【課題】ポリカーボネート樹脂にセルロース繊維を凝集させることなく、均一に分散させる簡便なポリカーボネート樹脂組成物の製造方法と、セルロース繊維が均一に分散した熱安定性に優れた繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ポリカーボネート樹脂(A)およびセルロース繊維(B)の水性分散体を混合して予備混合物を得る工程、および、得られた予備混合物を、ポリカーボネート樹脂(A)と溶融混練する工程を含み、予備混合物を得る工程において使用するポリカーボネート樹脂(A)の嵩密度が0.1g/ml以上0.7g/ml未満である、繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
酸化防止剤(C)がフェノール系酸化防止剤および環状亜リン酸エステル系酸化防止剤から選択される、請求項2または3に記載の繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
フェノール系酸化防止剤がオクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートであり、環状亜リン酸エステル系酸化防止剤が、2,4,8,10−テトラ−t−ブチル−6−〔3−(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)プロポキシ〕ジベンゾ〔d,f〕〔1,3,2〕ジオキサホスフェピンである、請求項6または7に記載の繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物。
ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、酸化防止剤(C)を0.015〜5重量部含有する、請求項5〜8のいずれか1項に記載の繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ポリカーボネート樹脂にセルロース繊維を凝集させることなく、均一に分散させる簡便なポリカーボネート樹脂組成物の製造方法と、セルロース繊維が均一に分散した熱安定性に優れた繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決すべく製造方法について鋭意検討を行ったところ、特定の嵩密度のポリカーボネート樹脂とセルロース繊維の水性分散体を混合すると、セルロース繊維が凝集することなく、ポリカーボネート樹脂中に均一に分散し、優れた透明性外観を有する繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物を得ることが出来ることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、
ポリカーボネート樹脂(A)およびセルロース繊維(B)の水性分散体を混合して予備混合物を得る工程、
および、
得られた予備混合物を、ポリカーボネート樹脂(A)と溶融混練する工程を含み、
予備混合物を得る工程において使用するポリカーボネート樹脂(A)の嵩密度が0.1g/ml以上0.7g/ml未満である、繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法に関する。
【0008】
セルロース繊維(B)の水性分散体とともに、酸化防止剤(C)を混合すること、または、得られた予備混合物とポリカーボネート樹脂(A)とともに、酸化防止剤(C)を混合することが好ましい。
【0009】
酸化防止剤(C)がフェノール系酸化防止剤および環状亜リン酸エステル系酸化防止剤から選択されることが好ましい。
【0010】
また、本発明は、ポリカーボネート樹脂(A)、セルロース繊維(B)および酸化防止剤(C)を含有する繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物に関する。
【0011】
酸化防止剤(C)がフェノール系酸化防止剤および環状亜リン酸エステル系酸化防止剤から選択されることが好ましい。
【0012】
セルロース繊維(B)が化学解繊セルロース繊維であることが好ましい。
【0013】
フェノール系酸化防止剤がオクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートであり、環状亜リン酸エステル系酸化防止剤が、2,4,8,10−テトラ−t−ブチル−6−〔3−(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)プロポキシ〕ジベンゾ〔d,f〕〔1,3,2〕ジオキサホスフェピンであることが好ましい。
【0014】
ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、酸化防止剤(C)を0.015〜5重量部含有することが好ましい。
【0015】
また、本発明は、前記繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる成形品に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法によれば、特定の嵩密度を有するポリカーボネート樹脂とセルロース繊維の水性分散体を予備混合するため、ポリカーボネート樹脂にセルロース繊維を凝集させることなく、均一に分散させることができ、透明性外観と熱安定性に優れた繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法は、嵩密度が0.1g/ml以上0.7g/ml未満であるポリカーボネート樹脂(A)およびセルロース繊維(B)の水性分散体を混合して予備混合物を得る工程、および、得られた予備混合物を、ポリカーボネート樹脂(A)と溶融混練する工程を含むことを特徴とする。
【0018】
<予備混合工程>
予備混合工程とは、溶融混練する前に、ポリカーボネート樹脂(A)とセルロース繊維(B)の水性分散体を混合して、マスターバッチを作製する工程である。必要に応じて酸化防止剤(C)とともに予備混合することもできる。混合手段は特に限定されないが、撹拌しながら混合することが好ましく、一般的なミキサー(例えば、ナウターミキサー、ヘンシェルミキサー、バタフライミキサーなど)、ブレンダーなどを使用できる。また、これらの樹脂粒子の混合分散体を調製する際には、酸または塩基を用いてpHを調整してもよい。
【0019】
予備混合工程におけるセルロース繊維(B)の混合量は、予備混合工程で使用するポリカーボネート(A)100重量部に対して、固形分量で0.1〜25重量部が好ましく、固形分量で0.25〜18重量部がより好ましい。酸化防止剤(C)も予備混合する場合、該酸化防止剤(C)の混合量は、予備混合工程で使用するポリカーボネート(A)100重量部に対して、0.012〜6重量部が好ましく、0.015〜5重量部がより好ましい。
【0020】
予備混合工程では、ポリカーボネート樹脂(A)とセルロース繊維(B)の水性分散体とともに、熱可塑性樹脂を混合しても良く、予めセルロース繊維(B)の水性分散体と熱可塑性樹脂を混合した後に、ポリカーボネート樹脂(A)と予備混合しても良い。熱可塑性樹脂は、水性分散体として使用することが好ましい。
【0021】
予備混合で使用するポリカーボネート樹脂としては、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)から製造されたポリカーボネート樹脂が挙げられる。
【0022】
ポリカーボネート樹脂は、種々のジヒドロキシジアリール化合物とホスゲンとを反応させるホスゲン法、またはジヒドロキシジアリール化合物とジフェニルカーボネートなどの炭酸エステルとを反応させるエステル交換法によって得ることができる。
【0023】
上記ジヒドロキシジアリール化合物としては、ビスフェノールAの他に、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−第三ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−ブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパンのようなビス(ヒドロキシアリール)アルカン類、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンのようなビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルエーテルのようなジヒドロキシジアリールエーテル類、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィドのようなジヒドロキシジアリールスルフィド類、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホキシドのようなジヒドロキシジアリールスルホキシド類、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホンのような、ジヒドロキシジアリールスルホン類等が挙げられる。
【0024】
これらは単独または2種類以上混合して使用されるが、これらの他に、ピペラジン、ジピペリジルハイドロキノン、レゾルシン、4,4’−ジヒドロキシジフェニル等を混合して使用してもよい。また、分子量調節剤、触媒等を必要に応じて使用することができる。
【0025】
さらに、上記のジヒドロキシアリール化合物とともに以下に示すような3価以上のフェノール化合物を混合使用してもよい。3価以上のフェノール化合物としてはフロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプテン、2,4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプタン、1,3,5−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ベンゾール、1,1,1−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−エタンおよび2,2−ビス−〔4,4−(4,4’−ジヒドロキシジフェニル)−シクロヘキシル〕−プロパンなどが挙げられる。
【0026】
ポリカーボネート樹脂の重量平均分子量(Mw)は、通常10000〜100000、好ましくは12000〜35000、さらに好ましくは15000〜32000である。重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)装置で測定して得た値を、単分散分子量ポリスチレンで換算して得られる値である。より具体的な手順は、実施例において説明する。
【0027】
予備混合で使用するポリカーボネート樹脂(A)の嵩密度は、0.1g/ml以上0.7g/ml未満であり、0.1〜0.5g/mlが好ましい。嵩密度が0.7g/ml以上では、セルロース繊維の凝集抑制が難しくなり、0.1g/ml未満では、生産性に不都合が生じる傾向がある。ここで、嵩密度とは、JIS K7370(固め見掛けかさ密度の求め方)に準拠して測定される値をいう。
【0028】
予備混練で使用するポリカーボネート樹脂(A)の形態は特に限定されず、たとえばペレット状、フレーク状、ビーズ状、薄肉片等が挙げられる。各樹脂片の大きさは特に制限されないが、5mm以下が好ましい。例えば、ペレット粉砕処理品(嵩密度0.5g/ml)、フレーク状品(嵩密度0.2g/ml)、ペレット切削加工処理品(嵩密度0.1g/ml)等が挙げられる。
【0029】
本発明で使用するセルロース繊維(B)としては、物理的解繊、化学的解繊、生物的解繊等により得られるものを挙げることができ、化学解繊セルロース繊維を使用することが好ましい。例えば、木材等より得られたパルプなどの繊維原料を化学薬品処理(TEMPO(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル)酸化処理、亜リン酸エステル化処理など)した後に、各種ミクロ繊維化したものが挙げられる。これらの化学修飾したセルロース繊維は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。化学解繊セルロース繊維としては、日本製紙社製のcellenpia(登録商標)、第一工業製薬社製のレオクリスタ(登録商標)等が挙げられ、これらを購入して使用することができる。
【0030】
セルロース繊維の繊維径は、透明性の点で、100nm以下が好ましく、50nm以下がより好ましい。セルロース繊維の長さは、0.1〜1000μmが好ましい。
【0031】
セルロース繊維の水性分散体は、セルロース繊維を含有し、分散媒として水を含有する分散体である。分散媒は、全量水であることが好ましいが、水と相溶性を示す他の液体を一部含有した分散媒を用いることもできる。
【0032】
水分散体中のセルロース繊維の含有量は、0.1〜50質量%が好ましく、0.5〜20質量%がより好ましい。また、単繊維の繊維径が2.0μmを超えるセルロース繊維の含有量は、透明性の観点より、水分散体に対して10重量%以下であることが好ましい。
【0033】
本発明で使用する酸化防止剤は特に限定されないが、セルロース繊維とポリカーボネート樹脂の分解抑制の観点からフェノール系酸化防止剤または環状亜リン酸エステル系酸化防止剤が好ましい。
【0034】
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、テトラキス[メチレン−3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]メタン、および3,9−ビス[2−{3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンなどが挙げられる。好ましくはオクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートが使用され、例えばBASF社製Irganox1076が商業的に入手可能である。
【0035】
環状亜リン酸エステル系酸化防止剤とは、環状構造を有する酸化防止剤であって、たとえば、下記一般式
【化1】
(式中、R1、R2、R4およびR5は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数5〜8のシクロアルキル基、炭素数6〜12のアルキルシクロアルキル基、炭素数7〜12のアラルキル基またはフェニル基を表し、R3は水素原子または炭素数1〜8のアルキル基を表す。Xは単結合、硫黄原子もしくは−CHR6−(R6は水素原子、炭素数1〜8のアルキル基または炭素数5〜8のシクロアルキル基を示す)を表す。Aは炭素数1〜8のアルキレン基または*−COR7基(R7は単結合または炭素数1〜8のアルキレン基を、*は酸素側の結合手であることを示す。)を表す。Y、Zは、いずれか一方がヒドロキシル基、炭素数1〜8のアルコキシ基または炭素数7〜12のアラルキルオキシ基を表し、もう一方が水素原子または炭素数1〜8のアルキル基を表す。)
で表される化合物である。
【0036】
炭素数1〜8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、t−ペンチル基、i−オクチル基、t−オクチル基、2−エチルヘキシル基等が挙げられる。
炭素数5〜8のシクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が挙げられる。
炭素数6〜12のアルキルシクロアルキル基としては、例えば、1−メチルシクロペンチル基、1−メチルシクロヘキシル基、1−メチル−4−i−プロピルシクロヘキシル基等が挙げられる。
炭素数7〜12のアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、α−メチルベンジル基、α,α−ジメチルベンジル基等が挙げられる。
炭素数1〜8のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基、2,2−ジメチル−1,3−プロピレン基等が挙げられ、好ましくはプロピレン基である。
炭素数1〜8のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、t−ブトキシ基、ペンチルオキシ基等が挙げられる。
炭素数7〜12のアラルキルオキシ基としては、例えば、ベンジルオキシ基、α−メチルベンジルオキシ基、α,α−ジメチルベンジルオキシ基等が挙げられる。
【0037】
前記R1、R2及びR4は、それぞれ独立して、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数5〜8のシクロアルキル基又は炭素数6〜12のアルキルシクロアルキル基であることが好ましい。特に、R1及びR4は、それぞれ独立して、t−ブチル基、t−ペンチル基、t−オクチル基等のt−アルキル基、シクロヘキシル基又は1−メチルシクロヘキシル基であることが好ましい。特に、R2は、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、t−ペンチル基等の炭素数1〜5のアルキル基であることが好ましく、メチル基、t−ブチル基又はt−ペンチル基であることがさらに好ましい。
前記R5は、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基又は炭素数5〜8のシクロアルキル基であることが好ましく、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、t−ペンチル基等の炭素数1〜5のアルキル基であることがさらに好ましい。
前記R3は、水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基であることが好ましく、水素原子又はメチル基であることがさらに好ましい。
前記Xは、単結合、メチレン基、又はメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基等で置換されたメチレン基であることが好ましく、単結合であることがさらに好ましい。
*−COR7基における*は、酸素側の結合手であり、カルボニル基がフォスファイト基の酸素原子と結合していることを示す。前記R7は、単結合又はエチレン基であることが好ましい。
【0038】
環状亜リン酸エステル系酸化防止剤としては、例えば2,4,8,10−テトラ−t−ブチル−6−〔3−(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)プロポキシ〕ジベンゾ〔d,f〕〔1,3,2〕ジオキサホスフェピン、6−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロポキシ]−2,4,8,10−テトラ−t−ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン、6−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロポキシ]−4,8−ジ−t−ブチル−2,10−ジメチル−12H−ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン、6−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]−4,8−ジ−t−ブチル−2,10−ジメチル−12H−ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシンなどが挙げられる。好ましくは、2,4,8,10−テトラ−t−ブチル−6−〔3−(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)プロポキシ〕ジベンゾ〔d,f〕〔1,3,2〕ジオキサホスフェピンが使用され、例えば住友化学社製スミライザー(登録商標)GP等が商業的に入手可能である。
【0039】
予備混合の後に、乾燥工程を設けることが好ましい。乾燥手段としては、熱風乾燥、真空乾燥、蒸気乾燥、スピン乾燥、吸引乾燥などの各種乾燥手段が挙げられる。
【0040】
<溶融混練工程>
溶融混練工程とは、予備混合工程で得られた予備混合物を、ポリカーボネート樹脂(A)と溶融混練する工程である。予備混合工程で酸化防止剤(C)を混合した場合には、溶融混練工程で混練する必要はない。混練方法は特に限定されず、例えば押出機(溶融混練機、溶融捏和機)、バッチ式混練機などが挙げられる。押出機としては、単軸でも多軸でも良く、多軸の場合、噛合い型同方向回転二軸押出機等の二軸押出機、二軸以上の多軸押出機を好ましく使用することができる。通常、通常の噛合い型同方向回転二軸押出機等が好ましく使用される。
【0041】
溶融混練工程で新たに配合するポリカーボネート樹脂(A)の嵩密度は、特に限定されない。
【0042】
溶融混練工程で新たに配合するポリカーボネート樹脂(A)の添加量は、予備混合物100重量部に対して、800重量部以下が好ましく、750重量部以下がより好ましい。800重量部を超えると、セルロース繊維の均一な分散性が得られなくなる傾向がある。下限は特に限定されないが、5重量部以上が好ましい。
【0043】
酸化防止剤(C)を溶融混練工程で添加する場合、樹脂組成物中のポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して0.01〜5重量部となる量が好ましく、0.015〜5重量部となる量がより好ましい。
【0044】
本発明の繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂(A)、セルロース繊維(B)および酸化防止剤(C)を含有することを特徴とする。
【0045】
本発明の繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物は、前述した本発明の繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法によって作製することができる。ここで、ポリカーボネート樹脂(A)、セルロース繊維(B)および酸化防止剤(C)は、前述した通りである。
【0046】
本発明の繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物に含まれるポリカーボネート樹脂(A)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)とセルロース繊維(B)固形分の合計量に対し、80〜99.9重量%が好ましく、85〜99.8重量%がより好ましい。99.9重量%を超えると、セルロース繊維による補強効果が低下する傾向になり、80重量%未満であると、セルロース繊維の凝集物が発生する傾向がある。
【0047】
本発明の繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物に含まれるセルロース繊維(B)固形分の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)とセルロース繊維(B)固形分の合計量に対し、0.1〜20重量%が好ましく、0.2〜15重量%がより好ましい。20重量%を超えると、セルロース繊維の凝集物が発生しやすくなる傾向となり、0.1重量%未満であるとセルロース繊維による補強効果が低下する傾向がある。
【0048】
本発明の繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物における酸化防止剤(C)の含有量は特に限定されないが、ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、0.01〜5重量部が好ましく、0.015〜5重量部がより好ましい。0.01重量部未満では、セルロース繊維に起因するポリカーボネート樹脂の分子量低下を抑制することが難しくなり、5重量部を超えると、分解ガス等によりポリカーボネート樹脂の熱安定特性を阻害し著しい強度低下につながる可能性がある。
【0049】
本発明では、前述した成分以外に、ポリカーボネート樹脂組成物に配合される各種成分を使用することができる。このような成分としては、例えば、熱可塑性樹脂等の各種の樹脂、難燃剤、熱安定剤、蛍光増白剤、着色剤、充填材、離型剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、ゴム(エラストマー)、軟化材、展着剤(流動パラフィン、エポキシ化大豆油等)、有機金属塩(例えば、芳香族硫黄化合物金属塩、パーフルオロアルカン酸金属塩など)などが挙げられる。
【0050】
熱可塑性樹脂は、特に限定されないが、ポリカーボネート樹脂およびセルロース繊維と親和性のあるものを用いることが好ましい。たとえば、スチレン−アクリロニトリル共重合体(SAN)、ポリメタクリルスチレン重合体(MS)、ポリエステル、ポリエステルエラストマー、ポリアミド、エチレンビニルアセテート重合体(EVA)などが挙げられる。これらの中でも特にスチレン−アクリロニトリル共重合体(SAN)が好ましい。熱可塑性樹脂は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0051】
着色剤としては、ポリカーボネート樹脂組成物に配合される公知の着色剤を使用することができる。着色剤としては、特に制限されず、染料、顔料(二酸化チタン、カーボンブラックなど)を使用することができる。
【0052】
充填材としては、ポリカーボネート樹脂組成物に配合される公知の充填材を使用することができる。充填材としては、特に制限されず、ガラス繊維、炭素繊維、シリカ、タルク、マイカなどが挙げられる。
【0053】
ゴム(エラストマー)としては、ポリカーボネート樹脂組成物に配合される公知の充填材を使用することができる。ゴム(エラストマー)としては、特に制限されず、イソブチレン/イソプレンゴム、スチレン/ブタジエン、アクリル系エラストマー、ポリエステルエラストマー、コアシェル型エラストマーなどが挙げられる。
【0054】
また、本発明の成形品は、前記繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなることを特徴とする。
【0055】
成形方法は特に限定されず、射出成形、押出成形、ブロー成形、圧縮成形、インフレーション成形などが挙げられる。
【実施例】
【0056】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。なお、特にことわりがない限り、「部」および「%」はそれぞれ重量基準である。
【0057】
実施例で使用した各種成分は以下の通りである。
・ポリカーボネート樹脂
PC−1:芳香族ポリカーボネート樹脂ペレット(住化ポリカーボネート株式会社製、SDポリカ200−13、嵩密度0.7g/ml、重量平均分子量25400)
PC−2:芳香族ポリカーボネート樹脂多孔質フレーク品(嵩密度0.2g/ml、重量平均分子量25400)
PC−3:芳香族ポリカーボネート樹脂ペレット粉砕処理品(嵩密度0.5g/ml、重量平均分子量25400)
・セルロース繊維
CNF水性分散液:化学修飾セルロース繊維水性分散液(第一工業製薬株式会社製、レオクリスタI−2SX、TEMPO酸化セルロースナノファイバー、固形分2%)
・酸化防止剤
AO−1:フェノール系酸化防止剤(BASFジャパン株式会社製、Irganox1076)
AO−2:環状亜リン酸エステル系酸化防止剤(住友化学株式会社製、SumilizerGP)
【0058】
(製造例1)予備混合物1の製造
CNF水性分散液とイオン交換水を50:50の重量比でホモジナイザーを用いて混合し、希釈液を得た。次に、ポリカーボネート樹脂粒子(PC−2)89.5重量部に対して、酸化防止剤(AO−2)1.0重量部、および、上記で調製した希釈液(固形分量が0.5重量部)を添加した。次に、スーパーミキサーで10分間攪拌した後、乾燥させて予備混合物1を製造した。予備混合物1中のポリカーボネート(PC)樹脂粒子、セルロース繊維(B)および酸化防止剤(C)の重量比は、98.35:0.55:1.10である。
【0059】
(製造例2)予備混合物2の製造
PC−2を49.5重量部使用した以外は製造例1と同様にして予備混合物2を製造した。予備混合物2中のPC樹脂粒子、セルロース繊維(B)および酸化防止剤(C)の重量比は、97.06:0.98:1.96である。
【0060】
(製造例3)予備混合物3の製造
ポリカーボネート樹脂粒子としてPC−3を使用した以外は製造例1と同様にして予備混合物3を製造した。予備混合物3中のPC樹脂粒子、セルロース繊維(B)および酸化防止剤(C)の重量比は、98.35:0.55:1.10である。
【0061】
(製造例4)予備混合物4の製造
酸化防止剤(C)を添加しなかった点以外は製造例1と同様にして予備混合物4を製造した。予備混合物4中のPC樹脂粒子、セルロース繊維(B)および酸化防止剤(C)の重量比は、99.44:0.56:0.00である。
【0062】
(製造例5)予備混合物5の製造
酸化防止剤としてAO−1を使用した以外は製造例1と同様にして予備混合物5を製造した。予備混合物5中のPC樹脂粒子、セルロース繊維(B)および酸化防止剤(C)の重量比は、98.35:0.55:1.10である。
【0063】
実施例1〜5
表1に記載の組成となるように、各成分をタンブラーに投入し、10分間乾式混合した。次に、バンバリ型ミキサー(Polylabo OS(Thermo社製))に供給し、バレル設定温度240℃、スクリュー回転数100rpmで3分間混練した後、取り出し空気中で冷却した。取り出した混練物を100℃、6時間乾燥し、250℃で7分間、1.5MPaで加熱プレスを行い、冷却してフィルム(厚み0.4mm)を作製した。
【0064】
<性能評価1:フィルム内の凝集物の個数>
実施例1〜5で得られたフィルムを目視および光学顕微鏡で観察して、直径が50μm以上の凝集物の数をカウントした。以下の基準により、凝集物の個数を評価した。結果を表1に示す。
〇:凝集物の数が5個未満であり、良好な外観
×:凝集物の数が5個以上であり、不良な外観
【0065】
<性能評価2:樹脂分子量低下量>
実施例1〜5で得られた溶融混練品中のポリカーボネート樹脂の重量平均分子量を測定した。ポリカーボネート樹脂の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)装置で測定して得た値を、単分散分子量ポリスチレンで換算して得た。より具体的には、日本ウォーターズ社製Alliance HPLC SystemをGPC装置として用いて、UV検出器を用いてクロマトグラムを測定した。GPCカラムとして、アジレント・テクノロジー社製のPLgel 5μm Mixed−Cを用いた。試料をジクロロメタンに溶解して、移動層にテトラヒドロフランを用いて1ml/minの流速で、40℃のカラム温度にて流した。測定値は既知の分子量を有する標準ポリカーボネート樹脂を用いて検量線換算し、Mwを得た。原料として用いたポリカーボネート樹脂の重量平均分子量と溶融混練品中のポリカーボネート樹脂の重量平均分子量の差異を算出し、以下の基準で評価した。結果を表1に示す。
〇:分子量低下が2000未満であり、極端な樹脂分解がみられない。
×:分子量低下が2000以上であり、極端な樹脂分解が見られた。
【0066】
【表1】