【0023】
本発明のポリフェニレンサルファイドモノフィラメントの製造方法としては、紡糸した後、延伸して、モノフィラメントを得ることとなるが、この際、直接紡糸延伸法、コンベンショナル法などの方法により、製造することができる。また、直接紡糸延伸法にて製造したマルチフィラメントからなる親糸を、後に分繊し、モノフィラメントを製造する方法でも構わない。
上記のポリエステルフェニレンスルフィド樹脂を溶融押出する紡糸工程を経たのち、非加熱のプレテンションロールと2以上の加熱ゴデッドロールにより延伸して捲き取る延伸工程を経て本発明のポリフェニレンスルフィドモノフィラメントを得ることができる。以下詳細に好適な製造方法の態様を説明する。
紡糸工程において、エクストリューダーにより溶融させたポリフェニレンスルフィドを計量し、ノズルから押し出した糸条にオイルを付与させた後、直接複数のゴデッドロールを用いた延伸工程では、十分に結晶化を行い、繊維構造を固定し、延伸糸を得る。延伸工程の中で、延伸糸の熱収縮率の低下を目的としたリラックス工程を導入してもよい。この場合、リラックス工程のリラックス率は、ヒケ発生を防止し易い観点から、0〜2%であることが好ましい。より好ましいリラックス率の範囲は、0〜1%である。リラックス率が0%未満の場合、延伸工程での各ローラー間の張力が高くなるため、非晶部の配向が高くなり、ヒケやボビンの捲き締まりが多発し易くなる。リラックス率が2%を超える場合は、非晶部分の配向が低下するため、5%モジュラス、10%モジュラスが上記の範囲で、破断強度及び破断伸度が本発明である高品質のモノフィラメントを得ることが難しくなるおそれがあり、糸が弛んで捲取ができないおそれがある。
なお、延伸工程では、たわみを無くす目的で、プレテンションロールとゴデッドロ―ル1での間で、延伸倍率1.01〜1.05を予備延伸を実施した後に、本延伸をゴデッドロール1以降で行うことが好ましい。本延伸では、ゴデッドロール1の温度を95〜120℃に設定し延伸を行うことが好ましい。より好ましくは100〜115℃である。その後、引き続き、ゴデッドロール2へ導き、ゴデッドロール2で熱セットして延伸する。ゴデッドロール2の熱セット温度は、120〜250℃が好ましく、より好ましくは、130〜200℃である。この後、さらに新たなゴデッドロール3、ゴデッドロール4に導き、延伸してもよい。また上述のようにリラックス工程を設けてリラックス処理してもよい。尚、ゴデッドロール3以降のゴデッドロールでさらなる熱セットを行う場合は、120〜250℃が好ましく、より好ましくは、130〜200℃である。ゴデッドロール3以降のゴデッドロールは、熱セットせず、非加熱ロールとしてもよい。各ロールを経由した後、糸条をワインダーにより捲き取る。ワインダーに捲き取る際の捲取張力は、0.1〜0.5cN/dtexが好ましい。さらに好ましくは、0.2〜0.3cN/dtexである。
なお、ゴデットロール1の温度が95℃未満の場合、糸に節状のこぶの発生や、ゴデッドロール上の糸揺れによる断糸の発生が多発する。また、120℃を超える場合、ゴデッドロール上での糸揺れが多発し、断糸し、正常にモノフィラメントを採取することが難しい。ゴデッドロール2以降の熱セットするゴデッドロール温度は、120℃未満の場合、本発明のモノフィラメントを得ることが難しくなる。また250℃を超える場合は、熱による溶断気味となり、モノフィラメントを捲き取ることが難しい。
ワインダーへの捲取張力が0.1cN/dtex未満では、ゴデッドロールとワインダー間の張力が低すぎるため、ボビンの捲き崩れや、糸切れが多発し、正常にモノフィラメントを得ることが難しい。0.5cN/dtexを超える場合、ボビンの捲き締まりが発生し、ワインダーからボビンを取り外すことが難しい。
【実施例】
【0025】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。なお、本発明は以下に述べる実施例に限定されるものではない。実施例におけるフィラメントの物性、評価は、以下の通りとした。
A.MFR
JIS K−7210(1999年)に準じて、温度315.5℃、荷重5000gの条件でMFR値を測定した。
B. 繊度
JIS−L−1013に準じ、試料を枠周1.125mの検尺機を用い、120回/minの速度で捲き取り、その質量を量り、繊度を求めた。これを5回測定し、平均値を出した。
C.破断強度、破断伸度、5%モジュラス、10%モジュラス
JIS−L−1013に準じ、島津製作所製のAGS−1KNGオートグラフ引張試験機を用い、試料糸長20cm、定速引張速度20cm/minの条件で測定する。荷重−伸び曲線での荷重の最高値を繊度で除した値を破断強度(cN/dtex)とし、その時の伸び率を破断伸度(%)とし、伸び率が5%の時の強度を5%モジュラス(cN/dtex)、伸び率が10%の時の強度を10%モジュラス(cN/dtex)とする。
D.紡糸操業性
紡糸操業性は、工程の通過性が良好であれば○、工程通過性が若干悪いものを△、製糸不可であれば×とした。
E.製織性及び外観評価
得られたポリフェニレンスルフィドモノフィラメントを用いて、スルーザー型織機により、回転数300rpmで、420メッシュ/インチ(6〜11dtex未満)、225メッシュ/インチ(11〜21dtex未満)、150メッシュ/インチ(21〜35dtex)のメッシュ織物を製織した。その際、筬のスカムの発生、タテ糸、ヨコ糸切れの状態などの製織性と得られた織物の外観(節、ヒケ、筋の発生など)評価を行った。
評価は製織性及び外観が共に良ければ○、どちらかが悪ければ△、ともにだめなら×とした。
F.メッシュの性能評価
得られたポリフェニレンスルフィドのメッシュ織物を用いて、160℃、20分間熱セットを行い、加工したメッシュ織物(熱セット前後)の伸長回復サイクルを実施した後の外観を評価する。伸長回復サイクルは、JIS−L−1013に準じ、島津製作所製のAGS−1KNGオートグラフ引張試験機を用い、試料長20cm、幅5cm、定速引張速度20cm/minの条件で、10%伸長回復サイクルを5回実施する。その時のメッシュ織物の外観を目視にて観察した。目ずれ、歪みや破損が無いものを「〇」、歪み、軽微な破損が有るものを「×」、歪みや破損の有無の判断ができなかったものを「△」とした。
G. 総合評価
紡糸操業性、製織性及び外観評価、メッシュ強度耐久性の3つの項目について、全て〇の判定のものを「〇」、△が1つ以上あり×がないものを「△」、1項目でも×があるものは、「×」とした。
【0026】
〔実施例1〕
MFRが160g/10minのp−ポリフェニレンスルフィド樹脂(水分率:20ppm)を準備し、紡糸温度328℃で溶融した。溶融したポリフェニレンスルフィドを、孔を2個有する紡糸用口金(L/D=0.65mm/0.65mm)を用い、延伸後の繊度が33dtexとなる吐出量で吐出した。吐出したポリフェニレンスルフィドの糸条は、ユニフロー型冷却装置にて冷却し、エマルション油剤を付与(OPU=0.3質量%)し、次いで、糸条を速度1040m/minで非加熱のプレテンションロールに捲き取り、引き続きゴデッドロール1(速度1058m/min、115℃)の間で、テンションを加えたのち、ゴデッドロール2(速度3520m/min、135℃)で本延伸と熱セットを施し、ゴデッドロール3(速度3500m/min、非加熱)でリラックス処理して緩和させ、捲取張力0.2cN/dtexでワインダー(速度3495m/min)に捲き取り、端面をテーパー状にしたパーン形状のボビンに33dtexのポリフェニレンスルフィドモノフィラメントを捲き取った。
【0027】
〔実施例2〕
プリテンションロールの速度を920m/min、ゴデッドロール1の速度を960m/minとし、ゴデッドロール3を用いない以外は、33dtexのポリフェニレンスルフィドモノフィラメントを得た。
【0028】
〔比較例1、2〕
ゴデッドロール2の温度をそれぞれ変更した以外は、実施例2と同様に、比較例1は33dtexのポリフェニレンスルフィドモノフィラメントを得た。比較例2はこの条件で実施した。
【0029】
〔比較例3、4〕
ワインダーの速度、捲取張力を変更した以外は、実施例2と同様に、比較例4は33dtexのポリフェニレンスルフィドモノフィラメントを得た。比較例3は、この条件で実施した。
【0030】
〔比較例5〕
MFRが300g/10minのp−ポリフェニレンスルフィド樹脂を使用し、プレテンションロールとゴデッドロール1の速度を変更した以外は、実施例1と同様に、33dtexのポリフェニレンスルフィドモノフィラメントを得た。
【0031】
〔比較例6〕
MFRが65g/10minのp−ポリフェニレンスルフィド樹脂を使用し、プレテンションロールとゴデッドロール1の速度を変更した以外は、実施例2と同様に、33dtexのポリフェニレンスルフィドモノフィラメントを得た。
【0032】
〔実施例3〕
MFRが160g/10minのp−ポリフェニレンスルフィド樹脂を準備し、紡糸温度328℃で溶融した。溶融したポリフェニレンスルフィドを、孔を2個有する紡糸用口金(L/D=0.35mm/0.31mm)を用い、延伸後の繊度が10dtexとなる吐出量で吐出した。吐出したポリフェニレンスルフィドの糸条は、ユニフロー型冷却装置にて冷却し、エマルション油剤を付与し、表1に記載の条件とする以外は実施例1と同様に、プリテンションロール、ゴデッドロール1、2、3を経由して延伸し、ワインダーへ捲き取って10dtexのポリフェニレンスルフィドモノフィラメントを得た。
【0033】
〔実施例4〕
MFRが160g/10minのp−ポリフェニレンスルフィド樹脂を準備し、紡糸温度328℃で溶融した。溶融したポリフェニレンスルフィドを、孔を2個有する紡糸用口金(L/D=0.4mm/0.37mm)を用い、延伸後の繊度が13dtexとなる吐出量で吐出した。吐出したポリフェニレンスルフィドの糸条は、ユニフロー型冷却装置にて冷却し、エマルション油剤を付与し、表1に記載の条件とする以外は実施例1と同様に、プリテンションロール、ゴデッドロール1、2、3を経由して延伸し、ワインダーへ捲き取って14dtexのポリフェニレンスルフィドモノフィラメントを得た。
【0034】
〔実施例5〕
ゴデッドロール3の熱セット温度を190℃にした以外は、実施例1と同様に、33dtexのポリフェニレンスルフィドモノフィラメントを得た。
【0035】
〔比較例7、8〕
ゴデッドロール1の温度を表1の通り変更した以外は、実施例1と同様に、ポリフェニレンスルフィドモノフィラメントの製造を実施した。
【0036】
〔比較例9〕
実施例1のプレテンションロール及びゴデッドロール1の速度を下げることにより、伸度を22%にし、ゴデッドロール2の温度を150℃にした以外、実施例1と同様に、33dtexのポリフェニレンスルフィドモノフィラメントを得た。
【0037】
〔比較例10〕
実施例1のプレテンションロール及びゴデッドロール1の速度を上げることにより、伸度を50%にし、ドデッドロール2の温度を150℃にした以外、実施例1と同様に、33dtexのポリフェニレンスルフィドモノフィラメントを得た。
【0038】
〔比較例11〕
ゴデッドロール2の温度を190℃、捲取張力を0.6cN/dtexに変更した以外、実施例2と同様に、33dtexのポリフェニレンスルフィドモノフィラメントを得た。
【0039】
〔比較例12〕
ゴデッドロール2の温度を110℃、ボビンのパッケージをドラム型に変更した以外、実施例2と同様に、33dtexのポリフェニレンスルフィドモノフィラメントを得た。
【0040】
実施例1〜5、比較例1〜12のポリフェニレンスルフィドモノフィラメントの製造条件、糸物性、各評価(紡糸操業性、製織性及び外観評価、メッシュの性能評価及び総合評価)の結果について、表1に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
実施例1〜5から得られたポリフェニレンスルフィドモノフィラメントは、高強度で節の少ない品位の良いモノフィラメントであった。また実施例1〜5から得られたモノフィラメントを用いたメッシュ織物は、スカムの発生がなく、タテ及びヨコの糸切れの発生がなく、外観でも、ヒケやその他の要因による筋、太糸、光沢異常など、発生の無い品位の良いものであった。さらに、強度が十分あり、寸法安定性が良好でフィルターとして用いた際も耐久性の高い品位の良いものとなった。なかでも、実施例1、5のモノフィラメントから得られたメッシュ織物は、繊維物性、ヒケ発生、筋などがなく、特に優れた性能を有していた。
熱セット温度が低い比較例1から得られたポリフェニレンスルフィドモノフィラメントから得られたメッシュ織物の寸法安定性が低く、目ずれが見られ、強度の耐久性も低く、品位が悪いものとなった。比較例1から得られたポリフェニレンスルフィドモノフィラメントの強度が低く、熱水収縮率が高いためと思われる。
熱セット温度が高い比較例2から得られたポリフェニレンスルフィドモノフィラメントは、ゴデッドロール2上の糸の溶断や糸切れ、揺れが発生し、モノフィラメントをボビンに採取することができなかった。
ワインダーへの捲取張力を低くした比較例3から得られたポリフェニレンスルフィドモノフィラメントは、ゴデッドロール2とワインダー間で糸が緩みゴデッドロール2上への捲き付きやボビンでの捲き崩れが頻発し、モノフィラメントを正常にボビンへ採取することができなかった。
ワインダーへの捲取張力を高くした比較例4から得られたポリフェニレンスルフィドモノフィラメントは、捲取張力が高いため、捲量が1kgを超えると捲き締まりが発生し、ワインダーから取り外しができなくなるため、量産には不向きであった。また、薄捲きで得たメッシュ織物の製織性では、5%モジュラス及び10%モジュラスが高いため、ボビン内層部にてヒケが発生し、メッシュ織物に筋が発生し、品位が悪いものとなった。また製織時の熱セットでメッシュ織物が伸びてしまい、目ずれなどが発生し、品位の悪いものであった。
MFRが高いポリフェニレンスルフィド樹脂を用いた比較例5から得られたポリフェニレンスルフィドモノフィラメントは、非常に粘性が低く、伸度を30%近くにしても強度が3.2cN/dtex止まりとなった。これにより、メッシュ織物の強度の耐久性が落ち、品位が悪いものとなった。
MFRが低いポリフェニレンスルフィド樹脂を用い比較例6から得られたポリフェニレンスルフィドモノフィラメントは、非常に粘性が高く、未溶融物やゲルが発生しやすくなり、ゴゲッドロール上での糸揺れが多発し、ほとんどモノフィラメントを採取することができなかった。モノフィラメントには、節もあるため、製織時のタテ糸切れが頻発した。得られたメッシュ織物には、ヒケによる筋や節が混在し、品位の悪いものであり、かなり低品位ものとなった。
ゴデッドロール1の予備加熱温度を低くした比較例7から得られたポリフェニレンスルフィドモノフィラメントは、ポリフェニレンスルフィドのガラス転移温度より10℃程度低いため、ゴデッドロール1と2間の延伸で未延伸部分が混在するようになる、ゴデッドロール2以降で糸道の糸揺れが非常に大きく発生し、ワインダーに捲き付けることが殆どできない状態のため、モノフィラメントをボビンに捲けなかった。
ゴデッドロール1の予備加熱温度を高くした比較例8から得られたポリフェニレンスルフィドモノフィラメントは、ポリフェニレンスルフィドのガラス転移温度より40℃程度高いため、ゴデッドロール1上の糸条が緩むことにより、大きな糸揺れが発生し、糸切れが多発したため、モノフィラメントを得ることができなかった。
モノフィラメントの伸度を22%まで低くした比較例9から得られたポリフェニレンスルフィドモノフィラメントは、伸度が低いため、紡糸での糸切れが発生しやすかった。また、リラックスをかけても、5%モジュラス及び10%モジュラスが高くなるため、ボビンの解舒時にヒケが発生した。このモノフィラメントを使用したメッシュ織物には、ヒケによる筋が入り、品位の悪いものとなった。性能面でも、製織時の発生した要因を受け継ぐため、性能も劣り、外観も悪いものとなった。
モノフィラメントの伸度を50%まで高くした比較例10から得られたポリフェニレンスルフィドモノフィラメントは、良好な紡糸操業性であったが、強度と5%モジュラス及び10%モジュラスがかなり低いことによって、得られたメッシュ織物の寸法安定性が非常に悪かった。メッシュ織物は伸びなどによる目ずれも発生し、強度の耐久性が非常に悪いものとなった。
熱セット温度を190℃にし、捲取張力を0.6cN/dtexとした比較例11から得られたポリフェニレンスルフィドモノフィラメントは、捲取張力が高いため、捲量が1kgを超えると捲き締まりが発生し、ワインダーから取り外しができなくなるため、量産には不向きであった。また、薄捲きでのメッシュ織物の製織性評価では、解舒時、ボビン内層部にてヒケが発生し、生地に筋が発生し、品位が悪いものとなった。10%モジュラスが高いためと思われる。
熱セット温度が110℃と低く、ボビンパッケージがドラム型にした比較例12から得られたポリフェニレンスルフィドモノフィラメントは、熱セット温度が低く、破断強度が低く、熱水収縮率が高いものとなった。また製織時、ドラム型のボビン形状をしているため、ボビン端面から糸が落ちる(綾落ち)が発生した。このため、製織時でのボビン解舒不良により糸切れなどが発生したり、メッシュ織物の寸法安定性が下がることや、強度の耐久性が落ち、品位が悪いものとなった。
【0043】
このように、実施例1〜5から得られたポリフェニレンスルフィドモノフィラメントは、製織時に、ヒケによる筋、筬削れ、スカム、節糸、糸切れの発生が殆どなく、強度を合わせ持った高品位なものであった。得られた加工前及び後のメッシュ織物は、目ずれやヒケによる筋などの外観異常などが殆ど無い、寸法安定性に優れ、強度も併せ持っているので、高性能なフィルター用途に使用可能な高品位のものであった。