅(II)・一水和物粉末(富士フィルム和光純薬社製)を純水に溶解させた後、マグネチックスターラーを用い、600rpmで15分撹拌して酢酸銅水溶液を調製した。紫外線硬化樹脂液は、光ラジカル重合型アクリレート樹脂(ダイセル・オルネクス社製 UCECOAT7200)と光重合開始剤(IGM社製 Omnirad500)と光重合開始剤(IGM社製 Omnirad184)を重量比97:2:1で混合し、ホモジナイザーを用い、8000rpmで30分撹拌して調製した。
上記1.75wt%酢酸銅水溶液と上記紫外線硬化樹脂液を重量比1.9:1.0で混合し、マグネチックスターラーを用い、600rpmで2分撹拌して抗微生物組成物を調製した。なお、IGM社製のOmnirad500は、BASF社のIRGACURE500と同じもので、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(アルキルフェノン)とベンゾフェノンとの重量比1:1の混合物である。この光重合開始剤は、水に不溶であり、紫外線により還元力を発現する。光重合開始剤(IGM社製 Omnirad184)は、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(アルキルフェノン)であり、結局光重合開始剤としては、アルキルフェノンとベンゾフェノンは重量比で2:1の割合で存在している。
【0088】
(2)ついで、300mm×300mmの大きさの黒色光沢メラミン基板上に、3.0g/分の噴出速度で分散媒を含んだ状態で4.00g/m
2に相当する混合組成物をスプレーガン(アネスト岩田製LPH−50)を用い、0.1MPaのエアー圧力、30cm/secのストローク速度で霧状に散布し、混合組成物の液滴を白色光沢メラミン基板表面に付着させた。
【0089】
(3)この後、白色光沢メラミン基板を80℃で3分間乾燥させ、さらに紫外線照射装置(COATTEC社製 MP02)を用い、30mW/cm
2の照射強度で80秒間紫外線を照射することにより、基材である白色光沢メラミン基板にその表面の一部が露出するように銅化合物を含むバインダ硬化物が固着形成された抗微生物性能を備えた抗微生物部材を得た。
製造例1で得た抗微生物部材は、抗微生物剤の付与直後を想定している。
【0090】
(製造例2:抗微生物性能付与の後、時間経過後を想定)
製造例1において、分散媒を含んだ状態で2.29g/m
2に相当する混合組成物を使用して、抗微生物剤の付与量を減らしたほかは製造例1と同様にして抗微生物部材を得た。
製造例2で得た抗微生物部材は、抗微生物剤の付与後、時間が経過して抗微生物部材の表面の銅付着量が減少した状態を想定している。
【0091】
(製造例3:抗微生物性能が付与されていない状態を想定)
製造例1において使用したメラミン化粧板を、銅を含む溶液の付与を行うことなくそのまま抗微生物部材として使用することとした。
製造例3で得た抗微生物部材は、抗微生物剤を付与していない状態、すなわち表面の銅付着量がゼロの状態を想定している。
【0092】
製造例1〜3で得た抗微生物部材の抗ウィルス性を、下記(ファージウィルスを用いた抗ウィルス評価)のように評価した。
また、製造例1〜3で得た抗微生物部材に銅検知物質を含む溶液を接触させた際の銅検知物質の物性の変化について(含PAR指示薬による変色反応とスペクトル測定)のように評価した。
【0093】
(ファージウィルスを用いた抗ウィルス評価)
抗微生物部材における抗ウィルス性を評価するために、JISZ 2801 抗菌加工製品−抗菌性試験方法・抗菌効果を改変した手法を用いた。改変点は、「試験菌液の接種」を「試験ウィルスの接種」に変更した点である。ウィルスを使用することによる変更点についてはすべてJIS L 1922繊維製品の抗ウィルス性試験方法に基づき変更した。測定結果は抗微生物部材についてJIS L 1922付属書Bに基づき、大腸菌への感染能力を失ったファージウィルス濃度をウィルス不活度として表示する。ここで、ウィルス濃度の指標として、大腸菌に対して不活性化されたウィルスの濃度(ウィルス不活度)を使用し、このウィルス不活度に基づいて抗ウィルス活性値を算出した。
【0094】
以下、手順を具体的に記載する。
(1)抗微生物部材について、当該抗微生物部材を1辺50mm角の正方形に切り出して試験試料とした。この試験試料を滅菌済プラスチックシャーレに置き、試験ウィルス液(>10
7PFU/mL)を0.4mL接種した。試験ウィルス液は10
8PFU/mLのストックを精製水で10倍希釈したものを使用した。
(2)対照試料として50mm角のポリエチレンフイルムを用意し、試験試料と同様にウィルス液を接種した。
(3)接種したウィルスの液の上から40mm角のポリエチレンを被せ、試験ウィルス液を均等に接種させた後、25℃で4時間反応させた。
(4)接種直後または反応後、SCDLP培地9.9mLを加え、ウィルス液を洗い流した。
(5)JIS L 1922付属書Bによってウィルスの感染値を求めた。
(6)以下の計算式を用いて抗ウィルス活性値を算出した。
Mv=Log(Vb/Vc)
Mv::抗ウィルス活性値
Log(Vb):ポリエチレンフイルムの4時間反応後の感染値の対数値
Log(Vc):試験試料の4時間反応後の感染値の対数値
参考規格 JIS L 1922、JIS Z 2801
測定方法は、プラーク測定法によった。
得られた抗ウィルス活性値を表1に示した。
【0095】
(含PAR指示薬による変色反応とスペクトル測定)
(1)指示薬(銅検知物質を含む溶液)の調整
同仁化学社製のPAR(4−[2−ピリジルアゾ]レゾルシノール)を50mg分取し、1Mの水酸化ナトリウム100mLに溶かし、マグネチックスターラーを用い600rpmで2分撹拌し、500mg/LのPAR水溶液を得た。これを蒸留水を用いて、10倍希釈し、50mg/LのPAR水溶液とした。さらに同仁化学社製のEDTA・2Naを380mg/L加え、32%HCLを数滴滴下し、pHを7.0に調整し、指示薬を得た。
【0096】
(2)抗微生物剤と指示薬の反応
抗微生物部材表面にマイクロピペッターで指示薬を20μL付着させた。4cm四方のポリプロピレンフィルムを指示薬の液滴上から被せるように置き、液がポリプロピレンフィルム全体に行き渡るように指で押した。このときポリプロピレンフィルムから液がはみ出さないようにした。ポリプロピレンフィルム全体に指示薬が行き渡ったら、3分間静置した。
【0097】
(3)指示薬の回収と色の変化の観察
上記3分間の静置後、ピンセットを用いてフィルムを剥がした。
このとき液の凝集性を利用し、液が1箇所に集まるようにした。
指示薬を全量マイクロチューブに回収し、指示薬の色の変化を目視で観察した。
目視で観察した指示薬の色を表1に示した。
【0098】
(4)指示薬のスペクトル(光の吸収波長)の変化の測定
マイクロチューブに回収した指示薬を4μL分取して測定用の試料とした。この試料に対して、紫外・可視分光光度計 ナノビュープラス(セントラル科学貿易社製)を用いて、スペクトル解析を行った。
試料の420nmと500nmの吸収ピーク強度(OD420及びOD500)、及び、OD500/OD420の値を表1に示した。
【0099】
【表1】
【0100】
また、OD500/OD420の値を横軸にとり、抗ウィルス活性値を縦軸に取った検量線、OD500/OD420の値を横軸にとり、銅付着量を縦軸に取った検量線、銅付着量を横軸にとり、抗ウィルス活性値を縦軸に取った検量線をそれぞれ作成した。
図5は、OD500/OD420の値と抗ウィルス活性値の関係を示す検量線であり、
図6は、OD500/OD420の値と銅付着量の関係を示す検量線であり、
図7は、銅付着量と抗ウィルス活性値の関係を示す検量線である。
【0101】
これらの結果から、抗微生物部材の銅付着量、OD500/OD420の値及び抗ウィルス活性値の間に相関関係があることが分かる。
そのため、銅検知物質の物性の変化として、光の吸収波長の変化、すなわちOD500/OD420の値の変化を測定することにより、抗微生物部材の銅付着量を計測することができる。そして、抗微生物部材の銅付着量に基づき、抗微生物部材の抗ウィルス活性値を計測することができる。
すなわち、抗微生物部材の抗微生物性能を判断することができる。
【0102】
また、銅検知物質の物性の変化として、指示薬の色の変化及び抗微生物部材の表面の色の変化として観察される、銅検知物質の色の変化の観察を行うことにより、抗微生物部材の抗ウィルス活性値を計測することができる。
すなわち、抗微生物部材の抗微生物性能を判断することができる。
【0103】
また、
図5、
図6及び
図7に示すような検量線を使用することにより、OD500/OD420の値に基づいて銅付着量及び抗ウィルス活性値を定量的に計測することができる。
そのため、このような検量線を用いることにより、抗微生物部材の抗微生物性能をより正確に判断することができる。