特開2021-54933(P2021-54933A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大日精化工業株式会社の特許一覧

特開2021-54933熱可塑性ポリウレタン及びその製造方法、並びに成形物
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-54933(P2021-54933A)
(43)【公開日】2021年4月8日
(54)【発明の名称】熱可塑性ポリウレタン及びその製造方法、並びに成形物
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/75 20060101AFI20210312BHJP
   C08G 18/65 20060101ALI20210312BHJP
   C08G 18/44 20060101ALI20210312BHJP
【FI】
   C08G18/75 010
   C08G18/65 011
   C08G18/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-178795(P2019-178795)
(22)【出願日】2019年9月30日
(71)【出願人】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】川村 誠
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 浩正
(72)【発明者】
【氏名】高橋 伸
【テーマコード(参考)】
4J034
【Fターム(参考)】
4J034BA08
4J034CA04
4J034CC03
4J034CC26
4J034CC45
4J034CC62
4J034DA01
4J034DB04
4J034DB07
4J034DF01
4J034DF02
4J034DF11
4J034DF12
4J034DF16
4J034DF20
4J034DF22
4J034DG03
4J034DG04
4J034DG05
4J034DG06
4J034GA05
4J034GA06
4J034GA36
4J034HA01
4J034HA07
4J034HC46
4J034HC52
4J034HC61
4J034HC73
4J034QA03
4J034QB03
4J034QB14
4J034QB17
4J034QC10
4J034QD01
(57)【要約】
【課題】無黄変タイプでありながらも固化時間が短く、優れたハイサイクル性を有する、射出成型に適用可能な熱可塑性ポリウレタン、その製造方法、及びそれを用いた成形物を提供する。
【解決手段】長鎖ジオールに由来する構成単位、短鎖ジオールに由来する構成単位、及び1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンに由来する構成単位を有する熱可塑性ポリウレタンである。また、長鎖ジオール、短鎖ジオール、及び1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンを反応させる工程を有する熱可塑性ポリウレタンの製造方法、並びに上記の熱可塑性ポリウレタンからなる成形物を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長鎖ジオールに由来する構成単位、短鎖ジオールに由来する構成単位、及び1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンに由来する構成単位を有する熱可塑性ポリウレタン。
【請求項2】
前記長鎖ジオールが、ポリカーボネートポリオールである請求項1に記載の熱可塑性ポリウレタン。
【請求項3】
前記長鎖ジオールの数平均分子量が、500〜5,000である請求項1又は2に記載の熱可塑性ポリウレタン。
【請求項4】
前記長鎖ジオールの数平均分子量が、1,000〜2,500である請求項1〜3のいずれか一項に記載の熱可塑性ポリウレタン。
【請求項5】
前記長鎖ジオールに由来する構成単位の含有量(L)と、前記短鎖ジオールに由来する構成単位の含有量(S)との質量比が、L:S=60:40〜98:2である請求項1〜4のいずれか一項に記載の熱可塑性ポリウレタン。
【請求項6】
前記1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンが、トランス体を70モル%以上含有する請求項1〜5のいずれか一項に記載の熱可塑性ポリウレタン。
【請求項7】
JIS K 7311:1995に準拠して測定される引張強さが、20〜50MPaであり、
JIS K 7311:1995に準拠して測定される反発弾性率が、40%以上であり、
JIS K 6262:2013に準拠して測定される圧縮永久歪が、10〜35%である請求項1〜6のいずれか一項に記載の熱可塑性ポリウレタン。
【請求項8】
前記長鎖ジオール、前記短鎖ジオール、及び前記1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンをワンショット法で反応させて得られる請求項1〜7のいずれか一項に記載の熱可塑性ポリウレタン。
【請求項9】
長鎖ジオール、短鎖ジオール、及び1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンを反応させる工程を有する熱可塑性ポリウレタンの製造方法。
【請求項10】
前記長鎖ジオール、前記短鎖ジオール、及び前記1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンをワンショット法で反応させる請求項9に記載の熱可塑性ポリウレタンの製造方法。
【請求項11】
前記1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンのイソシアネート基(NCO)と、前記長鎖ジオール及び前記短鎖ジオールの水酸基(OH)とを、NCO/OH=0.95〜1.05のモル比で反応させる請求項9又は10に記載の熱可塑性ポリウレタンの製造方法。
【請求項12】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の熱可塑性ポリウレタンからなる成形物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性ポリウレタン、熱可塑性ポリウレタンの製造方法、及び成形物に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪族ジイソシアネートや脂環族ジイソシアネートをジイソシアネート成分として用いて得られる熱可塑性のポリウレタンは、光等の外部刺激によっても黄変しにくい、いわゆる無黄変タイプのポリウレタンとして有用である。但し、無黄変タイプのポリウレタンは、一般的に固化速度が遅いため、成型サイクルが長くなりやすく、射出成型用の樹脂原料としてはさほど有用なものであるとは言えなかった。このため、無黄変タイプのポリウレタンは、主として押出成型用の樹脂原料として用いられている。
【0003】
これに対して、芳香族ジイソシアネートをジイソシアネート成分として用いて得られる、いわゆる黄変タイプのポリウレタンは、無黄変タイプのポリウレタンに比して固化速度が速い傾向にある。このため、黄変タイプのポリウレタンは、射出成型用の樹脂材料として、黄変がさほど問題とならない用途に主に展開されている。
【0004】
しかし、無黄変タイプのポリウレタンを射出成型することで、無黄変の各種成形物の生産性を向上させたいといった要望が根強く存在する。関連する従来技術として、例えば、脂肪族ジイソシアネート等のジイソシアネート成分を用いて得られるポリウレタンの成型性を向上させるべく、上記のポリウレタンに適量のアクリル系共重合体及びアクリル系微粒子を配合した熱可塑性のエラストマーが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−172497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1で提案されたエラストマーは、脂肪族ジイソシアネートを用いて得られるポリウレタンを含有しながらも、成型性がある程度向上したものであった。しかしながら、特許文献1で提案されたエラストマーは、ポリウレタン以外の樹脂成分を配合したものであるため、ポリウレタン独特の風合いや特性が損なわれる傾向にある。このため、無黄変タイプで固化時間が短く、ポリウレタン特有の性質等が保持されたポリウレタン系の樹脂材料はこれまでに見出されていなかった。
【0007】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、無黄変タイプでありながらも固化時間が短く、優れたハイサイクル性を有する、射出成型に適用可能な熱可塑性ポリウレタンを提供することにある。また、本発明の課題とすることころは、上記の熱可塑性ポリウレタンの製造方法、及び上記の熱可塑性ポリウレタンを用いて得られる成形物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明によれば、以下に示す熱可塑性ポリウレタンが提供される。
[1]長鎖ジオールに由来する構成単位、短鎖ジオールに由来する構成単位、及び1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンに由来する構成単位を有する熱可塑性ポリウレタン。
[2]前記長鎖ジオールが、ポリカーボネートポリオールである前記[1]に記載の熱可塑性ポリウレタン。
[3]前記長鎖ジオールの数平均分子量が、500〜5,000である前記[1]又は[2]に記載の熱可塑性ポリウレタン。
[4]前記長鎖ジオールの数平均分子量が、1,000〜2,500である前記[1]〜[3]のいずれかに記載の熱可塑性ポリウレタン。
[5]前記長鎖ジオールに由来する構成単位の含有量(L)と、前記短鎖ジオールに由来する構成単位の含有量(S)との質量比が、L:S=60:40〜98:2である前記[1]〜[4]のいずれかに記載の熱可塑性ポリウレタン。
[6]前記1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンが、トランス体を70モル%以上含有する前記[1]〜[5]のいずれかに記載の熱可塑性ポリウレタン。
[7]JIS K 7311:1995に準拠して測定される引張強さが、20〜50MPaであり、JIS K 7311:1995に準拠して測定される反発弾性率が、40%以上であり、JIS K 6262:2013に準拠して測定される圧縮永久歪が、10〜35%である前記[1]〜[6]のいずれかに記載の熱可塑性ポリウレタン。
[8]前記長鎖ジオール、前記短鎖ジオール、及び前記1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンをワンショット法で反応させて得られる前記[1]〜[7]のいずれか一項に記載の熱可塑性ポリウレタン。
【0009】
また、本発明によれば、以下に示す熱可塑性ポリウレタンの製造方法が提供される。
[9]長鎖ジオール、短鎖ジオール、及び1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンを反応させる工程を有する熱可塑性ポリウレタンの製造方法。
[10]前記長鎖ジオール、前記短鎖ジオール、及び前記1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンをワンショット法で反応させる前記[9]に記載の熱可塑性ポリウレタンの製造方法。
[11]前記1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンのイソシアネート基(NCO)と、前記長鎖ジオール及び前記短鎖ジオールの水酸基(OH)とを、NCO/OH=0.95〜1.05のモル比で反応させる前記[9]又は[10]に記載の熱可塑性ポリウレタンの製造方法。
【0010】
さらに、本発明によれば、以下に示す成形物が提供される。
[12]前記[1]〜[8]のいずれかに記載の熱可塑性ポリウレタンからなる成形物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、特定の脂肪族ジイソシアネートを用いたことで、無黄変タイプでありながらも固化時間が短く、優れたハイサイクル性を有する、射出成型に適用可能な熱可塑性ポリウレタンを提供することができる。さらに、特定の脂肪族ジイソシアネートを用いたことで、反発弾性率が高いとともに、圧縮永久歪が小さく、かつ、十分な引張強さを有する熱可塑性ポリウレタンを提供することができる。また、本発明によれば、上記の熱可塑性ポリウレタンの製造方法、及び上記の熱可塑性ポリウレタンを用いて得られる成形物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<熱可塑性ポリウレタン>
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本実施形態の熱可塑性ポリウレタン(以下、単に「ポリウレタン」とも記す)は、長鎖ジオールに由来する構成単位、短鎖ジオールに由来する構成単位、及び1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンに由来する構成単位を有する。以下、本実施形態のポリウレタンの詳細について説明する。
【0013】
(長鎖ジオール)
本実施形態のポリウレタンは、長鎖ジオールに由来する構成単位を有する。長鎖ジオールは、その分子構造中に2つの水酸基を有する高分子量の化合物(モノマー)、マクロモノマー、及びポリマー等である。長鎖ジオールとしては、ポリカーボネートポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリオレフィンポリオール、ポリメタクリレートポリオール等を挙げることができる。
【0014】
ポリカーボネートポリオールとしては、ポリトリメチレンカーボネートポリオール、ポリテトラメチレンカーボネートポリオール、ポリペンタメチレンカーボネートポリオール、ポリネオペンチルカーボネートポリオール、ポリヘキサメチレンカーボネートポリオール、ポリ(1,4−シクロヘキサンジメチレンカーボネート)ポリオール、ポリデカメチレンカーボネートポリオール等を挙げることができる。
【0015】
ポリエーテルポリオールとしては、アルキレンオキシド(エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド等)や、複素環式エーテル(テトラヒドロフラン等)を重合又は共重合して得られるもの等を挙げることができる。より具体的には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコール−ポリテトラメチレングリコール(ブロック又はランダム共重合体)、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリヘキサメチレングリコール等を挙げることができる。
【0016】
ポリエステルポリオールとしては、脂肪族系ジカルボン酸(例えば、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、グルタル酸、アゼライン酸等)や、芳香族系ジカルボン酸(例えば、イソフタル酸、テレフタル酸等)と、低分子量グリコール類(例えば、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,6−ヘキサメチレンングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−ビスヒドロキシメチルシクロヘキサン等)との重合縮物等を挙げることができる。より具体的には、ポリエチレンアジペートポリオール、ポリブチレンアジペートポリオール、ポリヘキサメチレンアジペートポリオール、ポリネオペンチルアジペートポリオール、ポリエチレンアジペートポリオール、ポリブチレンアジペートポリオール、ポリネオペンチルアジペートポリオール、ポリヘキシルアジペートポリオール、ポリ−3−メチルペンタンアジペートポリオール、ポリブチレンイソフタレートポリオール等を挙げることができる。
【0017】
さらに、ポリエステルポリオールとしては、上記の低分子量グリコール類を開始剤として、ε−カプロラクトン、γ−バレロラクトンなどのラクトン類や、L−ラクチド、D−ラクチドなどのラクチド類などを開環重合して得られる、ポリカプロラクトンポリオール、ポリバレロラクトンポリオール等を挙げることができる。
【0018】
ポリオレフィンポリオールとしては、ポリブタジエングリコール、ポリイソプレングリコール、及びこれらの水素化物等を挙げることができる。また、ポリメタクリレートポリオールとしては、α,ω−ポリメチルメタクリレートポリオール、α,ω−ポリブチルメタクリレートポリオール等を挙げることができる。
【0019】
長鎖ジオールとしては、ポリカーボネートポリオールが好ましく、なかでも、ポリヘキサメチレンカーボネートポリオールが特に好ましい。ポリカーボネートポリオールに由来する構成単位を有することで、耐熱性及び耐加水分解性に優れた熱可塑性ポリウレタンとすることができる。
【0020】
長鎖ジオールの数平均分子量は、500〜5,000であることが好ましく、1,000〜2,500であることがさらに好ましく、1,200〜2,000であることが特に好ましい。その数平均分子量が上記の範囲内である長鎖ジオールを用いることで、固化速度をさらに速くすることができるとともに、透明性に優れた熱可塑性ポリウレタンとすることができる。
【0021】
(短鎖ジオール)
本実施形態のポリウレタンは、短鎖ジオールに由来する構成単位を有する。短鎖ジオールは、その分子構造中に2つの水酸基を有する低分子量の化合物であり、いわゆる「鎖伸長剤」として用いられる成分である。短鎖ジオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール等の脂肪族グリコール類;1,4−ビスヒドロキシメチルシクロヘキサン、2−メチル−1,1−シクロヘキサンジメタノール等の脂環族グリコール類;を挙げることができる。これらのなかでも、1,4−ブタンジオールが特に好ましい。
【0022】
熱可塑性ポリウレタン中の、長鎖ジオールに由来する構成単位の含有量(L)と、短鎖ジオールに由来する構成単位の含有量(S)との質量比は、L:S=60:40〜98:2であることが好ましく、L:S=70:30〜95:5であることがさらに好ましく、L:S=75:25〜90:10であることが特に好ましい。長鎖ジオールに由来する構成単位の含有量(L)と、短鎖ジオールに由来する構成単位の含有量(S)との質量比(L:S)を上記の範囲内とすることで、固化速度をさらに速くすることができるとともに、透明性に優れた熱可塑性ポリウレタンとすることができる。
【0023】
(ポリイソシアネート)
本実施形態のポリウレタンは、ポリイソシアネートである1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(以下、「1,4−HXDI」とも記す)に由来する構成単位を有する。1,4−HXDIに由来する構成単位を有することで、光の作用によっても黄変しにくい、いわゆる無黄変タイプの熱可塑性ポリウレタンとすることができる。また、1,4−HXDIに由来する構成単位を有することで、無黄変タイプでありながらも固化時間が短くなる。このため、優れたハイサイクル性を有する、射出成型に適用可能な熱可塑性ポリウレタンとすることができる。さらに、他の樹脂成分を配合しなくても成型性が向上するので、ポリウレタン特有の性質が保持されている。また、1,4−HXDIを用いることで、反発弾性率が高いとともに、圧縮永久歪が小さく、かつ、十分な引張強さを有する熱可塑性ポリウレタンとすることができる。
【0024】
1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(1,4−HXDI)は、通常、シス−トランス異性体を含む。本実施形態のポリウレタンにポリイソシアネートとして用いる1,4−HXDIは、トランス体を70モル%以上含有することが好ましく、70〜99モル%含有することが好ましい。トランス体の含有量が70モル%以上である1,4−HXDIを用いることで、固化速度をより速くすることができる。
【0025】
本発明の効果が損なわれない範囲で、必要に応じて、1,4−HXDI以外のポリイソシアネート(その他のポリイソシアネート)を用いることができる。その他のポリイソシアネートとしては、一般的なポリウレタンを製造する際に用いられる、脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート(1,4−HXDIを除く)、芳香族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネート等を挙げることができる。
【0026】
(熱可塑性ポリウレタン)
本実施形態のポリウレタンは、1,4−HXDIに由来する構成単位を有することで、前述の通り、無黄変タイプでありながらも固化時間が短いといった特性だけでなく、反発弾性率が高いとともに、圧縮永久歪が小さく、かつ、十分な引張強さを有するといった特性をも示す。より具体的には、本実施形態のポリウレタンのJIS K 7311:1995に準拠して測定される引張強さは、好ましくは20〜50MPa、さらに好ましくは25〜45MPaである。また、本実施形態のポリウレタンのJIS K 7311:1995に準拠して測定される反発弾性率は、好ましくは40%以上、さらに好ましくは45〜60%である。さらに、本実施形態のポリウレタンのJIS K 6262:2013に準拠して測定される圧縮永久歪は、好ましくは10〜35%、さらに好ましくは20〜30%である。
【0027】
また、本実施形態のウレタン樹脂を製造する際には、長鎖ジオール、短鎖ジオール、及び1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンをワンショット法で反応させることが好ましい。ワンショット法は、いわゆるプレポリマー法と比べて操作が容易であり、工業生産に適している。また、製造プロセスにおいては連続法が好ましい。連続法は、いわゆるバッチ法と比べて生産性が高く、工業生産に適している。
【0028】
<熱可塑性ポリウレタンの製造方法>
本発明の一実施形態である熱可塑性ポリウレタンの製造方法は、前述のポリウレタンを製造するのに好適な方法であり、長鎖ジオール、短鎖ジオール、及び1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(1,4−HXDI)を反応させる工程を有する。
【0029】
各成分(長鎖ジオール、短鎖ジオール、及び1,4−HXDI)を反応させる方法は特に限定されない。具体的には、(i)長鎖ジオール、短鎖ジオール、及び1,4−HXDIを一括して反応させるワンショット法;(ii)長鎖ジオールと1,4−HXDIを反応させてイソシアネート末端プレポリマーを得た後、得られたイソシアネート末端プレポリマーに鎖伸長剤である短鎖ジオールを反応させるプレポリマー法;等を挙げることができる。なかでも、(i)ワンショット法で各成分を反応させることが好ましい。ワンショット法の場合、プレポリマーを製造する工程が不要となるため、プレポリマー法に比して作業工程が少ないために好ましい。
【0030】
長鎖ジオールと短鎖ジオールは、反応系にそれぞれ単独で添加してもよいし、予め混合して反応系に添加してもよい。また、1,4−HXDIのイソシアネート基(NCO)と、長鎖ジオール及び鎖ジオールの水酸基(OH)とを、NCO/OH=0.95〜1.05のモル比で反応させることが好ましく、NCO/OH=0.97〜1.03のモル比で反応させることがさらに好ましい。
【0031】
<成形物>
本発明の一実施形態である成形物は、前述の熱可塑性ポリウレタンにより構成されている。本実施形態の成形物は、例えば、公知の成型方法によって前述のポリウレタンを、ペレット状、板状、ストランド状、フィルム状、シート状、パイプ状、中空状、箱状等の所望とする各種形状に成形することによって製造することができる。
【0032】
成型方法としては、例えば、特定の金型を用いる熱圧縮成型法、射出成型法、及び押出成型法などの熱成型加工方法等を挙げることができる。なかでも、短時間でより多くの成形物を得ることが可能な射出成型法が好ましい。前述の通り、成型原料として用いるポリウレタンは、無黄変タイプでありながらも固化時間が短く、優れたハイサイクル性を有する。このため、射出成型法によって短時間に大量製造した場合であっても、スプルー切れ等の不具合が生じにくく、製造歩留まりを向上させることができる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0034】
<ポリウレタンの製造>
(実施例1:ペレット1)
ポリヘキサメチレンカーボネートポリオール(商品名「UH−200」、宇部興産社製、数平均分子量2,000)450.0g、及び1,4−ブタンジオール50.0gを反応容器に入れ、110℃に加温した。次いで、60℃に加温しておいた1,4−HXDI(商品名「フォルティモ」、三井化学社製)151.4gを添加し、12秒間撹拌して反応させた。得られた反応物をトレーに移し、100℃で3時間熟成して塊状物を得た。得られた塊状物を粉砕して得た粉砕物を押出機に入れ、ストランド状に押し出した後、カッティングしてペレット化し、熱可塑性ポリウレタンのペレット(ペレット1)を得た。
【0035】
(実施例2〜4、比較例1〜4:ペレット2〜8)
表1の中段に示す配合(単位:g)としたこと以外は、前述の実施例1と同様にして、熱可塑性ポリウレタンのペレット(ペレット2〜8)を得た。
【0036】
【0037】
表1中の商品名及び略号の意味を以下に示す。
・UH−200:ポリヘキサメチレンカーボネートポリオール、宇部興産社製、数平均分子量2,000
・PTMG2000:ポリテトラメチレングリコール、三菱ケミカル社製、数平均分子量2,000
・プラクセル220:ポリカプロラクトンジオール、ダイセル社製、数平均分子量2,000
・1,4−BD:1,4−ブタンジオール
・EG:エチレングリコール
・1,4−HXDI:1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(トランス体の含有比率70%以上)
・HDI:ヘキサメチレンジイソシアネート
・MDI:ジフェニルメタンジイソシアネート
【0038】
<評価(1)>
(固化時間)
ペレット1〜8をそれぞれ成型原料とし、射出成型機(機種名「HM7−C」、日精樹脂工業社製)及び厚平板の金型(3.5cm×4cm×2mm)を使用し、後部温度210℃、中間部温度215℃、前部温度215℃、及びノズル温度220℃の条件で射出成型して射出成型板1−1〜8−1を得た。その際、スプルー切れを起こさず、かつ、変形せずに射出成型板が金型から離れる時間を「固化時間(秒)」として測定した。結果を表2に示す。
【0039】
(耐熱性)
ペレット1〜8をそれぞれ成型原料とし、射出成型機(型式「SAV−100−75」、山城精機社製)及び厚平板の金型(10cm×10cm×2mm)を使用して射出成型し、射出成型板1−2〜8−2を得た。得られた射出成型板を熱風乾燥機(協和理器製作所社製)に入れ、120℃で6週間保存した。熱風乾燥機投入前後の射出成型板の引張強さを測定するとともに、投入前の引張強さの値を初期値とする「引張強さ保持率(%)」を算出した。結果を表2に示す。
【0040】
(耐加水分解性)
ペレット1〜8をそれぞれ成型原料とし、射出成型機(型式「SAV−100−75」、山城精機社製)及び厚平板の金型(10cm×10cm×2mm)を使用して射出成型し、射出成型板1−3〜8−3を得た。得られた射出成型板を恒温恒湿槽(型式「IH400」、ヤマト科学社製)に入れ、80℃、95%RHの条件で6週間保存した。恒温恒湿槽投入前後の射出成型板の引張強さを測定するとともに、投入前の引張強さの値を初期値とする「引張強さ保持率(%)」を算出した。結果を表2に示す。
【0041】
【0042】
<評価(2)>
(引張強さ)
ペレット1〜8をそれぞれ成型原料とし、射出成型機(型式「SAV−100−75」、山城精機社製)及び厚平板の金型(10cm×10cm×2mm)を使用して射出成型し、射出成型板を得た。JIS K 7311:1995に準拠し、得られた射出成型板を用いて試験片1−1〜8−1を作製するとともに、引張強さ(MPa)を測定した。結果を表3に示す。
【0043】
(反発弾性率)
ペレット1〜8をそれぞれ成型原料とし、射出成型機(型式「SAV−100−75」、山城精機社製)及び厚平板の金型(10cm×10cm×2mm)を使用して射出成型し、射出成型板を得た。JIS K 7311:1995に準拠し、得られた射出成型板を用いて試験片1−2〜8−2を作製するとともに、反発弾性率(%)を測定した。結果を表3に示す。
【0044】
(圧縮永久歪)
ペレット1〜8をそれぞれ成型原料とし、射出成型機(型式「SAV−100−75」、山城精機社製)及び円柱形の金型(直径29.0±0.5mm、厚さ12.5±0.5mm)を使用して射出成型し、試験片1−3〜8−3を得た。JIS K 6262:2013に準拠し、70℃、24時間の条件で、得られた試験片の圧縮永久歪(%)を測定した。結果を表3に示す。
【0045】
【0046】
<評価(3)>
(耐光性)
ペレット1〜8をそれぞれ成型原料とし、射出成型機(型式「SAV−100−75」、山城精機社製)及び厚平板の金型(10cm×10cm×2mm)を使用して射出成型し、射出成型板を得た。プレス機を使用して得られた射出成型板をプレスして、厚さ0.5mmのプレスシート1−1〜8−1を作製した。作製したプレスシートにつき、以下に示す条件で光照射試験を行った後、分光光度計を使用して色差(ΔE、Δb)を測定及び算出した。結果を表4に示す。
・光源:メタリングランプ
・照射量:150MJ×33.6時間
・ブラックパネル温度:63℃
【0047】
(耐薬品性)
ペレット1〜8をそれぞれ成型原料とし、射出成型機(型式「SAV−100−75」、山城精機社製)及び厚平板の金型(10cm×10cm×2mm)を使用して射出成型し、射出成型板を得た。プレス機を使用して得られた射出成型板をプレスして、厚さ0.5mmのプレスシート1−2〜8−2を作製した。作製したプレスシートをエタノール及びオレイン酸にそれぞれ24時間浸漬し、線膨張率(%)を測定した。結果を表4に示す。
【0048】
(耐NOX性)
ペレット1〜8をそれぞれ成型原料とし、射出成型機(型式「SAV−100−75」、山城精機社製)及び厚平板の金型(10cm×10cm×2mm)を使用して射出成型し、射出成型板を得た。プレス機を使用して得られた射出成型板をプレスして、厚さ0.5mmのプレスシート1−3〜8−3を作製した。作製したプレスシートにつき、JIS L 0855:2005に準拠して耐NOX性試験を行った後、分光光度計を使用して色差(ΔE、Δb)を測定及び算出した。結果を表4に示す。
【0049】
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の熱可塑性ポリウレタンは、ポリウレタン製の無黄変タイプの成形物を射出成型によって製造するための樹脂原料として有用である。