【解決手段】大腸がん患者の血液中に可溶型OX40タンパク質が存在すること、血液中に局在する可溶型OX40タンパク質を高精度な大腸がん診断のためのマーカーとして使用できること、大腸がん患者の血液中の可溶型OX40タンパク質を定量することによって、大腸がんの予後を予測できることを見出し、さらに血液中に局在する可溶型OX40タンパク質を捕捉することによって、大腸がんの治療効果を導くことができることを見出した。
前記診断が、体液試料における可溶型OX40タンパク質の量が健常者におけるレベルより高い場合に大腸がんに罹患している可能性が高いという基準により、大腸がんを診断するためのものである、請求項1〜5の何れかに記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
  本発明は、被検対象由来の体液試料における可溶型OX40タンパク質の量を測定する工程を含む、大腸がん診断のためのデータ取得方法を提供する。
 
【0015】
  被検対象とは、大腸がんを起こす可能性のある動物であれば何でもよいが、好ましくは哺乳類動物であり、さらに好ましくはヒトである。
 
【0016】
  可溶型OX40タンパク質は、被検対象の体液中に存在するOX40タンパク質のことである。可溶型OX40タンパク質は、好ましくはT細胞に発現しているOX40タンパク質の細胞外領域部分のアミノ酸配列のみを含む。具体的には、可溶型OX40タンパク質は、ヒトが被検対象の場合、配列番号1のアミノ酸番号1〜214に示すアミノ酸配列を含むタンパク質が例示される。さらに可溶型OX40タンパク質には、該タンパク質と同様の大腸がん関連性を有するタンパク質断片、類似体、及び変異体も包含される。
  また、この配列番号1のアミノ酸番号1〜214で表されるアミノ酸配列において、1又は数個(例えば1〜20個)のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質でもよい。また、被検対象として異なる動物を使用する場合は、該動物由来のホモログタンパク質が測定対象となる。
 
【0017】
  体液試料は、血液、リンパ液、組織液、体腔液、脳脊髄液等が含まれる。可溶型OX40タンパク質を測定するためには、血液試料であることが好ましく、血液試料中の、血清又は血漿を用いることがより好ましい。すなわち、血清又は血漿中に存在する可溶型OX40タンパク質が大腸がんの診断等に使用し得る好適な指標となる。
 
【0018】
  大腸がんは、大腸における疾患部位、病期、組織型分類等において、特に限定されることはなく、何れの疾患部位、病期、組織型分類等をも包含するものである。大腸がんは、進行性大腸がんであることが好ましい。
  本発明において、進行性大腸がんとは、粘膜下層以深に浸潤した大腸がんのことをいう。
 
【0019】
  可溶型OX40タンパク質の測定法は、可溶型OX40タンパク質を測定できる方法である限り特に限定されることはなく、公知のタンパク質測定方法が使用でき、例えば可溶型OX40タンパク質に対する抗体を使用した免疫測定法が好適に使用できる。
  免疫測定法は、酵素免疫定量法に従い定量検出する方法や、蛍光免疫測定法、化学発光免疫測定法等で測定する方法等が好ましい。酵素免疫定量法は、標識イムノアッセイ法のうち、酵素を標識物質として用いる検出方法である。また、イムノソルベントを用いるELISA法を選択することが、特に好ましい。
 
【0020】
  ELISA法とは、直接法、間接法、及びサンドイッチ法が例示されるが、何れの方法も使用することができる。
 
【0021】
  ELISA法における直接法とは、当該分野に周知の手法を指す。すなわち、固相に固定化された体液試料中の可溶型OX40タンパク質に、標識化された抗体を結合させて、標識物質を検出する手法である。
 
【0022】
  ELISA法における間接法とは、当該分野に周知の手法を指す。すなわち、固相に固定化された体液試料中の可溶型OX40タンパク質に、一次抗体を結合させて免疫複合体を固相表面上に形成させた後、さらに、一次抗体を認識する標識化二次抗体を用いて標識物質を検出する手法である。
 
【0023】
  ELISA法におけるサンドイッチ法とは、当該分野に周知の手法を指す。すなわち、固相に固定化された固定化抗体(一次抗体)に、被検対象由来である体液試料中の可溶型OX40タンパク質を捕捉させ、さらに捕捉された可溶型OX40タンパク質に標識化された二次抗体を結合させて、前記二種類の抗体が結合した免疫複合体を固相表面上に形成
させた後、標識物質を検出する手法である。なお、標識化されていない二次抗体を用い、さらに二次抗体を認識する標識化三次抗体を用いて、検出感度を上げてもよい。
  サンドイッチ法において、免疫複合体を形成させる順序は特に限定されない。固定化抗体に対して、可溶型OX40タンパク質を含む体液試料、二次抗体の順で添加して結合させてもよいし、まず可溶型OX40タンパク質を含む体液試料と二次抗体とを混合して複合体を形成させたものを固定化抗体に対して添加して結合させてもよい。
 
【0024】
  ELISA法に用いる抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体のいずれでもよいが、安定した品質の抗体を安定して供給するためには、モノクローナル抗体であることが好ましい。F(ab’)
2などのモノクローナル抗体の断片でもよい。
  また、各抗体は一般的に用いられているマウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、トリ由来のもの等が使用できるがこれらに限定されず、可溶型OX40タンパク質に特異的に結合する抗体であれば何れも使用できる。
 
【0025】
  血漿等の試料中の可溶型OX40タンパク質を測定するためには、可溶型OX40タンパク質を認識できる抗体であれば、OX40タンパク質のいかなるドメインを認識する抗体を使用してもよい。抗OX40タンパク質抗体は、市販されているものを使用することもできるし、当業者に周知慣用のモノクローナル抗体作製方法により入手したものを使用してもよい。可溶型OX40タンパク質を認識できる抗体としては、配列番号1のアミノ酸番号1〜214で表されるアミノ酸配列またはそのホモログ配列のいずれかの部分にエピトープを有する抗体が例示される。
 
【0026】
  標識化二次抗体は、一次抗体を認識するものであれば特に限定されず使用できる。例えば、一次抗体がラビット抗体である場合は標識化抗ラビットIgG抗体を、一次抗体がマウス抗体である場合は標識化抗マウスIgG抗体を、二次抗体として用いることができる。
 
【0027】
  標識物質は、酵素、放射線同位元素、蛍光物質、発光物質、金コロイド等が挙げられる。
  これらのうち、感度及び操作の簡便さの観点から酵素が好ましく、西洋わさび過酸化酵素(HRP)、アルカリフォスファターゼ(AP)、グルコースオキシダーゼ(GOD)等がより好ましい。標識物質としてHRPを用いる場合はTMB(3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン)等を、APを用いる場合はAMPPD(3−(2’−スピロアダマンタン)−4−メトキシ−4−(3’’−ホスホリルオキシ)フェニル−1,2−ジオキセタン・2ナトリウム塩)、9−(4−クロロフェニルチオホスホリルオキシメチリデン)−10−メチルアクリダン二ナトリウム塩等を基質として使用することができる。また、標識物質としては、他にFITC(fluorescein isothiocy
anate)、ローダミン等の蛍光色素等も使用することができる。
 
【0028】
  測定対象物質の検出・定量方法は、標識の方法によって異なり、当業者に周知慣用の方法で行うことができ、特に限定されない。例えば、標識物質としてHRP、AP、GOD等を用いた場合は、発色基質や発光基質を添加することで、吸光度や発光強度の変化を測定して測定対象物質を定量することができる。また、標識物質として蛍光物質を用いた場合は、その蛍光強度を測定することで測定対象物質を定量することができる。また、標識物質として放射性同位元素を用いた場合は、放射能を測定することで測定対象物質を定量することができる。また、標識物質として金コロイドを用いた場合は、吸光度を測定することで測定対象物質を定量することができる。
  定量の際は、例えば、予め既知の濃度の試料で検量線(標準曲線)を作成しておき、測定値を検量線に照合して試料中の可溶型OX40タンパク質濃度を算出することができる。
 
【0029】
  固定化抗体を固定化する固相は、通常ELISA法に用いられるものであれば特に限定されず、その形態はマルチウェルプレート、シャーレ、微粒子等が挙げられ、またその素材はポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、磁性素材等が挙げられる。
 
【0030】
  固定化抗体の固相への固定化量は、抗原−抗体反応及び標識物質の検出を妨げない限り、また体液試料中の可溶型OX40タンパク質量に対して過度に少なくない限り、特に限定されない。
  固定化抗体の固相への固定化後は非特異吸着を防ぐため、スキムミルク、アルブミン、カゼイン等で適宜ブロッキングしてもよい。
 
【0031】
  二次抗体溶液の濃度は、抗原−抗体反応を妨げない限り、また体液試料中の可溶型OX40タンパク質に対して過度に少なくない限り、特に限定されない。
  本発明において、抗原−抗体反応を行う時間、本発明の方法を行う温度、試料や試薬の希釈液及び洗浄液の組成やpH等は特に限定されず、一般的に行われるELISA法に適用する条件でよい。
 
【0032】
  本発明の方法は、特に限定されることはないが、例えば、体液試料における可溶型OX40タンパク質の量が健常者におけるレベルより高い場合に大腸がんに罹患している可能性が高いという基準により、大腸がんを診断するために用いる方法である。
 
【0033】
  健常者とは、一般には、特定の慢性疾患を有していない者と定義される。本発明においては、該定義通りでの意味で用いられてもよいが、大腸がんを有していないが他の疾患は有している者の意味で用いられてもよい。
 
【0034】
  可溶型OX40タンパク質の量に関し、「レベル」とは、上記測定法による実際の測定値すなわち実測値でもよく、陰性対照の測定値等で補正した補正値でもよく、又は相対指数で補正したインデックス値等でもよい。これらは単なる例示に過ぎず、これらの値に限定されることはなく、他の値を採用することもできる。
 
【0035】
  本発明の方法は、特に限定されることはないが、予後の診断のために用いる方法であってもよい。
 
【0036】
  予後の診断は、特に限定されることはないが、例えば、体液試料における可溶型OX40タンパク質の量が基準値よりも高い場合に大腸がんの予後が悪いと予測するものである。予後としては、生存率、がんのステージ進行などが挙げられる。
  基準値は、特に限定されることはないが、測定対象とする体液試料ごとに統計学的手法により事前に求めることが好ましい。具体的には、体液試料として血漿を用いる場合には、例えば、150pg/mLである。
 
【0037】
  大腸がんの診断においては、他の大腸がんマーカーと組み合わせてもよい。
 
【0038】
  可溶型OX40タンパク質の測定結果をもとに大腸がんを診断することができ、その結果をもとに、治療方針を策定することができる。
 
【0039】
  本発明の他の態様は、血液中の可溶型OX40タンパク質の量を測定する試薬を含む、大腸がん診断用キットである。
  血液中の可溶型OX40タンパク質の量を測定する試薬としては、例えば、抗OX40抗体のようなOX40タンパク質に特異的に結合する物質が挙げられる。
 
【0040】
  キットは、反応用容器、反応用緩衝液、洗浄液、標準物質などが含まれてもよい。また、標識化二次抗体、標識が酵素である場合その基質、BSA等のブロッキング剤等の試薬を含むこともでき、他の大腸がんマーカーを検出するための試薬を含んでもよい。さらに、手順や診断基準を記載した添付文書を含んでもよい。
 
【0041】
  本発明の他の態様は、血液中の可溶型OX40タンパク質のがんマーカーとしての使用である。ここでがんは大腸がんに限定されず、血液中の可溶型OX40タンパク質が増加するがん全般に適用できる。
 
【0042】
  本発明の他の態様は、血液中の可溶型OX40タンパク質の捕捉剤を含む、大腸がん治療薬である。
 
【0043】
  捕捉剤は、可溶型OX40タンパク質を捕捉できるものであれば特に限定されないが、例えば、抗OX40タンパク質抗体又はOX40タンパク質のリガンドが挙げられる。
 
【0044】
  抗OX40抗体は、可溶型OX40タンパク質と結合できるものであれば特に限定されることはないが、可溶型OX40タンパク質と結合して、可溶型OX40タンパク質の作用を中和するものであることが好ましい。
  ここで、可溶型OX40タンパク質の作用とは、例えば、大腸がん細胞に対する作用であり、作用の中和とは、可溶型OX40タンパク質が抗原提示細胞表面のOX40タンパク質リガンドに作用することにより、T細胞上に発現しているOX40タンパク質と抗原提示細胞上に発現するOX40タンパク質リガンドとの相互作用を阻害し、T細胞の正常な抗がん免疫作用を抑制するものである。
  可溶型OX40タンパク質を捕捉することで、T細胞の正常な抗がん免疫作用を回復させることができ、これにより、大腸がんなどのがん治療効果が期待できる。
 
【0045】
  本発明において使用される抗OX40抗体は、体液中、特に血液中に存在する可溶型OX40を認識する抗体である限り、そのエピトープは特に制限されないが、好ましくはT細胞に発現しているOX40タンパク質の細胞外領域部分のアミノ酸配列を認識する抗体である。具体的には、配列番号1のアミノ酸番号1〜214に示すアミノ酸配列を認識する抗体が挙げられる。また配列番号1のアミノ酸番号1〜214に示すアミノ酸配列の一部のみを認識する抗体であってもよい。または、配列番号1のアミノ酸番号1〜214に示されるアミノ酸配列と、95%以上、好ましくは98%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を認識する抗体でもよい。
 
【0046】
  抗OX40抗体は、ポリクローナル抗体とモノクローナル抗体の何れでもよいが、治療効果の安定性の観点からモノクローナル抗体であることが好ましい。
  さらにヒトの治療に用いるためには、抗原性の低くする観点から、抗OX40抗体は、キメラ抗体、ヒト化抗体又は完全ヒト抗体であることが好ましい。
  抗OX40抗体の完全ヒト抗体は、ヒト抗体を産生することのできる遺伝子改変マウス等を用いて、OX40を抗原として免疫を行い、その遺伝子改変マウスから得られた抗OX40抗体産生細胞を回収し、骨髄腫細胞と融合させ、抗OX40抗体を産生するハイブリドーマ細胞を選択することによって、そのハイブリドーマ細胞の培養上清中から得ることができる。
  また、抗OX40抗体の完全ヒト抗体は、当業者に公知の方法であるファージディスプレイ法を用いることによっても作製することができる。
 
【0047】
  抗原結合フラグメントとしては、抗原タンパク質であるOX40と結合することが出来る限り特に限定されることはないが、例えば、Fab、Fab’、F(ab’)
2、scFab、scFv、ジアボディ、トリアボディ又はミニボディが挙げられる。これらの抗
原結合フラグメントはいずれも、当業者に公知の遺伝子改変技術を利用することによって、産生することができる。
 
【0048】
  抗体は、市販の抗体を使用してもよいが、当業者に公知の方法で作製した抗体を使用することもできる。
  抗体を作成する方法は、例えば、モノクローナル抗体の場合、OX40を抗原としてマウス等の動物に免疫を行い、OX40抗原タンパク質に対する抗体を産生する細胞を回収し、回収した細胞を同種又は異種の骨髄腫細胞と融合させ、抗OX40モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞を選択することによって、そのハイブリドーマ細胞の培養上清中から得ることが出来る。
  さらに、上記のハイブリドーマ細胞をさらに改変させることによって、キメラ抗体又はヒト化抗体を得ることが出来る。具体的には、例えば、上記のハイブリドーマ細胞から抽出した遺伝子において、当業者に公知の方法である遺伝子組換え技術によって、この遺伝子中のFc領域をコードする部分を、ヒトのFc領域をコードする遺伝子で置き換える等の操作をすることによって、目的の抗体を得ることができる。
 
【0049】
  OX40リガンドとしては、OX40に結合してOX40からのシグナルを細胞内に伝達することのできる分子を意味し、例えば、非特許文献2や3に開示されている。OX40リガンドはOX40を捕捉できるものであれば、部分断片を用いてもよい。
 
【0050】
  可溶型OX40タンパク質の吸着剤は、血液中の可溶型OX40タンパク質を吸着させることができる限り特に限定されることはなく、生体内又は生体外のいずれで使用できるものであってもよい。例えば、生体外で可溶型OX40タンパク質を吸着させるものとしては、血液を体外循環させることにより可溶型OX40タンパク質を吸着除去する際に使用される可溶型OX40タンパク質の吸着剤でもよい。体外循環において、吸着剤は、例えばフィルター膜又は吸着ビーズなどを使用することができる。
  例えば、上記のような抗OX40抗体やOX40リガンドを担体に固定化し、フィルターやビーズなどに付着させて用いることができる。
 
【0051】
  本発明の他の態様は、生体内に投与できる成分を有効成分として含む、大腸がん治療薬である。
 
【0052】
  本発明の大腸がん治療薬は、そのまま対象に投与することもできるが、他の有効成分や薬理学的に許容される担体と混合して対象に投与することもできる。
 
【0053】
  大腸がん治療薬中の可溶型OX40タンパク質の捕捉剤の含有量は、T細胞による正常な抗がん免疫応答を回復することができる限り、特に限定されることはない。例えば、1μg/mL〜1mg/mLとすることができる。
 
【0054】
  本発明の大腸がん治療薬は、任意の剤形で製剤化されていてよい。例えば、液剤、懸濁剤、注射剤が挙げられるが、注射剤であることが好ましい。
 
【0055】
  投与態様は、特に限定されないが、注射等により患部又はその周辺に局所投与すること又は静脈注射すること等が好ましい。
 
【0056】
  他の有効成分としては、例えば、サイトカイン等の免疫賦活物質、化学療法剤等が挙げられる。これらの他の有効成分は、適宜、適量で用いる事ができる。
 
【0057】
  薬理学的に許容される担体としては、例えば、溶剤、蒸留水、生理食塩水、希釈剤、界面活性剤、安定化剤、溶解補助剤、懸濁化剤、乳化剤、緩衝剤、保存剤等が挙げられる。
さらに、必要に応じて、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、吸着剤、湿潤剤等の添加物を用いる事ができる。これらの担体は、適宜、適量で用いる事ができる。
 
【0058】
  投与対象は哺乳動物であり、好ましくはヒトである。
  大腸がん治療薬の投与量は、有効成分である可溶型OX40タンパク質の捕捉剤が、T細胞による正常な抗がん免疫応答を回復させ、大腸がん治療効果を発揮する量であればよい。投与量は、投与対象の年齢、性別、体重、症状、治療効果、治療部位の面積、投与方法等に応じて適宜調節することが出来るが、例えば、約60kgの体重を有する平均的なヒトを対象とした場合、1日当たり0.01mg〜5000mg程度が好ましく、0.1mg〜500mg程度がより好ましい。1日当たりの総投与量は、単一投与量であっても分割投与量であってもよい。
 
【0059】
  治療効果に関しては、生体内での解析の場合は、大腸がん治療薬による処置を行った結果、大腸がん治療薬による処置を行う前と比較して又は大腸がん治療薬による処置を行わなかった対照と比較して、大腸がん細胞の増殖が抑制されたこと、大腸がん細胞が減少したこと、大腸がんの大きさが小さくなったこと等が確認できた場合に、治療効果があったと判断することができる。この時、解析方法は特に限定されることはなく、当業者に公知の方法で行うことができる。
 
【0060】
  また、細胞生物学的解析の場合は、治療薬による処置後の検体と治療薬による処置前の検体とを比較することで、生体内での治療薬の治療効果を予測することができる。細胞生物学的解析としては、特に限定されることはないが、例えば細胞増殖アッセイ、細胞塊(スフェロイド)形成アッセイ、ウェスタンブロット法等が挙げられるが、当業者に公知の方法で行うことができる。
 
【実施例】
【0061】
  実施例は、開示する目的のために記載されており、本発明の範囲を制限する意図はない。
【0062】
<材料及び方法>
患者
  血液試料及び臨床情報を、東京慈恵会医科大学附属病院(日本、東京)において進行性CRC又は術後再発性CRCと組織学的もしくは細胞学的に診断された22名の患者から遡及的に採取した。生存期間は、血液試料採取から死亡又は最後の追跡観察までの期間として定義した。試験実施計画書は東京慈恵会医科大学の倫理委員会により認可され(30−397  9418)、ヘルシンキ宣言に従って実施された。
【0063】
試料採取、手順及び貯蔵
  クエン酸ナトリウム(BD  Vacutainer(登録商標)  CPT(商標);BDバイオサイエンス社)を含む細胞調製チューブに血液を採取し、室温にて20分間620gで遠心分離した。血漿試料を−80℃において1mlアリコートで貯蔵した。末梢単核球(PBMC)を採取し、セルリザーバーワン(ナカライテスク社)を用いて冷凍貯蔵した。回収した血漿試料は適宜当業者に公知の方法により血清化した。
【0064】
sOX40の定量
  製造元の指示書に従ってsOX40(Immuno−Biological  Laboratories,Ltd.)のためのELISAキットを用いて血中sOX40濃度を測定した。定量範囲は15.6〜1,000pg/mlであった。健常対象のsOX40の血中値は78.7±28.5pg/mlであった。各試料は二重に分析した。ジャーカット細胞の培養上清中のsOX40量を同じELISAアッセイキットを用いて決定した
。
【0065】
細胞培養
  ジャーカット細胞(ヒトT細胞株)をアメリカ培養細胞系統保存機関(ATCC)から入手し、10%ウシ胎仔血清、100単位/mlのペニシリン及び100μg/mlのストレプトマイシンを添加したRPMI−1640培地で培養した。ジャーカット細胞の活性化のためにホルボール12−ミリスタート13−アセタート(PMA;シグマアルドリッチ;Merck  KGaA)を使用した。
【0066】
フローサイトメトリー
  フローサイトメトリーにより、細胞表面のOX40発現を調べた。PMA未処置又はPMA処置したジャーカット細胞の懸濁液を、暗所において4℃、30分間フィコエリトリン(PE)結合抗ヒトOX40(クローンBer−A  CT35;BioLegend,Inc.)及び適切なアイソタイプコントロール(BioLegend,Inc.)で染色した。MACSQuantifyソフトウェア  バージョン2.0を用いて、MACSQuant  Analyzer(Miltenyi  Biotec  GmbH)で細胞を解析した。
【0067】
定量RT−PCR
  前述したように定量RT−PCRを行った。IL−6(アッセイID:Hs00174131_m1)、IL-10(アッセイID:Hs00961622_m1)、IL-4(アッセイID:Hs00174122_m1)、IFN-γ(アッセイID:Hs009
89291_m1)、OX40(アッセイID:Hs00937195_g1)及び18SリボソームRNA(アッセイID:Hs99999901_s1)遺伝子用TaqManプライマーをApplied  Biosystems社から購入した。ΔΔCq法を用いて相対発現を算出した。
【0068】
統計解析
  統計解析のためにソフトウェアパッケージStatFlex(バージョン6;株式会社アーテック、日本、大阪)を使用した。ピアソンの相関係数を使用して、OX40値と臨床的特徴との関連性を解析した。単変量及び多変量コックス比例ハザードモデルを行い、予後因子を得た。カプラン・マイヤー推定値を用いて生存期間解析を行った。ログランク検定に従ってP値を算出した。P<0.05の場合に統計的有意差があるとした。
  ジャーカット細胞を用いた実験におけるELISA及びフローサイトメトリーのデータは、平均値±標準偏差(SD)として表した。ダネット多重比較検定により未処置コントロール及び薬剤処置群間の比較を行った。統計解析のために、ソフトウェアパッケージGraphPad  Prism  7バージョン(GraphPad  Software,Inc.)を使用した。P値<0.05は、統計的有意差があるとした。
【0069】
<実施例1:血中sOX40値は腫瘍マーカー及びCRPの血中値と正に相関するが、アルブミンの血中値と負に相関する>
  表Iは、進行性CRC患者22名の特徴を示す。12名の男性及び10名の女性を検査対象とした。検査対象の年齢のメジアンは71.5歳(29歳〜81歳)であった。9名の患者は初めてがんと診断され、残り13名の患者は術後再発であった。22名の患者のうち18名はステージIVであり、2名はステージIIIであり、2名はステージIIのCRCであった。全患者は、テガフール・ウラシル配合剤(UFT)又はシスプラチンベースの化学療法(術後補助(アジュバント)4名;初回18名)を受けた。
【0070】
【表1】
 
【0071】
  CRC患者のsOX40の血中値は健常成人の血中値より有意に高かった(
図1)。健常成人の血中sOX40値のメジアン値は71.0(n=10)であり、CRC患者では150.5(n=22)であった。
  患者の血中sOX40値と臨床的特徴との関連性を調査した。血中sOX40値は、臨床的特徴において生存期間と負に相関した(表II及び
図2)。検査所見では、血中sOX40値は、CA19−9、CEA、CRP及びsPD−L1の血中値と正に相関し、血中アルブミン値と負に相関した(表II及び
図2)。
【0072】
【表2】
 
【0073】
<実施例2:血中sOX40値は、PBMCにおけるサイトカインまたはPD−1の発現と相関しない>
  細胞OX40は概して活性化免疫細胞上で発現することがこれまでに明らかになっている。したがって、T細胞免疫を正又は負に調節するサイトカインをコードするmRNAの発現を、血中sOX40値の関連性に関して検査した。血中sOX40値は、IL-6、
IL-10、IL-4及びIFN-γをコードするmRNA発現又はIL-10/IFN-γ
比と相関しなかった(表III)。T細胞上で発現されるPD-1はT細胞活性化マーカ
ー又はT細胞疲弊マーカーであり、血中sOX40値は、PD−1発現免疫細胞の発生頻度と相関しなかった(表III)。
【0074】
【表3】
 
【0075】
<実施例3:血中sOX40値が高いことは、CRC患者の生存期間減少と有意に相関する>
  CRC患者の臨床因子の予後値を検査した。単変量及び多変量解析のどちらにおいても、血中sOX40値は患者の生存期間と負に相関すること、及び血中sOX40値が高いことが患者の生存期間減少と有意に相関することが示された(表IV)。他の因子に予後因子であることを示すものはなかった。
図3は、sOX40の血中値に基づく患者の全生存期間のカプラン・マイヤー曲線を示す。血中sOX40値が≦150pg/mlである患者は生存期間がより長かったが、血中sOX40値が>150pg/mlの患者は生存期間が有意に短いことを示した。
【0076】
【表4】